(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022134586
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ニッケル水素蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/30 20060101AFI20220908BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20220908BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220908BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
H01M10/30 Z
H01M4/52
H01M4/38 A
C22C19/03 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021033798
(22)【出願日】2021-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 嵩哲
【テーマコード(参考)】
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA05
5H028EE01
5H028HH01
5H050AA09
5H050BA14
5H050CA04
5H050CB17
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】自己放電量を低減可能なニッケル水素蓄電池を提供する。
【解決手段】正極合剤を備える正極板と、負極合剤を備える負極板と、正極板及び負極板の間に配置されるセパレータと、を備えるニッケル水素蓄電池において、正極合剤は、コバルトを含み、負極合剤は、水素吸蔵合金を含み、水素吸蔵合金は、ミッシュメタル、コバルト、ニッケル、及び、マンガンを含む母相と、ニッケル及びマンガンを含む偏析相と、を有し、偏析相は、ニッケルに対するマンガンの質量比が0.17以上0.4以下であり、水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比は、1.2以上1.6以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合剤を備える正極板と、負極合剤を備える負極板と、前記正極板及び前記負極板の間に配置されるセパレータと、を備えるニッケル水素蓄電池において、
前記正極合剤は、コバルトを含み、
前記負極合剤は、水素吸蔵合金を含み、
前記水素吸蔵合金は、ミッシュメタル、コバルト、ニッケル、及び、マンガンを含む母相と、ニッケル及びマンガンを含む偏析相と、を有し、
前記偏析相は、ニッケルに対するマンガンの質量比が0.17以上0.4以下であり、
前記水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する前記正極合剤及び前記水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比は、1.2以上1.6以下である
ニッケル水素蓄電池。
【請求項2】
前記偏析相は、前記水素吸蔵合金の断面において、前記母相と前記偏析相とを合わせた面積に対する前記偏析相の面積が占める割合が1.5%以上3.0%以下である
請求項1に記載のニッケル水素蓄電池。
【請求項3】
前記偏析相は、前記水素吸蔵合金の断面における前記偏析相1つあたりの平均面積が30平方μm以上65平方μm以下である
請求項1または2に記載のニッケル水素蓄電池。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金は、AB5型である
請求項1ないし3のうち何れか一項に記載のニッケル水素蓄電池。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金は、前記母相及び前記偏析相を構成する元素としてアルミニウムをさらに含み、
前記水素吸蔵合金の原子比率での組成比をMmNiaCobMncAldとして表したとき、前記組成比中のa、b、c、及び、dの値が、4.5≦a+b+c+d≦5.5、3.5≦a≦5.0、0<b≦0.7、及び、0.1≦c≦0.7の範囲を満たす
請求項4に記載のニッケル水素蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の一例として、ニッケル水素蓄電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。ニッケル水素蓄電池は、水酸化ニッケルを正極活物質とした正極板と、水素吸蔵合金を負極活物質とした負極板と、正極板及び負極板の間に配置されるセパレータとを備える。特許文献1に記載されたニッケル水素蓄電池の水素吸蔵合金は、希土類元素の混合物であるミッシュメタルとニッケルとを含み、ニッケルの一部をアルミニウム、マンガン、及び、コバルト等で置換したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ニッケル水素蓄電池では、セパレータに導電性の析出物が析出することで、電池を使用していない状態であっても電池の放電容量が減少する自己放電が生じる。ニッケル水素蓄電池では、他の二次電池と比較して自己放電量が大きいため、その低減が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのニッケル水素蓄電池は、正極合剤を備える正極板と、負極合剤を備える負極板と、前記正極板及び前記負極板の間に配置されるセパレータと、を備えるニッケル水素蓄電池において、前記正極合剤は、コバルトを含み、前記負極合剤は、水素吸蔵合金を含み、前記水素吸蔵合金は、ミッシュメタル、コバルト、ニッケル、及び、マンガンを含む母相と、ニッケル及びマンガンを含む偏析相と、を有し、前記偏析相は、ニッケルに対するマンガンの質量比が0.17以上0.4以下であり、前記水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する前記正極合剤及び前記水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比は、1.2以上1.6以下である。
【0006】
上記構成によれば、水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比が1.2以上であることで、水素吸蔵合金にマンガンが過剰に含まれることによる偏析相の増加が抑制されるため、水素吸蔵合金の過剰な微粉化が抑制される。これにより、過剰な微粉化に伴う水素吸蔵合金の表面積の増加が最適化されるため、水素吸蔵合金に含まれるコバルトの溶出が抑制されることで、自己放電量を低減できる。水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比が1.6以下であることで、セパレータに析出するコバルトの量を低減でき、また、セパレータに析出したマンガンがコバルトの高導電化を抑制することによって、ニッケル水素蓄電池の自己放電量を低減できる。また、偏析相において、ニッケルに対するマンガンの質量比が0.17以上0.4以下であることで、母相におけるマンガンの減少による水素吸蔵合金における過剰な微粉化が抑制される。結果として、自己放電量を低減できる。
【0007】
上記ニッケル水素蓄電池において、前記偏析相は、前記水素吸蔵合金の断面において、前記母相と前記偏析相とを合わせた面積に対する前記偏析相の面積が占める割合が1.5%以上3.0%以下であることが好ましい。上記構成によれば、水素吸蔵合金の断面において、偏析相が占める割合が1.5%以上であることで、偏析相からセパレータに析出するマンガンの量を増加させることができる。これにより、セパレータに析出したマンガンがコバルトの高導電化を抑制することによって、自己放電量を低減できる。水素吸蔵合金の断面において、偏析相が占める割合が3.0%以下であることで、微粉化が抑制されて耐食性を向上できる。また、微粉化が抑制されることで、水素吸蔵合金の表面積の増加が最適化されるため、水素吸蔵合金に含まれるコバルトの溶出が抑制される。結果として、ニッケル水素蓄電池における自己放電量を低減できる。
【0008】
上記ニッケル水素蓄電池において、前記偏析相は、前記水素吸蔵合金の断面における前記偏析相1つあたりの平均面積が30平方μm以上65平方μm以下であることが好ましい。上記構成によれば、水素吸蔵合金の断面における偏析相1つあたりの平均面積が30平方μm以上であることで、水素吸蔵合金中の偏析相が凝集された状態となるため、水素吸蔵合金における割れの起点となる偏析相の数を低減できる。したがって、水素吸蔵合金の耐食性を向上できる。これにより、水素吸蔵合金の過剰な微粉化が抑制されて水素吸蔵合金の表面積の増加が最適化されるため、水素吸蔵合金に含まれるコバルトの溶出が抑制されることで、自己放電量を低減できる。また、水素吸蔵合金の断面における偏析相1つあたりの平均面積が65平方μm以下であることで、偏析相の過剰な肥大化に伴って、偏析相に含まれるマンガンの溶出性が損なわれることを抑制できる。
【0009】
上記ニッケル水素蓄電池において、前記水素吸蔵合金は、AB5型であることが好ましい。上記構成によれば、AB5型の水素吸蔵合金がB元素を溶出し易いことから、ニッケル水素蓄電池がAB5型の水素吸蔵合金を備える場合において、B元素であるコバルトやマンガンのセパレータへの析出量を制御することで、好適に自己放電量を低減できる。
【0010】
上記ニッケル水素蓄電池において、前記水素吸蔵合金は、前記母相及び前記偏析相を構成する元素としてアルミニウムをさらに含み、前記水素吸蔵合金の原子比率での組成比をMmNiaCobMncAldとして表したとき、前記組成比中のa、b、c、及び、dの値が、4.5≦a+b+c+d≦5.5、3.5≦a≦5.0、0<b≦0.7、及び、0.1≦c≦0.7の範囲を満たすことが好ましい。上記構成によれば、AB5型の水素吸蔵合金に含まれるB元素を上記の組成で構成することで、B元素であるコバルトやマンガンのセパレータへの析出量を好適に制御することが可能となる。結果として、ニッケル水素蓄電池の自己放電量を好適に低減できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ニッケル水素蓄電池における自己放電量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】ニッケル水素蓄電池に設けられる極板群の断面図。
【
図3】水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合材及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの割合と、ニッケル水素蓄電池における自己放電量との対応関係を示すグラフ。
【
図4】水素吸蔵合金中の偏析相1つあたりの平均面積と、水素吸蔵合金の耐食性との対応関係を示すグラフ。
【
図5】水素吸蔵合金中の偏析相におけるニッケルに対するマンガンの割合と、水素吸蔵合金の耐食性との対応関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について
図1~
図5を参照して説明する。
図1に示すように、ニッケル水素蓄電池11は、複数の電池セル12と、電槽13と、蓋部14とを備える。電槽13は、電気的に直列に接続された複数の電池セル12を収容する。蓋部14は、電槽13の開口部を封止する。電槽13に収容された電池セル12の電力は、電槽13に設けられた正極端子13a及び負極端子13bから取り出される。なお、
図1では、6つの電池セル12を電槽13に収容している。
【0014】
図2に示すように、電池セル12は、極板群20を備える。極板群20は、複数の正極板15及び複数の負極板16がセパレータ17を介して交互に積層されて構成される。正極板15の端部15aは、正極集電部21に対して接合されている。負極板16の端部16aは、負極集電部22に対して接合されている。
【0015】
<正極板>
正極板15について説明する。正極板15は、基材と、基材に設けられた正極合剤とを備える。基材は、例えば、発泡ニッケルなどの発泡金属で構成されることが好ましい。基材は、正極合剤を保持する機能と、集電体の機能とを有する。
【0016】
正極合剤は、正極活物質、導電材、増粘材、及び、結着材等を含んでいる。正極活物質は、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を主成分とする。正極活物質には、その粒子の表面に水酸化コバルト(Co(OH)2)がコーティングされた被覆層が設けられる。導電材は、水酸化コバルトまたは酸化コバルト(CoO)等のコバルト化合物を主成分とする。
【0017】
正極合剤に含まれるコバルト化合物は、ニッケル水素蓄電池が初めて充電されると、電気化学的に酸化されることで高導電性のオキシ水酸化コバルト(CoOOH)として正極活物質の表面に析出する。充電前に形成された被覆層と、充電後に析出したオキシ水酸化コバルトにより、高密度な層が形成される。
【0018】
<セパレータ>
次に、セパレータ17について説明する。セパレータ17は、正極板15及び負極板16の間に配置される。セパレータ17は、電解液を保持する。セパレータ17の材料は特に限定されないが、例えば不織布、多数の微細な孔が設けられた樹脂製の膜、その他の液体を保持可能なシート、又はそれらの組み合わせである。電解液は、水酸化カリウム(KOH)を溶質の主成分とするアルカリ性水溶液である。
【0019】
<負極板>
負極板16について説明する。負極板16は、基材と、基材に設けられた負極合剤とを備える。負極合剤は、水素の吸蔵と放出とを可逆的に進行させる合金である水素吸蔵合金を含む。負極板16は、水素吸蔵合金にカーボンブラック等の増粘材及びスチレン-ブタジエン共重合体の結着材を添加してペースト状に加工した負極合剤を、金属材料からなる基材に付着させて、乾燥、圧延、及び、切断することによって製造される。
【0020】
水素吸蔵合金は、水素との親和力が高い元素を「A」とし、水素との親和力が低い元素を「B」としたとき、AB型、AB5型、AB2型、A2B7型のいずれか1つ又はそれらの組み合わせを用いることができる。AB型の水素吸蔵合金は、TiCo,ZrCo等を用いることができる。AB5型の水素吸蔵合金は、MmNi系合金の一例であるMmNi5等を用いることができる。なお、「Mm」は、複数の希土類元素が含まれる合金であるミッシュメタルを指す。ミッシュメタルは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)等の少なくとも一つを含む。また、上記した合金に代えて若しくは加えて、バナジウム(V)系、マグネシウム(Mg)系を用いてもよい。
【0021】
特に、AB5型の水素吸蔵合金として、MmNi5におけるニッケル(Ni)の一部を他の元素で置換したMmNixMy合金を好適に用いることができる。ニッケルを置換する元素としては、例えば、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)から選ばれる少なくとも一つの元素を用いることができる。なお、x,yは、ミッシュメタルの原子比率を1としたときのニッケル及びニッケルを置換する元素の原子比率を表す。
【0022】
本実施形態の水素吸蔵合金は、AB5型のMmNixMy合金であって、ニッケルを置換する元素として、少なくともコバルト、マンガン、及び、アルミニウムを含む。具体的に、本実施形態の水素吸蔵合金における各元素の組成比は、MmNiaCobMncAldとして表すことができる。なお、a,b,c,dは、ミッシュメタルの原子比率を1としたときの各元素の原子比率を表す。本実施形態の水素吸蔵合金におけるニッケル、コバルト、マンガン、及び、アルミニウムの原子比率は、4.5≦a+b+c+d≦5.5であることが好ましい。
【0023】
また、本実施形態の水素吸蔵合金は、ミッシュメタル、ニッケル、コバルト、マンガン、及び、アルミニウムを含む母相と、ニッケル、マンガン、及び、アルミニウムを含む偏析相とを有する。偏析相は、アルミニウム及びマンガンが母相よりも相対的に高濃度に存在している領域である。具体的には、偏析相は、マンガン及びアルミニウムが母相における平均濃度の2倍以上の濃度で存在している領域である。なお、偏析相では、一般的に、ニッケルが母相と同程度の濃度で存在している。
【0024】
母相及び偏析相に含まれる各元素の濃度は、電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)やSEM-EDX等、公知の測定手段を用いて計測される。具体的に、本実施形態では、母相及び偏析相に含まれる各元素の濃度は、水素吸蔵合金の断面に対して、EPMAによって所定の条件で測定された元素分布を用いて計測される。元素分布の測定には、電子線マイクロプローブアナライザ「JXA-8100」(日本電子製)が用いられる。なお、本実施形態では、所定の条件として、加速電圧=15kV、照射電流=0.1μA、観察倍率=400倍が採用されている。この所定の条件において、水素吸蔵合金の断面からアルミニウムに固有なX線の強度信号を検出し、その値が60CPS以上の場合、その領域にアルミニウムが偏析して母相よりも相対的に高濃度に存在している旨が判定される。また、この所定の条件において、水素吸蔵合金の断面からマンガンに固有なX線の強度信号を検出し、その値が20CPS以上の場合、その領域にマンガンが偏析して母相よりも相対的に高濃度に存在している旨が判定される。すなわち、偏析相とは、水素吸蔵合金の断面のうち、アルミニウムに固有なX線の強度信号が60CPS以上であり、かつ、及びマンガンに固有なX線の強度信号が20CPS以上である領域である。なお、上記60CPS及び20CPSの値は、アルミニウム及びマンガンに固有なX線の強度信号が平均レベルの2倍以上となる領域が検出されるように設定した値である。
【0025】
<ニッケル水素蓄電池における自己放電>
ここで、ニッケル水素蓄電池の自己放電について説明する。一般的に、ニッケル水素蓄電池では、電池を使用していない状態であっても電池の放電容量が減少する自己放電が生じる。自己放電の一因としては、正極板及び負極板に含まれる金属が溶出し、セパレータに導電性の析出物として析出することによる正極板と負極板との微小短絡が挙げられる。
【0026】
AB5型の水素吸蔵合金は、A元素に対するB元素の比率が大きいことから、B元素が電解液中に溶出し易い。特に、AB5型の水素吸蔵合金を備えるニッケル水素蓄電池では、水素吸蔵合金中のB元素であるコバルトが溶出し、セパレータに導電性の析出物として析出することで、正極板と負極板との微小短絡による自己放電が生じ易い。
【0027】
なお、AB5型の水素吸蔵合金において、コバルトと同様にB元素であるマンガンもセパレータに導電性の析出物として析出することで自己放電を生じさせる。しかし、マンガンの電気伝導率がコバルトの電気伝導率と比較して低いため、マンガンがセパレータに析出した場合では、コバルトがセパレータに析出した場合よりも自己放電量が小さくなる。また、セパレータに析出したマンガンは、セパレータに析出したコバルトの高導電化を抑制する。したがって、AB5型の水素吸蔵合金を備えるニッケル水素蓄電池において、セパレータへのマンガンの析出量を増加させることで、コバルトのみが偏析相として析出する場合よりもニッケル水素蓄電池における自己放電量が低減される。
【0028】
セパレータへのコバルト及びマンガンの析出量は、水素吸蔵合金に含まれるマンガンの量、及び、正極合剤と水素吸蔵合金とに含まれるコバルトの量に依存する。したがって、これらの量を制御することで、セパレータへのマンガン及びコバルトの析出量を制御でき、結果として、ニッケル水素蓄電池における自己放電量を低減できる。
【0029】
<ニッケル水素蓄電池中のコバルト及びマンガンと、自己放電との関係>
図3に示すグラフ100は、ニッケル水素蓄電池における水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比と、当該ニッケル水素蓄電池における自己放電量との関係を示す。
【0030】
グラフ100の横軸は、水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比を示す。なお、ここでの水素吸蔵合金に含まれるマンガン及びコバルトの量とは、水素吸蔵合金の母相及び偏析相を区別せず、水素吸蔵合金全体に含まれるマンガン及びコバルトの量である。
【0031】
グラフ100の縦軸は、相対的な自己放電量の大きさを示しており、上方に位置するプロット点101ほど自己放電量が大きいことを示す。ここでの自己放電量とは、ニッケル水素蓄電池をSOC(State Of Charge、充電状態)60%まで充電した状態の放電容量を基準として、45℃で1週間放置した状態での放電容量の減少量である。
【0032】
グラフ100中の各プロット点101は、水素吸蔵合金に含まれるマンガンと正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトとの質量比に対するニッケル水素蓄電池の自己放電量を示す。グラフ100中の相関曲線102は、水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比と、ニッケル水素蓄電池の自己放電量との対応関係を近似した曲線である。
【0033】
自己放電量は、グラフ100における横軸の値が0.9で最大値をとり、横軸の値が増大するにつれて減少して1.4付近で最小値となる。特に、自己放電量は、横軸の値が0.9から1.2までの範囲において、横軸の値が増大するにつれて急激に減少する。また、自己放電量は、グラフ100における横軸の値が1.4を超えると、横軸の値が増大するにつれて再び増加する。
【0034】
グラフ100における横軸の値が1.2未満の場合では、水素吸蔵合金においてマンガンが過剰に含まれた状態であるため、水素吸蔵合金中の偏析相が増加し、偏析相を起点とした割れが生じることで水素吸蔵合金の微粉化が促進される。これにより、水素吸蔵合金の表面積が増加することで水素吸蔵合金に含まれるコバルトの電解液への溶出が促進されるため、自己放電量が増加したものと考えられる。
【0035】
グラフ100における横軸の値が1.4超の場合、特に、横軸の値が1.6超の場合では、正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトが多いため、コバルトの電解液への溶出が促進されてセパレータへの析出量が増加する。以上の理由から、グラフ100における横軸の値が1.6超の場合では、自己放電量が増加したものと考えられる。
【0036】
以上より、本実施形態では、水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び負極合剤に含まれるコバルトの質量比が1.2以上1.63以下、より好ましくは1.2以上1.6以下の範囲を好ましい範囲としている。当該質量比をこのような範囲とすることで、セパレータに析出するコバルトの量を低減でき、また、セパレータに析出したマンガンがコバルトの高導電化を抑制することによって、ニッケル水素蓄電池の自己放電量を低減できる。
【0037】
なお、水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比は、水素吸蔵合金に含まれるマンガン及びコバルトの量に対して、正極合剤中の導電材に含まれるコバルト化合物の量を調整すること等で制御できる。
【0038】
<水素吸蔵合金における偏析相の割合と自己放電量との関係>
水素吸蔵合金の偏析相は、母相よりも高濃度のマンガンを含む。そのため、偏析相に含まれるマンガンは、母相に含まれるマンガンよりも電解液に溶出し易い。したがって、水素吸蔵合金の偏析相を増加させることで、セパレータへのマンガンの析出量を好適に増加させることができる。一方、水素吸蔵合金の偏析相は、水素吸蔵合金における割れの起点となるため、水素吸蔵合金の微粉化を促進させる。微粉化が過剰に促進された場合、水素吸蔵合金の表面積が増加することで水素吸蔵合金に含まれるコバルトの電解液への溶出が促進される。そのため、水素吸蔵合金中に偏析相が過剰に存在する場合、ニッケル水素蓄電池における自己放電量が増加する。すなわち、水素吸蔵合金の偏析相は、セパレータへのマンガンの析出量を好適に増加させる程度に存在し、かつ、水素吸蔵合金の微粉化を過剰に促進させない程度に存在することが好ましい。
【0039】
具体的に、水素吸蔵合金の断面において、水素吸蔵合金全体の面積に対する偏析相の面積が占める割合が1.5%以上3.0%以下であることが好ましい。ここでの水素吸蔵合金全体の面積とは、母相の面積と偏析相の面積とを足し合わせた面積であって、水素吸蔵合金断面中の合金が存在しない領域の面積を含まない面積である。
【0040】
偏析相が占める割合が1.5%以上であることで、セパレータに析出するマンガンの量を増加させることができる。これにより、セパレータに析出したマンガンがコバルトの高導電化を抑制することによって、ニッケル水素蓄電池における自己放電量を低減できる。
【0041】
偏析相が占める割合が3.0%以下であることで、偏析相を起点とした割れの発生が抑制され、過剰な微粉化が抑制される。これにより、水素吸蔵合金の耐食性を向上できる。したがって、偏析相が占める割合が3.0%以下であることで、水素吸蔵合金に含まれるコバルトの溶出が抑制されるため、ニッケル水素蓄電池における自己放電量を低減できる。
【0042】
<偏析相1つあたりの平均面積と自己放電量との関係>
偏析相1つあたりの平均面積が過剰に小さい場合、水素吸蔵合金において多数の小さな偏析相が点在した状態となる。この場合、水素吸蔵合金における割れの起点となる偏析相の数が増大した状態であるため、微粉化が過剰に促進されて水素吸蔵合金の表面積が増加することで、水素吸蔵合金の耐食性が低下する。また、水素吸蔵合金の表面積が増加することで、コバルトの電解液への溶出が促進されるため、ニッケル水素蓄電池における自己放電量が増加する。一方、偏析相1つあたりの平均面積が過剰に大きい場合、水素吸蔵合金における偏析相が凝集した状態となる。この場合、偏析相の数が減少するため微粉化が抑制されるものの、偏析相の断面積に対する偏析相と電解液との接触面積の割合が減少した状態となる。換言すると、各偏析相において、体積に対する表面積の割合が減少した状態となるため、水素吸蔵合金全体で考えたときに、偏析相に含まれるマンガンの溶出量が減少してしまう。以上より、偏析相1つあたりの平均面積は、偏析相の数が過剰に増大しない程度に偏析相が凝集した大きさであって、かつ、偏析相に含まれるマンガンの溶出性が損なわれない程度に分散した大きさであることが好ましい。
【0043】
図4に示すグラフ200は、偏析相1つあたりの平均面積と、水素吸蔵合金の耐食性との関係を示す。本実施形態における耐食性とは、水素吸蔵合金における微粉化の生じ難さである。微粉化の生じ難さは、充電及び放電を所定回数繰り返した際の水素吸蔵合金における磁化率の変化量によって評価することができる。磁化率は、VSM(Vibrating Sample Magnetometer:試料振動型磁力計)を用いて、試料の磁気モーメントを測定することで求めることができる。本実施形態における耐食性は、所定の条件下での充放電サイクルにおいて、放電電気量に対する磁化率の変化量(傾き)によって評価される。水素吸蔵合金における磁化率の変化量が小さいほど、微粉化の進行度合いが小さいことを意味する。換言すると、磁化率の変化量が小さいほど、耐食性が高いことを意味する。
【0044】
グラフ200の横軸は、偏析相1つあたりの平均面積であって、水素吸蔵合金における任意の断面中に含まれる偏析相の総面積を当該断面中に含まれる偏析相の数で除した値を示す。グラフ200の縦軸は、水素吸蔵合金における耐食性の相対的な高さを示す。ここでの耐食性は、所定の条件下での充放電サイクルが負荷された水素吸蔵合金における磁化率の変化量に基づいて評価しており、上方に位置するプロット点201ほど耐食性が高いことを示す。
【0045】
グラフ200中の各プロット点201は、偏析相1つあたりの平均面積に対するニッケル水素蓄電池の耐食性を示す。グラフ200中の相関曲線202は、偏析相1つあたりの平均面積に対するニッケル水素蓄電池における耐食性の対応関係を近似した曲線である。
【0046】
偏析相1つあたりの平均面積が30平方μm未満の場合では、水素吸蔵合金において多数の偏析相が点在した状態となる。すなわち、水素吸蔵合金における割れの起点となる偏析相の数が増加してしまうことで、水素吸蔵合金の耐食性が低下する。
【0047】
したがって、水素吸蔵合金の断面における偏析相1つあたりの平均面積は、30平方μm以上であることが好ましい。偏析相1つあたりの平均面積が30平方μm以上であることで、水素吸蔵合金中の偏析相が凝集された状態となるため、水素吸蔵合金における割れの起点となる偏析相の数を低減できる。結果として、水素吸蔵合金の耐食性を向上でき、また、過剰な微粉化の抑制ともなる。したがって、過剰な微粉化に伴うコバルト溶出の促進が防止されることで、ニッケル水素蓄電池の自己放電量が低減される。
【0048】
また、水素吸蔵合金の断面における偏析相1つあたりの平均面積は、65平方μm以下であることが好ましい。偏析相1つあたりの平均面積が65平方μm以下であることで、偏析相の過剰な肥大化に伴って、偏析相に含まれるマンガンの溶出性が損なわれることを抑制できる。
【0049】
<偏析相におけるマンガンの質量比と自己放電量との関係>
図5に示すグラフ300は、水素吸蔵合金中の偏析相におけるニッケルに対するマンガンの割合と、水素吸蔵合金の耐食性との対応関係を示す。グラフ300の横軸は、偏析相におけるニッケルに対するマンガンの割合であって、偏析相におけるマンガンの質量を偏析相におけるニッケルの質量で除した値を示す。グラフ300の縦軸は、ニッケル水素蓄電池における耐食性の相対的な高さを示す。ここでの耐食性は、所定の条件下での充放電サイクルが負荷された水素吸蔵合金における磁化率の変化量に基づいて評価しており、上方に位置するプロット点301ほど耐食性が高いことを示す。
【0050】
グラフ300中の各プロット点301は、水素吸蔵合金中の偏析相におけるニッケルに対するマンガンの割合と、ニッケル水素蓄電池における耐食性の関係を示す。グラフ300中の相関曲線302は、水素吸蔵合金中の偏析相におけるニッケルに対するマンガンの割合と、水素吸蔵合金の耐食性との対応関係を近似した曲線である。
【0051】
偏析相におけるニッケルに対するマンガンの質量比が0.4超の場合、マンガンが過剰に偏析した状態となり、母相におけるマンガンの含有量が減少するため、微粉化が生じ易くなる。したがって、偏析相におけるニッケルに対するマンガンの質量比が0.4以下であることで、母相におけるマンガンの減少に伴う水素吸蔵合金における過剰な微粉化の促進が抑制される。結果として、微粉化に伴う水素吸蔵合金の表面積の増加を抑制できるため、水素吸蔵合金からのコバルトの溶出量が低減されることで、自己放電量を低減できる。なお、偏析相におけるニッケルに対するマンガンの質量比は、母相におけるマンガンの平均濃度の2倍以上となる0.17以上であればよい。偏析相におけるニッケルに対するマンガンの質量比が母相におけるマンガンの平均濃度の2倍以上であることで、偏析相に含まれるマンガンの溶出が促進される。
【0052】
<ニッケル水素蓄電池の製造方法>
以下、ニッケル水素蓄電池11の製造方法の一例について説明する。
負極板16の製造方法の一例について説明する。まず、水素吸蔵合金の原料としてミッシュメタル、ニッケル、コバルト、マンガン、及び、アルミニウムを所定の組成となるように配合する。
【0053】
具体的に、水素吸蔵合金は、水素吸蔵合金における原子比率での組成比をMmNiaCobMncAldとして表した場合、4.5≦a+b+c+d≦5.5の範囲を満たすように配合される。水素吸蔵合金におけるニッケルの原子比率は、3.5≦a≦5.0であることが好ましい。水素吸蔵合金におけるコバルトの原子比率は、0<b≦0.7であることが好ましい。水素吸蔵合金におけるマンガンの原子比率は、0.1≦c≦0.7であることが好ましい。なお、水素吸蔵合金におけるアルミニウムの原子比率「d」は、a~cの数値に基づいて、4.5≦a+b+c+d≦5.5の条件を満たすように決定される。AB5型の水素吸蔵合金に含まれるB元素を上記の組成で構成することで、偏析相の組成、水素吸蔵合金の断面における偏析相の面積の比率、及び、当該断面における偏析相1つあたりの平均面積を好適な値に制御し易くなる。
【0054】
さらに、水素吸蔵合金の原料を溶融した上で溶融状態から凝固までの冷却速度を1000℃/秒以上とするいわゆる溶融急冷法を行うことにより水素吸蔵合金を生成する。この場合、溶融した水素吸蔵合金の原料が急速に冷却されることにより、原料成分の分布のばらつきの小さい水素吸蔵合金が生成される。そして、生成した水素吸蔵合金をボールミルで粉砕することで、水素吸蔵合金粉末が作製される。
【0055】
なお、水素吸蔵合金の全体に対するアルミニウム及びマンガンの質量比が調整されることにより、水素吸蔵合金の断面における偏析相の面積の比率が制御される。また、水素吸蔵合金におけるニッケル及びマンガンの質量比が調整されることにより、偏析相におけるニッケルに対するマンガンの質量比を制御することができる。
【0056】
次に、水素吸蔵合金粉末をアルカリ水溶液に浸漬して攪拌した後に水洗および乾燥させるアルカリ処理を行う。なお、アルカリ処理における処理温度及び処理時間を調整することで、水素吸蔵合金の断面における偏析相の面積の比率、及び、当該断面における偏析相1つあたりの平均面積を制御することができる。
【0057】
さらに、乾燥した水素吸蔵合金粉末にカルボキシメチルセルロース等の増粘材、スチレン‐ブタジエン共重合体等の結着材を加えて混練し負極合剤ペーストを作製する。そして、負極合剤ペーストをパンチングメタルに塗布し、乾燥、圧延および切断することにより負極板16が作製される。負極合剤ペースト中の水素吸蔵合金粉末におけるマンガン及びコバルトの質量比、及び、パンチングメタルへの負極合剤ペーストの投入量によって、負極板中の水素吸蔵合金に含まれるマンガン及びコバルトの質量が決定される。
【0058】
正極板15の製造方法の一例について説明する。まず、正極合剤の原料として、正極活物質、導電材、増粘材、結着材等を混合して正極合剤ペーストを作製する。正極活物質は、水酸化コバルトによって被覆された水酸化ニッケルである。導電材は、水酸化コバルト、酸化コバルト等のコバルト化合物である。正極板15は、正極合剤ペーストを発泡ニッケル基板に充填した上で乾燥、圧延および切断することにより作製される。
【0059】
正極合剤ペーストにおけるコバルトの濃度、及び、発泡ニッケル基板への正極合剤ペーストの投入量によって、正極板15中の正極合剤に含まれるコバルトの質量が決定される。したがって、正極合剤ペーストにおけるコバルトの濃度及び正極合剤ペーストの投入量と、負極合剤ペーストにおけるマンガン及びコバルトの質量比及び負極合剤ペーストの投入量とを制御することで、水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比を制御できる。
【0060】
そして、上記した正極板15及び負極板16を耐アルカリ性樹脂の不織布から構成されるセパレータ17を介して複数枚積層し、水酸化カリウムを主成分とするアルカリ電解液とともに電槽内に収容することで、ニッケル水素蓄電池11が作製される。そして、電池の充放電を繰り返す活性化を行うことで、ニッケル水素蓄電池11の出力を向上させる。活性化工程において、充電電気量、SOC、環境温度、及び、充電回数などを制御することで、水素吸蔵合金の断面における偏析相の面積の比率、及び、当該断面における偏析相1つあたりの平均面積を制御することもできる。
【0061】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比が1.2以上であることで、水素吸蔵合金にマンガンが過剰に含まれることによる偏析相の増加が抑制されるため、水素吸蔵合金の過剰な微粉化が抑制される。これにより、過剰な微粉化に伴う水素吸蔵合金の表面積の増加が最適化されるため、水素吸蔵合金に含まれるコバルトの溶出が抑制される。結果として、セパレータ17に析出するコバルトの量が低減されることで、ニッケル水素蓄電池11における自己放電量を低減できる。
【0062】
(2)水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比が1.6以下であることで、セパレータ17に析出するコバルトの量を低減できるため、ニッケル水素蓄電池11における自己放電量を低減できる。また、セパレータ17に析出したマンガンがコバルトの高導電化を抑制することによって、ニッケル水素蓄電池11における自己放電量を低減できる。また、水素吸蔵合金に含まれるマンガンに対する正極合剤及び水素吸蔵合金に含まれるコバルトの質量比を1.6以下とすることで、他の金属元素に比べ比較的高価なコバルトの含有量を低減することができる。
【0063】
(3)偏析相において、ニッケルに対するマンガンの質量比が0.17以上0.4以下であることで、母相におけるマンガン含有量の減少による水素吸蔵合金における過剰な微粉化が抑制される。すると、微粉化に伴う水素吸蔵合金の表面積の増加が最適化されるため、水素吸蔵合金に含まれるコバルトの溶出が極力抑制される。結果として、セパレータ17に析出するコバルトの量が低減されることで、ニッケル水素蓄電池11における自己放電量を低減できる。
【0064】
(4)水素吸蔵合金の断面において、偏析相が占める割合が1.5%以上であることで、偏析相からセパレータ17に析出するマンガンの量を増加させることができる。これにより、セパレータ17に析出したマンガンがコバルトの高導電化を抑制することによって、ニッケル水素蓄電池11における自己放電量を低減できる。
【0065】
(5)水素吸蔵合金の断面において、偏析相が占める割合が3.0%以下であることで、偏析相を起点とした割れの過剰な発生が抑制されることにより耐食性を向上できる。結果として、水素吸蔵合金に含まれるコバルトの溶出が極力抑制されることで、ニッケル水素蓄電池11における自己放電量を低減できる。
【0066】
(6)水素吸蔵合金の断面における偏析相1つあたりの平均面積が30平方μm以上であることで、水素吸蔵合金中の偏析相が凝集された状態となるため、水素吸蔵合金における割れの起点となる偏析相の数を低減できる。したがって、水素吸蔵合金の耐食性を向上できる。これにより、水素吸蔵合金の過剰な微粉化が抑制されて水素吸蔵合金の表面積の増加が最適化されるため、水素吸蔵合金に含まれるコバルトの溶出が抑制されることで、自己放電量を低減できる。また、水素吸蔵合金の断面における偏析相1つあたりの平均面積が65平方μm以下であることで、偏析相の過剰な肥大化に伴って、偏析相に含まれるマンガンの溶出性が損なわれることを抑制できる。
【0067】
(7)本実施形態では、水素吸蔵合金及び偏析相の組成や水素吸蔵合金の断面における偏析相の面積の比率等を制御して、B元素であるコバルトやマンガンのセパレータ17への析出量を制御することで、ニッケル水素蓄電池11における自己放電量を低減している。上記の構成は、AB5型の水素吸蔵合金がB元素を溶出させ易いことから、ニッケル水素蓄電池11がAB5型の水素吸蔵合金を備える場合において、より好適に自己放電量を低減できる。
【0068】
(8)水素吸蔵合金は、その組成比をMmNiaCobMncAldとして表したとき、4.5≦a+b+c+d≦5.5、3.5≦a≦5.0、0<b≦0.7、及び、0.1≦c≦0.7の範囲を満たすように構成される。これにより、偏析相の組成、水素吸蔵合金の断面における偏析相の面積の比率、及び、当該断面における偏析相1つあたりの平均面積を好適な値に制御し易くなる。したがって、B元素であるコバルトやマンガンのセパレータへの析出量を好適に制御することが可能となる。結果として、ニッケル水素蓄電池の自己放電量を好適に低減できる。
【0069】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・上記実施形態では、水素吸蔵合金がその組成比をMmNiaCobMncAldとして表したとき、4.5≦a+b+c+d≦5.5、3.5≦a≦5.0、0<b≦0.7、及び、0.1≦c≦0.7の範囲を満たす構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、a+b+c+dの値を上記の範囲外としてもよい。すなわち、ニッケル水素蓄電池11が備える水素吸蔵合金は、AB5型に限定されない。そして、例えば、偏析相におけるニッケルに対するマンガンの質量比を0.17以上0.4以下の範囲内に調整可能であり、かつ、アルカリ処理や活性化工程における製造条件を調整することで、偏析相の面積の比率や偏析相1つあたりの平均面積を好適な値に制御できる程度であれば、a、b、及び、cの各値を上記の範囲外としてもよい。また、水素吸蔵合金は、アルミニウムを含まなくてもよく、この場合には、アルミニウムに代えて、ニッケル、コバルト、及び、マンガン以外の他のB元素を用いてもよいし、ニッケル、コバルト、及び、マンガンの含有量を増加させてもよい。
【0070】
・上記実施形態では、ニッケル水素蓄電池11がAB5型の水素吸蔵合金を備える構成を例示した。しかし、ニッケル水素蓄電池11が備える水素吸蔵合金は、AB5型に限定されず、AB型、AB2型、A2B7型のいずれか1つ又はそれらの組み合わせを用いることができる。ニッケル水素蓄電池11がAB5型以外の水素吸蔵合金を備える場合であっても、B元素であるコバルトやマンガンのセパレータ17への析出量を制御することで、ニッケル水素蓄電池11における自己放電量の低減が可能である。
【0071】
・上記実施形態では、ニッケルが母相と同程度の濃度で存在し、かつ、マンガン及びアルミニウムが母相における平均濃度の2倍以上の濃度で存在している領域を偏析相とした。ただし、水素吸蔵合金は、アルミニウムを含まなくてもよい。この場合には、マンガンが母相よりも相対的に高濃度に存在している領域であって、マンガンが母相における平均濃度の2倍以上の濃度で存在している領域が偏析相となる。この場合であっても、水素吸蔵合金の断面における偏析相が占める割合、偏析相1つあたりの平均面積、及び、偏析相におけるニッケルに対するマンガンの質量比を制御することで、ニッケル水素蓄電池11における自己放電量を低減できる。
【0072】
・上記実施形態では、水素吸蔵合金の断面において、母相と前記偏析相とを合わせた面積に対する偏析相の面積が占める割合を1.5%以上3.0%以下とした。これに代えて、偏析相におけるニッケルに対するマンガンの質量比を0.17以上0.4以下の範囲内で調整することで自己放電量を低減できる場合には、偏析相の面積が占める割合を1.5%以上3.0%以下の範囲外としてもよい。
【0073】
・上記実施形態では、水素吸蔵合金の断面において、偏析相1つあたりの平均面積が30平方μm以上65平方μm以下であるとした。これに代えて、偏析相におけるニッケルに対するマンガンの質量比を0.17以上0.4以下の範囲内で調整することで自己放電量を低減できる場合には、偏析相1つあたりの平均面積が30平方μm以上65平方μm以下の範囲外としてもよい。これにより、少なくともニッケル水素蓄電池11の自己放電量を低減する効果を得ることができる。
【0074】
・上記実施形態では、ニッケル水素蓄電池11を、複数の正極板15と複数の負極板16とをセパレータ17を介して交互に積層した積層型の電池とした。これに代えて、1枚の長尺な正極シート及び1枚の長尺な負極シートを、セパレータを介して積層及び捲回した捲回型の電池としてもよく、その他の構造の電池としてもよい。
【0075】
・上記実施形態では、電槽13内に6つの電池セル12を収容したが、電池セル12は1つでもよく、6つ以外の複数であってもよい。
・ニッケル水素蓄電池11は、複数のニッケル水素蓄電池11からなる組電池を構成してもよい。また、ニッケル水素蓄電池11は、コンピュータ、その他の電子機器、自動搬送機や荷役用の特殊自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車等に搭載されるものであってもよく、これ以外のシステムを構成するものであってもよい。例えば、船舶、航空機等の移動体に設けられるものであってもよく、発電所から変電所等を介して二次電池が設置されたビルや家庭等に電力を供給する電力供給システムであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
11…ニッケル水素蓄電池
12…電池セル
13…電槽
13a…正極端子
13b…負極端子
14…蓋部
15…正極板
15a…端部
16…負極板
16a…端部
17…セパレータ
20…極板群
21…正極集電部
22…負極集電部