(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022122769
(43)【公開日】2022-08-23
(54)【発明の名称】ホウ素およびマンガンを含有するスラグの処理方法ならびに土木建築用資材の製造方法。
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20220816BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20220816BHJP
B09B 3/20 20220101ALI20220816BHJP
C04B 5/00 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B09B3/00 303D
B09B3/00 ZAB
B09B3/00 301F
C04B5/00 B
C04B5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021020232
(22)【出願日】2021-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
【テーマコード(参考)】
4D004
4G112
【Fターム(参考)】
4D004AA43
4D004AB03
4D004AC04
4D004BA02
4D004CA04
4D004CA29
4D004CA32
4D004CB13
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA20
4G112JB03
4G112JC00
4G112JD03
4G112JE01
4G112JE04
(57)【要約】
【課題】ホウ素およびマンガンを含有するスラグからホウ素の溶出を低減すると同時に、上記の酸化マンガン(II)(MnO)由来の緑色の呈色を抑制するスラグの処理方法を提供する。
【解決手段】ホウ素およびマンガンを含有するスラグに対し、溶融した状態にある処理対象スラグを、1000℃に到達するまでの冷却速度を10℃/min以上として冷却し、凝固させる第一工程と、前記凝固したスラグを、最大寸法150mm以下に破砕する第二工程と、前記破砕されたスラグを、1000~600℃の温度範囲で1時間以上保持する第三工程とを有する処理を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素およびマンガンを含有するスラグの処理方法であって、
溶融した状態にある処理対象スラグを、1000℃に到達するまでの冷却速度を10
℃/min以上として冷却し、凝固させる第一工程と、
前記凝固したスラグを、最大寸法150mm以下に破砕する第二工程と、
前記破砕されたスラグを、1000~600℃の温度範囲で1時間以上保持する第三
工程と、
を有することを特徴とする、ホウ素およびマンガンを含有するスラグの処理方法。
【請求項2】
前記処理対象スラグが、マンガンを5質量%以上含有している、請求項1に記載のホウ素およびマンガンを含有するスラグの処理方法。
【請求項3】
前記第一工程において、前記処理対象スラグを鉄板上に流し出して冷却する、請求項1または2に記載のホウ素およびマンガンを含有するスラグの処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスラグの処理方法により得られたスラグを材料として使用することを特徴とする、土木建築用資材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素およびマンガンを含有するスラグからのホウ素溶出を抑制しつつ、スラグの色目を改善するスラグの処理方法、ならびにこれを利用した土木建築用資材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業の発展にともない、各種産業において発生する産業副産物の量も増加の一途を辿っている。近年、地球環境保全の観点から、このような産業副産物の有効利用が行われている。例えば、製鉄所から発生する高炉スラグや製鋼スラグなどの鉄鋼スラグ、および廃棄物や下水汚泥の焼却灰等を高温で溶融し冷却・凝固した溶融スラグ等は、適正な粒度調整を施された後、路盤材や地盤改良材などの土木建築用資材として再利用されている。
【0003】
産業副産物を再利用する際には、これに含まれる有害物質の環境中への排出を抑制する必要がある。代表的な有害物質としては、カドミウム、水銀、クロムおよび鉛等の重金属類が例示できるが、これら重金属類以外に、例えば、フッ素、セレン、ヒ素およびホウ素等についても、環境に悪影響を与える成分として、環境への排出(溶出)が厳しく規制されている。
【0004】
このような環境に悪影響を及ぼす成分のうち、ホウ素の溶出を抑制する方法としては、例えば、ホウ素が含まれる焼却灰に、酸化マグネシウムを粉末状またはスラリー状で添加、混合する方法(特許文献1)、火力発電所等から排出される石炭灰を所定期間加湿養生する方法(特許文献2)およびホウ素を含有するスラグを、溶融した状態から1000℃まで、10℃/min以上の冷却速度で冷却して凝固させる方法(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-298741号公報
【特許文献2】特開2007-90155号公報
【特許文献3】特開2020-169957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された方法では、ホウ素の溶出抑制材として使用される酸化マグネシウムが高価であること、および溶出抑制材を添加した混合物(最終生成物)が硬化して比較的高強度の塊状体となるため、これを資材とするための粒度調整に手間がかかることが問題となる。また、特許文献2に記載された方法では、ホウ素の溶出を抑制するために長期間の加湿養生が必要であり、特に、溶出量が多い石炭灰については、所期の溶出量とするためにより長期間の加湿養生を必要とするため、生産性が低いことが問題となる。
【0007】
そこで、発明者らは、ホウ素含有物質からのホウ素溶出量の多寡には、ガラス相中のホウ素濃度およびガラス相中のホウ素の安定性が大きく影響するという知見に基づいて、ホウ素を含有するスラグを、溶融した状態から1000℃まで、10℃/min以上の冷却速度で冷却して凝固させることにより、凝固したスラグに含まれるホウ素の安定性が高まり、スラグからのホウ素の溶出を抑制できるホウ素溶出抑制方法の発明を提示した(特許文献3参照)。
【0008】
ところで、上記スラグ中に含まれるマンガンの濃度が高いと、その酸化物である酸化マンガン(II)(MnO)由来でスラグが緑色を呈する場合がある。
スラグが緑色を呈していると、路盤材をはじめとする土木建築資材用材料として利用するにあたり障害となる。一般的に、土木建築資材用材料には、灰色、黒色、茶色などの彩度の低いものが使用されており、鮮やかな色の材料が使われることはほとんどない。特に、鮮やかな緑色の材料は、施工者や関係者に視覚的な違和感を与え、通常の土木建築材用材料でないとの印象を持たれたり、有害物が含まれるとの懸念をいだかせたりする可能性があり、好ましくない。
【0009】
そこで、本発明は、前述の問題点を解決し、産業副産物を始めとするホウ素およびマンガンを含有するスラグからホウ素の溶出を低減すると同時に、上記の酸化マンガン(II)(MnO)由来の緑色の呈色を抑制するスラグの処理方法を提供することを目的とする。さらに、得られたスラグを土木建築資材用材料として用いる土木建築資材用材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、ホウ素含有スラグからホウ素の溶出を抑制するために、スラグを10℃/min以上で冷却する上述した方法をマンガン濃度の高いスラグに適用した場合、該スラグが低温になるまで高速で冷却されることで、スラグ中のマンガンの酸化が不十分となり、マンガンの酸化物として、マンガンに対する酸素の割合が小さい酸化マンガン(II)(MnO)が多く生成し、これにより緑色が強くなることを見出した。そして、1000℃まで高速で冷却したスラグを1000~600℃の温度範囲で1時間以上保持することにより、スラグ中のマンガンの酸化がより進行してその価数が3価以上で存在するマンガンの割合が増加し、スラグの色が緑色から褐色に変化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の要旨は下記のとおりである。
[1]ホウ素およびマンガンを含有するスラグの処理方法であって、溶融した状態にある処理対象スラグを、1000℃に到達するまでの冷却速度を10℃/min以上として冷却し、凝固させる第一工程と、前記凝固したスラグを、最大寸法150mm以下に破砕する第二工程と、前記破砕されたスラグを、1000~600℃の温度範囲で1時間以上保持する第三工程と、を有することを特徴とする、ホウ素およびマンガンを含有するスラグの処理方法。
[2]前記処理対象スラグが、マンガンを5質量%以上含有している、[1]に記載のホウ素およびマンガンを含有するスラグの処理方法。
[3]前記第一工程において、前記処理対象スラグを鉄板上に流し出して冷却する、[1]または[2]に記載のホウ素およびマンガンを含有するスラグの処理方法。
[4][1]乃至[3]のいずれか一項に記載のスラグの処理方法により得られたスラグを材料として使用することを特徴とする、土木建築用資材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ホウ素およびマンガンを含有するスラグからのホウ素の溶出を低減するとともに、路盤材として販売する際に障害となる酸化マンガン(II)(MnO)由来の緑色の色目を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態を詳細に説明するが、本発明は該各実施形態に限定されるものではない。また、以下に述べる作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限および上限として記載された数値をも含む意味である。
【0014】
本発明の一実施形態において、処理対象とするホウ素およびマンガンを含有するスラグは、ホウ素およびマンガンを含有するとともに、ホウ素の溶出が問題となる環境下に置かれ得るものであれば特に限定されない。ホウ素およびマンガンを含有するスラグの例としては、製鉄所から発生する高炉スラグや製鋼スラグなどの鉄鋼スラグ、廃棄物や下水汚泥の焼却灰等を高温で溶融し冷却・固化した溶融スラグ等の各種スラグが挙げられる。
【0015】
処理対象とするスラグは、マンガンを5質量%以上含有するものであることが好ましい。マンガンを5質量%以上含有するスラグは、従来の処理方法では酸化マンガン(II)(MnO)由来の緑色が目立つため、本発明に係る処理方法を適用することによって大きな緑色化抑制効果が得られる。
【0016】
[第一工程]
本発明の一実施形態は、ホウ素およびマンガンを含有する処理対象スラグを、溶融した状態から1000℃まで、10℃/min以上の冷却速度で冷却し、凝固させる第一工程を有する。
【0017】
溶融した状態の処理対象スラグは、溶融した状態で発生したものをそのまま用いてもよく、冷却されて固化した状態のものを再度加熱して溶融したものであってもよい。
【0018】
溶融した状態の処理対象スラグを、1000℃に到達するまで10℃/min以上の冷却速度で冷却し、凝固させることで、ホウ素の溶出を抑制することができる。これは、溶融状態にあるスラグを高い冷却速度で冷却して凝固させたスラグは、ホウ素がスラグ中のガラス相領域に濃化してホウ素の安定性が高まり、ホウ素が溶出しにくいとの上述した知見によるものである。処理後のスラグからのホウ素の溶出をより抑制する点からは、前記冷却速度は20℃/min以上とすることが好ましく、30℃/min以上とすることがより好ましい。
なお、ここでの冷却は、溶融状態にあるスラグを1000℃より低い温度まで冷却するものであってもよく、また10℃/min以上の冷却速度を1000℃より低い温度まで保持するものであってもよい。
【0019】
冷却速度が10℃/min以上であることは、スラグ中の冷却速度が最も遅くなる箇所における温度を熱電対等の測温手段により実測し、その経時変化から冷却速度を算出することで確認する。例えば、後述するように、溶融した状態のスラグを薄層状に流し出して冷却を行う場合には、温度の測定箇所は、薄層状に流し出されたスラグの厚み方向中央部とする。また、前述の方法により予め冷却速度が10℃/min以上となることが確認された冷却方法を採用することで、測温及び冷却速度の算出を省略してもよい。さらに、シミュレーションにより冷却速度が10℃/min以上となることが確認された冷却方法を採用してもよい。
【0020】
溶融した状態にあるスラグの冷却方法としては、1000℃までを10℃/min以上で冷却することができる方法であれば限定されないが、後述する第二工程での破砕作業が容易に行える方法を採用することが、生産性の点からは好ましい。例えば、溶融状態にあるスラグを薄層状に流し込む方法は、冷却水を使用することなく10℃/min以上の冷却速度が得られるとともに、凝固したスラグの破砕作業も容易に行うことができるため、好ましい。この場合の薄層の厚みは、高い冷却速度を得る点で、70mm以下とすることが好ましく、50mm以下とすることがより好ましい。他方、薄層の厚みは、冷却に要する面積を抑える点で、5mm以上とすることが好ましい。このような方法の具体例としては、溶融した状態にあるスラグを、鉄板上に流し出すことや、専用鋳型中に薄層状に流し込むことが挙げられる。溶融した状態にあるスラグを鉄板上に薄層状に流し出すことにより冷却する場合は、鉄板の厚みが大きい方が、冷却速度を大きくすることができる。鉄板の厚みは、冷却速度や取扱いの容易性を考慮すると、30~100mm程度が好ましいが、これに限定されない。
【0021】
[第二工程]
本発明の一実施形態は、第一工程で得られた凝固したスラグを、最大寸法150mm以下に破砕する第二工程を有する。
凝固したスラグを最大寸法150mm以下に破砕するとスラグの破砕面を十分に多く発生させることができ、このことにより、スラグの比表面積が増え、次の第三工程でのマンガンの酸化が進行しやすくなる。また、土木建築用材料には、通常、長さ40mm以下の破砕ないし篩い分けされたスラグが使用されるので、凝固したスラグを最大寸法150mm以下に破砕しておくと、最終的製品である土木建築用材料としての目的粒度に調整可能しやすくなる。前記最大寸法は、100mm以下とすることが好ましい。ここで、最大寸法とは、破砕されたスラグ片における最大長を意味する。
【0022】
第二工程での破砕は、第一工程後、凝固したスラグが600℃以上の温度にある状態で行うことが好ましい。凝固したスラグができるだけ高温状態にある間に破砕を行うことで、破砕後のスラグも高温の状態に維持することができ、後述する第三工程で投入する熱エネルギーが不要となるか、必要な場合でも少なく済ませることができる。
【0023】
破砕の方法としては、所期の最大寸法のスラグが得られるものであれば限定されず、冷却により凝固したスラグを高所から落下させる方法や、ハンマー等で叩く方法が例示される。上記のように、第一工程におけるスラグの冷却を、鉄板上に薄層状に流し出して行う場合には、凝固した薄層状スラグ上を重機で走行することで重機の重みにより破砕したり、鉄板を反転させて薄層状スラグをピットに落下させて破砕したりする方法を採用することで、破砕を容易に行うことができる。また、第一工程におけるスラグの冷却を、専用鋳型に薄層状に流し込んで行う場合には、冷却が完了した時点で鋳型を反転し、凝固したスラグを落下させることで、落下の衝撃により破砕する方法を採用してもよい。
【0024】
[第三工程]
本発明の一実施形態は、前記第二工程で破砕されたスラグを1000~600℃の温度範囲で1時間以上保持する第三工程を有する。
破砕されたスラグを1000~600℃の温度範囲で1時間以上保持することで、含有するホウ素の安定性を保持しつつ、マンガンの酸化を十分に進行させてMnOの量を低減し、これに由来する緑色の呈色を抑制することができる。
破砕されたスラグは、第一工程での高速冷却によりホウ素の安定性が高まり、ホウ素が溶出しにくくなっているが、1000℃を超える高温で保持すると、ホウ素の安定性が損なわれ、ホウ素の溶出量の増大を招く。したがって、ホウ素の溶出量を増加させないために、保持温度は1000℃以下でなければならない。すでに記載したように、ホウ素の溶出の多寡は、スラグ中に常温で存在するガラス相中のホウ素の安定性に依存する。具体的には、急冷して凝固したスラグでは、ガラス中のホウ素の安定性が高いためこれが溶出しにくく、反対に徐冷して凝固したスラグではホウ素が溶出し易くなる。そして、凝固したスラグを1000℃を超える高温で保持することは、実質的にスラグを徐冷する(低冷却速度)ことになるので、ホウ素の溶出を招く。
他方、MnOの酸化反応を進行させるため保持温度は600℃以上で、保持時間は1時間以上でなければならない。酸化反応は高温ほど速く進行するが、前述のとおり保持温度の上限は1000℃である。そこで、1000℃以下でマンガンの酸化を十分に進行させるため、保持時間を1時間以上確保する。ただし、保持温度が600℃より低いとマンガンの酸化がほとんど進まなくなるので、保持温度の下限は600℃とする。
【0025】
第三工程における保持時間は、破砕されたスラグが1000~600℃の温度範囲内にある時間を意味する。したがって、例えば、破砕直後に700℃であったスラグの温度が、1時間かけて600℃まで低下した場合、保持時間は1時間となる。
【0026】
第三工程では、1000~600℃の範囲内で出来るだけ高温に保持すると、短い保持時間でマンガンの酸化を十分に進行させることができる。他方、同温度範囲内の低温域で保持する場合には、より長時間の保持が必要であるが、この低温域でも、1時間以上保持すれば、マンガンの酸化を十分に進行させることができる。
【0027】
第三工程において、スラグを1000~600℃で1時間保持する方法は限定されず、破砕されたスラグを保温ピットなどに収納する方法等が採用できる。また、スラグの温度が600℃未満である場合には、これを加熱して保持してもよいが、省エネルギーの点からは、第一工程で冷却・凝固したスラグの温度が600℃以上にある間に、第二工程を経て第三工程を行うことが好ましい。
【0028】
[土木建築用資材の製造方法]
本発明の他の実施形態に係る土木建築資材の製造方法は、上述した3つの工程を有するスラグの処理方法により得られたスラグを材料として使用して、これを土木建築用資材とする土木建築用資材の製造方法である。
【0029】
本発明の一実施形態に係るスラグ処理方法で得られたスラグは、その粒度を、路盤材や地盤改良材等の土木建築資材の用途に応じて調整することが好ましい。粒度調整の具体例として、前記スラグを路盤材に用いる場合には、前記第三工程までを経て常温まで冷却されたスラグを、40mm以下となるように破砕ないし篩い分けすることが挙げられる。
【0030】
また、上記土木建築用資材は、環境庁告示第46号に定める溶出試験によるホウ素溶出量が1mg/L以下であることが好ましい。溶出するホウ素の量が少ないことから、本発明の一実施形態に係るスラグ処理方法は、土木建築用資材等として再利用可能なスラグの範囲を拡大できる点で有用である。前記ホウ素溶出量は、0.9mg/L以下であることが好ましく、0.8mg/L以下であることがより好ましい。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1~4]
ホウ素およびマンガンを含有するスラグとして、表1に示す組成を有する4種類のスラグ(A~D)を準備した。
【0033】
【表1】
これらのスラグは、金属製錬工程で常態的に発生するものである。なお、表1に示すスラグの組成は、普段の操業条件から得られたものである。
【0034】
実施例では、処理対象となる溶融状態のスラグを、厚さ30mmの鉄板上に種々の厚みで薄層状に流し出し、表2に示す冷却速度にて冷却して凝固させた。凝固したスラグを鉄板上で10分間冷却し、凝固した後、鉄板を反転して当該スラグを5m下のピットに落下させて、最大寸法150mm以下に破砕した。なお、破砕されたスラグの大部分は、その粒径が50~100mmの範囲内のものであった。破砕したスラグ5t程度を速やかに保熱ピットに運搬し、高さ0.5m程度になるよう重機で積み付け、ピット内の温度が表2に示す時間1000~600℃の範囲内に保たれるようにして実施例とした。
他方、比較例1、2では、種々の厚みで鉄板上に流し出して凝固させたスラグを、前記の実施例と同様にピットに落下させて最大寸法150mm以下に破砕したのち、保熱ピットに運搬せず、600℃以下まで1時間未満で到達するように処理した。また、比較例3では、前記の実施例と同様に鉄板上に流し出して凝固したスラグ(厚さ30mm)を、ピットに落下させずに取り出し、これを前記の実施例で用いた保熱ピット内に厚さ30mmの層として8層積み重ね、1000~600℃の範囲での保持時間として120分を確保した。なお、比較例3では、凝固したスラグを鉄板から取り出すときに、その一部が破損したが、これにより生成したスラグ片の最大寸法は、200mm以上であった。
【0035】
各実施例および比較例に係る処理を行ったスラグについて、環境庁告示46号試験によってホウ素の溶出量を評価した。その結果、いずれのスラグについても、ホウ素の溶出量が自主基準値以下となり、合格と判定された。
また、該各スラグについて、路盤材粒度までさらに破砕した際の外観を確認した。粒度調整したスラグを1t以上の山にして、その山から3m程度離れた位置から目視で観察し、外観を評価した。その結果、実施例1~4に係る処理を行ったスラグでは、破砕直後から表面が褐色を呈してしており、路盤材として好ましい外観を有すると判定された(判定結果:○)。他方、比較例1および比較例3に係る処理を行ったスラグでは、表面が強い緑色を呈しており、その外観は路盤材として好ましくないものと判定された(判定結果:×)。また、比較例2に係る処理を行ったスラグでは、表面が「褐色がかった緑色」を呈しており、その外観は路盤材としてやや好ましくないものと判定された(判定結果:△)。
各実施例および比較例について、処理条件ならびに処理後のスラグのホウ素溶出量および外観(色)の判定結果を、まとめて表2に示す。
【0036】
【0037】
表2から分かるように、比較例1および比較例2は、凝固したスラグが最大寸法150mm以下に破砕されているものの、1000~600℃での保持時間が短い。このため、マンガンの酸化が不十分となり、処理後のスラグにおけるMnOの含有割合が高くなることで、路盤材粒度である40mm以下に破砕した後のスラグ粒の破砕面が緑色を呈し、路盤材として好ましくない外観となっている。また、凝固したスラグに対して最大寸法が150mm以下となるように破砕を施さなかった比較例3では、スラグ片の表面からの距離が遠い部分が存在することで、当該部分まで酸素が拡散しにくくなる。このため、1000~600℃での保持時間を120分確保したにもかかわらず、マンガンの酸化が不十分となる部分が生じ、当該箇所でのMnOの含有割合が高くなることで、路盤材粒度に破砕した際に新たに発生した破砕面が緑色を呈し、やはり路盤材として好ましくない外観となっている。
他方、実施例1~3はいずれも、1000~600℃での保持により、スラグ片表面からの距離が遠い部分にまで酸素が拡散してマンガンが十分に酸化することで、路盤材粒度である40mm以下に破砕した後のスラグ粒の破砕面の色が褐色を呈し、路盤材として好ましい外観となっている。
本発明によれば、ホウ素およびマンガンを含有するスラグについて、ホウ素の溶出量を低減することができるとともに、酸化マンガン(II)(MnO)由来の色目を改善することにより、路盤材や地盤改良材などの土木建築用資材の材料として再利用することを困難にしていた障害を取り除くことができ、産業副産物の再利用を拡大することができる。