(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145351
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】靴洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
C11D 17/08 20060101AFI20220926BHJP
C11D 3/18 20060101ALI20220926BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20220926BHJP
C11D 1/72 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C11D17/08
C11D3/18
C11D3/20
C11D1/72
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021046716
(22)【出願日】2021-03-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】519123180
【氏名又は名称】株式会社赤玉化学
(74)【代理人】
【識別番号】100195970
【弁理士】
【氏名又は名称】本夛 伸介
(72)【発明者】
【氏名】赤司 宗朗
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AC06
4H003BA12
4H003DA01
4H003DB02
4H003EB02
4H003EB04
4H003EB05
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA10
4H003FA19
4H003FA23
4H003FA42
(57)【要約】
【課題】本発明は、安定した洗浄力、特に油落としと泡切れの良さを兼ね備え、組成物の経時的安定性にすぐれた靴洗浄剤組成物およびその製造方法を提供することを目的とする
【解決手段】本発明によれば、(a)8乃至12重量%のリモネンオイル、(b)12乃至18重量%の多価アルコール、(c)20乃至30重量%のポリオキシエチレングリコールを(d)40乃至60重量%の水中に均一に分散させたことを特徴とするマイクロエマルション製剤が提供され、強固な油汚れに対する優れた洗浄力と長期間分離がない安定性を有するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
8乃至12重量%の(a)リモネンオイル、12乃至18重量%の(b)多価アルコール、20乃至30重量%の(c)ポリオキシエチレングリコール及び40乃至60重量%の(d)水で構成される靴洗浄剤組成物。
【請求項2】
多価アルコールがプロピレングリコール及び/又はグリセリンである請求項1に記載の靴洗浄剤組成物。
【請求項3】
外観が透明なマクロエマルション型の製剤である請求項1乃至2に記載の靴洗浄剤組成物。
【請求項4】
第1工程として予め12乃至18重量%の(b)多価アルコール及び20乃至30重量%の(c)ポリオキシエチレングリコールの混液を調製し、当該混液を8乃至12重量%の(a)リモネンオイルに徐々に添加して撹拌混合させ、第2工程として、当該(a)リモネンオイル(b)多価アルコール及び(c)ポリオキシエチレングリコールの混合液を40乃至60重量%の(d)水に徐々に添加混合することによって、靴洗浄用のマイクロエマルション製剤を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄効果と経時的安定性にすぐれた特定組成の靴洗浄剤組成物およびその製造方法に関するものである。
さらに詳細には、(a)8乃至12重量%のリモネンオイル、(b)12乃至18重量%の多価アルコール、(c)20乃至30重量%のポリオキシエチレングリコールを(d)40乃至60重量%の水中に均一に分散させたことを特徴とする油落としと泡切れのバランス機能及び経時的安定性にすぐれた洗浄剤組成物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今のコロナ禍において、いわゆるフットケアは、衛生管理の面からハンドケア及びマウスケアと並んでその重要度は増しており、一連の抗菌・抗ウィルス対策として今後も大変重要な課題である。靴についた汚れの室内持ち込みは厳禁であり、その衛生管理としてのこまめな洗浄は必須である。
【0003】
一方、スニーカー等の靴汚れに目立つ黒ずみは、ホコリや泥・砂などの不溶性粒子が付着したものが多い。また、油性の混在した汚れが表面に付着し、その表面に塵や微粒子がさらに少しずつ蓄積され黒ずんだ汚れを形成する。スニーカー用の洗浄剤は、このような不溶性の汚れに適した成分で構成されることが多いため、水に溶けない汚れを溶かす化学的作用や、研磨剤等の摩擦による物理的作用で洗浄する機能を有するものが多い。
【0004】
ここで、靴やスニーカー用の洗剤に求められる重要な条件は3つ挙げられる。1つ目は靴表面の素材の損傷防止、2つ目は高い洗浄力の保持、そして3つ目は早い泡切れである。
【0005】
特に高い洗浄力と泡切れのバランスは難易度が高いが、少ない水資源利用の観点からも大変重要である。素材を重視すれば、洗浄力は低下し、自ずと洗剤の使用量が増える。使用量が増えると泡立ちが増し、消泡のために大量の水を使用することになる。
【0006】
したがって、これら3点のバランス考量と実効性のある最適な洗浄剤組成の選択が極めて重要である。
しかしながら、従来技術によれば、この点に着目した有用な靴洗浄剤組成物の提供はなされていないのが実情である。
【0007】
汚れを効果的に落とするために漂白剤が使用されることもあるが、洗浄剤の効果を低下させる等の問題がある他、特有の臭気を伴う等の環境的・健康的に問題があった。これを解消すべく特定の選択成分で構成された洗浄剤の試みがされている。例えば、特許文献1にその解決策が開示されている。
【0008】
すなわち、当該特許文献1によれば、界面活性剤に加え、特定のポリマーと特定の構造を有する化合物を組み合わせ配合することによって、漂白剤特有のにおいを発生させることなく十分な漂白効果が得られる技術が提供されている。
【0009】
しかしながら、当該技術では、特定の構造を有する金属ポリフィリンを構成として含むところ、当該化合物には重金属を含む場合があり、環境問題を十分に配慮したものではない。
また、すすぎ性も従来に比べて改善されているものの、洗浄時の泡切れが未だ不十分であり、結果的に排水量が多くなる欠点を有している。
さらに、安定な洗浄力を保持するためには、製剤中のエマルションが熱力学的に安定な連続層を構成する必要があるが、この点においても改善の余地がある。
【0010】
このように、頑固な汚れが付着した被洗浄物に対し、環境面を考慮しつつ、短時間で一定の洗浄効果を備えながら経時的分離等のない安定性良好な構成をとる靴用の洗浄剤組成物の提供は実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の未達の問題に鑑みてなされたものであり、特に安定した洗浄力を発揮するために不可欠な洗浄剤の経時的安定性にすぐれた靴洗浄剤組成物とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、洗浄力を落とさず、かつ、経時的安定性が良好な成分のバランス調整を行ったところ、特定の成分組成で構成される洗浄剤組成物が所望の効果を発揮することを見出し、本発明を完成した。具体的には以下のとおりである。
【0014】
本発明者らは、環境面の配慮から、天然物由来であり、油汚れに洗浄効果及び抗菌効果を見込める素材を探索した結果、テルペン類のオイルに着目するに至った。もともとテルペン類は、悪臭を隠ぺいするマスキング性や種々の生物学的特性を有することが知られている。その中でも特に本洗浄組成物に適した素材として、d-リモネンオイルが最適であるという結論に至り、本発明の課題解決のために鋭意研究を継続した。
【0015】
ここで、d-リモネンは、ミカン皮やレモン皮の柑橘皮油中に多量に含まれており、例えば、ミカンジュースやレモンジュースの製造時に排出される柑橘皮を圧搾し蒸留することにより、比較的大量、かつ容易に得ることができる成分である。また、d-リモネン自体に起因した殺菌効果を得ることも期待できる。柑橘臭は靴洗浄後の芳香としても最適である。
【0016】
本発明において求められる洗浄機能は、d-リモネンのみでは劣ることから、相溶性と洗浄効果の面から検討したところ、ポリオキシアルキレングリコール系の界面活性剤が相性の良いことがわかり、第二成分として選定した。
【0017】
一方、これら選定の両成分は油汚れの洗浄効果として優れるが、泡立ちが良すぎて消泡しづらいこと、また靴などの深い汚れ部位に対しては、浸透力を高める必要があることから第三成分の選定を要した。同時に、製剤構成として水を加えて適度の粘度に調整することが必要であり、経時的にも安定な均一のエマルションを構成する成分の選択を要することとなった。
検討の結果、多価アルコールの併用が最適であることが判明し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明によれば、(a)8乃至12重量%のリモネンオイル、(b)12乃至18重量%の多価アルコール、(c)20乃至30重量%のポリオキシエチレングリコールを(d)40乃至60重量%の水中に均一に分散させたことを特徴とする油落としと泡切れのバランス機能及び経時的安定性にすぐれた靴専用の洗浄剤組成物とその製造方法が提供されるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の靴用洗浄剤組成物は、上記のとおり、特定量の(a)リモネンオイル、(b)多価アルコール及び(c)ポリオキシエチレングリコールを特定量の(d)水中に均一に分散させたことを特徴とするものであり、これらの特定の成分種と量の組合せによって、強固な油汚れに対しても十分な洗浄力と泡切れ力を発揮し、長期間に安定な洗浄効果を奏し得るものである。
【0020】
そして、本発明の靴洗浄剤組成物は、その製造方法にも注目すべき特徴がある。
すなわち、本発明の靴洗浄剤組成物の製造方法は、第1工程として予め上記(b)及び(c)の混液を調製しておき、当該混液を(a)に徐々に添加して撹拌混合させ、第2工程として、当該(a)、(b)及び(c)の混合液を(d)に徐々に添加混合することによって、課題解決に最適な所望のマイクロエマルション製剤を得ることができるものである。当該マイクロエマルションは熱力学的に安定な連続層を形成することから、長期間保存によっても常に安定な洗浄力が期待できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
前述のとおり、本発明は、特定の成分構成・配合組成によって、強固な靴の油汚れに対しても十分な洗浄力を発揮し、長期間に渡って安定な洗浄効果を奏し得る靴専用の洗浄剤組成物とその製造方法を提供するものである。
【0022】
すなわち、本発明によれば、第一に、好適には8乃至12重量%の(a)リモネンオイル、12乃至18重量%の(b)多価アルコール、20乃至30重量%の(c)ポリオキシエチレングリコール及び40乃至60重量%の(d)水で構成される靴洗浄剤組成物が提供され、第二に、好適には第1工程として、予め12乃至18重量%の(b)多価アルコール及び20乃至30重量%の(c)ポリオキシエチレングリコールの混液を調製し、当該混液を8乃至12重量%の(a)リモネンオイルに徐々に添加して撹拌混合させ、第2工程として、当該(a)リモネンオイル(b)多価アルコール及び(c)ポリオキシエチレングリコールの混合液を40乃至60重量%の(d)水に添加混合することによって、靴洗浄用の澄明なマイクロエマルション製剤を製造する方法が提供される。
【0023】
本発明における(a)リモネンオイルは、柑橘系由来のオイルであり、油に対する親和性が高く、靴の汚れに対する漂白と洗浄に効果を発揮する。リモネン自体は、柑橘類に含まれる代表的な単環式のモノテルペンであり、化学式がC10H16で表され、その分子量は136.23である。常温常圧では無色透明の液体として存在する。キラル化合物であり、いずれのエナンチオマーも生合成されるものの、強いレモン臭がするのはd-リモネンである。本発明で好適に使用されるのは当該d-リモネンのオイルであり、柑橘系の果皮から抽出されるもの、合成によって得られるものであればいずれを使用してもよい。
また、単離精製物に限らず、前記果実の果皮から抽出したオレンジ色のものをそのまま使用することも任意であるが、この場合、性能に支障はないが、紫外線によって経時的に退色が進む場合があり、遮光できる容器の選定を考慮する必要がある。
さらに、一定の洗浄効果を得るために、少なくとも8乃至12重量%のd-リモネンを含有することが好ましい。リモネンには芳香があることに加え、一定の殺菌作用も知られていることから、靴洗浄用の機能性と併せ、トリプルの効果が期待できる。そして、主として天然物由来のものを用いることから環境の面からも広く許容される有用な素材である。
【0024】
(b)多価アルコールは、被洗浄物への浸透性が良いことから、本発明の組成物においては洗浄素材の洗浄効果を高める一方、本発明で使用する界面活性剤の気泡を抑制する効果もあることから、消泡効果による洗浄時間の短縮化を図ることが可能である。成分種としては、d-リモネン及び界面活性剤との相溶性の点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1―3-ブチレングリコール及びグリセリンがあげられるが、最も好ましいものは、プロピレングリコール、グリセリンであり、配合量としては20乃至30重量%が好ましい。
【0025】
(c)ポリオキシエチレングリコールは、油等の汚れ洗浄剤として機能する非イオン系界面活性剤である。具体的には、オキシエチレンの付加モル数が1乃至30モル、好ましくは7-15モルであるポリオキンエチレングリコールが例示できる。通常の配合量は、25乃至35重量%、本発明の洗浄剤を構成する各成分との相溶性と製剤全体の安定性を維持する上で好適には20乃至30重量%が使用される。
【0026】
(d)水は、上記(a)、(b)及び(c)の配合量に対する範囲でバランス調製される。特に本発明の製剤的特徴は、熱力学的に安定なマイクロエマルションを構成する点にあり、減圧下でホモジナイズする等の煩雑な工程を経ずに、常温で簡便な混合撹拌によって調製可能であるが、経時的により安定な連続層を得るためには、最終攪拌の時間は少なくとも3時間が必要であり、それ以下の時間であると、マイクロエマルションの経時的安定性が損なわれる場合がある。
また、本発明のマイクロエマルションは、外観的にも経時的にも安定な性状を維持するためには、好適な添加・撹拌の順序がある。
【0027】
すなわち、本発明によれば、好適には第1工程として、予め12乃至18重量%の(b)多価アルコール及び20乃至30重量%の(c)ポリオキシエチレングリコールの混液を調製し、当該混液を8乃至12重量%の(a)リモネンオイルに徐々に添加して撹拌混合させる。次に、第2工程として、当該(a)リモネンオイル(b)多価アルコール及び(c)ポリオキシエチレングリコールの混合液を40乃至60重量%の(d)水に添加混合することによって、所望の効果を発揮し得るマイクロエマルション製剤を得ることができる。
特に第2工程においては、(a)乃至(d)を一度に混合、あるいは、(d)を(a)乃至(c)の混合物に添加混合すると、ミセル形成が不十分なために半透明あるいは懸濁が発生するので、注意が必要である。
【0028】
ここで、マイクロエマルション(英語:Microemulsion)とは、一般に、エマルションに類似した分散系の一種であるが、ミセルの直径が100ナノメートル程度以下と小さく、熱力学的にも安定であり、また強い撹拌を要せず容易に形成されるものを指す。形成するミセルが小さいので可視光の散乱が少なく、目視的にも透明または半透明に見えるのが特徴である。
【0029】
マイクロエマルションの応用面としては、上記のとおり透明な外観を呈し、分離することがないことに加え、親水性成分や疎水性成分のいずれにも親和性のある物質をも溶解しやすい特性があることから、多用途に利用されている。
【0030】
本発明において、マイクロエマルション製剤を使用するメリットは、詳細は定かではないものの、およそ次の洗浄機能性の理論に基づいている。
【0031】
すなわち、多価アルコールに混和したリモネンオイルが被洗浄物に素早く浸透する結果、油汚れに親和して汚れを除去し、その後、マイクロエマルション系の組成バランスが崩れ、ミセルが乳化に移行し、界面活性剤ポリオキシエチレングリコールの力で二次的洗浄が始まる。先のリモネンオイルとの洗浄作用の協奏効果によって、汚れが落ちを加速させるとともに、助剤の多価アルコールが気泡の抑制を図ることで早い泡切れが達成されるものと推察される。
【0032】
多価アルコールは、洗浄過程においては、被洗浄物への親和性を向上させるとともに、すすぎ排水後には、表面仕上がりのしなやかさを付与することが得られるものである。
【0033】
また、仕上がり後は被洗浄物に浸透し吸着したリモネンの芳香が続き、抗菌性をも付与し得ることから、例えばコロナ禍における環境対策の洗浄剤として大変有意義な製剤を提供しうるものである。
【0034】
その他、本発明の洗浄剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、保湿剤、柔軟仕上げ剤、溶剤、抗菌剤および香料等を添加することができる。
【実施例0035】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は当該実施例に限定されるものではない。
【0036】
<試験例1> 経時的安定性試験
(試験方法)
表1 の組成物を広口規格ビンに充填し、蓋をして、-5 ℃ ~40 ℃ のサイクル恒温槽に1年間保存し、3ヶ月毎に製剤の外観を目視評価した。
また、同時に1年間経過時点での洗浄効果面の評価を行った。
評価項目は、被洗浄物の汚れ落ちと表面の漂白の状態、消泡性の有無の3つである。
なお、表1の組成物(供試試料)は、いずれも本発明によって見出した以下の製造方法によって得たものである。
すなわち、第1工程として、(b)多価アルコール及び(c)ポリオキシエチレングリコールの混液を調製し、当該混液を(a)リモネンオイルに徐々に添加して撹拌混合させる。次に、第2工程として、当該(a)リモネンオイル(b)多価アルコール及び(c)ポリオキシエチレングリコールの混合液を(d)水に添加混合することによって得たものである。
【0037】
(結果と考察)
以下に示した通り、本発明品は、経時的な変化がなく、機能性も維持されていた。また、被洗浄物表面の汚れ落ちと漂白性も良好であり、本発明で特定された成分で構成されたマイクロエマルション組成物は優れた商品価値を有するものであることが明らかである。
【表1】
【0038】
表2は、すべて本発明のマイクロエマルション組成物であり、上記と同様の製造方法で得た安定性試験を行って、所望の効果を有するものであること示したものである。
【表2】