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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159713
(43)【公開日】2022-10-18
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/292 20060101AFI20221011BHJP
   D06M 13/188 20060101ALI20221011BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20221011BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20221011BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20221011BHJP
【FI】
D06M13/292
D06M13/188
D06M13/144
D06M13/224
D06M15/53
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021064078
(22)【出願日】2021-04-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】足立 啓太
(72)【発明者】
【氏名】福岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千尋
(72)【発明者】
【氏名】富田 貴志
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA04
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA11
4L033BA17
4L033BA21
4L033BA39
4L033BA45
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】処理剤の耐熱性向上と保存時の安定性向上との両立を図ることができる合成繊維用処理剤及びそれが付与された合成繊維を提供する。
【解決手段】本発明の合成繊維用処理剤は、平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、下記のリン酸エステル化合物(C1)を含むイオン界面活性剤(C)、及び脂肪酸(D)を含有する。リン酸エステル化合物(C1)は、所定の式(1)で示されるリン酸エステルP1、所定の式(2)で示されるリン酸エステルP2、所定の式(3)で示されるリン酸エステルP3、及び所定の式(4)で示されるリン酸エステルP4から選ばれる少なくとも1つを含み、リン酸エステルP1、リン酸エステルP2、リン酸エステルP3、及びリン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が7%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、下記のリン酸エステル化合物(C1)を含むイオン界面活性剤(C)、及び脂肪酸(D)を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
リン酸エステル化合物(C1):下記の式(1)で示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)で示されるリン酸エステルP2、下記の式(3)で示されるリン酸エステルP3、及び下記の式(4)で示されるリン酸エステルP4から選ばれる少なくとも1つを含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が7%以下であるもの。
【化1】
(式(1)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
m:2又は3の整数。)
【化2】
(式(2)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
n:2又は3の整数。)
【化3】
(式(3)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【化4】
(式(4)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【請求項2】
前記リン酸エステル化合物(C1)が、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が5%以上50%以下である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記リン酸エステル化合物(C1)が、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が5%以下、及び前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上45%以下である請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記脂肪酸(D)が、炭素数8以上24以下の1価脂肪酸を含むものである請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記合成繊維用処理剤中の前記脂肪酸(D)の含有割合が、0.01質量%以上3質量%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
更に、アルコール化合物(E)を含み、前記合成繊維用処理剤中の前記アルコール化合物(E)の含有割合が0.001質量%以上5質量%以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
前記平滑剤(A)が、下記の完全エステル化合物(A1)、含硫黄エステル化合物(A2)、及び下記の部分エステル化合物(A3)から選ばれる少なくとも1つを含むものである請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
完全エステル化合物(A1):炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との完全エステル化合物、及び炭素数8以上24以下の1価アルコールと炭素数3以上10以下の多価脂肪酸との完全エステル化合物から選ばれる少なくとも1つ。
部分エステル化合物(A3):炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との部分エステル化合物。
【請求項8】
前記平滑剤(A)が前記完全エステル化合物(A1)を含み、前記合成繊維用処理剤中における前記完全エステル化合物(A1)の含有割合が30質量%以上70質量%以下である請求項7に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
前記平滑剤(A)が、前記含硫黄エステル化合物(A2)を含むものである請求項8に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
前記完全エステル化合物(A1)及び前記含硫黄エステル化合物(A2)の含有比率が、質量比として前記完全エステル化合物(A1)/前記含硫黄エステル化合物(A2)=1/1以上100/1以下である請求項9に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
前記平滑剤(A)が、前記部分エステル化合物(A3)を含むものである請求項8~10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項12】
前記完全エステル化合物(A1)及び前記部分エステル化合物(A3)の含有比率が、質量比として前記完全エステル化合物(A1)/前記部分エステル化合物(A3)=1/1以上10000/1以下である請求項11に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項13】
イオンクロマトグラフ法により合成繊維用処理剤から検出されるリン酸イオンの濃度が200ppm以下である請求項1~12のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のリン酸エステル化合物等を含有する合成繊維用処理剤及びかかる合成繊維用処理剤が付着している合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の紡糸延伸工程において、摩擦を低減し、糸切れ等の繊維の損傷を低減させる観点から、合成繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着する処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1,2に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、平滑剤に所定のリン酸エステル又はその有機アミン塩、ノニオン界面活性剤等を含有する合成繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、所定の有機スルホン酸化合物、有機リン酸エステル化合物、ノニオン界面活性剤等を含有する合成繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-038260号公報
【特許文献2】特開2016-084566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の合成繊維用処理剤において、例えば処理剤の保存時に時間の経過に伴い異物が析出する等、処理剤の保存安定性が低い場合があるという問題があった。特に処理剤の耐熱性向上と保存時の安定性向上との両立を図ることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、平滑剤、ノニオン界面活性剤、脂肪酸、及び特定のリン酸エステル化合物を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の合成繊維用処理剤では、平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、下記のリン酸エステル化合物(C1)を含むイオン界面活性剤(C)、及び脂肪酸(D)を含有することを要旨とする。
【0008】
リン酸エステル化合物(C1):下記の式(1)で示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)で示されるリン酸エステルP2、下記の式(3)で示されるリン酸エステルP3、及び下記の式(4)で示されるリン酸エステルP4から選ばれる少なくとも1つを含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が7%以下であるもの。
【0009】
【化1】
(式(1)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
m:2又は3の整数。)
【0010】
【化2】
(式(2)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
n:2又は3の整数。)
【0011】
【化3】
(式(3)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0012】
【化4】
(式(4)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
前記合成繊維用処理剤において、前記リン酸エステル化合物(C1)が、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が5%以上50%以下であってもよい。
【0013】
前記合成繊維用処理剤において、前記リン酸エステル化合物(C1)が、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が5%以下、及び前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上45%以下であってもよい。
【0014】
前記合成繊維用処理剤において、前記脂肪酸(D)が、炭素数8以上24以下の1価脂肪酸を含むものであってもよい。
前記合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤中の前記脂肪酸(D)の含有割合が、0.01質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0015】
前記合成繊維用処理剤において、更に、アルコール化合物(E)を含み、前記合成繊維用処理剤中の前記アルコール化合物(E)の含有割合が0.001質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0016】
前記合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)が、下記の完全エステル化合物(A1)、含硫黄エステル化合物(A2)、及び下記の部分エステル化合物(A3)から選ばれる少なくとも1つを含むものであってもよい。
【0017】
完全エステル化合物(A1):炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との完全エステル化合物、及び炭素数8以上24以下の1価アルコールと炭素数3以上10以下の多価脂肪酸との完全エステル化合物から選ばれる少なくとも1つ。
【0018】
部分エステル化合物(A3):炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との部分エステル化合物。
前記合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)が前記完全エステル化合物(A1)を含み、前記合成繊維用処理剤中における前記完全エステル化合物(A1)の含有割合が30質量%以上70質量%以下であってもよい。
【0019】
前記合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)が、前記含硫黄エステル化合物(A2)を含むものであってもよい。
前記合成繊維用処理剤において、前記完全エステル化合物(A1)及び前記含硫黄エステル化合物(A2)の含有比率が、質量比として前記完全エステル化合物(A1)/前記含硫黄エステル化合物(A2)=1/1以上100/1以下であってもよい。
【0020】
前記合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)が、前記部分エステル化合物(A3)を含むものであってもよい。
前記合成繊維用処理剤において、前記完全エステル化合物(A1)及び前記部分エステル化合物(A3)の含有比率が、質量比として前記完全エステル化合物(A1)/前記部分エステル化合物(A3)=1/1以上10000/1以下であってもよい。
【0021】
前記合成繊維用処理剤において、イオンクロマトグラフ法により合成繊維用処理剤から検出されるリン酸イオンの濃度が200ppm以下であってもよい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維では、前記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、合成繊維用処理剤の耐熱性向上と保存時の安定性向上との両立を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、下記のリン酸エステル化合物(C1)を含むイオン界面活性剤(C)、及び脂肪酸(D)を含有する。
【0024】
(平滑剤(A))
平滑剤(A)としては、例えばシリコーン油、鉱物油、ポリオレフィン、エステル油等が挙げられる。平滑剤(A)は、合成繊維に平滑性を付与する。
【0025】
シリコーン油の具体例としては、特に制限はないが、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、市販品を適宜採用できる。
【0026】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用できる。鉱物油の動粘度は40℃で5mm/s以上の物が使用される。
【0027】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用できる。
【0028】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0029】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0030】
エステル油としては、下記の完全エステル化合物(A1)、含硫黄エステル化合物(A2)、及び下記の部分エステル化合物(A3)から選ばれる少なくとも1つを含むものであることが好ましい。また、エステル油としては、含硫黄エステル化合物(A2)を含むものであることがより好ましい。かかる構成により耐熱性向上により張力変動を抑制できる。また、エステル油としては、下記の部分エステル化合物(A3)を含むものであることがより好ましい。かかる構成により相溶性向上によりタールを抑制できる。
【0031】
完全エステル化合物(A1)は、炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との完全エステル化合物、及び炭素数8以上24以下の1価アルコールと炭素数3以上10以下の多価脂肪酸との完全エステル化合物から選ばれる少なくとも1つである。ただし、チオジプロピオン酸又はジチオジプロピオン酸等の分子中に硫黄原子が含まれる二塩基酸は、エステル化合物(A1)における多価脂肪酸には含めないものとする。
【0032】
部分エステル化合物(A3)は、炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との部分エステル化合物である。
鎖状構造を有する多価アルコールとしては、環状構造を有しない多価アルコールが挙げられ、鎖状構造としては、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールの具体例としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0033】
炭素数8以上24以下の1価脂肪酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。上記の飽和脂肪酸の具体例としては、例えばオクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。上記不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0034】
炭素数8以上24以下の1価アルコールとしては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪族1価アルコールであっても、不飽和脂肪族1価アルコールであってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。炭素数8以上24以下の1価アルコールの具体例としては、例えばオクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール等の直鎖アルキルアルコール、イソオクタノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール等の分岐アルキルアルコール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール等が挙げられる。
【0035】
炭素数3以上10以下の多価脂肪酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であっても、芳香族カルボン酸であってもよい。炭素数3以上10以下の多価脂肪酸の具体例としては、例えばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸等の脂肪族カルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0036】
完全エステル化合物(A1)の具体例としては、例えばトリメチロールプロパントリオレアート、ジイソステアリルアジパート、及びヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、パーム油、魚油、牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0037】
含硫黄エステル化合物(A2)の具体例としては、例えばジオクチルチオジプロピオナート、ジイソラウリルチオジプロピオナート、ジラウリルチオジプロピオナート、ジイソセチルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ジオレイルチオジプロピオナート、オクチルチオジプロピオナート、イソラウリルチオジプロピオナート、ラウリルチオジプロピオナート、イソセチルチオジプロピオナート、イソステアリルチオジプロピオナート、オレイルチオジプロピオナート、オクチルメルカプトプロピオナート、ステアリルメルカプトプロピオナート、トリメチロールプロパントリス(メルカプトプロピオナート)、ジオクチルジチオジプロピオナート等が挙げられる。
【0038】
部分エステル化合物(A3)の具体例としては、例えばトリメチロールプロパンモノオレアート、グリセリンモノオレアート、ジグリセリンジラウラート、トリメチロールプロパンジオレアート、グリセリンジオレアート等が挙げられる。
【0039】
処理剤中における完全エステル化合物(A1)の含有割合の下限は、適宜選択されるが、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上である。かかる含有割合の上限は、適宜選択されるが、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0040】
処理剤中において、完全エステル化合物(A1)及び含硫黄エステル化合物(A2)の含有比率が、質量比として完全エステル化合物(A1)/含硫黄エステル化合物(A2)=1/1以上100/1以下であることが好ましい。かかる範囲に規定することにより張力変動を抑制できる。
【0041】
処理剤中において、完全エステル化合物(A1)及び部分エステル化合物(A3)の含有比率が、質量比として完全エステル化合物(A1)/部分エステル化合物(A3)=1/1以上10000/1以下であることが好ましい。かかる範囲に規定することによりタールの蓄積を抑制できる。
【0042】
上述したエステル油以外のエステル油を使用してもよい。かかるエステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート、ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステル化合物が挙げられる。
【0043】
これらの平滑剤(A)は、一種類の平滑剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
(ノニオン界面活性剤(B))
ノニオン界面活性剤(B)としては、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、アミン化合物としてアルキルアミン類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と炭素数3以上6以下の環状構造を有する多価アルコール等との部分エステル化合物等が挙げられる。これらのノニオン界面活性剤(B)は、一種類のノニオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上のノニオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0044】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0045】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0046】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上60モル以下、より好ましくは1モル以上40モル以下、さらに好ましくは2モル以上30モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加物であってもランダム付加物であってもよい。
【0047】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0048】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられるアルキルアミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0049】
ノニオン界面活性剤(B)の具体例としては、例えばオレイルアルコール1モルに対しエチレンオキサイド(以下、EOという)10モル付加したもの、イソトリデカノール1モルに対しEO10モル付加したもの、イソトリデカノール1モルに対してEO10モルとプロピレンオキサイド(以下、POという)10モルをランダムに付加したもの、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの、硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量5000)、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のジエステル、ポリエチレングリコール(平均分子量400)とラウリン酸のジエステル、ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のモノエステル、ラウリルアミン1モルに対しEO3モル付加したもの、ラウリルアミン1モルに対しEO10モル付加したもの等が挙げられる。
【0050】
処理剤中におけるノニオン界面活性剤(B)の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上70質量%以下、より好ましくは10質量%以上65質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる数値範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0051】
(リン酸エステル化合物(C1))
リン酸エステル化合物(C1)は、下記の式(1)で示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)で示されるリン酸エステルP2、下記の式(3)で示されるリン酸エステルP3、及び下記の式(4)で示されるリン酸エステルP4から選ばれる少なくとも1つを含んでいる。
【0052】
【化5】
(式(1)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
m:2又は3の整数。)
これらのリン酸エステルP1は、一種類のリン酸エステルP1を単独で含有してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルP1を含有してもよい。
【0053】
を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。Rを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。
【0054】
を構成する直鎖のアルキル基の具体例としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0055】
を構成する分岐鎖構造を有するアルキル基の具体例としては、例えばイソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基、イソドコシル基、イソトリコシル基、イソテトラコシル基等が挙げられる。
【0056】
を構成する直鎖のアルケニル基の具体例としては、例えばオクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
【0057】
を構成する分岐鎖構造を有するアルケニル基の具体例としては、例えばイソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基、イソトリデセニル基、イソテトラデセニル基、イソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基、イソドコセニル基、イソトリコセニル基、イソテトラコセニル基等が挙げられる。
【0058】
炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基を構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールの具体例としては、上述したエステル油の原料として挙げた脂肪族1価アルコールの具体例が挙げられる。
【0059】
アルキレンオキサイドの具体例としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが挙げられる。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における脂肪族アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加物であってもランダム付加物であってもよい。
【0060】
を構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基の具体例としては、例えば2-エチルヘキサノールにEOを2モル付加したもの、ノルマルオクタノールにEO2モルとPO2モルをランダム付加したもの、ラウリルアルコールにEOを3モル付加したもの、イソラウリルアルコールにEOを3モル付加したもの、イソラウリルアルコールにEO3モルとPO3モルをランダム付加したもの、セチルアルコールにEOを3モル付加したもの、イソセチルアルコールにEOを3モル付加したもの、オレイルアルコールにEOを4モル付加したもの、イソステアリルアルコールにEOを4モル付加したもの、オレイルアルコールにEOを3モル付加したもの、オレイルアルコールにEO4モルとPO4モルをランダム付加したもの、イソテトラデセニルアルコールにEOを5モル付加したもの等から水酸基を除いた残基が挙げられる。
【0061】
又はMは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウムを示す。なお、アルカリ土類金属は、2価のため、アルカリ土類金属(1/2)は、M又はMにおいて1/2モル付加されることを示す。アルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の具体例としては、例えばマグネシウム、カルシウム等が挙げられる。
【0062】
有機アミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)3-アミノプロペン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル等が挙げられる。
【0063】
ホスホニウムの具体例としては、例えばテトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、ジブチルジヘキシルホスホニウム、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム、トリエチルオクチルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム等の4級ホスホニウム等が挙げられる。
【0064】
リン酸エステルP2は、下記の式(2)で示される。
【0065】
【化6】
(式(2)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、又は炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
n:2又は3の整数。)
これらのリン酸エステルP2は、一種類のリン酸エステルP2を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルP2を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0066】
又はRを構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R又はRを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。
【0067】
又はRを構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。R又はRを構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0068】
又はRを構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基の具体例としては、式(1)のRにおいて列挙した具体例を採用できる。
【0069】
の具体例としては、式(1)のM又はMにおいて例示したものが挙げられる。
リン酸エステルP3は、下記の式(3)で示される。
【0070】
【化7】
(式(3)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、又は炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
これらのリン酸エステルP3は、一種類のリン酸エステルP3を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルP3を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0071】
を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。Rを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。
【0072】
を構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。Rを構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0073】
を構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基の具体例としては、式(1)のRにおいて列挙した具体例を採用できる。
【0074】
又はMの具体例としては、式(1)のM又はMにおいて例示したものが挙げられる。
リン酸エステルP4は、下記の式(4)で示される。
【0075】
【化8】
(式(4)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、又は炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
これらのリン酸エステルP4は、一種類のリン酸エステルP4を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルP4を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0076】
又はRを構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R又はRを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。
【0077】
又はRを構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。R又はRを構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0078】
又はRを構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基の具体例としては、式(1)のRにおいて列挙した具体例を採用できる。
【0079】
の具体例としては、式(1)のM又はMにおいて例示したものが挙げられる。
リン酸エステル化合物(C1)は、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が7%以下であるものが適用される。
【0080】
上記「アルカリ過中和前処理」とは、アルキルリン酸エステル化合物に対して過剰量のアルカリを添加する前処理を意味する。なお、アルカリの具体例としては、特に限定されず、例えば有機アミン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。また、リン酸エステル塩を合成する場合に使用したアルカリと同じであってもよく、異なっていてもよい。有機アミンの具体例としては、上述したリン酸エステル塩を構成する有機アミンで例示したものが挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0081】
31P-NMRの測定において、この「アルカリ過中和前処理」を行うことで、リン酸エステルP1~P4に帰属されるピークを明瞭に分けることができ、下記数式(1)~数式(4)による各化合物に帰属されるP核積分比率の計算が可能となる。なお、後述する実施例欄における31P-NMRの測定では、観測ピークが分かれる程度のアルカリをリン酸エステル化合物に加えるアルカリ過中和処理を行った。
【0082】
前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(1)で示される。前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(2)で示される。前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(3)で示される。前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(4)で示される。
【0083】
【数1】
(数式(1)において、
P1_P%:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
P4_P:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分値。)
【0084】
【数2】
(数式(2)において、
P2_P%:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
P4_P:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分値。)
【0085】
【数3】
(数式(3)において、
P3_P%:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
P4_P:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分値。)
【0086】
【数4】
(数式(4)において、
P4_P%:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
P4_P:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分値。)
リン酸エステル化合物(C1)は、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が5%以上50%以下であることが好ましい。かかる範囲に規定することにより本発明の効果をより向上させる。
【0087】
リン酸エステル化合物(C1)は、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が5%以下、及び前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上45%以下であることが好ましい。かかる範囲に規定することにより本発明の効果をより向上させる。
【0088】
リン酸エステル化合物(C1)は、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が5%以下、及び前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が15%以上40%以下であることがより好ましい。かかる範囲に規定することにより張力変動をより低減させる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0089】
リン酸エステル化合物(C1)は、原料アルコールとして炭素数8以上24以下の飽和脂肪族アルコール又は不飽和脂肪族アルコールに、例えば五酸化二燐を反応させてアルキルリン酸エステルを得た後、必要によりアルキルリン酸エステルを水酸化カリウム、アミン等のアルカリで中和又は過中和することにより得られる。前記の合成方法の場合、リン酸エステル化合物は通常、化1で示されるリン酸エステルP1、化2で示されるリン酸エステルP2、リン酸エステルP3、及びリン酸エステルP4の混合物となる。これら混合物の中で、リン酸エステルP1は保存中に分解が特に起こりやすく、容易に無機リン酸及びその塩が生成する。特に、処理剤中に水が含まれるときに、それが顕著に起きる。無機リン酸及びその塩は、処理剤から析出したり、さらには処理剤の耐熱性を低下させるため、製糸に悪影響を及ぼす。前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率を7%以下とするために、リン酸化工程の前に原料を脱水処理したり、リン酸化工程中は不活性ガス雰囲気を用いる等の方法により水分との接触を避けながら反応を進めることが好ましく、吸湿した五酸化二燐の使用を避けることが特に好ましい。前記リン酸エステルP1はリン酸エステル化合物(C1)に水を加え、100℃程度に加熱して分解させることで、その含有割合を減らしてもよい。この時、リン酸エステルP1の加熱分解により無機リン酸及びその塩が生成する。無機リン酸及びその塩は、耐熱性向上の観点から処理剤から除去されることが好ましい。それらの除去には、公知の精製技術、例えば吸着処理を適用できる。また、リン酸エステル化合物(C1)は、化1に示されるリン酸エステルP1、化2で示されるリン酸エステルP2、化3に示されるリン酸エステルP3、及び化4に示されるリン酸エステルP4を混合して調製してもよい。
【0090】
処理剤中におけるリン酸エステル化合物(C1)の含有量は、適宜設定されるが、中和剤で塩を形成していない状態において、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上5質量%以下がより好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる数値範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。また、かかる範囲に規定することにより制電性等の処理剤の機能を効率よく発揮できる。
【0091】
(イオン界面活性剤(C))
処理剤は、リン酸エステル化合物(C1)以外のイオン界面活性剤(C)を含んでもよい。リン酸エステル化合物(C1)以外のイオン界面活性剤(C)としては、公知のものを適宜採用できる。イオン界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
【0092】
アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、テトラデカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、2級アルキルスルホン酸塩等の脂肪族スルホン酸塩又は芳香族スルホン酸塩、(2)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(3)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにEO及びPOから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(4)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩、豚脂脂肪酸硫酸エステル塩、牛脂脂肪酸硫酸エステル塩、鯨油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(5)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩、豚脂の硫酸エステル塩、牛脂の硫酸エステル塩、鯨油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(6)ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ドデセニルコハク酸塩等の脂肪酸塩、(7)ジオクチルスルホコハク酸塩等の脂肪族アルコールのスルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0093】
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0094】
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
これらのイオン界面活性剤(C)は、一種類のイオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上のイオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0095】
(脂肪酸(D))
脂肪酸(D)としては、飽和又は不飽和の鎖状モノカルボン酸を示し、炭素数6以下のヒドロキシ基を有するヒドロキシ脂肪酸は含まないものとする。脂肪酸(D)は、その炭素数、分岐の有無等について特に制限はない。脂肪酸(D)は、本発明の効果をより効率的に発現する観点から、炭素数8以上24以下の1価脂肪酸が好ましい。
【0096】
飽和脂肪酸の具体例としては、例えばオクチル酸、2-エチルヘキサン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。上記不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸、レシノール酸等が挙げられる。また、天然物由来の脂肪酸であってもよい。天然物由来の脂肪酸の具体例としては、例えばひまし油脂肪酸、ごま油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、なたね油脂肪酸、パーム油脂肪酸、豚脂脂肪酸、牛脂脂肪酸、鯨油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸等が挙げられる。
【0097】
これらの脂肪酸(D)は、一種類の脂肪酸を単独で使用してもよいし、又は二種以上の脂肪酸を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中における脂肪酸(D)の含有割合の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。また、処理剤中における脂肪酸(D)の含有割合の上限は、特に限定されないが、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより効率的に発現させる。
【0098】
その他、処理剤中において脂肪酸(D)に含まれないその他のカルボン酸が含まれてもよい。その他のカルボン酸としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の炭素数6以下のヒドロキシ酸、多価脂肪酸等が挙げられる。
【0099】
(アルコール化合物(E))
処理剤は、さらにアルコール化合物(E)を含んでもよい。アルコール化合物(E)は、処理剤の耐熱性をより向上させる。アルコール化合物(E)としては、例えば1価アルコール、多価アルコール等が挙げられる。1価アルコールとしては、例えば低級アルコール、高級アルコール等が挙げられる。多価アルコールとしては、2~4価の多価アルコールが挙げられる。かかる化合物により、加熱ローラー上への処理剤析出物の脱落を抑制し、タールの蓄積等を抑制する。
【0100】
1価アルコールとしては、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよいし、環状のシクロ環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではない。また、第1級アルコールであっても、第2級、第3級アルコールであってもよい。1価アルコールの具体例としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、オクチルアルコール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、エイコサノール、ベヘニルアルコール、テトラコサノール、オレイルアルコール、イソプロパノール、2-エチルヘキサノール、イソドデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、イソミリスチルアルコール、イソセタノール、イソステアリルアルコール、イソテトラコサノール等が挙げられる。
【0101】
2価アルコール(ジオール)の具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等が挙げられる。
【0102】
3又は4価アルコールの具体例としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0103】
これらのアルコール化合物(E)は、一種類のアルコール化合物を単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルコール化合物を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で安定性向上の観点から多価アルコールが好ましい。
【0104】
処理剤中のアルコール化合物(E)の含有割合は、適宜設定されるが、0.001質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上2.9質量%以下であることがさらに好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、安定性をより向上させ、タールの蓄積をより抑制する。
【0105】
(その他)
処理剤は、イオンクロマトグラフ法により処理剤から検出されるリン酸イオンの濃度が200ppm以下であることが好ましく、150ppm以下であることがより好ましい。かかる範囲に規定されることにより、加熱ローラー上の処理剤又はタールの蓄積を抑制する。
【0106】
<第2実施形態>
次に、本発明による合成繊維を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、希釈溶媒で希釈した希釈溶液、例えば低粘度鉱物油溶液、有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。第1実施形態の処理剤によると、低粘度鉱物油等の非極性溶媒で希釈した処理剤の保存安定性を特に向上させる。合成繊維は、水性液等の希釈溶液を、例えば紡糸又は延伸工程等において合成繊維に付着させる工程を経て得られる。合成繊維に付着した希釈液は、延伸工程、乾燥工程により希釈溶媒を蒸発させてもよい。付着させる工程も紡糸工程であれば特に制限はない。延伸もしくは熱処理工程において、150℃以上のローラーを通過させる工程を有する製造設備、工程での使用により、発明の効果がより期待できる。
【0107】
本実施形態の処理剤が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維に適用されることが好ましい。
【0108】
処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤を合成繊維に対し0.1質量%以上3質量%以下(水等の溶媒を含まない)の割合となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用できる。
【0109】
本実施形態の処理剤及び合成繊維の作用及び効果について説明する。
本実施形態の処理剤では、平滑剤、ノニオン界面活性剤、脂肪酸、及び特定のリン酸エステル化合物を配合した。したがって、処理剤の耐熱性を向上させるとともに、処理剤の保存安定性を向上させる。それにより、特にリン酸エステルP1の分解により生ずる無機リン酸又はその塩由来の析出物、その沈殿、製糸中のタール等の発生を抑制できる。
【0110】
また、処理剤の付与された走行糸とローラーとの擦過による張力、つまり摩擦の変動及びタールの発生を低減できる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0111】
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【0112】
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、さらに水を含んでもよい。水の含有量は、処理剤の安定性を向上させる観点から0質量%を超え4質量%以下が好ましい。
【実施例0113】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0114】
試験区分1(リン酸エステル化合物(C1)の合成)
各実施例、各比較例の処理剤に用いられるリン酸エステル化合物を、以下に示される方法により合成した。
【0115】
・リン酸エステル化合物(P-1)の合成
原料アルコールとしてイソセチルアルコールは、105℃で減圧脱水を行ったものを使用した。4つ口フラスコにイソセチルアルコールを仕込み、これに窒素雰囲気下で五酸化二燐を徐々に投入し、70±5℃で3時間撹拌することでリン酸化反応を行った。リン酸化物をカラムクロマトグラフィーで精製し、次いで中和剤としてジブチルエタノールアミンと混合し、50℃で1時間撹拌することによりリン酸エステル化合物(P-1)を合成した。ジブチルエタノールアミンの仕込み量は、リン酸化物の量とその酸価(1mol/LのKOH溶液で滴定して求められる約pH11の滴定点での酸価)とジブチルエタノールアミンの塩基価から計算して求めた(ジブチルエタノールアミンの仕込み量=リン酸化物の仕込み量×酸価/塩基価)。
【0116】
・リン酸エステル化合物(P-2~P-7、rP-1、rP-2)
リン酸エステル化合物(P-2~P-7)は、原料アルコールとして表1の原料を使用し、P-1と同様の方法で合成した。尚、リン酸エステル化合物(rP-1、rP-2)のリン酸化反応は、大気下で行い、原料の五酸化二燐は試薬瓶開封後、全量投入まで大気下(室温:約27℃、相対湿度:約80%)に置いた(投入開始から投入終了まで30分程度要した)。リン酸エステル化合物(rP-1)の中和は、水酸化カリウム水溶液にリン酸化物を仕込み、撹拌することで行い、自然乾燥させてから処理剤に供した。
【0117】
処理剤に配合するリン酸エステル化合物(P-1~P-7、rP-1、rP-2)のアルキル基を構成することになる原料アルコール、塩を形成するための中和剤(アルカリ)を、表1の「原料アルコール」欄、「中和剤」欄にそれぞれ示す。
【0118】
・P核NMR測定方法
上記のように合成された各リン酸エステル化合物(C1)0.10gに対してアルカリとしてラウリルアミン0.15gを添加し撹拌することにより前処理した。そして、31P-NMRを用いてリン酸エステルP1~P4に帰属される各P核NMR積分値を求めた。
【0119】
なお、P核NMR積分比率は、31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz)の測定値を用いた。尚、溶媒は、重クロロホルムを用いた。上述した数式(1)~数式(4)に基づいて、リン酸エステルP1~P4に帰属される各P核NMR積分比率(%)を求めた。各リン酸エステル化合物(C1)の数式(1)~数式(4)から算出した値は、これらの各リン酸エステル化合物(C1)を配合した処理剤のP核NMR積分比率と等しかった。
【0120】
リン酸エステル化合物のP核NMR測定によって求められたリン酸エステルP1~P4の各P核NMR積分比率(%)について、表1の「P核NMR積分比率(%)」欄にそれぞれ示す。
【0121】
【表1】
試験区分1(処理剤の調製)
各実施例、各比較例に用いた処理剤は、表2,3に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0122】
平滑剤(A)としてトリメチロールプロパントリオレアート(L-1)30部(%)、ナタネ油(L-3)30部(%)、ジイソステアリルチオジプロピオナート(LS-1)2部(%)、トリメチロールプロパンジオレアート(pL-1)1部(%)、ノニオン界面活性剤としてイソトリデカノール1モルに対してEO10モルPO10モルをランダムに付加したもの(N-3)5部(%)、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの(N-4)14部(%)、硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物(N-5)14部(%)、ラウリルアミン1モルに対しEO3モル付加したもの(N-12)1部(%)、イオン界面活性剤としてリン酸エステル化合物(P-1)1.5部(%)、2級アルカンスルホン酸ナトリウム(C=14~17)(S-1)1.2部(%)、脂肪酸(D)としてナタネ脂肪酸(F-3)0.1部(%)、アルコール化合物(E)としてエチレングリコール(AL-11)0.2部(%)をよく混合して均一にすることで実施例1の処理剤を調製した。
【0123】
実施例2~20、比較例1~5は、実施例1と同様にして平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、イオン界面活性剤(C)、脂肪酸(D)、アルコール化合物(E)を表2,3に示した割合で混合することで処理剤を調製した。但し、実施例3、4、5、6、9、11には表2の原料以外に酸化防止剤として1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸を処理剤100部に対し0.8部の割合で添加した。
【0124】
また、処理剤中のリン酸イオンを、次の条件のイオンクロマトグラフ法により測定した。結果を表2,3の「リン酸イオン濃度」欄に示す。
試料1g(揮発分も含む)を正確に量りとり、撹拌しながら10%の2-プロパノール水溶液を少しずつ加え、100mLメスフラスコで定容した溶液を作製した。作製した水溶液1mLを、ODS(シリカゲルにオクタデシル基を化学結合させた)前処理カートリッジに通し、イオンクロマトグラフ分析に使用した。以下のイオンクロマトグラフ条件により検出を行った。濃度既知の標準液に対するピーク面積比にて検出量を測定し、リン酸イオン(PO 3-)の量を換算した。
【0125】
<イオンクロマトグラフ条件>
装置:東ソー社製 IC2001 サプレッサ使用、
分析カラム:東ソー社製 TSKgel SuperIC-AZ 内径4.6mm×長さ75mm、
ガードカラム:東ソー社製 TSKgel guardcolumn SuperIC-AZ、内径4.0mm×長さ10mm、
溶離液:4.8mmolのNaCO、2.8mmolのNaHCOの23容量%メタノール水溶液、
流量:0.6mL/min。
【0126】
また、各例の処理剤中における平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、イオン界面活性剤(C)、脂肪酸(D)、アルコール化合物(E)の種類及び含有割合を、表2,3の「平滑剤(A)」欄、「ノニオン界面活性剤(B)」欄、「イオン界面活性剤(C)」欄、「脂肪酸(D)」、「アルコール化合物(E)」欄にそれぞれ示す。
【0127】
また、各例の処理剤中における完全エステル化合物(A1)と含硫黄エステル化合物(A2)の質量比、及び完全エステル化合物(A1)と部分エステル化合物(A3)の質量比を、表2,3の「含有比率(A1)/(A2)」欄、「含有比率(A1)/(A3)」にそれぞれ示す。
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
表2,3の区分欄に記載する平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、イオン界面活性剤(C)、脂肪酸(D)、アルコール化合物(E)の詳細は以下のとおりである。
【0130】
(平滑剤(A))
L-1:トリメチロールプロパントリオレアート
L-2:ジイソステアリルアジパート
L-3:ナタネ油
LS-1:ジイソステアリルチオジプロピオナート
LS-2:ジオレイルチオジプロピオナート
pL-1:トリメチロールプロパンジオレアート
pL-2:グリセリンジオレアート
eL-1:オクチルパルミタート
(ノニオン界面活性剤(B))
N-1:オレイルアルコール1モルに対しEO10モル付加したもの
N-2:イソトリデカノール1モルに対しEO10モル付加したもの
N-3:イソトリデカノール1モルに対してEO10モルPO10モルをランダムに付加したもの
N-4:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの
N-5:硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物
N-6:硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量5000)
N-7:ソルビタンモノオレアート
N-8:ソルビタントリオレアート
N-9:ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のジエステル
N-10:ポリエチレングリコール(平均分子量400)とラウリン酸のジエステル
N-11:ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のモノエステル
N-12:ラウリルアミン1モルに対しEO3モル付加したもの
N-13:ラウリルアミン1モルに対しEO10モル付加したもの
(イオン界面活性剤(C))
S-1:2級アルカンスルホン酸ナトリウム(C=14~17)
S-2:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
S-3:ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩
S-4:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム
(脂肪酸(D))
F-1:オクチル酸
F-2:オレイン酸
F-3:ナタネ脂肪酸
F-4:パーム脂肪酸
rF-1:クエン酸
rF-2:乳酸
(アルコール化合物(E))
AL-1:イソセチルアルコール
AL-3:オレイルアルコール
AL-5:グリセリン
AL-6:ジグリセリン
AL-7:ポリエチレングリコール(平均分子量200)
AL-8:ポリエチレングリコール(平均分子量400)
AL-9:ポリプロピレングリコール(平均分子量400)
AL-10:ポリオキシエチレンプロピレングリコール(PO1モル、EO4モル)
AL-11:エチレングリコール
AL-12:プロピレングリコール
試験区分3(処理剤及び合成繊維の評価)
・安定性の評価
実施例1の処理剤と、リン酸エステル化合物(P-1)を使用する実施例1の処理剤において、実施例1に記載のリン酸エステル化合物(P-1)の代わりに表1のリン酸エステル化合物(P-2~7、rP-1、rP-2)をそれぞれ配合したものを調製した。なお、処理剤に含まれるリンの物質量がリン酸化合物(P-1)を配合した時と同じとなるようにリン酸化合物の配合量を調整した。これらをバイアル瓶に100gずつ入れた。次いで、これに1gの蒸留水を加えた。バイアル瓶を70℃で3日間静置し、無機リン酸由来の粒子状の物質がバイアル底部に新たに析出するか観察した。安定性を下記の基準で判定した。結果を表1の「安定性」欄に示す。
【0131】
○(可):析出しなかった場合
×(不良):析出した場合
・張力変動の評価
各処理剤を必要に応じてイオン交換水又は有機溶剤の希釈剤にて均一に希釈し、15%溶液とした。1000デシテックス、192フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に、前記の溶液を、オイリングローラー給油法にて不揮発分として付与量3.0質量%となるように付与し、希釈剤を乾燥させ試験糸とした。
【0132】
試験糸を、初期張力1.5kg、糸速度1.0m/分で、表面温度250℃の梨地クロムピンに接触させて走行させ、梨地クロムピン接触後の糸の張力値を測定した。走行20分後の張力値から10%上昇した時点での走行時間を記録し、次の基準で評価した。結果を表2,3の「張力変動」欄に示す。
【0133】
○○(良好):6時間以上
○(可):3時間以上6時間未満
×(不良):3時間未満
・タールの評価
処理剤の耐熱性評価として、張力変動試験で6時間経過した後の梨地クロムピンに堆積したタールを観察し、次の基準で評価した。結果を表2,3の「タール」欄に示す。
【0134】
○○(良好):タールがあまり観察されない場合
○(可):薄っすらと茶色のタールが観察される場合
×(不良):濃い茶色もしくは黒色のタールが観察される場合
表1~3の各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、保存安定性に優れ、張力変動、タールが低減していることが確認された。
【手続補正書】
【提出日】2021-07-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、下記のリン酸エステル化合物(C1)を含むイオン界面活性剤(C)、及び脂肪酸(D)を含有し、
前記平滑剤(A)が、下記の完全エステル化合物(A1)及び下記の部分エステル化合物(A3)を含むものであり、前記完全エステル化合物(A1)及び前記部分エステル化合物(A3)の含有比率が、質量比として前記完全エステル化合物(A1)/前記部分エステル化合物(A3)=1/1以上10000/1以下であることを特徴とする合成繊維用処理剤。
リン酸エステル化合物(C1):下記の式(1)で示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)で示されるリン酸エステルP2、下記の式(3)で示されるリン酸エステルP3、及び下記の式(4)で示されるリン酸エステルP4から選ばれる少なくとも1つを含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が7%以下であるもの。
【化1】
(式(1)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
m:2又は3の整数。)
【化2】
(式(2)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
n:2又は3の整数。)
【化3】
(式(3)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【化4】
(式(4)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
完全エステル化合物(A1):炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との完全エステル化合物、及び炭素数8以上24以下の1価アルコールと炭素数3以上10以下の多価脂肪酸との完全エステル化合物から選ばれる少なくとも1つ。
部分エステル化合物(A3):炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との部分エステル化合物。
【請求項2】
前記リン酸エステル化合物(C1)が、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が5%以上50%以下である請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記リン酸エステル化合物(C1)が、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が5%以下、及び前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上45%以下である請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記脂肪酸(D)が、炭素数8以上24以下の1価脂肪酸を含むものである請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記合成繊維用処理剤中の前記脂肪酸(D)の含有割合が、0.01質量%以上3質量%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
更に、アルコール化合物(E)を含み、前記合成繊維用処理剤中の前記アルコール化合物(E)の含有割合が0.001質量%以上5質量%以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
前記平滑剤(A)が、さらに含硫黄エステル化合物(A2)を含むものである請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤
【請求項8】
記合成繊維用処理剤中における前記完全エステル化合物(A1)の含有割合が30質量%以上70質量%以下である請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
前記完全エステル化合物(A1)及び前記含硫黄エステル化合物(A2)の含有比率が、質量比として前記完全エステル化合物(A1)/前記含硫黄エステル化合物(A2)=1/1以上100/1以下である請求項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
イオンクロマトグラフ法により合成繊維用処理剤から検出されるリン酸イオンの濃度が200ppm以下である請求項1~のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のリン酸エステル化合物等を含有する合成繊維用処理剤及びかかる合成繊維用処理剤が付着している合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の紡糸延伸工程において、摩擦を低減し、糸切れ等の繊維の損傷を低減させる観点から、合成繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着する処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1,2に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、平滑剤に所定のリン酸エステル又はその有機アミン塩、ノニオン界面活性剤等を含有する合成繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、所定の有機スルホン酸化合物、有機リン酸エステル化合物、ノニオン界面活性剤等を含有する合成繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-038260号公報
【特許文献2】特開2016-084566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の合成繊維用処理剤において、例えば処理剤の保存時に時間の経過に伴い異物が析出する等、処理剤の保存安定性が低い場合があるという問題があった。特に処理剤の耐熱性向上と保存時の安定性向上との両立を図ることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、平滑剤、ノニオン界面活性剤、脂肪酸、及び特定のリン酸エステル化合物を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の合成繊維用処理剤では、平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、下記のリン酸エステル化合物(C1)を含むイオン界面活性剤(C)、及び脂肪酸(D)を含有し、前記平滑剤(A)が、下記の完全エステル化合物(A1)及び下記の部分エステル化合物(A3)を含むものであり、前記完全エステル化合物(A1)及び前記部分エステル化合物(A3)の含有比率が、質量比として前記完全エステル化合物(A1)/前記部分エステル化合物(A3)=1/1以上10000/1以下であることを要旨とする。
【0008】
リン酸エステル化合物(C1):下記の式(1)で示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)で示されるリン酸エステルP2、下記の式(3)で示されるリン酸エステルP3、及び下記の式(4)で示されるリン酸エステルP4から選ばれる少なくとも1つを含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が7%以下であるもの。
【0009】
【化1】
(式(1)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
m:2又は3の整数。)
【0010】
【化2】
(式(2)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
n:2又は3の整数。)
【0011】
【化3】
(式(3)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
【0012】
【化4】
(式(4)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
完全エステル化合物(A1):炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との完全エステル化合物、及び炭素数8以上24以下の1価アルコールと炭素数3以上10以下の多価脂肪酸との完全エステル化合物から選ばれる少なくとも1つ。
【0013】
部分エステル化合物(A3):炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との部分エステル化合物。
前記合成繊維用処理剤において、前記リン酸エステル化合物(C1)が、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が5%以上50%以下であってもよい。
【0014】
前記合成繊維用処理剤において、前記リン酸エステル化合物(C1)が、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が5%以下、及び前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上45%以下であってもよい。
【0015】
前記合成繊維用処理剤において、前記脂肪酸(D)が、炭素数8以上24以下の1価脂肪酸を含むものであってもよい。
前記合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤中の前記脂肪酸(D)の含有割合が、0.01質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0016】
前記合成繊維用処理剤において、更に、アルコール化合物(E)を含み、前記合成繊維用処理剤中の前記アルコール化合物(E)の含有割合が0.001質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0017】
前記合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)が、さらに含硫黄エステル化合物(A2)を含むものであってもよい。
【0018】
記合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤中における前記完全エステル化合物(A1)の含有割合が30質量%以上70質量%以下であってもよい。
記合成繊維用処理剤において、前記完全エステル化合物(A1)及び前記含硫黄エステル化合物(A2)の含有比率が、質量比として前記完全エステル化合物(A1)/前記含硫黄エステル化合物(A2)=1/1以上100/1以下であってもよい。
【0019】
前記合成繊維用処理剤において、イオンクロマトグラフ法により合成繊維用処理剤から検出されるリン酸イオンの濃度が200ppm以下であってもよい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維では、前記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、合成繊維用処理剤の耐熱性向上と保存時の安定性向上との両立を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、下記のリン酸エステル化合物(C1)を含むイオン界面活性剤(C)、及び脂肪酸(D)を含有する。
【0022】
(平滑剤(A))
平滑剤(A)としては、例えばシリコーン油、鉱物油、ポリオレフィン、エステル油等が挙げられる。平滑剤(A)は、合成繊維に平滑性を付与する。
【0023】
シリコーン油の具体例としては、特に制限はないが、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、市販品を適宜採用できる。
【0024】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用できる。鉱物油の動粘度は40℃で5mm/s以上の物が使用される。
【0025】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用できる。
【0026】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0027】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0028】
エステル油としては、下記の完全エステル化合物(A1)、含硫黄エステル化合物(A2)、及び下記の部分エステル化合物(A3)が挙げられる本発明においては、下記の完全エステル化合物(A1)及び下記の部分エステル化合物(A3)を含むものである。さらに、エステル油としては、含硫黄エステル化合物(A2)を含むものであることがより好ましい。かかる構成により耐熱性向上により張力変動を抑制できる。また、エステル油としては、下記の部分エステル化合物(A3)を含む構成により相溶性向上によりタールを抑制できる。
【0029】
完全エステル化合物(A1)は、炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との完全エステル化合物、及び炭素数8以上24以下の1価アルコールと炭素数3以上10以下の多価脂肪酸との完全エステル化合物から選ばれる少なくとも1つである。ただし、チオジプロピオン酸又はジチオジプロピオン酸等の分子中に硫黄原子が含まれる二塩基酸は、エステル化合物(A1)における多価脂肪酸には含めないものとする。
【0030】
部分エステル化合物(A3)は、炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールと炭素数8以上24以下の1価脂肪酸との部分エステル化合物である。
鎖状構造を有する多価アルコールとしては、環状構造を有しない多価アルコールが挙げられ、鎖状構造としては、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。炭素数3以上6以下の鎖状構造を有する多価アルコールの具体例としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0031】
炭素数8以上24以下の1価脂肪酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。上記の飽和脂肪酸の具体例としては、例えばオクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。上記不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0032】
炭素数8以上24以下の1価アルコールとしては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪族1価アルコールであっても、不飽和脂肪族1価アルコールであってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。炭素数8以上24以下の1価アルコールの具体例としては、例えばオクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール等の直鎖アルキルアルコール、イソオクタノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール等の分岐アルキルアルコール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール等が挙げられる。
【0033】
炭素数3以上10以下の多価脂肪酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であっても、芳香族カルボン酸であってもよい。炭素数3以上10以下の多価脂肪酸の具体例としては、例えばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸等の脂肪族カルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0034】
完全エステル化合物(A1)の具体例としては、例えばトリメチロールプロパントリオレアート、ジイソステアリルアジパート、及びヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、パーム油、魚油、牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0035】
含硫黄エステル化合物(A2)の具体例としては、例えばジオクチルチオジプロピオナート、ジイソラウリルチオジプロピオナート、ジラウリルチオジプロピオナート、ジイソセチルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ジオレイルチオジプロピオナート、オクチルチオジプロピオナート、イソラウリルチオジプロピオナート、ラウリルチオジプロピオナート、イソセチルチオジプロピオナート、イソステアリルチオジプロピオナート、オレイルチオジプロピオナート、オクチルメルカプトプロピオナート、ステアリルメルカプトプロピオナート、トリメチロールプロパントリス(メルカプトプロピオナート)、ジオクチルジチオジプロピオナート等が挙げられる。
【0036】
部分エステル化合物(A3)の具体例としては、例えばトリメチロールプロパンモノオレアート、グリセリンモノオレアート、ジグリセリンジラウラート、トリメチロールプロパンジオレアート、グリセリンジオレアート等が挙げられる。
【0037】
処理剤中における完全エステル化合物(A1)の含有割合の下限は、適宜選択されるが、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上である。かかる含有割合の上限は、適宜選択されるが、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0038】
処理剤中において、完全エステル化合物(A1)及び含硫黄エステル化合物(A2)の含有比率が、質量比として完全エステル化合物(A1)/含硫黄エステル化合物(A2)=1/1以上100/1以下であることが好ましい。かかる範囲に規定することにより張力変動を抑制できる。
【0039】
処理剤中において、完全エステル化合物(A1)及び部分エステル化合物(A3)の含有比率が、質量比として完全エステル化合物(A1)/部分エステル化合物(A3)=1/1以上10000/1以下である。かかる範囲に規定することによりタールの蓄積を抑制できる。
【0040】
上述したエステル油以外のエステル油を使用してもよい。かかるエステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート、ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステル化合物が挙げられる。
【0041】
これらの平滑剤(A)は、一種類の平滑剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
(ノニオン界面活性剤(B))
ノニオン界面活性剤(B)としては、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、アミン化合物としてアルキルアミン類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と炭素数3以上6以下の環状構造を有する多価アルコール等との部分エステル化合物等が挙げられる。これらのノニオン界面活性剤(B)は、一種類のノニオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上のノニオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0042】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0043】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0044】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上60モル以下、より好ましくは1モル以上40モル以下、さらに好ましくは2モル以上30モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加物であってもランダム付加物であってもよい。
【0045】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0046】
ノニオン界面活性剤(B)の原料として用いられるアルキルアミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0047】
ノニオン界面活性剤(B)の具体例としては、例えばオレイルアルコール1モルに対しエチレンオキサイド(以下、EOという)10モル付加したもの、イソトリデカノール1モルに対しEO10モル付加したもの、イソトリデカノール1モルに対してEO10モルとプロピレンオキサイド(以下、POという)10モルをランダムに付加したもの、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの、硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量5000)、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のジエステル、ポリエチレングリコール(平均分子量400)とラウリン酸のジエステル、ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のモノエステル、ラウリルアミン1モルに対しEO3モル付加したもの、ラウリルアミン1モルに対しEO10モル付加したもの等が挙げられる。
【0048】
処理剤中におけるノニオン界面活性剤(B)の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上70質量%以下、より好ましくは10質量%以上65質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる数値範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0049】
(リン酸エステル化合物(C1))
リン酸エステル化合物(C1)は、下記の式(1)で示されるリン酸エステルP1、下記の式(2)で示されるリン酸エステルP2、下記の式(3)で示されるリン酸エステルP3、及び下記の式(4)で示されるリン酸エステルP4から選ばれる少なくとも1つを含んでいる。
【0050】
【化5】
(式(1)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
m:2又は3の整数。)
これらのリン酸エステルP1は、一種類のリン酸エステルP1を単独で含有してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルP1を含有してもよい。
【0051】
を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。Rを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。
【0052】
を構成する直鎖のアルキル基の具体例としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0053】
を構成する分岐鎖構造を有するアルキル基の具体例としては、例えばイソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基、イソドコシル基、イソトリコシル基、イソテトラコシル基等が挙げられる。
【0054】
を構成する直鎖のアルケニル基の具体例としては、例えばオクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
【0055】
を構成する分岐鎖構造を有するアルケニル基の具体例としては、例えばイソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基、イソトリデセニル基、イソテトラデセニル基、イソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基、イソドコセニル基、イソトリコセニル基、イソテトラコセニル基等が挙げられる。
【0056】
炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基を構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールの具体例としては、上述したエステル油の原料として挙げた脂肪族1価アルコールの具体例が挙げられる。
【0057】
アルキレンオキサイドの具体例としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが挙げられる。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における脂肪族アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加物であってもランダム付加物であってもよい。
【0058】
を構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基の具体例としては、例えば2-エチルヘキサノールにEOを2モル付加したもの、ノルマルオクタノールにEO2モルとPO2モルをランダム付加したもの、ラウリルアルコールにEOを3モル付加したもの、イソラウリルアルコールにEOを3モル付加したもの、イソラウリルアルコールにEO3モルとPO3モルをランダム付加したもの、セチルアルコールにEOを3モル付加したもの、イソセチルアルコールにEOを3モル付加したもの、オレイルアルコールにEOを4モル付加したもの、イソステアリルアルコールにEOを4モル付加したもの、オレイルアルコールにEOを3モル付加したもの、オレイルアルコールにEO4モルとPO4モルをランダム付加したもの、イソテトラデセニルアルコールにEOを5モル付加したもの等から水酸基を除いた残基が挙げられる。
【0059】
又はMは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウムを示す。なお、アルカリ土類金属は、2価のため、アルカリ土類金属(1/2)は、M又はMにおいて1/2モル付加されることを示す。アルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の具体例としては、例えばマグネシウム、カルシウム等が挙げられる。
【0060】
有機アミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)3-アミノプロペン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル等が挙げられる。
【0061】
ホスホニウムの具体例としては、例えばテトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、ジブチルジヘキシルホスホニウム、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム、トリエチルオクチルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム等の4級ホスホニウム等が挙げられる。
【0062】
リン酸エステルP2は、下記の式(2)で示される。
【0063】
【化6】
(式(2)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、又は炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム、
n:2又は3の整数。)
これらのリン酸エステルP2は、一種類のリン酸エステルP2を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルP2を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0064】
又はRを構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R又はRを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。
【0065】
又はRを構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。R又はRを構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0066】
又はRを構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基の具体例としては、式(1)のRにおいて列挙した具体例を採用できる。
【0067】
の具体例としては、式(1)のM又はMにおいて例示したものが挙げられる。
リン酸エステルP3は、下記の式(3)で示される。
【0068】
【化7】
(式(3)において、
:炭素数8以上24以下のアルキル基、又は炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
これらのリン酸エステルP3は、一種類のリン酸エステルP3を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルP3を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0069】
を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。Rを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。
【0070】
を構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。Rを構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0071】
を構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基の具体例としては、式(1)のRにおいて列挙した具体例を採用できる。
【0072】
又はMの具体例としては、式(1)のM又はMにおいて例示したものが挙げられる。
リン酸エステルP4は、下記の式(4)で示される。
【0073】
【化8】
(式(4)において、
,R:炭素数8以上24以下のアルキル基、又は炭素数8以上24以下のアルケニル基、又は炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、有機アミン塩、アンモニウム、又はホスホニウム。)
これらのリン酸エステルP4は、一種類のリン酸エステルP4を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルP4を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0074】
又はRを構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R又はRを構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。
【0075】
又はRを構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。R又はRを構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のRを構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0076】
又はRを構成する炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上20モル以下付加したものから水酸基を除いた残基の具体例としては、式(1)のRにおいて列挙した具体例を採用できる。
【0077】
の具体例としては、式(1)のM又はMにおいて例示したものが挙げられる。
リン酸エステル化合物(C1)は、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が7%以下であるものが適用される。
【0078】
上記「アルカリ過中和前処理」とは、アルキルリン酸エステル化合物に対して過剰量のアルカリを添加する前処理を意味する。なお、アルカリの具体例としては、特に限定されず、例えば有機アミン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。また、リン酸エステル塩を合成する場合に使用したアルカリと同じであってもよく、異なっていてもよい。有機アミンの具体例としては、上述したリン酸エステル塩を構成する有機アミンで例示したものが挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0079】
31P-NMRの測定において、この「アルカリ過中和前処理」を行うことで、リン酸エステルP1~P4に帰属されるピークを明瞭に分けることができ、下記数式(1)~数式(4)による各化合物に帰属されるP核積分比率の計算が可能となる。なお、後述する実施例欄における31P-NMRの測定では、観測ピークが分かれる程度のアルカリをリン酸エステル化合物に加えるアルカリ過中和処理を行った。
【0080】
前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(1)で示される。前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(2)で示される。前記リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(3)で示される。前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(4)で示される。
【0081】
【数1】
(数式(1)において、
P1_P%:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
P4_P:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分値。)
【0082】
【数2】
(数式(2)において、
P2_P%:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
P4_P:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分値。)
【0083】
【数3】
(数式(3)において、
P3_P%:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
P4_P:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分値。)
【0084】
【数4】
(数式(4)において、
P4_P%:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率、
P1_P:リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分値、
P2_P:リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分値、
P3_P:リン酸エステルP3に帰属されるP核NMR積分値、
P4_P:リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分値。)
リン酸エステル化合物(C1)は、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が5%以上50%以下であることが好ましい。かかる範囲に規定することにより本発明の効果をより向上させる。
【0085】
リン酸エステル化合物(C1)は、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が5%以下、及び前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が10%以上45%以下であることが好ましい。かかる範囲に規定することにより本発明の効果をより向上させる。
【0086】
リン酸エステル化合物(C1)は、前記リン酸エステルP2を含み、前記リン酸エステルP1、前記リン酸エステルP2、前記リン酸エステルP3、及び前記リン酸エステルP4に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率が5%以下、及び前記リン酸エステルP2に帰属されるP核NMR積分比率が15%以上40%以下であることがより好ましい。かかる範囲に規定することにより張力変動をより低減させる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0087】
リン酸エステル化合物(C1)は、原料アルコールとして炭素数8以上24以下の飽和脂肪族アルコール又は不飽和脂肪族アルコールに、例えば五酸化二燐を反応させてアルキルリン酸エステルを得た後、必要によりアルキルリン酸エステルを水酸化カリウム、アミン等のアルカリで中和又は過中和することにより得られる。前記の合成方法の場合、リン酸エステル化合物は通常、化1で示されるリン酸エステルP1、化2で示されるリン酸エステルP2、リン酸エステルP3、及びリン酸エステルP4の混合物となる。これら混合物の中で、リン酸エステルP1は保存中に分解が特に起こりやすく、容易に無機リン酸及びその塩が生成する。特に、処理剤中に水が含まれるときに、それが顕著に起きる。無機リン酸及びその塩は、処理剤から析出したり、さらには処理剤の耐熱性を低下させるため、製糸に悪影響を及ぼす。前記リン酸エステルP1に帰属されるP核NMR積分比率を7%以下とするために、リン酸化工程の前に原料を脱水処理したり、リン酸化工程中は不活性ガス雰囲気を用いる等の方法により水分との接触を避けながら反応を進めることが好ましく、吸湿した五酸化二燐の使用を避けることが特に好ましい。前記リン酸エステルP1はリン酸エステル化合物(C1)に水を加え、100℃程度に加熱して分解させることで、その含有割合を減らしてもよい。この時、リン酸エステルP1の加熱分解により無機リン酸及びその塩が生成する。無機リン酸及びその塩は、耐熱性向上の観点から処理剤から除去されることが好ましい。それらの除去には、公知の精製技術、例えば吸着処理を適用できる。また、リン酸エステル化合物(C1)は、化1に示されるリン酸エステルP1、化2で示されるリン酸エステルP2、化3に示されるリン酸エステルP3、及び化4に示されるリン酸エステルP4を混合して調製してもよい。
【0088】
処理剤中におけるリン酸エステル化合物(C1)の含有量は、適宜設定されるが、中和剤で塩を形成していない状態において、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上5質量%以下がより好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる数値範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。また、かかる範囲に規定することにより制電性等の処理剤の機能を効率よく発揮できる。
【0089】
(イオン界面活性剤(C))
処理剤は、リン酸エステル化合物(C1)以外のイオン界面活性剤(C)を含んでもよい。リン酸エステル化合物(C1)以外のイオン界面活性剤(C)としては、公知のものを適宜採用できる。イオン界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
【0090】
アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、テトラデカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、2級アルキルスルホン酸塩等の脂肪族スルホン酸塩又は芳香族スルホン酸塩、(2)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(3)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにEO及びPOから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(4)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩、豚脂脂肪酸硫酸エステル塩、牛脂脂肪酸硫酸エステル塩、鯨油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(5)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩、豚脂の硫酸エステル塩、牛脂の硫酸エステル塩、鯨油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(6)ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ドデセニルコハク酸塩等の脂肪酸塩、(7)ジオクチルスルホコハク酸塩等の脂肪族アルコールのスルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0091】
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0092】
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
これらのイオン界面活性剤(C)は、一種類のイオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上のイオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0093】
(脂肪酸(D))
脂肪酸(D)としては、飽和又は不飽和の鎖状モノカルボン酸を示し、炭素数6以下のヒドロキシ基を有するヒドロキシ脂肪酸は含まないものとする。脂肪酸(D)は、その炭素数、分岐の有無等について特に制限はない。脂肪酸(D)は、本発明の効果をより効率的に発現する観点から、炭素数8以上24以下の1価脂肪酸が好ましい。
【0094】
飽和脂肪酸の具体例としては、例えばオクチル酸、2-エチルヘキサン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。上記不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸、レシノール酸等が挙げられる。また、天然物由来の脂肪酸であってもよい。天然物由来の脂肪酸の具体例としては、例えばひまし油脂肪酸、ごま油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、なたね油脂肪酸、パーム油脂肪酸、豚脂脂肪酸、牛脂脂肪酸、鯨油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸等が挙げられる。
【0095】
これらの脂肪酸(D)は、一種類の脂肪酸を単独で使用してもよいし、又は二種以上の脂肪酸を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中における脂肪酸(D)の含有割合の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。また、処理剤中における脂肪酸(D)の含有割合の上限は、特に限定されないが、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより効率的に発現させる。
【0096】
その他、処理剤中において脂肪酸(D)に含まれないその他のカルボン酸が含まれてもよい。その他のカルボン酸としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の炭素数6以下のヒドロキシ酸、多価脂肪酸等が挙げられる。
【0097】
(アルコール化合物(E))
処理剤は、さらにアルコール化合物(E)を含んでもよい。アルコール化合物(E)は、処理剤の耐熱性をより向上させる。アルコール化合物(E)としては、例えば1価アルコール、多価アルコール等が挙げられる。1価アルコールとしては、例えば低級アルコール、高級アルコール等が挙げられる。多価アルコールとしては、2~4価の多価アルコールが挙げられる。かかる化合物により、加熱ローラー上への処理剤析出物の脱落を抑制し、タールの蓄積等を抑制する。
【0098】
1価アルコールとしては、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよいし、環状のシクロ環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではない。また、第1級アルコールであっても、第2級、第3級アルコールであってもよい。1価アルコールの具体例としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、オクチルアルコール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、エイコサノール、ベヘニルアルコール、テトラコサノール、オレイルアルコール、イソプロパノール、2-エチルヘキサノール、イソドデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、イソミリスチルアルコール、イソセタノール、イソステアリルアルコール、イソテトラコサノール等が挙げられる。
【0099】
2価アルコール(ジオール)の具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等が挙げられる。
【0100】
3又は4価アルコールの具体例としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0101】
これらのアルコール化合物(E)は、一種類のアルコール化合物を単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルコール化合物を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で安定性向上の観点から多価アルコールが好ましい。
【0102】
処理剤中のアルコール化合物(E)の含有割合は、適宜設定されるが、0.001質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上2.9質量%以下であることがさらに好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる範囲に規定されることにより、安定性をより向上させ、タールの蓄積をより抑制する。
【0103】
(その他)
処理剤は、イオンクロマトグラフ法により処理剤から検出されるリン酸イオンの濃度が200ppm以下であることが好ましく、150ppm以下であることがより好ましい。かかる範囲に規定されることにより、加熱ローラー上の処理剤又はタールの蓄積を抑制する。
【0104】
<第2実施形態>
次に、本発明による合成繊維を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、希釈溶媒で希釈した希釈溶液、例えば低粘度鉱物油溶液、有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。第1実施形態の処理剤によると、低粘度鉱物油等の非極性溶媒で希釈した処理剤の保存安定性を特に向上させる。合成繊維は、水性液等の希釈溶液を、例えば紡糸又は延伸工程等において合成繊維に付着させる工程を経て得られる。合成繊維に付着した希釈液は、延伸工程、乾燥工程により希釈溶媒を蒸発させてもよい。付着させる工程も紡糸工程であれば特に制限はない。延伸もしくは熱処理工程において、150℃以上のローラーを通過させる工程を有する製造設備、工程での使用により、発明の効果がより期待できる。
【0105】
本実施形態の処理剤が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維に適用されることが好ましい。
【0106】
処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤を合成繊維に対し0.1質量%以上3質量%以下(水等の溶媒を含まない)の割合となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用できる。
【0107】
本実施形態の処理剤及び合成繊維の作用及び効果について説明する。
本実施形態の処理剤では、平滑剤、ノニオン界面活性剤、脂肪酸、及び特定のリン酸エステル化合物を配合した。したがって、処理剤の耐熱性を向上させるとともに、処理剤の保存安定性を向上させる。それにより、特にリン酸エステルP1の分解により生ずる無機リン酸又はその塩由来の析出物、その沈殿、製糸中のタール等の発生を抑制できる。
【0108】
また、処理剤の付与された走行糸とローラーとの擦過による張力、つまり摩擦の変動及びタールの発生を低減できる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0109】
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【0110】
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、さらに水を含んでもよい。水の含有量は、処理剤の安定性を向上させる観点から0質量%を超え4質量%以下が好ましい。
【実施例0111】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0112】
試験区分1(リン酸エステル化合物(C1)の合成)
各実施例、各比較例の処理剤に用いられるリン酸エステル化合物を、以下に示される方法により合成した。
【0113】
・リン酸エステル化合物(P-1)の合成
原料アルコールとしてイソセチルアルコールは、105℃で減圧脱水を行ったものを使用した。4つ口フラスコにイソセチルアルコールを仕込み、これに窒素雰囲気下で五酸化二燐を徐々に投入し、70±5℃で3時間撹拌することでリン酸化反応を行った。リン酸化物をカラムクロマトグラフィーで精製し、次いで中和剤としてジブチルエタノールアミンと混合し、50℃で1時間撹拌することによりリン酸エステル化合物(P-1)を合成した。ジブチルエタノールアミンの仕込み量は、リン酸化物の量とその酸価(1mol/LのKOH溶液で滴定して求められる約pH11の滴定点での酸価)とジブチルエタノールアミンの塩基価から計算して求めた(ジブチルエタノールアミンの仕込み量=リン酸化物の仕込み量×酸価/塩基価)。
【0114】
・リン酸エステル化合物(P-2~P-7、rP-1、rP-2)
リン酸エステル化合物(P-2~P-7)は、原料アルコールとして表1の原料を使用し、P-1と同様の方法で合成した。尚、リン酸エステル化合物(rP-1、rP-2)のリン酸化反応は、大気下で行い、原料の五酸化二燐は試薬瓶開封後、全量投入まで大気下(室温:約27℃、相対湿度:約80%)に置いた(投入開始から投入終了まで30分程度要した)。リン酸エステル化合物(rP-1)の中和は、水酸化カリウム水溶液にリン酸化物を仕込み、撹拌することで行い、自然乾燥させてから処理剤に供した。
【0115】
処理剤に配合するリン酸エステル化合物(P-1~P-7、rP-1、rP-2)のアルキル基を構成することになる原料アルコール、塩を形成するための中和剤(アルカリ)を、表1の「原料アルコール」欄、「中和剤」欄にそれぞれ示す。
【0116】
・P核NMR測定方法
上記のように合成された各リン酸エステル化合物(C1)0.10gに対してアルカリとしてラウリルアミン0.15gを添加し撹拌することにより前処理した。そして、31P-NMRを用いてリン酸エステルP1~P4に帰属される各P核NMR積分値を求めた。
【0117】
なお、P核NMR積分比率は、31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz)の測定値を用いた。尚、溶媒は、重クロロホルムを用いた。上述した数式(1)~数式(4)に基づいて、リン酸エステルP1~P4に帰属される各P核NMR積分比率(%)を求めた。各リン酸エステル化合物(C1)の数式(1)~数式(4)から算出した値は、これらの各リン酸エステル化合物(C1)を配合した処理剤のP核NMR積分比率と等しかった。
【0118】
リン酸エステル化合物のP核NMR測定によって求められたリン酸エステルP1~P4の各P核NMR積分比率(%)について、表1の「P核NMR積分比率(%)」欄にそれぞれ示す。
【0119】
【表1】
試験区分1(処理剤の調製)
各実施例、各比較例に用いた処理剤は、表2,3に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0120】
平滑剤(A)としてトリメチロールプロパントリオレアート(L-1)30部(%)、ナタネ油(L-3)30部(%)、ジイソステアリルチオジプロピオナート(LS-1)2部(%)、トリメチロールプロパンジオレアート(pL-1)1部(%)、ノニオン界面活性剤としてイソトリデカノール1モルに対してEO10モルPO10モルをランダムに付加したもの(N-3)5部(%)、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの(N-4)14部(%)、硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物(N-5)14部(%)、ラウリルアミン1モルに対しEO3モル付加したもの(N-12)1部(%)、イオン界面活性剤としてリン酸エステル化合物(P-1)1.5部(%)、2級アルカンスルホン酸ナトリウム(C=14~17)(S-1)1.2部(%)、脂肪酸(D)としてナタネ脂肪酸(F-3)0.1部(%)、アルコール化合物(E)としてエチレングリコール(AL-11)0.2部(%)をよく混合して均一にすることで実施例1の処理剤を調製した。
【0121】
実施例2~12,14~20、参考例13、比較例1~5は、実施例1と同様にして平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、イオン界面活性剤(C)、脂肪酸(D)、アルコール化合物(E)を表2,3に示した割合で混合することで処理剤を調製した。但し、実施例3、4、5、6、9、11には表2の原料以外に酸化防止剤として1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸を処理剤100部に対し0.8部の割合で添加した。
【0122】
また、処理剤中のリン酸イオンを、次の条件のイオンクロマトグラフ法により測定した。結果を表2,3の「リン酸イオン濃度」欄に示す。
試料1g(揮発分も含む)を正確に量りとり、撹拌しながら10%の2-プロパノール水溶液を少しずつ加え、100mLメスフラスコで定容した溶液を作製した。作製した水溶液1mLを、ODS(シリカゲルにオクタデシル基を化学結合させた)前処理カートリッジに通し、イオンクロマトグラフ分析に使用した。以下のイオンクロマトグラフ条件により検出を行った。濃度既知の標準液に対するピーク面積比にて検出量を測定し、リン酸イオン(PO 3-)の量を換算した。
【0123】
<イオンクロマトグラフ条件>
装置:東ソー社製 IC2001 サプレッサ使用、
分析カラム:東ソー社製 TSKgel SuperIC-AZ 内径4.6mm×長さ75mm、
ガードカラム:東ソー社製 TSKgel guardcolumn SuperIC-AZ、内径4.0mm×長さ10mm、
溶離液:4.8mmolのNaCO、2.8mmolのNaHCOの23容量%メタノール水溶液、
流量:0.6mL/min。
【0124】
また、各例の処理剤中における平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、イオン界面活性剤(C)、脂肪酸(D)、アルコール化合物(E)の種類及び含有割合を、表2,3の「平滑剤(A)」欄、「ノニオン界面活性剤(B)」欄、「イオン界面活性剤(C)」欄、「脂肪酸(D)」、「アルコール化合物(E)」欄にそれぞれ示す。
【0125】
また、各例の処理剤中における完全エステル化合物(A1)と含硫黄エステル化合物(A2)の質量比、及び完全エステル化合物(A1)と部分エステル化合物(A3)の質量比を、表2,3の「含有比率(A1)/(A2)」欄、「含有比率(A1)/(A3)」にそれぞれ示す。
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
表2,3の区分欄に記載する平滑剤(A)、ノニオン界面活性剤(B)、イオン界面活性剤(C)、脂肪酸(D)、アルコール化合物(E)の詳細は以下のとおりである。
【0128】
(平滑剤(A))
L-1:トリメチロールプロパントリオレアート
L-2:ジイソステアリルアジパート
L-3:ナタネ油
LS-1:ジイソステアリルチオジプロピオナート
LS-2:ジオレイルチオジプロピオナート
pL-1:トリメチロールプロパンジオレアート
pL-2:グリセリンジオレアート
eL-1:オクチルパルミタート
(ノニオン界面活性剤(B))
N-1:オレイルアルコール1モルに対しEO10モル付加したもの
N-2:イソトリデカノール1モルに対しEO10モル付加したもの
N-3:イソトリデカノール1モルに対してEO10モルPO10モルをランダムに付加したもの
N-4:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの
N-5:硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物
N-6:硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量5000)
N-7:ソルビタンモノオレアート
N-8:ソルビタントリオレアート
N-9:ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のジエステル
N-10:ポリエチレングリコール(平均分子量400)とラウリン酸のジエステル
N-11:ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のモノエステル
N-12:ラウリルアミン1モルに対しEO3モル付加したもの
N-13:ラウリルアミン1モルに対しEO10モル付加したもの
(イオン界面活性剤(C))
S-1:2級アルカンスルホン酸ナトリウム(C=14~17)
S-2:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
S-3:ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩
S-4:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム
(脂肪酸(D))
F-1:オクチル酸
F-2:オレイン酸
F-3:ナタネ脂肪酸
F-4:パーム脂肪酸
rF-1:クエン酸
rF-2:乳酸
(アルコール化合物(E))
AL-1:イソセチルアルコール
AL-3:オレイルアルコール
AL-5:グリセリン
AL-6:ジグリセリン
AL-7:ポリエチレングリコール(平均分子量200)
AL-8:ポリエチレングリコール(平均分子量400)
AL-9:ポリプロピレングリコール(平均分子量400)
AL-10:ポリオキシエチレンプロピレングリコール(PO1モル、EO4モル)
AL-11:エチレングリコール
AL-12:プロピレングリコール
試験区分3(処理剤及び合成繊維の評価)
・安定性の評価
実施例1の処理剤と、リン酸エステル化合物(P-1)を使用する実施例1の処理剤において、実施例1に記載のリン酸エステル化合物(P-1)の代わりに表1のリン酸エステル化合物(P-2~7、rP-1、rP-2)をそれぞれ配合したものを調製した。なお、処理剤に含まれるリンの物質量がリン酸化合物(P-1)を配合した時と同じとなるようにリン酸化合物の配合量を調整した。これらをバイアル瓶に100gずつ入れた。次いで、これに1gの蒸留水を加えた。バイアル瓶を70℃で3日間静置し、無機リン酸由来の粒子状の物質がバイアル底部に新たに析出するか観察した。安定性を下記の基準で判定した。結果を表1の「安定性」欄に示す。
【0129】
○(可):析出しなかった場合
×(不良):析出した場合
・張力変動の評価
各処理剤を必要に応じてイオン交換水又は有機溶剤の希釈剤にて均一に希釈し、15%溶液とした。1000デシテックス、192フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に、前記の溶液を、オイリングローラー給油法にて不揮発分として付与量3.0質量%となるように付与し、希釈剤を乾燥させ試験糸とした。
【0130】
試験糸を、初期張力1.5kg、糸速度1.0m/分で、表面温度250℃の梨地クロムピンに接触させて走行させ、梨地クロムピン接触後の糸の張力値を測定した。走行20分後の張力値から10%上昇した時点での走行時間を記録し、次の基準で評価した。結果を表2,3の「張力変動」欄に示す。
【0131】
○○(良好):6時間以上
○(可):3時間以上6時間未満
×(不良):3時間未満
・タールの評価
処理剤の耐熱性評価として、張力変動試験で6時間経過した後の梨地クロムピンに堆積したタールを観察し、次の基準で評価した。結果を表2,3の「タール」欄に示す。
【0132】
○○(良好):タールがあまり観察されない場合
○(可):薄っすらと茶色のタールが観察される場合
×(不良):濃い茶色もしくは黒色のタールが観察される場合
表1~3の各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、保存安定性に優れ、張力変動、タールが低減していることが確認された。