IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三洋化成工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125014
(43)【公開日】2022-08-26
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤、繊維、不織布
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/292 20060101AFI20220819BHJP
   D06M 13/325 20060101ALI20220819BHJP
   D04H 1/00 20060101ALI20220819BHJP
【FI】
D06M13/292
D06M13/325
D04H1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018603
(22)【出願日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2021022544
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】千坂 博行
(72)【発明者】
【氏名】関藤 正剛
【テーマコード(参考)】
4L033
4L047
【Fターム(参考)】
4L033AA04
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA39
4L033BA46
4L033BA50
4L033BA53
4L047AB02
(57)【要約】
【課題】摩擦力の発生の抑制とアセトアルデヒドの発生の抑制とを両立した合成繊維用処理剤を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるアルキルホスフェート塩(A)および第1級アミン化合物(B)を含有する合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の重量に基づく、前記アルキルホスフェート塩(A)の含有量が80~99.9重量%、前記第1級アミン化合物(B)の含有量が0.1~20重量%である。当該合成繊維用処理剤において、第1級アミン化合物(B)は炭素数が12~18のアルキルアミン、炭素数が12~18のアルカノールアミン、炭素数が6~12の芳香族アミン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルキルホスフェート塩(A)および第1級アミン化合物(B)を含有する合成繊維用処理剤であって、
前記合成繊維用処理剤の重量に基づく、前記アルキルホスフェート塩(A)の含有量が80~99.9重量%であり、前記第1級アミン化合物(B)の含有量が0.1~20重量%である合成繊維用処理剤。
【化1】

[一般式(1)中、Rは炭素数8~18のアルキル基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、mは0~15の整数であり、rは1又は2であり、rが1の場合Mはアルカリ金属原子であり、rが2の場合2つのMのうち1つはアルカリ金属原子であり、もう1つのMが水素原子またはアルカリ金属原子である。]
【請求項2】
前記第1級アミン化合物(B)は、炭素数が12~18のアルキルアミン、炭素数が12~18のアルカノールアミン、炭素数が6~12の芳香族アミン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の合成繊維用処理剤が疎水性繊維に付着した繊維であって、
前記疎水性繊維の重量に基づく、前記合成繊維用処理剤の不揮発性成分の重量割合が、0.1~2重量%である繊維。
【請求項4】
請求項3に記載の繊維を用いた不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成繊維用処理剤、繊維及び不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装材等の材料として、例えば短繊維等の繊維を用いて製造した不織布を用いることがある。当該不織布は、短繊維等の繊維を開繊機やカード機に通過させる工程を行って製造されるのが一般的であり、前記繊維としては、ポリエステルやポリプロピレンなどの合成繊維を材料とするものが用いられることが多い。そのため、前記繊維を未処理(処理剤等を付着させない状態)で、開繊機やカード機に通過させると、繊維と繊維との間、および/または、繊維とローラー(開繊機やカード機が備えるローラー)との間に大きな摩擦力が発生し、これにより静電気が発生して、カード機に巻き付く等の問題が生じることがあった。
このような問題を考慮し、従来から、ポリエステルやポリプロピレン等を材料とする繊維には、繊維用処理剤を付着させることが行われている。このような繊維用処理剤としては、例えばアルキルリン酸エステル金属塩を含む処理剤等が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5796922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維用処理剤としてアルキルリン酸エステル金属塩を含む処理剤を用いることにより、短繊維を開繊機やカード機を通過させる工程における摩擦力の発生を抑制し、工程通過性を高めることができる。しかしながら、アルキルリン酸エステル金属塩を含む処理剤により処理した繊維を車両用の内装材として用いた場合、車両内の温度が高温(例えば50℃以上)になると、アセトアルデヒドなどの揮発性有機化合物が発生することがあった。アセトアルデヒドは悪臭の原因となるため、アセトアルデヒド発生の抑制が求められている。
アセトアルデヒド発生を抑制する方法としてはアルキルリン酸エステル金属塩の含有量を少なくすることが考えられるが、アルキルリン酸エステル金属塩の含有量を少なくすると、摩擦力発生を抑制する効果が不十分になるという問題があった。つまり、従来の処理剤では、摩擦力発生の抑制とアセトアルデヒドの発生の抑制との両立が難しく、改善が求められていた。
本発明の課題は、摩擦力の発生の抑制とアセトアルデヒドの発生の抑制とを両立できる合成繊維用処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち本発明は、下記一般式(1)で表されるアルキルホスフェート塩(A)および第1級アミン化合物(B)を含有する合成繊維用処理剤であって、前記合成繊維用処理剤の重量に基づく、前記アルキルホスフェート塩(A)の含有量が80~99.9重量%であり、前記第1級アミン化合物(B)の含有量が0.1~20重量%である合成繊維用処理剤;前記合成繊維用処理剤が疎水性繊維に付着した繊維であって、前記疎水性繊維の重量に基づく、前記合成繊維用処理剤の不揮発性成分の重量割合が、0.1~2重量%である繊維;ならびに、前記繊維を用いた不織布である。
【0006】
【化1】
【0007】
[一般式(1)中、Rは炭素数8~18のアルキル基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、mは0~15の整数であり、rは1又は2であり、rが1の場合Mはアルカリ金属原子であり、rが2の場合、2つのMのうち1つはアルカリ金属原子であり、もう1つのMが水素原子またはアルカリ金属原子である。]
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、摩擦力の発生の抑制とアセトアルデヒドの発生の抑制とを両立した合成繊維用処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[合成繊維用処理剤]
本発明の合成繊維用処理剤は、下記一般式(1)で表されるアルキルホスフェート塩(A)および第1級アミン化合物(B)を含有する。
本明細書において、「一般式(1)で表されるアルキルホスフェート塩(A)」を「アルキルホスフェート塩(A)」または「(A)成分」とよぶことがある。本明細書において、「第1級アミン化合物(B)」を「(B)成分」と呼ぶことがある。
【0010】
【化2】
【0011】
一般式(1)中、Rは炭素数8~18のアルキル基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、mは0~15の整数であり、rは1又は2であり、rが1の場合Mはアルカリ金属原子であり、rが2の場合、2つのMのうち1つはアルカリ金属原子であり、もう1つのMが水素原子またはアルカリ金属原子である。
【0012】
一般式(1)におけるRは、好ましくは炭素数が8~16のアルキル基である。アルキル基の炭素数は分布があっても良い。また、アルキル基は直鎖アルキル基であっても分岐を有するアルキル基であってもよい。
【0013】
一般式(1)におけるAOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、具体的にはエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、およびブチレンオキシ基が挙げられる。これらのうち好ましいものはエチレンオキシ基である。
【0014】
一般式(1)におけるMは、rが1の場合(Mが1つの場合)アルカリ金属原子であり、rが2の場合(Mが2つの場合)、2つのMのうち1つはアルカリ金属原子であり、もう1つのMが水素原子またはアルカリ金属原子である。アルカリ金属原子としてはナトリウム原子、カリウム原子及びリチウム原子等が挙げられる。これらのうち、Mとしてはカリウム原子およびナトリウム原子が好ましい。
一般式(1)におけるmはアルキレンオキサイドの付加モル数を意味し、好ましくはmが0~15の整数であり、より好ましくはmが0~8であり、特に好ましくはmが0~5である。
一般式(1)におけるrはアルキルホスフェート塩(A)が有するMの数を表し、1又は2の整数である。アルキルホスフェート塩(A)は、rが1であるアルキルホスフェート塩とrが2であるアルキルホスフェート塩との混合物であってもよい。
【0015】
アルキルホスフェート塩(A)としては、具体的には、オクチルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、2-エチルヘキシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、デシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルナトリウム塩、イソデシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、ドデシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、トリデシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルナトリウム塩、イソトリデシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルナトリウム塩、テトラデシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、ヘキサデシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルナトリウム塩、オクタデシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、イソオクタデシルアルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、ヤシ油アルコールのリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、オクチルアルコールのエチレンオキサイド(以下、EOと略記する)2モル付加物リン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、オクチルアルコールのプロピレンオキサイド(以下、POと略記する)2モル付加物リン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、ドデシルアルコールのEO3モル付加物のリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、トリデシルアルコールのEO5モル付加物のリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、イソトリデシルアルコールのEO3モル付加物のリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、オクタデシルアルコール(ステアリルアルコール)のEO5モル付加物のリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム、イソオクタデシルアルコール(イソステアリルアルコール)のEO5モル付加物のリン酸(モノまたはジ)エステルナトリウム塩、イソオクタデシルアルコールのEO5モル付加物のリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩、ヤシ油アルコールEO3モル付加物のリン酸(モノまたはジ)エステルカリウム塩等が挙げられる。
これらのうち、摩擦力の発生を抑制する観点から、2エチルヘキシルアルコールのリン酸モノエステルカリウム塩、デシルアルコールのリン酸モノエステルナトリウム塩、イソデシルアルコールのリン酸モノエステルカリウム塩、ヤシ油アルコールのリン酸モノエステルカリウム塩、オクチルアルコールのEO2モル付加物リン酸モノエステルカリウム塩、ドデシルアルコールのEO3モル付加物のリン酸モノエステルナトリウム塩、ヤシ油アルコールEO3モル付加物のリン酸モノエステルカリウム塩、およびイソステアリルアルコールのEO5モル付加物のリン酸モノエステルナトリウム塩が好ましく、2エチルヘキシルアルコールのリン酸モノエステルカリウム塩、ヤシ油アルコールのリン酸モノエステルカリウム塩、ヤシ油アルコールEO3モル付加物のリン酸モノエステルカリウム塩、およびイソステアリルアルコールのEO5モル付加物のリン酸モノエステルナトリウム塩がより好ましい。
【0016】
本発明の合成繊維用処理剤において、合成繊維用処理剤の重量に基づく、アルキルホスフェート塩(A)の含有量は80~99.9重量%である。アルキルホスフェート塩(A)の含有量が80~99.9重量%であることにより、摩擦力の発生の抑制とアセトアルデヒドの発生の抑制とを両立しうる。前記アルキルホスフェート塩(A)の含有量が80重量%未満であると、繊維と繊維との間の摩擦力および繊維とローラーとの間の摩擦力が大きくなり、前記アルキルホスフェート(A)の含有量が99.9重量%を超えるとアセトアルデヒドの発生量が多くなる。
前記アルキルホスフェート塩(A)の含有量は、摩擦力の発生の抑制とアセトアルデヒドの発生の抑制との両立の観点から、好ましくは85~99重量%、より好ましくは90~95重量%である。
【0017】
本発明の合成繊維用処理剤は、第1級アミン化合物(B)を含む。第1級アミン化合物(B)は1級アミノ基を有する化合物である。
第1級アミン化合物(B)としては、具体的には、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン(ラウリルアミン)、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミンおよびオクタデシルアミン(ステアリルアミン)等の炭素数が8~18のアルキルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の炭素数が2~10のポリアルキルポリアミン、ドデカノールアミン、トリデカノールアミン、及びオクタデカノールアミンなどの炭素数が12~18のアルカノールアミン、アニリン、オルトトルイジン、2,4,6-トリメチルアニリン、およびナフチルアミン等の炭素数が6以上の芳香族アミン、リシン、アルギニンおよびヒスチジン等のアミノ酸等が挙げられる。
第1級アミン化合物(B)としては、炭素数が12~18のアルキルアミン、炭素数が12~18のアルカノールアミン、炭素数が2~10のポリアルキルポリアミン、炭素数が6~12の芳香族アミン及びアミノ酸からなる群より選ばれる一種以上が好ましく、ラウリルアミン、ステアリルアミン、アニリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンおよびリシンからなる群より選ばれる一種以上がより好ましく、リシンがさらに好ましい。
【0018】
本発明の合成繊維用処理剤において、合成繊維用処理剤の重量に基づく第1級アミン化合物(B)の含有量は0.1~20重量%である。前記第1級アミン化合物(B)の含有量が0.1~20重量%であることにより、摩擦力の発生の抑制とアセトアルデヒドの発生の抑制とを両立しうる。前記第1級アミン化合物(B)の含有量が0.1重量%未満であると、アセトアルデヒドの発生量が多くなり、前記第1級アミン化合物(B)の含有量が20重量%を超えると繊維と繊維との間の摩擦力および繊維とローラーとの間の摩擦力が大きくなる。
前記第1級アミン化合物(B)の含有量は、摩擦力の発生の抑制とアセトアルデヒドの発生の抑制との両立の観点から、好ましくは0.5~18重量%、より好ましくは1~15重量%である。
【0019】
本発明の合成繊維用処理剤は、(A)成分および(B)成分以外の他の成分(C)を含んでいてもよい。他の成分(C)としては、(A)成分以外の界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤及び外観調整剤等が挙げられる。
他の成分(C)の合計含有量は、合成繊維用処理剤の重量に基づいて、好ましくは10重量%以下である。
【0020】
本発明の合成繊維用処理剤の製造方法については特に制限がなく、種々の方法を用いることができる。例えば、(A)成分(B)成分、及び必要により他の成分(C)を、常温(例えば25℃)又は必要により加熱(例えば30~90℃)して均一に混合することにより得ることができる。各成分の配合順序、配合方法は特に限定されない。
【0021】
本発明の合成繊維用処理剤は、繊維とローラー(開繊機やカード機が備えるローラーおよび延伸ローラー等)との間に発生する摩擦力を小さくすることができるので、産業資材に用いられる合成繊維用処理剤として好適に用いることができる。
【0022】
本発明の合成繊維用処理剤は、水系エマルションの形態として、疎水性繊維に付与してもよい。
水系エマルションは、合成繊維用処理剤に20~40℃の水を投入して希釈するか、20~40℃の水の中に合成繊維用処理剤を加えて乳化し、作製するのが好ましい。
【0023】
水系エマルションの濃度は、任意の濃度の選択が可能であるが、合成繊維用処理剤中の不揮発性成分の重量割合が、水系エマルションの重量に基づいて、好ましくは0.05~20重量%であり、更に好ましくは0.1~10重量%である。本発明において「不揮発性成分」とは、試料1gをガラス製シャーレ中で蓋をせず、試料1gをガラス製シャーレ中で蓋をせず、105℃60分間循風乾燥機で加熱乾燥した後の残渣である。
【0024】
[繊維]
本発明の繊維は、本発明の合成繊維用処理剤が疎水性繊維に付着した繊維である。本発明の合成繊維用処理剤を疎水性繊維に付着させることで、疎水性繊維とローラーとの摩擦力および繊維と繊維との摩擦力を小さくし、アセトアルデヒド発生量を少なくすることができる。
【0025】
疎水性繊維に合成繊維用処理剤を付着させる方法には特に制限はなく、紡糸、延伸などの任意の工程で、ディップ給油法、オイリングロール法、浸漬法、及び噴霧法などの一般的に用いられる方法を利用することができる。
【0026】
合成繊維用処理剤の付着量は、疎水性繊維の重量に基づいて、合成繊維用処理剤中の不揮発性成分の重量割合が0.1~2重量%となる量であることが好ましく、0.2~1.5重量%となる量であることが更に好ましく、0.25~1重量%となる量が特に好ましい。
【0027】
本発明の繊維の素材に用いられる疎水性繊維とは、温度25℃、相対湿度65%で吸水率が1重量%以下である繊維を意味する。
疎水性繊維としては特に限定されず、一般的に用いられる疎水性の合成繊維を用いることができ、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等からなる繊維が挙げられる。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、及びエチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体等が挙げられる。
【0028】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、及びポリエーテルポリエステル等が挙げられる。
ポリアミドとしては、6,6-ナイロン、及び6-ナイロン等が挙げられる。
【0029】
本発明の合成繊維用処理剤が付着した繊維を用いた繊維形態は、布状の形状のものが好ましく、織物、編物、及び不織布等が挙げられる。また、混綿、混紡、混繊、交編、及び交織などの方法で混合した繊維を布状として使用してもよい。これらの中では、特に不織布が好ましい。
【0030】
[不織布]
本発明の合成繊維用処理剤が付着した繊維は、不織布として適用しうる。本発明の不織布は、本発明の繊維を用いたものである。
本発明の合成繊維用処理剤が付着した繊維を不織布に適用する場合、本発明の合成繊維用処理剤で処理した短繊維を、乾式又は湿式法で繊維積層体とした後、加熱ロールで圧着したり、空気加熱で融着したり、高圧水流で繊維を交絡させ不織布としてもよいし、スパンボンド法、メルトブローン法、及びフラッシュ紡糸法等によって得られた不織布に、本発明の合成繊維用処理剤を付着させてもよい。
【0031】
本発明の繊維及び不織布の用途としては、産業資材の用途が好ましく、さらに好ましく
は車両の内装材、例えば、カーマット、カーシート、天井材、エアバッグ、シートベルト及びタイヤコード等である。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において部は重量部を表す。
【0033】
<製造例1:ヤシ油アルコールリン酸モノエステルカリウム塩(A-2)の製造>
攪拌機、温度計を備えた反応容器に、ヤシ油アルコール330重量部及び無水リン酸101重量部を仕込み、60℃で反応させた後、水酸化カリウム94重量部を投入し、ヤシ油アルコールのリン酸エステルカリウム塩を得た。得られたヤシ油アルコールリン酸モノエステルカリウム塩に水を加えて、ヤシ油アルコールリン酸モノエステルカリウム塩(A-2)を50重量%含有する溶液を得た。ヤシ油アルコールリン酸モノエステルカリウム塩は一般式(1)において、Rが炭素数8~18のアルキル基、mが0、rが1、Mがカリウム原子の化合物である。
【0034】
<製造例2:2-エチルヘキシルアルコールリン酸モノエステルカリウム塩(A-1)の製造>
製造例1において、ヤシ油アルコール330重量部に代えて、2-エチルヘキシルアルコールを231重量部用いたこと以外は製造例1と同様にして、2-エチルへキシルアルコールのリン酸エステルカリウム塩を得た。得られた2-エチルへキシルアルコールのリン酸エステルカリウム塩に水を加えて、2-エチルへキシルアルコールのリン酸エステルカリウム塩(A-1)を73重量%含有する溶液を得た。2-エチルヘキシルアルコールリン酸モノエステルカリウム塩は一般式(1)において、Rが2-エチルヘキシル基、mが0、rが1、Mがカリウム原子の化合物である。
【0035】
<製造例3:ヤシ油アルコールEO3モル付加物のリン酸モノエステルカリウム塩(A-3)の製造>
製造例1において、ヤシ油アルコール330重量部に代えて、ヤシ油アルコールEO3モル付加物を541重量部用いたこと以外は製造例1と同様にして、ヤシ油アルコールEO3モル付加物のリン酸エステルカリウム塩を得た。得られたヤシ油アルコールEO3モル付加物のリン酸エステルカリウム塩に水を加えて、ヤシ油アルコールEO3モル付加物のリン酸エステルカリウム塩(A-3)を70重量%含有する溶液を得た。
ヤシ油アルコールEO3モル付加物のリン酸モノエステルカリウム塩は一般式(1)において、Rが炭素数8、10、12、14、16、18のアルキル基、AOがエチレンオキシ基、mが3、rが1、Mがカリウム原子の化合物である。
【0036】
<製造例4:イソステアリルアルコールEO5モル付加物のリン酸モノエステルナトリウム塩(A-4)の製造>
製造例1において、ヤシ油アルコール330重量部に代えて、イソステアリルアルコールEO5モル付加物を868重量部用いたこと以外は製造例1と同様にして、イソステアリルアルコールEO5モル付加物のリン酸エステルカリウム塩を得た。得られたイソステアリルアルコールEO5モル付加物のリン酸エステルカリウム塩に水を加えて、イソステアリルアルコールEO5モル付加物のリン酸エステルナトリウム塩(A-4)を92重量%含有する溶液を得た。
イソステアリルアルコールEO5モル付加物のリン酸モノエステルナトリウム塩は一般式(1)において、Rがイソステアリル基、AOがエチレンオキシ基、mが5、rが1、Mがナトリウム原子の化合物である。
【0037】
<実施例1~11及び比較例5~6>
表1に記載した(A)成分および(B)成分を、各成分(不揮発性成分)の量が表1に記載の量となるように配合した混合物を(40℃で30分間)撹拌することにより、実施例1~11および比較例5~6の合成繊維用処理剤を得た。
【0038】
<比較例1~4>
表1に記載した(A)成分のみを用いた合成繊維用処理剤を比較例1~4の処理剤とした。
【0039】
尚、実施例1~11及び比較例1~6で用いる各成分に対応する原料は、以下の通りである。表1に記載の各成分の配合量(重量部)は、不揮発性成分の量である。
(A-1):製造例2で得た2-エチルヘキシルアルコールリン酸モノエステルカリウム塩を73重量%含有する溶液
(A-2):製造例1で得たヤシ油アルコールリン酸モノエステルカリウム塩を50重量%含有する溶液
(A-3):製造例3で得たヤシ油アルコールEO3モル付加物のリン酸モノエステルカリウム塩を70重量%含有する溶液
(A-4):製造例4で得たイソステアリルアルコールEO5モル付加物のリン酸モノエステルナトリウム塩を92重量%含有する溶液
(B-1):リシン[品名:L-(+)-Lysine、東京化成工業(株)製]
(B-2):ラウリルアミン[品名:ファーミン 20D、花王(株)製]
(B-3):ステアリルアミン[品名:ファーミン 80、花王(株)製]
(B-4):アニリン[品名:Aniline、 東京化成工業(株)製]
(B-5): エチレンジアミン[品名:Ethylenediamine Anhydrous、東京化成工業(株)製]
(B-6):ジエチレントリアミン[品名:Diethylenetriamine、東京化成工業(株)製]
【0040】
<評価試験1:繊維-金属間の摩擦力および繊維-繊維間の摩擦力の測定>
(1)エマルションの調製
実施例1~11および比較例5~6の合成繊維用処理剤を、不揮発性成分の濃度が1.5重量%となるように、水に加えて乳化し、合成繊維用処理剤を含むエマルションを調製した。
(2)試料糸の作製
(1)で調製した各例のエマルションに、ポリエステル製の原糸(1000デニール/72フィラメント)を浸して、5分間静置した後、遠心脱水機にて処理前の原糸の重量の1.2倍となるように絞り、60℃の乾燥機にて乾燥させることで水を除去し、合成繊維用処理剤を付着させた試料糸[試料糸の重量に対して合成繊維用処理剤(不揮発性成分)の重量割合は0.3%]を作製した。
(3)繊維-金属間の摩擦力の測定
(2)で作製した試料糸を、温度25℃、湿度40%の条件下で、TORAY式摩擦試験機を用いて表面温度が25℃の摩擦体の表面(表面梨地クロムメッキ、直径5cmの円柱状の摩擦体)に初期荷重0.98N(100gf)、糸速度0.5m/分、接触角180°で接触させた後の荷重を測定し、試料糸と摩擦体との摩擦力とした。結果を表1に示す。
摩擦力の値が低いほど、繊維用処理剤により処理した繊維とローラーとの間の摩擦力が低いことを示す。上記の測定条件において摩擦力は1.76N(180gf)以下が好ましい。
【0041】
(4)繊維-繊維間の摩擦力の測定
(2)で作製した試料糸を、温度25℃、湿度40%の条件下、TORAY式摩擦試験機を用いて初期荷重0.98N(100gf)、糸速度0.5m/分、ツイスト数3回における繊維-繊維間の摩擦力を測定した。結果を表1に示す。
摩擦力の値が高いほど、繊維同士の摩擦力が低いことを示す。上記の測定条件において摩擦力は2.65N(270gf)以下が好ましい。
【0042】
<評価試験2:アセトアルデヒド発生量の測定>
実施例1~11および比較例1~6の合成繊維処理剤4gを、それぞれ、サンプルチューブ゛に入れて60℃に昇温して2時間加熱した後、アセトアルデヒド発生量を測定した。加熱処理はHS-20(島津製作所製)で行い、アセトアルデヒド発生量の測定はNexis GC-2030(島津製作所製)を用いて行った。アセトアルデヒド発生量はGC測定で得られるチャートの面積値を測定値とした。結果を表1に示す。
アセトアルデヒド発生量は250以下が好ましく、150以下がより好ましい。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、一般式(1)で表されるアルキルホスフェート塩(A)および第1級アミン化合物(B)を含有する合成繊維用処理剤を用いることにより、摩擦力の発生を抑制し、かつアセトアルデヒドの発生を抑制できる。つまり、本発明によれば、摩擦力の発生の抑制とアセトアルデヒドの発生の抑制とを両立可能な合成繊維用処理剤を提供することができる。