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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165158
(43)【公開日】2022-10-31
(54)【発明の名称】車両のデファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/40 20120101AFI20221024BHJP
【FI】
F16H48/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070398
(22)【出願日】2021-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】橋本 晃
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FB01
3J027HB07
3J027HC08
(57)【要約】
【課題】ピニオンシャフトとピニオンシャフト固定ピンをデフケースに予め取り付けた状態でレーザ溶接を行う場合においても、デフケースとデフリングギヤとの溶接時に生じるガスを排出することができる車両のデファレンシャル装置を提供する。
【解決手段】デフケース3とデフリングギヤ2とが嵌合する嵌合部51、及び嵌合部51より外側において、デフケース3とデフリングギヤ2との間において溶接される溶接部52を備えた車両のデファレンシャル装置1において、デフケース3には、嵌合部51より内側において、ピニオンシャフト42の一端を貫通するように挿通穴44を通して延びる中空のピニオンシャフト固定ピン60が配設され、ピニオンシャフト固定ピン60には、一端が空間部53に対して開口して、且つ他端が挿通穴44に対して開口する連通路54の他端に対向する軸方向の位置において、所定の大きさの貫通孔63が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デフケースの外周側面とデフリングギヤの内周側面とが嵌合する嵌合部、及び前記嵌合部より外側において、前記デフケースと前記デフリングギヤとの間において溶接される溶接部を備えた車両のデファレンシャル装置であって、
前記デフケースには、前記嵌合部より内側において、前記デフリングギヤの軸と直交する方向に延びるピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトと交差するように延びて外部と連通する挿通穴と、前記ピニオンシャフトを固定するため、前記ピニオンシャフトの一端を貫通するように前記挿通穴を通して延びる中空のピニオンシャフト固定ピンとが配設され、
前記デフケースには、一端が前記溶接部に向けて開口して、且つ他端が前記挿通穴に対して開口する連通路が設けられ、
前記ピニオンシャフト固定ピンには、前記連通路の他端に対向する軸方向の位置において、所定の大きさの貫通孔が設けられている、
ことを特徴とする車両のデファレンシャル装置。
【請求項2】
前記ピニオンシャフト固定ピンは、筒状に延びる筒状部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両のデファレンシャル装置。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記ピニオンシャフト固定ピンの全周に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の車両のデファレンシャル装置。
【請求項4】
前記ピニオンシャフト固定ピンには、前記連通路の他端に対向する位置において、外側から内側に向けて窪む狭窄部が設けられ、
前記貫通孔は、前記狭窄部に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の車両のデファレンシャル装置。
【請求項5】
前記ピニオンシャフト固定ピンは、前記ピニオンシャフト固定ピンの軸方向に沿って延びて、周方向における側面の一部が切り欠かれた開口部を備えるC字状の開口筒状部を有して、
前記ピニオンシャフト固定ピンは、前記開口部が前記デフケースの前記連通路の他端に対して径方向反対側に位置するように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の車両のデファレンシャル装置。
【請求項6】
前記ピニオンシャフト固定ピンは、前記開口部に挿入されるピン嵌合部を備えた位置決め工具を用いて、前記開口部が前記デフケースの前記連通路の他端に対して径方向反対側に位置するように位置決めされていることを特徴とする請求項5に記載の車両のデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のデファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部にエンジンなどの駆動源と変速機とを軸心が車体前後方向に延びるように配置し、変速機から伝達される駆動力を車体後方に延びる後輪用出力軸から後輪用プロペラシャフト及び後輪用デファレンシャル装置を介して主駆動輪としての後輪に伝達するように構成した所謂FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ベースの車両が知られている。
【0003】
このような車両に配設されている後輪用デファレンシャル装置(以下、デファレンシャル装置と呼称する)は、例えば車両が旋回するとき、後輪用プロペラシャフト(以下、プロペラシャフトと呼称する)から伝達される駆動力を対応する左右の駆動輪に分配して、左右の駆動輪の間に発生する車輪回転速度の差を調整するように構成されている。
【0004】
このデファレンシャル装置は、プロペラシャフトから駆動力が伝達されるデフリングギヤと、ねじ締結又は溶接によりデフリングギヤと接合されて共に回転するデフケースとを備える。このデフケースには、デフリングギヤから伝達される駆動力を左右の駆動輪に分配する左右一対のサイドギヤと、デフリングギヤと直交する方向に延びるピニオンシャフトと、該ピニオンシャフトに設けられて左右一対のサイドギヤと噛み合い、駆動輪の間に発生する車輪回転速度の差を調整するピニオンギヤとが配設されている。
【0005】
デフリングギヤとデフケースとの接合方法として、例えば、炭素鋼から形成されるデフリングギヤと鋳鉄から形成されるデフケースとが溶接される溶接部に対してレーザを照射することにより、デフリングギヤとデフケースとを接合するレーザ溶接が知られている。
【0006】
デフリングギヤとデフケースとが当接する溶接部には、外側に向けて開口している溝を有する開先部が設けられている。レーザ溶接を行うとき、開先部に対してフィラーを外側から供給すると共にレーザを照射することにより、開先部において、溶融した金属が溶接ビードを形成する。このとき、レーザの熱により、溶融した金属の一部からガスが生じて、該ガスの圧力により、溶接部に損傷を与える虞があるため、溶接部において生じる該ガスの圧力の上昇を抑えるように、溶接部を外部と繋げる連通路を設ける必要がある。
【0007】
例えば特許文献1には、ピニオンシャフトを固定するためのピニオンシャフト固定ピンが挿入される挿通穴を備えるデフケースに対して、該挿通穴と溶接部とを繋げる連通路を設けることにより、レーザ溶接を行うとき、該連通路を通して、溶接部から生じるガスを排出する溶接構造が開示されている。
【0008】
また、特許文献1には、レーザ溶接が完了した後、ピニオンシャフト固定ピンを挿通穴に挿入することにより、連通路を閉塞する溶接構造が開示されている。これにより、スパッタなどの溶融した金属の一部が外部に排出されることを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6196271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、特許文献1の溶接構造は、レーザ溶接を行うとき、ピニオンシャフト固定ピンを挿通穴に挿入した状態では、溶接部において生じるガスを外部に排出することができないため、ピニオンシャフトとピニオンシャフト固定ピンを取り付ける前にレーザ溶接を行う必要がある。したがって、特許文献1の溶接構造は、レーザ溶接を行う前にピニオンシャフトとピニオンシャフト固定ピンをデフケースに取り付けることにより組付けられるデファレンシャル装置に対して適用することは難しい。例えば、デフリングギヤが、デフリングギヤの軸方向において、デフケースに組み付けられているピニオンシャフトに対してオーバーラップする構造を有する場合、ピニオンシャフトとピニオンシャフト固定ピンとをデフケースに組み付けた後に、デフケースとデフリングギヤとを接合する必要があることがある。
【0011】
そこで、本発明は、ピニオンシャフトとピニオンシャフト固定ピンをデフケースに予め取り付けた状態でレーザ溶接を行う場合においても、デフケースとデフリングギヤとの溶接時に生じるガスを排出することができる車両のデファレンシャル装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0013】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、デフケースの外周側面とデフリングギヤの内周側面とが嵌合する嵌合部、及び前記嵌合部より外側において、前記デフケースと前記デフリングギヤとの間において溶接される溶接部を備えた車両のデファレンシャル装置であって、
前記デフケースには、前記嵌合部より内側において、前記デフリングギヤの軸と直交する方向に延びるピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトと交差するように延びて外部と連通する挿通穴と、前記ピニオンシャフトを固定するため、前記ピニオンシャフトの一端を貫通するように前記挿通穴を通して延びる中空のピニオンシャフト固定ピンとが配設され、
前記デフケースには、一端が前記溶接部に向けて開口して、且つ他端が前記挿通穴に対して開口する連通路が設けられ、
前記ピニオンシャフト固定ピンには、前記連通路の他端に対向する軸方向の位置において、所定の大きさの貫通孔が設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記ピニオンシャフト固定ピンは、筒状に延びる筒状部を有することを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の発明において、前記貫通孔は、前記ピニオンシャフト固定ピンの全周に設けられていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の発明において、前記ピニオンシャフト固定ピンには、前記連通路の他端に対向する位置において、外側から内側に向けて窪む狭窄部が設けられ、
前記貫通孔は、前記狭窄部に設けられていることを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記ピニオンシャフト固定ピンは、前記ピニオンシャフト固定ピンの軸方向に沿って延びて、周方向における側面の一部が切り欠かれた開口部を備えるC字状の開口筒状部を有して、
前記ピニオンシャフト固定ピンは、前記開口部が前記デフケースの前記連通路の他端に対して径方向反対側に位置するように配設されていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に記載の発明は、前記請求項5に記載の発明において、前記ピニオンシャフト固定ピンは、前記開口部に挿入されるピン嵌合部を備えた位置決め工具を用いて、前記開口部が前記デフケースの前記連通路の他端に対して径方向反対側に位置するように位置決めされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本願の請求項1に記載の発明によれば、デフケースとデフリングギヤとを嵌合させて溶接するとき、溶接部から生じるガスは、連通路を通して、デフケースの挿通穴に向かう。このとき、挿通穴に予め挿入されたピニオンシャフト固定ピンに設けられた所定の大きさの貫通孔により、ガスを貫通孔から中空のピニオンシャフト固定ピンの内側を通過して外部に排出させることができる。また、溶接時に生じる貫通孔より大きなスパッタはピニオンシャフト固定ピンの内側に進入することがない。デフケースに連通路を設けると共に、ピニオンシャフト固定ピンに所定の大きさの貫通孔を設けるという簡単な構成で、ガスだけを外部に放出することができる。したがって、ピニオンシャフトとピニオンシャフト固定ピンをデフケースに予め取り付けた状態でレーザ溶接を行う場合においても、デフケースとデフリングギヤとの溶接時に生じるガスを排出することができる車両のデファレンシャル装置を提供することができる。
【0020】
また、本願の請求項2に記載の発明によれば、ピニオンシャフト固定ピンが筒状に延びる筒状部を有することにより、ガスは筒状部の内側を通過して外部に容易に排出されることができる。
【0021】
また、本願の請求項3に記載の発明によれば、貫通孔がピニオンシャフト固定ピンの全周に設けられていることにより、ピニオンシャフト固定ピンを周方向に位置決めする必要がないため、ピニオンシャフト固定ピンを挿通穴に容易に取り付けることができる。
【0022】
また、本願の請求項4に記載の発明によれば、貫通孔がピニオンシャフト固定ピンの狭窄部に設けられていることにより、ガスは挿通穴と狭窄部との間の隙間から貫通孔を通じて筒状部の内側を通過して外部に容易に排出されることができる。
【0023】
また、本願の請求項5に記載の発明によれば、ピニオンシャフト固定ピンがC字状の開口筒状部を有することにより、ピニオンシャフト固定ピンを縮径させて挿通穴に容易に組み付けることができる。
【0024】
また、本願の請求項6に記載の発明によれば、位置決め工具のピン嵌合部をピニオンシャフト固定ピンの開口部に挿入した状態で、ピニオンシャフト固定ピンを挿通穴に取り付けることにより、ピニオンシャフト固定ピンを周方向に容易に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係るデファレンシャル装置を示す概略図である。
図2図1のデファレンシャル装置に配設されるピニオンシャフト固定ピンを示す概略図である。
図3】別の実施形態に係るピニオンシャフト固定ピンを示す概略図である。
図4】別の実施形態に係るピニオンシャフト固定ピンを示す概略図である。
図5図4のピニオンシャフト固定ピンと位置決め工具を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係るデファレンシャル装置を示す概略図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る車両のデファレンシャル装置1は、フロントエンジン・リヤドライブ車の後輪用デファレンシャル装置として構成されている。
【0028】
デファレンシャル装置1は、炭素鋼から形成される傘歯車として構成されているデフリングギヤ2と、鋳鉄から形成されるデフケース3とを備える。デフリングギヤ2は、略円筒状の内周側面21と、デフリングギヤ2の内周側面21の軸方向一端側に設けられた円環状の底面22とを備える。また、デフリングギヤ2の軸方向他端側には、外側に向かうにつれてデフリングギヤ2の軸方向一端側に傾斜する傘歯25が設けられている。一方、デフケース3は、デフリングギヤ2の内周側面21と嵌合するように、内周側面21と同等の大きさの外径を有する略円筒状の外周側面31と、外周側面31より内側に形成されている略球形の内部空間32とを備える。また、デフケース3の外周側面31の軸方向一端側には、デフリングギヤ2の底面22と同等の大きさの直径を有する略円形のフランジ33と、外周側面31より小さな直径を有する略円柱状の軸部34とが設けられている。
【0029】
デフケース3のフランジ33の径方向端部には、外側に向かうにつれてデフケース3の軸方向一端側に傾斜するケース側傾斜部35が設けられている。一方、デフリングギヤ2の底面22の径方向端部には、外側に向かうにつれてデフケース3のケース側傾斜部35と反対側に傾斜して、ケース側傾斜部35と同等の大きさの径方向の幅を有するギヤ側傾斜部23が設けられている。
【0030】
また、デフリングギヤ2の底面22には、ギヤ側傾斜部23より内側において、デフリングギヤ2の軸方向他端側に向けて円環状にくぼむ窪み24が設けられている。
【0031】
また、デフケース3には、外周側面31より内側において、内部空間32を通過するように外周側面31の軸と直交する方向に延びるシャフト穴41と、シャフト穴41を通して延びるように取り付けられ、デフケース3の径方向端部側にピン挿入孔43を有するピニオンシャフト42と、ピニオンシャフト42と交差するようにピン挿入孔43と繋がって延びて外部と連通する挿通穴44と、ピニオンシャフト42を固定するため、デフケース3の径方向端部側において、ピン挿入孔43を介して、ピニオンシャフト42を貫通するように挿通穴44を通して延びる中空のピニオンシャフト固定ピン60とが配設されている。このピニオンシャフト42には、内部空間32に収容される図示しないピニオンギヤが連結されている。
【0032】
デフリングギヤ2とデフケース3を接合するとき、デフリングギヤ2の内周側面21がデフケース3の外周側面31に圧入されて嵌合されることにより、嵌合部51が形成される。また、デフリングギヤ2の底面22がデフケース3のフランジ33と当接することにより、ギヤ側傾斜部23とケース側傾斜部35との間において、外側に向けて開口している溝を有して溶接される溶接部52、及び嵌合部51と溶接部52との間において、窪み24と外周側面31とフランジ33に囲まれて円環状に拡がる空間部53が形成される。
【0033】
また、デフリングギヤ2の内周側面21とデフケース3の外周側面31とが互いに圧入されて嵌合されているとき、デフリングギヤ2の傘歯25は、デフリングギヤ2とデフケース3の軸方向において、デフケース3のシャフト穴41とピニオンシャフト42に対してオーバーラップする。したがって、デフリングギヤ2の内周側面21とデフケース3の外周側面31とが互いに圧入されて嵌合される前に、ピニオンシャフト42はデフケース3のシャフト穴41に取り付けられて、またピニオンシャフト固定ピン60はピン挿入孔43を介して挿通穴44に取り付けられる。その後、デフリングギヤ2の内周側面21とデフケース3の外周側面31とが互いに圧入されて嵌合された状態で、デフリングギヤ2とデフケース3の溶接部52に対してレーザ溶接が行われる。
【0034】
また、デフケース3には、一端が空間部53に対して開口して、他端が挿通穴44に対して開口する連通路54が設けられている。連通路54は、これに限定されるものではないが、直径1.5mmから2mmまでの円筒形状を有する。
【0035】
挿通穴44を通るように配設されているピニオンシャフト固定ピン60は、デフリングギヤ2とデフケース3の軸方向において、連通路54の他端と同じ位置に設けられて、且つ側面において、連通路54の他端に対向する連通路対向部61を有する。
【0036】
図2は、図1のデファレンシャル装置1に配設されるピニオンシャフト固定ピン60を示す概略図である。特に、図2の(a)は、ピニオンシャフト固定ピン60の側面図を示す一方、図2の(b)は、ピニオンシャフト固定ピン60の上面図を示す。図2に示すように、ピニオンシャフト固定ピン60は、筒状に真直ぐに延びる筒状部62を有する。
【0037】
筒状部62には、ピニオンシャフト固定ピン60の連通路対向部61において、複数の貫通孔63が全周に設けられている。この貫通孔63は、溶接部52において生じるスパッタなどの溶融した金属の一部が通過しない所定の大きさに設定されている。実施形態において、貫通孔63は、ピニオンシャフト固定ピン60の軸方向に沿って3つの列を形成するように配置されており、これに限定されるものではないが、それぞれ、所定の大きさとして0.3mmから0.5mmまでの大きさの直径を有する。
【0038】
ピニオンシャフト固定ピン60に設けられている貫通孔63は、これに限定されるものではないが、例えば、レーザ照射により孔を開けるレーザ加工、アーク放電により孔を開ける放電加工、又は腐食液により孔を開けるエッチング加工によって形成される。
【0039】
図1に戻り、デフリングギヤ2とデフケース3とを溶接するとき、デフケース3の軸部34は、モータ101により回転駆動する固定具102に固定される。モータ101は、回転駆動が制御されるように、外部に配設されているコントローラ103と電気的に接続されている。
【0040】
デフケース3には、シャフト穴41に挿通されるピニオンシャフト42と、挿通穴44に挿入されるピニオンシャフト固定ピン60とが取り付けられている。このとき、ピニオンシャフト固定ピン60の連通路対向部61が連通路54の他端に対向するように、ピニオンシャフト固定ピン60は、デフリングギヤ2とデフケース3の軸方向において、適切に位置決めされている。
【0041】
固定具102に固定されているデフケース3の外周側面31には、デフリングギヤ2の内周側面21が圧入されて嵌合され、嵌合部51が形成される。このとき、デフリングギヤ2の底面22がデフケース3のフランジ33と当接することにより、ギヤ側傾斜部23とケース側傾斜部35との間において、外側に向けて開口している溝を有する溶接部52が形成される。また、嵌合部51と溶接部52との間において、デフリングギヤ2の窪み24とデフケース3の外周側面31とフランジ33とに囲まれて円環状に拡がる空間部53が形成される。
【0042】
溶接部52より外側には、レーザが溶接部52の溝に対して真直に入射できるように、レーザトーチ104が配置される。このレーザトーチ104は、溶接部52に対するレーザの照射が制御されるように、コントローラ103と電気的に接続されている。また、レーザトーチ104の近傍には、溶接部52の溝に対してフィラーを供給できるように、フィラー供給部105が配置される。このフィラー供給部105は、溶接部52に対するフィラーの供給が制御されるように、コントローラ103と電気的に接続されている。
【0043】
上述のように配置されているデフリングギヤ2とデフケース3とを溶接するとき、コントローラ103から送信される電気的な信号に基づいて、モータ101が回転駆動する。このとき、軸部34を介して固定具102に固定されているデフケース3と、嵌合部51においてデフケース3と嵌合しているデフリングギヤ2は、モータ101により回転する固定具102と共に回転する。
【0044】
回転するデフリングギヤ2とデフケース3の溶接部52には、コントローラ103から送信される電気的な信号に基づいて、フィラー供給部105からフィラーが供給されると共に、レーザトーチ104からレーザが照射される。レーザトーチ104から照射されたレーザにより、フィラーが溶融して、溶接部52において、溶接ビードを形成することにより、デフリングギヤ2とデフケース3とが溶接される。デフリングギヤ2とデフケース3とが回転することにより、レーザが照射される溶接部52の位置は円周方向に移動して、デフリングギヤ2とデフケース3の全周にわたってレーザ溶接が行われる。
【0045】
溶接部52において、溶融した金属の一部からガスが生じる。このガスは、空間部53と連通路54とを通して挿通穴44に向かい、挿通穴44に挿入されているピニオンシャフト固定ピン60の連通路対向部61に設けられている貫通孔63を通してピニオンシャフト固定ピン60の内側に進入する。ピニオンシャフト固定ピン60の内側に到達したガスは、ピニオンシャフト固定ピン60の筒状部62の軸方向に沿って移動して、挿通穴44の端部から外部に排出される。
【0046】
また、フィラーなどの金属がレーザにより溶融されるとき、約0.5mm以上の大きさを有するスパッタが生じやすい。実施形態において、連通路54は直径1.5mmから2mmまでの円筒形状を有するため、溶接部52において生じたスパッタは、空間部53を通して連通路54に到達する。連通路54に到達したスパッタは、挿通穴44に向かう一方、挿通穴44に挿入されているピニオンシャフト固定ピン60の連通路対向部61に設けられている貫通孔63が、0.5mmまでの大きさの直径を有するため、ピニオンシャフト固定ピン60の内側に進入することができない。これにより、スパッタなどの溶融した金属の一部が外部に排出されることを抑制することができる。また、貫通孔63は、0.3mmよりも大きい直径を有するため、溶接部52において生じるガスは、貫通孔63を通して、挿通穴44の端部から外部に容易に排出される。
【0047】
これにより、デフケース3とデフリングギヤ2とを嵌合させて溶接するとき、溶接部52から生じるガスとスパッタは、空間部53と連通路54とを通して、デフケース3の挿通穴44に向かう。このとき、挿通穴44に予め挿入されたピニオンシャフト固定ピン60に設けられた所定の大きさの貫通孔63を介して、ガスは中空のピニオンシャフト固定ピン60の内側を通過して外部に排出される一方、貫通孔63より大きなスパッタはピニオンシャフト固定ピン60の内側に進入することがない。デフケース3に連通路54を設けると共に、ピニオンシャフト固定ピン60に所定の大きさの貫通孔63を設けるという簡単な構成で、ガスだけを外部に放出することができる。したがって、ピニオンシャフト42とピニオンシャフト固定ピン60をデフケース3に予め取り付けた状態でレーザ溶接を行う場合においても、デフケース3とデフリングギヤ2との溶接時に生じるガスを排出することができる車両のデファレンシャル装置1を提供することができる。
【0048】
また、ピニオンシャフト固定ピン60が筒状に延びる筒状部62を有することにより、ガスは筒状部62の内側を通過して外部に容易に排出されることができる。
【0049】
また、貫通孔63がピニオンシャフト固定ピン60の全周に設けられていることにより、ピニオンシャフト固定ピン60を周方向に位置決めする必要がないため、ピニオンシャフト固定ピン60を挿通穴44に容易に取り付けることができる。
【0050】
次に、別の実施形態に係るピニオンシャフト固定ピンについて詳しく説明する。
【0051】
本実施形態では、ピニオンシャフト固定ピン60は、筒状に真直ぐに延びる筒状部62を有する一方、別の形状の筒状部を有してもよい。
【0052】
図3は、別の実施形態に係るピニオンシャフト固定ピン160を示す概略図である。ピニオンシャフト固定ピン160には、デフケース3の連通路54の他端に対向する連通路対向部161において、外側から内側に向けて窪む狭窄部164が設けられている。筒状部162と狭窄部164との間には、ピニオンシャフト固定ピン160の軸方向に沿って直径が徐々に小さくなるように、傾斜部165が設けられている。また、狭窄部164には、ガスだけを外部に放出する所定の大きさの貫通孔163が設けられている。実施形態において、貫通孔163も、これに限定されるものではないが、それぞれ、所定の大きさとして0.3mmから0.5mmまでの大きさの直径を有する。
【0053】
実施形態において、貫通孔163がピニオンシャフト固定ピン160の狭窄部164に設けられていることにより、ガスは、挿通穴44と狭窄部164との間の隙間を通して、狭窄部164の全周に設けられた貫通孔163から筒状部162の内側に進入する。これにより、ガスは筒状部162の内側を通過して外部に容易に排出されることができる。
【0054】
また、図4は、別の実施形態に係るピニオンシャフト固定ピン260を示す概略図である。特に、図4の(a)は、ピニオンシャフト固定ピン260の側面図を示す一方、図4の(b)は、ピニオンシャフト固定ピン260の上面図を示す。図4に示すように、ピニオンシャフト固定ピン260は、ピニオンシャフト固定ピン260の軸方向に沿って延びて、周方向における側面の一部が切り欠かれた開口部264を備えるC字状の開口筒状部262を有する。このピニオンシャフト固定ピン260は、開口部264がデフケース3の連通路54の他端に対して径方向反対側に位置するように配設されている。
【0055】
図5は、図4のピニオンシャフト固定ピン260と位置決め工具300を示す概略図である。位置決め工具300は、略円柱状に延びる柱部301を有する。この柱部301の一端には、中心より外側に偏った位置において、柱部301の軸方向に沿って延びて、且つ柱部301より小さな直径を有する略円柱状のピン嵌合部302が設けられている。このピン嵌合部302の直径は、ピニオンシャフト固定ピン260の開口部264の周方向の幅と同等の大きさを有する。
【0056】
図5に示すように、ピニオンシャフト固定ピン260をデフケース3の挿通穴44に挿入するとき、ピニオンシャフト固定ピン260の開口部264は、位置決め工具300のピン嵌合部302と嵌合される。これにより、ピニオンシャフト固定ピン260は、開口部264がデフケース3の連通路54の他端に対して径方向反対側に位置するように、挿通穴44に挿入される。
【0057】
実施形態において、ピニオンシャフト固定ピン260がC字状の開口筒状部262を有することにより、ピニオンシャフト固定ピン260を縮径させて挿通穴44に容易に組み付けることができる。また、位置決め工具300のピン嵌合部302をピニオンシャフト固定ピン250の開口部264に挿入した状態で、ピニオンシャフト固定ピン260を挿通穴44に取り付けることにより、ピニオンシャフト固定ピン260を周方向に容易に位置決めすることができる。
【0058】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0059】
以上のように、本発明によれば、ピニオンシャフトとピニオンシャフト固定ピンをデフケースに予め取り付けた状態でレーザ溶接を行うことにより、デフケースとデフリングギヤとの間の空間部内のガスを排出することが可能となるから、デファレンシャル装置を搭載した車両の製造技術分野において、好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0060】
1 デファレンシャル装置
2 デフリングギヤ
3 デフケース
21 内周側面
31 外周側面
42 ピニオンシャフト
44 挿通穴
51 嵌合部
52 溶接部
54 連通路
60 ピニオンシャフト固定ピン
63 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5