(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152172
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】燃料合成装置
(51)【国際特許分類】
C10L 1/02 20060101AFI20221004BHJP
B01J 23/63 20060101ALN20221004BHJP
B01J 23/80 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C10L1/02
B01J23/63 Z
B01J23/80 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054845
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】米田 英昭
【テーマコード(参考)】
4G169
4H013
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BA02B
4G169BB02B
4G169BB04B
4G169BC31B
4G169BC35B
4G169BC43B
4G169BC71B
4G169BC72B
4G169BC75B
4G169CB02
4H013BA01
4H013BA02
(57)【要約】
【課題】内燃機関10とともに燃料合成装置1を配置する場合に、水素供給部40の小型化を図るとともに内燃機関10の燃焼効率を高める。
【解決手段】内燃機関10とともに配置される燃料合成装置1であって、内燃機関10の排気を浄化する浄化触媒20と、浄化触媒20を通過した二酸化炭素と水素とを化学反応させる燃料合成触媒30を具備し燃料を生成する触媒反応器31と、触媒反応器31に電場を印加する電場印加部35と、触媒反応器31に水素を供給する水素供給部40と、触媒反応器31から排出される気体を酸素と酸素以外の気体とに分離するガス分離部60と、ガス分離部60と吸気系11とに接続される酸素還流通路65と、電場印加部35により触媒反応器31に電場を印加させ、触媒反応器31において発生した酸素を酸素還流通路65を介して吸気系11に還流させる制御を行うECU90と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気系及び排気系に接続される内燃機関とともに配置される燃料合成装置であって、
前記内燃機関の前記排気系への排気を浄化する浄化触媒と、
前記浄化触媒を通過した二酸化炭素と水素とを化学反応させる燃料合成触媒を具備し、燃料を生成する触媒反応器と、
前記触媒反応器に水素を供給する水素供給部と、
前記触媒反応器に対して電場を印加する電場印加部と、
前記触媒反応器から排出される気体を酸素と酸素以外の気体とに分離するガス分離部と、
前記ガス分離部と前記内燃機関の前記吸気系とに接続される酸素還流通路と、
前記電場印加部により前記触媒反応器に電場を印加させ、前記触媒反応器において発生した前記酸素を前記酸素還流通路を介して前記吸気系に還流させる制御を行う制御部と、を有することを特徴とする燃料合成装置。
【請求項2】
前記内燃機関の暖機状態を検出する暖機状態検出部と、
前記酸素還流通路に配置され、前記吸気系に還流させる酸素の流量を調整する酸素流量調整弁と、を有し、
前記制御部は、前記暖機状態検出部における検出値に基づいて前記酸素流量調整弁を調整することを特徴とする請求項1に記載の燃料合成装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記暖機状態検出部における検出値が高いほど、前記酸素流量調整弁の弁開度が大きくなるように制御することを特徴とする請求項2に記載の燃料合成装置。
【請求項4】
前記内燃機関の暖機状態を検出する暖機状態検出部と、を有し、
前記制御部は、前記暖機状態検出部における検出値に基づいて前記水素供給部からの水素の供給量を調整することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料合成装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記暖機状態検出部における検出値が低いほど、前記水素供給部からの水素の供給量が多くなるように制御することを特徴とする請求項4に記載の燃料合成装置。
【請求項6】
前記内燃機関に燃料を供給する燃料供給部と、
前記触媒反応器から排出された流体の気液を分離する気液分離部と、
前記気液分離部において液相に分離された燃料を、前記燃料供給部に導入する燃料導入通路と、を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料合成装置。
【請求項7】
前記燃料導入通路に配置され、前記気液分離部によって分離された前記液相に含まれる前記燃料及び水から前記水を分離する水分離部を有することを特徴とする請求項6に記載の燃料合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素及び二酸化炭素より燃料を合成する燃料合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素と二酸化炭素を混合し、触媒を有する反応器(触媒反応器)を通過させることで、燃料を合成する技術がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、内燃機関より排出された排気中の二酸化炭素(CO2)をいったん吸着した後、当該二酸化炭素を脱離させる。脱離された二酸化炭素は、別途供給された水素と混合されて、圧縮機で昇圧された後、触媒を有する反応器に入れられる。反応器を通過した流体は、気液分離により、燃料が取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような燃料合成装置を車両に搭載し、内燃機関の排気を浄化させて得られた二酸化炭素(CO2)からメタノール(CH3OH)を合成しようとする場合、還元剤の水素(H2)も同時に搭載する必要がある。このため、合成するメタノールの量を増加させたい場合、水素供給部である水素タンクの大きさも大きくする必要があり、装置の大型化につながるという問題がある。また、内燃機関の動力にて走行する車両において、内燃機関の燃焼効率を上げることは課題となる。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、内燃機関とともに燃料合成装置を配置する場合に、水素供給部の小型化を図るとともに内燃機関の燃焼効率を高めることのできる燃料合成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、吸気系(11)及び排気系(12)に接続される内燃機関(10)とともに配置される燃料合成装置(1)であって、前記内燃機関の前記排気系への排気を浄化する浄化触媒(20)と、前記浄化触媒を通過した二酸化炭素と前記水素供給部から供給される前記水素とを化学反応させる燃料合成触媒(30)を具備し、燃料を生成する触媒反応器(31)と、前記触媒反応器に対して電場を印加する電場印加部(35)と、前記触媒反応器に水素を供給する水素供給部(40)と、前記触媒反応器から排出される気体を酸素とその他の気体とに分離するガス分離部(60)と、前記ガス分離部と前記内燃機関の前記吸気系とに接続される酸素還流通路(65)と、前記電場印加部により前記触媒反応器に電場を印加させ、前記触媒反応器において発生した前記酸素を前記酸素還流通路を介して前記吸気系に還流させる制御を行う制御部(ECU90)と、を有することを特徴とする。
【0007】
このように、電場印加部が燃料合成触媒へ電場を印加することで、化学反応が促進し、酸素が生成される。この酸素を酸素還流通路を介して内燃機関の吸気系に還流させることで、燃焼効率を向上させることができる。また、電場印加部が燃料合成触媒に電場を印加することで、水蒸気改質反応が促進され、水素の製造が促進される。これにより、水素を貯蔵する水素供給部を大きくする必要がなくなり、水素タンクの小型化を図ることができる。よって、内燃機関とともに燃料合成装置を配置する場合に、水素タンクの小型化を図るとともに内燃機関の燃焼効率を高めることのできる燃料合成装置を提供することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の燃料合成装置であって、前記内燃機関の暖機状態を検出する暖機状態検出部(70)と、前記酸素還流通路に配置され、前記吸気系に還流させる酸素の流量を調整する酸素流量調整弁(V65)と、を有し、前記制御部は、前記暖機状態検出部における検出値(T1)に基づいて前記酸素流量調整弁を調整することを特徴とする。
【0009】
このように、制御部が、暖機状態検出部における検出値に基づいて酸素流量調整弁を調整することとする。燃料合成触媒での酸素生成量は、暖機状態に応じて異なるため、暖機状態に応じて吸気系に還流させる酸素流量を調整すると、酸素の還流量を適切な量に調整することができる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の燃料合成装置であって、前記制御部は、前記暖機状態検出部における検出値が高いほど、前記酸素流量調整弁の弁開度が大きくなるように制御することを特徴とする。
【0011】
このように、制御部が、暖機状態検出部における検出値が高いほど酸素流量調整弁の弁開度が大きくなるように制御すると、暖機状態において多く生成された酸素を、吸気系に還流させることができる。このため、燃焼効率が向上する。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料合成装置であって、前記内燃機関の暖機状態を検出する暖機状態検出部(70)と、を有し、前記制御部は、前記暖機状態検出部における検出値に基づいて前記水素供給部からの水素の供給量を調整することを特徴とする。
【0013】
このように、制御部が、暖機状態検出部における検出値に基づいて水素供給部からの水素の供給量を調整する。暖機状態においては、内燃機関の排気に含まれる水が気体となることにより、電場が印加された燃料合成触媒が水素を多く生成するので、水素の量を適切な量に調整することで、水素供給部からの水素供給量を減らすことができる。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の燃料合成装置であって、前記制御部は、前記暖機状態検出部における検出値が低いほど、前記水素供給部からの水素の供給量が多くなるように制御することを特徴とする。
【0015】
このように、暖機状態検出部における検出値が低いほど、水素供給部からの水素の供給量が多くなるように制御する。暖機状態検出部における検出値が低い状態においては、内燃機関の排気に含まれる水が気体となりにくく、燃料合成触媒による水素の生成が行われにくいため、水素供給部からの水素供給量を多く供給することで、燃料合成触媒による燃料合成を適切に行うことができる。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料合成装置であって、前記触媒反応器から排出された流体の気液を分離する気液分離部(50)と、前記内燃機関に燃料を供給する燃料供給部(15)と、前記気液分離部において液相に分離された燃料を、前記燃料供給部に導入する燃料導入通路(55)と、を有することを特徴とする。
【0017】
このように、触媒反応器から排出された流体を気液分離部で分離し、気液分離部で分離された液相に含まれる燃料を燃料導入通路を介して燃料供給部に供給することとすれば、触媒反応器にて合成された燃料を内燃機関の燃料として有効利用することができる。
【0018】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の燃料合成装置であって、前記燃料導入通路に配置され、前記気液分離部によって分離された前記液相に含まれる前記燃料及び水から前記水を分離する水分離部(58)を有することを特徴とする。
【0019】
このように、燃料導入通路に水分離部を配置することで、気液分離部から分離された燃料と水の混合気体が、燃料導入通路を通過する過程において、燃料と水とに分離される。これにより、濃度の高い燃料を燃料供給部に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】内燃機関の熱間状態における燃料合成装置の状態を示す図である。
【
図3】内燃機関の冷間状態における燃料合成装置の状態を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る制御のフローチャートである。
【
図5】他の実施形態に係る燃料合成装置の全体構造を示す図である。
【
図6】他の実施形態に係る燃料合成装置の全体構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態の燃料合成装置1を詳細に説明する。なお、下記の説明において、上流側や下流側という用語は、説明対象となる装置に流れる流体の流れる方向における上流側と下流側を表す。
【0022】
図1を用いて、燃料合成装置1の概略構成を説明する。
図1は、燃料合成装置1の全体構造を示す図である。本実施形態の燃料合成装置1は、内燃機関10とともに配置され、燃料合成システムの一部を構成する。内燃機関10は、吸気系11及び排気系12に接続されるとともに、燃料供給部15に接続される。これらの構成により、内燃機関10には、空気と燃料が供給される。
【0023】
吸気系11は、上流側から導入される空気を、下流側の内燃機関10に供給する。排気系12は、内燃機関10からの排気が通過する。排気系12は、上流側から下流側の順に、配管12aと、配管12b、配管12c、配管12d、配管12eを有する。配管12aは、内燃機関10と直接接続される配管である。燃料供給部15は、内燃機関10に燃料を供給する燃料タンクである。
【0024】
燃料合成装置1は、水素(H2)及び二酸化炭素(CO2)より燃料を合成する。燃料合成装置1は、内燃機関10の排気系12において、浄化触媒20を具備する触媒容器21と、燃料合成触媒30を具備する触媒反応器31と、水素供給部40と、気液分離部50と、ガス分離部60とを有する。
【0025】
燃料合成装置1は、内燃機関10各部に流体を還流させる、複数の通路を有する。具体的には、気液分離部50において液相に分離された燃料を燃料供給部15に導入する燃料導入通路55と、ガス分離部60において分離された酸素を吸気系11に導入する酸素還流通路65と、を有する。なお、燃料合成装置1は、これらの通路外に、ECU90(Electronic Control Unit)を有する。ECU90は、各通路に配置される各種センサの値に基づいて、調整弁等の燃料合成装置1の各部の制御を行う。
【0026】
次に、燃料合成装置1の各部を詳細に説明する。触媒容器21は、浄化触媒20を担持するコンバータ等の容器である。触媒容器21の上流側は、配管12aに接続され、触媒容器21の下流側は、配管12bに接続される。
【0027】
浄化触媒20は、内燃機関10の排気系12への排気を浄化する三元触媒である。三元触媒は、排ガス中の主要な有害物質である炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を、酸化・還元反応により窒素、水、二酸化炭素等に変換して排気ガスを無害化する。浄化触媒20には、例えば、プラチナ、パラジウム、ロジウム等の材料により構成される三元触媒を適用することができる。浄化触媒20は、コンバータ等の触媒容器21内に担持される。
【0028】
触媒反応器31は、燃料合成触媒30及び電場印加部35を具備し、上流側から流入する二酸化炭素と水素とを化学反応させて、燃料を生成する筒である。触媒反応器31の上流側は、配管12bに接続され、触媒反応器31の下流側は、配管12cに接続される。触媒反応器31には、浄化触媒20を通過した二酸化炭素及び水素が上流側の配管12bから供給される。または、触媒反応器31には、配管12bを通過した二酸化炭素と水素供給部40から供給される水素とが供給される。このように、触媒反応器31内において所定比で化学反応させることにより、二酸化炭素を還元するとともにメタノール(CH3OH)を合成する。
【0029】
燃料合成触媒30は、二酸化炭素還元触媒であり、二酸化炭素及び水素の存在下において二酸化炭素を還元するとともにメタノール(燃料)を生成する二酸化炭素の水素化反応を促進する。二酸化炭素還元触媒としては、例えば、アルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)等の酸化物からなる担体に、銅(Cu)や亜鉛(Zn)等の遷移金属からなる触媒金属が担持された銅-亜鉛酸化物系触媒等の既知のものが用いられる。また、本実施形態では、電場印加部35による電場の印加が可能であるので、二酸化炭素還元触媒として、ロジウムや白金、パラジウムを微量セリア担体に担持したものを用いることができる。
【0030】
燃料合成触媒30による燃料合成の過程は、周知の技術を用いて行うことができる。例えば、触媒反応器31内における二酸化炭素と水素の比が所定比になるように計量した水素を、H2インジェクタから触媒反応器31内に噴射し、さらに、不図示の圧縮機や加熱器によって触媒反応器31内のガスを昇温、圧縮する。これにより、触媒反応器31内では燃料合成触媒30の作用下で、二酸化炭素の水素化反応(下記式(1)参照)が進行し、メタノールが生成される。また同時に、この二酸化炭素還元触媒の作用により、逆水性ガスシフト反応(下記式(2)参照)、及び一酸化炭素の水素化反応(下記式(3)参照)も進行し、メタノールを含む合成ガスが生成される。
CO2+3H2→CH3OH+H2O …(1)
CO2+H2→CO+H2O …(2)
CO+2H2→CH3OH …(3)
【0031】
電場印加部35は、燃料合成触媒30を挟むように配置された一対の電極に対して、静的な微小電流によって発生する電場を燃料合成触媒30に印加する。電場印加部35が触媒反応器31の燃料合成触媒30に電場を印加することにより、150℃程度の低温でもメタノール合成反応が進行する。なお、メタノール合成反応を行う温度は、これに限るものではない。
【0032】
水素供給部40は、水素(H2)を貯蔵するタンクである。水素供給部40は、水素流量調整弁V40を付帯した水素配管を有する。水素配管の下流端は、触媒反応器31に接続される。水素流量調整弁V40の弁開度の制御は、ECU90が行う。これにより、水素供給部40からは、水素の流量が調整されながら、水素が触媒反応器31に供給される。
【0033】
気液分離部50は、触媒反応器31から排出された流体の気液を分離する。具体的には、気液分離部50は、触媒反応器31から排出される合成ガスを熱交換によって凝縮することにより、メタノール(CH3OH)を主成分とする液相を回収し、これを、燃料導入通路55に導入する。この場合、液相には、水(H2O)も含まれる。一方、気液分離部50にて分離された気相には、酸素(O2)や一酸化炭素(CO)、未反応の二酸化炭素及び窒素(N2)が含まれる。気液分離部50の上流側は、配管12cに接続され、気液分離部50の下流側は、配管12dに接続される。
【0034】
燃料導入通路55は、気液分離部50において液相に分離されたメタノールを燃料として燃料供給部15に導入する。燃料導入通路55には、気液分離部50によって分離された液相に含まれる前記燃料及び水から、水を分離する水分離部58が配置される。水分離部58は、水を通しメタノールを通さない分離膜などを用いることができるが、これに限るものではない。水分離部58によって分離された水は、配管56を介して燃料合成装置1外に排出される。
【0035】
ガス分離部60は、触媒反応器31から排出される気体を酸素と酸素以外の気体とに分離する。ガス分離部60は、酸素を透過する分離膜などを用いることができるが、これに限るものではない。ガス分離部60の上流側は、配管12dに接続され、ガス分離部60の下流側は、配管12eに接続される。ガス分離部60にて分離された酸素は、酸素還流通路65に導入され、酸素以外の気体は配管12eに排出される。
【0036】
酸素還流通路65は、酸素の流れる方向における上流側がガス分離部60に接続され、酸素の流れる方向における下流側が内燃機関10の吸気系11に接続される。この構成により、ガス分離部60にて分離された酸素は、吸気系11に供給される。また、酸素還流通路65には、吸気系11に還流させる酸素の流量を調整する酸素流量調整弁V65が配置される。酸素流量調整弁V65の弁開度を調整することで、酸素還流通路65に導入された酸素の吸気系11への供給量を調整することができる。酸素流量調整弁V65の弁開度の制御は、ECU90が行う。
【0037】
暖機状態検出部70は、触媒反応器31の上流側の配管12bに配置される温度センサである。暖機状態検出部70は、内燃機関10の暖機状態を検出する。暖機状態は、配管12bを通過する水が気体となり得る状態である熱間状態と、配管12bを通過する水が液体となる状態である冷間状態とに分けられる。内燃機関10の暖機状態を検出するため、本実施形態においては、暖機状態検出部70は、触媒容器21の下流側で触媒反応器31の上流側の配管12bを通過する流体の温度を検出値T1として検出する。内燃機関10が熱間状態であるか冷間状態であるかの判断基準は、適宜設定することができる。例えば、暖機状態検出部70における検出値T1が所定の閾値Tt以上(T1≧Tt)であれば熱間状態であり、暖機状態検出部70における検出値T1が所定の閾値Tt未満(T1<Tt)であれば冷間状態であるとしてもよい。
【0038】
ECU90は、上述の暖機状態検出部70等の各種センサの検出値を信号にて受信する。これらの信号に基づいて、ECU90は、水素流量調整弁V40の弁開度、酸素流量調整弁V65の弁開度、電場印加部35により印加する電場の強さ等を制御する。なお、ECU90が受信する検出信号の種類や、ECU90が制御する対象となる機器は、本実施形態のものに限るものではない。また、ECU90は、燃料合成装置1内に付帯される不図示のセンサの検出信号を受信するとともに、圧縮機、加熱器、気液分離部50等、燃料合成装置1の各部を制御する。
【0039】
次に、
図2及び
図3を参照して、内燃機関10の暖機状態と燃料合成装置1の制御との関係を説明する。
図2は、内燃機関10の熱間状態における燃料合成装置1の状態を示す図である。
図3は、内燃機関10の冷間状態における燃料合成装置1の状態を示す図である。
【0040】
図2に示すように、内燃機関10の暖機状態が熱間状態である場合、内燃機関10から排出される排ガス中に含まれる水で、触媒反応器31の上流側に接続される配管12bを流れる水は、気体の状態であることが多くなる。このため、気体の水が電場印加部35により電場が印加された燃料合成触媒30(電場触媒)を通過すれば、水蒸気改質反応が促進され水素が生成される。また、この過程で酸素が生成される。生成された酸素は、気液分離部50で気相に分離され、ガス分離部60で酸素還流通路65に導入される。ここで、酸素流量調整弁V65が開けられれば、酸素が吸気系11に供給される。また、上述のように、内燃機関10が熱間状態であり、燃料合成触媒が、電場触媒となっているときは、水素が生成される。これにより、水素供給部40からの水素供給量を減らすことができる。なお、内燃機関が熱間状態のときは、気液分離部50にて分離された液相中の水が少なくなるため、水分離部58にて分離される水の量は少なくなる。
【0041】
図3に示すように、内燃機関10の暖機状態が冷間状態である場合、内燃機関10から排出される排ガス中に含まれる水で、触媒反応器31の上流側に接続される配管12bを流れる水は、液体の状態であることが多くなる。液体の水は、電場印加部35により電場が印加された燃料合成触媒30(電場触媒)を通過しても、酸素が生成されない。このため、酸素還流通路65には酸素が流れない。また、液体の水は、電場触媒を通過しても水素が生成されないことから、水素供給部40からの水素供給量を増やすために水素流量調整弁V40を開ける。
【0042】
上述の構成の燃料合成装置1の制御について、
図4を用いて説明する。
図4は、本実施形態に係る制御のフローチャートである。本制御は、暖機状態検出部70の検出値に基づいて、ECU90が、水素流量調整弁V40、電場印加部35、酸素流量調整弁V65に対して行う。より具体的には、ECU90は、電場印加部35により触媒反応器31に電場を印加させ、触媒反応器31において発生した酸素を酸素還流通路65を介して吸気系11に還流させる制御を行う。
【0043】
ECU90が、本制御を開始すると、ECU90は、内燃機関10の暖機状態を把握するため、暖機状態検出部70によって、暖機状態を検出する(ステップS01)。具体的には、暖機状態検出部70が、配管12bにおける流体の温度を検出値T1として検出する。次に、ECU90は、内燃機関10の暖機状態が熱間状態か否かを判断する(ステップS02)。
【0044】
ステップS02において、暖機状態が熱間状態であると判断した場合、ECU90は、暖機状態検出部70における検出値T1に基づいて水素供給部40からの水素の供給量を調整する。具体的には、暖機状態検出部70における検出値T1が高いほど、水素流量調整弁V40の弁開度を減少させる(ステップS03)。ここで、水素流量調整弁V40の弁開度を減少させることは弁開度を0にする(弁を閉じる)ことも含まれる。さらに、熱間状態においては、ECU90は、電場印加部35による燃料合成触媒30に対する電場の印加を継続し(ステップS04)、酸素流量調整弁V65を開ける(ステップS05)。ここで、ECU90は、酸素流量調整弁V65の弁開度を、暖機状態検出部70における検出値T1に基づいて調整する。具体的には、暖機状態検出部70における検出値T1が高いほど、酸素流量調整弁V65の弁開度が大きくなるように制御する。
【0045】
ステップS02において、暖機状態が冷間状態であると判断した場合、ECU90は、暖機状態検出部70における検出値T1に基づいて水素供給部40からの水素の供給量を調整する。具体的には、暖機状態検出部70における検出値T1が低いほど、水素流量調整弁V40の弁開度を増加させる(ステップS06)さらに、冷間状態においては、ECU90は、電場印加部35による燃料合成触媒30に対する電場の印加を継続し(ステップS07)、酸素流量調整弁V65を閉じる(ステップS08)。
【0046】
以上のように、ECU90は、水素流量調整弁V40、酸素流量調整弁V65及び電場印加部35の制御を行う。なお、上述の制御は、燃料合成装置1の運転中に継続して行われる。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、電場印加部35が燃料合成触媒30へ電場を印加することで、化学反応が促進し、酸素が生成される。この酸素を酸素還流通路65を介して内燃機関10の吸気系11に還流させることで、燃焼効率を向上させることができる。また、電場印加部35が燃料合成触媒30に電場を印加することで、水蒸気改質反応が促進され、水素の製造が促進される。これにより、水素を貯蔵する水素供給部40を大きくする必要がなくなり、水素タンクの小型化を図ることができる。よって、内燃機関10とともに燃料合成装置1を配置する場合に、水素タンクの小型化を図るとともに内燃機関10の燃焼効率を高めることのできる燃料合成装置1を提供することができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、ECU90が、暖機状態検出部70における検出値T1に基づいて酸素流量調整弁V65を調整する。燃料合成触媒30での酸素生成量は、暖機状態に応じて異なるため、暖機状態に応じて吸気系11に還流させる酸素流量を調整すると、酸素の還流量を適切な量に調整することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、ECU90が、暖機状態検出部70における検出値T1が高いほど酸素流量調整弁V65の弁開度が大きくなるように制御する。これにより、暖機状態において多く生成された酸素を、吸気系11に還流させることができる。このため、燃焼効率が向上する。
【0050】
また、本実施形態によれば、ECU90が、暖機状態検出部70における検出値T1に基づいて水素供給部40からの水素の供給量を調整する。暖機状態においては、内燃機関10の排気に含まれる水が気体となることにより、電場が印加された燃料合成触媒30が水素を多く生成するので、水素の量を適切な量に調整することで、水素供給部40からの水素供給量を減らすことができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、暖機状態検出部70における検出値T1が低いほど、水素供給部40からの水素の供給量が多くなるように制御する。暖機状態検出部70における検出値T1が低い状態(冷間状態)においては、内燃機関10の排気に含まれる水が気体となりにくく、燃料合成触媒30による水素の生成が行われにくいため、水素供給部40からの水素供給量を多く供給することで、燃料合成触媒30による燃料合成を適切に行うことができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、触媒反応器31から排出された流体を気液分離部50で分離し、気液分離部50で分離された液相に含まれる燃料を燃料導入通路55を介して燃料供給部15に供給する。これにより、触媒反応器31にて合成された燃料を内燃機関10の燃料として有効利用することができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、燃料導入通路55に水分離部58を配置することで、気液分離部50から分離された燃料と水の混合気体が、燃料導入通路55を通過する過程において、燃料と水とに分離される。これにより、濃度の高い燃料を燃料供給部15に供給することができる。
【0054】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
図5及び
図6は、他の実施形態に係る燃料合成装置の全体構造を示す図である。
【0055】
図5に示すように、気液分離部50で分離された気相のうち、ガス分離部60で分離された酸素以外の気体を触媒反応器31の上流側に還流させる気相還流通路81を配置した燃料合成装置2としてもよい。気液分離部50で分離された気相には、水素の素となる水が含まれる。このため、暖機状態が熱間状態である場合に、電場触媒を有する触媒反応器31の上流側に水を導くことで、触媒反応器31にて水素が生成される。これにより、水素供給部40からの水素の供給量を減らすことができる。
【0056】
図6に示すように、燃料導入通路55配置される水分離部58にて分離された水を触媒反応器31の上流側に還流させる水還流通路82を配置した燃料合成装置3としてもよい。暖機状態が熱間状態である場合に、電場触媒を有する触媒反応器31の上流側に水を導き気化させることで、触媒反応器31にて水素が生成される。これにより、水素供給部40からの水素の供給量を減らすことができる。
【0057】
なお、前述の実施形態は、各実施形態に限定されることなく、組み合わせ可能な範囲において、適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…燃料合成装置
10…内燃機関
11…吸気系
12…排気系
15…燃料供給部
20…浄化触媒
30…燃料合成触媒
31…触媒反応器
35…電場印加部
40…水素供給部
50…気液分離部
55…燃料導入通路
58…水分離部
60…ガス分離部
65…酸素還流通路
70…暖機状態検出部
90…ECU(制御部)
T1…検出値
V65…酸素流量調整弁