(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022142852
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】制御装置、水電解システム、水電解装置の運転方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20220926BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20220926BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220926BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20220926BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20220926BHJP
H01M 8/0656 20160101ALI20220926BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B1/02
C25B9/00 A
C25B9/77
C25B9/65
H01M8/0656
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043081
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】香山 智之
(72)【発明者】
【氏名】豊田 節治
【テーマコード(参考)】
4K021
5H127
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB05
4K021BC01
4K021BC09
4K021CA05
4K021CA06
4K021CA15
4K021DB04
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
4K021EA05
4K021EA06
5H127AB04
5H127BA02
5H127BA14
(57)【要約】
【課題】 水電解装置の効率を向上させる他の技術を提供する。
【解決手段】 制御装置は、水電解装置において製造された水素を、水電解装置に接続された水素貯留部に貯留可能に構成されており、制御装置は、入力される水素要求量から、水電解装置の予定運転時間を算出し、予定運転時間が所定の運転時間閾値より小さく、かつ水電解装置がコールドスタートの状態であり、かつ水素貯留部内の水素貯留量から水素要求量を減じた量が所定の貯留閾値より大きいという運転停止条件を満たす場合は、水電解装置を運転させず、運転停止条件を満たさない場合に、水電解装置を、少なくとも予定運転時間の間、運転させ、運転時間閾値は、水電解装置のコールドスタートからの運転時間と水素製造原単位との関係において、水素製造原単位が略一定になる最小の時間の近傍の値である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の電気分解により水素を製造する水電解装置を制御する制御装置であって、
前記水電解装置は、前記水電解装置において製造された水素を、前記水電解装置に接続された水素貯留部に貯留可能に構成されており、
前記制御装置は、
入力される水素要求量から、前記水電解装置の予定運転時間を算出し、
前記予定運転時間が所定の運転時間閾値より小さく、かつ前記水電解装置がコールドスタートの状態であり、かつ前記水素貯留部内の水素貯留量から前記水素要求量を減じた量が所定の貯留閾値より大きいという運転停止条件を満たす場合は、前記水電解装置を運転させず、前記運転停止条件を満たさない場合に、前記水電解装置を、少なくとも前記予定運転時間の間、運転させ、
前記運転時間閾値は、
前記水電解装置のコールドスタートからの運転時間と水素製造原単位との関係において、前記水素製造原単位が略一定になる最小の時間の近傍の値である、
制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記水電解装置の運転停止継続時間が所定の運転停止継続時間閾値より大きい場合に、前記水電解装置がコールドスタートの状態であると判断する、
制御装置。
【請求項3】
水の電気分解により水素を製造する水電解装置と、前記水電解装置を制御する制御装置と、を備える水電解システムであって、
前記水電解装置は、前記水電解装置において製造された水素を、前記水電解装置に接続された水素貯留部に貯留可能に構成されており、
前記制御装置は、
請求項1または請求項2に記載の制御装置である、
水電解システム。
【請求項4】
請求項3に記載の水電解システムであって、
前記水電解装置は、
n(n≧1の整数)個の固体高分子形の水電解スタックと、
前記n個の前記水電解スタックのそれぞれに対して、電源から入力される入力電力を、個別に分配可能な電力供給部を、備え、
前記制御装置は、
前記水電解装置を運転させる際、
前記n個の水電解スタックのうち、m(1≦m≦nの整数)個の前記水電解スタックを選択し、前記電力供給部を制御して、前記m個の水電解スタックのそれぞれへ、下限電流値以上の電流の電力を供給させ、
前記下限電流値は、
前記水電解スタックの電流効率が98%以上となり、かつ、前記電源の電源効率と、前記水電解スタックの電力効率と、の積である総合電力効率が最大となる電流値であり、
前記mは、
前記入力電力に応じて決定され、前記m個の水電解スタックのそれぞれに、前記下限電流値で電力を供給可能な最大数である、
水電解システム。
【請求項5】
水の電気分解により製造した水素を、自身に接続された水素貯留部に貯留可能に構成された水電解装置の運転方法であって、
入力される水素要求量から、前記水電解装置の予定運転時間を算出し、
前記予定運転時間が所定の運転時間閾値より小さく、かつ前記水電解装置がコールドスタートの状態であり、かつ前記水素貯留部内の水素貯留量から前記水素要求量を減じた量が所定の貯留閾値より大きいという運転停止条件を満たす場合は、前記水電解装置を運転させず、前記運転停止条件を満たさない場合に、前記水電解装置を、少なくとも前記予定運転時間の間、運転させ、
前記運転時間閾値は、
前記水電解装置のコールドスタートからの運転時間と水素製造原単位との関係において、前記水素製造原単位が略一定になる最小の時間の近傍の値である、
水電解装置の運転方法。
【請求項6】
水の電気分解により製造した水素を、自身に接続された水素貯留部に貯留可能に構成された水電解装置を制御するためのプログラムであって、コンピュータに、
入力される水素要求量から、前記水電解装置の予定運転時間を算出する機能と、
前記予定運転時間が所定の運転時間閾値より小さく、かつ前記水電解装置がコールドスタートの状態であり、かつ前記水素貯留部内の水素貯留量から前記水素要求量を減じた量が所定の貯留閾値より大きいという運転停止条件を満たす場合は、前記水電解装置を運転させず、前記運転停止条件を満たさない場合に、前記水電解装置を、少なくとも前記予定運転時間の間、運転させる機能と、を実現させるためのプログラムであって、
前記運転時間閾値は、
前記水電解装置のコールドスタートからの運転時間と水素製造原単位との関係において、前記水素製造原単位が略一定になる最小の時間の近傍の値である、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解によって水素と酸素を生成する水電解装置において、従来、水電解装置の効率を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、高圧水電解装置に供給される循環水の温度を検出し、循環水の温度が上昇する運転起動時は、定格運転時の電流密度よりも低い低電流密度で運転し、循環水の温度が一定の温度範囲内に維持される際は定格運転に移行し、定格運転時に、循環水の温度に基づいて予め設定された電流密度で運転する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術の場合、循環水の温度を検出する温度センサを設ける必要があり、かつ検出された循環水温度に応じて、複雑な制御を行う必要がある。そのため、より簡易な制御により、水電解装置の効率を向上させる技術が望まれている。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、水電解装置の効率を向上させる他の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、水の電気分解により水素を製造する水電解装置を制御する制御装置が提供される。この制御装置は、前記水電解装置において製造された水素を、前記水電解装置に接続された水素貯留部に貯留可能に構成されており、前記制御装置は、入力される水素要求量から、前記水電解装置の予定運転時間を算出し、前記予定運転時間が所定の運転時間閾値より小さく、かつ前記水電解装置がコールドスタートの状態であり、かつ前記水素貯留部内の水素貯留量から前記水素要求量を減じた量が所定の貯留閾値より大きいという運転停止条件を満たす場合は、前記水電解装置を運転させず、前記運転停止条件を満たさない場合に、前記水電解装置を、少なくとも前記予定運転時間の間、運転させ、前記運転時間閾値は、前記水電解装置のコールドスタートからの運転時間と水素製造原単位との関係において、前記水素製造原単位が略一定になる最小の時間の近傍の値である。
【0008】
ここで、コールドスタートの状態とは、例えば、水電解装置の運転を停止してから時間が経過した場合等、水電解装置の効率が良くない状態である。
この構成によれば、水素要求を受け付けた際に、必ず、水電解装置を運転させるわけではなく、水素要求量から算出される水電解装置の予定運転時間が水電解装置の効率が良くない範囲であって、貯留水素量が要求水素量より十分に多い場合には、水電解装置を運転させない。そして、水電解装置がコールドスタートの状態でない場合や、予定運転時間が水電解装置の効率が良くなる範囲である場合に、水電解装置を運転させることができる。そのため、水素要求を受け付けた際に、水電解装置の状態に関わらず、常に、水電解装置を運転させる場合と比較して、水電解装置の効率を、向上させることができる。また、この構成によれば、水電解装置の効率が低くなる場合には、水電解装置を運転させないことにより、水電解装置の効率を向上させるため、制御を簡易化することができる。
【0009】
(2)上記形態の制御装置であって、前記水電解装置の運転停止継続時間が所定の運転停止継続時間閾値より大きい場合に、前記水電解装置がコールドスタートの状態であると判断してもよい。このようにすると、コールドスタートの状態であることを判断するためのセンサ等を要さないため、コスト低減に資することができる。
【0010】
(3)本発明の他の形態によれば、水の電気分解により水素を製造する水電解装置と、前記水電解装置を制御する制御装置と、を備える水電解システムが提供される。この水電解システムにおいて、前記水電解装置は、前記水電解装置において製造された水素を、前記水電解装置に接続された水素貯留部に貯留可能に構成されており、前記制御装置は、上記形態の制御装置である。
【0011】
この構成によれば、水素要求を受け付けた際に、必ず、水電解装置を運転させるわけではなく、水素要求量から算出される水電解装置の予定運転時間が水電解装置の効率が良くない範囲であって、貯留水素量が要求水素量より十分に多い場合には、水電解装置を運転させない。そして、水電解装置がコールドスタートの状態でない場合や、予定運転時間が水電解装置の効率が良くなる範囲である場合に、水電解装置を運転させることができる。そのため、水素要求を受け付けた際に、水電解装置の状態に関わらず、常に、水電解装置を運転させる場合と比較して、水電解装置の効率を、向上させることができる。また、この構成によれば、水電解装置の効率が低くなる場合には、水電解装置を運転させないことにより、水電解装置の効率を向上させるため、制御を簡易化することができる。
【0012】
(4)上記形態の水電解システムであって、前記水電解装置は、n(n≧1の整数)個の固体高分子形の水電解スタックと、前記n個の前記水電解スタックのそれぞれに対して、電源から入力される入力電力を、個別に分配可能な電力供給部を、備え、前記制御装置は、前記水電解装置を運転させる際、前記n個の水電解スタックのうち、m(1≦m≦nの整数)個の前記水電解スタックを選択し、前記電力供給部を制御して、前記m個の水電解スタックのそれぞれへ、下限電流値以上の電流の電力を供給させ、前記下限電流値は、前記水電解スタックの電流効率が98%以上となり、かつ、前記電源の電源効率と、前記水電解スタックの電力効率と、の積である総合電力効率が最大となる電流値であり、前記mは、前記入力電力に応じて決定され、前記m個の水電解スタックのそれぞれに、前記下限電流値で電力を供給可能な最大数であってもよい。
【0013】
この構成によれば、入力電力に応じて作動させる水電解スタックの数を決定することができる。そして、作動させる水電解スタックのそれぞれに、下限電流値以上の電流の電力を供給することができる。下限電流値を、いわゆるクロスリークの量を低減可能な電流範囲の内、総合電力効率が最大となるよう設定しているため、水電解スタックの耐久性を向上させると共に、水電解スタックの効率を適切にすることができる。そのため、さらに、水電解装置の効率を向上させることができる。
【0014】
(5)本発明の他の形態によれば、水の電気分解により製造した水素を、自身に接続された水素貯留部に貯留可能に構成された水電解装置の運転方法が提供される。この水電解装置の運転方法は、入力される水素要求量から、前記水電解装置の予定運転時間を算出し、前記予定運転時間が所定の運転時間閾値より小さく、かつ前記水電解装置がコールドスタートの状態であり、かつ前記水素貯留部内の水素貯留量から前記水素要求量を減じた量が所定の貯留閾値より大きいという運転停止条件を満たす場合は、前記水電解装置を運転させず、前記運転停止条件を満たさない場合に、前記水電解装置を、少なくとも前記予定運転時間の間、運転させ、前記運転時間閾値は、前記水電解装置のコールドスタートからの運転時間と水素製造原単位との関係において、前記水素製造原単位が略一定になる最小の時間の近傍の値である。
【0015】
この水電解装置の運転方法によれば、水素要求を受け付けた際に、必ず、水電解装置を運転させるわけではなく、水素要求量から算出される水電解装置の予定運転時間が水電解装置の効率が良くない範囲であって、貯留水素量が要求水素量より十分に多い場合には、水電解装置を運転させない。そして、水電解装置がコールドスタートの状態でない場合や、予定運転時間が水電解装置の効率が良くなる範囲である場合に、水電解装置を運転させることができる。そのため、水素要求を受け付けた際に、水電解装置の状態に関わらず、常に、水電解装置を運転させる場合と比較して、水電解装置の効率を、向上させることができる。
【0016】
(6)本発明の他の形態によれば、電気分解により製造した水素を、自身に接続された水素貯留部に貯留可能に構成された水電解装置を制御するためのプログラムが提供される。このプログラムは、コンピュータに、入力される水素要求量から、前記水電解装置の予定運転時間を算出する機能と、前記予定運転時間が所定の運転時間閾値より小さく、かつ前記水電解装置がコールドスタートの状態であり、かつ前記水素貯留部内の水素貯留量から前記水素要求量を減じた量が所定の貯留閾値より大きいという運転停止条件を満たす場合は、前記水電解装置を運転させず、前記運転停止条件を満たさない場合に、前記水電解装置を、少なくとも前記予定運転時間の間、運転させる機能と、を実現させるためのプログラムであって、前記運転時間閾値は、前記水電解装置のコールドスタートからの運転時間と水素製造原単位との関係において、前記水素製造原単位が略一定になる最小の時間の近傍の値である。
【0017】
このプログラムに従って、水電解装置を制御するコンピュータが機能すれば、水素要求を受け付けた際に、必ず、水電解装置を運転させるわけではなく、水素要求量から算出される水電解装置の予定運転時間が水電解装置の効率が良くない範囲であって、貯留水素量が要求水素量より十分に多い場合には、水電解装置を運転させない。そして、水電解装置がコールドスタートの状態でない場合や、予定運転時間が水電解装置の効率が良くなる範囲である場合に、水電解装置を運転させることができる。そのため、水素要求を受け付けた際に、水電解装置の状態に関わらず、常に、水電解装置を運転させる場合と比較して、水電解装置の効率を、向上させることができる。また、水電解装置の効率を向上させるためのプログラムを簡易化することができる。
【0018】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、水電解システムを備えるメタン製造システム、水電解システムを備える二酸化炭素回収システム、水電解システムを備える水素ステーション、コンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態の水電解システムの構成を概念的に示す模式図である。
【
図2】水電解セルの概略構成を概念的に示す説明図である。
【
図3】制御装置における運転有無決定処理を示すフローチャートである。
【
図4】運転時間と水素製造原単位との関係を概念的示す図である。
【
図5】制御装置における供給電力制御の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
図1は、本発明の一実施形態の水電解システム100の構成を概念的に示す模式図である。本実施形態の水電解システム100には、水素貯留部300が接続されており、水電解システム100において製造された水素が、水素貯留部300を介して水素消費装置400に供給される。残余の水素は、水素貯留部300に貯留される。本実施形態の水電解システム100は、例えば、工場に設置され、水素消費装置400としての燃料電池フォークリフトに水素を供給する。
【0021】
本実施形態の水電解システム100は、水電解装置50と、制御装置30と、を備える。水電解装置50は、4個の水電解スタック10と、4個の水電解スタック10に電力を分配する電力供給部20と、4個の水電解スタック10に対して水を供給可能な水供給部40と、を備える。水電解システム100は、各水電解スタック10において水を電気分解することで酸素と水素を生成する。
【0022】
4個の水電解スタック10を区別する場合には、それぞれ、第1水電解スタック11、第2水電解スタック12、第3水電解スタック13、および第4水電解スタック14と、呼ぶ。なお、水電解スタック10の個数は、本実施形態に限定されず、目的に応じて、任意に設定することができる。
【0023】
水電解スタック10は、高分子電解質膜を隔膜に用いた水電解セルが複数個積層されて形成される。
図2は、水電解セル10Cの概略構成を概念的に示す説明図である。水電解セル10Cは、PEM(Polymer Electrolyte Membrane:固体高分子電解質膜)形水電解セルであって、膜電極接合体(以下、「MEA」という)1を有する。MEA1は、プロトン(H
+)と水を通すことが可能な電解質膜1aの両面に、水を分解し酸素とプロトン(水素イオン)を生成する酸素極1bと、水素イオンから水素を生成する水素極1cと、が接合されたものである。酸素極1bの表面には、金属メッシュ等から成る給電体5が配置され、MEA1の酸素極1b側には、ガスケット2を介してセパレータ4が配置されている。同様に、水素極1cの表面には、金属メッシュ等から成る給電体6が配置され、MEA1の水素極1c側には、ガスケット3を介してセパレータ4が配置されている。セパレータ4は、いわゆる、複極板である。
【0024】
水電解セル10Cの構造は、水電解が可能である限りにおいて、特に限定されない。例えば、水電解セル10Cは、
(a)酸素極側及び水素極側の双方において、水を循環させる両極循環方式、
(b)酸素極側のみ水を循環させる片側循環方式
のいずれであっても良い。
【0025】
水電解セル10Cでは、水供給部40から酸素極側に水が供給されている状態において、電力が供給されると、酸素極1bにおいて水が電気分解され、酸素と水素イオンが生成される。生成された酸素は、電気分解されなかった水の一部とともに排出される。酸素極1bで生成された水素イオンは、水(随伴水)とともに、水素極側に移動し、水素極1cにおいて電子と結合することで水素になる。水素極1cにおいて生成された水素は、電解質膜を透過した透過水、および随伴水とともに排出される。
【0026】
図2に示すように、水素極1cで生成された水素が、水素極側と酸素極側との圧力差(水素極側の圧力が高い)および水素濃度差により、電解質膜1aを透過して酸素極側に移動する場合がある。また、同様に、酸素極1bで生成された酸素が、水素極側と酸素極側との酸素濃度差により、水素極側に移動する場合がある。これを、「クロスリーク」とも言う。クロスリークは、低電流域で生じやすい。
【0027】
電力供給部20(
図1)は、電源200と接続されると共に、4個の水電解スタック10のそれぞれと接続されている。電力供給部20は、いわゆる、電力調整器を備え、電源200から入力される入力電力を、4個の水電解スタック10のそれぞれに対して、個別に分配する。
【0028】
制御装置30は、水電解システム100全体の作動を制御する。詳しくは、制御装置30は、水電解システム100に対して、水素供給の要求が入力された場合に、水電解装置50の運転の有無を決定する運転有無決定処理を行う。また、制御装置30は、電力供給部20を制御して、水電解スタック10へ電力を供給させる、電力供給制御を行う。電力供給制御では、電源200からの電力を供給して作動させる水電解スタック10の個数を決定し、決定した個数の水電解スタック10に、電源200から入力される入力電力を、分配する。さらに、水素貯留部300から水素消費装置400への水素の供給を制御する。制御装置30における各制御については、後に詳述する。
【0029】
上述の運転有無決定処理、電力供給制御等を実現するプログラムは、制御装置30に、予め記憶されていてもよい。また、プログラムはプログラム提供者側から通信ネットワークを介して、提供されてもよい。また、プログラムは、市販され、流通している可搬型記憶媒体に格納されていてもよい。この場合、この可搬型記憶媒体は外付け又は内蔵の読取装置にセットされて、制御装置30によってそのプログラムが読み出されて、実行されてもよい。可搬型記憶媒体としてはCD-ROM、DVD-ROM、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、ICカード、USBメモリ装置など様々な形式の記憶媒体を使用することができる。このような記憶媒体に格納されたプログラムが読取装置によって読み取られる。
【0030】
水供給部40は、水電解スタック10の酸素極1bに水を供給可能に構成されている。酸素極1bに供給される水は、電解の原料となる。水供給部40の構造は、作動する水電解スタック10(以下、「作動水電解スタック」)とも呼ぶ)に必要量の水を供給可能なものである限りにおいて、特に限定されない。水電解スタック10の酸素極1bに水を供給しても、電力が供給されない限り電解は行われない。そのため、水供給装置は、すべての水電解スタック10に同時に水を供給するものでも良く、あるいは、作動する水電解スタック10に選択的に水を供給するものでも良い。
【0031】
なお、水電解システム100は、水電解スタック10の水素極1cに水を供給するための第2水供給部をさらに備えていても良い。電解中に水素極1cに水を供給すると、水素極1cの表面に吸着した水素ガスの脱離を促進させることができる。
【0032】
電源200は、水電解スタック10に電力を供給する。本実施形態において、電源200は、再生可能エネルギー源である。すなわち、電力供給部20に入力される入力電力は、比較的大きく変動する。電源200の種類は、特に限定されず、商用電源であっても良い。
【0033】
水素貯留部300は、水電解システム100と接続されると共に、水素消費装置400に接続される。詳しくは、水素貯留部300は水素タンク(不図示)を備え、水電解システム100の水電解スタック10において生成された水素が流れる流路の下流に接続され、水素タンクの内部に水素を貯留可能である。また、制御装置30からの指示に従い、所定の流量で、水素タンク内の水素を、水素消費装置400に供給する。また、水素貯留部300には、水素タンク内の水素量を検出する水素残量センサ302が設けられており、水素残量センサ302による検出結果は、制御装置30に入力される。
【0034】
水素消費装置400は、水素をエネルギー源とする装置であり、例えば、燃料電池フォークリフト、燃料電池自動車、水素飛行機、燃料電池プラント等、種々の水素をエネルギー源とする装置を適用可能である。水素消費装置400は、水素貯留部300を介して水電解システム100に接続されており、水電解システム100において生成された水素が供給される。水素消費装置400は、必要な水素量(水素要求量)を、制御装置30に対して出力する。
【0035】
図3は、制御装置30における運転有無決定処理を示すフローチャートである。
制御装置30は、水素消費装置400から水素要求量a[Nm3]を受け付けると(ステップS102)、予定運転時間t1を算出する(ステップS104)。予定運転時間t1は、水電解装置50において水素要求量a[Nm3]の水素を生成するのに要する時間である。制御装置30は、予め記憶されている水電解装置50の運転時間と水素生成量との関係を示すマップ、算出式等を用いて、予定運転時間t1を算出する。なお、本実施形態では、水素要求量aは、水素消費装置400から入力されているが、他の実施形態では、水素消費装置400と異なる入力装置により入力されてもよい。例えば、水電解システム100に設けられた操作パネルや、水電解システム100に接続されたキーボード等を利用して、人が入力してもよい。
【0036】
ステップS106では、制御装置30は、予定運転時間t1が運転時間閾値T1より小さいか否か判断する。運転時間閾値T1は、水電解装置50のコールドスタートからの運転時間と水素製造原単位との関係において、水素製造原単位が略一定になる最小の時間に設定されている。水素製造原単位とは、水電解装置50において単位水素量を製造するために必要な電力量である。本実施形態において、コールドスタートとは、水電解装置50の運転が停止されてから所定の時間以上経過した後、運転を開始することとしている。所定の時間は、任意に設定可能であるが、水電解装置50が十分に冷却される程度の時間を設定するのか好ましい。本実施形態では、当該所定の時間を、例えば、7時から21時の運転を想定し、夜間の10時間に設定している。この所定の時間を、以降、「運転停止継続時間閾値T2」と呼ぶ。
【0037】
図4は、運転時間と水素製造原単位との関係を概念的示す図である。
図4の横軸は、水電解装置50のコールドスタートからの運転時間である。図示するように、水素製造原単位は、コールドスタートからの運転時間が運転時間閾値T1までは、運転時間の長さに伴い低下し、運転時間閾値T1以降は、略一定となっている。発明者らは、コールドスタートからの運転時間と、水素製造原単位との関係を、水電解スタック10に供給される水(以下、被電解水とも呼ぶ)の温度が異なる複数の月について調べた。水素製造原単位には、水温が大きく影響すると考えられるためである。その結果、コールドスタートからの運転時間と、水素製造原単位との関係は、複数の月の間で、略一致し、
図4に示すような関係が得られた。その理由は、以下の通りと考えられる。被電解水の水温が高い程、電気分解に対して必要な電気エネルギーが減少する。そのため、被電解水の温度が低いときは、水温が上昇するまで電気分解における電力消費量が大きく、水電解スタック10の温度制御をするためのチラー電力は小さい。一方、被電解水の温度が高いときは、水温がすぐに上昇するので、電気分解における電力消費量が少なく、チラー電力が大きい。このバランスにより、水温が異なる複数の月において、同様の傾向が得られたと考えられる。ここで、水素製造原単位の算出に用いる電力量は、水電解システム100全体で消費される電力量である。また、
図4は、上記調査により得られた離散的データを、値が収束するような近似曲線で示したものである。近似曲線としては、累乗近似を使用した。
【0038】
図4に示すように、運転時間が運転時間閾値T1以上では、運転時間閾値T1より短い場合より水素製造原単位が低く、略一定である。そのため、運転時間閾値T1以上の時間、水電解装置50を運転させることにより、水電解装置50の効率を良好にすることができる。
【0039】
図3に示すように、予定運転時間t1が運転時間閾値T1以上の場合(ステップS106においてNO)、制御装置30は、水電解装置50を運転させることを決定し(ステップS112)、運転有無決定処理を終了し、水電解装置50の運転を開始する。水電解装置50の運転方法については、後述する。上述の通り、運転時間が運転時間閾値T1より長いと、水電解装置50の効率を良好にすることができる。
【0040】
一方、予定運転時間t1が運転時間閾値T1より小さい場合(ステップS106においてYES)、制御装置30は、ステップS108へ進む。
【0041】
ステップS108では、制御装置30は、運転停止継続時間t2が運転停止継続時間閾値T2より大きいか否か判断する。本実施形態において、運転停止継続時間t2は、水電解装置50の運転を停止してから、水素要求量aの入力を受け付けるまでの時間である。水電解装置50の運転停止は、全ての水電解スタック10に対する電力供給または水の供給が停止されたときとしている。ステップS108では、制御装置30は、受付けた水素要求量aの水素を、水電解装置50において製造する場合に、水電解装置50がコールドスタートの状態であるか否かを、判断している。
【0042】
運転停止継続時間t2が運転停止継続時間閾値T2以下の場合(ステップS108においてNO)、制御装置30は、水電解装置50を運転させることを決定し(ステップS112)、運転有無決定処理を終了し、水電解装置50の運転を開始する。このとき、水電解装置50はコールドスタートの状態ではなく、水電解装置50の効率を良好にすることができる。
【0043】
一方、運転停止継続時間t2が運転停止継続時間閾値T2より大きい場合(ステップS106においてYES)、制御装置30は、ステップS110へ進む。
【0044】
ステップS110では、制御装置30は、水素貯留部300内の水素貯留量b[Nm3]から水素要求量a[Nm3]を減じた量が所定の貯留閾値c[Nm3]より大きいか否か判断する。貯留閾値cは、余裕量としての値であり、任意に設定可能である。本実施形態では、例えば、一日の平均使用量に設定している。水素貯留量として、水素貯留部300に設けられた水素残量センサ302から入力される測定結果を用いる。
【0045】
ステップS110の算出結果において、水素貯留部300内の水素貯留量bから水素要求量aを減じた量が所定の貯留閾値c以下の場合(ステップS110において、NO)、制御装置30は、水電解装置50を運転させることを決定し(ステップS112)、運転有無決定処理を終了し、水電解装置50の運転を開始する。すなわち、水素貯留部300に貯留された水素から水素要求量aの水素を、水素消費装置400に対して供給すると、水素貯留部300内に残る水素の量が貯留閾値c以下になってしまう場合には、水電解装置50を運転させる。このようにすると、貯留閾値cより多い量の水素を水素貯留部300に貯留しておくことができる。
【0046】
一方、水素貯留部300内の水素貯留量bから水素要求量aを減じた量が所定の貯留閾値cより大きい場合(ステップS110において、YES)、制御装置30は、水電解装置50を運転しないことを決定し(ステップS114)、運転有無決定処理を終了する。そして、制御装置30は、水素貯留部300を制御して、水素貯留部300に貯留されている水素から水素要求量aの水素を、水素消費装置400に供給させる。すなわち、制御装置30は、水電解装置50を運転させず、水素貯留部300内に貯留されている水素を、水素消費装置400に供給させる。
【0047】
制御装置30が、ステップS106、ステップS108、およびステップS110において、満たすか否か判断する3つの条件を全て満たすという条件を、「運転停止条件」とも呼ぶ。
【0048】
上述の通り、制御装置30は、運転有無決定処理において水電解装置50を運転することを決定する(ステップS112)と、水電解装置50の運転を開始する。制御装置30は水電解装置50の運転を開始すると、水供給部40(
図1)を制御して、全ての水電解スタック10に水を供給させ、以下に説明する供給電力制御を行う。
【0049】
図5は、制御装置30における供給電力制御の説明図である。
図5の左側には、電力供給部20に入力される入力電力の経時変化を示す。
図5の右側には、入力電力の変動に対応する電力分配を示す。図に示す「I
LOW」は、下限電流値(後述する)である。
【0050】
上述の通り、電源200は再生可能エネルギー源であり、発電量が変動するため、電力供給部20に入力される入力電力は、図示するように変動する。本実施形態の制御装置30は、1個の水電解スタック10に供給する電流が下限電流値ILOW以上になるように、作動水電解スタックの数を決定する。具体的には、入力電力から、下限電流値ILOWで電力を供給可能な水電解スタック10の最大数を、作動させる水電解スタック10の個数として決定し、決定した個数の水電解スタック10に、入力電力を均等に分配する。すなわち、本実施形態の水電解システム100において、水電解システム100は、常に、下限電流値ILOW以上の電力で運転される。
【0051】
図5に示す例では、時間<1>のとき、1個の水電解スタック10に下限電流値I
LOWで電力を供給すると、入力電力の残りが下限電流値I
LOWより小さいため、制御装置30は、電力を供給する水電解スタック10(作動水電解スタック)の個数を1個と決定し、入力電力の全てを第1水電解スタック11(
図1)のみに供給する。
【0052】
時間<2>のとき、2個の水電解スタック10に下限電流値ILOWで電力を供給すると、入力電力の残りが0のため、制御装置30は、作動水電解スタックの個数を2個と決定し、入力電力を、第1水電解スタック11と第2水電解スタック12に、下限電流値ILOWで均等に分配する。
【0053】
時間<3>のとき、2個の水電解スタック10に下限電流値ILOWで電力を供給すると、入力電力の残りが下限電流値ILOWより小さいため、制御装置30は、作動水電解スタックの個数を2個と決定する。そして、入力電力の残りを第1水電解スタック11と第2水電解スタック12に均等に分配し、下限電流値ILOWと合わせて下限電流値ILOWより大きい電流密度で、第1水電解スタック11と第2水電解スタック12に均等に分配する。
【0054】
時間<4>のとき、4個の水電解スタック10に下限電流値ILOWで電力を供給しても、入力電力が余るため、制御装置30は、作動水電解スタックの個数を4個(すべて)と決定する。そして、入力電力の残りを4個の水電解スタック10に均等に分配し、下限電流値ILOWと合わせて下限電流値ILOWより大きい電流密度で、4個の水電解スタック10の全てに均等に分配する。
【0055】
このように、本実施形態の水電解システム100では、作動水電解スタックの個数に応じて水電解スタック10を選択する際、第1水電解スタック11から昇順に(数の小さいものから大きいものへ)選択する。
【0056】
図6は、本実施形態の下限電流値I
LOWの説明図である。
図6では、水電解スタック10における電流密度と総合電力効率との関係を、電解質膜1aの膜厚みが互いに異なる4種類(10μm、25μm、50μm、175μm)の水電解セルについて図示している。ここで、総合電流効率は、水電解スタック10の電力効率と電源200の電源効率の積である(後述する)。本実施形態において、下限電流値I
LOWより低い電流は、水電解スタック10に供給されないため、
図6では、各膜厚みについて、下限電流値I
LOWより低い電流密度を、点線で図示している。図示するように、下限電流値は、電解質膜1aの膜厚みによって異なる。膜厚みが25μmの電解質膜1aを用いた場合について示すように、本実施形態の下限電流値I
LOWは、総合電力効率が最大になる電流値I
Mより高い。膜厚みが10μmの場合も同様に、下限電流値I
LOWは、総合電力効率が最大になる電流値より高い。膜厚みが50μmの電解質膜1aを用いた場合は、下限電流値I
LOWは、総合電力効率が最大になる電流値Iと、ほぼ一致している。膜厚みが175μmの電解質膜1aを用いた場合は、下限電流値I
LOWは、ほぼ0であり、全電流域を利用することができる。本実施形態において、各膜厚について、作動水電解スタックの1個当たりの電流効率が98%以上となり、かつ、電源200の電源効率と、作動水電解スタックの1個当たりの電力効率と、の積である総合電力効率が最大となる電流を、下限電流値I
LOWとしている。下限電流値I
LOWは、例えば、特願2020-88153に記載された方法により決定することができる。
【0057】
制御装置30がこのように水電解装置50を運転させると、電源200から入力される入力電力に応じて作動させる水電解スタック10の数を決定することができる。そして、作動させる水電解スタック10のそれぞれに、下限電流値ILOW以上の電流の電力を供給することができる。そのため、水電解スタック10に対する供給電力の低電流化を抑制することができ、低電流による電解質膜の劣化を抑制することができる。また、作動水電解スタックの1個当たりの電流効率が98%以上となり、かつ、電源200の電源効率と、作動水電解スタックの1個当たりの電力効率と、の積である総合電力効率が最大となる電流を、下限電流値ILOWとしているため、水電解スタック10の電力効率を適切にすることができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の水電解システム100によれば、制御装置30が水素要求量aを受け付けたときに、常に、水電解装置50を運転させるのではなく、運転停止条件を満たすか否か判断し、運転停止条件を満たす場合には、水電解装置50を運転させず、運転停止条件を満たさない場合に、水電解装置50を運転させる。運転停止条件を、水電解装置50の効率が悪くなる条件に設定しており、運転停止条件を満たす場合に、水電解装置50を運転させないため、効率が悪い条件で水電解装置50が運転されることが低減される。その結果、水電解装置50の効率を向上させることができる。
【0059】
運転停止条件は、3つの条件から構成されており、1つの条件でも満たさなければ、運転停止条件は満たされないため、水電解装置50の運転が行われる。そのため、予定運転時間t1が運転時間閾値T1以上であれば、水電解装置50の運転が行われる。上述の通り、運転時間が運転時間閾値T1以上であれば、コールドスタートであっても、効率が良いため、水電解装置50の効率を向上させることができる。また、予定運転時間t1が運転時間閾値T1より短くても、コールドスタートでなければ、水電解装置50の運転が行われる。コールドスタートでなければ、水電解装置50の効率が良いため、水電解装置50の効率を向上させることができる。
【0060】
また、予定運転時間t1が運転時間閾値T1より短く、かつコールドスタートであって、水素貯留部300内の水素によって水素要求量aを供給することができても、水素要求量aを供給した残りの貯留量が貯留閾値c以下の場合には、水電解装置50を運転する。そのため、水素貯留部300内の水素貯留量を貯留閾値c以上に維持することができる。
【0061】
また、本実施形態の制御装置30によれば、水電解装置50の効率が低くなる場合には、水電解装置50を運転させないことにより、水電解装置の効率を向上させるため、制御を簡易化することができる。そのため、演算資源を小さくすることができる。また、特許文献1に記載の技術と比較すると、温度センサを要さないため、水電解システムの部品点数の増加を抑制することができる。そのため、システムの複雑化の抑制、小型化、コスト低減に資することができる。
【0062】
また、本実施形態の水電解システム100によれば、電源200から入力される入力電力に応じて作動させる水電解スタック10の数を決定することができる。そして、作動させる水電解スタックのそれぞれに、下限電流値ILOW以上の電流の電力を供給することができる。入力電力が変動して、入力電力が小さい場合に、4個の水電解スタックの全てに均等に電力を分配する場合と比較して、供給電力の低電流化を抑制することができる。低電流条件では、水素および酸素が電解質膜を透過する現象(一般に、「クロスリーク」とも言われる)により、触媒上で酸素と水とが反応して過酸化水素が発生し、電解質膜を分解することで、水電解スタックの劣化が生じる可能性がある。本実施形態の水電解システム100によれば、供給電力の低電流化を抑制することができるため、電解質膜の劣化を抑制することができる。
【0063】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0064】
・上記実施形態における運転有無決定処理を、特願2020-88153、特開2020-84259号公報に記載された水電解システムに適用してもよい。当該水電解システムに適用する場合、本実施形態と同様に、水電解システムにおいて生成された水素が流れる流路の下流に、水素貯留部300を接続すると共に、水素貯留部300に水素消費装置400を接続し、水電解システムにおいて生成された水素が、水素貯留部300を介して水素消費装置400に供給される構成にするのが好ましい。
【0065】
・水電解装置50は、上記実施形態に限定されず、任意の水電解装置に適用することができる。例えば、1つの水電解スタック10を備える構成にしてもよい。また、PEM(Polymer Electrolyte Membrane:固体高分子電解質膜)形の水電解装置に限らず、アルカリ形、SOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell:固体酸化物型水電解)等、種々の水電解装置を用いることができる。
【0066】
・また、運転有無決定処理において、運転させることを決定した後の水電解装置の運転方法は、上記実施形態に限定されず、任意の運転方法を採用することができる。例えば、電源200から供給される電力を、4つの水電解スタック10に均等に分配してもよい。
【0067】
・上記実施形態において、水電解装置50がコールドスタートの状態であることを、運転停止継続時間t2が運転停止継続時間閾値T2以上であることにより判断する例を示したが、水電解装置50がコールドスタートの状態であることは、別の条件により判断してもよい。例えば、制御装置30が水素要求量aを受付けたときの水電解スタック10の温度に基づいて判断してもよい。水電解スタック10の温度としては、例えば、水電解スタック10への水の供給口内の温度、水電解スタック10の温度調節をするための熱媒体の温度等を用いることができる。これらの温度が低温(効率が悪い任意の値を設定)の場合にコールドスタートと判断することができる。
【0068】
・上記実施形態において、水電解システム100において生成された水素が水素貯留部300を介して水素消費装置400に供給される例を示したが、これに限定されない。例えば、水電解システム100から、水素貯留部300を介さず水素消費装置400に水素を供給する流路をさらに備える構成にしてもよい。
【0069】
・上記実施形態において、運転時間閾値T1を、水電解装置50のコールドスタートからの運転時間と水素製造原単位との関係において、水素製造原単位が略一定になる最小の時間に設定しているが、これに限定されず、最小の時間の近傍に設定することができる。ここで、近傍の範囲を、水素製造原単位が略一定になる最小の時間の±αとしたとき、αを、以下のように定義することができる。運転時間が(水素製造原単位が略一定になる最小の時間-α)のときの水素製造原単位と、運転時間が水素製造原単位が略一定になる最小の時間のときの水素製造原単位との差が、
図4に示す運転時間と水素製造原単位との関係における水素製造原単位の最大値と、一定の値に収束した値(収束値)との差の10%になる。このようにしても、水電解装置50の効率を向上させることができる。
【0070】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…MEA
1a…電解質膜
1b…酸素極
1c…水素極
2、3…ガスケット
4…セパレータ
5、6…給電体
10…水電解システム
10、11、12、13、14…水電解スタック
10C…水電解セル
20…電力供給部
30…制御部
40…水供給部
50…水電解装置
100…水電解システム
200…電源
300…水素貯留部
302…水素残量センサ
400…水素消費装置