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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022117116
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】剥離装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220803BHJP
   B06B 1/06 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B06B1/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013635
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金崎 泰三
(72)【発明者】
【氏名】武田 昇
(72)【発明者】
【氏名】渡部 恵介
(72)【発明者】
【氏名】邱 暁明
【テーマコード(参考)】
5D107
5F057
【Fターム(参考)】
5D107AA09
5D107BB01
5D107CC02
5D107CC10
5F057AA12
5F057AA37
5F057BA01
5F057BB09
5F057CA02
5F057DA19
5F057DA22
5F057DA26
5F057FA42
(57)【要約】
【課題】装置サイズの肥大化を抑制しつつ、剥離層が形成されたインゴットからウエーハを効率的に剥離することが可能な剥離装置を提供すること。
【解決手段】剥離装置40は、生成すべきウエーハ20を上にしてSiCインゴット1を保持するインゴット保持ユニット41と、インゴット保持ユニット41に保持されたSiCインゴット1と対面するように配設され、超音波を発振する超音波発振ユニット60と、生成すべきウエーハ20と超音波発振ユニット60との間に液体51を供給する液体供給ユニット50と、を含み、超音波発振ユニット60は、超音波振動子と、超音波を付与したい面積と同等もしくはそれ以上の面積を有するように形成された底面64を有するケース部材61と、を備え、ケース部材61は、超音波振動子の端面と一体化して形成されている。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴットに対して透過性を有する波長のレーザービームの集光点を生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付けてレーザービームを照射して剥離層を形成したインゴットから、生成すべきウエーハを剥離する剥離装置であって、
生成すべきウエーハを上にしてインゴットを保持するインゴット保持ユニットと、
該インゴット保持ユニットに保持されたインゴットと対面するように配設され、超音波を発振する超音波発振ユニットと、
生成すべきウエーハと該超音波発振ユニットとの間に液体を供給する液体供給ユニットと、を含み、
該超音波発振ユニットは、
超音波振動子と、
超音波を付与したい面積と同等もしくはそれ以上の面積を有するように形成された底面を有するケース部材と、を備え、
該ケース部材は、該超音波振動子の端面と一体化して形成されていることを特徴とする、剥離装置。
【請求項2】
該ケース部材は、ステンレス鋼、チタン、アルミニウムのいずれかを含むことを特徴とする、請求項1に記載の剥離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスが形成されるウエーハは、一般に円柱形状のインゴットをワイヤーソーで薄く切断し、切断後にウエーハの表裏面を研磨することにより生成される。
【0003】
しかしながら、上述の方法でウエーハを生成すると、インゴットの大部分(体積の70%~80%)が除去により失われてしまうため、経済的でないという問題がある。
【0004】
特に、近年パワーデバイスとして注目されているSiCにより構成されるインゴット(SiCインゴット)は、硬度が高くワイヤーソーでの切断が困難であるため、切断に時間がかかり生産性が悪いという課題が存在している。
【0005】
そこで、本出願人らは、単結晶のSiCインゴットに対して透過性を有する波長のレーザービームの集光点をSiCインゴットの内部に位置付けて集光照射し、切断予定面に剥離層を形成する技術や、剥離層を形成したSiCインゴットに対して超音波を付与することで剥離層を起点としてウエーハを分離・生成する技術を提案した(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-111143号公報
【特許文献2】特開2019-102513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、SiCインゴットに対して超音波を付与する為には、超音波を照射したい領域と同等もしくはそれ以上の面積の端面を有する超音波付与手段が必要となる。従って、現状では、超音波振動子に振動板を接着することで所望の面積を有する端面を形成している。
【0008】
ところが、超音波振動子と振動板を接着している接着剤が長時間の使用に伴って剥離してしまい、特性変動が生じるため、効率的なウエーハ生成が出来なくなるという問題が明らかになった。
【0009】
本願発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、特性変動を抑制しつつ効率的にインゴットからウエーハを生成することが可能な剥離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の剥離装置は、インゴットに対して透過性を有する波長のレーザービームの集光点を生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付けてレーザービームを照射して剥離層を形成したインゴットから、生成すべきウエーハを剥離する剥離装置であって、生成すべきウエーハを上にしてインゴットを保持するインゴット保持ユニットと、該インゴット保持ユニットに保持されたインゴットと対面するように配設され、超音波を発振する超音波発振ユニットと、生成すべきウエーハと該超音波発振ユニットとの間に液体を供給する液体供給ユニットと、を含み、該超音波発振ユニットは、超音波振動子と、超音波を付与したい面積と同等もしくはそれ以上の面積を有するように形成された底面を有するケース部材と、を備え、該ケース部材は、該超音波振動子の端面と一体化して形成されていることを特徴とする。
【0011】
前記剥離装置において、該ケース部材は、ステンレス鋼、チタン、アルミニウムのいずれかを含んでも良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、特性変動を抑制しつつ効率的にインゴットからウエーハを生成することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態1に係る剥離装置の加工対象のSiCインゴットの平面図である。
図2図2は、図1に示されたSiCインゴットの側面図である。
図3図3は、実施形態1に係る剥離装置により製造されるウエーハの斜視図である。
図4図4は、図1に示されたSiCインゴットに剥離層が形成された状態の平面図である。
図5図5は、図4中のV-V線に沿う断面図である。
図6図6は、図1に示されたSiCインゴットに剥離層を形成する状態を示す斜視図である。
図7図7は、図6に示されたSiCインゴットに剥離層を形成する状態を示す側面図である。
図8図8は、実施形態1に係る剥離装置の構成例を示す側面図である。
図9図9は、図8に示された剥離装置の超音波発振ユニットの側断面図である。
図10図10は、実施形態2に係る剥離装置の構成例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0015】
〔実施形態1〕
本発明の実施形態1に係る剥離装置を図面に基づいて説明する。まず、実施形態1に係る剥離装置の加工対象のインゴットであるSiCインゴットを説明する。図1は、実施形態1に係る剥離装置の加工対象のSiCインゴットの平面図である。図2は、図1に示されたSiCインゴットの側面図である。図3は、実施形態1に係る剥離装置により製造されるウエーハの斜視図である。図4は、図1に示されたSiCインゴットに剥離層が形成された状態の平面図である。図5は、図4中のV-V線に沿う断面図である。図6は、図1に示されたSiCインゴットに剥離層を形成する状態を示す斜視図である。図7は、図6に示されたSiCインゴットに剥離層を形成する状態を示す側面図である。
【0016】
(SiCインゴット)
図1及び図2に示すSiCインゴット1は、実施形態1では、SiC(炭化ケイ素)からなり、全体として円柱状に形成されている。実施形態1において、SiCインゴット1は、六方晶単結晶SiCインゴットである。
【0017】
SiCインゴット1は、図1及び図2に示すように、円形状の端面である第1面2と、第1面2の裏面側の円形状の第2面3と、第1面2の外縁と第2面3の外縁とに連なる周面4を有している。また、SiCインゴット1は、周面4に結晶方位を示す第1オリエンテーションフラット5と、第1オリエンテーションフラット5に直交する第2オリエンテーションフラット6を有している。第1オリエンテーションフラット5の長さは第2オリエンテーションフラット6の長さより長い。
【0018】
また、SiCインゴット1は、第1面2の垂線7に対して第2オリエンテーションフラット6に向かう傾斜方向8にオフ角α傾斜したc軸9とc軸9に直交するc面10を有している。c面10は、SiCインゴット1の第1面2に対してオフ角α傾斜している。c軸9の垂線7からの傾斜方向8は、第2オリエンテーションフラット6の伸長方向に直交し、かつ第1オリエンテーションフラット5と平行である。c面10は、SiCインゴット1中にSiCインゴット1の分子レベルで無数に設定される。実施形態1では、オフ角αは、1°、4°又は6°に設定されているが、本発明では、オフ角αを例えば1°~6°の範囲で自由に設定してSiCインゴット1を製造することができる。
【0019】
また、SiCインゴット1は、第1面2が研削装置により研削加工された後、研磨装置により研磨加工されて、第1面2が鏡面に形成される。SiCインゴット1は、第1面2側の一部分が剥離されて、剥離された一部分が図3に示すウエーハ20に生成されるものである。
【0020】
図3に示すウエーハ20は、SiCインゴット1の一部分が剥離され、SiCインゴット1から剥離された面21に研削加工、研磨加工等が施されて製造される。ウエーハ20は、SiCインゴット1から剥離された後、表面にデバイスが形成される。実施形態1では、デバイスは、MOSFET(Metal-oxide-semiconductor Field-effect Transistor)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)又はSBD(Schottky Barrier Diode)であるが、本発明では、デバイスは、MOSFET、MEMS及びSBDに限定されない。なお、ウエーハ20のSiCインゴット1と同一部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0021】
図1及び図2に示すSiCインゴット1は、図4及び図5に示す剥離層23が形成された後、剥離層23を起点に一部分即ち生成すべきウエーハ20が分離、剥離される。剥離層23は、SiCインゴット1の第2面3側がレーザー加工装置30(図6及び図7に示す)の保持テーブル31に吸引保持されて、レーザー加工装置30により形成される。レーザー加工装置30は、SiCインゴット1に対して透過性を有する波長のパルス状のレーザービーム32(図7に示す)の集光点33をSiCインゴット1の第1面2から生成すべきウエーハ20の厚み22(図3に示す)に相当する深さ35(図5及び図7に示す)に位置付けて、第2オリエンテーションフラット6に沿ってパルス状のレーザービーム32を照射して、SiCインゴット1の内部に剥離層23を形成する。
【0022】
SiCインゴット1は、SiCインゴット1に対して透過性を有する波長のパルス状のレーザービーム32が照射されると、図5に示すように、パルス状のレーザービーム32の照射によりSiCがSi(シリコン)とC(炭素)とに分離し次に照射されるパルス状のレーザービーム32が前に形成されたCに吸収されて連鎖的にSiCがSiとCとに分離する改質部24が、X軸方向に沿ってSiCインゴット1の内部に形成されると共に、改質部24からc面10に沿って延びるクラック25が生成される。こうして、SiCインゴット1は、SiCインゴット1に対して透過性を有する波長のパルス状のレーザービーム32が照射されると、改質部24と、改質部24からc面10に沿って形成されるクラック25とを含む剥離層23を形成する。
【0023】
レーザー加工装置30は、剥離層23を形成する際に、SiCインゴット1の第2オリエンテーションフラット6と平行な方向の全長に亘ってレーザービーム32を照射すると、SiCインゴット1とレーザービーム32を照射するレーザービーム照射ユニット36とを第1オリエンテーションフラット5に沿って相対的にインデックス送りする。
【0024】
レーザー加工装置30は、再度、集光点33を第1面2から所望の深さに位置付けて、第2オリエンテーションフラット6に沿ってパルス状のレーザービーム32をSiCインゴット1に照射して、SiCインゴット1の内部に剥離層23を形成する。レーザー加工装置30は、レーザービーム32を第2オリエンテーションフラット6に沿って照射する動作と、レーザービーム照射ユニットを第1オリエンテーションフラット5に沿って相対的にインデックス送りされる動作とを繰り返す。
【0025】
これにより、SiCインゴット1は、インデックス送りの移動距離26毎に、第1面2からウエーハ20の厚み22に相当する深さ35に、SiCがSiとCとに分離した改質部24とクラック25とを含む他の部分よりも強度が低下した剥離層23が形成される。SiCインゴット1は、第1面2からウエーハ20の厚み22に相当する深さ35に、第1オリエンテーションフラット5と平行な方向の全長に亘ってインデックス送りの移動距離毎に剥離層23が形成される。
【0026】
(剥離装置)
次に、剥離装置を説明する。図8は、実施形態1に係る剥離装置の構成例を示す側面図である。図9は、図8に示された剥離装置の超音波発振ユニットの側断面図である。実施形態1に係る剥離装置40は、図4及び図5に示す剥離層23を形成したSiCインゴット1から図4に示す生成すべきウエーハ20を剥離する剥離装置である。
【0027】
剥離装置40は、SiCインゴット1に対して透過性を有する波長のレーザービーム32の集光点33を生成すべきウエーハ20の厚み22に相当する深さ35に位置付けてレーザービーム32を照射して剥離層23を形成したSiCインゴット1から、生成すべきウエーハ20を剥離する装置である。剥離装置40は、図8に示すように、インゴット保持ユニット41と、液体供給ユニット50と、超音波発振ユニット60と、制御ユニット100とを含む。
【0028】
インゴット保持ユニット41は、生成すべきウエーハ20を上にしてSiCインゴット1を保持するものである。インゴット保持ユニット41は、厚手の円盤状に形成されている。インゴット保持ユニット41は、上面が水平方向と平行な保持面42であって、保持面42上にSiCインゴット1の第2面3が載置されて、第1面2を上方に向けて、SiCインゴット1を保持する。実施形態1では、インゴット保持ユニット41は、保持面42にSiCインゴット1の第2面3を吸引保持する(即ち、バキューム固定する)。また、インゴット保持ユニット41は、保持面42にSiCインゴット1を保持した状態で回転駆動源43により軸心回りに回転される。
【0029】
液体供給ユニット50は、生成すべきウエーハ20と超音波発振ユニット60との間に液体51(図8に示す)を供給するものである。液体供給ユニット50は、液体供給源から供給された液体51を下端から供給する管であって、実施形態1では、インゴット保持ユニット41に保持されたSiCインゴット1の第1面2上に液体51を供給する。また、実施形態1では、液体供給ユニット50は、図示しない昇降機構により昇降自在に設けられている。
【0030】
超音波発振ユニット60は、インゴット保持ユニット41に保持されたSiCインゴット1と対面するように配設され、超音波を発振するものである。超音波発振ユニット60は、図9に示すように、ケース部材61と、超音波振動子70とを備える。
【0031】
ケース部材61は、上部に開口を設けた箱状のケース本体62と、平板状の蓋体63とを備える。ケース本体62は、金属により構成され、インゴット保持ユニット41に保持されたSiCインゴット1の第1面2と対向する底面64を有する円板状の底面部65と、底面部65の外縁から立設した円筒状の円筒部66とを一体に備えている。また、本発明では、ケース部材61は、超音波振動子70が例えば6個使用されて、底面部65が楕円形状に構成されても良い。本発明では、ケース部材61は、底面部65が正方形や長方形に構成されると、場所によって超音波振動子70からケース部材61までの距離が変わることにより剥離性に影響を与える可能性があるため、超音波振動子70からケース部材61の底面部65までの距離をなるべく等しくするために、底面部65が円板状や楕円形状に構成されるのが望ましい。
【0032】
ケース本体62の底面部65の底面64は、超音波発振ユニット60が超音波を付与したいSiCインゴット1の第1面2の面積と同等もしくはそれ以上の面積を有するように形成されている。即ち、ケース部材61は、超音波発振ユニット60が超音波を付与したいSiCインゴット1の第1面2の面積と同等もしくはそれ以上の面積を有する底面64を有している。
【0033】
本発明において、超音波を付与したいSiCインゴット1の第1面2の面積と同等もしくはそれ以上の面積を有するとは、ケース本体62の底面64の面積が、インゴット保持ユニット41に保持された超音波を付与したいSiCインゴット1の第1面2の面積の50%以上でかつ150%以下の面積であることを示している。
【0034】
底面64の面積が、第1面2の面積の50%未満であると、超音波発振ユニット60をX軸方向に揺動させることで、SiCインゴット1から生成すべきウエーハ20を剥離することが可能であるが、ウエーハ20をSiCインゴット1から剥離するまでにかかる所要時間が長時間化してしまうからである。また、底面64の面積が、第1面2の面積の150%を超えると、剥離装置40全体が大型化しすぎて望ましくないとともに、液体供給ユニット50がSiCインゴット1の生成すべきウエーハ20と超音波発振ユニット60の底面64との間に液体を供給することが困難になるからである。実施形態1では、底面64の面積は、第1面2の面積の80%である。
【0035】
蓋体63は、外径が底面64の外径と等しい円板状に形成されている。蓋体63は、外縁が円筒部66の外縁に固定されて、ケース本体62の開口を閉塞する。
【0036】
超音波振動子70は、超音波を発振するものである。実施形態1において、超音波発振ユニット60は、超音波振動子70を複数備えている。複数の超音波振動子70は、ケース部材61内に収容され、互いに間隔をあけて配置されているとともに、ケース本体62の底面部65に固定されている。
【0037】
超音波振動子70は、円環状のピエゾ素子71と、円筒状の第1の金属ブロック72と、第2の金属ブロック73と、固定用のボルト75とを備えている。
【0038】
超音波振動子70は、実施形態1では、ピエゾ素子71を2つ備えている。2つのピエゾ素子71は、軸心方向に互いに重ねられている。ピエゾ素子71は、交流電力が印加されると厚み方向に伸縮するチタン酸ジルコン酸鉛により構成されている。
【0039】
第1の金属ブロック72は、金属により構成され、一方のピエゾ素子71に重ねられている。第2の金属ブロック73は、金属により構成され、他方のピエゾ素子71に重ねられている。第2の金属ブロック73は、他方のピエゾ素子71から離れるのに従って外形が大きくなる裁頭円錐状に形成されている。第2の金属ブロック73は、他方のピエゾ素子71に重ねられる端面731にボルト75が螺合するねじ孔732が開口している。
【0040】
ボルト75は、第1の金属ブロック72、一方のピエゾ素子71、他方のピエゾ素子71との内側に通されて、第2の金属ブロック73のねじ孔732に螺合する。ボルト75は、ねじ孔732に螺合すると、第1の金属ブロック72、一方のピエゾ素子71、他方のピエゾ素子71及び第2の金属ブロック73を互いに固定する。
【0041】
また、実施形態1において、ボルト75により固定された第1の金属ブロック72、一方のピエゾ素子71、他方のピエゾ素子71及び第2の金属ブロック73は、互いに同軸となる位置に配置される。また、実施形態1において、超音波振動子70は、ピエゾ素子71間と、他方のピエゾ素子71と第2の金属ブロック73との間とに、ピエゾ素子71に交流電力を印加する電極74を設けている。電極74は、交流電力を供給する図示しない交流電源と電気的に接続している。超音波発振ユニット60は、電極に交流電力が印加されてピエゾ素子71が伸縮すると、全体即ち特に底面64が20kHz以上でかつ200kHzの周波数でかつ数μmから数十μmまでの振幅で振動(所謂超音波振動)する。
【0042】
また、実施形態1において、超音波発振ユニット60は、ケース部材61、金属ブロック72,73を構成する金属は、同じ材質の金属である。超音波発振ユニット60は、ピエゾ素子71が伸縮して、超音波振動する際に、比重の小さい素材の方が振動し易いために、ケース部材61、金属ブロック72,73が同じ材質の金属により構成されている。
【0043】
実施形態1において、ケース部材61、金属ブロック72,73を構成する金属は、ステンレス鋼、チタン合金、又はアルミニウム合金である。即ち、ケース部材61及び金属ブロック72,73は、ステンレス鋼、チタン、アルミニウムをいずれかを含む。また、ケース部材61、金属ブロック72,73を構成する金属は、アルミニウム合金である場合、キャビテーションにより傷つくことを抑制するために、超超ジュラルミン(日本産業規格によりA7075と規定されるもの)であるのが望ましい。
【0044】
また、本発明では、ケース部材61、金属ブロック72,73を構成する金属は、重量の増加によって負荷による特性変動が小さくなり、交流電源による共振周波数の追従制御が容易になるので、超超ジュラルミンなどのアルミニウム合金よりも比重の大きいステンレス鋼であるのが望ましい。なお、本願発明における超音波発振ユニット60は、アルミニウム合金を用いた場合1.4kgであり、同じ外観形状のステンレス鋼は、1.8kgであった。
【0045】
また、実施形態1において、ケース部材61の底面部65は、各超音波振動子70の第2の金属ブロック73のピエゾ素子71から離れた側の端面733(図9中に点線で示す)と、一体化して形成されている。即ち、実施形態1において、超音波発振ユニット60は、ケース部材61の底面部65と第2の金属ブロック73とが一体である。一体のケース部材61の底面部65と第2の金属ブロック73とは、金属の塊に削り出し加工が施されて製造される。
【0046】
また、実施形態1において、超音波発振ユニット60は、移動ユニット67によりインゴット保持ユニット41の保持面42に沿って移動されるとともに、保持面42に対して交差(実施形態1では、直交)する方向に沿って昇降される。
【0047】
制御ユニット100は、剥離装置40の上述した構成要素を制御して、SiCインゴット1に対する加工動作を剥離装置40に実施させるものである。なお、制御ユニット100は、CPU(central processing unit)のようなマイクロプロセッサを有する演算処理装置と、ROM(read only memory)又はRAM(random access memory)のようなメモリを有する記憶装置と、入出力インターフェース装置とを有するコンピュータである。制御ユニット100の演算処理装置は、記憶装置に記憶されているコンピュータプログラムに従って演算処理を実施して、剥離装置40を制御するための制御信号を、入出力インターフェース装置を介して剥離装置40の上述した構成要素に出力する。
【0048】
制御ユニット100は、加工動作の状態や画像などを表示する液晶表示装置などにより構成される図示しない表示ユニットと、オペレータが加工内容情報などを登録する際に用いる図示しない入力ユニットとに接続されている。入力ユニットは、表示ユニットに設けられたタッチパネルと、キーボード等の外部入力装置とのうち少なくとも一つにより構成される。
【0049】
実施形態1に係る剥離装置40は、インゴット保持ユニット41の保持面42に剥離層23が形成されたSiCインゴット1の第2面3が載置され、入力ユニットを介して加工内容情報を制御ユニット100が受け付けて記憶装置に記憶し、制御ユニット100がオペレータからの加工開始指示を受け付けると加工動作を開始する。
【0050】
加工動作では、剥離装置40は、液体供給ユニット50と超音波発振ユニット60とが一体化されているので、液体供給ユニット50及び超音波発振ユニット60を下降してインゴット保持ユニット41に保持されたSiCインゴット1の第1面2に近づける。剥離装置40は、液体供給ユニット50からインゴット保持ユニット41に保持されたSiCインゴット1の第1面2に液体51を供給して、ケース部材61の底面64をSiCインゴット1の第1面2上の液体51内に浸漬する。
【0051】
剥離装置40は、インゴット保持ユニット41を回転駆動源43により軸心回りに回転するとともに超音波発振ユニット60を保持面42に沿って往復移動させながら、超音波発振ユニット60の各超音波振動子70のピエゾ素子71に所定時間交流電力を印加して底面64を超音波振動させる。剥離装置40は、底面64の超音波振動を液体51を介してSiCインゴット1の第1面2に伝達し、インゴット保持ユニット41の第1面2に超音波を付与する。すると、超音波発振ユニット60からの超音波が、剥離層23を刺激し、剥離層23を起点としてSiCインゴット1を分割して、SiCインゴット1から生成すべきウエーハ20を分離する。剥離装置40は、超音波発振ユニット60の各超音波振動子70のピエゾ素子71に所定時間交流電力を印加すると、加工動作を終了する。また、本発明では、剥離装置40は、SiCインゴット1からのウエーハ20の剥離を検知すると、加工動作を終了しても良い。
【0052】
SiCインゴット1から分離された生成すべきウエーハ20は、図示しない吸着機構により吸着されてSiCインゴット1から剥離され、SiCインゴット1から剥離された面21に研削加工、研磨加工等が施される。
【0053】
以上説明したように、実施形態1に係る剥離装置40は、超音波振動子70の第2の金属ブロック73と振動板として機能するケース部材61の底面部65とが一体化された超音波発振ユニット60を備えるため、超音波振動子70と底面部65とを固定する接着剤などの剥がれが生じることがなく、超音波振動子70の特性(周波数、振幅)の変動を抑制することができる。その結果、実施形態1に係る剥離装置40は、超音波振動子70の特性変動を抑制しつつ効率的にSiCインゴット1からウエーハ20を生成することが可能になるという効果を奏する。
【0054】
また、実施形態1に係る剥離装置40は、超音波振動子70の経時による特性変動がほぼないため、超音波振動時の負荷の変動も抑制でき、位相差0%で安定駆動が可能になり、電力効率が向上する(例えば、従来が50%であるのに対して、ほぼ100%まで向上する)。
【0055】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2に係る剥離装置を図面に基づいて説明する。図10は、実施形態2に係る剥離装置の構成例を示す側面図である。なお、図10は、実施形態1と同一部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
図10に示す実施形態2に係る剥離装置40-2は、底面64の面積は、第1面2の面積の120%であること以外、実施形態1と同じである。
【0057】
実施形態2に係る剥離装置40-2は、超音波振動子70の第2の金属ブロック73と振動板として機能するケース部材61の底面部65とが一体化された超音波発振ユニット60を備えるため、実施形態1と同様に、超音波振動子70の特性変動を抑制しつつ効率的にSiCインゴット1からウエーハ20を生成することが可能になるという効果を奏する。
【0058】
次に、本発明の発明者は前述した実施形態1及び実施形態2に係る剥離装置40,40-2の効果を、比較例、本発明品1、本発明品2それぞれにおいて、同じSiCインゴット1からウエーハ20を分離した時の第2の金属ブロック73とケース部材61の底面部65との剥がれの発生状況を確認することで、確認した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1の比較例は、実施形態1に係る剥離装置40の超音波振動子70の第2の金属ブロック73と、ケース部材61の底面部65とを別体に形成して、これらを接着剤で固定した。
【0061】
表1の本発明品1は、実施形態1に係る剥離装置40であり、表2の本発明品2は、実施形態2に係る剥離装置40-2である。
【0062】
表1は、比較例、本発明品1及び本発明品2で外径が4インチのSiCインゴット1からウエーハ20を生成した時の第2の金属ブロック73とケース部材61の底面部65との剥がれの発生状況を示す。結果を表1に示す確認では、比較例、本発明品1、本発明品2のピエゾ素子71に印加する交流電力の周波数、電流値、印加時間を同じにした。
【0063】
表1によれば、比較例では、超音波振動子70を1000時間駆動した後に、剥がれが発生した。このような比較例に対して、本発明品1及び本発明品2では、超音波振動子70を1000時間駆動した後にも、剥がれが発生しなかった。
【0064】
したがって、表1によれば、超音波振動子70の第2の金属ブロック73と振動板として機能するケース部材61の底面部65とが一体化された超音波発振ユニット60を備えることで、超音波振動子70と底面部65との剥がれが生じることを抑制することができることが明らかとなった。
【0065】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、本発明では、剥離装置40,40-2は、超音波振動の付与によりSiCインゴット1から分離されたウエーハ20を剥離する剥離手段(ウエーハ20を吸引保持して搬送する手段)を有していても良い。
【符号の説明】
【0066】
1 SiCインゴット(インゴット)
20 ウエーハ
22 厚み
23 剥離層
32 レーザービーム
33 集光点
35 深さ
40,40-2 剥離装置
41 インゴット保持ユニット
50 液体供給ユニット
51 液体
60 超音波発振ユニット
61 ケース部材
64 底面
70 超音波振動子
733 端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10