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特開2022-167667III族窒化物結晶の製造装置及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022167667
(43)【公開日】2022-11-04
(54)【発明の名称】III族窒化物結晶の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20221027BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20221027BHJP
   C23C 16/448 20060101ALI20221027BHJP
   C30B 25/14 20060101ALI20221027BHJP
   C30B 25/08 20060101ALI20221027BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C23C16/34
C23C16/448
C30B25/14
C30B25/08
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073613
(22)【出願日】2021-04-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、環境省、令和2年度未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業(高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証)委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】森 勇介
(72)【発明者】
【氏名】吉村 政志
(72)【発明者】
【氏名】今西 正幸
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 茂佳
(72)【発明者】
【氏名】北本 啓
(72)【発明者】
【氏名】滝野 淳一
(72)【発明者】
【氏名】布袋田 暢行
(72)【発明者】
【氏名】松野 俊一
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE15
4G077DB02
4G077EG21
4G077EG25
4G077EG30
4G077HA12
4G077TB01
4G077TH01
4G077TH06
4G077TH11
4K030AA01
4K030AA13
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA38
4K030BB02
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA01
4K030EA11
4K030FA10
4K030JA09
4K030JA10
4K030KA25
4K030KA46
4K030KA49
4K030LA14
5F045AA03
5F045AB09
5F045AB14
5F045AC12
5F045AC15
5F045AD16
5F045DP03
5F045EK06
(57)【要約】
【課題】寄生成長を抑制し、高品質のIII族窒化物結晶を製造しうるIII族窒化物結晶の製造装置を提供する。
【解決手段】III族窒化物結晶の製造装置は、III族元素酸化物ガスを生成する原料チャンバと、原料チャンバから供給されるIII族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを反応させて種基板の上にIII族窒化物結晶を生成する育成チャンバと、を備え、育成チャンバは、未反応のIII族酸化物ガス及び窒素元素含有ガスを排気する排気口と種基板との間に未反応の窒素元素含有ガスの分解を促進する分解促進部を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族元素酸化物ガスを生成する原料チャンバと、
前記原料チャンバから供給される前記III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを反応させて種基板の上にIII族窒化物結晶を生成する育成チャンバと、
を備え、
前記育成チャンバは、未反応の前記III族酸化物ガス及び前記窒素元素含有ガスを排気する排気口と前記種基板との間に未反応の前記窒素元素含有ガスの分解を促進する分解促進部を有する、
III族窒化物結晶の製造装置。
【請求項2】
前記分解促進部がMo、Ni、Fe、Co、Ti、Cr、Zr、Ta、W、及びPtからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む、
請求項1に記載のIII族窒化物結晶の製造装置。
【請求項3】
前記分解促進部の全表面積が前記育成チャンバの断面積に対して5倍以上である、
請求項1又は2に記載のIII族窒化物結晶の製造装置。
【請求項4】
III族元素源と反応性ガスとを反応させてIII族元素酸化物ガスを生成することと、
前記III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを反応させて種基板の上にIII族窒化物結晶を生成することと、
前記種基板と未反応のIII族酸化物ガス及び窒素元素含有ガスを排気する排気口との間において、未反応の前記窒素元素含有ガスの一部を分解することと、
を含む、
III族窒化物結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物結晶の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN等のIII族窒化物結晶は、高出力LED(発光ダイオード)及びLD(レーザーダイオード)等の次世代光デバイスや、EV(電気自動車)及びPHV(プラグインハイブリッド自動車)等に搭載される高出力パワートランジスタ等の次世代電子デバイスへの応用が期待されている。III族窒化物結晶の製造方法として、III族酸化物を原料とするOxide Vapor Phase Epitaxy(OVPE)法が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
OVPE法における反応系の例は、以下に示す通りである。Gaを加熱し、この状態で、HOガスを導入する。導入されたHOガスは、Gaと反応して、GaOガスを生成させる(下記式(I))。そして、NHガスを導入し、NHガスを生成されたGaOガスと反応させて、種基板上にGaN結晶を生成する(下記式(II))。
2Ga(l)+HO(g)→GaO(g)+H(g)・・・(I)
GaO(g)+2NH(g)→2GaN(s)+HO(g)+2H(g)・・・(II)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/053341号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、III族窒化物結晶を成長させる際に、III族窒化物結晶の下流部において未反応のIII族酸化物ガスと窒素元素含有ガスとが反応し、リアクタの壁部や排気配管にIII族窒化物結晶の寄生成長が生じるおそれがある。寄生成長したIII族窒化物結晶(以下、「寄生結晶」という。)は、リアクタ壁部の材質と異なる熱膨張係数を有する。リアクタ壁部と寄生結晶との熱膨張係数差によって、III族窒化物結晶の製造における昇降温過程でリアクタの割れや欠けといった破損・劣化が生じる場合がある。さらに、リアクタ壁部で発生した寄生結晶は、III族窒化物結晶の成長空間でのパーティクル源となる。そのため、種基板上に成長したIII族窒化物結晶の上に寄生結晶のパーティクルが飛散する可能性があり、成長結晶の多結晶化やピットの発生などの異常成長が生じやすくなる。また、排気配管部で寄生成長が生じた場合、排気配管の閉塞による長時間成長の阻害要因となるおそれがある。
【0006】
本開示は、上記の問題を解決するものであり、寄生成長を抑制し、高品質のIII族窒化物結晶を製造しうるIII族窒化物結晶の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、III族元素酸化物ガスを生成する原料チャンバと、原料チャンバから供給されるIII族酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを反応させて種基板の上にIII族窒化物結晶を生成する育成チャンバと、を備える。育成チャンバは、未反応のIII族酸化物ガス及び窒素元素含有ガスを排気する排気口と種基板との間に未反応の前記窒素元素含有ガスの分解を促進する分解促進部を有する。
【0008】
本開示のIII族窒化物結晶の製造方法は、III族元素源と反応性ガスとを反応させてIII族元素酸化物ガスを生成することと、III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを反応させて種基板の上にIII族窒化物結晶を生成することと、種基板と未反応のIII族酸化物ガス及び窒素元素含有ガスを排気する排気口との間において、未反応の窒素元素含有ガスの一部を分解することと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係るIII族窒化物結晶の製造装置及び製造方法によれば、寄生成長を抑制することができ、高品質なIII族窒化物結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施の形態に係るIII族窒化物結晶の製造装置の構成を示す概略断面図である。
図2】本開示の一実施の形態に係るIII族窒化物結晶の製造方法を示すフローチャートである。
図3】育成チャンバの断面積で規格化した分解促進部の規格化表面積とNHガスの分解率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の態様に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、III族元素酸化物ガスを生成する原料チャンバと、原料チャンバから供給されるIII族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを反応させて種基板の上にIII族窒化物結晶を生成する育成チャンバと、を備え、育成チャンバは、未反応の前記III族酸化物ガス及び窒素元素含有ガスを排気する排気口と種基板との間に未反応の窒素元素含有ガスの分解を促進する分解促進部を有する。
【0012】
第2の態様に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、上記第1の態様において、分解促進部がMo、Ni、Fe、Co、Ti、Cr、Zr、Ta、W、及びPtからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含んでもよい。
【0013】
第3の態様に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、上記第1又は第2の態様において、分解促進部の全表面積が育成チャンバの断面積に対して5倍以上であってもよい。
【0014】
第4の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、III族元素源と反応性ガスとを反応させてIII族元素酸化物ガスを生成することと、III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを反応させて種基板の上にIII族窒化物結晶を生成することと、種基板と排気口との間において、未反応の窒素元素含有ガスの一部を分解することと、を含む。
【0015】
以下、実施の形態に係るIII族窒化物結晶の製造装置及びIII族窒化物結晶の製造方法について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0016】
(実施の形態1)
【0017】
<III族窒化物結晶の製造装置の概要>
本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造装置の概要を、図1の概略断面図を参照して説明する。なお、図1は概略図であり、各構成部材の大きさ、比率等は実際とは異なる場合がある。
本実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、原料チャンバ100を有する。原料チャンバ100内に、原料反応室101が配置されており、原料反応室101内に出発III族元素源105を載置した原料ボート104が配置されている。本実施の形態1では、出発III族元素源105は出発Ga源である。原料反応室101には、出発III族元素源105と反応する反応性ガスを供給する反応性ガス供給管103が接続されている。原料反応室101は、III族元素酸化物ガス排出口107を有する。出発III族元素源105が酸化物の場合は、反応性ガスとして還元性ガスを用いる。また、出発III族元素源105が金属の場合は、反応性ガスとして酸化性ガスを用いる。また原料チャンバ100には、第1搬送ガス供給口102が設けられている。第1搬送ガス供給口102から供給された第1搬送ガスは、III族元素酸化物ガス排出口107から排出されるIII族元素酸化物ガスを、ガス排出口108から接続管109を通過し育成チャンバ111へと搬送する。育成チャンバ111は、III族元素酸化物ガス及び第1搬送ガスを供給するガス供給口118と、第3搬送ガス供給口112と、窒素元素含有ガス供給口113と、第2搬送ガス供給口114と、排気口119と分解促進部120と、を有する。育成チャンバ111内には、種基板116を設置する基板サセプタ117が配置されている。
【0018】
本開示のIII族窒化物結晶の製造装置では、育成チャンバ内の基板サセプタ117よりも下流側に分解促進部を設置している。これによって、結晶成長過程において未反応のIII族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとが基板サセプタ117の下流に流れた場合であっても、分解促進部により窒素元素含有ガスを分解することができる。分解促進部がない場合であっても、熱によって、窒素元素含有ガスはある程度分解される場合があるが、寄生成長を防ぐのに十分に分解することはできない。分解促進部を配置することで、窒素元素含有ガスの分解をより促進することができる。そのため、育成チャンバ内のリアクタ壁や排気配管でのIII族窒化物結晶の寄生成長を抑制できる。これにより、リアクタや排気配管の破損を防ぐことができ、信頼性が高くIII族窒化物結晶の製造を行うことができる。加えて、育成チャンバ内の破損を低減することができるため、メンテナンスコストを抑制することが可能であり、III族窒化物結晶の製造コストを低減することができる。また、寄生成長を防ぐことで、寄生成長したIII族窒化物結晶(寄生結晶)がパーティクル源となり種基板上に成長したIII族窒化物結晶上に飛散することを防止できる。このため、多結晶化やピットの発生などの異常成長を抑制し、III族窒化物結晶の品質を向上させることができる。
【0019】
<III族窒化物結晶の製造方法の概要>
本開示の一実施の形態に係るIII族窒化物結晶の製造方法の概要を、図2のフローチャートを参照して説明する。本実施の形態では、III族窒化物結晶の製造方法は、反応性ガス供給工程、III族元素酸化物ガス生成工程、III族元素酸化物ガス供給工程、窒素元素含有ガス供給工程、III族窒化物結晶生成工程、残留窒素元素含有ガス分解工程、及び残留ガス排出工程を有する。
【0020】
<反応ガス供給工程>
反応性ガス供給工程では、反応性ガスを、反応性ガス供給管103から原料チャンバ100内の原料反応室101へ供給する。上述の通り、反応性ガスは、必要に応じて還元性ガス又は酸化性ガスを用いることができる。
<III族元素酸化物ガス生成工程>
III族元素酸化物ガス生成工程では、原料反応室101内において、出発III族元素源105と反応性ガス(出発III族元素源が酸化物の場合は還元性ガス、出発III族元素源が金属の場合は酸化性ガス)とを反応させ、III族元素酸化物ガスを生成する。
【0021】
<III族元素酸化物ガス供給工程>
III族元素酸化物ガス供給工程では、III族元素酸化物ガス生成工程で製造されたIII族元素酸化物ガスを、育成チャンバ111へ供給する。III族元素酸化物ガスは、原料反応室101内からIII族元素酸化物ガス排出口107を通じて排出され、第1搬送ガス供給口102から供給される第1搬送ガスと共にガス排出口108から排出され、接続管109を通って搬送され、ガス供給口118から育成チャンバ111内へと供給される。
【0022】
<窒素元素含有ガス供給工程>
窒素元素含有ガス供給工程では、窒素元素含有ガスを窒素元素含有ガス供給口113から育成チャンバ111へ供給する。
【0023】
<III族窒化物結晶生成工程>
III族窒化物結晶生成工程では、III族元素酸化物ガス供給工程で育成チャンバ111内へ供給されたIII族元素酸化物ガスと、窒素元素含有ガス供給工程で育成チャンバ111内へ供給された窒素元素含有ガスとを反応させ、III族窒化物結晶を種基板116上に成長させる。
【0024】
<残留窒素元素含有ガス分解工程>
残留窒素元素含有ガス分解工程では、未反応の窒素元素含有ガスが分解促進部120により分解される。これにより、III族窒化物結晶の寄生成長が抑制される。
なお、フローチャートでは工程間を矢印で示しているが、実際には、フローチャートに示す各工程は同時に行われていてよい。フローチャートは、III族窒化物結晶の製造装置において上流で行われる工程から下流へ行われる工程へと矢印で示している。
【0025】
<残留ガス排出工程>
残留ガス排出工程では、III族窒化物結晶の生成に寄与しない未反応のIII族酸化物ガス及び窒素元素含有ガスを含む残留ガスを排気口119から育成チャンバ111外に排出する。
【0026】
<III族窒化物結晶の製造方法及び製造装置の詳細>
本実施の形態に係るIII族窒化物結晶の製造方法の詳細を説明する。なお、本実施の形態1では、出発III族元素源105として金属Gaを用いている。
<反応性ガス供給工程>
反応性ガス供給工程では、反応性ガス供給管103より反応性ガスを原料反応室101へ供給する。本実施の形態1では、出発III族元素源105として金属Gaを用いているため、反応性ガスとしてHOガスを用いる。尚、反応性ガスとしては、Oガス、COガス、NOガス、NOガス、NOガス、Nガスを用いてもよい。
【0027】
<III族元素酸化物ガス生成工程>
III族元素酸化物ガス生成工程では、反応性ガス供給工程で原料反応室101へ供給された反応性ガスが、出発III族元素源105であるGaと反応し、III族元素酸化物ガスであるGaOガスを生成する。生成されたGaOガスはIII族元素酸化物ガス排出口107を経由し、原料反応室101から原料チャンバ100に排出される。排出されたGaOガスは第1搬送ガス供給口102から原料チャンバ100へと供給される第1搬送ガスと混合され、ガス排出口108へと供給される。
本実施の形態1では、第1ヒータ106によって原料チャンバ100を加熱する。原料チャンバ100を加熱する場合、原料チャンバ100の温度を、GaOガスの沸点よりも高い800℃以上とすることが好ましい。また、原料チャンバ100の温度を、育成チャンバ111よりも低温とすることが好ましい。後述のように、第2ヒータ115によって育成チャンバ111を加熱する場合には、原料チャンバ100の温度を、例えば、1800℃未満とすることが好ましい。出発III族元素源105は、原料反応室101内に配置された原料ボート104内に載置されている。原料ボート104は、反応性ガスと出発III族元素源105との接触面積を大きくできる形状であることが好ましい。例えば、出発III族元素源105と反応性ガスとが非接触の状態で原料反応室101を通過することを防ぐために、原料ボート104は、多段の皿形状であることが好ましい。
【0028】
なお、III族元素酸化物ガスを生成する方法には、大別して、出発III族元素源105を還元する方法と、出発III族元素源105を酸化する方法とがある。
例えば、還元する方法においては、出発III族元素源105として酸化物(例えばGa)、反応性ガスとして還元性ガス(例えばHガス、COガス、CHガス、Cガス、HSガス、SOガス)を用いる。
一方、出発III族元素源105を酸化する方法においては、出発III族元素源105として非酸化物(例えば液体Ga)、反応性ガスとして酸化性ガス(例えばHOガス、Oガス、COガス、NOガス、NOガス、NOガス、Nガス)を用いる。
出発III族元素源105として、Ga源の他に、In源、Al源を用いてもよい。第1搬送ガスとしては、不活性ガス、Hガス等を用いることができる。
【0029】
<III族元素酸化物ガス供給工程>
III族元素酸化物ガス供給工程では、III族元素酸化物ガス生成工程で生成されたGaOガスを、ガス排出口108、接続管109、ガス供給口118を経由し育成チャンバ111へと供給する。原料チャンバ100と育成チャンバ111とを接続する接続管109の温度が、原料チャンバ100の温度より低下すると、III族元素酸化物ガスを生成する反応の逆反応が生じ、出発III族元素源105が接続管109内で析出するおそれがある。そのため、接続管109は第3ヒータ110によって、原料チャンバ100の温度より低下しないように加熱されることが好ましい。
【0030】
<窒素元素含有ガス供給工程>
窒素元素含有ガス供給工程では、窒素元素含有ガスを窒素元素含有ガス供給口113から育成チャンバ111に供給する。窒素元素含有ガスの例は、NHガス、NOガス、NOガス、NOガス、Nガス、Nガス、及びNガスを含む。
III族窒化物結晶生成工程では、各供給工程を経て、育成チャンバ111内へと供給された原料ガスを反応させIII族窒化物結晶を種基板116上に成長させる。育成チャンバ111は第2ヒータ115により、III族元素酸化物ガスと窒素元素含有ガスとが反応する温度まで高温化されることが好ましい。この際、III族元素酸化物ガスを生成する反応の逆反応が生じないようにするため、育成チャンバ111の温度が、原料チャンバ100の温度及び接続管109の温度より低下しないよう、育成チャンバ111の温度を制御することが好ましい。第2ヒータ115によって加熱される育成チャンバ111の温度は、1000℃以上1800℃以下であることが好ましい。
【0031】
<III族窒化物結晶生成工程>
III族元素酸化物供給工程を経て、育成チャンバ111へと供給されたIII族元素酸化物ガスと、窒素元素含有ガス供給工程を経て、育成チャンバ111へと供給される窒素元素含有ガスと、を種基板116より上流で混合することによって、種基板116上でIII族窒化物結晶の成長を行うことができる。
【0032】
<残留窒素元素含有ガス分解工程>
残留窒素元素含有ガス分解工程では、III族窒化物結晶生成工程にて消費されなかった窒素元素含有ガスを分解促進部120により不活性化させる。分解促進部120は、種基板116上でのIII族窒化物結晶の成長を阻害しないよう、種基板116よりも下流部、すなわち種基板116を保持する基板サセプタ117よりも下流部に配置される。換言すれば、分解促進部120は、基板サセプタ117と排気口119との間に配置される。分解促進部120で、窒素元素含有ガスを分解し不活性化させることで、種基板116よりも下流部においてIII族窒化物結晶の生成に用いられなかった窒素元素含有ガスとIII族元素酸化物ガスとが反応することを抑制し、リアクタ壁や排気配管でのIII族窒化物結晶の寄生成長を防ぐことが可能となる。リアクタ壁や排気配管でのIII族窒化物結晶の寄生成長を低減することで、信頼性の高い製造が可能になるとともにメンテナンスコストの抑制が可能となる。さらには寄生成長に起因するパーティクルの低減により結晶品質の向上が実現される。
例えば、III族窒化物結晶が窒化ガリウムであり、窒素元素含有ガスにNHガスを用いた場合、窒素元素含有ガスの分解反応は下記式(III)で表される。
2NH(g)→N(g)+3H(g)・・・(III)
【0033】
分解促進部120の材質は、窒素元素含有ガスの分解反応の触媒効果の観点から、活性金属を含むことが好ましい。また、育成チャンバ111内は、およそ1200℃程度の高温環境となることから、分解促進部120を構成する材料が上記温度で溶融しないことが必要となる。具体的には、分解促進部120は、Mo、Ni、Fe、Co、Ti、Cr、Zr、Ta、W、及びPtからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含むことが好ましい。特に、Mo、Ta、W、Zr、Cr及びPtは、融点が1700℃以上であるため、第2ヒータ115を用いて育成チャンバ111を加熱した場合でも、軟化による劣化やGaとの合金化が生じにくく、反応性ガスと反応する可能性がより低い。したがって、分解促進部120は、Mo、Ta、Zr、Cr及びPtのうちの少なくとも一方の元素を含むことがより好ましい。
【0034】
分解促進部120は、窒素元素含有ガスの分解を促進させる観点から、より表面積を大きくし、窒素元素含有ガスとの表面接触率を向上させることが好ましい。分解促進部120の表面積とは、例えば、分解促進部120として一枚の金属板を用いた場合、その表裏面の合計面積のことである。分解促進部120の全表面積は、分解率を向上させる観点から、育成チャンバ111のリアクタ断面積を1として規格化した場合の規格化表面積が、5以上とすることが好ましく、さらには規格化表面積を16.5以上とすることがより好ましく、規格化表面積を32以上とすることが特に好ましい。分解促進部120の表面積を大きくするためには、パンチングプレート形状の多層体や多孔質体を用いればよい。多層体は、例えば、複数枚の金属製の板をそれぞれスペーサで間隔を空けて配置したものである。また、スポンジ状の金属、例えば、スポンジ状の鉄等を用いてもよい。さらに、ハニカム構造の金属又はセラミックの内部表面に微粒子のPt等を担持した担持体であってもよい。これによって、窒素元素含有ガスが基板サセプタ117の下流部で分解され、III族窒化物結晶の寄生成長をより効率的に抑制することができる。
【0035】
分解促進部120の形状は、排気口119からのガスの排出を阻害しない形状であればよい。分解促進部120は、例えば板状であってよく、円環形状であってよい。
分解促進部120は、基板サセプタの下流部の温度が800℃以上の領域に設置することが窒素元素含有ガスの分解を促進する観点から好ましい。
【0036】
また、第2搬送ガス供給口114から育成チャンバ111へと第2搬送ガスを供給することで、III族元素酸化物ガス及び窒素元素含有ガスの濃度を制御してもよい。この場合、育成チャンバ111の炉壁や基板サセプタ117へのIII族窒化物結晶の寄生成長を抑制することができる。
【0037】
種基板116の例は、窒化ガリウム、ガリウム砒素、シリコン、サファイア、炭化珪素、酸化亜鉛、酸化ガリウム、及びScAlMgOを含む。
【0038】
第2搬送ガスとしては、不活性ガス、Hガス等を用いることができる。
【0039】
未反応のIII族元素酸化物ガス及び窒素元素含有ガス、並びに第1搬送ガス、第2搬送ガス、及び第3搬送ガス等の残留ガスは、排気口119から排出される。
【実施例0040】
(実施例と比較例の概要)
図1に示すIII族窒化物結晶の製造装置である成長炉を用いてIII族窒化物結晶の成長を行った。ここでは、III族窒化物結晶としてGaNを成長させた。出発Ga源として、液体Gaを用い、Gaを反応性ガスであるHOガスと反応させ、得られたGaOガスをIII族元素酸化物ガスとして用いた。窒素元素含有ガスとしては、NHガスを用い、第1搬送ガスおよび第2搬送ガスとして、HガスとNガスとの混合物を用いた。種基板としては、GaN自立基板を用いた。また成長時間は1時間で検証を行った。また、NHの分解率はガスクロマトグラフィーを用いて測定を行った。
【0041】
(実施例1)
成長条件として育成チャンバの温度を1200℃、原料チャンバの温度を1100℃とした。また、GaOガスの分圧を0.00108atm、HOガスの分圧を0.00045atm、NHガスの分圧を0.15748atm、Hガスの分圧を0.71850atm、Nガスの分圧を0.12249atmとし、1時間の結晶成長を行った。分解促進部として、リアクタ断面積に対して、25.527倍の表面積(規格化表面積25.527)を保有する円環形状の多孔質Niを基板サセプタの下流部、つまり、基板サセプタと排気口との間に設置した。
GaNを成長させた結果、種基板上に成長させたGaNの成長速度は94μm/hであり、NHの分解率は99.5%であった。基板サセプタの下流のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長は全く確認されなかった。尚、NHの分解率は、育成チャンバに流入させた全ガス中のNHガス濃度と排気口でのNHガス濃度とから算出した。
【0042】
(実施例2)
成長条件として育成チャンバの温度を1200℃、原料チャンバの温度を1100℃とした。また、GaOガのス分圧を0.00106atm、HOガスの分圧を0.00048atm、NHガスの分圧を0.15749atm、Hガスの分圧を0.71849atm、Nガスの分圧を0.12249atmとし、1時間の結晶成長を行った。分解促進部として、リアクタ断面積に対して、31.909倍の表面積(規格化表面積31.909)を保有する円環形状の多孔質Niを基板サセプタの下流部、つまり、基板サセプタと排気口との間に設置した。
GaN成長させた結果、成長速度は116μm/hであり、NHの分解率は100%であった。基板サセプタの下流のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長は全く確認されなかった。
【0043】
(実施例3)
成長条件として育成チャンバの温度を1200℃、原料チャンバの温度を1100℃とした。また、GaOガスの分圧を0.00109atm、HOガスの分圧を0.00044atm、NHガスの分圧を0.15748atm、Hガスの分圧を0.71850atm、Nガスの分圧を0.12249atmとし、1時間の結晶成長を行った。分解促進部として、リアクタ断面積に対して、63.818倍の表面積(規格化表面積63.818)を保有する円環形状の多孔質Niを基板サセプタの下流部、つまり、基板サセプタと排気口との間に設置した。
GaN成長させた結果、成長速度は111μm/hであり、NHの分解率は100%であった。基板サセプタの下流のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長は全く確認されなかった。
【0044】
(実施例4)
成長条件として育成チャンバの温度を1200℃、原料チャンバの温度を1100℃とした。また、GaOガスの分圧を0.00107atm、HOガスの分圧を0.00046atm、NHガスの分圧を0.15748atm、Hガスの分圧を0.71850atm、Nガスの分圧を0.12249atmとし、1時間の結晶成長を行った。分解促進部として、リアクタ断面積に対して、2.506倍の表面積(規格化表面積2.506)を保有する円環形状の多層体Moパンチングプレートを基板サセプタの下流部に設置した。
GaNを成長させた結果、成長速度は100μm/hであり、NHの分解率は78.7%であった。基板サセプタの下流のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長がほとんど確認されなかった。
【0045】
(実施例5)
成長条件として育成チャンバの温度を1200℃、原料チャンバの温度を1100℃とした。また、GaOガスの分圧を0.00107atm、HOガスの分圧を0.00046atm、NHガスの分圧を0.15748atm、Hガスの分圧を0.71850atm、Nガスの分圧を0.12249atmとし、1時間の結晶成長を行った。分解促進部として、リアクタ断面積に対して、5.011倍の表面積(規格化表面積5.011)を保有する円環形状の多層体Moパンチングプレートを基板サセプタの下流部に設置した。
GaNを成長させた結果、成長速度は118μm/hであり、NHの分解率は89.2%であった。基板サセプタの下流のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長は全く確認されなかった。
【0046】
(実施例6)
成長条件として育成チャンバの温度を1200℃、原料チャンバの温度を1100℃とした。また、GaOガスの分圧を0.00105atm、HOガスの分圧を0.00048atm、NHガスの分圧を0.15749atm、Hガスの分圧を0.71849atm、Nガスの分圧を0.12249atmとし、1時間の結晶成長を行った。分解促進部として、リアクタ断面積に対して、5.011倍の表面積(規格化表面積5.011)を保有する円環形状の多層体Moパンチングプレートを基板サセプタの下流部に設置した。
GaNを成長させた結果、成長速度は112μm/hであり、NHの分解率は91.7%であった。基板サセプタの下流のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長は全く確認されなかった。
【0047】
(比較例1)
成長条件として育成チャンバの温度を1200℃、原料チャンバの温度を1100℃とした。また、GaOガスの分圧を0.00105atm、HOガスの分圧を0.00048atm、NHガスの分圧を0.15749atm、Hガスの分圧を0.71849atm、Nガスの分圧を0.12249atmとし、1時間の結晶成長を行った。分解促進部は設置しなかった。
GaNを成長させた結果、成長速度は98μm/hであり、NHの分解率は10.4%であった。基板サセプタの下流のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長が確認された。
【0048】
(実施例と比較例のまとめ)
図3に分解促進部の規格化表面積とNHガスの分解率との関係を表すグラフを示す。本グラフは、各実施例及び比較例から得られたNHガスの分解率と分解促進部の表面積を規格化した値(規格化表面積)とをプロットし、各値を直線で結んだものである。×のプロットは、基板サセプタの下流部のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長が確認されたものであり、○のプロットはGaNの寄生成長がほとんど確認されなかったものであり、●のプロットはGaNの寄生成長が全く確認されなかったものである。このグラフから示されるように、分解促進部を設置しなかった比較例1では、熱分解によってわずかにNHガスが分解されているものの、分解率は低い。そのため、基板サセプタの下流のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長を抑制することができていない。
【0049】
一方、分解促進部を設置した実施例1~6では、分解促進部によってNHガスの分解率が高くなっている。そのため、NHガスの分解が十分に行われることで、基板サセプタの下流のリアクタ壁や排気配管へのGaNの寄生成長が抑制されている。さらに、グラフが示すように、分解促進部の表面積を大きくすることで、分解率をさらに高めることができる。特に、分解促進部の規格化表面積が5以上であれば、寄生成長発生をより抑制することができる。さらに、分解促進部の規格化表面積を16.5以上とすることで、NHガスの分解率を95%以上にでき、規格化表面積を32以上とすることでNHガスの分解率を100%とすることができる。
【0050】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るIII族窒化物結晶の製造装置及びIII族窒化物結晶の製造方法によれば、未反応の残留ガスの分解促進部を有するので、基板サセプタの下流側で未反応の窒素元素含有ガスを分解することができる。これによって、育成チャンバ内のリアクタ壁や排気配管でのIII族窒化物結晶の寄生成長を抑制できる。
【符号の説明】
【0052】
100 原料チャンバ
101 原料反応室
102 第1搬送ガス供給口
103 反応性ガス供給管
104 原料ボート
105 出発III族元素源
106 第1ヒータ
107 III族元素酸化物ガス排出口
108 ガス排出口
109 接続管
110 第3ヒータ
111 育成チャンバ
112 第3搬送ガス供給口
113 窒素元素含有ガス供給口
114 第2搬送ガス供給口
115 第2ヒータ
116 種基板
117 基板サセプタ
118 ガス供給口
119 排気口
120 分解促進部
図1
図2
図3