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  • 特開-抑草材 図1
  • 特開-抑草材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135503
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】抑草材
(51)【国際特許分類】
   A01G 13/00 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
A01G13/00 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021035350
(22)【出願日】2021-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大川 透
(72)【発明者】
【氏名】天野 大器
【テーマコード(参考)】
2B024
【Fターム(参考)】
2B024DB10
2B024DC10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水底の土壌に太陽光が届くことを防止することができ、環境面でも安心して水田に用いることができる抑草材を提供する。
【解決手段】粉末状の炭30と、穀粉20とを含む混合物からなり、前記炭30と前記穀粉20との重量配合比が、前記炭の重量をX、前記穀粉の重量をYとした場合0.88≦Y/X≦1.14であることを特徴とする抑草材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の炭と、穀粉とを含む混合物からなり、
前記炭と前記穀粉との重量配合比が、前記炭の重量をX、前記穀粉の重量をYとした場合0.88≦Y/X≦1.14であることを特徴とする抑草材。
【請求項2】
前記穀粉は、発酵した発酵穀粉であることを特徴とする請求項1に記載の抑草材。
【請求項3】
前記発酵穀粉は米ぬかを発酵させた米ぬか発酵物であることを特徴とする請求項2に記載の抑草材。
【請求項4】
前記穀粉は、100gあたりの脂質含有量が10g以上である請求項1から請求項3までのいずれかに記載の抑草材。
【請求項5】
前記混合物に含まれる前記炭の平均粒径は、前記混合物に含まれる前記穀粉の平均粒径に対して0.05~0.15倍である請求項1から請求項4までのいずれかに記載の抑草材。
【請求項6】
前記炭は、もみ殻くん炭であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の抑草材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田での雑草の発芽や成長を抑制する抑草材に関する。
【背景技術】
【0002】
イネなどを耕作する水田の土壌には、太陽光が届くため、光合成を行う植物が発芽して育つことができる。たとえば、水田の土壌からは、水田雑草などが発芽して育つ場合があり、このような水田での雑草の発生は、育成対象であるイネなどの生育に悪影響を与えることが報告されている。
【0003】
水田における雑草の発生を抑制する技術として、水田の水面を遮光シートで覆う方法や、除草ロボット(特許文献1参照)により除草を行う方法などが提案されている。しかしながら、水面を遮光シートで覆う方法では、広いシートを水面に安定して配置することが難しく、シートの廃棄処理についても課題がある。また、現状提案されている除草ロボットは、粘土質の土壌を車軸などの可動部分に巻き込む問題があり、安定した可動やメンテナンス性の観点で課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-41921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、水底の土壌に太陽光が届くことを防止することができ、環境面でも安心して水田に用いることができる抑草材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る抑草材は、粉末状の炭と、穀粉とを含む混合物からなり、
前記炭と前記穀粉との重量配合比が、前記炭の重量をX、前記穀粉の重量をYとした場合0.88≦Y/X≦1.14であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る抑草材は、粉末状の炭と穀粉とを含む混合物からなるため、黒色の炭が脂質を多く含む穀粉に付着し、水田の水の中を長時間浮遊して水田水を濁らせ、太陽光が水底土壌に到達することを抑制し、水田での雑草の発芽・育成を防止することができる。特に、混合物における炭と穀粉の重量配合比を0.88~1.14とすることにより、混合物が水田水に長時間浮遊することが可能となり、効果的に水田水の透明度を低下させて、水田での雑草の発芽・育成を防止する。また、炭は水田や畑の土壌への肥料として用いられている実績があり、穀粉は食用としても用いられるものであるため、このような抑草材は、環境面でも安心して水田に用いることができる。
【0008】
また、たとえば、前記穀粉は、発酵した発酵穀粉であってもよい。
【0009】
発酵穀粉は、穀粉よりも炭との結びつきが強くなるため、このような抑草材は、混合物が水田水に長時間浮遊することが可能となり、効果的に水田水の透明度を低下させて、水田での雑草の発芽・育成を防止することができる。
【0010】
また、たとえば、前記発酵穀粉は米ぬかを発酵させた米ぬか発酵物であってもよい。
【0011】
発酵穀粉のなかでも、米ぬか発酵物は、水田の育成対象植物である稲由来であるため、水田に対して極めて安全に用いることができるとともに、循環利用の観点でも優れている。また、穀粉の原料となる米ぬかは、精米時の副産物でもあるので、このような抑草材は、廃棄物の減少にもつながり、環境面での利点がある。
【0012】
また、たとえば、前記穀粉は、100gあたりの脂質含有量が10g以上であってもよい。
【0013】
このような油脂含有率の穀粉は、炭を付着して水田水を長時間浮遊する能力が優れている。したがって、このような穀粉を含む混合物からなる抑草材は、効果的に水田水の透明度を低下させて、水田での雑草の発芽・育成を防止することができる。
【0014】
また、たとえば、前記混合物に含まれる前記炭の平均粒径は、前記混合物に含まれる前記穀粉の平均粒径に対して0.05~0.15倍であってもよい。
【0015】
炭と穀粉の平均粒径をこのような範囲とすることにより、炭が穀粉に対して好適に付着した状態で、より長時間水田水の中を浮遊し続けることができる。
【0016】
また、たとえば、前記炭は、もみ殻くん炭であってもよい。
【0017】
もみ殻くん炭は、水田の育成対象植物である稲由来であるため、水田に対して極めて安全に用いることができるとともに、循環利用の観点でも優れている。また、もみ殻くん炭の原料となるもみ殻は、脱穀時の副産物でもあるので、このような抑草材は、廃棄物の減少にもつながり、環境面での利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明に係る抑草材が水中を浮遊する状態を表すイメージ図である。
図2図2は、抑草材と水とを混ぜた直後の状態と、所定時間放置した状態とを表すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る抑草材10が水中を浮遊する状態を表すイメージ図である。抑草材10は、粉末状の炭30と、穀粉20とを含む混合物からなり、湛水された水田において、水田水(「田面水」ともいう。)に混ぜて使用される。
【0021】
抑草材10は、粉末状の炭30と穀粉20とを含む混合物の状態で提供される。たとえば、抑草材10は、混合物を含む粉末、粉末の混合物を固めた固形物、粉末の混合物に少量の液体(水など)を混ぜたペースト、混合物を含む粉末を水などの液体に混ぜた濃縮液などの状態で提供される。ただし、抑草材10を構成する混合物の提供時の状態は、特に限定されない。
【0022】
たとえば、炭30と穀粉20を含む混合物を水などの液体に混ぜた濃縮液の状態で提供される抑草材10は、水田に導入する水で希釈しながら水田内に導入され、水田水の中に拡散する。抑草材10の水田への投入量は、雑草の発芽・抑制をどの程度抑えるべき状態であるかによって変更し得るが、たとえば、水田水1リットルに対して、3~300g程度の抑草材10を投入することが、抑草材10によって水田水を濁らせ、太陽光が水底土壌に到達することを抑制し、水田での雑草の発芽・育成を防止するうえで好ましい。
【0023】
ただし、抑草材10の水田への投入方法は、水田へ導入する水に混ぜて行う方法のみには限定されず、粉体散布機などを用いて抑草材10を粉末の状態で水田に散布するなど、他の方法で行われてもよい。
【0024】
抑草材10を構成する混合物に含まれる炭30としては、植物性の原料から製造された植物性炭であることが、食品の安全性の観点で好ましい。また、植物性炭は、水田や畑の土壌への肥料として用いられている実績がある。
【0025】
さらに、炭30は、もみ殻くん炭とすることにより、水田の育成対象植物である稲を原材料とすることができるため、食品の安全性の観点で非常に優れており、また、水田で育ったものを水田に戻して循環させることになるため、サステナビリティの観点でも優れている。また、もみ殻は脱穀の際の副産物でもあるので、もみ殻くん炭を使用する抑草材10は、廃棄物の減少にもつながり、環境面でのメリットが大きい。
【0026】
また、もみ殻くん炭には、ケイ酸や炭素などの主要成分の他に、カリウム、銅、マンガン、鉄などの成分が含まれており、水底土壌に沈殿した後の土壌改良効果が期待できる。
【0027】
抑草材10に用いられる炭30は、粉末状のものを使用する。粉末状の炭30が穀粉20と混合されることにより、水田の水中を長時間浮遊することができ、水田水を長時間濁った状態に保つことができる。炭30の粒径は特に限定されないが、たとえば、粒径分布の中心値が8~300μmとすることが好ましく、40~60μmとすることがさらに好ましい。炭30の粒径が大きすぎるものは、穀粉20への付着が不十分になったり、水中で浮遊しにくくなったりする問題が生じる。炭30の粒径が小さすぎるものは、大気中に飛散しやすい問題があり、また、粉砕に時間が掛かるため生産性の点で課題がある。
【0028】
また、抑草材10を水田に用いることにより、炭30を水田水に浮遊・分散させ、水田水を黒色に濁らせることができる。抑草材10は、水田水を黒色に濁らせることにより、水田の水底土壌に届く太陽光を効果的に減少させ、水底土壌での雑草の発芽・育成を効果的に防止することができる。
【0029】
抑草材10を構成する混合物に含まれる穀粉20としては、米粉、米ぬか、小麦粉、片栗粉、そば粉、コンスターチ、きな粉、大豆粉、小豆粉、そら豆粉、落花生粉、アーモンド粉、ごま粉、くるみ粉、ココナッツ粉、さつまいも粉、ジャガイモ粉などが挙げられる。抑草材10に用いる穀粉20としては、100gあたりの脂質含有量が10g以上であるものが、炭30との吸着作用が向上するため好ましい。この観点からすると、米ぬか、大豆粉、きな粉、アーモンド粉、ごま粉、くるみ粉、ココナッツ粉、落花生粉が好ましい。また、抑草材10に用いる穀粉20としては、100gあたりの脂質含有量が30g以下であるものが、水田水の油分過剰による水質悪化を防止する観点から好ましい。
以上の観点からすると、米ぬか、大豆粉、きな粉が好ましい。
【0030】
特に、抑草材10に用いる穀粉20としては、米ぬかを用いることが好ましい。米ぬかは、抑草材10に用いる穀粉20として好適な脂質含有量を有するだけでなく、米ぬかを用いることで、水田の育成対象植物である稲を原材料とすることができるため、食品の安全性の観点で非常に優れている。また、水田で育ったものを水田に戻して循環させることになるため、サステナビリティの観点でも優れている。さらに、米ぬかは精米の際の副産物でもあるので、米ぬかを使用する抑草材10は、廃棄物の減少にもつながり、環境面でのメリットが大きい。
【0031】
また、抑草材10に用いる穀粉20としては、発酵した発酵穀粉であることが好ましく、特に、発酵穀粉は、米ぬかを発酵させた米ぬか発酵物であることがさらに好ましい。米ぬか発酵物等の発酵穀粉は、粉末状の炭30との吸着性が非常に良好であり、炭30を長時間水中に分散させて水田水を黒色に濁らせることにより、水田の水底土壌に届く太陽光を効果的に減少させることができる。
【0032】
米ぬか発酵物は、たとえば米ぬかを37℃前後の恒温槽に投入して、所定時間(たとえば72時間程度)保管することにより、米ぬかが備える酵母により自然発酵することで得られる。ただし、米ぬか発酵物および発酵穀粉を得る方法は、自生酵母による自然発酵のみには限定されない。
【0033】
抑草材10を構成する混合物は、炭30と穀粉20との重量配合比が、炭の重量をX、穀粉の重量をYとした場合0.88≦Y/X≦1.14であることが好ましい。抑草材10における炭30と穀粉20の重量配合比を0.88~1.14とすることにより、混合物が水田水に長時間浮遊することが可能となり、このような抑草材10は、効果的に水田水の透明度を低下させて、水田での雑草の発芽・育成を防止する。
【0034】
また、抑草材10を構成する混合物に含まれる炭30の平均粒径は、混合物に含まれる穀粉20の平均粒径に対して0.05~0.15倍であることが好ましい。炭30と穀粉20の平均粒径をこのような範囲とすることにより、炭30が穀粉20に対して好適に付着した状態で、より長時間水田水の中を沈殿することなく分散し続けることができる。
【0035】
抑草材10は、炭30と穀粉20以外のバインダ等の成分を実施的に含まないことが好ましい。したがって、抑草材10は、炭30と穀粉20(発酵穀粉を含む)のみからなるか、または、炭30、穀粉20(発酵穀粉を含む)および水のみからなることが、余分なものを水田に持ち込まないようにし、水田の環境を維持する観点から好ましい。また、炭30をもみ殻くん炭で構成し、穀粉20を米ぬかまたは米ぬか発酵物で構成することにより、抑草材10を水田由来のもののみで構成することができ、食品の安全性の観点や、物質の循環性の観点で非常に優れている。
【0036】
以下、実施例を挙げて本願発明をさらに詳細に説明するが、本願発明は実施例のみには限定されない。
【0037】
実施例1
実施例1として、炭30の配合重量(Y)と穀粉20の配合重量(X)の比率(Y/X)を変化させた混合物を水に投入して攪拌した試料(No.1~No.9)を準備した後静置し、攪拌後72時間経過した時における混濁状態を観察した。炭30としては、粒径分布の中心値が50μmのもみ殻くん炭を用い、穀粉としては、粒径分布の中心値が500μmの米ぬか(非発酵)を使用した。各試料では、もみ殻くん炭と穀粉の混合物6gを、100ccの水に投入して攪拌したのち静置した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、もみ殻くん炭と米ぬかの重量配合比(Y/X)を0.88~1.14とした試料No.3~No.5は、静置後も水の中に混合物が分散した状態になっており、水面に油膜は形成されていなかった。これに対して、もみ殻くん炭と米ぬかの重量配合比(Y/X)が0.88より小さいか、1.14より大きい試料No.1~No.2および試料No.6~No.9については、静置後の水面に油膜が形成されており、静置後の混合物の分散状態が、試料No.3~No.5に比べて悪いと考えられる結果となった。
【0040】
実施例2
実施例2として、非発酵の米ぬかを穀粉20として用いた試料No.4と、自然発酵した発酵米ぬかを穀粉20として用いた試料No.10とを準備して攪拌後静置し、攪拌後72時間経過した時の混濁状態を観察した。炭30と穀粉20の重量配合比(Y/X)は、試料No.4、試料No.10ともに1.00とした。また、各試料の他の条件については、実施例1と同様である。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、非発酵の米ぬかを用いた試料No.4より、発酵米ぬかを用いた試料No.10の方が、静置後における混濁液の色の黒味が強く、水底に沈殿する炭が少ないことが観察された。実施例2の試料No.4と試料No.10の状態を模式的に表す図2に示されるように、静置後において、試料No.4では穀粉20と炭30の分離がかなり進んでいるのに対して、試料No.10では、試料No.4に比べて、静置による穀粉20と炭30の分離が抑制されていることが理解できる
【0043】
実施例3
実施例3として、13×19cmのバットの中に、土壌と水を投入して水田を模した環境を形成し、抑草材なしの場合と、抑草材有の場合とで、土壌からの雑草の発芽率に差異がみられるかどうかを確認した。抑草材有の場合における抑草材の投入量は、水1リットルにつき60gとした。バットの中の土壌には、予め所定数(9粒)の雑草(ヒエ)の種を蒔いておき、30℃の環境で5万ルクスの光を1日につき8時間、10日間照射した後、各バットの雑草の発芽率を調査した。抑草材としては、実施例における試料No.10と同様のもの(もみ殻くん炭(Y)と発酵米ぬか(X)の混合比(Y/X)1.00のもの)を用いた。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表3に示すように、抑草材なしの場合の発芽率は、3回の実験で0.3~0.4であったのに対して、抑草材無しの場合の発芽率は、3回の実験で0~0.1であった。実施例3からは、抑草材の投入により、抑草材なしの場合に比べて、水底土壌からの雑草の発芽を防止できるとの結果が得られた。
【符号の説明】
【0046】
10…抑草材
20…穀粉
30…炭素
図1
図2