(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147636
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】インク噴射装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 451
B41J2/01 109
B41J2/01 129
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048967
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏史
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EB27
2C056EB29
2C056EC69
2C056EC79
2C056EE17
2C056FD20
2C056HA44
2C056HA58
(57)【要約】
【課題】
テストインクを媒体に噴射することで媒体の表面形状を把握することができ、かつ、テストインクが付着した媒体を破棄する必要のないインク噴射装置を提供する。
【解決手段】
本発明の一態様に係るインク噴射装置は、噴射ヘッドからテストインクを媒体に噴射させるテストインク噴射処理と、撮像装置が撮像したテストインクを含む撮像データに基づいて媒体に付着したテストインクの付着パターンを取得する付着パターン取得処理と、取得した付着パターンに基づいて媒体の表面形状を推定する表面形状推定処理と、推定した媒体の表面形状に応じて予め取得したカラーインク用噴射データを補正するカラーインク用噴射データ補正処理と、補正したカラーインク用噴射データに基づいて噴射ヘッドから媒体にカラーインクを噴射させるカラーインク噴射処理と、を実行し、テストインクは、透明のインク、媒体と同色のインク、又は、下地と同色のインクである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体にインクを噴射する噴射ヘッドと、
前記媒体に付着したインクを撮像する撮像装置と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記噴射ヘッドからテストインクを前記媒体に噴射させるテストインク噴射処理と、
前記撮像装置が撮像した前記テストインクを含む撮像データに基づいて前記媒体に付着した前記テストインクの付着パターンを取得する付着パターン取得処理と、
取得した前記付着パターンに基づいて前記媒体の表面形状を推定する表面形状推定処理と、
推定した前記媒体の表面形状に応じて予め取得したカラーインク用噴射データを補正するカラーインク用噴射データ補正処理と、
補正した前記カラーインク用噴射データに基づいて前記噴射ヘッドから前記媒体にカラーインクを噴射させるカラーインク噴射処理と、を実行し、
前記テストインクは、透明のインク、前記媒体と同色のインク、又は、下地と同色のインクである、インク噴射装置。
【請求項2】
前記テストインクには、前記カラーインクが噴射される前に下地を形成する下地インクが使用される、請求項1に記載のインク噴射装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記下地を形成する際、
推定した前記媒体の表面形状に応じて予め取得した下地インク用噴射データを補正する下地インク用噴射データ補正処理と、
補正した前記下地インク用噴射データに基づいて前記噴射ヘッドから前記媒体に前記下地インクを噴射させる下地インク噴射処理と、を実行する、請求項2に記載のインク噴射装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記下地インク用噴射データ補正処理において、前記媒体の前記テストインクが付着している位置には、前記噴射ヘッドから前記下地インクが噴射されないように前記下地インク用噴射データをさらに補正する、請求項3に記載のインク噴射装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記下地インク用噴射データ補正処理において、取得した前記付着パターンに基づいてマスクデータを生成し、前記下地インク用噴射データに前記マスクデータを掛け合わせることで前記下地インク用噴射データを補正する、請求項4に記載のインク噴射装置。
【請求項6】
前記テストインクには、前記カラーインクが噴射された後にコーティング層を形成するコーティングインクが使用される、請求項1に記載のインク噴射装置。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記コーティング層を形成する際、
推定した前記媒体の表面形状に応じて予め取得したコーティングインク用噴射データを補正するコーティングインク用噴射データ補正処理と、
補正した前記コーティングインク用噴射データに基づいて前記噴射ヘッドから前記媒体に前記コーティングインクを噴射させるコーティングインク噴射処理と、を実行する、請求項6に記載のインク噴射装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記コーティングインク用噴射データ補正処理において、前記媒体の前記テストインクが付着している位置には、前記テストインクが付着していない位置よりも前記コーティング層が薄くなるように前記コーティングインク用噴射データをさらに補正する、請求項7に記載のインク噴射装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記コーティングインク用噴射データ補正処理において、取得した前記付着パターンに基づいてマスクデータを生成し、前記コーティングインク用噴射データに前記マスクデータを掛け合わせることで前記コーティングインク用噴射データを補正する、請求項8に記載のインク噴射装置。
【請求項10】
前記撮像装置の移動方向に対して0乃至15度の角度をなす方向から前記媒体の表面に光を照射する照射装置をさらに備え、
前記撮像装置は、当該撮像装置の移動方向に対して垂直な方向から前記媒体に付着し前記照射装置によって照射されたテストインクを撮像する、請求項1乃至9のうちいずれか一の項に記載のインク噴射装置。
【請求項11】
前記テストインクは、前記照射装置から照射された光で硬化する光硬化インクであり、
前記制御装置は、
前記媒体の表面粗度が基準粗度よりも高いとき、前記テストインクが噴射されてから硬化するまでの時間が基準硬化時間よりも短くなるように前記照射装置から光を照射させ、
前記媒体の表面粗度が前記基準粗度よりも低いとき、前記テストインクが噴射されてから硬化するまでの時間が前記基準硬化時間よりも長くなるように前記照射装置から光を照射させる、光照射処理を実行する、請求項10に記載のインク噴射装置。
【請求項12】
前記撮像装置はCCD方式センサを用いて撮像を行う、請求項10又は11に記載のインク噴射装置。
【請求項13】
紫外線光を照射する照射装置をさらに備え、
前記テストインクは紫外線光で蛍光発光する成分を含んでいる、請求項1乃至9のうちいずれか一の項に記載のインク噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
凹凸のある媒体の表面に印刷を行う場合、あらかじめ媒体の表面形状を把握できれば適切な位置にインクを着弾させることができ、歪みのない印刷を行うことができる。媒体の表面形状はレーザー計測器などの機器を用いれば把握できるが、そのような機器を搭載した装置は構造が複雑になるとともに製造コストが増加する。
【0003】
そこで、予め媒体にテストインクを噴射し、テストインクの着弾位置のズレに基づいて媒体の表面形状を判定する装置が提案されている(下記の特許文献1参照)。このような装置によれば、テストインクを噴射した媒体と同じ表面形状を有する媒体に対しては、表面形状を考慮して適切な位置にインク(カラーインク)を着弾させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、媒体に噴射されたテストインクはカラーインクによる発色に影響するおそれがあるため、テストインクが付着した媒体は破棄される。ただし、媒体を破棄することは、残った媒体の製造コストの増加につながり、特に少量多品種である媒体にとっては大きな問題である。
【0006】
このような事情に鑑みて、本発明は、テストインクを媒体に噴射することで媒体の表面形状を把握することができ、かつ、テストインクが付着した媒体を破棄する必要のないインク噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るインク噴射装置は、媒体にインクを噴射する噴射ヘッドと、前記媒体に付着したインクを撮像する撮像素子を含む撮像装置と、制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記噴射ヘッドからテストインクを前記媒体に噴射させるテストインク噴射処理と、前記撮像装置が撮像した前記テストインクを含む撮像データに基づいて前記媒体に付着した前記テストインクの付着パターンを取得する付着パターン取得処理と、取得した前記付着パターンに基づいて前記媒体の表面形状を推定する表面形状推定処理と、推定した前記媒体の表面形状に応じて予め取得したカラーインク用噴射データを補正するカラーインク用噴射データ補正処理と、補正した前記カラーインク用噴射データに基づいて前記噴射ヘッドから前記媒体にカラーインクを噴射させるカラーインク噴射処理と、を実行し、前記テストインクは、透明のインク、前記媒体と同色のインク、又は、下地と同色のインクである。
【0008】
この構成によれば、テストインクを媒体に噴射することで媒体の表面形状を把握することができる。さらに、この構成では、テストインクが、透明のインク、媒体と同色のインク、又は、下地と同色のインクである。この場合、テストインクを噴射した後にカラーインクを噴射したとき、テストインクが付着している部分と付着していない部分とでカラーインクによる発色の違いはほとんど生じない。そのため、上記のようなテストインクを用いれば、テストインクが付着した媒体をそのまま使用することができ、破棄する必要もない。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば、テストインクを媒体に噴射することで媒体の表面形状を把握することができ、かつ、テストインクが付着した媒体を破棄する必要のないインク噴射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、インク噴射装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、インク噴射装置の制御系の構成のブロック図である。
【
図3】
図3は、インク噴射プログラムのフロー図である。
【
図4】
図4は、付着パターンと基準パターンを対比した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(全体構成)
以下、本発明の実施形態に係るインク噴射装置100について説明する。はじめに、インク噴射装置100の全体構成について説明する。本実施形態に係るインク噴射装置100は、媒体101に付着したインクに紫外線光を照射して硬化させるUVプリンタである。ただし、インク噴射装置100は、UVプリンタに限定されない。
【0012】
図1は、インク噴射装置100の全体構成を示した概略図である。本実施形態における被印刷体である媒体101は、表面に凹凸のある立体形状を有する物体であり、ある程度の表面粗度を有している。なお、
図1において、媒体101の表面上の半円は、後述するテストインクを示している。本実施形態に係るインク噴射装置100は、噴射ヘッド10と、照射装置20と、撮像装置30と、を備えている。以下、これらの構成要素について順に説明する。
【0013】
<噴射ヘッド>
噴射ヘッド10は、媒体101にインクを噴射する機器である。噴射ヘッド10は、キャリッジ40に搭載され、キャリッジ40とともに移動しながらインクを噴射する。なお、キャリッジ40は、キャリッジ駆動装置41(
図2参照)によって、
図1の紙面左右方向(走査方向)及び紙面に対して垂直な方向(副走査方向)に移動する。ただし、キャリッジ40は紙面に対して垂直な方向には移動せず、これに代えて媒体101を乗せたテーブルが紙面に対して垂直な方向に移動するようにしてもよい。
【0014】
噴射ヘッド10は媒体101の表面に対して垂直な方向(
図1の紙面下方)にインクを噴射する。さらに、キャリッジ40は媒体101の表面に沿った方向(
図1の紙面右方)に移動する。そのため、媒体101から見たとき、媒体101の表面に垂直な方向に対して傾斜した方向からインクが噴射される。その結果、媒体101の表面に凹凸がある場合、表面が平らな場合(換言すると、表面に凹凸がない場合)と同じようにインクを噴射すると、媒体101上に絵などが歪んで表れてしまうおそれがある。
【0015】
本実施形態の噴射ヘッド10からは、下地インク、カラーインク、コーティングインクが噴射される。いずれのインクも光(本実施形態では紫外線光)で硬化する光硬化インクである。
【0016】
下地インクは、カラーインクが噴射される前に媒体101に噴射されて、媒体101の表面上に下地を形成するインクである。下地インクには、プライマーインクとホワイトインクが含まれる。プライマーインクは、透明であって、カラーインクと媒体101の密着性を向上させることができる。ホワイトインクは、白色であってカラーインクによる発色性を向上させることができる。
【0017】
カラーインクは、絵などを媒体101上に表現するインクである。例えば、カラーインクには、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクが含まれる。これらのインクを組み合わせて種々の色が表現される。ただし、カラーインクに含まれるインクは、これらに限定されない。
【0018】
コーティングインクは、カラーインクが噴射された後に噴射されてコーティング層を形成するインクである。コーティングインクは透明である。コーティング層の表面粗さを調整することで、マット感又はグロス感を表現することができる。
【0019】
<照射装置>
照射装置20は、媒体101の表面に光を照射する装置である。照射装置20は、キャリッジ40に搭載されている。照射装置20から照射される光には、撮像用の可視光とインク硬化用の紫外線光が含まれる。なお、照射装置20は、可視光を照射する部分と紫外線光を照射する部分が分かれていてもよい。
【0020】
媒体101に噴射されたインクが滴状である場合、噴射直後はインクが媒体101上で半球状に形成され、時間が経つにつれて次第にインクが媒体101上を広がっていく。そのため、インクが噴射されてから硬化(又は仮硬化)するまでの時間(以下、「硬化時間」と称する)を調整すれば、硬化後のインクの形状(インクの高さ)を設定することができる。なお、硬化時間の調整については後述する。
【0021】
また、照射装置20は、媒体101の表面に対して斜め方向から光を照射している。具体的には、撮像装置30が撮像する媒体101上の点を基準とすると、媒体101の表面に対する(実際には撮像装置30の移動方向に対する)照射装置20が照射する光の照射角度αは、0乃至15度である。このような照射方法は、暗視野照明法と呼ばれ、媒体101の表面に対して水平に近い方向から光を当てることで、表面の反射光は表面に垂直な方向には届きにくく、かつ、媒体101の表面に付着したインクに当たった光はもと来た方向とは無関係にあらゆる方向に光を散乱(乱反射)することでコントラストがはっきりする。
【0022】
<撮像装置>
撮像装置30は、媒体101に付着したインクを撮像する装置である。撮像装置30は、キャリッジ40に搭載されている。本実施形態の撮像装置30は、媒体101の表面に対して垂直(実際には撮像装置30の移動方向に対して垂直)な方向から撮像する。前述のとおり、本実施形態では照射装置20は照射角度αが0乃至15度となるように媒体101の表面に光を照射している。このように、本実施形態では暗視野照明法を利用しているため、透明や白など視認しにくい色のインクであっても撮像装置30の撮像データからインクを認識することができる。
【0023】
また、本実施形態の撮像装置30はCCD(電荷結合素子)方式センサを用いて撮像を行う。CCD方式センサは、CCD、レンズ、及び、ミラーを組み合わせて形成されたセンサである。CCD方式センサは、一般的なスキャナで採用されることが多いCIS方式センサに比べて被写界深度が深い。そのため、本実施形態の撮像装置30によれば、立体形状を有したまま硬化したインク、例えば、噴射後に広がることなく、ほぼ半球のまま一定以上の高さを維持した状態で硬化したインクも鮮明に撮像することができる。
【0024】
(制御系の構成)
次に、インク噴射装置100の制御系の構成について説明する。
図2は、インク噴射装置100の制御系のブロック図である。
図2に示すように、本実施形態に係るインク噴射装置100は制御装置50を備えている。制御装置50は、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、及び、I/Oインターフェース等を有している。制御装置50の不揮発性メモリには、後述するインク噴射プログラムを含む各種プログラム、及び、各種データが保存されており、プロセッサが各種プログラムに基づき揮発性メモリを用いて演算処理を行う。
【0025】
制御装置50は、撮像装置30と電気的に接続されている。これにより、制御装置50は、付着したインクを含む媒体101の表面の撮像データを撮像装置30から取得することができる。
【0026】
さらに、制御装置50は、噴射ヘッド10、照射装置20、及び、キャリッジ40を駆動するキャリッジ駆動装置41と電気的に接続されている。制御装置50は、噴射ヘッド10(正確には噴射ヘッド10のアクチュエータ)に制御信号を送信することにより、噴射ヘッド10から噴射されるインクの種類、噴射タイミング、噴射速度、単位時間あたりの噴射量、及び、噴射するインク(一滴)の大きさを制御することができる。また、制御装置50は、照射装置20に制御信号を送信することにより、照射装置20から照射される光の強度、及び、照射タイミング(点灯/消灯)を制御することができる。さらに、制御装置50は、キャリッジ駆動装置41に制御信号を送信することにより、キャリッジ40の移動速度、及び、移動方向を制御することができる。なお、インクの噴射タイミングや噴射速度のみならず、キャリッジ40の速度を制御することによっても、インクの媒体101上への付着位置を調整することができる。
【0027】
(インク噴射プログラム)
次に、制御装置50が実行するインク噴射プログラムについて説明する。インク噴射プログラムは、テストインクを噴射して媒体101の表面形状を把握し、その後、下地インク、カラーインク、及び、コーティングインクを順に噴射するプログラムである。
図3は、インク噴射プログラムのフロー図である。
【0028】
<テストインク噴射処理>
図3に示すように、インク噴射プログラムが開始されると、まず制御装置50は、テストインク噴射処理を実行する(ステップS1)。テストインク噴射処理は、噴射ヘッド10からテストインクを媒体101に噴射させる処理である。ここでは、テストインクとして、下地インク、特に透明のプライマーインクを使用する。
【0029】
テストインク噴射処理では、予め定められたテストインク用噴射データに基づいて、テストインクを噴射する。テストインク用噴射データは、例えば、当該データに基づいて表面が平らな媒体にテストインクを噴射すると、媒体の表面上に等間隔のドットパターンが表れるようなデータである。例えば、キャリッジ40を一定速度で移動させながら、一定周期で噴射ヘッド10からテストインクを噴射すれば、表面が平らな媒体には等間隔のドットパターンが表れる。このようなテストインク用噴射データに基づいてテストインクを噴射しても、媒体の表面に凹凸があるような場合は、媒体の表面上に必ずしも等間隔のテストインクは表れない。
【0030】
なお、テストインク噴射処理では、ドットパターンが表れるようにテストインクを噴射することに限定されず、例えば格子状のラインパターンが表れるようにテストインクを噴射してもよい。なお、ドットパターンが表れるようにテストインクを噴射する場合、例えば、大滴(およそ10ピコリットル)のテストインク一滴で1つのドッドを表現し、隣り合うドットの間隔を1mm程度とすることができる。
【0031】
<光照射処理>
続いて、制御装置50は、光照射処理を実行する(ステップS2)。光照射処理は、照射装置20から光を照射させる処理である。前述のとおり、テストインクである下地インクは光によって硬化する光硬化インクである。硬化時間(テストインクを噴射してから硬化するまでの時間)を調整することによって硬化後のテストインクの形状を設定することができる。
【0032】
上記の硬化時間の調整は、テストインクを噴射してから光を照射するまでの時間を変更することにより行える。例えば、照射装置20を消灯した状態で噴射ヘッド10からテストインクを噴射しながらキャリッジ40を移動させ、所定時間後に照射装置20を点灯した状態でキャリッジ40を同じルートで移動させれば、テストインクを噴射してから光を照射するまでの時間を調整することができる。なお、硬化時間は照射装置20から照射する光の強度を変化させることにより調整することもできる。
【0033】
本実施形態では、媒体101の表面粗度に応じて硬化時間を調整する。具体的には、媒体101の表面粗度が基準粗度よりも高いとき(つまり、媒体101の表面が比較的粗いとき)、硬化時間が所定の基準硬化時間よりも長くなるように調整する。硬化時間が長いと、テストインクは広がった状態で硬化するため、テストインクが付着した部分は平らで滑らかになり、テストインクが付着した部分とそれ以外の部分(表面が粗い部分)との境界が際立ちやすくなる。その結果、テストインクの認識が容易となる。
【0034】
一方、媒体101の表面粗度が基準粗度よりも低いとき(つまり、媒体101の表面が比較的滑らかなとき)、硬化時間が上記の基準硬化時間よりも短くなるように調整する。硬化時間が短いと、テストインクが盛り上がった状態で硬化するため、テストインクが付着した部分とそれ以外の部分(表面が滑らかな部分)との境界が際立ちやすくなる。その結果、テストインクの認識が容易となる。
【0035】
媒体101の表面粗度は、作業者が図外の入力装置を介して入力してもよい。あるいは、インク噴射装置100に表面粗度を計測する計測機器を設け、計測機器から送信される測定信号に基づいて制御装置50が媒体101の表面粗度を取得してもよい。なお、上記の光照射処理(ステップS2)は、テストインク噴射処理(ステップS1)と並行して実行してもよい。
【0036】
<付着パターン取得処理>
続いて、制御装置50は、付着パターン取得処理を実行する(ステップS3)。付着パターン取得処理は、撮像装置30が撮像したテストインクを含む撮像データに基づいて媒体101に付着したテストインクのパターン(以下、「付着パターン」と称す)を取得する処理である。
【0037】
本実施形態では、前述のとおり、撮像装置30がCCD方式センサを用いて撮像を行い、また、照射装置20が媒体101の表面に対して0乃至15度の角度をなす方向から光を照射しながら撮像を行う暗視野照明法を行っている。そのため、認識しにくい色のテストインクであっても確実に認識することができ、ひいては精度よく付着パターンを取得することができる。
【0038】
<表面形状推定処理>
続いて、制御装置50は、表面形状推定処理を実行する(ステップS4)。表面形状推定処理は、ステップS3で取得した付着パターンに基づいて媒体101の表面形状を推定する処理である。具体的には、テストインク用噴射データに基づいてテストインクを噴射することによって、表面が平らな媒体101の表面に表れるテストインクのパターン(以下、「基準パターン」と称す)と付着パターンとを対比し、両者のずれから媒体101の表面形状を推定する。
【0039】
図4は、付着パターンと基準パターンを対比した図である。
図4の(a)は断面視における付着パターンを示しており、(b)は平面視における付着パターンを示しており、(c)は平面視における基準パターンを示している。(b)の付着パターンは、(a)の付着パターンに対応している。
図4の(a)における半円がテストインクのドットを示しており、破線がテストインクの噴射方向を示している。また、
図4の(b)及び(c)における円がテストインクのドットを示している。なお、
図4の紙面右方がテストインクを噴射する際のキャリッジ40の移動方向である。
【0040】
図4に示すように、媒体101のうちキャリッジ40の移動方向に向かって表面が高くなる部分では、付着パターンにおけるテストインクのドットの間隔は基準パターンのものに比べて狭くなっている。したがって、付着パターンにおいてテストインクのドットの間隔が基準パターンのものよりも狭くなっている部分は、キャリッジ40の移動方向に向かって表面が高くなるように傾斜していると推定することができる。これとは逆に、付着パターンにおいてテストインクのドットの間隔が基準パターンのものよりも広くなっている部分は、キャリッジ40の移動方向に向かって表面が低くなるように傾斜していると推定することができる。
【0041】
<下地インク用噴射データ補正処理>
続いて、制御装置50は、下地インク用噴射データ補正処理を実行する(ステップS5)。下地インク用噴射データは、制御装置50が予め取得したデータであって、当該データに基づいて下地インクが噴射される。
【0042】
例えば、補正前(つまり制御装置50が下地インク用噴射データを取得したとき)の下地インク用噴射データに基づいて下地インクが噴射されると、媒体101の表面が平らな場合は厚みが一定の下地が形成される。一方、媒体101の表面に凹凸がある場合は厚みが一定でない下地が形成されるおそれがある。下地インク用噴射データ補正処理は、このような下地インク用噴射データを補正する処理である。
【0043】
本実施形態の下地インク用噴射データ補正処理では、2段階の補正を行う。まず、第1段階の補正として、ステップS4で推定した媒体101の表面形状に基づいて下地インク用噴射データを補正する。具体的には、制御装置50は、媒体101の表面形状に応じて、媒体101の表面全体で下地の厚みが一定となるように下地インク用噴射データを補正する。この場合、例えば、媒体101のキャリッジ40の進行方向に向かって高くなるように傾斜している部分では下地インクの噴射量が減るように補正する。また、例えば、キャリッジ40の進行方向に向かって低くなるように傾斜している部分では下地インクの噴射量が増えるように補正する。
【0044】
その後、第2段階の補正として、ステップS3で取得したテストインクの付着パターンに基づいて、下地インク用噴射データを補正する。具体的には、媒体101のテストインクが付着している位置には、下地インクが付着しないように下地インク用噴射データを補正する。より詳細には、制御装置50は、ステップS3で取得した付着パターンに基づいてマスクデータを生成し、下地インク用噴射データにマスクデータを掛け合わせることで下地インク用噴射データを補正する。
【0045】
なお、媒体101のテストインクが付着している位置には下地インクを付着させないだけでなく、下地インクの噴射量を減らすなどしてもよい。また、媒体101のテストインクが付着している位置の周辺も下地インクの噴射量を減らすなどしてもよい。このとき、上記のマスクデータは、これらの処理に応じて生成される。
【0046】
<下地インク噴射処理>
続いて、制御装置50は、下地インク噴射処理を実行する(ステップS6)。下地インク噴射処理は、ステップS5で補正した下地インク用噴射データに基づいて噴射ヘッド10から媒体101に下地インクを噴射させる処理である。下地インクを噴射した後は、媒体101に付着した下地インクに光を照射して下地インクを硬化させる。これにより、媒体101の表面に厚みが一定である下地が形成される。
【0047】
<カラーインク用噴射データ補正処理>
続いて、制御装置50は、カラーインク用噴射データ補正処理を実行する(ステップS7)。カラーインク用噴射データは、制御装置50が予め取得したデータであって、当該データに基づいてカラーインクが噴射される。
【0048】
例えば、補正前(つまり制御装置50がカラーインク用噴射データを取得したとき)のカラーインク用噴射データに基づいてカラーインクが噴射されると、媒体101の表面が平らな場合は、媒体101の表面上に歪みのない絵が表れる。一方、媒体101の表面に凹凸がある場合は媒体101の表面上に歪んだ絵が表れるおそれがある。カラーインク用噴射データ補正処理は、このようなカラーインク用噴射データを補正する処理である。
【0049】
本実施形態のカラーインク用噴射データ補正処理では、ステップS4で推定した媒体101の表面形状に基づいてカラーインク用噴射データを補正する。具体的には、制御装置50は、媒体101の表面に表れる絵などが歪まないようにカラーインク用噴射データを補正する。この場合、例えば、媒体101のキャリッジ40の進行方向に向かって高くなるように傾斜している部分ではカラーインクの噴射間隔が広がるように補正する。また、例えば、キャリッジ40の進行方向に向かって低くなるように傾斜している部分ではカラーインクの噴射間隔が狭まるように補正する。
【0050】
<カラーインク噴射処理>
続いて、制御装置50は、カラーインク噴射処理を実行する(ステップS8)。カラーインク噴射処理は、ステップS7で補正したカラーインク用噴射データに基づいて噴射ヘッド10から媒体101にカラーインクを噴射させる処理である。これにより、媒体101の表面にゆがみのない絵が表れる。カラーインクを噴射した後は、媒体101に付着したカラーインクに光を照射してカラーインクを硬化させる。
【0051】
前述のとおり、本実施形態では、テストインクとして透明な下地インクを使用しているため、テストインクが付着している部分と付着していない部分とでカラーインクによる発色の違いはほとんど生じない。そのため、テストインクが付着した媒体101をそのまま使用することができ、破棄する必要もない。
【0052】
<コーティングインク用噴射データ補正処理>
続いて、制御装置50は、コーティングインク用噴射データ補正処理を実行する(ステップS9)。コーティングインク用噴射データは、制御装置50が予め取得したデータであって、当該データに基づいてコーティングインクが噴射される。
【0053】
例えば、補正前(つまり制御装置50がコーティングインク用噴射データを取得したとき)のコーティングインク用噴射データに基づいてコーティングインクが噴射されると、媒体101の表面が平らな場合は厚みが一定のコーティング層が形成される。一方、媒体101の表面に凹凸がある場合は厚みが一定でないコーティング層が形成されるおそれがある。コーティングインク用噴射データ補正処理は、このようなコーティングインク用噴射データを補正する処理である。
【0054】
本実施形態のコーティングインク用噴射データ補正処理では、ステップS4で推定した媒体101の表面形状に基づいてコーティングインク用噴射データを補正する。具体的には、媒体101の表面形状に応じて、媒体101の表面全体でコーティング層の厚みが一定となるようにコーティングインク用噴射データを補正する。この場合、例えば、媒体101のキャリッジ40の進行方向に向かって高くなるように傾斜している部分ではコーティングインクの噴射量が減るように補正する。また、例えば、キャリッジ40の進行方向に向かって低くなるように傾斜している部分ではコーティングインクの噴射量が増えるように補正する。
【0055】
<コーティングインク噴射処理>
続いて、制御装置50は、コーティングインク噴射処理を実行する(ステップS10)。コーティングインク噴射処理は、ステップS9で補正したコーティングインク用噴射データに基づいて噴射ヘッド10から媒体101にコーティングインクを噴射させる処理である。コーティングインクを噴射した後は、媒体101の付着したコーティングインクに光を照射してコーティングインクを硬化させる。これにより、媒体101のカラーインクの表面に厚みが一定であるコーティング層が形成される。以上で、インク噴射プログラムが終了する。
【0056】
(変形例)
以上、本実施形態に係るインク噴射装置100について説明したが、インク噴射装置100は上述した構成に限定されない。例えば、本実施形態では、テストインクとして透明のプライマーインクを使用したが、透明のコーティングインクを使用してもよい。また、プライマーインク及びコーティングインク以外の透明のインクを使用してもよい。ただし、プライマーインク又はコーティングインクを使用する場合、別途テストインクを用意する必要がないため、インク噴射装置100の複雑化を抑制できる。
【0057】
なお、前述のとおり、下地インクにはホワイトインクが含まれる。下地インクとしてホワイトインクを使用する場合は、テストインクとしてホワイトインクを使用してもよい。この場合も、テストインクが付着している部分と付着していない部分とでカラーインクによる発色の違いはほとんど生じない。さらに、テストインクとして、媒体101と同色のインクを用いてもよい。この場合も、同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、テストインクとして、コーティングインクを使用する場合、上述した下地インク用噴射データ補正処理(ステップS5)における第2段階の補正、つまりテストインクの付着パターンに基づく補正を省略することができる。これに代えて、コーティングインク用噴射データ補正処理(ステップS9)において、2段階の補正を行ってもよい。具体的には、コーティング用噴射データ補正処理において、ステップS3で取得したテストインクの付着パターンに基づいて、媒体101のテストインクが付着している位置ではコーティングインクが薄くなるような補正を加えてもよい。より詳細には、制御装置50は、ステップS3で取得した付着パターンに基づいてマスクデータを生成し、コーティングインク用噴射データにマスクデータを掛け合わせることでコーティングインク用噴射データを補正してもよい。この処理を行えば、コーティング層の表面を滑らかに形成できる。
【0059】
また、テストインクは紫外線光で蛍光発光する成分を含んでいてもよい。この場合、照射装置20がテストインクに紫外線光を照射させることにより、テストインクが発光するため、撮像装置30の撮像データにおけるテストインクが認識しやすくなる。
【0060】
また、本実施形態では、媒体101の表面粗度に応じて硬化時間を調整しているが、媒体101の表面粗度に応じて、噴射するテストインクの液滴の大きさを調整してもよい。例えば、媒体101の表面粗度が基準粗度よりも高いとき、表面粗度が基準粗度よりも低いときよりも液滴の大きさを大きくしてもよい。テストインクは液滴が大きければ広がりやすく、液滴が小さければ広がりにくい。そのため、上記の処理を行えば、テストインクが付着した部分とそれ以外の部分との境界が際立ちやすい。その結果、テストインクの認識が容易となる。
【符号の説明】
【0061】
10 噴射ヘッド
20 照射装置
30 撮像装置
40 キャリッジ
41 キャリッジ駆動装置
50 制御装置
100 インク噴射装置
101 媒体