(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022154838
(43)【公開日】2022-10-13
(54)【発明の名称】管体の異常検知プログラム及び異常検知方法、並びに、情報処理装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20221005BHJP
F22B 37/38 20060101ALI20221005BHJP
【FI】
G05B23/02 R
F22B37/38 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021058074
(22)【出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100189201
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 功
(72)【発明者】
【氏名】及川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】笠嶋 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英司
(72)【発明者】
【氏名】中尾 学
(72)【発明者】
【氏名】宗 美佐子
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA02
3C223AA17
3C223BA01
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF15
3C223FF35
3C223GG01
3C223HH02
(57)【要約】
【課題】管体の異常検知精度を向上させる。
【解決手段】複数の管体のそれぞれにおける複数の測定箇所の第1温度に基づいて、前記複数の管体のそれぞれの第2温度Tiを算出し、第1の時点における前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度Tiに基づき取得される前記複数の管体全体の第3温度Tに基づき、前記第1の時点における前記複数の管体全体の運転状態が定常状態及び過渡状態のうちのいずれの状態であるかを判定し、前記定常状態であると判定した運転状態の前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度Tiを、前記複数の管体の異常を検知する異常検知処理の処理対象に決定する、処理をコンピュータに実行させる。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の管体のそれぞれにおける複数の測定箇所の第1温度に基づいて、前記複数の管体のそれぞれの第2温度を算出し、
第1の時点における前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度に基づき取得される前記複数の管体全体の第3温度に基づき、前記第1の時点における前記複数の管体全体の運転状態が定常状態及び過渡状態のうちのいずれの状態であるかを判定し、
前記定常状態であると判定した運転状態の前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記複数の管体の異常を検知する異常検知処理の処理対象に決定する、
処理をコンピュータに実行させる、管体の異常検知プログラム。
【請求項2】
前記複数の管体のそれぞれにおける前記複数の測定箇所が含まれるように設置された光ファイバにより測定された、前記複数の管体のそれぞれにおける前記複数の測定箇所の前記第1温度を取得する、
処理を前記コンピュータに実行させる、請求項1に記載の管体の異常検知プログラム。
【請求項3】
前記判定する処理は、前記第3温度が所定の温度範囲内である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する処理を含む、
請求項1又は請求項2に記載の管体の異常検知プログラム。
【請求項4】
前記判定する処理は、前記第3温度の時間変動の大きさが閾値以下である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する処理を含む、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の管体の異常検知プログラム。
【請求項5】
前記判定する処理は、前記第1の時点よりも過去の1以上の時点における前記第3温度がいずれも所定の温度範囲内である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する処理を含む、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の管体の異常検知プログラム。
【請求項6】
前記判定する処理を、複数の時点のそれぞれにおいて実行する、
処理を前記コンピュータに実行させ、
前記決定する処理は、前記第1の時点と前記第1の時点よりも過去の時点とを含む連続する所定数の時点のそれぞれにおける運転状態が前記定常状態であると判定した場合、前記所定数の時点のそれぞれにおける前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記処理対象に決定する処理を含む、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の管体の異常検知プログラム。
【請求項7】
複数の管体のそれぞれにおける複数の測定箇所の第1温度に基づいて、前記複数の管体のそれぞれの第2温度を算出し、
第1の時点における前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度に基づき取得される前記複数の管体全体の第3温度に基づき、前記第1の時点における前記複数の管体全体の運転状態が定常状態及び過渡状態のうちのいずれの状態であるかを判定し、
前記定常状態であると判定した運転状態の前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記複数の管体の異常を検知する異常検知処理の処理対象に決定する、
処理をコンピュータが実行する、管体の異常検知方法。
【請求項8】
複数の管体のそれぞれにおける複数の測定箇所の第1温度に基づいて、前記複数の管体のそれぞれの第2温度を算出し、
第1の時点における前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度に基づき取得される前記複数の管体全体の第3温度に基づき、前記第1の時点における前記複数の管体全体の運転状態が定常状態及び過渡状態のうちのいずれの状態であるかを判定し、
前記定常状態であると判定した運転状態の前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記複数の管体の異常を検知する異常検知処理の処理対象に決定する、
制御部を備える、情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管体の異常検知プログラム及び異常検知方法、並びに、情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電等に利用される各種ボイラにおいて、高温及び高圧の流体が通過するボイラ管等の管体で発生する噴破等の異常を検知することが重要である。例えば、ボイラ管の温度に基づきボイラ管の異常検知を行なう技術が知られている。
【0003】
火力発電の運用パターンには、毎日発停運転(DSS;Daily Start and Stop)又は毎週発停運転(WSS;Weekly Start and Stop)のように、所定のタイミングでボイラの起動及び終了(停止)が行なわれる運用パターンが存在する。DSS又はWSSにおけるボイラの起動及び終了、換言すれば運転状態の変化は、ボイラ管の温度変化を生じさせる。
【0004】
このため、停止状態からボイラが起動するまで、及び、起動状態からボイラが停止するまで、の各過渡状態において、ボイラ管の温度に基づきボイラ管の異常検知を行なう技術では、異常が誤検出される場合がある。
【0005】
そこで、ボイラの運転状態を判別して、ボイラ管の温度に基づき異常検知を行なう手法が知られている。当該手法では、例えば、コンピュータは、ボイラ管の正常期間に計測された計測データから診断モデルを生成し、正常状態(定常状態)と過渡状態とを判別して、正常状態及び過渡状態のうちの正常状態のみにおけるボイラ管の温度に基づき、異常検知を行なう。これにより、過渡状態における誤検出を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06-137509号公報
【特許文献2】特開2018-132240号公報
【特許文献3】特開2016-42005号公報
【特許文献4】特開2015-7509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した手法は、ガス又は熱交換器のメタル温度、流量等を計測する多種多様なセンサを利用して、ボイラの運転状態を判別する。
【0008】
このため、上述した多種多様なセンサの利用が制限される(例えば利用できない)環境では、ボイラの運転状態を判別することが困難となり、上述した正常状態のみにおけるボイラ管の異常検知を行なうことが困難となる。
【0009】
1つの側面では、本発明は、管体の異常検知精度を向上させることを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの側面では、管体の異常検知プログラムは、コンピュータに、以下の処理を実行させてよい。前記処理は、複数の管体のそれぞれにおける複数の測定箇所の第1温度に基づいて、前記複数の管体のそれぞれの第2温度を算出する処理を含んでよい。前記処理は、第1の時点における前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度に基づき取得される前記複数の管体全体の第3温度に基づき、前記第1の時点における前記複数の管体全体の運転状態が定常状態及び過渡状態のうちのいずれの状態であるかを判定する処理を含んでよい。前記処理は、前記定常状態であると判定した運転状態の前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記複数の管体の異常を検知する異常検知処理の処理対象に決定する処理を含んでよい。
【発明の効果】
【0011】
1つの側面では、本発明は、管体の異常検知精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係るシステムの機能構成例を示すブロック図である。
【
図2】ボイラの断面図の一例と、ボイラの天井部の一例とを示す図である。
【
図3】ボイラ管に設置した光ファイバの一例を示す図である。
【
図4】光ファイバの測定結果の一例を示す図である。
【
図5】ボイラ管ごとの温度算出処理の一例を説明するための図である。
【
図6】温度データ格納データベース(DB)の一例を示す図である。
【
図7】ボイラの運転状態を示す温度の算出処理の一例を説明するための図である。
【
図8】ボイラの運転状態の推定処理の一例を説明するための図である。
【
図10】複数のボイラ管の異常検知処理を説明するための図である。
【
図11】一実施形態に係る異常検知装置による処理の動作例を説明するためのフローチャートである。
【
図12】異常検知装置の機能を実現するコンピュータのハードウェア(HW)構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形又は技術の適用を排除する意図はない。例えば、本実施形態を、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。なお、以下の説明で用いる図面において、同一符号を付した部分は、特に断らない限り、同一若しくは同様の部分を表す。
【0014】
〔1〕一実施形態
〔1-1〕機能構成例
図1は、一実施形態に係るシステム1の機能構成例を示すブロック図である。システム1は、管体の異常検知を行なう異常検知システム又は情報処理システムの一例であり、
図1に示すように、例示的に、異常検知装置2、及び、ボイラ3を備えてよい。なお、システム1は、複数のボイラ3を備えてもよい。
【0015】
ボイラ3は、異常検知を含む監視対象の機器又は装置の一例である。ボイラ3は、例えば、高温及び高圧の流体が通過するボイラ管を備え、燃料を燃焼させて得た熱を流体に伝える熱交換器を有する機器又は装置であり、例えば、火力発電所、船舶、ビル、ホテル等の種々の施設に設けられてよい。ボイラ管は、例えば、金属管等の管(配管)であり、異常検知の対象となる管体の一例である。一実施形態に係るボイラ3は、複数のボイラ管を備えてよい。
【0016】
異常検知装置2は、コンピュータ又は情報処理装置の一例であり、例えば、異常検知の対象となる(複数の)管体の異常検知処理を実行するサーバであってよい。
【0017】
異常検知装置2は、例示的に、温度計測部21、ボイラ管温度算出部22、温度データ格納データベース(DB)23、全体温度算出部24、運転状態推定部25、運転状態格納DB26、異常検知部27、及び、異常検知結果出力部28を備えてよい。温度計測部21、ボイラ管温度算出部22、全体温度算出部24、運転状態推定部25、異常検知部27、及び、異常検知結果出力部28は、制御部20の一例である。
【0018】
以下、便宜上、温度データ格納DB23及び運転状態格納DB26のそれぞれをテーブル形式で表記するが、これに限定されるものではなく、温度データ格納DB23及び運転状態格納DB26の一方又は双方は、DB形式又は配列等の種々の形式で異常検知装置2の記憶装置に格納されてよい。
【0019】
(温度計測部21の説明)
温度計測部21は、ボイラ3における複数のボイラ管体のそれぞれにおける複数の測定箇所の温度(第1温度)を測定(取得)する。
【0020】
例えば、温度計測部21は、複数のボイラ管体のそれぞれにおける複数の測定箇所のそれぞれの温度を計測するための温度センサを備えてよい。或いは、温度計測部21は、温度センサにより計測された温度を取得(例えば受信)するための通信機能を備えてもよい。
【0021】
温度センサとしては、例えば、光ファイバが挙げられる。なお、温度センサとしては、温度を計測可能な種々のセンシング機器が用いられてもよい。また、異常検知装置2は、温度計測部21に加えて、他の種々のセンサにより測定される物理量を利用してもよいが、一実施形態では、多種多様なセンサの利用が制限される環境においてもシステム1を適用できることを想定し、温度計測部21により計測される温度を利用するものとする。
【0022】
図2は、ボイラ3の断面図の一例と、ボイラ3の天井部30の一例とを示す図である。
図2の紙面左側に示すように、ボイラ3は、例示的に、燃焼室31、バーナ32、過熱器33、再熱器34、ボイラ管35、及び、節炭器36を備えてよい。バーナ32は、燃料を燃焼室31中に拡散させることにより混合して高温で燃焼させる。過熱器33は、バーナ32により発生した飽和蒸気を加熱させる。再熱器34は、蒸気をタービンに送る。ボイラ管35は、流体を通過させる。節炭器36は、ボイラ管35を通過する流体を加熱する。
【0023】
ここで、ボイラ管35は、ボイラ3における天井部分の空間である天井部30に延在する。
図2の紙面右側は、ボイラ3の天井部30を矢印Aの方向から見た矢視図である。
図2の紙面右側に示すように、天井部30には、ボイラ3の天井部分を区画するとともにボイラ管35が貫通する隔壁37、及び、複数のボイラ管35を集合及び分配する管寄せ38が設けられてよい。
【0024】
ここで、ボイラ3の運転時(稼働時)、換言すれば運転状態が正常状態(定常状態)である場合、異常を検出する対象となるボイラ管35の温度と、当該ボイラ管35に隣接した天井部30のボイラ管35の管内温度とは均一となる。
図2の紙面右側の例では、ボイラ管35の温度(例えば表面温度)は、600度程度となる。なお、ボイラ3の内部(隔壁37よりも下部)の空間の温度は、1000度程度に達することがある。一方、天井部30の空間の温度は、隔壁37を挟むことで400度程度に低下する。
【0025】
そこで、一実施形態では、
図2の紙面右側に示すように、複数のボイラ管35のそれぞれにおける複数の測定箇所が含まれるように、光ファイバ21aが設置されてよい。
図2では、1本の光ファイバ21aが、ボイラ管35の軸方向に沿って4本のボイラ管35に亘って設置される例を示すが、これに限定されるものではない。例えば、ボイラ管35の本数は、4本未満又は5本以上であってもよいし、光ファイバ21aの本数は、2本以上であってもよい。
【0026】
光ファイバ21aによる温度計測の手法としては、既知の種々の手法が利用されてよい。一例として、光ファイバ21aに入射したパルス光の各地点での散乱光(例えばラマン散乱光)のスペクトルと応答時間とを用いて各地点の温度を測定する、多点温度測定技術を利用した手法が用いられてよい。当該手法によれば、例えば、数km以上の光ファイバ21a上の温度を10cm間隔で連続的に測定できる。また、ポイント式温度センサを利用するよりも低コストに温度計測を実現できる。
【0027】
なお、温度センサとして上述した光ファイバ21aが用いられる場合、温度センサは、光ファイバ21aにパルス光を入射する光源と、光ファイバ21aを伝播したパルス光又は戻り光を検出する検出器とを備えてよい。システム1、例えばボイラ3又は異常検知装置2には、温度センサが検出した光に含まれる散乱光のスペクトルと応答時間とに基づき各地点の温度を算出する制御装置、検出器の結果及び制御装置の算出結果をボイラ3及び異常検知装置2間で送受信する送信装置及び受信装置が備えられてよい。制御装置が異常検知装置2に備えられる場合、制御装置の機能は、例えば温度計測部21により実現されてよい。ボイラ3及び異常検知装置2間は、例えば、LAN(Local Area Network)等のネットワークを介して接続されてよい。また、検出器が異常検知装置2に備えられる場合、ボイラ3及び異常検知装置2間は、光ファイバ21aにより接続されてもよい。
【0028】
図3は、ボイラ管35に設置した光ファイバ21aの一例を示す図であり、
図4は、光ファイバ21aの測定結果の一例を示す図である。
【0029】
図3に示すように、ボイラ管35とその周囲の空間との間には温度差があり、天井部30では、周囲温度(400度)よりもボイラ管35の温度(600度)の方が高い。このため、光ファイバ21aをボイラ管35aからボイラ管35bに引き回す区間の近傍では、周囲温度の影響を受けて光ファイバ21aによる計測温度がなまる、例えば低下することがある。
【0030】
そこで、一実施形態では、
図4に例示するように、温度計測部21は、複数のボイラ管35のそれぞれにおいて、複数点(
図4の例では10点)で温度を測定する。以下の説明では、ボイラ管35を区別する場合、ボイラ管35a、35b、・・・、又は、ボイラ管#1、#2、・・・と表記する場合がある。
【0031】
図4では、
図3におけるボイラ管#1の点A~点Bの区間、及び、ボイラ管#2の点C~点Dの区間のそれぞれの位置(計測位置)に対応する光ファイバ21aの計測温度を白丸で示す。
図4に示すように、計測温度は、点A~点Bの区間の中間地点、及び、点C~点Dの区間の中間地点でそれぞれボイラ管35の実温度である600度に近くなる。また、計測温度は、点A~点Bの区間の端点、及び、点C~点Dの区間の端点に近くなるほど低下し、周囲温度である400度に近くなる。
【0032】
温度計測部21は、複数の時点(タイミング)、例えば時刻において、複数のボイラ管35のそれぞれにおける複数の測定箇所の温度を計測し、計測結果をボイラ管温度算出部22に出力してよい。
【0033】
(ボイラ管温度算出部22の説明)
図1の説明に戻り、ボイラ管温度算出部22は、温度計測部21により計測されたボイラ管35ごとの複数の測定箇所の温度(第1温度)に基づき、複数のボイラ管35のそれぞれの温度(第2温度)を算出し、算出した温度を温度データ格納DB23に格納する。
【0034】
図5は、ボイラ管35ごとの温度算出処理の一例を説明するための図である。
図5の符号(I)は、或る時刻tにおける光ファイバ21aの測定結果の一例を示し、符号(II)は、点A~点Bの区間の温度に基づくボイラ管#1の温度の算出例を示し、符号(III)は、点C~点Dの区間の温度に基づくボイラ管#2の温度の算出例を示す。以下の説明では、光ファイバ21aによる温度計測が行なわれる時刻(現在時刻)を時刻tとする。時刻tは、複数の時点のうちの第1の時点の一例である。
【0035】
例えば、ボイラ管温度算出部22は、時刻tで計測されたボイラ管35ごとの複数の温度に基づき、ボイラ管35ごとの平均の温度を算出してよい。上述したように、計測温度は、点A~点Bの区間の端点、及び、点C~点Dの区間の端点に近くなるほど低下する。
【0036】
そこで、ボイラ管温度算出部22は、例えば、ボイラ管35ごとの複数の温度に基づく代表温度を、ボイラ管35の温度として算出してよい。一例として、ボイラ管温度算出部22は、ボイラ管35ごとの複数の温度のうちの上位M点(Mは1以上の整数;
図5の例ではM=3)の温度の平均を、ボイラ管35の温度として算出してよい。
【0037】
図5の例では、ボイラ管温度算出部22は、時刻tにおける点A~点Bの区間の温度のうちの網掛けで示す上位3点(符号(I)参照)の平均を算出し、時刻tにおけるボイラ管#1の温度に決定する(符号(II)参照)。また、ボイラ管温度算出部22は、時刻tにおける点C~点Dの区間の温度のうちの網掛けで示す上位3点(符号(I)参照)の平均を算出し、時刻tにおけるボイラ管#2の温度に決定する(符号(III)参照)。ボイラ管#3(符号(IV)参照)以降についても同様である。
【0038】
図6は、温度データ格納DB23の一例を示す図である。温度データ格納DB23は、複数の時刻のそれぞれにおけるボイラ管35ごとの温度(平均温度)を格納する。
図6に示すように、温度データ格納DB23は、例示的に、「日時」、「ボイラ管番号」及び「ボイラ管温度」の項目を含んでよい。
【0039】
「日時」は、例えば、光ファイバ21aによる温度計測の時点(時刻)である。「ボイラ管番号」は、異常検知の対象となる複数のボイラ管35のそれぞれの識別情報の一例であり、例えば、ボイラ管35を識別する符号である#1~#L(Lは異常検知の対象となるボイラ管35の本数を示す整数)の番号1~Lが用いられてよい。「ボイラ管温度」は、ボイラ管温度算出部22が算出したボイラ管35ごとの温度(平均温度)である。
【0040】
例えば、温度データ格納DB23には、同一又は略同一の日時(
図6の例では1分単位で一致する日時)ごとに、ボイラ管#1~#Lのそれぞれの温度のセットが格納されてよい。例えば、
図5の符号(II)及び(III)に示すグラフは、ボイラ管35ごとに、温度データ格納DB23に含まれる最新の日時を時刻tとして、過去の複数の時点におけるボイラ管35の温度をプロットしたグラフである。
【0041】
(全体温度算出部24の説明)
図1の説明に戻り、全体温度算出部24は、温度データ格納DB23に格納された時刻tにおけるボイラ管温度に基づき、時刻tにおけるボイラ3の運転状態を示す温度Tを算出し、運転状態推定部25に出力する。
【0042】
ボイラ3の運転状態を示す温度Tとしては、例えば、複数のボイラ管35全体の温度(第3温度)が挙げられる。一例として、全体温度算出部24は、時刻tにおける複数のボイラ管35全体の平均温度を、複数のボイラ管35全体の温度として算出してよい。
【0043】
図7は、ボイラ3の運転状態を示す温度Tの算出処理の一例を説明するための図である。
図7の符号(II)及び(III)は、それぞれ、
図5の符号(II)及び(III)と同様に、時刻tにおけるボイラ管#1の温度、及び、時刻tにおけるボイラ管#2の温度を示す。符号(V)は、時刻tにおけるボイラ3の運転状態を示す温度Tを示す。
【0044】
図7の符号(V)に示すように、全体温度算出部24は、例えば、同一の時刻、例えば時刻tにおける複数のボイラ管35の全体の温度(第3温度)を算出してよい。一例として、全体温度算出部24は、時刻tにおける複数のボイラ管35の全体の温度として、複数のボイラ3の平均温度を算出してよい。
【0045】
(運転状態推定部25の説明)
図1の説明に戻り、運転状態推定部25は、全体温度算出部24が算出した複数のボイラ管35の全体の温度に基づき、時刻tにおけるボイラ3の運転状態を推定し、推定結果を運転状態格納DB26に格納する。例えば、運転状態推定部25は、複数のボイラ管35の全体の温度に基づき、時刻tにおける複数のボイラ管35全体の運転状態が定常状態及び過渡状態のうちのいずれの状態であるかを判定してよい。
【0046】
図8は、ボイラ3の運転状態の推定処理の一例を説明するための図である。
図8の符号(V)は、
図7の符号(V)と同様に、時刻tにおけるボイラ3の運転状態を示す温度Tを示す。符号(VI)は、定常状態の判定条件の一例を示す。符号(VII)は、時刻tにおけるボイラ3の運転状態の一例を示す。
【0047】
図8の符号(VI)に示すように、運転状態推定部25は、時刻tにおける複数のボイラ管35の全体の温度Tと以下の(a)~(c)の判定条件とに基づき、ボイラ3の運転状態を定常状態又は過渡状態のいずれかに分類してよい。
【0048】
(a)ボイラ3の運転状態を示す温度Tが定常運転時の想定温度範囲内であること。
例えば、運転状態推定部25は、温度TがT0≦T≦T1であるか否かを判定してよい。T0及びT1は、それぞれ、定常運転時の想定温度範囲(所定の温度範囲)の下限値及び上限値である。すなわち、運転状態推定部25は、温度Tが下限値T0以上且つ上限値T1以下であるか否かを判定する。
【0049】
(b)温度Tの時間変動の大きさが閾値α以下であること。
例えば、運転状態推定部25は、|dT/dt|≦αであるか否かを判定してよい。|dT/dt|は、温度Tの傾きの絶対値であり、温度Tの時間変動の一例である。αは、時間変動の大きさの上限である。
【0050】
(c)時刻tの直前の温度Tが所定時間以上に亘って想定温度範囲内であること。
例えば、運転状態推定部25は、時刻tよりも過去の1以上の時刻(時点)における温度Tが上記(a)を満たすか否かを判定してよい。一例として、運転状態推定部25は、時刻tの直前の時刻(例えば時刻(t-1))の温度TがT0≦T≦T1であるか否かを判定してよい。
【0051】
運転状態推定部25は、上記(a)~(c)の全てに合致する(判定条件を満たす)場合に、時刻tのボイラ3の運転状態を定常状態であると判定してよい。また、運転状態推定部25は、上記(a)~(c)の少なくとも1つに合致しない(判定条件を満たさない)場合に、時刻tのボイラ3の運転状態を過渡状態と判定してよい。
【0052】
なお、上記(a)~(c)の全てに合致する場合に判定条件を満たす場合を例に挙げたが、これに限定されるものではない。例えば、運転状態推定部25は、上記(a)~(c)のうちの少なくとも1つ又は2つに合致する場合に、運転状態を定常状態と判定してもよい。
【0053】
図9は、運転状態格納DB26の一例を示す図である。運転状態格納DB26は、複数の時刻のそれぞれにおけるボイラ3の運転状態の推定結果を格納する情報である。
図9に示すように、運転状態格納DB26は、例示的に、「日時」、「運転状態を示す温度」及び「ボイラ運転状態」の項目を含んでよい。
【0054】
「日時」は、例えば、光ファイバ21aによる温度計測の時点(時刻)である。「運転状態を示す情報」は、例えば、「日時」に対応するボイラ管35の温度(平均温度)Tである。「ボイラ運転状態」は、運転状態格納DB26により推定された運転状態であり、例えば、「定常状態」又は「過渡状態」が設定されてよい。
【0055】
なお、運転状態格納DB26のエントリは、全体温度算出部24により生成されてもよい。例えば、全体温度算出部24は、温度Tを算出した際に、「日時」及び「運転状態を示す情報」を含むエントリを作成し、運転状態推定部25は、運転状態を推定した際に、全体温度算出部24が作成したエントリに「ボイラ運転状態」を追加してもよい。
【0056】
(異常検知部27の説明)
図1の説明に戻り、異常検知部27は、複数のボイラ管35の異常を検知する。例えば、異常検知部27は、温度データ格納DB23及び運転状態格納DB26に基づき、異常検知処理を実行してよい。
【0057】
図10は、複数のボイラ管35の異常検知処理を説明するための図である。
図10の符号(VII)は、
図8の符号(VII)と同様に、時刻tにおけるボイラ3の運転状態の一例を示す。符号(VIII)は、各ボイラ管35の温度の一例を示し、例えば、
図5の符号(II)~(IV)に示す各ボイラ管35の温度のグラフを重ね合わせたグラフに相当する。符号(IX)は、符号(VII)及び(VIII)の情報に基づく異常検知処理の一例を示す。
【0058】
例えば、異常検知部27は、運転状態格納DB26を参照して、ボイラ3の運転状態が定常状態(符号VII参照)にある、全ボイラ管35の温度データ(時系列温度データ)を、温度データ格納DB23から取得してよい(符号VIII参照)。
【0059】
異常検知部27は、符号(IX)に示すように、取得した時系列温度データを用いて変化点検知処理Tを実行し、変化点検知処理Tの処理結果Uを出力してよい。
【0060】
ここで、符号(IX)において、符号Pで示す丸は、1つ1つが1サンプル(1つの時刻)の温度データ群Pを示し、同一日時の検知対象のボイラ管35全ての温度データを含む。
【0061】
一実施形態では、異常検知部27は、変化点検知処理Tにおいて、滑走窓(「スライド窓」(sliding window)と称されてもよい)R及びSを比較して、温度変化有無を識別してよい。滑走窓R及びSは、所定の滑走窓幅(
図10の例では、10サンプル)を有し、時間軸方向に連続した複数の温度データ群Pを含む。例えば、滑走窓Rは、現時刻の温度データ群Pを含む比較対象の複数の温度データ群Pを含んでよく、滑走窓Sは、現時刻の温度データ群Pを含まない、過去の比較元の温度データ群Pを含んでよい。
【0062】
このように、異常検知部27は、時間帯が互いに異なる(ずらした)2つの滑走窓R及びSを変化点検知アルゴリズムに入力することで、変化点検知処理Tを実行する。
図10の例では、滑走窓R及びSは、時間帯を互いに2サンプル分(2回分の測定タイミング分)ずらした滑走窓であり、過去の滑走窓Sは、現時刻を含む滑走窓Rから2サンプル前の滑走窓である。
【0063】
異常検知部27は、符号(IX)に示すように、変化点検知処理Tの実施可否を、2つの滑走窓R及びS内の各サンプルの運転状態が全て定常状態であるか否かに応じて決定してよい。換言すれば、異常検知部27は、運転状態格納DB26を参照して(符号VII参照)、各時刻におけるボイラ3の運転状態が、滑走窓R及びSに用いられるサンプル数分連続して定常状態にある場合に、変化点検知処理Tを実施すると判定してよい。滑走窓R及びSに用いられるサンプル数は、例えば、滑走窓のサンプル数+ずらしたサンプル数であり、
図10の例では12である。
【0064】
符号(IX)の下段に示すように、2つの比較する滑走窓R及びS内の各サンプルの運転状態に過渡状態のデータが含まれる場合、異常検知部27は、変化点検知処理Tの実行を抑制する。このような場合としては、例えば、滑走窓R及びSに、符号(VII)においてYで示す過渡状態のサンプルが含まれる場合、或いは、Xで示す定常状態のサンプルとYで示す過渡状態のサンプルとが混在する場合が挙げられる。
【0065】
異常検知部27は、変化点検知処理Tの実行を抑制した場合、滑走窓R及びSの一方又は双方が過渡状態を含む状態であることを、異常検知結果出力部28に通知してもよい。
【0066】
一方、符号(IX)の上段に示すように、2つの比較する滑走窓R及びS内の各サンプルの運転状態が全て定常状態である場合、異常検知部27は、変化点検知処理Tを実行する。このような場合としては、例えば、滑走窓R及びSに、定常状態のサンプル及び過渡状態のサンプルのうちの、符号(VII)においてXで示す定常状態のサンプルのみが含まれる場合が挙げられる。
【0067】
変化点検知処理Tは、1サンプルに複数のボイラ管35の温度データを含む温度データ群Pに対して変化点検知を行なう処理である。このため、変化点検知処理Tとしては、多変数の時系列データを扱え、ボイラ管35の異常時に当該データの変化を検知できる、既知の種々の変化点検知手法が用いられてよい。
【0068】
異常検知部27は、変化点検知処理Tの処理結果(検知結果)Uを、異常検知結果出力部28に出力してよい。
【0069】
以上のように、異常検知部27は、定常状態であると判定した運転状態の複数のボイラ管35のそれぞれの平均温度(第2温度)を、複数のボイラ管35の異常を検知する異常検知処理の処理対象に決定する。例えば、異常検知部27は、第1の時点と、第1の時点よりも過去の時点とを含む連続する所定数の時点のそれぞれにおける運転状態が定常状態であると判定した場合、所定数の時点のそれぞれにおける複数のボイラ管35のそれぞれの平均温度を、処理対象に決定してよい。連続する所定数の時点とは、例えば、滑走窓R及びSに含まれる温度データ群Pのそれぞれの取得タイミングであってよい。
【0070】
(異常検知結果出力部28の説明)
図1の説明に戻り、異常検知結果出力部28は、異常検知部27から取得する情報を出力する。例えば、異常検知結果出力部28は、滑走窓R及びSの一方又は双方が過渡状態を含む状態であること、又は、変化点検知処理Tの処理結果Uを出力してよい。
【0071】
これらの情報の出力先及び手法としては、例えば、上位システム、管理者端末(図示省略)等の他のコンピュータに対する情報の送信、異常検知装置2の記憶装置へのログの記録、異常検知装置2の表示装置への画面表示、の少なくとも1つが含まれてよい。例えば、上位システム又は管理者端末は、上位システム又は施設の管理者により、処理結果Uに基づき、ボイラ3の管理を行なってよい。
【0072】
以上のように、一実施形態に係るシステム1によれば、複数のボイラ管35のそれぞれの温度の測定結果に基づき、ボイラ3の運転状態が定常状態か過渡状態かを判別し、誤検出を抑えた定常状態でのボイラ管35の異常検知を行なうことができる。従って、ボイラ管35の異常検知の精度を向上させることができる。
【0073】
また、一実施形態に係るシステム1によれば、異常検知対象の複数のボイラ管35のそれぞれに広範囲の温度分布が計測できる光ファイバ21aを設置する。これにより、各ボイラ管35の温度を容易に又は低コストに計測できる。また、ボイラ管35全体の温度変化に基づきボイラ3の運転状態を取得できるため、多種多様なセンサを利用しなくても運転状態を取得できる。
【0074】
〔1-2〕動作例
図11は、一実施形態に係る異常検知装置2による処理の動作例を説明するためのフローチャートである。以下、
図11を参照して、異常検知装置2の動作例を説明する。
【0075】
図11に示すように、異常検知装置2は、初期値L、M、T0、T1、及び、αを設定する(ステップS1)。Lは異常検知対象のボイラ管35の本数であり、Mはボイラ管35における複数の計測箇所(ボイラ管部)の計測結果の上位抽出点数である。T0及びT1はそれぞれ定常運転時の温度下限値及び上限値であり、αは温度の時間変動の大きさの上限値である。
【0076】
温度計測部21は、時刻tに現在時刻を設定し(ステップS2)、複数のボイラ管35に敷設された光ファイバ21aでの時刻tにおける温度を計測する(ステップS3)。
【0077】
ボイラ管温度算出部22は、変数iに1を設定し(ステップS4)、時刻tにおけるボイラ管(i)部の計測温度から上位M点の平均をボイラ管(i)の温度に設定する(例えば決定する)(ステップS5)。iは、例えば、ボイラ管35の識別情報を示す変数であり、例えば、ボイラ管#1~#Lのいずれかを指定する1~Lの値であってよい。
【0078】
ボイラ管温度算出部22は、iに1を加算(インクリメント)し(ステップS6)、iがLよりも大きいか否かを判定する(ステップS7)。iがL以下である場合(ステップS7でNO)、処理がステップS5に移行する。
【0079】
iがLよりも大きい場合(ステップS7でYES)、ボイラ管温度算出部22は、時刻tにおけるボイラ管35(#1~#L)の計測温度のそれぞれの平均温度Ti(T1~TL)を算出する(ステップS8)。例えば、ボイラ管温度算出部22は、ステップS5で決定した上位M点の平均をボイラ管35ごとに算出してよい。
【0080】
ボイラ管温度算出部22は、算出した平均温度Ti(T1~TL)のそれぞれを時刻t及びボイラ管35と対応付けて温度データ格納DB23に格納する(ステップS9)。
【0081】
全体温度算出部24は、温度データ格納DB23に格納された時刻tの平均温度Ti(T1~TL)に基づき、時刻tにおけるボイラ3の運転状態を示す温度Tを算出し、運転状態格納DB26に格納する(ステップS10)。
【0082】
運転状態推定部25は、運転状態格納DB26から時刻t及び過去のボイラ3の運転状態を示す温度Tを取得し(ステップS11)、取得した温度Tに基づき、運転状態の判定処理(ステップS12~S14)を行なう。
【0083】
例えば、運転状態推定部25は、時刻tの温度TがT0以上且つT1以下であるか否かを判定する(ステップS12)。ステップS12でYESの場合、運転状態推定部25は、時刻tの温度Tの時間変動の大きさがα以下か否かを判定する(ステップS13)。ステップS13でYESの場合、運転状態推定部25は、直近の過去の(例えば時刻(t-1)の)温度Tについて、所定時間(例えば“時刻t”-“時刻(t-1)”の時間)、温度TがT0以上且つT1以下であるか否かを判定する(ステップS14)。なお、ステップS14では、運転状態推定部25は、直近の過去の2以上の温度Tに基づき判定を行なってもよい。
【0084】
ステップS14でYESの場合、運転状態推定部25は、時刻tのボイラ3の運転状態を定常状態に設定する(ステップS15)。一方、ステップS12~S14のいずれかでNOの場合、運転状態推定部25は、時刻tのボイラ3の運転状態を過渡状態に設定する(ステップS16)。
【0085】
そして、運転状態推定部25は、設定した運転状態を運転状態格納DB26に登録する(ステップS17)。
【0086】
異常検知部27は、温度データ格納DB23及び運転状態格納DB26に基づき、時刻tを含む滑走窓R及び時刻tを含まない滑走窓Sにそれぞれ含まれる各時系列温度データ(温度データ群P)が、全て定常状態であるか否かを判定する(ステップS18)。各時系列温度データに過渡状態が含まれる場合(ステップS18でNO)、異常検知部27は、変化点検知処理Tの実行を抑制し、処理がステップS20に移行する。
【0087】
各時系列温度データが全て定常状態である場合(ステップS18でYES)、異常検知部27は、温度データ格納DB23から各滑走窓R及びSの該当区間の温度Tiを取得し、時刻tでの変化点検知処理Tを実行する(ステップS19)。
【0088】
異常検知部27は、処理が終了するか否か、例えば終了の指示を入力装置又は他のコンピュータ等から受信したか否かを判定し(ステップS20)、終了する場合(ステップS20でYES)、処理が終了する。例えば、異常検知部27は、異常検知結果出力部28を通じて、処理結果を出力してよい。
【0089】
一方、処理が終了しない場合(ステップS20でNO)、処理がステップS2に移行する。なお、処理がステップS2に移行する場合、ステップS2以降において、複数の時点のそれぞれで運転状態を判定する処理は、時刻tの更新のタイミング、換言すれば、光ファイバ21aによる計測温度の取得(サンプリング)タイミングに合わせて実行されてよい。
【0090】
〔1-3〕ハードウェア構成例
一実施形態に係る異常検知装置2は、仮想サーバ(VM;Virtual Machine)であってもよいし、物理サーバであってもよい。また、異常検知装置2の機能は、1台のコンピュータにより実現されてもよいし、2台以上のコンピュータにより実現されてもよい。さらに、異常検知装置2の機能のうちの少なくとも一部は、クラウド環境により提供されるHW(Hardware)リソース及びNW(Network)リソースを用いて実現されてもよい。
【0091】
図12は、異常検知装置2の機能を実現するコンピュータ10のハードウェア(HW)構成例を示すブロック図である。異常検知装置2の機能を実現するHWリソースとして、複数のコンピュータが用いられる場合は、各コンピュータが
図12に例示するHW構成を備えてよい。
【0092】
図12に示すように、コンピュータ10は、HW構成として、例示的に、プロセッサ10a、メモリ10b、記憶部10c、IF(Interface)部10d、IO(Input / Output)部10e、及び読取部10fを備えてよい。
【0093】
プロセッサ10aは、種々の制御や演算を行なう演算処理装置の一例である。プロセッサ10aは、コンピュータ10内の各ブロックとバス10iで相互に通信可能に接続されてよい。なお、プロセッサ10aは、複数のプロセッサを含むマルチプロセッサであってもよいし、複数のプロセッサコアを有するマルチコアプロセッサであってもよく、或いは、マルチコアプロセッサを複数有する構成であってもよい。
【0094】
プロセッサ10aとしては、例えば、CPU、MPU、GPU、APU、DSP、ASIC、FPGA等の集積回路(IC;Integrated Circuit)が挙げられる。なお、プロセッサ10aとして、これらの集積回路の2以上の組み合わせが用いられてもよい。CPUはCentral Processing Unitの略称であり、MPUはMicro Processing Unitの略称である。GPUはGraphics Processing Unitの略称であり、APUはAccelerated Processing Unitの略称である。DSPはDigital Signal Processorの略称であり、ASICはApplication Specific ICの略称であり、FPGAはField-Programmable Gate Arrayの略称である。
【0095】
メモリ10bは、種々のデータやプログラム等の情報を格納するHWの一例である。メモリ10bとしては、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリ、及び、PM(Persistent Memory)等の不揮発性メモリ、の一方又は双方が挙げられる。
【0096】
記憶部10cは、種々のデータやプログラム等の情報を格納するHWの一例である。記憶部10cとしては、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気ディスク装置、SSD(Solid State Drive)等の半導体ドライブ装置、不揮発性メモリ等の各種記憶装置が挙げられる。不揮発性メモリとしては、例えば、フラッシュメモリ、SCM(Storage Class Memory)、ROM(Read Only Memory)等が挙げられる。
【0097】
図1に示す温度データ格納DB23及び運転状態格納DB26は、メモリ10b及び記憶部10cの少なくとも一方の記憶領域により実現されてよい。換言すれば、
図1に示す温度データ格納DB23及び運転状態格納DB26は、メモリ10b及び記憶部10cの少なくとも一方の記憶領域に格納されてよい。
【0098】
また、記憶部10cは、コンピュータ10の各種機能の全部若しくは一部を実現するプログラム10g(異常検知プログラム)を格納してよい。
【0099】
例えば、異常検知装置2のプロセッサ10aは、記憶部10cに格納されたプログラム10gをメモリ10bに展開して実行することにより、
図1に例示する異常検知装置2(例えばブロック21、22、24、25、27、28)としての機能を実現できる。
【0100】
IF部10dは、ネットワークとの間の接続及び通信の制御等を行なう通信IFの一例である。例えば、IF部10dは、イーサネット(登録商標)等のLAN(Local Area Network)、或いは、FC(Fibre Channel)等の光通信等に準拠したアダプタを含んでよい。当該アダプタは、無線及び有線の一方又は双方の通信方式に対応してよい。
【0101】
例えば、異常検知装置2は、IF部10dを介して、ボイラ3に敷設した光ファイバ21a等の温度センサ、温度センサの制御装置、又は、温度センサの送信装置と通信可能に接続されてよい。また、異常検知装置2(例えば異常検知結果出力部28)は、IF部10dを介して、上位システム又は管理者端末に処理結果を出力してもよい。さらに、異常検知装置2は、IF部10dを介して、上位システム又は管理者端末から、処理の開始指示又は終了指示を取得してもよい。なお、プログラム10gは、当該通信IFを介して、ネットワークからコンピュータ10にダウンロードされ、記憶部10cに格納されてもよい。
【0102】
IO部10eは、入力装置、及び、出力装置、の一方又は双方を含んでよい。入力装置としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等が挙げられる。出力装置としては、例えば、モニタ、プロジェクタ、プリンタ等が挙げられる。例えば、処理の開始指示又は終了指示は、入力装置を介して入力されてもよい。また、異常検知結果出力部28は、処理結果の出力として、出力装置に処理結果の表示情報を出力し表示させてもよい。
【0103】
読取部10fは、記録媒体10hに記録されたデータやプログラムの情報を読み出すリーダの一例である。読取部10fは、記録媒体10hを接続可能又は挿入可能な接続端子又は装置を含んでよい。読取部10fとしては、例えば、USB(Universal Serial Bus)等に準拠したアダプタ、記録ディスクへのアクセスを行なうドライブ装置、SDカード等のフラッシュメモリへのアクセスを行なうカードリーダ等が挙げられる。なお、記録媒体10hにはプログラム10gが格納されてもよく、読取部10fが記録媒体10hからプログラム10gを読み出して記憶部10cに格納してもよい。
【0104】
記録媒体10hとしては、例示的に、磁気/光ディスクやフラッシュメモリ等の非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体が挙げられる。磁気/光ディスクとしては、例示的に、フレキシブルディスク、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク、HVD(Holographic Versatile Disc)等が挙げられる。フラッシュメモリとしては、例示的に、USBメモリやSDカード等の半導体メモリが挙げられる。
【0105】
上述したコンピュータ10のHW構成は例示である。従って、コンピュータ10内でのHWの増減(例えば任意のブロックの追加や削除)、分割、任意の組み合わせでの統合、又は、バスの追加若しくは削除等は適宜行なわれてもよい。例えば、異常検知装置2において、IO部10e及び読取部10fの少なくとも一方は、省略されてもよい。
【0106】
〔2〕その他
上述した一実施形態に係る技術は、以下のように変形、変更して実施することができる。
【0107】
例えば、
図1に示す異常検知装置2が備える温度計測部21、ボイラ管温度算出部22、全体温度算出部24、運転状態推定部25、異常検知部27及び異常検知結果出力部28は、任意の組み合わせで併合してもよく、それぞれ分割してもよい。
【0108】
また、
図1に示す温度データ格納DB23及び運転状態格納DB26は、任意の組み合わせでこれらが有する項目を併合した情報であってもよく、それぞれ分割した情報であってもよい。
【0109】
さらに、
図1では、異常検知装置2に1つのボイラ3が接続される例を示すが、これに限定されるものではなく、異常検知装置2には、複数のボイラ3が接続されてもよい。この場合、異常検知装置2は、各ボイラ3について個別に(独立して)異常検知処理を行なってもよいし、温度データ格納DB23及び運転状態格納DB26をボイラ3ごとに管理できる場合には、複数のボイラ3についてまとめて異常検知処理を行なってもよい。
【0110】
また、
図1に示す異常検知装置2は、複数の装置がネットワークを介して互いに連携することにより、各処理機能を実現する構成(システム)であってもよい。一例として、温度データ格納DB23及び運転状態格納DB26はDBサーバ、温度計測部21、ボイラ管温度算出部22、全体温度算出部24、運転状態推定部25及び異常検知部27はアプリケーションサーバ、異常検知結果出力部28はwebサーバ等であってもよい。この場合、DBサーバ、アプリケーションサーバ及びwebサーバが、ネットワークを介して互いに連携することにより、異常検知装置2としての各処理機能を実現してもよい。
【0111】
〔3〕付記
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0112】
(付記1)
複数の管体のそれぞれにおける複数の測定箇所の第1温度に基づいて、前記複数の管体のそれぞれの第2温度を算出し、
第1の時点における前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度に基づき取得される前記複数の管体全体の第3温度に基づき、前記第1の時点における前記複数の管体全体の運転状態が定常状態及び過渡状態のうちのいずれの状態であるかを判定し、
前記定常状態であると判定した運転状態の前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記複数の管体の異常を検知する異常検知処理の処理対象に決定する、
処理をコンピュータに実行させる、管体の異常検知プログラム。
【0113】
(付記2)
前記複数の管体のそれぞれにおける前記複数の測定箇所が含まれるように設置された光ファイバにより測定された、前記複数の管体のそれぞれにおける前記複数の測定箇所の前記第1温度を取得する、
処理を前記コンピュータに実行させる、付記1に記載の管体の異常検知プログラム。
【0114】
(付記3)
前記判定する処理は、前記第3温度が所定の温度範囲内である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する処理を含む、
付記1又は付記2に記載の管体の異常検知プログラム。
【0115】
(付記4)
前記判定する処理は、前記第3温度の時間変動の大きさが閾値以下である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する処理を含む、
付記1~付記3のいずれか1項に記載の管体の異常検知プログラム。
【0116】
(付記5)
前記判定する処理は、前記第1の時点よりも過去の1以上の時点における前記第3温度がいずれも所定の温度範囲内である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する処理を含む、
付記1~付記4のいずれか1項に記載の管体の異常検知プログラム。
【0117】
(付記6)
前記判定する処理を、複数の時点のそれぞれにおいて実行する、
処理を前記コンピュータに実行させ、
前記決定する処理は、前記第1の時点と前記第1の時点よりも過去の時点とを含む連続する所定数の時点のそれぞれにおける運転状態が前記定常状態であると判定した場合、前記所定数の時点のそれぞれにおける前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記処理対象に決定する処理を含む、
付記1~付記5のいずれか1項に記載の管体の異常検知プログラム。
【0118】
(付記7)
複数の管体のそれぞれにおける複数の測定箇所の第1温度に基づいて、前記複数の管体のそれぞれの第2温度を算出し、
第1の時点における前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度に基づき取得される前記複数の管体全体の第3温度に基づき、前記第1の時点における前記複数の管体全体の運転状態が定常状態及び過渡状態のうちのいずれの状態であるかを判定し、
前記定常状態であると判定した運転状態の前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記複数の管体の異常を検知する異常検知処理の処理対象に決定する、
処理をコンピュータが実行する、管体の異常検知方法。
【0119】
(付記8)
前記複数の管体のそれぞれにおける前記複数の測定箇所が含まれるように設置された光ファイバにより測定された、前記複数の管体のそれぞれにおける前記複数の測定箇所の前記第1温度を取得する、
処理を前記コンピュータが実行する、付記7に記載の管体の異常検知方法。
【0120】
(付記9)
前記判定する処理は、前記第3温度が所定の温度範囲内である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する処理を含む、
付記7又は付記8に記載の管体の異常検知方法。
【0121】
(付記10)
前記判定する処理は、前記第3温度の時間変動の大きさが閾値以下である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する処理を含む、
付記7~付記9のいずれか1項に記載の管体の異常検知方法。
【0122】
(付記11)
前記判定する処理は、前記第1の時点よりも過去の1以上の時点における前記第3温度がいずれも所定の温度範囲内である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する処理を含む、
付記7~付記10のいずれか1項に記載の管体の異常検知方法。
【0123】
(付記12)
前記判定する処理を、複数の時点のそれぞれにおいて実行する、
処理を前記コンピュータが実行し、
前記決定する処理は、前記第1の時点と前記第1の時点よりも過去の時点とを含む連続する所定数の時点のそれぞれにおける運転状態が前記定常状態であると判定した場合、前記所定数の時点のそれぞれにおける前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記処理対象に決定する処理を含む、
付記7~付記11のいずれか1項に記載の管体の異常検知方法。
【0124】
(付記13)
複数の管体のそれぞれにおける複数の測定箇所の第1温度に基づいて、前記複数の管体のそれぞれの第2温度を算出し、
第1の時点における前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度に基づき取得される前記複数の管体全体の第3温度に基づき、前記第1の時点における前記複数の管体全体の運転状態が定常状態及び過渡状態のうちのいずれの状態であるかを判定し、
前記定常状態であると判定した運転状態の前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記複数の管体の異常を検知する異常検知処理の処理対象に決定する、
制御部を備える、情報処理装置。
【0125】
(付記14)
前記制御部は、前記複数の管体のそれぞれにおける前記複数の測定箇所が含まれるように設置された光ファイバにより測定された、前記複数の管体のそれぞれにおける前記複数の測定箇所の前記第1温度を取得する、
付記13に記載の情報処理装置。
【0126】
(付記15)
前記制御部は、前記判定する処理において、前記第3温度が所定の温度範囲内である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する、
付記13又は付記14に記載の情報処理装置。
【0127】
(付記16)
前記制御部は、前記判定する処理において、前記第3温度の時間変動の大きさが閾値以下である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する、
付記13~付記15のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【0128】
(付記17)
前記制御部は、前記判定する処理において、前記第1の時点よりも過去の1以上の時点における前記第3温度がいずれも所定の温度範囲内である場合に、前記運転状態が前記定常状態であると判定する、
付記13~付記16のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【0129】
(付記18)
前記制御部は、
前記判定する処理を、複数の時点のそれぞれにおいて実行し、
前記決定する処理において、前記第1の時点と前記第1の時点よりも過去の時点とを含む連続する所定数の時点のそれぞれにおける運転状態が前記定常状態であると判定した場合、前記所定数の時点のそれぞれにおける前記複数の管体のそれぞれの前記第2温度を、前記処理対象に決定する、
付記13~付記17のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【符号の説明】
【0130】
1 システム
2 異常検知装置
20 制御部
21 温度計測部
21a 光ファイバ
22 ボイラ管温度算出部
23 温度データ格納DB
24 全体温度算出部
25 運転状態推定部
26 運転状態格納DB
27 異常検知部
28 異常検知結果出力部
3 ボイラ
30 天井部
31 燃焼室
32 バーナ
33 過熱器
34 再熱器
35、35a、35b ボイラ管
36 節炭器
37 隔壁
38 管寄せ