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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143406
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20220926BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20220926BHJP
   F04C 18/02 20060101ALI20220926BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220926BHJP
【FI】
F04B39/00 106Z
F04C29/00 T
F04C18/02 311P
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043890
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】早川 賢治
(72)【発明者】
【氏名】佐川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 皓基
【テーマコード(参考)】
3H003
3H039
3H129
5H770
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB06
3H003AC03
3H003CF01
3H003CF04
3H039AA02
3H039AA12
3H039BB07
3H039BB08
3H039CC32
3H039CC33
3H039CC34
3H129AA02
3H129AA16
3H129AB03
3H129BB11
3H129BB42
3H129CC07
5H770AA21
5H770BA05
5H770CA06
5H770QA01
5H770QA25
5H770QA31
5H770QA33
5H770QA40
(57)【要約】
【課題】必要な電気特性を確保することができる電動圧縮機を提供する。
【解決手段】コモンモードチョークコイル33は、環状のコア50と、コア50に巻回され、回路基板に接続された第1の巻線60と、コア50に巻回された第2の巻線70と、第1の巻線60及び第2の巻線70を跨ぎつつコア50を覆う環状かつ薄膜状の可撓性を有する導電体と、を備える。第1の巻線60及び第2の巻線70は、回路基板に接続される一対の接続端子(61,62、71,72)を各々有する。導電体の内周面には、可撓性を有する絶縁層を有する。絶縁層は、接続端子61,62が挿通される挿通孔90,91を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
コモンモードチョークコイルを有するノイズ低減部と、
前記ノイズ低減部が実装される回路基板と、を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、
環状のコアと、
前記コアに巻回された第1の巻線と、
前記コアに巻回された第2の巻線と、
前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コアを覆う環状かつ薄膜状の可撓性を有する導電体と、を備え、
前記第1の巻線及び前記第2の巻線は、前記回路基板に接続される一対の接続端子を各々有し、
前記導電体の内周面には、可撓性を有する絶縁層を有し、
前記絶縁層は、前記接続端子が挿通される挿通孔を有することを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記挿通孔は、前記接続端子のうちの複数の接続端子が各々挿通される複数の挿通孔であることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記導電体及び前記絶縁層の積層体は、前記第1の巻線及び前記第2の巻線を露出させて放熱させるための貫通孔を有し、前記露出させた前記第1の巻線及び前記第2の巻線が放熱部材を介して冷却部材に熱的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記絶縁層は、周回方向に交差する方向に突出する突出部を有し、当該突出部に前記挿通孔を形成してなることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動圧縮機における電動モータを駆動するインバータ装置に用いられるコモンモードチョークコイルの構成として、環状の導電体で第1の巻線及び第2の巻線を跨ぎつつコアを覆う構造を採用することにより、漏れ磁束に伴い発生する電流を導電体において熱に変換する技術がある(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-187228号公報
【特許文献2】特開2019-180218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、巻線を跨ぐ環状の導電体の組付けの際に位置ずれが発生し、必要な電気特性を確保することが困難となることが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、コモンモードチョークコイルを有するノイズ低減部と、前記ノイズ低減部が実装される回路基板と、を備え、前記コモンモードチョークコイルは、環状のコアと、前記コアに巻回された第1の巻線と、前記コアに巻回された第2の巻線と、前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コアを覆う環状かつ薄膜状の可撓性を有する導電体と、を備え、前記第1の巻線及び前記第2の巻線は、前記回路基板に接続される一対の接続端子を各々有し、前記導電体の内周面には、可撓性を有する絶縁層を有し、前記絶縁層は、前記接続端子が挿通される挿通孔を有することを要旨とする。
【0006】
これによれば、導電体の内周面の可撓性を有する絶縁層においては、接続端子が挿通される挿通孔を有することにより、巻線と導電体とを位置決めすることができ、必要な電気特性を確保することができる。
【0007】
また、電動圧縮機において、前記挿通孔は、前記接続端子のうちの複数の接続端子が各々挿通される複数の挿通孔であるとよい。
また、電動圧縮機において、前記導電体及び前記絶縁層の積層体は、前記第1の巻線及び前記第2の巻線を露出させて放熱させるための貫通孔を有し、前記露出させた前記第1の巻線及び前記第2の巻線が放熱部材を介して冷却部材に熱的に接続されているとよい。
【0008】
また、電動圧縮機において、前記絶縁層は、周回方向に交差する方向に突出する突出部を有し、当該突出部に前記挿通孔を形成してなるとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、必要な電気特性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車載用電動圧縮機の一部断面図。
図2】(a)は回路基板及びコモンモードチョークコイルの平面図、(b)は回路基板及びコモンモードチョークコイルの右側面図。
図3図2(a)のA-A線での断面図。
図4】(a)はコモンモードチョークコイルの平面図、(b)は(a)のA-A線での断面図、(c)は(a)のB-B線での断面図。
図5】コモンモードチョークコイルの斜視図。
図6】コモンモードチョークコイルの下面図(図4(c)のC矢視図)。
図7】(a)は3層積層体の展開図、(b)は(a)のA-A線での断面図、(c)は(a)のB-B線での断面図。
図8】(a)は作用を説明するためのコモンモードチョークコイルの平面図、(b)は(a)のA-A線での断面図。
図9】別例の3層積層体の展開図。
図10】別例のコモンモードチョークコイルの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。本実施形態の車載用電動圧縮機は、流体としての冷媒を圧縮する圧縮部を備えており、車載用空調装置に用いられる。即ち、本実施形態における車載用電動圧縮機の圧縮対象の流体は冷媒である。
【0012】
図1に示すように、車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11と、車載用電動圧縮機11に対して流体としての冷媒を供給する外部冷媒回路12とを備えている。外部冷媒回路12は、例えば熱交換器及び膨張弁等を有している。車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路12によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車内の冷暖房を行う。
【0013】
車載用空調装置10は、当該車載用空調装置10の全体を制御する空調ECU13を備えている。空調ECU13は、車内温度やカーエアコンの設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機11に対してON/OFF指令等といった各種指令を送信する。
【0014】
車載用電動圧縮機11は、外部冷媒回路12から冷媒が吸入される吸入口14aが形成されたハウジング14を備えている。
ハウジング14は、伝熱性を有する材料(例えばアルミニウム等の金属)で形成されている。ハウジング14は、車両のボディに接地されている。ハウジング14は、互いに組み付けられた吸入ハウジング15と吐出ハウジング16とを有している。吸入ハウジング15は、一方向に開口した有底筒状であり、板状の底壁部15aと、底壁部15aの周縁部から吐出ハウジング16に向けて起立した側壁部15bとを有している。底壁部15aは例えば略板状であり、側壁部15bは例えば略筒状である。吐出ハウジング16は、吸入ハウジング15の開口を塞いだ状態で吸入ハウジング15に組み付けられている。これにより、ハウジング14内には内部空間が形成されている。吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bに形成されている。詳細には、吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bのうち吐出ハウジング16よりも底壁部15a側に配置されている。ハウジング14には、冷媒が吐出される吐出口14bが形成されている。吐出口14bは、吐出ハウジング16、詳細には吐出ハウジング16における底壁部15aと対向する部位に形成されている。
【0015】
車載用電動圧縮機11は、ハウジング14内に収容された回転軸17、圧縮部18及び電動モータ19を備えている。
回転軸17は、ハウジング14に対して回転可能な状態で支持されている。回転軸17
は、その軸線方向が板状の底壁部15aの厚さ方向(換言すれば筒状の側壁部15bの軸線方向)と一致する状態で配置されている。回転軸17と圧縮部18とは連結されている。
【0016】
圧縮部18は、ハウジング14内における吸入口14a(換言すれば底壁部15a)よりも吐出口14b側に配置されている。圧縮部18は、回転軸17が回転することによって、吸入口14aからハウジング14内に吸入された冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出口14bから吐出させるものである。なお、圧縮部18の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0017】
電動モータ19は、ハウジング14内における圧縮部18と底壁部15aとの間に配置されている。電動モータ19は、ハウジング14内にある回転軸17を回転させることにより、圧縮部18を駆動させるものである。電動モータ19は、例えば回転軸17に対して固定された円筒形状のロータ20と、ハウジング14に固定されたステータ21とを有する。ステータ21は、円筒形状のステータコア22と、ステータコア22に形成されたティースに捲回されたコイル23とを有している。ロータ20及びステータ21は、回転軸17の径方向に対向している。コイル23が通電されることによりロータ20及び回転軸17が回転し、圧縮部18による冷媒の圧縮が行われる。
【0018】
図1に示すように、車載用電動圧縮機11は、電動モータ19を駆動させるものであって直流電力が入力される駆動装置24と、駆動装置24を収容する収容室S0を区画するカバー部材25とを備えている。
【0019】
カバー部材25は、伝熱性を有する非磁性体の導電性材料(例えばアルミニウム等の金属)で構成されている。カバー部材25は、ハウジング14、詳細には吸入ハウジング15の底壁部15aに向けて開口した有底筒状である。カバー部材25は、開口端が底壁部15aに突き合せられた状態で、ボルト26によってハウジング14の底壁部15aに取り付けられている。カバー部材25の開口は、底壁部15aによって塞がれている。収容室S0は、カバー部材25と底壁部15aとによって形成されている。収容室S0は、ハウジング14外に配置されており、底壁部15aに対して電動モータ19とは反対側に配置されている。圧縮部18、電動モータ19及び駆動装置24は、回転軸17の軸線方向に配列されている。
【0020】
カバー部材25にはコネクタ27が設けられており、駆動装置24はコネクタ27と電気的に接続されている。コネクタ27を介して、車両に搭載された車載用蓄電装置28から駆動装置24に直流電力が入力されるとともに、空調ECU13と駆動装置24とが電気的に接続されている。車載用蓄電装置28は、車両に搭載された直流電源であり、例えば二次電池やキャパシタ等である。
【0021】
図1に示すように、収容室S0には回路基板29が配置されている。回路基板29は板状である。回路基板29は、底壁部15aに対して回転軸17の軸線方向に所定の間隔を隔てて対向配置されている。駆動装置24は、インバータ装置30を備えている。駆動装置24は回路基板29を用いて構成されている。
【0022】
インバータ装置30は、電動モータ19を駆動するためのものである。インバータ装置30は、インバータ回路31と、ノイズ低減部32を備えている。インバータ回路31は、直流電力を交流電力に変換するためのものである。ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル33を有し、インバータ回路31の入力側に設けられるとともにインバータ回路31に入力される前の直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させる。ノイズ低減部32は、インバータ装置30に備えられた回路基板2
9に実装されている。
【0023】
次に、コモンモードチョークコイル33の構成について図2(a)、図2(b)、図3図4(a)、図4(b)、図4(c)、図5図6図7(a)、図7(b)、図7(c)、図8(a)、図8(b)を用いて説明する。
【0024】
なお、図面において、3軸直交座標を規定しており、図1の回転軸17の軸線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向をX,Y方向としている。
図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、コモンモードチョークコイル33は、ケース40と、コア50と、第1の巻線60と、第2の巻線70と、環状の導電体81を有する帯板状の3層積層体80と、を備える。コア50を収容したケース40に巻線60,巻線70が巻回され、巻線60,70に対し3層積層体80が巻かれた状態で使用される。
【0025】
図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、コア50は、ケース40の内部に収容される。コア50は、図4(c)に示すように断面四角形状をなし、図4(a)に示すX-Y平面において全体として略長方形状の環状をなしている。
【0026】
図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、ケース40は、環状をなし、樹脂製であり、電気絶縁性を有する。ケース40は、本体部41と、壁42とを備える。本体部41は、開口部41a(図5参照)を除いて、コア50の全てを覆っている。本体部41には、図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、巻線60,70が巻かれる。図5の開口部41aは、巻線60と巻線70との間に設けられ、開口部41aは巻線60と巻線70との間におけるコア50の一部を外方に露出させる。
【0027】
壁42はコア50の内周面側において、巻線60と巻線70との間にZ方向に延びるように設けられる。壁42により巻線60と巻線70とが隔てられる。
図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、第1の巻線60は、コア50を収容したケース40の外面に巻回されている。第2の巻線70は、コア50を収容したケース40の外面に巻回されている。詳しくは、ケース40の本体部41は、第1直線部41bと第2直線部41cを備え、第1直線部41bと第2直線部41cとは、互いに平行となるよう直線に延びている。第1直線部41bに第1の巻線60の少なくとも一部が巻回される。第2直線部41cに第2の巻線70の少なくとも一部が巻回される。両巻線60,70の巻き方向は、互いに反対方向となっている。また、第1の巻線60と第2の巻線70は離れつつ対向している。第1の巻線60は、一端に接続端子(第1の接続端子)61を有し、他端に接続端子(第2の接続端子)62を有する。第2の巻線70は、一端に接続端子(第3の接続端子)71を有し、他端に接続端子(第4の接続端子)72を有する。即ち、第1の巻線60及び第2の巻線70は、回路基板29に接続される一対の接続端子(61,62、71,72)を各々有する。
【0028】
図3に示すように、3層積層体80は、導電体81を挟んで内側絶縁層82と外側絶縁層83とを積層したものである。内側絶縁層82は、ベースとなる絶縁層であり、例えばポリイミドフィルムを用いることができる。外側絶縁層83は導電体81を覆うカバーとなる絶縁層であり、例えばポリイミドフィルムを用いることができる。より詳しくは、導電体81の一方の面に接着剤84を介して内側絶縁層82が接着されるとともに導電体81の他方の面に接着剤85を介して外側絶縁層83が接着されている。なお、内側絶縁層82と導電体81との間は接着剤84がない状態で熱溶着等によって接着されていてもよい。帯状の3層積層体80は、X方向に延びている。このように、3層積層体80は、一般的なフレキシブルプリント基板と同様の構造となっている。つまり、3層積層体80はフレキシブルプリント基板ともいえる。
【0029】
導電体81として、例えば銅箔が用いられる。導電体81は、環状かつ薄膜状の可撓性を有し、第1の巻線60及び第2の巻線70を跨ぎつつコア50を覆っている。
内側絶縁層82は、可撓性を有し、導電体81の一方の面に接着されている。外側絶縁層83は、可撓性を有し、導電体81の他方の面に接着されている。
【0030】
図7(a),図7(b)、図7(c)は、3層積層体80の展開図である。図7(a)に示すように、3層積層体80は、全体形状として直線的に延びる帯状をなしている。
導電体81は、全体形状として直線的に延びる帯状をなしている。内側絶縁層82及び外側絶縁層83は、全体形状として直線的に延びる帯状をなし、幅及び長さが同一寸法である。内側絶縁層82及び外側絶縁層83の幅及び長さは、導電体81の幅及び長さよりも大きくなっており、導電体81の外周端部は内側絶縁層82及び外側絶縁層83により被覆されている。これにより導電体81と他部品との絶縁をより確保している。
【0031】
内側絶縁層82において、長さ方向での一端側である第1端部E1に四角形状の開口部82aが形成されているとともに、他端側である第2端部E2に四角形状の開口部82bが形成されている。開口部82a,82bにより導電体81が露出している。この露出部が、はんだ付けされることになる。
【0032】
3層積層体80は、長方形状の貫通孔100を有する。貫通孔100の長辺は3層積層体80の長手方向に延びている。貫通孔100は、導電体81、内側絶縁層82及び外側絶縁層83を貫通しているが、導電体81での口径(大きさ)よりも内側絶縁層82及び外側絶縁層83での口径(大きさ)の方が小さくなっており、貫通孔100における導電体81の内周端部は内側絶縁層82及び外側絶縁層83により被覆されている。これにより導電体81と他部品との絶縁をより確保している。
【0033】
図7(a)に示すように、内側絶縁層82及び外側絶縁層83は、長さ方向に直交する幅方向に突出する突出部110,111を有する。突出部110,111は四角形状をなしている。突出部110に接続端子の挿通孔90が貫通する状態で形成されている。突出部111に接続端子の挿通孔91が貫通する状態で形成されている。挿通孔90,91は巻線60,70の接続端子61,62,71,72よりも若干大きくなっている。具体的には、巻線60,70の接続端子61,62,71,72は断面円形をなし、挿通孔90,91も円形をなす。挿通孔90,91の径は接続端子61,62,71,72の径より若干大きくなっている。
【0034】
図3及び図4(c)に示すように、3層積層体80の一端側(第1端部E1)と他端(第2端部E2)とが、はんだSにより接合されて導電体81が環状に形成される。詳しくは、開口部82aにより露出した導電体81と、開口部82bにより露出した導電体81とが、はんだSにより接合される。なお、開口部82a,82bにより露出した導電体81には、金めっき層が形成されているとよりよい。
【0035】
図4(c)に示すように、3層積層体80は、環状部P1と、接合部P2を有する。環状部P1は、コア50を覆う。接合部P2は、環状部P1から外側に突出するとともに第1端部E1と第2端部E2とが接合される。具体的には、はんだSにより導電体81の端部が接合される。よって、導電体81の内周面には、可撓性を有する内側絶縁層82を有する構成となっている。
【0036】
このとき、環状の導電体81は、第1の巻線60及び第2の巻線70を跨ぎつつコア50及びケース40を覆っている。導電体81は、第1の巻線60と第2の巻線70の間において対向する部位同士が離れている。
【0037】
図4(a)、図4(b)、図4(c)、図5に示すように、3層積層体80の周回方向に直交する方向に延びる突出部110,111に挿通孔90,91が形成されている。3層積層体80の挿通孔90に、第1の巻線60から回路基板29に接続される接続端子61が挿通されるとともに、3層積層体80の挿通孔91に、第1の巻線60から回路基板29に接続される接続端子62が挿通される。
【0038】
図6に示すように、3層積層体80の貫通孔100により、第1の巻線60及び第2の巻線70を露出させて放熱させることができる構成となっている。即ち、図3に示すように、3層積層体80の貫通孔100により、第1の巻線60及び第2の巻線70を露出させて、放熱部材(放熱グリス、放熱シート等)120を介して冷却部材としての吸入ハウジング15に熱的に接続されている。詳しくは、3層積層体80における吸入ハウジング15の底壁部15aとの対向面には放熱部材(放熱グリス、放熱シート等)120が配置されている。これにより、巻線60,70は、吸入ハウジング15ひいてはハウジング14に熱的に接続されている。
【0039】
図2(a)、図2(b)、図3に示すように、コア50の一部に巻回される第1の巻線60は、両端の接続端子61,62が回路基板29の貫通孔(スルーホール)を通して回路基板29から突出した状態で回路基板29に、はんだ付けにより接続されている。コア50の他部に巻回される第2の巻線70は、第1の巻線60から離れつつ対向しており、両端の接続端子71,72が回路基板29の貫通孔(スルーホール)を通して回路基板29から突出した状態で回路基板29に、はんだ付けにより接続されている。巻線60,70の接続端子61,62,71,72は、それぞれ、はんだ付けにより回路基板29に形成された導体パターンと電気的に接続される。
【0040】
図4(a)、図4(b)に示すように、四角形状(ロの字状)をなすケース40における一方の短辺部及び他方の短辺部は、開口部41aにより3層積層体80の導電体81に覆われない露出部となっている。
【0041】
製造の際には次のようにする。
図7(a)、図7(b)、図7(c)に示すように、3層積層体80を用意する。なお、はんだ付けする前において、開口部82a,82bにより露出した導電体81の表面に金めっき層を形成しておくとよい。
【0042】
図4(a)、図4(b)、図4(c)に示すように、ケース40内にコア50を収納するとともに第1の巻線60及び第2の巻線70を巻回したものに対し、内側絶縁層82と導電体81と外側絶縁層83との3層積層体80を巻き付ける。このとき、挿通孔90,91に接続端子61,62を嵌めることにより位置決めする。そして、巻線60,70の外側に3層積層体80を巻いた状態で、導電体81の一端と他端を、はんだ付けする。
【0043】
その後、コモンモードチョークコイル33を回路基板29に、はんだ付けにより実装する。
次に、作用について説明する。
【0044】
まず、図8(a)、図8(b)を用いてノーマルモード(ディファレンシャルモード)について説明する。
図8(a)に示すように、第1の巻線60及び第2の巻線70の通電により電流i1,i2が流れる。これに伴いコア50に磁束φ1,φ2が発生するとともに漏れ磁束φ3,φ4が発生する。ここで、図8(b)に示すように、発生する漏れ磁束φ3,φ4に抗う方向に磁束を発生させるべく導電体81の内部において誘導電流i10が周方向に流れる
【0045】
このようにして、導電体81において、第1の巻線60及び第2の巻線70の通電に伴い発生する漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させるべく誘導電流(渦電流)i10が内部において周方向に流れる。誘導電流が周方向に流れるとは、コア50を周回するように流れることである。
【0046】
コモンモードにおいては、第1の巻線60及び第2の巻線70の通電により同じ方向に電流が流れる。これに伴いコア50に同じ向きの磁束が発生する。このようにして、コモンモード電流通電時は、コア50内部に磁束が発生し漏れ磁束はほとんど発生しないため、コモンインピーダンスは保持できる。
【0047】
帯状かつ無端状をなす導電体81において、漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させようとして内部に電流が流れ、電力を消費して発熱する。
また、3層積層体80における端部E1,E2は、導電体81が内側絶縁層82及び外側絶縁層83により覆われており、環状の導電体81と巻線60,70との間の沿面距離を確保することができる。
【0048】
このようにして、コモンモードチョークコイル33を環状の導電体81で巻くことにより誘導電流が流れ、電力消費することで共振ピークを抑制することができる。特に、可撓性を有する3層積層体80を用いることにより、絶縁性、搭載性に優れる。つまり、導電体81を、絶縁層82,83で挟むことにより、導電体81を絶縁することができ、絶縁性を確保できるとともに柔軟性、屈曲性に優れることにより搭載性に優れる。
【0049】
巻線60,70で発生した熱Q1は、図3に示すように、巻線60,70が底壁部15aに熱的に接続されているので、巻線60,70において発生する熱が放熱部材120を介して底壁部15aに逃がされる。よって、放熱面への放熱性に優れたものとなる。
【0050】
巻線60,70を跨ぐ環状の3層積層体80において接続端子61,62が挿通する挿通孔90,91を設けることにより位置決め機構を持たせている。よって、周回方向及びそれに直交する方向への位置ずれを抑制することで電気特性のばらつき抑制を図ることができる。
【0051】
位置決め部は、絶縁層82,83に接続端子が通る挿通孔90,91であることから、位置決め部には導電体81はなく、巻線60,70及び導電体81から電気的に絶縁された状態にすることができる。
【0052】
これにより、電気特性が安定する。つまり、導電体81と巻線60,70の位置関係が決まり、電気特性のばらつきを減少させることができる。
従来、巻線60,70を跨ぐ環状の導電体81の組付けの際に周回方向及びそれに直交する方向へ位置ずれが発生し、必要な電気特性を確保することが困難となる懸念がある。
【0053】
本実施形態では、巻線60,70を跨ぐ環状の導電体81の組付けの際に周回方向及びそれに直交する方向への位置ずれを抑制することで電気特性のばらつき抑制を図ることができる。接続端子と挿通孔の関係については、接続端子の外面と挿通孔の内面とが接触し得る範囲にあればよく、大きくずれることが防止できる。
【0054】
また、巻線60,70の放熱特性が安定する。つまり、3層積層体80の放熱部と巻線60,70の位置関係が決まり、放熱特性のばらつきを減少させることができる。
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0055】
(1)電動圧縮機としての車載用電動圧縮機11の構成として、流体を圧縮する圧縮部18と、圧縮部18を駆動する電動モータ19と、電動モータ19を駆動するインバータ装置30と、を備える。インバータ装置30は、コモンモードチョークコイル33を有するノイズ低減部32と、ノイズ低減部32が実装される回路基板29と、を備える。コモンモードチョークコイル33は、環状のコア50を備える。コモンモードチョークコイル33は、コア50に巻回された第1の巻線60と、コア50に巻回された第2の巻線70を備える。コモンモードチョークコイル33は、第1の巻線60及び第2の巻線70を跨ぎつつコア50を覆う環状かつ薄膜状の可撓性を有する導電体81を備える。第1の巻線60及び第2の巻線70は、回路基板29に接続される一対の接続端子(61,62、71,72)を各々有する。導電体81の内周面には、可撓性を有する絶縁層82を有する。絶縁層82は、接続端子61,62が挿通される挿通孔90,91を有する。よって、巻線60,70と導電体81とを周回方向及びそれに直交する方向に位置決めすることができ、必要な電気特性を確保することができる。例えば、周回方向にずれると、漏れ磁束φ3,φ4に対する誘導電流i10の発生が設計値からずれるといったことが回避できる。
【0056】
(2)挿通孔は、接続端子61,62,71,72のうちの複数の接続端子61,62が各々挿通される複数の挿通孔90,91である。よって、安定した位置決めが可能となる。
【0057】
(3)3層積層体80(広義には導電体81及び絶縁層82の積層体)は、第1の巻線60及び第2の巻線70を露出させて放熱させるための貫通孔100を有し、露出させた第1の巻線60及び第2の巻線70が放熱部材120を介して冷却部材としての吸入ハウジング15に熱的に接続されている。よって、周回方向に位置ずれを防止しつつ放熱させることができる。
【0058】
(4)絶縁層82は、周回方向に交差する方向に突出する突出部110,111を有し、当該突出部110,111に挿通孔90,91を形成した。よって、巻線60,70の放熱性を確保しつつ位置決めが可能となる。
【0059】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
・導電体81は、銅箔以外の他の材料を用いてもよく、要は、電気伝導性を有するとともに可撓性を有すればよい。
【0060】
・内側絶縁層82及び外側絶縁層83は、ポリイミド以外の材料でもよく、要は、絶縁性を有するとともに可撓性を有すればよい。
図7(a)、図7(b)、図7(c)に示したように、絶縁層82は、周回方向に交差する方向に突出する突出部110,111を有し、当該突出部110,111に挿通孔90,91を形成した。これに代わり、図9図10に示すようにしてもよい。
【0061】
図9に示すように、周回方向に交差する方向において絶縁層82,83を幅広に形成し、この導電体81から突出する部位130,131に挿通孔140,141,142,143を形成する。そして、図10に示すように、挿通孔140に第1の巻線60の第1の接続端子61を挿通する。挿通孔141に第1の巻線60の第2の接続端子62を挿通する。挿通孔142に第2の巻線70の第3の接続端子71を挿通する。挿通孔143に第2の巻線70の第4の接続端子72を挿通する。
【0062】
図9図10に示す構成に比べ図7(a)、図7(b)、図7(c)、図5に示す構成の方が以下の有利な点がある。巻線60,70は放熱性の観点から必要以上に覆いたくな
い。覆いすぎると熱がこもって巻線60,70が放熱しにくくなる。図7(a)、図7(b)、図7(c)、図5に示す構成では、必要最低限の部分のみに絶縁層82を設けて巻線60,70は開放して熱が逃げやすい状態にすることができる。
【0063】
・絶縁層82は、接続端子61,62が挿通される挿通孔90,91を有する構成としたが、これに限定されず、4つの接続端子61,62,71.72のうちの少なくとも1つの接続端子が挿通される挿通孔を有する構成であればよい。例えば、絶縁層82は、接続端子71,72が挿通される挿通孔を有する構成としてもよい。絶縁層82は、接続端子61,72が挿通される挿通孔を有する構成としてもよい。絶縁層82は、接続端子62,71が挿通される挿通孔を有する構成としてもよい。他にも、絶縁層82は、3つの接続端子が挿通される挿通孔を有する構成としてもよい。他にも、絶縁層82は、4つの接続端子が挿通される挿通孔を有する構成としてもよく、この場合、4つの突出部を設けても図9図10で示したように構成してもよい。
【0064】
ここで、絶縁層82は、接続端子61,62が挿通される挿通孔90,91を有する構成とした場合、あるいは、絶縁層82は、接続端子71,72が挿通される挿通孔を有する構成とすると以下の効果がある。同電位の接続端子とすることにより電位差を発生させるマイグレーション試験において電位差が発生する経路上に導通が発生する不具合モードに至らない。また、同電位であるので沿面距離の関係で絶縁距離を確保する上で有利である。
【0065】
また、絶縁層82は、接続端子61,71が挿通される挿通孔を有する構成、もしくは、絶縁層82は、接続端子62,72が挿通される挿通孔を有する構成とすることにより、端子間の距離を長くすることができ、回転方向の位置決めが有利である。
【0066】
・3層積層体としたが、少なくとも導電体81と内周側の絶縁層82を有すればよい。
・突出部は周回方向に直交する方向に突出させたが、直交しない方向に突出させてもよい。
【符号の説明】
【0067】
11…車載用電動圧縮機、15…吸入ハウジング、18…圧縮部、19…電動モータ、29…回路基板、30…インバータ装置、32…ノイズ低減部、33…コモンモードチョークコイル、50…コア、60…第1の巻線、61,62…接続端子、70…第2の巻線、71,72…接続端子、81…導電体、82…絶縁層、90,91…挿通孔、100…貫通孔、110,111…突出部、120…放熱部材、140,141,142,143…挿通孔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10