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特開2022-12525アルミニウム電解コンデンサ用セパレータ及びアルミニウム電解コンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012525
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】アルミニウム電解コンデンサ用セパレータ及びアルミニウム電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/02 20060101AFI20220107BHJP
【FI】
H01G9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020114400
(22)【出願日】2020-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】390032230
【氏名又は名称】ニッポン高度紙工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏典
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】井河 篤
(57)【要約】
【課題】天然セルロース繊維と叩解された再生セルロース繊維とからなり、かつ、引裂強さ、耐ショート性能及びインピーダンス特性に優れたアルミニウム電解コンデンサ用セパレータを提供する。
【解決手段】アルミニウム電解コンデンサの陽極と陰極との間に介在し、天然セルロース繊維50~90質量%と叩解された再生セルロース繊維50~10質量%とからなり、比引裂強さが20~100mN・m/gであって、セパレータ絶縁破壊試験での500V印加時のショート率が10%以下である、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータを構成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム電解コンデンサの陽極と陰極との間に介在する、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータであって、
前記アルミニウム電解コンデンサ用セパレータが、天然セルロース繊維50~90質量%と叩解された再生セルロース繊維50~10質量%とからなり、
比引裂強さが20~100mN・m/gであって、
セパレータ絶縁破壊試験での500V印加時のショート率が10%以下である
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項2】
前記天然セルロース繊維が、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプからなる群より選択された1種類以上の材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項3】
前記アルミニウム電解コンデンサ用セパレータは、厚さが20~120μmであり、密度が0.25~0.70g/cmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項4】
陽極、陰極、前記陽極と前記陰極との間に介在するセパレータ、を備え、
前記セパレータに、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータを用いた
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電解コンデンサに用いて好適なアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ、及び、このアルミニウム電解コンデンサ用セパレータを用いたアルミニウム電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミニウム電解コンデンサは、陽極アルミ箔と陰極アルミ箔との間に、セパレータとして電解紙を介在させて、コンデンサ素子を作製し、このコンデンサ素子に電解液を含浸させて、ケースに挿入した後、封口することによって、作製されている。
【0003】
アルミニウム電解コンデンサにおいて、セパレータの主な役割は、両電極の隔離と電解液の保持である。両電極を隔離するために、セパレータは低抵抗でありながらも、高い遮蔽性を有することが求められる。さらに、セパレータの素材には、電気絶縁性が要求され、また様々な種類の電解液の保持のために、親水性、親油性が要求される。従って、これらの特性を併せ持つ、セルロースを原料としたセパレータが使用されている。
【0004】
これまでに、アルミニウム電解コンデンサを含む電気化学素子用セパレータとして、様々な構成が提案されている(例えば、特許文献1~特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53-142652号公報
【特許文献2】特開平3-222315号公報
【特許文献3】特開平5-315193号公報
【特許文献4】特開平8-250376号公報
【特許文献5】特開平5-267103号公報
【特許文献6】国際特許公開第2017/047699号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セパレータと関係があるアルミニウム電解コンデンサのショートとしては、(1)タブ部によるセパレータの圧縮や破損、(2)電極箔端部のバリ、あるいは電極箔とリード線接続部のバリ等によるセパレータの貫通や破損、(3)振動や衝撃等の機械的ストレスによるセパレータの破損、(4)火花放電等の電気的ストレス、(5)コンデンサ製造の際のエージング時、酸化皮膜欠陥部に由来する酸化皮膜絶縁破壊、等が挙げられる。これらのショート原因に対する耐性には、セパレータの均一性や強度特性が影響するが、耐ショート性能の向上は、セパレータにとって永遠の課題である。
【0007】
アルミニウム電解コンデンサの中でも、特に100V以下の電圧域である低圧領域では、特許文献1及び特許文献2に記載されている技術を用いたセパレータ、すなわちマニラ麻パルプとエスパルトパルプとからなる円網複層セパレータ等が、一般的に使用されている。しかし、マニラ麻パルプは主にフィリピンで生産され、エスパルトパルプは主にチュニジアで生産されており、近年の政情不安や一次産業従事者の減少によって年々入手が困難になっており、また価格高騰も続いている。そのため、安定的に入手可能な原材料を用いた代替品の開発が急務となっている。
【0008】
アルミニウム電解コンデンサにおいて、セパレータは、インピーダンス特性、特に等価直列抵抗(ESR)に、大きな影響を与える。セパレータに用いるパルプの断面形状が円形に近く、また径が細いほど、インピーダンス特性が低くなることが知られている。
針葉樹パルプや広葉樹パルプ等、木材由来のパルプは、生産量が多く、安定して入手することが可能である。しかし、木材パルプは、断面形状が扁平で、かつサイズも大きいため、インピーダンス特性を重視する低圧用セパレータの原材料としては適さない。
【0009】
工業的に大量生産されていて比較的安価に入手可能な非木材パルプとして、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプが挙げられる。
エスパルト以外のイネ科植物パルプを使用したアルミニウム電解コンデンサ用セパレータとして、特許文献3ではワラ繊維とマニラ麻パルプを用いたセパレータが、特許文献4では竹パルプを用いたセパレータが、それぞれ提案されている。
しかしながら、特許文献3及び特許文献4は、いずれも音響機器の音質向上を目的としたものである。音響用機器向けセパレータに対する主な要求特性は、人間が感じる音質であり、一般的な低圧用セパレータで要求されるインピーダンス特性とは大きく異なる。
【0010】
アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプ中には、植物由来の柔細胞が多く含まれており、柔細胞はパルプと比較すると非常に幅広短小である。セパレータ中に柔細胞が多く存在すると、インピーダンス特性が悪化することに加え、引張強さや引裂強さが低下する等の問題が生じる。また、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプは、針葉樹パルプやマニラ麻パルプ等と比較して、主体繊維の平均繊維長が短く、引張強さや引裂強さ等の強度特性が劣る。そのため、一般的な低圧用セパレータで要求される、耐ショート性能とインピーダンス性能を、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプを主体とするセパレータで実現することは困難であった。
【0011】
叩解可能な再生セルロース繊維は、高度に叩解すると、剛性が高く繊維径の小さいフィブリルが発生するという特徴があり、耐ショート性能及びインピーダンス特性に優れるセパレータを作製できることが知られている。そのため、叩解可能な再生セルロース繊維を用いたセパレータが近年では多く提案されている。なお、叩解可能な再生セルロース繊維は工業製品であるため、安定して入手することが可能である。
【0012】
特許文献5において、セパレータの緻密性を向上させ、かつインピーダンス特性を改善するために、叩解可能な再生セルロース繊維を使用する方法が提案されている。叩解された再生セルロース繊維を使用したセパレータは、緻密性が高くかつ微多孔質状の紙質となり、このセパレータを用いて作製したアルミニウム電解コンデンサは、ショート不良率が低減し、インピーダンス特性が向上する。
【0013】
しかしながら、特許文献5のように、叩解可能な再生セルロース繊維100質量%のセパレータを用いた場合、引張強さや引裂強さが低いため、アルミニウム電解コンデンサの製造工程において、セパレータの破断が発生することがあった。また、強度が低いため、例えばアルミニウム電解コンデンサのタブ部や箔バリ等のストレスがかかる箇所に対する耐性が低く、セパレータが破れてショートが発生することもあった。
【0014】
特許文献5では、叩解可能な再生セルロース繊維に、マニラ麻パルプやサイザル麻パルプ等を配合することも提案されている。叩解可能な再生セルロース繊維にマニラ麻パルプやサイザル麻パルプを配合すると、引張強さや引裂強さは向上するものの、ほとんど叩解されていないCSF値が高いマニラ麻パルプやサイザル麻パルプは繊維長が長いため、セパレータの地合が悪くなるという問題があった。繊維長が長いほど、水中に均一に繊維を分散させることが難しくなり、抄紙時に均一な紙層を形成することが難しくなる。地合を改善するためには、マニラ麻パルプやサイザル麻パルプの叩解を進めて繊維長を短くする必要があるが、マニラ麻パルプやサイザル麻パルプを叩解すると、インピーダンス特性が大きく悪化してしまうため、叩解はほとんど行われてこなかった。
【0015】
特許文献6では、高度に叩解された再生セルロースからなるセパレータ並の緻密性及びインピーダンス特性を維持したまま、引張強さ及び耐ショート性を向上させた、天然セルロース繊維Aと天然セルロース繊維Bと叩解された再生セルロース繊維とからなるセパレータが提案されている。特許文献6のセパレータは、長網抄紙機で地合のよいセパレータを抄紙するために、再生セルロース繊維の叩解を高度に進め、平均繊維長が短い天然セルロース繊維を使用している。そのため、特許文献6のセパレータは、平均繊維長が比較的短く、叩解可能な再生セルロース繊維100質量%のセパレータと比較して、引裂強さを改善することはできなかった。アルミニウム電解コンデンサの製造工程において、セパレータに張力をかけた際、セパレータにネジレ等があると、引裂強さが低いセパレータは破断する場合がある。
【0016】
本発明は、天然セルロース繊維と叩解された再生セルロース繊維とからなり、かつ、引裂強さ、耐ショート性能及びインピーダンス特性に優れたアルミニウム電解コンデンサ用セパレータを提供することを目的とする。
また、本発明は、このアルミニウム電解コンデンサ用セパレータを備え、耐ショート性能及びインピーダンス特性に優れたアルミニウム電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータは、アルミニウム電解コンデンサの陽極と陰極との間に介在する、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータであって、天然セルロース繊維と叩解された再生セルロース繊維とからなり、セパレータ絶縁破壊試験での500V印加時のショート率が10%以下であるものである。
【0018】
本発明のアルミニウム電解コンデンサは、陽極、陰極、陽極と陰極との間に介在するセパレータ、を備え、セパレータに、上記本発明のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータを用いたものである。
【発明の効果】
【0019】
上述の本発明によれば、引裂強さ、耐ショート性能及びインピーダンス特性に優れるアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ及び該セパレータを用いるアルミニウム電解コンデンサを提供することができる。
【0020】
また、本発明によれば、セパレータ絶縁破壊試験での500V印加時のショート率が10%以下であることにより、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ及びイネ科植物パルプ等の安価な繊維を用いてセパレータを構成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態例について詳細に説明する。
【0022】
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータは、アルミニウム電解コンデンサの陽極と陰極との間に介在する、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータであって、セパレータ絶縁破壊試験での500V印加時のショート率が10%以下である構成とする。
【0023】
本発明のアルミニウム電解コンデンサは、陽極と陰極と、陽極と陰極との間に介在するセパレータを備え、セパレータに、本発明のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータを用いている。
【0024】
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータにおいて、好ましくは、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプからなる群より選択された1種類以上の天然セルロース繊維50~90質量%と、叩解された再生セルロース繊維50~10質量%とでセパレータを構成する。これにより、安定的に入手可能な原材料を用いて、セパレータを構成することができる。
【0025】
叩解された再生セルロース繊維は、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプからなる群より選択された1種類以上の天然セルロース繊維と比較して、耐ショート性能やインピーダンス特性に優れる。また、叩解度と平均繊維長を制御することで、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプからなる群より選択された1種類以上の天然セルロース繊維のみからなるセパレータより、引張強さ及び引裂強さを向上することができる。そのため、特に0.45g/cm以下の低密度セパレータを作製する際において、引張強さを向上させるために行う天然セルロース繊維の叩解の程度を軽くすることができ、更にセパレータのインピーダンス特性を改善することが可能となる。叩解された再生セルロース繊維の割合が10質量%を下回ると、耐ショート性能や強度特性の向上効果や、インピーダンスの低減効果が得られづらくなる。
【0026】
本発明のセパレータの抄紙には、円網多層抄紙機を使用することが好ましい。円網抄紙機は、網を張った円筒(以下「円網」と略する)をパルプ懸濁液が入った槽の中で回転させ、水位差によって網を通して水が円筒内に流れ込む際に、網の上に紙層を形成する方法の抄紙機である。紙層を形成する際、初期段階では網の上にパルプが堆積するが、その後の段階で網が徐々に目詰まりするため、初期段階では水と共に流出していた微細なパルプや柔細胞も、中期以降の段階では紙層内に含まれるようになる。そのため、円網抄紙機で抄紙された紙は、一般的に表裏に存在する柔細胞の割合が異なる。
【0027】
アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプは、柔細胞を多く含む。セパレータを構成する材料は、その形状から繊維状のパルプと、柔細胞とに分類できる。柔細胞は、パルプと比較すると、非常に幅広短小であるため、セパレータのインピーダンス特性や引張強さに悪影響を及ぼす。アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプは、マニラ麻パルプと比較して平均繊維長が短いため、紙の地合を均一にしやすく、緻密性に優れたセパレータを製造しやすいという特徴がある。しかし、平均繊維長が短いため、引張強さや引裂強さといった強度特性が劣る傾向がある。セパレータ中の柔細胞の数を少なくすることで、平均繊維長を長くすることができ、強度特性を改善することができる。
【0028】
本発明では、セパレータ中に残る柔細胞の数を少なくするため、複数の円網を使用することが好ましい。つまり、紙層形成の初期段階のみの材料で構成された紙層、すなわち柔細胞含有率が低い紙層を複数重ね合わせて、1枚のセパレータが形成されることで、セパレータ中の柔細胞の数を大幅に減少させることができる。セパレータ中の柔細胞の数を制御することで、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプを多く含むセパレータであっても、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータとして使用可能な耐ショート性能及びインピーダンス特性を実現できる。
【0029】
叩解された再生セルロース繊維は、繊維径の小さいフィブリルを有するため、緻密な紙層を形成する。しかし、本発明のセパレータ中において、叩解された再生セルロース繊維の割合が多くなると、天然繊維の柔細胞の歩留りが向上してしまうため、配合割合を増やしてもインピーダンス特性が低減しづらくなる。そのため、本発明のセパレータ中の叩解された再生セルロース繊維の割合は、50質量%以下にする必要がある。
【0030】
同一原料を抄紙する場合、円網抄紙機は、パルプ懸濁液濃度と円網回転速度を変更することにより、紙の単位面積当たりの重量(以下「坪量」と略する)を制御することができる。したがって、同じ坪量の紙を同じ速度で生産する場合、例えば1つの円網から2つの円網に変更することで、パルプ懸濁液濃度を約半分にすることができる。パルプ懸濁液の濃度を薄くするほど、セパレータ中の柔細胞を減少させることができる。パルプ懸濁液の濃度は、0.3%以下にすることが好ましい。
【0031】
また本発明において、網の開口部のサイズも重要である。一般的な柔細胞のサイズは、(20~数十μm)×(20~150μm)程度であり、柔細胞の流出を促進させるために、網の開口部は0.1mm以上×0.1mm以上とすることが好ましい。
【0032】
セパレータ中の柔細胞の数を大幅に減少させることで、セパレータのインピーダンス特性が改善され、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプを使用しても、マニラ麻パルプ及びエスパルトパルプ等からなる円網複層セパレータと同等レベルのインピーダンス特性が実現できる。
【0033】
セパレータ中に含まれる柔細胞の数の指標としては、セパレータ表面に存在する柔細胞の数の表裏比率(反円網接触面/円網接触面)を、5以下にすることが好ましい。なお、柔細胞の数は、円網に接した面が少なく、円網に接していない面が多くなるため、表裏比率を1未満にすることは難しい。一方、表裏比率が5より大きくなると、柔細胞の流出が不十分となり、セパレータのインピーダンス特性や引張強さが悪化しやすい。また、表裏比率が5を超過したセパレータを、アルミニウム電解コンデンサに供した際には、引張強さの低下等に伴い、ショート率が悪化しやすい。
なお、円網接触面と反円網接触面の判別が困難な場合は、柔細胞の数の多い面/少ない面の比率を5以下としてもよい。
【0034】
本発明に使用する、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプは、特に限定されず、いずれの繊維でも用いることができる。例えば、ケナフパルプ、ジュートパルプ、稲ワラパルプ、麦ワラパルプ、竹パルプ、バガスパルプ、葦パルプ、サバイ草パルプ、竜鬚草パルプ、ララン草パルプ等が好適に用いられる。これらの材料は、1種類を使用してもよく、あるいは2種類以上を混合して使用してもよい。また、これらのパルプは、漂白処理されていてもよく、また、溶解パルプのように精製されたものや、マーセル化パルプであってもよい。
【0035】
本発明に使用する、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプは、叩解処理されることが好ましい。ただし、作製するセパレータの密度によっては、叩解処理を行わなくてもよい。
【0036】
本発明に使用する再生セルロース繊維としては、例えばリヨセルを代表とする溶剤紡糸レーヨンやポリノジックレーヨン等が挙げられる。しかし、これらの例に限定されるものではなく、叩解可能な再生セルロース繊維であれば、いずれも使用することができる。
【0037】
叩解前の再生セルロース繊維の繊維径は任意のものが使用できるが、叩解前の繊維径が太すぎると、叩解時の流動性が悪く、詰まり等の不具合が発生しやすい。叩解前の繊維径が細すぎると、叩解によって発生するフィブリル量が少なくなるため、緻密性を確保することが難しくなる。このため、叩解前の繊維径は3~18μmが好ましい。
【0038】
再生セルロース繊維の叩解度は、CSF値で200ml以下が好ましい。CSF値が200mlより高いと、セパレータの緻密性が不十分となる。
【0039】
平均繊維長が短すぎると、引裂強さが弱くなるため、再生セルロース繊維の平均繊維長は、1.0mm以上が好ましい。また、平均繊維長が長すぎると、抄紙時に水中に均一分散することが難しくなるため、セパレータの地合が悪化して耐ショート性能が悪化する。このため、再生セルロース繊維の平均繊維長は、3.5mm以下が好ましい。
【0040】
天然セルロース繊維と再生セルロース繊維の叩解処理には、ディスクリファイナーやコニカルリファイナー、高圧ホモジナイザ、ビーター等、製紙原料の調成に用いられる叩解機が、特に限定なく使用できる。天然セルロース繊維と再生セルロース繊維の叩解処理は、個別に行ってもよく、混合して行ってもよい。
【0041】
セパレータを製造する際、コンデンサ用セパレータとしての機能を阻害しないものであれば、必要に応じて、分散剤や消泡剤、紙力増強剤等の添加剤を使用してもよい。なお、紙力増強加工処理は、セパレータを作製した後に水溶性ポリマーを塗布してもよい。
【0042】
円網多層抄紙機で抄紙する際に、各層に使用する原料は同一であってもよく、叩解度や原料の種類を変更してもよい。同一原料を使用する場合、工程が簡略化できる。
【0043】
本発明のセパレータは、上述したように、セパレータ絶縁破壊試験での500V印加時のショート率が10%以下である構成とする。
セパレータ絶縁破壊試験での500V印加時のショート率が10%を超過すると、アルミニウム電解コンデンサのエージング試験でショートが発生しやすくなる。
【0044】
本発明に係るセパレータにおいて、セパレータの引張強さは、9.8N/15mm以上であることが好ましい。引張強さが9.8N/15mm未満の場合、アルミニウム電解コンデンサの素子作製時等にセパレータの破断が発生しやすくなる。
【0045】
セパレータの厚さは、20~120μmが好ましい。
アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、及びイネ科植物パルプの繊維断面の直径は10~15μm程度であるため、円網抄紙機で形成された層を複数有した場合に、厚さを20μm未満にすると、セパレータに必要な強度を維持することが難しい。
セパレータが120μmより厚くなると、アルミニウム電解コンデンサの小型化に不利となる。
【0046】
セパレータの密度は、0.25~0.70g/cmが好ましい。
密度を0.25g/cmより低くすると、セパレータの強度が著しく低下する。
密度を0.70g/cmより高くしようとすると、コンデンサのインピーダンス特性が大きく悪化する。
【0047】
本発明のセパレータの比引裂強さは、20~100mN・m/gであり、セパレータの坪量は、8g/m以上が好ましい。
セパレータの比引裂強さが20mN・m/g未満の場合、セパレータの単位坪量当りの引裂強さが弱く、アルミニウム電解コンデンサの製造工程でセパレータにネジレ等があったとき、セパレータが幅方向に裂け、破断が発生しやすくなる。
一方、セパレータの比引裂強さが100mN・m/gを超過した場合は、セパレータを構成する繊維の繊維長が長いことを意味する。繊維長が長いと、シートの均一性が欠け、局所的にセパレータの緻密性が低下している箇所を含む場合がある。
【0048】
坪量が8g/m未満の場合、上述した通り、セパレータを構成する繊維本数が少なく、アルミニウム電解コンデンサのショート不良が増加するおそれがある。また、坪量が8g/m未満では、比引裂強さは高くても、引裂強さが弱く、アルミニウム電解コンデンサの生産性を大幅に向上させられない場合がある。このことからも、セパレータの坪量は、8g/m以上が好ましい。
【0049】
以上のセパレータの構成により、天然セルロース繊維と叩解された再生セルロース繊維とからなり、引裂強さ、耐ショート性能及びインピーダンス特性に優れた、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータが得られることを見出した。
【0050】
上記の本発明のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータを用いて、本発明のアルミニウム電解コンデンサを作製することができる。
例えば、陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間にセパレータを介在させて巻回することによって素子を形成し、その後電解液を含浸させて、ケースに挿入した後に、封口することにより、アルミニウム電解コンデンサを作製することができる。
【実施例0051】
以下、本発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ及び、当該アルミニウム電解コンデンサ用セパレータを備えたアルミニウム電解コンデンサの具体的な各種実施例、比較例について、詳細に説明する。
【0052】
〔セパレータ及びアルミニウム電解コンデンサの特性の測定方法〕
本実施の形態のセパレータ及びアルミニウム電解コンデンサの各特性の具体的な測定は、以下の条件及び方法で行った。
【0053】
〔CSF値〕
CSF値は、JIS P8121-2『パルプ-ろ水度試験法-第2部:カナダ標準ろ水度法』(ISO5267-2『Pulps-Determination of drainability-Part2:“Canadian Standard”freeness method』)に従って測定した値である。
【0054】
〔厚さ、坪量及び密度〕
セパレータの厚さは、「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 5.1 厚さ」に規定された、「5.1.1 測定器及び測定方法 a) 外側マイクロメータを用いる場合」のマイクロメータを用いて、「5.1.3 紙を折り重ねて厚さを測る場合」の10枚に折り重ねる方法で、測定した。
セパレータの坪量は、「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 6 坪量」に規定された方法で、絶乾状態のセパレータの坪量を測定した。
セパレータの密度は、「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 7.0A 密度 B法」に規定された方法で、絶乾状態のセパレータの密度を測定した。
【0055】
〔引張強さ〕
「JIS P 8113 『紙及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法』」(ISO1924-2『Paper and board-Determination of tensile properties-Part2:Constant rate of elongation method』)に規定された方法で、試験幅15mmで、セパレータの縦方向(製造方向)の最大引張荷重を測定し、引張強さとした。
【0056】
〔平均繊維長〕
平均繊維長は、JIS P 8226-2『パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法 第2部:非偏光法』(ISO16065-2『Pulps-Determination of Fibre length by automated optical analysis-Part2:Unpolarized light method』)に準じて、Kajaani Fiberlab Ver.4(Metso Automation社製)を用いて測定したContour length(中心線繊維長)の長さ荷重平均繊維長の値である。
【0057】
〔比引裂強さ〕
「JIS P 8116 『紙-引裂強さ試験方法-エルメンドルフ形引裂試験機法』」(ISO1974『Paper-Determination of tearing resistance-Elmendorf method』)に規定された方法で、セパレータの横方向(幅方向)の引裂強さを測定した。次に、得られた引裂強さの値をセパレータの坪量で除して、セパレータの比引裂強さを算出した。
【0058】
〔セパレータ絶縁破壊試験での500V印加時のショート率〕
「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 24 絶縁破壊の強さ 24.2.2 直流の場合 B法 24.1.2.1 方法2」に規定された方法で、セパレータの絶縁破壊電圧を計100ヶ所測定し、500V未満の電圧でショートした割合を、セパレータ絶縁破壊試験での500V印加時のショート率(以下、「500V印加時のショート率」と略する)とした。
【0059】
〔セパレータ表面に存在する柔細胞の数の表裏比率〕
走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と略する)を用いて、200倍の倍率で1000μm(縦方向)×5000μm(横方向)のセパレータの表裏の表面に存在する柔細胞の数を測定した。反円網側の柔細胞の数を円網側の柔細胞の数で除して、セパレータ表面に存在する柔細胞の表裏比率(以下、「柔細胞の表裏比率」と略する)とした。
【0060】
〔セパレータを使用したアルミニウム電解コンデンサの作製〕
以下、本実施の形態例のセパレータを用いたアルミニウム電解コンデンサの作製方法を説明する。
上記構成のセパレータを用いて、陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔との間にセパレータを介在させて巻回して素子を形成した後、電解液を含浸させ、ケースに挿入した後、封口することにより、アルミニウム電解コンデンサを作製した。
【0061】
〔インピーダンス〕
作製したアルミニウム電解コンデンサのインピーダンスを、LCRメータを用いて、20℃で100kHzの周波数で測定した。
【0062】
〔実施例1〕
アオイ科植物パルプであるCSF値550mlのケナフパルプ60質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値30ml、平均繊維長1.75mmのリヨセル繊維40質量%とを混合した原料を、ダブルディスクリファイナー(以下「DDR」と略する)を用いてCSF値150mlまで叩解し、円網三層抄紙機を用いて、厚さ50μm、坪量22.5g/m、密度0.45g/cmの三層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは24.5N/15mm、比引裂強さは47.9mN・m/g、500V印加時のショート率は0.2%、柔細胞の表裏比率は2.5だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.18Ωだった。
【0063】
〔実施例2〕
アオイ科植物パルプであるCSF値700mlのケナフパルプ80質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値200ml、平均繊維長3.50mmのリヨセル繊維20質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値400mlまで叩解し、円網三層抄紙機を用いて抄紙した後、水溶性ポリマーである紙力増強剤を含浸塗布し、厚さ60μm、坪量15.0g/m、密度0.25g/cmの三層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは16.7N/15mm、比引裂強さは98.0mN・m/g、500V印加時のショート率は5.8%、柔細胞の表裏比率は1.7だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.15Ωだった。
【0064】
〔実施例3〕
シナノキ科植物パルプであるCSF値100mlのジュートパルプ50質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値0ml、平均繊維長1.05mmのリヨセル繊維50質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値20mlまで叩解し、円網二層抄紙機を用いて、厚さ20μm、坪量9.0g/m、密度0.45g/cmの二層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは10.0N/15mm、比引裂強さは38.1mN・m/g、500V印加時のショート率は9.6%、柔細胞の表裏比率は3.7だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.15Ωだった。
【0065】
〔実施例4〕
イネ科植物パルプであるCSF値300mlの竹パルプ90質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値10ml、平均繊維長1.35mmのリヨセル繊維10質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値200mlまで叩解し、円網二層抄紙機を用いて、厚さ35μm、坪量21.0g/m、密度0.60g/cmの二層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは32.3N/15mm、比引裂強さは35.0mN・m/g、500V印加時のショート率は1.6%、柔細胞の表裏比率は2.8だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.18Ωだった。
【0066】
〔実施例5〕
イネ科植物パルプであるCSF値400mlの麦ワラパルプ50質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値100ml、平均繊維長2.55mmのリヨセル繊維50質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値160mlまで叩解し、円網二層抄紙機を用いて、厚さ40μm、坪量20.0g/m、密度0.50g/cmの二層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは16.7N/15mm、比引裂強さは27.0mN・m/g、500V印加時のショート率は0.8%、柔細胞の表裏比率は4.8だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.22Ωだった。
【0067】
〔実施例6〕
イネ科植物パルプであるCSF値650mlの竜鬚草パルプ70質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値70ml、平均繊維長2.20mmのポリノジックレーヨン繊維30質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値380mlまで叩解し、円網二層抄紙機を用いて、厚さ50μm、坪量25.0g/m、密度0.50g/cmの二層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは29.4N/15mm、比引裂強さは37.2mN・m/g、500V印加時のショート率は0.0%、柔細胞の表裏比率は4.1だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.20Ωだった。
【0068】
〔比較例1〕
アオイ科植物パルプであるCSF値700mlのケナフパルプ80質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値230ml、平均繊維長3.70mmのリヨセル繊維20質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値460mlまで叩解し、円網三層抄紙機を用いて抄紙した後、水溶性ポリマーである紙力増強剤を含浸塗布し、厚さ65μm、坪量15.0g/m、密度0.23g/cmの三層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは10.8N/15mm、比引裂強さは104.9mN・m/g、500V印加時のショート率は16.4%、柔細胞の表裏比率は1.5だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートが発生したが、ショートしなかったコンデンサのインピーダンスは0.16Ωだった。
【0069】
〔比較例2〕
実施例3と同じ原料を使用し、円網二層抄紙機を用いて、厚さ18μm、坪量7.7g/m、密度0.43g/cmの二層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは9.0N/15mm、比引裂強さは38.0mN・m/g、500V印加時のショート率は23.0%、柔細胞の表裏比率は3.3だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。コンデンサ素子を作製する際、引張強さが弱い影響で、素子作製時にセパレータの破断が発生した。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートが発生したが、ショートしなかったコンデンサのインピーダンスは0.13Ωだった。
【0070】
〔比較例3〕
イネ科植物パルプであるCSF値300mlの竹パルプ95質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値10ml、平均繊維長1.35mmのリヨセル繊維5質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値270mlまで叩解し、円網二層抄紙機を用いて、厚さ35μm、坪量21.0g/m、密度0.60g/cmの二層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは23.5N/15mm、比引裂強さは23.3mN・m/g、500V印加時のショート率は2.6%、柔細胞の表裏比率は2.5だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.20Ωだった。
【0071】
〔比較例4〕
イネ科植物パルプである竹パルプを、DDRを用いてCSF値300mlまで叩解し、円網二層抄紙機を用いて、厚さ35μm、坪量21.0g/m、密度0.60g/cmの二層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは23.5N/15mm、比引裂強さは22.4mN・m/g、500V印加時のショート率は2.8%、柔細胞の表裏比率は2.4だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.20Ωだった。
【0072】
〔比較例5〕
イネ科植物パルプであるCSF値400mlの麦ワラパルプ40質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値100ml、平均繊維長2.55mmのリヨセル繊維60質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値140mlまで叩解し、円網二層抄紙機を用いて、厚さ40μm、坪量20.0g/m、密度0.50g/cmの二層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは18.6N/15mm、比引裂強さは28.4mN・m/g、500V印加時のショート率は0.4%、柔細胞の表裏比率は5.3だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.27Ωだった。
【0073】
〔比較例6〕
イネ科植物パルプであるCSF値200mlの麦ワラパルプ50質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値0ml、平均繊維長0.95mmのリヨセル繊維50質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値40mlまで叩解し、円網三層抄紙機を用いて、厚さ30μm、坪量15.0g/m、密度0.50g/cmの三層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは14.7N/15mm、比引裂強さは18.3mN・m/g、500V印加時のショート率は0.4%、柔細胞の表裏比率は4.6だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。引裂強さ及び比引裂強さが弱いため、コンデンサ素子作製時に、セパレータの破断が発生した。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.21Ωだった。
【0074】
〔比較例7〕
実施例6と同じ原料を、円網一層抄紙機を用いて、厚さ50μm、坪量25.0g/m、密度0.50g/cmの一層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは28.4N/15mm、比引裂強さは36.8mN・m/g、500V印加時のショート率は2.4%、柔細胞の表裏比率は6.8だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.26Ωだった。
【0075】
〔従来例1〕
バショウ科植物パルプであるマニラ麻パルプと、イネ科植物パルプであるエスパルトパルプを半量ずつ混合し、CSF値550mlまでDDRを用いて叩解し、円網二層抄紙機を用いて、厚さ50μm、坪量25.0g/m、密度0.50g/cmの二層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは29.4N/15mm、比引裂強さは32.9mN・m/g、500V印加時のショート率は4.0%、柔細胞の表裏比率は1.9だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.20Ωだった。
【0076】
〔従来例2〕
バショウ科植物パルプであるマニラ麻パルプと、イネ科植物パルプである麦ワラパルプを半量ずつ混合し、CSF値600mlまでDDRを用いて叩解し、円網三層抄紙機を用いて、厚さ60μm、坪量30.0g/m、密度0.50g/cmの三層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは34.3N/15mm、比引裂強さは24.2mN・m/g、500V印加時のショート率は3.7%、柔細胞の表裏比率は5.5だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、EG系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧100V、容量100μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートせず、インピーダンスは0.31Ωだった。
【0077】
実施例1乃至実施例6、比較例1乃至比較例7、従来例1及び従来例2のそれぞれのセパレータ及び定格電圧100Vのコンデンサのインピーダンスの評価結果を、表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例2のセパレータにはCSF値200ml、平均繊維長3.50mmのリヨセル繊維を使用したが、比較例1のセパレータにはCSF値230ml、平均繊維長3.70mmのリヨセル繊維を使用した。比較例1のセパレータは、原料の平均繊維長が長くなったためセパレータの地合が悪化し、密度も0.25g/cmを下回った結果、500V印加時のショート率は16.4%まで悪化した。また、比較例1のセパレータは、比引裂強さが100mN・m/gを超えて、104.9mN・m/gであった。
比引裂強さが100mN・m/gを超えると、原料の平均繊維長が長くなりすぎて地合悪化を招き、セパレータの耐ショート性能が低下する。また、密度が0.25g/cmを下回ると、引張強さは大きく低下する。
【0080】
実施例3と比較例2のセパレータは、同じ原料を使用して円網二層抄紙機で抄紙したセパレータであるが、実施例3のセパレータは厚さ20μm、坪量9.0g/m、比較例2のセパレータは厚さ18μm、坪量7.7g/mである。比較例2のセパレータは複層の円網抄紙機で抄紙したが、厚さが20μm未満となったため、繊維の重なり本数不足により引張強さは大きく低下して9.0N/15mmとなり、コンデンサ素子作製時にセパレータの破断が発生した。また、耐ショート性能が低下した結果、500V印加時のショート率は23.0%となり、エージングショートが発生した。500V印加時のショート率と、アルミニウム電解コンデンサのエージング試験でのショートとは、関連があり、アルミニウム電解コンデンサのエージング試験でのショートを抑制するためには、セパレータの500V印加時のショート率を10%以下にする必要がある。加えて、本発明のセパレータは、厚さ20μm以上、坪量8.0g/m以上であることが好ましい。
【0081】
実施例4、比較例3、比較例4のセパレータは、竹パルプとリヨセル繊維の配合比率を変更して作製した、同じ厚さ、同じ密度のセパレータである。実施例4のセパレータの再生セルロース繊維の割合は10質量%であるが、比較例3は5質量%、比較例4は0質量%である。
実施例4のセパレータは、比較例4のセパレータと比較して、引張強さや比引裂強さ、500V印加時のショート率に優れる。
一方、比較例3のセパレータは、比較例4のセパレータと比較して、引張強さや比引裂強さ、500V印加時のショート率はほぼ同じ値であった。
叩解された再生セルロース繊維を添加し、耐ショート性能や強度特性の向上効果、インピーダンスの低減効果等を得るためには、叩解された再生セルロース繊維の割合を10質量%以上にする必要がある。
【0082】
実施例5と比較例5のセパレータは、麦ワラパルプとリヨセル繊維の配合比率を変更して作製した、同じ厚さ、同じ密度のセパレータである。一般的に叩解された再生セルロース繊維は、天然セルロース繊維と比較してインピーダンス特性に優れるため、配合比率を増やすほどセパレータのインピーダンスは低減する。しかしながら、リヨセル繊維の割合が少ない実施例5のセパレータを用いたコンデンサより、リヨセル繊維の割合が多い比較例5のセパレータを用いたコンデンサのインピーダンスが高くなった。これは、叩解された再生セルロース繊維が繊維径の小さいフィブリルを多く有するため、セパレータの緻密性が向上して、円網抄紙機で抄紙する際に本来は白水中に流出するはずだった天然セルロース繊維中の柔細胞を捕捉し、セパレータ中の柔細胞割合が向上したためである。
柔細胞が多い天然セルロース繊維、特にアオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ、イネ科植物パルプと、叩解された再生セルロース繊維を混合して抄紙する場合、叩解された再生セルロース繊維の割合を50質量%以下にする必要がある。
【0083】
実施例6と比較例7のセパレータは同じ原料を使用し、円網二層抄紙機あるいは円網一層抄紙機を用いてそれぞれ作製したセパレータである。円網一層抄紙機で作製した比較例7のセパレータは、円網二層抄紙機で作製した実施例6のセパレータと比較して、セパレータ中の柔細胞割合が高いため、引張強さや比引裂強さが若干低くなり、コンデンサのインピーダンスは大きく悪化した。本発明のセパレータの抄紙には、円網多層抄紙機を使用することが好ましい。
【0084】
〔実施例7〕
イネ科植物パルプであるCSF値650mlのバガスパルプ50質量%と、叩解された再生セルロース繊維であるCSF値200ml、平均繊維長3.50mmのリヨセル繊維50質量%とを混合した原料を、DDRを用いてCSF値300mlまで叩解し、円網三層抄紙機を用いて、厚さ120μm、坪量81.6g/m、密度0.68g/cmの三層セパレータを得た。このセパレータの引張強さは73.5N/15mm、比引裂強さは30.0mN・m/g、500V印加時のショート率は0.0%、柔細胞の表裏比率は4.8だった。
このセパレータを用いてコンデンサ素子を500個作製し、GBL系電解液を含浸後、ケースに挿入、封口し、定格電圧400V、容量10μF、直径12.5mm×長さ20mmのアルミニウム電解コンデンサとした。このアルミニウム電解コンデンサは、エージング試験でショートしなかった。
このように、本発明のセパレータは、いわゆる中高圧GBL系のアルミニウム電解コンデンサにも適用できることが確認された。
【0085】
以上、本実施の形態によれば、中長期に渡って安定的に入手可能である、アオイ科植物パルプ、シナノキ科植物パルプ及びイネ科植物パルプと、叩解された再生セルロース繊維とを用いて、かつ引裂強さ、耐ショート性能及びインピーダンス特性に優れるアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ及び該セパレータを用いるアルミニウム電解コンデンサを提供できる。
【0086】
以上、本実施の形態のセパレータをアルミニウム電解コンデンサに用いた例を説明した。
アルミニウム電解コンデンサの他の構成、製造方法の詳細についての説明は省略したが、本発明のアルミニウム電解コンデンサにおいて、電極材料及び電解液材料については、特別に限定を必要とすることはなく、種々の材料を用いることができる。また、素子外径が許容する限り、本発明のセパレータを複数枚、または本発明のセパレータを一枚以上用いて他のセパレータとともに複数枚重ねて使用することも可能である。