(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017413
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】熱的に処理された鋼板を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20220118BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20220118BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220118BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C21D9/56 101C
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176165
(22)【出願日】2021-10-28
(62)【分割の表示】P 2019554048の分割
【原出願日】2017-12-20
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/001786
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック・ボネ
【テーマコード(参考)】
4K037
4K043
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
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4K037FG00
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4K043AA01
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4K043DA05
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4K043FA04
4K043FA12
4K043FA13
4K043HA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱処理ライン内で、特定の化学的鋼組成、及び達すべき特定のミクロ組織m
targetを有する、熱的に処理された鋼板を製造するための方法を提供する。
【解決手段】A.1)m
targetに最も近いミクロ組織m
standardを有する製品及びm
standardを得るための熱経路TP
standardを選択する、選択サブステップ、2)最後に得られるミクロ組織m
xに対応する少なくとも2個の熱経路TP
xが、ステップA.1)の選択された製品、熱経路TP
standard並びに初期ミクロ組織に基づいて計算される、計算サブステップ、3)m
targetに達するための1個の熱経路TP
targetがTP
xから選ばれる、選択サブステップを含む、準備ステップ、と、B.TP
targetが鋼板に対して実施される、熱処理ステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理ライン内で、化学的鋼組成並びにフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイト及びオーステナイトの中から選ばれる0~100%の少なくとも1つの相を含むミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための方法であって、
A.
1)mtargetに最も近いミクロ組織mstandardを有する製品及びmstandardを得るための事前に定められた熱経路TPstandardを選択するために、化学組成及びmtargetが、事前に定められた製品のリストと比較され、そのミクロ組織が、事前に定められた複数の相及び事前に定められた割合の複数の相を含む、選択サブステップ、
2)TPxの最後に得られるミクロ組織mxにそれぞれ対応するTPxである少なくとも2個の熱経路TPxが、ステップA.1)の前記選択された製品及びTPstandard並びにmtargetに達するための前記鋼板の初期ミクロ組織miに基づいて計算される、計算サブステップ、
3)mtargetに達するための1個の熱経路TPtargetが選択され、TPtargetは、TPxから選ばれ、及びmxがmtargetに最も近いように選択される、選択サブステップ
を含む、準備ステップ、
B.TPtargetが前記鋼板に対して実施される、熱処理ステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ステップA.1)において事前に定められた前記複数の相が、サイズ、形状及び化学組成から選ばれた少なくとも1つの要素により規定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミクロ組織mtargetが、
- 100%のオーステナイト、
- 5~95%のマルテンサイト、4~65%のベイナイト、残部はフェライト、
- 8~30%の残留オーステナイト、固溶体中の0.6~1.5%の炭素、残部はフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト及び/又はセメンタイト、
- 1%~30%のフェライト及び1%~30%のベイナイト、5~25%のオーステナイト、残部はマルテンサイト、
- 5~20%の残留オーステナイト、残部はマルテンサイト、
- フェライト及び残留オーステナイト、
- 残留オーステナイト及び金属間相、
- 80~100%のマルテンサイト及び0~20%の残留オーステナイト
- 100%のマルテンサイト、
- 5~100%のパーライト及び0~95%のフェライト並びに
- 少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイト
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記事前に定められた製品タイプが、二相、変態誘起塑性、焼入れ及び分配された鋼、双晶誘起塑性、炭化物を含まないベイナイト、プレスハードニング鋼、TRIPLEX、DUPLEX及び高延性二相を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
mtarget及びmX中に存在する相の割合の間の差が±3%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップA.2)において、m
i及びm
targetの間の放出又は消費される熱エンタルピーHが、
【数1】
(Xは相分率である。)
のように計算される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップA.2)において、すべての熱サイクルTP
xが、
【数2】
(式中、Cpe:相の比熱(J・kg
-1・K
-1)、ρ:鋼の密度(g.m
-3)、Ep:前記鋼の厚さ(m)、φ:熱流束(対流+放射、W)、H
x(J.Kg
-1)、T:温度(℃)及びt:時間(s)。)
のように計算される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップA.2)において、中間熱経路TPxintに対応する少なくとも1つの中間鋼ミクロ組織mxint及び熱エンタルピーHxintが計算される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
ステップA.2)において、TPxが、すべてのTPxintの合計であり、及びHxが、すべてのHxintの合計である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップA.1)の前に、降伏応力YS、最大引張強さUTS、伸び、穴拡げ性、成形性の中から選ばれる少なくとも1つの目標機械的性質Ptargetが選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
mtargetが、Ptargetに基づいて計算される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップA.2)において、熱処理ラインに入る前に鋼板が経る前記工程パラメータが、TPxを計算するために考慮される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記工程パラメータが、冷間圧延圧下率、巻取温度、ランアウトテーブル冷却経路、冷却温度及びコイル冷却率の中から選ばれる少なくとも1つの要素を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
熱処理ライン内で鋼板が経る前記熱処理ラインの工程パラメータが、TPxを計算するために考慮される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記工程パラメータが、達すべき特定の熱鋼板温度、ライン速度、冷却部の冷却能、加熱部の加熱能、過時効温度、冷却温度、加熱温度及び均熱温度の中から選ばれる少なくとも1つの要素を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
熱経路、TPx、TPxint、TPstandard又はTPtargetが、加熱処理、等温処理又は冷却処理から選ばれる少なくとも1つの処理を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
新しい鋼板が熱処理ラインに入るたびに、新しい計算ステップA.2)が、事前に実施された選択ステップA.1)に基づいて自動的に実施される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
鋼板が熱処理ラインに入るとき、熱経路の適合が、前記鋼板の最初の複数メートルに対して実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法から得ることができるDP、TRIP、Q&P、TWIP、CFB、PHS、TRIPLEX、DUPLEX及びDP HDを含む前記事前に定められた製品タイプを含む鋼板でできたコイルであって、前記コイルに沿った任意の2点間で25MPa以下の機械的性質の標準偏差を有する、コイル。
【請求項20】
コイルに沿った任意の2点間で15MPa以下の標準偏差を有する、請求項19に記載のコイル。
【請求項21】
コイルに沿った任意の2点間で9MPa以下の標準偏差を有する、請求項20に記載のコイル。
【請求項22】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法の実施のための熱的処理ライン。
【請求項23】
TPtargetを決定するために互いに協働する少なくとも冶金学的モジュール、最適化モジュール及び熱的モジュールを含むコンピュータプログラム製品であって、コンピュータにより実施されたとき請求項1~18に記載の方法を実施するソフトウェア命令をそのようなモジュールが含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理ライン内で、化学的鋼組成並びにフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイト及びオーステナイトの中から選ばれる0~100%の少なくとも1つの相を含むミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための方法に関する。本発明は、自動車車両の製造に特に非常に適している。
【背景技術】
【0002】
被覆鋼板又は未被覆鋼板を自動車車両の製造のために使用することが既知である。多数の鋼グレードが、乗り物を製造するために使用される。鋼グレードの選択は、鋼部品の最終用途に依存する。例えば、IF(極低炭素)鋼は、露出部品のために生産され得、TRIP(変態誘起塑性)鋼は、シート及びフロアクロスメンバ又はAピラーのために生産され得、DP(二相)鋼は、リアレール又はルーフクロスメンバのために生産され得る。
【0003】
これらの鋼の生産中、1つの特定の用途向けに期待される機械的性質を有する所望の部品を得るために、極めて重要な処理が鋼に対して実施される。そのような処理は、例えば、金属被覆を付着させる前の連続焼鈍又は焼入れ及び分配処理であり得る。通常、実施する処理は、既知の処理のリストの中から選択され、この処理は、鋼グレードに応じて選ばれる。
【0004】
特許出願WO2010/049600は、連続的に移動する鋼帯を熱処理するための設備を使用する方法であって、とりわけ、入口での冶金学的特性及び設備の出口で必要な冶金学的特性に応じて鋼帯の冷却率を選択するステップ;バンドの幾何学的特性を入力するステップ;ライン速度に照らして鋼の経路に沿った出力伝達プロファイルを計算するステップ;冷却部の調整パラメータの所望の値を決定し、前記モニタリング値にしたがって冷却部の冷却装置の出力伝達を調整するステップを含む、方法に関する。
【0005】
しかしながら、この方法は、周知の冷却サイクルの選択及び適用に基づいているだけである。これは、1つの鋼グレード、例えば、TRIP鋼において、各TRIP鋼が、化学組成、ミクロ組織、性質、表面性状などを含むそれ自体の特性を有する場合でも、同じ冷却サイクルが適用されるという非常に大きなリスクがあることを意味する。したがって、この方法は、鋼の実際の特性を考慮していない。この方法は、多数の鋼グレードの個別化されていない熱処理を可能にする。
【0006】
その結果、熱処理は、1つの特定の鋼に適合されておらず、したがって、処理の最後に所望の特性が得られない。さらに、処理後、鋼は、機械的性質のばらつきが大きくなり得る。最後に、広範囲の鋼グレードを製造できる場合でも、処理された鋼の品質は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、熱処理ライン内で、特定の化学的鋼組成及び達すべき特定のミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための方法を提供することにより、上述の欠点を解決することである。特に、この目的は、各鋼板に適合させた処理を実施することであり、そのような処理は、期待される性質を有する鋼板を提供するために可能な限り最短の計算時間で非常に正確に計算され、そのような性質は、可能な限り最小限のばらつきを有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に記載の方法を提供することにより達成される。本方法はまた、請求項2~18に記載のいずれかの特性を含むことができる。
【0010】
別の目的は、請求項19に記載のコイルを提供することにより達成される。本方法はまた、請求項20又は21に記載の特性を含むことができる。
【0011】
別の目的は、請求項22に記載の熱的処理ラインを提供することにより達成される。
【0012】
最後に、この目的は、請求項23に記載のコンピュータプログラム製品を提供することにより達成される。
【0013】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態から明らかになるであろう。
【0014】
本発明を例示するために、特に以下の図を参照して、非限定的な例の様々な実施形態及び試行を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】加熱ステップ、均熱ステップ、冷却ステップ及び過時効ステップを含む鋼板の連続焼鈍が実施される一例を示す図である。
【
図3】本発明による好ましい実施形態を示す図である。
【
図4】溶融により被覆を付着させる前に連続焼鈍が鋼板に対して実施される本発明による一例を示す図である。
【
図5】焼入れ及び分配処理が鋼板に対して実施される一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の用語が定義される:
- CC:重量パーセント単位の化学組成、
- mtarget:ミクロ組織の目標値、
- mstandard:選択された製品のミクロ組織、
- Ptarget:機械的性質の目標値、
- mi:鋼板の初期ミクロ組織、
- X:重量パーセント単位の相分率、
- T:セルシウス温度(℃)単位の温度、
- t:時間(s)、
- s:秒、
- UTS:最大引張強さ(MPa)、
- YS:降伏応力(MPa)、
- 亜鉛に基づく金属被覆は、50%超の亜鉛を含む金属被覆を意味し、
- アルミニウムに基づく金属被覆は、50%超のアルミニウムを含む金属被覆を意味し、及び
- 熱経路、TPstandard、TPtarget、TPx及びTPxintは、時間、熱処理の温度、及び冷却率、等温率又は加熱率から選ばれる少なくとも1つの率を含む。等温率は一定の温度を有する。
【0017】
「鋼」又は「鋼板」という名称は、部品が、最大2500MPa、より好ましくは最大2000MPaの引張強さを実現するのを可能にする組成を有する鋼板、コイル、プレートを意味する。例えば、引張強さは、500MPa以上、好ましくは1000MPa以上、有利には1500MPa以上である。本発明による方法は任意の種類の鋼に適用できるため、広範囲の化学組成が含まれる。
【0018】
本発明は、熱処理ライン内で、化学的鋼組成並びにフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイト及びオーステナイトの中から選ばれる0~100%の少なくとも1つの相を含むミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための方法であって、
A.
1)mtargetに最も近いミクロ組織mstandardを有する製品及びmstandardを得るための事前に定められた熱経路TPstandardを選択するために、化学組成及びmtargetが、事前に定められた製品のリストと比較され、そのミクロ組織が、事前に定められた相及び事前に定められた割合の相を含む、選択サブステップ、
2)TPxの最後に得られるミクロ組織mxにそれぞれ対応するTPxである少なくとも2個の熱経路TPxが、ステップA.1)の選択された製品及びTPstandard並びにmtargetに達するためのmiに基づいて計算される、計算サブステップ、
3)mtargetに達するための1個の熱経路TPtargetが選択され、TPtargetは、TPxから選ばれ、及びmxがmtargetに最も近いように選択される、選択サブステップ
を含む、準備ステップ、
B.TPtargetが鋼板に対して実施される、熱処理ステップ
を含む、方法に関する。
【0019】
いかなる理論によっても制限されることは望まないが、本発明による方法が適用されるとき、処理する各鋼板のための個別化された熱処理を短い計算時間で得ることが可能であるようである。実際、本発明による方法は、mtarget、より正確には処理に沿ったすべての相の割合及びmi(鋼板に沿ったミクロ組織のばらつきを含む。)を考慮している正確な特定の熱処理を可能にする。実際、本発明による方法は、計算のために、熱力学的安定相、すなわち、フェライト、オーステナイト、セメンタイト及びパーライト、並びに熱力学的準安定相、すなわち、ベイナイト及びマルテンサイトを考慮している。したがって、可能な限り最小限のばらつきを有する、期待される性質を有する鋼板が得られる。
【0020】
好ましくは、達すべきミクロ組織mtargetは、
- 100%のオーステナイト、
- 5~95%のマルテンサイト、4~65%のベイナイト、残部はフェライト、
- 8~30%の残留オーステナイト、固溶体中の0.6~1.5%の炭素、残部はフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト及び/又はセメンタイト、
- 1%~30%のフェライト及び1%~30%のベイナイト、5~25%のオーステナイト、残部はマルテンサイト、
- 5~20%の残留オーステナイト、残部はマルテンサイト、
- フェライト及び残留オーステナイト、
- 残留オーステナイト及び金属間相、
- 80~100%のマルテンサイト及び0~20%の残留オーステナイト
- 100%のマルテンサイト、
- 5~100%のパーライト及び0~95%のフェライト並びに
- 少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイト
を含む。
【0021】
有利には、選択サブステップA.1)の間に、化学組成及びmtargetが、事前に定められた製品のリストと比較される。事前に定められた製品は、任意の種類の鋼グレードであり得る。例えば、事前に定められた製品は、二相DP、変態誘起塑性(TRIP)、焼入れ及び分配された鋼(Q&P)、双晶誘起塑性(TWIP)、炭化物を含まないベイナイト(CFB)、プレスハードニング鋼(PHS)、TRIPLEX、DUPLEX及び高延性二相(DP HD)を含む。
【0022】
化学組成は各鋼板に依存する。例えば、DP鋼の化学組成は以下を含み得る:
0.05<C<0.3%、
0.5≦Mn<3.0%、
S≦0.008%、
P≦0.080%、
N≦0.1%、
Si≦1.0%、
鉄及び成長の結果生じる不可避不純物で構成される組成物の残部。
【0023】
各事前に定められた製品は、事前に定められた相及び事前に定められた割合の相を含むミクロ組織を含む。好ましくは、ステップA.1)において事前に定められた相は、サイズ、形状及び化学組成から選ばれた少なくとも1つの要素により規定される。したがって、mstandardは、事前に定められた割合の相に加えて、事前に定められた相を含む。有利には、mi、mx、mtargetは、サイズ、形状及び化学組成から選ばれた少なくとも1つの要素により規定された相を含む。本発明によれば、mtargetに最も近いミクロ組織mstandardを有する事前に定められた製品が、mstandardに達するための熱経路TPstandardと共に選択される。mstandardは、mtargetと同じ相を含む。好ましくは、mstandardはまた、mtargetと同じ相割合を含む。
【0024】
図1は、処理する鋼板が、重量で以下のCCを有する本発明による一例を示す:0.2%のC、1.7%のMn、1.2%のSi及び0.04%のAl。m
targetは、15%の残留オーステナイト、40%のベイナイト及び45%のフェライト、オーステナイト相中の固溶体中の1.2%からの炭素を含む。本発明によれば、CC及びm
targetが選択され、製品1~4の中から選ばれた事前に定められた製品のリストと比較される。CC及びm
targetは製品3又は4に対応し、そのような製品はTRIP鋼である。
【0025】
製品3は、重量で以下のCC3を有する:0.25%のC、2.2%のMn、1.5%のSi及び0.04%のAl。m3は、12%の残留オーステナイト、68%のフェライト及び20%のベイナイト、オーステナイト相中の固溶体中の1.3%からの炭素を含む。
【0026】
製品4は、重量で以下のCC4を有する:0.19%のC、1.8%のMn、1.2%のSi及び0.04%のAl。m4は、12%の残留オーステナイト、45%のベイナイト及び43%のフェライト、オーステナイト相中の固溶体中の1.1%からの炭素を含む。
【0027】
製品4は、mtargetに最も近いミクロ組織を有し、その理由は、製品4が、mtargetと同じ相を同じ割合で有するからである。
【0028】
図1に示す通り、2つの事前に定められた製品は、同じ化学組成CC及び異なるミクロ組織を有することができる。実際、製品
1及び製品
1’はいずれもDP600鋼(600MPaのUTSを有する二相)である。1つの違いは、製品
1がミクロ組織m
1を有し、製品
1’が異なるミクロ組織m
1’を有することである。他の違いは、製品
1が360MPaのYSを有し、製品
1’が420MPaのYSを有することである。したがって、1つの鋼グレードに対して異なる妥協UTS/YSを有する鋼板を得ることが可能である。
【0029】
計算サブステップA.2)の間に、少なくとも2個の熱経路TP
xが、ステップA.1)の選択された製品及びm
targetに達するためのm
iに基づいて計算される。TP
xの計算は、熱的挙動が考慮されるだけの従来の方法と比較したとき、鋼板の熱的挙動及び冶金学的挙動を考慮している。
図1の例では、m
4がm
targetに最も近いため製品4が選択され、TP
4が選択され、m
4及びTP
4はそれぞれm
standard及びTP
standardに対応する。
【0030】
図2は、加熱ステップ、均熱ステップ、冷却ステップ及び過時効ステップを含む鋼板の連続焼鈍を示す。
図2に加熱ステップについてのみ示すように、m
targetに達するために多数のTP
xが計算される。この例において、TP
xが、すべての連続焼鈍に沿って計算される(図示せず)。
【0031】
好ましくは、少なくとも10個のTPXが計算され、より好ましくは少なくとも50個、有利には少なくとも100個、より好ましくは少なくとも1000個のTPXが計算される。例えば、計算されたTPxの数は、2~10000個の間、好ましくは100~10000個の間、より好ましくは1000~10000個の間である。
【0032】
ステップA.3)において、m
targetに達するための1個の熱経路TP
targetが選択される。TP
targetは、m
Xがm
targetに最も近いようにTP
Xから選ばれる。したがって、
図1において、TP
targetは、多数のTP
xから選ばれる。好ましくは、m
target及びm
x中に存在する相の割合の間の差は±3%である。
【0033】
有利には、ステップA.2)において、m
i及びm
targetの間の放出又は消費される熱エンタルピーHが、
【数1】
(Xは相分率である。)
のように計算される。
【0034】
いかなる理論によっても制限されることは望まないが、Hは、相変態が実施されるときにすべての熱経路に沿って放出又は消費されるエネルギーを表す。いくつかの相変態は発熱性であり、いくつかの相変態は吸熱性であると考えられる。例えば、加熱経路中のフェライトからオーステナイトへの変態は吸熱性である一方、冷却経路中のオーステナイトからパーライトへの変態は発熱性である。
【0035】
好ましい実施形態において、ステップA.2)において、すべての熱サイクルTPxが、
【0036】
【数2】
(式中、C
pe:相の比熱(J・kg
-1・K
-1)、ρ:鋼の密度(g.m
-3)、Ep:鋼の厚さ(m)、φ:熱流束(対流及び放射、W)、Hx(J.kg
-1)、T:温度(℃)及びt:時間(s)。)
のように計算される。
【0037】
好ましくは、ステップA.2)において、中間熱経路TPxintに対応する少なくとも1つの中間鋼ミクロ組織mxint及び熱エンタルピーHxintが計算される。この場合、TPxの計算は、多数のTPxintの計算によって得られる。したがって、好ましくは、TPxは、すべてのTPxintの合計であり、Hxは、すべてのHxintの合計である。この好ましい実施形態において、TPxintは、定期的に計算される。例えば、CPxintは、0.5秒毎、好ましくは0.1秒以下毎に計算される。
【0038】
図3は、ステップA.2)において、TP
xint1及びTP
xint2にそれぞれ対応するm
int1及びm
int2並びにH
xint1及びH
xint2が計算される好ましい実施形態を示す。すべての熱経路中のH
xが、TP
xを計算するために決定される。
【0039】
好ましい実施形態において、ステップA.1)の前に、降伏応力YS、最大引張強さUTS、伸び、穴拡げ性、成形性の中から選ばれる少なくとも1つの目標機械的性質Ptargetが選択される。本実施形態において、好ましくは、mtargetは、Ptargetに基づいて計算される。
【0040】
いかなる理論によっても制限されることは望まないが、鋼板の特性は、鋼生産中に適用される工程パラメータにより規定されると考えられる。したがって、有利には、ステップA.2)において、熱処理ラインに入る前に鋼板が経る工程パラメータが、TPxを計算するために考慮される。例えば、工程パラメータは、最終圧延温度、ランアウトテーブル冷却経路、巻取温度、コイル冷却率及び冷間圧延圧下率の中から選ばれる少なくとも1つの要素を含む。
【0041】
別の実施形態において、熱処理ライン内で鋼板が経る処理ラインの工程パラメータが、TPxを計算するために考慮される。例えば、工程パラメータは、ライン速度、達すべき特定の熱鋼板温度、加熱部の加熱能、加熱温度及び均熱温度、冷却部の冷却能、冷却温度、過時効温度の中から選ばれる少なくとも1つの要素を含む。
【0042】
好ましくは、熱経路、TPx、TPxint、TPstandard又はTPtargetは、加熱処理、等温処理又は冷却処理から選ばれる少なくとも1つの処理を含む。例えば、熱経路は、再結晶焼鈍、プレスハードニング経路、回復経路、二相域焼鈍又は完全オーステナイト系焼鈍、焼戻し経路又は分配経路、等温経路又は焼入れ経路であり得る。
【0043】
好ましくは、再結晶焼鈍が実施される。再結晶焼鈍は、任意選択的に予熱ステップ、加熱ステップ、均熱ステップ、冷却ステップ及び任意選択的に均等化ステップを含む。この場合、再結晶焼鈍は、任意選択的に予熱部、加熱部、均熱部、冷却部及び任意選択的に均等化部を含む連続焼鈍炉内で実施される。いかなる理論によっても制限されることは望まないが、再結晶焼鈍は、取扱いがより困難な熱経路であると考えられ、その理由は、冷却ステップ及び加熱ステップを含め、考慮すべき多くのステップを含むからである。
【0044】
好ましくは、新しい鋼板が熱処理ラインに入るたびに、新しい計算ステップA.2)が、事前に実施された選択ステップA.1)に基づいて自動的に実施される。実際、各鋼の実際の特性はしばしば異なるため、本発明による方法は、同じ鋼グレードが熱処理ラインに入る場合でも、熱経路TPtargetを各鋼板に適合させる。新しい鋼板を検出することができて、鋼板の新しい特性が測定され、事前に予備選択される。例えば、検出器は、2つのコイル間の溶接を検出する。
【0045】
この好ましい実施形態において、工程での大きな変化を防ぐために、鋼板が熱処理ラインに入るとき、鋼板の最初の複数メートルに対して熱経路の適合が実施される。
【0046】
図4は、溶融により被覆を付着させる前に連続焼鈍が鋼板に対して実施される本発明による一例を示す。本発明による方法により、m
targetに近いミクロ組織を有する事前に定められた製品の選択後(図示せず)、TP
xが、m
i、選択された製品及びm
targetに基づいて計算される。この例において、m
xint1~m
xint6にそれぞれ対応するTP
xint1~TP
xint6の中間熱経路及びH
xint1~H
xint6が計算される。TP
xを得るためにH
xが決定される。この図において、TP
targetが多数のTP
xから選択された。
【0047】
本発明によれば、m
targetは、熱処理の任意の時点の期待されるミクロ組織であり得る。言い換えれば、m
targetは、
図4に示す熱処理の最後又は
図5に示す熱処理の正確な瞬間の期待されるミクロ組織であり得る。実際、例えば、Q&P鋼板については、焼入れ及び分配処理の重要な点は、
図5のT’
4に対応するT
qであり、これは焼入れの温度である。したがって、考慮すべきミクロ組織はm’
targetであり得る。この場合、TP’
targetを鋼板に対して適用した後、事前に定められた処理を適用することが可能である。
【0048】
本発明による方法により、得られるDP、TRIP、Q&P、TWIP、CFB、PHS、TRIPLEX、DUPLEX、DP HDを含む前記事前に定められた製品タイプを含む鋼板でできたコイルを得ることが可能であり、そのようなコイルは、コイルに沿った任意の2点間で25MPa以下、好ましくは15MPa以下、より好ましくは9MPa以下の機械的性質の標準偏差を有する。実際、いかなる理論によっても制限されることは望まないが、計算ステップB.1)を含む方法は、コイルに沿った鋼板のミクロ組織のばらつきを考慮していると考えられる。したがって、ステップB)において鋼板に対して適用されるTPtarget、ミクロ組織並びに機械的性質の均質化を可能にする。
【0049】
好ましくは、機械的性質は、YS、UTS及び伸びから選ばれる。標準偏差の値の低さは、TPtargetの精度に起因する。
【0050】
好ましくは、コイルは、亜鉛に基づく、又はアルミニウムに基づく金属被覆によって覆われている。
【0051】
好ましくは、工業的生産において、同じラインで生産されたDP、TRIP、Q&P、TWIP、CFB、PHS、TRIPLEX、DUPLEX、DP HDを含む前記事前に定められた製品タイプを含む鋼板でできた2つのコイル間の連続的に測定された機械的性質の標準偏差は、25MPa以下、好ましくは15MPa以下、より好ましくは9MPa以下である。
【0052】
本発明による方法の実施のための熱的処理ラインが、TPtargetを実施するために使用される。例えば、熱的処理ラインは、連続焼鈍炉、プレスハードニング炉、バッチ焼鈍又は焼入れラインである。
【0053】
最後に、本発明は、TPtargetを決定するために互いに協働する少なくとも冶金学的モジュール、最適化モジュール及び熱的モジュールを含むコンピュータプログラム製品であって、コンピュータにより実施されたとき本発明による方法を実施するソフトウェア命令をそのようなモジュールが含む、コンピュータプログラム製品に関する。
【0054】
冶金学的モジュールは、ミクロ組織(準安定相:ベイナイト及びマルテンサイト並びに安定相:フェライト、オーステナイト、セメンタイト及びパーライトを含むmx、mtarget)、より正確には全処理にわたる相の割合を予測し、相変態の速度を予測する。
【0055】
熱的モジュールは、熱処理に使用される設備、例えば、連続焼鈍炉である設備、バンドの幾何学的特性、冷却能、加熱能又は等温能を含む工程パラメータ、相変態が実施されるときにすべての熱経路に沿って放出又は消費される熱エンタルピーHに応じて鋼板温度を予測する。
【0056】
最適化モジュールは、冶金学的モジュール及び熱的モジュールを使用する本発明による方法にしたがって、mtargetに達するための最良の熱経路、すなわちTPtargetを決定する。
【0057】
ここで本発明を、情報のためだけに実施された試行において説明する。それらの試行は限定的ではない。
【実施例0058】
この実施例では、以下の化学組成を有するDP780GIを選んだ:
【0059】
【0060】
1mmの厚さを得るために、冷間圧延の圧下率は50%であった。
【0061】
達すべきmtargetは、以下のPtarget:500MPaのYS及び780MPaのUTSに対応する13%のマルテンサイト、45%のフェライト及び42%のベイナイトを含んでいた。亜鉛浴による溶融めっきを実施するために、460℃の冷却温度Tcoolingにも達しなければならなかった。Zn浴内の良好な被覆性を保証するために、この温度に+/-2℃の精度で達しなければならない。
【0062】
最初に、mtargetに最も近いミクロ組織mstandardを有する選択された製品を得るために、鋼板を、事前に定められた製品のリストと比較した。選択された製品は、以下の化学組成を有するDP780GIであった:
【0063】
【0064】
DP780GIのミクロ組織、すなわちmstandardは、10%のマルテンサイト、50%のフェライト及び40%のベイナイトを含む。対応する熱経路TPstandardは以下を含む:
- 鋼板が、周囲温度から680℃まで35秒間加熱される、予熱ステップ、
- 鋼板が、680℃から780℃まで38秒間加熱される、加熱ステップ、
- 鋼板が、780℃の均熱温度Tsoakingで22秒間加熱される、均熱ステップ、
- 鋼板が、以下の通りHNxを噴霧する11個の冷却ジェットで冷却される、冷却ステップ:
【0065】
【0066】
- 460℃の亜鉛浴内での溶融めっき、
- 300℃で24.6s間のトップロールまでの鋼板の冷却及び
- 周囲温度での鋼板の冷却。
【0067】
次いで、多数の熱経路TPxを、選択された製品DP780及びTPstandard並びにmtargetに達するためのDP780のmiに基づいて計算した。
【0068】
TPxの計算後、mtargetに達するための1個の熱経路TPtargetを選択し、TPtargetを、TPxから選び、及びmxがmtargetに最も近いように選択した。TPtargetは以下を含む:
- 鋼板が、周囲温度から680℃まで35秒間加熱される、予熱ステップ、
- 鋼板が、680℃から780℃まで38s間加熱される、加熱ステップ、
- 鋼板が、780℃の均熱温度Tsoakingで22秒間加熱される、均熱ステップ、
- 鋼板が、以下の通りHNxを噴霧する11個の冷却ジェットで冷却される、冷却ステップ:
【0069】
【0070】
- 460℃の亜鉛浴内での溶融めっき、
- 300℃で24.6s間のトップロールまでの鋼板の冷却及び
- 周囲温度までの鋼板の冷却。
【0071】
表1は、鋼板に対するTPstandard及びTPtargetにより得られた性質を示す:
【0072】
【0073】
表1は、本発明による方法により、熱経路TPtargetが各鋼板に適合されているため、所望の期待される性質を有する鋼板を得ることが可能であることを示す。一方、従来の熱経路TPstandardを適用することにより、期待される性質は得られない。
前記事前に定められた製品タイプが、二相、変態誘起塑性、焼入れ及び分配された鋼、双晶誘起塑性、炭化物を含まないベイナイト、プレスハードニング鋼、TRIPLEX、DUPLEX及び高延性二相を含む、請求項1又は2に記載の方法。
前記工程パラメータが、達すべき特定の熱鋼板温度、ライン速度、冷却部の冷却能、加熱部の加熱能、過時効温度、冷却温度、加熱温度及び均熱温度の中から選ばれる少なくとも1つの要素を含む、請求項10に記載の方法。