(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122687
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】充放電要素の充放電制御方法、および、充放電制御装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20220816BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
H02J7/00 B
H02J7/00 P
H02J3/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020079
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】村井 謙介
(72)【発明者】
【氏名】池添 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
【テーマコード(参考)】
5G066
5G503
【Fターム(参考)】
5G066HB09
5G066JA05
5G066JB03
5G503AA01
5G503BA02
5G503BB01
5G503CB16
5G503EA05
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
(57)【要約】
【課題】システムの応答性が下がるような状態であっても、差分電力ΔPの変化からシステム全体の状態を推定して、適切に各要素の電力調整を行う。
【解決手段】充放電要素の充放電制御方法は、複数の充放電要素(EV)が追加的に利用することができる差分電力ΔPを示す情報を取得し、差分電力の変化から複数の充放電要素(EV)全体の状態を推定し、全体の状態を加味した自己の状態に基づいて、充電または放電する電力を変化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の充放電要素が追加的に利用することができる差分電力を示す情報を取得し、
前記差分電力の変化から前記複数の前記充放電要素の全体の状態を推定し、
前記全体の状態を加味した自己の状態に基づいて、充電または放電する電力を変化させる
ことが含まれる充放電要素の充放電制御方法。
【請求項2】
前記差分電力の変化率を求めることにより、前記全体の状態を推定することを特徴とする請求項1に記載の充放電制御方法。
【請求項3】
前記全体の状態に対する相対的な自己の状態を求めることにより、前記全体の状態を加味した前記自己の状態を得ることを特徴とする請求項1または2に記載の充放電制御方法。
【請求項4】
前記状態は優先度で表されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
【請求項5】
ΔP・β/βtotalにより定められる量だけ、充電または放電する電力を変化させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
(ここで、ΔPは前記差分電力、βは前記自己の状態、βtotalは前記全体の状態を示す。)
【請求項6】
(ΔPpre-ΔPnow)/ΔPpreの式(ここで、ΔPpreは前回の前記差分電力、ΔPnowは今回の前記差分電力を示す。)にて前記差分電力の変化率を求めることにより、前記全体の状態を推定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
【請求項7】
前記差分電力の変化から自己の変化量を控除して前記全体の状態を推定することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
【請求項8】
充電または放電する電力の変化に、重み付け、閾値、マージン、および/または、時定数を設けることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
【請求項9】
前記差分電力の変化において、供給電力の変化および/または一般の負荷の電力量変動を加味して、前記全体の状態を推定することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
【請求項10】
前回までの前記変化率に今回の前記変化率を乗じていくことにより、前記全体の状態を推定することを特徴とする請求項2に記載の充放電制御方法。
【請求項11】
前回までの前記変化率に今回の前記変化率を乗じていく毎に、前回までの前記変化率に対して所定の1未満の累乗をすることを特徴とする請求項10に記載の充放電制御方法。
【請求項12】
以下の式により、前記差分電力の変化から自己の変化量を控除した前記全体の状態を推定することを特徴とする請求項7に記載の充放電制御方法。
βothers(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)-(p(t)-p(t-1))}/ΔP(t-1)、または、
βothers(t)= {ΔP(t)-ΔP(t-1)-(p(t)-p(t-1)}/ΔP(t-1)×βothers(t-1)
(ここで、βothers(t)は前記自己の変化量を控除した前記全体の状態、ΔP(t)は今回の前記差分電力、ΔP(t-1)は前回の前記差分電力、p(t)は今回の自己の電力、p(t-1)は前回の自己の電力、βothers(t-1)は前回のβothersを示す。)
【請求項13】
前記優先度は、前記差分電力がプラス方向とマイナス方向とで異なる値をもつことを特徴とする請求項4に記載の充放電制御方法。
【請求項14】
前記差分電力が前回プラス方向で今回さらに大きなプラスの場合、前回マイナス方向で今回さらに大きなマイナスの場合、または、推定した前記全体の状態が前記自己の状態よりも応答性が小さい場合、前記全体の状態を加味せず前記自己の状態に基づいて、充電または放電する電力を変化させることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
【請求項15】
複数の充放電要素が追加的に利用することができる差分電力を示す情報を取得し、
前記差分電力の変化から前記複数の前記充放電要素の全体の状態を推定し、
前記全体の状態を加味した自己の状態に基づいて、充電または放電する電力を変化させる
ことが含まれる充放電要素の充放電制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電要素の充放電制御方法、および、充放電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の電力消費要素を含むグループ全体で消費される総消費電力の制約に基づいて、各電力消費要素の消費電力を制御する技術が記載されている。具体的には、同報送信要素が、総消費電力の現在値と総消費電力の基準値との差の関数(総消費電力調整指示値)をグループ内に同報送信すると、各電力消費要素が、この関数と自己に与えられた優先度とを用いて自己の消費電力を制御し、これにより、グループ全体の総消費電力の現在値が総消費電力の基準値に収束されることが開示されている。
【0003】
なお、特許文献1の技術では、グループ全体の総消費電力の現在値が総消費電力の上限値に達し、グループ全体の総消費電力の現在値と総消費電力の上限値との差が零になってしまうと、新たな電力消費要素が加わって電力消費を開始しようとしても、新たな電力消費要素に割り当てられる電力がなく、新たな電力消費要素に電力が供給されない。
【0004】
一方、特許文献2では、総送電電力の現在値と総送電電力の最大値の差が零となり新たな受電要素が早期に受電を開始することができなくなることを防ぐために、電力補正値を設け、受電する電力を補正することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6168528号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2020/194010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、自己の状態による優先度に基づいて電力を調整していたため、優先度が小さな要素ばかりが集まった場合などのように、システムの応答性が下がるような状態では、充電に時間がかかり過ぎるなどエネルギーを効率的に利用できない場合が発生する、という課題を有していた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、システムの応答性が下がるような状態であっても、適切に各要素の電力調整を行うことができる、充放電要素の充放電制御方法、および、充放電制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、複数の充放電要素が追加的に利用することができる差分電力を示す情報を取得し、前記差分電力の変化から前記複数の前記充放電要素の全体の状態を推定し、前記全体の状態を加味した自己の状態に基づいて、充電または放電する電力を変化させることが含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、システムの応答性が下がるような状態であっても、差分電力の変化からシステム全体の状態を推定して、適切に各要素の電力調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係わる電気自動車EV1の充放電制御装置及びその周辺装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1の充放電制御装置が実行する(a)~(e)の処理ステップを時系列に並べたフローチャートである。
【
図3】
図3は、従来技術の制御方法による各種数値の変動を示す図表である。
【
図4】
図4は、本実施形態の充放電制御方法による各種数値の変動を示す図表である。
【
図5】
図5は、本実施形態において2kWを越えたら優先度は1/100にする改良例の充放電制御方法による各種数値の変動を示す図表である。
【
図6A】
図6Aは、従来技術において、EVをより増やした場合の電力(kW)の変動のシミュレーション結果を示すグラフ図である。
【
図6B】
図6Bは、従来技術において、EVをより増やした場合の充電率SOCの変動のシミュレーション結果を示すグラフ図である。
【
図7A】
図7Aは、本実施形態において、EVをより増やした場合の電力(kW)の変動のシミュレーション結果を示すグラフ図である。
【
図7B】
図7Bは、本実施形態において、EVをより増やした場合の充電率SOCの変動のシミュレーション結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、実施形態及びその変形例、実施形態又はその変形例を適用した具体的な実施例を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0012】
(実施形態)
図1を参照して、本実施形態に係わる電気自動車(「充放電要素」の一例)の充放電制御装置及びその周辺装置の構成を説明する。充放電制御装置は、複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)が充電または放電する電力(「要素充放電電力」と呼ぶ。)を、一例として所定の処理サイクルを繰り返すことにより、制御する。
【0013】
本実施形態において、充放電制御装置は、外部から電気信号を受信する受信装置21と、電気自動車EV1の状態(「自己の状態」の一例)を示す情報を取得する車両状態取得装置22と、電気自動車EV1の要素充放電電力pを算出する計算装置23とを備える。電気自動車EV1は、外部と電力(要素充放電電力p)の充電ないし放電を行う充放電装置24と、充放電装置24が受けた電力ないし充放電装置24が放電する電力を蓄えるバッテリ25と、バッテリ25が蓄える電気エネルギーないし要素充放電電力に基づいて駆動するモータ26とを備える。
【0014】
本実施形態の一例として、処理サイクルには、以下の(a)~(e)の処理ステップが含まれる。
【0015】
(a)受信装置21は、複数の充放電要素や電力消費要素等が利用可能な差分電力(△P)を示す情報を取得する。ここで、差分電力(△P)は、一例として、全体11に送ることができる総送電電力の最大値(Pall_max)から、総送電電力の現在値(Pall_now)を減じて得られる値であってもよい。これに限られず、差分電力(△P)は、総送電電力の最大値(Pall_max)から、総送電電力の現在値(Pall_now)と電力補正値を減じて得られる値であってもよい(国際公開公報WO2020/194010参照)。なお、総送電電力は、電力設備12を経由して送電可能な電力のみならず、電気自動車EV1などの充放電要素から送電可能な電力も含まれ得る。
【0016】
(b)計算装置23は、車両状態取得装置22等からの情報に基づいて、自己(電気自動車EV1)の優先度(β)を算出する。ここで、優先度βは、自己の状態を数値化したものであり、一例として、他の電気自動車(EV2、EV3、・・・)よりも自己(電気自動車EV1)の充放電が優先される度合いを示す。具体例として、優先度βは以下の3つの係数の積によって決定する。
・SOC(Stete Of Charge:充電率): 1-SOC
・出発までの時間: 1/出発までの時間
・目標SOC: 1.0(80%以下)
0.1(80%を越える)
すなわち、β=(1-SOC)・(1/出発までの時間)・(目標SOC係数))
【0017】
(c)計算装置23は、取得した情報が示す差分電力(△P)の変化から全体の状態(例:全体の優先度βtotal)を推定し、全体の状態(例えば、全体の状態を数値化した優先度βtotal)を加味した自己の状態β´に基づいて、充放電する電力を変化させる量を示す要素差分電力Δpを算出する。ここで、計算装置23は、βtotal=(ΔPpre-ΔPnow)/ΔPpreの式(ΔPpreは前回の差分電力、ΔPnowは今回の前記差分電力を示す。)にて差分電力の変化率を求めることにより、全体の状態を計算してもよい。また、一例として、計算装置23は、β´=β/βtotalの式を計算することにより、全体の状態を加味した自己の状態を求めてもよい。また、計算装置23は、Δp=ΔP・β´=△P・β/βtotalの式を計算することにより、要素差分電力Δpを求めてもよい。ここで、要素差分電力Δpに、重み付け、閾値、マージン、および/または、時定数を設けることにより、最大変化量を超えないようにしたり、システムに安定性を持たせたり、フルレンジにせず、緩やかに変化させるように設定してもよい。なお、時定数は、目標値の(1-e-1)に達するまでの時間として定義してもよい。
【0018】
(d)つづいて、計算装置23は、前回の処理サイクルにおける充放電の電力である要素充放電電力p(t-1)に、要素差分電力(例:Δp=△P・β/βtotal)を加算することにより、要素充放電電力p(t)を更新する(すなわちp(t)=p(t-1)+Δp)。
【0019】
(e)そして、計算装置23は、更新後の要素充放電電力p(t)にて充電または放電するように電気自動車EV1を制御する。
【0020】
ここで、実施形態、変形例、及び実施例において、「電気自動車」は、電力を充電および/または放電する「充放電要素」の一例である。したがって、「充放電要素」は、充電のみを行う蓄電要素であってもよく、放電のみを行う放電要素であってもよく、それら両要素を兼ね備えた充放電の要素であってもよい。同様に、本願において、「充放電」は、充電および/または放電を意味する。すなわち、「充放電する」とは、充電のみを行うことを意味してもよく、放電のみを行うことを意味してもよく、その両方を行い得ることを意味してもよい。ここで、充電は、蓄電することに限られず、何らかのエネルギーに変換することも含まれる。例えば、電気自動車が、電気エネルギーを運動エネルギーに変換した場合、この運動エネルギーを再び電気エネルギーに変換することもできるので、広義の充電といえる。一例として、蓄電する場合、受電または発電した電力をバッテリ(二次電池、蓄電池、充電式電池を含む)に蓄える。「充放電要素」には、車両(電気自動車、ハイブリッド車、建設機械、農業機械を含む)、鉄道車両、遊具、工具、家庭製品(スマートフォンなど)、日用品、ソーラーパネルを備えた住宅など、バッテリやコンデンサや水素蓄電池や揚水式ダムなどの蓄電手段など、あらゆる機器及び装置ならびに設備が含まれ得る。
【0021】
また、充放電要素には、電力消費要素が接続されていてもよい。例えば、電力消費要素は、鉄道車両、遊具、工具、エアコンなどの家庭製品、スマートフォンなどの日用品などである。電力消費要素は、電気自動車のように、バッテリを備えていてもよい。例えば、電気自動車が、受電した電力をバッテリに蓄えずに、直接、車内エアコンやモータへ電送し、駆動力として消費する場合、充放電要素である電気自動車が電力消費要素ともなり得る。
【0022】
「充放電要素」は、充放電制御装置による充放電制御の単位構成を示す。即ち、充放電要素を単位として実施形態、実施例、及び変形例に係わる充放電制御が行われる。例えば、複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)の各々について、実施形態、実施例、及び変形例に係わる充放電制御が行われる。
【0023】
実施形態では、充放電要素の一例として、電気をエネルギー源とし、モータ26を動力源として走行する電気自動車(EV)を挙げる。しかし、本発明における充放電要素を電気自動車(EV)に限定することは意図していない。例えば、充放電要素は、スマートハウス等であってもよい。
【0024】
実施形態及び変形例において、電力設備12は、電力供給基点10の一例である。例えば、電力設備12は、以下の<1>~<6>であってもよい。
<1>電気自動車EV用の「充電スタンド」
<2>住宅、オフィスビル、商業施設、工場、又は高速道路のパーキングエリア等の敷地内に設置された「変電装置」
<3>水力、火力、原子力などの「発電所」、発電された電力を所定の電圧へ変換する「変電所」
<4>変電所を経由して伝送された電力を分配するための様々な「配電設備」
<5>これらの装置又は設備の間を接続する「配線(ケーブル、フィーダーを含む)」
<6>近隣にある小規模な蓄電要素のエネルギーを束ね、1つの大規模な発電所のように機能させる「バーチャルパワープラント(仮想発電所:VPP)」
【0025】
本実施形態等では、充放電制御装置が、電気自動車EV1に搭載されている例を説明するが、これに限られず、充放電制御装置は、短距離無線、無線LAN、無線WANなどの近距離無線通信技術、或いは、携帯電話通信網等を利用して、電気自動車EV1の外部から電気自動車EV1の要素充放電電力pを制御してもよい。
【0026】
また、システムの負荷となり得る負荷群11に含まれる複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)のうちの1台の電気自動車EV1の構成を例にして説明するが、他の電気自動車(EV2、EV3、・・・)も電気自動車EV1と基本的に同じ構成を有している。
【0027】
充放電制御装置は、電気自動車EV1が充電ないし放電する電力pを制御する。具体例として、計算装置23は、充放電装置24が充電ないし放電する電力pを制御する。充放電装置24が充電した電力はバッテリ25に蓄えられ、放電した電力は負荷群11に向けて送電される。なお、電気自動車EV1は、充放電装置24が受電した電力pを、バッテリ25に蓄えず、駆動源としてのモータ26等へ直接送電しても構わない。
【0028】
電気自動車EV1へ供給される電力は、電流計測装置13により計測される。電流計測装置13により計測された電力値は、差分情報送信装置14へ送信される。
【0029】
負荷群11に含まれる複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)等に対しては、電気エネルギーが供給される。更に、複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)のみならず、負荷群11に含まれる1又は2以上の他の電力消費要素15に対しても電気エネルギーが供給されてもよい。そのため、電気エネルギーの供給を受ける複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)及び1又は2以上の他の電力消費要素15は、1つのグループ(負荷群11)を形成している。
【0030】
電流計測装置13は、1つの負荷群11に含まれる全ての電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)及び他の電力消費要素15へ送られている総送電電力の現在値(Pall_now)、換言すれば、負荷群11の全体の総送電電力を計測する。
【0031】
本実施の形態においては、負荷群11の全体の電力容量、即ち、負荷群11の全体に送ることができる総送電電力の最大値(Pall_max)が予め定められている。実施形態に係る充放電制御装置は、総送電電力の最大値(Pall_max)の制約に基づき、電気自動車EV1の要素充放電電力を制御する。例えば、充放電制御装置は、電流計測装置13が計測する総送電電力の現在値(Pall_now)が、電力の最大値(Pall_max)を超えないように、電気自動車EV1の受電電力を制御する。勿論、総送電電力の現在値(Pall_now)が電力の最大値(Pall_max)を一時的に超えることを許容するように、電気自動車EV1の受電電力を制御しても構わない。例えば、総送電電力の最大値(Pall_max)は、電力補正値など様々な要因により定まるので、必ずしも全体で送信可能な電力の最大値とは限らない(特許文献2:国際公開公報WO2020/194010参照)。
【0032】
図1に示すように、本実施形態では、電力設備12、電流計測装置13及び電気自動車EV1の各々に対して、差分情報送信装置14が、無線又は有線により通信可能に接続されている。電力設備12は、差分情報送信装置14へ総送電電力の最大値を示す電気信号を送信し得る。ここで、電気自動車EVも送電電力の最大値を示す電気信号を差分情報送信装置14へ送信してもよい。電流計測装置13は、計測した総送電電力の現在値(Pall_now)を示す電気信号を差分情報送信装置14へ送信する。
【0033】
差分情報送信装置14は、計算部31と送信部32とを備える。計算部31は、一例として、総送電電力の最大値(Pall_max)から総送電電力の現在値(Pall_now)を減ずることにより差分電力(△P)を算出してもよい。なお、計算部31は、電力設備12と電気自動車EVなど複数の箇所から送電電力の最大値を示す電気信号を受信した場合は、それらを合算して総送電電力の最大値(Pall_max)を計算する。なお、計算部31は、更に電力補正値等を減ずることにより差分電力△Pを算出してもよい。
【0034】
本実施形態において、送信部32は、差分電力(△P)を示す電気信号を、負荷群11に含まれる全ての電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)に対して、有線または無線により送信(ブロードキャスト)する。差分電力(△P)を示す電気信号は受信装置21により受信され、計算装置23へ転送される。これにより、充放電制御装置は、複数の充放電要素が追加的に利用することができる差分電力(△P)を示す情報を取得することができる。
【0035】
図1に示す例において、差分情報送信装置14は、各電気自動車から送信される、例えばバッテリ25の充電率(SOC)や、受電を終了する時刻(T
d)など、各電気自動車の状態を示す信号を受信する受信装置を備えていなくてもよい。即ち、差分情報送信装置14と各電気自動車との間は、差分情報送信装置14から各電気自動車への片方向のみの通信であってもよい。
【0036】
差分情報送信装置14は、例えば、コンピュータネットワークを介して、電力設備12、電流計測装置13、及び負荷群11に接続されたサーバであってもよい。或いは、差分情報送信装置14は、電力設備12の一部分として構成されていてもよい。
【0037】
車両状態取得装置22は、自己(この例では自車両EV1)の状態を表す情報を取得する。上述のように、自己の状態は、一例として、電気自動車EV1のユーザの要求を表す数値などにより、数値化された値(優先度β)として表現される。電気自動車EV1のユーザの要求を表す数値は、一例として、電気自動車EV1の充放電を終了する時刻(受電の終了時刻Td)までの残り時間Tである。残り時間(T)は、電気自動車EV1が充放電を終了する時刻から算出可能であり、充放電を行うことができる残り時間でもある。
【0038】
例えば、自宅に帰宅したユーザが、自宅の駐車場にて電気自動車EV1のバッテリ25の充放電を開始し、翌日の午前7時に電気自動車EV1にて外出する予定がある場合、翌日の午前7時から所定時間(5分)前の時刻を、充放電の終了時刻として設定することができる。このように、“翌日の午前7時に外出したい”というユーザの要求は、充放電の終了時刻(午前6時55分=T
d)及び充放電の終了時刻までの残り時間(すなわち出発までの時間T)を表している。なお、終了時刻(T
d)は、電気自動車EV1が充放電を続けることが可能な期間が終了する時刻を意味し、充放電制御フロー(
図2)において、充放電を継続しない(S03でNO)と判断する時刻とは区別される。
【0039】
充放電の終了時刻(Td)は、ユーザがスマートフォンなどの情報通信端末又は電気自動車EV1に搭載されたユーザインターフェースを用いて実際に設定した時刻であってもよい。あるいは、ユーザからの具体的な指示又は設定が無い場合、ユーザの過去の行動履歴(過去の出発時刻の履歴など)を調査して得られる統計データから推定される時刻であっても構わない。
【0040】
計算装置23は、電気自動車EV1のユーザの要求を表す数値や充電率SOCなどの自己の状態に基づいて、他の電気自動車(EV2、EV3、・・・)の充放電よりも自己EV1の充放電が優先される度合いを示す自己(自車両EV1)の優先度(β)を算出する。具体的には、計算装置23は、上述した以下の式を用いて、現時刻(To)から充放電の終了時刻(Td)までの残り時間(T)から優先度(β)を算出してもよい。
β=(1-SOC)・(1/(Td-To))・(目標SOC係数)
【0041】
上記の式に示すように、優先度(β)は、出発までの残り時間(T=Td-T0)に反比例する。残り時間(T)が短くなるにつれて、優先度(β)は高くなる。なお、上記の式は一例にすぎず、例えば、優先度(β)は、残り時間(T)を2以上のg回(gは正数)掛け算した「残り時間(T)のg乗」に反比例してもよい。
【0042】
従来技術(特許文献2参照)では、計算装置23は、差分電力(△P)に自己の優先度(β)を乗じることにより要素差分電力(Δp=β△P)を算出し、前回の処理サイクルにおける要素充放電電力p(t-1)に、要素差分電力Δp(=β△P)を加算することにより、要素充放電電力p(t)を更新していた。なお、「t」は、「処理サイクル」の繰り返し回数を示す。tは、零を含む正の整数である。
【0043】
一方、本実施形態においては、計算装置23は、更に、全体の状態を推定して、全体の状態を加味して、要素充放電電力p(t)を修正する。より具体的には、計算装置23は、差分電力ΔPの変化から複数の充放電要素全体の状態を推定し、全体の状態を加味した自己の状態に基づいて、充放電する電力である要素充放電電力p(t)を変化させる。
【0044】
更なる具体例として、計算装置23は、差分電力の変化率ΔΔPを計算することにより全体の状態を示す優先度βtotalを求め、全体の優先度βtotalに対する相対的な自己の優先度βに基づいて、要素充放電電力p(t)を変化させてもよい。一例として、計算装置23は、以下の式により、全体の優先度βtotalから要素充放電電力pを求めてもよい。
βtotal=ΔΔP=(ΔPpre-ΔPnow)/ΔPpre
Δp=ΔP・β/βtotal
p(t)=p(t-1)+Δp
(ここで、ΔPpreは前回の差分電力、ΔPnowは今回の差分電力、Δpは要素差分電力、p(t-1)は前回の要素充放電電力、p(t)は今回の要素充放電電力を示す。)
【0045】
ここで、計算装置23は、差分電力ΔPの変化から自己の変化量を控除して全体の状態を推定してもよい。一例として、計算装置23は、以下の式により、差分電力ΔPの変化から自己の変化量(Δp=p(t)-p(t-1))を控除した全体の状態を示す優先度βtotal´=βothersを計算してもよい。
βothers(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)-(p(t)-p(t-1))}/ΔP(t-1)
または、
βothers(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)-(p(t)-p(t-1)}/ΔP(t-1)×βothers(t-1)
(ここで、βothers(t)は自己の変化量を控除した全体の状態、ΔP(t)は今回の差分電力、ΔP(t-1)は前回の差分電力、p(t)は今回の自己の要素充放電電力、p(t-1)は前回の自己の要素充放電電力、βothers(t-1)は前回のβothersを示す。)
【0046】
なお、以下のように、前回(t-1)に自己の優先度βと他の優先度βothersの合計で評価した場合に、今回(t)は、自己の優先度βと他の優先度βothersを分けて評価するように計算してもよい。
前回:自己と他の合計で評価
β´(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)}/ΔP(t-1)
今回:自己と他を分けて評価
βothers(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)-(p(t)-p(t-1))}/ΔP(t-1)
β´(t)=βothers(t)+β(t-1)
または、
前回:自己と他の合計で評価
β´(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)}/ΔP(t-1)×β´(t-1)
今回:自己と他を分けて評価
βothers(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)-(p(t)-p(t-1))}/ΔP(t-1)×βothers(t-1)
β´(t)=βothers(t)+β(t-1)
【0047】
また、計算装置23は、一例として以下に示すように、要素差分電力Δpに、重み付け、閾値、マージン、および/または、時定数を設定してもよい。
<時定数τを設けて変動を抑える方法>
ベータ補正係数をβ´(t)=τ×βcorrelation(t-1)+(1-τ)×βtotal(t-1)で求める。これにより、時間とともに補正をするため、一度に大きな変化は発生しなくなる。
<βmaxを上限とする方法>
β/β´(t)がβmaxを越えないようにする。これにより、βmaxで動いたとしても、目標値以上になることは一般負荷が変わっていない限り起こらない。
<全体の目標βをフルレンジにせずに一定のマージンを考慮する方法>
β´(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)}/ΔP(t-1)×50%
β´(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)}/ΔP(t-1)×β´(t-1)×50%
【0048】
また、計算装置23は、ソーラーパネルなどの電力設備12における天候の変化などに起因する供給電力の変化、および/または、以下に例示するように一般の負荷の電力量変動(他の電力消費要素15の消費電力の変化など)を加味(たとえば控除)して、全体の状態(例:βtotal)を推定してもよい。
<全体の電力に一般の負荷の電力量変動Pmarginを考慮する方法>
β´(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)-Pmargin}/ΔP(t-1)
β´(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)-Pmargin}/ΔP(t-1)×β´(t-1)×50%
【0049】
また、計算装置23は、前回までの変化率ΔΔPpreに今回の変化率ΔΔPnowを乗じていくことにより、全体の状態を推定してもよく、その際毎に、前回までの変化率ΔΔPpreに対して所定の1未満の累乗を行ってもよい。単純にβ´を掛け算のみで更新していくと、最初から参入しているEVと途中から参入したEVとで、異なるβ´を持つこととなり、最初から参入しているEVの方が有利なるが、全てのEVで共通のβ´を有することができるように、β´を1に近づけるような補正を行うことができる。この際、小さなβ´を持つ方が大きな比率で補正をすることが望ましいことから、一例として累乗を用いる。
【0050】
なお、優先度は、差分電力ΔPがプラス方向とマイナス方向とで異なる値をもってもよい。例えば、全体の電力が余っている場合と不足している場合とで異なる優先度の計算方法を用いてもよい。これにより、プラス方向の信号とマイナス方向の信号では応答性が異なるため、異なる値を持たせることができる。具体例として、ある閾値の電力に対して、大きな差分がある優先度を設定する場合、特に閾値電力を0Wとして、その大小によって大きな差分のある優先度を設定する。例えば、上げ優先度は放電している(電力が-)ときには0.1とし、充電している(電力が+)ときには0.001と設定し、下げ優先度は放電している(電力が-)ときには0.001とし、充電している(電力が+)ときには0.1と設定してもよい。これにより、充電と放電を分けることができ、充放電に伴う損失を低減することができる。
【0051】
また、一例として、プラス方向の信号が来たときには、マイナス方向のβ´は1よりも大きい倍率、もしくは1未満の所定の累乗をし、マイナス方向の信号が来たときには、プラス方向のβ´は1よりも大きい倍率、もしくは1未満の所定の累乗をしてもよい。これにより、プラスとマイナスの2つのβ´を持たせたときに、信号が来た際の使わない方向の推定優先度を徐々に1に近づけていくことができる。
【0052】
また、計算装置23は、差分電力ΔPが前回プラス方向で今回さらに大きなプラスの場合(例:充電していたEVがいなくなった、電子レンジなどの負荷が減った)、前回マイナス方向で今回さらに大きなマイナスの場合、または、推定した全体の状態が自己の状態よりも応答性(たとえば優先度)が小さい場合、全体の状態を加味せず自己の状態のみに基づいて、要素充放電電力pを求めてもよい。これは、上記のいずれかの場合に、今回の推定されるβ値を自身が有するβ値として動作させることになる。例えば、計算装置23は、従来技術(特許文献2)として上述した以下の式により求めてもよい。なお、これに限られず、βothers(t)=0と設定しても、全体推定量βtotalはβothers(t)と自身のβを足したものなので同じ結果が得られる。
p(t)=p(t-1)+Δp=p(t-1)+β・ΔP
(ここで、p(t)は、今回の要素充放電電力p、p(t-1)は、前回の要素充放電電力p、Δpは要素差分電力、ΔPは差分電力、βは自己の優先度を示す)。
【0053】
このほか、他の具体例として、効率特性で電力を増やす方が効率が上がる場合には大きな優先度を、電力を増やすことにより効率が下がる場合には小さな優先度を与えるようにしてもよい。最大効率になる負荷率での運転をキープしようとするが、電力が余っている場合には最大効率となる負荷率よりも高いところで動作するようになるので、変換損失の低減を実現することができる。
【0054】
計算装置23は、充放電装置24が更新後の要素充放電電力p(t)で充放電するように充放電装置24に対して指示信号を送信し、指示信号を受信した充放電装置24は、更新後の要素充放電電力p(t)にて充放電を行う。
【0055】
本実施形態においては、充放電制御装置は、上述した(a)~(e)の処理ステップを含む処理サイクルを一定の周期で繰り返し実行することにより、電気自動車EV1の充放電装置24が充放電する電力(すなわち要素充放電電力p(t))を制御する。
【0056】
(充放電制御方法)
図2のフローチャートを参照して、
図1の充放電制御装置による充放電制御方法の一例を説明する。なお、当業者であれば、
図1の充放電制御装置の具体的な構成及び機能の説明から、充放電制御装置による充放電制御方法の具体的な手順を容易に理解できるので、ここでは、
図1の充放電制御装置による充放電制御方法として、充放電制御装置の主要な処理動作を説明し、詳細な処理動作の説明や他の処理の例や変形例については、
図1を参照した説明と重複するため割愛する。
【0057】
まず、ステップS01で、受信装置21は、計算部31により算出された差分電力(△P)を示す情報を取得する。ステップS02に進み、車両状態取得装置22は、自己(自車両EV1)の状態を示す情報(例、受電の終了時刻TdやSOCなど)を取得する。
【0058】
ステップS03に進み、充放電制御装置は、充放電を継続するか否かを判断する。例えば、電気自動車EV1のユーザから充放電終了の指示信号を受信した場合(S03でNO)、又は、現時刻が充放電の終了時刻(Td)となった場合、充放電の継続を終了する。或いは、充電ポートの未接続を検知した場合など電気自動車EV1が移動を開始する可能性が高まった場合(S03でNO)、充放電の継続を終了する。更に、バッテリ25の充電率(SOC)が目標値に達した場合(S03でNO)、充放電の継続を終了する。これらの状況が無ければ(S03でYES)、充放電制御装置は、充放電を継続するために、ステップS04へ進む。
【0059】
ステップS04では、計算装置23は、上述した以下の式を用いて、充放電の終了時刻(Td)や現在時刻Toや充電率SOC等から、自己(自車両EV1)の優先度(β)を算出する。なお、具体例として、出発までの時間とフルスピードで充電した場合の目標電力に到達するまでの時間を比較して、前者の方が大きい場合には、優先度を小さく設定してもよく、これにより、定められた電力の中で時間的に余裕がないEVに多くの電力を供給することができる。
β=(1-SOC)・(1/(Td-To))・(目標SOC係数)
【0060】
ステップS05へ進み、計算装置23は、上述した以下の式を用いて、ステップS04で求めた自己の優先度と、ステップS01で受信した差分電力△Pの変化から、全体の優先度βtotalを加味した自己の優先度βに基づいて要素充放電電力P(t)を更新する。
p(t)=p(t-1)+ΔP・β/βtotal
(ここで、p(t)は今回の要素充放電電力、p(t-1)は前回の要素充放電電力、ΔPは差分電力を示し、全体の優先度βtotalは差分電力の変化率で求められる。)
【0061】
ステップS06へ進み、計算装置23は、充放電装置24が更新後の要素充放電電力P(t)にて充放電するように充放電装置24を制御する。充放電制御装置は、ステップS01からステップS06までを単位とする処理サイクルを、ステップS03でNOと判定されるまで、繰り返し実行することにより、要素充放電電力pを制御する。
【0062】
(シミュレーション結果)
次に、本実施形態に係る充放電制御方法に従って充放電制御を実行したシミュレーションの結果を説明する。
【0063】
まず、従来技術(特許文献2)と本実施形態との数値的な変動の差異を示すため、
図3~
図5を用いて説明する。
図3は従来技術の制御方法による各種数値の変動を示す図表であり、
図4は、本実施形態の充放電制御方法による各種数値の変動を示す図表であり、
図5は、本実施形態において2kWを越えたら優先度は1/100にする改良例の充放電制御方法による各種数値の変動を示す図表である。
図3~
図5に示すように、ここでは、3台の電気自動車(EV1、EV2、EV3)の各々が、充放電制御を実行することを前提としている。
【0064】
図3に示すように、従来技術(特許文献2)では、全体の状態が考慮されず、各自の優先度(EV1:優先度0.20 EV2:優先度0.10 EV3:優先度0.05)に基づいて、利用可能な7kWの差分電力を、3台で分けていたために、時間がかかりシステム応答性が悪いという問題があった。
【0065】
図4に示すように、本実施形態では、それぞれのEVは、差分電力ΔPの変化率ΔΔPを計算することにより全体の優先度(推定β)を求め、全体の優先度(推定β)に対する相対的な自己の優先度βの割合で、差分電力ΔPを分配するので、満充電に達しやすくシステム応答性がよい。
【0066】
さらに、2kWを越えたら優先度を1/100にする改良例では、
図5に示すように、境目で一旦充電速度が停滞し、全てのEVが閾値を超えると充電速度が増加する。なお、この境目を0kWにすると放電から充電に切り替える際に、放電EVがいる場合には充電をしないモードを作ることができる。
【0067】
ここで、
図6(従来技術)および
図7(本実施形態)は、EVをより増やした場合の電力(kW)(各
図A)と充電率SOC(各
図B)の変動のシミュレーション結果を示すグラフ図である。なお、シミュレーション条件は、上述したように優先度βと電力補正パラメータαによる以下の式を用いた。
p(t)=p(t-1)+β×ΔP-α×p(t-1)
β=(1-SOC)・(1/出発までの時間)・(目標SOC係数))
【0068】
図6に示すように、従来技術では、電力のピーク前後で、300kWの最大値Pmaxまでに充電電力の余裕があるにもかかわらず、充電速度が上がっていないが、
図7に示すように、本実施形態では、電力のピーク前後で、最大値Pmaxぎりぎりまで効率的に充電電力が使われており、充電速度が上がりシステム応答性が改善することが確かめられた。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
【0070】
各電気自動車が、利用可能な差分電力(△P)の変化から全体の状態を推定して、全体の状態を加味した自己の状態に基づいて、充放電電力を変化させるので、各電気自動車が、推定した全体の状態を考慮して有効に差分電力ΔPを分け合うことができる。よって、全体のシステム応答性を大幅に改善することができる。
【0071】
また、差分電力の変化率ΔΔPを求めることにより、全体の状態を推定することができるので、追加的な構成を必要とせず簡易な計算手法で全体の状態を推定することができる。
【0072】
また、全体の状態に対する相対的な自己の状態(例:β/βtotal)を求めることにより、全体の状態を加味した自己の状態を得ることができる。
【0073】
また、自己または全体などの状態は優先度(β、βtotal等)で表すことで、数値化することができる。
【0074】
また、ΔP・β/βtotalにより定められる量Δpだけ充放電電力p(t)を変化させることで、全体の状態を考慮した的確な電力制御を行うことができる。
【0075】
また、差分電力の変化率ΔΔP=(ΔPpre-ΔPnow)/ΔPpre=βtotalの式により、簡易な計算手法で的確に全体の状態を推定することができる。
【0076】
また、差分電力の変化から自己の変化量を控除することにより一層的確に全体の状態を推定することができる。
【0077】
また、充放電電力の変化Δpに、重み付け、閾値、マージン、および/または、時定数を設けることで、最大変化量を越えさせず、システムに安定性を持たせ、フルレンジにしない、緩やかに変化させる電力制御を行うことができる。
【0078】
また、差分電力ΔPの変化において、供給電力の変化および/または一般の負荷の電力量変動を加味して、全体の状態を推定するので、電力需要変化や、再エネ発電変化、一般の負荷の電力量変動などに対応することができる。
【0079】
また、前回までの変化率に今回の変化率を乗じていくことにより、全体の状態を推定するので、新たに参入した電気自動車と以前からの電気自動車が推定する全体の状態を共通化していくことができる。
【0080】
また、前回までの変化率に今回の変化率を乗じていく毎に、前回までの変化率に対して所定の1未満の累乗をすることで、推定βに変化率を掛けていく際に前の変化率を小さくして、先に到着した電気自動車と遅れて到着した電気自動車とで全体応答性を共有できなくなる点を解消させることができる。
【0081】
また、上述した以下の式で自分と他を分けて評価することにより、差分電力の変化から自己の変化量を控除した全体の状態を的確に推定することができる。
βothers(t)={ΔP(t)-ΔP(t-1)-(p(t)-p(t-1))}/ΔP(t-1)、または、
βothers(t)= {ΔP(t)-ΔP(t-1)-(p(t)-p(t-1)}/ΔP(t-1)×βothers(t-1)
【0082】
また、優先度βは、差分電力がプラス方向とマイナス方向とで異なる値をもつので、電力の過不足等に応じて的確に応答性を変化させることができる。
【0083】
また、差分電力が前回プラス方向で今回さらに大きなプラスの場合、前回マイナス方向で今回さらに大きなマイナスの場合、または、推定した前記全体の状態が前記自己の状態よりも応答性が小さい場合、全体の状態を加味せず自己の状態に基づいて充放電電力pを変化させるので、緊急時等の際などにも的確に電力制御を行うことができる。
【0084】
(その他の実施形態)
実施形態及びその変形例に係わる充放電制御装置及び充放電制御方法は、太陽光発電や風力発電、蓄電池、燃料電池など、各地域に分散している小規模の発電設備で発電される電気エネルギーを、IoT(Internet of Things)技術を活用して束ね(アグリゲーション)、束ねた電気エネルギーを制御・管理して使用する電力システムに適用可能である。近隣にある小規模な蓄電要素のエネルギーを束ね、1つの大規模な発電所のように機能させることから、電力システムは、バーチャルパワープラント(仮想発電所:VPP)と呼ばれる。
【0085】
実施形態又はその変形例に係わる充放電制御装置及び充放電制御方法を用いて、電気エネルギーを束ねるアグリゲータを経由して、複数の充放電要素を含む負荷群11へ電気エネルギーを供給するバーチャルパワープラントにおいて、負荷群11に含まれる充放電要素が受電する要素充放電電力を制御することができる。
【0086】
アグリゲータは、自らを経由して負荷群11の全体に送ることができる総送電電力の最大値(Pall_max)を示す情報、及び自らを経由して負荷群の全体に送っている総送電電力の現在値(Pall_now)を示す情報を取得し、当該情報から算出される差分電力(△P)を示す電気信号を、負荷群11に含まれる複数の充放電要素に対して同報送信する。差分電力(△P)を示す電気信号を受信した充放電要素の各々は、実施形態又はその変形例に係わる充放電制御装置及び充放電制御方法に従って、自己の要素充放電電力(Pt)を、アグリゲータ及び他の充放電要素から独立して並列に制御することができる。
【0087】
実施形態及びその変形例に係わる充放電制御装置及び充放電制御方法は、電力の流れを供給側及び需要側の両方から制御し、最適化できる次世代送電網(所謂、スマートグリッド)に対しても適用可能である。送電網の一部に組み込まれている専用の機器及びソフトウェアが、総送電電力の最大値(Pall_max、契約電力)、総送電電力の現在値(Pall_now)、又は差分電力(△P)を示す電気信号を、負荷群11に含まれる各充放電要素又は各蓄電要素に対して送信(ブロードキャスト)することができる。当該電気信号を受信した各充放電要素又は各蓄電要素が、実施形態及びその変形例に係わる充放電制御装置を用いて、充放電制御装置を実行することができる。
【0088】
実施形態及びその変形例では、主に、電気自動車EVに搭載された駆動用のバッテリ25を充電するシーンにおける、電気自動車EVの充放電制御例を示した。この場合、電気自動車EVは、充放電要素の一例となる。しかし、バッテリ25を搭載する電気自動車EVが電力消費要素の一例となるシーンにおいても、実施形態及びその変形例に係わる充放電制御装置又は充放電制御方法を適用することができる。つまり、電気自動車EVが、受電した電力をバッテリ25に蓄えずに、そのまま消費するシーンに適用される実施例がある。
【0089】
例えば、走行中の車両に対して非接触給電を行うことができる走行レーンを有する高速道路を、非接触受電装置を備える複数の車両が走行するシーンがある。この時、複数の車両が走行中に非接触給電を行い、受電した電力をそのまま駆動源としてのモータ26が消費することにより、車両は走行を継続することができる。このような走行中の非接触給電シーンにおいて、バッテリ25の充電が行われない場合がある。この場合、車両は、受電した電力を蓄電せずに消費してもよい。
【0090】
走行レーンを走行する複数の車両は、走行レーンから非接触給電にて、同時に受電を行う。電気自動車EVは、走行中においても、4G、5G等の移動通信システムを用いて情報通信を行うことができる。よって、高速道路に設置された送信部32は、差分電力(△P)又は総送電電力の現在値(Pall_now)等のデータを送信(ブロードキャスト)し、複数の車両は当該データを受信することができる。複数の車両の各々は、実施形態又はその変形例に係わる充放電制御装置を用いて、充放電制御方法を実行することができる。
【0091】
なお、上述の実施形態、その変形例、及び実施例は、本発明を実施する形態の例である。このため、本発明は、上述の実施形態、その変形例、及び実施例に限定されることはなく、これ以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0092】
実施形態及びその変形例に係わる充放電制御装置は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備えるマイクロコンピュータを用いて実現可能である。マイクロコンピュータを充放電制御装置として機能させるためのコンピュータプログラム(充放電制御プログラム)を、マイクロコンピュータにインストールして実行する。これにより、マイクロコンピュータは、充放電制御が備える複数の情報処理部として機能する。なお、ここでは、ソフトウェアによって充放電制御装置を実現する例を示すが、もちろん、各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、充放電制御装置を構成することも可能である。専用のハードウェアには、実施形態、その変形例又は実施例に記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や従来型の回路部品のような装置を含む。また、充放電制御装置に含まれる複数の情報処理部を個別のハードウェアにより構成してもよい。充放電制御装置は、車両にかかわる他の制御に用いる電子制御ユニット(ECU)と兼用してもよい。
【符号の説明】
【0093】
10 電力供給基点
11 負荷群
12 電力設備
15 他の電力消費要素
EV 電気自動車(充放電要素)
Pall_max 総送電電力の最大値
Pall_now 総送電電力の現在値
p 要素充放電電力
T 残り時間(出発までの時間)
ΔP 差分電力
ΔΔP 差分電力の変化
SOC 充電率
β 自己の優先度
βtotal 全体の優先度