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特開2022-129193生体電極、生体電極の製造方法、生体電気信号の測定方法
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  • 特開-生体電極、生体電極の製造方法、生体電気信号の測定方法 図1
  • 特開-生体電極、生体電極の製造方法、生体電気信号の測定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129193
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】生体電極、生体電極の製造方法、生体電気信号の測定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/266 20210101AFI20220829BHJP
【FI】
A61B5/04 300Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027799
(22)【出願日】2021-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴登
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127LL24
4C127LL30
(57)【要約】
【課題】本発明は、長時間装着した際、皮膚のかぶれをより抑制し、かつ、測定精度により優れる生体電極を提供することを課題とする。また、本発明は、生体電極の製造方法、及び、生体電気信号の測定方法を提供することも課題とする。
【解決手段】生体に接触させて使用する生体電極であって、透湿性を有する絶縁性樹脂基材と、上記絶縁性樹脂基材上に配置された電極層とを有し、上記電極層が金属粒子と親水性高分子とを含み、上記電極層の厚みが1~5μmである、生体電極。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に接触させて使用する生体電極であって、
透湿性を有する絶縁性樹脂基材と、前記絶縁性樹脂基材上に配置された電極層とを有し、
前記電極層は、金属粒子と親水性高分子とを含み、
前記電極層の厚みは、1~5μmである、生体電極。
【請求項2】
前記親水性高分子が、ゾルゲル転移温度が35℃以上55℃以下の親水性高分子である、請求項1に記載の生体電極。
【請求項3】
前記電極層が、前記親水性高分子を2種以上含む、請求項1又は2に記載の生体電極。
【請求項4】
前記親水性高分子が、ゼラチン、ポリオキシアルキレン、ポリアクリル酸及びその塩、並びに、ポリエチレンオキサイドからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項5】
前記親水性高分子が、ゼラチンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項6】
前記親水性高分子が、ゼラチン、及び、ポリアクリル酸又はその塩を含み、
前記親水性高分子の合計含有量に対する前記ゼラチンの含有量が、25~55質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項7】
前記金属粒子の平均粒子径が250nm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項8】
前記金属粒子が銀粒子である、請求項1~7のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項9】
前記金属粒子の含有量が、前記電極層に対して1~20g/mである、請求項1~8のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項10】
前記電極層において、前記金属粒子の含有量に対する前記親水性高分子の含有量の比率が、質量比で0.1~1.5である、請求項1~9のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項11】
前記絶縁性樹脂基材の厚みが、20μm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項12】
前記絶縁性樹脂基材が、ポリウレタンを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項13】
前記生体電極の透湿度が200g/m/24h以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項14】
前記電極層が、前記金属粒子及び前記親水性高分子を含むメッシュパターン構造を有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項15】
仮支持体上に、親水性高分子及び金属粒子を含む感光性樹脂組成物を塗布して感光性層を形成する塗布工程と、
前記感光性層をパターン露光する露光工程と、
パターン露光された前記感光性層を現像して、前記仮支持体及び前記電極層を有する転写部材を作製する現像工程と、
前記転写部材と絶縁性樹脂基材とを、前記電極層側の主面が前記絶縁性樹脂基材の表面に接するように貼り合わせる転写工程と、
前記転写工程後に前記仮支持体を前記電極層から剥離する剥離工程と、を有する、
請求項1~14のいずれか1項に記載の生体電極の製造方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載の生体電極の電極層側の主面を生体の皮膚の表面に接触させ、前記生体電極を設置する設置工程と、
前記電極層を用いて前記生体の電気信号を検知する信号検知工程と、を有する、生体電気信号の測定方法。
【請求項17】
前記電極層が、ゾルゲル転移する親水性高分子を含み、
前記設置工程において、前記ゾルゲル転移する親水性高分子のゾルゲル転移温度を超える温度で前記電極層を加熱する加熱処理を行う、
請求項16に記載の生体電気信号の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体電極、生体電極の製造方法、及び、生体電気信号の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野及びヘルスケア分野において、皮膚の表面に設置した生体電極を用いた心臓、筋肉及び脳等の組織から発生する電気信号の測定が広く行われている。これらの分野で利用されている生体電極として、従来、金、銀、白金及び銅等の高導電性金属の薄板が使用されている。
これらの生体電極は、皮膚との密着性が悪いこと、皮膚からの電気信号の検知が不十分であること、金属がアレルゲンとなって炎症を起こすおそれがあること等の理由から、電極層をゲル及びペースト等の接着層を介して皮膚表面に設置する技術が知られている。また、皮膚の乾燥により皮膚表面のインピーダンス(抵抗)が上昇することにより引き起こされるノイズの発生及び電気信号の検出レベルの低下を抑制するため目的で、接着層として水分を含有するゲル又はペースト用いる技術も知られている。
【0003】
近年では、IoT(Internet of Things)の普及に伴い、インターネットに接続し、生体信号を継続的に測定して体の状態を常時監視することにより、異常の兆候をリアルタイムに検出できる医療システム(ウェアラブルデバイス)の開発が進んでいる。例えば、心電計をウェアラブルデバイスとして用いる場合、数日間又はそれ以上の期間、連続して心臓からの電気信号(心電図信号)の測定を行うため、心電計に用いる生体電極には、長時間使用した場合にも電気信号の測定値の変動が少ないことが求められる。
【0004】
生体の皮膚からの電気信号を検知する生体電極として、例えば、特許文献1には、導電性基材と導電性基材上に形成された生体接触層とを有し、生体接触層が特定の繰り返し単位を有する高分子化合物を含有する生体電極組成物の硬化物である生体電極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-141412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、特許文献1を参考にして生体電極を作製し、生体電極を皮膚に長期間連続して装着した場合についてより詳細に検討したところ、上記の皮膚表面の乾燥により引き起こされる測定精度への影響に加えて、皮膚に対して好ましくない生理作用が生じ得ることを知見した。
即ち、生体電極を皮膚に長期間連続して装着した場合、表皮に発赤、腫れ及び水疱等の、いわゆる「かぶれ」の症状が現れることがある。この皮膚のかぶれの症状は、特許文献1に記載されているような生体電極では、皮膚表面が金属製の電極板によって常時被覆されるため、長時間の連続装着時に、発汗により皮膚の表面が過剰に蒸れた状態になる結果、引き起こされると推測される。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みて、長時間装着した際、皮膚のかぶれをより抑制し、かつ、測定精度により優れる生体電極を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記の生体電極の製造方法、及び、生体電気信号の測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
〔1〕 生体に接触させて使用する生体電極であって、透湿性を有する絶縁性樹脂基材と、上記絶縁性樹脂基材上に配置された電極層とを有し、上記電極層は、金属粒子と親水性高分子とを含み、上記電極層の厚みは、1~5μmである、生体電極。
〔2〕 上記親水性高分子が、ゾルゲル転移温度が35℃以上55℃以下の親水性高分子である、〔1〕に記載の生体電極。
〔3〕 上記電極層が、上記親水性高分子を2種以上含む、〔1〕又は〔2〕に記載の生体電極。
〔4〕 上記親水性高分子が、ゼラチン、ポリオキシアルキレン、ポリアクリル酸及びその塩、並びに、ポリエチレンオキサイドからなる群より選択される少なくとも1つを含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の生体電極。
〔5〕 上記親水性高分子が、ゼラチンを含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の生体電極。
〔6〕 上記親水性高分子が、ゼラチン、及び、ポリアクリル酸又はその塩を含み、
上記親水性高分子の合計含有量に対する上記ゼラチンの含有量が、25~55質量%である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の生体電極。
〔7〕 上記金属粒子の平均粒子径が250nm以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の生体電極。
〔8〕 上記金属粒子が銀粒子である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の生体電極。
〔9〕 上記金属粒子の含有量が、上記電極層に対して1~20g/mである、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の生体電極。
〔10〕 上記電極層において、上記金属粒子の含有量に対する上記親水性高分子の含有量の比率が、質量比で0.1~1.5である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の生体電極。
〔11〕 上記絶縁性樹脂基材の厚みが、20μm以下である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の生体電極。
〔12〕 上記絶縁性樹脂基材が、ポリウレタンを含む、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の生体電極。
〔13〕 上記生体電極の透湿度が200g/m/24h以上である、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の生体電極。
〔14〕 上記電極層が、上記金属粒子及び上記親水性高分子を含むメッシュパターン構造を有する、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載の生体電極。
〔15〕 仮支持体上に、親水性高分子及び金属粒子を含む感光性樹脂組成物を塗布して感光性層を形成する塗布工程と、上記感光性層をパターン露光する露光工程と、パターン露光された上記感光性層を現像して、上記仮支持体及び上記電極層を有する転写部材を作製する現像工程と、上記転写部材と絶縁性樹脂基材とを、上記電極層側の主面が上記絶縁性樹脂基材の表面に接するように貼り合わせる転写工程と、上記転写工程後に上記仮支持体を上記電極層から剥離する剥離工程と、を有する、〔1〕~〔14〕のいずれかに記載の生体電極の製造方法。
〔16〕 〔1〕~〔14〕のいずれかに記載の生体電極の電極層側の主面を生体の皮膚の表面に接触させ、上記生体電極を設置する設置工程と、上記電極層を用いて上記生体の電気信号を検知する信号検知工程と、を有する、生体電気信号の測定方法。
〔17〕 上記電極層が、ゾルゲル転移する親水性高分子を含み、上記設置工程において、上記ゾルゲル転移する親水性高分子のゾルゲル転移温度を超える温度で上記電極層を加熱する加熱処理を行う、〔16〕に記載の生体電気信号の測定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長時間装着した際、皮膚のかぶれをより抑制し、かつ、測定精度により優れる生体電極を提供できる。また、本発明によれば、上記の生体電極の製造方法、及び、上記の生体電極を用いる生体電気信号の測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】生体電極の一実施態様を表す平面図である。
図2】電極層が有するメッシュパターン構造の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されない。
【0013】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、ある成分が2種以上存在する場合、その成分の「含有量」は、それら2種以上の成分の合計含有量を意味する。
本明細書において、「g」及び「mg」は、「質量g」及び「質量mg」をそれぞれ表す。
また、本明細書において、「高分子」又は「高分子化合物」は、重量平均分子量が2000以上である化合物を意味する。ここで、重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)測定によるポリスチレン換算値として定義される。
本明細書において「準備」というときには、特定の材料を合成又は調合して備えることのほか、購入等により所定の物を調達することを含む意味である。
本明細書における「放射線」とは、例えば、遠紫外線、極紫外線(EUV:Extreme ultraviolet)、X線、又は、電子線等を意味する。また、本発明において光とは、活性光線又は放射線を意味する。本明細書における「露光」とは、特に断らない限り、遠紫外線、X線又はEUV等による露光のみならず、電子線又はイオンビーム等の粒子線による描画も露光に含める。
【0014】
[生体電極]
本発明に係る生体電極(以下「本生体電極」ともいう)は、透湿性を有する絶縁性樹脂基材と、絶縁性樹脂基材上に配置された電極層とを有し、電極層は金属粒子と親水性高分子とを含み、電極層の厚みが1~5μmである。上記の構成を有する本生体電極は、長時間装着した際の皮膚のかぶれを抑制するとともに、優れた測定精度を有する。
以下、本生体電極により奏される、長時間装着時の皮膚かぶれを抑制する効果、及び、測定精度に優れる効果の少なくとも一方を「本発明の効果」ともいう。
【0015】
本生体電極の構成について、図面を参照しながら説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各構成要素(部材)を図面上で認識可能な程度の大きさとするために、構成要素ごとに縮尺を適宜変更している。本発明の生体電極は、これらの図面に記載された、構成要素の数量、形状、及び、大きさの比率、並びに、各構成要素の相対的な位置関係のみに制限されるものではない。
【0016】
図1は、本発明に係る生体電極10の構成の一例を示す平面図である。
生体電極10は、絶縁性樹脂基材12と、絶縁性樹脂基材12の表面に配置された2枚の電極層14とを有する。生体電極10には、電極層14の端部に接触している配線部16と、配線部16と絶縁性樹脂基材12の周縁部において接触している導線18とを有する。配線部16及び導線18は、電極層14ごとに個別に設けられている。また、導線18は、図示しない外部接続端子と電気的に接続している。
生体電極10は、生体に接触させて使用する。より具体的には、生体電極10が有する電極層14を生体に接触させることにより、電極層14が生体の組織(例えば、心臓、筋肉及び脳等)から発生する生体電気信号を検出し、検出された生体電気信号に応じた生体電極の電位変化が、配線部16、導線18及び外部接続端子を介して電極層14に電気的に接続した測定装置によって測定される。
【0017】
なお、本生体電極は、上記で説明した図1に示す態様に制限されない。
例えば、図1に示す生体電極10では、1枚の絶縁性樹脂基材12の表面に2枚の電極層14が配置されているが、電極層の個数はこれに制限されず、生体電極は、1枚又は3枚以上の電極層を備えていてもよい。
また、電極層は、絶縁性樹脂基材の表面に直接接していてもよく、他の層を介して絶縁性樹脂基材に積層されていてもよい。
また、図1に示す生体電極10では、電極層14の平面視における形状が正方形であるが、後述するように、電極層の形状は、使用する生体電気信号の測定装置及び測定方法に適切な形状であれば、特に制限されない。
以下、本生体電極が備える各部材について、より詳細に説明する。
【0018】
〔絶縁性樹脂基材〕
本生体電極が備える絶縁性樹脂基材(以下、単に「樹脂基材」ともいう)は、透湿性及び絶縁性を有する樹脂製の基材であれば特に制限されない。
本生体電極は、電極層の支持体としてこのような樹脂基材を備えることにより、皮膚表面の電極層が重なった領域における過剰な水蒸気が発散され、皮膚のかぶれを抑制できると推測される。
また、本生体電極が備える樹脂基材は可撓性を有することから、生体電極の皮膚への追従性に優れる。
【0019】
本明細書において、樹脂基材が「絶縁性」であるとは、樹脂基材の抵抗値が1012Ω以上であることをいう。
【0020】
また、本明細書において、「樹脂基材が透湿性を有する」とは、後述する試験法により測定される水蒸気透過度(以下、単に「透湿度」という)が、250g/m/24h以上であることをいう。
樹脂基材は、280g/m/24h以上の透湿度を有することが好ましい。樹脂基材の透湿度の上限値は特に制限されないが、350g/m/24h以下が好ましい。
樹脂基材の透湿度は、樹脂基材を構成する材料及び樹脂基材の厚みを適宜選択することにより、調整できる。
【0021】
<透湿度測定>
樹脂基材及び生体電極の透湿度の測定は、JIS-Z-0208(1976)を参考にして、カップ法により実施する。
まず、透湿度測定用試料から直径2cmの円形試料を切り出す。次に、開口部が面積1cmの円形である測定カップ内に乾燥させた2gの塩化カルシウムを入れ、次いで上記円形試料によって開口部に蓋をすることにより、蓋付き測定カップを準備する。
この蓋付き測定カップを、恒温恒湿槽内にて25℃、80%相対湿度(RH)の条件で24時間放置する。放置前後での蓋付き測定カップの質量変化から、円形試料の水蒸気透過度(単位:g/m/24h)を算出する。
上記測定を3回実施し、水蒸気透過度の平均値を透湿度として算出する。
【0022】
樹脂基材を構成する樹脂としては、例えば、ポリウレタン及びポリエチレンオキサイド等の非電解性ポリマー、並びに、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルピリジン、ポリアミノ酸及びこれらの塩が挙げられる。また、樹脂基材に微細な空孔を設けることで透湿性を向上させることもできる。
なかでも、透湿性がより優れる点で、ポリウレタン又は微多孔質ポリエチレンが好ましく、ポリウレタンがより好ましい。
樹脂基材は、上記樹脂以外の成分を含んでいてもよい。
【0023】
樹脂基材を構成する樹脂は、1種単独であっても、2種以上の組合せであってもよい。
樹脂基材における樹脂の含有量は、樹脂基材の全質量に対して80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。上限値は特に制限されず、樹脂基材の全質量に対して100質量%であってよい。
【0024】
また、樹脂基材は、上記の樹脂からなる層を単独で有してもよく、多層構造であってもよい。多層構造である樹脂基材としては、上記の樹脂からなる絶縁性樹脂支持体と、密着層とを有する態様が挙げられる。
樹脂基材としては、生体電気信号の測定精度がより優れる点で、上記の樹脂からなる絶縁性樹脂支持体と上記の電極層とが直接接触していることが好ましい。
【0025】
密着層を構成する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、及び、シリコーン樹脂が挙げられる。密着層を設けることにより、樹脂基材の電極層に対する密着性がより向上する。また、密着層を構成する樹脂は、生体適合性を有し、低アレルギー性である樹脂が好ましい。
密着層の形成方法は特に制限されず、例えば、上記樹脂を含む密着層形成用組成物を樹脂基材の表面に塗布して、必要に応じて加熱処理を施す方法が挙げられる。また、密着層形成用組成物を電極層の表面に塗布した後、塗膜が絶縁性樹脂支持体と接するように絶縁性樹脂支持体と電極層を貼り合わせることにより、多層構造である樹脂基材を作製してもよい。密着層形成用組成物には、必要に応じて、溶剤が含まれていてもよい。溶剤の種類は特に制限されず、後述する感光性層形成用組成物で使用される溶剤が例示される。また、密着層形成用組成物として、上記樹脂の粒子を含むラテックスを使用してもよい。
密着層の厚みは特に制限されず、本発明の効果がより優れる点で、1~20μmが好ましく、5~10μmがより好ましい。
【0026】
樹脂基材の厚みは特に制限されないが、透湿性がより優れる点で、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下が更に好ましい。
樹脂基材の厚みの下限は特に制限されないが、強度の点で5μm以上が好ましい。
【0027】
〔電極層〕
<成分>
本生体電極において、電極層は、金属粒子と親水性高分子とを少なくとも含む。
【0028】
(金属粒子)
電極層に含まれる金属粒子は、電極層の導電特性を担保する部分である。金属粒子を構成する金属としては、例えば、銀、銅、金、ニッケル、パラジウム及び白金が挙げられる。
金属粒子としては、導電特性がより優れる点で、銀単体、又は、銀と、銅、金、ニッケル及びパラジウムからなる群より選択される1つ以上の金属との合金又は混合物からなる粒子が好ましく、銀単体からなる銀粒子、又は、銀と銅との合金からなる粒子がより好ましく、銀単体からなる銀粒子が更に好ましい。
電極層は、金属粒子を1種単独で含んでいてもよく、2種以上の組合せを含んでいてもよい。
【0029】
金属粒子の平均粒子径は、特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、150nm以下がより好ましい。下限値は特に制限されないが、10nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。
本明細書において、金属粒子の平均粒子径は、球相当径、即ち、対象金属粒子と同じ体積を有する球形粒子の直径を意味する。また、金属粒子の平均粒子径として用いられる球相当径は、平均値であり、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて電極層の厚み方向の断面を観察し、任意に選択された100個の対象金属粒子の球相当径を測定して、それらを算術平均して得られる値である。
なお、金属粒子して市販品を使用する場合、その市販品のカタログ値を金属粒子の球相当径としてもよい。
【0030】
金属粒子の形状は特に制限されず、例えば、球状、立方体状、平板状(六角形平板状、三角形平板状及び四角形平板状等)、八面体状、並びに、十四面体状等の形状が挙げられる。
電極層における金属の含有量は特に制限されず、電極層の導電性がより優れ、生体電気信号の測定精度がより優れる点で、電極層の面積当たりの金属粒子の含有量が1.0~20.0g/mであることが好ましく、5.0~15.0g/mであることがより好ましい。
電極層は、複数の金属粒子が親水性高分子等の成分に分散してなる構造を有することが好ましい。
【0031】
(親水性高分子)
電極層に含まれる親水性高分子は、親水性を有する高分子であれば、特に制限されない。
本明細書において、高分子化合物が「親水性」であるとは、水1Lに10gの高分子化合物を添加して混合して得られる混合液が、凝集又は沈殿を生じず、高分子化合物が均一に溶解した溶液であることを意味する。
【0032】
親水性高分子としては、例えば、ゼラチン、ポリオキシアルキレン、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシエチルセルロース、並びに、キサンタンガムが挙げられ、本発明の効果がより優れる点で、ゼラチン、ポリオキシアルキレン、ポリアクリル酸及びその塩、並びに、ポリエチレンオキサイドからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
なかでも、皮膚への追従性に優れ、長時間測定を行う際における生体電気信号の測定精度の安定性により優れる点では、親水性高分子は、ゼラチンを含むことが好ましい。
また、生体電気信号のS/N比がより優れる点では、親水性高分子は、ポリオキシアルキレン、ポリアクリル酸及びその塩、並びに、ポリエチレンオキサイドからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0033】
生体電極は、皮膚への追従性がより優れ、生体電気信号の測定精度がより向上する点で、ゾルゲル転移する親水性高分子を含むことが好ましい。
ここで、「ゾルゲル転移する」とは、低温側で高粘度である高分子化合物が、温度の上昇に従ってある温度で急激に粘度が低下する性質を有することを意味し、その粘度が低下する温度を「ゾルゲル転移温度」という。
ゾルゲル転移する親水性高分子のゾルゲル転移温度は、60℃以下が好ましく、35~55℃がより好ましく、40~50℃が更に好ましい。ゾルゲル転移温度が35~55℃である親水性高分子としては、例えば、ゼラチンが挙げられる。
【0034】
高分子化合物のゾルゲル転移温度は、ヒートプレート上にゲル状の試験片を置き、ヒートプレートを加熱していき、試験片の形状が崩れる温度を測定し、これをゾルゲル転移温度として求めることができる。また、市販の粘弾性測定装置(例えば、Physica社製粘弾性測定装置MCR300)を用いて測定できる。
【0035】
電極層は、親水性高分子を1種単独で含んでいてもよいが、本発明の効果がより優れる点で、2種以上の親水性高分子を含むことが好ましい。
電極層が2種以上の親水性高分子を含む場合、ゼラチンと、ゼラチン以外の1種以上の親水性高分子とを含むことが好ましく、ゼラチンと、ポリアクリル酸又はその塩とを含むことがより好ましい。
【0036】
電極層がゼラチンとゼラチン以外の1種以上の親水性高分子とを含む場合、親水性高分子の合計含有量に対するゼラチンの含有量は、20~60質量%が好ましく、25~55質量%がより好ましく、30~50質量%が更に好ましい。
【0037】
ゼラチンの種類は特に制限されず、例えば、石灰処理ゼラチン、及び、酸処理ゼラチンが挙げられる。また、ゼラチンの加水分解物、ゼラチンの酵素分解物、並びに、アミノ基及び/又はカルボキシル基で修飾されたゼラチン(フタル化ゼラチン、及び、アセチル化ゼラチン)を用いてもよい。
【0038】
親水性高分子の重量平均分子量は特に制限されず、2000~1000000が好ましく、3000~750000がより好ましく、5000~500000が更に好ましい。
【0039】
電極層における親水性高分子の含有量は特に制限されず、電極層の面積当たりの親水性高分子の含有量が、0.5~4.0g/mであることが好ましく、1.0~3.0g/mであることがより好ましい。
【0040】
電極層においては、皮膚かぶれの抑制能及び生体電気信号の測定精度がバランス良く優れる点で、金属粒子の含有量に対する親水性高分子の含有量の比率が、質量比で0.1~2.0であることが好ましく、0.15~1.5であることがより好ましい。
【0041】
(任意成分)
電極層は、親水性高分子以外の他の高分子化合物を含んでいてもよい。
上記他の高分子化合物としては、疎水性高分子(非水溶性高分子)が挙げられ、より具体的には、(メタ)アクリレート系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリジエン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系重合体、及び、キトサン系重合体からなる群から選ばれる樹脂、又は、これらの樹脂を構成する単量体からなる共重合体等が挙げられる。
【0042】
電極層には、必要に応じて、上述した材料以外の材料が含まれていてもよい。
電極層には、上記親水性高分子同士を架橋するために使用される架橋剤が含まれていてもよい。架橋剤が含まれることにより、親水性高分子同士間での架橋が進行し、電極槽中の金属粒子同士の電気的接続が保たれる。
【0043】
また、後述するハロゲン化銀を用いて露光及び現像を行う方法により電極層を形成する場合、電極層には、ハロゲン化銀の安定化及び高感度化のために用いられるロジウム化合物及びイリジウム化合物等の8族及び9族に属する金属化合物が含まれていてもよい。電極層に含まれていてもよい他の材料としては、特開2009-004348号公報の段落0220~0241に記載されるような、帯電防止剤、造核促進剤、分光増感色素、界面活性剤、カブリ防止剤、硬膜剤、黒ポツ防止剤、レドックス化合物、モノメチン化合物、及び、ジヒドロキシベンゼン類も挙げられる。更に、感光性層には、物理現像核が含まれていてもよい。
【0044】
<構成>
電極層は、金属粒子及び親水性高分子を少なくとも含む金属含有層のみを単独で有していてもよく、上記金属含有層を含む複数の層で構成されていてもよい。
複数の層で構成されている電極層としては、例えば、樹脂基材側から、金属不含有層、金属含有層及び保護層が順に配置している積層体が挙げられる。
【0045】
電極層は、金属含有層の樹脂基材側の表面に、親水性高分子を含み、金属を含有しない金属不含有層を有していてもよい。電極層が金属不含有層を有することにより、樹脂基材と電極層との密着性を向上できる。
金属不含有層における親水性高分子の含有量は特に制限されず、0.03g/m以上の場合が多く、密着性がより優れる点で、1.0g/m以上が好ましい。上限は特に制限されないが、2.0g/m以下の場合が多い。
金属不含有層の厚みは特に制限されず、0.05μm以上の場合が多く、密着性がより優れる点で、1.0μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、3.0μm以下の場合が多い。
【0046】
電極層は、金属含有層の樹脂基材とは反対側の表面に、親水性高分子を含む保護層を有していてもよい。電極層が保護層を有することにより、生体電極の力学特性を改良できる。
保護層における親水性高分子の含有量は、特に制限されず、0.001~0.3g/mが好ましく、0.005~0.1g/mがより好ましい。
保護層の厚みは特に制限されず、0.03~0.3μmが好ましく、0.075~0.2μmがより好ましい。
【0047】
<物性及び形状>
本発明の生体電極は、電極層の厚みが1~5μmである。電極層の厚みは、1~5μmの範囲の中でも、生体電極の透湿性がより優れ、皮膚かぶれの抑制性能がより優れる点では、4μm以下が好ましく、3.5μm以下がより好ましく、生体電気信号の測定精度がより優れる点では、1.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましい。
電極層の厚みは、SEMを用いて得られる生体電極の厚み方向に沿った断面の画像から測定できる。
【0048】
電極層の形状は、使用する生体電気信号の測定装置に合わせた形状であれば特に制限されないが、例えば、平面視において、三角形(正三角形、二等辺三角形及び直角三角形等)、四角形(正方形、長方形、菱形、平行四辺形及び台形等)、(正)六角形、(正)八角形、これら以外の(正)多角形、円、及び、楕円、並びに、これらを組み合わせてなる図形が挙げられ、四角形、円又は楕円が好ましい。
電極層のサイズは特に制限されず、生体電極の使用態様に応じて適切な大きさを選択すればよい。
【0049】
電極層は、電気信号の測定精度が低下しない限り、金属粒子及び親水性高分子を含むメッシュパターン構造を有していてもよい。生体電極の透湿性が向上し、本発明の効果がより優れる点、及び、導電性材料である金属の使用量を抑制し、製造コストを低減できる点で、電極層はメッシュパターン構造を有することが好ましい。
【0050】
図2に、電極層に形成されるメッシュパターン構造の一例を示す。図2に示すメッシュパターン構造20は、交差する複数の金属細線22と、複数の金属細線22により形成される複数の開口部24とを有する。
金属細線22は、金属粒子と親水性高分子とを少なくとも含む。金属細線22の幅は特に制限されず、10~500μmが好ましい。なお、金属細線の線幅とは、電極層の表面に沿った方向のうち金属細線が延在する方向に対して直交する方向における、金属粒子を含む領域(金属含有層)の全長を意味する。
開口部24の一辺の長さLは、特に制限されないが、皮膚かぶれの抑制能及び生体電気信号の測定精度がバランス良く優れる点で、10~500μmが好ましく、20~400μmがより好ましい。なお、「開口部」とは、電極層を平面視したとき、厚み方向のいずれにも金属細線が存在していない領域を意図する。
【0051】
図2に示すメッシュパターン構造を構成する単位格子の形状は正方形であるが、メッシュパターン構造を構成する単位格子の形状は、正方形以外の形状であってもよい。メッシュパターン構造の単位格子は、例えば、多角形状(例えば、三角形、四角形、六角形及びランダムな多角形)であってもよく、単位格子を囲む外周の一部又は全部が曲線であってもよい。
【0052】
電極層がメッシュパターン構造を有する場合の開口率は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、99%以下が挙げられる。
上記の「開口率」は、電極層を平面視したときの、電極層の総面積(=金属細線及び開口部の合計面積)に対する開口部の合計面積(開口部の合計面積/電極層の総面積)の比率を意味する。
【0053】
電極層の形成方法、及び、電極層が有するメッシュパターン構造の形成方法については、〔生体電極の製造方法〕の項目において詳しく説明する。
【0054】
本生体電極は、上記の樹脂基材、及び、上記の電極層以外の他の部材を有していてもよい。上記他の部材としては、例えば、下記の配線部及び粘着層が挙げられる。
【0055】
〔配線部〕
生体電極は、電極層と電気的に接続し、生体電極の電位の変化を外部の測定装置に伝導するための配線部を有していてもよい。
配線部は、上記の機能を有するものであれば、配線部の形状、配線部を構成する材料、及び、配線部の配置はいずれも特に制限されない。例えば、図1に示す態様では、配線部は、樹脂基材の電極層側の表面に沿って配置され、一方の端部が電極層と接触し、他方の端部が樹脂基材の周縁部において導線に接続する構成を有する。
配線部は、上記の構成を有することにより、電極層において検知した生体電気信号に応じて生じた電位の変化を外部の測定装置に伝送できる。
【0056】
配線部としては、導電性を有する材料を含み、所定の導電性を有するものであれば特に制限されないが、金属と高分子化合物とを含有する導電性細線であることが好ましい。
配線部が導電性細線により形成される場合、導電性細線の線幅は、10~500μmが好ましく、20~400μmがより好ましい。
配線部としての導電性細線を形成する方法は特に制限されず、例えば、金属と高分子化合物とを含む組成物を樹脂基材の表面に塗布し、必要に応じて加熱又は硬化処理を施す方法、及び、上記組成物を印刷等の方法により樹脂基材上にパターン状に描画する方法が挙げられる。
【0057】
配線部は、金属線又は針状の金属部材を樹脂基材の電極層側上に配置することにより形成されていてもよい。
また、上記の説明では、配線部は樹脂基材の電極層上に配置されているが、配線部は、生体電極の電極層と、外部の測定装置とを電気的に接続する機能を有するものであれば特に制限されず、例えば、樹脂基材と電極層との境界面において電極層と接続し、厚さ方向に沿って樹脂基材を貫通して、外部配線と電気的に接続する構成を有してもよい。
また、生体電極は、配線部を有さず、外部接続端子に接続する導線等の部材が電極層に直接接続する構成を有してもよい。
【0058】
〔粘着層〕
生体電極は、生体電極を皮膚表面に設置するための粘着層を有していてもよい。
粘着層を設ける領域は特に制限されないが、樹脂基材の電極層側の表面上であって、電極層が積層されていない領域に粘着層を設けることが好ましい。粘着層を設けることにより、電極層を皮膚表面に接触させた状態で生体電極を保持する機能がより向上する。
粘着層を構成する材料、粘着層の形成方法及び厚みは、それぞれ、好ましい態様も含めて上記の樹脂基材が有する密着層と同じであってよい。
【0059】
〔生体電極の製造方法〕
本生体電極の製造方法は、上記の樹脂基板と上記の電極層とを有する積層体を作製する方法であれば、特に制限されない。
生体電極の製造方法としては、例えば、絶縁基材の表面に金属粒子及び親水性高分子を含有する感光性樹脂組成物を塗布する塗布工程と、必要に応じて塗膜をパターン露光する露光工程、及び、露光された塗膜を現像する現像工程等の工程とを行い、電極層を形成する方法、並びに、上記の塗布工程、露光工程及び現像工程に準じて、仮支持体の表面上に電極層を形成して仮支持体と電極層とを有する転写部材を作製する工程と、転写部材と樹脂基材とを転写部材の電極層側の主面が樹脂基材の表面に接するように貼り合わせて電極層を樹脂基材に転写する転写工程と、得られた積層体から仮支持体を剥離する剥離工程と、を有する方法が挙げられる。
以下、上記の転写法により本生体電極を製造する方法について、説明する。
【0060】
<仮支持体>
仮支持体は、感光性層又は電極層を支持し、且つ、剥離可能な支持体である。
仮支持体を構成する材料としては、例えば、ガラス基板、樹脂フィルム及び紙が挙げられ、強度、可撓性及び光透過性の観点から、樹脂フィルムが好ましい。
樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET:polyethylene terephthalate)フィルム、トリ酢酸セルロースフィルム、ポリスチレンフィルム及びポリカーボネートフィルムが挙げられる。中でも、PETフィルムが好ましく、2軸延伸PETフィルムがより好ましい。
【0061】
仮支持体の厚さ(層厚)は、特に制限されず、支持体としての強度、回路配線形成用基板との貼り合わせに求められる可撓性、及び、最初の露光工程で要求される光透過性の観点から、材質に応じて選択すればよい。
仮支持体の厚さは、5~100μmの範囲が好ましく、取扱い易さ及び汎用性の点から、10~50μmの範囲がより好ましい。
また、仮支持体として使用するフィルムには、シワ等の変形、傷などがないことが好ましい。
【0062】
仮支持体の好ましい態様としては、例えば、特開2014-085643号公報の段落0017~段落0018、特開2016-027363号公報の段落0019~0026、国際公開2012/081680号明細書の段落0041~0057、及び、国際公開2018/179370号明細書の段落0029~0040に記載されている態様が挙げられ、これらの公報の内容は本明細書に組み込まれる。
【0063】
電極層を仮支持体の表面上に形成する方法は特に制限されず、公知の方法が採用される。例えば、ハロゲン化銀を用いて露光及び現像を行う方法、仮支持体の全面に金属含有層を形成した後、レジストパターンを用いて金属含有層の一部を除去して、電極層を形成する方法、並びに、金属粒子及び親水性高分子を含む組成物をインクジェット等の公知の印刷方法により仮支持体の表面に吐出して電極層を形成する方法が挙げられる。
なかでも、電極層の導電性がより優れる点で、ハロゲン化銀を用いて露光及び現像を行う方法が好ましい。
【0064】
ハロゲン化銀を用いて露光及び現像を行う方法は、以下の工程を有することが好ましい。
工程A:仮支持体の表面に、ハロゲン化銀と親水性高分子とを含むハロゲン化銀含有感光性層を形成する工程
工程B:ハロゲン化銀含有感光性層を露光した後、現像処理して、金属銀と親水性高分子とを含む電極層を形成する工程
以下、各工程の手順について詳述する。
【0065】
<工程A>
工程Aは、仮支持体の表面に、ハロゲン化銀と親水性高分子とを含むハロゲン化銀含有感光性層(以下、「感光性層」ともいう。)を形成する工程である。本工程により、後述する露光処理が施される感光性層付き仮支持体が製造される。
まず、工程Aで使用される材料及び部材について詳述し、その後、工程Aの手順について詳述する。
【0066】
(ハロゲン化銀)
ハロゲン化銀に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子及びフッ素原子のいずれであってもよく、これらの組合せであってもよい。例えば、塩化銀、臭化銀、又は、ヨウ化銀を主体としたハロゲン化銀が好ましく、塩化銀又は臭化銀を主体としたハロゲン化銀がより好ましい。なお、塩臭化銀、ヨウ塩臭化銀、又は、ヨウ臭化銀も、好ましく用いられる。
ここで、例えば「塩化銀を主体としたハロゲン化銀」とは、ハロゲン化銀組成中、全ハロゲン化物イオンに占める塩化物イオンのモル分率が50%以上のハロゲン化銀をいう。この塩化銀を主体としたハロゲン化銀は、塩化物イオンのほかに、臭化物イオン及び/又はヨウ化物イオンを含んでいてもよい。
【0067】
ハロゲン化銀は、固体粒子状である。ハロゲン化銀粒子の平均粒子径及び形状は、好ましい態様も含めて、電極層に含まれる金属粒子の平均粒子径及び形状と同じであってよい。
【0068】
工程Aにおいて上記成分を含む感光性層を形成する方法は特に制限されないが、生産性の点から、ハロゲン化銀と親水性高分子とを含む感光性層形成用組成物を仮支持体の表面に接触させ、仮支持体の表面に感光性層を形成する方法が好ましい。
【0069】
(感光性層形成用組成物)
感光性層形成用組成物には、上述したハロゲン化銀と親水性高分子とが含まれる。親水性高分子は、必要に応じて、粒子状の形態で感光性層形成用組成物に含まれていてもよい。
感光性層形成用組成物には、必要に応じて、溶剤が含まれていてもよい。溶剤としては、水、有機溶剤(例えば、アルコール類、ケトン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、及び、エーテル類)、イオン性液体、並びに、これらの混合溶剤が挙げられる。
【0070】
感光性層形成用組成物と仮支持体とを接触させる方法は特に制限されず、例えば、感光性層形成用組成物を仮支持体の表面に塗布する方法、及び、感光性層形成用組成物中に仮支持体を浸漬する方法が挙げられる。
感光性層形成用組成物を仮支持体の表面に塗布する方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、グラビアコーター、コンマコーター、バーコーター、ナイフコーター、ダイコーター若しくはロールコーター等の塗布法式、インクジェット方式、又は、スクリーン印刷方式)を適用できる。
なお、上記処理後、必要に応じて、乾燥処理を実施してもよい。
【0071】
(ハロゲン化銀含有感光性層)
上記手順により形成された感光性層は、ハロゲン化銀と親水性高分子とを含む。
感光性層中におけるハロゲン化銀の含有量は特に制限されず、電極層の導電性がより優れる点で、銀換算で1.0~20.0g/mが好ましく、5.0~15.0g/mがより好ましい。なお、銀換算とは、ハロゲン化銀が全て還元されて生成される銀の質量に換算したことを意味する。
感光性層中における親水性高分子の含有量は特に制限されず、電極層の導電性がより優れる点で、0.5~4.0g/mが好ましく、1.0~3.0g/mがより好ましい。
【0072】
<工程B>
工程Bは、感光性層を露光した後、現像処理して、金属銀と親水性高分子とを含む電極層を形成する工程である。
感光性層に露光処理を施すことにより、露光領域において潜像が形成される。
露光はパターン状に実施してもよい。例えば、上記のメッシュパターン構造を形成するためには、メッシュ状の開口パターンを有するマスクを介して露光する方法、及び、レーザー光を走査してメッシュ状に露光する方法が挙げられる。
露光の際に使用される光の種類は特に制限されず、ハロゲン化銀に潜像を形成できるものであればよく、例えば、可視光線、紫外線、及び、X線が挙げられる。
【0073】
露光された感光性層に現像処理を施すことにより、露光領域(潜像が形成された領域)では、金属銀が析出する。
現像処理の方法は特に制限されず、例えば、銀塩写真フィルム、印画紙、印刷製版用フィルム、及び、フォトマスク用エマルジョンマスクに用いられる公知の方法が挙げられる。
現像処理では、通常、現像液を用いる。現像液の種類は特に制限されず、例えば、PQ(phenidone hydroquinone)現像液、MQ(Metol hydroquinone)現像液、及び、MAA(メトール・アスコルビン酸)現像液が挙げられる。
【0074】
本工程は、未露光部分のハロゲン化銀を除去して安定化させる目的で行われる定着処理を更に有していてもよい。
定着処理は、現像と同時及び/又は現像の後に実施される。定着処理の方法は特に制限されず、例えば、銀塩写真フィルム、印画紙、印刷製版用フィルム、及び、フォトマスク用エマルジョンマスクに用いられる方法が挙げられる。
定着処理では、通常、定着液を用いる。定着液の種類は特に制限されず、例えば、「写真の化学」(笹井著、写真工業出版社(株))第321頁に記載の定着液が挙げられる。
【0075】
上記処理を実施することにより、金属銀と親水性高分子とを含む電極層が形成される。
電極層のサイズ及び形状、並びに、電極層がメッシュパターン構造を有する場合の単位格子のサイズ及び金属細線の線幅を調整する方法としては、例えば、露光時に使用されるマスクの開口幅及び露光量を調整して、潜像が形成される領域を調整する方法が挙げられる。
また、レーザー光を用いる場合は、レーザー光の集光範囲及び/又は走査範囲を調整することにより、露光領域を調整できる。
【0076】
<工程C>
工程A及び工程Bを有する転写部材の作製方法において、工程Bで得られた電極層に対して加熱処理を施す工程を有していてもよい。本工程を実施することにより、電極層に含まれる親水性高分子間での融着が進行し、電極層の強度が向上する。
【0077】
加熱処理の方法は特に制限されず、電極層と過熱蒸気とを接触させる方法、及び、温調装置(例えば、ヒーター)で電極層を加熱する方法が挙げられ、電極層と過熱蒸気とを接触させる方法が好ましい。
【0078】
過熱蒸気としては、過熱水蒸気でもよいし、過熱水蒸気に他のガスを混合させたものでもよい。
過熱蒸気と銀含有層との接触時間は特に制限されず、10~70秒間が好ましい。
過熱蒸気の供給量は、500~600g/mが好ましく、過熱蒸気の温度は、1気圧で100~160℃(好ましくは100~120℃)が好ましい。
【0079】
温調装置で銀含有層を加熱する方法における加熱条件としては、100~200℃(好ましくは100~150℃)で1~240分間(好ましくは60~150分間)が好ましい。
【0080】
<工程D>
工程A及び工程Bを有する転写部材の作製方法において、感光性層がゼラチン及びゼラチン以外の親水性高分子を含む場合、工程Cで得られた銀含有層中のゼラチンを除去する工程Dを有していてもよい。本工程を実施することにより、銀含有層からゼラチンが除去され、銀含有層の内部に空隙が形成される。
【0081】
ゼラチンを除去する方法は特に制限されず、例えば、タンパク質分解酵素を用いる方法(以下、「方法1」ともいう。)、及び、酸化剤を用いてゼラチンを分解除去する方法(以下、「方法2」ともいう。)が挙げられる。
【0082】
方法1において用いられるタンパク質分解酵素としては、ゼラチン等のタンパク質を加水分解できる植物性又は動物性酵素で公知の酵素が挙げられる。
タンパク質分解酵素としては、例えば、ペプシン、レンニン、トリプシン、キモトリプシン、カテプシン、パパイン、フィシン、トロンビン、レニン、コラゲナーゼ、ブロメライン、及び、細菌プロテアーゼが挙げられ、トリプシン、パパイン、フィシン、又は、細菌プロテアーゼが好ましい。
方法1における手順としては、銀含有層と上記タンパク質分解酵素とを接触させる方法であればよく、例えば、銀含有層とタンパク質分解酵素を含む処理液(以下、「酵素液」ともいう。)とを接触させる方法が挙げられる。接触方法としては、銀含有層を酵素液中に浸漬させる方法、及び、銀含有層の表面に酵素液を塗布する方法が挙げられる。
酵素液中におけるタンパク質分解酵素の含有量は特に制限されず、ゼラチンの分解除去の程度が制御しやすい点で、酵素液全量に対して、0.05~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
酵素液には、上記タンパク質分解酵素に加え、通常、水が含まれる。
酵素液には、必要に応じて、他の添加剤(例えば、pH緩衝剤、抗菌性化合物、湿潤剤、及び、保恒剤)が含まれていてもよい。
酵素液のpHは、酵素の働きが最大限得られるように選ばれるが、一般的には、5~9が好ましい。
酵素液の温度は、酵素の働きが高まる温度、具体的には25~45℃が好ましい。
【0083】
なお、必要に応じて、酵素液での処理後に、得られた銀含有層を温水にて洗浄する洗浄処理を実施してもよい。
洗浄方法は特に制限されず、銀含有層と温水とを接触させる方法が好ましく、例えば、温水中に銀含有層を浸漬する方法、及び、銀含有層の表面に温水を塗布する方法が挙げられる。
温水の温度は使用されるタンパク質分解酵素の種類に応じて適宜最適な温度が選択され、生産性の点から、20~80℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。
温水と銀含有層との接触時間(洗浄時間)は特に制限されず、生産性の点から、1~600秒間が好ましく、30~360秒間がより好ましい。
【0084】
方法2で用いられる酸化剤としては、ゼラチンを分解できる酸化剤であればよく、標準電極電位が+1.5V以上である酸化剤が好ましい。なお、ここで標準電極電位とは、酸化剤の水溶液中における標準水素電極に対する標準電極電位(25℃、E0)を意図する。
上記酸化剤としては、例えば、過硫酸、過炭酸、過リン酸、次過塩素酸、過酢酸、メタクロロ過安息香酸、過酸化水素水、過塩素酸、過ヨウ素酸、過マンガン酸カリウム、過硫酸アンモニウム、オゾン、次亜塩素酸又はその塩等が挙げられるが、生産性、経済性の観点で、過酸化水素水(標準電極電位:1.76V)、次亜塩素酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。
【0085】
方法2における手順としては、銀含有層と上記酸化剤とを接触させる方法であればよく、例えば、銀含有層と酸化剤を含む処理液(以下、「酸化剤液」ともいう。)とを接触させる方法が挙げられる。接触方法としては、銀含有層を酸化剤液中に浸漬させる方法、及び、銀含有層の表面に酸化剤液を塗布する方法が挙げられる。
酸化剤液に含まれる溶剤の種類は特に制限されず、水、及び、有機溶剤が挙げられる。
【0086】
<工程E>
工程A及び工程Bを有する転写部材の作製において、親水性高分子を含み、金属を含有しない保護層を形成する工程Eを有していてもよい。保護層については、既に説明した通りである。
工程Eとしては、例えば、工程Aの前に、親水性高分子を含み、金属を含まない保護層形成用組成物を仮支持体の表面に塗布して、必要に応じて加熱処理を施す方法が挙げられる。
保護層形成用組成物は、ゼラチン及びゼラチン以外の親水性高分子を含んでいてもよく、その場合、上記工程Dにより保護層からゼラチンを除去してもよい。
保護層形成用組成物には、必要に応じて溶剤が含まれていてもよい。溶剤の種類は、上述した感光性層形成用組成物で使用される溶剤が例示される。
【0087】
<工程F>
工程A及び工程Bを有する転写部材の作製において、親水性高分子を含む金属不含有層を形成する工程Fを有していてもよい。金属不含有層については、既に説明した通りである。
工程Fとしては、例えば、工程Aの後かつ工程Bの前に、親水性高分子を含む金属不含有層形成用組成物を感光性層の露出した表面に塗布して、必要に応じて加熱処理を施す方法が挙げられる。
金属不含有層形成用組成物は、ゼラチン及びゼラチン以外の親水性高分子を含んでいてもよく、その場合、上記工程Dにより金属不含有層からゼラチンを除去してもよい。
金属不含有層形成用組成物には、必要に応じて溶剤が含まれていてもよい。溶剤の種類は、上述した感光性層形成用組成物で使用される溶剤が例示される。
【0088】
電極層が上記の金属含有層に加えて保護層及び/又は金属不含有層を備える場合、上記の工程E及び/又は工程Fは、同時重層塗布によって上記の工程Aと同時に実施してもよい。
【0089】
上記の方法により、仮支持体と、仮支持体の表面に配置された電極層とを備える転写部材が得られる。
転写部材は、仮支持体の電極層側の表面に、下記の転写工程に使用するまでの間電極層を保護するための保護フィルムを更に有していてもよい。
【0090】
<転写工程、剥離工程>
転写工程は、転写部材と樹脂基材とを転写部材の電極層側の主面が樹脂基材の表面に接するように貼り合わせて、電極層を樹脂基材に転写し、樹脂基材、電極層及び仮支持体を有する積層体を作製する工程である。
転写部材と樹脂基材とを貼り合わせる方法及び条件は特に制限されず、公知の貼り合わせ方法に従って、公知のラミネーターを用いて、或いは、手作業で、転写工程を実施できる。
【0091】
転写工程において、転写部材と樹脂基材とを貼り合わせた後、必要に応じて、得られた積層体を加熱してもよい。積層体を加熱することにより、樹脂基材と電極層との密着性をより向上させることができる。
転写工程を実施する際の温度としては、上記の観点から、50~150℃が好ましく、60~100℃がより好ましい。
【0092】
剥離工程は、転写工程の後、積層体から仮支持体を剥離する工程である。剥離工程を行うことにより、樹脂基材と、樹脂基材上に配置された電極層とを有する本生体電極が製造される。
積層体から仮支持体を剥離する手法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。
【0093】
また、生体電極に配線部を設ける場合の配線部の形成方法は特に制限されない。例えば、上記の転写部材の作製方法において、電極層を形成する工程Bと同時に配線部を構成する導電性細線を形成してもよく、また、上記の方法で生体電極を製造した後、上記の配線部の形成方法に従って得られた生体電極に配線部を形成してもよい。
【0094】
〔生体電極の物性〕
生体電極の透湿度は、本発明の効果がより優れる点で、175g/m/24h以上が好ましく、200g/m/24h以上がより好ましく、250g/m/24h以上が更に好ましい。上限値は特に制限されないが、400g/m/24h以下が好ましい。
【0095】
〔生体電極の用途〕
本生体電極は、皮膚の表面に接触させ、生体から発生する電気信号を検出するための部材として使用できる。特に、本生体電極は、上記の樹脂基材及び電極層を備えることにより、長時間装着した際にも皮膚のかぶれが抑制され、かつ、測定精度がより優れることから、生体電気信号を長期間継続的に測定するウェアラブルデバイス用の生体電極として用いることが好ましい。
【0096】
[生体電気信号の測定方法]
本生体電極を用いる生体電気信号の測定方法は、本生体電極を生体表面に設置し、測定対象である生体の電気信号を測定する方法である。
生体電気信号の測定方法としては、例えば、生体電極の電極層側の主面を生体の皮膚表面に接触させることにより、生体電極を生体の皮膚表面に設置する設置工程と、電極層を用いて生体電気信号を検知する信号検知工程と、を有する方法が挙げられる。
【0097】
上記設置工程においては、生体電極を皮膚表面に装着する公知の方法が適用できる。上記設置工程としては、例えば、既に説明した通り、樹脂基材の電極層側の表面であって、電極層が積層されていない領域に設けた粘着層を用いて生体電極を皮膚表面に装着する方法が挙げられる。また、生体電極は、粘着層を用いず、電極層又は絶縁性樹脂基板の粘着性に利用して皮膚表面に設置してもよい。
【0098】
電極層が、ゾルゲル転移する親水性高分子(好ましくはゾルゲル転移温度が40~50℃である親水性高分子)を含む場合、上記設置工程において、ゾルゲル転移する親水性高分子のゾルゲル転移温度を超える温度で電極層を加熱する加熱処理を行うことが好ましい。
生体電極を皮膚表面に設置する際に電極層を上記温度範囲に加熱することにより、電極層の皮膚への追従性を向上し、生体電極を用いて長時間測定を行う間の測定精度の安定性をより向上させることができる。
【0099】
上記加熱処理は、生体電極を皮膚表面に接触させる前に行ってもよく、接触させた後に行ってもよいが、皮膚への追従性により優れる点で、生体電極を皮膚表面に接触させた後、加熱処理を行うことが好ましい。
上記加熱処理の加熱条件は、親水性高分子のゾルゲル温度を超える温度であれば、特に制限されないが、生体への安全性の点で、50℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。
上記加熱処理の加熱時間は、10~100秒間が好ましい。
【0100】
上記信号検出工程により検知された生体電気信号は、例えば、電極層に電気的に接続された外部の測定装置を用いて解析できる。測定装置としては、本生体電極から伝送された生体電気信号を解析及び/又は記録する機能を有する装置であれば特に制限されず、例えば、公知の心拍計、心電計、脳波計及び筋電計が挙げられる。
【実施例0101】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示される材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0102】
<実施例1>
(ハロゲン化銀乳剤1の調製)
38℃、pH4.5に保たれた下記1液に、下記の2液及び3液の各々90%に相当する量を、1液を攪拌しながら同時に10分間にわたって加え、0.07μmの核粒子を形成した。続いて、得られた溶液に下記4液及び5液を4分間にわたって加え、更に、下記の2液及び3液の残りの10%の量を2分間にわたって加え、核粒子を0.1μmまで成長させた。更に、得られた溶液にヨウ化カリウム0.15gを加え、5分間熟成し、粒子形成を終了した。
【0103】
1液:
水 750ml
ゼラチン 8.6g
塩化ナトリウム 3g
1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-チオン 20mg
ベンゼンチオスルホン酸ナトリウム 10mg
クエン酸 0.7g
2液:
水 300ml
硝酸銀 150g
3液:
水 300ml
塩化ナトリウム 38g
臭化カリウム 32g
ヘキサクロロイリジウム(III)酸カリウム
(0.005%KCl 20%水溶液) 5ml
ヘキサクロロロジウム酸アンモニウム
(0.001%NaCl 20%水溶液) 7ml
4液:
水 100ml
硝酸銀 50g
5液:
水 100ml
塩化ナトリウム 13g
臭化カリウム 11g
黄血塩 5mg
【0104】
その後、常法に従ってフロキュレーション法によって水洗した。具体的には、上記で得られた溶液の温度を35℃に下げ、硫酸を用いてハロゲン化銀が沈降するまでpHを下げた(pH3.6±0.2の範囲であった)。次に、得られた溶液から上澄み液を約3リットル除去した(第1水洗)。次に、上澄み液を除去した溶液に、3リットルの蒸留水を加えてから、ハロゲン化銀が沈降するまで硫酸を加えた。再度、得られた溶液から上澄み液を3リットル除去した(第2水洗)。第2水洗と同じ操作を更に1回繰り返して(第3水洗)、水洗及び脱塩工程を終了した。水洗及び脱塩後の乳剤をpH6.4、pAg7.5に調整し、ゼラチン2.5g、ベンゼンチオスルホン酸ナトリウム10mg、ベンゼンチオスルフィン酸ナトリウム3mg、チオ硫酸ナトリウム15mg及び塩化金酸10mgを加え、55℃にて最適感度を得るように化学増感を施した。その後、更に、得られた乳剤に、安定剤として1,3,3a,7-テトラアザインデン100mg、及び、防腐剤としてプロキセル(商品名、ICI Co.,Ltd.製)100mgを加え、ハロゲン化銀乳剤1を得た。最終的に得られたハロゲン化銀乳剤1は、ヨウ化銀を0.08モル%含み、塩臭化銀の比率を塩化銀70モル%、臭化銀30モル%とする、平均粒子径(球相当径)100nm、変動係数9%の塩臭化銀立方体粒子乳剤であった。
【0105】
(感光性層形成用組成物1の調製)
上記ハロゲン化銀乳剤1に、1,3,3a,7-テトラアザインデン(1.2×10-4モル/モルAg)、ヒドロキノン(1.2×10-2モル/モルAg)、クエン酸(3.0×10-4モル/モルAg)、2,4-ジクロロ-6-ヒドロキシ-1,3,5-トリアジンナトリウム塩(0.90g/モルAg)、及び、微量の硬膜剤を添加し、組成物を得た。次に、クエン酸を用いて組成物のpHを5.6に調整した。
ここで、ハロゲン化銀由来の銀の質量に対するゼラチンの質量の比(ゼラチンの質量/ハロゲン化銀由来の銀の質量、単位はg/gである。)は0.11であった。
更に、得られた組成物に、架橋剤としてEPOXY RESIN DY 022(商品名:ナガセケムテックス社製)を添加した。なお、架橋剤の添加量は、後述するハロゲン化銀含有感光性層中における架橋剤の量が0.09g/mとなるように調整した。
以上のようにして感光性層形成用組成物1を調製した。
【0106】
(工程E-1、工程A-1、工程F-1)
次に、厚み40μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(富士フイルム社製ロール状の長尺フィルム)からなる仮支持体の表面に、ゼラチンからなる保護層形成用組成物と、上記感光性層形成用組成物1と、ゼラチンからなるハロゲン化銀不含有層形成用組成物とを同時重層塗布することにより、保護層と、ハロゲン化銀含有感光性層と、ハロゲン化銀不含有層とをこの順に形成した。
なお、ハロゲン化銀不含有層の厚みは0.5μmであった。
また、ハロゲン化銀含有感光性層の厚みは2.5μmであった。
また、保護層の厚みは0.15μmであった。
【0107】
(工程B-1)
上記で作製した感光性層に、5cmの間隔をおいて1辺2cmの正方形の開口部を2つ有するフォトマスクを介して、高圧水銀ランプを光源とした平行光を用いて露光した。
【0108】
露光された感光性層に対して、後述する現像液を用いて現像し、更に定着液(商品名:CN16X用N3X-R:富士フイルム社製)を用いて現像処理を行った後、25℃の純水でリンスし、その後乾燥して、仮支持体と、ハロゲン化銀不含有層、ハロゲン化銀含有層及び保護層がこの順に積層してなる電極層とを有する転写部材を作製した。
形成された電極層は、1辺2cmの正方形の形状を有し、銀粒子が面内方向において均一に分布していた。また、電極層の厚みは3.0μmだった。
【0109】
-現像液の組成-
現像液1リットル(L)中に、以下の化合物が含まれる。
ヒドロキノン 0.037mol/L
N-メチルアミノフェノール 0.016mol/L
メタホウ酸ナトリウム 0.140mol/L
水酸化ナトリウム 0.360mol/L
臭化ナトリウム 0.031mol/L
メタ重亜硫酸カリウム 0.187mol/L
【0110】
上記で得られた転写部材を、50℃の温水中に180秒間浸漬させた。この後、エアシャワーで水を切り、自然乾燥させた。
【0111】
(生体電極の作製)
上記で得られた転写部材の電極層(1辺2cmの正方形状)と、絶縁性樹脂基材である透湿性ポリウレタンフィルム(厚み15μm、透湿度300g/m/24h)とを、フィルムヒーターを用いて50℃で1分間熱圧着することで貼り合わせ、仮支持体、電極層及び絶縁性樹脂基材を備える積層体を作製した。
次いで、得られた積層体から仮支持体を剥離して、透湿性ポリウレタンフィルムからなる絶縁性樹脂基材と、電極層とを有する生体電極を作製した。
【0112】
<実施例2>
(感光性層形成用組成物2の調製)
実施例1で調製されたハロゲン化銀乳剤1に、1,3,3a,7-テトラアザインデン(1.2×10-4モル/モルAg)、ヒドロキノン(1.2×10-2モル/モルAg)、クエン酸(3.0×10-4モル/モルAg)、2,4-ジクロロ-6-ヒドロキシ-1,3,5-トリアジンナトリウム塩(0.90g/モルAg)、及び、微量の硬膜剤を添加し、組成物を得た。次に、クエン酸を用いて組成物のpHを5.6に調整した。
上記組成物に、ポリアクリル酸ナトリウム(重合度5000、以下「PAA-Na」ともいう)を、組成物中のゼラチンの合計質量に対する、PAA-Naの質量の比(PAA-Naの質量/ゼラチンの質量、単位g/g)が0.3/0.7となるように添加した。この組成物において、ハロゲン化銀由来の銀の質量に対するゼラチンの質量の比(ゼラチンの質量/ハロゲン化銀由来の銀の質量)は0.11であり、ハロゲン化銀由来の銀の質量に対するPAA-Naの質量の比(PAA-Naの質量/ハロゲン化銀由来の銀の質量)は0.05であった。
更に、得られた組成物に、架橋剤としてEPOXY RESIN DY 022(商品名:ナガセケムテックス社製)を添加した。なお、架橋剤の添加量は、後述するハロゲン化銀含有感光性層中における架橋剤の量が0.09g/mとなるように調整した。
以上のようにして感光性層形成用組成物2を調製した。
【0113】
(工程E-1、工程A-1、工程F-1)
次に、厚み40μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(富士フイルム社製ロール状の長尺フィルム)上に、上記PAA-Naとゼラチンとが水に分散してなる保護層形成用組成物と、上記感光性層形成用組成物2と、上記PAA-Naとゼラチンとが水に分散してなるハロゲン化銀不含有層形成用組成物とを、同時重層塗布し、保護層と、ハロゲン化銀含有感光性層と、ハロゲン化銀不含有層とを形成した。
なお、ハロゲン化銀不含有層の厚みは0.5μmであり、ハロゲン化銀不含有層中におけるPAA-Naとゼラチンとの混合質量比(PAA-Na/ゼラチン)は2/1であった。
また、保護層の厚みは0.15μmであり、保護層中におけるPAA-Naとゼラチンとの混合質量比(PAA-Na/ゼラチン)は0.1/1であった。
また、ハロゲン化銀含有感光性層の厚みは2.5μmであった。
【0114】
上記で得られた感光性層に、実施例1の(工程B-1)に記載の手順に従って露光及び現像処理を行うことにより、仮支持体と、銀粒子を含む電極層とを有する転写部材を得た。
【0115】
(工程C-1)
次いで、得られた転写部材を、110℃の過熱水蒸気処理槽に搬入し、30秒間静置して、過熱水蒸気処理を行った。なお、このときの蒸気流量は100kg/hであった。
【0116】
(工程D-1)
工程C-1で得られた転写部材を、タンパク質分解酵素(ナガセケムテックス社製ビオプラーゼAL-15FG)の水溶液(タンパク質分解酵素の濃度:0.5質量%、液温:40℃)に120秒間浸漬した。転写部材を水溶液から取り出し、温水(液温:50℃)に120秒間浸漬した後、洗浄した。
【0117】
(生体電極の作製)
工程D-1で得られた転写部材を用いること以外は、実施例1の(生体電極の作製)に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を得た。
【0118】
<実施例3>
工程C-1及び工程D-1を実施しなかったこと以外は、実施例2に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を得た。
【0119】
<実施例4、実施例5>
後述する表1に記載の厚みを有する電極層が形成されるように、工程E-1、工程A-1及び工程F-1において保護層、ハロゲン化銀含有感光性層及びハロゲン化銀不含有層のそれぞれの厚みを各層の厚みの比率は変えずに表1の電極層の厚みに従って調整したこと以外は、実施例3に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を作製した。
【0120】
<実施例6>
(ハロゲン化銀乳剤2の調製)
38℃、pH4.5に保たれた下記1液に、下記の2液及び3液の各々90%に相当する量を、1液を攪拌しながら同時に20分間にわたって加え、0.16μmの核粒子を形成した。続いて、得られた溶液に下記4液及び5液を8分間にわたって加え、更に、下記の2液及び3液の残りの10%の量を2分間にわたって加え、核粒子を0.25μmまで成長させた。更に、得られた溶液にヨウ化カリウム0.15gを加え、5分間熟成し、粒子形成を終了した。
【0121】
1液:
水 750ml
ゼラチン 8.6g
塩化ナトリウム 3g
1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-チオン 20mg
ベンゼンチオスルホン酸ナトリウム 10mg
クエン酸 0.7g
2液:
水 300ml
硝酸銀 150g
3液:
水 300ml
塩化ナトリウム 38g
臭化カリウム 32g
ヘキサクロロイリジウム(III)酸カリウム
(0.005%KCl 20%水溶液) 5ml
ヘキサクロロロジウム酸アンモニウム
(0.001%NaCl 20%水溶液) 7ml
4液:
水 100ml
硝酸銀 50g
5液:
水 100ml
塩化ナトリウム 13g
臭化カリウム 11g
黄血塩 5mg
【0122】
その後、常法に従ってフロキュレーション法によって水洗した。具体的には、上記で得られた溶液の温度を35℃に下げ、硫酸を用いてハロゲン化銀が沈降するまでpHを下げた(pH3.6±0.2の範囲であった)。次に、得られた溶液から上澄み液を約3リットル除去した(第1水洗)。次に、上澄み液を除去した溶液に、3リットルの蒸留水を加えてから、ハロゲン化銀が沈降するまで硫酸を加えた。再度、得られた溶液から上澄み液を3リットル除去した(第2水洗)。第2水洗と同じ操作を更に1回繰り返して(第3水洗)、水洗及び脱塩工程を終了した。水洗及び脱塩後の乳剤をpH6.4、pAg7.5に調整し、ゼラチン2.5g、ベンゼンチオスルホン酸ナトリウム10mg、ベンゼンチオスルフィン酸ナトリウム3mg、チオ硫酸ナトリウム15mg及び塩化金酸10mgを加え、55℃にて最適感度を得るように化学増感を施した。その後、更に、得られた乳剤に、安定剤として1,3,3a,7-テトラアザインデン100mg、及び、防腐剤としてプロキセル(商品名、ICI Co.,Ltd.製)100mgを加え、ハロゲン化銀乳剤2を得た。最終的に得られたハロゲン化銀乳剤2は、ヨウ化銀を0.08モル%含み、塩臭化銀の比率を塩化銀70モル%、臭化銀30モル%とする、平均粒子径(球相当径)250nm、変動係数9%の塩臭化銀立方体粒子乳剤であった。
【0123】
ハロゲン化乳剤1に代えて、上記で得られたハロゲン化銀乳剤2を用いること以外は、実施例3に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を作製した。
【0124】
<実施例7>
実施例1の工程B-1に代えて、下記の工程B-2を実施すること以外は、実施例3に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を作製した。
【0125】
(工程B-2)
実施例3において、実施例1の(工程E-1、工程A-1、工程F-1)に記載の手順に従って作製された転写部材が有する感光性層に、正方格子状のフォトマスクを介して高圧水銀ランプを光源とした平行光を用いて露光した。フォトマスクとしてパターン形成用のマスクを用い、1辺の長さLが200μmである正方形の開口部と、開口部を形成する線幅50μmの銀含有細線とからなる正方格子状のメッシュパターン構造が形成されるように露光条件を設定した。また、感光層の露光により、上記の正方格子状のメッシュパターン構造を有する1辺2cmの正方形の電極層を、5cmの間隔をおいて2つ形成した。
露光された感光性層に対して、実施例1の工程B-1に記載の現像液を用いて現像し、更に定着液(商品名:CN16X用N3X-R:富士フイルム社製)を用いて現像処理を行った後、25℃の純水でリンスし、その後乾燥して、銀粒子を含み、上記のメッシュパターン構造を有する電極層を有する積層体を得た。
【0126】
<実施例8>
実施例3の生体電極の作製の工程を、下記の工程に変更すること以外は、実施例3に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を作製した。
【0127】
(生体電極の作製)
上記で得られた転写部材の電極層(1辺2cmの正方形状)と、絶縁性樹脂基材である透湿性ポリウレタンフィルム(厚み27μm、透湿度270g/m/24h)とを、フィルムヒーターを用いて50℃で1分間熱圧着することで貼り合わせ、仮支持体、電極層及び絶縁性樹脂基材を備える積層体を作製した。
次いで、得られた積層体から仮支持体を剥離して、透湿性ポリウレタンフィルムからなる絶縁性樹脂基材と、電極層とを有する生体電極を作製した。
【0128】
<実施例9>
実施例3の生体電極の作製の工程を、下記の工程に変更すること以外は、実施例3に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を作製した。
【0129】
(生体電極の作製)
上記で得られた転写部材の電極層(1辺2cmの正方形状)と、絶縁性樹脂基材である微多孔質ポリエチレンフィルム(厚み15μm、透湿度270g/m/24h)とを、フィルムヒーターを用いて0℃で1分間熱圧着することで貼り合わせ、仮支持体、電極層及び絶縁性樹脂基材を備える積層体を作製した。
次いで、得られた積層体から仮支持体を剥離して、透湿性ポリウレタンフィルムからなる絶縁性樹脂基材と、電極層とを有する生体電極を作製した。
【0130】
<比較例1、比較例2>
後述する表1に記載の厚みを有する電極層が形成されるように、工程E-1、工程A-1及び工程F-1において保護層、ハロゲン化銀含有感光性層及びハロゲン化銀不含有層のそれぞれの厚みを各層の厚みの比率は変えずに表1の電極層の厚みに従って調整したこと以外は、実施例3に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を作製した。
【0131】
<比較例3>
(感光性層形成用組成物3の調製)
実施例1で調製されたハロゲン化銀乳剤1に、1,3,3a,7-テトラアザインデン(1.2×10-4モル/モルAg)、ヒドロキノン(1.2×10-2モル/モルAg)、クエン酸(3.0×10-4モル/モルAg)、2,4-ジクロロ-6-ヒドロキシ-1,3,5-トリアジンナトリウム塩(0.90g/モルAg)、及び、微量の硬膜剤を添加し、組成物を得た。次に、クエン酸を用いて組成物のpHを5.6に調整した。
上記組成物に、ポリメチルメタクリレート(以下「PMMA」ともいう)、ジアルキルフェニルPEO硫酸エステル(PEOはポリエチレンオキシドの略号である)からなる分散剤及び水を含有するポリマーラテックス(PMMAの質量に対する分散剤の質量の比(分散剤の質量/PMMAの質量)が0.02であって、固形分含有量が22質量%である。)を、組成物中のゼラチンの合計質量に対する、PMMAの質量の比(PMMAの質量/ゼラチンの質量)が0.3/0.7となるように添加して、ポリマーラテックス含有組成物を得た。得られたポリマーラテックス含有組成物において、ハロゲン化銀由来の銀の質量に対するゼラチンの質量の比(ゼラチンの質量/ハロゲン化銀由来の銀の質量)は0.11であった。
更に、得られたポリマーラテックス含有組成物に、架橋剤としてEPOXY RESIN DY 022(商品名:ナガセケムテックス社製)を添加した。なお、架橋剤の添加量は、ハロゲン化銀含有感光性層中における架橋剤の量が0.09g/mとなるように調整した。
以上のようにして感光性層形成用組成物3を調製した。
【0132】
感光性層形成用組成物2に代えて、上記で得られた感光性層形成用組成物3を用いること以外は、実施例3に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を作製した。
【0133】
<比較例4>
厚み3μm、1辺2cmの正方形状の銅箔を2枚準備して、各銅箔の表面にアクリル系粘着剤を塗布し、厚みが5μmの密着層を形成した。次いで、2枚の銅箔を、互いに5cmの間隔をおいて、密着層を介して透湿性ポリウレタンフィルム(厚み15μm、透湿度300g/m/24h)に貼り合わせ、透湿性ポリウレタンフィルム及び密着層からなる絶縁性樹脂基材と銅箔とを有する生体電極を作製した。
得られた生体電極の大きさは実施例1と同じであった。
【0134】
<比較例5>
透湿性ポリウレタンフィルムに代えて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み15μm、透湿度40g/m/24h)を用いること以外は、実施例3に記載の手順に従って、絶縁性樹脂基材と電極層とを有する生体電極を作製した。
【0135】
[測定及び評価]
<透湿度(水蒸気透過度)>
各実施例及び各比較例で製造された生体電極の透湿度(平均値)を上述した方法で測定した。各実施例及び各比較例の透湿度の測定結果を、後述する表1に示す。
【0136】
<皮膚かぶれ>
各実施例及び各比較例の生体電極において、絶縁性樹脂基材の電極層側の表面のうち電極層が積層されていない領域に、低アレルギー性アクリル系粘着剤を塗布して、厚みが5μmの粘着層を形成した。
被験者(成人男性)の胸部の皮膚に対して、電極層及び粘着層側の主面が皮膚に接触するように生体電極を設置した後、フィルムヒーターを用いて電極層を45℃で15秒間加温して、生体電極を皮膚に装着した。
生体電極を連続して装着し、装着開始から1週間経過後に、皮膚から生体電極を剥離した。その際、生体電極が接触していた領域のうち電極層が配置されていた領域の皮膚の状態を観察し、以下の基準に従って、皮膚かぶれの抑制能を評価した。
【0137】
(皮膚かぶれの評価基準)
A:発赤、腫れ及び水疱等の皮膚かぶれの症状がいずれも観察されなかった。
B:発赤、腫れ及び水疱等の皮膚かぶれの症状のいずれかが観察された。
【0138】
<連続装着中の測定精度>
各実施例及び各比較例の生体電極の電極層が配置されている側の表面において、銀ペーストを用いて、一方の端部が電極層の1辺と接触し、他方の端部が樹脂基材の周縁部にまで延びる配線部を電極層ごとにそれぞれ形成した。配線部は銀を含有する導電性細線で構成されている。その後、樹脂基材の周縁部において、外部接続端子と電気的に接続する導線を各配線部にそれぞれ接続した。次いで、樹脂基材の電極層側の表面のうち電極層が積層されていない領域に低アレルギー性アクリル系粘着剤を塗布して、厚みが5μmの粘着層を形成した。生体電極を電極層側から観察すると、粘着層により配線部は被覆された一方、電極層の全面が露出していた。
【0139】
上記で得られた生体電極を、電極層及び粘着層側の主面が皮膚に接触するように被験者の胸部の皮膚に設置した。次いで、フィルムヒーターを用いて電極層を45℃で15秒間加温して、生体電極を皮膚に装着した。
生体電極と電気的に接続している外部接続端子を心電計に接続し、被験者の心臓で生じる電気信号(心電図信号)を測定できることを確認した。
【0140】
被験者に装着した生体電極を用いて心電図信号を24時間連続して測定した。測定された心電図信号を1分間の単位区間に分割した。次いで、得られた心電図から下記式を用いて、単位区間ごとのS/N比(単位:dB)を算出した。
S/N比 = 20log{(R波ピーク-S波ピーク電位差)/(ノイズ電位上限値-ノイズ電位下限値)}
ノイズ電位とは、生体電極が生体信号を検出しないときのベースラインにおける電位であり、上記式中の「ノイズ電位上限値-ノイズ電位下限値」は、単位区間内におけるノイズ電位の最大値と最小値との差を意味する。また、式中の「R波ピーク-S波ピーク電位差」は、各心拍の波形においてR波ピークの電位とS波ピークの電位との間の電位差を求め、得られた電位差を単位区間内で平均して得られる平均値である。
【0141】
算出された各単位区間のS/N比から、生体電極を用いて24時間連続して心電図信号を測定した期間における、S/N比の平均値及び最小値(いずれも単位はdB)を求めた。
S/N比の平均値及び最小値が高いほど、被験者の動作、及び/又は、発汗による湿度変動等の急激な環境変化に対する電気信号への影響をより抑制できるため、長時間装着時の測定精度の安定性がより優れるといえる。
【0142】
下記表1に、各実施例及び各比較例で製造された生体電極について、各層の構成及び特性、並びに、上記の評価結果を示す。
表中、「電極層」の「組成」欄は、電極層に含まれる各成分の種類及び特性を示す。なお、比較例4は、電極層に代えて銅箔を用いたことを示す。
表中、「金属粒子」の「種類」欄における括弧内の数値は、電極層の面積当たりの金属粒子の含有量(単位:g/m)を示す。
表中、「高分子化合物」の「種類」欄において、「Gel」はゼラチン(親水性高分子に含まれる)を示し、「PAA-Na」はポリアクリル酸ナトリウム(親水性高分子に含まれる)を示し、「PMMA」はポリメチルメタクリレート(親水性高分子に含まれない)を示す。また、「種類」欄における括弧内の数値は、電極層における高分子化合物の全含有量に対する親水性高分子の含有量の比率(単位:質量%)を示す。
表中、「比率1」は、電極層における金属粒子の含有量に対する親水性高分子の含有量の比率(親水性高分子の含有量/金属粒子の含有量)を質量比で示す。
表中、「電極層」の「形状」欄において、「A」は、電極層が、1辺2cmの正方形の領域内で金属粒子が面内方向に均一に分布してなる層であることを示し、「B」は、電極層が、1辺2cmの正方形の領域内に形成された、線幅50μmの金属細線と1辺200μmの単位正方格子とからなるメッシュパターン構造を有することを示す。
【0143】
【表1】
【0144】
表1に示すように、本発明に係る生体電極によれば本発明の課題を解決できることが確認された。
【0145】
電極層が2種以上の親水性高分子を含む場合、生体電気信号の測定精度がより優れることが確認された(実施例1~3の比較)。
電極層の厚みが4μm以下である場合、生体電極の透湿度がより優れることが確認され、電極層の厚みが2μm以上である場合、生体電気信号の測定精度がより優れることが確認された(実施例3~5の比較)。
電極層に含まれる金属粒子の平均粒子径が150nm以下である場合、生体電気信号の測定精度がより優れることが確認された(実施例3及び6の比較)。
電極層がメッシュパターン構造を有する場合、生体電極の透湿度がより優れることが確認された(実施例3及び7の比較)。
【0146】
樹脂基材の厚みが20μm以下である場合、生体電極の透湿度がより優れることが確認された(実施例3及び8の比較)。
樹脂基材が透湿性ポリウレタンフィルムである場合、生体電極の透湿度がより優れることが確認された(実施例3及び9の比較)。
【符号の説明】
【0147】
10 生体電極
12 絶縁性樹脂基材
14 電極層
16 配線部
18 導線
20 メッシュパターン構造
22 金属細線
24 開口部
図1
図2