(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022124792
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】生体吸収性綿状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/06 20060101AFI20220819BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20220819BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/14 500
A61L31/14 400
D04H3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021022640
(22)【出願日】2021-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃
【テーマコード(参考)】
4C081
4L047
【Fターム(参考)】
4C081BA16
4C081BB01
4C081CA181
4C081CB041
4C081DA04
4C081DB01
4C081EA03
4C081EA12
4L047AA26
4L047AB03
4L047BA09
4L047CB07
4L047CC03
(57)【要約】
【課題】吸水性の高い生体吸収性綿状体を得ることができる生体吸収性綿状体の製造方法を提供する。
【解決手段】医療用に用いられる生体吸収性綿状体の製造方法であって、ポリグリコリドを溶融紡糸によって糸にする工程と、前記糸にウーリー加工を施す工程とを有する生体吸収性綿状体の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用に用いられる生体吸収性綿状体の製造方法であって、ポリグリコリドを溶融紡糸によって糸にする工程と、前記糸にウーリー加工を施す工程とを有することを特徴とする生体吸収性綿状体の製造方法。
【請求項2】
ウーリー加工における加熱温度が50℃以上200℃以下であることを特徴とする請求項1記載の生体吸収性綿状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性の高い生体吸収性綿状体を得ることができる生体吸収性綿状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野では、手術用具の材料として生体吸収性材料が用いられることがある。生体吸収性材料を用いることで、役割を果たした後は体内へ吸収され消滅することから、再度取り出しのための再手術を行う必要がなく、安全性を高めることができる。具体的には、体液漏れ、空気漏れを防止する基材として、例えば、特許文献1に開示されるような生体吸収性材料からなる不織布が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、医療の分野では綿が多様な用途で日常的に用いられている。例えば、外科手術においては、体液を吸収させる目的に綿が用いられている。このような外科手術で用いられる綿は、取り出し忘れのミスが起こり得るため、取り出し忘れてしまった際の安全性を確保するために、生体吸収性材料からなる綿への需要が高まっている。しかしながら、従来の生体吸収性材料を用いた医療用品は平面の不織布や固形状がほとんどであり、綿状とすることが難しいという問題があった。また、従来の生体吸収性材料からなる医療用品は吸水性が低いという問題もあり、吸水性の高い生体吸収性の綿状体を得ることはより困難であった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、吸水性の高い生体吸収性綿状体を得ることができる生体吸収性綿状体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、医療用に用いられる生体吸収性綿状体の製造方法であって、ポリグリコリドを溶融紡糸によって糸にする工程と、前記糸にウーリー加工を施す工程とを有する生体吸収性綿状体の製造方法である。
以下、本発明について詳説する。
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリグリコリドからなる糸にウーリー加工を施すことで、生体吸収性材料を綿状とできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の生体吸収性綿状体の製造方法は、まず、ポリグリコリドを溶融紡糸によって糸にする工程を行う。
ポリグリコリドを材料に用いることで、得られる綿状体に生体吸収性を付与することができる。また、ポリグリコリドは比較的分解速度が速いことから、より短期間で体内に吸収させることができる。更に、ポリグリコリドを用いることで、より綿に近い物性とすることができる。なおここで、綿状体とは、繊維が絡まりあって密度の低い軽量の塊の状態になっているものを指す。
【0009】
上記糸の太さは特に限定されないが、1.0μm以上30μm以下であることが好ましい。
上記糸の太さが上記範囲であることで、得られる綿状体の取り扱い性を向上させることができるとともに、物性をより綿に近づけることができる。上記糸の太さは5μm以上であることがより好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0010】
上記溶融紡糸の方法については特に限定されず従来公知の方法や条件を特に限定なく用いることができる。
【0011】
上記ポリグリコリドの重量平均分子量は特に限定されないが、30000以上200000以下であることが好ましい。
ポリグリコリドの重量平均分子量が30000以上であることで、得られる生体吸収性綿状体の強度をより高めることができ、200000以下であることで、分解速度をより高めることができる。上記ポリグリコリドの重量平均分子量は、50000以上であることがより好ましく、150000以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明の生体吸収性綿状体の製造方法は、次いで、上記糸にウーリー加工を施す工程を行う。
ウーリー加工とは、繊維に撚りをかけて加熱し、その後撚りを戻す加工のことを指す。ウーリー加工を施すと繊維が捲縮して嵩高くなるため、ポリグリコリドからなる糸にウーリー加工を施し、まとめることで、形状を綿状とすることができる。
【0013】
上記ウーリー加工における加熱温度は、50℃以上200℃以下であることが好ましい。
上記範囲の加熱温度とすることで、糸を充分に捲縮させることができ、得られる綿状体の物性をより綿に近づけることができる。上記加熱温度は70℃以上であることがより好ましく、150℃以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明の生体吸収性綿状体の製造方法によって得られる生体吸収性綿状体は、医療の分野に用いられる。本発明によって得られる生体吸収性綿状体は、吸水性に優れることから例えば、外科手術において患部周辺に詰めて体液を吸わせるような用途で大きな効果を発揮する。本発明によって得られる生体吸収性綿状体は生体吸収性であるため、たとえ体内へ残留してしまったとしても、最終的に体内へ吸収されて消滅するため安全性が高い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸水性の高い生体吸収性綿状体を得ることができる生体吸収性綿状体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1、比較例1の生体吸収性綿状体と、参考例1のポリエステル綿と、参考例2のオーガニックコットンとを比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの態様にのみ限定されるものではない。
【0018】
(実施例1)
溶融紡糸法により、重量平均分子量200000のポリグリコリドからなる糸を得た。次いで、得られたポリグリコリドにフリクション式試験機を用いて、撚り数2000T/m、セット温度140℃の条件でウーリー加工を行い、一定間隔で切断後まとめることで生体吸収性綿状体を得た。
【0019】
(比較例1)
ウーリー加工を行わなかった以外は実施例1と同様の方法で生体吸収性綿状体を得た。
【0020】
(参考例1)
ポリエステル綿(ポリエステルコットン100%、清原株式会社製 手芸わた(SW-300))をそのまま用いた。
【0021】
(参考例2)
綿(オーガニックコットン100%)をそのまま用いた。
【0022】
<物性>
実施例で得られた生体吸収性綿状体及び参考例の綿について以下の測定を行った。結果を表1に示した。
【0023】
(比容積の測定)
JIS L 1097に準拠した方法で生体吸収性綿状体及び綿の比容積、圧縮率及び回復率を測定した。結果を表1に示した。
具体的には、まず、得られた生体吸収性綿状体又は綿を20×20cmのサンプルとし、質量が約40gとなるまで積み重ねて試験片を得た。次いで、得られた試験片を1時間放置し、秤量した。次いで、試験片に14gの厚板を載せ、更に63gの重りAを30秒間載せ、その後重りAを取り除いて30秒間放置した。この操作を3回繰り返し、3回目終了後の試験片の4すみの高さを測定して平均値を求めた。得られた4すみの高さの平均値を基に下記式から比容積を算出した。なお、試験は3個の試験片について行い、3個の測定値の平均で表した。
比容積(cm3/g)=(5×5×(h0/10))/W
h0:重りA除去後の試験片の4すみの高さの平均値(mm)
W:試験片の質量(g)
【0024】
(圧縮率、回復率の測定)
上記比容積の測定と同様の方法で試験片の4すみの高さを測定した後、126gの重りBを30秒載せ、試験片の4すみの高さを測定した。次いで、重りBを取り除いて3分後の試験片の4すみの高さを測定した。測定した4すみの高さをそれぞれ平均し、得られた3つの平均値を用いて下記式より圧縮率及び回復率を算出した。なお、試験は3個の試験片について行い、3個の測定値の平均で表した。
圧縮率(%)=(h0-h1)/h0*100
回復率(%)=(h2-h1)/(h0-h1)*100
h1:重りBを載せたときの試験片の4すみの高さの平均値(mm)
h2:重りB除去後の試験片の4すみの高さの平均値(mm)
【0025】
(保水率の測定)
JIS L 1912-1997に準拠した方法で生体吸収性綿状体及び綿の保水率を測定し、吸水性を評価した。
具体的には、まず、標準状態のサンプルの初期重量を測定し、水を入れた容器に180秒間水面下に入れた。その後、水中からサンプルを取り出し、120秒間垂直に吊るし、試験後重量を測定した。得られた重量を基に、下記式より保水率を算出した。結果を表1に示した。なお、参考例2については脱脂されていなかったため、測定を行わなかった。
WA=(MN-MK)/MK×100
WA:保水率(%)
MK:初期重量(g)(5回平均値)
MN:試験後重量(g)(5回平均値)
【0026】
【0027】
表1より実施例の生体吸収性綿状体が綿と似た性能を有しており、綿の代わりとして用いることができることが分かる。また、実施例1、比較例1の生体吸収性綿状体と、参考例1のポリエステル綿と、参考例2のオーガニックコットンとを比較した写真を
図1に示した。
図1を見ればわかるように、実施例1の方が比較例1よりも繊維の絡み合いが緻密でより綿に近いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、吸水性の高い生体吸収性綿状体を得ることができる生体吸収性綿状体の製造方法を提供することができる。