(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022170777
(43)【公開日】2022-11-11
(54)【発明の名称】水分保持体
(51)【国際特許分類】
A61F 5/44 20060101AFI20221104BHJP
A01K 1/015 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
A61F5/44 H
A01K1/015 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021076963
(22)【出願日】2021-04-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】515009295
【氏名又は名称】株式会社プリムラモデスタ
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】太田 由美子
【テーマコード(参考)】
2B101
4C098
【Fターム(参考)】
2B101AA13
2B101AA20
2B101GB01
4C098AA09
4C098CC03
4C098CD01
4C098DD02
(57)【要約】
【課題】保持された水分による溶解や分解を防止しつつ、水洗トイレ等への投棄時には、大量の水分に接触することにより、速やかに溶解又は分解する水分保持体を提供する。
【解決手段】吸水面11を有し、吸水面11側から、水解性及び透水性を有する透水層12と、水解性、吸水性及び保水性を有する水分保持層13と、水溶性フィルム14と、水溶性フィルム14の水分保持層13に面した面側に分散した直径5μmから150μmのドット状の撥水性樹脂のドットからなる撥水層15と、水解性を有する支持体層16が順次積層された構造を有する水分保持体10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水面を有し、
前記吸水面側から、
水解性及び透水性を有する透水層と、
水解性、吸水性及び保水性を有する水分保持層と、
水溶性フィルムと、該水溶性フィルムの前記水分保持層に面した面側に分散した直径5μmから150μmのドット状の撥水性樹脂のドットからなる撥水層と、
水解性を有する支持体層が順次積層された構造を有する水分保持体。
【請求項2】
前記吸水面以外の部分が透水性を有しない部材で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の水分保持体。
【請求項3】
前記支持体層の水解速度が、前記透水層の水解速度よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の水分保持体。
【請求項4】
前記支持体層及び前記透水層が、抄造体により構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の水分保持体。
【請求項5】
前記支持体層及び前記透水層を構成する抄造体が、天然又は再生セルロース繊維を含む抄造体であることを特徴とする請求項4に記載の水分保持体。
【請求項6】
前記水分保持層が、多孔質の吸水性素材を前記吸水性素材として含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の水分保持体。
【請求項7】
前記水分保持層が、乾燥ヒドロゲル及びゲル化剤の一方又は双方を更に含むことを特徴とする請求項6に記載の水分保持体。
【請求項8】
前記水分保持層が、吸水性を有するパルプ、抄造体又は綿状素材を更に含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の水分保持体。
【請求項9】
前記水分保持層と前記撥水層の間に、吸水性を有するパルプ、抄造体又は綿状素材を含む予備吸水層を更に有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の水分保持体。
【請求項10】
前記水分保持層が、生分解性の素材を含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の水分保持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護、看護、保育及びペット用品等の分野で用いることができる水分保持体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
介護、看護、保育等の現場において生じる汚物類の処理には、従来、焼却目的とした高分子ポリマーを主原料とした紙おむつが一般的に使用されている。しかし、焼却に伴う二酸化炭素の発生により、地球温暖化を加速している事が社会問題となっている。また、使用後、汚物に含まれる病原体や悪臭の周辺の大気中への拡散と、介護者等が汚物に接触する怖れのある不衛生な環境を解決できなかった。
【0003】
かかる課題に鑑みて、汚物類の衛生的な処理を目的とする発明として、以下のようなものが公知となっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、回収した汚物が比較的水分を多く含む場合であっても、比較的長時間問題なくこのような汚物を収容保持することができ、しかも水洗排水処理が可能な汚物処理袋として、水分散性の紙を外側に、水溶性のフィルムを内側に配置して袋状とした汚物処理袋であって、上記水分散性の紙および水溶性のフィルムは、いずれも袋の底部において折り返し状に連続しているとともに、両者は袋の底部において実質的に分離しており、かつ、両者は袋の底部以外の部位において一体化されているものが開示されている。
【0005】
特許文献2には、水溶性の紙質である抗菌シート用紙及び透明の水溶性フィルムシートを使用し、その各々のシートを重ね合わせて袋状に加工したものを汚物回収袋として利用することにより、手を汚すことなく汚物の回収ができ、その水溶性素材の特性を生かし、下水処理のできるペット犬等専用の使い捨て汚物処理用品が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ポリビニルアルコールを発泡させた材料からなる水溶性袋体からなることを特徴とする汚物類回収袋が開示されている。
【0007】
特許文献4には、吸水性を有する内生地と、防水性を有する外生地をダムを両側に介在させて縫合し、内生地の中央部に吸水性を有する他の内生地を用い、開口部以外を縫合してポケットを設けた尿取りパッドに、水溶性袋に吸水性と水溶性を兼備するシートを封入した尿取り吸収材を該ポケットに挿入してなる尿取り介護用品が開示されている。
【0008】
特許文献5には、着用者の股間部に装着され、当該着用者の排尿を吸収可能に構成されたシート状の吸水シート部と、前記吸水シート部の裏面側に、前記着用者の排便を回収可能に設けられ、前記排便を収容した状態で投棄が可能な素材からなる排便回収袋と、前記吸水シート部の裏面側に設けられると共に、前記排便回収袋を収容する排便回収袋収容部とを備え、前記排便回収袋は、袋本体と、前記袋本体の首部に沿って設けられたつばと、回収物の漏出を防止する逆止弁とを有し、前記吸水シート部の、着用時に前記着用者の背中側に位置する背中側には、前記排便回収袋の首部と連通する排便回収袋取付孔が形成されており、前記吸水シート部の背中側末端から前記排便回収袋取付孔にかけて溝が形成されていることを特徴とする排泄物分離回収器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-34001号公報
【特許文献2】登録実用新案第3051660号公報
【特許文献3】登録実用新案第3142751号公報
【特許文献4】特開2002-306522号公報
【特許文献5】特許第5841209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1記載の汚物処理袋、特許文献2記載の使い捨て汚物処理用品及び特許文献3記載の汚物類回収袋は、水溶性又は水分解性の素材からなるため、内容物に含まれる水分によっても溶解又は分解が進むため、使用直後に投棄できない場合、内容物が漏出するおそれがある。また、特許文献4記載の尿取り用介護用品は、尿のみ回収しか出来ないため、排便時同時期の排尿回収が困難である。特許文献5記載の排泄物分離回収器は、吸水シートと排便回収袋が別になっており、使用後の処理時に、介護者等が尿を吸収した吸水シートに触れるおそれがある。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、保持された水分による溶解や分解を防止しつつ、水洗トイレ等への投棄時には、大量の水分に接触することにより、速やかに溶解又は分解する水分保持体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題に沿う本発明は、吸水面を有し、前記吸水面側から、水解性及び透水性を有する透水層と、水解性、吸水性及び保水性を有する水分保持層と、水溶性フィルムと、該水溶性フィルムの前記水分保持層に面した面側に分散した直径5μmから150μmのドット状の撥水性樹脂のドットからなる撥水層と、水解性を有する支持体層が順次積層された構造を有する水分保持体を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0013】
本発明に係る水分保持体において、前記吸水面以外の部分が透水性を有しない部材で被覆されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る水分保持体において、前記支持体層の水解速度が、前記透水層の水解速度よりも大きいことが好ましい。
【0015】
本発明に係る水分保持体において、前記支持体層及び前記透水層が、抄造体により構成されていてもよい。
【0016】
本発明に係る水分保持体において、前記支持体層及び前記透水層を構成する抄造体が、天然又は再生セルロース繊維を含む抄造体であってもよい。
【0017】
本発明に係る水分保持体において、前記水分保持層が、多孔質の吸水性素材を前記吸水性素材として含むことが好ましい。
【0018】
本発明に係る水分保持体において、前記水分保持層が、乾燥ヒドロゲル及びゲル化剤の一方又は双方を更に含むことが好ましい。
【0019】
本発明に係る水分保持体において、前記水分保持層が、吸水性を有するパルプ、抄造体又は綿状素材を更に含んでいてもよい。
【0020】
或いは、本発明に係る水分保持体において、前記水分保持層と前記撥水層の間に、吸水性を有するパルプ、抄造体又は綿状素材を含む予備吸水層を更に有していてもよい。
【0021】
本発明に係る水分保持体において、前記水分保持層が、生分解性の素材を含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の水分保持体において、吸水面に設けられた透水層を通して吸収された水分は、水分保持層で保持されるため、吸収した水分の吸水面側からの逆流を抑制できる。また、水分保持層と支持体層との間に撥水層が設けられているため、吸収した水分の水分保持層から支持体層への漏出が抑制される。また、透水層、水分保持層及び支持体層はいずれも水解性を有していると共に、撥水層が水溶性高分子と撥水性樹脂の微細なドット状の薄膜からなるものであるため、使用後に、水洗トイレ等へ投棄し、大量の水分に接触させ又は水流に揉まれることにより、速やかに溶解又は分解させることができる。したがって、本発明に係る水分保持体は、使用中においては、保持された水分による溶解や分解を防止しつつ、使用後は、水洗トイレ等へ投棄し、衛生的に処理することが可能である。
【0023】
本発明に係る水分保持体は、上記のような特徴を有するため、例えば、人間や動物の排尿、排便、吐瀉物等の回収時の感染等のリスク及び局部の拭き取りや洗浄の手間を軽減できると共に、回収後は即座にトイレ等へ廃棄できる。また、オストメイト等にも適用可能であり、外出時にも、使用後汚損したパウチの洗浄場所や廃棄場所に困ることがなくなるため、オストメイト使用者の外出や就業に伴う困難を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る水分保持体の断面構造を示す概略図である。
【
図2】水分保持体の製造方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。なお。図中、同一又は同等の部分には同一の符号を付す。
【0026】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る水分保持体(以下、「水分保持体」と略称する場合がある。)10は、吸水面11を有する部材であって、吸水面11側から、水解性及び透水性を有する透水層12と、水解性、吸水性及び保水性を有する水分保持層13と、水溶性フィルム(以下、「薄膜」と略称する場合がある。)14と、薄膜14の水分保持層13に面した面側に分散した直径5μmから150μmのドット状の撥水性樹脂のドットからなる撥水層15と、水解性を有する支持体層16が順次積層された構造を有している。各層は、いずれもシート状の形状を有し、略同一の形状を有していてもよいが、透水層12及び水分保持層13の側面からの水分の漏出を防ぐために、両層の側面が、撥水層15が形成された水溶性フィルム14及び支持体層16で被覆されていてもよく、或いは、水分保持体10の側面が、透水性を有しない他の層で被覆されていてもよい。
【0027】
本発明において、「水解性」とは、大量の水(水分保持体10の容積の数倍(数十倍)の容積の水)に接触し、又は水流に揉まれることにより、シート状の構造が崩壊することを意味する。水分保持体が水解性を有していると、使用後に水洗トイレに投棄することが可能になり、衛生的に処理することが可能になる。したがって、水分保持体は、水洗トイレに投棄可能であることが好ましく、例えば、JIS P4501(「トイレットペーパー」)、欧州不織布協会(EDANA)及び米国不織布協会(INDA)による使い捨て不織布製品の水洗性の評価に関するガイドライン、IWSFGによる水洗性に関する仕様書等の規格に適合していることが好ましい。介護、看護、保育及びペット用品等の分野で用いるものであるという水分保持体10の性質に照らして、水分保持体10は、寒冷地での使用を可能にするために、0℃程度の冷水にも溶解可能であることが好ましい。また、水分保持体10は、水洗トイレの封水中に30秒程度浸漬された後、フラッシュ時の水流により速やかに崩壊することが好ましい。また、フラッシュ後に残る微細な残渣についても、3分以内に完全に溶解又は水解することが好ましい。
【0028】
<透水層>
透水層12は、片面側が最表層に露出し、吸水面11として作用し、反対面側が後述する水分保持層13と接触しているシート状の層である。透水層12は、水解性及び透水性を有している。「透水性」とは、吸水面から吸収した水を吸水面と反対側の面に透過させ、吸収した水分を水分保持層13に導くことができる性質をいい、これにより、透水層12が吸収した水分を保持することにより、使用者に不快感を与えたり、圧力を受けた際に透水層12から水分が染み出したりすることを防止することができる。
【0029】
透水層12は、例えば、透水性及び水解性を有する抄造体により構成されていることが、水解性の観点から好ましい。また、環境負荷や水洗トイレへの適用性を考慮すると、抄造体を構成する素材は、合成樹脂を含まず、天然物由来の素材であり、かつ/又は生分解性を有するものであることが好ましい。抄造体を構成する好ましい素材の具体例としては、木材、綿花、草本類、竹等に由来する天然セルロース、前述の天然資源又は古紙由来のパルプ、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、ビスコースレーヨン、ポリノジック、リヨセル等の再生セルロースが挙げられる。繊維径は、例えば、5から200μm、繊維長は0.1から7mmである。これらの材料は、単独で用いることもできるが、水解性の向上の観点からは、繊維径、繊維長及び水分と接触した際の膨張率の異なる複数の素材のハイブリッド素材、或いは異種素材のハイブリッド素材等を用いることが好ましい。
【0030】
抄造体の具体例としては、不織布又は抄紙(水解紙)等が挙げられる。抄造に用いられる繊維素材の繊維径及び繊維長は、所望の透水性、水解性を有する限りにおいて特に制限されない。透水層12の厚さ及び抄造体の密度は、所望の機械的強度及び使用時に使用者の身体に直接接触する吸水面の構成素材であることなどを考慮して適宜決定されるが、機械的強度及び使用者の快適性等を考慮すると、40~60g/m2程度の密度を有する水解性不織布であることが好ましい。
【0031】
<水分保持層>
水分保持層13は、片面側で第1の透水層12に、反対面側で撥水層15に接しているシート状の層であり、水解性、吸水性及び保水性を有する吸水性素材を含んでいる。水分保持層は、所望の時間、より具体的には、少なくとも水分保持体10が投棄されるまでの時間、吸収した水分を保持し、使用後に水分保持体10を水洗トイレ等に投棄し、大量の水に接触した際、或いは水流に揉まれた際には、速やかに崩壊するように構成されている。例えば、水分保持層は、多孔質の吸水性素材と乾燥ハイドロゲルを含んでいる。多孔質の吸水性素材としては、スポンジ、高吸水性高分子(ポリアクリル酸ナトリウム等)、海綿、食品残渣等の天然又は合成素材からなる微粒子状の多孔質材料が挙げられるが、水洗トイレ等に投棄することを考えると、天然物由来の素材からなるものが好ましく、生分解性を有することがより好ましい。
【0032】
好ましい多孔質の吸水性素材の具体例としては、搾乳後乾燥大豆皮、乾燥馬鈴薯等が挙げられる。水分保持層を構成する多孔質材料は、例えば、粒子径30μm、密度0.4程度である。
【0033】
乾燥ハイドロゲルは、架橋構造を有する高分子又は低分子の集合体を主な構成成分とするマトリックスからなり、多孔質の吸水性素材と共に吸収面から吸収した水分を吸収し、大量の水に接触し、又は水流に揉まれる際に大量の水を吸収して膨潤し、多孔質の吸水性素材との膨潤率の違いにより水分保持層が崩壊するのを補助する作用を有している。乾燥ハイドロゲルの素材としては、架橋アクリルアミド、藻類由来多糖類(寒天)等が挙げられる。
【0034】
微粒子状の多孔質素材の粒子径は、小さいほど表面積が大きくなり、単位体積あたりの吸水量を大きくすることができるが、表面エネルギーが増大し、二次凝集が起こりやすくなる、ハンドリングが悪化するなどの問題が生じる場合があるので、適宜調節される。好ましい多孔質素材の粒径は、例えば、30μmから200μmである。多孔質素材と乾燥ハイドロゲルの配合割合は、例えば、多孔質材料:乾燥ハイドロゲル=3:2である。
【0035】
多孔質の吸水性素材及び乾燥ハイドロゲルの素材として天然素材を用いる場合、保存安定性の向上や腐敗防止のために、防腐剤、抗菌剤等を配合することが好ましい。防腐剤及び抗菌剤の具体例としては、安息香酸塩、過炭酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。
【0036】
水分保持層13は綿状パルプを含んでいてもよい。水分保持層が綿状パルプを含んでいる場合、含んでいない場合のいずれにおいても、水分保持層と撥水層との間に綿状パルプを含む予備吸水層(図示しない)を有していてもよい。綿状パルプの素材、繊維径については、上述の透水層12を構成する抄造体の材料として用いられるパルプと基本的に同様である。繊維長については、綿状の性状を発現する必要上、抄造体の材料として用いられる材料よりも繊維長が大きいことが好ましく、水解性との兼ね合いもあるが、例えば、10mm以上30mm以下であることが好ましい。
【0037】
<水溶性フィルム及び撥水層>
水分保持層13又は予備吸水層と、後述する支持体層16との間には、水溶性フィルム14が設けられており、水溶性フィルム14の水分保持層13側の面上には、該表面上に、ほぼ均一に、或いは所定のパターン状に分布するように、直径5μmから150μmのドット状の撥水性樹脂のドットからなる撥水層15が形成されている。撥水層15は、水分保持体10の使用時には、水分保持層13に保持された水分が支持体層16に染みだし、水分の漏出や支持体層16の崩壊を防止しつつ、水分保持体10の使用後に投棄され、支持体層16側から浸透した大量の水分に接触した場合には、水溶性フィルム14が溶解し、撥水層15が流失することにより、水分保持体10が速やかに水解することを可能にする。換言すると、上記の様に水溶性フィルム14及び撥水層15を構成することにより、高い水分保持機能と、使用後の処理の容易さとを両立することを可能にする。
【0038】
水溶性フィルム14の材料としては、デンプン、ゼラチン、カラギーナン、グアーガム、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。材料の種類、分子量、水溶性フィルムの厚さ等は、水溶性フィルム14に要求される水溶性(所望の溶解速度、寒冷地での使用を考慮して、0℃付近の冷たい水にも溶解すること等)に応じて適宜選択される。
【0039】
撥水層15は、たとえば、水溶性フィルム14の表面に、インクジェット印刷法、グラビア印刷法等凹版印刷等の方法により撥水性樹脂のドット(直径5μmから150μm)を形成することにより、水溶性フィルム14の片面側に形成される。このように構成することにより、撥水面にフラクタル構造を付与でき、水滴との接触角を増大させ、高い撥水性を発現させることが可能になると共に、水分保持体10の使用後に大量の水と接触させ、水溶性フィルム14が溶解すると、撥水性樹脂の微細なドットとなり、不溶性の残渣を残さないため、水洗トイレ等に問題なく投棄することが可能になる。撥水層15は水溶性フィルム14の全面を覆う必要はかならずしもなく、少なくとも一部を覆っていればよい。撥水性樹脂の材質は、水溶性フィルム14の表面に印刷可能で、疎水性を有する物であれば任意のものを特に制限なく用いることができるが、ポリ乳酸、バイオポリウレタン等の生分解性樹脂が好ましい。
【0040】
<支持体層>
支持体層16は、吸水面の反対側に位置し、水分保持体10の基材としての機能を果たし、水解性を有するシート状の層である。支持体層16を構成する材料は、透水層12を構成する抄造体と同等だが、水分保持体10の基材としての機能に鑑み、透水層12よりも水解性繊維の繊維長が短いことが好ましく、水分保持体10の使用時には水に接触せず、使用後の廃棄時に大量の水に接触し、又は水流に揉まれた際に速やかに水解することが好ましいことから、透水層12を構成する抄造体よりも水解速度が大きいことが更に好ましく、また、トイレから排出される残渣を最小限にする必要がある場合は、天然繊維とカルボキシルメチルセルロースの抄造体も選択できる。
【0041】
<製造方法>
例えば、
図2に示すように、透水層12を構成する第1の抄造体(a)、支持体層16を構成する第2の抄造体(d)、インクジェット印刷法等により撥水層15を片面側に形成した水溶性フィルム14(c)をロールから連続的に供給し、透水層12を構成する第1の抄造体(a)と撥水層15を片面側に形成した水溶性フィルム14(c)の間に、水分保持層13(必要に応じて予備吸水層)の構成材料である乾燥ハイドロゲル、多孔質素材、綿状パルプ(b)を供給しながら圧延することにより、シート状の積層体を連続的に製造し、製品の大きさ及び形状に合わせて切り出し、熱圧着及び必要に応じて加熱立体成型し、所望の大きさ及び立体形状を有する水分保持体10を得る。各層を構成するシート状の材料は、両端部に長手方向に沿って設けられた粘着層を介し、或いは、
図2に示すように接着剤(e)を塗布することにより接着される。粘着層の基剤及び粘着剤並びに接着剤は、水溶性を有する必要があり、更に生分解性を有していることが好ましい。
【0042】
<用途>
このようにして製造される水分保持体10は、介護、看護、保育及びペット用品等の分野で用いることができる。
【実施例0043】
実施例1:水分保持体の製造
図2に示す方法で、下記の各材料からなるシート状(19×8×0.489cm)の水分保持体を製造した。
・透水層:水解性不織布(王子エフテックス製:46g/m
2)
・水分保持層:下記の混合物
・乾燥ヒドロゲル(乾燥寒天) 20.2重量%
・多孔質の吸水性素材:搾乳後乾燥大豆皮 30.3重量%
・防腐・防かび剤:過炭酸ナトリウム 5.1重量%
・綿状パルプ 44.4重量%
・水溶性フィルム:冷水溶解性ポリビニルアルコール(アイセロ製)
・撥水剤:水溶性フィルムの表面にグラビアコーティングされたバイオポリウレタン(直径50から130μm、厚さ1μm)
・支持体層:水溶紙((株)大直製:50g/m
2)
・接着剤:カゼイン
【0044】
実施例2:水分保持体の性能評価
(1)吸水性及び水漏れ試験
水分保持体の吸水面上に50mLの水道水を静かに注ぎ、30秒放置後、目視により確認を行ったところ、各層の剥離、吸水面の反対側の面及び側面からの水漏れは見られなかった。
【0045】
(2)水解性試験
吸水性及び水漏れ試験後の水分保持体を、11℃の水道水1000mLに投入し、15秒間放置後、15秒間撹拌した。目視により水溶液の性状を観察した結果、塊状の残渣は認められず、水分保持体の構成材料が水中に均一に分散していることが観察された。水溶液をろ過し、固形分の性状を観察したところ、塊状の残渣は認められなかった。
【0046】
(3)流水を用いた水解性試験
株式会社日進機械製の水解性試験評価装置を用い、実施例1で製造した水分保持体の水解性の評価を行った。水解性試験評価装置のセルに2Lの水(15±1℃)を入れ、水分保持体を入れた後、装置を起動して18rpmで30分間振盪を行った。振盪後の水分保持体をφ12.5mm多孔板ふるい上に受け、シャワーヘッドを用いて、10cmの高さから4L/分の水を90秒間噴射した。多孔板ふるい上の残渣の乾燥重量を測定した。その結果、多孔板ふるい上に残った残渣の乾燥重量は、水分保持体の乾燥重量の1%以下(試験を行った6つの試料中、4つについては残渣が認められなかった。)であった。これらの結果は、EDAMA/INDAの基準をクリアすると共に、日本下水道協会が採用しているIWSFGの評価基準もクリアしており、水洗トイレや下水道への投棄について問題がないことが確認された。