(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022129790
(43)【公開日】2022-09-06
(54)【発明の名称】カーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 41/30 20060101AFI20220830BHJP
B22D 41/32 20060101ALI20220830BHJP
C04B 35/103 20060101ALI20220830BHJP
【FI】
B22D41/30
B22D41/32
C04B35/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028611
(22)【出願日】2021-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲韋▼
(72)【発明者】
【氏名】馬場 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】濱本 直秀
【テーマコード(参考)】
4E014
【Fターム(参考)】
4E014MA04
4E014MA12
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、十分な機械的強度および耐スポーリング性を確保すると同時に、より高い耐水和性および耐食性を有するカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法は、耐火骨材と炭素質原料より構成される主原料に対して炭化チタンおよび/または金属チタンを外掛けで0.5~8質量%含んでなるスライドプレート用成形体を、大気圧下の熱処理において、全気圧を1atmに換算して窒素分圧が0.85atm以上の窒素雰囲気中、温度400~1400℃で熱処理することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法において、耐火骨材と炭素質原料より構成される主原料に対して炭化チタンおよび/または金属チタンを外掛けで0.5~8質量%含んでなるスライドプレート用成形体を、大気圧下の熱処理において、全気圧を1atmに換算して窒素分圧が0.85atm以上の窒素雰囲気中、温度400~1400℃で熱処理することを特徴とするカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法。
【請求項2】
スライドプレート用成形体が、耐火骨材と炭素質原料より構成される主原料に対して外掛けで8質量%以下の量のアルミニウム、シリコン、マグネシウム、クロムまたはこれらの合金類、炭化珪素、炭化硼素、窒化珪素、窒化硼素を含有する、請求項1記載のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法。
【請求項3】
炭化チタンおよび金属チタンの粒度が180μm以下である、請求項1記載のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法。
【請求項4】
熱処理の時間が3~30時間の範囲内である、請求項1ないし3のいずれか1項記載のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製錬工程における溶鋼の流量制御に用いられるカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の製錬において、溶鋼の流量を制御するためにスライドプレート耐火物が一般的に使われている。内孔を設けたスライドプレート耐火物を2枚または3枚重ね合わせ、拘束し、しかも面圧を付加しているスライドプレート耐火物を摺動させて孔の開度を調節することにより、取鍋やタンデイッシュなどの容器から排出される溶鋼の流量を制御することができる。このような厳しい条件で使われるスライドプレート耐火物は、拘束・面圧付加に耐える機械的強度、受鋼時の急激な熱衝撃に抵抗できる耐スポーリング性および溶鋼の侵食に対する耐食性などをすべて具備しなければならない。
【0003】
まず、スライドプレート耐火物の耐スポーリング性を確保するためには、スライドプレート耐火物にカーボンを含有させることが一般的である。すなわち、スライドプレート耐火物を構成する耐火材料として、カーボンを含有するものが一般的に使われている。ここで、耐火材料を構成する骨材原料には、例えば、アルミナ、スピネル、マグネシア、ジルコニア等が用いられており、特にアルミナが用いられている。
【0004】
しかしながら、骨材原料およびカーボンのみからなる耐火材料は、原料粒子間の結合がカーボンボンドのみで形成されているため、このような耐火材料からなるスライドプレート耐火物の強度が低くなるという問題点がある。この問題に対応するため、金属シリコンの耐火材料への添加が有効であることが知られている。これは、スライドプレート耐火物の熱処理(または焼成)において、その内部でカーボンボンドより結合力の強い炭化シリコンおよび酸化シリコン(シリカ)などのセラミックスボンドが形成されるためである。
【0005】
例えば、特許文献1には、炭素質原料5~20重量%、金属シリコン3~10重量%、ジルコニア質原料1~20重量%および残部が中性および又は塩基性耐火原料から形成されてなるスライディングノズル用プレート耐火物が開示されている。しかしながら、スライディングノズル用プレート耐火物に配合されている金属シリコンの一部は、プレート耐火物中で炭素質原料と反応して炭化ケイ素を形成するが、金属シリコンと炭化ケイ素は、ともに、プレート耐火物の使用中にシリカへ変化する。シリカの溶鋼に対する耐食性は低いため、添加された金属シリコンに起因して、高マンガン鋼、高酸素鋼やカルシウム処理鋼などの耐火物を溶損しやすい溶損鋼種に対するプレート耐火物の耐食性が大幅に低下してしまうという問題点がある。
【0006】
この問題に対応するため、金属アルミニウムのスライドプレート耐火物への添加が提案されている。これは、添加された金属アルミニウムが最終的にはアルミナへと変化するが、シリカに比べてアルミナの溶鋼に対する耐食性が顕著に高いためである。しかしながら、金属アルミニウムを添加したスライドプレート耐火物を熱処理する際に、添加した金属アルミニウムとカーボンが反応して炭化アルミニウムを生成するが、炭化アルミニウムは、水和し易い性質をもち、炭化アルミニウムの生成量が多くなると、スライドプレート耐火物は、耐水和性が低下して保管中にスライドプレート耐火物内部に水和が生じ、亀裂が発生し、使用不能となるという欠点がある。
【0007】
上述のような金属アルミニウムを添加したスライドプレート耐火物における炭化アルミニウムの生成を抑制し、スライドプレート耐火物の耐水和性を向上させるために、種々の提案がなされている。
【0008】
例えば、特許文献2には、アルミナ質耐火骨材及びカーボン含有原料を炭素含量として1~10質量%よりなる耐火性原料に対して外掛けで1~15質量%のAl-Si合金を含有してなり、1000℃を超え、1500℃までの温度範囲で焼成処理されていることを特徴とするアルミナ-カーボン質スライドゲートプレートが開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、耐火性原料、フェノール系レジン、及び球状のアトマイズ粉からなるアルミニウム粉末の配合物を混練、成形した後、550~650℃の温度で加熱処理することを特徴とするスライドゲート用プレートの製造方法が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献4には、(A)一種もしくは二種以上の耐火性無機材料から成る耐火物骨材が73重量%以上、96重量%以下、(B)ファイバー状金属アルミニウムが0.1重量%以上、0.5重量%以下、(C)フレーク状の金属アルミニウム粉末が、1重量%以上、5重量%以下、(D)炭素質粉末が2重量%以上、10重量%以下、(E)金属シリコン粉末が0.1重量%以上、5重量%以下の原料から成る混合物100重量%に対して、バインダーとして、外配で、熱硬化性樹脂を3重量%以上、10重量%以下添加し、混練、成型、焼成して得られた焼成耐火物より成ることを特徴とするスライドゲート用プレートが開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献2~4に開示されているスライドプレート耐火物は、長期間保管する際、耐水和性が不足すると共にカルシウム処理鋼に対する耐食性も不十分であるという問題点を有する。
【0012】
この問題に対応するため、例えば、特許文献5には、耐火骨材および炭素質原料からなる耐火材料、およびアルミニウム-クロム系合金を含有してなることを特徴とするスライドプレート耐火物が開示されている。
【0013】
さらに、特許文献6には、耐火骨材およびカーボン質原料からなる耐火材料、およびアルミニウム-クロム-シリコン系金属添加物を含有してなることを特徴とするスライドプレート耐火物が開示されている。
【0014】
また、特許文献7には、耐火性無機材料60~97.4質量%、炭素質材料1~10質量%、AlまたはAl含有合金0.5~12質量%、熱処理中の最高温度における窒化物中の窒素原子1モル当りの標準生成ギブスエネルギーがAlNの標準生成ギブスエネルギーより大きくかつ負である窒化物0.1~10質量%及びバインダー1~8質量%よりなる配合物を混練し、所定の形状に成形した成形体を、N2を主体とし、O2濃度が0.1体積%以下、CO+CO2濃度が20体積%以下の非酸化性雰囲気中で最高温度が800~1400℃の条件で熱処理することを特徴とするスライディングノズル用炭素含有プレート耐火物の製造方法(請求項1);熱処理中の最高温度における窒化物中の窒素原子1モル当たりの標準生成ギブスエネルギーがAlNの標準生成ギブスエネルギーより大きくかつ負である窒化物がSi3N4、Mg3N2、BN、CrN及びCrN2からなる群から選択される1種または2種以上である(請求項2)ことが開示されている。
【0015】
さらに、特許文献8には、優れた耐熱スポール性に加えて、耐酸化性の向上を図ったスライディングノズル用プレートを提供することを目的として、アルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシア及びスピネル等の耐火性骨材原料を少なくとも1種以上と、膨張黒鉛を0.2~10.0重量%と、酸化防止剤として、少なくとも1種以上の金属0.1~8.0重量%とを添加すること(請求項1);さらには、上記酸化防止剤として、少なくとも1種以上のZrC、TiC、SiC、B4Cなどの炭化物又はTiB2、ZrB2、AlB2などの硼化物を0.05~10.0重量%併用添加すること(請求項2、[0014]段落)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭58-99161号公報
【特許文献2】特開2012-192430号公報
【特許文献3】特開2000-94121号公報
【特許文献4】特開平11-199313号公報
【特許文献5】特開2018-114507号公報
【特許文献6】特開2018-144088号公報
【特許文献7】特開2017-190254号公報
【特許文献8】特開2003-245770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献5~8に開示されているスライドプレート耐火物では、耐水和性および耐食性は向上するものの、湿度の高い場所で長期間保管される場合にはスライドプレート耐火物の耐水和性が不足し、また、Ca処理鋼を多炉数鋳造する場合には、スライドプレート耐火物の耐食性が不十分である。
【0018】
したがって、本発明の目的は、十分な機械的強度および耐スポーリング性を確保すると同時に、より高い耐水和性および耐食性を有するカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、炭化チタンおよび/または金属チタンを添加したカーボン含有スライドプレート耐火物について種々の検討を行うために、各種原料からなる混合物をプレス成形して得られた成形体を種々の条件で熱処理し、熱処理後スライドプレート耐火物の特性を評価した結果、以下の知見を得た。
【0020】
例えば、炭化チタンおよび/または金属チタンを添加したカーボン含有スライドプレート耐火物用の成形体を、大気圧下の熱処理において、全気圧を1atmに換算して窒素分圧0.85atm以上の窒素雰囲気中で熱処理すると、炭化チタンおよび金属チタンは雰囲気中の窒素を容易に取り込み、炭窒化チタンまたは窒化チタンなどのチタン窒化物を含有する窒素元素を1~20質量%含有する窒素含有相(以下、総じて「窒素含有相」と称する)をその場(in-situ)で生成させることができ、得られるスライドプレート耐火物の溶鋼に対する耐食性と耐水和性を共に顕著に向上することができる。なお、窒素含有相の生成は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析により確認することができる。
【0021】
溶鋼に対する耐食性が向上する理由は、窒素含有相がその場生成することによって、スライドプレート耐火物中の気孔の数が少なくなり、気孔径も小さくなり、耐火物組織が緻密になり、また、窒素含有相自体が溶鋼および溶鋼中液体介在物スラグに溶解し難く、仮に、窒素含有相が微量に溶解したとしても、溶鋼および液体介在物スラグの粘度を大きく高めることができるため、スライドプレート耐火物内部へ溶鋼および溶鋼中液体介在物スラグが浸透し難いことにある。
【0022】
スライドプレート耐火物の耐水和性が向上する理由は、以下のように考えられる:
まず、金属アルミニウムを添加しない場合には、炭化アルミニウムが生成することがなく、また、窒素含有相は水和しないので、スライドプレート耐火物が水和することがない。また、炭化チタンおよび/または金属チタンと金属アルミニウムを併用する場合には、熱処理中において、金属アルミニウムは、先に生成している窒素含有相を通じて、絶えずに雰囲気中の窒素を取り込み、窒化アルミニウムへ変化するため、炭化アルミニウムの生成は抑制され、その場生成した窒素含有相は活性が非常に高く、窒素含有相を経由する窒素の雰囲気から金属アルミニウムへの移動が起こり易く、その結果、炭化チタンおよび/または金属チタンと金属アルミニウムを併用する場合にも、スライドプレート耐火物は水和しない。
【0023】
一方、炭化チタンおよび/または金属チタンを添加せず、金属アルミニウムを添加しているスライドプレート用成形体を同じの窒素雰囲気中で熱処理しても、金属アルミニウムは窒化アルミニウムへと変化し難く、また、仮に窒化アルミニウムへと変化したとしても、窒化アルミニウムの生成量は非常に少なく、金属アルミニウムの大部分が水和し易い炭化アルミニウムへ変化する。
【0024】
本発明者らは、上述のような知見に基づき本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、カーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法において、耐火骨材と炭素質原料より構成される主原料に対して、炭化チタンおよび/または金属チタンを外掛けで0.5~8質量%含んでいるスライドプレート用成形体を、大気圧下の熱処理において、全気圧を1atmに換算して窒素分圧が0.85atm以上の窒素雰囲気中、温度が400~1400℃で熱処理することを特徴とするカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法を提供することにある。
【0025】
また、本発明のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法は、スライドプレート用成形体が、耐火骨材と炭素質原料より構成される主原料に対して外掛けで8質量%以下の量のアルミニウム、シリコン、マグネシウム、クロムまたはこれらの合金類、炭化珪素、炭化硼素、窒化珪素、窒化硼素を含有することを特徴とする。
【0026】
更に、本発明のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法は、炭化チタンおよび金属チタンの粒度が180μm以下であり、熱処理の時間が3~30時間の範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法によれば、十分な機械的強度および耐スポーリング性だけでなく、優れた耐食性および耐水和性を有するカーボン含有スライドプレート耐火物を提供することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)は、炭化チタン含有スライドプレート耐火物の供試体(熱処理後)の電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析結果を示し、(b)は、金属チタン含有スライドプレート耐火物の供試体(熱処理後)の電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法は、耐火骨材と炭素質原料より構成される主原料に対して炭化チタンおよび/または金属チタンを外掛けで0.5~8質量%含むスライドプレート用成形体を、大気圧下の熱処理において、全気圧を1atmに換算して窒素分圧が0.85atm以上の窒素雰囲気中で熱処理するところに特徴がある。
【0030】
炭化チタンおよび/または金属チタンを含有するスライドプレート用成形体を、大気圧下の熱処理において、全気圧を1atmに換算して窒素分圧が0.85atm以上の窒素雰囲気中で熱処理することによって、成形体中の炭化チタンおよび/また金属チタンは、雰囲気中の窒素を容易に取り込み、炭窒化チタンまたは窒化チタンなどのチタン窒化物を含有する窒素元素を1~20質量%含有する窒素含有相をその場生成させ、それによって、得られるスライドプレート耐火物中の気孔数は少なくなり、気孔径も小さくなり、スライドプレート耐火物の組織は緻密化する。また、窒素含有相自体は、溶鋼および溶鋼中の液体介在物スラグに溶解し難く、仮に、微量の窒素含有相が溶解したとしても、溶鋼および液体介在物スラグの粘度を大きく高めることができる。
【0031】
このようなスライドプレート耐火物の組織緻密化、難溶解性および粘度増大によって、溶鋼および溶鋼中の液体介在物スラグが耐火物の内部へ浸透し難くなり,耐火物の溶鋼に対する耐食性を顕著に向上させることができる。
【0032】
また、当該窒素含有相は、水と反応しないため、水和を引き起さない。金属アルミニウムを併用する場合にも、熱処理中に、金属アルミニウムは、先に生成している窒素含有相を通じて、絶えず雰囲気中の窒素を取り込み、窒化アルミニウムへと変化するため、炭化アルミニウムの生成は抑制される。その場生成した窒素含有相は、活性が非常に高く、窒素含有相を経由する窒化アルミニウムの生成が生じ易い。この結果、金属アルミニウムを併用する場合でも、スライドプレート耐火物は水和し難い。
【0033】
スライドプレート用成形体を熱処理する際の窒素雰囲気は、窒素成分のほか、CO、CO2、H2やH2Oなどの窒素成分以外の成分を含んでも良いが、大気圧下の熱処理において、全気圧を1atmに換算して窒素雰囲気の窒素分圧は、0.85atm以上、望ましくは0.90atm以上である。
【0034】
ここで、全気圧を1atmに換算した窒素分圧が0.85atm未満であると、スライドプレート用成形体中の炭化チタンおよび/または金属チタンが、熱処理の際に窒素雰囲気中の窒素と反応しないため、窒素含有相をその場生成することができず、この結果、得られるスライドプレート耐火物の溶鋼に対する耐食性と耐水和性とも不十分となるために好ましくない。
【0035】
また、熱処理の温度は、400~1400℃、望ましくは500~1200℃である。熱処理の温度が400℃未満であると、窒素含有相の生成速度が遅くなり、生成量も少なくなるため、得られるスライドプレート耐火物の溶鋼に対する耐食性と耐水和性とも不十分となることがある。また、熱処理の温度が1400℃を超えると、窒素含有相の生成反応が速すぎ、熱処理中にスライドプレート耐火物に微細な亀裂が生じ、耐食性と耐水和性が低下することがある。
【0036】
なお、本発明のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法において、窒素雰囲気中での熱処理に供されるスライドプレート用成形体は、耐火骨材およびカーボン原料から構成される主原料に対して、炭化チタンおよび/または金属チタンを外掛けで0.5~8質量%、望ましくは外掛けで1~6質量%含有してなるものである。ここで、炭化チタンおよび/または金属チタンの含有量が外掛けで0.5質量%未満であると、その場生成する窒素含有相の量が少なすぎ、得られるスライドプレート耐火物の溶鋼に対する耐食性と耐水和性とも不十分となるために好ましくない。また、炭化チタンおよび/または金属チタンの含有量が外掛けで8質量%を超えると、その場生成する窒素含有相の量が多くなり過ぎて、熱処理の際にスライドプレート用成形体にキレツが生じる可能性があるために好ましくない。
【0037】
なお、添加する炭化チタンおよび/金属チタンの原料は、粒度が180μm以下、望ましくは150μm以下であることが好ましい。炭化チタンおよび/金属チタンの原料の粒度が180μmを超えると、粒子サイズが大きくなり過ぎ、窒素含有相の生成速度が遅くなり、また、生成量も少なくなるため、得られるスライドプレート耐火物の溶鋼に対する耐食性と耐水和性とも不十分となることがある。ここで、本明細書に記載する「粒度」は、JIS Z8801-1試験用ふるい-第1部:金属製網ふるいによって篩分けた粒度である。
【0038】
なお、熱処理時間は、3~30時間、望ましくは4~25時間の範囲内である。ここで、熱処理時間は、400℃以上の温度範囲を経過する全部の時間を指す。熱処理時間が3時間未満であると、その場生成する窒素含有相の量が少な過ぎ、得られるスライドプレート耐火物の溶鋼に対する耐食性と耐水和性とも不十分となることがある。また、熱処理時間が30時間を超えても、熱処理効果が飽和し、経済的にも好ましくない。
【0039】
ここで、スライドプレート用成形体を作製するための混合物に添加する炭化チタンの原料としては、炭化チタン単体や、チタン含有複合炭化物、炭窒化物、例えば、チタンと、アルミニウム、シリコン、ジルコニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、タングステン、ボロンなどの1種または2種以上からなる複合炭化物、炭窒化物などを用いることができる。なお、チタン含有複合炭化物、炭窒化物を用いる場合には、炭化チタンの含有量が0.5~8質量%の範囲となる量で使用する。
【0040】
さらに、スライドプレート用成形体を作製するための混合物に添加する金属チタンの原料としては、金属チタン単体や、チタン含有合金、例えば、チタンと、アルミニウム、シリコン、マグネシウム、鉄、マンガン、ニッケル、銅、ジルコニウム、クロム、モリブデン、タングステン、ボロンなどの一種または二種以上からなる合金、チタン化合物、例えば、水素化チタンなどを用いることができる。なお、チタン合金やチタン化合物を用いる場合には、チタン含有量が炭化チタン換算で0.5~8質量%の範囲となる量で使用する。
【0041】
また、スライドプレート用成形体を作製するための混合物は、耐火骨材および炭素質原料から構成される主原料からなり、ここで、耐火骨材は、特に限定されるものではなく、例えば,慣用の原料であるアルミナ、マグネシア、ジルコニア、アルミナ-ジルコニア、ジルコニア-ムライト、スピネル、ムライトなどを単独で、もしくは組み合わせを使うことができる。なお、これらの原料は、焼結原料または電融原料として使用することができる。
【0042】
さらに、主原料を構成する炭素質原料としては、例えば、カーボンブラック、ピッチ、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などの単独で、もしくは組み合わせて使用することができる。
【0043】
なお、耐火骨材と炭素質原料の割合は、炭素質原料1~10質量%、望ましくは2~8質量%の範囲内である。炭素質原料の割合が1質量%未満であると、得られるスライドプレート耐火物の耐スポーリング性が低下することがある。また、炭素質原料の割合が10質量%を超えると、窒素含有相のその場生成が阻害されることがある。
【0044】
また、スライドプレート用成形体には、炭素質原料の酸化防止効果やスライドプレート耐火物の機械的強度などをより向上させるなどの目的で、アルミニウム、シリコン、マグネシウム、クロムなどの金属またはこれらの合金類、炭化珪素や炭化硼素などの炭化物、窒化珪素や窒化硼素などの窒化物を適宜配合することもできる。なお、これらの成分の含有量は耐火骨材および炭素質原料から構成される主原料に対して外掛けで8質量%以下、望ましくは外掛けで6質量%以下とする。これらの成分の含有量が耐火骨材および炭素質原料から構成される主原料に対して外掛けで8質量%を超えると,その場生成する窒素含有相の効果が低下することがある。
【0045】
さらに、スライドプレート用成形体には、結合剤としてタールやフェノール樹脂などを使用することもできる。これら結合剤の添加量は、特に限定されるものではなく、慣用の添加量、すなわち、スライドプレート用成形体を構成する上記成分の合計量に対して外掛けで1~10質量%、好ましくは2~8質量%の範囲内で使用することができる。
【0046】
本発明のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法に用いられるスライドプレート用成形体は、上記の各原料を所定の配合割合で調整し、混練することにより得られた混合物を、所定の形状に成形し、乾燥することにより得ることができる。
【0047】
なお、本発明のカーボン含有スライドプレート耐火物の製造方法により得られたスライドプレート耐火物は、プレートの全体に適用することができるが、プレートの一部、例えば、溶鋼と接触する稼働面付近のみにも適用することができる。
【実施例0048】
実施例1
以下の表1~8に記載する配合割合にて、スライドプレート用成形体を作製し、表1~8に記載する熱処理条件にて大気圧下で熱処理を行うことによって種々のカーボン含有スライドプレート耐火物の供試体を得、得られた供試体について、耐水和性評価テストおよび耐食性評価テストを行った。なお、スライドプレート用成形体を作製するに際して、バインダーとして、フェノール樹脂を外掛けで4質量%使用し、成形には、油圧プレス方法を利用した。また、窒素雰囲気の窒素分圧(atm)は全気圧を1atmに換算したときに窒素分圧を示す。
「耐水和性評価テスト」は、一辺が50mmの立方体を供試体として用い、オートクレーブ装置を用い、0.51MPaの加圧条件において154℃で供試体を8時間保持し、テスト前後の試料の質量増加率を測定したものである。質量増加率が小さいほど、供試体の水和程度が小さく、耐水和性が高いことを示す;
「耐食性評価テスト」は、幅25mm×25mm×高さ250mmの供試体を用い、高周波炉にてアルゴン雰囲気中で、カルシウム処理鋼(Ca含有量=40ppm)を溶解し、1560℃ で、供試体を5時間浸漬した。テスト後の試料の浸漬部の幅を測定し、テスト前後の試料の幅の変化を溶損量とした。溶損量が小さいほど,耐食性が高いことを示す;
「総合判断」は、耐水和性評価テストと耐食性評価テストから総合的に判断した。耐水和性評価テストと耐食性評価テストいずれもが優れている場合を「◎」、そのいずれかが若干劣る傾向にあるものを「○」、これら両評価テスト結果の一部に劣るものの、許容範囲内にあるものを「△」、これら両評価テストのいずれか、あるいは双方に劣る場合を「×」とした。
得られた結果を表1~8に併記する。
【0049】
表1、2は、本発明例と比較例にかかわる窒素雰囲気の窒素分圧の影響を示すものである。また、表3は、本発明例と比較例にかかわる炭化チタン添加量の影響を示すものである。さらに、表4は、本発明例にかかわる炭化チタン粒度の影響を示すものである。また、表5は、本発明例にかかわる熱処理の最高温度の影響を示すものである。さらに、表6は、本発明例にかかわる熱処理の時間の影響を示すものである。また、表7は、本発明例にかかわるチタン合金を用いた例を示すものである。なお、チタン合金としては、チタン含有量が45質量%のチタン-アルミニウム合金を用いた。また、表8は、本発明例にかかわる耐火骨材としてアルミナ、アルミナジルコニア及びジルコニアムライトを併用した例、金属アルミニウム、金属シリコン不含の例を示すものである。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
また、本発明例2の供試体(熱処理後)の電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析にて得られた微組織の結果を
図1(a)に示す。配合された炭化チタンは、チタン含有量63.7質量%、炭素含有量26.9質量%、窒素含有量9.4質量%の炭窒化物へ変化しており、窒素を1~20質量%含有する窒素含有相が存在することが確認された。また、併用している金属アルミニウムは、窒素およびアルミニウムなどから構成される鉱物相に変化していることが確認された。
さらに、本発明例5の供試体(熱処理後)の電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析にて得られた微組織の結果を
図1(b)に示す。配合された金属チタンは、チタン含有量83.6質量%、窒素含有量16.4質量%の窒化物へ変化しており、窒素を1~20質量%含有する窒素含有相が存在することが確認された。また、併用している金属アルミニウムは、窒素およびアルミニウムなどから構成される鉱物相に変化していることが確認された。
また、他の本発明例で得られた供試体についても窒素を1~20質量%含有する窒素含有相が存在することが確認された。
さらに、チタン-アルミニウム合金を使用した本発明例30~33は、チタン-アルミニウム合金を構成するチタンとアルミニウムのいずれもが窒素およびアルミニウムなどから構成される鉱物相並びに炭窒化チタン、窒化チタンなどのチタン窒化物を含有する窒素元素を1~20質量%含有する窒素含有相に変化していることが確認された。
【0059】
表1~8に示す結果より明らかなように、比較例に比べて、本発明の方法により得られた供試体は、耐水和性と耐食性とも顕著に高かった。
さらに、本発明の方法により得られた供試体は、十分な機械強度と耐スポーリング性を有するものであった。
【0060】
実施例2
表1の本発明例2で得られたカーボン含有スライドプレート耐火物を取鍋用スライドプレート耐火物として実機カルシム処理鋼の鋳造に使用した。比較例1で得られたカーボン含有スライドプレート耐火物よりなる取鍋用スライドプレート耐火物の使用寿命が4chであったのに対し、本発明例2で得られたカーボン含有スライドプレート耐火物よりなる取鍋用スライドプレート耐火物の使用寿命は6chに達した。
また、本発明例2で得られたカーボン含有スライドプレート耐火物は、湿度が70%以上と高い場所に約2年間放置されても、スライドプレート耐火物にキレツは生じなかったが、比較例1で得られたカーボン含有スライドプレート耐火物、多数の大きなキレツが発生した。
本発明の方法により得られたカーボン含有スライドプレート耐火物は、十分な機械的強度および耐スポーリング性を確保すると同時に、優れた耐食性および耐水和性を有するものであり、鉄鋼産業界における利用可能性が極めて高い。