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特開2022-160584オキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022160584
(43)【公開日】2022-10-19
(54)【発明の名称】オキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/54 20170101AFI20221012BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20221012BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 9/113 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20221012BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A61K47/54
A61P35/00
A61K9/107
A61K47/28
A61K47/34
A61K47/14
A61K47/06
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/08
A61K47/36
A61K47/26
A61K31/519
A61K31/352
A61K31/282
A61K9/113
A61K47/42
A61K31/513
A61K31/12
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125209
(22)【出願日】2022-08-05
(62)【分割の表示】P 2020518374の分割
【原出願日】2017-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2017-0073215
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.SPAN
3.COMPRITOL
(71)【出願人】
【識別番号】519438590
【氏名又は名称】アイキュオ ビーエヌピー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ICURE BNP CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】#101,#102,1st Floor,7,Galmi 2-ro,Uiwang-si,Gyeonggi-do 16041 Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】パク ジンウ
(72)【発明者】
【氏名】ビョン ヨンロ
(72)【発明者】
【氏名】チェ ヨンクォン
(72)【発明者】
【氏名】チャン クァンヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジェボム
(57)【要約】      (修正有)
【課題】オキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】経口吸収促進剤である胆汁酸誘導体とオキサリプラチンのイオン結合による複合体を形成し、これを水中油中水型(water-in-oil-in-water;w/o/w)の多重乳化ナノエマルションの内部水相に含ませ、水溶性抗癌剤であるオキサリプラチンの経口生体利用率を向上させ、現在注射剤形のみで投与されているオキサリプラチンを経口投与が可能な剤形に製造し、注射剤の使用による不便と問題を軽減し、患者のコンプライアンスの改善及び医療費削減に寄与できる経口用薬物送達組成物に関するものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)オキサリプラチンに正電荷を帯びた胆汁酸誘導体を添加して、イオン結合複合体を形成する工程;
(b)第1油相に第1界面活性剤と第1補助界面活性剤との混合物を添加する工程;
(c)前記イオン結合複合体と前記工程(b)の混合物とを混合して、油中水型(water-in-oil、w/o)第1ナノエマルションを製造する工程;
(d)前記油中水型(w/o)第1ナノエマルションに、第2界面活性剤と第2補助界面活性剤との混合物を添加して、水中油中水型(water-in-oil-in-water、w/o/w)第2ナノエマルションを製造する工程;
を含むことを特徴とするオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項2】
前記胆汁酸誘導体は、Nα-デオキシコリル-L-リシル-メチルエステル(DCK)であることを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第1油相は、シリコーンオイル、エステル系オイル、ハイドロカーボン系オイル、プロピレングリコールモノカプリレート(Capryol 90)、プロピレングリコールジカプリロカプレート(Labrafac PG)、オレオイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M1944 CS)、ラウロイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M2130 CS)、リノレオイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M2125 CS)、重鎖トリグリセリド(Labrafac)、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリン(Compritol 888)、グリセロールモノステアレート及びヒマシ油からなる群から選択されるいずれか一つ又は1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第1及び第2界面活性剤は、互いに独立して、ポロキサマー(poloxamer)、カプリロカプリルマクロゴール-8グリセリド(Labrasol)、クレモフォール(Cremophor)、グリセロールモノカプリロカプレート(Capmul MCM)、ラウロイルマクロゴール-32グリセリド(Gelucire 44/14)、ソルトロール(Solutrol)、ポリソルベート(Tween)及びソルビタンモノラウレート(Span)からなる群から選択されるいずれか一つ又は1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項5】
前記第1及び第2補助界面活性剤は、互いに独立して、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutol HP)、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール及びイソプロパノールからなる群から選択されるいずれか一つ又は1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項6】
前記胆汁酸誘導体は、オキサリプラチン1モルに対して、0.5~5モル含まれることを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項7】
前記w/o/w第2ナノエマルション内油中水型(w/o)第1ナノエマルションは、組成物全重量に対して、1~40重量%含まれることを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項8】
前記第1界面活性剤と第1補助界面活性剤との混合物及び第2界面活性剤と第2補助界面活性剤との混合物は、組成物全重量に対して、5~90重量%含まれることを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項9】
前記第1及び第2補助界面活性剤は、それぞれ第1及び第2界面活性剤に対して、互いに独立して、1:0.1~1:10の重量比で混合されることを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項10】
前記工程(a)において、単糖類、多糖類、食物繊維、ガム類、界面活性剤又はタンパク質から選択される凝集防止剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法
【請求項11】
前記凝集防止剤は、オキサリプラチン1重量部に対し、0.1~100重量部含まれることを特徴とする請求項10に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項12】
前記w/o第1ナノエマルションは、内部水相に5-フルオロウラシル(5-FU)又はロイコボリンから選択される親水性有効成分をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項13】
前記工程(d)において、w/o/w第2ナノエマルションは、油相に難溶性抗癌剤、クルクミン、ケルセチン、クルクミン又はケルセチンを有効成分として含有する天然抽出物、及びこれらの混合物から選択される脂溶性有効成分をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~13に記載の製造方法によって製造されたオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性活性物質であるオキサリプラチンと経口吸収促進剤である胆汁酸誘導体とのイオン結合による複合体を多重乳化ナノエマルションの内部水相に含む経口用薬物送達組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキサリプラチン(OXA)(oxaliplatin, cis-[(1R,2R)-1,2-cyclohexanediamine- N,N'][oxalato(2-)- O,O’]platinum)は、白金(Pt)と1,2-ジアミノシクロヘキサンで構成され、オキサラトリガンドを脱離基に有する有機錯化合物であり、第3世代白金錯体の抗癌化合物であり、核内DNAと付加体を形成して、DNA複製及び転写機序を妨げることで抗癌効果を示す。Pt-DNA付加体は、一般に白金-グアニン-グアニン結合形態を有し、核酸レベルでDNAの修復機序又は死滅経路の一つを作動させる。
【0003】
また、オキサリプラチンは、エロキサチン(登録商標)という商品名で進行性大腸癌及び転移性胃癌治療剤として市販されており、一般に、5-フルオロウラシル(5-FU)及びロイコボリン(leucovorin)と共に併用投与されたりもする。特に、転移性大腸癌は、エロキサチン(登録商標)(オキサリプラチン)又はフォルフォックス(FOLFOX)(フルオロウラシル/ロイコボリン/オキサリプラチン併用)、フォルフィリ(FOLFIRI)(フルオロウラシル/ロイコボリン/イリノテカン併用)等の化学療法を使用し、Genentech/Roche社製のアバスチン(登録商標)(ベバシズマブ)は、2004年に米国のFDAから承認された。
【0004】
オキサリプラチンは、現在、注射剤のみで患者に投与されており、凍結乾燥製剤の形態で患者に投与する直前に、注射用水、グルコース溶液又は0.9%塩化ナトリウム溶液で希釈して使用しなければならない。しかし、凍結乾燥工程は、複雑、且つ製造コストが高く、さらに凍結乾燥された製品を使用するためには、再構成が必要とされる。このような再構成過程でオキサリプラチンの損失、沈殿の発生、再構成時の望ましくない粒子の生成、汚染への露出リスクなどの問題が発生する可能性がある。特に汚染問題は抗腫瘍物質の毒性のために非常に深刻である。
【0005】
最近、経口投与による抗癌治療療法は、患者の病院訪問後、注射剤投与による不便を最小化し、家で対処することができるようになり、これにより、患者のコンプライアンス改善及び生活の質を向上させることができることから注目されている。また、長期間血中薬物濃度を維持させ、癌細胞に低い濃度の抗癌剤を長期間露出させることにより、薬物の効果を保持し、副作用を最小化することによって癌の再発及び転移を防止するための予防次元の慢性治療療法として抗癌剤の適用を容易にすることができる。
【0006】
しかし、抗癌剤の経口薬物送達は、有効成分の物理化学的特性と生理学的障害により多くの制約がある。このような制約には、薬物の全身血移行前代謝過程、胃腸管での薬物不安定性、低溶解性、低腸管膜透過性、p-糖タンパク質(p-gp)による排出が含まれる。
【0007】
特に、オキサリプラチンは、低腸管膜透過性により低経口生体利用率を示すため、経口用製剤の使用が制限される。現在まで、オキサリプラチンを経口用製剤に製造するための試みはよく知られていないが、オキサリプラチンの場合、大腸癌治療のために大腸局所部位への送達のための、pH敏感性で、且つ粘膜付着型高分子であるキトサンベースのアルギン酸微小粒子及びヒアルロン酸が結合したキトサンナノ粒子にオキサリプラチンをカプセル化した後、Eudragit(登録商標)S100でコーティングした経口用剤形が提示されていた。5-フルオロウラシルの場合も、大腸部位局所送達のために、ペクチンとエチルセルロースでコーティングしたペレット形態の製剤及びPLGA(poly(lactic-co-glycolic acid))ナノ粒子形の経口用製剤が提示されていた。
【0008】
そこで、本発明者らは、前記オキサリプラチンのような水溶性活性物質を経口投与用剤形に製造するために鋭意研究した結果、オキサリプラチンを経口吸収促進剤である胆汁酸誘導体とイオン結合による複合体を形成した後、これをw/o/w(water-in-oil-in-water)多重乳化ナノエマルションの内部水相に含ませれば、薬物の腸管膜透過度が増加し、経口投与用剤形に製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Nanoscience and Nanotechnology, 2016, Vol. 16, pp. 2061-2064.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、水溶性抗癌剤であるオキサリプラチンをw/o/w(water-in-oil-in-water)多重乳化ナノエマルションの内部水相に含ませ、薬物の腸管膜透過度を増加させることで、経口投与用剤形に製造することにより、注射剤使用による不便と問題点を改善し、患者のコンプライアンスの改善及び医療費用削減に寄与できるオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するために、
(a)オキサリプラチンに正電荷を帯びた胆汁酸誘導体を添加して、イオン結合複合体を形成する工程;(b)第1油相に第1界面活性剤と第1補助界面活性剤との混合物を添加する工程;(c)前記イオン結合複合体と前記工程(b)の混合物とを混合して、油中水型(water-in-oil;w/o)第1ナノエマルションを製造する工程;(d)前記w/o第1ナノエマルションに、第2界面活性剤と第2補助界面活性剤との混合物を添加して、水中油中水型(water-in-oil-in-water;w/o/w)第2ナノエマルションを製造する工程;を含むオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法を提供する。
【0012】
前記胆汁酸誘導体は、Nα-デオキシコリル-L-リシル-メチルエステル(DCK)であり、オキサリプラチン1モルに対して、0.5~5モル含まれることを特徴とする。
【0013】
前記w/o第1ナノエマルション内の油相は、シリコーンオイル、エステル系オイル、ハイドロカーボン系オイル、プロピレングリコールモノカプリレート(Capryol 90)、プロピレングリコールジカプリロカプレート(Labrafac PG)、オレオイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M1944 CS)、ラウロイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M2130 CS)、リノレオイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M2125 CS)、重鎖トリグリセリド(Labrafac)、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリン(Compritol 888)、グリセロールモノステアレート及びヒマシ油からなる群から選択されるいずれか一つ又は1種以上であることを特徴とする。
【0014】
前記w/o/w第2ナノエマルション内の油相は、組成物全重量に対して、1~40重量%含まれることを特徴とする。
【0015】
前記第1及び第2界面活性剤は、互いに独立して、ポロキサマー(poloxamer)、カプリロカプリルマクロゴール-8グリセリド(Labrasol)、クレモフォール(Cremophor)、グリセロールモノカプリロカプレート(Capmul MCM)、ラウロイルマクロゴール-32グリセリド(Gelucire 44/14)、ソルトロール(Solutrol)、ポリソルベート(Tween)及びソルビタンモノラウレート(Span)からなる群から選択されるいずれか一つ又は1種以上であることを特徴とする。
【0016】
前記第1及び第2補助界面活性剤は、互いに独立して、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutol HP)、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール及びイソプロパノールからなる群から選択されるいずれか一つ又は1種以上であることを特徴とする。
【0017】
前記第1界面活性剤と第1補助界面活性剤との混合物及び第2界面活性剤と第2補助界面活性剤との混合物は、組成物全重量に対して、5~90重量%含まれることを特徴とする。
【0018】
前記第1及び第2補助界面活性剤は、それぞれ第1及び第2界面活性剤に対して、互いに独立して、1:0.1~1:10の重量比で混合されることを特徴とする。
【0019】
前記工程(a)において、単糖類、多糖類、食物繊維、ガム類、界面活性剤又はタンパク質から選択される凝集防止剤をさらに含んでもよく、前記凝集防止剤は、オキサリプラチン1重量部に対して、0.1~100重量部含まれることを特徴とする。
【0020】
前記w/o第1ナノエマルションは、内部水相に、5-フルオロウラシル(5-FU)又はロイコボリンから選択される親水性有効成分をさらに含むことを特徴とする。
【0021】
前記工程(d)において、w/o/w第2ナノエマルションは、油相に、難溶性抗癌剤、クルクミン、ケルセチン、クルクミン又はケルセチンを有効成分として含有する天然抽出物、及びこれらの混合物から選択される脂溶性有効成分をさらに含むことを特徴とする。
【0022】
また、本発明は前記製造方法により製造されたオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物は水溶性抗癌剤であるオキサリプラチンを経口吸収促進剤である胆汁酸誘導体と結合させ、イオン結合複合体を形成し、これをw/o/w多重乳化ナノエマルションに担持することで、経口生体利用率を向上させ、経口投与が可能な剤形に製造することができ、これにより、従来の注射剤使用による不便と問題を改善し、患者のコンプライアンスを向上し、医療費削減に寄与することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施例3による(A)Smix,12:1、(B)Smix,11:1、(C)Smix,11:2に対するw/o第1ナノエマルション領域の疑似3相ダイヤグラムである。
図2】本発明の実施例4による(A)Smix,22:1、(B)Smix,21:1,(C)Smix,21:2に対するw/o/w第2ナノエマルション領域の疑似3相ダイヤグラムである。
図3】本発明の実施例5による(A)粉末X線回折パターン及び(B)示差走査熱量計サーモグラムである。
図4】本発明の実施例6による(A)OXAあるいは(B)OXA/DCKイオン結合複合体を含むw/o/w第2ナノエマルション組成E(Smix,21:1)内液滴の粒度分布図及びTEM像である。
図5】本発明の実施例7による(A)OXA、(B)OXA/DCKイオン結合複合体及び(C)OXA/DCKイオン結合複合体の人工腸管膜透過度である。
図6】本発明の実施例9によるpH1.2の条件で(A)OXA、(B)OXA/DCKイオン結合複合体及び(C)5-FUの累積薬物放出と、pH6.8の条件で(D)OXA、(E)OXA/DCKイオン結合複合体及び(F)5-FUの累積薬物放出を示す図である。
図7】本発明の実施例10によるラットの、(A)OXA静脈注入後の経時的な血中薬物濃度、(B)OXA、OXA/DCKイオン結合複合体及びOXA/DCKイオン結合複合体を含む第2ナノエマルションの経口投与後の経時的な血中薬物濃度、(C)5-FU静脈注入後、及び5-FU又は5-FUを含む第2ナノエマルションの経口投与後の経時的な血中薬物濃度を示す図である。
図8】本発明の実施例11による、(A)経時による癌組織の大きさ、(B)経時によるマウスの体重変化、(C)18日投与後、摘出した癌組織の重量を示す図である。
図9】本発明の実施例11による摘出した癌組織切片を(A)PCNAと(B)TUNELで染色した切断面イメージを示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明によるオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物及びその製造方法について、具体的に説明する。
【0026】
本発明によるオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物の製造方法は、(a)オキサリプラチンに正電荷を帯びた胆汁酸誘導体を添加して、イオン結合複合体を形成する工程;(b)第1油相に、第1界面活性剤と第1補助界面活性剤との混合物を添加する工程;(c)前記イオン結合複合体と前記工程(b)の混合物とを混合して、油中水型(water-in-oil;w/o)第1ナノエマルションを製造する工程;(d)前記w/o第1ナノエマルションに、第2界面活性剤と第2補助界面活性剤との混合物を添加して、水中油中水型(water-in-oil-in-water;w/o/w)第2ナノエマルションを製造する工程;を含む。
【0027】
前記オキサリプラチンは、親水性、且つ負電荷を帯びた活性物質であり、オキサリプラチン水溶液に正電荷を帯びた経口吸収促進剤である胆汁酸誘導体を添加して、イオン結合による複合体を形成する。
【0028】
前記胆汁酸誘導体は、水溶液中で正電荷を帯びた両親媒性物質であり、L-リシンとデオキシコール酸を化学的に結合したNα-デオキシコリル-L-リシル-メチルエステル(DCK)であることが好ましい。また、オキサリプラチン1モルに対して、0.5~5モル含まれるのが好ましく、より好ましくは1~2モル含まれてもよい。
【0029】
前記DCKは、経口吸収促進剤の役割を果たし、水溶液状態で正電荷を帯び、負電荷を帯びた親水性有効成分とイオン結合によって複合体を形成することで、親水性薬物分子の親油性を増加させ、油相への分配を向上させることができる。デオキシコール酸は、疎水性α部分と親水性β部分からなる両親媒性分子であり、細胞脂質二重層の膜表面に垂直結合し、脂質マトリックスのアシル鎖を撹乱させ、腸管細胞膜の柔軟性及び膜に対する脂溶性薬物の溶解性を増加させることで、薬物の膜透過度を向上させることができる。また、薬物と結合した胆汁酸誘導体であるデオキシコール酸は、腸管膜表面に存在する胆汁酸再吸収送達体によって認識されてもよく、これは腸管粘膜表面で薬物の高濃度勾配を誘発し、腸管膜に対する薬物の受動拡散を増加させる。したがって、薬物と吸収促進剤のイオン結合複合体の胆汁酸再吸収送達体との選択的相互作用による吸収増進効果は、単純に物理的混合により添加される従来の吸収促進剤とは違い、投与後、胃腸管で吸収促進剤が胃腸管内に存在する流体により希釈され、その作用が減少することを最小化することができるため、最小使用で親水性薬物の胃腸管吸収率を増加させることができる。
【0030】
水溶液状態で形成されたイオン結合複合体を固形の粉末状態に製造するために、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥などの追加的な乾燥過程を経てもよく、また、乾燥粉末形態のイオン結合複合体の水溶液状態での迅速な再分散のために、イオン結合複合体製造時、凝集防止剤がさらに添加されてもよい。
【0031】
前記凝集防止剤は、単糖類、多糖類、食物繊維、ガム類、界面活性剤又はタンパク質から選択されてもよく、好ましくは、マンニトール、スクロース、ラクトース、グルコース、トレハロース、グリセロール、フルクトース、マルトース、デキストラン、シクロデキストリン、グリシン、ポロキサマー、ポリビニルピロリドン、アラニン又はリシンから選択されるものであってもよく、より好ましくは、ポロキサマー、ポリビニルピロリドン、シクロデキストリン、ラクトース又はマンニトールから選択されるものであってもよい。
【0032】
また、前記凝集防止剤は、オキサリプラチン1重量部に対して、0.1~100重量部含まれることが好ましく、より好ましくは0.1~10重量部含まれてもよい。
【0033】
前記w/o第1ナノエマルションは、内部水相に、イオン結合複合体と併用投与して、抗癌シナジー効果を示すことができる親水性有効成分をさらに含んでもよく、前記親水性有効成分は、5-フルオロウラシル(5-FU)又はロイコボリンから選択されてもよい。親水性有効成分をナノエマルション製剤に含ませることで、薬物の胃腸管吸収率を増進させ、経口生体利用率を向上させることができる。
【0034】
前記w/o第1ナノエマルション製造時に用いる第1油相は、シリコーンオイル、エステル系オイル、ハイドロカーボン系オイル、プロピレングリコールモノカプリレート(Capryol 90)、プロピレングリコールジカプリロカプレート(Labrafac PG)、オレオイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M1944 CS)、ラウロイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M2130 CS)、リノレオイルマクロゴール-6グリセリド(Labrafil M2125 CS)、重鎖トリグリセリド(Labrafac)、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリン(Compritol 888)、グリセロールモノステアレート及びヒマシ油からなる群から選択されるいずれか一つ又は1種以上であることが好ましい。
【0035】
前記w/o/w第2ナノエマルション内のw/o第1ナノエマルション(油相)は、組成物全重量に対して、1~40重量%含まれるのが好ましく、より好ましくは10~30重量%含まれてもよい。前記w/o第1ナノエマルション(油相)の含有量が1重量%未満のとき、内部水相に薬物を溶解させることができなく、30重量%を超えると、ナノエマルションの粒子が大きくなり、乳化安定度に劣る恐れがある。このとき、w/o第1ナノエマルション(油相)の含有量は、エマルション安定化剤を含まず、第2外部水相を含むw/o/w第2ナノエマルション全重量中のw/o第1ナノエマルション(油相)の全量を意味する。
【0036】
前記工程(d)において、w/o/w第2ナノエマルションは、油相にイオン結合複合体の薬理学的治療効果を向上させることができる脂溶性有効成分をさらに含んでもよく、前記脂溶性有効成分は、パクリタキセル、ドセタキセル、ドキソルビシン等の難溶性抗癌剤とクルクミン、ケルセチン又はこれら有効成分を含有する天然抽出物及びこれらの混合物であってもよい。脂溶性有効成分は、ナノエマルション製剤の油相に含まれることで、有効成分を可溶化させ、胃腸管吸収率を増進させることによって経口生体利用率と薬理学的活性を向上させることができる。
【0037】
前記第1及び第2界面活性剤は、イオン結合複合体が分散された内部水相が油相に分散されてもよく、w/o第1ナノエマルションが、w/o/w第2ナノエマルションの外部水相によく分散されるようにする。前記第1及び第2界面活性剤は、互いに独立して、ポロキサマー(poloxamer)、カプリロカプリルマクロゴール-8グリセリド(Labrasol)、クレモフォール(Cremophor)、グリセロールモノカプリロカプレート(Capmul MCM)、ラウロイルマクロゴール-32グリセリド(Gelucire 44/14)、ソルトロール(Solutrol)、ポリソルベート(Tween)及びソルビタンモノラウレート(Span)からなる群から選択されるいずれか一つ又は1種以上であるのが好ましい。
【0038】
前記第1及び第2補助界面活性剤は、イオン結合複合体が分散された内部水相が界面活性剤により、油相に分散されるように表面エネルギーを減少させる役割を果たし、w/o第1ナノエマルションが界面活性剤により、w/o/w第2ナノエマルションの外部水相によく分散されるようにする。前記第1及び第2補助界面活性剤は、互いに独立して、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutol HP)、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール及びイソプロパノールからなる群から選択されるいずれか一つ又は1種以上であるのが好ましい。
【0039】
前記第1界面活性剤と第1補助界面活性剤との混合物及び第2界面活性剤と第2補助界面活性剤との混合物は、組成物全重量に対して、5~90重量%含まれることが好ましく、より好ましくは20~80重量%含まれてもよい。前記含有量が20重量%未満のとき、エマルションの安定度が劣ることがあり、80重量%を超えると、胃腸管粘膜に刺激を誘発することがある。このとき、第1界面活性剤と第1補助界面活性剤との混合物及び第2界面活性剤と第2補助界面活性剤との混合物の含有量は、第2外部水相を含むw/o/w第2ナノエマルション全重量中の第1及び第2界面活性剤と第1及び第2補助界面活性剤の全量を意味する。
【0040】
また、前記第1及び第2補助界面活性剤は、それぞれ前記第1及び第2界面活性剤と混合して用いられてもよく、それぞれ第1及び第2界面活性剤に対して、互い独立して、1:0.1~1:10の重量比で混合されることが好ましく、より好ましくは1:0.5~1:2の重量比で混合され得る。
【0041】
また、本発明は、前記製造方法により製造されたオキサリプラチンを含む経口用薬物送達組成物を含む。
【0042】
本発明によるオキサリプラチンと胆汁酸誘導体のイオン結合複合体の薬物送達体としてw/o/w多重乳化ナノエマルション形態を利用することができる。このシステム内の油相は、胃腸管内でイオン結合複合体を保護し、吸収促進剤の希釈効果を最小化するだけでなく、服用後、胃腸管内で両親媒性のイオン結合複合体の高い分散性を可能にする。また、多重乳化ナノエマルションは、胃腸管内で腸管膜の構造と流動性を変化させ、薬物の吸収を増進させることが知られている。特に、内部水相に、胆汁酸誘導体とイオン結合を形成し得ない親水性薬物である5-フルオロウラシルを共に担持する場合、薬物の腸管膜透過度と経口生体利用率は、多重乳化ナノエマルションにより向上され得る。
【0043】
また、多重乳化ナノエマルションに使用される界面活性剤であるLabrasol(登録商標)とCremophor(登録商標)ELは、それぞれ第1内部水相を油相に分散させるか、w/o第1ナノエマルションをw/o/w第2ナノエマルションの外部水相に分散させるために使用され得る。Labrasolは、F-アクチン(filamentous actin)とZO-1(zonula occludens-1)と相互作用して、小腸上皮細胞間の密着結合(tight junction)を開くことができることが知られており、Cremophor ELの場合、細胞膜の流動性を増加させるだけでなく、密着結合を緩くして吸収を促進させられることが確認された。したがって、小腸上皮細胞間結合の減少を誘導させる界面活性剤の適用により、細胞間経路を介して親水性有効成分である5-FUの膜透過度が増加され得る。またCremophor ELは、P-gpの疎水性領域と結合することができ、これにより、P-gpの形態変化がもたらされ、薬物の腸管内への排出を減少させ、5-FUのようにP-gpに排出される薬物の制限的な胃腸管吸収率が向上され得る。
【0044】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、下記実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらに制限されるものではない。
【0045】
実施例1:胆汁酸誘導体の製造
経口吸収促進剤である胆汁酸誘導体はデオキシコール酸に正電荷を帯びたリシンを化学的に結合して、製造した。
【0046】
デオキシコール酸2.6gをクロロギ酸エチル6.4mL、N-メチルモルホリン7.4mL及びテトラヒドロフラン(THF)800mLの混合液に溶解した後、2.7%(w/v)H-Lys(Boc)-OMe・HClのN-メチルモルホリン溶液を添加した後、2時間還流させた。その後、室温で一晩撹拌した後、沈殿物をろ過し、溶媒を蒸発させ、乾燥した。得られた沈殿物をクロロホルムとメタノールの混合液を利用してカラムを通過させ、Lys(Boc)DOCAを分離した。得られたLys(Boc)DOCAを再び氷浴で塩化エチルとメタノールの混合液に溶解した後、溶媒を完全に除去した。残渣を精製水に溶解した後、クロロホルムで洗浄した。水溶液層を回収した後、凍結乾燥して、粉末形態のデオキシコール酸-リシン誘導体(DCK)を得た。
【0047】
実施例2:OXA/DCKイオン結合複合体の製造
重炭酸ナトリウムでpH7.0に調整した精製水に、オキサリプラチン及び前記実施例1で製造されたDCKをそれぞれ溶解した。前記オキサリプラチン水溶液を撹拌し、オキサリプラチン:DCKのモル割合が1:2になるようにDCK水溶液を徐々に添加して、イオン結合複合体を形成した。前記混合液を遠心分離した後、-70℃で凍結乾燥し、粉末状態のOXA/DCKイオン結合複合体を製造した。
【0048】
実施例3:OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUを含むw/o第1ナノエマルションの製造
w/o/w多重乳化ナノエマルションを製造するために、2段階の自発的多重乳化方法を用いており、1段階は以下の通りである。
【0049】
w/o第1ナノエマルションは、第1油相Capryol 90、第1界面活性剤Labrasolと第1補助界面活性剤Transcutol HPの混合物(Smix,1)及び水相に、精製水をオイル滴定法によって製造した。
【0050】
w/o第1ナノエマルションを肉眼で観察したとき、透明な液相が得られる領域を疑似3相ダイヤグラムで確認し、Smix,1の混合割合(2:1、1:1、1:2)によるw/o第1ナノエマルション領域の疑似3相ダイヤグラムを図1に示した。前記領域から最も小さいサイズの内部水相液滴が形成され、内部水相含有量が最大である組成を最適のw/o第1ナノエマルション組成として選定した:21.4%水相、50.0%第1界面活性剤と第1補助界面活性剤混合物(Smix,1;Labrasol:Transcutol HP=1:2(w/w))、28.6%油相。
【0051】
図1に示したw/o第1ナノエマルションの疑似3相ダイヤグラムは、Smix,1の割合が2:1、1:1及び1:2の条件でオイルCapryol 90、第1界面活性剤Labrasol及び第1補助界面活性剤Transcutol HPを含むw/oシステムを示す。第1補助界面活性剤の量を第1界面活性剤の量よりも相対的に少なく添加した場合、例えば、Smix,12:1の場合、w/o第1ナノエマルションの面積はSmix,11:1であるときよりも小さいが、これは、Smix,1による油相の溶解度が相対的に低いことを意味する。Smix,12:1を42%添加したとき、油相に分散され得る最大水相の組成は、13%と確認されたのに対し、Smix,1で補助界面活性剤の割合を1:2に増加させたSmix,11:2でw/o第1ナノエマルションが形成される領域は、Smix,11:1と比較して、内部水相の量が増加する側に移動しており、概略50%Smix,11:2の油相に分散され得る水相の組成は24%であった。
【0052】
しかし、Smix,1で第1補助界面活性剤であるTranscutol HPの割合を第1界面活性剤と比較して、さらに増加させると、かえってw/o第1ナノエマルション形成領域が減少した。これは、Transcutol HPにより液晶が形成され、与えられた量のLabrasolにより安定化されないことを意味する。このような結果は、ナノエマルション製剤のGibbs自由エネルギーが、第1界面活性剤及び第1補助界面活性剤がw/o界面で受動的に界面張力を減少させる程度と界面の破壊エントロピーの変化に依存することを意味する。
【0053】
前記Smix,11:2で製造したナノエマルション領域で幾つかの組成を選定し、エマルション内の水相液滴直径と分散度(PDI)、エマルション内水相の含有量及び薬物の人工腸管膜透過度を測定した結果から最適なw/o第1ナノエマルション組成を決定した:21.4%水相(23.36%OXA又は67.52%OXA/DCKイオン結合複合体と23.36%5-FU)、50%Labrasol:Transcutol HPの1:2(w/w)混合物及び28.6%Capryol 90.
【0054】
実施例4:OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUを含むw/o/w第2ナノエマルションの製造
w/o/w第2ナノエマルションはw/o第1ナノエマルションを油相とし、Cremophor ELとTranscutol HPの混合物を第2界面活性剤と第2補助界面活性剤の混合物(Smix,2)として、水相に油相を滴定する方法により製造した。
【0055】
23.36%OXA又は67.52%OXA/DCKイオン結合複合体と23.36%5-FUを水相に分散させた後、w/o第1ナノエマルションを製造した。また、Smix,2を2:1、1:1、1:2の割合で混合した混合物をそれぞれ前記製造したw/o第1ナノエマルションに1:9~9:1の重量比で混合した。それぞれの混合物に精製水を徐々に添加して、最終的なw/o/w第2ナノエマルションを製造した。各割合のSmix,2に対する疑似3相ダイヤグラムを図2に示した。
【0056】
w/o/w第2ナノエマルション形成領域は、第2界面活性剤の含有量の増加につれて、相対的に増加した。Smix,21:1がSmix,22:1よりもナノエマルション領域が増加し、29%Smix,21:1で外部水相に分散され得るw/o第1ナノエマルションの最大組成は35%と確認された。一方、補助界面活性剤の混合割合を界面活性剤と比較して増加させたSmix,21:2の場合、Smix,21:1と比較して、ナノエマルション領域が減少した。47%Smix,21:2で分散されたw/o第1ナノエマルションの最大組成は23%と確認された。これにより、第2補助界面活性剤の割合が第2界面活性剤と比較して増加した場合、ナノエマルションの形成領域が減少することを確認することができた。
【0057】
実施例5:OXA/DCKイオン結合複合体の形成確認
オキサリプラチン(OXA)とデオキシコール酸-リシン誘導体(DCK)との間のイオン結合複合体形成を確認するために、純粋なOXA、DCK、OXAとDCKの物理的混合物及びOXA/DCKイオン結合複合体を粉末X線回折分析器(PXRD)と示差走査熱量計(DSC)により分析し、その結果を図3に示した。
【0058】
PXRDスペクトルの2θ範囲にわたって、純粋なOXAは、11.95°、15.77°、17.92°、19.57°、22.25°、23.95°、25.42°、26.09°、31.57°、31.61°、33.15°、36.76°で結晶性回折ピークを示した。OXAとDCKの物理的混合物においてもOXAの特徴的な結晶性回折ピークが観察された。これは、OXAがDCKとの混合物で、結晶形態で存在することを示す。一方、OXA/DCKイオン結合複合体ではOXAの結晶性を示す鋭い回折ピークが消失したことを確認することができた。
【0059】
DSC熱分析で、純粋なOXAの吸熱ピークは292℃で観察されたが、OXA/DCKイオン結合複合体ではOXAの吸熱ピークが消失することを確認した。したがって、OXAは、DCKと分子レベルで分散し、イオン結合による複合体を形成した後、無定形で複合体内に存在することが分かった。
【0060】
実施例6:OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUを含むw/o/w第2ナノエマルションの物理化学的性質の評価
図2に示した疑似3相ダイヤグラムから透明なナノエマルション領域を確認した後、この領域から選択された8個の組成を対象として物理化学的性質を評価した。OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUを含むw/o/w第2ナノエマルションに分散されたw/o第1ナノエマルションの液滴直径、分散度(PDI)及び表面電荷(ゼータ電位)を動的光散乱測定装置(Zetasizer Nano ZS90;MalvernInstruments社製、UK)で測定し、液滴形態を透過電子顕微鏡(JEM-200;JEOL社製、Japan)で観察し、これを下記の表1及び図4に示した。
【0061】
多重散乱効果を最小化するために、各試料を精製水に1:20の割合で希釈し、1分間分散させた後、25℃で、動的光散乱測定装置で測定した。
【0062】
また、各試料を精製水で100倍に希釈した後、銅格子板に前記希釈液を一滴落とし、超過液を紙フィルターで除去した後、2%リンタングステン酸水溶液を添加して染色した後、超過液は紙フィルターで除去し、透過電子顕微鏡(TEM)で測定した。
【0063】
下記表1を参照すると、全ての組成でw/o/w第2ナノエマルション内のw/o第1ナノエマルション液滴の大きさは、PDI値が0.59よりも低い均一な分布を示し、液滴の大きさは、13.5nm~232nmの範囲であった。w/o/w第2ナノエマルション内に分散したw/o第1ナノエマルションの組成が最大である組成Aで液滴の大きさが最大と評価された。それぞれのSmix,2の割合で油相であるw/o第1ナノエマルションの組成が10%から30%に増加するにつれて、分散した液滴の大きさが急激に増加することが分かった。即ち、組成Aと組成Cで液滴の大きさは、それぞれSmix,22:1で61.4±4.06nm及び18.1±0.31nm、Smix,21:1で146±1.17nm及び17.5±0.15nm、Smix,21:2で232±5.06nm及び19.0±1.06nmと評価された。このような結果は、w/o/w第2ナノエマルション内のw/o第1ナノエマルション液滴の大きさが剤形内のw/o第1ナノエマルション(油相)の濃度に比例して増加することを示す。w/o第1ナノエマルション(油相)の組成が、20%又は30%のとき、第2界面活性剤の濃度が増加するにつれて、液滴の大きさが減少した。したがって、Smix,21:2であり、30%のw/o第1ナノエマルション(油相)を含む組成Aで液滴の大きさが最大になることが分かる。しかし、w/o第1ナノエマルション(油相)を10%以下で含有する組成の場合、液滴の大きさは、Smix,2割合とその含有量に関係なく、20nm以下と評価された。Smix,21:1で製造したw/o/w第2ナノエマルションのうち組成Eで液滴の大きさと分散度(PDI)は、それぞれ20.3±0.22nm及び0.18±0.01と評価されており、組成Hは、他の組成と比較して最も小さい大きさの液滴(13.5±0.14nm)に分散されることが分かった。
【0064】
全てのw/o/w第2ナノエマルションの表面電荷(ゼータ電位)値は、-4.65mV~0.14mV(中性)の範囲と評価された。これは、w/o第1ナノエマルションのオイル層脂肪酸とエステルがw/o/w第2ナノエマルションの第2界面活性剤と第2補助界面活性剤に囲まれて分散したことを意味する。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例7:OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUを含むw/o/w第2ナノエマルションの人工腸管膜透過度の測定
前記表1の組成で製造したOXA、OXA/DCKイオン結合複合体又は5-FUをそれぞれ含有したw/o/w第2ナノエマルションの膜透過性を人工腸管膜(PAMPA;BDBiosciences,SanJose,CA,USA)で評価した。対照群としてOXA、OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FU水溶液を用いた。その結果を図5に示した。
【0067】
それぞれの試料を125.8μM OXA、125.8μM OXA/DCKイオン結合複合体、384.4μM 5-FU濃度になるようにリン酸塩緩衝液(PBS、pH6.8)で希釈した後、200μLずつPAMPAプレートの各ウェルの供与体に添加し、それぞれの受容体に300μLのリン酸塩緩衝液(PBS、pH6.8)を添加した後、供与体と受容体を結合させた。室温で5時間放置した後、PAMPAプレート各ウェルの供与体と受容体から試料を回収し、透過した薬物の濃度を以下のように測定した。
【0068】
OXA又はOXA/DCKイオン結合複合体の場合、40℃でC18カラム(4.6×250mm、5μm、100Å;20μL注入)を用い、HPLCで分析した。移動相である水(pH3.0、リン酸で調整)とアセトニトリルの99:1(v/v)混合液を0.8mL/分の流速で流して分析した。また、210nmでUV検出器を使用して測定した。
【0069】
5-FUの場合、C18カラム(4.6×250mm、5μm、100Å;20μL注入)付きHPLCシステムに注入し、精製水(pH3.2、リン酸で調整)を移動相とし、0.8mL/分の流速で流して分析した。UV検出は260nmで行った。
【0070】
各薬物の有効透過度(Pe)は、下記式を用いて計算した。
=-ln[1-CA(t)/Cequilibrium]/[A×(1/V+1/V)×t]
(式中、P:透過度(cm/s);A:有効フィルター面積(f×0.3cm;f:フィルターの表面上の気孔(f=0.76));V:供与体体積(0.2mL);V:受容体体積(0.3mL);t:透過時間(秒);C(t):時間tで受容体での薬物濃度;Cequilibrium:[C(t)×V+C(t)×V]/(V+V);C(t):時間tで供与体の残存薬物濃度)
【0071】
その結果、OXA、OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUの人工腸管膜を通した透過度は、全般的にw/o/w多重ナノエマルションの内相に含ませた後、有意に増加した。
【0072】
OXAの場合、膜透過度は、第2界面活性剤と第2補助界面活性剤混合物の割合(Smix,2)と油相(第1w/oナノエマルション)に対するSmix,2の割合に依存した。組成Hを除いて、Smix,21:1で製造したOXAw/o/w多重ナノエマルションの透過度は、同じ組成でSmix,22:1及びSmix,21:2w/o/w多重ナノエマルションよりも相対的に増加した。10%油相を含有するw/o/w多重ナノエマルションでSmix,21:1の油相に対する重量比を2から6に増加させたとき(組成C~H)、OXAの最大膜透過度は、組成E(油相:Smix,21:1、1:3)で観察されたた。このとき、OXAの膜透過度(4.99±0.59(×10-6cm/s))は、OXA水溶液の透過度(0.54±0.12(×10-6cm/s))よりも約9.24倍増加した。
【0073】
しかし、OXA/DCKイオン結合複合体の透過性は、依然としてOXA水溶液とOXAw/o/w多重ナノエマルション組成E(Smix,21:1)よりもそれぞれ37.4倍及び4.02倍高かった。界面活性剤の割合が補助界面活性剤よりも大きいSmix,22:1でOXA/DCKイオン結合複合体の人工腸管膜透過度は、油相(第1w/oナノエマルション)の含有量が高いか低いナノエマルションの透過度よりも相対的に高かった。一方、同じ組成でSmix,21:2を混合させたOXA/DCKイオン結合複合体の膜透過率は大きく増加しなかった。w/o/w多重ナノエマルションE(Smix,21:1)からOXA/DCKイオン結合複合体の人工腸管膜透過度は最大を示した。その透過度値は、水溶液状態及びw/o/w多重ナノエマルションA(Smix,22:1)よりもそれぞれ2.85倍及び1.46倍向上した。また、組成E(Smix,21:1)でのOXA/DCKイオン結合複合体膜透過度(57.2±5.23(×10-6、cm/s))はOXA水溶液(0.54±0.12(×10-6,cm/s))及び組成E(4.99±0.59(×10-6,cm/s))からのOXAの透過度よりそれぞれ107倍及び11.5倍向上した。
【0074】
5-FUの場合、組成C~Hからの透過度は、油相の含有量が同じであり、液滴の大きさが似ていることから大きな差を示さなかった。5-FUの膜透過度は、全てのSmix,2の割合で油相の量が減少するほど増加した。組成E(Smix,21:1)から5-FUの膜透過度(3.78±0.26(×10-6,cm/s))は、5-FU水溶液(1.27±0.46(×10-6,cm/s))と比較して3.05倍増加した。
【0075】
実施例8:OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUを含むw/o/w第2ナノエマルションのin vitro腸管細胞膜透過度の測定
前記表1の組成で製造されたOXA、OXA/DCKイオン結合複合体又は5-FUをそれぞれ含有したw/o/w第2ナノエマルションの膜透過性を、Caco-2細胞単層膜を用いて評価した。対照群としてOXA、OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FU水溶液を用いた。その結果を下記の表2に示した。
【0076】
Caco-2細胞を12-ウェルTranswell(登録商標)(細孔径:0.4μm、表面積:1.12cm;Corning社製)の各ウェル当たり3×10細胞を処理した。10%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco、ThermoFisherScientific社製)と1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Lonza、Basel、Switzerland)培地は、48時間毎に21日から29日間交換した。350Ω・cm以上の経上皮電気抵抗(TEER)を有するCaco-2細胞膜をin vitro腸管細胞膜透過度試験に用いた。
【0077】
まず、培養液を除去した後、37℃で20分間、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)0.5mLで培養した後、HBSSを除去し、HBSSで125.8μM OXA、125.8μM OXA/DCKイオン結合複合体、384.4μM 5-FUで希釈した各試料0.5mLと1.5mL HBSSをそれぞれの心尖部コンパートメント(apical compartment)と側底側コンパートメント(basolateral compartment)に添加した後、37℃で培養した。試料を処理した後、0.5、1、2、3、4、5時間目に、各ウェルの側底側コンパートメントから100μLの試料を採取し、メンブランフィルターでろ過した後、前記実施例7と同じHPLCシステム及びUV検出器を使用して腸管細胞膜を透過したOXA、OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUの濃度を測定した。またOXA、OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUの見かけ透過係数(Papp)は、下記式により算出した。
app=dQ/dt×1/(A×C
【0078】
(式中、dQ/dt:単位時間当たり側底側コンパートメントへ透過された薬物の重量(μmol/s)、C:心尖部コンパートメントでOXA、OXA/DCKイオン結合複合体又は5-FUの初期濃度(μmol/mL)、A:透過面積(cm))
【0079】
下記表2を参照すると、OXAをナノエマルションE(Smix,21:1)に含ませた結果、OXAのPappは、2.50±1.96(×10-6,cm/s)から7.08±1.42(×10-6,cm/s)に向上した。
【0080】
また、OXAの透過度は、DCKとイオン結合複合体を形成させることで、OXA水溶液と比較して大幅に増加した。OXA/DCKイオン結合複合体をナノエマルションE剤形内に含ませたとき(12.0±1.91×10-6,cm/s)、OXA/DCKイオン結合複合体のPappは、OXA(5.63±3.03×10-6,cm/s)及びOXA/DCKイオン結合複合体(2.50±1.96×10-6,cm/s)と比較してそれぞれ2.13倍及び4.80倍向上した。
【0081】
また、5-FUの膜透過度も5-FUをナノエマルションに含ませた後、大幅に増加した。組成E(Smix,21:1)から5-FUの透過度(14.9±3.08×10-6,cm/s)は、5-FU水溶液(3.46±1.22×10-6,cm/s)と比較して4.30倍増加した。
【0082】
また、ナノエマルション剤形からOXA、OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUのCaco-2細胞単層に対する透過度は、油相とSmix,2の重量比を1:1から1:3に増加させるにつれて増加する傾向を示したが、1:6の割合で急激に減少した。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例9:OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUを含むw/o/w第2ナノエマルションの薬物放出試験
溶出試験は、米国薬局方溶出試験法第1法(回転検体通法)で、100rpm、37±0.2℃、0.1NHCl水溶液(pH1.2)培地又はリン酸塩緩衝液(pH6.8)500mLの条件で行った。
【0085】
OXA粉末10mg又は5-FU粉末10mgを含有するOXA/DCKイオン結合複合体粉末38.8mg(OXA10mgに相当)又はこれらの薬物を含むw/o/Smix,2(第2外部水相を除いたナノエマルション製剤C、E、F、G及びH)ナノエマルション800mgを00号硬質ゼラチンカプセルに充填した後、溶出試験を行った。溶出試験開始後、15、30、45、60、90及び120分に各溶出試験液を1mLずつ採取し、ろ過した後、放出された薬物の量を前記実施例7と同じHPLC及びUV検出方法で分析した。その結果を図6に示した。
【0086】
図6(A)及び(B)に示すように、pH1.2の条件でOXA又はOXA/DCKイオン結合複合体の90%以上が120分以内にナノエマルションから放出された。しかし、ナノエマルションG及びHからOXA又はOXA/DCKイオン結合複合体の放出速度は粉末状態及び他のナノエマルション組成と比較して遅延した。一方、図6(C)に示すように、5-FUの場合、全てのカプセルで15分以内に85%以上の溶出率を示し、pH1.2で5-FUの溶出速度はナノエマルションの組成に大きく影響されなかった。
【0087】
図6(D)及び(F)に示すように、pH6.8の条件でOXA及び5-FUはナノエマルションから15分以内に90%以上が放出された。粉末形態で充填されたOXA/DCKイオン結合複合体カプセルは、剤形Cを除いて、ナノエマルション剤形よりも薬物の放出が遅延しており、剤形Cを除いて、ナノエマルションからOXA/DCKイオン結合複合体は15分以内に90%の溶出率を示した。このような結果は、複合体内に存在するDCK分子の凝集(aggregation)と油相に対するSmix,2の低い組成比に起因したものと判断される。
【0088】
実施例10:OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUを含むw/o/w第2ナノエマルションのin vivo経口吸収率の評価
胆汁酸誘導体とのイオン結合複合体形成及びナノエマルション製剤によるOXA及び5-FUの経口吸収改善を評価するために、OXA又はOXA/DCKイオン結合複合体と5-FUを含む水溶液及びこれを含むナノエマルション剤形(前記表1の組成E、Smix,21:1)をラットに経口投与した。図7、下記表3及び表4は、ラットの血中薬物濃度-時間プロファイルとOXA及び5-FUの薬物動態パラメーターを示す。
【0089】
ラットに、OXA(10mg/kg)、OXA/DCKイオン結合複合体(OXA10mg/kgに相当)、5-FU(20mg/kg)を水溶液状態でそれぞれ400μLずつ経口投与し、同様にOXA(10mg/kg)又はOXA/DCKイオン結合複合体(OXA10mg/kgに相当)と5-FU(20mg/kg)を含むナノエマルション希釈液を400μLずつ経口で投与した。また、経口生体利用率を評価するために、OXA(5mg/kg)及び5-FU(5mg/kg)水溶液をラットにそれぞれ150μLずつ尾静脈に注射した。
【0090】
経口及び静脈投与後、一定時間の間隔でラットの眼窩部位毛細血管から200μLの血液を採取し、50μLの3.8%クエン酸ナトリウム水溶液と混合した後、遠心分離して(2,500×g、15分、4℃)血漿試料を採取した後、分析する前まで-70℃で冷凍保管した。
【0091】
血漿中のOXAの濃度は、分析するために、採取した血漿を硝酸5mLで希釈後、6時間100℃で加熱した後、原子吸光分光学法(AAS)を使用して白金濃度を測定し、推定した。試料測定前、サンプルを3%硝酸水溶液10mLで希釈した後、AAS分析のために炉に入れた。GFS35黒鉛炉とGFS35Zオートサンプラー付きサーモフィッシャー・サイエンティフィックCE3500AAS(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)を用いて測定した。パージガスとしてアルゴンを200mL/分で用いた。試料の注入量は20μLであった。白金濃度は、266nmで、ゼーマンバックラウンド補正装置付き分光計で測定した。
【0092】
また、5-FUの血漿濃度を測定するために、100μLの標準液と血漿試料にそれぞれ20μg/mLの内部標準(IS、クロロウラシル)溶液50μLと飽和硫酸アンモニウム溶液100μLを添加した後、1分間混合した。希釈された血漿試料を2mLのプロパノールとジエチルエーテルの8:2(v/v)混合溶媒で抽出した。混合液を10分間、2,500×gで遠心分離し、37℃、窒素条件で蒸発させて、有機溶媒層を収集した。その後、乾燥残渣に100μLの移動相(pH6.8リン酸アンモニウム緩衝液とメタノールの98:2(v/v)混合液)を添加して溶解し、1mL/分の流速でC8カラム(4.6×250mm、5μm)付きHPLCに、50μLの試料を注入し、260nmで測定した。
【0093】
その結果、OXAの経口吸収率もまたナノエマルションに含ませた後、大幅に増加した。CmaxとAUClastは、それぞれOXA水溶液と比較して1.66倍及び2.67倍増加した。しかし、OXAの経口吸収率は、DCKとイオン結合複合体形成後、さらに増加した。OXA/DCKイオン結合複合体のCmaxとAUClast値は、OXA水溶液と比較してそれぞれ306%と540%増加した。
【0094】
また、図7に示すように、OXA/DCKイオン結合複合体を含むナノエマルションのCmaxとAUClast値は、OXA/DCKイオン結合複合体水溶液よりもそれぞれ1.77倍と1.70倍増加した。OXA水溶液と比較して5.41倍及び9.17倍向上した。また、下記表3を参照すると、OXA/DCKイオン結合複合体を含むナノエマルション製剤の経口生体利用率は、DCKとイオン結合による複合体形成とナノエマルション形態に剤形化されることにより、単純なOXA水溶液の経口生体利用率よりも9.19倍増加した。
【0095】
【表3】
【0096】
(表3中、Tmax:Cmax到達時間;T1/2:血漿濃度半減期;Cmax:最大血漿濃度;AUClast:最終測定可能な血漿濃度測定時間までの血漿濃度-時間曲線下の面積;AUCinf:無限大までの血漿濃度-時間曲線下の面積)
【0097】
下記表4に示すように、5-FUを含むナノエマルションのCmaxは、0.164±0.044μg/mLと評価された。これは、5-FU水溶液のCmax値(0.092±0.008μg/mL)と比較して1.78倍増加した。また、5-FUを含むナノエマルションのAUClast値は、5-FU水溶液のAUClast値(0.242±0.058μgh/mL)と比較して1.39倍増加した。経口生体利用率もまた5-FU水溶液と比較して139%向上した。
【0098】
【表4】
【0099】
(表4中、Tmax:Cmax到達時間;T1/2:血漿濃度半減期;Cmax:最大血漿濃度;AUClast:最終測定可能な血漿濃度測定時間までの血漿濃度-時間曲線下の面積;AUCinf:無限大までの血漿濃度-時間曲線下の面積)
【0100】
実施例11:OXA/DCKイオン結合複合体及び5-FUを含むw/o/w第2ナノエマルションのin vivo癌成長抑制効果の評価
CT26マウス大腸癌細胞をPBS(PH7.4)に1×10細胞/100μLの濃度で分散させた後、BALB/cマウスの背中部位に皮下注入した。14日後、腫瘍の大きさが70~100mmのとき、無作為に10匹ずつ下記5個の群に分けた。
【0101】
コトロール(無処置);
OXA-S(10mg/kgOXA水溶液、1日1回経口投与);
OXA/DCK-S(10mg/kgOXAに相当するOXA/DCKイオン結合複合体水溶液、1日1回経口投与);
5-FU-S(10mg/kg5-FU水溶液、1日1回経口投与);
OXA/DCK-5FU-NE(10mg/kgOXAに相当するOXA/DCKイオン結合複合体と10mg/kg5-FUを含むナノエマルション組成E(Smix、21:1)、1日1回経口投与)
【0102】
18日間、マウスは経口投与前4時間絶食した。投与後、2時間絶食した。3日間隔で腫瘍の大きさを測定した後、腫瘍の体積を下記式で計算し、マウスの体重も測定した。
腫瘍の大きさ=a×b×0.52(a=幅、b=長さ)
【0103】
投与18日目に腫瘍を摘出した後、重量を測定した。癌組織の成長阻害効果を評価するために、10%ホルマリン溶液で固定した。摘出した癌組織内の増殖細胞及び死滅細胞の密度を評価するために、TUNEL(fluorescent terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUPT nick end labeling)及びPCNA(増殖した細胞核抗原染色)染色を行い、その結果を図9に示した。
【0104】
図8(A)に示すように、癌細胞が移植されたマウスにOXA/DCK-Sを1日1回経口投与した場合、癌組織の成長は無処置対照群及びOXA-S群と比較してそれぞれ60.3%及び21.4%抑制された。5-FU-S溶液を投与した群も対照群と比較して癌組織の成長が57.9%遅延された。また、5-FU水溶液を経口で投与した群の癌成長は、OXA/DCK水溶液を経口投与した群と比較して癌組織成長抑制効果には差がなかった。一方、OXA/DCK-5FU-NE群は癌組織の成長が異なる群と比較して最大に抑制された(対照群と比較して73.9%、OXA-Sと比較して48.5%、OXA/DCK-Sと比較して34.4%、5-FU-Sと比較して38.1%).18日間、薬物投与後、OXA/DCK-5FU-NE群から摘出した腫瘍の重量も対照群、OXA-S、OXA/DCK-S、5-FU-Sと比較してそれぞれ43.0%、26.0%、11.6%及び32.0%減少したが、マウスの体重には大きな影響を及ぼさなかった(図8(B)及び(C))。
【0105】
図9に示すように、持続的なOXA/DCK-5-FU-NE投与群は、対照群、OXA-S、OXA/DCK-S、5-FU-Sと比較して増殖細胞の密度が顕著に減少しただけでなく、癌組織内死滅細胞も増加したことを確認することができる。このような結果は、OXA/DCKイオン結合複合体と5-FUを含むナノエマルション製剤の経口生体利用率の向上とこれらの薬物の癌成長抑制シナジー効果に起因したものと判断される。
【0106】
以上、本発明を例示的に説明した。本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で多様な変形が可能である。したがって、本明細書に開示された実施例は、本発明を限定するためのものでなく説明するためのものであり、このような実施例によって本発明の思想と範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は、以下の特許請求の範囲によって解釈されるべきであり、それと同等な範囲内にある全ての技術は、本発明の権利範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9