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特開2022-156610電池用電極製造装置および電池用電極製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022156610
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】電池用電極製造装置および電池用電極製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20221006BHJP
【FI】
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060392
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
(72)【発明者】
【氏名】榎 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA07
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB29
5H050GA29
(57)【要約】
【課題】大気圧よりも減圧されたチャンバー内部空間へ搬送される基材フィルムの振動を抑制し、基材フィルムを安定的に搬送することができる電池用電極製造装置を提供する。
【解決手段】電池用電極製造装置1は、内部空間20aが大気圧よりも減圧されており、かつ内部空間と外部空間20bとを連通するスリット20sを有するチャンバー2と、内部空間に配置され、スリットを介して外部空間から内部空間に搬送される帯状の基材フィルム23に対して粉体状の活物質25を供給する供給機構3と、外部空間に配置された外部ローラ41と、内部空間におけるスリットと供給機構との間に配置された内部ローラ42と、を有し、外部ローラおよび内部ローラによって基材フィルム23に対してテンションを付加するテンション機構4と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間が大気圧よりも減圧されており、かつ前記内部空間と外部空間とを連通するスリットを有するチャンバーと、
前記内部空間に配置され、前記スリットを介して前記外部空間から前記内部空間に搬送される帯状の基材フィルムに対して粉体状の活物質を供給する供給機構と、
前記外部空間に配置された外部ローラと、前記内部空間における前記スリットと前記供給機構との間に配置された内部ローラと、を有し、前記外部ローラおよび前記内部ローラによって前記基材フィルムに対してテンションを付加するテンション機構と、
を備えた電池用電極製造装置。
【請求項2】
前記外部ローラおよび前記内部ローラは、それぞれ前記基材フィルムを挟み込むローラ対を有する
請求項1に記載の電池用電極製造装置。
【請求項3】
前記内部ローラは、前記基材フィルムに対して搬送方向の駆動力を与える駆動ローラを有し、
前記外部ローラは、前記基材フィルムに対して前記搬送方向とは逆方向のブレーキ力を与える
請求項1または2に記載の電池用電極製造装置。
【請求項4】
前記テンション機構は、前記外部ローラと前記内部ローラとの間における前記基材フィルムの固有振動数を前記スリットにおいて発生するカルマン渦による振動周波数とは異ならせるテンションを前記基材フィルムに対して付加する
請求項1から3の何れか1項に記載の電池用電極製造装置。
【請求項5】
大気圧よりも減圧されているチャンバーの内部空間へ前記チャンバーのスリットを介して搬送される帯状の基材フィルムに対してテンションを付加する工程と、
前記基材フィルムに対して前記内部空間において粉体状の活物質を供給する工程と、
を含み、
前記テンションを付加する工程において、前記チャンバーの外部空間に配置された外部ローラと、前記内部空間に配置された内部ローラと、によって前記基材フィルムに対してテンションを付加し、
前記供給する工程において、前記内部ローラを通過した後の前記基材フィルムに対して前記活物質を供給する
電池用電極製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極製造装置および電池用電極製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺の部材を搬送する技術がある。特許文献1には、真空チャンバー内においてロールツーロールの搬送経路に沿って搬送される長尺基材の表面処理装置が開示されている。また、従来、リチウムイオン電池を製造する技術がある。特許文献2には、第1の集電体、正極活物質、セパレータ、負極活物質、及び、第2の集電体、を有する電池構造体を製造する技術が開示されている。特許文献2に記載された製造工程は、集電体シート上に、正極活物質又は負極活物質を供給する工程を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-031040号公報
【特許文献2】特許第6633866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、リチウムイオン電池の製造工程における基材フィルムへの活物質の供給を、内部空間が大気圧よりも減圧されたチャンバー内で行う、という考え方がある。この考え方によれば、チャンバー内への不純物の混入等を予防して、電池用電極の品質を向上させることができる。
【0005】
上記チャンバー内で電池用電極を製造する場合に当該製造効率を向上させるためには、チャンバー外(常圧環境下)からチャンバー内(減圧環境下)に基材フィルムを連続的に供給し、チャンバー内に導入された基材フィルムに対して活物質を供給していく必要がある。本発明者らは、内部空間が大気圧よりも減圧されたチャンバーにスリットを設け、当該スリットを介して、チャンバーの外部空間から内部空間に基材フィルムを搬送する構成を見出した。
【0006】
しかし、本発明者らが見出した構成によれば、外部空間からチャンバーの内部空間へ向けて基材フィルムを搬送する場合に、スリットを介して減圧されたチャンバー内に空気が流入することにより基材フィルムが振動(例えば、発生する渦等に起因する振動)することがある。特許文献1には、真空チャンバー内においてロールツーロールの搬送経路に沿って長尺基材を搬送する技術が開示されているにすぎず、外部空間からチャンバーの内部空間へ長尺基材を搬送する場合に、基材の振動を抑制することの課題を解決することが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、大気圧よりも減圧されたチャンバー内部空間へ搬送される基材フィルムの振動を抑制し、基材フィルムを安定的に搬送することができる電池用電極製造装置および電池用電極製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電池用電極製造装置は、内部空間が大気圧よりも減圧されており、かつ前記内部空間と外部空間とを連通するスリットを有するチャンバーと、前記内部空間に配置され、前記スリットを介して前記外部空間から前記内部空間に搬送される帯状の基材フィルムに対して粉体状の活物質を供給する供給機構と、前記外部空間に配置された外部ローラと、前記内部空間における前記スリットと前記供給機構との間に配置された内部ローラと、を有し、前記外部ローラおよび前記内部ローラによって前記基材フィルムに対してテンションを付加するテンション機構と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電池用電極製造装置は、大気圧よりも減圧されたチャンバー内部空間へ搬送される基材フィルムの振動を抑制し、基材フィルムを安定的に搬送できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、リチウムイオン単電池の概略構成図である。
図2図2は、実施形態に係る電池用電極製造装置の概略構成図である。
図3図3は、実施形態に係る部材シート製造装置の斜視図である。
図4図4は、実施形態に係るテンション機構を示す図である。
図5図5は、カルマン渦の説明図である。
図6図6は、実施形態の第1変形例に係るテンション機構を示す図である。
図7図7は、実施形態の第1変形例に係るテンション機構を示す図である。
図8図8は、実施形態の第2変形例に係るテンション機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態に係る電池用電極製造装置および電池用電極製造方法につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
[実施形態]
図1から図5を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、電池用電極製造装置および電池用電極製造方法に関する。
【0013】
(組電池)
本実施形態の電池用電極製造装置および電池用電極製造方法は、例えば、リチウムイオン電池の製造に適用される。リチウムイオン電池は、複数のリチウムイオン単電池(電池セル)を組み合わせてモジュール化した組電池、或いは、このような組電池を複数組み合わせて電圧及び容量を調整した電池パックの形態で使用される。
【0014】
(リチウムイオン単電池)
次に、リチウムイオン単電池について説明する。リチウムイオン単電池は、例えば、正極集電体層、正極活物質層、セパレータ、負極活物質層及び負極集電体層が順に積層され、上記正極集電体層と上記負極集電体層とを最外層に有し、上記正極活物質層及び上記負極活物質層の外周を封止することで電解液が封入された構成である。
【0015】
図1は、リチウムイオン単電池10の概略構成図である。リチウムイオン単電池10は、正極集電体層111、正極活物質層113、セパレータ130、負極活物質層123及び負極集電体層121が図1に示す順に積層される。即ち、正極集電体層111及び負極集電体層121が最外層に配置される。また、枠体140は、正極集電体層111及び負極集電体層121の縁部(正極活物質層113及び負極活物質層123の外周)を封止する。正極活物質層113及び負極活物質層123には、電解液が封入される。
【0016】
(正極集電体)
正極集電体層111としては、公知のリチウムイオン単電池に用いられる集電体を用いることができ、例えば公知の金属集電体及び導電材料と樹脂とから構成されてなる樹脂集電体(特開2012-150905号公報及び国際公開第2015-005116号等に記載の樹脂集電体等)を用いることができる。正極集電体層111は、電池特性等の観点から、樹脂集電体であることが好ましい。
【0017】
正極集電体層111の厚さは特に限定されないが、5~150μmであることが好ましい。複数の樹脂集電体を積層して正極集電体として用いる場合には、積層後の全体の厚さが5~150μmであることが好ましい。
【0018】
正極集電体層111は、例えば、マトリックス樹脂、導電性フィラー及び必要により用いるフィラー用分散剤を溶融混練して得られる導電性樹脂組成物を公知の方法でフィルム状に成形することにより得ることができる。
【0019】
(正極活物質)
正極活物質層113は、正極活物質を含む混合物の非結着体であることが好ましい。ここで、非結着体とは、正極活物質層中において正極活物質の位置が固定されておらず、正極活物質同士及び正極活物質同士及び正極活物質と集電体とが不可逆的に固定されていないことを意味する。正極活物質層113が非結着体である場合、正極活物質同士は不可逆的に固定されていないため、正極活物質同士の界面を機械的に破壊することなく分離することができ、正極活物質層113に応力がかかった場合でも正極活物質が移動することで正極活物質層113の破壊を防止することができ好ましい。非結着体である正極活物質層113は、正極活物質層113を、正極活物質と電解液とを含みかつ結着剤を含まない正極活物質層113にする等の方法で得ることができる。
【0020】
正極活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属元素が2種である複合酸化物及び金属元素が3種類以上である複合酸化物等が挙げられるが、特に限定されない。
【0021】
正極活物質層113には、電解質と非水溶媒を含む電解液が含まれていてもよい。電解質としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用できる。
【0022】
非水溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの(例えば、リン酸エステル、ニトリル化合物等及びこれらの混合物等)が使用できる。例えば、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液、又は、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合液を用いることができる。
【0023】
正極活物質層113の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0024】
(負極集電体)
負極集電体層121としては、正極集電体層111で記載した構成と同様のものを適宜選択して用いることができ、同様の方法により得ることができる。負極集電体層121は、電池特性等の観点から、樹脂集電体であることが好ましい。負極集電体層121の厚さは特に限定されないが、5~150μmであることが好ましい。
【0025】
(負極活物質)
負極活物質層123は、負極活物質を含む混合物の非結着体であることが好ましい。負極活物質層が非結着体であることが好ましい理由、及び非結着体である負極活物質層123を得る方法等は、正極活物質層113が非結着体であることが好ましい理由、及び非結着体である正極活物質層113を得る方法と同様である。
【0026】
負極活物質としては、例えば、炭素系材料、珪素系材料及びこれらの混合物などを用いることができるが、特に限定されない。
【0027】
負極活物質層123は、電解質と非水溶媒を含む電解液を含有する。電解液の組成は、正極活物質層113に含まれる電解液と同様の電解液を好適に用いることができる。
【0028】
負極活物質層123の厚みは、特に限定されるものではないが、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0029】
(セパレータ)
セパレータ130としては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム等が挙げられるが、特に限定されない。
【0030】
(枠体)
リチウムイオン単電池10は、正極集電体層111及び負極集電体層121の縁部を枠体140により封止することで電解液が封入された構成である。枠体140は、正極集電体層111及び負極集電体層121の間に配置されており、正極活物質層113、負極活物質層123及びセパレータ130の外周を封止する機能を有する。
【0031】
なお、図1は、セパレータ130の一部が枠体140に入り込むように構成される場合を示している。即ち、図1では、枠体140に外周を囲まれる正極活物質層113及び負極活物質層123と比較してセパレータ130の幅が大きくなっており、その一部が枠体140に食い込んでいる。しかしながら実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、図1の横方向において正極活物質層113、負極活物質層123、セパレータ130の幅が同じになるように構成してもよい。また、図1に示す枠体140は一体的に製造されてもよいし、例えば正極側の枠体と負極側の枠体とを別個に製造して結合させることにより製造されてもよい。
【0032】
枠体140は、電解液に対して耐久性のある材料であれば特に限定されないが、高分子材料が好ましく、熱硬化性高分子材料がより好ましい。具体的には、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びポリフッ化ビニリデン樹脂等が挙げられ、耐久性が高く取り扱いが容易であることからエポキシ系樹脂が好ましい。
【0033】
枠体140は、フレーム状の部材である。リチウムイオン単電池10を製造する過程において、枠体140は、正極集電体層111又は負極集電体層121のいずれかに対して取り付けられる。なお、以下の説明において正極側と負極側とを特に区別しない場合、正極集電体層111及び負極集電体層121を単に集電体とも記載する。即ち、枠体140は、正極側又は負極側の集電体に対して取り付けられる。また、枠体140の内部に正極活物質層113、負極活物質層123、セパレータ130等を形成した後、他方の集電体を更に形成することでリチウムイオン単電池10を製造することができる。
【0034】
図2に示すように、本実施形態に係る電極製造システム100は、電池用電極製造装置1およびフィルム供給装置30を有する。フィルム供給装置30は、帯状の基材フィルム23を電池用電極製造装置1に対して供給する装置である。フィルム供給装置30は、例えば、ロールに巻かれた基材フィルム23を送り出す。なお、帯状の基材フィルム23の例としては、集電体、セパレータ、転写用のフィルムが挙げられる。基材フィルム23が転写用のフィルムである場合、転写用のフィルムに形成された活物質層(電極組成物層)を集電体上に、例えば転写することで、リチウムイオン電池用電極を得ることができる。
【0035】
図2に示すように、電池用電極製造装置1は、チャンバー2と、供給機構3と、テンション機構4と、ロールプレス5と、タンク6と、枠体供給装置8と、を有する。チャンバー2は、内部を大気圧よりも減圧された状態に保持できる部屋である。チャンバー2は、閉空間を形成する筐体20を有する。チャンバー2の内部空間20aは、図示しない減圧ポンプにより大気圧よりも減圧される。内部空間20aの圧力は、大気圧よりも減圧されていれば任意の値でよいが、例えば、大気圧から1×10-1~1×10-2Paまでの低真空環境となるように調整されていてもよいし、1×10-6~1×10-7Paの高真空環境となるように調整されていてもよいし、それ以上の超高真空や10-8~10-9Paレベルの極高真空であってもよい。なお、標準大気圧は、約1013hPa(約10Pa)である。
【0036】
筐体20は、スリット20sを有する。スリット20sは、筐体20が有する一つの側壁20wに配置されている。例示されたスリット20sは、基材フィルム23の搬送方向Xに沿って側壁20wを貫通している。搬送方向Xは、例えば、鉛直方向Zに対して直交する方向である。側壁20wを正面視した場合のスリット20sの形状は、例えば、矩形である。基材フィルム23は、筐体20の外部空間20bからスリット20sを介して内部空間20aに搬送される。スリット20sの幅は、基材フィルム23の幅よりもわずかに大きい。また、スリット20sの高さは、基材フィルム23の厚さよりもわずかに大きい。
【0037】
枠体供給装置8は、筐体20の内部空間20aに配置されている。例示された枠体供給装置8は、側壁20wと供給機構3との間に配置されている。枠体供給装置8は、搬送される基材フィルム23に対して枠体140を供給し、基材フィルム23に枠体140を設置する。枠体140は、基材フィルム23と共に搬送方向Xに沿って搬送される。
【0038】
供給機構3は、筐体20の内部空間20aに配置されている。供給機構3は、搬送される基材フィルム23に対して粉体状の活物質25を供給する。より詳しくは、供給機構3は、基材フィルム23に設置された枠体140に対して活物質25を供給する。粉体状の活物質25は、外部空間20bに配置されたタンク6に貯留されている。供給機構3は、タンク6から送られる活物質25を枠体140の内部に充填し、活物質25を基材フィルム23に塗布する。
【0039】
ロールプレス5は、搬送方向Xにおいて供給機構3の下流側に配置されている。ロールプレス5は、基材フィルム23に塗布された活物質25をプレス成型する。ロールプレス5は、活物質25を帯状の基材フィルム23に定着させる役割を有する。本実施形態の電池用電極製造装置1は、活物質25の塗布およびプレス成型の工程を減圧された内部空間20aにおいて行なう。これにより、活物質25の内部に空気が残留することを抑制し、プレス終了後における活物質25の膨張や変形を防止することができる。
【0040】
なお、枠体供給装置8は、供給機構3よりも下流側において基材フィルム23に枠体140を設置してもよい。例えば、枠体供給装置8は、供給機構3とロールプレス5との間に配置されてもよいし、ロールプレス5の下流側に配置されてもよいし、或いは、ロールプレス5の下流側であって筐体2外部に配置されてもよい。また、本実施形態に係る電池用電極製造装置又は電池用電極製造方法は、枠体供給装置又は枠体供給工程を含まなくてもよい。例えば、基材フィルム23として転写用のフィルムが用いられる場合には、転写用のフィルム上に活物質層(電極組成物層)が形成された後(つまり、電極製造工程を終了した後)、当該電極組成物層が転写された集電体上に、又は、当該電極組成物層が転写される前の集電体上に、枠体が配置されてもよい。
【0041】
筐体2の内部において基材フィルム23に対して枠体140を供給することに代えて、筐体2の外部において基材フィルム23に枠体140が設置されてもよい。この場合、フィルム供給装置30に代えて、図3に示す部材シート製造装置32が用いられてもよい。部材シート製造装置32は、帯状の基材フィルム23に対し複数の枠体140を順次転写して部材シート24を製造する装置である。図3に示すように、部材シート製造装置32は、転写装置322を有する。転写装置322は、転写シート22の枠体140を帯状の基材フィルム23に対して転写する装置である。転写シート22は、フィルム21に対して複数の枠体140が連続的に配置されたシートである。複数の枠体140は、フィルム21に対して圧着されている。部材シート製造装置32は、ロール22’から転写シート22を引き出し、転写シート22の枠体140を基材フィルム23に転写する。
【0042】
転写装置322は、転写機構3221および分離機構3222を有する。転写機構3221は、転写シート22と帯状の基材フィルム23とを圧着する。例えば、転写機構3221は、転写シート22と帯状の基材フィルム23とを挟み込んで加圧するプレスロールであり、帯状の基材フィルム23に対して転写シート22の枠体140を接着させる。基材フィルム23は、電池用電極製造装置1の搬送ローラによって予め定められた搬送速度で搬送されている。部材シート製造装置32は、転写シート22を基材フィルム23と同じ速度で並走させながら、転写機構3221によって枠体140を基材フィルム23に圧着させる。
【0043】
分離機構3222は、基材フィルム23に対して圧着された枠体140をフィルム21から分離させる。つまり、分離機構3222は、枠体140からフィルム21を剥離させることにより、部材シート24を生成する。分離機構3222は、枠体140から分離させたフィルム21について、図3に示す通りロール状に巻き取ることとしても構わない。枠体140が取り付けられた基材フィルム23は、スリット20sを介して筐体2の内部に搬送される。
【0044】
テンション機構4は、基材フィルム23に対してテンションを付加する。図2に示すように、テンション機構4は、外部ローラ41と、内部ローラ42と、を有する。外部ローラ41は、筐体20の外部空間20bに配置されている。内部ローラ42は、筐体20の内部空間20aに配置されている。内部空間20aにおける内部ローラ42の位置は、搬送方向Xにおけるスリット20sと供給機構3との間の位置である。つまり、内部ローラ42は、供給機構3に対して搬送方向Xの上流側に位置している。
【0045】
外部ローラ41、スリット20s、および内部ローラ42は、搬送方向Xに沿って直線上に配置されている。このような配置により、搬送方向Xに沿った直線の搬送路において基材フィルム23にテンションFtを与えることができる。
【0046】
図4に示すように、外部ローラ41は、第一ローラ41aおよび第二ローラ41bを有する。第一ローラ41aは基材フィルム23の搬送路に対して上側に配置され、第二ローラ41bは搬送路に対して下側に配置されている。外部ローラ41は、第一ローラ41aおよび第二ローラ41bによって基材フィルム23を挟み込む。例示された外部ローラ41では、第一ローラ41aの外径と第二ローラ41bの外径とが等しい。外部ローラ41は、例えば、ブレーキローラである。すなわち、外部ローラ41は、基材フィルム23に対して搬送方向Xとは逆方向のブレーキ力Fbを与えるように構成されている。例えば、外部ローラ41は、ブレーキ力Fbに応じた回転抵抗を有している。
【0047】
内部ローラ42は、押圧ローラ42a、駆動ローラ42b、およびモータ42cを有する。例示された内部ローラ42では、押圧ローラ42aが基材フィルム23の搬送路に対して上側に配置され、駆動ローラ42bが搬送路に対して下側に配置されている。駆動ローラ42bは、キャプスタンのごとき部材であり、例えば、円柱形状の金属軸である。モータ42cは、駆動ローラ42bを回転させる回転モータである。駆動ローラ42bは、モータ42cの出力軸に連結されていてもよく、減速機構を介してモータ42cの出力軸に連結されてもよい。押圧ローラ42aは、駆動ローラ42bに向けて基材フィルム23を押圧するローラである。押圧ローラ42aの外径は、駆動ローラ42bの外径よりも大きい。内部ローラ42は、押圧ローラ42aを駆動ローラ42bに向けて付勢するばねを有していてもよい。
【0048】
駆動ローラ42bは、基材フィルム23に対して搬送方向Xに沿った駆動力Ffを与える。内部ローラ42は、基材フィルム23を搬送する搬送ローラとしての機能を有する。テンション機構4は、駆動力Ffおよびブレーキ力Fbにより、基材フィルム23に対してテンションFtを付加する。テンションFtは、基材フィルム23のうち外部ローラ41と内部ローラ42との間に位置する対象部分24mに発生する。本実施形態の電池用電極製造装置1は、以下に説明するように、カルマン渦等に起因する基材フィルム23の振動を抑制することができる。
【0049】
図5には、筐体20の外部空間20bから内部空間20aへ流入する空気の流れAfが示されている。空気の流れAfは、外部空間20bと内部空間20aとの圧力差によって生じる。外部空間20bの気圧は、例えば、大気圧である。外部空間20bの空気は、スリット20sを介して搬送方向Xに沿って内部空間20aに侵入する。スリット20sには、スリット20sの壁面に沿った境界層BLが形成される。
【0050】
また、スリット20sよりも搬送方向Xの下流側には、カルマン渦Kvが発生する。カルマン渦Kvは、基材フィルム23の上側、および下側に交互に生成される。基材フィルム23の上側には第一の渦列VL1が発生し、基材フィルム23の下側には第二の渦列VL2が発生する。本実施形態の電池用電極製造装置1は、カルマン渦Kvによる基材フィルム23の振動をテンションFtによって抑制することができる。テンション機構4は、基材フィルム23に対してテンションFtを与えることにより、基材フィルム23の振動を抑制する。例えば、テンションFtは、基材フィルム23にテンションFtが付加されていない場合と比較して、鉛直方向Zにおける基材フィルム23の振幅を小さくすることができる。
【0051】
また、テンション機構4は、基材フィルム23における振動の伝播を抑制することができる。例えば、内部ローラ42は、対象部分24mにおいて発生した振動を内部ローラ42において吸収することができる。振動を吸収する構成として、例えば、押圧ローラ42aが弾性を有するゴム等の樹脂によって形成されてもよい。内部ローラ42は、対象部分24mの振動が内部ローラ42よりも下流側へ伝播することを抑制する。また、外部ローラ41は、対象部分24mの振動が外部ローラ41よりも上流側へ伝播することを抑制する。
【0052】
テンション機構4は、対象部分24mの固有振動数νをカルマン渦Kvによる振動周波数fkからずらすようにテンションFtを付加することが好ましい。カルマン渦Kvによる振動周波数fkは、例えば、カルマン渦Kvが発生する周期に応じた周波数である。振動周波数fkは、理論的に求められてもよく、実験的に求められてもよい。振動周波数fkは、例えば、外部空間20bと内部空間20aとの圧力差、スリット20sの断面形状、搬送方向Xに沿ったスリット20sの長さ、スリット20sの壁面の粗度、基材フィルム23の厚さ等に基づいて算出されてもよい。
【0053】
対象部分24mの固有振動数νは、搬送方向Xに沿った対象部分24mの長さLx、およびテンションFtの大きさによって調節することが可能である。本実施形態のテンション機構4は、振動周波数fkに対して、固有振動数νをずらすように構成されている。また、テンション機構4は、振動周波数fkに対して固有振動数νの倍数をずらすように構成されている。よって、本実施形態の電池用電極製造装置1は、カルマン渦Kvによる基材フィルム23の共振の発生を好適に抑制することができる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係る電池用電極製造装置1は、スリット20sを有するチャンバー2と、供給機構3と、テンション機構4と、を有する。チャンバー2は、内部空間20aが大気圧よりも減圧されている。スリット20sは、チャンバー2の内部空間20aと外部空間20bとを連通している。供給機構3は、内部空間20aに配置されている。供給機構3は、スリット20sを介して外部空間20bから内部空間20aに搬送される帯状の基材フィルム23に対して粉体状の活物質25を供給する。基材フィルムは23、例えば、集電体であるが、これに限らず、セパレータや転写用のフィルム等であってもよい。本実施形態のようにスリット20sを介してチャンバー2の外部空間20bから内部空間20aに基材フィルム23を連続的に供給する構成によれば、電池用電極の製造効率を向上させることができる。
【0055】
テンション機構4は、外部空間20bに配置された外部ローラ41と、内部空間20aにおけるスリット20sと供給機構3との間に配置された内部ローラ42と、を有する。テンション機構4は、外部ローラ41および内部ローラ42によって基材フィルム23に対してテンションFtを付加する。つまり、テンション機構4は、テンション機構4が無い場合と比較して基材フィルム23のテンションを増加させる。本実施形態の電池用電極製造装置1は、テンションFtを付加することによって、大気圧よりも減圧されたチャンバー内部空間へ搬送される基材フィルム23の振動を抑制することができる。
【0056】
本実施形態に係る電池用電極製造装置1は、基材フィルム23の振動を抑制することにより、基材フィルム23の搬送速度を安定させることができる。つまり、電池用電極製造装置1は、基材フィルム23を安定的に搬送できる。よって、本実施形態に係る電池用電極製造装置1は、基材フィルム23に対して活物質25を供給する供給工程の安定性を向上させることができる。
【0057】
本実施形態の外部ローラ41および内部ローラ42は、それぞれ基材フィルム23を挟み込むローラ対を有する。外部ローラ41は、基材フィルム23を挟み込む第一ローラ41aおよび第二ローラ41bを有する。内部ローラ42は、基材フィルム23を挟み込む押圧ローラ42aおよび駆動ローラ42bを有する。外部ローラ41および内部ローラ42がそれぞれローラ対によって基材フィルム23を挟み込むことで、テンション機構4の大型化を抑制しつつ所望のテンションFtを付加することが可能となる。
【0058】
本実施形態の内部ローラ42は、基材フィルム23に対して搬送方向Xの駆動力Ffを与える駆動ローラ42bを有する。外部ローラ41は、基材フィルム23に対して搬送方向Xとは逆方向のブレーキ力Fbを与える。このような構成により、内部ローラ42は、基材フィルム23を搬送する搬送ローラとして機能することができる。
【0059】
本実施形態のテンション機構4は、外部ローラ41と内部ローラ42との間における基材フィルム23の固有振動数νをスリット20sにおいて発生するカルマン渦Kvによる振動周波数fkとは異ならせるテンションFtを基材フィルム23に対して付加する。よって、外部ローラ41と内部ローラ42との間における基材フィルム23の振動が効果的に抑制される。
【0060】
本実施形態に係る電池用電極製造方法は、テンションを付加する工程と、供給する工程と、を有する。テンションを付加する工程では、チャンバー2の内部空間20aへチャンバー2のスリット20sを介して搬送される帯状の基材フィルム23に対してテンションFtが付加される。チャンバー2の内部空間20aは、大気圧よりも減圧されている。供給する工程では、基材フィルム23に対して内部空間20aにおいて粉体状の活物質25が供給される。
【0061】
テンションを付加する工程において、チャンバー2の外部空間20bに配置された外部ローラ41と、内部空間20aに配置された内部ローラ42と、によって基材フィルム23に対してテンションFtが付加される。供給する工程において、内部ローラ42を通過した後の基材フィルム23に対して活物質25が供給される。本実施形態に係る電池用電極製造方法は、スリット20sを通過して大気圧よりも減圧されたチャンバー内部空間へ搬送される基材フィルム23の振動を抑制し、基材フィルム23を安定的に搬送することができる。
【0062】
[実施形態の第1変形例]
実施形態の第1変形例について説明する。図6は、実施形態の第1変形例に係るテンション機構を示す図である。図6に示すテンション機構4において、上記実施形態のテンション機構4と異なる点は、内部ローラ42の構成である。図6に示す内部ローラ42は、第一ローラ42dおよび第二ローラ42eを有する。内部ローラ42は、第一ローラ42dおよび第二ローラ42eによって基材フィルム23を挟み込む。例示された内部ローラ42では、第一ローラ42dおよび第二ローラ42eの外径が等しい。
【0063】
内部ローラ42において、第一ローラ42dおよび第二ローラ42eの何れかが駆動ローラであってもよい。例えば、第一ローラ42dが駆動ローラとして基材フィルム23に対して駆動力Ffを与えてもよい。この場合、第二ローラ42eは従動ローラであってもよい。
【0064】
第1変形例のテンション機構4において、図7に示すように、外部ローラ41および内部ローラ42の両方がブレーキローラであってもよい。この場合、テンション機構4よりも搬送方向Xの下流側に基材フィルム23を搬送する搬送ローラ7が設けられることが望ましい。外部ローラ41は、基材フィルム23に対してブレーキ力Fb1を与え、内部ローラ42は基材フィルム23に対してブレーキ力Fb2を与える。外部ローラ41によるブレーキ力Fb1は、内部ローラ42によるブレーキ力Fb2よりも大きくされる。
【0065】
図7に示すテンション機構4は、対象部分24mにテンションFt1を付加する。テンション機構4は、更に、内部ローラ42よりも搬送方向Xの下流側にテンションFt2を付加することができる。下流側に付加されるテンションFt2は、例えば、対象部分24mに付加されるテンションFt1よりも小さい。
【0066】
[実施形態の第2変形例]
実施形態の第2変形例について説明する。図8は、実施形態の第2変形例に係るテンション機構を示す図である。図8に示すテンション機構4において、上記第1変形例のテンション機構4と異なる点は、外部ローラ41の構成である。
【0067】
図8に示す外部ローラ41は、第一ローラ41c、第二ローラ41d、および第三ローラ41eを有する。外部ローラ41は、第一ローラ41c、第二ローラ41d、および第三ローラ41eによって基材フィルム23を蛇行させる。第一ローラ41cおよび第三ローラ41eは、搬送方向Xに沿ったスリット20sの延長線上に配置される。鉛直方向Zにおける第二ローラ41dの位置は、二つのローラ41c,41eに対してずれた位置である。
【0068】
外部ローラ41は、例えば、第一ローラ41cおよび第三ローラ41eに対する基材フィルム23の接触角を90度とし、第二ローラ41dに対する基材フィルム23の接触角を180度とするように構成される。テンション機構4は、例えば、内部ローラ42によって基材フィルム23に駆動力Ffを与える。外部ローラ41は、基材フィルム23を蛇行させることにより、基材フィルム23の対象部分24mにテンションFtを発生させる。なお、テンション機構4は、第二ローラ41dに配置されたばねを有していてもよい。この場合、テンション機構4は、第二ローラ41dのばねによってテンションFtの大きさを調節することができる。
【0069】
[実施形態の第3変形例]
実施形態の第3変形例について説明する。上記実施形態および各変形例において、外部ローラ41および内部ローラ42の両方が駆動ローラを有していてもよい。
【0070】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0071】
1:電池用電極製造装置、 2:チャンバー、 3:供給機構
4:テンション機構、 5:ロールプレス、 6:タンク
7:搬送ローラ、 8:枠体供給装置
10:リチウムイオン単電池、 11:外層フィルム、 12:電流取り出し部
20:筐体、 20a:内部空間、 20b:外部空間、 20s:スリット
21:フィルム、 22:転写シート、 23:基材フィルム、 24:部材シート
24m:対象部分
30:フィルム供給装置、 32:部材シート製造装置
41:外部ローラ、 41a:第一ローラ、 41b:第二ローラ
42:内部ローラ、 42a:押圧ローラ、 42b:駆動ローラ
42c:モータ
60:組電池
100:電極製造システム
111:正極集電体層、 113:正極活物質層、 121:負極集電体層
123:負極活物質層、 130:セパレータ、 140:枠体
322:転写装置、 3221:転写機構、 3222:分離機構
Af:空気の流れ、 BL:境界層、 Kv:カルマン渦
Fb:ブレーキ力Fb、 Ff:駆動力
VL1:第一の渦列、 VL2:第二の渦列
X:搬送方向、 Z:鉛直方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8