(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022165827
(43)【公開日】2022-11-01
(54)【発明の名称】タイヤ空気圧監視システム
(51)【国際特許分類】
B60C 23/04 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
B60C23/04 160A
B60C23/04 160Z
B60C23/04 220B
B60C23/04 180A
B60C23/04 190
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021071350
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曹 冷馳
(57)【要約】
【課題】タイヤ空気圧の調整の適切な実施タイミングを把握することが可能なタイヤ空気圧監視システムを提供する。
【解決手段】タイヤ空気圧監視システムは、車体11にタイヤを含む複数の車輪10a~10dが取り付けられた車両10に適用される。タイヤ空気圧監視システムは、複数の車輪10a~10dのタイヤ空気圧を検出する空気圧検出部21を含むタイヤセンサ2と、車載機3と、メータ5と、を備える。車載機3は、現在以降のタイヤ空気圧の変化量を予測する予測変化モデルを作成し、予測変化モデルに基づいて、タイヤ空気圧が予め定めた異常圧力値以下となるのに要する日数を推定する。メータ5は、車載機3で推定される日数が経過する前にタイヤ空気圧の調整を促すための情報を報知する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体(11)にタイヤを含む複数の車輪(10a、10b、10c、10d)が取り付けられた車両(10)に適用されるタイヤ空気圧監視システムであって、
複数の前記車輪のタイヤ空気圧を検出する空気圧検出部(21)を含むタイヤセンサ(2)と、
現在以降の前記タイヤ空気圧の変化量を予測する予測変化モデルを作成し、前記予測変化モデルに基づいて、前記タイヤ空気圧が予め定めた異常圧力値以下となるのに要する日数を推定する日数推定部(331)と、
前記日数推定部で推定される日数が経過する前に前記タイヤ空気圧の調整を促すための情報を報知する報知部(5)と、
を備えるタイヤ空気圧監視システム。
【請求項2】
現在以降の外気温を予測する外気温予測部(332)を備え、
前記予測変化モデルは、前記外気温の変化に起因する前記タイヤ空気圧の変化量を推定する温度変化モデルと、エアリークに起因する前記タイヤ空気圧の変化量を推定するリーク変化モデルと、を含み、
前記日数推定部は、前記温度変化モデルで推定される前記タイヤ空気圧の変化量と前記リーク変化モデルで推定される前記タイヤ空気圧の変化量とを合算したものに基づいて前記日数を推定する、請求項1に記載のタイヤ空気圧監視システム。
【請求項3】
前記リーク変化モデルは、所定期間における前記エアリークに起因する前記タイヤ空気圧の変化量を前記所定期間毎に前記外気温予測部で予測される前記外気温に応じて補正し、この補正によって得られた値の積算値を用いて前記エアリークに起因する前記タイヤ空気圧の変化量として推定する、請求項2に記載のタイヤ空気圧監視システム。
【請求項4】
前記温度変化モデルは、前記外気温予測部で予測される前記外気温において、一日における最も低い前記外気温を用いて前記外気温の変化に起因する前記タイヤ空気圧の変化量を推定する、請求項2または3に記載のタイヤ空気圧監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ空気圧監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシステムでは、車両を安全に運転させるために、タイヤ空気圧が法規の閾値を下回るとユーザに警報を行うものがある。また、例えば、下記の特許文献1に記載の警報装置では、タイヤ空気圧の急減圧を判定し、タイヤがパンクした際に警報を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のタイヤ空気圧監視システムや警報装置では、あくまでもタイヤの空気圧が不適切な状態になった時になってから警報を行うため、警報がない限り、運転者がそのまま運転し続ける可能性が高い。このことは、燃費の低下及びタイヤ状態の劣化に繋がる。仮に、車室内の表示器にタイヤ空気圧の表示があったとしても、多くのユーザはタイヤ空気圧の数値からタイヤの状態を読み取れず、タイヤ空気圧の調整をどのタイミングで実施すればよいのかが分かり難い。
【0005】
本開示は、タイヤ空気圧の調整の適切な実施タイミングを把握することが可能なタイヤ空気圧監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、
車体(11)にタイヤを含む複数の車輪(10a、10b、10c、10d)が取り付けられた車両(10)に適用されるタイヤ空気圧監視システムであって、
複数の車輪のタイヤ空気圧を検出する空気圧検出部(21)を含むタイヤセンサ(2)と、
現在以降のタイヤ空気圧の変化量を予測する予測変化モデルを作成し、予測変化モデルに基づいて、タイヤ空気圧が予め定めた異常圧力値以下となるのに要する日数を推定する日数推定部(331)と、
日数推定部で推定される日数が経過する前にタイヤ空気圧の調整を促すための情報を報知する報知部(5)と、を備える。
【0007】
これによると、タイヤ空気圧が異常圧力値以下となる前段階で、タイヤ空気圧の調整を促すための情報がユーザ等に報知される。このため、ユーザ等がタイヤ空気圧の調整の適切な実施タイミングを把握することが可能となる。このこと、燃費の向上及びタイヤ状態の劣化抑制に有効である。
【0008】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るタイヤ空気圧監視システムの全体構成図である。
【
図4】タイヤ空気圧の経時的な変化を説明するための説明図である。
【
図5】タイヤ空気圧に影響する要素を説明するための説明図である。
【
図6】地域および季節の違いによるタイヤ空気圧の変化を説明するための説明図である。
【
図7】或る地域における最高気温および最低気温の変化を説明するための説明である。
【
図8】温度変化モデルを説明するための説明図である。
【
図9】リークに起因するタイヤ空気圧の変化の線形予測モデルを説明するための説明図である。
【
図10】外気温とタイヤ空気圧との関係を説明するための説明図である。
【
図11】外気温を考慮したリーク係数の設定方法を説明するための説明である。
【
図12】リーク変化モデルを説明するための説明である。
【
図13】予測変化モデルを説明するための説明図である。
【
図14】車載機が実行するタイヤ空気圧の予測処理の流れを示すフローチャートである。
【
図15】タイヤ空気圧の予測結果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一実施形態について、
図1~
図15を参照して説明する。
図1は、タイヤ空気圧の検知機能を有するタイヤ空気圧監視システム(以下、TPMSという)を示す図である。
図1に示す前後、左右は、車両10における前後、左右を示している。また、以下では、車両10に取り付けられた4つの車輪10a~10dを区別して説明する場合等に、4つの車輪10a~10dを左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL、右後輪RRと表記することがある。
【0011】
図1に示すように、TPMSは、複数のタイヤセンサ2、車載機3を備える。TPMSは、各タイヤセンサ2および車載機3を用いてタイヤ空気圧を監視し、監視結果をメータ5等の報知部を介してユーザに報知する。また、TPMSは、移動体通信機6を利用して得られる情報を利用して、現在以降のタイヤ空気圧の予測変化モデルΔP(t)を作成し、当該予測変化モデルΔP(t)に基づいてタイヤ空気圧が予め定めた異常圧力値P
th以下となるのに要する日数を推定する。
【0012】
タイヤセンサ2は、各車輪10a~10dに取り付けられるもので、車輪10a~10dに取り付けられたタイヤの空気圧等を検出するとともに、その検出結果を示すタイヤ空気圧に関する情報をフレーム内に格納して送信する。車載機3は、車両10における車体11側に取り付けられるもので、タイヤセンサ2から送信されたフレームを受信するとともに、その中に格納された情報に基づいて各種処理や演算等を行うことでタイヤ空気圧検出を行う。
【0013】
図2に示すように、タイヤセンサ2は、空気圧検出部21、加速度センサ22、第1マイクロコンピュータ23、およびタイヤ無線機24を備えており、図示しない電池からの電力供給に基づいて各部が駆動される。
【0014】
空気圧検出部21は、圧力センサ21aや温度センサ21bを備え、タイヤ空気圧に応じた検出信号や温度に応じた検出信号を出力する。加速度センサ22は、タイヤセンサ2の回転角度の検出、車両10の走行速度(すなわち、車速)の検出を行うために用いられる。加速度センサ22は、例えば、各車輪10a~10dの径方向の加速度および周方向の加速度を検出可能な2軸加速度センサで構成される。
【0015】
第1マイクロコンピュータ23は、タイヤセンサ2の制御部を構成し、CPU、ROMやRAM等のメモリ、I/O等を備えたものである。第1マイクロコンピュータ23は、内蔵メモリに記憶されたプログラムに従って、所定の処理を実行する。メモリには、各タイヤセンサ2を特定するための固有のタイヤIDと自車両を特定するための車両固有の車両IDとを含む個別のID情報が格納されている。
【0016】
第1マイクロコンピュータ23は、例えば、圧力センサ21aや温度センサ21bの検出信号を受け取り、それを信号処理するとともに必要に応じて加工し、それらタイヤ空気圧に関する情報を各タイヤセンサ2のID情報とともにフレーム内に格納する。
【0017】
また、第1マイクロコンピュータ23は、加速度センサ22の検出信号をモニタし、各タイヤセンサ2の角度や車両10の走行中であるか否かを判定する車両走行判定を行っている。そして、第1マイクロコンピュータ23は、フレームを作成すると、車両走行判定の結果に基づいて、タイヤ無線機24から車載機3に向けてフレーム送信を行う。以下、タイヤ空気圧に関する情報を単にタイヤ情報とも呼ぶ。具体的には、第1マイクロコンピュータ23は、車両10が走行中に、所定のタイミングで繰り返しフレーム送信を行っている。
【0018】
タイヤ無線機24は、第1送受信回路241および第1通信アンテナ242を備える。第1送受信回路241は、第1通信アンテナ242を通じて、車載機3と双方向に通信を行う通信回路である。第1送受信回路241は、BLE等の通信方式に基づいて無線通信を行う。BLEは、Bluetooth(登録商標) Low Energy の略称である。なお、第1送受信回路241は、BLE以外の通信方式に基づいて無線通信を行うようになっていてもよい。
【0019】
第1通信アンテナ242は、車載機3との間で双方向に通信を行うためのアンテナである。タイヤセンサ2は、タイヤ無線機24を備えることで、タイヤセンサ2から車載機3への単方向の通信に限らず、車載機3との間で双方向に通信が可能になっている。
【0020】
このように構成されるタイヤセンサ2は、タイヤ空気圧やタイヤ内温度を検出し、車両10が走行中の場合に、タイヤセンサ2の角度が所定角度になるタイミングでフレーム送信を行う。
【0021】
一方、車載機3は、車体11に備えられている。
図3に示すように、車載機3は、車載無線機31および第2マイクロコンピュータ33等を備えている。車載機3は、CAN(Controller Area Network)等の車内LAN(Local Area Network)を通じて、メータ5、移動体通信機6等に接続されている。
【0022】
車載無線機31は、第2通信アンテナ311および第2送受信回路312を備える。第2通信アンテナ311は、各タイヤセンサ2との間で双方向に通信を行うためのアンテナである。第2通信アンテナ311は、各タイヤセンサ2から送られてくるフレーム等の受信に加えて、各タイヤセンサ2への信号の送信にも用いられる。第2通信アンテナ311は、車載機3の本体内に配置された内部アンテナでも良いし、本体から配線を引き伸ばした外部アンテナとされていてもよい。
【0023】
第2送受信回路312は、第2通信アンテナ311を通じて各タイヤセンサ2と双方向に通信を行う通信回路である。第2送受信回路312は、BLE等の通信方式に基づいて無線通信を行う。第2送受信回路312は、第2通信アンテナ311によって受信された各タイヤセンサ2からの送信フレームを入力し、そのフレームを第2マイクロコンピュータ33に送る入力部としての機能を果たす。第2送受信回路312は、第2通信アンテナ311を通じてフレームを受信すると、その受信した信号を第2マイクロコンピュータ33に伝えている。
【0024】
第2マイクロコンピュータ33は、車載機3における制御部を構成し、CPU、ROMやRAM等のメモリ、I/O等を備えたものである。第2マイクロコンピュータ33は、内蔵メモリに記憶されたプログラムに従って、タイヤ空気圧の検出処理およびタイヤ空気圧の予測処理を実行する。タイヤ空気圧の検出処理およびタイヤ空気圧の予測処理の詳細は後述する。
【0025】
メータ5は、車室内に備えられた表示部として各種情報を表示する役割を果たすものである。メータ5は、電源オン時、具体的にはアクセサリー(以下、ACCという)スイッチもしくはイグニッションスイッチIG等の発進スイッチがオンされているときを電源オンとして、電源オンの際に各種情報を表示する。メータ5による表示は、基本的には電源オンのとき行われる。
【0026】
メータ5は、ドライバが視認可能な場所に配置され、例えば車両10におけるインストルメントパネル内に設置されるマルチインフォメーションディスプレイやナビゲーション装置のディスプレイ等によって構成される。メータ5は、例えば、車載機3からタイヤ空気圧が低下した旨を示す信号が送られてくると、該当車輪10a~10dを特定しつつタイヤ空気圧の低下を示す表示を行うことでドライバに該当車輪10a~10dのタイヤ空気圧の低下を報知する。本実施形態では、メータ5が“報知部”を構成している。
【0027】
移動体通信機6は、車両10の外部の通信先と通信するための無線通信部である。移動体通信機6は、イグニッションスイッチIGがオンになると、アクティブ状態となり、通信網62に接続された無線基地局61と無線接続することで、当該通信網62に接続されたサービスセンタ63やクラウドサーバ64と通信する。
【0028】
サービスセンタ63は、天気予報等に含まれる現在以降の外気温の予測値等を車載機3に提供したり、通信網62を介して図示しないユーザ端末(車両10のユーザが携帯する端末)と通信したりする。
【0029】
クラウドサーバ64は、クラウド環境に作られたサーバであり、過去の外気温変動等に関する各種情報が保存されている。車載機3では、当該通信網62を介してクラウドサーバ64に保存された各種情報を取得可能になっている。
【0030】
このように構成されるTPMSでは、タイヤ空気圧の検出処理およびタイヤ空気圧の予測処理によって、各車輪10a~10dのタイヤ空気圧を監視する。タイヤ空気圧の検出処理およびタイヤ空気圧の予測処理は、TPMSの車載機3によって周期的または不定期に実行される。
【0031】
タイヤ空気圧の検出処理では、各タイヤセンサ2が取り付けられた車輪10a~10dのタイヤ空気圧の検出等を行う。具体的には、車載機3は、各タイヤセンサ2からの送信フレーム内に格納されたID情報およびタイヤ情報に基づいて所定温度でのタイヤ空気圧換算値を算出することで、各車輪10a~10dのタイヤ空気圧検出を行う。そして、タイヤ空気圧の検出結果に応じた電気信号をCAN等の車内LANを通じてメータ5に出力する。例えば、車載機3は、各車輪10a~10dのタイヤ空気圧を示す信号をメータ5に出力する。そして、車載機3は、タイヤ空気圧の検出結果を所定の異常圧力値Pthと比較することでタイヤ空気圧の低下を検知し、タイヤ空気圧の低下を検知するとその旨の信号をメータ5に出力する。これにより、4つの車輪10a~10dのタイヤ空気圧もしくはいずれかのタイヤ空気圧が低下したことがメータ5に伝えられ、メータ5を通じてそれが表示されるようにしている。このようにして、タイヤ空気圧の検出処理では、
図4に示すように、タイヤ空気圧が異常圧力値Pthまで低下した際に警報を行う。
【0032】
しかしながら、タイヤ空気圧が異常圧力値Pthまで低下してから警報を行う場合、警報がない限り、運転者がそのまま運転し続ける可能性が高い。このことは、燃費の低下及びタイヤ状態の劣化に繋がる。
【0033】
また、車両10を走行させるとタイヤの温度が上昇するので、ドライバの乗車直前よりも降車直後の方がタイヤの温度が高くなる傾向がある。タイヤ空気圧は、タイヤの温度が高いと大きくなり、タイヤの温度が低いと小さくなる。このため、タイヤ空気圧は、ドライバの降車直前よりも乗車直後の方が小さくなる傾向がある。そして、ドライバが降車してから翌日に乗車するまでの期間にタイヤ空気圧が異常圧力値Pthまで低下して、警報がなされてしまうことが多いので、異常になる前に報知することが望ましい。
【0034】
このことを鑑み、本開示のTPMSは、車載機3でタイヤ空気圧の予測処理を実行する。タイヤ空気圧の予測処理は、現在以降のタイヤ空気圧の予測変化モデルを作成し、当該予測変化モデルに基づいて、タイヤ空気圧が異常圧力値以下となる日数を推定し、当該日数が経過する前にタイヤ空気圧の調整を促すための情報を報知する処理である。
【0035】
[タイヤ空気圧に影響する要素]
図5に示すように、タイヤ空気圧に影響する要素は、外部要因とタイヤ自体の要因とがある。外部要因は、例えば、季節により変動する外気温、車両10の走行時のタイヤの温度変動、荷重等が挙げられる。また、タイヤ自体の要因は、スローリーク等のエアリークに起因するもので、例えば、自然漏れ、タイヤ側面のひび割れ、微細穴によるパンク、タイヤのビード部の隙間、ホイールの組付け不良、ホイール変形、エアバルブの不良等が挙げられる。
【0036】
このように、外部要因とタイヤ自体の要因は、基本的に異なるので相関性が低い。このため、現在以降のタイヤ空気圧の変化を精度よく予測する上では、外部要因である外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量と、タイヤ自体の要因であるエアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量とを分けて推定することが望ましい。
【0037】
[外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量]
上述の如く、タイヤ空気圧は、外気温の影響を受ける。外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量は、地域および季節の違いによって異なる。例えば、
図6に示すように、外気温の高い地域の方が外気温の低い地域に比べてタイヤ空気圧の減少量が多い傾向がある。加えて、外気温の低い季節に比べて外気温の高い季節の方がタイヤ空気圧の減少量が多い傾向がある。また、外気温は、例えば、
図7に示すように、一日の中でも大きく変化するとともに、季節によっても大きく変化する。
【0038】
このため、外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量については、予め車載機3に記憶した情報だけで推定することが困難である。車両10がある地域の天気予報や過去の外気温の変化に基づいて、現在以降の外気温を予測し、予測した外気温に基づいて外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量を推定することが望ましい。
【0039】
そこで、車載機3は、例えば、
図8の数式M1で示す温度変化モデルΔP
Tf(t)を用いて外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量を推定する。
図8の数式M1における“s”は、温度による空気圧変動率[kPa/℃]であり、例えば、1.5程度の値に設定される。“T(t)”は、現在からt日目における外気温の予測値である。“T
0”は、例えば、タイヤ空気圧の調圧日における外気温である。
【0040】
[エアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量]
一方、
図9に示すように、タイヤ空気圧は、エアリークによって経時的に減少する。一日当たりのタイヤ空気圧の減少量が一定である場合、エアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量は、以下の数式M2で示す線形予測モデルΔP
N(t)によって簡易に推定することができる。
【0041】
ΔPN(t)=k0t+q ・・・(M2)
上記の数式M2における“t”は、現在から予測日までの日数である。“k”は一日あたりのタイヤ空気圧の減少量(リーク量)に対応するリーク係数である。また、“q”は、調圧日のタイヤ空気圧に対応する切片係数である。この線形予測モデルΔPN(t)は、例えば、回帰分析によって求めることが可能である。
【0042】
ところが、一日あたりのリーク量は、一定ではなく、外気温の変化によって変化する。
図10は、一年間でのタイヤ空気圧の変化、一月毎のリーク量に対応するリーク係数k、一月毎の外気温の平均値T
meanの関係を示している。
図10に示すように、一月毎に求めたリーク係数kは、外気温の平均値T
meanと同様に変化する。
【0043】
このことを踏まえると、リーク係数kは、外気温に応じて、一月毎に設定することが望ましい。現在からiヶ月目のリーク係数kiは、
図11に示すように、現在のリーク係数k
0、直近の一ヶ月の外気温の平均値T
mean_0、iヶ月目の外気温の平均値T
mean_i、所定の係数rに基づいて求めることができる。なお、iヶ月目の外気温の平均値T
mean_iは、天気予報に含まれる現在以降の外気温の予測値に基づいて推定可能である。
【0044】
そして、現在からt日目(dヶ月、t
m日後)におけるエアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量は、
図12の数式M3で示すリーク変化モデルΔP
Nf(t)に基づいて精度良く推定することができる。なお、“t
n”は、現在の日数を示している。
【0045】
ここで、リーク変化モデルΔPNf(t)の一項目のΔPNは、前回調圧してから現在までの自然リークによるタイヤ空気圧の変化量である。ΔPNは、前回調圧してから現在までのタイヤ空気圧の変化量から外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量を除去することで得られる。また、リーク変化モデルΔPNf(t)の二項目は、現在からdヶ月(“d”に“30”を乗じた日数)経過した時点でのエアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量である。さらに、リーク変化モデルΔPNf(t)の三項目は、端数となる日数tmを経過した時点でのエアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量である。なお、リーク変化モデルΔPNf(t)では、iヶ月目のリーク係数kiに“30”を乗じた値(=30ki)をiヶ月目のタイヤ空気圧の変化量として算出している。
【0046】
[タイヤ空気圧の予測変化モデル]
TPMSでは、温度変化モデルΔP
Tf(t)およびリーク変化モデルΔP
Nf(t)を用いて、現在以降のタイヤ空気圧の変化量を予測する予測変化モデルΔP(t)を作成する。予測変化モデルΔP(t)は、
図13の数式M4に示すように、温度変化モデルΔP
Tf(t)とリーク変化モデルΔP
Nf(t)とを足し合わせたものである。
【0047】
[タイヤ空気圧の予測処理]
次に、車載機3が実行するタイヤ空気圧の予測処理の流れについて
図14のフローチャートを参照しつつ説明する。
図14に示すタイヤ空気圧の予測処理は、例えば、タイヤ空気圧が調圧されると開始される。
【0048】
図14に示すように、車載機3は、ステップS100にて、タイヤ空気圧の調圧日におけるタイヤ空気圧および外気温をタイヤセンサ2や他のECU経由で取得し、取得したタイヤ空気圧および外気温を初期値P
0、T
0としてメモリに記憶する。また、車載機3は、他のECU経由で、タイヤ空気圧を調圧した際の時間t
0を取得する。
【0049】
続いて、車載機3は、ステップS110にて、タイヤ空気圧の調圧時からの経過時間または前回タイヤ空気圧を予測してからの経過時間が24時間以上であるか判定する。この結果、経過時間が24時間以上であると、車載機3は、ステップS120に移行して、新規にタイヤ空気圧Ptおよび外気温Ttをタイヤセンサ2や他のECU経由で取得する。
【0050】
続いて、車載機3は、ステップS130にて、タイヤ空気圧の調圧時からのタイヤ空気圧の変化量と外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量ΔPTを算出する。そして、車載機3は、ステップS140にて、エアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量であるリーク量ΔPN(=ΔP-ΔPT)を算出する。
【0051】
続いて、車載機3は、ステップS150にて、直近一ヶ月のリーク量ΔPNに基づいて、エアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量の線形予測モデルΔPN(t)を作成する。線形予測モデルΔPN(t)は、例えば、時間tを説明変数とし、タイヤ空気圧の変化量を目的変数とする回帰分析により作成可能である。
【0052】
続いて、車載機3は、ステップS160にて、車両10が使用される地域の直近一ヶ月の外気温の平均値Tmean_0を算出するとともに、現在以降のiヶ月目の外気温の平均値Tmean_iを推定する。平均値Tmean_0は、例えば、車載機3のメモリに保存された外気温Ttのデータに基づいて算出される。また、平均値Tmean_iは、サービスセンタ63から取得した天気予報等に含まれる現在以降の外気温の予測値に基づいて推定される。なお、外気温の平均値Tmean_0、Tmean_iは、例えば、クラウドサーバ64に保存された外気温データに基づいて算出されるようになっていてもよい。
【0053】
続いて、車載機3は、ステップS170にて、現在以降のiヶ月目のリーク係数kiを算出する。iヶ月目のリーク係数kiは、
図11に示すように、現在のリーク係数k
0、直近の一ヶ月の外気温の平均値T
mean_0、iヶ月目の外気温の平均値T
mean_i、所定の係数rに基づいて求められる。
【0054】
続いて、車載機3は、ステップS180にて、現在からt日目(dヶ月、t
m日後)におけるエアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量を予測するリーク変化モデルΔP
Nf(t)を作成する。このリーク変化モデルΔP
Nf(t)は、
図12に示す数式M3と同じである。
【0055】
続いて、車載機3は、ステップS190にて、予測変化モデルΔP(t)を用いてタイヤ空気圧が異常圧力値Pth以下となるのに要する日数である警報推定日t3を算出する。当該警報推定日t3は、以下の不等式M5および数式M6を解くことで算出可能である。
【0056】
P0-ΔP(t3)≦Pth ・・・(M5)
ΔP(t3)=ΔPTf(t3)+ΔPNf(t3) ・・・(M6)
なお、数式M6における温度変化モデルΔPTf(t3)は、一日における最も低い外気温(最低気温)の予測値TMIN(t3)を用いた以下の数式M7に示すモデルである。
【0057】
ΔPTf(t3)=s(TMIN(t3)-T0) ・・・(M7)
続いて、車載機3は、ステップS200にて、警報推定日t3が30日未満であるか否かを判定する。この結果、警報推定日t3が30日未満でない場合、車載機3は、ステップS110に戻る。一方、警報推定日t3が30日未満である場合、車載機3は、ステップS210にて、タイヤ空気圧の調整を促す情報をメータ5側に送信して当該情報をユーザに報知した後、ステップS110に戻る。
【0058】
ここで、車載機3のうち、現在以降のタイヤ空気圧の変化量を予測する予測変化モデルΔP(t)を作成し、予測変化モデルΔP(t)に基づいて、タイヤ空気圧が異常圧力値Pth以下となるのに要する日数を推定する構成が日数推定部331を構成する。また、車載機3のうち、現在以降の外気温を予測する構成が外気温予測部332を構成する。
【0059】
以上説明したTPMSの車載機3は、現在以降のタイヤ空気圧の変化量を予測する予測変化モデルΔP(t)を作成し、当該予測変化モデルΔP(t)に基づいて、タイヤ空気圧が異常圧力値Pth以下となるのに要する日数を推定する。そして、当該日数が経過する前にタイヤ空気圧の調整を促すための情報をメータ5から報知する。これによると、タイヤ空気圧が異常圧力値Pth以下となる前段階で、タイヤ空気圧の調整を促すための情報がユーザ等に報知される。このため、ユーザ等がタイヤ空気圧の調整の適切な実施タイミングを把握することが可能となる。このこと、燃費の向上及びタイヤ状態の劣化抑制に有効である。
【0060】
(1)予測変化モデルΔP(t)は、外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量を推定する温度変化モデルΔPTf(t)と、エアリークに起因する前記タイヤ空気圧の変化量を推定するリーク変化モデルΔPNf(t)と、を含んでいる。そして、車載機3は、温度変化モデルΔPTf(t)で推定されるタイヤ空気圧の変化量とリーク変化モデルΔPNf(t)で推定されるタイヤ空気圧の変化量とを合算したものに基づいて日数を推定する。タイヤ空気圧は、外気温の影響およびエアリークによって変化する。このため、外気温およびエアリークを考慮して現在以降のタイヤ空気圧を予測する予測変化モデルΔP(t)を用いることで、タイヤ空気圧が異常圧力値Pth以下となるタイミングを精度よく推定することができる。
【0061】
(2)リーク変化モデルΔPNf(t)は、所定期間におけるエアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量を所定期間毎に外気温の予測値に応じて補正し、この補正によって得られた値の積算値を用いてエアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量として推定する。エアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量は、外気温の影響を受ける。このため、外気温を考慮してリークに起因するタイヤ空気圧の変化量を推定することで、現在以降のタイヤ空気圧の変化量の推定精度を向上させることができる。
【0062】
(3)温度変化モデルΔP
Tf(t)は、外気温の予測値において、一日における最も低い外気温を用いて外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量を推定する。車両10の安全性を考慮すると、タイヤ空気圧が異常圧力値P
th以下となる最短の日数を推定することが望ましい。タイヤ空気圧は、外気温が低くなると小さくなり、外気温が高くなると大きくなる。そして、外気温に起因するタイヤ空気圧の変化量は、外気温が低くなるほど大きくなる。このため、例えば、外気温が高い状態で外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量を推定する場合、タイヤ空気圧の変化量が小さくなり易く、タイヤ空気圧が予め定めた異常圧力値P
th以下となるのに要する日数が長くなり易い。また、外気温が低い状態で外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量を推定する場合、タイヤ空気圧の変化量が大きくなり易く、タイヤ空気圧が予め定めた異常圧力値P
th以下となるのに要する日数が短くなり易い。したがって、車両10の安全性を高める上では、
図15において黒菱形のポイントで示すように、一日における最も低い外気温を用いて現在以降のタイヤ空気圧の変化量を推定することが望ましい。これによれば、早期にタイヤ空気圧の警報が行われ、車両10の安全性が向上する。
【0063】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0064】
上述の実施形態の如く、リーク変化モデルΔPNf(t)は、タイヤ空気圧の変化量を外気温の予測値に応じて補正した値の積算値に基づいて、エアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量として推定するようになっていることが望ましいが、これに限定されない。リーク変化モデルΔPNf(t)は、例えば、線形予測モデルΔPN(t)に基づいて、エアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量として推定するようになっていてもよい。また、リーク変化モデルΔPNf(t)は、例えば、非線形予測モデルに基づいて、エアリークに起因するタイヤ空気圧の変化量として推定するようになっていてもよい。
【0065】
上述の実施形態の如く、温度変化モデルΔPTf(t)は、外気温の予測値において、一日における最も低い外気温を用いて外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量を推定するようになっていることが望ましいが、これに限定されない。温度変化モデルΔPTf(t)は、外気温の予測値における平均的な外気温や最も高い外気温を用いて外気温の変化に起因するタイヤ空気圧の変化量を推定するようになっていてもよい。
【0066】
上述の実施形態の如く、予測変化モデルΔP(t)は、温度変化モデルΔPTf(t)とリーク変化モデルΔPNf(t)とを含んでいることが望ましいが、これに限定されない。
予測変化モデルΔP(t)は、温度変化モデルΔPTf(t)およびリーク変化モデルΔPNf(t)の一方のモデルに基づいて、タイヤ空気圧の変化量を推定するようになっていてもよい。
【0067】
上述の実施形態のタイヤセンサ2および車載機3は、BLEの通信方式に基づいて双方向に通信可能に構成されているが、BLE以外の通信方式に基づいて双方向に通信可能に構成されていてもよい。
【0068】
上述の実施形態では、4つの車輪10a~10dを有する車両10に対して本開示のTPMSを適用したものを例示したが、さらに車輪数が多い車両10に対しても、同様に本開示のTPMSを適用することができる。
【0069】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0070】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0071】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【0072】
本開示の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータで、実現されてもよい。本開示の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせで構成された一つ以上の専用コンピュータで、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 車両
10a~10d 車輪
2 タイヤセンサ
21 空気圧検出部
331 日数推定部
4 メータ(報知部)