(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022139102
(43)【公開日】2022-09-26
(54)【発明の名称】成型物の製造方法および成型コークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 53/08 20060101AFI20220915BHJP
【FI】
C10B53/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039342
(22)【出願日】2021-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 勇介
(72)【発明者】
【氏名】永山 幹也
(72)【発明者】
【氏名】荒川 彩良
【テーマコード(参考)】
4H012
【Fターム(参考)】
4H012KA02
4H012KA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】乾留条件、使用原料を限定せずに、比較的簡便かつ迅速に、乾留時の成型物同士の融着を抑制する技術としての成型物の製造方法及び成型コークスの製造方法を提供する。
【解決手段】単一又は複数の石炭を主体とする原料を調製するステップと、調製された原料を加熱するステップと、加熱された原料を成型するステップとを含み、下記の定義に基づく成型物の融着率(α)が30mass%以上である場合に、前記成型するステップにおいて、原料の温度(Tb)を75℃以上250℃以下にすることを特徴とする、成型物の製造方法。
<融着率(α)の定義>原料を調製するステップの処理を行った原料を75℃未満の温度で成型した成型物を複数個隣接させた状態で、前記原料の再固化温度以上まで不活性ガスの雰囲気で乾留した後、冷却した乾留生成物の全重量に対する、2個以上の成型物が連結した乾留生成物の重量割合の百分率を融着率(α)とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一または複数の石炭を主体とする原料を調製するステップと、調製された原料を加熱するステップと、加熱された原料を成型するステップと、を含む成型物の製造方法であって、
下記<融着率(α)の定義>に基づく成型物の融着率(α)が30mass%以上である場合に、前記成型するステップにおいて、原料の温度(Tb)を75℃以上250℃以下にすることを特徴とする、成型物の製造方法:
<融着率(α)の定義>
原料を調製するステップの処理を行った原料を75℃未満の温度で成型した成型物を複数個隣接させた状態で、前記原料の再固化温度以上まで不活性ガスの雰囲気で加熱(乾留)して軟化融着を終了させた後、冷却して乾留生成物を作製し、その乾留生成物の全重量に対する、2個以上の成型物が連結した乾留生成物の重量割合の百分率を融着率(α)とする。
【請求項2】
前記成型するステップの原料の温度(Tb(℃))を、前記融着率(α(mass%))に応じて、下記(1)式かつ(2)式を満たすように決定することを特徴とする、請求項1に記載の成型物の製造方法:
1.25×α+32.5≦Tb≦250・・・(1)
75≦Tb・・・(2)。
【請求項3】
前記<融着率(α)の定義>を以下のとおりとする、請求項1または請求項2に記載の成型物の製造方法:
<融着率(α)の定義>
原料を調製するステップの処理を行った原料を70℃で成型した成型物を複数個隣接させた状態で、前記原料の再固化温度以上まで不活性ガスの雰囲気で加熱(乾留)して軟化融着を終了させた後、冷却して乾留生成物を作製し、その乾留生成物の全重量に対する、2個以上の成型物が連結した乾留生成物の重量割合の百分率を融着率(α)とする。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の成型物の製造方法に従って製造した成型物を乾留する、成型コークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に成型コークスの原料となる、石炭を主体とする成型物を製造する成型物の製造方法および製造した成型物を乾留して成型コークスを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄用のコークスは、石炭をコークス炉で1000℃以上の温度まで乾留(空気を遮断して蒸し焼きに)して製造され、主たる製銑装置である高炉で用いられる。高炉内に装入されたコークスには、製銑プロセスの主原料である鉄鉱石を還元する還元材、製銑反応に必要な熱を供給する熱源、固・液体と気体の向流型反応装置である高炉内の通気・通液を確保するためのスペーサーなどの役割を果たす。一般的に、高炉の省エネ・CO2排出量削減に効果的な低還元材比操業を達成するためには、使用するコークスの高強度化が必要と考えられている。
【0003】
コークス製造プロセスで最も広く普及している室炉式コークス炉によるコークス製造プロセスにおいて、高強度コークスを製造するためには、粘結性に富む強粘結炭を多量に使用する必要がある。しかし、強粘結炭は希少で高価であるため、より安価な非微粘結炭などの劣質炭を使用しつつ高強度のコークスを製造することが強く求められている。
【0004】
劣質炭を多量に使用しながら高強度のコークスを製造する有力なプロセスとして、従来成型コークス製造プロセスが研究開発されている。成型コークスは、主原料である石炭を種々のステップで調製後、機械的に圧密して成型し、高密度の成型物を作製し、該成型物を乾留して得られる乾留生成物である。成型コークスは、成型物の形状が維持されるように製造されるのが一般的である。
【0005】
これまでに成型コークスに係る数々のプロセスが検討されている。例えば、成型ステップについては、バインダーを石炭に添加して冷間で成型する冷間成型法、石炭を石炭が粘結性を示す400℃付近まで加熱し、石炭自身の粘結性によりバインダーレスで成型物を成型する熱間成型法がある。また、乾留ステップについては、室炉式コークス炉で乾留する方法の他に、移動床乾留炉や連続式の竪型のシャフト炉などによる乾留方法が提案されている。このうち、冷間成型で得た成型物を竪型のシャフト炉の上部から装入して乾留し、成型コークスをシャフト炉下部から連続的に排出して製造するプロセスは、日本鉄鋼連盟傘下の鉄鋼会社が共同で研究開発し、実用化目前の段階まで開発がなされている(通称、鉄鋼連盟式成形コークスプロセス)。この方法は、粘結性の乏しい劣質炭の使用量を増やすことが可能で、高生産性・高生産弾力性・低環境負荷などの特徴を持つため、有望である。
【0006】
しかし、竪型のシャフト炉で成型コークスを製造する方式においては、乾留時に成型物同士が融着することを防止する必要がある。なぜなら、シャフト炉内で成型物同士が融着すると、巨大な塊が形成されて、塊が炉下部の排出口よりも大きい場合、塊を排出できず、操業不能に陥るためである。この事態を避けるために、乾留初期に急速昇温し、成型物表面にコークスの硬化層を形成して融着を防止する方法が報告されている。また、原料の性状としては、粘着性および膨張性といった粘結性が、成型物の融着性に影響することが報告されている。原料性状を制御する方法としては、無煙炭や半無煙炭などの粘結性の乏しい石炭を配合する方法(特許文献1)や、高灰分の石炭を使用する方法(特許文献2)、軟化溶融性の高い、融着し易い石炭(以下、易軟化性石炭)の配合比を制御する方法(特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許5017969号公報
【特許文献2】特許6016001号公報
【特許文献3】国際公開2016/125727号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように乾留時の成型物同士の融着を抑制するためには、乾留条件を変更する、あるいは原料石炭の配合構成を変更し、性状を制御する方法が有効である。しかし、従来技術には以下のような問題があった。
【0009】
乾留条件を変更する方法は、操業の生産スケジュールや乾留熱量に影響を与えてしまうため、容易には実施できない。また、成型コークス用の原料石炭の粘結性を精緻に制御するのは困難を伴う。その理由の一つは、成型コークス用に主に使用される石炭は、粘結性の乏しい石炭であり、例えば燃料用の一般炭が該当するが、一般炭の粘結性は山元で厳格には品質管理されていないことである(なぜなら、燃料用としては特に重視すべき性状ではないため)。そのため、同一の石炭銘柄であっても、粘結性のロット差が大きく、想定以上に粘結性の高い石炭が入荷してしまった場合に、成型コークス工場の在庫で所有している石炭で、原料石炭の粘結性を調整しきれない事態が起こりうる。その対応として、原料石炭の粘結性を調整するための石炭を新たに調達すると、余分に時間がかかって操業スケジュールに支障を来すのみならず、追加のコスト増を招く。逆に、ロット変動に対応するために、原料石炭の粘結性の調整能力を高めるためには、複数種類の石炭を在庫として所有する必要があり、場所の確保や在庫管理の煩雑さが問題になる。また、もう一つの理由として、低い粘結性の評価は、そもそも精度が低いことがある。粘結性の評価試験は各種(例えば、JIS M 8801のるつぼ膨張性試験や流動性試験など)存在するが、低い粘結性の領域は検出感度が低い。そのため、精度よく原料石炭の性状を制御することは困難な場合がある。
【0010】
本発明の目的は、乾留条件、使用原料を限定せずに、比較的簡便かつ迅速に、乾留時の成型物同士の融着を抑制する技術としての成型物の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、発明者らは、成型コークスの製造条件、特に成型物の製造条件と成型コークスの乾留時の融着率の関係について鋭意研究を重ねた。その結果、成型時の原料温度を高めると成型物の膨張が抑制されて、成型コークスの乾留時の融着率が減少することを見出した。この発見に基づいて、さらに検討を進めた結果、シャフト炉で融着が起こらないようにするための成型時の原料温度は、成型物の融着のしやすさによって異なることを確認した。これらの知見に基づき、本発明は完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は、単一または複数の石炭を主体とする原料を調製するステップと、調製された原料を加熱するステップと、加熱された原料を成型するステップと、を含む成型物の製造方法であって、
下記<融着率(α)の定義>に基づく成型物の融着率(α)が30mass%以上である場合に、前記成型するステップにおいて、原料の温度(Tb)を75℃以上250℃以下にすることを特徴とする、成型物の製造方法:
<融着率(α)の定義>
原料を調製するステップの処理を行った原料を75℃未満の温度で成型した成型物を複数個隣接させた状態で、前記原料の再固化温度以上まで不活性ガスの雰囲気で加熱(乾留)して軟化融着を終了させた後、冷却して乾留生成物を作製し、その乾留生成物の全重量に対する、2個以上の成型物が連結した乾留生成物の重量割合の百分率を融着率(α)とする、である。
【0013】
なお、前記のように構成される本発明に係る成型物の製造方法おいては、
(1)前記成型するステップの原料の温度(Tb(℃))を、前記融着率(α(mass%))に応じて、下記(1)式かつ(2)式を満たすように決定することを特徴とすること:
1.25×α+32.5≦Tb≦250・・・(1)
75≦Tb・・・(2)、
(2)前記<融着率(α)の定義>を以下のとおりとすること:
<融着率(α)の定義>
原料を調製するステップの処理を行った原料を70℃で成型した成型物を複数個隣接させた状態で、前記原料の再固化温度以上まで不活性ガスの雰囲気で加熱(乾留)して軟化融着を終了させた後、冷却して乾留生成物を作製し、その乾留生成物の全重量に対する、2個以上の成型物が連結した乾留生成物の重量割合の百分率を融着率(α)とする、
(3)上記成型物の製造方法に従って製造した成型物を乾留すること、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、融着しやすい性状と判断された原料に対しては、成型するステップにおいて、原料の温度(Tb)を75℃以上250℃以下と成型時の温度を制御することで、乾留条件や使用原料の制約を受けずに、比較的簡便かつ迅速に乾留炉での成型物同士の融着を抑止できる。したがって、安定的な成型コークスの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】石炭を冷間あるいは熱間で成型した成型物の乾留中の温度に対する成型物の高さ方向の収縮率の関係を示すグラフである。
【
図2】成型時の原料の温度と成型コークスの融着率の関係を示すグラフである。
【
図3】原料石炭の成型時の温度が70℃の成型物の融着率と、融着率を30mass%未満とするために必要な成型時の温度の下限の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の成型物の製造方法では、通常、単一または複数の石炭を主体とする原料を調製するステップと、加熱するステップと、成型するステップ、を含む。本発明において、原料を調製するステップとは、単一または複数の石炭を主として用いて、成型物の製造に適した状態の原料を製造するステップのことを指す。例えば、複数の石炭を配合すること、石炭に添加物を加えること、石炭を含む成型物の原料の粒度や水分量を調整することなどが含まれる。この方法において、成型するステップで得られる成型物を乾留した際に融着が起こらないようにするための成型時の原料温度は、成型物の融着のしやすさによって異なることを確認し、この知見に基づき本発明は完成に至った。
【0017】
まず、この知見の原理の確認をした予備実験の結果を示す。実験には、VM=31.2(%d.b.)、logMF=1.0、CSN=1.0の石炭Aを用いた。石炭Aを風乾後、0.1mm以下の粒子の含有率が100wt%になるように粉砕した。この粉砕試料2gをφ16mmのモールドに充填し、室温で100MPaの圧力で成型(冷間成型)ないしアルゴンガス雰囲気で200℃に昇温して同圧力で成型(熱間成型)し、冷間成型物および熱間成型物を得た。これら成型物を窒素ガス流通下の電気炉で900℃まで加熱した際の、成型物の初期高さに対する高さの収縮率を調査した。その結果を
図1に示す。
【0018】
図1の結果から、冷間成型物は、石炭が軟化溶融性を示す400℃付近から膨張していることが分かる。一方で、熱間成型物は、乾留中に膨張を示さず、400℃以降は一様に収縮した。原料石炭の膨張性が高いほど成型物同士の乾留時の融着が起きやすいことから、熱間成型により、成型物の乾留時の融着が抑止されると予想された。熱間成型により膨張性が減少した理由は、熱間成型時に若干の石炭分子の構造変化が生じ、乾留時の熱分解反応に何らかの影響を与えたと推察される。なお、本発明の熱間成型の温度の上限は、高くとも250℃程度であって、石炭の粘結性を利用して石炭同士の結合を達成する従来の熱間成型の温度よりは明らかに低い。従来、250℃程度の温度では、石炭の熱分解反応は起こらず、性状の変化は限定的と考えられてきた。本発明の新規な部分は、この比較的温和な加熱温度域(75~250℃)においても、石炭の膨張性、ひいては成型物の融着性が変化することを見出した点である。
【0019】
次に、配合及び成型時の温度を変更して、融着率(α)の調査を行った(詳細は以下の実施例で示す)。ここで、融着率(α)とは、原料を調製するステップで処理した原料を75℃未満の温度で成型して成型物を製造し、その成型物を、複数個隣接させた状態で、原料の再固化温度以上まで不活性ガスの雰囲気で加熱(乾留)して軟化融着を終了させた後、冷却して乾留生成物を作製し、その乾留生成物の全重量に対する、2個以上の成型物が連結した乾留生成物の重量割合の百分率として求めることができる。また、ある成型温度での実験で求めた融着率から、別の温度で成型した場合の融着率を推定してもよい。この融着率(α)は、乾留した生成物の融着しやすさを示す値であって、融着率(α)が大きいほど、その成型物は融着しやすいと判断できる。なお、「成型物を、複数個隣接させた状態で、軟化溶融温度まで不活性ガスの雰囲気で加熱(乾留)して軟化融着を終了させる」好適例としては、成型物を、複数個隣接させた状態で、少なくとも600℃まで3~5℃/minの昇温速度で加熱することがある。少なくとも600℃まで3~5℃/minの昇温速度で加熱することで、成型物の軟化溶融は終了する。コークス製造用の原料として好適に用いられる粘結炭は加熱によって軟化溶融し、さらに加熱温度を上げていくと再び固化する。軟化溶融した石炭が再び固化する温度を再固化温度と呼び、再固化によって軟化溶融が終了する。すなわち、成型物を再固化温度以上にまで加熱することで、成型物同士が固着した融着物が生成する。
【0020】
この知見を整理し、定式化を行った。原料を75℃未満で成型した成型物の融着率(α(mass%))に応じて、融着率を30mass%未満にするための、成型時の原料の温度(Tb(℃))は下記(1)式かつ(2)式を満たすように決定することが好適範囲となることがわかった:
1.25×α+32.5≦Tb≦250・・・(1)、
75≦Tb・・・(2)。
【0021】
したがって、原料の75℃未満で成型した成型物の融着率(α)を調査し、その結果に応じて、成型ステップの際の原料温度を上記好適範囲に変更することが望ましい。なお、成型機での温度が250℃を超えると、引火性の揮発分のガス化に伴い、火災や爆発などの設備トラブルや災害が起こるリスクが高まる。そのため、成型時の温度は250℃以下とすることが望ましい。
【0022】
加熱された原料を成型するステップにおける成型時の温度制御については、成型装置の方式によって変わるが、圧縮プレス機のように直接加熱できる方式では、成型時に加熱し、原料温度を下限値以上とすることが望ましい。一方、ロール成型など、直接の加熱が困難な装置の場合は、成型ステップの前工程(配合工程など)で昇温しておくことでも効果がある。特に、成型ステップでは、加熱によるバインダーの軟化も成型物の品質に影響することから、ここで加熱温度を制御することが望ましい。ただし、この場合は、成型ステップまでの抜熱による原料温度の低下を考慮して、成型される際の原料の温度が75℃~250℃になるように加熱温度を決定する必要がある。なお、成型される際の原料の温度は、成型直後の成型物の温度を測定して確認することができる。融着率(α)を求める際の成型温度についても同様に、成型される際の原料の温度が75℃未満になるようにすればよい。なお、融着率を求める際の成型温度は、本発明の成型物の製造方法における成型ステップの温度よりも低いため、原料を加熱してから成型するまでの温度低下が少なく、成型前の原料温度を75℃未満とすれば、成型する際の温度は実質的に原料の温度と同じとなるので、成型前の原料温度(成型機に導入される原料の温度)を制御して成型を行ってもよい。
【0023】
また、加熱および成型時の雰囲気としては、低酸素濃度が望ましい。酸素が存在する条件で石炭を加熱すると、いわゆる風化現象により、石炭の品質が劣化する場合がある。また、火災・爆発などのリスクを下げる観点からも低酸素濃度の雰囲気が望ましい。加熱時または成型時の雰囲気の酸素濃度としては18体積%以下が好ましいが、石炭の品質劣化が実用上軽微な場合や、火災・爆発のリスクに対する対策が十分になされていれば、空気中で加熱、成型を行ってもよい。酸素濃度を低下させるためには、窒素などの不活性ガスを添加した雰囲気にする方法、雰囲気の水蒸気分圧を上げて酸素濃度を低下させる方法などが採用できる。
【実施例0024】
成型時の原料温度と乾留後の成型コークスの融着率の関係を調査するため、種々の易軟化性石炭(JIS M 8801のボタン指数CSNが2.0を超える石炭)の配合率を変更し、原料混錬時の温度を変えて成型した成型物を乾留した際の融着率の測定を実施した。成型物の成型方法および乾留方法は下記の手順とした。
【0025】
まず、複数種の石炭銘柄よりなる配合炭に対し、バインダーを添加し混練および成型を実施した。配合炭の軟化溶融特性については、ギーセラー最高流動度の対数の荷重平均値(LogMF)が0.4~1.1の範囲とし、配合炭の灰分は10.0~10.5mass%の範囲とした。石炭の粒度は全量2mm以下とした。また、バインダーとして、軟ピッチおよびコールタールを原料前重量の8.0~10.0mass%添加した。混練機である高速攪拌ミキサーにて100℃~200℃で混練し、混練した原料をダブルロール型成型機にて成型物を製造した。ロールサイズは650mmφ×104mmとし、回転数2rpm、線圧は1~4t/cmで成型した。成型物のサイズは30mm×25mm×18mm(6cc)で形状は卵型である。
【0026】
成型直後の成型物の温度を測定し、これを成型時温度とした。なお、成型時の温度は70℃~150℃程度であり、成型ロールに入る直前の原料の温度と一致していた。すなわち、この成型時の温度を成型する原料の温度(Tb)とすることができる。また、成型時の温度は、混練時の温度と高度な相関関係が認められた。すなわち、混練時の温度を調整することで、成型時の温度を調整することができる。成型物の乾留は以下のラボスケールの乾留手法(固定層)で行った。縦200mm、横60mm、高さ200mmの乾留缶に成型物を1.8kg充填し、電気炉を用いてプログラムヒーティングにより乾留した後、窒素雰囲気で冷却した。プログラムヒーティングは成型物層の中央部における成型物の間の空隙部の温度を室温から500℃まで15℃/分、500~750℃を3℃/分で昇温し、750℃以上の温度で143分保持する条件で行った。冷却後、容器内から成型コークスを取り出し、2個以上の成型コークスが融着したサンプルの重量比率を算出し、融着率と定義し、融着率と成型時の温度の関係を調査した。成型物層の中央部における成型物の間の空隙部の温度(または、成型物層の中央部付近の成型炭の内部温度)で、350~500℃の昇温速度で2~20℃/分、より望ましくは、2~15℃/分、最高温度700~1000℃であれば融着率はほぼ等しくなるので、そのような乾留条件における融着率で成型物の融着のしやすさが評価可能である。このうち、350~500℃の昇温速度が20℃/分を超えて速い場合、融着率は有意に増加するため、成型物の性状差による融着率の差が検出されにくくなる。したがって、昇温速度を上記好適範囲に設定することが望ましい。
【0027】
融着率と成型時の温度の関係を
図2に示す。
図2の結果から、易軟化性石炭配合率の増加に伴い、同一成型温度における融着率が増加することがわかった。また、成型時の温度の上昇に伴い融着率が減少するが、その傾きは配合によらず一定であることを確認した。つまり、易軟化性石炭の配合率の増加に伴い、融着率がある特定の値となる成型時の原料の温度が上昇することが分かった。
【0028】
シャフト炉を用いて石炭の成型物を乾留して成型コークスを得る場合、融着率がある値を超えると成型コークスの荷下がりが滞り、炉からの排出が困難となり炉の操業に支障をきたす確率が高まることが知られている。発明者は、融着率と操業トラブルの関係を調査し、融着率が30mass%以上になると順調な操業が困難になることを見出した。
図2には、融着率が30mass%の線を操業上の上限の例として示した。通常、融着率がこの線未満の値であれば、大きな問題なく操業が可能である。ただし、炉の形式や操業条件によっては、順調な操業が困難になる融着率が30mass%にならない場合もある。その場合でも、75℃未満の温度で成型した場合の融着率が30mass%以上となる原料は融着しやすい原料であることは明らかであり、そのような原料については成型温度を75~250℃に高めることで、操業時の融着率は75℃未満の温度で成型した場合よりも下げることができる。すなわち、本発明では、所定の条件で得られた原料成型物の融着率αに基づいて融着しやすい原料を特定し、融着しやすい原料を用いる場合には、その成型温度を75~250℃に高めることで、乾留時の融着を抑制するという課題を解決する。この方法により、融着率が低下すればそれに応じて操業トラブルを減らすことができるという効果を奏することができる。操業時の融着率をどこまで低下させればよいかの目標値は、当業者が操業経験に基づいて適宜設定することが可能であり、融着率の目標値をあらかじめ定め、原料の融着しやすさに基づいて、成型温度を調整することは本発明の実施形態の一つである。
【0029】
図2の条件において、成型時の温度を70℃よりもさらに低下させると、温度の低下とともに融着率は上昇する傾向を示す。本発明では、75℃未満の温度で成型した成型物について、融着率αを求め、融着率αが30mass%以上となる場合に、成型物の製造における成型するステップでの成型温度を75℃以上に高めて融着を抑制する。αを求める際の成型温度が低い場合には、αの値が大きくなるので、例えば75℃未満の温度で成型してαを求める場合は、75℃で成型した場合よりも原料の融着性を高く(融着しやすいと)評価することになる。そのため、αを求める際の成型温度が低い場合には、より広い範囲の原料に対して、成型するステップの温度を高めることになり、より確実に融着を抑止することができる。
【0030】
しかし、より広い範囲の原料に対して、成型物の製造における成型するステップでの成型温度を高めて成型を行うことは、確実に融着を抑止できる反面、高温で成型する原料の量が増えることになり、エネルギー使用量の点では不利益も発生する。したがって、融着率を求めるための成型温度は、なるべく高く設定したほうが好ましい場合もある。この得失を考慮すると、融着率αを求める際の成型温度は65℃以上75℃未満に設定することが好ましく、さらに好ましくは70℃に設定することができる。この時、融着率αを求めるための操作において、70℃で成型を行うことは必ずしも必要ではなく、他の成型温度で成型を行った試験結果から70℃で成型した場合の融着率を推定してもよい。このような融着率の推定方法としては、複数の実験結果から内挿または外挿によって70℃で成型した場合の融着率を推定してもよいし、例えば
図2に示したような相関から推定してもよい。このようにして、70℃で成型を行ったとした場合の融着率αを基準に、成型物の製造における成型するステップでの成型温度を定めることができる。
【0031】
そこで、
図2に示したそれぞれの原料についての原料温度と融着率の関係に基づいて、ある原料の成型温度70℃における融着率とその原料で融着率が30mass%となる成型時の原料の温度を求めた結果を
図3に示す。ここで、成型温度70℃における融着率は、配合炭の融着のしやすさを表している。そして、
図3の回帰線は70℃で成型した場合の融着率の原料を乾留した場合の融着率を30%以下にするための下限の温度を示している。従って、この回帰線よりも高い温度で成型を行えば、融着率を30%未満にできる。この結果より、乾留時に成型物同士の融着が問題にならないようにするためには、原料石炭の70℃の融着率に応じて、成型時の原料の温度を何度以上に上げれば融着を抑制できるかが分かる。この結果に基づいて、本発明の好適範囲が規定された。