IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パイロットコーポレーションの特許一覧

特開2022-13748筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013748
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20220111BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20220111BHJP
   B43K 7/01 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02
B43K7/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099244
(22)【出願日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020112307
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】秋山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 秀憲
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350GA04
4J039AD10
4J039AD22
4J039BE01
4J039BE04
4J039BE05
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE25
4J039EA48
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、従来の剪断減粘性付与剤とは違い、イオン性物質(金属イオンなど)によって、増粘阻害されることなく、安定した増粘作用することが可能となる剪断減粘性付与剤を含んでなることで、増粘作用効果を奏して、インキ漏れを抑制し、書き味を良好とし、筆跡カスレを抑制した、筆記性が優れた筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることである。
【解決手段】着色剤、溶媒、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を含んでなることを特徴とする筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、溶媒、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を含んでなることを特徴とする筆記具用インキ組成物。
【請求項2】
前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項3】
前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体が、一般式(化1)で示されるアクリル酸エステルを構成成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用インキ組成物。
【化1】
【請求項4】
前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体が、一般式(化2)で示されるアクリル酸を構成成分とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
【化2】
【請求項5】
前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体が、架橋剤を構成成分とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項6】
前記筆記具用インキ組成物に、界面活性剤を含んでなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項7】
前記筆記具用インキ組成物に、樹脂粒子を含んでなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具用インキ組成物には水性インキ組成物、油性インキ組成物が用いられてきたが、特にボールペンには、水性インキ組成物を充填した水性ボールペンおよび油性インキ組成物を充填した油性ボールペン組成物があり、その中でもインキ組成物に対し剪断減粘性を付与した、ゲルインキ組成物が知られており、その剪断減粘性付与剤に関して種々の提案がなされている。
【0003】
剪断減粘性付与剤としては、水性インキ組成物では、キサンタンガム、ウェランガム、ダイユータンガムなどの多糖類が提案されており、また、油性インキ組成物では、脂肪酸アミドワックス、水添ヒマシ油などが提案されている。
【0004】
このような筆記具用インキ組成物として、キサンタンガム、ウェランガム、ダイユータンガムを用いた技術としては、特公昭64-8673号公報「筆記具用油性インキ組成物」、特開平4-214782号公報「水性ボールペン用インキ組成物」、特開2005-068363号公報「水性インキ組成物とそれを用いた水性ボールペン」および、脂肪酸アミドワックス、水添ヒマシ油を用いた技術については、特開平7-196972号公報、特開平7-268268号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】「特公昭64-8673号公報」
【特許文献2】「特開平4-214782号公報」
【特許文献3】「特開2005-068363号公報」
【特許文献4】「特開平7-196972号公報」
【特許文献5】「特開平7-268268号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3では、剪断減粘性を付与することができ、ある程度の増粘作用効果を得ることができるが、着色剤の種類や、界面活性剤の種類や、その他のインキ成分、ボールペンチップの金属材によっては、インキ中に存在するイオン性物質(金属イオンなど)によって増粘阻害を起こしやすく、所望の増粘作用効果が得られないこともあった。
また、特許文献4、5では、水添ヒマシ油や脂肪酸アミドワックスでは、ある程度の増粘作用効果が得られることができるが、静止時のインキ粘度が高くなり、書き味への影響や、インキ追従性が劣りやすく、筆跡にカスレが発生することもあり、改善の余地があった。
【0007】
本発明の目的は、従来の剪断減粘性付与剤とは違い、イオン性物質(金属イオンなど)によって、増粘阻害されることなく、安定した増粘作用をすることが可能となる剪断減粘性付与剤を含んでなることで、増粘作用効果を奏して、インキ漏れを抑制し、書き味を良好とし、筆跡カスレを抑制した、筆記性が優れた筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、溶媒、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を含んでなることを特徴とする筆記具用インキ組成物。
2.前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%を含んでなることを特徴とする第1項に記載の筆記具用インキ組成物。
3.前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体が、一般式(化1)で示されるアクリル酸エステルを構成成分とすることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用インキ組成物。
【化1】
4.前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体が、一般式(化2)で示されるアクリル酸を構成成分とすることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
【化2】
5.前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体が、架橋剤を構成成分とすることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
6.前記筆記具用インキ組成物に、界面活性剤を含んでなることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
7.前記筆記具用インキ組成物に、樹脂粒子を含んでなることを特徴とする第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
8.第1項ないし第7項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。」とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、着色剤、溶媒、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を含んでなることで、インキ中にイオン性物質(金属イオンなど)が存在しても、安定したゲル構造を有することで、剪断減粘性を付与し、静止時のインキ粘度を高くすることで、筆記先端部の間隙からのインキ漏れ(ボールペンの場合はボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制し、筆記時にはインキ粘度を低くすることで、書き味を良好とし、筆跡カスレを抑制し、筆記性に優れた筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の特徴は、筆記具用インキ組成物に、着色剤、溶媒、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を含んでなることを特徴とする。
【0011】
筆記具用インキ組成物に、着色剤、溶媒、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を含んでなることで、インキ中において、安定したゲル構造を有することで、剪断減粘性を付与し、筆記先端部の間隙からのインキ漏れを抑制し、書き味を良好とし、筆跡カスレを抑制し、筆記性に優れることが解った。
【0012】
((アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体)
本発明で用いる(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体については、少なくとも、アクリル酸エステルとアクリル酸(メタクリル酸)を構成成分とする、アクリル酸エステル由来の構成単位とアクリル酸(メタクリル酸)由来の構成単位を有する共重合体である。
(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体は、従来の剪断減粘性付与剤とは違い、アクリル酸パーフルオロアルキル(フッ素原子を有するアクリルエステル)を構成成分としているため、インキ中のイオン性物質(金属イオン)によって増粘阻害されることなく、安定したネットワーク構造を形成し、ゲル構造を形成することができ、インキ粘度を増粘させることが可能となるものと推測する。
そのため、安定したネットワーク構造を形成し、ゲル構造を形成することによって、静止時のインキ粘度を高く設定することができ、インキの流動を抑えることで、筆記先端部の間隙から(ボールペンの場合はボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)インキがしみ出ることを抑えることで、筆記先端部の間隙からのインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制する効果が得られる。さらに、微弱なネットワーク構造であるため、筆記時に剪断などの衝撃により、一時的にゲル構造が解けることで、インキ粘度が低くなり、書き味を良好に保つことが可能である。特に、ボールペンに用いた場合は、筆記時にボールの剪断などの衝撃により、書き味を向上させやすい効果が得られるものと推測され、ボールペン用インキ組成物として用いると、効果的であるため、好ましい。
また、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体は、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)クロスポリマーが好ましい。これは、前記クロスポリマーとすることで、三次元網目構造を形成しやすく、より密な立体網目構造とすることで、より安定したゲル構造を形成しやすくするため、効果的であり、好ましく、特に、ボールペン用インキ組成物として用いると、効果的であるため、好ましい。
さらに、着色剤として、顔料を用いた場合は、ゲル構造により、顔料分散性を保ちやすいため、より好適に用いることができ、好ましい。
【0013】
また、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体については、アクリル酸パーフルオロアルキル(フッ素原子を有するアクリルエステル)の構成成分としては、一般式(化1)で示されるアクリルエステルを含んでいることが好ましい。これは、インキ成分中に、着色剤、界面活性剤などのイオン性物質(金属イオンなど)が存在したとしても、従来の剪断減粘性付与剤とは違い、フッ素原子を有するアクリルエステルを構成成分としているため、増粘阻害されることなく、安定したネットワーク構造を形成し、ゲル構造を形成することで、インキ粘度を増粘させることができ、静止時のインキ粘度を高く設定することで、筆記先端部の間隙からのインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制する効果と、微弱なネットワーク構造であるため、筆記時に剪断などの衝撃により、一時的にゲル構造が解けることで、インキ粘度が低くなり、書き味を良好に保つことが可能となるためである。
【化1】
【0014】
また、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体の構成成分である一般式(化1)で示されるアクリルエステルについては、安定したネットワーク構造を形成することで、インキ粘度を安定増粘しやすいことを考慮すれば、Rは、水素原子であることが好ましく、また、mは2~4が好ましく、2~3が好ましく、さらに2が好ましい。
【0015】
このような一般式(化1)で示されるアクリル酸エステルの具体例としては、2-パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3-パーフルオロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、4-パーフルオロヘキシルブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。前記した具体例において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
さらに、一般式(化1)で示されるアクリル酸エステルの中でも、より安定したネットワーク構造を形成することで、筆記先端部の間隙からのインキ漏れ抑制、書き味を良好に保ちやすくなるため、好ましい。2-パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレートが好ましく、より考慮すれば、2-パーフルオロヘキシルエチルアクリレートが好ましい。
【0016】
また、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体については、アクリル酸の構成成分としては、一般式(化2)で示されるアクリル酸を含んでなることが好ましい。これは、より安定したネットワーク構造と微弱なネットワーク構造を形成しやすいため、筆記先端部の間隙からのインキ漏れ抑制、書き味を良好に保ちやすくなるためである。特に、ボールペン用インキ組成物として用いると、効果的であるため、好ましい。さらに、上記のような効果を考慮すれば、一般式(化2)のRは、水素原子または炭素数1~3のアルキルであることが好ましく、さらに考慮すれば、一般式(化2)のRは、水素原子または炭素数1のアルキルであることが好ましく、より安定したネットワーク構造を形成しやすいことを考慮すれば、一般式(化2)のRは、水素原子であることが好ましい。一般式(化2)で示されるアクリルエステルの具体例としてはアクリル酸、メタクリル酸などが挙げられ、上記のような効果を考慮すれば、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より考慮すれば、アクリル酸が好ましい。
【化2】
【0017】
本発明で用いる(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体については、上記した効果が得られやすいため、少なくとも一般式(化1)で示されるアクリル酸エステルと、一般式(化2)で示されるアクリル酸とを構成成分とした共重合体とすることが好ましく、より効果を得られやすくするには、少なくとも一般式(化1)で示されるアクリル酸エステルと、一般式(化2)で示されるアクリル酸とを、構成成分としたクロスポリマーとすることが好ましい。これは、三次元網目構造を形成しやすく、より密な立体網目構造とすることで、より安定したゲル構造を形成しやすくするためであり、特に、ボールペン用インキ組成物として用いると、効果的であるため、好ましい。
また、アクリル酸エステル(化1)とアクリル酸(化2)との割合(重量比)は、インキ増粘性(インキ粘度発現性)やインキ中での安定性を考慮すれば、(化1)/(化2)=0.1~1が好ましく、さらに(化1)/(化2)=0.1~0.5が好ましく、最も好ましくは0.15~0.4である。
【0018】
本発明で用いる(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体の構成成分としては、上記したアクリル酸、アクリル酸パーフルオロアルキルに加えて、架橋剤を構成成分として含んでなることが好ましい。これは、架橋剤を含んでなることで、アクリル酸と、アクリル酸パーフルオロアルキルとを架橋しやすくすることで、インキ増粘(インキ粘度発現)しやすく、さらに安定したネットワーク構造を形成しやすくすることで、本発明の効果が得られやすくなるためである。特に、アクリル酸エステル(化1)、アクリル酸(化2)、架橋剤を構成成分として含んでなる共重合体とすることが好ましく、アクリル酸エステル(化1)、アクリル酸(化2)、架橋剤を構成成分として含んでなるクロスポリマーとすることが好ましく、これは、三次元網目構造を形成しやすく、より密な立体網目構造とすることで、より安定したゲル構造を形成しやすくするためであり、特に、ボールペン用インキ組成物として用いると、効果的であるため、好ましい。
【0019】
前記架橋剤としては、1,10-デカンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、N,N'-メチレンビスアクリルアミドや、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ジブチレングリコールジアリルエーテルなどのジアルキレングリコールジアリルエーテルや、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、ポリプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリブチレングリコールジアリルエーテルなどのポリアルキレングリコールジアリルエーテルなどが挙げられる。
これらの架橋剤の中でも、インキ増粘(インキ粘度発現)しやすく、さらに安定したネットワーク構造を形成しやすくすることで、本発明の効果が得られやすくすることを考慮すれば、1,10-デカンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、N,N'-メチレンビスアクリルアミドが好ましく、より考慮すれば、ジエチレングリコールジアリルエーテルが好ましい。
そのため、本発明では、アクリル酸エステル(化1)、アクリル酸(化2)、ジエチレングリコールジアリルエーテルを構成成分として含んでなるクロスポリマーとすることが好ましく、具体的には、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロヘキシルエチル)クロスポリマーが好ましく、アクリル酸-4,7,10-トリオキサトリデカ-1,12-ジエン-3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル=アクリラート共重合物(商品名:ソルトレラ、富士フイルム和光純薬社製)が、最も好ましい。
【0020】
本発明の共重合体における架橋剤の割合(重量比)は、インキ増粘(インキ粘度発現)、安定したネットワーク構造を形成しやすいことを考慮すれば、アクリル酸エステルおよびアクリル酸の合計100重量部に対して、0.0001~2重量部が好ましく、0.1~1.5重量部が好ましく、より好ましくは0.1~1重量部であり、さらに好ましくは0.15~0.5重量部である。
【0021】
本発明の(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体の構成成分としては、上記したアクリル酸エステル、アクリル酸、架橋剤以外に、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル等などを用いても良い。
【0022】
前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01~10質量%が好ましい。これは、0.01質量%より少ないと、所望のインキ増粘が得られにくく、インキ漏れを抑制しづらく、10質量%を越えると、インキ粘度が高くなることで、書き味やインキ追従性が劣りやすいためで、より考慮すれば、0.01~5質量%が好ましい。
さらに、上記効果を考慮すれば、水性インキ組成物の場合は、0.01~5質量%が好ましく、より考慮すれば、0.1~3質量%が好ましく、最も好ましくは、0.5~2質量%である。油性インキ組成物の場合は、0.5~5質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~4質量%が好ましく、最も好ましくは、0.8~3.5質量%である。
【0023】
(溶媒)
本発明で用いる筆記具用インキ組成物に用いられる溶媒としては、水、有機溶剤、および水と有機溶剤との混合溶媒を用いても良い。溶媒を用いることで、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体は安定したネットワーク構造を形成し、ゲル構造を形成することができるため、インキ粘度を増粘させることが可能となるものと推測する。
【0024】
また、水としては、イオン交換水、蒸留水および水道水などの慣用の水を用いることができる。
また、有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール溶剤、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル等のアルキレングリコールアルキルエーテル溶剤、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソブタノール、t-ブタノールなどの脂肪族アルコール溶剤などの有機溶剤が例示できる。
【0025】
また、溶媒としては、水性インキ組成物の場合は、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体、水との安定性や、安定したネットワーク構造形成を考慮すれば、多価アルコール溶剤が好ましく、より考慮すれば、2価または3価の水酸基を有する多価アルコールが、好ましい。
油性インキ組成物の場合は、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体との安定したネットワーク構造形成を考慮すれば、アルキレングリコールアルキルエーテル溶剤が好ましく、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましい。さらに、アルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキレングリコール部位の炭素数については、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体とのインキ増粘(インキ粘度発現)しやすさを考慮すれば、前記炭素数は2~10が好ましく、より考慮すれば、3~8であり、さらに5~6が好ましい。
また、アルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキルエーテル部位の炭素数については、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体との膨潤分散性、書き味、筆記性(カスレ、泣きボテ抑制)を考慮すれば、アルキルエーテル部位が短い方が好ましい。このため、前記炭素数は1~6が好ましく、より(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体と安定しやすく、効果が得られやすいことを考慮すれば、1~4であり、さらに1~2が好ましい。
さらに、溶解度パラメーター(SP値)が8~13であるアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましい。
【0026】
また、溶媒については、油性インキ組成物の場合、少量の水を含んでなることが好ましい。これは、理由は定かではないが、水は、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体との親和性に優れており、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体とによる膨潤分散に対し、より高い増粘作用と安定した膨潤性を付与でき、さらに筆記先端部(ボール)の滑り性を向上しつつ、インキ吐出性を良好とし、点ムラ、泣きボテ、カスレなどを抑制し筆記性を向上しやすいためである。特に、溶媒として、アルキレングリコールアルキルエーテル溶剤、水を併用すると、より高い増粘作用と安定した膨潤性を付与しやすいため好ましい。
【0027】
水の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、筆記先端部(ボール)の滑り性、インキ吐出性に影響しやすく、20質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、0.1~20質量%が好ましい。さらに、インキ中での溶解性や、筆記性(カスレ、泣きボテ抑制)を考慮すれば1~10質量%が好ましく、より考慮すれば、2~10質量%が好ましい。
【0028】
筆記具用インキ組成物における溶媒の含有量は、インキ組成物全量に対し、20~90質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましい。溶媒の含有量は、上記数値範囲内であれば、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体は安定したネットワーク構造を形成し、ゲル構造を形成することができ、インキ粘度を増粘させることが可能となり、筆記先端部の間隙からのインキ漏れを抑制し、筆記時にはインキ粘度が低くなるため、筆跡カスレを抑制し、筆記性に優れ、書き味を向上しやすい。
【0029】
また、前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体に対する、前記溶媒の配合比(溶媒/アクリル酸パーフルオロアルキル)については、質量基準で10~1000倍であることが好ましく、20倍~200倍であることが好ましく、30倍~100倍であることが好ましい。これは、上記範囲であると、安定したネットワーク構造を形成し、ゲル構造を形成しやすくなるため、インキ漏れ抑制、筆記性に優れ、書き味を向上する効果が得られやすいためである。
【0030】
(着色剤)
本発明に用いる水性インキ組成物、油性インキ組成物に用いられる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。染料、顔料を併用しても良い。
【0031】
水性インキ組成物に用いる染料としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。
(a)直接染料としては、ダイレクトイエロー4、同26、同44、同50、同85、ダイレクトレッド1、同2、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同80、同81、同83、同225、同226、同227、ダイレクトブルー1、同3、同15、同41、同71、同86、同106、同119、ダイレクトオレンジ6等、(b)酸性染料としては、アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同52、同107、アシッドオレンジ56、アシッドイエロー3、同7、同17、同19、同23、同42、同49、同61、同92、アシッドレッド8、同9、同14、同18、同51、同52、同73、同87、同92、同94、アシッドブルー1、同7、同9、同22、同62、同90、同103、アシッドグリーン3、同9、同16、同25、同27、アシッドバイオレット15、同17等、(c)塩基性染料としては、C.I.ベーシックイエロ-1、同2、同21、同7、同40、C.I.ベーシックオレンジ2、同14、同32、C.I.ベーシックレッド1、同1:1、同2、同9、同14、C.I.ベーシックバイオレット1、同3、同7、同10、同11:1、C.I.ベーシックブル-3、同7、同26、ベーシックグリ-ン4、C.I.ベーシックブラウン12、C.I.ベーシックブラック2、メチルバイオレット、ビクトリアブルーFB、マラカイトグリーン、ローダミンのシリーズ等、(d)その他の染料としては、ディスパーズイエロー82、同121、ディスパーズブルー7などの分散染料などが挙げられる。
【0032】
油性インキ組成物に用いる染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、有機酸と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。本発明で用いる(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体のネットワーク構造を阻害せず、インキ粘度を安定増粘させることを考慮すれば、造塩染料を用いることが好ましい。
染料としては、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(以上、オリヱント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C-RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.イエロー510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
顔料としては、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
これらの染料や顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0033】
着色剤としては、顔料を用いることが好ましい、これは、顔料粒子によって、ボールペンの場合はボールとチップ先端の内壁との間の隙間に物理的な障害を起こして、インキ漏れを抑制しやすいためである。また、顔料は、筆跡の堅牢性に優れ、特に耐光性に優れるため、好ましい。
さらに、顔料を用いることで、ボールペンの場合は、ボールとチップ本体の隙間に顔料粒子が入り込むことで、ベアリングのような作用が働きやすく、金属接触を抑制することで、潤滑性を向上し、書き味を向上し、ボール座の摩耗を抑制する効果が得られやすいため、顔料を用いることが好ましい。本発明のように、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を用いることで、インキをゲル構造とし、筆記時のインキ粘度が低粘度化するため、ボールとチップ本体の金属接触が起こりやすくなるため、潤滑性を向上し、ボール座の摩耗が抑制できるため、顔料を用いることは好ましい。さらに、後述する界面活性剤による潤滑層と、顔料粒子とベアリング作用による相乗効果によって、潤滑性を保ちやすく、書き味を向上しやすいため、好ましい。
【0034】
着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、1~30質量%が好ましい。これは1質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30質量%を越えると、インキ中での溶解性や分散性に影響しやすいためで、より考慮すれば、3~25質量%が好ましく、さらに考慮すれば、5~25質量%である。
【0035】
(安定剤)
本発明では、インキ中で(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を、安定して膨潤分散させて、安定した増粘作用を得られやすくするために、安定剤を用いることが好ましい。さらに、リン酸エステル系界面活性剤などの界面活性剤を用いる場合でも、中和することで、インキ中で溶解安定させ、書き味や書き出し性能を向上する効果が得られやすいため、好ましい。安定剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどのエチレンオキシドを有するアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミン、酢酸ナトリウムなどの塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。
その中でも、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体との安定性を考慮すれば、塩基性無機化合物が好ましく、より考慮すれば、アルカノールアミンが好ましい。特に、水性インキ組成物の場合は、アルカノールアミンが好ましく、弱塩基性であるトリエタノールアミンを用いることが好ましい。油性インキ組成物の場合は、エチレンオキシドを有するアミンが好ましい。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0036】
エチレンオキシドを有するアミンの平均エチレンオキシド付加モル数(アミン1分子当たり)(EO数)は、1~30が好ましく、より考慮すれば4~20が好ましい。EO数を上記範囲とすることで、溶媒との溶解安定により、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を中和安定させ、安定した増粘作用が得られやすくなる。
【0037】
さらに、前記有機アミンの全アミン価は、溶媒、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体、着色剤やその他の成分との安定性を考慮すれば、300(mgKOH/g)以下とすることが好ましい。これは、300(mgKOH/g)を超えると、反応性が強いため、上記成分と反応し易いため、インキ経時安定性が劣りやすい。さらに、溶媒、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体との安定性を考慮すれば、全アミン価は、200(mgKOH/g)以下が好ましく、より考慮すれば、150(mgKOH/g)以下が好ましい。一方、上記効果を考慮して、全アミン価の下限値は、30(mgKOH/g)以上が好ましい。
なお、全アミン価については、1級、2級、3級アミンの総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に当量の水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0038】
前記有機アミンのHLB値については、HLB値が5~17であることが好ましい。これは、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を中和安定させ、溶媒との膨潤分散を安定化することで、安定した増粘作用が得られるためである。より、中和安定させ、膨潤分散性を向上することを考慮すれば、HLB値が7~17であることが好ましく、さらに、考慮すれば、HLB値が9~16であることが好ましい。
【0039】
本発明では、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体に対する、安定剤の配合比(安定剤/(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体)が、質量基準で0.1~15倍とすることが好ましく、0.3~10倍とすることがより好ましく、0.5~8倍とすることが好ましい。これは、、インキ中で(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を、安定して膨潤分散させて、安定した増粘作用を得られやすいためである。
【0040】
前記安定剤の含有量は、前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体、リン酸エステル系界面活性剤との中和安定性を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、さらに前記リン酸エステル系界面活性剤に対する中和を考慮すれば、0.1~8質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~6質量%が好ましい。
【0041】
(界面活性剤)
本発明においては、潤滑性を向上することで書き味を向上しやすく、さらに筆記先端部を大気中に放置した状態で、筆記先端部が乾燥したときの書き出し性能を向上することを考慮すれば、界面活性剤を用いることが好ましい。これは、界面活性剤によって形成される潤滑層によって、潤滑性を向上しやすくし、さらに界面活性剤によって、筆記先端部の乾燥により形成される被膜を柔らかくし、書き出し性能を改良しやすくすることができるためである。界面活性剤としては、脂肪酸、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、アセチレン結合を有する界面活性剤、脂肪酸エステル類、ポリアルキレンアルキルエーテル、アルキルアルカノールアミドなどが挙げられる。その中でも、上記効果を考慮すれば、脂肪酸、リン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸エステル類の中から1種以上を用いることが好ましい。
特に、ボールペンで用いる場合、リン酸エステル系界面活性剤は、リン酸基を有することで金属類などのボールペンチップやボールに吸着しやすく、潤滑効果が得られやすいため、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、金属材であるボールとボール座との間で極圧効果が得られやすいため、潤滑性をより向上しやすいため、好ましい。
水性インキ組成物の場合、リン酸エステル系界面活性剤の中でも、直鎖アルコール系、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、オクチルフェノール系等のリン酸エステル系界面活性剤が挙げられるが、中でも、直鎖アルコール系、スチレン化フェノール系のリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、書き味を向上しやすくすることを考慮すれば、直鎖アルコール系のリン酸エステル系界面活性剤を用いることがより好ましい。
油性インキ組成物の場合、リン酸エステル系界面活性剤の中でも、書き味を向上しやすくすることを考慮すれば、酸価は180(mgKOH/g)以下のリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、より考慮すれば、酸価は70~160(mgKOH/g)のリン酸エステル系界面活性剤を用いることがより好ましい。なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0042】
前記界面活性剤のHLB値については、前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体との相性を考慮して、HLB値が5~17であることが好ましい。より膨潤分散性や、潤滑性、書き出し性能を向上することを考慮すれば、HLB値が6~14であることが好ましい。さらに、潤滑性を考慮すれば、HLB値が12以下にすることが好ましく、HLB値が6~12であることが好ましい。
尚、本発明で用いるHLB値は、グリフィン法、川上法などから求めることができる。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時筆記先端部が外部に露出した状態であるため、筆記先端部の乾燥時の書き出し性能に影響しやすいため、上記HLB値とした界面活性剤を用いることはより好ましい。
【0043】
前記界面活性剤としては、具体的には、脂肪酸としては、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸などが挙げられ、シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーンなどが挙げられ、フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロ基含有ブチルスルホン酸塩、パーフルオロ基含有カルボン酸塩、パーフルオロ基含有リン酸エステル、パーフルオロ基含有リン酸エステル型配合物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物などが挙げられ、リン酸エステル系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられる。
これらの中でも、潤滑性、増粘作用を考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0044】
界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくいため、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定になりやすいためであり、より考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3~3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~3.0質量%が、好ましい。
【0045】
(樹脂)
また、本発明では、インキ粘度調整剤、インキ漏れ抑制剤、顔料分散剤、定着剤として、樹脂を用いても良い。樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、エチレンオキサイド重合体、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂などや、オレフィン系樹脂粒子、アクリル酸エステル樹脂粒子、アミノ樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、スチレン-ブタジエン系樹脂粒子などの樹脂粒子などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0046】
これらの樹脂の中でも、インキ漏れを抑制することを考慮すれば、樹脂粒子を含んでなることが好ましく、より考慮すれば、有機樹脂粒子を用いることが好ましく、さらにアクリル酸エステル樹脂粒子、オレフィン系樹脂粒子、アミノ樹脂粒子の中から選択して含んでなることが好ましい。これは、筆記先端部の間隙から(ボールペンの場合はボールとチップ先端の間隙)、前記樹脂粒子による物理的な障害を起こして、インキ漏れを抑制することを可能とし、さらに、粒子同士が一部変形などして、お互い密着することで、微弱な凝集により形成された構造を生じることにより、静置時のインキ漏れに対しての抵抗作用の高い構造をインキ中で形成することで、高いインキ漏れ抑制を可能とする。一方で、微弱な凝集により形成された構造のため、筆記時にはボールの回転などの物理作用により凝集構造は解砕されるため、筆記時のインキ流動性を阻害することなく、良好に筆記することで、良好な書き味や、カスレを抑制した筆記性を得ることが可能である。
さらに、前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体による、安定したネットワーク構造によるインキ漏れ抑制効果と、前記樹脂粒子による物理的な障害との相互作用によって、より高いインキ漏れ抑制効果が得られやすいため、好ましい。特に、ボールペン用インキ組成物として用いると、効果的であるため、好ましい。
【0047】
前記樹脂粒子の平均粒子径については、平均粒子径が小さい方が、粒子同士がお互い密着して、微弱な凝集構造をとりやすく、インキ漏れを抑制しやすいため、7μm以下が好ましく、5μm以下が好ましく、さらに、インキ中での樹脂粒子の分散安定性(インキ経時安定性)を考慮すれば、3μm以下が好ましく、より考慮すれば、1μm未満がより好ましい。一方、平均粒子径が小さすぎると、インキ漏れ抑制効果が劣りやすいため、平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは、0.3μm以上が好ましい。また、平均粒子径は、コールターカウンター法により、コールターMultisizerTM3(ベックマン・コールター社製測定装置)を用いて、標準試料や他の測定方法を用いてキャリブレーションした数値を基に測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)を測定することで求めることができる。
【0048】
これらの樹脂粒子の中でも、よりインキ中で(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体、溶媒に対する安定性、インキ漏れ抑制を考慮すれば、オレフィン系樹脂粒子、アクリル酸エステル樹脂粒子、アミノ樹脂粒子の中から選択して用いることが好ましく、よりインキ中で安定しやすいことで、インキ漏れ抑制を向上しやすいことを考慮すれば、ポリエチレン樹脂粒子、メタクリル酸エステル樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子の中から選択して用いることが好ましく、より考慮すれば、ポリエチレン樹脂粒子、メタクリル酸エステル樹脂粒子が好ましい。
特に、水性インキ組成物の場合は、溶媒との相性やインキ漏れ抑制効果を考慮して、オレフィン系樹脂粒子が好ましく、さらにポリエチレン樹脂粒子が好ましく、油性インキ組成物の場合は、溶媒との相性やインキ漏れ抑制効果を考慮して、アクリル酸エステル樹脂粒子が好ましく、さらにメタクリル酸エステル樹脂粒子が好ましい。
これらの樹脂粒子は、単独又は2種以上組み合わせても良く、混合物、共重合体でも良い。
【0049】
前記樹脂粒子の形状については、球状、もしくは異形の形状のものなどが使用できるが、樹脂粒子同士の密着性によるインキ漏れ抑制効果を考慮すれば、球状樹脂粒子が好ましい。ここでいう球状樹脂粒子とは、真球状に限定されるものではなく、略球状の樹脂粒子や、略楕円球状の樹脂粒子などでも良い。
【0050】
また、樹脂の中でも、書き味を向上、筆跡カスレ、点ムラを抑制、顔料分散性を向上しやすくすることを考慮すれば、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましく、書き味を向上、筆跡カスレ、点ムラ抑制(筆記性)を考慮すれば、ケトン樹脂を用いることが好ましい。
【0051】
また、前記樹脂粒子の含有量について、インキ組成物全量に対し、0.01~10質量%がより好ましい。これは、前記樹脂粒子の含有量が、0.01質量%未満だとインキ漏れを抑制しづらく、10質量%を越えると、凝集構造が強くなりやすく、インキ経時安定性や、書き味、書き出し性能に影響が出やすいためである。さらに、より考慮すれば、0.1~5質量%が好ましく、0.3~3質量%が特に好ましく、最も好ましくは、0.5~3質量%が好ましい。
【0052】
また、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体以外の剪断減粘性付与剤を併用しても良い。インキ組成物の粘度を調整し、また顔料の分散安定性を改良することができる。具体的には、脂肪酸アミド、水添ヒマシ油、ポリアクリル酸、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ-カラギーナン、セルロース誘導体、ダイユータンガムなどの多糖類が挙げられる。
【0053】
また、水性インキ組成物の場合、インキ漏れを抑制、書き出し性能を向上するために、デキストリンを用いることが好ましい、これは、デキストリンを用いることで、筆記先端部のインキが乾燥時に、被膜を形成することで、筆記先端部の間隙からの(ボールペンの場合はボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)インキ漏れ抑制する効果が得られ、さらに、筆記先端部が乾燥して固化するのを抑制することで、ドライアップによる書き出し性能を向上する効果を発揮するためである。
【0054】
また、デキストリンの重量平均分子量については、5000~120000がより好ましい。重量平均分子量が120000を超えると、筆記先端部に形成される被膜が硬く、ドライアップ時の書き出しにおいて、筆跡がカスレやすく、一方、重量平均分子量が5000未満だと、吸湿性が高くなりやすく、筆記先端部に被膜が柔らかくなりやすく、インキ漏れ抑制効果を十分に得られづらいためである。さらに、重量平均分子量が20000より小さいと、被膜が薄くなりやすくなるため、重量平均分子量が、20000~120000が最も好ましい。
【0055】
その他の添加剤は、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン等の防菌剤、ベンゾトリアゾール等の防錆剤、尿素、ソルビット等の保湿剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤、可塑剤などを添加することができる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0056】
本発明の筆記具用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体によって、剪断減粘性を付与することで、静止時のインキ粘度を高くして、インキ漏れ抑制しやすくし、筆記時のインキ粘度を低くして、書き味や、カスレなどの筆記性を向上しやすくすることができる。
水性インキ組成物の場合は、20℃、剪断速度192sec-1(筆記時)におけるインキ粘度は、書き味や、カスレなどの筆記性を向上しやすいため、300mPa・s以下が好ましく、より書き味、筆記性を考慮すれば、200mPa・s以下が好ましい。
また、インキ漏れ抑制、インキ追従性を考慮すれば、20℃、剪断速度1.92sec-1(静止時)におけるインキ粘度は、100~5000mPa・sが好ましく、より考慮すれば、200~3500mPa・sが好ましく、さらに考慮すれば、300~3000mPa・sがより好ましい。ここで、水性インキ組成物のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)を使用して、測定したものである。
油性インキ組成物の場合は、20℃、剪断速度20sec-1(筆記時)におけるインキ粘度が7000mPa・s以下が好ましく、より書き味、筆記性を考慮すれば、インキ粘度が4000mPa・s以下が好ましく、より考慮すれば、インキ粘度が3000mPa・s以下が好ましい。また、筆跡の泣きボテ、にじみ、裏抜け、筆跡乾燥性などの筆記性を考慮すれば、インキ粘度が100mPa・s以上が好ましく、より考慮すれば、200mPa・s以上が好ましく、500mPa・s以上が好ましい。
また、インキ追従性を考慮すれば、20℃、剪断速度0.18sec-1(静止時)におけるインキ粘度が50000mPa・s以下が好ましく、より考慮すれば、30000mPa・s以下が好ましく、より考慮すれば、20000mPa・s以下が好ましい。また、インキ漏れ抑制を考慮すれば、20℃、剪断速度0.18sec-1(静止時)におけるインキ粘度が1000mPa・s以上が好ましく、より考慮すれば、2000mPa・s以上が好ましく、より考慮すれば、3000mPa・s以上が好ましい。
ここで、油性インキ組成物のインキ粘度は、20℃において、ブルックフィールド社製 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して、測定したものである。
また、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、インキ漏れ抑制をより考慮する必要があるため、効果的である。
【0057】
本発明では、粘性指数nは、S=αDで示される粘性式中のnを指す。なお、Sは剪断応力(dyn/cm=0.1Pa)、Dは剪断速度(s-1)、αは粘性係数を示す。粘性指数nは、20℃において、上記のような粘度計を使用して、インキ粘度を測定して、算出することができる。
粘性指数nについては、インキ漏れ抑制、書き味、カスレなどの筆記性を考慮すれば、粘性指数n=0.4~0.9とすることが好ましく、インキ漏れ抑制、書き味、カスレなどの筆記性のバランスを考慮すれば、粘性指数n=0.5~0.85とすることが好ましく、より考慮すれば0.55~0.8が好ましい。
【0058】
(筆記具)
本発明の筆記具用インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン芯またはボールペンチップなどをペン先としたマーキングペンやボールペンなどの筆記具に用いることができる。
本発明の筆記具は、筆記具用インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、筆記具用インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
【0059】
本発明の筆記具の出没機構は、特に限定されず、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式、ノック式、回転式およびスライド式などが挙げられる。また、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0060】
また、筆記具におけるインキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、インキ組成物をペン先に供給する機構、(3)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、インキ組成物をペン先に供給する機構、および(4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構などを挙げることができる。
【0061】
一実施形態において、筆記具は、マーキングペンであり、ペン先は、特に限定されず、例えば、繊維チップ、フェルトチップまたはプラスチックチップなどであってよく、さらに、その形状は、砲弾型、チゼル型または筆ペン型などであってよい。
一実施形態において、筆記具は、ボールペンであり、インキ逆流防止体を備えたボールペンであることが好ましい。
【0062】
(ボールペンチップ)
また、ボールペンの場合、ボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量が、水性ボールペンの場合は、15~50μmとすることが好ましい。これは、15μm未満であると、良好な書き味、筆跡カスレ抑制を得られづらくなり、50μmを越えると、インキ漏れ抑制、泣きボテ、インキ追従性能に影響が出やすくなるためで、より考慮すれば、20~50μmとすることが好ましく、より考慮すれば、前記縦軸方向の移動量を25~45μmとすることが好ましい。
油性ボールペンの場合は、3~25μmとすることが好ましい。これは、3μm未満であると、良好な書き味、筆跡カスレ抑制を得られづらくなり、25μmを越えると、インキ漏れ抑制、泣きボテ、インキ追従性能に影響が出やすくなるためで、より考慮すれば、3~20μmとすることが好ましく、より考慮すれば、前記縦軸方向の移動量を5~16μmとすることが好ましい。
前記ボールペンチップのボールが、軸方向への移動量(クリアランス)とは、ボールがボールペンチップ本体の縦軸方向への移動可能な距離を示す。
【0063】
また、ボール座の摩耗抑制、および書き味向上のために、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)を0.1~10nmとすることが好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が、この範囲を越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きくなりやすいため、書き味やボール座の摩耗に影響が出やすく、また、この範囲を下まわると、ボールの表面に十分にインキが載らないため、筆跡カスレなど筆記性に影響が出やすい。そのため、ボール座の摩耗抑制、および書き味を向上し、さらに十分な筆記性を得るためには、ボール表面の算術平均粗さ(Ra)が、0.1~10nmとすることが好ましく、0.1~8nmとすることがより好ましく、0.1~6nmとすることが特に好ましい。
ボール表面の算術平均粗さについて、表面粗さ測定器(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)により測定された粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。
【0064】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
【0065】
また、ボ-ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられるが、ボール座の摩耗、経時安定性、コストを考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
【0066】
<実施例>
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
<実施例1>
<水性ボールペン用インキ組成物>
着色剤として顔料分散体、水、多価アルコール、安定剤、有機樹脂粒子、界面活性剤、防錆剤を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて、ベースインキを作成した。その後、上記作製したベースインキを加温しながら、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロヘキシルエチル)クロスポリマー を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体に対する、安定剤の配合比(安定剤/(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体)は、1.33倍であった。
尚、実施例1のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV-II粘度計(CPE-42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度1.92sec-1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、1027mPa・s、20℃の環境下、剪断速度192sec-1(回転数50rpm)にて、152mPa・sであった。また、粘性指数nは、0.59であった。
【0068】
顔料分散体(着色樹脂粒子、固形分量34%) 20.0質量%
水 64.0質量%
多価アルコール(グリセリン) 10.0質量%
(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロヘキシルエチル)クロスポリマー 1.5質量%
「構成成分:アクリル酸エステル(化1)、アクリル酸(化2)、ジエチレングリコールジアリルエーテル (化1)/(化2)=0.3 アクリル酸エステルおよびアクリル酸の合計100重量部に対する、ジエチレングリコールジアリルエーテルの割合:0.29重量部」
有機樹脂粒子(ポリエチレン樹脂、平均粒子径:6μm) 1.0質量%
安定剤(トリエタノールアミン) 2.0質量%
リン酸エステル系界面活性剤(HLB値:11.5) 1.0質量%
防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量%
【0069】
<実施例2~9、比較例1~4>
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表に示した通りに変更した以外は、実施例1と同じ方法で、実施例2~9、比較例1~4の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0070】
実施例1~9および比較例1~4で作製した水性ボールペン用インキ組成物(1.0g)を、インキ収容筒(ポリプロピレン)に、ボール径がφ0.7mmのボールを回転自在に抱持したボールペン用チップ(チップ内にボールを直接チップ先端縁の内壁に押圧したコイルスプリングを有する、ボールの縦軸方向の移動量:30μm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra):1nm)を装着したボールペン用レフィルに充填し、ボールペンを作製した。筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
【0071】
<実施例11>
<油性ボールペン用インキ組成物>
着色剤、溶媒、界面活性剤、有機樹脂粒子を採用し、これを所定量秤量して、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて、ベースインキを作成した。その後、上記作製したベースインキを加温しながら、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロヘキシルエチル)クロスポリマーを投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌して、実施例11の油性を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、実施例11のインキ粘度は、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して、インキ粘度を測定したところ、20℃の環境下、剪断速度0.18sec-1にて、15000mPa・s、20℃の環境下、剪断速度20sec-1にて、2700mPa・sであった。また、粘性指数nは、0.64であった。
【0072】
着色剤(染料、塩基性染料と酸性染料との造塩染料) 10.0質量%
着色剤(染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料) 10.0質量%
アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコール部位の炭素数:6、溶解度パラメーター(SP値):10.5) 74.7質量%
(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロヘキシルエチル)クロスポリマー 3.3質量%
「構成成分:アクリル酸エステル(化1)、アクリル酸(化2)、ジエチレングリコールジアリルエーテル (化1)/(化2)=0.3 アクリル酸エステルおよびアクリル酸の合計100重量部に対する、ジエチレングリコールジアリルエーテルの割合:0.29重量部」
リン酸エステル系界面活性剤(HLB値:8.6) 1.0質量%
有機樹脂粒子(メタクリル酸メチル樹脂粒子、平均粒子径:0.8μm 1.0質量%
【0073】
<実施例12~27、比較例11~13>
実施例11に対して、配合する成分の種類や添加量を表に示した通りに変更した以外は、実施例11と同じ方法で、実施例12~27、比較例11~13の油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【0074】
実施例11~27および比較例11~13で作製した油性ボールペン用インキ組成物(0.27g)を、インキ収容筒(ポリプロピレン)に、ボール径がφ0.7mmのボールを回転自在に抱持したボールペン用チップ(チップ内にボールを直接チップ先端縁の内壁に押圧したコイルスプリングを有する、ボールの縦軸方向の移動量:8μm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra):5nm)を装着したボールペン用レフィルに充填し、ボールペンを作製した。筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0079】
(水性ボールペン)インキ漏れ試験:40gの重りをゲルインキボールペンに付けて、ボールペンチップを突出させて下向きにし、ボールペンチップのボールが、ボールペン用陳列ケースの底部に当接させた状態を保ち、20℃、65%RHの環境下に1日放置し、ボールペンチップ先端からのインキ漏れ量を測定した。
インキ漏れ量が5mg未満であるもの ・・・◎
インキ漏れ量が5~15mgであるもの ・・・○
インキ漏れ量が15mgを越えて、30mg未満のもの ・・・△
インキ漏れ量が30mg以上のもの ・・・×
(油性ボールペン)インキ漏れ抑制試験:30℃、85%RHの環境下にペン先下向きで7日放置し、チップ先端からのインキ漏れを確認した。
チップ先端のインキ滴がないもの ・・・◎
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以内のもの ・・・○
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4超えて、1/2未満のもの ・・・△
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/2以上のもの ・・・×
【0080】
(水性ボールペン)筆記性能試験:荷重100gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて、100m筆記試験後の筆跡を観察した。
(油性ボールペン)筆記性能試験:荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて、100m筆記試験後の筆跡を観察した。
筆跡にカスレがない、または少ないもの ・・・◎
筆跡にカスレが若干あるが、実用上問題ないレベルのもの ・・・○
筆跡にカスレがあり、実用上に影響があるもの ・・・△
筆跡にカスレが多いもの ・・・×
【0081】
実施例1~27では、書き味、インキ漏れ抑制試験、筆記性能ともに良好な性能が得られた。
また、実施例1~9、実施例23~27で、顔料インキを、顕微鏡で見たところ、顔料分散性が良好で、析出物もなく良好であった。
尚、上記のようにブルックフィールド株式会社製粘度計を使用して、実施例4、12のインキ粘度を測定し、粘性付与指数nを算出した。
実施例4では、20℃の環境下、剪断速度1.92sec-1(回転数0.5rpm)、インキ粘度=345mPa・s、20℃の環境下、剪断速度192sec-1(回転数50rpm)、インキ粘度=73mPa・s、粘性付与指数nは、0.66であった。
実施例12では、20℃の環境下、剪断速度0.18sec-1、インキ粘度=10000mPa・s、20℃の環境下、剪断速度20sec-1でインキ粘度=2000mPa・s、粘性付与指数nは、0.66であった。
実施例23では、20℃の環境下、剪断速度0.18sec-1、インキ粘度=11000mPa・s、20℃の環境下、剪断速度20sec-1でインキ粘度=2400mPa・s、粘性付与指数nは、0.71であった。
実施例24では、20℃の環境下、剪断速度0.18sec-1、インキ粘度=6600mPa・s、20℃の環境下、剪断速度20sec-1でインキ粘度=2200mPa・s、粘性付与指数nは、0.79であった。
【0082】
比較例1、2、11、13では、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を用いなかったため、インキ漏れ抑制性能、筆記性能が劣ってしまった。
【0083】
比較例3、4、12では、(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体以外の剪断減粘性付与剤、樹脂を添加したが、十分なインキ漏れ抑制効果、筆記性能については、得られなかった。
【0084】
また、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具(出没式ボールペン)を用いた場合では、インキ漏れ抑制性能が最も重要な性能の 1つであるため、本発明のように筆記先端部の間隙からインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制して、インキ漏れ抑制性能が良好とすることが可能である本発明のような前記(アクリル酸/アクリル酸パーフルオロアルキル)共重合体を含んでなる筆記具用インキ組成物を用いると効果的である。
【0085】
本発明のように、インキ漏れ抑制や、書き出し性能を向上するためには、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
【0086】
また、本実施例では、便宜上、軸筒内に、筆記具用インキ組成物を直に収容したボールペン用レフィルを収容したボールペンを例示しているが、本発明の筆記具は、軸筒をインキ収容筒とし、軸筒内に、筆記具用インキ組成物を直に収容した直詰め式のボールペン、マーキングペン、サインペンとした筆記具であってもよい。また、軸筒内に、筆記具用インキ組成物を直に収容したマーキングペン、サインペンとした場合は、インキ漏れやインキボタ落ちなどを抑制する効果が得られるため、好適に用いることができる。
また、本実施例では便宜上、線材を切削によって形成したボールペンチップを例示しているが、パイプ材を押圧加工によって形成するボールペンチップであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、筆記具として利用でき、さらに詳細としては、キャップ式、出没式等の筆記具としてボールペン、マーキングペン、サインペンとして広く利用することができる。