(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022118639
(43)【公開日】2022-08-15
(54)【発明の名称】肥料組成物、及び、肥料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05B 9/00 20060101AFI20220805BHJP
A01G 33/02 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
C05B9/00 ZBP
A01G33/02
A01G33/02 101F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021015308
(22)【出願日】2021-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下山 宗徳
(72)【発明者】
【氏名】天生 聡仁
【テーマコード(参考)】
2B026
4H061
【Fターム(参考)】
2B026AA01
2B026AA05
2B026AB05
2B026AB06
2B026AC03
2B026EA01
2B026EA02
2B026EA03
2B026EB01
2B026EB02
4H061AA01
4H061AA02
4H061BB30
4H061BB31
4H061BB32
4H061EE35
4H061FF06
4H061HH03
4H061HH28
4H061KK08
4H061KK10
4H061LL02
4H061LL24
(57)【要約】
【課題】温度変化に対する形状安定性及び徐放性に優れる肥料組成物、及び、肥料組成物の製造方法が提供されること。
【解決手段】アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するポリマーと架橋剤との架橋物と、肥料と、水と、を含む肥料組成物、及び、肥料組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するポリマーと架橋剤との架橋物と、
肥料と、
水と、
を含む肥料組成物。
【請求項2】
前記肥料は、20℃における水への溶解度が200g/100mL以下である化合物を含む、請求項1に記載の肥料組成物。
【請求項3】
前記ポリマーは、水溶性タンパク質を含む、請求項1又は請求項2に記載の肥料組成物。
【請求項4】
前記肥料が、リン、カリウム、及び、窒素からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む化合物である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の肥料組成物。
【請求項5】
前記肥料がリン酸マグネシウムアンモニウムを含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の肥料組成物。
【請求項6】
前記架橋剤が、ビニルスルホン基、又は、ハロゲン化複素芳香族基を有する化合物である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の肥料組成物。
【請求項7】
前記水の含有量が、25℃80%RH環境下において、組成物の全質量に対して20質量%~80質量%である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の肥料組成物。
【請求項8】
無給餌養殖に用いられる、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の肥料組成物。
【請求項9】
海苔養殖に用いられる、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の肥料組成物。
【請求項10】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の肥料組成物の製造方法であって、
アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するポリマーと、架橋剤とを含む肥料組成物前駆体を用いて、前記ポリマーと前記架橋剤とを架橋反応させる工程を含む、肥料組成物の製造方法。
【請求項11】
前記肥料組成物前駆体は、水と肥料とを更に含む、請求項10に記載の肥料組成物の製造方法。
【請求項12】
前記架橋剤の含有量が、前記肥料組成物前駆体の全質量に対して、0.1質量%~1質量%である、請求項10又は請求項11に記載の肥料組成物の製造方法。
【請求項13】
前記架橋剤の含有量が、前記ポリマーの全質量に対して、0.05質量%~10質量%である、請求項10~請求項12のいずれか1項に記載の肥料組成物の製造方法。
【請求項14】
前記ポリマーに対する前記肥料の含有量比が、質量基準で1.0~4.0である、請求項10~請求項13のいずれか1項に記載の肥料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、肥料組成物、及び、肥料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に肥料としては、作物、花卉類等の植物体の成長に必要な成分を補うために複数の成分をバランスよく配合した複合肥料が用いられる。肥料の形態としては、例えば、固体状、液体状等の肥料が知られている。
【0003】
例えば、苗の生長力および植物の生長を促進する種子処理に用いられる組成物として、特許文献1には、a.5~50重量%の皮膜形成架橋タンパク質性物質、およびb.0.001~50重量%の次の群;農薬、肥料、生物調節添加剤;肥料の効力、植物の生産量、生長ならびに養分の蓄積を高めるための添加剤;および補助剤またはこれらの組合せから選択される他の活性成分を含有する水性皮膜形成種子処理組成物が開示されている。
また、保管性および徐放性を有する、水溶性の肥料成分を内包する粒子状肥料として、特許文献2には、水溶性の肥料成分を保持する、第1のゲル化剤のキセロゲルを含むコア粒子と、当該コア粒子を覆う、第2のゲル化剤のキセロゲルにより構成されたシェルであって、その少なくとも表層側の領域が実質的に上記水溶性の肥料成分を保持していないシェルと、を有する粒子状肥料が開示されている。
また、養殖藻類への施肥技術として、例えば、非特許文献1及び非特許文献2が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002-538792号公報
【特許文献2】国際公開第2015/059864号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】池脇 義弘他、「施肥による栄養塩供給技術実証試験、漁場生産力向上のための漁場改善実証試験事業」、平成29年度水産研究課事業報告書、徳島県立農林水産総合技術試験センター
【非特許文献2】西川 純泉他、「ゼラチンからの栄養塩溶出によるスジアオノリの生育効果」、2019年度日本水産工学会学術講演会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、下水道処理能力向上に伴い、海水への窒素、リン等の栄養塩の流出量が低下し、特に、海苔の養殖では、例えば、成長不良による色落ちが問題になっている。
例えば、海藻等の養殖の栄養塩を確保するために、海底耕耘、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等の施肥剤の投入等が行われているが、海流の速い地域では、栄養塩がとどまらず、十分な栄養塩を確保できなかった。栄養塩を確保するために、非特許文献1及び2では、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等の施肥剤を固定化する技術の検討がなされていたが、水温が高くなる春先では、固定化された施肥剤が溶解するため、十分な栄養塩を確保できず、肥料成分を長期間において安定的に徐放する方法が求められている。
特許文献1及び2では、土壌中での植物の栽培を目的としているため、例えば、海洋中又は水耕栽培等で用いた場合には、土壌中での栽培と異なり、栄養源が十分に得られない可能性がある。
【0007】
上記に鑑み、本開示に係る一実施形態が解決しようとする課題は、温度変化に対する形状安定性及び徐放性に優れる肥料組成物を提供することである。
また、本開示に係る他の実施形態が解決しようとする課題は、温度変化に対する形状安定性及び徐放性に優れる肥料組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するポリマーと架橋剤との架橋物と、
肥料と、
水と、
を含む肥料組成物。
<2> 上記肥料は、20℃における水への溶解度が200g/100mL以下である化合物を含む、<1>に記載の肥料組成物。
<3> 上記ポリマーは、水溶性タンパク質を含む、<1>又は<2>に記載の肥料組成物。
<4> 上記肥料が、リン、カリウム、及び、窒素からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む化合物である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の肥料組成物。
<5> 上記肥料がリン酸マグネシウムアンモニウムを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の肥料組成物。
<6> 上記架橋剤が、ビニルスルホン基、又は、ハロゲン化複素芳香族基を有する化合物である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の肥料組成物。
<7> 上記水の含有量が、25℃80%RH環境下において、組成物の全質量に対して20質量%~80質量%である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の肥料組成物。
<8> 無給餌養殖に用いられる、<1>~<7>のいずれか1つに記載の肥料組成物。
<9> 海苔養殖に用いられる、<1>~<7>のいずれか1つに記載の肥料組成物。
<10> <1>~<8>のいずれか1つに記載の肥料組成物の製造方法であって、
アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するポリマーと、架橋剤とを含む肥料組成物前駆体を用いて、上記ポリマーと上記架橋剤とを架橋反応させる工程を含む、肥料組成物の製造方法。
<11> 上記肥料組成物前駆体は、水と肥料とを更に含む、<10>に記載の肥料組成物の製造方法。
<12> 上記架橋剤の含有量が、上記肥料組成物前駆体の全質量に対して、0.1質量%~1質量%である、<10>又は<11>に記載の肥料組成物の製造方法。
<13> 上記架橋剤の含有量が、上記ポリマーの全質量に対して、0.05質量%~10質量%である、<10>~<12>のいずれか1つに記載の肥料組成物の製造方法。
<14> 上記ポリマーに対する上記肥料の含有量比が、質量基準で1.0~4.0である、<10>~<13>のいずれか1つに記載の肥料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る一実施形態によれば、温度変化に対する形状安定性及び徐放性に優れる肥料組成物が提供される。
また、本開示に係る他の実施形態によれば、温度変化に対する形状安定性及び徐放性に優れる肥料組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本開示に係る内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示に係る代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0011】
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、全固形分とは、組成物の全組成から溶剤を除いた成分の総質量をいう。本開示における固形分は、25℃における固形分である。
本開示において、「工程」との用語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本開示における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、特に断りのない限り、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(何れも東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析装置により、溶媒THF(テトラヒドロフラン)、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算した分子量である。
【0012】
(肥料組成物)
本開示に係る肥料組成物は、アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するポリマーと架橋剤との架橋物と、肥料と、水と、を含む。
従来の肥料(施肥剤ともいう場合がある)を固定化する技術では、例えば、肥料を水中で用いた場合、水温が高くなると固定化された肥料が溶解してしまい、その結果、栄養塩を長期に渡って植物等に付与することができなかった。
本発明者らは鋭意検討した結果、本開示に係る肥料組成物が上記構成を有することで、温度変化に対する形状安定性及び徐放性に優れることを見出した。
上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。
本開示に係る肥料組成物に含まれる架橋物は、アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基である、親水性の基を有するポリマーと架橋剤とから形成された架橋物であり、この架橋物が水を含むことにより本開示に係る肥料組成物は適度な硬度を有することにより、温度変化に伴う肥料組成物の形状変化が抑制される(すなわち、温度変化に対する形状安定性に優れる)と推定している。
また、本開示に係る肥料組成物は、上記親水性の基を有するポリマーと架橋剤との架橋物と、肥料と、を含むことにより、架橋物によって肥料が保持されるため、肥料の長期放出性(徐放性)に優れると推定している。
以下、本開示に係る肥料組成物の各構成について、以下に説明する。
【0013】
<架橋物>
本開示に係る肥料組成物は、アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するポリマーと架橋剤との架橋物を含む。すなわち、本開示に係る肥料組成物に含まれる架橋物は、架橋剤を用いて特定ポリマー同士を架橋することで得られる架橋物である。
温度変化に対する形状安定性及び徐放性の観点から、架橋物は、60℃における水への溶解度が、5g/100mL未満であり、かつ、25℃におけるアセトンへの溶解度が、5g/100mL未満であることが好ましい。
本明細書において、60℃における水への溶解度が、5g/100mL未満である場合、水に対して不溶であること(以下、「水不溶」という場合がある。)を意味する。
温度変化に対する形状安定性及び徐放性の観点から、架橋物は、後述する特定ポリマーと架橋剤とを反応させて、水不溶化された架橋物(以下、「不溶化架橋物」という場合がある。)であることが好ましい。
架橋物が水不溶であるか否かの判断は、架橋物5gを60℃の水100mLに溶解させたときに生じる沈殿物の有無を目視で確認して判断することができる。
なお、開示に係る肥料組成物に含まれる架橋物を得る方法については、後述する肥料組成物の製造方法において説明する。
【0014】
<<ポリマー>>
アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するポリマー(以下、特定ポリマーともいう場合がある。)は、アミド基を有するポリマーであってもよいし、ヒドロキシ基を有するポリマーであってもよいし、アミド基及びヒドロキシ基の両方を有するポリマーであってもよい。
アミド基を有するポリマー又はアミド基及びヒドロキシ基を有するポリマーとしては、例えば、タンパク質等が挙げられる。また、ヒドロキシ基を有するポリマーとして、例えば、糖タンパク質以外の多糖類が挙げられる。
温度変化に対する形状安定性及び徐放性の観点から、特定ポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、水溶性タンパク質又は水溶性多糖類であることがより好ましく、水溶性タンパク質であることが更に好ましい。
本開示において、水溶性ポリマーとは、60℃における水への溶解度が、5g/100mL以上であるポリマーを意味し、好ましくは60℃における水への溶解度が10g/100mL以上であり、より好ましくは20g/100mL以上である。
【0015】
特定ポリマーが水溶性タンパク質である場合、水溶性タンパク質は、60℃における水への溶解度の上限は、特に制限されないが、500g/100mL以下であることが好ましく、100g/100mL以下であることがより好ましく、80g/100mL以下であることが更に好ましい。
【0016】
水溶性タンパク質としては、特に制限はないが、例えば、ケラチン、ゼラチン、コラーゲン、グルテン、大豆タンパク質及びカゼインが挙げられる。
水溶性タンパク質は、動物性であってもよいし、植物性であってもよいし、微生物から得られたタンパク質であってもよいが、動物性の水溶性タンパク質であることが好ましい。
【0017】
動物性の水溶性タンパク質としては、例えば、にかわ、カゼイン、ゼラチン、及び、卵白の天然又は化学的に修飾された水溶性タンパク質が挙げられる。これらの中でも、温度変化に対する形状安定性の観点から、動物性の水溶性タンパク質としては、ゼラチンであることが好ましい。
ゼラチンは、その合成方法によって酸処理ゼラチン及びアルカリ処理ゼラチン(石灰処理など)があるが、酸処理ゼラチン及びアルカリ処理ゼラチンのいずれも好ましく用いることができる。
動物性の水溶性タンパク質としてゼラチンを用いる場合、ゼラチンの重量平均分子量(Mw)としては、10,000~1,000,000であることが好ましい。
また、ゼラチンのアミノ基又はカルボキシ基を利用して変性処理した変性ゼラチンも用いることができる(例えば、フタル化ゼラチンなど)。
ゼラチンとしては、イナートゼラチン(例えば新田ゼラチン750)、フタル化ゼラチン(例えば新田ゼラチン801)など使用することができる。
【0018】
多糖類としては、2つ以上の単糖が結合した化合物であれば特に制限はないが、温度変化に対する形状安定性の観点から、水溶性多糖類であることが好ましい。
水溶性多糖類は、60℃における水への溶解度が、20g/100mL以上であることが好ましく、50g/100mL以上であることがより好ましい。60℃における水への溶解度の上限は、特に制限されないが、500g/100mL以下であることが好ましく、200g/100mL以下であることがより好ましい。
【0019】
水溶性多糖類としては、寒天(アガロース)、ジェランガム、κ-カラギナン、λ-カラギナン、ι-カラギナン、ロカストビーンガム、ペクチン、タマリンド種子多糖類、アルギン酸、アルギン酸塩、グアガム、タラガム、ファーセレラン、グルコマンナン、エチルセルロース、及び、カードラン等が挙げられる。
これらの中でも、水溶性多糖類としては、寒天であることが好ましい。
【0020】
アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するポリマーは、アミド基及びヒドロキシ基の1種の基のみを有していてもよいし、必要に応じて、アミド基及びヒドロキシ基以外の基を更に有していてもよい。
アミド基及びヒドロキシ基以外の基としては、カルボキシ基、アミノ基、チオール基等が挙げられる。
【0021】
<<架橋剤>>
本開示の肥料組成物に含まれる架橋剤は、特定ポリマーが有するアミド基又はヒドロキシ基と反応して、ポリマー同士を架橋し得る基(以下、「架橋性基」ともいう。)を有する化合物であれば特に制限されない。
特定ポリマーが、例えば、アミド基又はアミド基及びヒドロキシ基を有するポリマー(好ましくはタンパク質であり、より好ましくは水溶性タンパク質である)である場合、架橋剤は、アミド基又はヒドロキシ基と反応して共有結合を形成する基を有してもよいし、アミド基又はヒドロキシ基とキレート結合を形成する基を有していてもよい。
架橋剤は、架橋を強固なものとし、形状維持性および徐放性により優れるものとする観点から、架橋性基を2つ以上有する化合物であることが好ましい。
【0022】
共有結合を形成する架橋性基としては、例えば、エチレン性不飽和基、カチオン性重合性基、ハロゲン化複素芳香族基等が挙げられ、エチレン性不飽和基及びハロゲン化複素芳香族基を有する架橋剤を好適に用いることができる。
エチレン性不飽和基としては、ビニル基(活性ビニル基)、アクリロイル基、メタクリロイル基及びマレイミド基等が挙げられる。
なお、活性ビニル基とは、架橋反応を促進する基又は化学構造を含む基を意味し、例えば、アミド基のビニル基へのマイケル付加を促進する構造を有する基が挙げられる。
エチレン性不飽和基としては、反応性の観点から、ビニル基が好ましく、ビニルスルホン基であることがより好ましい。
架橋剤がビニルスルホン基を有する場合、ビニルスルホン基を有する化合物としては、ビスビニルスルホン酸、エチレンビス(メチルイミノ)ビス(ビニルスルホン)等が挙げられる。
カチオン性重合性基としては、例えば、エポキシ基及びオキセタン基等が挙げられる。
【0023】
ハロゲン化複素芳香族基とは、複素芳香環にハロゲン原子が置換した基であり、ハロゲン化複素芳香族基が有する複素芳香環としては、反応性の観点から、含窒素複素芳香環にハロゲン原子が置換した基であることが好ましい。
上記含窒素複素芳香環としては、例えば、トリアジン環、イミダゾール環、ピリミジン環、ピラジン環、キノキザリン環等が挙げられる。
上記含窒素複素芳香環の置換基であるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
架橋構造を形成する反応性により優れる観点から、ハロゲン化複素芳香族基としては、トリアジン環、ピリミジン環又はキノキザリン環にフッ素原子又は塩素原子が結合した基であることが好ましく、トリアジン環又はキノキザリン環にフッ素原子又は塩素原子が結合した基であることがより好ましい。
ハロゲン化複素芳香族基を有する化合物としては、例えば、モノクロロトリアジン、ジクロロトリアジン、モノフルオロトリアジン、トリクロロピリミジン、ジクロロキノキザリン、及び、これらの塩等が挙げられる。
【0024】
キレート結合を形成する基を有する化合物としては、多価金属塩が挙げられる。金属塩としては、例えば、クロム塩、アルミニウム塩、鉄塩などが挙げられる。これらの中でも、3価の遷移金属を有する塩が好ましく、具体的にはクロムみょうばんをより好ましく用いることができる。
【0025】
架橋剤の例としては、T.H.James著「THE THEORY OF THE PHOTOGRAPHIC PROCESS FOURTH EDITION」(Macmillan Publishing Co., Inc.刊、1977年刊)、77頁~87頁に記載の各方法があり、クロムみょうばん、2,4-ジクロロ-6-ヒドロキシ-s-トリアジンナトリウム塩、N,N-エチレンビス(ビニルスルホンアセトアミド)、N,N-プロピレンビス(ビニルスルホンアセトアミド)の他、同文献の78頁など記載の多価金属イオン、米国特許第4,281,060号明細書、特開平6-208193号公報などのポリイソシアネート類、米国特許第4,791,042号明細書などのエポキシ化合物類、特開昭62-89048号公報などのビニルスルホン系化合物類が好ましく用いられる。
【0026】
特定ポリマーが、例えば、アミド基を有するポリマー(好ましくはタンパク質であり、より好ましくは水溶性タンパク質である)である場合、公知のクロスリンカー剤等を架橋剤として用いてもよい。
【0027】
架橋構造を形成する反応性により優れる観点から、架橋剤としては、ビニルスルホン基、又は、ハロゲン化複素芳香族基を有する化合物であることが好ましく、ビニルスルホン基を有する化合物、トリアジン環に塩素原子が置換された基を有する化合物、又は、遷移金属を有する塩であることがより好ましく、N,N-エチレンビス(ビニルスルホンアセトアミド)、2,4-ジクロロ-6-ヒドロキシ-1,3,5-トリアジン-ナトリウム塩又はミョウバンであることが更に好ましく、N,N-エチレンビス(ビニルスルホンアセトアミド)、又は、2,4-ジクロロ-6-ヒドロキシ-1,3,5-トリアジン-ナトリウム塩であることが特に好ましい。
架橋剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本開示に係る肥料組成物に含まれる架橋物は、下記式1又は式2で表される構造を有することが好ましく、下記式1又は式2で表される構造により特定ポリマーが架橋されている(式1又は式2中の*に結合するNHは、いずれも特定ポリマー由来の構造である)ことがより好ましい。
以下の構造は、本開示に係る肥料組成物に含まれる架橋物をIR(赤外分析法)、熱分解ガスクロマトグラフィー等の公知の分析方法を用いて確認できる。
【0029】
【0030】
式1中、Rは2価の連結基を表し、L1は、-O-又は-NH-を表し、*は他の構造との連結位置を表す。
【0031】
【0032】
式2中、X+は、対イオン又はプロトンを表し、L2は、-O-又は-NH-を表し、*は他の構造との連結位置を表す。
【0033】
式1において、Rで表される2価の連結基としては、アルキレン基(好ましくは炭素数1~12のアルキレン基)、アリーレン基(好ましくは炭素数6~20のアリーレン基)等が挙げられ、これらの中でも、炭素数1~12のアルキレン基が好ましく、炭素数1~8のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~4のアルキレン基が更に好ましい。
【0034】
式2において、X+は、一部乖離せずに、式2中のO-と結合していてもよい。例えば、X+がプロトンである場合、式2中のO-とプロトンとが結合して、式2がトリアジン環にOH基が結合している構造であってもよい。対イオンとしては、1価のカチオンであってもよいし、2価のカチオンであってもよい。X+としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、重金属、アンモニウム(例えば、アルキルアンモニウム、ヒドロキシアンモニウム等)などのカチオンが挙げられ、これらの中でも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、又は、マグネシウムイオンが好ましい。
【0035】
架橋物の含有量としては、特定ポリマー(好ましくは水溶性タンパク質又は水溶性多糖類、より好ましくは水溶性タンパク質、更に好ましくはゼラチン)の全質量に対して、0.05質量%~10.0質量%であることが好ましく、1.0質量%~8.0質量%であることがより好ましく、1.5質量%~7.0質量%であることが更に好ましい。
本開示に係る肥料組成物は、架橋物を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上を含有していてもよい。
【0036】
<肥料>
本開示に係る肥料組成物は、肥料を含む。肥料としては、公知の農業用肥料を好適に用いることができる。
肥料の種類は、特に限定されず、例えば、魚カス粉末、なたね油かす等の有機質肥料であってもよいし、化学合成により得られる化学肥料であってもよいし、配合肥料、成形複合肥料、液状複合肥料、混合汚泥肥料等の複合肥料であってもよいし、下水汚泥肥料、し尿汚泥肥料、工業汚泥肥料、複合汚泥肥料、汚泥発酵肥料等の汚泥肥料などであってもよい。
徐放性の観点から、肥料としては、リン、カリウム及び窒素からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む化合物であることが好ましく、リン、カリウム及び窒素からなる群より選択される少なくとも2種の原子を含む化合物であることがより好ましく、リン原子及び窒素原子を含む化合物又はリン原子及びカリウム原子を含む化合物であることが更に好ましく、リン原子及び窒素原子を含む化合物であることが特に好ましい。
【0037】
肥料は、リン、カリウム及び窒素原子以外の原子を更に含んでいてもよい。リン、カリウム及び窒素原子以外の原子としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、ホウ素、亜鉛、銅等の金属原子が挙げられる。
【0038】
窒素原子を含む化合物(窒素肥料)は、アンモニア性窒素又は硝酸性窒素を含む化合物であることが好ましく、例えば、硫酸アンモニア(硫酸アンモニウム)、塩化アンモニア(塩化アンモニウム)、リン酸アンモニア(リン酸アンモニウム)、硝酸アンモニア(硝酸アンモニウム)等のアンモニウム塩、及び、石灰窒素、尿素などが挙げられる。
リン原子を含む化合物(リン肥料)としては、例えば、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、熔成リン肥、リン酸カリウム、リン酸マグネシウムカリウム等のリン酸塩が挙げられる。
カリウム原子を含む化合物と(カリウム肥料)しては、例えば、硫酸カリウム、塩化カリウム、ケイ酸カリウム等がカリウム塩挙げられる。
【0039】
肥料は、徐放性の観点から、20℃における水への溶解度が200g/100mL以下である化合物を含むことが好ましく、70g/100mL以下である化合物を含むことがより好ましく、10g/100mL以下である化合物を含むことが更に好ましく、1g/100mL以下である化合物を含むことが特に好ましい。
【0040】
徐放性の観点から、20℃における水に対する肥料の溶解度が、200g/100mL以下であることが好ましく、70g/100mL以下であることがより好ましく、10g/100mL以下であることが更に好ましく、1g/100mL以下であることが特に好ましい。
2種以上の肥料を含む場合、それら肥料を混合した肥料の20℃における水への溶解度が上記範囲内であることが好ましい。
上記20℃における水に対する肥料の溶解度において、下限は特に制限されないが、肥料としての発育性の向上という効果が得られやすい点で、0.0001g/100mL以上であることが好ましい。
【0041】
温度変化に対する形状安定性及び徐放性の観点から、肥料としては、20℃における水への溶解度が100g/100mL以下であるリン酸塩であることが好ましい。
20℃における水への溶解度が100g/100mL以下であるリン酸塩としては、例えば、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)、ヒドロキシアパタイト(HAP)、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウムなどが挙げられる。
これらの中でも、温度変化に対する形状安定性及び徐放性に優れる観点から、肥料としては、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)が好ましい。
リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を用いる場合、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)は合成により得てもよいし、例えば、上記汚泥肥料の製造に用いられる汚泥から精製により得てもよい。
【0042】
温度変化に対する形状安定性及び徐放性の観点から、肥料の含有量としては、特定ポリマー(好ましくは水溶性タンパク質又は水溶性多糖類、より好ましくは水溶性タンパク質、更に好ましくはゼラチン)の全質量に対して、10質量%~400質量%であることが好ましく、100質量%~350質量%であることがより好ましく、200質量%~300質量%であることが更に好ましい。
本開示に係る肥料組成物において、温度変化に対する形状安定性及び徐放性の観点から、特定ポリマー(好ましくは水溶性タンパク質又は水溶性多糖類、より好ましくは水溶性タンパク質、更に好ましくはゼラチン)に対する肥料の含有量比(肥料の含有質量/ポリマーの含有質量)は、質量基準で、0.1~4.0であることが好ましく、1.0~4.0であることがより好ましく、1.0~3.5であることが更に好ましく、2.0~3.5であることが特に好ましく、2.0~3.0であることが極めて好ましい。
本開示に係る肥料組成物は、肥料を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。肥料を2種以上含む場合、それらの合計含有量が上述の含有量の範囲内であることが好ましい。
【0043】
<水>
本開示に係る肥料組成物は、水を含む。肥料組成物が水を含むことで、肥料組成物の形状が維持され、徐放性にも優れる。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、脱イオン水、限外濾過水、純水等が挙げられる。
製造適正、徐放性、及び、温度変化に対する形状安定性の観点から、水の含有量が、25℃80%RH環境下において、組成物の全質量に対して、20質量%~80質量%であることが好ましく、20質量%~70質量%であることが好ましく、30質量%~60質量%であることがより好ましく、30質量%~50質量%であることが更に好ましい。
水の含有量(含水量)は、絶乾法にて求められる。具体的には、肥料組成物の試料を用意し、25℃80%環境下に4日間放置後、試料を105℃で3日乾燥して水分を飛ばし、乾燥前後での質量変化(すなわち、乾燥後の試料の質量と乾燥前の試料の質量との差)を求め、含水量を算出する。
【0044】
本開示に係る肥料組成物は、上記の架橋物、肥料及び水以外の成分を必要に応じて含んでもよい。架橋物、肥料及び水以外の成分としては、例えば肥料組成物の形成性及び形状安定性を高めるための界面活性剤、特定ポリマー以外の水溶性高分子化合物、賦形剤、安定化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0045】
本開示に係る肥料組成物の形状は、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、粒子状、ペレット状等であってもよい。
【0046】
(肥料組成物の製造方法)
本開示に係る肥料組成物の製造方法は、アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するポリマーと、架橋剤とを含む肥料組成物前駆体を用い、上記ポリマーと上記架橋剤とを架橋反応させる工程(以下、「架橋工程」ともいう場合がある。)を含む。
以下、各工程の詳細について説明する。
【0047】
<架橋工程>
架橋工程は、アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するポリマーと、架橋剤とを含む肥料組成物前駆体を用い、上記ポリマー(特定ポリマー)と上記架橋剤とを架橋反応させる工程であり、架橋工程によって上述した架橋物が得られる。
特定ポリマーと上記架橋剤とを架橋させる方法としては、アミド基又はヒドロキシ基と、上記架橋剤と、を架橋する公知の方法を用いることができる。
架橋方法としては、ポリマーが例えば、水溶性タンパク質である場合、中性条件下で架橋反応を行うことが好ましく、反応性の観点から、熱処理によりポリマーを架橋させることがより好ましい。
熱処理の温度としては、ポリマーが変性しない温度であれば、適宜設定することができる。ポリマーが水溶性タンパク質である場合、熱処理の温度としては、20℃~70℃であることが好ましく、30℃~65℃であることが好ましく、40℃~65℃であることがより好ましい。
また、架橋工程におけるpHとしては、架橋物の不溶化を促進するpHへ適宜調整することができる。
本明細書において、「架橋反応」とは、特定ポリマーが有するアミド基又はヒドロキシ基と架橋剤が有する架橋性基とが反応して、特定ポリマー同士を架橋させる反応を意味する。
架橋工程で得られる架橋物は、上記肥料組成物に含まれる架橋物と同義であり、好ましい態様も同様である。
温度変化に対する形状安定性、及び、徐放性の観点から、架橋工程は、60℃における水への溶解度が5g/100mL以上(好ましくは10g/100mL以上、より好ましくは20g/100mL以上)の水溶性ポリマーと架橋剤とを反応させて、60℃における水への溶解度が5g/100mL未満の不溶化架橋物を得る工程であることが好ましい。
【0048】
<<肥料組成物前駆体>>
肥料組成物前駆体は、アミド基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するポリマーと、架橋剤とを含む。
肥料組成物前駆体に含まれるポリマー及び架橋剤は、上述の肥料組成物に含まれるポリマー及び架橋剤と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0049】
肥料組成物前駆体は、反応性、温度変化に対する形状安定性、及び、徐放性の観点から、水及び肥料を更に含むことが好ましい。
水及び肥料は、上述の肥料組成物に含まれる水及び肥料と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0050】
〔架橋剤の含有量〕
肥料組成物前駆体に含まれる架橋剤の含有量としては、肥料組成物前駆体の全質量に対して、反応性、温度変化に対する形状安定性、及び、徐放性の観点から、0.01質量%~3質量%であることが好ましく、0.05質量%~2質量%であることがより好ましく、0.1質量%~1質量%であることが更に好ましい。
また、反応性、温度変化に対する形状安定性、及び、徐放性の観点から、肥料組成物前駆体に含まれる架橋剤の含有量としては、ポリマーの全質量に対して、0.05質量%~10質量%であることが好ましく、0.1質量%~5質量%であることがより好ましく、0.1質量%~2質量%であることが更に好ましい。
【0051】
〔特定ポリマーに対する肥料の含有量比〕
本開示に係る肥料組成物の製造方法において、反応性、温度変化に対する形状安定性、及び、徐放性の観点から、特定ポリマーに対する肥料の含有量比(肥料の含有質量/ポリマーの含有質量)が、質量基準で0.1~4.0であることが好ましく、1.0~4.0であることがより好ましく、1.0~3.5であることが更に好ましく、2.0~3.5であることが特に好ましく、2.0~3.0であることが極めて好ましい。
【0052】
<その他の工程>
本開示に係る肥料組成物の製造方法は、架橋工程以外の工程を必要に応じて含んでいてもよい。
架橋工程以外の工程としては、例えば、肥料組成物前駆体に含まれる上記成分を混合して肥料組成物を調製する工程、架橋工程で得られた化合物を成形する工程等が挙げられる。
肥料組成物前駆体に含まれる上記成分の混合方法としては、公知の混合方法を利用することができる。
また、架橋工程で得られた化合物を成形する方法としては、公知の形成方法を利用することができる。
【0053】
本開示に係る肥料組成物は、わさび等の栽培に用いてもよいし、水耕栽培に用いてもよいし、海藻、貝類等の養殖に用いてもよい。温度変化に対する形状安定性及び徐放性の観点から、無給餌養殖に好適に用いることができる。無給餌養殖としては、例えば、貝又は海藻の無給餌養殖が挙げられる。
海藻としては、特に制限はなく、例えば、海苔(アオノリ、オリゴノリ等)、昆布、ワカメ、ヒトエグサ、モズク、イワヅタ、ヒジキ等が挙げられる。
温度変化に対する形状安定性及び徐放性の観点から、本開示に係る肥料組成物は、海苔養殖に用いられることが好ましい。
【実施例0054】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、本開示はこれらに制限されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【0055】
<肥料組成物の作製>
〔実施例1〕
容器内で、ゼラチン(新田社製;水溶性タンパク質)50gを蒸留水118.8mLに添加し、60℃に加温及び撹拌し、ゼラチンを溶解させた。さらに、架橋剤(富士フイルム和光純薬(株)製;N,N-エチレンビス(ビニルスルホンアセトアミド)4質量%水溶液)を31.2g、MAP(リン酸マグネシウムアンモニウム混合物;肥料)150gを投入して肥料組成物前駆体を調製し、60℃で16時間加温して架橋反応させることで(架橋工程)、肥料組成物1を得た。
なお、肥料組成物1に含まれる水の含有量(含水量)を上述の絶乾法と同様の条件で測定したところ、25℃80%RH環境下において、36%であった。
【0056】
〔実施例2〕
MAPの量を100gに変更し、かつ、蒸留水を168.8mlに変更した以外は実施例1と同様にして肥料組成物2を作製した。
【0057】
〔実施例3〕
MAPの量を50gに変更し、かつ、蒸留水を218.8mlに変更した以外は実施例1と同様にして肥料組成物3を作製した。
【0058】
〔実施例4〕
MAPの量を25gに変更し、かつ、蒸留水を243.8mlに変更した以外は実施例1と同様にして肥料組成物4を作製した。
【0059】
〔実施例5〕
架橋剤の量を2質量%に変更した以外は、実施例3と同様にして肥料組成物5を作製した。
【0060】
〔実施例6〕
架橋剤の量を11質量%に変更した以外は、実施例3と同様にして肥料組成物6を作製した。
【0061】
〔実施例7及び9〕
架橋剤の種類を表1又は表2に記載のとおりに変更した以外は、実施例2と同様にして肥料組成物7及び肥料組成物9を作製した。
【0062】
〔実施例8及び10〕
架橋剤の種類を表1又は表2に記載のとおりに変更した以外は、実施例3と同様にして肥料組成物8および肥料組成物10を作製した。
【0063】
〔実施例11〕
容器内でゼラチン50gを蒸留水168.8mLに添加して、60℃に加温及び撹拌し、ゼラチン(水溶性タンパク質)を溶解させた。その後40℃まで降温させた。さらに、架橋剤(N,N-エチレンビス(ビニルスルホンアセトアミド)4質量%水溶液)を31.2g、硝酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬(株)製;肥料)50質量%水溶液100gを投入した後、40℃で1時間加温して架橋反応させることで(架橋工程)、肥料組成物11を得た。
〔実施例12~14〕
実施例11において、表2に記載の肥料に変更した以外は、実施例11と同様の方法にして肥料組成物12~14を作製した。
【0064】
実施例1~14の肥料組成物は、全て60℃における水への溶解度が5g/100mL未満であり、更に、25℃におけるアセトンへの溶解度が5g/100mL未満であった。
比較例1及び2の肥料組成物は、60℃における水への溶解度が5g/100mL以上であった。
【0065】
〔比較例1〕
容器内でゼラチン50gを蒸留水200mLに添加して、60℃に加温及び撹拌し、ゼラチンを溶解させた。さらに、MAP100gを投入し、60℃で1時間加温し、肥料組成物C1を得た。
【0066】
〔比較例2〕
容器にゼラチン50gを蒸留水200mLに添加して、60℃に加温及び撹拌し、ゼラチンを溶解させた。その後40℃まで降温させた。さらに、硝酸アンモニウム50質量%水溶液100gを投入、40℃で1時間加温し、肥料組成物C2を得た。
【0067】
<温度変化に対する形状安定性の評価>
実施例1~14並びに比較例1及び2にて作製した肥料組成物を、各々30g、耐熱性透明ポリエチレン袋に入れた後、水を入れたウォーターバスに浸漬した。ウォーターバスの水温が50℃になるまで加熱し、30℃、35℃及び50℃の各温度における肥料組成物の形状維持の有無を目視にて確認し、以下の評価基準で評価を行った。
なお、肥料組成物について、容積の5%以上が溶解してれば、形状が維持されていないと判断した。
評価基準がA及びBである場合、温度変化に対する形状安定性に優れるといえる。評価結果は、表1及び表2に示した。
-評価基準-
A:30℃、35℃及び50℃のいずれの温度でも肥料組成物の形状が維持されていた。
B:30℃及び35℃では肥料組成物の形状が維持されるが、50℃では肥料組成物が溶解して形状が維持できなかった。
C:30℃、35℃及び50℃のいずれの温度でも肥料組成物の形状が維持できなかった。
【0068】
<徐放性の評価>
蒸留水1Lが入ったビーカーを用意し、水温が17℃になるように調整し、蒸留水を100rpm(revolutions per minute)で撹拌させた。次いで、実施例1~8並びに比較例1及び2にて作製した肥料組成物サンプルを、各々後述する量になるように濾布で包み、この濾布をビーカー上部より吊るして、ビーカー内の蒸留水に濾布を浸漬させた。
また、蒸留水は1日置きに新しいものに交換した。1日浸漬した後の蒸留水について、毎日、イオンクロマトグラフィー測定(型番:ICS-1600 (IC-2)、DIONEX社製)を用いて電導度を測定した。
また、既知濃度の窒素イオンとその電導度(電気伝導率計型番;CM-40S、東亜工業(株)製で測定した電導度)して、この比率から、濃度を求めたとの検量線を作成した。
この検量線を用いて、イオンクロマトグラフィーから得られた電導度の結果から蒸留水中に溶出された窒素イオン量(溶出窒素イオン量)を出した。
浸漬したサンプル量は、イオン源となる肥料(MAP又は硝酸アンモニウム)中の窒素量が各サンプル間で同一の窒素量となるように調整した。濾布で包んだサンプル量は、実施例1は7.7g、実施例2、7及び9並びに比較例1ではそれぞれ11.6g、実施例3、5、6、8、10~14及び比較例2ではそれぞれ、23.1g、実施例4では、45.9gであった。
なお、溶出窒素イオンが230μM(mol/L、以下同じ)以上であると、十分に肥料が溶出していることを表す。
評価基準がA及びBである場合、徐放性に優れるといえる。評価結果は表1及び表2に示した。
【0069】
-評価基準-
A:1日目~14日目の溶出窒素イオンが230μM以上であった。
B:1日目~5日目の溶出窒素イオンが230μM以上であったが、6日目以降は溶出窒素イオンが230μM未満であった。
C:2日目以降で、溶出窒素イオンが230μM未満であった。
【0070】
【0071】
【0072】
表1及び表2中の成分の詳細について以下に示す。
<<架橋剤>>
架橋剤A:N,N-エチレンビス(ビニルスルホンアセトアミド)(富士フイルム和光純薬(株)製社製)
架橋剤B:2,4-ジクロロ-6-ヒドロキシ-1,3,5-トリアジン-ナトリウム塩(富士フイルム和光純薬(株)製社製)
架橋剤C:クロムみょうばん(関東化学(株)製)
【0073】
<<肥料>>
リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP):20℃における水に対する溶解度 0.06g/100mL
硝酸アンモニウム:20℃における水に対する溶解度 190g/100mL
硫酸アンモニウム:20℃における水に対する溶解度 74g/100ml
尿素:20℃における水に対する溶解度 108g/100ml
【0074】
具体的には、本開示に係る肥料組成物を用いた実施例1~14の肥料組成物サンプルは、温度変化に対する形状安定性評価が良好であった。比較例1の肥料組成物サンプルは架橋物を含まない。このようなものを用いた場合には、肥料が架橋物に保持されていないので、比較例1は、実施例1~14の肥料組成物サンプルに対して、徐放性は良好であるものの、温度変化に対する形状安定性が満足しない結果であった。架橋物を含まない比較例2の肥料組成物サンプルは、実施例1~14の肥料組成物サンプルに対して、徐放性、及び、温度変化に対する形状安定性のいずれもが劣っていた。
実施例2、7及び9においては、ビニルスルホン基又はハロゲン化複素芳香族基を有する化合物を架橋剤とした場合の方が、温度変化に対する形状安定性により優れることがわかった。
実施例1~14において、難溶性のリン酸マグネシウムアンモニウムを肥料として含んだ肥料組成物の方が、徐放性により優れることが分かった。
【0075】
<海苔養殖試験>
実施例1の肥料組成物サンプルを実際に海苔養殖に用いたところ、海苔の発育性が良好であることを確認できた。
【0076】
以上の結果から、本開示に係る肥料組成物を用いた実施例1~14は、比較例1及び2の肥料組成物よりも、温度変化に対する形状安定性及び徐放性に優れることが分かる。