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特開2022-141469高撥水シート、それを貼り付けた高撥水型枠、それを使用した施工方法及びコンクリート構造物の製造方法
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  • 特開-高撥水シート、それを貼り付けた高撥水型枠、それを使用した施工方法及びコンクリート構造物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022141469
(43)【公開日】2022-09-29
(54)【発明の名称】高撥水シート、それを貼り付けた高撥水型枠、それを使用した施工方法及びコンクリート構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 9/10 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
E04G9/10 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041790
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 淳
(72)【発明者】
【氏名】三田 浩
【テーマコード(参考)】
2E150
【Fターム(参考)】
2E150AA05
2E150AA40
2E150BA02
2E150LA31
2E150MA32W
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠に対し、非常に高い撥水性能を付与することができる高撥水シートを提供する。
【解決手段】高撥水シート10は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13のコンクリート20を流し込む側の表面に貼り付けられる。高撥水シート10は、不織布11と、不織布11を構成する繊維111の表面を被覆するように設けられた高撥水層12とを備える。高撥水層12は、親水性シリカ粒子121を含有する。高撥水シート10は、水との接触角が150°未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠のコンクリートを流し込む側の表面に貼り付けられる高撥水シートであって、
不織布と、
前記不織布を構成する繊維の表面を被覆するように設けられた高撥水層と、
を備え、
前記高撥水層は、親水性シリカ粒子を含有し、
水との接触角が150°未満である高撥水シート。
【請求項2】
請求項1に記載された高撥水シートにおいて、
前記親水性シリカ粒子の平均粒子径(一次粒子径)が1μm未満である高撥水シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された高撥水シートにおいて、
前記高撥水層が充填粒子を更に含有する高撥水シート。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された高撥水シートが型枠のコンクリートを流し込む側の表面に貼り付けられた高撥水型枠。
【請求項5】
請求項4に記載された高撥水型枠を使用した施工方法であって、
前記高撥水型枠を設置して型を形成する工程と、
前記高撥水型枠を設置して形成された型にコンクリートを流し込む工程と、
を備える施工方法。
【請求項6】
請求項4に記載された高撥水型枠を使用したコンクリート構造物の製造方法であって、
前記高撥水型枠を設置して型を形成する工程と、
前記高撥水型枠を設置して形成された型にコンクリートを流し込む工程と、
を備えるコンクリート構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高撥水シート、それを貼り付けた高撥水型枠、それを使用した施工方法及びコンクリート構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの表面に生じる気泡を除去するために、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠のコンクリートを流し込む側の表面に撥水処理が施される。例えば、特許文献1には、かかる撥水処理として、水との接触角が150°以上となる超撥水剤を塗布することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6774743号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠に対し、非常に高い撥水性能を付与することができる高撥水シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠のコンクリートを流し込む側の表面に貼り付けられる高撥水シートであって、不織布と、前記不織布を構成する繊維の表面を被覆するように設けられた高撥水層とを備え、前記高撥水層は、親水性シリカ粒子を含有し、水との接触角が150°未満である。
【0006】
本発明は、本発明に係る高撥水シートが型枠のコンクリートを流し込む側の表面に貼り付けられた高撥水型枠である。
【0007】
本発明は、本発明に係る高撥水型枠を使用した施工方法であって、前記高撥水型枠を設置して型を形成する工程と、前記高撥水型枠を設置して形成された型にコンクリートを流し込む工程とを備える。
【0008】
本発明は、本発明に係る高撥水型枠を使用したコンクリート構造物の製造方法であって、前記高撥水型枠を設置して型を形成する工程と、前記高撥水型枠を設置して形成された型にコンクリートを流し込む工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高撥水シートの高撥水層が親水性シリカ粒子を含有することにより、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠に対し、非常に高い撥水性能を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る高撥水シートの断面部分拡大図である。
図2】実施形態に係る高撥水型枠を使用してコンクリート構造物を形成する際の断面部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0012】
実施形態に係る高撥水シート10は、不織布11と、その不織布11を構成する繊維111の表面を被覆するように設けられた高撥水層12とを備える。
【0013】
不織布11は、特に限定されるものではなく、公知の各種製法により製造される不織布を用いることができる。不織布11としては、例えば、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、サーマルボンド不織布、水流交絡不織布等が挙げられる。不織布11は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与するとともに、優れた耐摩耗性を得る観点から、これらのうちのスパンボンド不織布であることが好ましい。
【0014】
不織布11を構成する繊維111は、特に限定されるものではないが、合成繊維であることが好ましい。不織布11を構成する繊維111としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。不織布11を構成する繊維111は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与するとともに、優れた耐摩耗性を得る観点から、ポリエステル繊維を含むことがより好ましい。ポリエステル繊維を含む繊維111で構成された市販の不織布11としては、例えば、旭化成社製のエルタスシリーズ等が挙げられる。
【0015】
不織布11を構成する繊維111の繊維径は、特に限定されるものではないが、優れた耐摩耗性を得る観点から、例えば5μm以上25μm以下であることが好ましい。
【0016】
不織布11の目付は、高撥水シート10の強度を確保するとともに、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは20g/m以上、より好ましくは50g/m以上、更に好ましくは100g/m以上であり、好ましくは800g/m以下である。不織布11の目付は、JIS L1913:2010に基づいて測定される。
【0017】
高撥水層12は、親水性シリカ粒子121を含有する。実施形態に係る高撥水シート10によれば、親水性シリカ粒子121を含有する高撥水層12を備えることにより、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与することができる。これは、親水性シリカ粒子121が、不織布11を構成する繊維111の表面を被覆するように分布することとなり、親水性シリカ粒子121による撥水性能が発揮されるためであると考えられる。
【0018】
また、実施形態に係る高撥水シート10によれば、親水性シリカ粒子121を含有する高撥水層12を備えることにより、優れた耐摩耗性を得ることができる。これは、上記のように、親水性シリカ粒子121が、不織布11を構成する繊維111の表面を被覆することにより、不織布11の耐久性が高められるためであると推測される。
【0019】
本出願の親水性シリカ粒子121は、親水性の表面を有するシリカ粒子であり、シラノール基部分がシラン及び/又はシロキサンで化学的に表面処理されていないシリカ粒子を意味する。
【0020】
親水性シリカ粒子121のシリカ粒子としては、例えば、ヒュームドシリカ、沈降法シリカ、ゲル法シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。親水性シリカ粒子121は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、ヒュームドシリカを含むことがより好ましい。市販のヒュームドシリカとしては、例えば日本アエロジル社製のアエロジルシリーズが挙げられる。
【0021】
親水性シリカ粒子121は、平均粒子径(一次粒子径)が1μm未満である。親水性シリカ粒子121の平均粒子径は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは5nm以上100nm以下、より好ましくは10nm以上70nm以下、更に好ましくは15nm以上50nm以下である。親水性シリカ粒子121の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡観察による測定に基づいて算出される。具体的には、透過型電子顕微鏡による観察を行い得られた画像データを処理して約5000個の粒子径を測定し、その平均値を算出する。
【0022】
親水性シリカ粒子121のBET比表面積は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは10mm/g以上300mm/g以下、より好ましくは20mm/g以上200mm/g以下、更に好ましくは35mm/g以上130mm/g以下である。親水性シリカ粒子121のBET比表面積は、JIS Z8830:2013に基づいて測定される。
【0023】
高撥水層12は、充填粒子122を更に含有することが好ましい。高撥水シート10が親水性シリカ粒子121と充填粒子122とを含有する高撥水層12を備えることにより、高撥水シート10の撥水性能が更に向上し、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、より高い撥水性能を付与することができる。これは、図1に示すように、充填粒子122により形成される凹凸によって親水性シリカ粒子121が存在できる表面積が拡大し、親水性シリカ粒子121のみを含有する場合よりも、充填粒子122の表面に沿って多くの親水性シリカ粒子121が分布することとなり、これにより親水性シリカ粒子121による撥水性能が更に高められるためであると推測される。
【0024】
充填粒子122としては、例えば、平均粒子径が1μm以上のシリカ粒子(以下「大粒径シリカ」という。)、カルシウム粒子、モンモリロナイト粒子、マイカ粒子、タルク粒子などの無機粒子;アクリル系樹脂粒子、ポリエチレン系樹脂粒子などの有機粒子等が挙げられる。充填粒子122は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、大粒径シリカを含むことがより好ましい。
【0025】
大粒径シリカには、表面処理が施されていない親水性大粒径シリカと、シラノール基部分がシラン及び/又はシロキサンで化学的に表面処理された疎水性大粒径シリカとがある。大粒径シリカは、これらの親水性大粒径シリカ及び疎水性大粒径シリカのうちの一方又は両方を含むことが好ましく、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、親水性大粒径シリカを含むことがより好ましい。
【0026】
充填粒子122の平均粒子径は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは1μm以上50μm以下、より好ましくは2μm以上50μm以下、更に好ましくは3μm以上5μm以下である。充填粒子122の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定されるメジアン径である。
【0027】
充填粒子122は、親水性シリカ粒子121よりも平均粒子径が大きい。充填粒子122の平均粒子径は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、親水性シリカ粒子121の平均粒子径の好ましくは20倍以上250倍以下、より好ましくは30倍以上200倍以下、更に好ましくは40倍以上100倍以下、より更に好ましくは50倍以上70倍以下である。
【0028】
充填粒子122は、多孔質であることが好ましい。充填粒子122のBET比表面積は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは150mm/g以上700mm/g以下、より好ましくは200mm/g以上400mm/g以下、更に好ましくは250mm/g以上350mm/g以下である。充填粒子122のBET比表面積も、親水性シリカ粒子121と同様、JIS Z8830:2013に基づいて測定される。
【0029】
充填粒子122のBET比表面積の親水性シリカ粒子121のBET比表面積に対する比は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは2以上20以下、より好ましくは3以上15以下、更に好ましくは4以上10以下である。充填粒子122のBET比表面積は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、親水性シリカ粒子121のBET比表面積よりも大きいことが好ましい。
【0030】
実施形態に係る高撥水層12における充填粒子122の質量含有量は、親水性シリカ粒子121の質量含有量よりも多いことが好ましい。実施形態に係る高撥水層12における充填粒子122の含有量の親水性シリカ粒子121の含有量に対する質量比は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは1以上18以下、より好ましくは2以上15以下、更に好ましくは3以上12以下である。
【0031】
高撥水層12は、親水性シリカ粒子121及び充填粒子122のみで構成されていてもよいが、それらの不織布11を構成する繊維111への定着性を高める観点から、バインダー樹脂を更に含有することが好ましい。
【0032】
バインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び光硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、アクリル酸が付加したエポキシ化合物やウレタン化合物等が挙げられる。バインダー樹脂は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0033】
バインダー樹脂は、親水性シリカ粒子121及び充填粒子122の不織布11を構成する繊維111への定着性を高め且つコンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、シリコーン樹脂を含むことが好ましい。シリコーン樹脂としては、例えば、ポリアルコキシシロキサン、ポリアルキルシロキサン、ポリアルキルアルコキシシロキサン、ポリアリールシロキサン、ポリアリールアルキルシロキサン、ポリエーテルシロキサン等が挙げられる。バインダー樹脂は、これらのシリコーン樹脂のうちのポリアルコキシシロキサンを含むことが好ましい。バインダー樹脂を形成する市販のシリコーン樹脂材料としては、例えばモメンティブジャパン社製の商品名:XR31-B2733等が挙げられる。
【0034】
高撥水層12におけるバインダー樹脂の含有量は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは10質量%以上25質量%以下、更に好ましくは15質量%以上20質量%以下である。
【0035】
バインダー樹脂の100質量部に対する親水性シリカ粒子121及び充填粒子122の合計含有量は、それらの不織布11を構成する繊維111への定着性を高め且つコンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは10質量部以上40質量部以下、より好ましくは15質量部以上35質量部以下、更に好ましくは20質量部以上30質量部以下である。バインダー樹脂の100質量部に対する親水性シリカ粒子121の含有量は、同様の観点から、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは2質量部以上10質量部以下、更に好ましくは3質量部以上6質量部以下である。バインダー樹脂の100質量部に対する充填粒子122の含有量は、同様の観点から、好ましくは5質量部以上35質量部以下、より好ましくは10質量部以上30質量部以下、更に好ましくは15質量部以上25質量部以下である。
【0036】
高撥水層12は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、その他に、バインダー樹脂に均一に溶け込むように含まれたフッ素樹脂を含有していることが好ましい。バインダー樹脂の100質量部に対するフッ素樹脂の含有量は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与する観点から、好ましくは0.2質量部以上1.8質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上1.5質量部以下、更に好ましくは0.8質量部以上1.2質量部以下である。
【0037】
実施形態に係る高撥水シート10の静的な撥水性の指標となる水との接触角は、150°未満である。高撥水シート10の水との接触角は、好ましくは120°以上、より好ましくは130°以上、更に好ましくは140°以上である。この接触角は、温度25±5℃及び湿度50±10%の条件下において、高撥水シート10の表面に純水の水滴を滴下して接線法により測定される。
【0038】
以上のような実施形態に係る高撥水シート10は、例えば、不織布11を、親水性シリカ粒子121と、充填粒子122と、バインダー樹脂とを含有する撥水処理剤に浸漬し、不織布11に撥水処理剤を含浸させて、高撥水層12を形成することにより得ることができる。
【0039】
撥水処理剤は、非常に高い撥水性能を発現する均一な高撥水層12を形成する観点から、親水性シリカ粒子121及び充填粒子122を分散させ且つバインダー樹脂を溶解させる有機溶剤を更に含有することが好ましい。
【0040】
かかる有機溶剤としては、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、n-オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等が挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸イソブチル等が挙げられる。有機溶剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、非常に高い撥水性能を発現する均一な高撥水層12を形成する観点から、芳香族炭化水素溶媒を含むことが好ましく、トルエン及び/又はキシレンを含むことがより好ましい。
【0041】
撥水処理剤は、バインダー樹脂の硬化反応の触媒を含有していてもよい。バインダー樹脂がシリコーン樹脂の場合、かかる触媒としては、例えば、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機亜鉛化合物、有機スズ化合物、有機コバルト化合物、リン酸化合物等が挙げられる。触媒は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、有機チタン化合物を含むことがより好ましい。触媒の含有量は、バインダー樹脂の100質量部に対して、例えば3質量部以上9質量部以下である。
【0042】
撥水処理剤における有機溶剤以外の全固形分濃度は、非常に高い撥水性能を発現する均一な高撥水層12を形成する観点から、好ましくは10質量%以上35質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下、更に好ましくは20質量%以上25質量%以下である。なお、この全固形分濃度は、撥水処理剤が所望の粘度になるように、上記数値範囲外に設定してもよい。
【0043】
不織布11への高撥水層12の形成方法としては、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13に対し、非常に高い撥水性能を付与するとともに、優れた耐摩耗性を得る観点から、不織布11を撥水処理剤に浸漬するディップコートが好ましいが、公知の各種塗工手段を用いて不織布11に撥水処理剤を塗工することにより形成することもできる。
【0044】
以上の実施形態に係る高撥水シート10は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13のコンクリート20を流し込む側の表面に貼り付けられる。なお、本出願におけるコンクリート20とは、硬化前の液体状態のものを指す。また、コンクリート20は、モルタル、セメントペースト等のセメントを含有するセメント系材料を含む広義のコンクリートを意味する。
【0045】
実施形態に係る高撥水型枠14は、コンクリート構造物を形成する際に使用される型枠13のコンクリート20を流し込む側の表面に高撥水シート10が貼り付けられている。
【0046】
型枠13の材質は、特に限定されるものではなく、型枠13として慣用されているものを用いることができる。型枠13の材質としては、例えば、木、樹脂、金属、及びこれらの複合材等が挙げられる。型枠13の材質は、汎用性の観点から、木であることが好ましい。
【0047】
型枠13の大きさや形状等は、特に限定されるものではなく、目的とするコンクリート構造物に合わせて選択することができる。
【0048】
高撥水シート10の型枠13のコンクリート20を流し込む側の表面への貼り付け方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、工業用タッカー、粘着テープ等を用いて型枠13のコンクリート20を流し込む側の表面に貼り付けることができる。高撥水シート10を型枠13に貼り付ける際には、高撥水シート10に皺や弛みが生じることを防ぐために、高撥水シート10を引き伸ばしながら型枠13の表面に貼り付ける。
【0049】
実施形態に係る高撥水型枠14によれば、高撥水シート10が型枠13のコンクリート20を流し込む側の表面に貼り付けられていることにより、非常に高い撥水性能を有し、コンクリート20の高撥水シート10との当接面(表面)に気泡が生じることを防ぐことができる。これは、図2に示すように、コンクリート20が高撥水シート10に接触すると、繊維111の表面が親水性シリカ粒子121により被覆されて非常に高い撥水性能を有することにより、コンクリート20に含まれる空気が抜けやすくなり、気泡が消失するためであると推測される。また、このコンクリート20に含まれる空気は、不織布11の繊維111の間隙に拡散していると考えられる。
【0050】
また、従来の型枠の表面に超撥水剤を塗布して超撥水層を形成した型枠は、超撥水層の強度が弱く、例えば型枠を設置する際に超撥水層に接触する等して超撥水層が損傷すると、撥水性能が著しく低下して、所望の性能を得られないことがある。このため、撥水処理を施した型枠の取り扱いには十分に注意する必要があった。これに対して、実施形態に係る高撥水型枠14によれば、高撥水シート10が優れた耐摩耗性を有するため、高撥水型枠14の取り扱いが容易になるとともに、接触等によって高撥水型枠14の撥水性能が低下することが生じにくい。
【0051】
実施形態に係る高撥水型枠14を使用してコンクリート構造物を形成する際には、まず、目的とするコンクリート構造物の形状に合わせて高撥水型枠14を設置して型を形成する。実施形態に係る高撥水型枠14を設置する際には、型枠13に貼り付けられた高撥水シート10がコンクリート20を流し込む側に面するように高撥水型枠14を設置する。
【0052】
高撥水型枠14の設置については、特に限定されるものではないが、コンクリート20の表面に気泡が生じることを防ぐ観点から、高撥水型枠14を水平面に対して水平又は傾斜させて設置することが好ましい。
【0053】
高撥水型枠14を設置して形成した型にコンクリート20を流し込む。コンクリート20が高撥水型枠14の高撥水シート10に接触すると、コンクリート20に含まれる空気が、不織布11を構成する繊維111の間隙に拡散される。その後、コンクリート標準示方書 施工編に記載されている型枠の取り外しに関する規定に基づいて、コンクリート強度等の所定の基準を満たしていることを確認し、高撥水型枠14を硬化したコンクリート20から取り外す。これにより、目的のコンクリート構造物を得ることができる。
【実施例0054】
(高撥水シート)
以下の実施例1及び2並びに比較例1の高撥水シートを作製した。それぞれの構成は表1にも示す。
【0055】
<実施例1>
有機溶剤のトルエンに、バインダー樹脂となるシリコーン樹脂(XR31-B2733 モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)と、硬化剤の有機チタン化合物(TC-750 松本ファインケミカル社製、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート))と、親水性シリカ粒子の親水性ヒュームドシリカ(アエロジルOX50 日本アエロジル社製、平均粒子径:40nm、BET比表面積:50±15m/g)と、充填粒子の親水性大粒径シリカ(サイリシア310P 富士シリシア化学社製、平均粒子径:2.7μm、BET比表面積:300m/g)と、フッ素樹脂溶液(フロロサーフFS2060-15 フロロテクノロジー社製 15質量%溶液)と、を投入して撹拌することにより撥水処理剤を調製した。撥水処理剤は、シリコーン樹脂固形分濃度が17質量%となるとともに、有機チタン化合物、親水性ヒュームドシリカ、親水性大粒径シリカ、及びフッ素樹脂溶液の含有量が、シリコーン樹脂100質量部に対して、それぞれ6質量部、5質量部、24質量部、及び6質量部となり、且つ全固形分濃度が22質量%となるように調製した。そして、この撥水処理剤を、目付が50g/mの不織布(E05050 旭化成社製)にディップコートした後、150℃で2分間放置して乾燥させることにより、不織布に高撥水層を形成した高撥水シートを得た。この高撥水シートを実施例1とした。
【0056】
<実施例2>
目付が100g/mの不織布(E05100 旭化成社製)を用いたことを除いて実施例1と同様にして得た高撥水シートを実施例2とした。
【0057】
<比較例1>
不織布に撥水処理剤を塗工せず、高撥水層を有しない不織布(E05050 旭化成社製)を高撥水シートとして用いた場合を比較例1とした。
【0058】
【表1】
【0059】
(試験方法)
<接触角>
実施例1及び2のそれぞれについて、接触角計(DM-500 協和界面科学社製)を用い、温度25℃及び湿度50%の条件下において、高撥水シートの表面に純水の水滴1.6μlを滴下して接線法により接触角を測定した。これを摩耗前の接触角とした。
【0060】
また、実施例1及び2のそれぞれについて、表面性測定機(新東科学社製、装置名:TYPE14DR)を用い、その平板上に設置した高撥水シートに、12mm角の研磨テープ(番手#1000)を当接させ、荷重200g、速度2000mm/min、操作距離20mm、摺擦回数50回の条件下で摩耗させた後に、上記の摩耗前の接触角と同様にして接触角を測定した。これを摩耗後の接触角とした。
【0061】
<摩耗量>
実施例1及び2のそれぞれについて、上記の摩耗条件と同様の条件下で摩耗させた後に、摩耗量(μm)を測定した。
【0062】
<高撥水型枠の性能>
まず、型に流し込むコンクリートを調製した。セメント(普通ポルトランドセメント)、細骨材、粗骨材、水及び混和剤を投入して混練りすることによりコンクリートを調製した。このコンクリートの配合は、水175kg/m、セメント320kg/m、細骨材1(粗砂)590kg/m、細骨材2(細砂)250kg/m、粗骨材945kg/m、混和剤3.2kg/mとした。
【0063】
JIS A 1132に基づいて供試体を作製した。実施例1の高撥水シートを鋼製型枠の表面に貼り付けた高撥水型枠を用いて形成した型(10cm×10cm×40cm)に上記調製したコンクリートを流し込んだ。約24時間後に高撥水型枠を取り外し、20±2℃の水中で1週間養生を行って供試体を得た。
【0064】
上記実施例1の高撥水シートを貼り付けた高撥水型枠を用いて作製した供試体と同様に、実施例2及び比較例1の高撥水シートをそれぞれ貼り付けた高撥水型枠を用いて、供試体を作製した。各供試体を用いて、実施例1及び2並びに比較例1のそれぞれの高撥水シートを貼り付けた高撥水型枠の性能を評価した。
【0065】
各供試体の高撥水シートとの当接面(表面)に生じた気泡を目視により確認した。供試体の表面に3mm以上の気泡が確認されない場合はA、供試体の表面に3mm以上の気泡が確認された場合はB、として判定した。
【0066】
また、各供試体に対する高撥水型枠の離型性を目視により確認した。離型力(離型に要する力)が低い場合はA、離型力が高い場合はB、として判定した。
【0067】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。表1によれば、実施例1及び2のいずれも、摩耗前と摩耗後の接触角が140°以上のいわゆる高撥水性が得られていることが分かる。また、摩耗量について、実施例1及び2のいずれも、40μmよりも小さく、優れた耐摩耗性を有していることが分かる。
【0068】
供試体の表面の気泡の残存性について、実施例1及び2の高撥水シートを用いた場合には、いずれも供試体の表面に気泡が確認されず、供試体の表面に気泡が生じることを防いでいることが分かる。一方で、高撥水層を有しない比較例1の高撥水シートを用いた場合は、供試体の表面に気泡が確認され、供試体の表面に気泡が生じることを防ぐことができない。
【0069】
離型性について、実施例1及び2の高撥水シートを用いた場合には、いずれも離型力が低く、離型性に優れていることが分かる。一方で、高撥水層を有しない比較例1の高撥水シートを用いた場合は、離型力が高く、供試体の表面に不織布を構成する繊維が付着していることが確認され、離型性に優れていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、高撥水シート、それを貼り付けた高撥水型枠、それを使用した施工方法及高びコンクリート構造物の製造方法の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0071】
10 高撥水シート
11 不織布
12 高撥水層
13 型枠
14 高撥水型枠
111 繊維
121 親水性シリカ粒子
122 充填粒子
20 コンクリート
図1
図2