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特開2022-173626黒色レジスト組成物及び近赤外線フォトリソグラフィ法による黒色パターンの形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173626
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】黒色レジスト組成物及び近赤外線フォトリソグラフィ法による黒色パターンの形成方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/004 20060101AFI20221115BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20221115BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20221115BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20221115BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G03F7/004 505
G03F7/038 501
G03F7/039 601
G02B5/20 101
G03F7/20 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079441
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】506166549
【氏名又は名称】イーケムソリューションズジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井川 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】塩田 英和
【テーマコード(参考)】
2H148
2H197
2H225
【Fターム(参考)】
2H148BC02
2H148BC06
2H148BC12
2H148BD11
2H148BE36
2H148BF02
2H148BG02
2H148BH28
2H197CA04
2H197CA07
2H197CE01
2H197CE10
2H197HA04
2H197HA05
2H225AC36
2H225AC44
2H225AC46
2H225AC49
2H225AD10
2H225AD20
2H225AD28
2H225AE03P
2H225AF87P
2H225AH04
2H225AK05
2H225AM80P
2H225AN39P
2H225AN54P
2H225AN92P
2H225AN96P
2H225AP03P
2H225BA16P
2H225BA17P
2H225CA18
2H225CB01
2H225CB02
2H225CC01
2H225CC03
2H225CC13
2H225CC15
(57)【要約】
【課題】ブラックマトリクス等の黒色パターンを形成するためのフォトリソグラフィ法に関して新たな手法を提案すると共に、このプロセスに好適な遮光性に優れた黒色レジスト組成物を提供する。
【解決手段】黒色パターンをフォトリソグラフィ法により形成する際、従来は露光光として紫外線を適用している。本発明は、前記従来法に対して近赤外線を適用する新規な黒色パターンのフォトリソグラフィプロセスである。そして、この方法に好適な黒色レジスト組成物として、近赤外線を透過する黒色顔料(A)、近赤外領域に吸収を有する増感色素(B)、ラジカル重合開始剤又は酸発生剤(C)、バインダー樹脂(D)を必須成分とする。黒色顔料(A)は、ラクタム系顔料、ぺリレン系顔料、アゾメチン系顔料が好ましく使用され、この黒色顔料と共に好適な増感色素として、シアニン色素、スクアリウム色素、フタロシアニン色素が含有される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)~成分(D)を必須成分として含有する黒色レジスト組成物。
成分(A):近赤外線を透過する黒色顔料
成分(B):近赤外領域に吸収を有する増感色素
成分(C):ラジカル重合開始剤又は酸発生剤
成分(D):バインダー樹脂
【請求項2】
成分(A)の黒色顔料は、波長700nm以上1000nm以下の近赤外線を50%以上透過させる顔料である請求項1記載の黒色レジスト組成物
【請求項3】
成分(A)の黒色顔料は、ラクタム系顔料、ぺリレン系顔料、アゾメチン系顔料の少なくともいずれかである請求項1又は請求項2記載の黒色レジスト組成物。
【請求項4】
成分(B)の増感色素は、波長700nm以上1000nm以下の近赤外線に吸収を有する色素である請求項1~請求項3のいずれかに記載の黒色レジスト組成物。
【請求項5】
成分(B)の増感色素は、シアニン色素、スクアリウム色素、フタロシアニン色素の少なくともいずれかである請求項1~請求項4のいずれかに記載の黒色レジスト組成物。
【請求項6】
成分(C)のラジカル重合開始剤又は酸発生剤は、成分(B)の増感色素と共存することで、近赤外線照射によりラジカル又は酸を発生可能なものである請求項1~請求項5のいずれかに記載の黒色レジスト組成物。
【請求項7】
成分(C)のラジカル重合開始剤又は酸発生剤は、ヨウドニウム塩、トリアジン化合物、もしくはホウ素イオン錯体である請求項1~請求項6のいずれかに記載の黒色レジスト組成物。
【請求項8】
成分(D)のバインダー樹脂としてアルカリ溶解性樹脂を含み、更に、成分(E)としてラジカル重合性モノマー又は架橋剤のいずれかを含むネガ型のフォトレジストである請求項1~請求項7のいずれかに記載の黒色レジスト組成物。
【請求項9】
成分(D)のバインダー樹脂として、酸分解性基で保護されたアルカリ溶解性樹脂を含有するポジ型のフォトレジストである請求項1~請求項7のいずれかに記載の黒色レジスト組成物。
【請求項10】
レジスト組成物を基板に塗布及び乾燥してレジスト膜を形成する膜形成工程と、前記レジスト膜を露光する露光工程と、露光されたレジスト膜を現像する現像工程とを含むフォトリソグラフィ方法による黒色パターンの形成方法において、
前記レジスト組成物として、請求項1~請求項9のいずれかに記載の黒色レジスト組成物を塗布し、
前記露光工程で波長700nm以上1000nm以下の近赤外線でレジスト膜を露光することを特徴とする黒色パターンの形成方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法により製造された黒色パターン。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラックマトリクス等の黒色パターンをフォトリソグラフィ法により形成するための新規な方法に関する。そして、本発明は、前記方法に好適な黒色顔料を含むレジスト組成物であって、近赤外線感光性を有する黒色レジスト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビ、液晶モニター、スマートフォン画面等あらゆる画面付きの電子デバイスにはカラーのフラットパネルが使用されている。このフラットパネルの多くは、赤、緑、青、若しくはシアン、イエロー、マゼンタの各色の画素が形成されたカラーフィルタを備えている。カラーフィルタは、ガラス等の透明基板表面に格子状、ストライプ状の開口を有するブラックマトリクスが形成されており、この開口部に各色を示す色素の画素が形成されている。ブラックマトリクスは、各画素からの光の混色や光漏れを抑制してコントラストやカラー視認性を向上させて、より鮮明な画像を得る遮光材である。このブラックマトリクスは、古くはCr薄膜を格子状に蒸着・パタ-ニングして形成されていたが、現在では専ら黒色顔料を含む感光性樹脂組成物(レジスト組成物)を利用するフォトリソグラフィ法により形成されている。フォトリソグラフィ法は、Cr薄膜等のパターニングよりも比較的工程が簡易であり生産コストに優れている。特に、近年では半導体レーザー等による直接露光技術が着目されており、高精細なブラックマトリクスを高効率で生産可能となっている。
【0003】
ブラックマトリクス等の黒色パターンをフォトリソグラフィ法で製造するためのレジスト組成物としては、主にカーボンブラックを黒色顔料として含む黒色レジスト組成物が使用されている。そして、レジストを露光する光源としては、紫外光、特にg線(波長436nm)、h線(波長405nm)、i線(波長365nm)が適用されている。
【0004】
上記のとおり、ブラックマトリクスは隣接する各色の画素のコントラスト向上のために形成されるものであるので、高い遮光性が要求される。もっとも、この要求特性は、フォトリソグラフィ法によるパターン形成のメカニズムとの間において技術的矛盾を生じさせている。即ち、従来の黒色レジスト組成物に含まれる黒色顔料であるカーボンブラックは、遮光性が高いことから上記の要求特性に応える上では好適な材料である。しかし、カーボンブラックは、広範な吸光波長範囲を有し、可視光だけでなく紫外線(g線、h線、i線)も吸収することができる。そのため、フォトリソグラフィ法の露光工程において、露光光である紫外線は、レジスト膜の上層部では光反応に寄与できるがレジスト膜の下部まで到達できず、ネガ型レジストの場合、レジスト膜の上層部は硬化するものの下部は未硬化のままとなるという問題が生じる。
【0005】
このような技術的矛盾に起因する問題に対し、これまで採られてきた対策は黒色顔料の構成の変更が主体であった。例えば、カーボンブラックと体質顔料との混合物を黒色顔料とするもの(特許文献1)、異なる色の顔料を混合し黒色化したものを補助的に使用することで、カーボンブラックの比率を下げた黒色顔料を適用するもの(特許文献2、3)、カーボンブラックの物性を改良して黒色顔料としたもの(特許文献4、5)等の対策が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-149153号公報
【特許文献2】国際公開第2013/115268号
【特許文献3】特開平2000-227654号公報
【特許文献4】国際公開第2008/066100号
【特許文献5】特開2006-257110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来策は、問題を根本的に解決するものとは言い難く、それらにおいてもレジスト膜の上層部と下部における光反応の差は生じ得る。これらで使用される黒色顔料は、依然としてカーボンブラックを含むので紫外線を吸収するからである。また、最近では、ブラックマトリクス等のパターン形状に対する要求もあり、断面形状においてエッジが効いた垂直性のある矩形のものが求められことが多い。従来技術においては、この要求に十分に応えることは難しい。
【0008】
更に、近年、マイクロLEDと量子ドットとを組み合わせる新たな技術による表示デバイスの開発が確立されつつある。この表示デバイスでは、量子ドット層の形成に10μm前後の高さが必要であり、そのために10μm以上の高さを有する格子状の隔壁を形成する必要がある。この格子状の隔壁について、コントラスト向上等のための黒色パターンを適用する試みがなされている。
【0009】
これまでの液晶フラットパネルのカラーフィルタにおいては、ブラックマトリクスの膜厚は、せいぜい5μm程度の膜厚である。そのため、上記した問題はあるものの、従来の解決策で対応することが一応は可能であった。しかし、上記の新規な表示デバイスに好適な10μm以上の膜厚を有しながら、断面に垂直性を具備させた黒色パターンを形成するとなると従来技術では対応が極めて困難となる。
【0010】
本発明は、上記のような背景のもとになされたものであり、フォトリソグラフィ法によりブラックマトリクス等の黒色パターンを製造するための方法に関し、これまでにはないプロセスを提案する。そして、可視光領域においてカーボンブラック含有のレジスト組成物と同等の遮光性を発揮しつつ、露光工程で膜厚の影響を受けることなく露光光を透過できる新規な黒色レジスト組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記した従来の黒色レジスト組成物を用いたフォトリソグラフィ法が有する問題を解決するためには、露光工程における露光光を変更する新たなプロセスの適用が必要であると考察した。本来、黒は吸収波長域が広い色であり、黒色顔料に対して従来の露光光を透過させつつ遮光性までも発揮させるのは困難である。
【0012】
具体的には、本発明者等は、露光光として近赤外線を適用するフォトリソグラフィ法について検討した。更に、本発明者等は、近赤外線を適用するフォトリソグラフィ法に対応可能なレジスト組成物として、所定の黒色顔料を含みつつ、近赤外線感光性を有すると共に従来と同等以上の遮光性を有する黒色レジスト組成物について鋭意検討した結果、本発明に想到した。
【0013】
即ち、本発明は、下記の成分(A)~成分(D)を必須成分として含有する黒色レジスト組成物である。
成分(A):近赤外線を透過する黒色顔料
成分(B):近赤外領域に吸収を有する増感色素
成分(C):ラジカル重合開始剤又は酸発生剤
成分(D):バインダー樹脂
【0014】
本発明は、近赤外線を露光光源とするフォトリソグラフィ法に対応可能な黒色レジスト組成物である。その特徴として、近赤外線を透過する黒色顔料(成分(A))と近赤外領域に吸収を有する増感色素(成分(B))との組み合わせにより、好適な感光性と遮光性とを両立する。以下、本発明に係る黒色レジスト組成物の構成及びフォトリソグラフィ法にについて説明する。尚、本発明において、露光光源となる近赤外線とは、波長域が700nm以上1000nm以下の光である。
【0015】
(I)本発明に係る黒色レジスト組成物の構成
・成分(A):黒色顔料
本発明で適用される黒色顔料は、紫外線から可視光線までの光に対してはカーボンブラックと同等程度に吸収し遮光する一方で、近赤外線に対して透過性を有する顔料である。
【0016】
上記のような近赤外線に対する透過性を有する黒色顔料としては、ラクタム系顔料、ぺリレン系顔料、アゾメチン系顔料の少なくともいずれかを含むものが好ましい。
【0017】
具体的には、ラクタム系顔料としては、BASF社のIrgaphor Black S 0100 CFが挙げられる。また、ぺリレン系顔料としては、Perylene black31(PB31)が、アゾメチン系顔料としては、大日精化社のクロモファインブラックA1103等が挙げられる。また、市場においては、上述の黒色顔料に分散剤や界面活性剤等を加えて有機溶剤に分散させた黒ペーストが入手可能であり、そのような黒ペーストも使用可能である。尚、本発明の黒色顔料としては、カーボンブラックが含まれることはない。
【0018】
尚、本発明に係る黒色レジスト組成物の近赤外線の透過性は、上記の黒色顔料をレジスト全固形分中15重量%含んだレジスト組成物を元に、厚さ10μmのレジスト膜に成膜したとき、波長700nm以上1000nm以下の近赤外線を50%以上透過させることができる。
【0019】
・成分(B):増感色素
ある種の色素は、近赤外線を吸収することで励起状態となり、そのエネルギーが重合開始剤や酸発生剤に移動する。このような色素は、結果として、ラジカル発生又は酸発生を生じさせることができることが知られており、増感色素と呼ばれている。本発明においては、波長700nm以上1000nm以下の近赤外線を吸収する増感色素が好ましい。
【0020】
本発明においては、上記のような増感色素として、シアニン色素、スクアリウム色素、フタロシアニン色素の少なくともいずれかを含むものが好ましい。
【0021】
具体的には、シアニン色素としては、Sigma Aldrich社のIR-797、IR-820や、昭和電工社のIRT等が挙げられる。スクアリウム色素は、2,4-ジ-3-グアイアズレニル-1,3-ジヒドロキシシクロブテンジイリウムジヒドロキシド ビス(分子内塩)、2,4-ビス[4-(N,N-ジイソブチルアミノ)-2,6-ジヒドロキシフェニル]スクアライン等が挙げられる。更に、フタロシアニン色素としては、5,9,14,18,23,27,32,36-オクタブトキシ-2,3-ナフタロシアニン銅(II)等が挙げられる。尚、Sigma Aldrich社の「材料科学研究用試薬カタログ (2004年版)106~109頁」や、東京化成社のwebサイト内の「近赤外吸収色素」のページにおいて、本発明に適用可能な色素が多数リストアップされており、それらを市場でも容易に入手可能である。
【0022】
本発明においては、上記したシアニン色素、スクアリウム色素、フタロシアニン色素は有効に機能することが確認されている。特にシアニン色素(IR-797、IR-820、IRT)は、吸収最大波長(λmax)が、それぞれ、813nm、820nm、817nmとなっている。本発明では、近赤外線露光で使用する光源としてLEDが使用可能であり、広く市場に出回っているLED光源は850nmLEDである。前記のシアニン色素の吸収最大波長は、このLED光源の波長が近接していることから好適な増感色素といえる。
【0023】
尚、従来の黒色レジスト組成物では、増感色素として ベンゾフェノン系化合物(例えば4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン)、アクリジン系化合物(例えば9-フェニルアクリジン)、 アントラセン系化合物(例えば9,10ジブトキシアントラセン)等が古くから使用されている。これらの増感色素は、紫外線の長波長側の増感剤として広く使われているが、近赤外線領域での吸収性がなく本発明の増感色素としては機能しない。
【0024】
・成分(C):重合開始剤又は酸発生剤
これらは、光照射により励起した増感色素からのエネルギーによりラジカル又は酸を発生してレジスト膜を形成する。但し、上述した本発明の近赤外領域に吸収を有する増感色素との組み合わせに関し、あらゆる重合開始剤や酸発生剤においてエネルギー移動が効果的に進行するとは限らない。本発明において、好ましい重合開始剤及び酸発生剤は、ヨウドニウム塩、トリアジン化合物、ホウ素イオン錯体が有効である。
【0025】
具体的には、ヨウドニウム塩としては、ジアリールヨードニウムリン酸塩(例えば、サンアプロ社IK-1等)が、トリアジン化合物として、ビスクロロメチル-S-トリアジン化合物(例えば、三和ケミカル社のTFE-トリアジン、TME-トリアジン、MP-トリアジン、ジメトキシトリアジン等)が、ホウ素イオン錯体としてはテトラブチルアンモニウム=ブチルトリフェニルボラート(昭和電工社の P3B)やテトラブチルアンモニウム=ブチルトリナフチルボラート(昭和電工社のN3B)等が適用可能であり好ましい。
【0026】
・成分(D):バインダー樹脂
バインダー樹脂は、調整された感光性の樹脂組成物を基板上に塗布するにあたって、均一な塗膜を形成するために配合されるものである。そして、フォトリソグラフィ法の現像工程でパターンの不要な部分を、現像液により適切な時間で溶解させるための樹脂としても作用する。バインダー樹脂は、基本的に従来のレジスト樹脂組成物で使用されるものが適用可能であり、前記の役割を果たすことできる樹脂であれば、特に種類は限定されない。
【0027】
バインダー樹脂として代表的な樹脂としては、アルカリ可溶性樹脂である。具体的には、アクリル系樹脂が挙げられる。アルカリ溶解性を持たせるため、カルボキシル基や水酸基を含有するエチレン性不飽和モノマーと、他の共重可能なエチレン性不飽和モノマーとの共重合体が好ましい。また、ノボラック樹脂、ポリヒドロキシスチレン樹脂(PHS樹脂)も成膜性、アルカリ溶解性に優れており、本発明に好適である。これらは、多くの製品が上市されており、その製造方法も多くの先行技術が公開されている(例えば、特開2006-58385号公報、特許第6226104号明細書等)。
【0028】
レジスト組成物は、上記バインダー樹脂と共に、ラジカル重合性モノマー又は架橋剤のいずれかを混合することでネガ型のレジスト組成物となる。一方、ポジ型のレジスト組成物については、バインダー樹脂として、保護基付きのノボラック樹脂や保護基付きPHS樹脂等を使用することができる。これらの保護基付き樹脂の製法も公知である(例えば、特開2019-204036号公報に詳しい説明がある)。
【0029】
・成分(E):ラジカル重合性モノマー又は架橋剤(選択的添加物)
以上説明した成分(A)~成分(D)は、本発明に係る黒色レジスト組成物の必須成分である。そして、上記したように、これらにラジカル重合性モノマー又は架橋剤のいずれかを混合することで、ネガ型のレジスト組成物とすることができる。
【0030】
本発明で使用するラジカル重合性モノマーは多官能モノマーが好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコールのジアクリレートもしくはジメタクリレート類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールのジアクリレートもしくはジメタクリレート類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコールのポリアクリレートもしくはポリメタクリレート類等がある。
【0031】
これらのうち、3価以上の多価アルコールのポリアクリレートもしくはポリメタクリレート類が好ましく、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリ トールトリメタクリレート、ペンタエリスリ トールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート等が好ましく、特にトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)が、反応性が高い点で好ましい。これらの多官能性モノマーは、単独でまたは2 種以上を混合して使用することができる。
【0032】
本発明では、架橋剤としてアルコキシメチル化メラミンが好適である。アルコキシメチル化メラミンは、メラミンのアミノ基の水素原子が、アルコキシメチル基で全部もしくは部分的に置換された構造を有するものである。アルコキシメチル化メラミンの具体例としては、例えば、メトキシメチル化メラミン、エトキシメチル化メラミン、プロポキシメチル化メラミン、ブトキシメチル化メラミンなどが挙げられる。
【0033】
市販されているアルコキシメチル化メラミンを利用することも可能である。例えば、オルネクス社のサイメル300(メトキシメチル化メラミン)、サイメル303(メトキシメチル化メラミン)、三和ケミカル社のニカラックMW-30HM(メトキシメチル化メラミン)、ニカラックMW-40(メトキシおよびブトキシ混合メチル化メラミン)などが挙げられる。本発明による組成物には、これらのメラミンを単独でまたは複数組み合わせて用いることができる。
【0034】
また、多官能エポキシ化合物も架橋剤として使用できる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール骨格、ジフェニルメタン骨格、ジナフチルメタン骨格、トリアジン骨格、ビフェニル骨格、フェノールノボラック骨格、テトラフェニルエタン骨格、ビスフェノール骨格等有す多官能エポキシ化合物が使用できる。
【0035】
これらの化合物は市場でも広く入手可能である。例えば、共栄社化学社のエポライト40E、エポライト70P、日産化学社のTEPIC-S、DIC社のエピクロン830、三菱化学社のJER-YX-4000、JER-604等が使用できる。本発明による組成物には、これらの多官能エポキシ化合物を単独でまたは複数組み合わせても用いることができる。
【0036】
尚、上記したメラミン化合物と多官能エポキシ化合物とを組み合わせて架橋剤として使用することも可能である。
【0037】
以上説明した(A)~(E)の各成分の配合比は、レジスト組成物の全固形分を100重量部としたとき、下記のとおりとするのが好ましい。
(a)黒色顔料:3重量部以上50重量部以下、より好ましくは10重量部)以上30重量部以下。
黒色顔料が上記範囲を下回ると、遮光性低下が懸念される。一方、上記範囲を超えると、近赤外光を吸収して膜厚方向の光反応の均等性に影響が生じる。
(b)増感色素:0.5重量部以上10重量部以下、より好ましくは1重量部以上5重量部)以下。
増感色素が上記範囲を下回ると、赤外線による励起が不十分で感度低下が懸念される。一方、上記範囲を超えると、逆に赤外線のエネルギーを増感色素そのものが吸収し過ぎて、感度低下が生じる。
(c)重合開始剤又は酸発生剤:0.5重量部以上10重量部以下、より好ましくは1重量部以上7重量部以下。
これらが上記範囲を下回ると、感度低下が懸念される。一方、上記範囲を超えると、感度が極端に高くなり露光部近傍の未露光部まで反応が及び、解像度やコントラストの悪化が生じる。
(d)バインダー樹脂:30重量部以上80重量部以下、より好ましく40重量部以上75重量部以下。
バインダー樹脂が上記範囲を下回ると、塗膜形成能が低下し均一な膜が得難くなる。また、上記範囲を越えると、画像形成機能が低下する。
(e)ラジカル重合性モノマー又は架橋剤:10重量部以上50重量部)以下、より好ましくは15重量部以上45重量部以下。
これらが上記範囲を下回ると、ラジカル重合反応性又は架橋反応性が低下し、上記範囲を越えると、過剰反応により作業性が低下する。
【0038】
・その他の添加物
以上の成分に加え、スピンコート時の成膜均一性やストリエーションと呼ばれる放射線状の筋の発生を防止するための界面活性剤や、顔料の分散性を向上するための分散剤や分散助剤、主溶媒に加え各固形成分の溶解性を向上させるためやスピンコート時の溶媒揮発スピードやベーク時の溶媒蒸発スピードを調整するための第2溶媒・第3溶媒等を適宜添加することができる。
【0039】
(II)本発明に係る黒色パターンの形成方法
次に本発明に係るブラックマトリクス等の黒色パターンの形成方法について説明する。本発明に係る黒色パターンの形成方法は、基本的に、従来のフォトリソグラフィ法によるパターン形成方法に従う。フォトリソグラフィ法によるパーン形成方法は、レジスト組成物を基板に塗布・乾燥させレジスト膜を形成する膜形成工程、レジスト膜を露光しレジスト膜に光反応を生じさせる露光工程、露光されたレジスト膜を現像液で処理して余分なレジスト膜を除去して所望パターンを得る現像工程、の各工程で構成される。そして、本発明は、レジスト膜を形成するためのレジスト組成物として上記した本発明に係る黒色レジスト組成物を適用すると共に、露光工程における光源として波長700nm以上1000nm以下の近赤外線を適用することを特徴とする。以下、本発明に係る黒色パターンの形成方法の各工程について説明する。
【0040】
(膜形成工程)
レジスト膜を形成する基板としては、透明基板上の要部を遮光するというブラックマトリクス等の黒色パターンが本来有する目的を考慮すれば、透明基板、例えば透明ガラス基板や透明フィルムが挙げられるが、それらに限定されるものでない。適宜にシリコンウエハ、セラミック基板、アルミ基板、SiCウエハー、GaNウエハー、銅等の金属基板、銅等の金属成膜基板などを使用することができる。基板は、未加工の基板であってもよいし、電極や素子が表面に形成された基板であってもよい。
【0041】
基板上に塗布するレジスト組成物は、上記とおり本発明に係る黒色顔料含有レジストである。そして、レジスト組成物の塗布方法は、特に限定されない。スピンコーターを用いた回転塗布が一般的であるが、スプレーコーターを用いた噴霧塗布、スリットコーティング、ロールコーティング、インクジェット法等いずれでもよい。
【0042】
基板上に塗布されたレジスト組成物の乾燥(プリベーク)は、典型的にはホットプレート又は熱風式オーブンによる加熱処理により行われる。加熱温度は、80℃以上140℃以下が好ましく、より好ましくは90℃以上120℃以下である。また、加熱の時間は、加熱装置により異なるが、ホットプレートを使用した場合、30秒以上300秒以下が好ましく、より好ましくは60秒以上180秒以下程度とする。また、熱風式オーブンを使用する場合、5分以上60分以下が好ましく、より好ましくは10分以上30分以下程度とする。
【0043】
レジスト膜の膜厚は、特に限定されることはなく、適用するアプリケーションや必要とするパターンに応じて適宜調整することができる。例えば、カラーフィルタ用のブラックマトリクスを形成する場合、1μm以上5μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上3μm以下とする。上述の量子ドットを適用するデバイス用途の黒色パターンでは、量子ドットを充填する隔壁用途において10μm以上15μm以下の厚膜が必要となることがある。
【0044】
(露光工程)
従来の紫外線(波長200~500nm程度)を適用するフォトリソグラフィ法に対し、本発明の露光工程では、波長700nm以上1000nm以下の近赤外線にて露光する。近赤外線を発する光源としては、レーザーもしくはLEDが好適で、光学系を平行光となるように設計された露光装置が好ましい。但し、キセノンランプ等の近赤外光を含むブロードな波長帯域を放射する光源も使用可能である。この場合、700nm以上1000nm以下の波長域の光をバンドパスフィルター等で取り出して光源とすることができる。露光工程では、所望のパターンをデザインしたフォトマスクを介してレジスト膜を露光する。また、近年における情報技術・画像処理技術の進展により、フォトリソグラフィ法においては、フォトマスクを利用せず、ビーム状の光線で直接的に必要とするパターンで露光する技術が知られている(直接描画露光又はマスクレス露光)。本発明の黒色レジスト組成物及びフォトリソグラフィ法でもかかるマスクレスでの露光を行うことができる。
【0045】
露光工程後は、必要に応じ、現像工程前にレジスト膜を加熱する工程を入れることができる。この加熱は、露光後加熱又はPEB(Post Exposure Bake)と称されることがある。このPEBの加熱温度は、例えば、70℃以上150℃以下、好ましくは70℃以上120℃以下とし、加熱時間は、ホットプレートを使用した場合には30秒以上300秒以下、好ましくは60秒以上180秒以下とすることができる。PEBは、3成分化学増幅型ネガ型レジストと呼ばれるレジスト組成物や、脱保護反応を利用したポジ型レジストの場合に適用することが好ましい。
【0046】
(現像工程)
露光されたレジスト膜を現像液で現像することで、所望のパターンを得ることができる。現像は、例えば、浸漬法、パドル法、スプレー法などの方法を用いて行うことができる。現像工程では、ネガ型のレジスト膜では露光部が光反応により架橋固化してパターンとして残り、未露光部が溶出除去される。ポジ型のレジスト膜の場合、露光部が溶出除去され、未露光部がパターンとして残る。
【0047】
現像液としては、アルカリ水溶液が用いるのが好ましい。具体的なアルカリ水溶液として、(i)水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニアなどの無機アルカリ水溶液、(ii)エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン水溶液、(iii)テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム塩の水溶液等が挙げられる。より好ましい現像液としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液が挙げられる。この現像液において、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの濃度は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.4質量%以上2.5質量%以下とする。尚、浸透性を高めるため、現像液には適宜に界面活性剤を添加することもできる。
【0048】
(その他の工程)
現像工程後は、リンス液によりパターンおよび基板を洗浄することが好ましい。リンス液としては、超純水が好適である。
【0049】
また、パターン形成後、パターンを強固に基板に固定するため及びパターン自体の物理的、化学的耐性を高めるため、更にベーク(ポストベーク)をすることもできる。ポストベークの条件は適宜決定することができるが、通常は、プリベークにおける加熱温度より10℃以上30℃以下高く設定することが一般的である。
【0050】
以上説明した本発明によるフォトリソグラフィ法により、基板上にブラックマトリクス等の黒色パターンを形成することができる。本発明に係る黒色レジスト組成物は、膜厚における光反応の差のない好適な黒色パターンを形成可能であり、可視光領域における遮光性にも優れる。本発明により形成される上記した黒色顔料を含む黒色パターンは、シャープなパターンエッジを有し、断面形状においても良好な矩形が保持されている。
【発明の効果】
【0051】
以上説明したように、本発明は、ブラックマトリクス等の黒色パターンをフォトリソグラフィ法により形成プロセスとして、露光光源として近赤外線を適用し従来の課題を解決する。本発明に係る黒色レジスト組成物によれば、近赤外線の適用により所望のパターンの黒色パターンを効率的に製造できる。このとき、レジスト膜の厚さの影響を受けることなく、均等に高感度で光反応を進行させることができる。本発明に係る黒色レジスト組成物は、可視光領域においてはカーボンブラックと同等の遮光能力を有すると共に、矩形の画素パターンを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態ではバインダー樹脂(アルカリ溶液性樹脂)を3種類合成し(樹脂F-1、樹脂F-2、樹脂F-3とする)、それらに各種の黒色顔料及び添加剤を添加し実施例及び比較例となる黒色レジスト組成物を製造した。そして、製造した各種レジスト組成物を用いフォトリソグラフィ法によるブラックマトリクスを製造した。
【0053】
[バインダー樹脂(アルカリ溶解性樹脂)]の合成
樹脂F-1の合成
4つ口フラスコにイソプロピルアルコールを仕込み、これをオイルバス中で80℃に保ち窒素シールをし、攪拌しながらメチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレンを重量比30/40/30にて仕込んで共重合体を合成した。更に、グリシジルメタクリレート40重量部を付加させ、純水で再沈、濾過、乾燥することにより、グリシジルメタクリーレートにより部分付加されたメチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体を得た。生成された共重合体は、平均分子量(Mw)17100、酸価113(mgKOH/g)であった。このアクリルポリマーを「F-1」 とする。
【0054】
樹脂F-2の合成
温度計・攪拌機・還流冷却器を備えたセパラブルフラスコに、o-クレゾール100部、92%パラホルムアルデヒド32.5部、蓚酸1.0部を仕込み、還流させながら4時間反応させた。そして、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50.0部を添加し、留出する水を除去しつつ120℃まで昇温させた。更に、120℃で5時間反応させた後、180℃まで加熱し減圧してプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを取り除いた。180℃にて溶融した樹脂を抜き出し、冷却して固形のo-クレゾールノボラック樹脂を得た。この樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィー法(ポリスチレン換算)で6000であった。このノボラック樹脂をF-2とする。
【0055】
樹脂F-3の合成
フェノール性水酸基をアルコキシアルキル基により保護したノボラック樹脂を合成した。上記で得られたノボラック樹脂F-2を、樹脂含有濃度が15%になるようにシクロペンタノンに溶解し、この樹脂溶液を130gにp-トルエンスルホン酸一水和物3.6mgを仕込んだ。この樹脂溶液に、エチルビニルエーテル7.8gを滴下した後、室温で3時間反応させた。その後、酸触媒を取り除くために、この反応溶液にイオン交換水を加えて攪拌した後、静置し、分液により有機層部分を取り出す洗浄工程を5回繰り返した。最終的に取り出した有機層を、水分除去を兼ねて濃縮した。そして樹脂濃度が59%の樹脂溶液が得られた。得られた樹脂をH-NMRで分析したところ、ノボラック樹脂のフェノール性水酸基の45%が1-エトキシエチル基により保護化されていた。この保護基付ノボラック樹脂を「F-3」とする。
【0056】
[黒色レジスト組成物の製造]
実施例1
アルカリ溶解性樹脂としてF-1、ラジカル重合性モノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、 重合開始剤としてテトラブチルアンモニウム=ブチルトリフェニルボラート(P3B)を溶剤プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解し、ベースとなるネガ型レジスト組成物を得た。そして、このレジスト組成物に、黒色顔料成分としてラクタム黒を、増感色素としてシアニン色素(IRT)を混合し、黒色レジスト組成物を得た。それぞれの成分固形分重量比は下記の表1に示すとおりとした。尚、成膜性、顔料分散性向上のため、界面活性剤、分散剤、分散助剤を適宜添加している。
【0057】
実施例2
実施例1の重合開始剤と増感色素を変更して黒色レジスト組成物を製造した。本実施例では、重合開始剤としてトリアジン(三和ケミカル社 TME-トリアジン)を、増感色素としてIR-797を使用し、それ以外は実施例1と同様にして黒色レジスト組成物を得た。この構成は表1に示すとおりである。
【0058】
実施例3
本実施例では、重合開始剤としてヨウドニウム塩(ジアリールヨードニウムリン酸塩トリアジン:IK-1)を、増感色素としてIR-820を使用し、それ以外は実施例1と同様にして黒色レジスト組成物を得た。この構成は表1に示すとおりである。
【0059】
実施例4
アルカリ溶解性樹脂としてF-2、架橋剤としてメラミン(三和ケミカル社 ニカラックMW-30HM)、 酸発生剤としてトリアジン(三和ケミカル社 TFE-トリアジン)をPGMEAに溶解し、ベースとなるレジスト組成物を調整した(この溶液を溶液Aとする)。溶液Aは、露光光源にg,h,i線を含む紫外線を使うことにより、光架橋するネガ型レジストである。この溶液Aに、γブチロラクトンに溶解したIR-797を混合し、さらに黒色顔料成分としてぺリレン黒(PB31)を混合し、黒色レジスト組成物を得た。この構成は表1に示すとおりである。
【0060】
実施例5
アルカリ溶解性樹脂としてF-3、酸発生剤としてトリアジン(三和ケミカル社 TME-トリアジン)をPGMEAに溶解し、ベースとなるレジスト組成物を調整した(この溶液を溶液Bとする)。溶液Bは、露光光源にg,h,i線を含む紫外線を使うことにより、光乖離型ポジ型レジストとして機能する。この溶液Bに、γブチロラクトンに溶解したIR-797を混合し、さらに黒色顔料としてアゾメチン系顔料(A1103)を混合し、黒色レジスト組成物を得た。この構成は下記表1に示すとおりである。
【0061】
比較例1
実施例1において、増感色素であるIRTを添加せず、その他は実施例1と同じくして黒色レジスト組成物を製造した。
【0062】
比較例2
実施例1において、増感色素をIRTから、紫外線の長波長側の増感剤として周知である9-フェニルアクリジン(9PA)に替えた以外は実施例1と同じくして黒色レジスト組成物を製造した。
【0063】
比較例3
実施例1において、黒色顔料成分をラクタム系顔料からカーボンブラックに替えた以外は実施例1と同じくして黒色レジスト組成物を製造した。
【0064】
比較例4
実施例4において、増感色素であるIRTを添加せず、その他は実施例4と同じくして黒色レジスト組成物を製造した。
【0065】
比較例5
実施例4において、増感色素(IR-797)及び黒色顔料(ぺリレン黒)を添加しない組成の溶液、即ち、溶液Aを比較例5のレジスト組成物とした。
【0066】
本実施形態で製造した実施例1~実施例5及び比較例1~比較例5のレジスト組成物の構成は、下記表1のとおりである。
【0067】
【表1】
【0068】
[フォトリソグラフィ法によるパターン形成試験]
上記で製造した実施例1~実施例5及び比較例1~比較例5について、フォトリソグラフィ法によるパターン形成の試験を行い評価した。このパターン形成試験では、レジスト組成物の成分を考慮して下記の2つのプロセスで行った。
・プロセスA:塗布→プリベーク→露光→現像
・プロセスB:塗布→プリベーク→露光→PEB→現像
【0069】
基板にはスライドガラス基板を使用した。塗布工程では、スピンコーターにセットしたスライドガラス基板中央にレジスト組成物を滴下し、1000rpmで 10秒間回転することにより、均一な塗布膜を形成した。そして、塗布済スライドガラス基板をホットプレートにて120℃で1分間プリベークして乾燥させてレジスト膜を得た。触針式膜厚計にてレジスト膜の膜厚を測定したところ、いずれも10μmであった。
【0070】
露光工程では、基板にCrパターン付きの露光マスクを通して、露光した。光源として、近赤外線ランプユニット(UniqueFire社製 UF-120)にLEDチップ(発光波長:850nm又は940nmのいずれか)をセットした。このランプユニットは、レンズにより焦点を遠距離に設定することで近似的に平行光を照射できる。また、比較例5のみ光源としてマスクアライナー(g,h,i線混合波長)を用いて紫外線で露光した。露光時間は3分間とした。パターンBでは、露光後に露光後熱処理(PEB)を行った。この加熱処理では、ダイレクトホットプレートにより130℃で1分間加熱した。
【0071】
現像工程では、現像液として1.19%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド溶液(TMAH溶液)を用いてパドル現像した。その後、基板を水洗及びエアーブロー乾燥した。
【0072】
以上の工程により得られた黒色パターン付きスライドガラスについて評価を行った。この評価では、基板上に黒色膜(パターン)形成の有無を確認すると共に、光学顕微鏡によるパターンエッジの観察と電子顕微鏡による断面形状の観察を行った。また、形成された黒色パターンの遮光率をODメーター(X-rite社製)で測定した。このフォトリソグラフィ法によるパターン形成の試験結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
実施例1~実施例4の黒色レジスト組成物(ネガ型)については、露光マスクによって遮光されていた部分が現像工程において15秒で完全に溶け出し、所望の黒色パターンだけが残っていた。実施例5の黒色レジスト組成物(ポジ型)については、露光マスクによって遮光されていた部分が現像工程において残り、露光された部分は15秒で完全に溶け出し、所望の黒色パターンが得られた。そして、黒色パターンの光学顕微鏡観察では、パターンエッジは非常にシャープでエッジラフネスに優れることが確認された。更に、電子顕微鏡によるパターン断面の観察結果でも、非常に垂直性に優れる矩形であることが分かった。また、遮光率測定の結果、実施例1~実施例5の黒色レジスト組成物による黒色パターンは、OD値が4.8~5.3と良好な遮光性を有することが確認された。以上から、各実施例の黒色レジスト組成物は、近赤外線によるフォトリソグラフィ法により、良好な厚さ・形状の黒色パターンを形成できるといえる。尚、実施例4,5のような3成分化学増幅型ネガ型レジストや脱保護反応利用のポジ型レジストであっても、好適な黒色顔料及び増感色素を適用することで良好な結果が得られることも確認された。
【0075】
一方、比較例1及び比較例2の黒色レジスト組成物についてみると、いずれも現像中に全てのレジスト膜が溶解して流れ去ってしまっていた。近赤外光での光反応が起きず重合していなかったと考えられる。比較例1については増感色素が含まれていないためであり、比較例2については9-フェニルアクリジンは光増感剤として一般に使用されてはいるがこれも近赤外光では光反応を生じさせないためと考えられる。
【0076】
また、比較例3では、現像中に一瞬マスクパターンと同じパターンが観察されたが、すぐに全てのレジスト膜が溶解し流れ去った。この比較例では、近赤外光での反応が表層ではわずかに起こったが、カーボンブラックが近赤外線を吸収・遮断したため、光が下部までへ到達せず十分重合していなかったためと考えられる。
【0077】
比較例4では、現像中にすべての黒色膜が溶解して流れ去ってしまった。比較例4の黒色レジスト組成物は、好適な黒色顔料を含むものの光増感色素が添加されておらず、近赤外光での光反応が起きなかったためである。
【0078】
比較例5は、黒色顔料を含まないレジスト組成物である(溶液A)。このレジスト膜を紫外線により露光すると、パターンエッジはシャープで断面も垂直性のあるものとなる。しかし、黒色顔料が入っていないため、OD値は測定限界の下限以下でほぼ透明の膜しか得られない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明した本発明による黒色レジスト組成物及びこれを用いた近赤外線によるフォトリソグラフィ法によれば、遮光性に優れると共にエッジラフネスのない断面矩形の好適な黒色パターンを形成することができる。本発明は、液晶テレビやスマートフォン画面等のカラーフラットパネルのブラックマトリクスの他、近年開発されている、マイクロLEDと量子ドットとを組み合わせる表示デバイスの格子状隔壁となる黒色パターンの製造に好適である。