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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132934
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】無機繊維複合品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4209 20120101AFI20220906BHJP
   D04H 1/732 20120101ALI20220906BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
D04H1/4209
D04H1/732
B32B5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031685
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(74)【代理人】
【識別番号】100097205
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 正樹
(72)【発明者】
【氏名】板谷 透
(72)【発明者】
【氏名】岡村 和馬
【テーマコード(参考)】
4F100
4L047
【Fターム(参考)】
4F100AA01B
4F100AG00B
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AK41B
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DG00B
4F100DG01B
4F100EH76B
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100JB13B
4F100JB16B
4F100JH01
4F100JJ01
4F100JJ02
4F100JJ03B
4F100YY00B
4L047AA01
4L047AA27
4L047AA28
4L047BA12
4L047CA01
4L047CB03
4L047CB06
4L047CC07
(57)【要約】
【課題】グラスウールやロックウール等の吸音性及び断熱性の高い無機繊維体を用いても低厚み及び低目付のシートを形成することができる無機繊維複合品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】無機繊維複合品1は、平均繊維径が2.0μm以上5.0μm以下であり捲縮されている原料繊維6と、原料繊維100wt%に対して3.0wt%以上10.0wt%以下が含まれている熱硬化性樹脂成分からなるバインダ7と、バインダ7により原料繊維6が接合されて形成されている無機繊維体4と、無機繊維体4を互いに接合させている芯鞘繊維体5であって、有機高分子樹脂成分からなる繊維状の芯部と、芯部を覆う熱可塑性樹脂成分からなる鞘部とを含む捲縮されている芯鞘繊維体5と、芯鞘繊維体5が20wt%以上50wt%以下に対して無機繊維体4が50wt%以上80wt%以下含まれているシート状の芯材2と、2芯材の表裏面を覆う面材3とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が2.0μm以上5.0μm以下であり捲縮されている原料繊維と、
該原料繊維100wt%に対して3.0wt%以上10.0wt%以下が含まれている熱硬化性樹脂成分からなるバインダと、
該バインダにより前記原料繊維が接合されて形成されている無機繊維体と、
該無機繊維体を互いに接合させている芯鞘繊維体であって、
有機高分子樹脂成分からなる繊維状の芯部と、
該芯部を覆う熱可塑性樹脂成分からなる鞘部とを含む捲縮されている芯鞘繊維体と、
該芯鞘繊維体が20wt%以上50wt%以下に対して前記無機繊維体が50wt%以上80wt%以下含まれているシート状の芯材と、
該芯材の表裏面を覆う面材とを備えたことを特徴とする無機繊維複合品。
【請求項2】
前記鞘部の耐熱温度は、前記芯部及び前記面材よりも低く、
前記面材は前記鞘部を介して前記芯材と接着されていることを特徴とする請求項1に記載の無機繊維複合品。
【請求項3】
前記無機繊維体は、スクリーンサイズが10mm以上50mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の無機繊維複合品。
【請求項4】
前記原料繊維を前記バインダにて接合させて前記無機繊維体を形成する無機繊維体形成工程と、
前記無機繊維体と前記芯鞘繊維体とを混在させて混合繊維体を形成する混合繊維体形成工程と、
前記混合繊維体をファンにて吹き飛ばして自由落下させる自由落下工程と、
自由落下してきた前記混合繊維体をサクション装置にて吸引してシート状とするサクション工程と、
シート状となった前記混合繊維体の表裏面を前記面材で覆う被せ工程と、
前記面材及び前記混合繊維体を加熱して前記鞘部を溶融させて前記鞘部を介して前記面材と前記芯材とを接着させる接着工程とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の無機繊維複合品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低厚み及び低目付のシートとして形成することができる無機繊維複合品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラスウールやロックウール等の無機繊維体は吸音性能や断熱性能が高い特徴があり、断熱吸音材として種々の場所にて使用されている。この適用場所をさらに拡大(例えばもっと狭小な場所に適用)するため、低厚み及び低目付の無機繊維体が所望されている。狭小な場所に入れ込む場合は、低厚みであることが必要であることに加え、折りたたんで入れ込まれることもあるため、低目付であることも必要である。
【0003】
無機繊維体のひとつであるグラスウールの製造ラインは非常に大掛かりで、高吐出で溶融ガラスを排出する。このため特定品種を大量生産するのに向いていて、少量多品種の生産に不向きである。この製造ラインで、例えば厚み10mmのグラスウールを生産する場合、溶融したガラス生地の吐出量を極端に低くできないため、密度は80kg/m~150kg/m程度となる。得られたシートは剛性が高すぎてロール状に巻く(折りたたむ)ことができない(巻くと折れてしまう)。
【0004】
グラスウールは、例えば105mmの高厚みとすれば、密度を10kg/mに下げることができ、巻く(折りたたむ)ことができるが、最大巻長は20m程度と短い。例えば、厚み50mm密度20kg/mにした場合、ロール状に巻き取れる最大長さは25mである。さらに厚みを薄くして25mmの密度20kg/mとした場合、長尺の巻物の生産が可能になるかもしれないが、生産効率が極端に低下するためコスト高となる。したがって、グラスウールやロックウールは通常、高厚み、高目付の仕様が殆どであり、低厚み及び低目付とすることは現実的ではない。
【0005】
一方で、低厚み及び低目付のシートを作成する方法として、抄紙法が知られている。抄紙法を用いれば、薄くて目付が均質で強度の高い、非常に長い巻長のロールを形成できる。しかしながらグラスウールやロックウール等をこれに適用しようとすると、グラスウールやロックウール等に使用されるガラス繊維はその繊維長が短いため、引っ張り強度が低くなってしまう。この抄紙法にはEガラス組成からなる長繊維ガラスが適していて、さらに繊維径が太いものが多く用いられている。したがって、グラスウール等に使用される繊維長が短くて繊維径が細いガラス繊維には適していない。
【0006】
また、シートを作成する方法としてニードルパンチ加工法が知られている。このニードルパンチ加工法は、予め解繊して嵩高くしたガラス繊維を、かぎ(バーブ)付きの針を突き刺してガラス繊維同士を交絡させるものである。ガラス繊維の代わりに、炭素繊維やバサルト繊維などの無機繊維が使用されることもある。また、これらの無機繊維と熱可塑性樹脂繊維を混合し、後加工で様々な形状に成形することも可能である。しかしながら、グラスウールやロックウールを使用してニードルパンチ加工品を作る場合、粉砕機による粉砕工程やカード機による解繊工程でガラス繊維が折れてしまう。ガラス繊維が折れると、繊維の長さが短くなりすぎ、他の長い繊維と混ぜてもガラス繊維が脱落しやすくなってしまい、良質なシートを形成することが困難である。特に、カード機は撚糸などのきつく絡まった繊維を叩いてほぐし、嵩高くするために使用されるものであるが、グラスウールをカード機で加工すると繊維が折れて微粉砕されてしまい、取り扱えなくなる。
【0007】
したがって、抄紙法やニードルパンチ加工法では、繊維長の長いEガラス組成のガラス繊維が適している。Eガラス組成の長繊維ガラスは引張強度が高く扱いやすいが、繊維径が太いため、グラスウールやロックウールと比べて吸音性や断熱性が劣るという問題がある。以上より、他の製造方法を適用しても、グラスウールやロックウール等の無機繊維体を用いて低厚み及び低目付のシートを形成することは困難である。
【0008】
無機繊維を用いたマットを形成するものとして、熱硬化性樹脂結着剤と熱可塑性樹脂結着剤とを用いたものが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1では、無機繊維は、硬化した熱硬化性樹脂結着剤で部分的に結合されている。また、特許文献1では、無機繊維のマット状物は解繊工程やニードルパンチ工程を含む通常の不織繊維マットの製造方法によるもので、不織繊維マット中には溶液や粉末などの熱硬化性樹脂結着剤が2重量%~10重量%含有されている。さらに、無機繊維のマット状物には、繊維、粉末などの熱可塑性樹脂結着剤が10~60重量%含有されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1のように、グラスウールやロックウール等の繊維径が細く嵩高い無機繊維の粉砕品を熱硬化性樹脂2重量%~10質量%で結束させることは困難である。無機繊維粉砕品同士の絡み合いが少ない為、加工中にマットが千切れてうまく加工できないからである。また、特許文献1で使用している繊維のように、無機繊維や熱可塑性樹脂繊維が直線形状の仕様である場合、繊維同士の絡み合いが不足して細繊維の無機繊維が脱落したり、繊維が均質に混ざらなかったりする問題がある。本来であれば、直線状の無機繊維を直線状の熱可塑性樹脂で結束させる場合は、熱可塑性樹脂がおよそ50重量%以上含まれないと繊維同士の十分な結束を維持できない。この場合、熱可塑性樹脂繊維の含有量が多すぎるため、不燃性や吸音性、断熱性が損なわれるため好ましくない。したがって、特許文献1では熱硬化性樹脂を併用して、無機繊維を結束させている。
【0010】
また、特許文献1では、直線状の無機繊維と直線状の熱可塑性樹脂繊維を使用している。マットの引張強度を高めるため、接着樹脂だけではなく、繊維同士を絡める必要がある。特許文献1では、ガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維と混合して、カード機で解繊して笠高く絡み合いやすくしたうえで、ニードルマシンで加工している。グラスウールやロックウール等の無機繊維体は上述したように繊維が細く折れやすいため特許文献1の解繊工程を行ってしまうと繊維が微細に粉砕されすぎて取り扱えなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平1-298261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、グラスウールやロックウール等の吸音性及び断熱性の高い無機繊維体を用いても低厚み及び低目付のシートを形成することができる無機繊維複合品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、本発明では、平均繊維径が2.0μm以上5.0μm以下であり捲縮されている原料繊維と、該原料繊維100wt%に対して3.0wt%以上10.0wt%以下が含まれている熱硬化性樹脂成分からなるバインダと、該バインダにより前記原料繊維が接合されて形成されている無機繊維体と、該無機繊維体を互いに接合させている芯鞘繊維体であって、有機高分子樹脂成分からなる繊維状の芯部と、該芯部を覆う熱可塑性樹脂成分からなる鞘部とを含む捲縮されている芯鞘繊維体と、該芯鞘繊維体が20wt%以上50wt%以下に対して前記無機繊維体が50wt%以上80wt%以下含まれているシート状の芯材と、該芯材の表裏面を覆う面材とを備えたことを特徴とする無機繊維複合品を提供する。
【0014】
好ましくは、前記鞘部の耐熱温度は、前記芯部及び前記面材よりも低く、前記面材は前記鞘部を介して前記芯材と接着されている。
【0015】
好ましくは、前記無機繊維体は粉砕機で粉砕されたものであり、スクリーンサイズ(スクリーンの開口穴の直径)が10mm以上50mm以下に設定された開口部を通過して得られたものである。すなわち、無機繊維体はスクリーンサイズが10mm以上50mm以下である。
【0016】
また、本発明では、前記原料繊維を前記バインダにて接合させて前記無機繊維体を形成する無機繊維体形成工程と、前記無機繊維体と前記芯鞘繊維体とを混在させて混合繊維体を形成する混合繊維体形成工程と、前記混合繊維体をファンにて吹き飛ばして自由落下させる自由落下工程と、自由落下してきた前記混合繊維体をサクション装置にて吸引してシート状とするサクション工程と、シート状となった前記混合繊維体の表裏面を前記面材で覆う被せ工程と、前記面材及び前記混合繊維体を加熱して前記鞘部を溶融させて前記鞘部を介して前記面材と前記芯材とを接着させる接着工程とを備えたことを特徴とする無機繊維複合品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、グラスウールやロックウール等の吸音性及び断熱性の高い無機繊維体を用いても低厚み及び低目付のシートを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る無機繊維複合品を概念的に示した概略斜視図である。
図2】本発明に係る無機繊維複合品の製造方法のフローチャートである。
図3】本発明に係る無機繊維複合品の製造の過程を示す概略図である。
図4】本発明に係る無機繊維複合品の性能を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、本発明に係る無機繊維複合品1は、シート状の芯材2の表裏面が面材3に覆われて形成されている。芯材2は、無機繊維体4とこの無機繊維体4を互いに接合させている芯鞘繊維体5で形成されている。無機繊維体4は、例えばグラスウールやロックウールが粉砕されたものであり、原料繊維6が熱硬化性樹脂成分からなるバインダ7によって接合されて形成されている。芯鞘繊維体5は、繊維状の芯部(不図示)の外側が鞘部(不図示)にて覆われて形成されている。芯部は有機高分子樹脂成分からなり、鞘部は熱可塑性樹脂成分からなる。なお、図1に示す無機繊維体4、芯鞘繊維体5、原料繊維6、バインダ7は、その構造を説明するために概略的に示したものであり、その構造そのものを示したものではない。
【0020】
ここで、本発明の重要な要件の一つとして、原料繊維6は捲縮している。すなわち、原料繊維6は非直線形状であり、波状やらせん状に縮れている。捲縮の度合いについて特に限定されるものではないが、目安として、繊維の捲縮を伸ばしたときの長さに対して捲縮した状態の長さが20%を超えるものが好ましい。無機繊維体4がグラスウールの場合、原料繊維6となるガラス繊維が捲縮されているということである。これは原料繊維6として直線形状のものを適用できないということを示す。直線形状の原料繊維6を使用してしまうと、原料繊維6が結束されたロービング糸の状態では繊維の絡み合いが少ない為、解繊したりニードルパンチ加工したりする必要があるためである。また、捲縮された原料繊維6を使用することで繊維同士が絡みやすくする。これにより、芯鞘繊維体5の含有量を少なくすることができる。このような捲縮された原料繊維6は、無機成分を溶融させた生地をスピナーと呼ばれる回転体に流し込み、高速回転して遠心力で溶融生地を吹き飛ばして繊維化し、さらに高速空気で吹き飛ばして細く長く引き伸ばすことで得ることができる。
【0021】
無機繊維体4の例としてグラスウールとロックウールを掲げているが、グラスウールと比べてロックウールには「ショット」と呼ばれる太いガラス状の塊が比較的多く含まれており皮膚刺激性が高い為、グラスウールの方が好適に使用できる。ただし、グラスウールの一部又は全部をロックウールで置き換えることは可能である。なお、原料繊維6のような無機繊維を粉砕したり散布したりすると、繊維径が細いため、微小な繊維が飛散し、作業者が吸い込んでしまうおそれがある。そこで使用する無機繊維としては、人体に取り込まれても影響の少ないもの、すなわち生体溶解性のあるグラスウールやロックウールが好ましい。
【0022】
また、グラスウールの原料繊維6であるAガラス組成からなるガラス繊維は、溶融したガラスをスピナーと呼ばれる円盤状の回転体の側面に開いた小さな穴から、遠心力で吹き飛ばし、さらに高温のバーナーで吹き飛ばすことで細く長く引き伸ばされて作られる。ロックウールの原料繊維6は、玄武岩や輝緑石などの天然鉱石を溶融したスラグを高速回転するスピナーに巻き付け、高速空気で吹き飛ばすことで細く長く引き伸ばされて作られる。いずれであっても、細い繊維を比較的容易かつ安価に生産することができる。また、得られた原料繊維6は適度な捲縮性をもっており、他の繊維と絡み合いやすい性質を持つため、本発明の無機繊維複合品1に好適に使用できる。
【0023】
一方で、さらに本発明の重要な要件の一つとして、芯鞘繊維体5も捲縮している。グラスウールやロックウール等の無機繊維体4は、その原料繊維6の強度が弱くて細いため、解繊やニードルパンチ加工により繊維同士を機械的に絡み合わすことができない。このような無機繊維体4に対し、直線状の熱可塑性樹脂を含む芯鞘繊維体を用いた溶着だけでは、無機繊維体4を接合することは困難であり、もし実現しようとするならば芯鞘繊維の含有量を多くしなければならず現実的ではない。芯鞘繊維体5を捲縮させることで、嵩高い捲縮性の無機繊維体4(無機繊維粉砕品)と絡みやすくすることで、芯鞘繊維体5と無機繊維体4が3次元的に接合(結束)できる。
【0024】
ここで、原料繊維6は、平均繊維径が2.0μm以上5.0μm以下である。平均繊維径が2.0μm未満の無機繊維からなる原料繊維6は、生産性が非常に低く、生産コストが高額であるため好ましくない。平均繊維径が5.0μmを超えると、断熱性や吸音性が低下するとともに、皮膚刺激性も高まるため好ましくない。この点から、ダイレクトメルト法で製造されるEガラス組成などの長繊維ガラスは、溶融したガラスの素地を、繊維径の分布が均一になるよう制御しながら、白金ノズルから毎分約3000mのスピードで引き出して作られる。この方法では繊維径が細いガラス繊維を安価に生産することができない。また、この方法で形成された繊維は繊維径が太く、断熱性および吸音性があまりよくない。また、この方法で形成された繊維は直線形状であり、この点からも、原料繊維6としてEガラス組成からなるガラス繊維は好ましくない。
【0025】
バインダ7は、原料繊維6が100wt%に対して3.0wt%以上10.0wt%以下含まれている。熱硬化性樹脂成分からなるバインダ7が3wt%未満の場合は、原料繊維6同士の結束力が低くなってしまい、ライン製造中にウールが千切れやすく生産しにくいためコスト高になる。また、熱硬化性樹脂成分の付着量が少なくなるにつれ、無機繊維複合品1の芯材2の引張強度不足を招く。バインダ7が10.0wt%を超えと、単位重量当たりに含まれる繊維の本数が少なくなるため吸音性や断熱性が低下するので好ましくない。また、熱硬化性樹脂成分を10.0wt%を超えて含むグラスウールやロックウールは、自動車部品の成形用材料などの非常に特殊な仕様であり、材料費が高くなるため好ましくない。
【0026】
芯材2を構成する芯鞘繊維体5と無機繊維体4の混合割合は、芯鞘繊維体5が20wt%以上50wt%以下に対して無機繊維体4が50wt%以上80wt%以下である。例えば粉砕されたグラスウールである無機繊維体4の含有量が50wt%未満であると、平均繊維径が太くなり、吸音性・断熱性が不足するため好ましくない。無機繊維体4の含有量が80wt%を超えると、低密度品の加工が困難になったり(複合品1の密度が高くなって重くなったり)、無機繊維が脱落して飛散しやすくなり好ましくない。芯鞘繊維体5の含有量が20wt%未満の場合、無機繊維体4や面材3の接着力が低下して、無機繊維体4が飛散したり面材3が剥れたりするため好ましくない。芯鞘繊維体5の含有量が50wt%を超える場合は、断熱性・吸音性が低下するため好ましくない。
【0027】
そして上述したように、鞘部は熱可塑性樹脂成分(例えば熱可塑性樹脂繊維)からなる。鞘部に熱可塑性樹脂成分を含ませることで、これが溶融するまで加熱した場合も、極端に収縮するのを防ぐことができる。また、芯鞘繊維体5を構成する鞘部の耐熱温度は、芯部よりも低い。具体的には、鞘部の耐熱温度は芯部の耐熱温度よりも40℃以上低いことが好ましい。熱可塑性樹脂成分からなる一般的な樹脂繊維(例えばポリプロピレン系繊維や、ポリエチレン系繊維、低融点ポリエステル系繊維、ポリ乳酸系繊維など)を鞘部として使用した場合、無機繊維体4と混ぜて加熱炉で加熱したときに鞘部の熱収縮とともに芯材2が縮んだり、無機繊維体4との絡み合いが不十分となったりして、無機繊維複合品1の引張強度が不十分となってしまう。鞘部の耐熱温度が芯部の耐熱温度に対してその差が40℃未満の場合は、無機繊維体4と混ぜて加熱炉で加熱したときに、有機高分子樹脂成分からなる芯部とともに縮みやすくなるため好ましくない。また、芯材2(正確には後述する混合繊維体)と面材3とを加熱して一体化する場合も、得られた無機繊維複合品1を後工程で加熱してプレス成形する場合も、耐熱温度差が低いとその温度を厳密にコントロールするのは技術的に困難で、特殊な設備が必要となることからも好ましくない。また、加熱後の製品の収縮や変形が生じるため好ましくない。
【0028】
なお、原料繊維6同士のバインダ7による接合と、無機繊維体4同士の芯鞘繊維体5による接合との関係は、芯鞘繊維体5による接合の方がバインダ7による接合より弱い。バインダ7で結束させる場合は、繊維と繊維の交点でまとわりつくように結束されるため、結束力が高い。一方、鞘部を形成する熱可塑性樹脂成分を溶融させることで無機繊維体4同士を結束する場合は、鞘部の熱可塑性樹脂成分が存する部分に無機繊維体4の一部がわずかに埋め込まれる形で結束されるため、結束力があまり高くない。したがって、繊維の結束が不足して脱落や飛散が起こりやすくなるが、本発明ではこれも考慮し、上述したように芯鞘繊維体5を捲縮させ、無機繊維体4と絡み合いやすくしている。捲縮した芯鞘繊維体5は捲縮している無機繊維体4と良好に絡むため、これらが混合した混合繊維体の結束力を高めることができる。この点でも上述した捲縮は重要となっている。
【0029】
また、鞘部の耐熱温度は面材3を構成する材料の耐熱温度よりも低い。具体的には、鞘部の耐熱温度は面材3の耐熱温度よりも40℃以上低いことが好ましい。芯材2と面材3とは加熱して一体化されるため、鞘部の耐熱温度が芯部の耐熱温度よりも低いことと相俟って、面材3は鞘部を介して芯材2と接着される。このように、加熱炉内で鞘部を溶融させる必要があるため、面材3としては熱収縮や変形などが生じない材質を選ぶ必要がある。鞘部の耐熱温度に対して面材3の耐熱温度が40℃以上高くないと、加熱炉内で溶融して焼失したり熱変形したり、伸びて透けたり穴が開いたり、焦げたり変色するため好ましくない。
【0030】
面材3としては特に素材を限定されるものではなく、不織布、織物、紙、穴あきフィルムなど、適宜要求される性能に応じたものを選ぶことができる。また、無機繊維複合品1の両面を覆う面材3は異なる材質でもよい。なお、面材3は芯材2に対して全面で密着され一体化されていて、面材3を剥がした時に面材3の全面に芯材2を構成する繊維が付着する。面材3を剥がした時の芯材2を構成する繊維の付着量が50%を下回る場合は、カット時やハンドリング時に芯材2の繊維が脱落する可能性が高くなるため好ましくない。なお、芯材2には捲縮性を有する無機繊維体4と芯鞘繊維体5とを用いているが、芯材2そのままでは折れて短くなった繊維を有する無機繊維体4の飛散を完全に防止することは困難である。面材3はこのような無機繊維体4の飛散防止としても重要である。また、後述するように、無機繊維複合品1の製造過程で無機繊維体4と芯鞘繊維体5とはサクション装置で吸引して集綿され、ここに面材が被せられるため、面材3は通気する素材でなければならない。面材3の通気度は10(cm/cm・sec)以上300(cm/cm・sec)以下であることが好ましい。面材3の通気度が10(cm/cm・sec)未満の場合、加熱炉内部で無機繊維体4が飛散したり、無機繊維複合品1の2000Hz以上の吸音性が低下したりするため好ましくない。面材3の通気度が300(cm/cm・sec)を超える場合、芯材2の繊維が面材3の隙間から脱落する可能性が高まるため好ましくない。
【0031】
無機繊維体4の粉砕に使用する粉砕機のスクリーンサイズは、10mm以上50mm以下であることが好ましい。無機繊維体4は、熱硬化性樹脂成分からなるバインダ7で接合(結束)された原料繊維6が粉砕機で粉砕されたものである。このとき、特定の大きさの円形状のスクリーンを通して、特定の大きさに粉砕したものを使用している。すなわち、スクリーンサイズとは、粉砕物が一定以下の大きさになるよう通過させる多孔板の、円形状の開口部の直径のことである。粉体などは特定の目開きのメッシュが付いたふるいを通過させ、得られる粉体の大きさをメッシュパスと称するが、粉砕機のスクリーンを通過した繊維体の中には、スクリーンサイズと比べて実際の大きさが最大で3倍程度大きいものも存在することから、メッシュパスという表現は適さない。なお、開口部の形状は、楕円状や矩形状であってもよく、その場合のスクリーンサイズは開口部の長径や対角長となる。このスクリーンサイズが10mmに満たない場合、後述する製造過程にて無機繊維体4を空送する際にフィルターが目詰まりしたり、エアレイ装置で散布した無機繊維体4が飛散したりして、コンベアの目を詰まらせたりするため好ましくない。スクリーンサイズが50mmを超える場合は、無機繊維複合品1の厚み均質性が損なわれたり、千切れやすくなったり、千切れた場合は無機繊維体4が飛散しやすくなるため好ましくない。
【0032】
このような構成の無機繊維複合品1は、グラスウールやロックウール等の吸音性及び断熱性の高い無機繊維体4を用いても低厚み及び低目付のシートとして形成される。特に、本発明によれば、無機繊維たる原料繊維6を主成分とし、厚み3mm以上30mm以下で、目付300g/m以上3000g/m以下の無機繊維複合品1を比較的簡単かつ安価に得ることができる。無機繊維複合品1の厚みが3mm未満では十分な断熱吸音効果が発現しないため好ましくない。厚みが30mmを超える場合は、無機繊維複合品を使用するよりも、グラスウールやロックウールをそのまま使用する方がコストメリットが高くなる。一方、無機繊維複合品1の目付が300g/mを下回ると、断熱・吸音性能が不足するため好ましくない。また、シート(芯材2)が千切れやすくなるため好ましくない。一方、目付が3000g/mを超えると、グラスウールやロックウールの製造ラインで生産したものの方が安価となるため好ましくない。また、目付が3000g/mを超える仕様でロール状に巻き取る場合、ロールが重くて取り扱いが困難になったり、芯材2の密度が高まったり、ロールの芯に近い部分の巻癖が酷くなったり、紙管のサイズを大きくしないと巻き取れなくなったりして好ましくない。
【0033】
無機繊維複合品1の厚みが薄い場合は、4辺を定寸カットして使用したり、ロール状に巻き取って長尺品にして使用したりできる。一般的にロールの巻長を長くしていくと、ロール重量が重くなっていき、材料の引張強度が低い場合は、ロールを展張する際に引き千切れやすくなる。しかしながら、本発明における無機繊維複合品1は、両面に面材3を積層したサンドイッチ構造体であり、面材3の仕様で引張強度を高めることができる。したがって、巻長を長くしてロールが重くなっても、引き千切れにくい仕様にできる。
【0034】
また、本発明の無機繊維複合品には真比重の重い(2.0~2.5(g/cc))無機繊維が大量に含まれているため、低密度の無機繊維複合品にするためには、吸音性や断熱性が低下しない範囲で、無機繊維の熱硬化性樹脂を増やすか、捲縮性の芯鞘繊維の繊維径を比較的太く長くする必要がある。好ましい繊維径は2~10dtex、長さは30mm~100mmである。芯鞘繊維だけでは十分な嵩増し効果が得られない場合は、繊維の中心部に空洞がある中空繊維や、断面形状がT字型や十文字形などの幾何学形状の繊維を使用すると良い。特に中空繊維は、少量でも嵩高くなるため好適に使用できる。中空繊維の中には、中心が空洞の完全なチューブ状のタイプと、チューブの一部が開いたものがあるが、いずれを用いても良い。また、中空の形状が丸いものや四角いものなど様々だが、嵩増し効果のある繊維であれば特に限定するものではない。
【0035】
次に、本発明に係る無機繊維複合品の製造方法を説明する。
図2に示すように、まずは無機繊維体形成工程が行われる(ステップS1)。この無機繊維体形成工程は、原料繊維6をバインダ7にて接合させて無機繊維体4を形成する工程である。この製造は上述したとおり、グラスウールの場合やロックウールの場合で異なるが、通常の製造工程により製造される。なお、無機繊維体4は粉砕される前の状態である。
【0036】
次に、混合繊維体形成工程が行われる(ステップS2)。この混合繊維体形成工程は、無機繊維体4と芯鞘繊維体5とを混在させて混合繊維体8を形成する工程である。図3を参照すれば明らかなように、無機繊維体形成工程にて形成された無機繊維体4は、粉砕機9で粉砕され、スクリーンを介してタンク10に投入される。タンク10に投入される無機繊維体4は所定のスクリーンサイズ(スクリーンの開口穴の直径)とされたものである。無機繊維体4が予め粉砕されたものである場合は、タンク10に直接投入しても良い。一方で芯鞘繊維体5は、粉砕機11を介してタンク12に投入される。芯鞘繊維体5が予め粉砕されたものである場合は、タンク12に直接投入しても良い。芯鞘繊維体5は必要に応じて予め解繊される。そして、定量供給機等を用いて上述した特定の混合割合となるように、それぞれのタンク10及び12に接続されている配管13を介して混合タンク14に供給される。混合タンク14内では、無機繊維体4及び芯鞘繊維体5の捲縮性により、ある程度物理的に絡まった状態で混合されて混合繊維体8となっている。
【0037】
次に、自由落下工程が行われる(ステップS3)。この自由落下工程は、混合繊維体8をファン(製造ラインの流れ方向に直行する幅方向に、複数の羽が連続的に取り付けられた製造ラインの幅とほぼ同じ大きさの回転体)にて吹き飛ばして自由落下させる工程である。図3に示すように、混合タンク14内の混合繊維体8は配管15内を空送されてファン(不図示)を有する送風機16に送られ、ここから吹き飛ばされる。
【0038】
次に、サクション工程が行われる(ステップS4)。このサクション工程は、自由落下してきた混合繊維体8をサクション装置にて吸引してシート状とする工程である。図3に示すように、自由落下してきた混合繊維体8は、サクション装置(不図示)によりコンベア17に吸引され、目付が均質になるように集綿される。この送風機16およびサクション装置で吸引できるコンベア17はいわゆるエアレイ装置であり、空気の流れに乗せて吹き飛ばすものを均一分散させるものである。
【0039】
次に、被せ工程が行われる(ステップS5)。この被せ工程は、シート状となった混合繊維体8の表裏面を面材3で覆う工程である。図3に示すように、コンベア17で送られた混合繊維体8は、その下側(裏面)を巻出装置18から巻出された面材3にて、その後さらにコンベア19で送られて巻出装置20から巻出された面材3にて上側(表面)を覆われる。
【0040】
次に、接着工程が行われる(ステップS6)。この接着工程は、面材3及び混合繊維体8を加熱して芯鞘繊維の鞘部を溶融させて鞘部を介して面材3と芯材2とを接着させると共に、無機繊維体と芯鞘繊維体とを接着させる工程である。この接着により、無機繊維複合品1が製造される。被せ工程にて面材3が両面に配された混合繊維体8は、図3に示すようなコンベア21上にある加熱炉22により加熱される。加熱炉22は例えば熱風循環式のオーブンであり、熱風は混合繊維体8の厚み方向に通過するように送られる。これにより芯鞘繊維の鞘部が溶解し、無機繊維及び面材3と一体化する。加熱することで混合繊維体8は芯鞘繊維の鞘部が溶解して芯材2となる。ここで、芯鞘繊維体5をいわゆる芯鞘構造としたことの意味が出てくる。上述したように鞘部の耐熱温度は芯部及び面材3よりも低いため、加熱炉22内では芯鞘繊維の鞘部のみが溶け、従って鞘部のみが接着の役割を果たす。加熱炉22では、この鞘部のみが溶けるような温度設定がされる。芯鞘繊維体5が単一繊維の場合や芯部の耐熱温度も鞘部と同程度である場合、加熱により芯鞘繊維体5の全部が縮んでしまい、面材3もこれに伴いしわになってしまう。この後、無機繊維複合品1は、必要に応じてカッター23を用いて所望の幅や長さになるようにカットされ、積み重ねられて保管される。また、巻取装置で一定の長さに巻き取ってロール状にしても良い。
【0041】
上述した製造方法は、有機繊維不織布のフリース(バインダーで結束されていない原反)の製造方法の一種であり、エアレイド法と呼ばれる方法である。エアレイ装置では、バラバラに粉砕してほぐした繊維や粉体を、水を使わないで、空気の流れに乗せて均一分散させ、金網や竹や木製のコンベア上に吸い取らせて不織布のもととなるフリースを作る。不織布の原料および製法は多種多様で、製法には湿式と乾式があり、乾式のなかでも接着剤型、機械結合型、紡糸型などさまざまある。本発明による無機繊維複合品の製造方法に最も近いのは、乾式の接着剤型に属するエアレイド不織布の加工方法といえる。
【0042】
混合繊維体形成工程から接着工程にて、解繊装置にかけずにエアレイ装置に空送し、乾式のフリースを作成し、芯鞘繊維の熱可塑性樹脂成分により結着させることが実現されている。これにより、熱硬化性樹脂成分で結束された無機繊維の粉砕品が解繊装置で傷つくことはない。また、他の繊維と混合して散布するだけで、繊維同士をニードルパンチ加工で絡み合わせるのではなく、捲縮した繊維同士の絡み合いと熱可塑性樹脂成分による熱溶着だけで、簡単に一体化できる。無機繊維粉砕品を解繊装置とニードルパンチ装置で加工しないことで、無機繊維の熱硬化性樹脂バインダの結束力を保持でき、また、無機繊維を長い状態に保てる。
【0043】
一方、本発明ではエアレイ装置で無機繊維を取り扱っているので、細くて短い無機繊維が飛散してコンベアの隙間に詰まったり、出来上がった製品から無機繊維が脱落したり、無機繊維を吸い込んだり、無機繊維特有の皮膚刺激性がなくなる様に、無機繊維複合品の表と裏の両表面に面材を貼りあわせている。ここでいう表面とは、シートの最も面積が大きな面であって、言い換えるとシートの表裏の両面のことである。
【0044】
無機繊維複合品1には、熱可塑性樹脂成分を鞘部とした芯鞘繊維体が含まれるため、後工程で種々の形状に成形することができる。主な成形方法としては、無機繊維複合品を遠赤外線による加熱炉で予備加熱し、芯鞘繊維体の鞘部の熱可塑性樹脂成分を溶融させ、熱可塑性樹脂成分が溶融・軟化している間に、無機繊維複合品を素早く金型に乗せて、冷却プレスして金型内で冷却する方法である。このとき、金型形状を種々の形状にすることで、様々な厚み、密度、形状の部品を成形することができる。さらに、無機繊維複合品の上面表層に低目付の熱可塑性樹脂材料を乗せて、予備加熱し、冷却プレス前に意匠材を積層して、冷却プレスで成形しても良い。また、無機繊維複合品の熱収縮が小さい場合は、加熱した金型でプレス成形したり、型内に熱風や高圧水蒸気を通しながらプレス成形したりできる。
【0045】
接着工程での加熱温度の好ましい範囲は、芯鞘繊維体の鞘部(熱可塑性樹脂成分)の融点Tm(℃)に対して、加熱温度Tm+20~Tm+60(℃)である。また、無機繊維複合品の冷却プレスの金型温度は室温+5~20(℃)が好ましい。無機繊維複合品の加熱時間および冷却時間は、無機繊維複合品の熱抵抗値と熱容量で決まる。無機繊維複合品の熱抵抗が高く熱容量が大きいほど、加熱時間も冷却時間も長くなる。
【0046】
本発明に係る無機繊維複合品1が各種性能において優れていることを実験により確認した。その結果を以下に示す。
図4に示すように、本発明に係る無機繊維複合品1の例として実施例1~6を用意し、本発明に係る無機繊維複合品1とは異なる部分を有する比較例1~8を用意した。
【0047】
無機繊維体4としては、以下の要件を変化させた。
(A)無機繊維体の種類(GWはグラスウール、RWはロックウール、GFは長繊維のガラス繊維からなるグラスファイバー)
(B)平均繊維径(μm)
(C)スクリーンサイズ(スクリーンの開口穴の直径)(mm)
(D)原料繊維100wt%に対するバインダの量(wt%)
【0048】
芯材2とした際のパラメータは以下を変化させた。
(E)無機繊維体の量(wt%)
(F)直線形状で熱可塑性樹脂成分を含まない中空PET繊維の量(wt%)
(G)捲縮されている芯鞘繊維体の量(wt%)
(H)直線形状の芯鞘繊維体の量(wt%)
(I)直線形状のPET繊維の量(wt%)
【0049】
評価は以下の観点で行った。
(J)NRC(70kg/m
(K)NRC(120kg/m
(L)熱伝導率(W/mK)
(M)無機繊維体と芯鞘繊維体との接着
(N)面材の接着
(O)総合判定
【0050】
(B)で示す平均繊維径は以下の通り測定した。平均繊維径の測定には、前記熱硬化性樹脂の含有量を測定したサンプルを用いている。平均繊維径は、水に分散させた繊維を顕微鏡で拡大し、カメラで撮影した画像をコンピューターに取り込み、画像処理により繊維径を測定し、30,000本の測定値からなる平均値を表している。ただし、長さ50μm以下の繊維や、繊維径に対して3倍以下の長さの短い繊維は集計から除外している。さらに、繊維長さを考慮した集計を行うために、50μmより長さの長い繊維に関しては、画像処理にて自動で長さを分割し、分割した繊維径を測定したものをそれぞれ集計している。
【0051】
【表1】
【0052】
(D)で示す無機繊維100wt%に対するバインダの量(熱硬化性樹脂成分の含有量)は、予め23℃湿度50%の標準状態で24時間静置した大きさ100mm×150mmの無機繊維の初期重量(m0)を下4桁まで測定可能な電子天秤で測定し、300℃の電気炉で3時間加熱したのち、デシケーター内部で常温まで冷却し、さらに23℃湿度50%の標準状態で24時間静置した後、加熱後の重量(m1)を測定した。測定重量m0、m1から以下の式で熱硬化性樹脂成分の含有量(含有比率)を算出した。
【0053】
【数1】
【0054】
(J)及び(K)のNRCは、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hzの各吸音率の平均値を算出したものであり、製造された無機繊維複合品1の密度がそれぞれ(J)は70(kg/m3)、(K)は120(kg/m3)としたときの値である。このときの吸音率は、JIS A 1405-2:2007(ISO 10534-2:1998)、音響管による吸音率及びインピーダンスの測定 第2部:伝達関数法によりn=5で測定した。評価基準としては、(J)の場合、0.30を超えると○とし、0.27以上0.30以下を△とし、0.27未満を×とした。(K)の場合、0.37を超えると○とし、0.34以上0.37以下を△とし、0.34未満を×とした。
【0055】
(L)の熱伝導率は、JIS A 1412-2、熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法 第2部:熱流計法(HFM法)により、n=5で測定した。評価基準としては、0.035未満を○とし、0.35以上0.38以下を△とし、0.38を超えると×とした。
【0056】
(M)の無機繊維体と芯鞘繊維体との接着は、製造された無機繊維複合品1の狙い厚み10mmに対する実際の成形品の厚みが11mm以下は○とし、11mmを超えて12mm以下を△とし、12mmを超えると×とした。×については、圧縮しても復元してしまうということで好ましくない。
【0057】
(N)の面材の接着は、面材と芯材との接着のことであり、面材を剥がしたときに面材の全面(90%以上)に芯材の繊維が付着しているものを○とし、面材の面積に対して50%以上90%未満繊維が付着しているものを△とし、50%未満のものを×とした。なお、面材はすべてポリエステル製ニードルパンチ不織布110g/mであり、接着層の無いものを使用した。この不織布は、通気抵抗0.035(kPa・s/m)で通気抵抗がほとんどなく、吸音性や断熱性に与える影響が殆どない仕様である。
【0058】
(O)の総合判定については、(J)~(N)の評価のうち、一つでも×があるものは製品として実用的ではないので×とした。△については若干性能は○より劣るものの、実用には耐えうることを示す。
【0059】
全ての実施例及び比較例では、各種無機繊維複合品から、縦350mm、横350mmの大きさに15枚ずつ切り出し、小数点以下2桁まで測定できる電子天秤で重量を測定し、重量(g)÷0.35(m)÷0.35(m)の式により、無機繊維複合品の目付量(g/m)を算出した。15枚のサンプルの目付量の平均値を、無機繊維複合品の目付量(g/m)とした。無機繊維複合品の狙い目付は、700(g/m)、1000(g/m)、1200(g/m)である。各無機繊維複合品の目付量w(g/m)を実測した後、15枚中5枚をプレス成形で厚み10mmに成形した。成形品の狙い密度は70(kg/m)、100(kg/m)、120(kg/m)である。無機繊維複合品は、平板金型の上下表面温度を200℃、金型上下の間隔を12mmに設定したプレス機で実測目付w(g/m)×0.1(秒)加熱し、加熱後すみやかに上下金型温度30℃で2分冷却プレスした。加熱された金型から無機繊維複合品を取り出し、冷却プレスで型締めが完了するまでの時間は凡そ5~10秒である。また、冷却プレスの金型上下の間隔を10mmに設定した。得られたサンプルを300mm×300mmに裁断し、厚み測定した。厚みの測定点は4の中央部分とし、小数点以下2桁までできるデジタルノギスで測定した。得られた4点の厚みの平均値を無機繊維複合品の厚みとした。無機繊維複合品の熱可塑性樹脂分による結束が不十分な場合、狙い厚み10mmに対して得られた成形品厚みが厚くなる傾向があった。したがって、成形品の厚みを繊維同士の結束度合いの指標とした。
【0060】
実施例1
繊維径3.0μm嵩密度24(kg/m)であり、熱硬化性樹脂成分(バインダ)がアクリル樹脂であり、ガラス繊維への付着量が5.4wt%のグラスウールを粉砕機で30mmの大きさに粉砕し、捲縮(クリンプ付き)ポリエステル芯鞘繊維と混合した。それぞれの繊維の混合比率はグラスウール80wt%、芯鞘繊維20wt%である。グラスウールと芯鞘繊維の混合繊維をエアレイ装置で散布し、その混合繊維の上下表面にニードルパンチ不織布を積層して、熱風循環式オーブンで加熱し、混合繊維と不織布を一体化した。
【0061】
得られた無機繊維複合品は、厚み14mmで密度50(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みはおよそ狙い通り10.6mmであり繊維同士の接着性は良好であった。また、不織布面材を剥がすと、全面に混合繊維が付着した材料破壊となり、表皮材の接着性も良好であった。
【0062】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形した。吸音率測定した結果、密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.35であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.43であった。また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形し、熱伝導率を測定した結果、0.033W/mKであった。
【0063】
実施例2
実施例1のグラスウールと芯鞘繊維を使用し、グラスウール60wt%、芯鞘繊維40wt%としたことの他は全て実施例1と同じ条件で無機繊維複合品を作製した。
【0064】
得られた無機繊維複合品は、厚み12mmで密度58(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みはおよそ狙い通り10.1mmであり、繊維同士の接着性は良好であった。また、不織布面材を剥がすと、全面に混合繊維が付着した材料破壊となり、表皮材の接着性も良好であった。実施例1の無機繊維複合品と比べると、繊維同士の接着性が高まり、結果として表面平滑性が非常に高く仕上がった。
【0065】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形した。吸音率測定した結果、密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.33であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.38であった。
【0066】
また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形し、熱伝導率を測定した結果、0.034W/mKであった。
【0067】
この結果から、芯鞘繊維の含有量が多くなると繊維同士の接着や表皮材の接着が良好になる一方で、無機繊維の含有量が少なくなると吸音性・断熱性が低下することがわかる。芯鞘繊維の含有比率は50wt%以下が好ましい。
【0068】
実施例3
繊維径5.0μmで熱硬化性樹脂成分が3.7wt%付着した嵩密度40(kg/m)のロックウールを、粉砕機で30mmの大きさに粉砕し、捲縮(クリンプ付き)ポリエステル芯鞘繊維と混合した。それぞれの繊維の混合比率はロックウール60wt%、芯鞘繊維40wt%である。ロックウールと芯鞘繊維の混合繊維をエアレイ装置で散布し、その混合繊維の上下表面にニードルパンチ不織布を積層して、熱風循環式オーブンで加熱し、混合繊維と不織布を一体化した。
【0069】
得られた無機繊維複合品は、厚み17.5mm密度40(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みはおよそ狙い通り10.1mmであり繊維同士の接着性は非常に良好であった。また、不織布面材を剥がすと、全面に混合繊維が付着した材料破壊となり、表皮材の接着性も良好であった。
【0070】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形し、吸音率測定した。密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.31であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.35であった。
【0071】
また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形し、熱伝導率を測定した結果、0.035W/mKであった。この結果から、無機繊維はグラスウールでもロックウールでも良いことがわかる。
【0072】
実施例3で使用したロックウールの繊維径は5.0μmであり実施例1のグラスウールと比べて太い為、吸音率と熱伝導率が若干低下した。この結果から、無機繊維の平均繊維径は5μm以下が好ましいことが分かる。
【0073】
実施例4
繊維径3.0μmで熱硬化性樹脂成分が5.4wt%付着した嵩密度24(kg/m)のグラスウールを、粉砕機で30mmの大きさに粉砕し、直線状で中空タイプのポリエステル繊維、および、捲縮(クリンプ付き)ポリエステル芯鞘繊維と混合した。それぞれの繊維の混合比率はグラスウール70wt%、中空PET繊維10wt%、芯鞘繊維20wt%である。3種の混合繊維をエアレイ装置で散布して集綿した後に、上下表面にニードルパンチ不織布を積層して、熱風循環式オーブンで加熱し、混合繊維と不織布を一体化した。
【0074】
得られた無機繊維複合品は、厚み15mm密度46(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みはおよそ狙い通り10.5mmであり繊維同士の接着性はおよそ良好であった。また、不織布面材を剥がすと、全面に混合繊維が付着した材料破壊となり、表皮材の接着性も良好であった。
【0075】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形した。吸音率測定した結果、密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.33であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.38であった。
【0076】
また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形し、熱伝導率を測定した結果、0.034W/mKであった。
【0077】
この結果から、無機繊維の重量比率が50~80wt%の範囲であり、かつ、捲縮した芯鞘繊維の重量比率が20~50wt%におさまる範囲であれば、その一部を、他の繊維に置き換えても良いことが分かる。
【0078】
実施例5
繊維径2.5μm、嵩密度20(kg/m)であって、熱硬化性樹脂がアクリル樹脂でありガラス繊維に5.1wt%付着しているグラスウールをスクリーンサイズ10mmに粉砕したことの他は全て実施例1と同じ条件で無機繊維複合品を作製した。スクリーンサイズが10mmの場合、混合繊維を空送したり、サクション装置で集綿するときに、ガラス繊維の飛散量が多くなった。また、設備のフィルターに目詰まりが生じた。グラスウールやロックウールは、一般的に繊維が細いほど繊維が短くなる傾向がある。実施例5のグラスウールは繊維径が2.5μmと非常に細く、繊維が短い為、10mmの大きさに粉砕した時に繊維が折れたり、熱硬化性樹脂による結束が解けやすくなったと考えられる。したがって、無機繊維は繊維径2μm以上が好ましく、取り扱える無機繊維はスクリーンサイズの最小値10mmの仕様であることが分かった。
【0079】
得られた無機繊維複合品は、厚み14mm密度50(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みはおよそ狙い通り10.3mmであり繊維同士の接着性はおよそ良好であった。また、不織布面材を剥がすと、およそ75%程度混合繊維が付着した状態となり、表皮材の接着性は良かった。
【0080】
無機繊維のスクリーンサイズが小さくなると比表面積が増えるため、一定厚みに成形するには接着性成分が多く必要になるが、捲縮した芯鞘繊維を使用した場合、捲縮繊維が所定の厚みに成形され無機繊維がそれに絡み合った状態で保持されるため、狙い厚みになりやすくなる。一方、面材の接着性に関しては、接着性分が少なくなると不足気味となる。このことからも、無機繊維のスクリーンサイズは10mm以上が好ましいといえる。
【0081】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形し、吸音率測定した。密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.29であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.44であった。また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形し、熱伝導率を測定した結果、0.036W/mKであった。
【0082】
実施例6
実施例6では熱硬化性樹脂の添加量が9.5wt%となるように繊維径3.0μmで嵩密度25(kg/m)のグラスウールを試作して使用した。それ以外の条件は、実施例1と同じである。
【0083】
得られた無機繊維複合品は、厚み14mm密度50(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みは狙い通り10.1mmであり繊維同士の接着性は非常に良好であった。また、不織布面材を剥がすと、全面に混合繊維が付着した材料破壊となり、表皮材の接着性も良好であった。
【0084】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形し、吸音率測定した。密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.28であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.36であり、実施例1と比べて吸音性がやや低下した。
【0085】
また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形し、熱伝導率を測定した結果、0.035W/mKであり、実施例1と比べて断熱性もやや低下した。
【0086】
実施例6が実施例1と比べて吸音性と断熱性のいずれも性能が低下した原因として、実施例6で使用したグラスウールは熱硬化性樹脂成分の含有量が多くガラス繊維の量が少なくなったことが挙げられる。無機繊維複合品に含まれる繊維径の細いガラス繊維の量が減ったことで、繊維同士の隙間がやや大きくなってしまい、その結果、吸音性や断熱性が低下したと考えられる。
【0087】
この結果から、無機繊維はグラスウールでもロックウールでも良いが、その熱硬化性樹脂成分は無機繊維100wt%に対して10wt%以下にしなければ吸音性や断熱性が低下することが分かった。
【0088】
比較例1
繊維径3.0μmで熱硬化性樹脂成分が5.4wt%付着した嵩密度24(kg/m)のグラスウールを、粉砕機でスクリーンサイズ10mmの大きさに粉砕し、捲縮(クリンプ付き)ポリエステル芯鞘繊維と混合した。それぞれの繊維の混合割合はグラスウール10wt%、芯鞘繊維90wt%である。グラスウールと芯鞘繊維の混合繊維をエアレイ装置で散布し、その混合繊維の上下表面にニードルパンチ不織布を積層して、熱風循環式オーブンで加熱し、混合繊維と不織布を一体化した。
【0089】
得られた無機繊維複合品は、厚み28mmで密度25(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みは10.0mmであり繊維同士の接着性は良好であった。また、不織布面材を剥がすと、全面に混合繊維が付着した材料破壊となり、表皮材の接着性も良好であった。
【0090】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形し、吸音率測定した。密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.18であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.27であった。また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形し、熱伝導率を測定した結果、0.039W/mKであった。
【0091】
無機繊維の含有量が少ないと、吸音性と断熱性が著しく低下することが分かる。一方、芯鞘繊維(熱可塑性樹脂成分)が多く含まれると、厚み精度が高まり、また、繊維同士の接着力や面材の接着力が高まった。
【0092】
比較例2
繊維径3.0μmで熱硬化性樹脂成分が5.4wt%付着した嵩密度24(kg/m)のグラスウールを、粉砕機でスクリーンサイズ10mmの大きさに粉砕し、捲縮(クリンプ付き)ポリエステル芯鞘繊維と混合した。それぞれの繊維の混合比率はグラスウール90wt%、芯鞘繊維10wt%である。グラスウールと芯鞘繊維の混合繊維をエアレイ装置で散布し、その混合繊維の上下表面にニードルパンチ不織布を積層して、熱風循環式オーブンで加熱し、混合繊維と不織布を一体化した。
【0093】
得られた無機繊維複合品は、厚み15mm以上で繊維同士の接着が不十分であり、カッターナイフで裁断しようとしたが、繊維が脱落してきれいに切断できなかった。無機繊維複合品を厚み10mmに熱プレス成形したが、厚み15mm以上のままだった。また、不織布面材はほとんど接着されず、剥がすと混合繊維の付着が殆どなかった(不織布面積100%に対して繊維の付着面積は10%未満)。
【0094】
したがって、比較例2で作製した無機繊維複合品の吸音率および熱伝導率の測定はできなかった。
【0095】
以上の結果から、芯鞘繊維の含有量が少なすぎると、無機繊維複合品の混合繊維同士の接着性や表皮材の接着性が不足して取り扱えなくなるため好ましくない。
【0096】
比較例3
繊維径3.0μmで熱硬化性樹脂成分が5.4wt%付着した嵩密度24(kg/m)のグラスウールを、粉砕機でスクリーンサイズ30mmの大きさに粉砕し、捲縮(クリンプ付き)ポリエステル芯鞘繊維と混合した。それぞれの繊維の混合比率はグラスウール40wt%、芯鞘繊維60wt%である。グラスウールと芯鞘繊維の混合繊維をエアレイ装置で散布し、その混合繊維の上下表面にニードルパンチ不織布を積層して、熱風循環式オーブンで加熱し、混合繊維と不織布を一体化した。
【0097】
得られた無機繊維複合品は、厚み22mmで密度32(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みは10.2mmであり繊維同士の接着性は良好であった。また、不織布面材を剥がすと、全面に混合繊維が付着した材料破壊となり、表皮材の接着性も良好であった。
【0098】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮し密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形し、吸音率測定した。密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.26であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.35であった。
【0099】
また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形し、熱伝導率を測定した結果、0.035W/mKであった。
【0100】
無機繊維の含有量が50wt%未満だと、吸音性と断熱性が不足することが分かる。一方、芯鞘繊維(熱可塑性樹脂成分)が多く含まれるため、厚み精度が高く、また、繊維同士の接着力や面材の接着力が高まった。
【0101】
比較例4
繊維径3.0μmで熱硬化性樹脂成分が5.4wt%付着した嵩密度24(kg/m)のグラスウールを、粉砕機でスクリーンサイズ10mmの大きさに粉砕し、捲縮(クリンプ付き)タイプの低融点ポリエステル繊維(単一樹脂成分)と混合した。それぞれの繊維の混合比率はグラスウール80wt%、低融点ポリエステル繊維20wt%である。混合繊維をエアレイ装置で散布し、その混合繊維の上下表面にニードルパンチ不織布を積層して、熱風循環式オーブンで加熱し、混合繊維と不織布を一体化した。
【0102】
得られた無機繊維複合品は、厚み15mm以上で繊維同士の接着が不十分であり、カッターナイフで裁断しようとしたが、繊維が脱落してきれいに切断できなかった。無機繊維複合品を厚み10mmに熱プレス成形したが、厚み15mm以上のままだった。また、不織布面材はほとんど接着されず、剥がすと混合繊維の付着が殆どなかった(不織布面積100%に対して繊維の付着面積は10%未満)。
【0103】
したがって、比較例4で作製した無機繊維複合品の吸音率および熱伝導率の測定はできなかった。
【0104】
以上の結果から、熱可塑性樹脂繊維は芯鞘構造の繊維が好ましいことが分かる。単一成分系の熱可塑性樹脂繊維を使用した場合、加熱すると繊維が軟化しすぎて3次元的にネットワーク形成されにくくなり、結果として無機繊維複合品の混合繊維同士の接着性や表皮材の接着性が不足して取り扱えなくなるため好ましくない。
【0105】
比較例5
実施例1のグラスウールのスクリーンサイズが30mmであるのに対して、比較例5では60mmとしたことの他は、すべて実施例1と同じ条件で無機繊維複合品を作製した。
【0106】
得られた無機繊維複合品は、厚み19mmで密度37(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みは15mm以上であり繊維同士の接着性が悪かった。また、不織布面材を剥がすと、全面に混合繊維が付着した材料破壊となり、表皮材の接着性も良好であった。
【0107】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形した。得られたサンプルの厚みは11mm~14mmであったが、参考として吸音サンプルの音源側の外周3mmにリング状の厚み押さえ治具を装着して吸音率測定した。結果として、密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.36であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.35であり、吸音性は良好であった。
【0108】
また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形したが厚み12~13mmとなったため、参考として、熱伝導率測定装置で厚みを10mmに設定し、熱伝導率を測定した結果、0.032W/mKであり、良好であった。
【0109】
以上の結果から、無機繊維の粉砕サイズが極端に大きいと、混合繊維の繊維同士の接着性が低下するため好ましくないことが分かった。芯鞘繊維の含有量50wt%と多くした場合でも、グラスウールを粉砕するスクリーンサイズは50mm以下でなければ、狙い厚みにできなくなる。
【0110】
比較例6
繊維径7.0μmでありガラス繊維にフェノールバインダーが5.0重量%付着している嵩密度10(kg/m)のグラスウールを、粉砕機でスクリーンサイズ10mmの大きさに粉砕したことの他は、実施例1と同じ方法で無機繊維複合品を作製した。
【0111】
得られた無機繊維複合品は、厚み13mmで密度53(kg/m)であった。熱プレス成形で10mmにした時の厚みはおよそ狙い通り10.4mmであり繊維同士の接着性は良好であった。一方、不織布の表皮材を剥がすと、表皮材の面積100%に対して混合繊維が約60%付着した状態となり、実施例1と比べると表皮材の接着性が低下した。
【0112】
作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形した。吸音率測定した結果、密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.18であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.26であった。
【0113】
また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形し、熱伝導率を測定した結果、0.039W/mKであった。
【0114】
以上の結果から、無機繊維の繊維径が太いと吸音性と断熱性が低下することが分かる。好ましい繊維径は5.0μm以下である。
【0115】
比較例7
繊維径3.0μmで熱硬化性樹脂成分が5.4wt%付着した密度24(kg/m)のグラスウールを、粉砕機でスクリーンサイズ30mmの大きさに粉砕し、繊維径9.0μmで長さ6mmの長繊維ガラス、および、捲縮(クリンプ付き)ポリエステル芯鞘繊維と混合した。それぞれの繊維の混合比率はグラスウール48wt%、長繊維ガラス32wt%、芯鞘繊維20wt%である(2種の無機繊維の混合量は、グラスウール60wt%に対して長繊維ガラス40wt%)。3種の混合繊維をエアレイ装置で散布して集綿した後に、上下表面にニードルパンチ不織布を積層して、熱風循環式オーブンで加熱し、混合繊維と不織布を一体化した。得られた無機繊維複合品は、厚み15mm以上で繊維同士の接着力が極めて弱く、カッターナイフで裁断しようとしたが、繊維が脱落してきれいに切断できなかった。
【0116】
無機繊維複合品を厚み10mmに熱プレス成形したが、厚み15mm以上のままだった。また、不織布面材はほとんど接着されず、剥がすと混合繊維の付着が殆どなかった(不織布面積100%に対して繊維の付着面積は10%未満)。したがって、比較例7で作製した無機繊維複合品の吸音率および熱伝導率の測定はできなかった。
【0117】
以上の結果から、無機繊維の形状はストレートタイプではなく捲縮した繊維が好ましいことが分かる。ストレートタイプの無機繊維を使用した場合、解繊してニードルパンチ加工などで繊維同士を絡めないと、繊維同士の結束力不足で取り扱いが困難になる。無機繊維が捲縮タイプである場合は、繊維同士の絡み合いと、熱硬化性樹脂バインダによる結束があるため、取扱可能となる。また、長繊維ガラスを使用する場合は、混合繊維の接着強度を高めるために芯鞘繊維の混合比率を50wt%以上にする必要があり、結果として吸音性や断熱性が低下するため好ましくない。加熱すると樹脂が軟化して繊維がへたって3次元的にネットワーク形成されにくくなり、結果として無機繊維複合品の混合繊維同士の接着性や表皮材の接着性が不足して取り扱えなくなるため好ましくない。
【0118】
比較例8
実施例1の捲縮(クリンプ付き)タイプの芯鞘繊維を、ストレートタイプの芯鞘繊維にしたことの他は、実施例1と同じ条件で無機繊維複合品を作製した。
【0119】
得られた無機繊維複合品は、厚み15mm以上で繊維同士の接着が不十分であり、カッターナイフで裁断しようとしたが、繊維が脱落してきれいに切断できなかった。無機繊維複合品を厚み10mmに熱プレス成形したが、厚み15mm以上のままだった。一方、表皮材を剥がすと混合繊維が全面に付着した。
【0120】
同じように作製した無機繊維複合品を熱プレスで厚み10mmに圧縮して密度70(kg/m)と120(kg/m)に成形した。得られたサンプルの厚みは11~14mmであったが、参考として吸音サンプルの音源側の外周3mmにリング状の厚み押さえ治具を装着して吸音率測定した。結果として、密度70(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.29であり、密度120(kg/m)の無機繊維複合品のNRCは0.36であり、吸音性は実施例1と比べて低下した。芯鞘繊維がストレートタイプの場合は、3次元的なネットワーク形成が不足し、結果として吸音性が不足したものと考えらえる。
【0121】
また、無機繊維複合品を100(kg/m)に成形したが厚み12~13mmとなったため、参考として、熱伝導率測定装置で厚みを10mmに設定し、熱伝導率を測定した結果、0.034W/mKであり、実施例1とほぼ同じであった。
【0122】
以上の結果から、芯鞘繊維がストレートタイプの場合は、混合繊維の繊維同士の絡み合いが不足し、繊維同士の接着性が低下するため好ましくないことが分かった。芯鞘繊維の含有量50wt%と多くすれば狙い厚みにできるが、この場合は、吸音性や断熱性が低下するため好ましくない。
【0123】
本発明に係る無機繊維複合品1は、多種多様な用途に活用できる。主な用途は以下である。
1)産業用の吸音材・・・エンジン用、コンプレッサー用、モーター用、ダクト用、パーティションの芯材、吸音製品用の高性能表皮材・芯材など
2)建材用の吸音材・・・壁、床、天井に対する吸音材、吸音製品用の高性能表皮材・芯材など
3)産業用の断熱材・・・各種断熱部品、保温カバー、ダクト用、保冷パネル芯材など
4)建材用の断熱材・・・壁、床、天井に対する断熱材、床下地材や床暖房用の基材など
5)成形用基材・・・天井、床、壁など車両室内に使用される部品、それらの表皮材など
6)フィルター・・・溶液中、気相中で使用される各種フィルター
7)吸着剤・・・水、油の吸着剤
8)研磨材・・・グラインダー用の研磨材、研磨紙など各種研磨材
【符号の説明】
【0124】
1:無機繊維複合品、2:芯材、3:面材、4:無機繊維体、5:芯鞘繊維体、6:原料繊維、7:バインダ、8:混合繊維体、9:粉砕機、10:タンク、11:粉砕機、12:タンク、13:配管、14:混合タンク、15:配管、16:送風機、17:コンベア、18:巻出装置、19:コンベア、20:巻出装置、21:コンベア、22:加熱炉、23:カッター
図1
図2
図3
図4