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特開2022-127829多孔質膜の製造方法、及び、多孔質膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127829
(43)【公開日】2022-09-01
(54)【発明の名称】多孔質膜の製造方法、及び、多孔質膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 67/00 20060101AFI20220825BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220825BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20220825BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
B01D67/00
B01D69/00
C08J9/26 102
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021026031
(22)【出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々田 泰行
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
4F074
【Fターム(参考)】
4D006GA07
4D006MA03
4D006MA24
4D006MA25
4D006MA40
4D006MB15
4D006MB20
4D006MC02
4D006MC04
4D006MC45
4D006MC46
4D006MC48
4D006MC48X
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC87
4D006MC88
4D006NA04
4D006NA10
4D006NA13
4D006NA17
4D006NA18
4D006NA46
4D006NA54
4D006NA64
4F071AA37
4F071AA48
4F071AC12
4F071AC19
4F071AE19
4F071AE22
4F071AG28
4F071AG32
4F071AG33
4F071AG34
4F071AH02
4F071AH15
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F074AA53
4F074AA67
4F074AD13
4F074AD19
4F074AH03
4F074CB03
4F074CB17
4F074CB27
4F074CB28
4F074CB34
4F074CB45
4F074CC04Z
4F074CC22X
4F074CC27Y
4F074CC28Z
4F074CC29Y
4F074CC32X
4F074CC32Y
4F074CC32Z
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA32
4F074DA43
4F074DA49
(57)【要約】
【課題】高温時におけるろ過性に優れる多孔質膜の製造方法、及び、多孔質膜の提供。
【解決手段】ポリマー、及び、上記ポリマーと相溶しない化合物を溶媒に溶解した溶液を支持体に流延し膜Aを形成する流延工程、上記膜Aを凝固浴に浸漬し膜Bを形成する浸漬工程、並びに、上記膜Bから少なくとも一部の上記ポリマーと相溶しない化合物を溶出させ多孔質膜を作製する溶出工程を含み、上記多孔質膜のJIS K7196(2012)に規定する軟化温度が、190℃以上である多孔質膜の製造方法、並びに、JIS K7196(2012)に規定する軟化温度が、190℃以上であり、空隙率が、25体積%~75体積%である多孔質膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー、及び、前記ポリマーと相溶しない化合物を溶媒に溶解した溶液を支持体に流延し膜Aを形成する流延工程、
前記膜Aを凝固浴に浸漬し膜Bを形成する浸漬工程、並びに、
前記膜Bから少なくとも一部の前記ポリマーと相溶しない化合物を溶出させ多孔質膜を作製する溶出工程を含み、
前記多孔質膜のJIS K7196(2012)に規定する軟化温度が、190℃以上である
多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記ポリマーと相溶しない化合物が、水溶性である請求項1に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記膜Bにおいて、前記ポリマーと相溶しない化合物の含有量が、前記ポリマーの全質量に対し、30質量%~300質量%である請求項1又は請求項2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマーと相溶しない化合物が、ポリビニルピロリドンである請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、N-メチルピロリドンである請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質膜の空隙率が、25体積%~75体積%である請求項1~請求項5に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質膜が、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造又は海島構造を有する請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
JIS K7196(2012)に規定する軟化温度が、190℃以上であり、
空隙率が、25体積%~75体積%である
多孔質膜。
【請求項9】
平均孔径が、一方の面と最緻密部とで異なり、かつ前記多孔質膜の厚み方向において平均孔径が連続的に変化している請求項8に記載の多孔質膜。
【請求項10】
前記多孔質膜の厚み方向における平均孔径の変化率に、変曲点がある請求項8又は請求項9に記載の多孔性膜。
【請求項11】
前記多孔性膜が、液晶ポリマーを含む請求項8~請求項10のいずれか1項に記載の多孔性膜。
【請求項12】
前記多孔質膜が、前記ポリマーと相溶しない化合物を更に含む請求項8~請求項11のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項13】
前記ポリマーと相溶しない化合物の含有量が、前記ポリマーの全質量に対し、0.001質量%~5質量%である請求項12に記載の多孔質膜。
【請求項14】
前記多孔質膜が、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造又は海島構造を有する、請求項8~請求項13のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔質膜の製造方法、及び、多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多孔質膜の製造方法としては、例えば、特許文献1や特許文献2には、ポリスチレンとポリビニルピロリドンを溶媒した溶液を支持体に流延し、凝固浴に浸漬する工程よりなるポリスルホン系微孔性膜の製造方法において、得られた微孔性膜を多価アルコールで洗浄後、水洗し、膜中のポリビニルピロリドンの含有量を1~5%にすることを特徴とするポリスルホン系微孔性膜の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5-61970号公報
【特許文献2】特開2004-105804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、高温(150℃超)時におけるろ過性に優れる多孔質膜の製造方法を提供することである。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、高温(150℃超)時におけるろ過性に優れる多孔質膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> ポリマー、及び、上記ポリマーと相溶しない化合物を溶媒に溶解した溶液を支持体に流延し膜Aを形成する流延工程、上記膜Aを凝固浴に浸漬し膜Bを形成する浸漬工程、並びに、上記膜Bから少なくとも一部の上記ポリマーと相溶しない化合物を溶出させ多孔質膜を作製する溶出工程を含み、上記多孔質膜のJIS K7196(2012)に規定する軟化温度が、190℃以上である多孔質膜の製造方法。
<2> 上記ポリマーと相溶しない化合物が、水溶性である<1>に記載の多孔質膜の製造方法。
<3> 上記膜Bにおいて、上記ポリマーと相溶しない化合物の含有量が、上記ポリマーの全質量に対し、30質量%~300質量%である<1>又は<2>に記載の多孔質膜の製造方法。
<4> 上記ポリマーと相溶しない化合物が、ポリビニルピロリドンである<1>~<3>のいずれか1つに記載の多孔質膜の製造方法。
<5> 上記溶媒が、N-メチルピロリドンである<1>~<4>のいずれか1つに記載の多孔質膜の製造方法。
<6> 上記多孔質膜の空隙率が、25体積%~75体積%である<1>~<5>に記載の多孔質膜の製造方法。
<7> 上記多孔質膜が、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造又は海島構造を有する<1>~<6>のいずれか1つに記載の多孔質膜の製造方法。
<8> JIS K7196(2012)に規定する軟化温度が、190℃以上であり、空隙率が、25体積%~75体積%である多孔質膜。
<9> 平均孔径が、一方の面と他方の面とで異なり、かつ上記多孔質膜の厚み方向において平均孔径が連続的に変化している<8>に記載の多孔質膜。
<10> 上記多孔質膜の厚み方向における平均孔径の変化率に、変曲点がある<8>又は<9>に記載の多孔性膜。
<11> 上記多孔性膜が、液晶ポリマーを含む<8>~<10>のいずれか1つに記載の多孔性膜。
<12> 上記多孔質膜が、上記ポリマーと相溶しない化合物を更に含む<8>~<11>のいずれか一項に記載の多孔質膜。
<13> 上記ポリマーと相溶しない化合物の含有量が、上記ポリマーの全質量に対し、0.001質量%~5質量%である<12>に記載の多孔質膜。
<14> 上記多孔質膜が、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造又は海島構造を有する、<8>~<13>のいずれか1つに記載の多孔質膜。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、高温(150℃超)時におけるろ過性に優れる多孔質膜の製造方法を提供することができる。
また、本発明の他の実施形態によれば、高温(150℃超)時におけるろ過性に優れる多孔質膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念として用いられる語である。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。 また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本開示における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、特に断りのない限り、TSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析装置により、溶剤PFP(ペンタフルオロフェノール)/クロロホルム=1/2(質量比)、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算した分子量である。
【0008】
(多孔質膜の製造方法)
本開示に係る多孔質膜の製造方法は、ポリマー、及び、上記ポリマーと相溶しない化合物を溶媒に溶解した溶液を支持体に流延し膜Aを形成する流延工程、上記膜Aを凝固浴に浸漬し膜Bを形成する浸漬工程、並びに、上記膜Bから少なくとも一部の上記ポリマーと相溶しない化合物を溶出させ多孔質膜を作製する溶出工程を含み、上記多孔質膜のJIS K7196(2012)に規定する軟化温度(以下、単に「軟化温度」ともいう。)が、190℃以上である。
【0009】
本発明者が鋭意検討した結果、上記構成をとることにより、高温時におけるろ過性に優れる多孔質膜の製造方法を提供できることを見出した。
上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。
ポリマー及び上記ポリマーと相溶しない化合物を用い、流延と、流延膜(上記膜A)の凝固浴と、凝固浴後の膜(上記膜B)からのポリマーと相溶しない化合物の溶出とを順に行い、軟化温度が190℃以上の多孔質膜を形成することにより、ポリマー部分の耐熱性に加え、多孔質部分の断熱性により、得られる多孔質膜の高温(150℃超)時におけるろ過性に優れると推定している。
【0010】
<流延工程>
本開示に係る多孔質膜の製造方法は、ポリマー、及び、上記ポリマーと相溶しない化合物を溶媒に溶解した溶液を支持体に流延し膜Aを形成する流延工程を含む。
流延工程における流延方法としては、特に制限はなく、公知の流延方法を用いることができる。
流延温度及び流延速度は、特に制限はなく、公知の流延方法、及び、使用する溶液の組成を参照し、決定すればよい。
膜Aの平均厚さは、特に制限はなく、所望の厚さであればよいが、0.1μm~10mmであることが好ましく、1μm~5mmであることがより好ましく、10μm~1,000μmであることが更に好ましく、50μm~500μmであることが特に好ましい。
【0011】
支持体としては、例えば、金属ドラム、金属バンド、ガラス板、樹脂フィルム又は金属箔が挙げられる。中でも、ガラス板、樹脂フィルムが好ましい。
支持体の長さ、幅及び厚さは、特に制限はなく、適宜選択すればよい。
樹脂フィルムとしては、例えばポリイミド(PI)フィルムやポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを挙げることができ、市販品の例としては、宇部興産(株)製U-ピレックスS及びU-ピレックスR、東レデュポン(株)製カプトン、並びに、SKCコーロンPI社製IF30、IF70及びLV300、東レ(株)製ルミラー、東洋紡(株)製コスモシャイン、ユニチカ(株)製エンブレット、三菱ケミカル(株)製ダイアホイル等が挙げられる。
また、支持体は、容易に剥離できるように、表面に表面処理層が形成されていてもよい。表面処理層は、ハードクロムメッキ、フッ素樹脂等を用いることができる。
樹脂フィルム支持体の平均厚みは、特に制限はないが、好ましくは25μm以上350μm以下であり、より好ましくは50μm以上150μmである。
【0012】
また、本開示に係る多孔質膜の製造方法は、流延工程後、膜Aから溶媒の少なくとも一部を除去する工程を含んでいてもよい。
流延された膜Aから溶媒の少なくとも一部を除去する方法としては、特に制限はなく、公知の乾燥方法を用いることができる。
【0013】
-ポリマー-
上記溶液は、ポリマーを含む。
上記ポリマーとしては、誘電正接の観点から、液晶ポリマーを含むことが好ましい。
本開示に用いられる液晶ポリマーは、特に限定されず、公知の液晶ポリマーを用いることができる。
また、液晶ポリマーは、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーでもよく、溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーでもよいが、膜構造の均一性の観点から、リオトロピック液晶ポリマーであることが好ましい。サーモトロピック液晶の場合は、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。
液晶ポリマーとしては、例えば、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルにアミド結合が導入された液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルにエーテル結合が導入された液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルにカーボネート結合が導入された液晶ポリエ
ステルカーボネートなどを挙げることができる。
また、液晶ポリマーは、液晶性、及び、線膨張係数の観点から、芳香環を有するポリマーであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることがより好ましい。
更に、液晶ポリマーは、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
また、液晶ポリマーは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリマーであることが好ましい。
【0014】
液晶ポリマーの例としては、例えば、以下が挙げられる。
1)(i)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、(ii)芳香族ジカルボン酸と、(iii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重縮合させてなるもの。
2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重縮合させてなるもの。
3)(i)芳香族ジカルボン酸と、(ii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重縮合させてなるもの。
4)(i)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、(ii)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重縮合させてなるもの。
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンはそれぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重縮合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0015】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシ基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシ基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0016】
液晶ポリマーは、液晶性の観点から、下記式(1)~式(3)のいずれかで表される構成繰り返し単位(以下、式(1)で表される構成繰り返し単位等を、繰り返し単位(1)等ということがある。)を有することが好ましく、下記式(1)で表される構成繰り返し単位を有することがより好ましく、下記式(1)で表される構成繰り返し単位と、下記式(2)で表される構成繰り返し単位と、下記式(2)で表される構成繰り返し単位とを有することが特に好ましい。
式(1) -O-Ar-CO-
式(2) -CO-Ar-CO-
式(3) -X-Ar-Y-
式(1)~式(3)中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar及びArはそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表し、X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表し、Ar~Arで表される上記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
式(4) -Ar-Z-Ar
式(4)中、Ar及びArはそれぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し、Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキレン基を表す。
【0017】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
上記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基及びn-デシル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1~10である。
上記アリール基の例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基及び2-ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは6~20である。
上記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される上記基毎にそれぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個である。
【0018】
上記アルキレン基の例としては、メチレン基、1,1-エタンジイル基、1-メチル-1,1-エタンジイル基、1,1-ブタンジイル基及び2-エチル-1,1-ヘキサンジイル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1~10である。
【0019】
繰り返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成繰り返し単位である。
繰り返し単位(1)としては、Arがp-フェニレン基であるもの(p-ヒドロキシ安香酸に由来する構成繰り返し単位)、及びArが2,6-ナフチレン基であるもの(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成繰り返し単位)、又は、4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4’-ヒドロキシ-4-ビフェニルカルボン酸に由来する構成繰り返し単位)が好ましい。
【0020】
繰り返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する構成繰り返し単位である。
繰り返し単位(2)としては、Arがp-フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する構成繰り返し単位)、Arがm-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する構成繰り返し単位)、Arが2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成繰り返し単位)、又は、Arがジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基であるもの(ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸に由来する構成繰り返し単位)が好ましい。
【0021】
繰り返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する構成繰り返し単位である。
繰り返し単位(3)としては、Arがp-フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p-アミノフェノール又はp-フェニレンジアミンに由来する構成繰り返し単位)、Arがm-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する構成繰り返し単位)、又は、Arが4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル又は4,4’-ジアミノビフェニルに由来する構成繰り返し単位)が好ましい。
【0022】
繰り返し単位(1)の含有量は、全構成繰り返し単位の合計量(液晶ポリマーを構成する各構成繰り返し単位の質量をその各繰り返し単位の式量で割ることにより、各繰り返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%~80モル%、更に好ましくは30モル%~60モル%、特に好ましくは30モル%~40モル%である。
繰り返し単位(2)の含有量は、全構成繰り返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%~35モル%、更に好ましくは20モル%~35モル%、特に好ましくは30モル%~35モル%である。
繰り返し単位(3)の含有量は、全構成繰り返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%~35モル%、更に好ましくは20モル%~35モル%、特に好ましくは30モル%~35モル%である。
繰り返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性、強度及び剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0023】
繰り返し単位(2)の含有量と繰り返し単位(3)の含有量との割合は、[繰り返し単位(2)の含有量]/[繰り返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1~1/0.9、より好ましくは0.95/1~1/0.95、更に好ましくは0.98/1~1/0.98である。
【0024】
なお、液晶ポリマーは、繰り返し単位(1)~(3)をそれぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリマーは、繰り返し単位(1)~(3)以外の構成繰り返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰り返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0025】
液晶ポリマーは、繰り返し単位(3)として、X及びYの少なくとも一方がイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する構成繰り返し単位及び芳香族ジアミンに由来する構成繰り返し単位の少なくとも一方を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰り返し単位(3)として、X及びYの少なくとも一方がイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
【0026】
液晶ポリマーは、それを構成する構成繰り返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させることにより製造することが好ましい。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1-メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物などが挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。なお、溶融重合は、必要に応じて、更に固相重合させてもよい。
【0027】
ポリマーは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃以上400℃以下、更に好ましくは260℃以上350℃以下である。液晶ポリマーの流動開始温度が上記範囲であると、溶解性、耐熱性、強度及び剛性に優れ、また、溶液の粘度が適度である。
【0028】
流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリマーを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4,800Pa・s(48,000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0029】
また、ポリマーは、その重量平均分子量が1,000,000以下であることが好ましく、3,000~300,000であることがより好ましく、5,000~100,000であることが更に好ましく、5,000~30,000であることが特に好ましい。このポリマーの重量平均分子量が上記範囲であると、熱処理後のフィルムにおいて、厚さ方向の熱伝導性、耐熱性、強度及び剛性に優れる。
【0030】
ポリマーの融点Tm又は5質量%減量温度Tdは、多孔質膜の耐熱性の観点から、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、280℃以上であることが更に好ましく、300℃以上500℃以下であることが特に好ましい。
本開示における融点Tmは、示差走査熱量分析(DSC)装置を用いて測定するものとする。
また、本開示における5質量%減量温度Tdは、熱重量分析(TGA)装置を用いて測定するものとする。
【0031】
ポリマーのガラス転移温度Tgは、多孔質膜の耐熱性の観点から、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、200℃以上280℃未満であることが特に好ましい。
本開示におけるガラス転移温度Tgは、示差走査熱量分析(DSC)装置を用いて測定するものとする。
【0032】
上記溶液は、ポリマーを1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
なお、本開示において、「固形分」とは、溶液等の組成物の組成から溶剤を除いた成分をいい、固体状の成分であっても、液状の成分であっても、これらの混合物であってもよい。
【0033】
-ポリマーと相溶しない化合物-
上記溶液は、ポリマーと相溶しない化合物を含む。
なお、「ポリマーと相溶しない」とは、流延し膜Aを形成した際に、少なくとも膜Aの一部に、上記ポリマーを含まず、相溶しない化合物のみで形成される部分があることを意味する。
上記ポリマーと相溶しない化合物は、ろ過性、及び、高温時におけるろ過性の観点から、25℃において上記ポリマーと相溶しない化合物であることが好ましく、0℃~100℃において上記ポリマーと相溶しない化合物であることがより好ましい。
また、上記ポリマーと相溶しない化合物は、溶出容易性の観点から、水溶性であることが好ましい。
本開示における「水溶性」とは、25℃の水100gに対し、0.1g以上溶解可能であることをいう。
【0034】
上記ポリマーと相溶しない化合物は、分子量1,000未満の低分子化合物であっても、重量平均分子量Mwが1,000以上の高分子化合物であってもよいが、孔形成性、及び、溶出容易性の観点から、重量平均分子量Mwが1,000以上の高分子化合物であることが好ましく、水溶性樹脂であることが好ましい。
水溶性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリ(N-ビニルアセトアミド)、水溶性ポリエステル、又は、水溶性ポリウレタン等が好ましい。中でも、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0035】
上記溶液は、上記ポリマーと相溶しない化合物を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
上記ポリマーと相溶しない化合物の含有量は、揮発成分の低減の観点から、上記溶液の全固形分に対し、10質量%~90質量%であることが好ましく、20質量%~80質量%であることがより好ましく、30質量%~70質量%であることが特に好ましい。
【0036】
また、上記溶液における上記ポリマーと相溶しない化合物の含有量は、ろ過性、及び、高温時におけるろ過性の観点から、ポリマーの全質量に対し、20質量%~500質量%であることが好ましく、25質量%~400質量%であることがより好ましく、30質量%~300質量%であることがより好ましく、50質量%~200質量%であることが特に好ましい。
【0037】
-溶媒-
上記溶液は、溶媒を含む。
溶媒としては、上記ポリマー、及び、上記ポリマーと相溶しない化合物を溶解可能な溶媒であればよいが、有機溶媒であることが好ましく、極性有機溶媒であることがより好ましい。
【0038】
溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1-クロロブタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p-クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド、テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;ヘキサメチルリン酸アミド、トリn-ブチルリン酸等のリン化合物等が挙げられ、それらを2種以上用いてもよい。
【0039】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、特に好ましくは90質量%~100質量%である。また、上記非プロトン性化合物としては、上記ポリマーを溶解し易いことから、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチルピロリドン等のアミド又はγ-ブチロラクトン等のエステルを用いることが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及び、N-メチルピロリドンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒がより好ましく、N-メチルピロリドンであることがより好ましい。
【0040】
また、溶媒として、水を含んでいてもよいが、水を含む場合、上記溶液の全質量に対し、5質量%以下であることが好ましい。
【0041】
上記溶液は、溶媒を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
溶媒の含有量は、溶解性、揮発性、及び、膜形成性の観点から、上記溶液の全質量に対し、30質量%~99質量%であることが好ましく、40質量%~95質量%であることがより好ましく、50質量%~90質量%であることが更に好ましく、60質量%~85質量%であることが特に好ましい。
【0042】
-その他の成分-
また、上記溶液は、上述した以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の添加剤としては、公知の添加剤を用いることができる。具体的には、例えば、膨潤剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤等が挙げられる。
【0043】
上記溶液は、多孔質構造の制御の観点から、膨潤剤を含むことが好ましい。
膨潤剤としては、無機電解質、有機電解質又は高分子電解質が挙げられ、塩化ナトリウム、塩化リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛等の無機酸の金属塩、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム等の有機酸の金属塩、ポリエチレングリコール、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等の高分子電解質等が好ましく挙げられる。
また、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルメチルタウリン酸ナトリウム等のイオン系界面活性剤等を膨潤剤と併用してもよい。
中でも、膨潤剤としては、多孔質構造の制御の観点から、無機酸の金属塩が好ましく、アルカリ金属のハロゲン化物塩がより好ましい。
【0044】
上記溶液は、膨潤剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
膨潤剤の含有量は、多孔質構造の制御の観点から、上記溶液の全質量に対し、0.01質量%~10質量%であることが好ましく、0.1質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0045】
また、上記溶液は、その他の添加剤として、上述した成分以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。
その他の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンとの共重合体等のエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0046】
上記溶液におけるその他の添加剤の総含有量は、ポリマーの含有量100質量部に対して、好ましくは25質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下であり、更に好ましくは5質量部以下である。
【0047】
<浸漬工程>
本開示に係る多孔質膜の製造方法は、上記膜Aを凝固浴に浸漬し膜Bを形成する浸漬工程を含む。
凝固浴の成分としては、特に制限はないが、凝固性、及び、熱伝導性の観点から、水、極性溶媒、又は、水と極性溶媒との混合溶媒であることが好ましく、水、又は、水と極性溶媒との混合溶媒であることがより好ましく、水であることが特に好ましい。
凝固浴に用いる極性溶媒としては、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、セルソルブ類、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
凝固浴の温度としては、凝固性の観点から、0℃~50℃であることが好ましく、10℃~35℃であることがより好ましく、20℃~30℃であることが特に好ましい。
浸漬時間としては、特に制限はなく、適宜選択すればよい。
【0048】
本開示に係る多孔質膜の製造方法は、流延工程後、かつ浸漬工程前において、膜Aに気体を当てる工程を含むことが好ましい。気体を当てる時間を調節ことにより、得られる多孔質膜の支持体とは反対側(空気側ともいう。)の平均孔径を調整することが可能である。
上記気体としては、特に制限はないが、空気であることが好ましい。
また、上記気体の温度は、0℃~50℃であることが好ましく、10℃~35℃であることがより好ましく、20℃~30℃であることが特に好ましい。上記気体の相対湿度は、30~90%であることが好ましく、35~80%であることがより好ましく、40~70%であることが特に好ましい。
上記気体を当てる時間は、特に制限はなく、所望の平均孔径となるように選択すればよい。
【0049】
また、本開示に係る多孔質膜の製造方法は、浸漬工程時又は浸漬工程後において、支持体から膜Bを剥離する工程を含むことが好ましい。
上記剥離は、凝固浴中にて行っても、凝固浴外で行ってもよい。
上記剥離方法としては、特に制限はなく、公知の方法により行うことができる。
剥離時の温度は、特に制限はないが、0℃~50℃であることが好ましい。
剥離速度は、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0050】
<溶出工程>
本開示に係る多孔質膜の製造方法は、上記膜Bから少なくとも一部の上記ポリマーと相溶しない化合物を溶出させ多孔質膜を作製する溶出工程を含む。
溶出工程における溶出方法としては、膜Bと溶出液と接触させる方法が好ましく、膜Bを溶出液に浸漬する方法がより好ましい。
溶出液としては、ある温度において、上記ポリマーを溶解せず、上記ポリマーと相溶しない化合物を溶解する化合物であればよいが、選択的溶出性の観点から、水溶性溶剤が好ましい。
【0051】
水溶性溶剤としては、例えば、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール等)、ポリアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等)などの多価アルコール;ポリアルキレングリコールエーテル(例えば、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル等)などの多価アルコールエーテルが挙げられる。
中でも、選択的溶出性の観点から、多価アルコール又は多価アルコールエーテルが好ましく、多価アルコールがより好ましく、ポリアルキレングリコールが更に好ましく、ジエチレングリコールが特に好ましい。
【0052】
溶出工程における溶出温度は、上記ポリマー等の溶解性、並びに、使用する溶出液の沸点及び融点等にも依存するが、20℃~150℃であることが好ましく、50℃~100℃であることがより好ましく、60℃~90℃であることが特に好ましい。
溶出工程における溶出時間は、特に制限はないが、0.1分~24時間であることが好ましく、0.5分~60分であることがより好ましく、1分~10分であることが特に好ましい。
【0053】
本開示に係る多孔質膜の製造方法は、溶出工程後、多孔質膜を洗浄する工程を含むことが好ましい。
また、本開示に係る多孔質膜の製造方法は、溶出工程又は上記洗浄する工程後、多孔質膜を乾燥する工程を含むことが好ましい。
【0054】
洗浄に用いる洗浄液は、特に制限はないが、水、極性溶媒、又は、水と極性溶媒との混合溶媒であることが好ましく、水、又は、水と極性溶媒との混合溶媒であることがより好ましく、水であることが特に好ましい。
洗浄温度及び洗浄時間は、特に制限はなく、適宜選択することができる。
また、洗浄手段は、特に制限はなく、公知の洗浄手段を用いることができる。
【0055】
乾燥温度及び乾燥時間は、特に制限はなく、適宜選択することができる。
また、乾燥手段は、特に制限はなく、公知の乾燥手段を用いることができる。
【0056】
本開示に係る多孔質膜の製造方法は、分子配向を制御し、線膨張係数や力学物性を調整する観点で、適宜、上記膜B又は上記多孔質膜を延伸する工程を含んでいてもよい。
延伸の方法は、特に制限はなく、公知の方法を参照することができる。延伸は、溶媒を含んだ状態の膜に対して実施してもよく、乾膜に対して実施してもよい。溶媒を含んだ状態の膜に対する延伸は、溶媒を含んだ状態の膜を把持して伸長してもよく、伸長せずに溶媒を含んだ状態の膜乾燥によるウェブの自己収縮力を利用して実施してもよく、それらの組み合わせでもよい。延伸は、無機フィラー等の添加によってフィルム脆性が低下した場合に、破断伸度や破断強度を改善する目的で特に有効である。
【0057】
本開示に係る多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜のJIS K7196(2012)に規定する軟化温度は、190℃以上であり、膜強度、及び、高温時のろ過性の観点から、200℃~500℃であることが好ましく、210℃~450℃であることがより好ましい。なお、上記軟化温度は、JIS K7196(2012)に準じて求めるが、必要に応じて、多孔質膜を複数枚重ねて評価することもできる。
【0058】
本開示に係る多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜の空隙率は、膜強度、ろ過性、及び、高温時のろ過性の観点から、25体積%~75体積%であることが好ましく、30体積%~70体積%であることがより好ましく、40体積%~60体積%であることが特に好ましい。
【0059】
本開示における多孔質膜の空隙率の測定方法は、以下の通りである。
多孔質膜をUVレジンで包埋し、ミクロトームで切削して断面評価用サンプルを作製する。続けて、走査型電子顕微鏡を用いて、断面の形態を観察し、多孔質膜の空隙率を算出する。断面サンプルは3ヶ所以上切り出し、各断面に置いて、3点以上空隙率を評価し、それらの平均値を空隙率とする。
【0060】
本開示に係る多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜が、膜強度、ろ過性、及び、高温時のろ過性の観点から、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造又は海島構造を有することが好ましく、共連続構造、シリンダー構造又はラメラ構造を有することがより好ましく、共連続構造又はシリンダー構造を有することが更に好ましい。
【0061】
本開示に係る多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜の平均孔径は、膜強度、ろ過性、及び、高温時のろ過性の観点から、一方の面と他方の面とで異なることが好ましく、一方の面と他方の面とで異なり、かつ上記多孔質膜の厚み方向において平均孔径が連続的に変化していることがより好ましい。
また、膜強度、ろ過性、及び、高温時のろ過性の観点から、上記多孔質膜の厚み方向における平均孔径の変化率に、変曲点があることが好ましい。
なお、上記平均孔径の変化率及び変曲点は、多孔質膜を厚み方向において切断した5か所以上の断面を確認し、多孔質膜の厚み方向の平均孔径を測定し、その変化率及び変曲点を求めるものとする。
【0062】
本開示に係る多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜の一方の面における平均孔径は、膜強度、ろ過性、及び、高温時のろ過性の観点から、0.5μm~100μmであることが好ましく、0.8μm~20μmであることがより好ましく、1μm~10μmであることが特に好ましい。
また、本開示に係る多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜の最緻密部における平均孔径は、膜強度、ろ過性、及び、高温時のろ過性の観点から、0.01μm~10μmであることが好ましく、0.02μm~1μmであることがより好ましく、0.05μm~0.5μmであることが特に好ましい。
また、上記範囲である場合、上記多孔質膜の一方の面における平均孔径よりも、上記多孔質膜の他方の面における平均孔径のほうが小さいことが好ましい。
なお、本開示における「多孔質膜の最緻密部」とは、多孔質膜の膜厚方向において、平均孔径が小さくなっている部分をいう。
【0063】
本開示に係る多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜は、上記ポリマーと相溶しない化合物を含んでいてもよい。
すなわち、本開示に係る多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜は、上記ポリマーと相溶しない化合物が残留していてもよい。
本開示に係る多孔質膜の製造方法により得られた多孔質膜における上記ポリマーと相溶しない化合物の含有量は、多孔質膜の全質量に対し、5質量%以下であることが好ましく、0.001質量%~5質量%であることがより好ましく、0.01質量%~3質量%であることが特に好ましい。
【0064】
また、本開示に係る多孔質膜の製造方法は、上述した以外の他の工程を含んでいてもよい。
他の工程としては、公知の工程を含むことができる。
【0065】
(多孔質膜)
本開示に係る多孔質膜は、JIS K7196(2012)に規定する軟化温度が、190℃以上であり、空隙率が、25体積%~75体積%である。
【0066】
本発明者が鋭意検討した結果、上記構成をとることにより、高温時におけるろ過性に優れる多孔質膜を提供できることを見出した。
上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。
上記軟化温度が190℃以上である多孔質膜であることから、ポリマー部分は、耐熱性に優れることに加え、上記空隙率の範囲であることから、耐熱性を維持しつつ、空隙部分の断熱性により、得られる多孔質膜の高温(150℃超)時におけるろ過性に優れると推定している。
【0067】
また、本開示に係る多孔質膜は、本開示に係る多孔質膜の製造方法により製造された多孔質膜であることが好ましい。
また、本開示に係る多孔質膜の好ましい態様は、後述する以外は、本開示に係る多孔質膜の製造方法により製造された多孔質膜の好ましい態様と同様である。
【0068】
本開示に係る多孔質膜のJIS K7196(2012)に規定する軟化温度は、190℃以上であり、膜強度、及び、高温時のろ過性の観点から、200℃~500℃であることが好ましく、210℃~450℃であることがより好ましい。
【0069】
本開示に係る多孔質膜の空隙率は、25体積%~75体積%であり、膜強度、ろ過性、及び、高温時のろ過性の観点から、30体積%~70体積%であることが好ましく、40体積%~60体積%であることがより好ましい。
【0070】
<用途>
開示に係る多孔質膜の製造方法により製造された多孔質膜、及び、本開示に係る多孔質膜は、種々の用途に用いることができる、中でも、フィルター、通気性フィルム、分離膜、電解質膜、低誘電フィルム、断熱フィルム等に好適に用いることができる。
【実施例0071】
以下に実施例を挙げて本開示を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本開示の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0072】
〔ろ過性評価1〕
多孔質膜をハウジングにセットし、ポリスチレンラテックス(平均粒子サイズ0.3μm)を0.01質量%含有する水溶液を、差圧0.01MPaとして室温(25℃)でろ過を行い、粒子の捕捉率を評価した。
【0073】
〔ろ過性評価2(高温時におけるろ過性評価)〕
多孔質膜をハウジングにセットし、シリカ粒子(平均粒子サイズ0.3μm)を0.01質量%含有する機械油分散液を、差圧0.01MPaとして180℃でろ過を行い、粒子の捕捉率を評価した。
【0074】
<<製造例>>
<ポリマー>
LC-A:下記製造方法に従って作製した液晶ポリマー
【0075】
-LC-Aの製造-
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸940.9g(5.0モル)、4-ヒドロキシアセトアミノフェン377.9g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)及び無水酢酸867.8g(8.4モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、撹拌しながら、室温(23℃)から140℃まで60分かけて昇温し、140℃で3時間還流させた。
次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで5時間かけて昇温し、300℃で30分保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温(23℃)まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステル(B1)を得た。この液晶ポリエステル(B1)の流動開始温度は、193.3℃であった。
【0076】
上記で得た液晶ポリエステル(B1)を、窒素雰囲気下、室温(23℃)から160℃まで2時間20分かけて昇温し、次いで160℃から180℃まで3時間20分かけて昇温し、180℃で5時間保持することにより、固相重合させた後、冷却し、次いで、粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステル(B2)を得た。この液晶ポリエステル(B2)の流動開始温度は、220℃であった。
【0077】
上記で得た液晶ポリエステル(B2)を、窒素雰囲気下、室温(23℃)から180℃まで1時間25分かけて昇温し、次いで180℃から255℃まで6時間40分かけて昇温し、255℃で5時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(B)(LC-A)を得た。LC-Aの流動開始温度は、280℃であった。
【0078】
<他素材>
PVP-A:市販のポリビニルピロリドン(ピッツコールK-50、第一工業製薬(株)製)を用いた。また、PVP-Aは、0℃~100℃においてLC-Aと相溶しない化合物である。
PSU-A:市販のポリスルホン(ユーデルP-3500、ソルベイジャパン(株)製)を用いた。また、PSU-Aは、0℃~100℃においてLC-Aと相溶する化合物である。
【0079】
(実施例1)
下記の方法により多孔質膜を作製した。
【0080】
〔製膜〕
-ポリマー溶液の調製-
LC-A 15質量部をN-メチル-2-ピロリドン72質量部に加え、窒素雰囲気下、140℃4時間撹拌し、溶液化した。続けて、PVP-A 13質量部、塩化リチウム1.0質量部、及び、水1.2質量部を添加し、均一に溶解した。
続いて、最初に、公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルターを通過させ、ついで同じく公称孔径10μmの焼結繊維フィルターを通過させ、ポリマー溶液を得た。
【0081】
-製膜-
ポリマー溶液をガラス板上に製品厚さ180μmになるようキャステイングコーターを通して流延し、25℃相対湿度50%に調節した空気を風速1.2m/secで流延した液膜表面に当てた後、直ちに25℃の水を満たした凝固浴槽へ浸漬した。このとき、液膜表面に空気を当てる時間を調節することにより、膜の孔径を調整した。
得られた膜は、凝固後水中でガラス板より剥離し、75℃のジエチレングリコール中で5分間洗浄処理(溶出処理)を行い、更に水洗及び乾燥を行った。
【0082】
-焼成-
更に、得られた膜を280℃の窒素雰囲気下で3時間加熱し、多孔質膜1を得た。
【0083】
(実施例2)
実施例1の液膜表面に空気を当てる時間を半分にした以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜2を作製した。
【0084】
(実施例3)
実施例2における各素材の添加量を表1に記載の値に変更した以外は、実施例2と同様にして、多孔質膜3を作製した。
【0085】
(実施例4)
実施例1の得られる多孔質膜の製品厚さを220μmになるように流延条件を変更した以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜4を作製した。
【0086】
(実施例5)
実施例1の液膜表面に空気を当てる時間を3倍にした以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜5を作製した。
【0087】
(比較例1)
実施例1のLCP-AをPSU-Aに代え、焼成工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜3を作製した。
【0088】
得られた各多孔質膜に対し、上記ろ過性評価1及び2を行った。評価結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
実施例1~5の多孔質膜において、最緻密部分は、膜厚方向中央よりも空気界面に近い側(支持体側と反対側の面に近い側)に形成されていることを確認した。
【0091】
表1に示すように、実施例1、実施例2では、高温でも十分なろ過精度が得られた。一方、比較例1では、室温では十分なろ過精度が得られていたものの、高温で使用した際にろ過精度が悪化することが分かった。