IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リサーチ ディベロップメント ファウンデーションの特許一覧

特開2022-145845血清中半減期の増強のための操作された抗体FCバリアント
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022145845
(43)【公開日】2022-10-04
(54)【発明の名称】血清中半減期の増強のための操作された抗体FCバリアント
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220926BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20220926BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220926BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220926BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220926BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/00
C07K16/28
C07K16/30
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 M
A61K39/395 N
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022126967
(22)【出願日】2022-08-09
(62)【分割の表示】P 2020507074の分割
【原出願日】2018-08-11
(31)【優先権主張番号】62/544,622
(32)【優先日】2017-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】505098937
【氏名又は名称】リサーチ ディベロップメント ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ ジョルジオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン-ハン リー
(72)【発明者】
【氏名】テ ヒュン カン
(57)【要約】
【課題】FcRnへのpH依存性結合の増強によって血清中半減期が増大した新しいFcドメインを提供する。
【解決手段】一部の態様では、本発明は、FcRnに対するpH依存性親和性の増強を示すFcドメインバリアントを提供する。本発明の一部の態様では、FcRnに対して酸性pHにおける増強された親和性およびpH選択性を示す抗体Fcドメインを単離するための方法が提供される。本発明の別の態様では、pH選択的結合および/またはFcRnに対する親和性の増大をもたらし得るIgG1 Fcドメインにおける特定の変異および変異の組合せが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年8月11日に出願された米国仮特許出願第62/544,622号の利益を主張しており、その全体は参考として本明細書中に援用される。
【0002】
本発明は、全般的には、タンパク質工学の分野に関する。より詳細には、本発明は、FcRnへのpH依存性結合の増強を付与するFc抗体ドメインの改善された血清中半減期に関係する。
【背景技術】
【0003】
現在、上位25種の市販の組換え治療抗体は、$435億/年をはるかに上回る売上高を有し、これは、2010年から2015年にかけて9.2%の予想年間成長率であり、2015年までに$627億/年まで増加する見通しである(Elvin et al., 2013)。モノクローナル抗体(mAb)は、現在診療所にある組換えタンパク質の大部分を構成し、1064種の製品が、米国またはEUにおいて会社出資の臨床治験を受けており、そのうち164種が第III相にある(Elvin et al., 2013)。治療上の焦点の観点から、mAb市場は、腫瘍学および炎症性障害に大きな焦点が置かれており、これらの治療分野内の製品は、予想期間にわたって重要な成長推進力であり続けることになる。遺伝子操作されたmAbはグループとしてみると一般に、小分子薬物よりも高い、FDA承認成功の確率を有する。少なくとも50社のバイオテクノロジー会社およびあらゆる主要な製薬会社で、抗体発見プログラムを積極的に実施している。mAbの単離および産生のための本来の方法は、最初にMilsteinおよびKohlerによって1975年に報告され(Kohlerand Milstein 1975)、これには、マウスハイブリドーマを生じるマウスリンパ球および骨髄腫細胞の融合が関与した。治療用マウスmAbは、1980年代初期に臨床研究に入った;しかし、患者がヒト抗マウス抗体(HAMA)を産生することによる、有効性の欠如および急速なクリアランスに伴う問題が明らかとなった。これらの課題と共に、本技術に関して時間と費用がかかることが、mAb産生技術の進化の推進力となった。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、免疫化した動物のリンパ球から直接のモノクローナル抗体遺伝子のクローニングおよび細菌における抗体断片のコンビナトリアルライブラリーの発現が容易になった(Orlandi et al., 1989)。より最近のライブラリーは、再編成された相補性決定領域3(CDR3)を有するナイーブ遺伝子を使用して、完全にin vitroクローニング技法によって作製された(Griffthsand Duncan 1998; Hoogenboom et al., 1998)。結果として、所望の特異性を有する抗体断片の単離はもはや、対応する抗原の免疫原性に依存しない。これらの利点により、小分子化合物(ハプテン)(Hoogenboomamd Winter, 1992)、分子複合体(Chames et al., 2000)、不安定な化合物(Kjaer et al., 1998)および細胞表面タンパク質(Desai et al., 1998)を含む多数の特有の抗原に対する抗体断片の開発が容易になった。
【0004】
抗体の大きなコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングして、リガンドに所望の親和性で結合するクローンを同定するための1つの方法は、細菌細胞、より詳細にはE.coliの表面上での抗体断片または全長抗体の発現およびディスプレイを伴うものである。抗体または抗体断片をディスプレイする細胞を蛍光標識されたリガンドの溶液と一緒にインキュベートし、それらの表面上にディスプレイされた抗体によって前記リガンドに結合する細胞をフローサイトメトリーにより単離する。特に、繋留型ペリプラズム発現(APEx)は、E.coliの内膜のペリプラズム面(periplasmic face)における抗体断片の繋留に続く、外膜の破壊、蛍光標識された標的とのインキュベーションおよびスフェロプラストの選別に基づく(米国特許第7,094,571号、Harvey et al., 2004; Harvey et al., 2006)。
ヒト血清タンパク質の中で、アルブミンおよび免疫グロブリンG(IgG)は、ヒトにおける他の血清タンパク質よりも長い血清中半減期(約3週間)を有する。新生児Fc受容体(FcRn)は、リサイクリングおよびトランスサイトーシスプロセス等の多数の重要な生物学的機能を果たし、それにより、ヒトにおけるIgGの異常に長い約21日間の血清中持続を導くことが公知である(Challa et al., 2014)。かかるIgGの細胞間輸送によりその恒常性が調節され得、その結果、IgG細胞内分解が防止されることによってクリアランスの低減およびin vivo半減期の増大がもたらされる(Ober et al., 2004; Ward et al., 2015)。ほとんど全ての細胞型において、FcRnは、主に初期およびリサイクリングエンドソーム等の細胞内小胞ならびに選別細管(sorting tubule)に局在しており、FcRnの発現レベルは細胞表面上に限定される(Ober et al., 2004)。さらに、IgG-FcRn相互作用は酸性pHでは最適であるが、中性pHでは失われる。したがって、一般に認められているFcRn媒介性IgGリサイクリングモデルは、血液中でIgGの高い血清中レベルが維持されるように、IgGが非特異的ピノサイトーシスによって内部移行し、酸性エンドソーム(約pH6.0)においてIgGがFcRnに結合し、回収されて細胞表面(生理的pH7.4)に戻るというものである(Ghetie et al., 1996; Ghetie and Ward, 2000; Israel et al., 1996; Kim et al., 1999;Martin et al., 2001; Roopenian and Akilesh, 2007; Roopenian et al., 2003)。しかし、細胞表面においてFcRnから解離しないIgGは、輸送からリソソームに回収されるかまたは受容体ターンオーバーの間に異化されるので、リソソーム分解されることになる(Gan et al., 2009)。
FcRnへのFc結合の生理的重要性および治療抗体を用いたFcRnへのFc結合の重要性に起因して、FcRnへのpH依存性結合の増強によって血清中半減期が増大した新しいFcドメインの明白な必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,094,571号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Elvinら、Int.J.Pharm.(2013)440:83~98
【非特許文献2】RoopenianおよびAkilesh,Nat Rev Immunol.,(2007年8月17日)7(9):715~25
【非特許文献3】Roopenianら、J Immunol.(2003)170(7) 3528~3533
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一部の態様では、本発明は、FcRnに対するpH依存性親和性の増強を示すFcドメインバリアントを提供することによって先行技術における限界を克服する。下の例に示される通り、どちらも酸性pHにおいてFcRnにヒトIgG野生型の親和性をはるかに超える親和性で結合する操作された変異体IgG Fcドメインが提供され、一部の態様では、変異体Fcドメインが生理的pH(生理的pH7.4)ではFcRnへの非常に低い~無視できるまたは検出不可能な結合を有することがさらに観察された。かかるFcRnに対する親和性の高pH選択性は、血清中半減期の増大のために非常に望ましい。
【0008】
本発明の一部の態様では、FcRnに対して酸性pHにおける増強された親和性およびpH選択性を示す抗体Fcドメインを単離するための方法が提供される。本発明の別の態様では、pH選択的結合および/またはFcRnに対する親和性の増大をもたらし得るIgG1 Fcドメインにおける特定の変異および変異の組合せが提供される。
【0009】
より詳細には、一部の実施形態では、対応する野生型Fcドメインと比較して、FcRnに対して(i)pH5.8では結合の増強を示し、かつ(ii)pH7.4では結合の低減を示すまたは検出可能な結合を示さない変異体またはバリアントヒトFcドメインが提供される。変異体またはバリアントFcドメインは、変異体またはバリアントIgGドメインであり得る。変異体またはバリアントFcドメインは、抗体等のポリペプチドに含まれ得る。一部の実施形態では、変異体またはバリアントFcドメインは、治療抗体、例えば、アゴニスト抗体またはアンタゴニスト抗体等に含まれ得る。一部の実施形態では、ヒトIgG1-4抗体(「抗体Fcドメイン」)に由来する変異体またはバリアントFcドメインを有するポリペプチドが関与する組成物が存在する。変異体Fcドメインは、野生型ヒトIgG1 Fcドメイン(配列番号1)のバリアントであり得、ここで、変異体またはバリアントFcドメインは、FcRnに、酸性pHでは増大した親和性で結合することができるが、中性pHでは結合することができない。一部の実施形態では、操作されたFcドメインは、FcRnに対して、例えば、グリコシル化された野生型Fcドメインよりも約5倍増大した親和性を呈し得る。さらなる実施形態では、他の全ての野生型IgGサブクラス(ヒトIgG2、IgG3、およびIgG4)の変異体ヒトFcドメインが提供され、これらは、FcRnに酸性pHでは増大した親和性で結合することができるが、中性pHでは結合することができない。変異体またはバリアントFcとFcRnの結合を酸性pH(例えば、pH5.8)では増大させ、しかし生理的pH(pH7.4)では増大させないために、変異体またはバリアントFcドメインは、野生型ヒトIgG1 Fc(配列番号1)、ヒトIgG2 Fc(配列番号2)、ヒトIgG3 Fc(配列番号3)、またはヒトIgG4 Fc(配列番号4)と比べて、変異(L/V309D、Q311H、N434S/Y)、および必要に応じて(V264E)を含有し得る。例えば、変異(L/V309D、Q311H、N434S)をヒトIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4において作製し、その結果、それぞれ配列番号7、配列番号9、配列番号10、および配列番号11をもたらした。上記の通り、これらの酸性pHにおけるFcRnへの結合の変化により、タンパク質の薬物動態を改善することおよび/または血清中半減期を増大させることができる。下の例で観察される通り、操作されたFcドメインは、ヒトFcRnトランスジェニックマウスモデルにおいて血清中半減期の増強を呈することが観察された。
【0010】
一部の態様では、FcRnに対する親和性およびpH選択性の増大を示す抗体Fcドメインを単離するための方法が提供される。抗体Fcドメインは、例えば、FcドメインのFcRnに対する選択的かつ親和性が増大した結合に影響を及ぼすために本明細書に記載されている特定の置換変異の1つもしくは複数または置換変異の組合せを含み得る。
【0011】
一部の実施形態では、ヒトIgG1抗体由来のFcドメイン(「抗体Fcドメイン」)を有するポリペプチドが関与する組成物が存在する。追加的な実施形態では、Fcドメインは、FcRnに対する増大したまたはpH選択的結合を呈し得るヒトIgG1 Fcドメイン(配列番号1)のバリアントまたは変異体である。一部の実施形態では、操作されたFcドメインのアミノ酸置換(変異L/V309D、Q311H、およびN434S/Y;ならびに必要に応じてV264E)が他のIgGサブクラス(IgG2、IgG3、およびIgG4)に導入されると、酸性pHにおける(i)FcRnへのpH選択的結合および(ii)FcRnへの増強された結合の両方がもたらされる。一部の実施形態では、本明細書に提供されている操作されたFcドメインは、野生型Fcドメインを有するポリペプチドと比較して3倍~5倍またはそれよりも大きく増大したFcRnに対する親和性(例えば、少なくとも2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、5倍、または5.5倍に増強されたFcRnに対するK)を呈し得る。
【0012】
抗体Fcドメインは、IgG抗体のFcドメインまたはそのバリアントであり得る。さらに、抗体Fcドメインは、ヒトFcドメインとして規定することができる。ある特定の態様では、Fcドメインは、抗HER2抗体のFcドメイン等のIgG1 Fcドメインであり得る。ポリペプチドは、抗体分子に由来しないポリペプチドに融合された、本明細書に開示されている操作されたFcドメインの融合体を含み得ることも企図される。
【0013】
一部の実施形態では、抗体Fcドメインを含むポリペプチドは、特定のアミノ酸置換を含む。一部の実施形態では、以下の一覧からの1つよりも多くのポジションに多数のアミノ酸置換が存在する:(264、309、311、および434);(309、311、および434)。一部の実施形態では、操作されたFcドメインは、これらのポジションの2つ、3つ、4つまたは全てに置換変異を有し得る。Fcドメインはグリコシル化されていてもよく、非グリコシル化されていてもよい。例えば、264位に変異を含めること(例えば、V264E)により、非グリコシル化Fcドメインがもたらされ得る。一部の実施形態では、IgG1の抗体Fcドメインは、アミノ酸309におけるアスパラギン酸による置換(L309D)、アミノ酸311におけるヒスチジンへの置換(Q311H)、アミノ酸434におけるセリンまたはチロシンへの置換(N434S/Y)、またはこれらの置換の組合せであり得る。必要に応じて、FcドメインIgG1は、アミノ酸264におけるグルタミン酸への置換(V264E)をさらに含み得る。他の好ましい実施形態では、抗体Fcドメイン(例えば、IgG2、IgG3、またはIgG4のFcドメイン等)は、アミノ酸309におけるアスパラギン酸による置換(V309D)、アミノ酸311におけるヒスチジンへの置換(Q311H)、アミノ酸434におけるセリンまたはチロシンへの置換(N434S/Y)、またはこれらの置換の組合せを含み得る。必要に応じて、FcドメインIgG1は、アミノ酸264におけるグルタミン酸への置換(V264E)をさらに含み得る。
【0014】
本発明のある態様は、酸性pHにおいてヒトFcRnに結合することができる変異体またはバリアントヒトIgG Fcドメインを含むポリペプチドであって、Fcドメインが、(i)309位におけるアスパラギン酸(L/V309D);(ii)311位におけるヒスチジン(Q311H);および(iii)434位における置換変異(N434)の置換変異を有する、ポリペプチドに関する。434位における置換変異は、セリン(N434S)またはチロシン(N434Y)であり得る。Fcドメインは、グリコシル化されていてよい。一部の実施形態では、Fcドメインは、野生型と比較して実質的に等しい、基本的に同じ、ほぼ同じ、または同じであるFcγRへの結合を有する。一部の実施形態では、Fcドメインは、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIのうちの1つ、2つ、または全てに対して野生型と比較して実質的に等しい、基本的に同じである、ほぼ同じである、同じである、または等しい結合能を有する。Fcドメインは、FcRnに酸性pHにおいて野生型よりも高い親和性で結合し得る。一部の実施形態では、Fcドメインは、中性pHではFcRnに検出可能もしくは選択的には結合しない、またはFcRnへの結合を示さないもしくは基本的に示さない。一部の実施形態では、Fcドメインは、FcRnに対して、野生型と比較して、(i)pH5.8では結合の増強を示し、かつ(ii)pH7.4では結合の低減を示すまたは検出可能な結合を示さない。Fcドメインは、非グリコシル化されていてよい。例えば、一部の実施形態では、Fcドメインは、264位におけるグルタミン酸の置換変異(V264E)を有する。IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4であり得る。一部の実施形態では、Fcドメインは、EDHS(V264E、L309D、Q311H、およびN434S;例えば、配列番号5)、EDHY(V264E、L309D、Q311H、およびN434Y;例えば、配列番号6)、DHS(L309D、Q311H、およびN434S;例えば、配列番号7)、DHY(L309D、Q311H、およびN434Y;例えば、配列番号8)、IgG2-DHS(V309D、Q311H、およびN434S;配列番号9)、IgG3-DHS(L309D、Q311H、およびN434S;配列番号10)、またはIgG4-DHS(L309D、Q311H、およびN434S;配列番号11)を含む、またはそれからなる。一部の実施形態では、Fcドメインは、DHS(L309D、Q311H、およびN434S;例えば、配列番号7)またはDHY(L309D、Q311H、およびN434Y;例えば、配列番号8)を含む、またはそれからなる。一部の実施形態では、Fcドメインは、FcRnに約550nM未満、約525nM未満、約500nM未満、約475nM未満、約450nM未満、約425nM未満、約400nM未満、約375nM未満、約350nM未満、約325nM未満、約300nM未満、約275nM未満、約250nM未満、約225nM未満、約200nM未満、約175nM未満、約150nM未満、約125nM未満、または約100nM未満のK値で結合する(例えば、pH5.8で)。ポリペプチドは、非Fc受容体(非FcR)結合ドメインをさらに含み得る。非FcR結合ドメインはIg可変ドメインであり得る。ポリペプチドは全長抗体であり得る。一部の実施形態では、抗体は、アゴニスト抗体またはアンタゴニスト抗体である。一部の実施形態では、抗体は、Her2/neu、CD20、CD40、IL-10、4-1BB、PD-1、PD-L1、CTLA-4OX40、IL-1、IL-6、IL6R、TNFα、RANKL、EGFR、c-Met、CD11a、VEGF-A、VEGFR1、VEGFR2、C5、またはインテグリン(Integrain)-α4に選択的に結合する。抗体は、毒素に化学的にコンジュゲートされ得るかまたは共有結合され得る。一部の実施形態では、非FcR結合領域は、抗体の抗原結合部位ではない。一部の実施形態では、非FcR結合領域は、細胞表面タンパク質に結合する。一部の実施形態では、非FcR結合領域は、可溶性タンパク質に結合する。
【0015】
本発明の別の態様は、本発明のまたは上記のポリペプチドのいずれかをコードする核酸に関する。核酸は、DNAセグメントであり得る。一部の実施形態では、核酸は、発現ベクターである。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、本発明のまたは上記の核酸を含む宿主細胞に関する。細胞は、核酸を発現し得る。
【0017】
本発明の別の態様は、ポリペプチドを調製するための方法であって、a)本発明のまたは上記の宿主細胞を得るステップと、b)非グリコシル化ポリペプチドの発現を促進するための条件下で、培養において宿主細胞をインキュベートするステップと、c)宿主細胞から、発現されたポリペプチドを精製するステップとを含む方法に関する。一部の実施形態では、宿主細胞は、原核細胞または哺乳動物細胞である。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、薬学的に許容される担体中に、本発明のもしくは上記のポリペプチド、または本発明のもしくは上記の核酸を含む医薬品製剤に関する。
【0019】
本発明の別の態様は、対象に抗体を与えるステップを含む、対象においてタンパク質を結合させる方法であって、抗体が、タンパク質に結合し、かつ本発明のまたは上記のFcドメインを含む、方法に関する。一部の実施形態では、抗体は、ヒトFcRnに約550nM未満、約525nM未満、約500nM未満、約475nM未満、約450nM未満、約425nM未満、約400nM未満、約375nM未満、約350nM未満、約325nM未満、約300nM未満、約275nM未満、約250nM未満、約225nM未満、約200nM未満、約175nM未満、約150nM未満、約125nM未満、または約100nM未満のKで特異的に結合することができる。一部の実施形態では、抗体はグリコシル化されており、かつ、Fcドメインは、野生型と比較してほぼ同等または同等のFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIへの結合を有する。一部の実施形態では、抗体は、グリコシル化治療抗体である。一部の実施形態では、抗体は、非グリコシル化バージョンの治療抗体である。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、疾患を有する対象を処置する方法であって、有効量の本発明のまたは上記の製剤を対象に投与するステップを含む方法に関する。方法により、抗体依存性細胞傷害を誘導することができる。一部の実施形態では、疾患は、がん、感染、または自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ)である。対象はヒト患者であり得る。製剤は、腫瘍内に、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、眼内に、鼻腔内に、硝子体内に、膣内に、直腸内に、筋肉内に、皮下に、結膜下、小胞内に、粘膜に、心膜内に、臍帯内に、経口によって、吸入によって、注射によって、注入によって、持続注入によって、標的細胞を直接浸す局在化灌流によって、カテーテルにより、または洗浄により投与することができる。一部の実施形態では、疾患はがんであり、方法は、少なくとも第2の抗がん療法を対象に投与するステップをさらに含む。第2の抗がん療法は、外科療法、化学療法、放射線療法、寒冷療法、ホルモン療法、免疫療法またはサイトカイン療法であり得る。疾患は、腫瘍、例えば、固形腫瘍または血液学的腫瘍等を含み得る。
【0021】
一実施形態では、疾患(例えば、がん、感染、自己免疫疾患、細菌感染、またはウイルス感染)の処置における使用のための、本実施形態のバリアントFcドメインまたは本実施形態のバリアントFcドメインをコードする核酸を含む組成物が提供される。疾患の処置は、治療効果(例えば、毒素の結合、またはアゴニスト抗体での受容体の刺激等の結果生じるもの)が達成される一方で、免疫活性化の低減または補体依存性細胞傷害の低減が生じるように選択タンパク質を結合させることを伴い得る。一部の態様では、疾患は、がん、自己免疫疾患、炎症性疾患、または感染症であり得る。別の実施形態では、がん等の疾患の処置のための医薬の製造における、本実施形態によるポリペプチドまたは本実施形態によるポリペプチドをコードする核酸の使用が提供される。
【0022】
一部の実施形態では、本発明に係るまたは上記のポリペプチドおよび薬学的に許容される賦形剤を含む薬学的に許容される組成物が提供される。一部の実施形態では、それを必要とする対象において疾患を処置する方法における使用のための組成物であって、本発明に係るまたは上記のポリペプチドを含む組成物が提供される。疾患は、がん、感染、細菌感染、ウイルス感染、または自己免疫疾患であり得る。
【0023】
バリアントFcドメインポリペプチド(変異体または操作されたFcドメインとも称される)は、無改変ポリペプチド(例えば、野生型IgG Fcドメイン、またはヒト野生型IgG Fcドメイン等の野生型Fcドメインポリペプチド)または本明細書に開示されているいずれかのポリペプチド配列と比較して、ある特定のパーセンテージの同一性を有すると特徴付けることができる。パーセンテージ同一性は、改変されたポリペプチドの無改変部分(すなわち、いかなる指定された置換も除外する、改変されたポリペプチドの配列)および対応する野生型ポリペプチドの間で、おおよそ少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%(またはそこから導くことができるいずれかの範囲)であり得る。例えば、バリアントFcドメインは、指定された置換変異(例えば、L/V309D、Q311H、およびN434S/Y;ならびに必要に応じてV264E)を除外するバリアントFcドメインの領域に関して、野生型Fcドメイン(例えば、配列番号1~4のいずれか1つ等の野生型ヒトIgG Fcドメイン)と比較して、例えば、少なくとも90%、少なくとも約95%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有し得る。バリアントFcドメインは、野生型Fcドメインと比較して、変異体Fcドメインにおける指定された置換変異に加えて、追加的な変異も含み得る。上記の同一性のパーセンテージが、野生型Fcドメイン(例えば、ヒトIgG Fcドメイン)と比較した、バリアントFcドメインポリペプチドの全体に関係し得ることも企図される。例えば、野生型Fcドメインに対し少なくとも90%の同一性を有すると特徴付けられるバリアントFcドメインポリペプチドは、そのバリアントポリペプチドにおけるアミノ酸の少なくとも90%が、野生型ポリペプチドにおけるアミノ酸と同一であることを意味する。
【0024】
抗体Fcドメインは、ヒトIgG抗体の変異体またはバリアントFcドメインであり得る(例えば、Fcドメインは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fcドメインであり得る)。ポリペプチドが、抗体分子に由来しないポリペプチドに融合された、本明細書に開示されている操作されたバリアントFcドメインの融合体を含み得ることも企図される。一部の実施形態では、本発明の操作されたFcドメインは、アゴニスト抗体、例えば、CD40、細胞死受容体5(DR5)、PD-1、またはTNF受容体(TNFR)分子を標的とする抗体等に含まれる。
【0025】
本明細書に記載されているバリアントFcドメインを含むポリペプチドは、一部の実施形態では、リンカーを含み得る。さらなる実施形態では、リンカーは、コンジュゲート可能なリンカーである。一部の実施形態では、ポリペプチドは、抗体に由来するFcドメインを含有する。これは、別の結合ドメイン等、抗体由来の他の領域を含有し得る。一部の実施形態では、追加的な結合ドメインは、FcR結合ドメインでなくてもよい。一部の実施形態では、ポリペプチドは、抗体由来の可変領域の全部または部分等、抗体由来の抗原結合部位またはドメインを含有し得る。ポリペプチドは、抗体由来のFcドメインおよび非FcR結合ドメインである別の結合ドメインを含有し得る。一部の実施形態では、非Fc結合領域は、抗体の抗原結合部位ではなく、細胞表面タンパク質または可溶性タンパク質に特異的に結合する。一部の場合では、非Fc結合領域が認識する細胞表面タンパク質は、受容体、例えば、細胞表面上に発現される受容体等である。
【0026】
他のポリペプチドは、Fcドメインバリアント(例えば、酸性pHではFcRnポリペプチドに増強された結合をすることができるが、生理的または中性pHではFcRnへの結合の低減を示すまたは検出可能な結合を示さない)と、非Fc受容体結合ドメインである第2の結合ドメインとを有するポリペプチドを含み、第2の結合ドメインは、細胞表面分子または可溶性タンパク質に特異的に結合することができる。一部の実施形態では、第2の結合ドメインは、抗体の抗原結合ドメイン(「Ig可変ドメイン」)である。一部の態様では、ポリペプチドは、全長抗体であり得る。一部の場合では、第2の結合ドメインは、抗体抗原結合ドメインではない。一部の実施形態では、第2の結合ドメインは、タンパク質またはタンパク質性分子である細胞表面分子に特異的に結合することができる。一部の態様では、第2の結合ドメインは、可溶性タンパク質に特異的に結合することができる。
【0027】
一部の態様は、本明細書に記すポリペプチドのいずれかをコードする核酸に関係する。核酸は、単離することができ、そして/または組換体であり得る。これは、単離され、そして/または組換体である核酸セグメントであり得る。一部の実施形態では、核酸は、DNAまたはRNAである。一部の実施形態では、核酸は、DNAセグメントである。一部の実施形態では、核酸は、FcγRnに特異的に結合する1個または複数の置換を有するFc結合ドメインを有するポリペプチドのいずれかを発現することができる発現ベクターである。核酸は、ある特定の変異が存在するかしないか、ならびにポリペプチドが産生される仕方に応じてグリコシル化されていてもされていなくてもよい、本明細書の1種または複数のポリペプチドをコードし得る。
【0028】
一部の実施形態では、核酸は、本明細書に記載されているFcRnにpH選択的に結合することができるバリアントまたは変異体Fcドメインを含む、またはそれからなるポリペプチドをコードする。核酸は、非グリコシル化バージョンのポリペプチド等のポリペプチドを発現することができる宿主細胞に入れること(例えば、トランスフェクトまたは形質転換すること)ができる。宿主細胞は、細菌細胞等の原核細胞であり得る。あるいは、宿主細胞は、哺乳動物細胞等の真核細胞であり得る。一部の実施形態では、宿主細胞は、第1の発現ベクターを含有するが、同様に第2の発現ベクターも含み得る。一部の抗体は、複数のポリペプチドで構成されているため、一部の実施形態では、ポリペプチドを発現させるために必要な発現ベクター(複数可)を含有する宿主細胞を利用することができる。一部の実施形態では、宿主細胞は、免疫グロブリン重鎖(例えば、FcRnに酸性pHでは増強された親和性で結合するが、中性pHでは結合しないバリアントまたは変異体Fcドメインを含有する)を含む、またはそれからなるポリペプチドをコードする第1の発現ベクターを発現する。一部の実施形態では、宿主細胞は、免疫グロブリン軽鎖を含む、またはそれからなるポリペプチドをコードする第2の発現ベクターを含む。宿主細胞は、例えば、重鎖および軽鎖を含む抗体の発現を可能にするために1つまたは2つの発現ベクターを含み得る。
【0029】
一部の態様では、宿主細胞の集団であって、異なるFcドメインを有するポリペプチドを発現する複数の宿主細胞を含有する集団が提供される。任意の2種の異なるFcドメインのアミノ酸配列が、同一性が20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、またはそれ未満異なり得ることが企図される。
【0030】
一部の態様では、本明細書に記載されているポリペプチド(例えば、FcRnに酸性pHでは増強された親和性で結合するが、中性pHでは結合しないFc領域を有するポリペプチド)を作製する方法ならびにこれらのポリペプチドを使用する方法が提供される。本明細書に記載されているまたは当業者に公知の方法は、本明細書に記載されているポリペプチドのいずれかを作製または使用するためのものであり得ることが予測される。
【0031】
一部の実施形態では、方法は、上清からポリペプチドを精製することを伴う。これは、上清からのポリペプチドを、濾過、HPLC、陰イオンもしくは陽イオン交換、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、アフィニティークロマトグラフィーまたはこれらの組合せに供することを伴い得る。一部の実施形態では、方法は、IgG Fc領域に結合するブドウ球菌プロテインAを使用するアフィニティークロマトグラフィーを伴う。他の精製方法は当業者に周知である。
【0032】
一部の実施形態では、薬学的に許容される担体中に本実施形態のポリペプチドもしくは核酸を含む医薬品製剤、または賦形剤を含む医薬調製物が提供される。
【0033】
一部の実施形態では、対象に抗体を与えるまたは投与する(例えば、静脈内に等)ステップを含む方法であって、抗体が、本明細書に記載されているFcRnに酸性pHでは増強された親和性で結合するが、中性pHまたは生理的pHでは結合しないFcドメインを含む、方法により、対象において免疫応答を誘導することができる。
【0034】
さらなる実施形態では、がん、感染、自己免疫性のまたは炎症性疾患を、本明細書に記載されている、FcRnに酸性pHでは増強された親和性で結合するが、中性pHまたは生理的pHでは結合しないバリアントまたは変異体Fcドメインを含む治療用ポリペプチドを投与することによって処置することができる。本明細書に記載されている変異体またはバリアントFcドメインを含むポリペプチドは、野生型ヒトIgG Fc領域を含むポリペプチドによって誘導される補体依存性細胞傷害(CDC)と比較して同様のCDCを示し得ることが構想される。なおさらなる実施形態では、本発明に係るポリペプチドは、野生型ヒトIgG抗体と比較して同様のADCCまたはADCPを示し得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、「FcRnへのpH選択的結合」または「FcRnにpH選択的に結合する」は、Fcドメイン(例えば、変異体またはバリアントIgG Fcドメイン)等のポリペプチドの、FcRnに酸性pH(例えば、pH5.8)で結合する能力を有する特性を指し、ポリペプチドまたはFcドメインは、酸性pHにおいて野生型Fcドメイン(例えば、野生型Fc IgGドメイン)と比較して増大したFcRnへの結合を示す能力を有することが好ましい。一部の実施形態では、FcRnにpH選択的に結合するFcドメインまたはポリペプチドはまた、生理的pHでは野生型(例えば、野生型IgG Fcドメイン)と比較して低減したFcRnへの結合を示すまたは生理的pHではFcRnへの検出可能な結合を示さない。
【0036】
本明細書において使用する場合、「を基本的に含まない」は、指定された構成成分に関して、指定された構成成分のいずれも、組成物において意図的に製剤化されていない、および/またはそれが単なる夾雑物としてもしくは微量で存在することを意味するように本明細書で使用されている。組成物のいずれかの意図されない混入に起因する指定された構成成分の総量は、したがって、0.05%をはるかに下回り、好ましくは0.01%を下回る。指定された構成成分の量を標準分析方法により検出することができない組成物が最も好ましい。
【0037】
本明細書において使用する場合、用語「親和性」は、2種の作用物質の可逆的結合の平衡定数を指し、Kとして表現される。その標的に対する結合ドメインの親和性は、例えば、約100ナノモル濃度(nM)~約0.1nM、約100nM~約1ピコモル濃度(pM)または約100nM~約1フェムトモル濃度(fM)であり得;あるいは、これは、100nM~1nMの間または0.1nM~10nMの間であり得る。さらに、2種の作用物質の間に上に記す親和性範囲内の親和性が存在する場合、作用物質同士が特異的に結合することが企図される。
【0038】
本明細書において使用する場合、核酸に関連する用語「コードする」または「コード化すること」は、当業者が本発明を容易に理解できるようにするために使用され;しかし、これらの用語は、それぞれ「を含む」または「を含むこと」と互換的に使用することができる。
【0039】
本明細書において、「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1または複数を意味することができる。本明細書の請求項(単数または複数)において使用する場合、単語「を含む(comprising)」と併せて使用される場合、単語「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1または2以上を意味することができる。
【0040】
特許請求の範囲における用語「または」の使用は、選択肢のみを指すことまたは選択肢が相互排他的であることを明確に示さない限り、「および/または」を意味するように使用されているが、本開示は、選択肢のみおよび「および/または」を指す規定を支持する。本明細書において使用する場合、「別の」は、少なくとも第2のまたはそれを超える数のものを意味することができる。
【0041】
本願全体を通して、用語「約」は、値が、変量の測定に使用される装置、値の決定に用いられる方法に固有の誤差変動、または研究対象の間に存在する変動を含むことを示すように使用されている。
本発明の他の目的、特色および利点は、次の詳細な説明から明らかである。しかし、本発明の精神および範囲内の様々な変更および修正が、この詳細な説明から当業者に明らかであり得るため、詳細な説明および具体例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、単なる例示として提示されていることを理解されたい。
以下の図は本明細書の一部を形成し、本発明のある特定の態様をさらに実証するために含まれる。本発明は、これらの図の1つまたは複数を本明細書で提示されている特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて参照することによって、よりよく理解することができる。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
酸性pHにおいてヒトFcRnに結合することができる変異体またはバリアントヒトIgG Fcドメインを含むポリペプチドであって、前記Fcドメインが、
(i)309位におけるアスパラギン酸(L/V309D);
(ii)311位におけるヒスチジン(Q311H);および
(iii)434位における置換変異(N434)
の置換変異を有する、ポリペプチド。
(項目2)
前記434位における置換変異が、セリン(N434S)またはチロシン(N434Y)である、項目1に記載のポリペプチド。
(項目3)
前記434位における置換変異が、セリン(N434S)である、項目2に記載のポリペプチド。
(項目4)
前記434位における置換変異が、チロシン(N434Y)である、項目2に記載のポリペプチド。
(項目5)
前記Fcドメインが、グリコシル化されている、項目1~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目6)
前記Fcドメインが、野生型と比較して実質的に等しい、基本的に同じ、ほぼ同じ、または同じであるFcγRへの結合を有する、項目5に記載のポリペプチド。
(項目7)
前記Fcドメインが、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIのうちの1つ、2つ、または全てに対して野生型と比較して実質的に等しい、基本的に同じである、ほぼ同じである、同じである、または等しい結合能を有する、項目5に記載のポリペプチド。
(項目8)
前記Fcドメインが、FcRnに酸性pHにおいて野生型よりも高い親和性で結合する、項目1~7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目9)
前記Fcドメインが、中性pHではFcRnに検出可能もしくは選択的には結合しない、またはFcRnへの結合を示さないもしくは基本的に示さない、項目8に記載のポリペプチド。
(項目10)
前記Fcドメインが、FcRnに対して、野生型と比較して、(i)pH5.8では結合の増強を示し、かつ(ii)pH7.4では結合の低減を示すまたは検出可能な結合を示さない、項目9に記載のポリペプチド。
(項目11)
前記Fcドメインが、非グリコシル化されている、項目1~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目12)
前記Fcドメインが、264位におけるグルタミン酸の置換変異(V264E)を有する、項目11に記載のポリペプチド。
(項目13)
前記IgGが、IgG1である、項目1~12のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目14)
前記IgGが、IgG2である、項目1~12のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目15)
前記IgGが、IgG3である、項目1~12のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目16)
前記IgGが、IgG4である、項目1~12のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目17)
前記Fcドメインが、以下:
EDHS(配列番号5;V264E;L309D;Q311H;N434S)、
EDHY(配列番号6;V264E;L309D;Q311H;N434Y)、
DHS(配列番号7;L309D;Q311H;N434S)、
DHY(配列番号8;L309D;Q311H;N434Y)、
IgG2-DHS(配列番号9;V309D;Q311H;N434S)、
IgG3-DHS(配列番号10;L309D;Q311H;N434S)、または
IgG4-DHS(配列番号11;L309D;Q311H;N434S)
を含む、またはそれからなる、項目1~12のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目18)
前記Fcドメインが、DHS(配列番号7;L309D;Q311H;N434S)またはDHY(配列番号8;L309D;Q311H;N434Y)を含む、またはそれからなる、項目17に記載のポリペプチド。
(項目19)
前記Fcドメインが、FcRnに約550nM未満のK値で結合する、項目1~18のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目20)
前記Fcドメインが、FcRnに約250nM未満のK値で結合する、項目19に記載のポリペプチド。
(項目21)
前記Fcドメインが、FcRnに約125nM未満のK値で結合する、項目19に記載のポリペプチド。
(項目22)
非Fc受容体(非FcR)結合ドメインをさらに含む、項目1~21のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目23)
前記非FcR結合ドメインが、Ig可変ドメインである、項目22に記載のポリペプチド。
(項目24)
全長抗体である、項目23に記載のポリペプチド。
(項目25)
前記抗体が、アゴニスト抗体である、項目24に記載のポリペプチド。
(項目26)
前記抗体が、アンタゴニスト抗体である、項目24に記載のポリペプチド。
(項目27)
前記抗体が、Her2/neu、CD20、CD40、IL-10、4-1BB、PD-1、PD-L1、CTLA-4OX40、IL-1、IL-6、IL6R、TNFα、RANKL、EGFR、c-Met、CD11a、VEGF-A、VEGFR1、VEGFR2、C5、またはインテグリン-α4に選択的に結合する、項目24に記載のポリペプチド。
(項目28)
前記抗体が、毒素に化学的にコンジュゲートしているまたは共有結合している、項目1~27のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目29)
前記非FcR結合領域が、抗体の抗原結合部位ではない、項目22に記載のポリペプチド。
(項目30)
前記非FcR結合領域が、細胞表面タンパク質に結合する、項目22に記載のポリペプチド。
(項目31)
前記非FcR結合領域が、可溶性タンパク質に結合する、項目22に記載のポリペプチド。
(項目32)
項目1~31に記載のポリペプチドのいずれかをコードする核酸。
(項目33)
DNAセグメントである、項目32に記載の核酸。
(項目34)
発現ベクターである、項目32に記載の核酸。
(項目35)
項目32~34のいずれか一項に記載の核酸を含む宿主細胞。
(項目36)
前記核酸を発現する、項目35に記載の宿主細胞。
(項目37)
ポリペプチドを調製するための方法であって、
a)項目36に記載の宿主細胞を得るステップと、
b)非グリコシル化ポリペプチドの発現を促進するための条件下で、培養において前記宿主細胞をインキュベートするステップと、
c)前記宿主細胞から、発現された前記ポリペプチドを精製するステップと
を含む、方法。
(項目38)
前記宿主細胞が原核細胞または哺乳動物細胞である、項目37に記載の方法。
(項目39)
薬学的に許容される担体中に、項目1~31のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは項目32~34のいずれか一項に記載の核酸を含む医薬品製剤。
(項目40)
対象に抗体を与えるステップを含む、対象においてタンパク質を結合させる方法であって、前記抗体が、前記タンパク質に結合し、かつ項目1~31のいずれか一項に記載のFcドメインを含む、方法。
(項目41)
前記抗体が、ヒトFcRnに約500nM未満のKで特異的に結合することができる、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記抗体が、ヒトFcRnに約250nM未満のKで特異的に結合することができる、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記抗体が、ヒトFcRnに約125nM未満のKで特異的に結合することができる、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記抗体が、グリコシル化されており、かつ前記Fcドメインが、野生型と比較してほぼ同等または同等のFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIへの結合を有する、項目40~43のいずれか一項に記載の方法。
(項目45)
前記抗体が、グリコシル化治療抗体である、項目40~44のいずれか一項に記載の方法。
(項目46)
前記抗体が、非グリコシル化バージョンの治療抗体である、項目40~44のいずれか一項に記載の方法。
(項目47)
疾患を有する対象を処置する方法であって、有効量の項目39に記載の製剤を前記対象に投与するステップを含む、方法。
(項目48)
抗体依存性細胞傷害を誘導する、項目47に記載の方法。
(項目49)
前記疾患が、がん、感染、または自己免疫疾患である、項目47に記載の方法。
(項目50)
前記対象が、ヒト患者である、項目47に記載の方法。
(項目51)
前記製剤が、腫瘍内に、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病巣内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜内に、気管内に、眼内に、鼻腔内に、硝子体内に、膣内に、直腸内に、筋肉内に、皮下に、結膜下、小胞内に、粘膜に、心膜内に、臍帯内に、経口によって、吸入によって、注射によって、注入によって、持続注入によって、標的細胞を直接浸す局在化灌流によって、カテーテルにより、または洗浄により投与される、項目47に記載の方法。
(項目52)
前記疾患ががんであり、少なくとも第2の抗がん療法を前記対象に投与するステップをさらに含む、項目47~51のいずれか一項に記載の方法。
(項目53)
前記第2の抗がん療法が、外科療法、化学療法、放射線療法、寒冷療法、ホルモン療法、免疫療法またはサイトカイン療法である、項目52に記載の方法。
(項目54)
疾患の処置における使用のための、項目1~31のいずれか一項に記載のポリペプチド。
(項目55)
前記疾患が、がん、感染、または自己免疫疾患である、項目54に記載のポリペプチド。
(項目56)
前記疾患が、細菌感染またはウイルス感染である、項目54に記載のポリペプチド。
(項目57)
がん、感染、細菌感染、ウイルス感染、または自己免疫疾患等の疾患の処置のための医薬の調製における、項目1~31のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
(項目58)
項目1~31のいずれか一項に記載のポリペプチドおよび薬学的に許容される賦形剤含む薬学的に許容される組成物。
(項目59)
疾患の処置を必要とする対象において疾患を処置する方法における使用のための組成物であって、項目1~31のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む組成物。
(項目60)
前記疾患が、がん、感染、細菌感染、ウイルス感染、または自己免疫疾患である、項目59に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1A~Bは、トラスツズマブ軽鎖(図1A)およびトラスツズマブ重鎖(図1B)の細菌ペリプラズムディスプレイのための2つのプラスミド系の簡単な図である。
図2図2は、FcRn-β2mを有するIgG1のFcドメインの複合体構造を示す図である。FcRnの近く(<7Å)のFcドメインの隣接する残基がFcRn-Fc複合体構造に基づいて強調表示されている(PDB ID:4N0U)(Oganesyan V. et al., 2014)。FcRnに対するFcドメイン内の隣接する残基の側鎖が強調表示された構造で示されている。FcRnに対するFcドメイン内の隣接する残基を、縮重コドンを含有するプライマーを用いてランダム化する。IgG1-Fcドメイン(左)、FcRn-β2m(右)。
図3-1】図3A~Bは、Fcライブラリーのスクリーニング戦略および結果である。図3A、IgGをディスプレイするスフェロプラストを、pH5.8において単鎖FcRn(scFcRn)-APCで標識し、次いで、pH7.4において二量体FcRn-FITCで標識した。図3B、Fcライブラリーを、FcRnを用いて5ラウンドスクリーニングし、得られたFcRn結合活性を示した。
図3-2】図3A~Bは、Fcライブラリーのスクリーニング戦略および結果である。図3A、IgGをディスプレイするスフェロプラストを、pH5.8において単鎖FcRn(scFcRn)-APCで標識し、次いで、pH7.4において二量体FcRn-FITCで標識した。図3B、Fcライブラリーを、FcRnを用いて5ラウンドスクリーニングし、得られたFcRn結合活性を示した。
図3-3】図3A~Bは、Fcライブラリーのスクリーニング戦略および結果である。図3A、IgGをディスプレイするスフェロプラストを、pH5.8において単鎖FcRn(scFcRn)-APCで標識し、次いで、pH7.4において二量体FcRn-FITCで標識した。図3B、Fcライブラリーを、FcRnを用いて5ラウンドスクリーニングし、得られたFcRn結合活性を示した。
図4図4は、単離されたFcバリアントのFACS解析である。Fcバリアントを発現するE.coliスフェロプラストを、pH5.8において10nMのscFcRn-FITCでまたはpH7.4において50nMのdFcRn-APCで標識した。
図5-1】図5A~Fは、ハーセプチン(図4A)、および選択されたIgGバリアント、EDH(図4B)、EDHY(図4C)、EDHS(図4D)、ハーセプチン-LS(図4E)、ハーセプチン-YTE(図4F)の表面プラズモン共鳴(SPR)センサーグラムである。各抗体をCM5チップ上に固定化し、pH5.8のPBS中に段階的に希釈したscFcRnタンパク質をCM5チップに注入した。
図5-2】図5A~Fは、ハーセプチン(図4A)、および選択されたIgGバリアント、EDH(図4B)、EDHY(図4C)、EDHS(図4D)、ハーセプチン-LS(図4E)、ハーセプチン-YTE(図4F)の表面プラズモン共鳴(SPR)センサーグラムである。各抗体をCM5チップ上に固定化し、pH5.8のPBS中に段階的に希釈したscFcRnタンパク質をCM5チップに注入した。
図6図6は、pH7.4におけるdFcRnとの抗体バリアントの結合活性である。各抗体を96ウェルにコーティングし、dFcRnの結合活性を抗GST HRPによって検出した。
図7-1】図7A~Fは、野生型ハーセプチンおよび選択されたIgGバリアントハーセプチン-EDHSの、FcγR;単量体FcγRI(図7A)、二量体FcγRIIAH131図7B)、二量体FcγRIIAR131図7C)、二量体FcγRIIB(図7D)二量体FcγRIIIAV157図7E)、および二量体FcγRIIIAF157図7F)に対するELISA結果である。
図7-2】図7A~Fは、野生型ハーセプチンおよび選択されたIgGバリアントハーセプチン-EDHSの、FcγR;単量体FcγRI(図7A)、二量体FcγRIIAH131図7B)、二量体FcγRIIAR131図7C)、二量体FcγRIIB(図7D)二量体FcγRIIIAV157図7E)、および二量体FcγRIIIAF157図7F)に対するELISA結果である。
図8図8は、ハーセプチン-DHSの表面プラズモン共鳴(SPR)センサーグラムである。抗体をCM5チップ上に固定化し、pH5.8のPBS中に段階的に希釈したscFcRnタンパク質をCM5チップに注入した。
図9図9は、pH7.4における二量体FcRn(dFcRn)との抗体バリアントの結合活性である。各抗体を96ウェルにコーティングし、dFcRnの結合活性を抗GST HRPによって検出した。
図10-1】図10A~Fは、野生型ハーセプチンおよび選択されたIgGバリアントハーセプチン-DHSの、FcγR;単量体FcγRI(図10A)、二量体FcγRIIAH131図10B)、二量体FcγRIIAR131図10C)、二量体FcγRIIB(図10D)二量体FcγRIIIAV157図10E)、および二量体FcγRIIIAF157図10F)に対するELISA結果である。
図10-2】図10A~Fは、野生型ハーセプチンおよび選択されたIgGバリアントハーセプチン-DHSの、FcγR;単量体FcγRI(図10A)、二量体FcγRIIAH131図10B)、二量体FcγRIIAR131図10C)、二量体FcγRIIB(図10D)二量体FcγRIIIAV157図10E)、および二量体FcγRIIIAF157図10F)に対するELISA結果である。
図10-3】図10A~Fは、野生型ハーセプチンおよび選択されたIgGバリアントハーセプチン-DHSの、FcγR;単量体FcγRI(図10A)、二量体FcγRIIAH131図10B)、二量体FcγRIIAR131図10C)、二量体FcγRIIB(図10D)二量体FcγRIIIAV157図10E)、および二量体FcγRIIIAF157図10F)に対するELISA結果である。
図11図11A~Bは、ハーセプチン-DHS媒介性ADCCおよびADCPアッセイである。各アッセイについて、抗体をHer2陽性SK-BR3細胞およびPBMCまたはマクロファージと一緒にインキュベートした。
図12図12は、3つの異なる密度のscFcRnとのハーセプチン、ハーセプチン-DHS、ハーセプチン-LS、およびハーセプチン-YTEの表面プラズモン共鳴(SPR)センサーグラムである。scFcRnをCM5チップ上に3つの異なるレベル、500RU、2000RU、および4000RUで固定化し、pH7.4のPBS中に段階的に希釈した抗体タンパク質をCM5チップに注入した。
図13-1】図13A~Cは、3つの異なる密度のscFcRnとのハーセプチン、ハーセプチン-DHS、ハーセプチン-LS、およびハーセプチン-YTEの表面プラズモン共鳴(SPR)センサーグラムである。scFcRnをCM5チップ上に3つの異なるレベル、500RU、2000RU、および4000RUで固定化し、多様なpHの1μMの抗体タンパク質をCM5チップに注入した。
図13-2】図13A~Cは、3つの異なる密度のscFcRnとのハーセプチン、ハーセプチン-DHS、ハーセプチン-LS、およびハーセプチン-YTEの表面プラズモン共鳴(SPR)センサーグラムである。scFcRnをCM5チップ上に3つの異なるレベル、500RU、2000RU、および4000RUで固定化し、多様なpHの1μMの抗体タンパク質をCM5チップに注入した。
図14図14は、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける抗体の薬物動態である。
図15-1】図15A~Fは、IgG2(図15A)、IgG2-DHS(図15B)、IgG3(図15C)、IgG3-DHS(図15D)、IgG4(図15E)およびIgG4-DHS(図15F)の、scFcRnに対する表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイである。
図15-2】図15A~Fは、IgG2(図15A)、IgG2-DHS(図15B)、IgG3(図15C)、IgG3-DHS(図15D)、IgG4(図15E)およびIgG4-DHS(図15F)の、scFcRnに対する表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイである。
図15-3】図15A~Fは、IgG2(図15A)、IgG2-DHS(図15B)、IgG3(図15C)、IgG3-DHS(図15D)、IgG4(図15E)およびIgG4-DHS(図15F)の、scFcRnに対する表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイである。
図16-1】図16A~Cは、IgG2-DHS、IgG3-DHS、およびIgG4-DHSのELISAアッセイである。IgGバリアントの、それらの野生型IgGと比較したFcγR結合活性。400nM、80nM、16nM、3.2nMのFcγRを、IgGバリアントを用いてアッセイした。
図16-2】図16A~Cは、IgG2-DHS、IgG3-DHS、およびIgG4-DHSのELISAアッセイである。IgGバリアントの、それらの野生型IgGと比較したFcγR結合活性。400nM、80nM、16nM、3.2nMのFcγRを、IgGバリアントを用いてアッセイした。
図17図17は、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける抗体の薬物動態である。
図18-1】図18は、抗体バリアントのSPR解析である。各抗体をCM5チップ上に固定化し、段階的に希釈したFcγRまたはC1qを30μl/分で注射した。全ての実験を独立して3回繰り返し、各抗体の動態値を表12に提示する。
図18-2】図18は、抗体バリアントのSPR解析である。各抗体をCM5チップ上に固定化し、段階的に希釈したFcγRまたはC1qを30μl/分で注射した。全ての実験を独立して3回繰り返し、各抗体の動態値を表12に提示する。
図19図19は、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける抗体の薬物動態である。
図20図20は、抗体バリアントについてのリウマチ因子結合アッセイである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
FcRnへの改善されたpH依存性結合を呈する操作された抗体Fcドメインを有するポリペプチドが関与する方法および組成物が、本明細書に提供されている。一部の好ましい態様では、変異体Fcドメインは、哺乳動物の対象への投与後にin vivoで半減期の改善または分解の低減を示し得る。下の例に示されている通り、これらのFcRn結合の改善は、種々の抗体の種類(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のグリコシル化抗体または非グリコシル化抗体に存在し得る変異体Fcドメインにおいて観察されている。一部の例では、非グリコシル化抗体にはいくらかのリスク(例えば、免疫原性、in vivoにおける安定性が乏しいこと、または好ましくない薬物動態)が伴うので、一部の実施形態では、変異体Fcドメインをグリコシル化抗体に含めることが望ましい場合がある。それにもかかわらず、非グリコシル化抗体を種々の有用なまたは治療的な手法に使用することができ、したがって、変異体Fcドメインを非グリコシル化抗体に含めることによっても、利益、例えば、非グリコシル化抗体のin vivo半減期の改善をもたらすことができる。一部の実施形態では、変異体Fcドメインは、酸性pHではFcRnに結合し、中性pHではFcRnに結合せず、また、野生型Fcドメインと同等のFcγR結合能を有する。例えば、ポリペプチドは、FcRnにpH選択的に結合すると同時に、FcγRI、FcγRII、および/またはFcγRIIIへの結合に関して野生型と同等の結合能を有する変異体またはバリアントFcドメインを含み得る。
【0044】
I.抗体Fcドメイン
新生児Fc受容体(FcRn)は、哺乳動物における血清IgGレベルの調節において中心的な役割を果たすことが周知である(Ghetie, V., and Ward, E. S. 2000)。Fc結合FcRnは、β2-ミクログロブリン(β2m)および主要組織適合性遺伝子複合体クラスI(MHCクラスI)分子の鎖に関連する膜繋留鎖を含むヘテロ二量体である。IgG-FcRn相互作用は、わずかに酸性pHにおける強力なものから中性および塩基性pHにおける弱いものまで変動する顕著なpH依存性を示す(Rodewald,R. 1976 and Raghavan, M. et al., 1995)。一般に認められているFcRn媒介性IgGリサイクリング機構は、以下の手順である1)ピノサイトーシスによるIgGの内部移行、2)エンドソームの酸性化(初期エンドソーム:約pH6.0、後期エンドソーム:約pH4.5)およびIgGとFcRnの相互作用、3)IgGのエキソサイトーシスおよびFcRnからの解離、4)エンドサイトーシスによって放出されなかったIgGの再内部移行、5)リソソーム融合およびIgGの分解。結果として、リサイクリングされるIgGは、他の血清タンパク質と比較して有意に延長された血清中半減期を示す(Ghetie,V. et al., 1996 and Borvak, J. et al., 1998)。中性pHにおいてFcRnへの有意な結合を維持するIgGは、血清持続が有意に低下している(Dall'Acqua,W. F. et al., 2003)。
【0045】
血清中半減期がより長い治療抗体は、持続的な血清中濃度、投与の頻度の減少および/または費用の低減に起因して有効性が増大する場合に有益である。血漿中半減期を延長するためにはFc-FcRn相互作用を操作することが理にかなっていると思われるが、FcRnのIgGを輸送する役割に伴う潜在的な生物学的結果が多く周知である。特に、この機能としては、ヒト胎盤(Firan et al., 2001)および腸(Israel et al., 1997 and Dickinson et al., 1999)を通じたIgGのトランスサイトーシスならびにヒト腎臓におけるIgGの再吸収(Haymann et al., 2000)が挙げられる。
【0046】
FcRn媒介性恒常性に基づいて、血清中半減期を増強するためのFc操作は、通常、酸性pHにおけるFcのFcRnに対する親和性を増強すること、および元のpH依存的結合特徴を維持することに焦点が当てられる。M428L/N434S(LS)またはM252Y/S254T/T256E(YTE)アミノ酸置換を含有するFcドメイン等、FcRnに対する多くの操作されたFcバリアントが開発されており、LSおよびYTEは、エンドソームpHにおいて野生型IgG1(WT)と比較して10~20倍に増強された親和性を示し、pH7.4では有意な親和性は示さず、その結果、トランスジェニックヒトFcRn(hFcRn)マウス、霊長類および/またはヒトにおいて血清中半減期の増強がもたらされる(Acqua et al., 2002; Zalevsky et al., 2010; Ko et al., 2014; Deng et al., 2010; Hinton et al., 2004 and 2006; Yeung et al., 2009 and 2010; Borrok et al., 2015; Robbie et al., 2013)。特に、「YTE」バリアントを有する抗体がいくつかの臨床試験で評価されている。「YTE」変異を有する抗体は、3カ月という長さの血清中半減期を有することが示されており、この特性により、投与を実質的に減少させることができ、より良好な患者のコンプライアンスおよびより良好な治療有効性が可能になる。しかし、酸性pHにおけるFcRn親和性が高いことは血清中半減期の増強と明白には相関せず、また、酸性pHにおけるFcRn結合特徴が同様にまたはより良好に改善された一部の操作されたバリアントは、予測されたin vivo半減期の増大を示すことができなかった(Borrok et al., 2015、Datta-Mannan et al., 2007 and 2012, and Zheng et al., 2011)。他方では、中性pHにおける抗体の親和性は酸性pHにおけるものよりも良好にPKと相関することが示された(Cooper et al., 2014 and Wang et al., 2011)。FcRnリサイクリング機構に基づいて、pH7.4におけるIgGの親和性は抗体リサイクリングの重大な因子である。中性pHにおける抗体の親和性の正確かつ的確な測定が非常に重大である。最近、pH7.4におけるFcRnに対する抗体の親和性を、非常に高いレベルの固定化FcRnを使用し、SPRによって測定するための試みが報告された。YTEバリアントは、高密度FcRnを用いた動態解析により、pH7.4において野生型IgG1よりも約57倍高い親和性を示し、これは、低密度FcRnを用いたアッセイでは示されなかった(Walters et al., 2016)。
【0047】
ある特定の実施形態では、ネイティブまたは野生型タンパク質と比べて改変されたタンパク質性分子を含む組成物が存在する。一部の実施形態では、このタンパク質性化合物は、アミノ酸残基が欠失されている;他の実施形態では、タンパク質性化合物のアミノ酸残基は、置き換えられている;一方、なおさらなる実施形態では、タンパク質性化合物におけるアミノ酸残基の欠失および置き換えの両方がなされている。さらに、タンパク質性化合物は、2個以上のポリペプチド実体を含むアミノ酸分子を含むことができる。本明細書において使用する場合、「タンパク質性分子」、「タンパク質性組成物」、「タンパク質性化合物」、「タンパク質性鎖」または「タンパク質性材料」は、約200アミノ酸を超えるタンパク質もしくは遺伝子から翻訳された全長内在性配列;100アミノ酸もしくはそれを超えるポリペプチド;および/または3~100アミノ酸のペプチドを一般に指すが、これらに限定されない。上述のあらゆる「タンパク質性」用語は、本明細書において互換的に使用することができる;しかし、実施形態が、ポリペプチド等、特定の種類のタンパク質性化合物に限定され得ることが特に企図される。さらに、これらの用語は、融合タンパク質またはタンパク質コンジュゲートにも同様に適用することができる。タンパク質は、2個以上のポリペプチドを含むことができる。例えば、IgG抗体は、ジスルフィド結合により互いに繋がれた2本の重鎖ポリペプチドおよび2本の軽鎖ポリペプチドを有する。
【0048】
本明細書において使用する場合、タンパク質またはペプチドは、約200アミノ酸を超えるタンパク質から、遺伝子から翻訳された全長配列まで;約100アミノ酸を超えるポリペプチド;および/または約3~約100アミノ酸のペプチドを一般に指すが、これらに限定されない。便宜上、用語「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において互換的に使用される。
【0049】
本明細書において使用する場合、「アミノ酸残基」は、当業者に公知であろういずれかのアミノ酸、アミノ酸誘導体またはアミノ酸模倣物を指す。ある特定の実施形態では、タンパク質性分子の残基は、アミノ酸残基の配列を中断するいかなる非アミノ酸残基も含まず連続的である。他の実施形態では、配列は、1個または複数の非アミノ酸部分を含むことができる。特定の実施形態では、タンパク質性分子の残基の配列は、1個または複数の非アミノ酸部分で中断されていてよい。
【0050】
本明細書において使用する場合、「別個のFcドメイン」は、別のFcと僅か1個のアミノ酸が異なるドメインとして規定することができる。別個の抗体Fcドメインまたは抗体をコードする核酸のライブラリーを作製するための方法は、本技術分野で周知である。例えば、場合によっては、Fcドメインは、エラープローンPCRによって増幅することができる。さらに、ある特定の事例において、複数の抗体Fcドメインは、ランダム化されたひと続き(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれを超える)のアミノ酸を含むことができる。ある特定の事例において、特異的変異が、Fcドメインに操作され得る。例えば、一部の態様では、抗体Fcドメインにおける正常にグリコシル化された残基が変異されていてよい。さらに、ある特定の態様では、正常にグリコシル化された残基(または隣接する残基)は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれを超えるアミノ酸の挿入のための部位として使用することができる。
【0051】
ポリペプチドは、FcRポリペプチドに結合することができる変異体またはバリアント抗体Fcドメインを含み得る。一部の態様では、Fcドメインは、生理的条件下でFcRポリペプチドに対して特異的な親和性を有するとさらに規定することができる。例えば、Fcドメインは、生理的条件下で約10-6M~約10-9Mの間の平衡解離定数を有し得る。さらに、一部の態様では、非グリコシル化Fcドメインは、ヒト野生型配列等の野生型配列と比べて1つまたは複数のアミノ酸置換または挿入を含むと規定することができる。Fcドメインはグリコシル化または非グリコシル化され得る。
【0052】
かかるポリペプチドを調製する手段は、参照により本明細書に組み込むPCT公開WO2008/137475に記される手段を含む。あるいは、例えば、公知のFcバックグラウンドに選択されたアミノ酸置換または挿入を導入することによる等、遺伝子工学技法によって直接的にかかるポリペプチドを調製することができ、挿入または置換は、上に記す通り、非グリコシル化Fc領域に改善されたFcR結合能をもたらす。一部の実施形態では、Fcドメインは、1種または複数の特異的なFc受容体に結合するように操作されている。その上またはそれに代えて、Fcドメインは、1種または複数の特異的なFc受容体に特異的に結合しないように、操作され得る。
【0053】
一部の実施形態では、Fcドメインは、ヒトFcγRIA、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIc、FcγRIIIA、FcγRIIIb、FcαRI等のFcRに対する、またはC1qに対する特異的な結合親和性を含む。一部の実施形態では、抗体は、野生型抗体についてのFcR結合と、例えば、対応するIgG2、IgG3、またはIgG4抗体と比較して同様であるか、基本的に同じであるか、または同じであるFcR結合を呈するグリコシル化抗体である。一部の実施形態では、抗体は、グリコシル化されている。一部の実施形態では、抗体は、非グリコシル化抗体である。抗体Fcまたは他の結合タンパク質の結合親和性は、例えば、Munson and Pollard (1980)のスキャッチャード解析によって決定することができる。あるいは、結合親和性は、表面プラズモン共鳴またはタンパク質:タンパク質相互作用の動態および平衡定数を決定するための他のいずれかの周知の方法によって決定することができる。単離されたIgGバリアントを以下の表1に提示する。種々の実施形態では、変異をIgG1 Fcドメイン(例えば、配列番号5~8)に導入することができる、または、所望の通りIgG2 Fcドメイン(例えば、配列番号9)、IgG3 Fcドメイン(例えば、配列番号10)、もしくはIgG4 Fcドメイン(例えば、配列番号11)に対応する変異を生じさせることができる。
表1:単離されたIgGバリアント(配列ナンバリングは、Kabatに基づき、変異は以下に指定されている)
EDHS(V264E、L309D、Q311H、N434S;配列番号5)、
EDHY(V264E、L309D、Q311H、N434Y;配列番号6)、
DHS(L309D、Q311H、N434S;配列番号7)、
DHY(L309D、Q311H、N434Y;配列番号8)、
IgG2-DHS(V309D、Q311H、N434S;配列番号9)、
IgG3-DHS(L309D、Q311H、N434S;配列番号10)、
IgG4-DHS(L309D、Q311H、N434S;配列番号11)
【0054】
本明細書において使用される「ポジション」とは、タンパク質の配列中の位置を意味する。ポジションは、連続的に、または確立されたフォーマット、例えば、抗体ナンバリングのためのEU指標に従ってナンバリングすることができる。
【0055】
本発明に記す全ポジションに関して、ナンバリングは、EU指標に従う。「EU指標」または「KabatにおけるEU指標」または「EUナンバリングスキーム」は、EU抗体のナンバリングを指す(Edelman et al., 1969; Kabat et al., 1991;どちらもその全体を参照により本明細書に組み込む)。
【0056】
ある特定の実施形態では、少なくとも1種のFcポリペプチドタンパク質性分子のサイズは、およそまたは少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、275、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000またはそれを超えるアミノ分子残基、およびそこから導くことができるいずれかの範囲を含み得るが、これらに限定されない。化合物は、配列番号1~4(ヒトIgG1~4 Fcポリペプチド)または配列番号5~11由来の上述の数の連続アミノ酸を含み得、これらは、野生型ヒトIgG Fcドメインに対するパーセント配列同一性または相同性(例えば、配列番号1~4のいずれか1つに対するパーセント配列同一性)を有するとさらに認定することができる。
【0057】
A.改変されたタンパク質およびポリペプチド
一部の実施形態は、改変されたタンパク質およびポリペプチド、特に、無改変バージョンに匹敵する少なくとも1種の機能活性を示す改変されたタンパク質またはポリペプチドに関係し、さらに、改変されたタンパク質またはポリペプチドは、B細胞活性化を抑制すること、産生がより容易もしくはより安価であること、より少ない副作用を誘発すること、および/またはより優れたまたはより長い有効性もしくは生物学的利用能を有すること等、無改変バージョンを上回る追加的な利点を保有する。したがって、本願が、「改変されたタンパク質」または「改変されたポリペプチド」の機能または活性について言う場合、当業者であれば、これが、例えば、1)無改変タンパク質またはポリペプチドと同じ活性のうち少なくとも1種を実行する、または同じ特異性のうち少なくとも1種を有するが、別の活性または特異性の異なるレベルを有し得;2)無改変タンパク質またはポリペプチドを上回る追加的な利点を保有するタンパク質またはポリペプチドを含むことを理解するであろう。活性の決定は、特に、タンパク質の活性に関する、当業者によく知られたアッセイを使用して達成することができ、比較目的で、例えば、改変または無改変タンパク質またはポリペプチドのいずれかのネイティブおよび/または組換えバージョンの使用を含めることができる。具体的には、「改変されたタンパク質」に関係する実施形態を、「改変されたポリペプチド」に関して実行することができ、逆もまた同じであることが企図される。本明細書に記す改変されたタンパク質およびポリペプチドに加えて、実施形態には、特に参照により本明細書に組み込むPCT公開WO2008/137475に記載されているドメイン、ポリペプチド、およびタンパク質が関与し得る。
【0058】
改変されたタンパク質は、アミノ酸の欠失および/または置換を保有することができ;よって、欠失を有するタンパク質、置換を有するタンパク質ならびに欠失および置換を有するタンパク質は、改変されたタンパク質である。一部の実施形態では、これらの改変されたタンパク質は、例えば、融合タンパク質またはリンカーを有するタンパク質による等、挿入または付加されたアミノ酸をさらに含むことができる。これは、標的化ペプチドもしくはポリペプチドまたは単に単一残基の挿入を含むことができる。融合タンパク質と呼ばれる末端付加については、下に記す。
【0059】
「改変された欠失されたタンパク質」は、ネイティブタンパク質の1個または複数の残基を欠くが、ネイティブタンパク質の特異性および/または活性を保有する。「改変された欠失されたタンパク質」は、低下した免疫原性または抗原性を有することもできる。改変された欠失されたタンパク質の例は、少なくとも1種の抗原性領域(すなわち、改変されたタンパク質を投与され得る生物の種類等、特定の生物において抗原性であると決定されたタンパク質の領域)からアミノ酸残基を欠失したタンパク質である。
【0060】
置換または置き換えバリアントは典型的には、タンパク質内の1個または複数の部位においてあるアミノ酸から別のアミノ酸への交換を含有し、ポリペプチドの1種または複数の特性、特に、そのエフェクター機能および/またはバイオアベイラビリティをモジュレートするように設計することができる。置換は、保存的であってもそうでなくてもよい、つまり、あるアミノ酸が、同様の形状および電荷のアミノ酸に置き換えられる。保存的置換は、本技術分野で周知であり、例えば、次の変化を含む:アラニンからセリン;アルギニンからリシン;アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジン;アスパラギン酸からグルタミン酸;システインからセリン;グルタミンからアスパラギン;グルタミン酸からアスパラギン酸;グリシンからプロリン;ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミン;イソロイシンからロイシンまたはバリン;ロイシンからバリンまたはイソロイシン;リシンからアルギニン;メチオニンからロイシンまたはイソロイシン;フェニルアラニンからチロシン、ロイシンまたはメチオニン;セリンからスレオニン;スレオニンからセリン;トリプトファンからチロシン;チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニン;およびバリンからイソロイシンまたはロイシン。
【0061】
用語「生物学的に機能的等価」は、本技術分野で十分に理解されており、本明細書で詳細にさらに規定されている。したがって、タンパク質の生物学的活性が維持されるのであれば、ネイティブポリペプチドのアミノ酸と同一または機能的に等価なアミノ酸の約70%~約80%の間または約81%~約90%の間またはさらには約91%~約99%の間を有する配列が含まれる。改変されたタンパク質は、そのネイティブ対応物と生物学的に機能的に等価であり得る。
【0062】
配列が、タンパク質発現が関係する生物学的タンパク質活性の維持を含む、上に表記されている基準を満たす限りにおいて、アミノ酸および核酸配列が、追加的なNもしくはC末端アミノ酸または5’もしくは3’配列等、追加的な残基を含み、依然として基本的に、本明細書に開示されている配列の1種に表記される通りのものであることも理解されるであろう。末端配列の付加は、特に、例えば、コード領域の5’もしくは3’部分のいずれかに隣接する様々な非コード配列を含むことができる、または様々な内部配列、すなわち、遺伝子内で生じることが公知のイントロンを含むことができる、核酸配列に適用される。
【0063】
次に、等価なまたはさらには改善された第二世代分子を作製するためのタンパク質のアミノ酸の変化に基づく記述を示す。例えば、ある特定のアミノ酸は、例えば、基質分子への結合部位等の構造との相互作用的結合能の認識できる損失を伴いまたは伴うことなく、タンパク質構造における他のアミノ酸に代えて置換することができる。タンパク質の生物学的機能活性を規定するのは、そのタンパク質の相互作用的能力および性質であるため、タンパク質配列およびその根底にあるDNAコード配列においてある特定のアミノ酸置換をなすことができ、そうであるにもかかわらず、同様の特性を有するタンパク質を産生することができる。よって、下に記す通り、その生物学的有用性または活性の認識できる損失を伴うことなく、遺伝子のDNA配列において様々な変化をなすことができることが企図される。次の「相同性基準」のうち1つが満たされる場合、タンパク質性分子は、第2のタンパク質性分子と「相同性」を有する、またはそれと「相同」であると考慮される:1)タンパク質性分子の少なくとも30%が、第2のタンパク質性分子と同じポジションにおいて配列同一性を有する;2)第2のタンパク質性分子と同じポジションにおいてある程度の配列同一性があり、非同一残基において、その少なくとも30%が、第2のタンパク質性分子に対して、本明細書に記載されている保存的な差である;または3)タンパク質性分子の少なくとも30%が、第2のタンパク質性分子と配列同一性を有するが、同一残基の間に非同一残基のギャップがあり得る。本明細書において使用する場合、用語「相同」は、分子全体の代わりに、タンパク質性分子の領域に等しく適用することができる。用語「相同性」または「相同」が、数、例えば、「50%相同性」または「50%相同」によって認定される場合、1)、2)および3)に関する相同性基準は、「少なくとも30%」から「少なくとも50%」に調整される。よって、2種のタンパク質性分子またはタンパク質性分子の部分の間に、少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%またはそれを超える相同性が存在し得ることが企図される。
【0064】
あるいは、改変されたポリペプチドは、本明細書に記載されている変異体またはバリアントFcドメインまたは配列(例えば、配列番号5~11)のいずれかを含む、無改変ポリペプチドまたは本明細書に開示されているいずれかのポリペプチド配列に対し、ある特定のパーセンテージの同一性を有すると特徴付けることができる。パーセンテージ同一性は、2種のタンパク質性分子またはタンパク質性分子の部分の間で、多くてもまたは少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%(またはそこから導くことができるいずれかの範囲)であり得る。上記の同一性のパーセンテージが、ポリペプチドの無改変領域と比較して、ポリペプチドの特定の領域に関係し得ることが企図される。例えば、ポリペプチドは、同じ種由来の無改変または変異体Fcドメインに対する改変されたまたは変異体Fcドメインのアミノ酸配列の同一性に基づいて特徴付けることができる改変されたまたは変異体Fcドメインを含み得る。例えば、無改変Fcドメインに対して90%同一性を有すると特徴付けされた改変されたまたは変異体ヒトFcドメインは、そのドメインのアミノ酸の90%が無改変ヒトFcドメイン(例えば、配列番号1~4)のアミノ酸と同一であることを意味する。
【0065】
かかる変化を生じる際に、アミノ酸の疎水性親水性指標(hydropathic index)を考慮することができる。タンパク質における相互作用的生物学的機能の付与における疎水性親水性アミノ酸指標の重要性は、本技術分野で一般に理解される(KyteおよびDoolittle、1982年)。アミノ酸の相対的疎水性親水性特徴が、その結果得られるタンパク質の二次構造に寄与し、続いてこれが、他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原等とのタンパク質の相互作用を規定することが受け入れられる。
【0066】
本技術分野において、同様のアミノ酸の置換を親水性に基づいて有効になすことができることも理解される。参照により本明細書に組み込む米国特許第4,554,101号は、その隣接アミノ酸の親水性によって支配されるタンパク質の最大局所的平均親水性が、タンパク質の生物学的特性と相関することを記述する。米国特許第4,554,101号に詳述される通り、次の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられた:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。あるアミノ酸を、同様の親水性値を有する別のアミノ酸に代えて置換し、生物学的に等価かつ免疫学的に等価なタンパク質を依然として産生することができることが理解される。かかる変化において、その親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるものが特に好ましく、±0.5以内であるものがさらにより特に好ましい。
【0067】
上に概要を述べる通り、アミノ酸置換は一般に、アミノ酸側鎖置換基、例えば、その疎水性、親水性、電荷、サイズ等の相対的類似性に基づく。様々な前述の特徴を考慮に入れる例示的な置換は、当業者に周知であり、次のものを含む:アルギニンおよびリシン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシンおよびイソロイシン。
【0068】
B.異種領域により改変された抗体およびタンパク質性化合物
Fcドメインが単離されると、分子を少なくとも1種の作用物質に連結して、この分子の有用性を増強するためのコンジュゲートを形成することが望ましいことがある。例えば、診断または治療用作用物質としてのFcドメインまたは抗体分子の有効性を増加させるために、従来、少なくとも1種の所望の分子または部分を連結または共有結合または複合体形成させる。かかる分子または部分は、少なくとも1種のエフェクターまたはレポーター分子であってよいがこれらに限定されない。エフェクター分子は、所望の活性、例えば、細胞傷害活性を有する分子を含む。抗体に取り付けられたエフェクター分子の非限定例として、毒素、抗腫瘍剤、治療用酵素、放射標識ヌクレオチド、抗ウイルス剤、キレート剤、サイトカイン、増殖因子およびオリゴまたはポリヌクレオチドが挙げられる。対照的に、レポーター分子は、アッセイを使用して検出され得るいずれかの部分として規定される。抗体にコンジュゲートされたレポーター分子の非限定例として、酵素、放射標識、ハプテン、蛍光標識、リン光分子、化学発光分子、発色団、発光分子、光親和性分子、着色粒子またはビオチン等のリガンドが挙げられる。別のかかる例は、細胞傷害性または抗細胞剤に連結された抗体を含むコンジュゲートの形成であり、「免疫毒素」と命名することができる。かかる分子を標識するための技法は、当業者に公知であり、本明細書に上述されている。
【0069】
次いで、本発明に従って調製されたFcドメイン等、標識されたタンパク質を、例えば、タンパク質(単数または複数)、ポリペプチド(単数または複数)またはペプチド(単数または複数)等、生物学的構成成分を結合、精製、除去、定量化および/または他の仕方で一般に検出するための免疫検出方法において用いることもできる。一部の免疫検出方法は、いくつか挙げると、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫放射線アッセイ、フルオロイムノアッセイ、化学発光アッセイ、生物発光アッセイおよびウエスタンブロットを含む。様々な有用な免疫検出方法のステップは、例えば、それぞれ参照により本明細書に組み込むDoolittleおよびBen-Zeev、1999年;GulbisおよびGaland、1993年;ならびにDe Jagerら、1993年等、科学文献に記載されている。
【0070】
抗体を含むFcドメイン分子は、例えば、免疫組織化学検査(IHC)による研究のために調製された新鮮凍結したおよび/またはホルマリン固定し、パラフィン包埋した組織ブロックの両方と併せて使用することができる。このような粒子状検体から組織ブロックを調製する方法は、様々な予後因子の以前のIHC研究において首尾よく使用された、および/または当業者に周知である(Abbondanzoら、1990年)。
【0071】
一部の実施形態は、2種以上の天然起源またはネイティブポリペプチドまたはタンパク質由来のアミノ酸配列を含むことができるFcポリペプチドタンパク質性化合物に関係する。上に記す実施形態は、本セクションへの適用が企図され、逆もまた同じである。例えば、改変された抗体は、抗原結合ドメインを有する改変されたFcドメインを含有する抗体である。さらに、抗体は、2本の重鎖のそれぞれにおける異なる領域等、2個の異なる抗原結合領域を有することができる。それに代えてまたはその上、一部の実施形態では、複数の異種ペプチドおよび/またはポリペプチドを含むポリペプチドが存在する(「異種」は、これらが同じポリペプチドに由来しないことを意味する)。タンパク質性化合物または分子は、例えば、抗体に由来しないタンパク質結合領域を有する改変されたFcドメインを含むことができる。一部の実施形態では、細胞表面受容体に結合するタンパク質結合領域を有する改変されたFcドメインを含むポリペプチドが存在する。複数の機能ドメインを含むこれらのタンパク質性分子は、互いに化学的にコンジュゲートされた2個もしくはそれを超えるドメインであり得る、または同じ核酸分子によってコードされた2個もしくはそれを超えるポリペプチドの融合タンパク質であり得る。タンパク質またはポリペプチドが、2個またはそれを超える異種ポリペプチドの全体または部分を含むことができることが企図される。
【0072】
よって、マルチポリペプチドタンパク質性化合物は、第1のポリペプチドの全体または部分と、第2のポリペプチド、第3のポリペプチド、第4のポリペプチド、第5のポリペプチド、第6のポリペプチド、第7のポリペプチド、第8の(eight)ポリペプチド、第9のポリペプチド、第10のポリペプチドまたはさらに高次のポリペプチドの全体または部分とで構成され得る。
【0073】
選択的に切断可能なリンカー、合成リンカーまたは他のアミノ酸配列等、アミノ酸を使用して、タンパク質性部分を分離することができる。
【0074】
抗体の抗原結合ドメインまたは領域および変異体またはバリアントFcドメインを有するポリペプチドまたはタンパク質(抗体を含む)は、次の標的リストに属するタンパク質、サブユニット、ドメイン、モチーフ、および/またはエピトープが挙げられるがこれらに限定されない、いずれかの抗原またはエピトープに対して使用することができる:17-IA、4-1BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アルファ-1-アンチトリプシン、アルファ-V/ベータ-1 アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、Bリンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3オステオゲニン、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMPs、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/ZIP、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、
CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7-1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、Clostridium botulinum毒素、Clostridium perfringens毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、崩壊促進因子、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、DNase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、第IIa因子、第VII因子、第VIIIc因子、第IX因子、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas 6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-アルファ1、GFR-アルファ2、GFR-アルファ3、GITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GP IIb/IIIa)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gB エンベロープ糖タンパク質、HCMV)gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血性増殖因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、
Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV)gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MM)、HIV gp120、HIV IIIB gp120 V3 ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心筋ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-18R、IL-23、インターフェロン(INF)-アルファ、INF-ベータ、INF-ガンマ、インヒビン、iNOS、インスリンA-鎖、インスリンB-鎖、インスリン様増殖因子1、インテグリンアルファ2、インテグリンアルファ3、インテグリンアルファ4、インテグリンアルファ4/ベータ1、インテグリンアルファ4/ベータ7、インテグリンアルファ5(アルファV)、インテグリンアルファ5/ベータ1、インテグリンアルファ5/ベータ3、インテグリンアルファ6、インテグリンベータ1、インテグリンベータ2、インターフェロンガンマ、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在型TGF-1、潜在型TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティー、ルイス-Y抗原、ルイス-Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺サーファクタント、黄体形成ホルモン、リンホトキシンベータ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、メタロプロテアーゼ、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-アルファ、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管阻害物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N-カドヘリン、NCA90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、または-6、ニュールツリン、神経増殖因子(NGF)、NGFR、NGF-ベータ、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、
PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、PIGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、リラキシンA-鎖、リラキシンB-鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマチ因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質-72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体 アルファ/ベータ)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、精巣のPLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータPan特異的、TGF-ベータRI(ALK-5)、TGF-ベータRII、TGF-ベータRIIb、TGF-ベータRIII、TGF-ベータ1、TGF-ベータ2、TGF-ベータ3、TGF-ベータ4、TGF-ベータ5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンドAITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-aコネクチン、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンドgp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンドCD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(FasリガンドApo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンドCD70)、TNFSF8(CD30リガンドCD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体(transferring receptor)、TRF、Trk、TROP-2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、ルイスY関連炭水化物を発現する腫瘍関連抗原、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-カドヘリン、VE-カドヘリン-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(fit-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィルブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、ならびにホルモンおよび増殖因子の受容体。一部の実施形態では、ポリペプチドまたはタンパク質は、1種または複数の細胞表面腫瘍抗原またはB細胞抗原に特異的な抗原結合ドメインを有する。方法および組成物は、腫瘍細胞またはB細胞を標的にするために用いることができる。
【0075】
抗体コンジュゲートの基盤として、十分な選択性、特異性、または親和性のいかなる抗体を用いてもよい。かかる特性は、当業者に公知の従来の免疫学的スクリーニング方法論を使用して評価することができる。抗体分子における生物学的活性分子への結合のための部位は、標準的な抗原結合部位に加えて、病原体、B細胞スーパー抗原、T細胞補助受容体CD4、およびHIV-1エンベロープに結合することができる可変ドメインに存在する部位を含む(Silverman, 1995; Cleary et al., 1994; Lenert et al., 1990; Berberian et al., 1993; Kreier et al., 1981)。加えて、可変ドメインは、抗体自己結合に関与し(Kang et al., 1988)、抗抗体によって認識されるエピトープ(イディオトープ)を含有する(Bhattacharya et al., 1989)。
【0076】
Fcドメインは、FcRに結合することができるが、免疫応答の調節が、Fcドメインを含有するポリペプチドにおける抗原結合ドメインによってだけではなく、他のいくつかのタンパク質結合ドメインによって方向づけられ得ることが企図される。したがって、一部の実施形態は、Fcドメインおよび異種非抗原結合ドメインに関係し得る。ある特定の実施形態では、非抗原結合ドメインは、細胞表面に結合する。したがって、これらの作用物質は特異的標的細胞に結合することができる作用物質/タンパク質との化学的コンジュゲーションまたは融合のいずれかを必要とする。実施形態は、変異体またはバリアントFcドメインの全部または部分を、表2に収載されているタンパク質のいずれかの全部または部分に接続することをさらに含み得る。実施形態として、表2および本明細書の記載に提示されている例が挙げられるがこれらに限定されないことが企図される。
【0077】
受容体のリガンドを用いて、リガンドの受容体をその表面において発現する細胞を標的とすることができる。リガンドは、例えば、CD95リガンド、TRAIL、TNF(TNF-αまたはTNF-β等)、VEGF等の上に記すものを含む増殖因子、およびインターフェロンまたはインターロイキン等のサイトカイン、ならびにこれらのバリアントも含む。VEGF受容体1(Flt-1)の第2の細胞外ドメインとVEGF受容体2(KDR/FIK-1)の第3のドメインおよびIgG Fc領域を含むVEGF Trap融合タンパク質等、複数のドメインを有する実施形態も企図される。
【表2】
【0078】
C.抗体Fcライブラリー
多様な抗体Fcドメインおよび/またはかかるドメインを含む抗体の作製のための実施形態と併せて用いることができる技法の例は、米国特許第5,824,520号に記載されている免疫グロブリン重鎖ライブラリーの発現のための技法と同様の技法を用いることができる。以前に用いられたFcライブラリーは、特に参照により本明細書に組み込むPCT公開WO2008/137475に記されている。
【0079】
II.抗体結合ポリペプチド
種々の抗体結合ドメイン(例えば、FcRポリペプチド)は、本技術分野で公知であり、本発明の方法および組成物において使用することができる。例えば、一部の態様では、FcRは、IgA、IgM、IgEまたはIgG(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3またはIgG4)等、Igの特定の型または亜型に特異性を有することができる。よって、一部の実施形態では、抗体結合ドメインは、IgG結合ドメインとして規定することができる。FcRポリペプチドは、真核生物、原核生物または合成FcRドメインを含むことができる。例えば、抗体Fc結合ドメインは、哺乳動物、細菌または合成結合ドメインとして規定することができる。本発明における使用のための一部のFc結合ドメインとして、表3のポリペプチドのうち1種由来の結合ドメインが挙げられるがこれらに限定されない。例えば、Fc結合ポリペプチドは、FCGR2A、FCGR2B、FCGR2C、FCGR3A、FCGR3B、FCGR1A、Fcgr1、FCGR2、FCGR2、Fcgr2、Fcgr2、FCGR3、FCGR3、Fcgr3、FCGR3、Fcgr3、FCGRT、mrp4、spaまたはspg遺伝子によってコードされ得る。好ましくは、本発明に係る使用のためのFcRポリペプチドは、ヒトFcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIc、FcγRIIIa、FcγRIIIb、FcαRIまたはC1q由来のFc結合領域であり得る。Fcドメインが結合する種々のFc受容体は、本技術分野で周知であり、受容体の一部の例を下表3に収載する。
【表3-1】
【表3-2】
【0080】
III.抗体Fcドメインをスクリーニングするための方法
ある特定の態様では、標的リガンド(例えば、Fc受容体等の抗体結合ポリペプチド)に特異的な親和性を有する抗体Fcドメインを同定するための方法が存在する。かかる方法は、本明細書、ならびにその全体を特に参照により本明細書に組み込むPCT公開WO2008/137475に記載されている。例えば、当該方法を使用して、本明細書に開示されているFcドメイン置換変異に加えて(例えば、ヒトIgG FcドメインにおけるL309D、Q311H、およびN434S/Yに加えて)変異体またはバリアントFcドメインまたは抗体にさらに含めることができる追加的な変異を識別することができる。追加的な変異を同定するための種々の方法が本技術分野で公知であり、本発明において使用することができる(例えば、米国特許第7094571号、同第7419783号、同第7611866号および米国特許公開第2003/0219870号;Harvey et al., 2004; Harvey et al., 2006)。
【0081】
IV.核酸に基づく発現系
核酸に基づく発現系は、本発明のある特定の実施形態では、組換えタンパク質の発現に使用を見出すことができる。例えば、本発明の一実施形態は、抗体Fcドメインまたは好ましくは、複数の別個のFcドメインのコード配列によるグラム陰性細菌の形質転換が関与する。
【0082】
A.核酸送達方法
本発明のある特定の態様は、標的細胞(例えば、グラム陰性細菌)への核酸の送達を含むことができる。例えば、細菌宿主細胞は、FcRに結合する可能性がある候補Fcドメインをコードする核酸により形質転換することができる。本発明の特定の実施形態では、細菌のペリプラズムへの発現を標的化することが望まれ得る。真核生物宿主細胞の形質転換は、同様に、標的リガンドに結合することができると識別される様々な候補分子の発現における使用を見出すことができる。
【0083】
細胞の形質転換のための核酸送達に適した方法は本技術分野で周知である。一部の態様では、変異体またはバリアントFcドメインを核酸発現ベクターにコードさせ、これを、細菌細胞または真核細胞等の細胞を形質転換するために使用することができる。
【0084】
用語「発現ベクター」は、転写され得る遺伝子産物の少なくとも部分をコードする核酸配列を含有するベクターを指す。発現ベクターは、特定の宿主生物における作動可能に連結されたコード配列の転写および場合により翻訳に必要な核酸配列を指す種々の「制御配列」を含有し得る。さらに、発現ベクターは、プロモーター、エンハンサー、開始シグナル、多重クローニング部位(MCS)、終結シグナル、1つまたは複数の複製起点部位(「ori」と命名されることが多い)、選択可能および/またはスクリーニング可能マーカー(例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、もしくはヒスチジノール;またはGFPまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)等のタンパク質に対する抵抗性を付与するため)を含み得る。
【0085】
「プロモーター」は、転写の開始および速度が制御される核酸配列の領域である制御配列である。これは、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子等、調節タンパク質および分子が結合することができる遺伝的エレメントを含有することができる。語句「作動可能に配置される」、「作動可能に連結される」、「制御下にある」および「転写制御下にある」は、プロモーターが、核酸配列との関連において、この配列の転写開始および/または発現を制御するために、正確で機能的な位置および/または配向にあることを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列を指す「エンハンサー」と併せて使用されても使用されなくてもよい。分子生物学分野の当業者は一般に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサーおよび細胞型組合せの使用についてよく知っており、例えば、参照により本明細書に組み込むSambrookら(1989年)を参照されたい。
【0086】
B.宿主細胞
異種核酸配列の発現の文脈において、「宿主細胞」は、原核細胞を指し、ベクターを複製することができるおよび/またはベクターによってコードされた異種遺伝子を発現することができるいずれかの形質転換可能な生物を含む。宿主細胞は、ベクターのレシピエントとして使用することができ、そのように使用されてきた。宿主細胞は、「トランスフェクト」または「形質転換」することができ、これは、外因性核酸が宿主細胞に移入または導入されるプロセスを指す。形質転換された細胞は、初代対象細胞およびその後代を含む。
【0087】
本発明の特定の実施形態では、宿主細胞は、グラム陰性細菌細胞である。これらの細菌は、内膜および外膜の間に細胞膜周辺腔を保有するという点において、本発明による使用に適しており、特に、上述の内膜は、ペリプラズムと細胞質との間にあり、これは、細胞膜としても公知である。したがって、かかる細胞膜周辺腔を有する他のいずれかの細胞を本発明に従って使用することができる。本発明による使用を見出すことができるグラム陰性細菌の例として、E.coli、Pseudomonas aeruginosa、Vibrio cholera、Salmonella typhimurium、Shigella flexneri、Haemophilus influenza、Bordotella pertussi、Erwinia amylovora、Rhizobium sp.を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0088】
適切な宿主は、ベクター骨格および所望の結果に基づき、当業者によって決定することができる。プラスミドまたはコスミドは、例えば、多くのベクターの複製のために原核生物宿主細胞に導入することができる。ベクター複製および/または発現のための宿主細胞として使用される細菌細胞は、DH5α、JM109およびKC8、ならびにSURE(登録商標)コンピテント細胞およびSOLOPACK(商標)Gold細胞(Stratagene(登録商標)、La Jolla)等の多数の市販の細菌宿主を含む。あるいは、E.coli LE392等の細菌細胞は、バクテリオファージの宿主細胞として使用することができる。
【0089】
哺乳動物宿主細胞の例として、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-K1;ATCC CCL61)、ラット下垂体細胞(GH1;ATCC CCL82)、HeLa S3細胞(ATCC CCL2.2)、ラットヘパトーマ細胞(H-4-II-E;ATCCCRL 1548)、SV40形質転換サル腎臓細胞(COS-1;ATCC CRL 1650)およびマウス胚細胞(NIH-3T3;ATCC CRL 1658)が挙げられる。前述は、本技術分野で公知の多くの可能な宿主生物の限定ではなく例示を目的とする。
【0090】
ポリペプチドを発現する哺乳動物宿主細胞は、親細胞株の培養に典型的に用いられる条件下で培養される。一般に、細胞は、典型的には、5%~10%のウシ胎仔血清等の血清を補充した、標準RPMI、MEM、IMEMまたはDMEM等、生理的な塩および栄養素を含有する標準培地において培養される。培養条件も標準であり、例えば、培養物は、所望のレベルのタンパク質が達成されるまで、静置または回転培養において37℃でインキュベートされる。
【0091】
様々な細胞型および生物由来の多くの宿主細胞を利用することができ、当業者に公知であろう。同様に、特に、ベクターの複製または発現に許容的なウイルスベクターを原核生物宿主細胞と併せて使用することができる。一部のベクターは、原核および真核細胞の両方におけるその複製および/または発現を可能にする制御配列を用いることができる。当業者であれば、上述の宿主細胞の全てをインキュベートして、これらを維持し、ベクターの複製を可能にするための条件をさらに理解するであろう。ベクターの大規模産生、ならびにベクターによってコードされる核酸およびその同族ポリペプチド、タンパク質またはペプチドの産生を可能にするであろう技法および条件も理解され公知である。
【0092】
C.発現系
上に記す組成物の少なくとも部分または全部を含む、多数の発現系が存在する。かかる系は、例えば、特定のリガンドに結合することができると本発明に従って識別されたポリペプチド産物の産生に使用することができる。原核生物に基づく系は、本発明による使用に用いて、核酸配列またはその同族ポリペプチド、タンパク質およびペプチドを産生することができる。多くのかかる系は、市販されており、広く入手できる。発現系の他の例は、T7、Tac、Trc、BAD、ラムダpL、テトラサイクリンまたはLacプロモーター等、強い原核生物プロモーターを含有するベクター、pET発現系およびE.coli発現系を含む。
【0093】
本発明のある特定の態様では、ポリペプチドをコードする核酸配列が開示される。いずれの発現系が使用されるかに応じて、従来方法に基づき核酸配列を選択することができる。例えば、ポリペプチドが、ヒトポリペプチドに由来し、E.coliではめったに利用されない複数のコドンを含有する場合、これは、E.coliにおける発現に干渉し得る。したがって、それぞれの遺伝子またはそのバリアントは、E.coli発現のためにコドン最適化することができる。様々なベクターを使用して、目的のタンパク質を発現させることもできる。例示的なベクターとして、プラスミドベクター、ウイルスベクター、トランスポゾンまたはリポソームに基づくベクターが挙げられるがこれらに限定されない。
【0094】
V.タンパク質精製
タンパク質精製技法は、当業者に周知である。これらの技法には、あるレベルにおいて、細胞、組織、または器官のポリペプチドおよび非ポリペプチド画分へのホモジナイゼーションおよび粗分画が関与する。他に指定がなければ、目的のタンパク質またはポリペプチドは、クロマトグラフィーおよび電気泳動技法を使用してさらに精製して、部分的または完全な精製(または均一になるまで精製)を達成することができる。純粋なペプチドの調製に特に適する分析方法としては、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、逆相クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、イムノアフィニティークロマトグラフィー、および等電点電気泳動が挙げられる。ペプチドを精製する特に効率的な方法は、高速性能液体クロマトグラフィー(FPLC)またはさらには高速液体クロマトグラフィー(高圧液体クロマトグラフィーまたはHPLCとも称される)である。本技術分野で一般に知られている通り、種々の精製ステップの実施順序を変化させても、またはある特定のステップを省略しても、依然として、実質的に精製されたタンパク質またはペプチドの調製に適した方法をもたらすことができることが考えられる。
【0095】
精製されたタンパク質またはペプチドは、他の構成成分から単離することができる組成物を指すことが意図され、タンパク質またはペプチドは、その天然に得ることができる状態と比べたいずれかの程度まで精製される。単離または精製されたタンパク質またはペプチドは、したがって、それが天然に生じ得る環境を含まないタンパク質またはペプチドも指す。一般に、「精製された」は、分画に付されて様々な他の構成成分が除去されたタンパク質またはペプチド組成物を指し、この組成物は、その発現された生物学的活性を実質的に保持するであろう。用語「実質的に精製された」が使用される場合、この命名は、タンパク質またはペプチドが、組成物中のタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはそれ超を構成する等、組成物の主要な構成成分を形成する組成物を指し得る。
【0096】
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量化するための種々の方法は、本開示を踏まえることにより当業者に公知である。これらの方法は、例えば、活性画分の比活性の決定、またはSDS/PAGE解析による画分内のポリペプチドの数の評価を含む。画分の純度を評価するための好ましい方法は、画分の比活性を計算し、初期抽出物の比活性とこれを比較し、これにより、「精製倍率数(fold purification number)」によって評価される、その中の純度の程度を計算することである。活性の量を表すために使用される実際の単位は、当然ながら、精製を追跡するために選択された特定のアッセイ技法、および発現されたタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すか否かに依存し得る。
【0097】
タンパク質またはペプチドがその最も精製された状態で常に提供されることの一般要件はない。実際には、ある特定の実施形態では、実質的に精製度が低い産物が、有用性を有する場合があることが企図される。部分的な精製は、より少ない精製ステップを組み合わせて使用することにより、または同じ一般精製スキームの異なる形態を利用することにより達成することができる。例えば、HPLC装置を利用して行われたカチオン交換カラムクロマトグラフィーは、一般に、低圧クロマトグラフィー系を利用した同じ技法よりも大きい「倍数」の精製をもたらすことが認められる。より低い程度の相対的精製を示す方法は、タンパク質産物の総回収量または発現されたタンパク質の活性の維持において利点を有することができる。
【0098】
VI.医薬組成物
ポリペプチドまたは抗体を含有する医薬組成物の臨床適用が行われる場合、意図される適用に適切な医薬または治療組成物を調製することが一般に有益であり得る。一般に、医薬組成物は、薬学的に許容される担体に溶解または分散された、有効量の1種または複数のポリペプチドまたは追加的な作用物質を含むことができる。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、例えば、少なくとも約0.1%のポリペプチドまたは抗体を含むことができる。他の実施形態では、ポリペプチドまたは抗体は、例えば約2%~約75%の間の重量の単位または約25%~約60%の間、およびそこから導くことができるいずれかの範囲を含むことができる。各治療的に有用な組成物における活性化合物(単数または複数)の量は、いずれかの所定の単位用量の化合物の適した投与量が得られるような仕方で調製することができる。溶解度、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与経路、製品有効期間、ならびに他の薬理学的考察等の因子は、かかる医薬品製剤を調製する分野の当業者によって企図され、したがって、種々の投与量および処置レジメンが所望され得る。
【0099】
語句「薬学的または薬理学的に許容される」は、必要に応じてヒト等の動物に投与されたときに、有害、アレルギーまたは他の不都合な反応を生じない分子実体および組成物を指す。参照により本明細書に組み込むRemington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、1990年によって例示される通り、抗体または追加的な活性成分を含む医薬組成物の調製は、本開示を踏まえることにより当業者に公知であろう。さらに、動物(例えば、ヒト)投与のため、調製物が、FDA Office of Biological Standardsによって要求される無菌性、発熱性、一般的安全性および純度標準を満たすべきであることが理解される。
【0100】
さらに、本発明のある特定の態様に従って、投与に適した組成物は、不活性希釈剤ありまたはなしの薬学的に許容される担体中に提供することができる。担体は、同化可能となるべきであり、液体、半固体、すなわち、ペーストまたは固体担体を含む。担体または希釈剤の例として、脂肪、油、水、食塩溶液、脂質、リポソーム、樹脂、結合剤、フィラー等またはこれらの組合せが挙げられる。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、当業者に公知の通り、ありとあらゆる水性溶媒(例えば、水、アルコール/水溶液、エタノール、生理食塩水溶液、非経口的ビヒクル、例えば、塩化ナトリウム、リンゲルのデキストロース等)、非水性溶媒(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、および注射用有機エステル、例えば、オレイン酸エチル)、分散媒、コーティング(例えば、レシチン)、界面活性剤、抗酸化剤、保存料(例えば、抗細菌剤または抗真菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガス、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール)、等張剤(例えば、糖、塩化ナトリウム)、吸収遅延剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン)、塩、薬物、薬物安定剤(例えば、緩衝液、アミノ酸、例えば、グリシンおよびリシン、炭水化物、例えば、デキストロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、ソルビトール、マンニトール等)、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、流体および栄養素補充薬、そのような材料およびこれらの組合せを含む。任意の従来の媒体、作用物質、希釈剤、または担体が、レシピエントまたはそれが含有される組成物の治療効果にとって有害である場合を除いて、本方法の実施における使用のための投与可能な組成物におけるその使用は適切である。医薬組成物におけるpHおよび種々の構成成分の正確な濃度は、周知のパラメータに従って調整される。本発明のある特定の態様に従って、組成物は、いずれかの簡便かつ実用的な様式で、すなわち、溶解、懸濁、乳化、混合、カプセル被包、吸収、粉砕等により、担体と組み合わされる。かかる手順は、当業者にとって慣用的なものである。
【0101】
本発明のある特定の実施形態は、固体、液体、またはエアロゾル形態で投与されるべきか、および注射等の投与経路のために無菌である必要があるかに応じて異なる種類の担体を含み得る。組成物は、当業者に公知の通り、静脈内、皮内、経皮、くも膜下腔内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、膣内、直腸内、筋肉内、皮下、粘膜、経口、外用、局所的、吸入による(例えば、エアロゾル吸入)、注射による、注入による、持続注入による、標的細胞を直接浸す局在化灌流による、カテーテルによる、洗浄による、脂質組成物(例えば、リポソーム)における、または他の方法もしくは前述のいずれかの組合せによる投与のために製剤化することができる(例えば、参照により本明細書に組み込むRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., 1990を参照されたい)。典型的には、かかる組成物は、液体の溶液または懸濁物のいずれかとして調製することができ;注射に先立つ液体の添加により溶液または懸濁物を調製するための使用に適した固体形態を調製することもでき;調製物を乳化することもできる。一部の実施形態では、変異体またはバリアントFcドメインを含む治療タンパク質を哺乳動物の対象(例えば、ヒト)に注射または静脈内投与によって投与する。
【0102】
ポリペプチドは、遊離塩基、中性または塩形態で組成物中に製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、酸付加塩、例えば、タンパク質性組成物の遊離アミノ基により生成される塩、あるいは例えば、塩酸もしくはリン酸等の無機酸または酢酸、シュウ酸、酒石酸もしくはマンデル酸等の有機酸により生成される塩を含む。遊離カルボキシル基により生成された塩は、例えば、水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムもしくは第二鉄等、無機塩基;またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンもしくはプロカイン等、有機塩基に由来することができる。
【0103】
さらなる実施形態では、本発明は、ポリペプチド、1種または複数の脂質および水性溶媒を含む医薬脂質媒体組成物の使用に関係することができる。本明細書において使用する場合、用語「脂質」は、水に特徴的に不溶性であり、有機溶媒で抽出することができる広範囲の物質のいずれかを含むと規定され得る。この広範なクラスの化合物は、当業者に周知であり、本明細書で用語「脂質」が使用される場合、いずれかの特定の構造に限定されない。例として、長鎖脂肪族炭化水素およびその誘導体を含有する化合物が挙げられる。脂質は、天然起源または合成(すなわち、人の手により設計または産生)であり得る。しかし、脂質は通常、生物学的物質である。生物学的脂質は、本技術分野で周知であり、例えば、中性脂肪、リン脂質、ホスホグリセリド、ステロイド、テルペン、リゾ脂質(lysolipid)、スフィンゴ糖脂質、糖脂質、スルファチド(sulphatide)、エーテルおよびエステル連結した脂肪酸を有する脂質、重合可能脂質ならびにこれらの組合せを含む。当然ながら、当業者によって脂質として理解されている、特に本明細書に記載されている以外の化合物も、本組成物および方法によって包含される。
【0104】
当業者であれば、脂質ビヒクル中への組成物の分散に用いることができる技法の範囲についてよく知っているであろう。例えば、ポリペプチドまたはその融合タンパク質は、脂質を含有する溶液中に分散させる、脂質により溶解させる、脂質により乳化する、脂質と混合する、脂質と組み合わせる、脂質に共有結合させる、脂質中に懸濁物として含有させる、ミセルもしくはリポソームと共に含有または複合体形成させる、または当業者に公知のいずれかの手段により他の仕方で脂質もしくは脂質構造と会合させることができる。分散によりリポソームの形成がもたらされてももたらされなくてもよい。一部の実施形態では、本明細書に記載されている変異体またはバリアントFcドメインを含む抗体を抗体-標的化リポソームに含めることができる。
【0105】
用語「単位用量」または「投与量」は、対象における使用に適した物理的に別々の単位を指し、各単位は、その投与、すなわち、適切な経路および処置レジメンに関連して上に記す所望の応答を生じると計算された治療組成物の既定の量を含有する。処置回数および単位用量の両方に従って投与するべき量は、所望の効果に依存する。患者または対象に投与される本実施形態の組成物の実際の投与量は、対象の体重、年齢、健康および性別、処置されている疾患の種類、疾患浸透の程度、以前のまたは同時発生的な治療介入、患者の特発性、投与経路、ならびに特定の治療用物質の効力、安定性および毒性等、身体的および生理的因子によって決定することができる。他の非限定例において、用量は、投与当たり約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重から約1000ミリグラム/kg/体重またはそれ超およびそこから導くことができるいずれかの範囲を含むこともできる。ここに収載されている数から導くことができる範囲の非限定例において、約5ミリグラム/kg/体重~約100ミリグラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重~約500ミリグラム/kg/体重等の範囲を上述の数に基づき投与することができる。投与に責任がある医師は、いかなる場合でも、組成物における活性成分(単数または複数)の濃度および個々の対象に適切な用量(単数または複数)を決定し得る。
【0106】
本発明は、治療用調製物の特定の性質によって限定されることは意図されない。例えば、かかる組成物は、生理的に許容できる液体、ゲルまたは固体担体、希釈剤および賦形剤と一緒に製剤中に提供することができる。これらの治療用調製物は、飼育動物による等の獣医学的使用および他の治療剤と同様の様式でのヒトにおける臨床使用のために哺乳動物に投与することができる。一般に、治療有効性に必要とされる投与量は、使用の種類および投与機序、ならびに個々の対象の特定化された要件に応じて変動し得る。動物患者に投与される組成物の実際の投与量は、体重、状態の重症度、処置されている疾患の種類、以前のまたは同時発生的な治療介入、患者の特発性、および投与経路等、身体的および生理的因子によって決定することができる。投与量および投与経路に依存して、好まれる投薬量および/または有効量の投与の回数は、対象の応答に応じて変動し得る。投与に責任がある医師は、いかなる場合でも、組成物における活性成分(単数または複数)の濃度および個々の対象に適切な用量(単数または複数)を決定し得る。
【0107】
VII.処置方法
本発明のある特定の態様は、例えば、本明細書に記載されている変異体またはバリアントFcドメインを含む治療タンパク質または抗体を用いて腫瘍等の疾患を処置するためのポリペプチドを提供する。特に、ポリペプチドは、ヒトポリペプチド配列を有してよく、したがって、ヒト患者におけるアレルギー反応を防止し、反復投与を可能にし、治療有効性を増大させることができる。
【0108】
「処置」および「処置する」は、疾患または健康関連の状態の治療利益を得る目的で、対象への治療剤の投与もしくは適用、または対象における手順もしくはモダリティの実行を指す。例えば、処置は、がん細胞増殖を誘発することなくがん細胞にCDCを標的化する、薬学的有効量の抗体の投与を含むことができる。
【0109】
「対象」および「患者」は、霊長類、哺乳動物および脊椎動物等、ヒトまたは非ヒトのいずれかを指す。特定の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0110】
用語「治療利益」または「治療上有効」は、本願を通して使用される場合、この状態の医学的処置に関して対象の福祉を促進または増強する任意のものを指す。したがってこうしたものとしては、疾患の徴候または症状の頻度または重症度の低下が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、がんの処置は、例えば、腫瘍サイズの低下、腫瘍侵襲性の低下、がん成長速度の低下、または転移の防止が関与し得る。がんの処置は、がんを有する対象の生存延長を指すこともできる。
【0111】
本処置方法が有用な腫瘍は、固形腫瘍または血液学的腫瘍に見出されるもの等、任意の悪性細胞型を含む。例示的な固形腫瘍として、膵臓、結腸、盲腸、胃、脳、頭部、頸部、卵巣、腎臓、喉頭、肉腫、肺、膀胱、メラノーマ、前立腺および乳房からなる群から選択される臓器の腫瘍を挙げることができるがこれらに限定されない。例示的な血液学的腫瘍は、骨髄の腫瘍、TまたはB細胞悪性病変、白血病、リンパ腫、芽腫、骨髄腫等を含む。本明細書に提供されている方法を使用して処置することができるがんのさらなる例として、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、白血病、扁平上皮がん、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺癌および肺の扁平上皮癌を含む)、腹膜のがん、肝細胞がん、胃(gastric)または胃(stomach)がん(胃腸管がんおよび胃腸管間質がんを含む)、膵がん、神経膠芽腫、子宮頸部がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、乳がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜または子宮癌、唾液腺癌、腎臓または腎がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、様々な種類の頭頸部がん、メラノーマ、表在拡大型メラノーマ、悪性黒子メラノーマ、末端黒子型メラノーマ、結節性メラノーマおよびB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽球性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大腫瘤病変NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;およびワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症を含む)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、ヘアリー細胞白血病、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病(AML)ならびに慢性骨髄芽球性白血病が挙げられるがこれらに限定されない。
【0112】
がんは、特に、次の組織学的な型のものであり得るが、これらに限定されない:新生物、悪性;癌腫;癌腫、未分化;巨細胞および紡錘細胞癌;小細胞癌;乳頭癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;石灰化上皮(pilomatrix)癌;移行細胞癌;乳頭移行細胞癌;腺癌;ガストリノーマ、悪性;胆管細胞癌;肝細胞癌;肝細胞癌および胆管細胞癌の組合せ;線維柱帯腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫性ポリープにおける腺癌;腺癌、家族性大腸ポリポーシス;固形癌;カルチノイド腫瘍、悪性;細気管支肺胞(branchiolo-alveolar)腺癌;乳頭腺癌;嫌色素性癌;好酸球癌;好酸性腺癌;好塩基球癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞性腺癌;乳頭および濾胞性腺癌;非被包性硬化性癌;副腎皮質癌;類内膜(endometroid)癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳道腺癌;粘膜表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭嚢胞腺癌;乳頭漿液性嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性乳管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;パジェット病、乳腺;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;腺癌w/扁平上皮異形成;胸腺腫、悪性;卵巣間質腫瘍、悪性;莢膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫瘍、悪性;アンドロブラストーマ、悪性;セルトリ細胞癌;ライディッヒ細胞腫瘍、悪性;脂質細胞腫瘍、悪性;パラガングリオーマ、悪性;乳房外パラガングリオーマ、悪性;褐色細胞腫;血管球血管肉腫(glomangiosarcoma);悪性メラノーマ;無色素性メラノーマ;表在拡大型メラノーマ;巨大色素性母斑における悪性メラノーマ;類上皮細胞メラノーマ;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胚性横紋筋肉腫;肺胞横紋筋肉腫;間質肉腫;混合腫瘍、悪性;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;間葉腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚細胞腫;胚性癌;奇形腫、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管外皮腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨の巨細胞腫瘍;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル上皮肉腫;アメロブラストーマ、悪性;エナメル芽細胞線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;神経膠腫、悪性;上衣腫;星状細胞腫;原形質星状細胞腫;線維性星状細胞腫;星状芽細胞腫;神経膠芽腫;乏突起神経膠腫;乏突起膠細胞芽腫(oligodendroblastoma);原始神経外胚葉性;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;ニューロブラストーマ;網膜芽細胞腫;嗅覚神経原性腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫瘍、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン型;側肉芽腫;悪性リンパ腫、小リンパ球性;悪性リンパ腫、大細胞型、びまん性;悪性リンパ腫、濾胞性;菌状息肉腫;他の指定された非ホジキンリンパ腫;悪性組織球増殖症;多発性骨髄腫;マスト細胞肉腫;免疫増生性小腸性疾患;白血病;リンパ系白血病;形質細胞白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;マスト細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄性肉腫;およびヘアリー細胞白血病。
【0113】
ポリペプチドは、本明細書において、腫瘍組織における補体活性化を誘発するためまたはそれが望ましいと考慮される場合に補体活性化を誘発するための、種々のモダリティにおける抗腫瘍剤として使用することができる。特定の実施形態では、本発明は、抗腫瘍剤としてポリペプチドを使用する方法を企図し、したがって、腫瘍細胞成長の阻害に十分な期間、腫瘍細胞の集団を治療有効量のポリペプチドと接触することを含む。
【0114】
一実施形態では、in vivoでの接触は、患者に本発明のポリペプチドを含む治療有効量の生理的に許容できる組成物を静脈内、腹腔内または腫瘍内注射により投与することにより達成される。ポリペプチドは、注射または時間をかけた漸進的注入により非経口的に投与することができる。ポリペプチドは、静脈内、腹腔内、経口、筋肉内、皮下、腔内、経皮、真皮投与することができ、蠕動手段によって送達することができる、または腫瘍細胞を含有する組織に直接注射することができる。
【0115】
ポリペプチドを含む治療組成物は従来、例えば単位用量の注射による等、静脈内投与される。用語「単位用量」は、治療組成物を参照して使用される場合、対象に対する単位投与量として適した物理的に別々の単位を指し、各単位は、要求される希釈剤、すなわち、担体またはビヒクルに関連して所望の治療効果を生じるように計算される既定の量の活性材料を含有する。
【0116】
組成物は、剤形と適合性の様式でかつ治療有効量で投与される。投与されるべき量は、処置されるべき対象、活性成分を利用する対象の系の能力、および所望の治療効果の程度に依存する。投与が必要とされる活性成分の正確な量は、医師の判断に依存し、各個体に特有である。しかし、全身性適用に適した投与量範囲は、本明細書に開示されており、投与経路に依存する。初回およびブースター投与に適したレジメンも企図され、初回投与に続く、その後の注射または他の投与による1または複数の時間間隔(hour interval)での反復用量によって典型的に表される。例示的な複数の投与は、本明細書に記載されており、ポリペプチドの連続的に高い血清および組織レベルの維持に特に好ましい。あるいは、in vivo治療法に指定された範囲内の血中濃度の維持に十分な連続的静脈内注入が企図される。
【0117】
局所的に進行したまたは転移性がんを有するがん患者において、本発明のポリペプチドを全身または局所的に投与して、腫瘍細胞成長の阻害またはがん細胞の死滅等、疾患を処置することができることが企図される。これは、静脈内、くも膜下腔内および/または腹腔内投与することができる。これは、単独でまたは抗増殖薬と組み合わせて投与することができる。一実施形態では、これは、外科手術または他の手順に先立ち患者におけるがん負荷を低下するために投与することができる。あるいは、これは、いかなる残存するがん(例えば、外科手術が排除できなかったがん)も生存しないことを確実にするために、外科手術後に投与することができる。
【0118】
治療有効量のポリペプチドは、所望の効果を達成するように、すなわち、腫瘍組織においてCDCを誘発し、これにより、腫瘍切除炎症促進性応答を媒介するように計算された既定の量である。よって、本発明のポリペプチドの投与の投与量範囲は、腫瘍細胞分裂および細胞周期進行の症状が低下する所望の効果を生じるのに十分な多さの投与量範囲である。投与量は、過粘稠度症候群、肺水腫、うっ血性心不全、神経学的効果等、有害副作用を引き起こすほどに多くなるべきではない。一般に、投与量は、患者の年齢、状態、性別および患者における疾患の程度と共に変動し、当業者によって決定することができる。何らかの合併症の場合には、投与量は、個々の医師によって調整することができる。
【0119】
VIII.併用療法
ある特定の実施形態では、本実施形態の組成物および方法は、第2のまたは追加的な治療法と組み合わせたポリペプチドまたは抗体の投与が関与する。かかる治療法は、CDCに応答性のいずれかの疾患の処置において適用することができる。例えば、疾患は、がんであり得る。
【0120】
併用療法を含む方法および組成物は、治療もしくは保護効果を増強する、および/または別の抗がんもしくは抗過剰増殖療法の治療効果を増加する。治療および予防的な方法および組成物は、がん細胞の死滅および/または細胞過剰増殖の阻害等、所望の効果の達成に有効な組み合わせた量で提供することができる。このプロセスは、ポリペプチドまたは抗体および第2の治療法の投与が関与し得る。第2の治療法は、直接の細胞傷害性効果を有しても有さなくてもよい。例えば、第2の治療法は、直接の細胞傷害性効果がない、免疫系を上方調節する作用物質であり得る。組織、腫瘍または細胞は、作用物質(例えば、ポリペプチドまたは抗がん剤)のうち1種または複数を含む1種または複数の組成物または薬理学的製剤(単数または複数)に曝露することができ、あるいは組織、腫瘍および/または細胞を2種またはそれを超える別個の組成物または製剤に曝露することができ、1種の組成物が、1)ポリペプチドもしくは抗体、2)抗がん剤、または3)ポリペプチドもしくは抗体および抗がん剤の両方を提供する。また、かかる併用療法を、化学療法、放射線療法、外科療法または免疫療法と併せて使用することができることが企図される。
【0121】
用語「接触される」および「曝露される」は、細胞に適用される場合、治療用ポリペプチドもしくは抗体および化学療法もしくは放射線療法剤が標的細胞に送達される、または標的細胞と直接並立して設置されるプロセスを説明するように本明細書において使用される。細胞死滅を達成するために、例えば、両方の作用物質が、細胞の死滅またはその分裂の防止に有効な組み合わせた量で細胞に送達される。
【0122】
ポリペプチドまたは抗体は、抗がん処置と比べてその前に、その最中に、その後に、または様々な組合せで投与することができる。投与は、同時発生的から数分間から数日間から数週間に及ぶ間隔であり得る。ポリペプチドまたは抗体が、抗がん剤とは別々に患者に与えられる実施形態では、一般に、2種の化合物が依然として、患者に対して、有利に組み合わされた効果を発揮することができるように、各送達時の間でかなりの期間が経ち有効期限を越えてしまわなかったことを確実にするであろう。かかる場合、互いに約12~24または72時間以内に、より詳細には、互いに約6~12時間以内に、ポリペプチドおよび抗がん療法を患者に与えることができることが企図される。ある状況では、有意に処置の期間を延長することが望ましいことがあり、その場合、それぞれの投与間で数日間(2、3、4、5、6または7)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8)が経過する。
【0123】
ある特定の実施形態では、処置の経過は、1~90日間またはそれを超えて(このかかる範囲は、介在する日数を含む)持続し得る。1種の作用物質は、1日目から90日目(このかかる範囲は、介在する日数を含む)のいずれかの日またはそのいずれかの組合せに与えることができ、別の作用物質は、1日目から90日目(このかかる範囲は、介在する日数を含む)のいずれかの日またはそのいずれかの組合せに与えられることが企図される。1日間以内(24時間期間)に、患者に、作用物質(単数または複数)の1回または複数回の投与を与えることができる。さらに、処置の経過後に、抗がん処置が投与されない期間を設けることが企図される。この期間は、その予後、強さ、健康等、患者の状態に依存して、1~7日間および/または1~5週間および/または1~12カ月間またはそれを超えて(このかかる範囲は、介在する日数を含む)持続することができる。必要に応じて処置サイクルが反復されることが予想される。
【0124】
様々な組合せを用いることができる。下の例に関して、ポリペプチドまたは抗体は「A」であり、抗がん療法は「B」である:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0125】
患者への本実施形態のいずれかのポリペプチドまたは治療法の投与は、作用物質の毒性があるとすればそれを考慮に入れつつ、かかる化合物の投与の一般プロトコールに従う。したがって、一部の実施形態では、併用療法に起因する毒性をモニタリングするステップが存在する。対象におけるがんの処置が関与する一部の実施形態では、第2の治療法は、例えば、化学療法、放射線療法、免疫療法、遺伝子療法、または外科手術であり得る。
【0126】
A.化学療法
多種多様な化学療法剤を、本実施形態に従って使用することができる。用語「化学療法」は、がんを処置するための薬物の使用を指す。「化学療法剤」は、がんの処置において投与される化合物または組成物を暗示するように使用される。これらの作用物質または薬物は、細胞内におけるその活性機序によって、例えば、これが細胞周期に影響を与えるか否かおよびいずれのステージでそれが為されるかによってカテゴリー化される。あるいは、作用物質は、DNAを直接架橋する、DNA内にインターカレートする、または核酸合成に影響を与えることにより染色体および有糸分裂異常を誘導するその能力に基づき特徴付けることができる。
【0127】
化学療法剤の例として、チオテパおよびシクロホスファミド(cyclosphosphamide)等のアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファン(piposulfan)等のスルホン酸アルキル;ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)およびウレドパ(uredopa)等のアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレン(triethiylene)チオホスホラミドおよびトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミンおよびメチロールメラミン(methylamelamine);アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン(bullatacinone));カンプトテシン(合成アナログトポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン(callystatin);CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)およびビセレシン合成アナログを含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成アナログ、KW-2189およびCB1-TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチイン(sarcodictyin);スポンジスタチン(spongistatin);クロラムブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、チョロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキサイド塩酸塩、メルファラン、ノベンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミドおよびウラシルマスタード等のナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチンおよびラニムスチン(ranimnustine)等のニトロソウレア(nitrosurea);エンジイン抗生物質(例えば、カリチアマイシン、特に、カリチアマイシンガンマlIおよびカリチアマイシンオメガI1)等の抗生物質;ジネマイシンAを含むジネマイシン(dynemicin);クロドロネート等のビスホスホネート;エスペラミシン;ならびにネオカルチノスタチン発色団および関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質(antiobiotic)発色団、アクラシノマイシン(aclacinomysin)、アクチノマイシン、アントラマイシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カルビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルフォリノ-ドキソルビシン、シアノモルフォリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ(pyrrolino)-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンC等のマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチンおよびゾルビシン;メトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU)等の代謝拮抗薬;デノプテリン、プテロプテリンおよびトリメトレキセート等の葉酸アナログ;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)およびチオグアニン等のプリンアナログ;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビンおよびフロクスウリジン等のピリミジンアナログ;カルステロン(calusterone)、ドロモスタノロンプロピオン酸塩、エピチオスタノール、メピチオスタンおよびテストラクトン等のアンドロゲン;ミトタンおよびトリロスタン等の抗副腎(anti-adrenals);フロリン酸(frolinic acid)等の葉酸補充薬;アセグラトン;アルドホスファミド(aldophosphamide)グリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトレキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン(diaziquone);エルフォルミシン(elformithine);エリプチニウム(elliptinium)酢酸塩;エポチロン;エトグルシド;ガリウム硝酸塩;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);マイタンシンおよびアンサマイトシン(ansamitocin)等のマイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特に、T-2毒素、ベラキュリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)Aおよびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセルゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチン等の白金配位複合体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン(novantrone);テニポシド;エダトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(difluorometlhylornithine)(DMFO);レチノイン酸等のレチノイド;カペシタビン;カルボプラチン、プロカルバジン、プリカマイシン(plicomycin)、ゲムシタビン(gemcitabien)、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ(tansferase)阻害剤、トランス白金(transplatinum)、ならびに上述のいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体が挙げられる。
【0128】
B.放射線療法
DNA損傷を生じる、広範に使用されてきた他の因子は、γ線、X線および/または腫瘍細胞への放射性同位元素の定方向送達として一般的に公知のものを含む。マイクロ波、陽子線照射(米国特許第5,760,395号および同第4,870,287号)およびUV照射等、他の形態のDNA損傷因子も企図される。これらの因子の全てが、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体のアセンブリおよび維持における広範囲の損傷に影響を与える可能性が最も高い。X線の線量範囲は、延長された期間にわたる(3~4週間)50~200レントゲンの一日線量から、2000~6000レントゲンの単一線量に及ぶ。放射性同位元素の線量範囲は、広く変動し、同位元素の半減期、放射する放射線の強度および種類、ならびに新生物細胞による取込みに依存する。
【0129】
C.免疫療法
当業者であれば、本実施形態の方法と組み合わせてまたは併せて、免疫療法を使用することができることを理解されよう。がん処置の文脈において、免疫療法は、一般に、免疫細胞を標的にし、抑制する免疫エフェクター細胞および分子の使用に頼る。ブリナツモマブ(Blincyto(登録商標))は、かかる一例である。例えば、イピリムマブ等のチェックポイント阻害剤は、別のかかる例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面におけるあるマーカーに特異的な抗体であり得る。抗体は、単独で治療法のエフェクターとして機能させることもでき、細胞死滅に実際に影響を及ぼすように他の細胞を動員させることができる。抗体を薬物または毒素(化学療法薬、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素等)とコンジュゲートし、単に標的化作用物質として作用させることもできる。あるいは、エフェクターは、直接的または間接的のいずれかで、腫瘍細胞標的と相互作用する表面分子を有するリンパ球であり得る。種々のエフェクター細胞として、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が挙げられる。
【0130】
免疫療法の一態様では、腫瘍細胞は、標的することに受け入れられる、すなわち、他の細胞の大部分には存在しない、特定のマーカーを有する必要がある。多くの腫瘍マーカーが存在し、そのうちのいずれかが、本実施形態の文脈における標的化に適することができる。共通腫瘍マーカーは、CD20、癌胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニン受容体、erb Bおよびp155を含む。免疫療法の代替的な態様は、抗がん効果を免疫刺激効果と組み合わせることである。免疫刺激分子も存在し、次のものを含む:サイトカイン、例えば、IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、ガンマ-IFN、ケモカイン、例えば、MIP-1、MCP-1、IL-8および増殖因子、例えば、FLT3リガンド。
【0131】
現在研究中または使用されている免疫療法の例は、免疫アジュバント、例えば、Mycobacterium bovis、Plasmodium falciparum、ジニトロクロロベンゼンおよび芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および同第5,739,169号;HuiおよびHashimoto、1998年;Christodoulidesら、1998年);サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、IL-1、GM-CSFならびにTNF(Bukowskiら、1998年;Davidsonら、1998年;Hellstrandら、1998年);遺伝子療法、例えば、TNF、IL-1、IL-2およびp53(Qinら、1998年;Austin-WardおよびVillaseca、1998年;米国特許第5,830,880号および同第5,846,945号);ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2および抗p185(Hollander、2012年;Hanibuchiら、1998年;米国特許第5,824,311号)である。1種または複数の抗がん療法を、本明細書に記載されている抗体療法と共に用いることができることが企図される。
【0132】
D.外科手術
がんを有する人のおよそ60%は、予防的、診断的または進行度診断的、根治的および姑息的外科手術を含むある種の外科手術を受ける。根治的外科手術は、がん性組織の全体または部分が物理的に除去される、切り取られるおよび/または破壊される切除を含み、本実施形態の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法および/または代替的治療法等、他の治療法と併せて使用することができる。腫瘍切除は、腫瘍の少なくとも部分の物理的除去を指す。腫瘍切除に加えて、外科手術による処置は、レーザー外科手術、凍結外科手術、電気外科手術および顕微鏡により制御された外科手術(モース外科手術)を含む。
【0133】
がん性細胞、組織または腫瘍の部分または全体を切り取ると、身体に腔が形成され得る。処置は、追加的な抗がん療法によるこの区域の灌流、直接注射または局所的適用により達成することができる。かかる処置は、例えば、1、2、3、4、5、6もしくは7日毎に、または1、2、3、4および5週毎に、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12カ月毎に反復することができる。これらの処置はまた、変動する投与量のものとなることもできる。
【0134】
E.他の作用物質
本実施形態のある特定の態様と組み合わせて他の作用物質を使用して、処置の治療有効性を改善することができることが企図される。これらの追加的な作用物質としては、細胞表面受容体およびGAP結合の上方調節に影響を与える作用物質、細胞増殖抑制および分化剤、細胞接着の阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖細胞の感受性を増大させる作用物質、または他の生物学的作用物質が挙げられる。GAP結合の数が増加することによる細胞間のシグナル伝達の増大により、隣接する過剰増殖細胞集団に対する抗過剰増殖効果が増大し得る。他の実施形態では、細胞増殖抑制または分化剤を本実施形態のある特定の態様と組み合わせて使用して、処置の抗過剰増殖有効性を改善することができる。細胞接着の阻害剤により、本実施形態の有効性が改善されることが企図される。細胞接着阻害剤の例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。さらに、抗体c225等の、アポトーシスに対する過剰増殖細胞の感度を増大させる他の作用物質を本実施形態のある特定の態様と組み合わせて使用して処置有効性を改善することができることが企図される。
【0135】
IX.キット
本発明のある特定の態様は、治療用キット等、キットを提供することができる。例えば、キットは、本明細書に記載されている1種または複数の医薬組成物と、任意選択で、その使用のための説明書とを含むことができる。キットは、かかる組成物の投与を達成するための1種または複数のデバイスを含むこともできる。例えば、対象キットは、医薬組成物と、がん性腫瘍への組成物の直接静脈内注射を達成するためのカテーテルとを含むことができる。他の実施形態では、対象キットは、送達装置による使用のための、任意選択で医薬品として製剤化されたまたは凍結乾燥されたポリペプチドの予め充填されたアンプルを含むことができる。
【0136】
キットは、ラベルを付けた容器を含むことができる。適した容器は、例えば、ボトル、バイアルおよび試験管を含む。容器は、ガラスまたはプラスチック等、種々の材料でできていてよい。容器は、上述のもの等、治療または非治療適用に有効なポリペプチドを含む組成物を保持することができる。容器のラベルは、組成物が、特異的な治療または非治療適用に使用されることを示すことができ、また、上述のもの等、in vivoまたはin vitro使用のいずれかのための指示を示すこともできる。本発明のキットは、典型的には、上述の容器と、緩衝液、希釈剤、フィルター、針、注射器および使用説明書を有する添付文書を含む、商業的および使用者の観点から望ましい材料を含む1種または複数の他の容器とを含み得る。
【実施例0137】
X.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。以下の実施例に開示されている技法は、本発明者により、本発明の実施においてよく機能することが発見された技法であり、したがって、それを実施するための好ましいモードを構成するとみなすことができることが当業者には理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、開示されている特定の実施形態に多くの変更を行うことができ、それでもなお、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果が得られることを理解するべきである。
【0138】
(実施例1)
IgG1 Fcドメインを単離するためのライブラリー構築戦略
E.coliは、タンパク質グリコシル化機構をコードせず、したがって、E.coliのペリプラズムにおいて発現されるIgGのFcドメインはグリコシル化されておらず、通常はFcドメインのN297に付加されているグリカンを欠く。非グリコシル化Fcドメインは、コンフォメーション上の柔軟性の程度が高く、その結果、エフェクターFcγR(FcγRIA、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIc、FcγRIIIA、FcγRIIIB)およびC1qへの結合が大きく減弱するか、または検出可能な結合が存在しないが(Jefferis et al., 2005; Borrok et al., 2012)、グリカンの喪失はIgGのpH依存性FcRn結合特性に影響を及ぼさない。FcRnへの野生型IgGよりも増強された結合を可能にする変異を含有するFcドメインバリアントを単離するために、FcドメインのFcRnへの結合部位をランダム化した。Asp249、Thr250、Leu251、Met252、Ile253、Ser254、Arg255、Val308、Leu309、Gln311、Asp312、Leu314、Glu430、Leu432、Tyr436、およびGln438にランダムなアミノ酸置換を導入した。8種のプライマー(配列番号12~19)を設計し、以下の実施例2に記載の変異誘発のために使用した(表4)。
【表4】
【0139】
(実施例2)
Fcドメインを操作するためのライブラリーの構築
全てのプラスミドおよびプライマーを表4、10および11に記載する。プライマーは全て、Integrated DNA Technologiesにより合成されたものである。IgGポリペプチドを、ベクター:pBAD30-PelB-VL-Ck-NlpA-VL-Ck-His-cMycおよびpMopac12-pelB-IgG-VH-CH1-CH2-CH3-FLAGを使用してE.coliの内膜上に発現させ、ディスプレイさせた(Jung et al., 2012 and Lee et al., 2017)(図1~2)。FcドメインのFcRn結合部位をランダム化するために、8種のプライマー(配列番号12~19)を設計した(表4および図2)。8種のプライマーを用いてIgG1の重鎖遺伝子の4つの断片を増幅し、PCHT01(配列番号12)およびPCHT08(配列番号19)との重複伸長によってひとまとめにした。Fcライブラリー遺伝子を以下のサーモサイクリングプログラムを用いて増幅した:94℃で5分を1サイクル;94℃で1分、55℃で1分、および72℃で1.5分を30サイクル;72℃で5分を1サイクル。増幅された重鎖ライブラリー遺伝子を、SfiI消化したpMopac12-pelB-IgG-VH-CH1-CH2-CH3-FLAGベクターにインフレームでライゲーションした。得られたプラスミドを、プラスミドpBAD30-PelB-VL-Ck-NlpA-VL-Ck-His-cMycを含有するE.coli JUDE-1細胞中に形質転換した(Jung et al., 2010; Jung et al., 2012; Lee et al., 2017)。ライブラリーのサイズは1×10であった。
【0140】
(実施例3)
ヒトFcRn-β2m-GSTの調製
FcRnの哺乳動物での発現のためのプラスミドを以前に記載されている通り構築した(Lee et al., 2017)。FcRn-β2m-GSTを、pcDNA3.4(Thermofisher)を使用したHEK293F細胞(Invitrogen)の一過性トランスフェクションによって作製した。トランスフェクトされたHEK293F細胞を、5%COインキュベーター中、37℃で5日間培養した。4,000×gで10分間遠心分離することによって上清を採取し、0.22μmのポリエーテルスルホン(PES)メンブランフィルター(PALL)を使用して濾過した。FcRn-β2m-GSTを、グルタチオンセファロース(GE Healthcare)アフィニティーカラムを用い、製造者の指示に従って精製した。リポ多糖(LPS)および非特異的に結合したタンパク質を除去するために、FcRn-β2m-GST結合樹脂を、0.1%Triton(登録商標)X-114(Sigma-Aldrich)を含有するPBS、50mL、およびPBS、50mLを用いて洗浄した。FcRn-β2m-GSTを、10mMの還元型L-グルタチオンを含有するPBSを用いて溶出した。溶出したFcRn-β2m-GSTの緩衝液を、Amicon Ultra-4(Millipore)ユニットを使用してPBSと交換した。また、単鎖FcRn-β2m-his(scFcRn)をAcro Biosystemsから購入した(Cat番号FCM-H5286)。ヒトscFcRnをFITC Fast Conjugation Kit(Abcam、Cat番号ab188285)を製造者の指示に従って使用して、FITCで標識した。さらに、ヒトFcRn-β2m-GSTをEasyLink R-PE Conjugation Kit(Abcam)を製造者の指示に従って使用してR-フィコエリトリン(R-PE)で標識した。
【0141】
FcγRの哺乳動物での発現のためのプラスミドを以前に記載されている通り構築した(Jung et al., 2012 and Lee et al., 2017)。FcγRI-His、FcγRIIa-H131-GST、FcγRIIa-R131-GST、FcγRIIb-GST、FcγRIIIa-V158-GST、およびFcγRIIIa-F158-GSTを、表11に記載されているpMAZ-IgH(米国特許第8,043,621号)由来の発現ベクターを使用してHEK293F細胞(Invitrogen)の一過性トランスフェクションによって作製した。詳細な手順は上の段落に記載した。FcγRI-Hisを、Ni-NTA(GE Healthcare)アフィニティーカラムを用い、製造者の指示に従って精製した。250mMのイミダゾールを含有するPBSを用いてFcγRI-Hisを溶出した。FcγR-GSTをFcRn-β2m-GSTと同じ方法で精製した。全ての溶出したFcγRの緩衝液をAmicon Ultra-4(Millipore)によってPBSと交換した。
【0142】
(実施例4)
FcRnに対するFcライブラリーのスクリーニング
E.coli JUDE-1細胞を、クロラムフェニコール(40μg/mL)およびカナマイシン(50μg/mL)を伴うTerrific Broth(TB)中、37℃、250rpmで一晩培養した。一晩育成させた後、細胞を、2種の抗生物質を伴う新鮮なTB培地100mL中、1:50に希釈した。E.coli JUDE-1細胞を37℃、250rpmでOD600がおよそ0.4の値に達するまで培養した。次いで、タンパク質の発現を容易にするために、1mMのイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG、Sigma Aldrich)および2%L-アラビノース(Sigma-Aldrich)をE.coli JUDE-1細胞に添加し、次いで、細胞を25℃で20時間さらにインキュベートした。培養物(培養体積8mL)を遠心分離によって収集し、氷で冷却した10mMのトリス-HCl(pH8.0)、1mLで2回洗浄した。洗浄した細胞を氷で冷却したSTE溶液(0.5Mのスクロース、10mMのトリス-HCl、10mMのEDTA、pH8.0)、1mLに再懸濁させ、37℃で30分インキュベートした。細胞を13,000rpmで1分遠心分離し、溶液A(0.5Mのスクロース、20mMのMgCl、10mMのMOPS、pH6.8)、1mLで洗浄した。洗浄した細胞を、溶液A、1mL中、1mg/mLのニワトリ卵リゾチーム(Sigma-Aldrich)と一緒に37℃で15分間インキュベートした。13,000rpmで1分間遠心分離した後、ペレット化したスフェロプラストを冷たいPBS1mLに再懸濁させた(Jung et al., 2010; Jung et al., 2012; Lee et al., 2017)。
【0143】
増強されたFcRn結合IgG1バリアントを単離するために、実施例1および2に記載のライブラリーを発現する細胞を100nMのFcRn-β2m-FITCで標識し、FACSAria(商標)(BD Biosciences)によってスクリーニングした。スクリーニングのFACSの4ラウンドそれぞれについて、最も高い蛍光を示す集団の上位3%を回収し、これらの選別されたスフェロプラストを再選別して偽陽性をすぐに除去した。選別されたスフェロプラスト中の重鎖遺伝子を、5分間煮沸した後、2種のプライマー(PCHT01およびPCHT08)を使用してPCRによってレスキューし、SfiIにより切断したpMopac12ベクターにライゲーションした。ライゲーションしたプラスミドをE.coli JUDE-1細胞中に形質転換した。クロラムフェニコール含有培地およびカナマイシン含有培地において形質転換体を選択し、100nMのFcRn-β2m-FITCを使用して次のラウンドのスクリーニングのためにスフェロプラストを調製した(図3A~B)。FcRnに対するpH依存性結合IgGバリアントを単離するために、スフェロプラストをpH5.8のPBSで100nMの単鎖FcRn-β2m-FITCを用いて標識し、次いで、pH7.4のPBSでFcRn-β2m-GST-APCと一緒にインキュベートした(図3A)。次に、FITC陽性およびAPC陰性シグナルを有するスフェロプラストを選別する(図3B)。
【0144】
(実施例5)
IgGバリアントのFACS解析
4種のIgGバリアント、EDH(V264E、L309D、およびQ311H)、EDHS(配列番号5;V264E、L309D、Q311H、およびN434S)、EDHY(配列番号6;V264E、L309D、Q311H、およびN434Y)、およびTEDHY(A231T、V264E、L309D、Q311H、およびN434Y)を同定した。それぞれの遺伝子をE.coli JUDE-1中に形質転換し、その細胞をスフェロプラスト化し、pH5.8のPBS中10nMのFcRn-β2m-FITCまたはpH7.4のPBS中50nMのFcRn-β2m-GST-APCを用いてFACSによって解析した。図4に示されている通り、4種のIgGバリアントでFcRn-β2m-FITCに関して野生型非グリコシル化IgGと比べて2.6~5.1倍の平均蛍光強度(MFI)値が示された。pH7.4のPBS中FcRn-β2m-GST-APCについては、EDHYおよびTEDHYが野生型IgG1よりも有意に高い結合活性を示したが、EDHおよびEDHSは野生型IgG1と比較して同様またはわずかに増大した結合活性を示した。
【0145】
(実施例6)
選択された変異体IgGバリアントの発現および精製
全てのプラスミドおよびプライマーを表4、10および11に記載する。4種の変異体Fc遺伝子をpMopac12-pelB-IgG-VH-CH1-CH2-CH3-FLAGから2種の特異的なプライマー(TH083(配列番号20)およびTH084(配列番号21))を使用して増幅した。pcDNA3.4-IgHプラスミドを、2種の特異的なプライマー(TH081(配列番号22)およびTH082(配列番号23))を使用して増幅した。4種のFc遺伝子をpcDNA3.4にGibson Assembly(登録商標)クローニングキット(NEB)を製造者の指示に従って使用してクローニングした(Lee et al., 2017)。Gibsonによりアセンブルされた混合物をE.coli JUDE-1細胞中に形質転換し、それらの配列を確認した。また、トラスツズマブのFabを使用した。4種のトラスツズマブ-Fcバリアントの重鎖遺伝子を、等質量の軽鎖プラスミドを用いてHEK293F細胞(Invitrogen)に一過性にトランスフェクトした。5%COインキュベーター中、37℃で6日間インキュベートした後、4,000×gで10分間遠心分離することによって上清を採取し、0.22μmのPESメンブランフィルター(PALL)を使用して濾過した。濾過した上清を、プロテインA大容量アガロース樹脂(Thermo Scientific)を3回通過させた。LPSおよび非特異的に結合したタンパク質を除去するために、IgG結合樹脂を0.1%Triton(登録商標)X-114(Sigma-Aldrich)を含有するPBS、50mLおよびPBS、50mLで洗浄した。全てのIgGバリアントを、100mMのグリシン緩衝液(pH3.0)を用いて溶出し、1Mのトリス-HCl緩衝液(pH8.0)を用いてすぐに中和した。溶出したトラスツズマブ-Fc抗体バリアントの全ての緩衝液をAmicon(登録商標)Ultra-4(Millipore)によってPBSと交換した。上記の通りHEK293細胞において発現させたトラスツズマブ-Fc抗体バリアントおよび真正(w.t.)トラスツズマブについての還元タンパク質または非還元タンパク質の純度を、還元条件下および非還元条件下で4%~20%勾配SDS-PAGEゲル(NuSep)によって評価した。
【0146】
(実施例7)
選択されたIgGバリアントのヒトFcRnおよびFcγRに対する結合特性
3種のIgGバリアント、EDH、EDHSおよびEDHYのヒトFcRnに対する結合親和性を、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)および表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて評価した。
【0147】
SPR測定:SPR測定をBiacore(登録商標)3000(GE Healthcare)計器で実施した。CM5センサーチップの参照チャネルをいかなるタンパク質も固定化せずに閉じて緩衝液の影響および非特異的結合シグナルを差し引いた。臨床グレードのハーセプチン、EDH、EDHY、およびEDHSをpH5.0においてアミンカップリング法によってCM5センサーチップ上に固定化した。pH5.8のリン酸緩衝食塩水(PBS、1.8mMのKHPO、10mMのNaHPO、2.7mMのKCl、および137mMのNaCl)中、段階的に希釈したFcRn(400~25nM)タンパク質をCM5チップに30μL/分で1分間注入した。各結合事象後に10mMのトリス(pH8.0)を接触時間1分で用いてチップを再生させた。得られたセンサーグラムを、Biaevaluation 3.0ソフトウェアを使用し、1:1ラングミュアモデルを用いてフィッティングした(図5;表5)。対照群として、以前報告されたハーセプチン-LS(M428L/N434S、Xencor)およびハーセプチン-YTE(M252Y/S254T/T256E、Medimmune)を同じ方法によってCM5センサーチップに固定化し、解析した。ハーセプチン-EDHは野生型ハーセプチンと比較して同様の親和性を示した(図5A~B;表5)。他方では、ハーセプチン-EDHYおよびハーセプチン-EDHSはそれぞれハーセプチンの19.6倍および5.9倍に増強された親和性を示した(図5C~D;表5)。ハーセプチン-LSおよびハーセプチン-YTEは、それぞれハーセプチンの10倍および23.9倍に増強された親和性を示し、これらは、以前の報告と一致する結果であった(図5E~F;表5)。
【表5】
【0148】
hFcRnを用いたIgGバリアントのELISA測定:EDH、EDHY、EDHS、またはハーセプチンのそれぞれ1μgを96ウェルEIA/RIAプレート(Qiagen)上に4℃で一晩にわたってコーティングし、プレートを0.05%Tween(登録商標)20(PBST)を含有するPBSで3回洗浄した。プレートを、PBS中1×フィッシュゼラチンブロッキング溶液(Biotium)を用いて室温で1時間にわたってブロッキングし、PBSTで3回洗浄した。次いで、段階的に希釈した二量体FcRn-β2m-GST(100nM~0.8125nM)をプレートに添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートをPBSTで洗浄し、次いでそれを、1:5000のヤギ抗GST HRP(GE Healthcare)を含有するPBS、50μLと一緒に1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、ウェル当たり50μLのTMB基質を添加し(Thermo Scientific)、1MのHSO、50μLを添加して中和し、450nmにおける吸光度を記録した。野生型ハーセプチン、ハーセプチン-EDH、およびハーセプチン-EDHSは生理的pH7.4において二量体FcRn-β2m-GSTに対していかなる結合活性も示さなかった。他方では、ハーセプチン-LSおよびハーセプチン-EDHYは生理的pH7.4において二量体FcRn-β2m-GSTに対して有意な結合活性を示した。
【0149】
特に、EDHSは、pH5.8では5.9倍増強されたKを示し、pH7.4ではFcRnに対する結合シグナルは示さなかった。
【0150】
hFcγRを用いたIgGバリアントのELISA測定:EDHSのヒトFcγRに対する結合特性をアッセイした。簡単に述べると、野生型ハーセプチンまたはハーセプチン-EDHSそれぞれ1μgを96ウェルEIA/RIAプレート(Qiagen)に4℃で一晩にわたってコーティングし、プレートをPBSTで3回洗浄した。プレートを、PBS中1%BSAを用いて室温で1時間ブロッキングし、PBSTで3回洗浄した。次いで、段階的に希釈した単量体His-FcγRI、二量体GST-FcγRIIaR131、二量体GST-FcγRIIaH131、二量体GST-FcγRIIb、二量体GST-FcγRIIIaV158、および二量体GST-FcγRIIIaF158をプレートに添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートをPBSTで洗浄し、1:5000のヤギ抗Hisまたは抗GST HRP(GE Healthcare)を含有するPBS、50μLと一緒に1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、ウェル当たり50μLのTMB基質を添加し(Thermo Scientific)、1MのHSO、50μLを添加して中和し、450nmにおける吸光度を記録した。ハーセプチン-EDHSでは、全てのFcγRに対して野生型ハーセプチンと比較して結合シグナルの有意な低減が示された(図7A~F)。
【0151】
(実施例8)
DHS-Fcバリアントの構築および特徴付け
FcγRによるエフェクター機能は、病原体を除去するために必須である、抗体に媒介される免疫応答である。ハーセプチン-EDHSは、エフェクターFcγRに結合することができなかった。ハーセプチン-EDHSは、4つのアミノ酸置換、V264E、L309D、Q311H、およびN434Sを含有する。V264Eにより、エフェクターFcRへの結合のために重大であるIgGのグリコシル化が損なわれる(Xiaojie Yu et al., 2013)。したがって、V264E変異を有さないハーセプチン-DHS(配列番号7;L309D;Q311H;N434S)を構築した。DHSのヒトFcRnおよびFcγRへの結合親和性を酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)および表面プラズモン共鳴(SPR)で評価した。
【0152】
SPR測定:SPR測定をBiacore(登録商標)3000(GE Healthcare)計器で実施した。CM5センサーチップの参照チャネルをいかなるタンパク質も固定化せずに閉じて緩衝液の影響および非特異的結合シグナルを差し引いた。ハーセプチン-DHSをpH5.0においてCM5センサーチップ上にアミンカップリング法によって固定化した(Lee et al., 2017)。pH5.8のPBS中、段階的に希釈したFcRn(400~25nM)タンパク質をCM5チップに30μL/分で1分間注入した。各結合事象後に10mMのトリス(pH8.0)を接触時間1分で用いてチップを再生させた。得られたセンサーグラムを、Biaevaluation 3.0ソフトウェアを使用し、1:1ラングミュアモデルを用いてフィッティングした(図8)。ハーセプチン-DHSは、ハーセプチン-EDHSと比較して、同様の親和性、111±20nMのKを示した(図5および8;表5)。ハーセプチン-EDHSからのV264Eの除去はFcRn結合能に影響を及ぼさない。
【0153】
hFcRnを用いたIgGバリアントのELISA測定:ハーセプチン-DHSそれぞれ1μgを96ウェルEIA/RIAプレート(Qiagen)に4℃で一晩にわたってコーティングし、プレートをPBSTで3回洗浄した。プレートを、PBS中1×フィッシュゼラチンブロッキング溶液(Biotium)を用いて室温で1時間ブロッキングし、PBSTで3回洗浄した。次いで、段階的に希釈した二量体FcRn-β2m-GST(100nM~0.8125nM)をプレートに添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートをPBSTで洗浄し、次いでそれを1:5000のヤギ抗GST HRP(GE Healthcare)を含有するPBS、50μLと一緒に1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、ウェル当たり50μLのTMB基質を添加し(Thermo Scientific)、1MのHSO、50μLを添加して中和し、450nmにおける吸光度を記録した。ハーセプチン-DHSは、野生型ハーセプチンと比較して、生理的pH7.4において二量体FcRn-β2m-GSTに対していかなる結合活性も示さなかった。対照として、ハーセプチン-LSおよびハーセプチン-N434Sを同時に試験した。
【0154】
hFcγRを用いたIgGバリアントのELISA測定:EDHSのヒトFcγRに対する結合特性を上記の通りアッセイした。簡単に述べると、野生型ハーセプチンまたはハーセプチン-EDHSそれぞれ1μgを96ウェルEIA/RIAプレート(Qiagen)に4℃で一晩にわたってコーティングし、プレートをPBSTで3回洗浄した。プレートを、PBS中1%BSAを用いて室温で1時間ブロッキングし、PBSTで3回洗浄した。次いで、段階的に希釈した単量体His-FcγRI、二量体GST-FcγRIIaR131、二量体GST-FcγRIIaH131、二量体GST-FcγRIIb、二量体GST-FcγRIIIaV158、および二量体GST-FcγRIIIaF158をプレートに添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートをPBSTで洗浄し、1:5000のヤギ抗Hisまたは抗GST HRP(GE Healthcare)を含有するPBS、50μLと一緒に1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、ウェル当たり50μLのTMB基質を添加し(Thermo Scientific)、1MのHSO、50μLを添加して中和し、450nmにおける吸光度を記録した。ハーセプチン-DHSは、全てのFcγRに対して、野生型ハーセプチンと比較して同じ結合プロファイルを示した(図10A~F)。
【0155】
SPR測定:SPR測定をBiacore(登録商標)3000(GE Healthcare)計器で実施した。CM5センサーチップの参照チャネルをいかなるタンパク質も固定化せずに閉じて緩衝液の影響および非特異的結合シグナルを差し引いた。野生型ハーセプチン、ハーセプチン-DHS、ハーセプチン-LS、およびハーセプチン-YTEをpH5.0においてアミンカップリング法によってCM5センサーチップ上に固定化した。pH7.4のHBS-EP中、段階的に希釈したFcγRまたはC1q(400~25nM)タンパク質をCM5チップに30μL/分で1分間注入した。各結合事象後に10mMのグリシン(pH5.0)を接触時間1分で用いてチップを再生させた。得られたセンサーグラムを、Biaevaluation 3.0ソフトウェアを使用し、1:1ラングミュアモデルまたは等結合モデルを用いてフィッティングした(図18および表12)。Fc受容体についての動態解析の結果は、ELISA結果と一致した。ハーセプチン-DHSは、FcγRおよびC1qに対して、野生型ハーセプチンと比較して同等の動態値を示したが、ハーセプチン-LSおよびハーセプチン-YTEでは、FcγR結合能、特に、ADCCに重要な受容体であるFcγRIIIa結合能が有意に失われた(図18および表12)。
【0156】
結論として、V264Eの除去はハーセプチン-EDHSのFcRnへのpH依存性FcRn結合能に影響を及ぼさないが、FcγRに対する結合能力を回復させる。
【表12-1】
【表12-2】
【0157】
(実施例9)
ハーセプチン-DHSのエフェクター機能
ADCCアッセイ:ADCCアッセイの前日に、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を健康なドナー由来のヒト血液から単離した。ヒト血液50mLをヘパリン添加バイアル(BD biosciences)中に採取し、チューブを数回穏やかに反転させることによって十分に混合した。血液25mLを50mLコニカルチューブ中の室温のフィコールHistopaque(Invitrogen)25mL上に層状に重ねた。チューブを、スイングバケットローター中、ブレーキなしで、2,500rpmで30分間遠心分離した。ヒトPBMCをhistopaqueと培地との相間において吸引した。ヒトPBMCを赤血球(RBC)溶解緩衝液(155mMのNHCl、12mMのNaHCO、および0.1mMのEDTA)に再懸濁させ、PBSで2回洗浄した。単離されたヒトPBMCを、96ウェルプレート中、カルセインAM標識したSK-BR3 Her2陽性がん細胞および種々の濃度のIgGバリアントと混合した。腫瘍対エフェクター細胞の比を1:10とし、プレートを37℃、5%COで4時間インキュベートした。腫瘍細胞溶解のパーセントを次式に従って計算した:100×(E-S)/(M-S)(式中、Eは実験ウェルの蛍光であり、Sは抗体の非存在下での蛍光であり(腫瘍細胞を培地およびエフェクター細胞と一緒にインキュベートした)、Mは溶解緩衝液を用いた腫瘍細胞の蛍光である)。実施例8に記載の通り、ハーセプチン-DHSは、PBMCでハーセプチンと比較して同等のADCC活性を示した。なぜなら、ハーセプチン-DHSがFcγRに対してハーセプチンと比較して同じ親和性を有するからである(図10A~Fおよび11A)。
【0158】
ADCPアッセイ:CD14陽性単球をPBMCからCD14 MicroBead Kit(Miltenyi Biotec)を使用して精製した。次いで、単球を、15%FBSおよび50ng/mlのGM-CSFを含有するRPMI培地で7日間培養することによってマクロファージに分化させ、その後、カルセインで標識したSK-BR3細胞とエフェクター:腫瘍細胞比10:1で組み合わせた。ADCPアッセイのために、SK-BR3細胞を種々の濃度の抗体およびマクロファージと一緒にインキュベートした。37℃で2時間後に、細胞を抗CD11b-APCおよび抗CD14-APCで標識した。ファゴサイトーシスをLSRFortessa(BD Bioscience)でFACSによって評価し、試料中の腫瘍細胞の総数にわたる二重陽性細胞の分率として報告した。ハーセプチン-DHSはPBMCでハーセプチンと比較して同等のADCC活性を示した。なぜなら、ハーセプチン-DHSがFcγRに対してハーセプチンと比較して同じ親和性を有するからである(図10A~Fおよび11B)。
【0159】
(実施例10)
ハーセプチン-DHSのFcRnに対する結合特性
ハーセプチン-DHSの詳細なpH依存性結合活性を調査するために、抗体を3つの異なる密度のscFcRnを用いてまたは異なるpH条件でSPRによって評価した。
【0160】
SPR測定:SPR測定をBiacore(登録商標)3000(GE Healthcare)計器で実施した。CM5センサーチップの参照チャネルをいかなるタンパク質も固定化せずに閉じて緩衝液の影響および非特異的結合シグナルを差し引いた。scFcRnを、pH5.0において、アミンカップリング法によってCM5センサーチップ上に3つの異なる固定化レベル(500RU、2000RU、および4000RU)で固定化した。pH7.4のPBS中、段階的に希釈した抗体(400~25nM)タンパク質をCM5チップに30μL/分で1分間注入した。各結合事象後に10mMのトリス(pH8.0)を接触時間1分で用いてチップを再生させた。得られたセンサーグラムを、Biaevaluation 3.0ソフトウェアを使用し、1:1ラングミュアモデルを用いてフィッティングした(図12および表6)。ハーセプチン-DHSおよび野生型ハーセプチンでは、低密度、中密度および高密度のscFcRnを用いていかなる結合シグナルも示されなかった。ハーセプチン-LSおよびハーセプチン-YTEでは、低密度のscFcRnを用いるといかなる結合シグナルも示されなかったが、中密度および高密度で固定化されたscFcRnに対しては有意な結合が示された(表6)。ハーセプチン-LSのKは、中密度のFcRnでは58.7nMであり、高密度のFcRnでは22.7nMである。ハーセプチン-YTEのKは中密度のFcRnでは4.73μMであり、高密度のFcRnでは4.29μMである。
【表6】
次に、抗体の詳細なpH依存性結合活性を調査するために、抗体を多様なpH条件でアッセイした。1μMの野生型ハーセプチン、ハーセプチン-DHS、ハーセプチン-LS、およびハーセプチン-YTEを、pH4.5~8.5のPBS中、CM5チップに30μL/分で1分間注入した。各結合事象後に10mMのトリス(pH8.0)を接触時間1分で用いてチップを再生させた。図13A~Cに示されている通り、ハーセプチン-DHSは野生型ハーセプチンよりも良好な結合活性を示したが、ハーセプチン-DHSは3つの異なるFcRn密度、pH6.2からpH6.5までの条件下でFcRn結合活性を有意に喪失した。また、ハーセプチン-DHSはpH6.8においてFcRn結合活性を完全に喪失した。
【0161】
(実施例11)
ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるハーセプチン-DHSの薬物動態
改変されたIgGの薬物動態を、マウスFcRn欠損B6.129X1-Fcgrttm1Dcr/DcrJとhFcRn cDNAトランスジェニック系統B6.Cg-Fcgrttm1Dcr Tg(CAG-FCGRT)276 Dcr/DcrJのF1交配によって作製されたヘミ接合性hFcRnトランスジェニックマウス(276系統)において実施した(Roopenian et al., 2003 and Chaudhury et al., 2003)。0日目に、hFcRnマウスに2mg/kgの抗体のボーラス静脈内(IV)用量を与えた。抗体当たり11匹のマウスを使用した。2~3週間の研究全体を通して異なる時点において血液試料を尾静脈からキャピラリーピペットを使用して得た。定量的ELISAを使用して、試験した抗体の血清中濃度をモニタリングした。簡単に述べると、96ウェルプレートを2μg/mlのヤギ抗ヒトF(ab’)2断片特異的F(ab’)2(Jackson Immunoresearch)でコーティングした。プレートを、PBS中1%フィッシュゼラチン(AMRESCO-inc)を用いて1時間にわたってブロッキングし、次いで、適切に希釈した血清試料(前の時点では1:200、および後の時点では1:50または1:100)と一緒にインキュベートした。抗カッパ軽鎖抗体-HRP(Abcam)を使用してヒト抗体を検出した(希釈1:5,000)。TMB基質(Pierce Biotechnology、Rockford、IL)を製造者の指示に従って発色させた後、450nmにおける吸光度を測定した。1:100の予め採血したマウス血清に希釈した各抗体バリアントについて標準曲線を作成した。次いで、Prism(GraphPad Software)で作成された標準曲線の直線部分を使用して血清試料中のヒトIgGを定量化した。AUCinf(無限大までの曲線下面積)を、対数線形台形法を使用して計算した。消失半減期(T1/2)を、測定可能な濃度を伴う少なくとも最後の3回の試料採取時点を含む濃度データの対数線形回帰を使用して計算した。血清クリアランスをCL=用量/AUCinfとして推定した。次いで、主要なPKパラメータについての記述統計を計算した。結果として、ハーセプチン-DHSは野生型ハーセプチンと比して6.8倍のベータ相血清中半減期の増大(β相T1/2=336±24.8時間)を示した(図14および表7)。ハーセプチン-DHSはまた、野生型ハーセプチンと比して9.5分の1のクリアランス速度(0.061±0.003ml/日/kg)、7.9倍に増強されたAUCinf(326.6±17.9μg*日/ml)、および3.96分の1の組織分布(0.28±0.01ml/kg)も示した。
【表7】
【0162】
(実施例12)
IgGサブクラスにおけるDHS変異
IgGには4種のサブクラスメンバー、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4が存在する。IgGサブクラスにおけるFcRn結合部位は高度に保存されており、したがって、IgG2およびIgG4はIgG1の血清中半減期に匹敵する血清中半減期を呈する。IgGの435番目の残基に2つの一塩基多型が存在する:IgG3-R435は血清中半減期(約8日)が短いが、IgG3-H435の半減期は他のIgGサブクラスと比較して同様である(約21日)。DHS変異(L309D、Q311H、およびN434S変異)により他のIgGサブクラスのFcRn結合活性を増強することができるかどうかを調査するために、IgG2、IgG3-H435、およびIgG4の重鎖遺伝子にDHS変異を導入した。IgG2-DHS、IgG3-DHS、およびIgG4-DHSのFc遺伝子をIDTによって合成し、Fc遺伝子をpcDNA3.4にGibson Assembly(登録商標)クローニングキット(NEB)を製造者の指示に従って使用してクローニングした(Lee et al., 2017)。Gibsonによりアセンブルされた混合物をE.coli JUDE-1細胞中に形質転換し、それらの配列を確認した。また、トラスツズマブのFabを使用した。4種のトラスツズマブ-Fcバリアントの重鎖遺伝子を、等質量の軽鎖プラスミドを用いてHEK293F細胞(Invitrogen)に一過性にトランスフェクトした。5%COインキュベーター中、37℃で6日間インキュベートした後、4,000×gで10分間遠心分離することによって上清を採取し、0.22μmのPESメンブランフィルター(PALL)を用いて濾過した。濾過した上清を、プロテインA大容量アガロース樹脂(Thermo Scientific)を3回通過させた。LPSおよび非特異的に結合したタンパク質を除去するために、IgG結合樹脂を0.1%Triton(登録商標)X-114(Sigma-Aldrich)を含有するPBS、50mLおよびPBS、50mLで洗浄した。全てのIgGバリアントを、100mMのグリシン緩衝液(pH3.0)を用いて溶出し、1Mのトリス-HCl緩衝液(pH8.0)を用いてすぐに中和した。溶出したトラスツズマブ-Fc抗体バリアントの全ての緩衝液をAmicon(登録商標)Ultra-4(Millipore)によってPBSと交換した。上記の通りHEK293細胞において発現させたトラスツズマブ-Fc抗体バリアントおよび真正(w.t.)トラスツズマブについての還元タンパク質または非還元タンパク質の純度を、還元条件下および非還元条件下で4%~20%勾配SDS-PAGEゲル(NuSep)によって評価した。
【0163】
SPR測定:SPR測定をBiacore(登録商標)3000(GE Healthcare)計器で実施した。CM5センサーチップの参照チャネルをいかなるタンパク質も固定化せずに閉じて緩衝液の影響および非特異的結合シグナルを差し引いた。野生型IgG2、野生型IgG3、野生型IgG4、IgG2-DHS、IgG3-DHSおよびIgG4-DHSをpH5.0においてアミンカップリング法によってCM5センサーチップ上に固定化した。pH5.8のPBS中、段階的に希釈したFcRn(400~25nM)タンパク質をCM5チップに30μL/分で1分間注入した。各結合事象後に10mMのトリス(pH8.0)を接触時間1分で用いてチップを再生させた。得られたセンサーグラムを、Biaevaluation 3.0ソフトウェアを使用し、1:1ラングミュアモデルを用いてフィッティングした(図15)。IgG2-DHSはscFcRnに対して野生型IgG2と比較して5.7倍に増強されたK(377±26nM)を示した(図15A~B;表8)。IgG3-DHSはscFcRnに対して野生型IgG3と比較して5.5倍に増強されたK(739±75nM)を示した(図15C~D;表8)。IgG4-DHSはscFcRnに対して野生型IgG4と比較して3.0倍に増強されたK(832±16nM)を示した(図15E~F;表8)。
【表8】
【0164】
hFcγRを用いたIgGバリアントのELISA測定:EDHSのヒトFcγRに対する結合特性をアッセイした。詳細な手順は、上の段落と同じであった。簡単に述べると、野生型IgG2、IgG2-DHS、野生型IgG3、IgG3-DHS、野生型IgG4、およびIgG4-DHSそれぞれ1μgを96ウェルEIA/RIAプレート(Qiagen)に4℃で一晩にわたってコーティングし、プレートをPBSTで3回洗浄した。プレートを、PBS中1%BSAを用いて室温で1時間ブロッキングし、PBSTで3回洗浄した。次いで、段階的に希釈した単量体His-FcγRI、二量体GST-FcγRIIaR131、二量体GST-FcγRIIaH131、二量体GST-FcγRIIb、二量体GST-FcγRIIIaV158、および二量体GST-FcγRIIIaF158をプレートに添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートをPBSTで洗浄し、1:5000のヤギ抗Hisまたは抗GST HRP(GE Healthcare)を含有するPBS、50μLと一緒に1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、ウェル当たり50μLのTMB基質を添加し(Thermo Scientific)、1MのHSO、50μLを添加して中和し、450nmにおける吸光度を記録した。IgG2-DHSは全てのFcγRに対して野生型IgG2と比較して同じ結合活性を示した(図16A)。IgG3-DHSは全てのFcγRに対して野生型IgG3と比較して同じ結合活性を示した(図16B)。IgG4-DHSは全てのFcγRに対して野生型IgG4と比較して同じ結合活性を示した(図16C)。結論として、3つのアミノ酸置換はIgGサブクラスのFcγR結合活性に影響を及ぼさない。
【0165】
PK研究:実施例11と同じ方法を使用して、IgG2-DHSおよびIgG4-DHSの薬物動態を評価した。結果として、IgG2-DHSは、野生型IgG2と比して2.9倍に増大したベータ相血清中半減期(β相T1/2=199.8±4.9時間)を示した(図17および表9)。IgG2-DHSはまた、野生型IgG2と比して1.9分の1のクリアランス速度(0.067±0.015ml/日/kg)、1.9倍に増強されたAUCinf(148.3±7.5μg*日/ml)、および1.5分の1の組織分布(0.57±0.02ml/kg)も示した。また、IgG4-DHSは、野生型IgG4と比して3.6倍に増大したベータ相血清中半減期(β相T1/2=277.4±14.9時間)を示した(図16および表9)。IgG4-DHSはまた、野生型IgG4と比して2.4分の1のクリアランス速度(0.067±0.048ml/日/kg)、2.4倍に増強されたAUCinf(149.2±6.3μg*日/ml)、および1.7分の1の組織分布(0.58±0.03ml/kg)も示した。IgG3-DHSは、野生型IgG3と比して4.4倍に増大したベータ相血清中半減期(β相T1/2=286.3±14.6時間)を示した(図19および表13)。IgG3-DHSはまた、野生型IgG3と比して3.8分の1のクリアランス速度(0.076±0.007ml/日/kg)、3.9倍に増強されたAUCinf(269.0±22.4μg*日/ml)、および2.1分の1の組織分布(0.41±0.05ml/kg)も示した(図19および表13)。
【表9】
【表13】
【0166】
(実施例13)
リウマチ因子結合特性
関節リウマチ(RA)を含めた自己免疫疾患を有する患者では、リウマチ因子(RF)が観察されることが多く、血清抗体が血液から除去されることによって治療抗体の治療有効性が弱まる恐れがある(Newkirk 2002, Ingegnoli et al., 2013、Maeda et al., 2017)。したがって、抗体バリアントのRF結合能をELISAによって試験した。
【0167】
リウマチ因子を用いたIgGバリアントのELISA測定:DHSのRFに対する結合特性をアッセイした。簡単に述べると、リウマチ因子陽性血清(Lee Biosolutions)50μlを96ウェルEIA/RIAプレート(Qiagen)に4℃で一晩にわたってコーティングし、プレートをPBSTで3回洗浄した。プレートを、PBS中1%BSAを用いて室温で1時間ブロッキングし、PBSTで3回洗浄した。次いで、段階的に希釈したビオチン化抗体バリアントをプレートに添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートをPBSTで洗浄し、1:5000のストレプトアビジン-HRP(Thermo Fisher Scientific)を含有するPBS、50μLと一緒に1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、ウェル当たり50μLのTMB基質を添加し(Thermo Scientific)、1MのHSO、50μLを添加して中和し、450nmにおける吸光度を記録した。ハーセプチン-DHSは野生型ハーセプチンと匹敵する結合応答レベルを示したが、ハーセプチン-YTEおよびハーセプチン-LSは野生型ハーセプチンよりも強力な結合活性を示した(図20)。
【表10】
【表11-1】
【表11-2】
【0168】
本明細書において開示され、特許請求されている方法は全て、本開示に照らして、過度な実験を伴わずに準備し実行することができる。本発明の組成物および方法は好ましい実施形態に関して記載されているが、本発明の概念、主旨および範囲から逸脱することなく本明細書に記載の方法および方法のステップまたは一連のステップに変形を適用することができることが当業者には明らかになろう。より詳細には、本明細書に記載の作用物質を化学的かつ生理的に関連するある特定の作用物質で置換することができるが、同じまたは同様の結果が実現されることが明らかになろう。当業者に対して明らかであるそのような同様の置換および改変は全て、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の主旨、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載のものを補足する例示的な手続き上のまたは他の詳細をもたらすものである限りでは、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
米国特許第4,870,287号
米国特許第5,739,169号
米国特許第5,760,395号
米国特許第5,801,005号
米国特許第5,824,311号
米国特許第5,830,880号
米国特許第5,846,945号
米国特許第7,094,571号
米国特許第7,419,783号
米国特許第7,611,866号
米国特許公開第2003/0219870号
PCT公開WO2008/137475
【化1】
【化2】
【化3】
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15-1】
図15-2】
図15-3】
図16-1】
図16-2】
図17
図18-1】
図18-2】
図19
図20
【配列表】
2022145845000001.app
【外国語明細書】