(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022143999
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】吊具
(51)【国際特許分類】
B66C 1/26 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
B66C1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044824
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】古閑 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】東 厚至
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004AA01
3F004AD07
3F004AF06
3F004AG01
3F004BA03
3F004EA06
(57)【要約】
【課題】手作業による玉掛け作業を不要とするとともに安価に構成された、電磁吊具を備えたクレーンを用いて様々な形状の非磁性体の対象物を吊り上げて搬送することができる吊具を提供する。
【解決手段】吊具1は、電磁吊具53を備えたクレーンを用いて非磁性体の対象物Tを吊り上げて搬送するための吊具である。吊具1は、磁性体の固定天板10と、固定天板10に設けられた固定部11に固定され、対象物Tを保持する吊荷保持部20と、固定天板10に対して重なった状態から隔離した状態へ変更可能なように、固定部11及び/又は固定天板10に対して回転可能に支持された磁性体の回転天板30とを備える。回転天板30は、固定天板10に対して重なった状態で電磁吊具53に吸着され、電磁吊具53による吸着が停止すると、固定天板10に対して隔離した状態へと変更される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁吊具を備えたクレーンを用いて非磁性体の対象物を吊り上げて搬送するための吊具であって、
磁性体の固定天板と、
該固定天板に設けられた固定部に固定され、前記対象物を保持する吊荷保持部と、
前記固定天板に対して重なった状態から隔離した状態へ変更可能なように、前記固定部及び/又は前記固定天板に対して回転可能に支持された磁性体の回転天板とを備え、
該回転天板は、前記固定天板に対して重なった状態で前記電磁吊具に吸着され、前記電磁吊具による吸着が停止すると、前記固定天板に対して隔離した状態へと変更されることを特徴とする吊具。
【請求項2】
前記吊荷保持部が非磁性体であることを特徴とする請求項1に記載の吊具。
【請求項3】
前記回転天板には、前記電磁吊具とワイヤーで連結される吊り環が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の吊具。
【請求項4】
前記吊荷保持部は、前記固定部に対して前記固定天板が配置されている側と反対側に延びるように固定される固定板部と、該固定板部の端部から前記固定板部に対して直交しかつ前記固定天板に対向するように延びる、前記対象物を保持するフォーク部とを備えていることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の吊具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁吊具を備えたクレーンを用いて非磁性体の対象物を吊り上げて搬送するための吊具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、重量のある非磁性体の対象物をクレーンなどの荷役設備で運搬する場合には、スリング、ワイヤー、ハッカー、クランプ、バキュームリフター等の吊具を使用して対象物を吊り上げる。
対象物(吊荷)を吊り上げるに際し、バキュームリフター以外の吊具は吊荷の結束及び開放や吊具の着脱など手作業による玉掛け作業が必要となる。この玉掛け作業は、人手による作業で面倒であるばかりでなく、吊荷と作業員との距離が近く、安全確保のために十分な対策が必要とされる。一方、バキュームリフターの場合、吊荷との間に真空状態を作り出さなければならないため、作業効率が悪い。
【0003】
一方、玉掛け作業を不要とし、バキュームリフターの問題点を改善したリフティングマグネット(電磁吊具)を備えた電動トングとして、従来、例えば、特許文献1に示すものが知られている。
特許文献1に示すリフティングマグネット付き電動トングは、クレーンワイヤーに吊下げられた吊り台に、各アームの下端に鋼板を乗せる爪を設けてなる電動トングと、上部フックを介して吊り掛けリフティングマグネットを昇降する電動チャーンブロックとを併設したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従来の特許文献1に示すリフティングマグネット付き電動トングにあっては、以下の問題点があった。
即ち、特許文献1に示すリフティングマグネット付き電動トングの場合、非磁性体の対象物を吊り上げて搬送することができない。また、リフティングマグネットによって吸着できる吊荷はリフティングマグネットが平坦形状となっていることから板形状に限られ、様々な形状の吊荷を搬送することができない。また、吊具自体が大掛かりな構造を有し、製造コストも高いという問題があった。
【0006】
従って、本発明は、この従来の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、手作業による玉掛け作業を不要とするとともに安価に構成された、電磁吊具を備えたクレーンを用いて様々な形状の非磁性体の対象物を吊り上げて搬送することができる吊具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る吊具は、 電磁吊具を備えたクレーンを用いて非磁性体の対象物を吊り上げて搬送するための吊具であって、磁性体の固定天板と、該固定天板に設けられた固定部に固定され、前記対象物を保持する吊荷保持部と、前記固定天板に対して重なった状態から隔離した状態へ変更可能なように、前記固定部及び/又は前記固定天板に対して回転可能に支持された磁性体の回転天板とを備え、該回転天板は、前記固定天板に対して重なった状態で前記電磁吊具に吸着され、前記電磁吊具による吸着が停止すると、前記固定天板に対して隔離した状態へと変更されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る吊具によれば、手作業による玉掛け作業を不要とするとともに安価に構成された、電磁吊具を備えたクレーンを用いて様々な形状の非磁性体の対象物を吊り上げて搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る吊具の斜視図である。
【
図2】
図1に示す吊具について、回転天板を固定天板及び吊荷保持部から分解した状態の斜視図である。
【
図3】
図1に示す吊具を用いて対象物を吊り上げ、搬送するための説明図で、吊具の吊り環にワイヤーの一端を連結した状態の斜視図である。
【
図4】
図1に示す吊具を用いて対象物を吊り上げ、搬送するための説明図で、クレーンに備えられた電磁吊具を回転天板上の中心におき、
図3で一端を連結したワイヤーの他端をクレーンのフックに掛け渡した状態の斜視図である。
【
図5】
図1に示す吊具を用いて対象物を吊り上げ、搬送するための説明図で、
図4に示す状態から電磁吊具で回転天板を吸着するとともに、対象物を吊荷保持部で保持している状態の斜視図である。
【
図6】
図1に示す吊具を用いて対象物を吊り上げ、搬送するための説明図で、
図5に示す状態から対象物を目標の場所に搬送し、電磁吊具による回転天板の吸着を停止した状態の斜視図である。
【
図7】
図1に示す吊具を用いて対象物を吊り上げ、搬送するための説明図で、
図6に示す状態から固定天板及び吊荷保持部が回転し、対象物が落下する状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0011】
図1には、本発明の一実施形態に係る吊具が示されている。
図1に示す吊具1は、電磁吊具(リフティングマグネット)53(
図4乃至
図7参照)を備えたクレーン(図示せず)を用いて非磁性体の対象物T(
図5乃至
図7参照)を吊り上げて搬送するための吊具である。
対象物Tは、非磁性体で構成された、例えば、熱間圧延後のSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼板の端材である。ここで、「非磁性体」は、磁力により吊り上げて搬送することが不可能な材料を意味し、常磁性、反磁性及び反強磁性のすべてを含む意であり、いわゆる弱磁性をも含む意である。
【0012】
図1に示す吊具1は、固定天板10と、複数(本実施形態にあっては2つ)の吊荷保持部20と、回転天板30とを備えている。
ここで、固定天板10は、
図2に示すように、長さl10、幅b10、及び板厚t10で形成された長方形状の磁性体の金属部材である。「磁性体」は、磁力により吊り上げて搬送することが可能な材料を意味し、強磁性体の意である。固定天板10は、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板以外のステンレス鋼板あるいは炭素鋼板で構成される。固定天板10の長さl10及び幅b10は、その上面に置かれる電磁吊具(リフティングマグネット)53の寸法を考慮し、本実施形態では、それぞれ約530mm、約500mmに設定される。また、固定天板10の板厚t10は、対象物Tの吊り荷重を考慮し、本実施形態では、約8mmに設定される。
【0013】
この固定天板10の下面の幅方向両端には、一対の固定部11が設けられている。各固定部11は、固定天板10の長手方向に直線状に延びる固定天板固定部11aと、固定天板固定部11aの一端から下方に直線状に延びる吊荷保持部固定部11bとを備えたL字形の磁性体の金属部材である。「磁性体」は、強磁性体の意である。各固定板部11は、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板以外のステンレス鋼板あるいは炭素鋼板で構成される。固定天板10は、一対の固定部11の固定天板固定部11a上に溶接等によって接合されて固定される。
また、各固定部11の固定天板固定部11aと吊荷保持部固定部11bとが交差する部分には、後述する連結ピン40のピン部が圧入固定される固定孔11cが形成されている。
【0014】
また、各吊荷保持部20は、対象物Tを保持するものであり、各固定部11の吊荷保持部固定部11bに固定される。各吊荷保持部20は、
図2に示すように、固定部11の吊荷保持部固定部11bに対して固定天板10が配置されている側と反対側、即ち下側に直線状に延びるように溶接等によって固定される固定板部20aと、固定板部20aの下端部から固定板部20aに対して直交しかつ固定天板10に対向するように直線状に延びるフォーク部20bとを備えたL字形の非磁性体の金属部材である。「非磁性体」は、常磁性、反磁性及び反強磁性のすべてを含む意であり、いわゆる弱磁性をも含む意である。吊荷保持部10は、非磁性体で構成された、例えば、熱間圧延後のSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼板で構成される。
【0015】
対象物Tの吊り上げ及び搬送に際し、
図5乃至
図7に示すように、対象物Tはフォーク部20bによって保持、具体的にはフォーク部20b上に載置される。 各吊荷保持部20の固定板部20aの幅はb20、フォーク部20bの長さはl20、固定板部20a及びフォーク部20bのそれぞれの板厚はt20、2つの吊荷保持部20間の間隔はD20、各吊荷保持部10の下面から固定天板10の上面までの高さはh20となっている。各吊荷保持部20の固定板部20aの幅b20は、各吊荷保持部20の耐久性を考慮し、本実施形態では、約100mmに設定される。また、固定板部20a及びフォーク部20bのそれぞれの板厚t20も、各吊荷保持部20の耐久性を考慮し、本実施形態では、約22mmに設定される。また、フォーク部20bの長さl20は、吊り上げ搬送する対象物Tの寸法、個数及び重量を考慮し、本実施形態では、約500mmに設定される。また、2つの吊荷保持部20間の間隔D20も、吊り上げ搬送する対象物Tの寸法、個数及び重量を考慮し、本実施形態では、約450mmに設定される。また、各吊荷保持部10の下面から固定天板10の上面までの高さh20も、吊り上げ搬送する対象物Tの寸法、個数及び重量を考慮し、本実施形態では、約570mmに設定される。
【0016】
また、回転天板30は、
図3乃至
図7に示すように、固定天板10に対して重なった状態から隔離した状態へ変更可能なように、固定天板10に設けられた各固定部11に対して回転可能に支持されている。
この回転天板30は、
図2に示すように、長さ及び幅のそれぞれが固定天板10の長さl10及び幅b10のそれぞれと同程度に設定され、かつ板厚t30で形成された長方形状の磁性体の金属部材である。「磁性体」は、強磁性体の意である。回転天板30、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板以外のステンレス鋼板あるいは炭素鋼板で構成される。また、回転天板30の板厚t30は、対象物Tの吊り荷重を考慮し、本実施形態では、約8mmに設定される。
【0017】
そして、回転天板30の幅方向両縁であって長手方向の吊荷保持部固定部11bに対応した位置には、一対の取付板部31(
図2には一方のみ図示)が設けられている。各取付板部31は、回転天板30の幅方向両縁であって長手方向の吊荷保持部固定部11bに対応した位置から下方に折り曲げ形成される矩形状部で、その中心には後述する連結ピン40の軸部が挿通される挿通孔31aが形成されている。
また、回転天板30の上面には、
図2乃至
図4に示すように、電磁吊具(リフティングマグネット)53とワイヤーWで連結される複数(本実施形態では4つ)の吊り環32が設けられている。吊り環32は、回転天板10の四隅に設けられる。各吊り環32には、ワイヤーWの一端が連結される連結孔32aが形成されている。
【0018】
そして、回転天板30は、各吊荷保持部固定部11bへの取付けに際し、
図1及び
図2に示すように、固定天板10の上方から固定天板10の上面に重ね合わせられるように各取付板部31が各吊荷保持部固定部11bの外側に位置される。各取付板部31が各吊荷保持部固定部11bの外側に位置すると、各取付板部31の挿通孔31aが各吊荷保持部固定部11bに形成された固定孔11cと整列する。そして、連結ピン40の軸部を各取付板部31の挿通孔31aを挿通させて固定孔11cに圧入固定する。これにより、連結ピン40の頭部が各取付板部31の抜け止めをした状態で、回転天板30は各吊荷保持部固定部11bに連結ピン40により回転可能に支持される。連結ピン40は、磁性体、例えば炭素鋼で構成される。
【0019】
このように構成された吊具1において、回転天板30は、
図5乃至
図7に示すように、固定天板10に対して重なった状態で電磁吊具(リフティングマグネット)53に吸着され、電磁吊具53による吸着が停止すると、固定天板10に対して隔離した状態へと変更される。
【0020】
次に、
図3乃至
図7を参照して、
図1に示す吊具1を用いて対象物Tを吊り上げ、搬送する方法について説明する。
吊具1は、電磁吊具(リフティングマグネット)53を備えたクレーン(図示せず)を用いて非磁性体の対象物Tを吊り上げて搬送するための吊具である。クレーンは、
図4に示すように、クレーンワイヤー51に吊下げられたフック52に、吊り輪55を介して支持部材54で支持された平坦形状の電磁吊具53を吊り下げている。そして、クレーンは、クレーンワイヤー51を巻き上げることで電磁吊具(リフティングマグネット)53を上昇させ、クレーンワイヤー51を巻き下げることで電磁吊具(リフティングマグネット)53を下降させるようにしている。
【0021】
先ず、吊具1を用いて対象物Tを吊り上げ、搬送するに際し、
図3に示すように、回転天板30が固定天板10に対して重ね合わされている状態で各ワイヤーWの一端を各吊り環32に連結する。
次いで、
図4に示すように、クレーンに備えられている電磁吊具53を固定天板30上面の中心におくとともに、一端が吊り環32に連結された各ワイヤーWの他端を吊り輪55に連結する。これにより、回転天板30と電磁吊具53とが複数のワイヤーWによって連結される。
【0022】
次いで、電磁吊具53を励磁して電磁吊具53で回転天板30を吸着する。このとき、回転天板30は磁性体であるので、円滑に電磁吊具53に吸着される。そして、固定天板10も磁性体であるので、固定天板10が回転天板30に吸着される。また、固定天板10が回転天板30に吸着されることから、固定部11を介して吊荷保持部20が電磁吊具53に固定された状態となる。
この状態で、クレーンによって吊具1を対象物Tが置かれている場所、例えば、熱間圧延後のSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼板から必要寸法切りだされた端材(対象物T)が載っている切断定盤のところに移動させ、
図5に示すように、吊具1を昇降させて吊荷保持部20のフォーク部20bによって複数本(
図5では2本のみ図示)の対象物Tを保持する(フォーク部20b上に対象物Tを載置)する。
【0023】
その後、クレーンによって吊具1を目標の場所、例えば端材専用の捨て場所の上空まで移動し、
図6に示すように、電磁吊具53の励磁を停止(釈放)する。これにより、電磁吊具53による回転天板30の吸着が停止され、固定天板10の回転天板30に対する吸着状態も停止される。これにより、回転天板30が自重により落下しようとするとともに、
図6に示すように、固定天板10が自重により連結ピン40を中心に下方に回転開始する。
【0024】
この際に、
図6に示すように、回転天板30と電磁吊具53とが複数のワイヤーWによって連結されているので、回転天板3の自重による落下が阻止され、固定天板10のみが自重により連結ピン40を中心に下方に回転開始する。
そして、
図7に示すように、固定天板10の自重による下方への回転が続行され、固定天板10に固定されている吊荷保持部20のフォーク部20bが下方へ向けて傾斜する。これにより、フォーク部20bに保持(フォーク部20b上に載置)されている対象物Tがフォーク部20b上を滑り落ち、対象物Tが目標の場所、例えば端材専用の捨て場所に落下する。
【0025】
以上の作業で、
図1に示す吊具1を用いての対象物Tの吊り上げ、搬送が終了する。
なお、
図1に示す吊具1を用いての対象物Tの吊り上げ、搬送を繰り返す場合には、
図7に示す状態から固定天板10を回転天板30に対して重なる状態に戻し、電磁吊具53を励磁して電磁吊具53で回転天板30を吸着し、クレーンによって吊具1を対象物Tが置かれている場所に移動させ、
図5乃至
図7に示す状態を繰り返せばよい。
このように、本実施形態に係る吊具1によれば、磁性体の固定天板10と、固定天板10に設けられた磁性体の固定部11に固定され、対象物Tを保持する吊荷保持部20と、固定天板10に対して重なった状態から隔離した状態へ変更可能なように、固定部11に対して回転可能に支持された磁性体の回転天板30とを備えている。そして、回転天板30は、固定天板10に対して重なった状態で電磁吊具53に吸着され、電磁吊具53による吸着が停止すると、固定天板10に対して隔離した状態へと変更される。
【0026】
これにより、電磁吊具53を備えたクレーンを用いて非磁性体の対象物Tを、手作業による玉掛け作業を不要として効率的に吊り上げ、搬送することができる。また、吊り具1は、電磁吊具53が平坦形状であっても、吊荷保持部20によって対象物Tを保持するので、板形状以外の様々な形状を対象物Tを吊り上げ、搬送することができる。また、吊具1は、固定部11を設けた磁性体の固定天板10と、吊荷保持部20と、磁性体の回転天板30とで構成されているので、構成が簡単で安価に構成することができる。
また、吊荷保持部20が非磁性体であるので、電磁吊具53を励磁して電磁吊具53で回転天板30を吸着した際に、吊荷保持部20は磁化されない。このため、吊荷保持部20が非磁性体の対象物Tを保持する際に、対象物T以外の磁性体、例えば磁性を帯びた切り屑等を吊荷保持部20が保持することはなく、不必要な磁性体の保持を回避することができる。
【0027】
また、回転天板30には、電磁吊具53とワイヤーWで連結される吊り環32が設けられている。このため、電磁吊具53による回転天板30の吸着が停止され、回転天板30が自重により落下しようとしても、回転天板30と電磁吊具53とを連結したワイヤーWによって回転天板3の自重による落下を確実に阻止することができる。
更に、吊荷保持部20は、固定部11に固定された固定板部20aの端部から固定板部20aに対して直交しかつ固定天板10に対向するように延びる、対象物Tを保持するフォーク部20bを備えている。これにより、吊荷となる対象物Tの形状制約が少なく、保持される対象物Tの方向も揃えやすくなるため、容易な集荷を行うことができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、回転天板30及び固定天板10の形状は、電磁吊具53の形状に合わせて適宜変更してもよく、長方形状に限られず、また、寸法等も説明した例に限られない。
また、回転天板30は、固定部11のみに対して回転可能に支持されている必要は必ずしもなく、固定天板10自体あるいは固定天板10及び固定部11の双方に対して回転可能に支持されていてもよい。
また、吊荷保持部20は、非磁性体である必要は必ずしもなく、磁性体であってもよい。
また、固定部11は、磁性体である必要は必ずしもなく、非磁性体であってもよい。
【0029】
また、回転天板10には、電磁吊具53とワイヤーWで連結される吊り環32が設けられている必要は必ずしもない。電磁吊具53による磁力を細かく調整することにより、回転天板30の自重による落下を防止できるからである。
また、吊荷保持部20は、対象物Tを保持し、固定部11に固定されるものであれば、固定部11に対し直線状に延びるように溶接等によって固定される固定板部20aと、固定板部20aの下端部から固定板部20aに対して直交しかつ固定天板10に対向するように直線状に延びるフォーク部20bとを備えたL字形に限られない。また、吊荷保持部20の寸法も、説明した例に限られない。
また、吊荷保持部20は、本実施形態では2つ設置されているが、数に制限はなく、1つであっても2つ以上であってもよい。
【0030】
また、固定天板10の回転天板30に対する回転角度を規制する回転規制機構(図示せず)を設け、吊荷保持部20のフォーク部20bの傾斜角度を規制するようにしてもよい。例えば、回転規制機構としてのチェーン(図示せず)などを固定天板10と回転天板30との間に設置する場合などである。これにより、電磁吊具53の励磁を停止してから、固定天板10の自重による下方への回転が続行され、固定天板10に固定されている吊荷保持部20のフォーク部20bが下方へ向けて傾斜した際に、その傾斜角度が規制される。このため、対象物Tがフォーク部20b上を滑り落ち、落下するときの落下速度を制限でき、安全性を向上させることができる。
【0031】
また、固定天板10が回転する回転速度を制限する制動装置(図示せず)を設けても良い。例えば、固定天板10とともに回転する連結ピン40の外周面にブレーキ装置(図示せず)を押し付けるようにする場合などである。これにより、電磁吊具53の励磁を停止してから、固定天板10の自重による下方への回転が続行され、固定天板10に固定されている吊荷保持部20のフォーク部20bが下方へ向けて傾斜する際に、当該フォーク部20bの回転速度を制限でき、安全性を向上させることができる。
【実施例0032】
(実施例1)
寸法が10mm厚×2500mm幅×10000mm長の熱間圧延後のSUS304の鋼板から寸法10mm厚×2000mm幅×9000mm長の鋼板を切りだした後に発生した寸法10mm厚×50mm幅×1500mm長の端材を、電磁吊具53を備えたセミガントリークレーンと
図1及び
図2に示す吊具1を用いて、20本単位で集荷後吊り上げ、切断場内から切断場外の端材専用のバックの上空まで搬送した。吊り具1の寸法及び材質は、
図1及び
図2の説明で記載した通りであり、定格荷重は250kgである。そして、端材専用のバックの上空まで搬送後、電磁吊具53の励磁を停止(釈放)し、荷卸を終了した。
この際に、吊荷及び吊具1に対して作業者が一切手作業による玉掛け作業を行うことなく、安全にかつ短時間で一連の作業を終了した。その後、電磁吊具53を再び励磁し作業を繰り返すことで、端材の片付けを終了した。
【0033】
(実施例2)
寸法が25mm厚×2500mm幅×10000mm長の熱間圧延後のSUS316の鋼板から寸法25mm厚×2200mm幅×9000mm長の鋼板を切りだした後に発生した寸法25mm厚×30mm幅×1500mm長の端材を、電磁吊具53を備えたセミガントリークレーンと
図1及び
図2に示す吊具1を用いて、10本単位で集荷後吊り上げ、切断場内から切断場外の端材専用のバックの上空まで搬送した。吊り具1の寸法及び材質は、
図1及び
図2の説明で記載した通りであり、定格荷重は250kgである。そして、端材専用のバックの上空まで搬送後、電磁吊具53の励磁を停止(釈放)し、荷卸を終了した。
この際に、吊荷及び吊具1に対して作業者が一切手作業による玉掛け作業を行うことなく、安全にかつ短時間で一連の作業を終了した。その後、電磁吊具53を再び励磁し作業を繰り返すことで、端材の片付けを終了した。