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特開2022-124462鋼板の板厚制御方法及び板厚制御装置
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  • 特開-鋼板の板厚制御方法及び板厚制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124462
(43)【公開日】2022-08-25
(54)【発明の名称】鋼板の板厚制御方法及び板厚制御装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/26 20060101AFI20220818BHJP
【FI】
B21B37/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005442
(22)【出願日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021021797
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 暁斗
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA07
4E124CC01
4E124CC02
4E124CC03
4E124CC05
4E124CC06
4E124EE15
(57)【要約】
【課題】圧延プロセスにおける走間板厚変更において、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の鋼板の形状を良好に保ちながら、圧延スタンドの出側における鋼板の板厚を精度よく目標板厚に制御可能な鋼板の板厚制御方法及び板厚制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る鋼板の板厚制御方法は、圧延プロセスにおける走間板厚変更時の鋼板の板厚を制御する鋼板の板厚制御方法であって、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の圧延スタンド間の荷重比を一定に保つように鋼板の目標板厚を算出する目標板厚算出ステップと、ゲージメータ式を用いて圧延スタンドの圧下位置及び圧延荷重から圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を算出する板厚算出ステップと、板厚算出ステップにおいて算出された板厚の実績値が目標板厚算出ステップにおいて算出された目標板厚に収束するように圧延スタンドの圧下装置をフィードバック制御する制御ステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延プロセスにおける走間板厚変更時の鋼板の板厚を制御する鋼板の板厚制御方法であって、
走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の圧延スタンド間の荷重比を一定に保つように鋼板の目標板厚を算出する目標板厚算出ステップと、
ゲージメータ式を用いて圧延スタンドの圧下位置及び圧延荷重から圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を算出する板厚算出ステップと、
前記板厚算出ステップにおいて算出された板厚の実績値が前記目標板厚算出ステップにおいて算出された目標板厚に収束するように圧延スタンドの圧下装置をフィードバック制御する制御ステップと、
を含むことを特徴とする鋼板の板厚制御方法。
【請求項2】
前記制御ステップは、ゲージメータAGCを用いて圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を前記目標板厚に制御するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼板の板厚制御方法。
【請求項3】
圧延プロセスにおける走間板厚変更時の鋼板の板厚を制御する鋼板の板厚制御装置であって、
走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の圧延スタンド間の荷重比を一定に保つように鋼板の目標板厚を算出する目標板厚算出部と、
ゲージメータ式を用いて圧延スタンドの圧下位置及び圧延荷重から圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を算出する板厚算出部と、
前記板厚算出部によって算出された板厚の実績値が前記目標板厚算出部によって算出された目標板厚に収束するように圧延スタンドの圧下装置をフィードバック制御する制御部と、
を備えることを特徴とする鋼板の板厚制御装置。
【請求項4】
ゲージメータAGC機能を備えることを特徴とする請求項3に記載の鋼板の板厚制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の板厚制御方法及び板厚制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延プロセスにおいては、材質、圧延前板厚、目標板厚等の条件が異なる複数の鋼板の端部同士を溶接して連続的に圧延することが行われるが、条件の異なる鋼板を連続的に圧延する場合、鋼板の板厚を目標板厚に合わせるために各圧延スタンドの圧延条件を変更する必要がある。また、主に熱間圧延工程において、一つの鋼板内の長手方向で目標板厚を変更して条件の異なる複数の鋼板を製造することや、一つの鋼板内の長手方向で目標板厚分布を変更することによって望みの機械的特性を有する鋼板を製造することがあるが、この場合も同様である。この変更は、生産性を確保する上では製造ラインを停止することなく鋼板を通板している間に行われる必要がある。そのため、各圧延スタンドのロール間を鋼板の溶接点が通過するときにその圧延スタンドにおけるワークロールの圧延条件等の板厚調整条件を変更する走間板厚変更が行われている。
【0003】
従来の走間板厚変更は、実際に鋼板を通板している際の圧延スタンドの圧下荷重に基づいて比例制御を行うBISRA-AGC(Automatic Gauge Control)の制御手法に基づいてロックオン板厚を連続的に変更することによって行われている(例えば特許文献1参照)。なお、BISRA-AGCとは、圧延中に生じる圧延スタンドのハウジング変形を圧延荷重から予測し、圧延スタンドの出側における鋼板の板厚(圧延スタンド出側板厚)を一定に制御する制御方法であり、以下に示す数式(1)を用いて圧下位置指令を修正する方法である。ここで、数式(1)中、ΔSrefは圧下位置指令、ΔSは圧下位置実績値、ΔPは圧延荷重変動量、αはAGCチューニング率、Mはミル定数を示す。
【0004】
【数1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-177908号公報
【特許文献2】特開2007-61850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の走間板厚変更方法では、AGCチューニング率αの値によっては鋼板の板厚を目標通りに制御できず、圧延スタンド出側板厚に定常誤差が生じることがある。また、前段の圧延スタンドにおける鋼板の板厚変更に伴う制御対象の圧延スタンドの入側における鋼板の板厚の大幅な変動が制御対象の圧延スタンドの圧延荷重及び圧下位置に影響を及ぼすことがある。圧延スタンドの圧延荷重及び圧下位置に影響が生じると、板厚制御が過大応答又は過小応答となって走間板厚変更量が目標値と一致しなくなるだけでなく、圧延速度やルーパの動きにムラが出て走間板厚変更動作の異常が発生しやすくなる。
【0007】
なお、このような問題を解決するために、特許文献2には、各圧延スタンドの入側板厚、入出側の鋼板速度を実測し、マスフロー演算による板厚推定で走間板厚変更の制御を行う方法が開示されている。この方法では出側板厚計到達の無駄時間無く板厚を推定できるため、オフゲージを減らすことができる。しかしながら、この方法では、板速度計のコストが掛かるデメリットや、測定精度の問題、特に熱間圧延の場合には測定環境による測定外乱が問題となり、走間板厚変更動作の異常が発生する可能性がある。また、特許文献1,2には、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の目標板厚変更方法についての明確な指針が開示、示唆されていない。このため、圧延スタンド間の荷重バランス(荷重比)が崩れることによって鋼板の形状が悪化する可能性がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、圧延プロセスにおける走間板厚変更において、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の鋼板の形状を良好に保ちながら、圧延スタンドの出側における鋼板の板厚を精度よく目標板厚に制御可能な鋼板の板厚制御方法及び板厚制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る鋼板の板厚制御方法は、圧延プロセスにおける走間板厚変更時の鋼板の板厚を制御する鋼板の板厚制御方法であって、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の圧延スタンド間の荷重比を一定に保つように鋼板の目標板厚を算出する目標板厚算出ステップと、ゲージメータ式を用いて圧延スタンドの圧下位置及び圧延荷重から圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を算出する板厚算出ステップと、板厚算出ステップにおいて算出された板厚の実績値が前記目標板厚算出ステップにおいて算出された目標板厚に収束するように圧延スタンドの圧下装置をフィードバック制御する制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る鋼板の板厚制御方法は、上記発明において、前記制御ステップは、ゲージメータAGCを用いて圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を前記目標板厚に制御するステップを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る鋼板の板厚制御装置は、圧延プロセスにおける走間板厚変更時の鋼板の板厚を制御する鋼板の板厚制御装置であって、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の圧延スタンド間の荷重比を一定に保つように鋼板の目標板厚を算出する目標板厚算出部と、ゲージメータ式を用いて圧延スタンドの圧下位置及び圧延荷重から圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を算出する板厚算出部と、前記板厚算出部によって算出された板厚の実績値が前記目標板厚算出部によって算出された目標板厚に収束するように圧延スタンドの圧下装置をフィードバック制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る鋼板の板厚制御装置は、上記発明において、ゲージメータAGC機能を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る鋼板の板厚制御方法及び板厚制御装置によれば、圧延プロセスにおける走間板厚変更において、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の鋼板の形状を良好に保ちながら、圧延スタンドの出側における鋼板の板厚を精度よく目標板厚に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態である鋼板の板厚制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明を適用しなかった場合の各圧延スタンドにおける圧延荷重及び出側板厚偏差の時間変化の一例を示す図である。
図3図3は、本発明を適用した場合の各圧延スタンドにおける圧延荷重及び出側板厚偏差の時間変化の一例を示す図である。
図4図4は、本発明を適用しなかった場合及び本発明を適用した場合におけるマスフロー誤差の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である鋼板の板厚制御装置の構成について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態である鋼板の板厚制御装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である鋼板の板厚制御装置1は、熱間圧延プロセスにおける走間板厚変更時の鋼板の板厚を制御する装置であり、板厚修正量算出部2、差分器3、差分器4、BISRA-AGC5、モニターAGC6、板厚制御部7、及び加算器8を備えている。
【0017】
板厚修正量算出部2は、走間板厚変更前後の圧延スタンド間の圧延荷重比を一定にするために走間板厚変更前後の各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量を算出する。板厚修正量算出部2は、算出された各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量を示す電気信号を差分器3に出力する。
【0018】
差分器3は、板厚修正量算出部2によって算出された各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量と加算器8から出力された各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量との差分値を算出する。そして、差分器3は、算出された各圧延スタンドにおける差分値を示す電気信号を差分器4に出力する。
【0019】
差分器4は、差分器3によって算出された各圧延スタンドにおける差分値と各圧延スタンドにおける圧延を開始するときの鋼板の板厚(ロックオン板厚)との加算値を算出し、算出された加算値と板厚算出部71によって算出された鋼板の板厚の実績値hGMとの差分値を圧延スタンド毎に算出する。そして、差分器4は、算出された各圧延スタンドにおける差分値を示す電気信号をBISRA-AGC5に出力する。
【0020】
BISRA-AGC5は、差分器4によって算出された各圧延スタンドにおける差分値を用いて各圧延スタンドの出側における鋼板の板厚を目標板厚に制御するために必要な圧下位置Sの修正指令を算出する。そして、BISRA-AGC5は、算出された各圧延スタンドにおける圧下位置Sの修正指令を示す電気信号を各圧延スタンドの圧下装置に出力する。
【0021】
モニターAGC6は、各圧延スタンドの出側に設置された板厚計によって測定された鋼板の板厚の実績値と目標板厚との偏差(板厚偏差)を小さくする各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量を算出する。そして、モニターAGC6は、算出された各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量を示す電気信号を加算器8に出力する。
【0022】
板厚制御部7は、各圧延スタンドの圧下位置S及び圧延荷重Pの実績値からゲージメータ式により各圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値hGMを算出する。そして、板厚制御部7は、鋼板の板厚の実績値hGMと目標板厚との偏差に対してPI制御を実施することにより各圧延スタンドの出側における板厚を目標板厚に制御する。
【0023】
具体的には、本実施形態では、板厚制御部7は、板厚算出部71及びゲージメータAGC(GM-AGC)72を備えている。
【0024】
板厚算出部71は、各圧延スタンドの圧下位置S及び圧延荷重Pの実績値を以下の数式(2)に示すゲージメータ式に代入することにより各圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値hGMを算出する。そして、板厚算出部71は、算出された各圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値hGMを示す電気信号を差分器4及びGM-AGC72に出力する。なお、数式(2)におけるMは圧延スタンドのバネ定数を示す。
【0025】
【数2】
【0026】
GM-AGC72は、圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を目標板厚に制御する。走間板厚変更中の各圧延スタンドの出側の目標板厚h0(i(=4~6)は圧延スタンド番号)は、板厚修正量算出部2が走間板厚変更前後の圧延スタンド間の荷重比を一定に保つように算出した鋼板の板厚変動量Δh及び圧延荷重変動量ΔPに基づいて決定する。以下、目標板厚h0の算出方法について詳しく説明する。
【0027】
各圧延スタンドの走間板厚変更後の目標圧延荷重P”は、鋼板の板厚変動量Δh及び圧延荷重平均値P’を用いて以下に示す数式(3)~(6)のように表すことができる。また、走間板厚変更前後の圧延スタンド間の荷重比が一定になる条件式は以下に示す数式(7)のように表すことができる。なお、数式(3)~(6)において、∂P/∂hは圧延スタンドの出側塑性定数、∂P/∂Hは圧延スタンドの入側塑性定数を示す。
【0028】
【数3】
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】
【0031】
【数6】
【0032】
【数7】
【0033】
数式(3)~(7)は以下の数式(8)に示す行列式で表現することができる。従って、まず、板厚修正量算出部2は、数式(8)に示す行列式を解くことにより、走間板厚変更前後の圧延スタンド間の荷重比が一定になる各圧延スタンドの走間板厚変更後の目標圧延荷重P”及び鋼板の板厚変動量Δhを算出する。また、板厚修正量算出部2は、以下に示す数式(9)を用いて圧延荷重変動量ΔPは算出する。
【0034】
【数8】
【0035】
【数9】
【0036】
次に、板厚修正量算出部2は、鋼板の板厚変動量Δh及び圧延荷重変動量ΔPを用いてバー内板厚修正量Δhrefiを算出する。ここで、バー内板厚修正量Δhrefiは、各圧延スタンドのBISRA-AGCに用いるAGCチューニング率αによって変化する板厚変動量を補正する制御量であり、以下に示す数式(10)のように表される。なお、数式(10)中のMはミル定数を示す。
【0037】
【数10】
【0038】
走間板厚変更実施時は、BISRA-AGCのロックオン板厚に以下の数式(11)に示すバー内板厚変更量出力ΔhAGCiを加えることにより走間板厚変更を行う。ここで、数式(11)中のratioは各圧延スタンドの走間板厚変更進捗率を示し、走間板厚変更開始時は0、走間板厚変更完了時は1となる。つまり、バー内板厚変更量出力ΔhAGCiは、走間板厚変更開始時は0であり、走間板厚変更完了時にバー内板厚修正量Δhrefiに達する出力である。そこで、板厚修正量算出部2は、以下に示す数式(11),(12)を用いて、各圧延スタンドの出側の目標板厚h0を算出する。なお、数式(12)中のh0iは走間板厚変更開始前の鋼板の定常部の目標板厚(プロセスコンピュータ設定値)を示す。
【0039】
【数11】
【0040】
【数12】
【0041】
GM-AGC72は、差分器72a及びPI制御部72bを備えている。
【0042】
差分器72aは、板厚算出部71によって算出された各圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値hGMと各圧延スタンドの出側における鋼板の目標板厚h0(=絶対板厚(ratio×Δh+h0i)との差分値(偏差)errを算出する。そして、差分器72aは、算出された差分値errを示す電気信号をPI制御部72bに出力する。
【0043】
PI制御部72bは、差分値errを小さくするようにPI制御により各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量ΔhGMAGCを算出し、算出された各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量ΔhGMAGCを示す電気信号を加算器8に出力する。
【0044】
加算器8は、モニターAGC6から出力された各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量と板厚制御部7から出力された各圧延スタンドにおける鋼板の板厚修正量とを加算し、算出された加算値を示す電気信号を差分器3に出力する。
【0045】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である鋼板の板厚制御装置1では、板厚修正量算出部2が、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の圧延スタンド間の荷重比を一定に保つように鋼板の目標板厚を算出し、板厚算出部71が、ゲージメータ式を用いて圧延スタンドの圧下位置S及び圧延荷重Pから圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値hGMを算出する。そして、GM-AGC72が、板厚算出部71によって算出された板厚の実績値hGMが目標板厚に収束するように圧延スタンドの圧下装置をフィードバック制御する。すなわち、本発明の一実施形態である鋼板の板厚制御装置1は、従来の走間板厚変更時のフィードフォワードによる板厚制御を実施した後にフィードバック制御により鋼板の板厚を制御する。そして、このような構成によれば、フィードフォワード板厚制御後に存在する板厚偏差を修正できるので、圧延プロセスにおける走間板厚変更において、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の鋼板の形状を良好に保ちながら、圧延スタンドの出側における鋼板の板厚を精度よく目標板厚に制御できる。また、とりわけ熱間圧延プロセスにおける走間板厚変更において圧延スタンドの出側における鋼板の板厚を精度よく目標板厚に制御できる。
【0046】
〔実施例〕
図2(a),(b)は、本発明を適用しなかった場合の各圧延スタンド(圧延スタンドF4~F7)における圧延荷重及び出側板厚偏差の時間変化の一例を示す図である。図3(a),(b)は、本発明を適用した場合の各圧延スタンド(F4~F7スタンド)における圧延荷重及び出側板厚偏差の時間変化の一例を示す図である。図2(a),(b)に示すように、本発明を適用しなかった場合、各圧延スタンドで走間板厚変更に必要な板厚修正量に到達することができず、結果として、板厚修正量が大きくなり、F7スタンドに負荷が集中して圧延荷重が大きくなっている。これに対して、図3(a),(b)に示すように、本発明を適用した場合には、F7スタンドの負荷が低減され、各圧延スタンドの荷重比を安定している。これにより、本発明によれば、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の鋼板の形状を良好に保ちながら、各圧延スタンドの出側における鋼板の板厚を精度よく目標板厚に制御し、各圧延スタンドの荷重バランスを安定させることができることが確認された。
【0047】
図4(a),(b)はそれぞれ、本発明を適用しなかった場合及び本発明を適用した場合におけるマスフロー誤差(該当スタンドと前スタンドのマスフローの差)の時間変化の一例を示す図である。なお、マスフロー誤差ΔSSRHは以下に示す数式(13)を用いて算出した。数式(13)において、hは圧延スタンドの出側板厚、Vは圧延スタンドのワークロール速度、fは圧延スタンドの先進率、iは圧延スタンド番号を示す。
【0048】
【数13】
【0049】
図4(a)に示すように、本発明を適用しなかった場合、各圧延スタンドの出側板厚偏差が目標値から乖離することにより、マスフロー誤差が大きくなっている。これに対して、図4(b)に示すように、本発明によれば、各圧延スタンドの出側板厚偏差が目標値に収束し、マスフロー誤差が小さくなっている。これにより、本発明によれば、走間板厚変更前後及び走間板厚変更中の鋼板の形状を良好に保ちながら、各圧延スタンドの出側における鋼板の板厚を精度よく目標板厚に制御し、マスフローを安定させることができることが確認された。
【0050】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば本実施形態では、BISRA-AGC、GM-AGC、及びモニターAGCを併用して圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を目標板厚に制御したが、BISRA-AGCのみ又はBISRA-AGC及びGM-AGCのみを用いて圧延スタンドの出側における鋼板の板厚の実績値を目標板厚に制御してもよい。このように、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1 鋼板の板厚制御装置
2 板厚修正量算出部
3,4,72a 差分器
5 BISRA-AGC
6 モニターAGC
7 板厚制御部
8 加算器
71 板厚算出部
72 GM-AGC
72b PI制御部
図1
図2
図3
図4