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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136816
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
H01G4/30 201K
H01G4/30 512
H01G4/30 516
H01G4/30 201G
H01G4/30 201L
H01G4/30 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036609
(22)【出願日】2021-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】末田 有一郎
(72)【発明者】
【氏名】並木 亮太
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E082AA01
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG26
5E082GG10
5E082GG11
(57)【要約】
【課題】素子本体と外部電極との接合信頼性が高いセラミック電子部品を提供すること
【解決手段】
セラミック層と内部電極層とが積層された素子本体と、内部電極層の少なくとも一端と電気的に接続している外部電極と、を有するセラミック電子部品であって、外部電極と、セラミック層との接合境界の少なくとも一部は、外部電極側に界面突起部を有し、界面突起部は酸化物により構成されているセラミック電子部品。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック層と内部電極層とが積層された素子本体と、
前記内部電極層の少なくとも一端と電気的に接続している外部電極と、を有するセラミック電子部品であって、
前記外部電極と、前記セラミック層との接合境界の少なくとも一部は、前記外部電極側に界面突起部を有し、
前記界面突起部は酸化物により構成されているセラミック電子部品。
【請求項2】
前記外部電極にはCu、Cu合金、AgおよびAg合金からなる群から選ばれる少なくとも1種が主成分として含まれる請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記界面突起部は、
幅が狭い幅狭部と、
前記幅狭部よりも前記外部電極の内部側において、前記幅狭部に隣接して具備してあり、前記幅狭部よりも幅が広い幅広部と、を有する請求項1または2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記素子本体と前記外部電極との接合境界の100μm長さにおいて、前記幅狭部と前記幅広部とで形成されるくびれ部を有する前記界面突起部が2個以上存在する請求項3に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記幅狭部の接線と前記幅広部の接線とで形成されるくびれ部の角度θは20°≦θ≦140°を満たす請求項3または4に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記幅狭部の幅をTnとし、
前記幅広部の幅をTwとしたとき、
前記界面突起部におけるTw/Tnは2以上である請求項3~5のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記酸化物の少なくとも一部はガラスである請求項1~6のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記界面突起部にはB、SiおよびZnから選択される少なくとも2種類が主成分として含まれる請求項1~7のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記セラミック層にはABOで表されるペロブスカイト型化合物が主成分として含まれる請求項1~8のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記ABOで表されるペロブスカイト化合物は、(Ba1-a-bSrCa(Ti1-c-dZrHf)Oで表されるペロブスカイト型化合物であり、0.94<m<1.1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1および0≦d≦1の式を満たす請求項9に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
前記セラミック層の線膨張係数をαとし、
前記外部電極の線膨張係数をβとし、
前記界面突起部の線膨張係数をδとしたとき、
α、βおよびδの大小関係は、β>α>δとなる請求項1~10のいずれかに記載のセラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部電極を有するセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、セラミック成分を含む素子本体と、当該素子本体の外面に形成してある外部電極と、を備えるセラミック電子部品が知られている。セラミック電子部品の外部電極としては、焼付電極が広く採用されており、焼付電極は、導体粉末とガラスフリットとを含む導電ペーストを素子本体表面に塗布して焼き付けることで形成できる。
【0003】
しかし、特許文献1に示すような従来技術では、銅などのイオン化傾向の低い元素を導体として含む外部電極と、酸化物である素子本体またはガラスフリットとを接合させるのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-171912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされ、素子本体と外部電極との接合信頼性が高いセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るセラミック電子部品は、
セラミック層と内部電極層とが積層された素子本体と、
前記内部電極層の少なくとも一端と電気的に接続している外部電極と、を有するセラミック電子部品であって、
前記外部電極と、前記セラミック層との接合境界の少なくとも一部は、前記外部電極側に界面突起部を有し、
前記界面突起部は酸化物により構成されているセラミック電子部品。
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品によれば、素子本体と外部電極との接合信頼性が高い。その理由は下記の通りであると考えられる。
【0008】
本発明では、外部電極と、セラミック層との接合境界の少なくとも一部は、外部電極側に界面突起部を有する。また、界面突起部は酸化物により構成されている。このため、外部電極に含まれる界面突起部が、酸化物である誘電体層を含む素子本体と接合され易くなり、その結果、素子本体と外部電極とは強固に接合できることから、接合信頼性を高くできる。
【0009】
なお、接合信頼性は、たとえば気槽式熱衝撃試験による静電容量の変化率により判断できる。すなわち、気槽式熱衝撃試験の試験前の静電容量Cαに対する試験後の静電容量Cβの変化率(Cβ/Cα)が、高ければ接合信頼性が高いと判断できる。また、接合強度が高いほど、接合信頼性は高くなる。
【0010】
前記外部電極にはCu、Cu合金、AgおよびAg合金からなる群から選ばれる少なくとも1種が主成分として含まれてもよい。
【0011】
外部電極の導体として用いられる銅などはイオン化傾向が低いことから、比較的酸化しにくい金属である。言い換えると、銅は酸素と結びつきにくい金属である。これに対して素子本体に含まれるセラミック成分は酸化物である。また、外部電極に含まれるガラスフリットも酸化物である。このため、従来技術では、銅などのイオン化傾向の低い元素を導体として含む外部電極と、酸化物である素子本体またはガラスフリットとを接合させるのは困難である。
【0012】
これに対して、本発明によれば、外部電極の導体が銅などのような酸化しにくい元素を含んでいたとしても、界面突起部により素子本体と外部電極とを強固に接合させることができる。
【0013】
前記界面突起部は、
幅が狭い幅狭部と、
前記幅狭部よりも前記外部電極の内部側において、前記幅狭部に隣接して具備してあり、前記幅狭部よりも幅が広い幅広部と、を有することが好ましい。
【0014】
これにより、界面突起部は、幅狭部と、幅広部と、により形成されるくびれ部によるアンカー効果を外部電極に対して示すことから、素子本体と外部電極との接合信頼性をより高くできる。
【0015】
好ましくは、前記素子本体と前記外部電極との接合境界の100μm長さにおいて、前記幅狭部と前記幅広部とで形成されるくびれ部を有する前記界面突起部が2個以上存在する。
【0016】
これにより、素子本体と外部電極とをより強固に接合させることができる。
【0017】
各界面突起部のうち、最も角度が小さくなる前記くびれ部の角度θは、好ましくは20°≦θ≦140°を満たす。
【0018】
角度θが上記の範囲を満たす場合は、角度θが上記の範囲を下回る場合に比べて界面突起部のくびれ部に外部電極が入り込み易く、アンカー効果がより高まる。また、角度θが上記の範囲を満たす場合は、角度θが上記の範囲を上回る場合に比べて界面突起部の幅狭部と幅広部とにより外部電極を挟みこみ易く、アンカー効果がより高まる。したがって、角度θが上記の範囲に含まれることにより、界面突起部のアンカー効果がより高まり、素子本体と外部電極との接合がより強固となる。
【0019】
前記幅狭部の幅をTnとし、
前記幅広部の幅をTwとしたとき、
前記界面突起部におけるTw/Tnは、好ましくは2以上である。
【0020】
Tw/Tnが上記の範囲を満たす場合は、Tw/Tnが上記の範囲を下回る場合に比べて界面突起部のくびれ部に外部電極が入り込み易く、なおかつ、界面突起部の幅狭部と幅広部とにより外部電極を挟みこみ易く、アンカー効果がより高まる。したがって、Tw/Tnが上記の範囲を満たすことにより、界面突起部のアンカー効果がより高まり、素子本体と外部電極との接合がより強固となる。
【0021】
好ましくは、前記酸化物の少なくとも一部はガラスである。
【0022】
界面突起部を構成する酸化物の少なくとも一部はガラスであることにより、界面突起部の流動性が高まる。このため、界面突起部が外部電極の導体および素子本体の外部電極側の面を濡らし易くできる。また、界面突起部に含まれるガラスは、酸化物であることから、酸化物である誘電体層を含む素子本体と接合し易い。したがって、素子本体と外部電極とをより強固に接合させることができる。
【0023】
前記界面突起部にはB、SiおよびZnから選択される少なくとも2種類が主成分として含まれる。
【0024】
これにより、界面突起部はガラス化し易くなり、上記の理由により、素子本体と外部電極とをより強固に接合させることができる。
【0025】
前記セラミック層にはABOで表されるペロブスカイト型化合物が主成分として含まれてもよい。
【0026】
前記ABOで表されるペロブスカイト型化合物は、(Ba1-a-bSrCa(Ti1-c-dZrHf)Oで表されるペロブスカイト型化合物であり、0.94<m<1.1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1および0≦d≦1の式を満たしてもよい。
【0027】
前記セラミック層の線膨張係数をαとし、
前記外部電極の線膨張係数をβとし、
前記界面突起部の線膨張係数をδとしたとき、
α、βおよびδの大小関係は、β>α>δとなることが好ましい。
【0028】
界面突起部は線膨張係数が低い。このような界面突起部が外部電極のセラミック層側の面に備えられていることにより、焼き付け時の冷却時に外部電極を構成する成分が界面突起部を熱応力で締め付ける。これにより、素子本体と外部電極とをより強固に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
図2図2は、図1のII部の拡大図である。
図3図3は、図2のIII部の拡大図である。
図4図4は、図2のIII部の拡大図である。
図5図5は、図2のIII部の拡大図である。
図6図6は、図2のIII部の拡大図である。
図7図7は、図2のVII部の拡大図である。
図8図8は、本発明の他の実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
第1実施形態
本発明に係るセラミック電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。図1に、一般的な積層セラミックコンデンサ2の断面図を示す。
【0031】
積層セラミックコンデンサ2は、X軸およびY軸を含む平面に実質的に平行な誘電体層(セラミック層)10と内部電極層12とを有し、誘電体層10と内部電極層12がZ軸方向(積層方向)に沿って交互に積層された素子本体4を有する。
【0032】
ここで、「実質的に平行」とは、ほとんどの部分が平行であるが、多少平行でない部分を有していても良いことを意味し、誘電体層10と内部電極層12は、多少、凹凸があったり傾いていたりしてもよいという趣旨である。
【0033】
また、図1によれば、素子本体4のX軸方向の端面は、平面であり、言い換えると、誘電体層10と内部電極層12とが面一となるように積層されている。しかし、素子本体4のX軸方向の端面は、平面でない部分を有していてもよい。また、誘電体層10と内部電極層12とが面一とならずに、たとえば誘電体層10の一部が削れていたり、内部電極層12の一部が突き出た状態で積層されていてもよい。
【0034】
なお、本実施形態において、X軸、Y軸およびZ軸は相互に垂直である。
【0035】
また、本実施形態において、「内側」は、積層セラミックコンデンサ2の中心により近い側を意味し、「外側」は、積層セラミックコンデンサ2の中心から離れた側を意味する。
【0036】
本実施形態では、交互に積層される一方の内部電極層12は、素子本体4のX軸方向の一方の端部の外側に形成してある外部電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、素子本体4のX軸方向の他方の端部の外側に形成してある外部電極6の内側に対して電気的に接続してある。
【0037】
本実施形態では、素子本体4の形状および寸法は特に限定されない。形状は、楕円柱状、円柱状、その他角柱状などであってもよい。素子本体4のX軸方向の長さL0は、たとえば0.4~5.7mmとしてもよい。素子本体4のY軸方向の長さW0は、たとえば0.2~5.0mmとしてもよい。素子本体4のZ軸方向の長さT0は、たとえば0.2~2.0mmとしてもよい。
【0038】
誘電体層10の厚みは特に限定されない。たとえば内部電極層12に挟まれている誘電体層10の厚みTdは30μm以下であることが好ましく、より好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。
【0039】
誘電体層10の積層数は特に限定されないが、好ましくは20以上であり、より好ましくは50以上である。
【0040】
誘電体層10の材料は特に限定されないが、本実施形態では、誘電体層10にはABOで表されるペロブスカイト型化合物が主成分として含まれる。
【0041】
誘電体層10の主成分とは、誘電体層10において、80質量%以上含まれる成分である。
【0042】
ABOで表されるペロブスカイト型化合物は、たとえば(Ba1-a-bSrCa(Ti1-c-dZrHf)Oで表されるペロブスカイト型化合物であり、0.94<m<1.1、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1および0≦d≦1の式を満たしてもよい。
【0043】
mはAサイトとBサイトの元素比率を示し、たとえば0.94<m<1.1である。
【0044】
aはSrの元素比率を示し、たとえば0≦a≦1であり、好ましくは0≦a<1である。
【0045】
bはCaの元素比率を示し、0≦b≦1であり、好ましくは0≦b<1である。
【0046】
cはZrの元素比率を示し、0≦c≦1であり、好ましくは0≦c<1である。
【0047】
dはHfの元素比率を示し、0≦d≦1であり、好ましくは0≦d<1である。
【0048】
なお、上記組成式における酸素(O)の元素比率は、化学量論組成から多少偏奇していてもよい。
【0049】
本実施形態に係る誘電体層10は、これらの主成分の他にMn化合物、Mg化合物、Cr化合物、Ni化合物、希土類元素化合物、Si化合物、Li化合物、B化合物、V化合物などの副成分を含んでいてもよい。副成分の種類や組み合わせ、およびその添加量は特に限定されない。
【0050】
内部電極層12に含有される導電材は特に限定されないが、好ましくは、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金、AgまたはAg系合金、PdまたはPd系合金などが例示される。なお、Ni、Ni系合金、CuまたはCu系合金、Ag-Pd系合金な中には、P等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。本実施形態では、内部電極12はNiまたはNi合金を主成分として含んでもよい。また、NiまたはNi合金を主成分とする場合には、Mn、Cu、Cr、などから選ばれる1種以上の副成分を含んでいてもよい。
【0051】
内部電極層12の主成分とは、内部電極層12に90質量%以上含まれる成分である。
【0052】
また、内部電極層12は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層12の厚みは用途等に応じて適宜決定すればよい。たとえば内部電極層12の1層あたり厚みTeはたとえば3.0μm以下とすることができる。
【0053】
本実施形態の外部電極6は、内部電極層12の少なくとも一部と電気的に接続するように素子本体4に形成されている。
【0054】
本実施形態に係る外部電極6は、少なくとも導体61を有する。
【0055】
外部電極6に含有される導体61を構成する成分は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Sn、Ag、Pd、Auあるいはこれらの合金等公知の導電材を用いればよい。なお、本実施形態では、導体61はCu、Cu合金、AgおよびAg合金からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分として含んでもよい。
【0056】
導体61の主成分とは、メッキや導電性樹脂等による被覆層以外に含まれる導体61に90質量%以上含まれる成分である。
【0057】
なお、導体61がCuを含む場合には、Al、Ni、Ag、Pd、Sn、Zn、P、Fe、Mnなどの元素が含まれていてもよい。
【0058】
外部電極6の厚みLeは特に限定されないが、たとえば10~200μmである。
【0059】
本実施形態では、外部電極6に非金属成分62や空隙(図示せず)が存在してもよい。非金属成分62としては、後述する界面突起部16と同成分であるが、誘電体層10側の面の少なくとも一部に具備されていない部分などが挙げられる。非金属成分62は、界面突起部16と同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。たとえば、外部電極6の誘電体層10との界面付近以外の領域にSiOなどを含むガラス(非金属成分62)が存在することにより、界面突起部16の組成ずれを抑制することができる。
【0060】
図2図1のII部の拡大図である。図2に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサでは、外部電極6と、誘電体層10との接合境界46の少なくとも一部は、外部電極6側に不定形の界面突起部16を有する。すなわち、界面突起部16は、外部電極6の内部に食い込んで形成されている。
【0061】
本実施形態に係る界面突起部16は酸化物により構成されている。このため、外部電極6に含まれる界面突起部16が、酸化物である誘電体層10を含む素子本体4と接合され易くなり、その結果、素子本体4と外部電極6とが強固に接合できる。
【0062】
本実施形態に係る界面突起部16を構成する酸化物の少なくとも一部は、ガラスであることにより、界面突起部16の流動性が高まる。このため、界面突起部16が外部電極6の導体61および素子本体4の外部電極6側の面を濡らし易くできる。また、界面突起部16に含まれるガラスは、酸化物であることから、酸化物である誘電体層10を含む素子本体4と接合し易い。したがって、素子本体4と外部電極6とをより強固に接合させることができる。
【0063】
界面突起部16にはB、SiおよびZnから選択される少なくとも2種類が主成分として含まれ、より好ましくは少なくともSiおよびBが主成分として含まれる。これにより、界面突起部16がガラス化し易くなり、素子本体4と外部電極6とをより強固に接合させることができる。
【0064】
「界面突起部16にはB、SiおよびZnから選択される少なくとも2種類が主成分として含まれる」とは、界面突起部16において、酸素以外の元素の合計を100モル部としたとき90モル部以上をB、SiおよびZnから選択される少なくとも2種類の合計が占めるという趣旨である。
【0065】
本実施形態では、界面突起部16に含まれるB、SiおよびZnの合計を1モル部としたとき、界面突起部16にはBが0.15~0.82モル部含まれることが好ましく、0.28~0.70モル部含まれることがより好ましい。
【0066】
本実施形態では、界面突起部16に含まれるB、SiおよびZnの合計を1モル部としたとき、界面突起部16にはSiが0.07~0.60モル部含まれることが好ましく、0.10~0.35モル部含まれることがより好ましい。
【0067】
本実施形態では、界面突起部16に含まれるB、SiおよびZnの合計を1モル部としたとき、界面突起部16にはZnが0.10~0.61モル部含まれることが好ましく、0.15~0.46モル部含まれることがより好ましい。
【0068】
界面突起部16には、B、SiおよびZnの他、誘電体組成物10を構成する元素、内部電極層12を構成する元素および導体61を構成する元素が含まれていてもよい。
【0069】
本実施形態における界面突起部16は、アンカー効果が得られる形状である。「アンカー効果が得られる形状」とは、界面突起部16が誘電体層10の外面(Y-Z平面)に沿って薄く広がるのではなく、図2に示すように、誘電体層10の外面から外部電極6の内部に向かって(すなわちX軸方向の外側に向かって)、3次元的に広がることを意味する。
【0070】
本実施形態に係る界面突起部16は、くびれ部16cを有していてもよいし、くびれ部16cを有していなくてもよいが、くびれ部16cを有していることが好ましい。ここで、くびれ部16cとは、幅が狭い幅狭部16aと、幅狭部16aよりも外部電極6の内部側(X軸方向の外側)において、幅狭部16aに隣接して具備してあり、幅狭部16aよりも幅が広い幅広部16bと、により形成される部分を言う。
【0071】
なお、界面突起部160のように、くびれ部16cを有していなくても、他に一か所以上の界面突起部160があり、なおかつこれらの界面突起部160がY軸方向およびZ軸方向の少なくとも一方向に傾いていれば、アンカー効果を示すことができる。たとえば、素子本体4のX軸方向の端面(Y-Z平面)と界面突起部160とで形成される傾き角度は20°以上140°以下であることが好ましい。
【0072】
また、界面突起部16は、図2のX-Z断面ではくびれ部16cを有していなくても、Y-Z断面では、くびれ部16cを有している場合もある。
【0073】
界面突起部16について、図2のIII部の拡大図である図3図6により説明する。図4に示すように、界面突起部16はX軸方向においてくびれ部16cを有する。
【0074】
図3および図4に示すように、界面突起部16はZ軸方向(積層方向)に幅が狭い幅狭部16aを有し、幅狭部16aと連続する界面突起部16のX軸方向の外側方向に、幅狭部に比べてZ軸方向に幅が広い幅広部16bを有する。言い換えると、界面突起部16は、幅狭部16aと、幅狭部16aの内部側において、幅狭部16aに隣接して具備されている幅広部16bと、を有する。そして、幅狭部16aと、幅広部16bと、によりくびれ部16cが形成されている。
【0075】
界面突起部16は、導体61と内部電極層12との接続が確保されるように素子本体4のX軸方向の端面に断続的に具備されている。すなわち、界面突起部16は、内部電極層12のX軸方向の端部が導体61と接続する部分には、概ね具備されていない。
【0076】
ただし、X-Z断面を観察した場合、素子本体4のX軸方向の端面付近では、界面突起部16が一部の内部電極層12のX軸方向の端部を覆っている箇所が存在していてもよい。各内部電極層12は、X軸方向だけでなくY軸方向に沿っても存在しているため、各内部電極層12のY軸方向の端部において一部でも界面突起部16が具備されていない箇所があれば、その箇所において、内部電極層12と、導体61とが電気的に接続できる。言い換えると、内部電極層12の端部が部分的に界面突起部16に覆われていたとしても、各内部電極層12と導体61との電気的接続は確保できる。
【0077】
外部電極6と、内部電極層12との接続界面は接合境界46により示されるが、明確でなくてもよく、たとえば内部電極層12の端部が界面突起部16の内部に入り込んでもよい。
【0078】
なお、図1に示すように、外部電極6がX軸方向の素子本体4の端面からZ軸方向の素子本体4の端面に跨って形成されている場合には、界面突起部16は、X軸方向の端面だけでなくZ軸方向の端面にも形成されていてもよい。
【0079】
くびれ部16cを有する界面突起部16のこのような形状は、たとえば、素子本体4のX軸方向の端面に、幅狭部16aを構成する粒径の小さい酸化物粒子(以下では、「小酸化物粒子」とする)を含む幅狭部用ペーストを塗布した後にその上に、幅広部16bを構成する粒径の大きい酸化物粒子(以下では、「大酸化物粒子」とする)を含む幅広部用ペーストを塗布し、焼き付けることによって実現できる。
【0080】
他にも、素子本体4のX軸方向の端面に、所望の形状を有する界面突起部用粒子を含む界面突起部用ペーストを塗布し、焼き付けることによっても界面突起部16を形成することができる。「界面突起部用粒子」とは、素子本体4に焼き付け後に界面突起部16となる粒子である。
【0081】
くびれ部16cを有する界面突起部16は、素子本体4と外部電極6との接合境界46のZ軸方向の所定長さLz中に、所定の数以上存在することが好ましい。具体的には、素子本体4と外部電極6の界面付近を含む断面(X-Z断面)において、接合境界46の所定長さLzを100μmとすると、くびれ部16cを有する界面突起部16が2個以上存在することが好ましく、10個以上存在することがより好ましい。くびれ部16cを有する界面突起部16の個数の上限は特に制限されないが、内部電極層12と外部電極6との電気的接続を確保する観点から、15個以下であることが好ましい。
【0082】
なお、所定長さLzは素子本体4と外部電極6との接合境界46の2点間の距離である。このため、素子本体4と外部電極6との接合境界46に凹凸がある場合には、所定長さLzは凹凸の長さではなく、凹凸上の2点を決定して、その2点間の距離を所定長さLzとする。
【0083】
くびれ部16cを有する界面突起部16は、誘電体層10の1層あたりに平均で0.5個以上存在することが好ましく、1個以上存在することがより好ましい。
【0084】
くびれ部16cを有する界面突起部16の個数を制御する方法は特に限定されない。くびれ部16cを有する界面突起部16の個数は、たとえば幅狭部用ペーストに含まれる小酸化物粒子、幅広部用ペーストに含まれる大酸化物粒子または界面突起部用ペーストに含まれる界面突起部用粒子の含有率を変化させることにより制御することができる。また、大酸化物粒子の含有量に対する小酸化物粒子の含有量の質量比を小さくするとくびれ部16cを有する界面突起部16の個数が増加する傾向となる。
【0085】
図5に示すように、幅狭部16aの接線16aLと幅広部16bの接線16bLとで形成される最も角度が小さくなるくびれ部16cの角度θは好ましくは20°≦θ≦140°を満たし、より好ましくは20°≦θ≦120°を満たす。
【0086】
角度θが上記の範囲を満たす場合は、角度θが上記の範囲を下回る場合に比べて界面突起部16のくびれ部16cに外部電極6(導体61および非金属成分62など)が入り込み易く、アンカー効果がより高まる。角度θが上記の範囲を満たす場合は、角度θが上記の範囲を上回る場合に比べて界面突起部16の幅狭部6aと幅広部6bとにより外部電極6を挟みこみ易く、アンカー効果がより高まる。したがって、上記の角度θの範囲により、界面突起部16のアンカー効果がより高まり、素子本体4と外部電極6との接合がより強固となる。
【0087】
角度θを制御する方法は特に限定されない。角度θを制御する方法としては、たとえば幅狭部用ペーストに含まれる小酸化物粒子の平均粒径(Dn)に対する大酸化物粒子の平均粒径(Dw)の比(Dw/Dn)を変化させる方法が挙げられる。Dw/Dnが大きいと、角度θが小さくなる傾向となる。
【0088】
他にも、界面突起部用ペーストに含まれる界面突起部用粒子を所望の角度のくびれ部を有する界面突起部用粒子とすることで、角度θを制御してもよい。
【0089】
図6に示すように、幅狭部16aの幅をTnとし、幅広部16bの幅をTwとしたとき、Tw/Tnが2以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。Tw/Tnの上限は特に限定されないが、界面突起部16の強度を確保する観点から、Tw/Tnは4以下であることが好ましい。
【0090】
Tw/Tnが上記の範囲を満たす場合は、Tw/Tnが上記の範囲を下回る場合に比べて界面突起部16のくびれ部16cに外部電極6が入り込み易く、また、界面突起部16の幅狭部16aと幅広部16bとにより外部電極6を挟みこみ易く、アンカー効果がより高まる。したがって、上記のTw/Tnの範囲により、界面突起部16のアンカー効果がより高まり、素子本体4と外部電極6との接合がより強固となる。
【0091】
Tw/Tnを制御する方法は特に限定されない。Tw/Tnを制御する方法としては、たとえば幅狭部用ペーストに含まれる小酸化物粒子の平均粒径(Dn)に対する大酸化物粒子の平均粒径(Dw)の比(Dw/Dn)を変化させる方法が挙げられる。Dw/Dnが大きいと、Tw/Tnが大きくなる傾向となる。
【0092】
他にも、界面突起部用ペーストに含まれる界面突起部用粒子を所望のTw/Tnのくびれ部を有する界面突起部用粒子とすることで、Tw/Tnを制御してもよい。
【0093】
誘電体層10の線膨張係数をαとし、外部電極6の線膨張係数をβとし、界面突起部16の線膨張係数をδとしたとき、α、βおよびδの大小関係は、β>α>δとなることが好ましい。
【0094】
界面突起部16は線膨張係数が低い。このような界面突起部16が外部電極6の誘電体層10側の面に備えられていることにより、焼き付け時の冷却時に外部電極6を構成する成分が界面突起部16を熱応力で締め付ける。これにより、素子本体4と外部電極6とをより強固に接合することができる。
【0095】
たとえば、誘電体層10の主成分であるBaTiOの線膨張係数αは9.4ppm/℃である。また、外部電極6に用いられるCuの線膨張係数βは17.5ppm/℃である。さらに、界面突起部16を構成するガラスの線膨張係数δは2.8~9.0ppm/℃である。
【0096】
界面突起部16の構造は、SEM(走査型電子顕微鏡)またはSTEM(走査透過型電子顕微鏡)などによる断面観察で解析できる。具体的には、SEMの反射電子像やSTEMのHAADF像などで外部電極6の断面を観察した場合、界面突起部16、非金属成分62および空隙63より密度が高いことが多い導体61は、コントラストの明るい部分として認識できることが多い、界面突起部16、非金属成分62および空隙63などはコントラストの暗い部分として認識できることが多い。
【0097】
また、界面突起部16の組成は、断面観察の際に、EPMA(電子線マイクロアナライザ)による成分分析を行うことで測定できる。成分分析は少なくとも3箇所以上で実施し、測定結果の平均値により界面突起部16の組成を算出することが好ましい。本実施形態において、EPMAで成分分析を行う場合、X線分光器として、EDS(エネルギー分散型分光器)またはWDS(波長分散型分光器)を使用できる。
【0098】
なお、上記では、界面突起部16の形状を中心に本実施形態を説明したが、以下では、導体61の形状を中心に説明する。
【0099】
図7は、図2のVII部の拡大図である。図7には、2つの界面突起部161および162が示されている。図7に示すように、隣接する界面突起部161および162の間では、幅広部161bおよび幅広部162bの間では界面突起部161および162の距離は狭まっているが、幅狭部162aおよび162bの間では、界面突起部161および162の距離は広がっている。
【0100】
このように、隣接する界面突起部161および162の間の領域では、接合境界46に向かうにつれて、すなわち、X軸方向に内側に向かうにつれて、Z軸方向に導体61が広がる幅狭部間領域61aが形成され易い。このような幅狭部間領域61aでは、導体61がZ軸方向に広がっており、なおかつ、幅広部161bおよび162bにより、導体61がX軸方向の内側に挟み込まれているため、素子本体4と外部電極6との接合を強固にすることができ、接合信頼性を向上させることができる。
【0101】
次に、図1示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例を説明する。
【0102】
まず、焼成後に図1に示す誘電体層10を構成することになるグリーンシートを製造するために、誘電体層用ペーストを準備する。
【0103】
誘電体層用ペーストは、通常、誘電体粉末と有機ビヒクルとを混練して得られた有機溶剤系ペースト、または水系ペーストで構成される。
【0104】
誘電体粉末の原料としては、上述した誘電体層10を構成することになる複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。
【0105】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、アクリル、エチルセルロース、ブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。
【0106】
また、用いる有機溶剤も特に限定されず、シート法や印刷法など、利用する方法に応じて、アルコール、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ターピネオール、ブチルカルビトール、等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0107】
誘電体層用ペースト中には、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリットなどから選択される添加物が含有されていてもよい。
【0108】
可塑剤としては、フタル酸ジオクチルやフタル酸ベンジルブチルなどのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。
【0109】
次いで、図1に示す内部電極層12を形成するための内部電極層用ペーストを準備する。内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属または合金からなる導電材と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。導電材の代わりに、酸化物または有機金属化合物等も用いることができる。上記した酸化物および有機金属化合物は、焼成後に上記した導電材となる。なお、内部電極層用ペーストには、必要に応じて、共材としてセラミック粉末(たとえばチタン酸バリウム粉末やジルコン酸カルシウムストロンチウム)が含まれていても良い。共材は、焼成過程において導電性粉末の焼結を抑制する作用を奏する。
【0110】
上記にて調整した誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを使用して、図1に示すように、焼成後に誘電体層10となるグリーンシートと、焼成後に内部電極層12となる内部電極パターン層と、を交互に積層し、焼成後に素子本体4となるグリーン積層体を製造する。
【0111】
具体的には、まず、ドクターブレード法などにより、支持体としてのキャリアシート(たとえばPETフィルム)上に、グリーンシートを形成する。グリーンシートは、キャリアシート上に形成された後に乾燥される。
【0112】
次いで、上記にて形成したグリーンシートの表面に、内部電極層用ペーストを用いて、内部電極パターン層を形成し、内部電極パターン層を有するグリーンシートを得る。そして、得られた内部電極パターン層を有するグリーンシートを交互に積層し、グリーン積層体を得る。
【0113】
なお、内部電極パターン層の形成方法としては、特に限定されないが、印刷法、転写法などが例示される。なお、接着層を介して内部電極パターン層を有するグリーンシートを積層してもよい。
【0114】
得られたグリーン積層体は、所定の寸法に切断され、グリーンチップとする。グリーンチップは、固化乾燥により可塑剤が除去され固化されてもよい。固化乾燥後のグリーンチップは、メディアおよび研磨液とともに、バレル容器内に投入され、水平遠心バレル機などにより、バレル研磨されてもよい。バレル研磨後のグリーンチップは、水で洗浄され、乾燥される。固化乾燥とバレル研磨は必ずしも行わなくてもよい。
【0115】
乾燥後のグリーンチップに対して、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を行うことにより、図1に示す素子本体4が得られる。
【0116】
脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5~300℃/時間、保持温度を好ましくは180~400℃、温度保持時間を好ましくは0.5~24時間とする。また、脱バインダ雰囲気は、空気または還元性雰囲気とする。
【0117】
焼成時の保持温度は、好ましくは1200~1350℃、より好ましくは1220~1300℃であり、その保持時間は、好ましくは0.5~8時間、より好ましくは1~3時間である。
【0118】
焼成雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0119】
また、焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10-14~10-10MPaとすることが好ましい。
【0120】
還元性雰囲気中で焼成した後、素子本体4にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層10を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命(高温負荷寿命)を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0121】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10-9~10-5MPaとすることが好ましい。酸素分圧を10-9MPa以上とすることで、誘電体層10の再酸化を効率的に行い易くなる。
【0122】
アニールの際の保持温度は、950~1150℃とすることが好ましい。保持温度を950℃以上とすることで誘電体層10を十分に酸化させ易くなり、IR(絶縁抵抗)およびIR寿命を向上させ易くなる。
【0123】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0~20時間、降温速度を好ましくは50~500℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0124】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5~75℃程度が好ましい。
【0125】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0126】
次に、小酸化物粒子を含む幅狭部用ペーストおよび、大酸化物粒子を含む幅広部用ペーストを用いて、素子本体4のX軸方向の両端面に、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストを塗布し、乾燥し、焼き付けることにより、接合境界46の外部電極6側にくびれ部16cを有する界面突起部16を形成する。
【0127】
幅狭部用ペーストは、少なくとも導体61を構成する金属粉末および上記の小酸化物粒子を含むこと以外は、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調整すればよい。幅広部用ペーストは、少なくとも導体61を構成する金属粉末および上記の大酸化物粒子を含むこと以外は、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調整すればよい。
【0128】
なお、幅狭部用ペースト中の小酸化物粒子の含有量は、幅広部用ペースト中の大酸化物粒子の含有量より質量比で少ないことが好ましい。これにより、くびれ部16cを有する界面突起部16が形成され易くなる。具体的には、幅広部用ペースト中の大酸化物粒子の含有量に対する幅狭部用ペースト中の小酸化物粒子の含有量は、質量比で0.5以下であることが好ましく、0.25~0.4であることがより好ましい。
【0129】
小酸化物粒子の組成および大酸化物粒子の組成は、所望の界面突起部16の組成と同じ組成とすることが好ましい。
【0130】
小酸化物粒子の平均粒径Dnは幅狭部16aの幅Tnと同程度であることが好ましく、大酸化物粒子の平均粒径Dwは幅広部16bの幅Twと同程度であることが好ましい。すなわち、Dw/Dnは所望のTw/Tnと同程度であることが好ましい。
【0131】
素子本体4への幅狭部用ペーストの塗布方法は特に限定されず、たとえば、ディップ、印刷、塗布等の方法が挙げられる。幅広部用ペーストは塗布された後、乾燥される。
【0132】
続いて、幅狭部用ペーストの上に、幅狭部用ペーストと同様にして、幅広部用ペーストを塗布し、乾燥する。
【0133】
次に、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストを焼き付ける。幅狭用ペーストおよび幅広部用ペーストの焼き付け条件は特に限定されず、たとえば、加湿Nまたは乾燥Nの雰囲気において、700℃~1000℃、0.1時間~3時間保持し、焼き付けられる。
【0134】
なお、この場合でも導体61と内部電極層12とは導通をとることができる。なぜならば、内部電極層12は金属で構成されており、誘電体層10は、酸化物であるから、酸化物である小酸化物粒子は、内部電極層12に対して濡れにくく、誘電体層10に対して濡れ易い。このため、小酸化物粒子は誘電体層10に多く集まる。したがって、小酸化物粒子が導体61と内部電極層12との導通を阻害する可能性が低い。
【0135】
また、大酸化物粒子は、導体61に対して濡れにくく、小酸化物粒子に対して濡れ易い。このため、大酸化物粒子は小酸化物粒子の付近に存在し易くなり、その結果、大酸化物粒子と小酸化物粒子とによりくびれ部16cを有する界面突起部16が形成され易くなる。
【0136】
上記の幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストの焼き付け工程により、幅狭部用ペーストに含まれる小酸化物粒子が幅狭部16aを構成し、幅広部用ペーストに含まれる大酸化物粒子が幅広部16bを構成することにより、くびれ部16cを有する界面突起部16が得られる。
【0137】
なお、上記では、幅狭部用ペーストと、幅広部用ペーストとを同時に焼き付けたが、幅狭部用ペーストを焼き付けた後、幅広部用ペーストを焼き付けてもよい。
【0138】
次に、幅広部用ペーストが焼き付けられた部分の外側に、必要に応じて外側外部電極用ペーストを塗布し、乾燥し、焼き付ける。外側外部電極用ペーストは、少なくとも導体61を構成する金属粉末を含むこと以外は、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調整すればよい。外側外部電極用ペーストは上記の金属粉末の他、ガラスフリットなどの非金属成分62を含んでいてもよい。
【0139】
本実施形態では、外側外部電極用ペーストを塗布しても、塗布しなくてもよいが、外側外部電極用ペーストを塗布することにより、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストの塗布厚みを薄くすることができ、より確実に素子本体4と外部電極6との接合境界46にくびれ部16cを有する界面突起部16を具備させることができる。
【0140】
さらに、必要に応じ、幅広部用ペーストが焼き付けられた部分の外側に、メッキ等により被覆層を形成する。すなわち、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストの焼き付けと、外側外部電極用ペーストの焼き付けと、メッキ等による被覆層により外部電極6が形成される。
【0141】
このようにして製造された積層セラミックコンデンサ2は、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0142】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2によれば、素子本体4と外部電極6との接合信頼性を高くできる。その理由は下記の通りであると考えられる。本実施形態では、外部電極6と、誘電体層10との接合境界46の少なくとも一部は、外部電極6側に界面突起部16を有し、界面突起部16は酸化物により構成されている。このため、外部電極6に含まれる界面突起部16が、酸化物である誘電体層10を含む素子本体4と接合され易くなり、その結果、素子本体4と外部電極6とが強固に接合できる。
【0143】
また、本実施形態によれば、外部電極6の導体61がCuなどの酸化しにくい元素を含んでいたとしても、アンカー効果を有する界面突起部16により素子本体4と外部電極6とを強固に接合させることができる。
【0144】
さらに、くびれ部16cを有する界面突起部16は、くびれ部16cによるアンカー効果を示すことから、素子本体4と外部電極6とをより強固に接合させることができる。
【0145】
さらに、界面突起部16を構成する酸化物の少なくとも一部はガラスであることにより、界面突起部16の流動性が高まる。このため、界面突起部16が外部電極6の導体61および素子本体4の外部電極6側の面を濡らし易くできる。また、界面突起部16に含まれるガラスは、酸化物であることから、酸化物である誘電体層10を含む素子本体4と接合し易い。したがって、素子本体4と外部電極6とをより強固に接合させることができる。
【0146】
さらに、誘電体層10の線膨張係数をαとし、外部電極6の線膨張係数をβとし、界面突起部16の線膨張係数をδとしたとき、α、βおよびδの大小関係は、β>α>δとなることが好ましい。
【0147】
このように、本実施形態に係る界面突起部16は線膨張係数が低いことが好ましい。このような界面突起部16が外部電極6の誘電体層10側の面に備えられていることにより、焼き付け時の冷却時に外部電極6を構成する成分が界面突起部16を熱応力で締め付ける。これにより、素子本体4と外部電極6とをより強固に接合することができる
【0148】
第2実施形態
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサは、以下に示す以外は、第1実施形態の積層セラミックコンデンサと同様である。
【0149】
図8図1のII部と同じ部分の拡大図である。図8に示すように、本実施形態に係る素子本体4は、誘電体層10のX軸方向の端部に境界層14を有していてもよい。また、境界層14は内部電極層12と接するように備えられていてもよい。
【0150】
すなわち、本実施形態では、外部電極6と、境界層14との接合境界46の少なくとも一部は、外部電極6側に界面突起部16を有していてもよい。
【0151】
境界層14は、外部電極6と内部電極層12との接続が確保されるように素子本体4のX軸方向の端面を断続的に覆っている。すなわち、境界層14は、内部電極層12のX軸方向の端部が外部電極6と接続する部分では、部分的に途切れている。
【0152】
X-Z断面を観察した場合、素子本体4のX軸方向の端面付近では、境界層14が一部の内部電極層12のX軸方向の端部を覆っている箇所が存在していてもよい。各内部電極層12は、X軸方向だけでなくY軸方向に沿っても存在しており、各内部電極層12の端部がY軸方向において一部でも境界層14を貫通して外部電極6と電気的に接続していれば、内部電極層12の端部が部分的に境界層14に覆われていたとしても、各内部電極層12と外部電極6との電気的接続は確保できる。
【0153】
本実施形態に係る境界層14にはAサイトの元素およびBサイトの元素が主成分として含まれる。
【0154】
「境界層14にはAサイトの元素およびBサイトの元素が主成分として含まれる」とは、境界層14において、酸素以外の元素の合計を100モル部としたとき90モル部以上をAサイトの元素およびBサイトの元素の合計が占めるという趣旨である。
【0155】
境界層14に含まれるAサイトの元素としては特に限定されないが、Baであってもよい。また、境界層14に含まれるBサイトの元素としては特に限定されないが、Tiであってもよい。
【0156】
本実施形態では、境界層14に含まれるBaおよびTiの合計を1モル部としたとき、境界層14にはBaが0.27~0.40モル部含まれることが好ましい。この場合に、境界層14の線膨張係数γは13.0ppm/℃~14.5ppm/℃の範囲に含まれる傾向となる。本実施形態では、境界層14がBaTiであることがさらに好ましい。
【0157】
誘電体層10の線膨張係数をαとし、外部電極6の線膨張係数をβとしたとき、α、βおよびγの大小関係は、β>γ>αとなることが好ましい。
【0158】
たとえば、境界層14を構成するBaTiの線膨張係数γは13.3ppm/℃である。
【0159】
また、内部電極層12の線膨張係数をσとしたとき、α、β、γおよびσの大小関係は、β>γ>σ>αとなることが好ましい。
【0160】
境界層14の構造は、SEMまたはSTEMなどによる断面観察で解析できる。また、境界層14の組成は、断面観察の際に、EPMAによる成分分析を行うことで測定できる。成分分析は少なくとも3箇所以上で実施し、測定結果の平均値により境界層14の組成を算出することが好ましい。
【0161】
また、境界層14は、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストを高温焼付処理するか、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストに、BaTiやTiOなどのTiリッチ化合物を添加して焼き付け処理するか、または、境界層用ペーストを使用して形成することができ、境界層用ペーストを使用する方法を採用することが好ましい。なお、境界層14は、ペーストを用いずに、各種蒸着法によるセラミックコーティングにより形成してもよい。
【0162】
高温焼付処理を採用する場合は、保持温度を800℃~1000℃とすることが好ましく、保持時間を0.1時間~3時間とすることが好ましい。通常の焼付処理よりも、より高い温度で幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストを焼き付けるか、もしくは、長時間かけて幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストを焼き付けることにより、境界層14が形成される。
【0163】
境界層用ペーストを使用する場合は、焼成前のグリーンチップのX軸方向の端面、もしくは、焼成後の素子本体4のX軸方向の端面に、境界層用ペーストを塗布して焼き付けることで、境界層14を形成することができる。
【0164】
この場合、境界層用ペーストには、境界層用粉末と、バインダ、溶剤が含まれ、その他必要に応じて、分散剤、可塑剤などを添加してもよい。境界層用粉末は、BaO粉末と、TiO粉末などの出発原料を所定の比率で混合した後、仮焼きし粉砕することで得られる。
【0165】
グリーンチップまたは素子本体4への境界層用ペーストの塗布方法としては、ディップ法、スクリーン印刷などの各種印刷法、ディスペンサーなどを用いた塗布法、スプレーを用いた噴霧法などを適用することができる。また、境界層用ペーストは、少なくともX軸方向の端面に塗布し、その他、Z軸方向の端面の一部に塗布してもよい。この際、境界層用ペーストの塗布量を制御することで、境界層14の平均長さLr(平均厚み)を調整することができる。
【0166】
素子本体4に境界層用ペーストを塗布した場合は、塗布後に境界層用ペーストを乾燥させ、700℃~1000℃の温度で、0.1時間~3時間、焼き付け処理し、境界層14を形成する。この場合、境界層用ペーストの焼き付けは、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストの焼き付けと同時に実施してもよい。境界層14の平均長さLrは、焼き付け処理の条件にも影響される。焼き付け処理時の温度を低く設定したり、保持時間を短くしたりすると、平均長さLrが小さくなる(平均厚みが薄くなる)傾向となる。平均長さLrは、上記の他に、境界層用ペーストの塗布厚みなどにも影響され得る。なお、グリーンチップに対して境界層用ペーストを塗布した場合は、グリーンチップの焼成時に、境界層用ペーストが焼き付けられる。
【0167】
なお、ペーストを使用して境界層14を形成する場合、ペーストの塗布前、および/または、ペーストの焼き付け後に、素子本体4に対して湿式バレル研磨を施すことが好ましい。湿式バレル研磨では、内部電極層12の端部よりもセラミック成分(誘電体層10または境界層14)が選択的に研磨され、端面4aの最表面に内部電極層12の端部が露出しやすくなる。つまり、湿式バレル研磨により、外部電極6に対する内部電極層12の電気的接合が良好となる。
【0168】
本実施形態では、たとえば、焼成された素子本体4に、境界層用ペーストを塗布し、その上に幅狭部用ペーストを塗布し、その上に幅広部用ペーストを塗布し、その上に外側外部電極用ペーストを塗布し、境界層用ペースト、幅狭部用ペースト、幅広部用ペーストおよび外側外部電極用ペーストを同時焼き付けする。焼き付け温度は特に限定されないが、800~1000℃である。
【0169】
なお、この場合でも外部電極6と内部電極層12とは導通をとることができる。なぜならば、内部電極層12の導電材と外部電極6の導体とが反応した後に、界面突起部16を構成するガラス成分などと、境界層14を構成するBaTiなどと、誘電体層10を構成するABOとが反応するため、内部電極層12のX軸方向の端部に境界層用ペーストによる酸化物が形成されにくいからである。
【0170】
本実施形態では、境界層14を有することにより、焼き付け時の冷却時や、製造時または使用時の熱衝撃などで、外部電極6と誘電体層10との界面に熱応力が生じることを有効に防止することができる。その理由は下記の通りであると考えられる。
【0171】
本実施形態では、誘電体層10にはABOで表されるペロブスカイト型化合物が主成分として含まれ、素子本体4が誘電体層10の端部にAサイトの元素およびBサイトの元素を所定のモル比で含む境界層14を有することとしている。このため、誘電体層10および境界層14は、相互拡散し易く、誘電体層10と境界層14とが強固に接合されると考えられる。
【0172】
さらに、境界層14のBサイトの元素の含有量がAサイトの元素の含有量より多いため外部電極6と境界層14とが強固に接合されると考えられる。
【0173】
本実施形態では、このように誘電体層10および境界層14が強固に接合されると共に、外部電極6および境界層14も強固に接合されることから、素子本体4と外部電極6とが強固に接合されている。なお、接合強度が高いことは、たとえば引張強度試験などで確認することができる。
【0174】
さらに、外部電極6の焼付電極層6aの導体61にはCu、Cu合金、AgおよびAg合金からなる群から選ばれる少なくとも1種が主成分として含まれることにより、境界層14の線膨張係数γが外部電極6の線膨張係数βより小さく、誘電体層10の線膨張係数αより大きくなる。本実施形態では、このような境界層14が備えられていることにより外部電極6と誘電体層10との界面に生じる熱応力を緩和することができ誘電体層10と外部電極6との接合強度をより高めることができると考えられる。
【0175】
さらに、内部電極層12がNiまたはNi合金を主成分として含む場合には、誘電体層10の線膨張係数α、境界層14の線膨張係数γおよび内部電極層12の線膨張係数σの大小関係がγ>σ>αとなっている。また、本実施形態では、内部電極層12と接するように境界層14が備えられている。このため、内部電極層12に線膨張係数の近い境界層14が接することになり、素子本体4の表面付近の誘電体層10と内部電極層12の剥がれを抑制できる効果が高められる。
【0176】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0177】
たとえば、本発明のセラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサに限らず、その他のセラミック電子部品に適用することが可能である。その他のセラミック電子部品としては、セラミック層と外部電極とを有する全ての電子部品であり、たとえば円板形コンデンサ、バンドパスフィルタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタなどが例示される。
【0178】
たとえば、上記では幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストによりくびれ部を有する界面突起部16を形成したが、所望の形状の界面突起部用粒子を含む界面突起部用ペーストを用いて界面突起部16を形成してもよい。
【0179】
具体的には、素子本体4のX軸方向の両端面に、幅狭部用ペーストおよび幅狭部用ペーストに変えて、界面突起部用粒子を含む界面突起部用ペーストを塗布し、焼き付けることにより、界面突起部16を形成する。この界面突起部用ペーストは、少なくとも導体61を構成する金属粉末および界面突起部用粒子を含むこと以外は、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調整すればよい。
【0180】
なお、「界面突起部用粒子」とは、焼き付け後に界面突起部16となる粒子であり、所望の角度θおよびTw/Tnを満たすことが好ましい。
【0181】
製造方法としては、素子本体4のX軸方向の端面に、界面突起部用ペーストを塗布し、乾燥した後、焼き付ける。
【0182】
これにより、界面突起部用ペーストに含まれる界面突起部用粒子が界面突起部16となる。
【0183】
また、本実施形態では、誘電体層10と内部電極層12とをZ軸方向に積層したが、積層方向は、X軸方向またはY軸方向であってもよい。その場合、内部電極層12の露出面に合わせて外部電極6を形成すればよい。さらに、素子本体4は積層体でなくてもよく、単層であってもよい。さらに、内部電極層12は、スルーホール電極を介して、素子本体4の外面に引き出されていてもよく、この場合、スルーホール電極と外部電極6とが電気的に接続する。
【実施例0184】
以下、本発明の実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0185】
実験1
試料番号1
誘電体粉末の主原料としてBaTiO粉末を準備した。次に主原料100モル部に対して、副成分としてのMgCO粉末を1.6モル部秤量し、Dy粉末を1.0モル部秤量し、MnCO粉末を0.4モル部秤量し、V粉末を0.06モル部秤量し、SiO粉末を2.0モル部秤量した。これら副成分の各粉末をボールミルで湿式混合、乾燥、仮焼きして、副成分仮焼き粉末を得た。
【0186】
次いで、誘電体粉末の主原料:100質量部と、上記にて得られた副成分仮焼き粉末と、アクリル樹脂:7質量部と、可塑剤としてのフタル酸ブチルベンジル(BBP):4質量部と、溶媒としてのメチルエチルケトン:80質量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0187】
また、上記とは別に、Ni粒子:56質量部と、ターピネオール:40質量部と、エチルセルロース(分子量14万):4質量部と、ベンゾトリアゾール:1質量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0188】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。内部電極層用ペーストをスクリーン印刷し、グリーンシートを形成した。
【0189】
グリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0190】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、焼結体(素子本体4)を得た。
【0191】
脱バインダ処理条件は、保持温度:260℃、雰囲気:空気中とした。
【0192】
焼成条件は、保持温度:1250℃とした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN+H混合ガスとし、酸素分圧が10-9MPa以下となるようにした。
【0193】
アニール条件は、保持温度:1050℃、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:10-8MPa以下)とした。
【0194】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを使用した。
【0195】
次に、B-SiO-ZnOにより構成されている小酸化物粒子および大酸化物粒子を準備した。小酸化物粒子の平均粒径(Dn)に対する大酸化物粒子の平均粒径(Dw)の比(Dw/Dn)は2.8とした。そして、金属粉末としてCuを含み、上記の小酸化物粒子を含む幅狭部用ペーストを準備した。また、金属粉末としてCuを含み、上記の大酸化物粒子を含む幅広部用ペーストを準備した。
【0196】
幅広部用ペースト中の大酸化物粒子の含有量に対する幅狭部用ペースト中の小酸化物粒子の含有量は、質量比で0.44とした。
【0197】
素子本体4のX軸方向の両端面に幅狭部用ペーストをディップ法で塗布し、乾燥し、その上に、幅広部用ペーストをディップ法で塗布し、乾燥し、800℃で焼き付けた。
【0198】
このようにして、外部電極6が形成されたコンデンサ試料2(積層セラミックコンデンサ2)を得た。
【0199】
得られたコンデンサ試料2の素子本体4のサイズは、L0×W0×T0=2.0mm×1.25mm×1.25mmであった。また、内部電極層12に挟まれた誘電体層10の数は80であった。
【0200】
得られたコンデンサ試料をX-Z面に平行に切断して、得られた断面を鏡面研磨した後にSEMにより撮影した。また、得られた積層セラミックコンデンサの断面の界面突起部16の部分についてEPMAにより元素分析を行ったところ、小酸化物粒子および大酸化物粒子の元素組成と界面突起部16の元素組成は概ね一致していることが確認できた。
【0201】
素子本体4と外部電極6の界面付近を含む断面(X-Z断面)において、所定長さLz(100μm)を含むように10か所撮影し、各写真における接合境界46の所定長さLzあたりの「界面突起部16」および「くびれ部16cを有する界面突起部16」の個数を数えて、有無を判断し、個数の平均値を求めた。その結果、試料番号1では「くびれ部16cを有する界面突起部16」が具備されていることが確認でき、「くびれ部16cを有する界面突起部16」が所定長さLz(100μm)あたりに平均で2.8個形成されていることが確認できた。
【0202】
また、内部電極層12に挟まれた誘電体層10の平均厚みTd、内部電極層12の平均厚みTe、境界層14の平均長さLr、外部電極6の平均厚みLeを測定した。それぞれ10か所測定して平均値を求めた。結果は下記の通りであった。
【0203】
内部電極層12に挟まれた誘電体層10の平均厚みTd:10μm
内部電極層12の平均厚みTe:1.5μm
境界層14の平均長さLr:8.2μm
外部電極6の平均厚みLe:89μm
【0204】
得られたコンデンサ試料2の誘電体層10の線膨張係数α、外部電極6の線膨張係数β、界面突起部16の線膨張係数δ、引張強度試験および85℃熱衝撃引張強度試験を下記の方法により行った。
【0205】
線膨張係数
α、βおよびδの線膨張係数は、組成に合わせて焼結体及びガラスを作製し、熱機械分析により空気中で20~400℃の範囲の値から測定した。試料番号1の大小関係はβ>α>δとなった。
【0206】
気槽式熱衝撃試験
気槽式熱衝撃試験では、1サイクルあたり、試験サンプル(コンデンサ試料)を、-55℃の気槽で30分保持した後、150℃の気槽で30分保持することとし、これを1000サイクル繰り返した。当該試験では、静電容量の変化率に基づいて合否を判定することとし、試験前の静電容量Cαに対する試験後の静電容量Cβの変化率(Cβ/Cα)が、0.9(90%)以上であるサンプルを合格、0.9未満であるサンプルを不合格とした。試料番号1では、80個のサンプルに対して上記の試験を行い、不合格となったサンプルの比率(NG比率)を算出した。結果を表1に示す。
【0207】
試料番号2
試料番号2では、「幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペースト」に変えて、金属粉末としてCuを含み、酸化物を実質的に含まない外部電極用ペーストを用いた以外は、試料番号1と同様にして、コンデンサ試料を得て、外部電極6中の「界面突起部16」および「くびれ部16cを有する界面突起部16」の有無を判断し、気槽式熱衝撃試験を行った。結果を表1に示す。
【0208】
試料番号3
試料番号3では、「幅広部用ペースト」に変えて、金属粉末としてCuを含み、酸化物を実質的に含まない外部電極用ペーストを用いた以外は、試料番号1と同様にして、コンデンサ試料を得て、外部電極6中の「界面突起部16」および「くびれ部16cを有する界面突起部16」の有無を判断し、気槽式熱衝撃試験を行った。結果を表1に示す。
【0209】
【表1】
【0210】
表1より、界面突起部16を有している場合(試料番号1および3)は界面突起部16を有していない場合(試料番号2)に比べて、気槽式熱衝撃試験の結果が良好であることが確認できた。したがって、界面突起部16を有している場合(試料番号1および3)は、界面突起部16を有していない場合(試料番号2)に比べて、接合信頼性が高いと考えられる。
【0211】
また、表1より、界面突起部16にくびれ部16cを有している場合(試料番号1)は界面突起部16にくびれ部16cを有していない場合(試料番号3)に比べて、気槽式熱衝撃試験の結果が良好であることが確認できた。したがって、界面突起部16にくびれ部16cを有している場合(試料番号1)は、界面突起部16にくびれ部16cを有していない場合(試料番号3)に比べて、接合信頼性が高いと考えられる。
【0212】
実験2
試料番号1
上記の試料番号1について、下記の方法により、液槽式熱衝撃試験を行った。
【0213】
液槽式熱衝撃試験
液槽式熱衝撃試験では、冷熱サイクルを気槽ではなく液槽で行う。液槽を使用する場合、気槽を使用する場合に比べて、試験サンプルに対して急峻な温度変化が加わるため、気槽式試験よりもより過酷な条件で試験サンプルの接合信頼性を評価できる。具体的には、試料番号1では、1サイクルあたり、試験サンプルを‐55℃の液槽で30分保持した後、150℃の液槽で30分保持することとし、これを1000サイクル繰り返した。なお、液槽式熱衝撃試験の合否は、気槽式熱衝撃試験と同様に、静電容量の変化率に基づいて判断した。試料番号1では、80個のサンプルに対して上記の試験を行い、不合格となったサンプルの比率(NG率)を算出した。結果を表2に示す。
【0214】
試料番号11
試料番号11では、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストに変えて、界面突起部用粒子を含む界面突起部用ペーストを用いた以外は試料番号1と同様にしてコンデンサ試料を得て、液槽式熱衝撃試験を行った。結果を表2に示す。なお、試料番号1における小酸化物粒子および大酸化物粒子の合計質量と試料番号11における界面突起部用粒子の質量は等しかった。
【0215】
試料番号11については、SEM観察およびEPMAによる元素分析により、外部電極6の誘電体層10側の面にくびれ部16cを有する界面突起部16が具備されていることが確認できた。
【0216】
試料番号12
試料番号12では、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストに変えて、試料番号11で用いた界面突起部用ペーストを塗布し、乾燥した後、外側外部電極用ペーストを塗布し、乾燥し、焼き付けた以外は、試料番号1と同様にしてコンデンサ試料を得て、液槽式熱衝撃試験を行った。結果を表2に示す。なお、外側外部電極用ペーストには、金属粉末としてCuが含まれており、さらにガラスフリットが含まれていた。
【0217】
試料番号12については、SEM観察およびEPMAによる元素分析により、外部電極6の誘電体層10側の面にくびれ部16cを有する界面突起部16が具備されていることが確認できた。
【0218】
【表2】
【0219】
表2より、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストを用いた場合(試料番号1)は、界面突起部用ペーストを用いた場合(試料番号11および12)に比べて、液槽式熱衝撃試験が良好であることが確認できた。したがって、幅狭部用ペーストおよび幅広部用ペーストを用いた場合(試料番号1)は、界面突起部用ペーストを用いた場合(試料番号11および12)に比べて、接合信頼性がより高いと考えられる。
【0220】
実験3
試料番号21および22では、幅広部用ペーストに含まれる大酸化物粒子に対する幅狭部用ペーストに含まれる小酸化物粒子の質量比を表3に記載の通り変化させた以外は試料番号1と同様にしてコンデンサ試料を得て、気槽式熱衝撃試験および液槽式熱衝撃試験を行った。結果を表3に示す。
【0221】
【表3】
【0222】
表3より、接合境界46のZ軸方向の100μm長さあたりのくびれ部16cを有する界面突起部16の平均個数が2.8個以上である場合(試料番号1および22)は、0.6個の場合(試料番号1)に比べて、液槽式熱衝撃試験の結果が良好であることが確認できた。したがって、接合境界46のZ軸方向の100μm長さあたりのくびれ部16cを有する界面突起部16の平均個数が2.8個以上である場合(試料番号1および22)は、0.6個の場合(試料番号1)に比べて、接合信頼性が高いと考えられる。
【0223】
実験4
<試料番号1>
上記の試料番号1について素子本体4と外部電極6の界面付近を含む断面(X-Z断面)において、所定長さLz(100μm)を含むように10か所撮影し、各写真における接合境界46の所定長さLzあたりのTwが最も大きいくびれ部16cを有する界面突起部16のTw/Tnを求めて、平均値を算出した。結果を表4に示す。
【0224】
上記の試料番号1について素子本体4と外部電極6の界面付近を含む断面(X-Z断面)において、所定長さLz(100μm)を含むように10か所撮影し、各写真における接合境界46の所定長さLzあたりの角度θが最も小さいくびれ部16cを有する界面突起部16の角度θを測定し、平均値を算出した。結果を表4に示す。
【0225】
試料番号31および32
試料番号31および32では、小酸化物粒子の平均粒径(Dn)に対する大酸化物粒子の平均粒径(Dw)の比(Dw/Dn)を変化させた以外は試料番号1と同様にしてコンデンサ試料を得て、「接合境界46のZ軸方向の所定長さ(100μm)において、Twが最も大きいくびれ部16cを有する界面突起部16のTw/Tnの平均値の算出」、「接合境界46のZ軸方向の所定長さ(100μm)において、角度θが最も小さいくびれ部16cを有する界面突起部16の角度θの平均値の算出」および液槽式熱衝撃試験を行った。結果を表4に示す。
【0226】
【表4】
【0227】
表4より、所定のTw/Tnが2.66以上である場合(試料番号1および31)は、Tw/Tnが1.95である場合(試料番号32)に比べて液槽式熱衝撃試験の結果が良好であることが確認できた。したがって、所定のTw/Tnが2.66以上である場合(試料番号1および31)は、Tw/Tnが1.95である場合(試料番号32)に比べて接合信頼性がより高いと考えられる。
【0228】
表4より、所定の角度θが108°以下である場合(試料番号1および31)は、角度θが117°である場合(試料番号32)に比べて液槽式熱衝撃試験の結果が良好であることが確認できた。したがって、所定の角度θが108°以下である場合(試料番号1および31)は、角度θが117°である場合(試料番号32)に比べて接合信頼性がより高いと考えられる。
【0229】
実験5
試料番号41では、誘電体層10の主成分の組成を表5の通りとした以外は試料番号1と同様にしてコンデンサ試料を作製して、気槽式熱衝撃試験を行った。結果を表5に示す。
【0230】
試料番号41については、SEM観察およびEPMAによる成分分析により、外部電極6の誘電体層10側の面にくびれ部16cを有する界面突起部16が具備されていることが確認できた。
【0231】
【表5】
【0232】
表5より、誘電体層10の主成分の組成を(Ca0.7Sr0.3)(Ti0.04Zr0.96)Oとした場合(試料番号41)においても、気槽式熱衝撃試験が良好となることが確認できた。したがって、誘電体層10の主成分の組成を(Ca0.7Sr0.3)(Ti0.04Zr0.96)Oとした場合(試料番号41)においても、高い接合信頼性が得られていると考えられる。
【0233】
実験6
試料番号51~53では、大酸化物粒子および小酸化物粒子の組成を表6に記載の通りとした以外は、試料番号1と同様にして、コンデンサ試料を作製して、気槽式熱衝撃試験を行った。結果を表6に示す。
【0234】
なお、試料番号51~53について、得られたコンデンサ試料をX-Z面に平行に切断して、得られた断面を鏡面研磨した後にSEMにより撮影した。また、EPMAにより元素分析を行ったところ、外部電極6の誘電体層10側の面にくびれ部16cを有する界面突起部16が具備されていることが確認できた。さらに、小酸化物粒子および大酸化物粒子の元素組成とくびれ部16cを有する界面突起部16の元素組成は概ね一致していることが確認できた。
【0235】
【表6】
【0236】
表6より、くびれ部16cを有する界面突起部16にB、SiおよびZnから選択される少なくとも2種類が主成分として含まれる場合(試料番号1、51~53)は、気槽式熱衝撃試験の結果が良好であることが確認できた。したがって、くびれ部16cを有する界面突起部16にB、SiおよびZnから選択される少なくとも2種類が主成分として含まれる場合(試料番号1、51~53)は、高い接合信頼性が得られていると考えられる。
【符号の説明】
【0237】
2… 積層セラミックコンデンサ(コンデンサ試料)
4… 素子本体
6… 外部電極
61… 導体
61a… 幅狭部間領域
62… 非金属成分
10… 誘電体層(セラミック層)
12… 内部電極層
14… 境界層
16,160,161,162… 界面突起部
16a,161a,162a… 幅狭部
16aL… 幅狭部の接線
16b,161b,162b… 幅広部
16bL… 幅広部の接線
16c… くびれ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8