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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150983
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/135 20060101AFI20220929BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B41J2/135
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053838
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】中澤 史朗
(72)【発明者】
【氏名】刑部 吉記
(72)【発明者】
【氏名】石川 博幸
(72)【発明者】
【氏名】古閑 雄二
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 真也
(72)【発明者】
【氏名】入口 明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 俊夫
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056FA10
2C056HA20
2C056HA37
2C056KC01
2C057AF44
2C057AG69
2C057AN01
(57)【要約】
【課題】液体が貯留される貯留部が大気開放口により外部と連通された状態において、ノズルの開口に形成されたメニスカスを維持する液体吐出装置を提供する。
【解決手段】複合機10は、インクを吐出するノズル39を有するヘッド38と、インクが液面を形成して貯留され、貯留可能な最大量のインクの高さがノズル39の開口よりも上方に位置する貯留部80と、貯留部80の気体層と外部とを連通する大気開放口88とを備えている。インクの比重をρ、インクの表面張力をσ、ノズル39におけるインクの接触角をθ、重力加速度をgとしたとき、ノズル39の内径dと、ノズル39の開口に形成されたメニスカスと貯留部80に貯留可能な最大量の液面との高さの差である水頭差hとが、ρhd/σcosθ≦4/gを満たすようにする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルを有するヘッドと、
液体が液面を形成して貯留され、貯留可能な最大量の液面の高さが上記ノズルの開口よりも上方に位置する貯留部と、
上記貯留部の気体層と外部とを連通する大気開放口と、を備えており、
上記ノズルの内径(d)と、上記ノズルの開口に形成されたメニスカスと上記貯留部に貯留可能な最大量の液面との高さの差である水頭差(h)とは、以下の式(1)を満たす液体吐出装置。
ρhd/σcosθ≦4/g ・・・式(1)
ただし、ρは液体の比重、σは液体の表面張力、θは上記ノズルにおける液体の接触角、gは重力加速度である。
【請求項2】
上記内径(d)は、5μm以上かつ20μm未満であり、
上記水頭差(h)は、664mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
上記内径(d)は、20μm以上かつ30μm未満であり、
上記水頭差(h)は、443mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
上記内径(d)は、30μm以上かつ50μm未満であり、
上記水頭差(h)は、266mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
上記内径(d)は、50μm以上かつ80μm未満であり、
上記水頭差(h)は、166mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
上記内径(d)は、80μm以上かつ90μm未満であり、
上記水頭差(h)は、148mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
上記内径(d)は、90μm以上かつ100μm未満であり、
上記水頭差(h)は、133mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
上記内径(d)は、100μm以上かつ110μm未満であり、
上記水頭差(h)は、121mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
上記内径(d)は、110μm以上かつ120μm未満であり、
上記水頭差(h)は、111mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
上記内径(d)は、1μm以上かつ133μm未満であり、
上記水頭差(h)は、100mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
上記内径(d)は、1μm以上かつ66μm未満であり、
上記水頭差(h)は、100mmより大きくかつ200mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
上記内径(d)は、1μm以上かつ33μm未満であり、
上記水頭差(h)は、200mmより大きくかつ400mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
上記内径(d)は、1μm以上かつ22μm未満であり、
上記水頭差(h)は、400mmより大きくかつ600mm以下である請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項14】
上記液体の粘度は、2cps以上かつ11cps未満である請求項1から13のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項15】
上記ヘッド及び上記貯留部を搭載して移動するキャリッジを更に備える請求項1から14のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項16】
上記ヘッドを搭載して移動するキャリッジを更に備え、
上記貯留部は、上記キャリッジに搭載されておらず、
上記貯留部と上記ヘッドとは液体流路によって接続されている請求項1から14のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項17】
上記キャリッジは、走査方向に移動するものであり、
上記ヘッドは、上記キャリッジが上記走査方向へ移動しているときに液体を吐出する請求項15又は16に記載の液体吐出装置。
【請求項18】
上記大気開放口と連続する気体流路を更に具備しており、
上記気体流路は、ラビリンス構造又は半透膜の少なくともいずれか一方を有する請求項1から17のいずれかに記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯留部から供給された液体を吐出するヘッドを有する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タンクに貯留されたインクをノズルから吐出して画像記録を行う装置として、インクジェットペンが公知である(特許文献1参照)。このインクジェットペンでは、インクカートリッジに貯留されたインクの液面は、ノズルの開口よりも上方にある。インクカートリッジにおいては、気体層が外部に連通されていない、或いは気体層を外部に連通させる気体流路に弁が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55-65560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクカートリッジの気体層が外部に連通されていないと、インクが消費されることによって気体層の圧力が下がり、その結果、ノズルの開口に形成されたメニスカスが壊れるおそれがある。また、インクカートリッジの気体層を外部と連通しつつ、気体層の圧力を一定に保つために弁などを設けると、インクジェットヘッドの構成が複雑になったり、大型化したりする。他方、インクカートリッジの気体層を常に外部と連通すると、水頭差によって、ノズルの開口に形成されたメニスカスが壊れるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体が貯留される貯留部が大気開放口により外部と連通された状態において、ノズルの開口に形成されたメニスカスを維持する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の液体吐出装置は、液体を吐出するノズルを有するヘッドと、液体が液面を形成して貯留され、貯留可能な最大量の液面の高さが上記ノズルの開口よりも上方に位置する貯留部と、上記貯留部の気体層と外部とを連通する大気開放口と、を備えている。上記ノズルの内径dと、上記ノズルの開口に形成されたメニスカスと上記貯留部に貯留可能な最大量の液面との高さの差である水頭差hとは、以下の式(1)を満たす。
ρhd/σcosθ≦4/g ・・・式(1)
ただし、ρは液体の比重、σは液体の表面張力、θは上記ノズルにおける液体の接触角、gは重力加速度である。
【0007】
上記液体吐出装置によれば、液体が貯留される貯留部が大気開放口により外部と連通された状態において、ノズルの開口に形成されたメニスカスが維持される。
【0008】
(2) 好ましくは、上記内径(d)は、5μm以上かつ20μm未満であり、上記水頭差(h)は、664mm以下である。
【0009】
(3) 好ましくは、上記内径(d)は、20μm以上かつ30μm未満であり、上記水頭差(h)は、443mm以下である。
【0010】
(4) 好ましくは、上記内径(d)は、30μm以上かつ50μm未満であり、上記水頭差(h)は、266mm以下である。
【0011】
(5) 好ましくは、上記内径(d)は、50μm以上かつ80μm未満であり、上記水頭差(h)は、166mm以下である。
【0012】
(6) 好ましくは、上記内径(d)は、80μm以上かつ90μm未満であり、上記水頭差(h)は、148mm以下である。
【0013】
(7) 好ましくは、上記内径(d)は、90μm以上かつ100μm未満であり、上記水頭差(h)は、133mm以下である。
【0014】
(8) 好ましくは、上記内径(d)は、100μm以上かつ110μm未満であり、上記水頭差(h)は、121mm以下である。
【0015】
(9) 好ましくは、上記内径(d)は、110μm以上かつ120μm未満であり、上記水頭差(h)は、111mm以下である。
【0016】
(10) 好ましくは、上記内径(d)は、1μm以上かつ133μm未満であり、上記水頭差(h)は、100mm以下である。
【0017】
(11) 好ましくは、上記内径(d)は、1μm以上かつ66μm未満であり、上記水頭差(h)は、100mmより大きくかつ200mm以下である。
【0018】
(12) 好ましくは、上記内径(d)は、1μm以上かつ33μm未満であり、上記水頭差(h)は、200mmより大きくかつ400mm以下である。
【0019】
(13) 好ましくは、上記内径(d)は、1μm以上かつ22μm未満であり、上記水頭差(h)は、400mmより大きくかつ600mm以下である。
【0020】
(14) 好ましくは、上記液体の粘度は、2cps以上かつ11cps未満である。
【0021】
(15) 好ましくは、上記液体吐出装置は、上記ヘッド及び上記貯留部を搭載して移動するキャリッジを更に備える。
【0022】
(16) 好ましくは、上記液体吐出装置は、上記ヘッドを搭載して移動するキャリッジを更に備え、上記貯留部は、上記キャリッジに搭載されておらず、上記貯留部と上記ヘッドとは液体流路によって接続されている。
【0023】
(17) 好ましくは、上記キャリッジは、走査方向に移動するものであり、上記ヘッドは、上記キャリッジが上記走査方向へ移動しているときに液体を吐出する。
【0024】
(18) 好ましくは、上記液体吐出装置は、上記大気開放口と連続する気体流路を更に具備しており、上記気体流路は、ラビリンス構造又は半透膜の少なくともいずれか一方を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、液体が貯留される貯留部が大気開放口により外部と連通された状態において、ノズルの開口に形成されたメニスカスが維持される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の実施形態の一例である複合機10の斜視図である。
図2図2は、プリンタ部11の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
図3図3は、記録部24を前後方向8と直交する面で切った断面を示す縦断面図である。
図4図4は、複合機10の機能ブロック図である。
図5図5は、複合機10による画像記録制御を説明するためのフローチャートである。
図6図6は、ノズル39の開口に形成されるメニスカスの維持について説明するための図であり、図6(A)は、貯留部80とノズル39を模式的に示す図であり、図6(B)は、ノズル39の開口にメニスカスが形成される様子を示す図である。
図7図7は、内径dと水頭差hとが式(1)を満たす範囲を示す図である。
図8図8は、内径dと水頭差hとが式(1)を満たす範囲の具体例を示す図であり、図8(A)は、内径dの各範囲について水頭差hの範囲を示す図であり、図8(B)は、水頭差hの各範囲について内径dの範囲を示す図である。
図9図9は、変形例に係る記録部24を前後方向8と直交する面で切った断面を示す縦断面図である。
図10図10は、変形例に係る貯留部80の配置位置を示す模式図である。
図11図11は、変形例に係る貯留部80の上壁82を示す斜視図であり、図11(A)は、大気連通路161がラビリンス構造164を有する場合の斜視図であり、図11(B)は、大気連通路161がラビリンス構造164と半透膜165とを有する場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。また、以下の説明では、矢印の起点から終点に向かう進みが向きと表現され、矢印の起点と終点とを結ぶ線上の往来が方向と表現される。また、以下の説明では、複合機10が使用可能に設置された状態(図1の状態)を基準として上下方向7が定義され、開口13が設けられている面を前面23として前後方向8が定義され、複合機10を前方から視て左右方向9が定義される。上下方向7、前後方向8、及び左右方向9は互いに直交している。
【0028】
[複合機10の全体構造]
図1に示されるように、複合機10(液体吐出装置の一例)は、概ね直方体形状の筐体14を有する。筐体14の下部に、プリンタ部11が設けられている。複合機10は、ファクシミリ機能及びプリント機能などの各種の機能を有している。複合機10は、プリント機能として、インクジェット方式で用紙12(図2参照)の片面に画像記録する機能を有している。なお、複合機10は、用紙12の両面に画像記録するものであってもよい。筐体14の上部に、操作部17が設けられている。操作部17は、画像記録の指示や各種設定のために操作されるボタンや、各種情報が表示される液晶ディスプレイなどによって構成されている。本実施形態において、操作部17は、ボタン及び液晶ディスプレイの双方の機能を有するタッチパネルによって構成されている。
【0029】
図2に示されるように、プリンタ部11は、給送トレイ20、給送部16、外ガイド部材18、内ガイド部材19、搬送ローラ対59、排出ローラ対44、プラテン42、記録部24、エンコーダ35(図4参照)、ロータリエンコーダ75(図4参照)、コントローラ130(図4参照)、及びメモリ140(図4参照)を備えている。これらは、筐体14の内部に配置されている。筐体14の内部には、複合機10の状態を検知して、検知結果に応じた信号を出力する様々な状態センサ(不図示)が配置されている。
【0030】
[給送トレイ20]
図1に示されるように、プリンタ部11の前面23に、開口13が形成されている。給送トレイ20は、前後方向8へ移動することによって、開口13を介して筐体14に対して挿入及び抜去可能である。給送トレイ20は、筐体14に装着された給送位置(図1及び図2に示される位置)と、筐体14から抜き出された非給送位置とに移動可能である。給送トレイ20は、筐体14に対して後方へ挿入されることによって給送位置へ移動し、筐体14に対して前方へ引き出されることによって非給送位置へ移動する。
【0031】
給送トレイ20は、上方が開放された箱形状の部材であり、用紙12を収容する。図2に示されるように、給送トレイ20の底板22に、用紙12が重ねられた状態で支持される。給送トレイ20の前部の上方に、排出トレイ21が配置されている。記録部24によって画像記録されて排出された用紙12が、排出トレイ21の上面に支持される。給送トレイ20が給送位置にあるとき、給送トレイ20に支持された用紙12が搬送路65へ給送可能である。
【0032】
[給送部16]
図2に示されるように、給送部16は、記録部24の下方かつ給送トレイ20の底板22の上方に配置されている。給送部16は、給送ローラ25、給送アーム26、駆動伝達機構27、及び軸28を備えている。給送ローラ25は、給送アーム26の先端部で回転可能に支持されている。給送アーム26は、基端部に設けられた軸28を中心として、矢印29の方向へ回動する。これにより、給送ローラ25は、給送トレイ20または給送トレイ20に支持された用紙12に対して、当接及び離間が可能である。
【0033】
給送ローラ25は、複数のギヤが噛合されてなる駆動伝達機構27によって、給送用モータ102(図4参照)の駆動力が伝達されて回転する。これにより、給送位置の給送トレイ20の底板22に支持された用紙12のうち、給送ローラ25と当接している最上の用紙12が、搬送路65へ給送される。なお、駆動伝達機構27は、複数のギヤが噛合されている形態に限らず、例えば軸28と給送ローラ25の軸とに架け渡されたベルトであってもよい。
【0034】
[搬送路65]
図2に示されるように、給送トレイ20の後端部から搬送路65が延出されている。搬送路65は、湾曲部33と直線部34とを備える。湾曲部33は、上方へ向かいつつ後方から前方へUターンするように延びている。直線部34は、概ね前後方向8に沿って延びている。
【0035】
湾曲部33は、所定の間隔を隔てて互いに対向する外ガイド部材18と内ガイド部材19とによって形成されている。外ガイド部材18及び内ガイド部材19は、左右方向9へ延設されている。直線部34は、記録部24が配置されている位置では所定の間隔を隔てて互いに対向する記録部24とプラテン42とによって形成されている。
【0036】
給送トレイ20に支持された用紙12は、給送ローラ25によって湾曲部33を搬送されて、搬送ローラ対59に到達する。搬送ローラ対59に挟持された用紙12は、直線部34を記録部24へ向けて前方へ搬送される。記録部24の直下に到達した用紙12は、記録部24により画像記録される。画像記録された用紙12は、直線部34を前方へ搬送されて排出トレイ21に排出される。以上より、用紙12は、図2に一点鎖線の矢印で示される搬送向き15に沿って搬送される。
【0037】
[搬送ローラ対59及び排出ローラ対44]
図2に示されるように、直線部34に、搬送ローラ対59が配置されている。直線部34における搬送ローラ対59よりも搬送向き15の下流に、排出ローラ対44が配置されている。
【0038】
搬送ローラ対59は、搬送ローラ60と、搬送ローラ60の下方に搬送ローラ60と対向して配置されたピンチローラ61とを備えている。ピンチローラ61は、コイルバネなどの弾性部材(不図示)によって搬送ローラ60に押圧されている。搬送ローラ対59は、用紙12を挟持可能である。
【0039】
排出ローラ対44は、排出ローラ62と、排出ローラ62の上方に排出ローラ62と対向して配置された拍車ローラ63とを備えている。拍車ローラ63は、コイルバネなどの弾性部材(不図示)によって排出ローラ62へ向けて押圧されている。排出ローラ対44は、用紙12を挟持可能である。
【0040】
搬送ローラ60及び排出ローラ62は、搬送用モータ101(図4参照)から駆動力を付与されて回転する。搬送ローラ対59に用紙12が挟持されている状態で搬送ローラ60が回転すると、当該用紙12は、搬送ローラ対59によって搬送向き15へ搬送され、プラテン42上に搬送される。排出ローラ対44に用紙12が挟持されている状態で排出ローラ62が回転すると、当該用紙12は、排出ローラ対44によって搬送向き15へ搬送され、排出トレイ21上に排出される。なお、搬送用モータ101と給送用モータ102として、共通のモータが用いられてもよい。この場合、当該共通のモータから各ローラへの駆動伝達経路が切替可能に構成される。
【0041】
なお、用紙12を搬送させるものは、上述したようなローラ対に限らない。例えば、搬送ローラ対59及び排出ローラ対44の代わりに、搬送ベルトが配置されていてもよい。
【0042】
[プラテン42]
図2に示されるように、プラテン42は、搬送路65の直線部34に配置されている。プラテン42は、上下方向7において記録部24に対向している。プラテン42は、搬送路65を搬送される用紙12を下方から支持する。搬送路65を搬送される用紙12は、左右方向9において、プラテン42の右端及び左端の間の領域(以下、媒体通過領域と称される)を通過する。
【0043】
[記録部24]
図2に示されるように、記録部24は、プラテン42の上方にプラテン42と対向して配置されている。記録部24は、キャリッジ40と、ヘッド38と、貯留部80とを備えている。
【0044】
キャリッジ40は、前後方向8に間隔を空けて配置された2つのガイドレール56、57によって搬送向き15と直交する左右方向9(走査方向の一例)に沿って移動可能に支持されている。キャリッジ40は、左右方向9において、媒体通過領域よりも右方から媒体通過領域よりも左方に亘って移動可能である。なお、キャリッジ40の移動方向は、左右方向9に限らず、搬送向き15と交差する方向であればよい。
【0045】
ガイドレール56は、ヘッド38よりも搬送向き15の上流に配置されている。ガイドレール57は、ヘッド38よりも搬送向き15の下流に配置されている。ガイドレール56、57は、左右方向9において搬送路65の直線部34の外方に配置された一対のサイドフレーム(不図示)によって支持されている。キャリッジ40は、キャリッジ駆動用モータ103(図4参照)から駆動力を付与されることにより移動する。
【0046】
ガイドレール56またはガイドレール57には、エンコーダ35(図4参照)が配置されている。エンコーダ35は、左右方向9に延びたエンコーダストリップと、キャリッジ40におけるエンコーダストリップに対向する箇所に設けられた光学センサとを備えている。エンコーダストリップには、光を透過させる透光部と光を遮断する遮光部とが、左右方向9に等ピッチで交互に配置されたパターンが記されている。光学センサによって透光部及び遮断部が検出されることによってパルス信号が検出される。パルス信号は、キャリッジ40の左右方向9の位置に応じた信号である。パルス信号は、コントローラ130(図4参照)に出力される。
【0047】
ヘッド38は、キャリッジ40に支持されている。ヘッド38の下面68は、下方へ露出しており、プラテン42と対向している。ヘッド38は、複数のノズル39と、インク流路37と、圧電素子45(図4参照)とを備えている。
【0048】
複数のノズル39は、ヘッド38の下面68に開口されている。インク流路37は、貯留部80と複数のノズル39とを繋ぐ。圧電素子45(図4参照)は、インク流路37の一部を変形させることでノズル39から下方へインク滴を吐出させる。圧電素子45は、コントローラ130(図4参照)により給電されることで動作する。このようにヘッド38は、インク(液体の一例)を吐出するノズル39を有する。
【0049】
貯留部80は、キャリッジ40に据え付けられた状態でキャリッジ40に支持されている。貯留部80は、内部空間81を有している。内部空間81には、インク90が貯留される。本実施形態では、記録部24は、一つの貯留部80を備えている。この一つの貯留部80には、黒色のインク90が貯留されている。なお、貯留部80に貯留されるインク90の色は黒色に限らない。
【0050】
貯留部80は、ヘッド38より上方に位置している。なお、本実施形態では、貯留部80の全てがヘッド38より上方に位置しているが、貯留部80の一部がヘッド38より上方に位置しており、貯留部80の当該一部以外の部分がヘッド38以下の高さに位置していてもよい。貯留部80の内部空間81は、インク流路37を介して複数のノズル39と連通している。これにより、内部空間81からノズル39へインク90が供給される。
【0051】
貯留部80の上壁82には、内部空間81へインク90を注入するための注入口83が設けられている。注入口83は、上壁82を厚み方向に貫通して、内部空間81を貯留部80の外部に連通させる。上壁82の上面における注入口83の周囲に、突壁84が設けられている(図3参照)。蓋85が突壁84に嵌合されることによって、注入口83が閉じられる。蓋85が突壁84から外されると、注入口83が外部に露出する。この状態で、ボトル(不図示)が注入口83に挿入され、ボトルから注入口83を介して内部空間81へインク90が注入される。なお、注入口83は、内部空間81の上部と外部とを連通する位置であれば、上壁82以外に設けられていてもよい。
【0052】
図3に示されるように、貯留部80の上壁82には、大気開放口88が設けられている。貯留部80の内部空間81のうち、インク90が存在しない部分には空気が入る。貯留部80の内部空間81のうち空気が入った部分は、気体層と称される。大気開放口88は、貯留部80の気体層と外部とを連通する。
【0053】
[ロータリエンコーダ75]
図4に示されるロータリエンコーダ75は、搬送用モータ101(図4参照)の軸に設けられて搬送用モータ101と共に回転するエンコーダディスクと光学センサとからなる。エンコーダディスクには、光が透過される透過部と光が透過されない非透過部とが円周方向に等ピッチで交互に配置されたパターンが形成されている。エンコーダディスクが回転すると、光学センサによって透過部と非透過部とが検出される毎にパルス信号が生成される。生成されたパルス信号は、コントローラ130(図4参照)に出力される。コントローラ130は、当該パルス信号に基づいて、搬送用モータ101の回転量を算出する。なお、ロータリエンコーダ75は、搬送用モータ101以外、例えば給送用モータ102や搬送ローラ60に設けられていてもよい。
【0054】
[コントローラ130及びメモリ140]
以下、図4が参照されて、コントローラ130及びメモリ140の構成が説明される。コントローラ130は、複合機10の全体動作を制御するものである。コントローラ130は、CPU131及びASIC135を備えている。メモリ140は、ROM132、RAM133、及びEEPROM134を備えている。CPU131、ASIC135、ROM132、RAM133、及びEEPROM134は、内部バス137によって接続されている。
【0055】
ROM132には、CPU131が各種動作を制御するためのプログラムなどが格納されている。RAM133は、CPU131が上記プログラムを実行する際に用いるデータや信号などを一時的に記録する記憶領域、或いはデータ処理の作業領域として使用される。EEPROM134には、電源オフ後も保持すべき設定やフラグなどが格納される。
【0056】
ASIC135には、搬送用モータ101、給送用モータ102、及びキャリッジ駆動用モータ103が接続されている。ASIC135には、各モータを制御する駆動回路が組み込まれている。CPU131は、各モータを回転させるための駆動信号を各モータに対応する駆動回路に出力する。駆動回路は、CPU131から取得した駆動信号に応じた駆動電流を対応するモータへ出力する。これにより、対応するモータが回転する。つまり、コントローラ130は、給送用モータ102を制御して、給送部16に用紙12を給送させる。また、コントローラ130は、搬送用モータ101を制御して、搬送ローラ対59及び排出ローラ対44に用紙12を搬送させる。また、コントローラ130は、キャリッジ駆動用モータ103を制御して、キャリッジ40を移動させる。
【0057】
また、ASIC135には、ロータリエンコーダ75の光学センサが接続されている。コントローラ130は、ロータリエンコーダ75の光学センサから受け取った電気信号に基づいて、搬送用モータ101の回転量を算出する。また、ASIC135には、エンコーダ35が接続されている。コントローラ130は、エンコーダ35から受け取ったパルス信号に基づいて、キャリッジ40の位置や移動の有無を認識する。
【0058】
また、ASIC135には、圧電素子45が接続されている。圧電素子45は、不図示のドライブ回路を介してコントローラ130により給電されることで動作する。コントローラ130は、圧電素子45への給電を制御し、複数のノズル39から選択的にインク滴を吐出させる。また、ASIC135には、状態センサ(不図示)が接続されている。コントローラ130は、状態センサから受け取った信号に基づいて、以下に示す画像記録処理や、異常処理などを行う。
【0059】
コントローラ130は、用紙12に画像記録する際、搬送処理と印刷処理とを交互に実行する。搬送処理は、搬送ローラ対59及び排出ローラ対44に所定の改行量だけ用紙12を搬送させる処理である。コントローラ130は、搬送用モータ101を制御することによって、搬送ローラ対59及び排出ローラ対44に搬送処理を実行させる。印刷処理は、キャリッジ40を左右方向9に沿って移動させながら、圧電素子45への給電を制御して、ヘッド38にノズル39からインク滴を吐出させる処理である。印刷処理の間、キャリッジ40は、媒体通過領域(プラテン42の右端及び左端の間の領域)に位置しており、プラテン42と対向している。
【0060】
コントローラ130は、今回の搬送処理と次回の搬送処理との間、用紙12を一定期間停止させる。そして、用紙12が停止している間に印刷処理を実行する。つまり、コントローラ130は、印刷処理において、キャリッジ40を右向きまたは左向きに移動させながら、ノズル39からインク滴を吐出させる1回のパスを実行する。これにより、用紙12に対して1パス分の画像記録が実行される。
【0061】
コントローラ130は、搬送処理と印刷処理とを交互に繰り返し実行することによって、用紙12の画像記録可能な全領域に、画像記録することが可能である。つまり、コントローラ130は、複数回のパスで1枚の用紙12に画像記録させる。このように複合機10では、キャリッジ40は、ヘッド38および貯留部80を搭載して移動する。キャリッジ40は、左右方向9に移動し、ヘッド38はキャリッジ40が左右方向9へ移動しているときにインクを吐出する。
【0062】
なお、コントローラ130は、上記に限らず、CPU131のみが各種処理を行うものであってもよいし、ASIC135のみが各種処理を行うものであってもよいし、CPU131とASIC135とが協働して各種処理を行うものであってもよい。また、コントローラ130は、1つのCPU131が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のCPU131が処理を分担して行うものであってもよい。また、コントローラ130は、1つのASIC135が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のASIC135が処理を分担して行うものであってもよい。
【0063】
[コントローラ130による画像記録制御]
上述のように構成されたプリンタ部11では、コントローラ130によって、用紙12が給送されて、給送された用紙12に画像記録される一連の画像記録制御が実行される。以下、図5に示されるフローチャートを参照しつつ、コントローラ130による画像記録制御が説明される。
【0064】
画像記録制御が実行されていないとき、キャリッジ40は、左右方向9において媒体通過領域の外部に位置しており(この位置は、メンテナンス位置と称される)、プラテン42と対向していない。
【0065】
複合機10の操作部17(図1参照)や複合機10と接続された外部機器などから、印刷コマンドがコントローラ130へ送られる。印刷コマンドは、画像記録制御を開始する旨のコマンドと、用紙12のサイズに関する情報と、用紙12へ画像記録される印刷データとを含んでいる。
【0066】
コントローラ130は、印刷コマンドを取得すると(S10:Yes)、給送トレイ20に支持された用紙12の給送を実行する(S20)。
【0067】
ステップS20において、コントローラ130は、給送用モータ102を駆動させる。これにより、給送ローラ25は、給送トレイ20に支持された用紙12を搬送路65へ給送する。また、コントローラ130は、搬送用モータ101を駆動させる。これにより、給送ローラ25によって搬送路65へ給送された用紙12の先端が搬送ローラ対59へ到達したときに、搬送ローラ対59が用紙12を搬送向き15に搬送する。
【0068】
次に、コントローラ130は、キャリッジ駆動用モータ103を駆動させて、キャリッジ40をメンテナンス位置から開始位置へ移動させる。開始位置は、印刷処理(S30)が実行されるときのキャリッジ40の移動開始位置であり、印刷データに基づいて決定される。ステップS20において、用紙12の給送動作と、キャリッジ40の移動動作とは、並行して実行される。
【0069】
次に、コントローラ130は印刷処理を実行する(S30)。ステップS30の印刷処理において、コントローラ130は、1回のパスを実行する。つまり、コントローラ130は、キャリッジ40を開始位置から移動させながら、ノズル39からインク滴を吐出させる。なお、ステップS20においてメンテナンス位置から移動を開始したキャリッジ40は開始位置で停止することなく、そのまま印刷処理のために移動を続けてもよい。もちろん、キャリッジ40は、開始位置で一旦停止してもよい。
【0070】
次に、コントローラ130は、印刷コマンドに含まれる用紙12のサイズに関する情報や印刷データに基づいて、現在の用紙12への画像記録が終了したか否かを判断する(S40)。
【0071】
ステップS40において、現在の用紙12への画像記録が終了していない場合(S40:No)、搬送処理が実行される(S50)。ステップS50の搬送処理において、コントローラ130は、搬送用モータ101を駆動させて、搬送ローラ対59及び排出ローラ対44に用紙12を所定の改行量だけ搬送させる。その後、コントローラ130の制御は、ステップS30へ進む。
【0072】
ステップS40において、現在の用紙12への画像記録が終了した場合(S40:Yes)、コントローラ130は、搬送ローラ対59及び排出ローラ対44に、用紙12を搬送向き15へ搬送させて、排出トレイ21へ排出させる(S60)。
【0073】
次に、コントローラ130は、印刷コマンドに含まれる画像データに未だ用紙12に記録されていない画像データがあるか否か、すなわち、次ページの画像記録があるか否かを判断する(S70)。
【0074】
次ページの画像記録がある場合(S70:Yes)、コントローラ130の制御は、ステップS20へ進む。この場合、コントローラ130は、後続の用紙12を給送トレイ20から搬送路65へ給送する(S20)。なお、後続の用紙12の給送(S20)は、先行の用紙12の排出(S60)と並行して実行されてもよい。次ページの画像記録がない場合(S70:No)、コントローラ130は、一連の画像記録制御を終了する。
【0075】
なお、ここでは、コントローラ130が正常に画像記録を行う場合について説明したが、コントローラ130は、画像記録を行いながら、異常を検出する処理と、異常を検出した時の処理(いずれも不図示)とを実行してもよい。
【0076】
[メニスカスを維持するための条件]
以下、複合機10が画像記録を行う場合について、ヘッド38のノズル39のメニスカスを維持するための条件が説明される。図6(A)には、貯留部80及びノズル39が模式的に示されている。図面の理解を容易にするために、図6(A)には1個のノズル39が記載されているが、実際には複数のノズル39が存在する。
【0077】
図6(A)に示されるように、貯留部80には、インク90が液面を形成して貯留される。図6(A)では、貯留部80には、貯留可能な最大量のインク90が貯留されている。貯留可能な最大量の液面の高さは、ノズル39の開口よりも上方に位置する。大気開放口88は、貯留部80の気体層(内部空間81のうちインク90が存在しない部分)と外部とを連通する。
【0078】
図6(B)に示されるように、ノズル39の開口には、インク90によって、下向きに凸状のメニスカスが形成される。ノズル39の開口付近のインク90には、下向きに作用する重力F1と、ノズル39の内面と接触することによって上向きに作用する表面張力F2とがかかる。表面張力F2が重力F1以上のときには、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0079】
ノズル39の内径をd、ノズル39の開口に形成されたメニスカスと貯留部80に貯留可能な最大量の液面との高さの差である水頭差をh、インク90の比重をρ、インク90の表面張力をσ、ノズル39の内面とインク90との接触角をθ、重力加速度をgとする。ノズル39の開口付近のインクに下向きに作用する重力F1は、πd/4×ρghで与えられる。ノズル39の開口付近のインクに上向きに作用する表面張力F2は、πdσcosθで与えられる。これらをF1≦F2なる関係式に代入して整理すると、次式(1)が得られる。
ρhd/σcosθ≦4/g ・・・式(1)
【0080】
複合機10では、インク90の比重ρ、インク90の表面張力σ、ノズル39の内面とインク90との接触角θが与えられたときに、ノズル39の内径dと水頭差hとは、式(1)を満たすように決定される。内径dを横軸、水頭差hを縦軸としたとき、式(1)を満たす範囲は、図7に示される曲線の左下側(斜線部)になる。内径dと水頭差hの値の組合せが図7に示される斜線部内にあるとき、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0081】
以下、ノズル39の内径dと水頭差hとが式(1)を満たす範囲の具体例が説明される。複合機10などのインクジェット方式のプリンタで使用されるインクの粘度は、例えば、2cps以上かつ11cps未満である。インクには、例えば、50%以上70%以下の水分を含む水系インクが使用される。インクの比重ρは、例えば、1.03g/cm以上1.13g/cm以下である。インクの表面張力σは、例えば、25mN/m以上37mN/m以下である。ノズルの内面とインクとの接触角θは、例えば、25°以上50°以下である。
【0082】
インクの表面張力σは、例えば、ウィルヘルミー(Wilhelmy)法を用いて求められる。ノズルの内面とインクとの接触角θは、ノズルと同じ材質のプレートにインクを滴下したときの接触角を、例えば、θ/2法を用いて測定することにより求められる。
【0083】
以下、インクの比重ρが1.03g/cm、インクの表面張力σが37mN/m、かつノズルの内面とインクとの接触角θが25°である条件は「第1条件」と称され、インクの比重ρが1.13g/cm、インクの表面張力σが25mN/m、かつノズルの内面とインクとの接触角θが50°である条件は「第2条件」と称される。
【0084】
複合機10において第1条件が満たされる場合、式(1)を満たす範囲は、図8(A)および図8(B)に示される曲線の左下側である。図8(A)に示されるように、曲線の左下側に8個の領域211~218が設定される。図8(B)に示されるように、曲線の左下側に4個の領域221~224が設定される。内径dと水頭差hの値の組合せが、領域211~218、221~224のいずれかの内部にある場合、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0085】
図8(A)に示される領域211は、内径dが5μm以上かつ20μm未満であり、水頭差hが664mm以下である領域である。内径dが5μm以上かつ20μm未満であるときには、水頭差hを664mm以下にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0086】
領域212は、内径dが20μm以上かつ30μm未満であり、水頭差hが443mm以下である領域である。内径dが20μm以上かつ30μm未満であるときには、水頭差hを443mm以下にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0087】
領域213は、内径dが30μm以上かつ50μm未満であり、水頭差hが266mm以下である領域である。内径dが30μm以上かつ50μm未満であるときには、水頭差hを266mm以下にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0088】
領域214は、内径dが50μm以上かつ80μm未満であり、水頭差hが166mm以下である領域である。内径dが50μm以上かつ80μm未満であるときには、水頭差hを166mm以下にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0089】
領域215は、内径dが80μm以上かつ90μm未満であり、水頭差hが148mm以下である領域である。内径dが80μm以上かつ90μm未満であるときには、水頭差hを148mm以下にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0090】
領域216は、内径dが90μm以上かつ100μm未満であり、水頭差hが133mm以下である領域である。内径dが90μm以上かつ100μm未満であるときには、水頭差hを133mm以下にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0091】
領域217は、内径dが100μm以上かつ110μm未満であり、水頭差hが121mm以下である領域である。内径dが100μm以上かつ110μm未満であるときには、水頭差hを121mm以下にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0092】
領域218は、内径dが110μm以上かつ120μm未満であり、水頭差hが111mm以下である領域である。内径dが110μm以上かつ120μm未満であるときには、水頭差hを111mm以下にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0093】
図8(B)に示される領域221は、内径dが1μm以上かつ133μm未満であり、水頭差hが100mm以下の領域である。水頭差hが100mm以下であるときには、内径dを1μm以上かつ133μm未満に設定すれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0094】
領域222は、内径dが1μm以上かつ66μm未満であり、水頭差hが100mmより大きくかつ200mm以下である領域である。水頭差hが100mmより大きくかつ200mm以下であるときは、内径dを1μm以上かつ66μm未満に設定すれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0095】
領域223は、内径dが1μm以上かつ33μm未満であり、水頭差hが200mmより大きくかつ400mm以下である領域である。水頭差hが200mmより大きくかつ400mm以下であるときには、内径dを1μm以上かつ33μm未満にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0096】
領域224は、内径dが1μm以上かつ22μm未満であり、水頭差hが400mmより大きくかつ600mm以下である領域である。水頭差hが400mmより大きくかつ600mm以下であるときには、内径dを1μm以上かつ22μm未満にすれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。なお、ノズル39の内径dを1μm以上としたのは、内径dがこの値よりも小さいとインク詰まりが頻繁に発生するからである。
【0097】
複合機10において第2条件が満たされる場合に、ノズル39の開口に形成されたメニスカスを維持するためには、内径dが5μm以上かつ20μm未満であるときには、水頭差hを290mm以下にすればよい。内径dが20μm以上かつ30μm未満であるときには、水頭差hを193mm以下にすればよい。内径dが30μm以上かつ50μm未満であるときには、水頭差hを116mm以下にすればよい。内径dが50μm以上かつ80μm未満であるときには、水頭差hを73mm以下にすればよい。内径dが80μm以上かつ90μm未満であるときには、水頭差hを64mm以下にすればよい。内径dが90μm以上かつ100μm未満であるときには、水頭差hを58mm以下にすればよい。内径dが100μm以上かつ110μm未満であるときには、水頭差hを53mm以下にすればよい。内径dが110μm以上かつ120μm未満であるときには、水頭差hを48mm以下にすればよい。
【0098】
水頭差hが100mm以下であるときには、内径dを1μm以上かつ58μm未満にすればよい。水頭差hが100mmより大きくかつ200mm以下であるときには、内径dを1μm以上かつ29μm未満にすればよい。水頭差hが200mmより大きくかつ400mm以下であるときには、内径dを1μm以上14μm未満にすればよい。水頭差hが400mmより大きくかつ600mm以下であるときには、内径dを1μm以上かつ9μm未満にすればよい。
【0099】
複合機10においてインクの比重ρが1.03g/cm以上1.13g/cm以下、インクの表面張力σが25mN/m以上37mN/m以下、かつノズルの内面とインクとの接触角が25°以上50°以下である場合には、複合機10において第2条件が満たされる場合と同様に、内径dに応じて水頭差hを決定するか、或いは水頭差hに応じて内径dを決定すれば、式(1)は満たされ、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【0100】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、ノズル39の内径dと水頭差hとが式(1)を満たすので、ノズル39の開口付近のインクに上向きに作用する表面張力F2は、ノズル39の開口付近のインクに下向きに作用する重力F1以上になる。したがって、貯留部80の気体層が外部に連通された状態において、ノズル39のメニスカスを維持することができる。
【0101】
[変形例]
上記実施形態では、記録部24には貯留部80が1つだけ設けられていたが、記録部24には複数の貯留部80が設けられていてもよい。例えば、図9に示されるように、記録部24は、4つの貯留部80C、80M、80Y、80Bを備えていてもよい。
【0102】
貯留部80Cには、シアンのインク(不図示)が貯留されている。貯留部80Mには、マゼンタのインク(不図示)が貯留されている。貯留部80Yには、イエローのインク(不図示)が貯留されている。貯留部80Bには、ブラックのインク(不図示)が貯留されている。貯留部80C、80M、80Y、80Bは、左右方向9に並んで配置されている。大気開放口88は、貯留部80C、80M、80Y、80Bのそれぞれに設けられている。なお、貯留部80C、80M、80Y、80Bは、左右方向9以外、例えば前後方向8に並んで配置されていてもよい。また、貯留部80C、80M、80Y、80Bの配列順序は、図9に示された順序に限らない。また、各貯留部80C、80M、80Y、80Bの大きさは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0103】
上記実施形態では、ヘッド38が用紙12に画像を記録する方式は、キャリッジ40によってヘッド38が移動しつつ用紙12に画像を記録するシリアルヘッド型であったが、記録部24がキャリッジ40を備えておらず、ヘッド38が移動することなく用紙12に画像を記録するラインヘッド型であってもよい。ラインヘッド型の場合、ヘッド38が媒体通過領域の右端から左端に亘って設けられている。また、搬送処理及び印刷処理が並行してかつ連続的に実行される。つまり、用紙12が搬送されながら、ノズル39からインク滴が連続的に吐出される。また、ラインヘッド型の場合、ヘッド38は、筐体14のフレームに支持される。
【0104】
上記実施形態では、貯留部80は、キャリッジ40に据え付けられており、注入口83からインクが注入されることによってインクが補充されていた。しかし、貯留部80は、このような構成に限らない。例えば、貯留部80は、キャリッジ40に着脱可能なカートリッジであってもよい。この場合、カートリッジに貯留されたインクが少なくなる、或いはなくなると、新しいカートリッジと取り換えられる。
【0105】
上記実施形態では、貯留部80は、キャリッジ40に支持されていたが、キャリッジ40に支持されていなくてもよい。例えば、図10に示されるように、貯留部80は、複合機10におけるキャリッジ40とは別の箇所に配置されていてもよい。この場合、貯留部80とヘッド38とはチューブ151(液体流路の一例)などによって接続されており、貯留部80に貯留されたインク90は、チューブ151などを介してヘッド38へ供給される。この場合、貯留部80の少なくとも一部は、ヘッド38より上方に位置している。この変形例では、キャリッジ40は、ヘッド38を搭載して移動し、貯留部80は、キャリッジ40に搭載されておらず、貯留部80とヘッド38はチューブ151などによって接続されている。
【0106】
上記実施形態では、貯留部80の上壁82には大気開放口88だけが設けられているが、図11(A)および(B)に示されるように、貯留部80の上壁82には大気開放口88と連続する大気連通路161(気体流路の一例)がさらに設けられていてもよい。
【0107】
図11(A)に示される例では、大気連通路161は、貯留部80の上壁82に溝状に形成されており、上側がフィルム162によって閉塞されている。大気連通路161の一端は、開口163を介して貯留部80の気体層に連通している。大気連通路161の他端は、上壁82に形成された大気開放口88を介して外部に連通している。大気連通路161は、前後方向8のUターンを繰り返しつつ左右方向9に沿って延びるラビリンス構造164を有している。
【0108】
図11(B)に示される例では、大気連通路161の他端に連通する大気開放口88には、大気開放口88を閉塞する半透膜165が貼付されている。半透膜165は、インクの通過を遮断しかつ気体の通過を許容する微小な孔を有する多孔質膜である。例えば、半透膜165は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などのフッ素樹脂からなる。これにより、貯留部80の内部空間81に貯留されたインク90は、半透膜165によって阻まれて、大気連通路161及び大気開放口88を介して貯留部80の外部へ流出しない。一方、空気は、貯留部80の気体層と外部との間を自由に移動できる。
【0109】
大気連通路161は、大気開放口88を閉塞する半透膜165を有しているが、ラビリンス構造164を有していなくてもよい。このように大気連通路161は、ラビリンス構造164又は半透膜165の少なくともいずれか一方を有するものであってもよい。
【0110】
上記実施形態では、大気開放口88にバルブユニットは設けられていないが、大気開放口88にバルブユニットが設けられていてもよい。このバルブユニットは、貯留部80の気体層と外部とを連通状態と閉塞状態に切り換える。この変形例では、ノズル39の内径dと水頭差hとを式(1)が満たすように決定されれば、バルブユニットが開放状態にあるときに、ノズル39の開口に形成されたメニスカスは維持される。
【符号の説明】
【0111】
10・・・複合機(液体吐出装置)
38・・・ヘッド
39・・・ノズル
40・・・キャリッジ
80・・・貯留部
88・・・大気開放口
90・・・インク(液体)
151・・・チューブ(液体流路)
161・・・大気連通路(気体流路)
164・・・ラビリンス構造
165・・・半透膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11