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特開2022-142519能動消音システム、及び能動消音構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142519
(43)【公開日】2022-09-30
(54)【発明の名称】能動消音システム、及び能動消音構造
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20220922BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
G10K11/178 100
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042717
(22)【出願日】2021-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】西田 周平
(72)【発明者】
【氏名】金内 健
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA07
5D061BB31
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】種々の騒音源の周囲に容易に移動させて設置できながらも、当該騒音源から発せられる騒音を比較的広帯域で低減する。
【解決手段】騒音源NSから発せられる騒音を低減可能な樹脂材料を含んで成る面状の防音シートSPSを備えると共に、当該防音シートSPSを境として騒音源NS側の空間と逆側の空間である消音対象空間での音波の振幅及び周波数を検出可能なエラーマイクMと、エラーマイクMにて検出される音波の振幅が零に近づくように当該音波と同一振幅で逆位相の消音信号をアナログ回路により生成可能なアナログ制御部ASと、当該アナログ制御部ASにて生成された消音信号に従って制御音を出力するスピーカSとを備え、前記消音対象空間において、エラーマイクMとスピーカSとを防音シートSPSの消音対象空間側の面に対向する位置に設ける。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源から発せられる騒音を消音可能な能動消音システムであって、
前記騒音源から発せられる前記騒音を低減可能な樹脂材料を含んで成る面状の防音シートを備えると共に、
当該防音シートを境として前記騒音源側の空間と逆側の空間である消音対象空間での音波の振幅及び周波数を検出可能なエラーマイクと、前記エラーマイクにて検出される前記音波の振幅が零に近づくように当該音波と同一振幅で逆位相の消音信号をアナログ回路により生成可能なアナログ制御部と、当該アナログ制御部にて生成された消音信号に従って制御音を出力するスピーカとを備え、
前記消音対象空間において、前記エラーマイクと前記スピーカとを前記防音シートの前記消音対象空間側の面に対向する位置に設ける能動消音システム。
【請求項2】
前記スピーカは、前記防音シートの前記面に複数設けられる請求項1に記載の能動消音システム。
【請求項3】
前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面に設けられた単一の前記エラーマイクにて検出される前記音波に基づいて前記アナログ制御部が生成した消音信号に従って、前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面に複数設けられた前記スピーカが前記制御音を出力する請求項1又は2に記載の能動消音システム。
【請求項4】
前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面に複数設けられた隣接する前記スピーカの間隔は、前記エラーマイクにて検出される前記音波の中心周波数に対応する波長の半分以下の距離とする請求項1~3の何れか一項に記載の能動消音システム。
【請求項5】
前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面に複数設けられた隣接する前記スピーカの間隔は、前記エラーマイクにて検出される前記音波の中心周波数が低下するに従って、前記音波の前記中心周波数に対応する波長の半分以下の距離で、徐々に短い距離に設定する請求項1~3の何れか一項に記載の能動消音システム。
【請求項6】
前記音波の中心周波数は、200Hz以下である請求項4又は5に記載の能動消音システム。
【請求項7】
前記防音シートを構成する前記樹脂材料は、ポリエステルとポリ塩化ビニルとの少なくとも一方を含むものである請求項1~6の何れか一項に記載の能動消音システム。
【請求項8】
前記防音シートの前記面を地面に立設する場合、前記エラーマイクは、前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面において前記地面の近傍に設けられる請求項1~7の何れか一項に記載の能動消音システム。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の能動消音システムが、前記騒音源と前記防音シートの前記面の中央とを繋ぐ騒音の伝播方向に沿う騒音伝播方向視において、前記防音シートの前記面が重畳しない状態で隣接して複数備えられている能動消音構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音源から発せられる騒音を消音可能な能動消音システム、及び能動消音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工事等で発生する騒音の伝播を防止するためには、特許文献1に示すように、防音シートが用いられることが多い。当該防音シートは、一般的に、ポリエステルやポリ塩化ビニルなどの樹脂材料から作られることが多く、騒音源と騒音を消音したい消音対象空間との間に設置され、対象の騒音を防音シートで反射する、又は透過により減衰させることで、消音対象空間に伝播する騒音を低減する。
一方で、騒音を低減するべく、騒音と同一振幅で逆位相の制御音を出力し、騒音と制御音とを打ち消し合わせることにより騒音を低減する能動消音装置として、換気装置等の排気口に設けられるものが知られている(特許文献2を参照)。
更に、特許文献3に示すように、防音壁と、当該防音壁の上部に設置される能動消音装置とを備えた能動消音装置が知られており、防音壁により騒音を反射又は減衰する形で低減すると共に、防音壁の上部を超えて回折する形で伝播する騒音については、能動消音装置により低減するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-190160号公報
【特許文献2】特開2017-180845号公報
【特許文献3】特開2005-241706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示される防音シートで、ポリエステルやポリ塩化ビニルなどの樹脂材料から作られる一般的なものは、騒音の中心周波数が低くなるにつれて、防音性が低くなる傾向がある。そして、エンジン音に代表される機械の騒音は、10~100Hz付近の低周波域を含むものあり、これら低周波の騒音は、防音シートにより十分に低減できない。
一方で、低周波の騒音対策として、特許文献2に示すように、換気装置の排気口の近傍に能動消音装置を設置して騒音の消音を図るものでは、工事現場のエンジン等のように、様々な場所に設置される騒音源に対して、柔軟に対応する形で設置可能に構成されたものではない。
更に、上記特許文献3に開示の技術にあっては、回折音は低減できるものの、防音壁を設ける必要があるため大規模となり、工事現場のエンジン等の設置場所が工事の進捗により変化する可能性のあるものに対して、柔軟に移動させ設置することが難しい。また、比較的低周波で防音壁を透過する可能性のある騒音については、十分に低減できない虞があり、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、種々の騒音源の周囲に容易に移動させて設置できながらも、当該騒音源から発せられる騒音を比較的広帯域で低減可能な能動消音システム、及び能動消音構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための能動消音システムは、
騒音源から発せられる騒音を消音可能な能動消音システムであって、その特徴構成は、
前記騒音源から発せられる前記騒音を低減可能な樹脂材料を含んで成る面状の防音シートを備えると共に、
当該防音シートを境として前記騒音源側の空間と逆側の空間である消音対象空間での音波の振幅及び周波数を検出可能なエラーマイクと、前記エラーマイクにて検出される前記音波の振幅が零に近づくように当該音波と同一振幅で逆位相の消音信号をアナログ回路により生成可能なアナログ制御部と、当該アナログ制御部にて生成された消音信号に従って制御音を出力するスピーカとを備え、
前記消音対象空間において、前記エラーマイクと前記スピーカとを前記防音シートの前記消音対象空間側の面に対向する位置に設ける点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、アナログ制御部により、エラーマイクにて検出される音波の振幅が零に近づくように音波と同一振幅で逆位相の消音信号を生成するから、防音シートにエラーマイクと制御音を出力するスピーカとを設ける構成、即ち、エラーマイクとスピーカとの距離が近く消音信号を生成するための時間が十分にとれない構成であっても、アナログ回路により迅速に消音信号を生成して、制御音をスピーカから良好に出力できる。
これにより、スピーカ及びエラーマイクを防音シートと一体的に設けた能動消音システムを、エンジン等の騒音源と消音対象空間との間に容易に設置することができ、現場での施工性の高いシステムを実現できる。
また、騒音源からの騒音のうち、比較的高周波領域の騒音は防音シートにて低減しつつ、当該防音シートを透過する比較的低周波領域の騒音はスピーカからの制御音により打ち消すことができるから、防音シートのみを設置する場合に比べて比較的広帯域での消音効果を期待できる。
以上より、種々の騒音源の周囲に容易に移動して設置できながらも、当該騒音源から発せられる騒音を比較的広帯域で低減可能な能動消音システムを実現できる。
【0008】
能動消音システムの更なる特徴構成は、
前記スピーカは、前記防音シートの前記面に複数設けられる点にある。
【0009】
上記特徴構成の如く、複数のスピーカを防音シートの面に設けることで、消音対象空間において騒音を面的に低減することができると共に、複数のスピーカを防音シートと一体的に移動させることができるので、可搬性を向上でき、工事現場等に設けられる発電機等が騒音源である場合に、当該騒音源の移動に伴う能動消音システムの移動を容易に行うことができる。
【0010】
能動消音システムの更なる特徴構成は、
前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面に設けられた単一の前記エラーマイクにて検出される音波に基づいて前記アナログ制御部が生成した消音信号に従って、前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面に複数設けられた前記スピーカが前記制御音を出力する点にある。
【0011】
一般的な防音シートのように全体で同一の材料により略同一の厚みで製造されている場合、防音シートを通過した騒音の振幅及び周波数は、防音シートの面の何れの位置を透過したものでも略同一となる。
上記特徴構成によれば、防音シートの面に対して複数設けられたスピーカで出力するための消音信号を、一のエラーマイクにて取得される騒音により生成されたものを用いるから、例えば、夫々のスピーカに対してエラーマイクを備える構成に比べ、構成を簡略化できる。
また、複数のスピーカにて制御音を出力するから、当該複数のスピーカを防音シートの面に対して分散して設けることで、比較的広い面積を有する防音シートであっても、当該防音シートを透過する低周波の騒音を略全面に亘って低減できる。
【0012】
能動消音システムの更なる特徴構成は、
前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面に複数設けられた隣接する前記スピーカの間隔は、前記エラーマイクにて検出される前記音波の中心周波数に対応する波長の半分以下の距離とする点にある。
【0013】
本願の発明者らは、一般的に工事現場等で用いられる防音シートにおいて、防音シートの消音対象空間側の面に対して複数設けられた隣接するスピーカの間隔を、防音シートの消音対象空間の面に対して設けられたエラーマイクにて検出される音波の中心周波数に対応する波長の半分以下の距離とすることで、中心周波数に対応する波長の半分より長くする場合に比べ、防音シートの消音対象空間側の音波の振幅を効果的に低減できるという知見を得た。
当該構成を採用することにより、採用する防音シートを透過し易い音波の中心周波数に合わせて、隣接するスピーカの間隔を設定することで、当該中心周波数の低減に最適化された能動消音システムを実現できる。
【0014】
能動消音システムの更なる特徴構成は、
前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面に複数設けられた隣接する前記スピーカの間隔は、前記エラーマイクにて検出される前記音波の中心周波数が低下するに従って、前記音波の前記中心周波数に対応する波長の半分以下の距離で、徐々に短い距離に設定する点にある。
【0015】
上記特徴構成の如く、防音シートの消音対象空間側の面に対して複数設けられた隣接するスピーカの間隔は、エラーマイクにて検出される音波の中心周波数が低下するに従って、音波の中心周波数に対応する波長の半分以下の距離で、徐々に短い距離に設定することで、隣接するスピーカ間の距離を一定に維持する場合に比べ、スピーカらの制御音による消音効果を向上し得る。
【0016】
能動消音システムの更なる特徴構成は、
前記音波の中心周波数は、200Hz以下である点にある。
【0017】
発明者らは、上述の構成により、特に、防音シートを透過した騒音としての音波の中心周波数が200Hz以下の場合に、高い消音性能を発揮することを確認している。
【0018】
前記防音シートを構成する前記樹脂材料は、ポリエステルとポリ塩化ビニルとの少なくとも一方を含むものである点にある。
【0019】
ポリエステルとポリ塩化ビニルとの少なくとも一方を含む樹脂材料からなる防音シートでは、騒音の中心周波数が低くなるにつれて、防音性が低くなる場合が多い。
このような防音シートを本発明に適用することにより、例えば200Hzより高い比較的高周波数の騒音については防音シートにより消音すると共に、200Hzより低い比較的低周波数の騒音で防音シートを透過してくる音波については、制御音と干渉させて効果的に打ち消すことができる。
【0020】
能動消音システムの更なる特徴構成は、
前記防音シートの前記面を地面に立設する場合、前記エラーマイクは、前記防音シートの前記消音対象空間側の前記面において前記地面の近傍に設けられる点にある。
【0021】
上記特徴構成の如く、防音シートの面を地面に対して立設する場合、エラーマイクを、地面の近傍の防音シートの消音対象空間側の面に対して設けることで、エラーマイクにおいて、騒音源から防音シートの上端外側を通り回折する騒音よりも、防音シートを透過する音波を積極的に検出して、当該検出した音波の振幅及び周波数に基づいて消音信号を生成してスピーカにより制御音を出力するから、防音シートを透過した音波を効果的に打ち消すことができる制御音を出力することができる。
【0022】
能動消音構造の更なる特徴構成は、
請求項1~8の何れか一項に記載の能動消音システムが、前記騒音源と前記防音シートの前記面の中央とを繋ぐ騒音の伝播方向に沿う騒音伝播方向視において、前記防音シートの前記面が重畳しない状態で隣接して複数備えられている点にある。
【0023】
上記特徴構成によれば、例えば、騒音源をスピーカ及びマイクを備えた防音シートにて外囲して覆う形で、騒音源から四方へ広がる騒音を低減できるから、騒音源の周囲に対して漏れ出る騒音を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の能動消音システムの概略構成図である。
図2】本発明の能動消音システムを消音対象空間側から見た図である。
図3】本発明の能動消音システムを一つ設けた場合の消音効果を示すシミュレーション結果である。
図4】本発明の能動消音システムの複数から成る能動消音機構を設けた場合の消音効果を示すシミュレーション結果である。
図5】本発明の能動消音システムの複数から成る能動消音機構を設けた場合で、スピーカ同士の間隔を中心周波数に対応する波長と同程度としたときの消音効果を示すシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る能動消音システム100、及び能動消音機構は、種々の騒音源の周囲に容易に移動させて設置できながらも、当該騒音源から発せられる騒音を比較的広帯域で低減可能な能動消音システムに関する。
以下、図1図4に基づいて、当該能動消音システム100、及び能動消音機構を説明する。
【0026】
当該実施形態に係る能動消音システム100は、騒音源NSから発せられる騒音を消音可能なものであり、騒音源NSから発せられる騒音を低減可能な樹脂材料を含んで成る面状の防音シートSPSを備えると共に、消音対象空間での音波の振幅を検出可能なエラーマイクMと、当該エラーマイクMにて検出される音波の振幅が零に近づくように当該音波と同一振幅で逆位相の消音信号をアナログ回路により生成可能なアナログ制御部ASと、当該アナログ制御部ASにて生成された消音信号に従って制御音を出力するスピーカSとを備え、当該防音シートSPSを境として騒音源NS側の空間と逆側の空間である消音対象空間において、エラーマイクMとスピーカSとを防音シートSPS消音対象空間側の面に対向する位置に設ける。
ここで、消音対象空間とは、消音が望まれる空間であり、図1において、防音シートSPSを境として紙面右側の空間である。
即ち、当該能動消音システム100では、アナログ制御部ASによりフィードバック制御が実行される。
【0027】
当該実施形態に係る防音シートSPSは、ポリエステルとポリ塩化ビニルとの少なくとも一方を樹脂材料として含むものである。
【0028】
ここで、防音シートSPSには、単一のエラーマイクMと、複数のスピーカSとが一体的に設けられており、防音シートSPSの消音対象空間側の面に設けられた単一のエラーマイクMにて検出される音波に基づいてアナログ制御部ASが生成した消音信号に従って、防音シートSPSの消音対象空間側の面に複数設けられたスピーカSが制御音を出力する。更に当該防音シートSPSの近傍には、能動消音に係る演算を実行するアナログ制御部AS及び消音信号を増幅するアンプAPとが設置される。
【0029】
このように、当該能動消音システム100では、アクティブ・ノイズ・コントロール(以下、ANCと略称する場合がある)に係る構成として、防音シートSPSにスピーカSと複数のエラーマイクMとを一体的に設ける構成を採用しており、スピーカSとエラーマイクMとの間の距離が十分に取れず、能動消音に係る演算時間を実行するための時間を十分に確保することが難しい。そこで、当該能動消音システム100では、能動消音に係る演算を実行するために、消音信号をアナログ回路により生成可能なアナログ制御部ASを備えており、防音シートSPSに一体的に設けたエラーマイクM及びスピーカSとの間で消音信号を、デジタル回路よりも高速な演算により良好に生成できる。
【0030】
次に、防音シートSPS、エラーマイクM、スピーカSの設置形態について説明を追加する。
図2に示すように、複数のスピーカSは、防音シートSPSの消音対象空間側の面に複数設けられ、隣接するスピーカSの間隔(図2でL1、L2)は、エラーマイクMにて検出される音波(騒音源NSからの騒音のうち防音シートSPSを透過した音波)の中心周波数に対応する波長の半分以下の距離で配設されている。
例えば、防音シートSPSとして上述の樹脂材料から成るものを採用しており、騒音源NSがエンジン等の回転機である場合、騒音のうち比較的低周波数帯域の200Hz以下程度の音波が防音シートSPSを透過し易くなる。
中心周波数を200Hzとすると当該中心周波数に対応する波長は、1.7m程度となるため、図2では、例えば、L1を0.6m程度、L2を0.68m程度に設定しており、縦方向(高さ方向)に4つ、横幅方向に3つで、計12個のスピーカSを格子状に備える、即ち、格子の格子点に設ける形態で備える。ちなみに、図2に示す防音シートSPSは、縦(高さ)が3.4m、横幅が1.8m、厚みが1.0mmのものを、地面Gに立設して設けている。
更に、エラーマイクMは、地面Gに立設された防音シートSPSのうち、縦方向(高さ方向)で地面Gに最も近く、横幅方向で中央のスピーカSに対向する形で、防音シートSPSの面から例えば1m程度の位置に、防音シートSPSに支持棒等により固定されて設置される。
また、スピーカSの制御音の出力方向は、防音シートSPSの面の法線方向で、消音対象空間へ向かう方向である。
以上の構成により、防音シートSPSでは十分に低減できない中心周波数が200Hz以下の比較的低周波の音波を、面的に良好に低減することが可能となる。
【0031】
これまで説明してきた能動消音システム100を用いた消音制御のシミュレーション結果を図3に基づいて説明する。
図3は、紙面縦方向が100mで紙面横方向が100mのシミュレーション空間において、紙面縦方向で50m且つ紙面横方向で0mの位置に騒音源NSを設置し、これまで説明してきた一の能動消音システム100を防音シートSPSの面が紙面縦方向に沿い且つ紙面奥行方向に直交する形で、紙面縦方向で50m、紙面横方向で50mの位置を中心位置として紙面右側にスピーカSの制御音が出力されるよう設置し、騒音源NSから周波数200Hzの騒音が出される場合のシミュレーション結果である。
図3(a)は、騒音源NSから騒音が出されている場合のシミュレーション空間の夫々の位置での音量を示し、図3(b)は、騒音源NSからの騒音がエラーマイクMにて検出されている前提での能動消音システム100を作動させている場合のシミュレーション空間の夫々の位置での音量(ただし、騒音源NSからの騒音は出されていない状態での音量)を示し、図3(c)は、騒音源NSからの騒音が出力され且つ能動消音システム100を作動させている場合のシミュレーション空間の夫々の位置での音量を示し、図3(d)は図3(c)の音量から図3(a)の音量を減算した後の差分音量を示す。
図3のシミュレーション結果から、当該実施形態に係る能動消音システム100を働かせることにより、消音対象空間での音量を効果的に低減できていることがわかる。特に、騒音源NSから騒音の伝播方向で、紙面縦方向で50m、紙面横方向で50mの位置を中心位置とした能動消音システム100の近傍からその下流側にかけて、大きい消音効果が発揮できていることがわかる。
【0032】
次に、上述した能動消音システム100を、騒音源NSと防音シートSPSの面の中央とを繋ぐ騒音の伝播方向に沿う騒音伝播方向視において、防音シートSPSの面が重畳しない状態で隣接して複数備えた能動消音構造に用いて、消音制御を実行した場合のシミュレーション結果を図4に基づいて説明する。尚、図4(a)~(d)に示される音量は、図3(a)~(d)に示す音量と同様の定義である。
当該シミュレーションに係る能動消音構造は、これまで説明してきた能動消音システム100を、防音シートSPSの面が紙面縦方向に沿い且つ紙面奥行方向に直交する状態で、紙面縦方向で50m且つ紙面横方向で50mの位置を中心位置として、紙面縦方向に5つ並べて、紙面右側にスピーカSの制御音が出力されるように設置したものである。
当該能動消音構造では、上記能動消音システム100単体を備える場合に比べ、紙面縦方向で50m、紙面横方向で50mの位置を中心位置とした能動消音構造の近傍からその下流側にかけて、より大きく騒音低減効果が得られると共に、消音効果が高い領域を、紙面縦方向に沿って拡大できていることがわかる。
【0033】
更に、図5(a)~(d)に、上述した能動消音機構と同一の構成のものを設けた場合で、スピーカS同士の間隔を中心周波数に対応する波長(1.7m)と同程度としたときの消音効果を示すシミュレーション結果を示す。
当該シミュレーション結果から判明するように、発明者らは、スピーカS同士の間隔を中心周波数に対応する波長(1.7m)の半分より長くした場合、能動消音システム100より消音対象空間側において、騒音及びスピーカSからの音同士が強め合い、効果的な消音効果が得られないことを確認している。
【0034】
[別実施形態]
(1)上記実施形態では、リファレンスマイクを備えずエラーマイクのみを備えたフィードバック式の能動消音形態をとる場合の構成を例示した。
一方で、エラーマイクに加え、例えば騒音源側空間における騒音源近傍の騒音を検出するリファレンスマイクを設け、当該リファレンスマイクにて検出された検出音にも基づく形態で、フィードフォワード式の能動消音形態をとることもできる。
【0035】
(2)上記実施形態では、能動消音システム100において、防音シートSPSの面にスピーカSを備えると共にエラーマイクMを備える構成例を示したが、防音シートSPSの面から離間した消音対象空間の任意の位置に、スピーカSとエラーマイクMを備える構成を採用しても構わない。
【0036】
(3)上記実施形態では、能動消音システム100において、一の防音シートSPSに複数のスピーカSを備える構成例を示したが、一の防音シートSPSには、1以上の任意の数のスピーカSを設けても構わない。
更に、上記実施形態では、アナログ制御部ASは、一の防音シートSPSに設けられる単一のエラーマイクMにて検出した音波の振幅及び周波数により、一の防音シートSPSに設けられるすべてのスピーカSに送信する消音信号を生成していたが、一の防音シートSPSに複数のエラーマイクMを設けても構わないし、一のエラーマイクMには、一以上の任意の数のスピーカSを対応させても構わない。
【0037】
(4)また、一の防音シートSPSに複数のスピーカSを設ける場合、当該スピーカSの配置は、格子の格子点に配設する構成に限らず、任意の位置に配置することができ、当該スピーカS同士の間隔は、任意の間隔に調整可能である。
【0038】
(5)防音シートSPSの消音対象空間側の面に複数設けられた隣接するスピーカSの間隔(図2でL1及びL2)は、エラーマイクMにて検出される音波の中心周波数が低下するに従って、音波の中心周波数に対応する波長の半分以下の距離で、徐々に短い距離に設定する構成を採用することもできる。
【0039】
(6)上記実施形態では、防音シートSPSの面は、平面形状のものを示したが、曲面形状のものも採用することができる。例えば、騒音源NSから等間隔の距離に防音シートSPSが位置する半球面形状のものとしても構わない。
【0040】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の能動消音システム、及び能動消音構造は、種々の騒音源の周囲に容易に移動させて設置できながらも、当該騒音源から発せられる騒音を比較的広帯域で低減可能な能動消音システム、及び能動消音構造として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
100 :能動消音システム
AP :アンプ
AS :アナログ制御部
G :地面
M :エラーマイク
NS :騒音源
S :スピーカ
SPS :防音シート
図1
図2
図3
図4
図5