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特開2022-175178蓄放熱酸化チタンの製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175178
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】蓄放熱酸化チタンの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20221117BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C01G23/04 Z
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081388
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 梨沙
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博文
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB04
4G047CC03
4G047CD04
(57)【要約】
【課題】蓄熱状態の精度よい推定を行って、所望の蓄熱状態となるように、蓄放熱を制御可能な蓄放熱装置を提供する。
【解決手段】β相からλ相への相転移により蓄熱しλ相からβ相への相転移により放熱する特性を有する五酸化三チタン系材料の結晶粒子を含む蓄放熱酸化チタンの製造方法は、二酸化チタンを含む原料粉末を揺動させながら、加熱すると共に、水素を含む還元ガスと接触させて還元反応させることにより、五酸化三チタン系材料を生成する、還元焼成工程を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β相からλ相への相転移により蓄熱しλ相からβ相への相転移により放熱する特性を有する五酸化三チタン系材料の結晶粒子を含む蓄放熱酸化チタンの製造方法であって、
二酸化チタンを含む原料粉末を揺動させながら、加熱すると共に、水素を含む還元ガスと接触させて還元反応させることにより、上記五酸化三チタン系材料を生成する、還元焼成工程を備える、蓄放熱酸化チタンの製造方法。
【請求項2】
上記還元焼成工程において、上記原料粉末は、加熱された可動容器の内部において、上記可動容器の運動に伴って揺動し、上記可動容器内を流通する上記還元ガスと接触する、請求項1に記載の蓄放熱酸化チタンの製造方法。
【請求項3】
上記可動容器は、中心軸周りに回動可能な筒状体であり、上記還元焼成工程において、上記可動容器の回動に伴い上記原料粉末が揺動すると共に、上記可動容器の軸方向の一端側から導入される上記還元ガスが、他端側へ向けて移動する間に、上記原料粉末と接触する、請求項2に記載の蓄放熱酸化チタンの製造方法。
【請求項4】
上記還元焼成工程において、上記可動容器を加熱しながら、上記中心軸周りに、5rpm以上30rpm以下の回転速度で回転させる、請求項3に記載の蓄放熱酸化チタンの製造方法。
【請求項5】
上記還元焼成工程において、上記還元ガスの流量は、1L/min以上4L/min以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄放熱酸化チタンの製造方法。
【請求項6】
上記還元焼成工程において、上記原料粉末の焼成温度は、1250℃以上1600℃以下であり、上記焼成温度における保持時間は、2時間以上10時間以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄放熱酸化チタンの製造方法。
【請求項7】
体積基準の粒度分布における、上記原料粉末の累積50%粒径を示す平均粒径D1と、上記還元焼成工程によって生成する上記五酸化三チタン系材料の結晶粒子の累積50%粒径を示す平均粒径D2とは、D2/D1≦10の関係にある、請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄放熱酸化チタンの製造方法。
【請求項8】
β相からλ相への相転移により蓄熱しλ相からβ相への相転移により放熱する特性を有する五酸化三チタン系材料の結晶粒子を含む蓄放熱酸化チタンの製造装置(1)であって、
二酸化チタンを含む原料粉末(10)の供給口(11)が設けられ、中心軸周りに回動可能に設けられた筒状炉(2)と、上記筒状炉の一端側に設けられる還元ガスの導入口(21)及び他端側に設けられる上記還元ガスの導出口(22)と、
上記筒状炉を加熱するヒータ部(3)と、
上記筒状炉及び上記ヒータ部の作動を制御する制御部(4)と、を備えており、
上記制御部は、上記筒状炉内に上記還元ガスを流通させ、上記ヒータ部により上記筒状炉を加熱すると共に、上記筒状炉を上記中心軸周りに回動させることにより、上記供給口から供給される上記原料粉末を揺動させた状態で、上記筒状炉内を流通する上記還元ガスと接触させる、蓄放熱酸化チタンの製造装置。
【請求項9】
上記筒状炉は、水平方向に対して傾斜して配置されており、鉛直方向において、上記筒状炉の下端側に上記導入口が設けられ、上記筒状炉の上端側に上記導出口が設けられて、上記還元ガスが上記筒状炉内を下端側から上端側へ移動する間に、上記原料粉末と接触する、請求項8に記載の蓄放熱酸化チタンの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄放熱酸化チタンを製造するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱と放熱とを繰り返す蓄放熱材料として、セラミックス系の蓄熱材料である蓄放熱酸化チタンが知られている。蓄放熱酸化チタンは、λ相とβ相との間で相転移する五酸化三チ1タン(すなわち、Ti35)系の材料であり、β相からλ相への相転移に伴って潜在的に熱を蓄え、λ相からβ相への相転移に伴って蓄えている熱を放出する性質を有する。蓄放熱酸化チタンを含む蓄放熱材料は、固相から固相への相転移を利用することから取り扱いが容易であり、システム排熱等の熱エネルギを効率よく保存可能であることから、各種システムの熱交換部への応用が期待されている。
【0003】
蓄放熱酸化チタンの製造方法としては、例えば、二酸化チタン(すなわち、TiO2)のナノサイズ粒子を、水素雰囲気下で加熱して還元反応させる方法が知られている。また、特許文献1には、ナノサイズの原料粒子を準備する代わりに、特定の比表面積を有するチタン原料を用いる方法が提案されている。具体的には、比表面積が1.0m2/g~10.0m2/gの範囲内にある二酸化チタンを還元処理することにより、比表面積が1.15m2/g~1.5m2/gの範囲内にある五酸化三チタン粒子が得られ、相転移による蓄放熱特性が発現することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-167274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄放熱酸化チタンは、λ相にあるときには、圧力や放熱光といった外部刺激を受けるまで蓄熱状態を保持可能であり、外部刺激が加えられるとβ相に相転移して、蓄えた熱を放出する。この特性を活かして、任意のタイミングで放熱可能な蓄放熱体に応用することが検討されており、所望の放熱量を効率よく得るには、蓄放熱酸化チタンに含まれるλ相が多いほどよい。ところが、従来の製造方法で得られる蓄放熱酸化チタンは、λ相とβ相とが混在するものとなり、特許文献1に記載される方法において、得られた五酸化三チタン粒子のλ相の割合は、50%を超える程度であり、最大でも80%となっている。その場合には、所望のλ相の割合とするために、さらに熱処理等を行って、β相からλ相へ相転移させる必要があった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、蓄放熱酸化チタンに含まれるλ相の割合をより高めることができる、蓄放熱酸化チタンの製造方法及び製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
β相からλ相への相転移により蓄熱しλ相からβ相への相転移により放熱する特性を有する五酸化三チタン系材料の結晶粒子を含む蓄放熱酸化チタンの製造方法であって、
二酸化チタンを含む原料粉末を揺動させながら、加熱すると共に、水素を含む還元ガスと接触させて還元反応させることにより、上記五酸化三チタン系材料を生成する、還元焼成工程を備える、蓄放熱酸化チタンの製造方法にある。
【0008】
また、本発明の他の態様は、
β相からλ相への相転移により蓄熱しλ相からβ相への相転移により放熱する特性を有する五酸化三チタン系材料の結晶粒子を含む蓄放熱酸化チタンの製造装置(1)であって、
二酸化チタンを含む原料粉末(10)の供給口(11)が設けられ、中心軸周りに回動可能に設けられた筒状炉(2)と、上記筒状炉の一端側に設けられる上記還元ガスの導入口(21)及び他端側に設けられる上記還元ガスの導出口(22)と、
上記筒状炉を加熱するヒータ部(3)と、
上記筒状炉及び上記ヒータ部の作動を制御する制御部(4)と、を備えており、
上記制御部は、上記筒状炉内に上記還元ガスを流通させ、上記ヒータ部により上記筒状炉を加熱すると共に、上記筒状炉を上記中心軸周りに回動させることにより、上記供給口から供給される上記原料粉末を揺動させた状態で、上記筒状炉内を流通する上記還元ガスと接触させる、蓄放熱酸化チタンの製造装置にある。
【発明の効果】
【0009】
上記蓄放熱酸化チタンの製造方法によれば、還元焼成工程において、二酸化チタンを含む原料粉末が揺動している状態で、加熱されつつ、還元ガスと接触するので、原料粉末の粒子同士の凝集を抑制しながら、還元反応を進行させることができる。すなわち、原料粉末の各粒子が均一に昇温し、各粒子の周囲に還元ガスが均一に供給されて、二酸化チタンと水素との接触確率が増加する。これにより、β相よりも高いエネルギ状態にあるλ相のへの結晶変態が進み、β相の部分的な出現が抑制されて、λ相比率の高い五酸化三チタン系材料の結晶粒子が得られるものと推測される。
【0010】
また、この製造方法は、上記蓄放熱酸化チタンの製造装置を用いることにより、好適に実施することができる。具体的には、制御部により、筒状炉に還元ガスを導入すると共に、ヒータ部によって筒状炉を加熱して、その内部空間を高温の還元雰囲気とし、さらに筒状炉を回動させる。これにより、供給口から内部空間へ供給される原料粉末を揺動させながら、還元ガスと接触させることができるので、原料粉末粒子の凝集を抑制しながら、二酸化チタンの水素による還元反応を進行させ、λ相の割合が高い蓄放熱酸化チタンの粒子を製造することが可能になる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、蓄放熱酸化チタンに含まれるλ相の割合をより高めることができる、蓄放熱酸化チタンの製造方法及び製造装置を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1における、蓄放熱酸化チタンの製造方法の概要を示す工程図である。
図2】実施形態1における、蓄放熱酸化チタンの製造方法の詳細を示す工程図である。
図3】実施形態1における、蓄放熱酸化チタンの製造装置の全体構成を示す概略図である。
図4】実施例及び比較例において、得られた蓄放熱酸化チタンのλ相比率を比較して示す柱状グラフ図である。
図5】比較例において、得られた蓄放熱酸化チタンのλ相比率を比較して示す柱状グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
蓄放熱酸化チタンの製造方法及び製造装置に係る実施形態1について、図1図3を参照して説明する。本形態において製造される蓄放熱酸化チタンは、還元型酸化チタンの一種として知られているものであり、β相からλ相への相転移により蓄熱しλ相からβ相への相転移により放熱する特性を有する五酸化三チタン系材料を含む。五酸化三チタン系材料は、Ti35の組成を有する五酸化三チタンを主成分とする材料であり、Tiの一部が他の元素で置換された置換型の五酸化三チタンを含む材料であってもよい。
【0014】
図1に示すように、蓄放熱酸化チタンの製造方法は、TiO2の組成を有する二酸化チタンを含む原料粉末を還元焼成して、五酸化三チタン系材料を生成させる還元焼成工程を備える。本形態における製造工程は、具体的には、(1)原料準備工程、(2)還元焼成工程、(3)冷却工程を含み、これら工程を経て、五酸化三チタン系材料の結晶粒子を含む蓄放熱酸化チタン(以下、適宜、蓄放熱酸化チタンの粒子と称する)が得られる。この製造方法の実施に適した装置構成の詳細は、後述する。
【0015】
(1)原料準備工程では、蓄放熱酸化チタンの原料として、二酸化チタンを含む原料粉末を準備する。蓄放熱酸化チタンが、置換型の五酸化三チタンを含む場合には、置換元素を含む材料を添加した原料粉末を用いることができる。置換型の五酸化三チタンは、Ti35のTiの一部が、Ti以外の元素で置換された組成を有するものであり、例えば、非置換型のものよりも相転移温度が低くなるように調整することが可能になる。このような置換元素としては、例えば、Hf、Zr、Si、Sc、Y、Mg、Al等が挙げられ、用途や使用環境に応じて、適宜選択することができる。好適には、各原料粉末の除湿工程を追加することができ、予め除湿を行って保存しておいた原料粉末を用いることにより、次工程における還元焼成中の凝集を抑制する効果を高めることが可能になる。
【0016】
(2)還元焼成工程では、二酸化チタンを含む原料粉末を、揺動させながら、加熱すると共に、水素を含む還元ガスと接触させる。これにより、水素による還元反応が進行し、五酸化三チタン系材料の結晶粒子が生成する。原料粉末は、例えば、加熱された可動容器の内部において、可動容器の運動に伴って揺り動かされ、可動容器内を流通する還元ガスと接触する。
【0017】
ここで、可動容器の運動は、特に制限されず、原料粉末が任意の方向に揺れ動く「揺動」を付与可能な運動であればよい。このとき、「揺動」には、特定の方向又は周期的に振れ動く「振動」等が含まれる。具体的には、可動容器の運動として、回転運動、回動運動、特定方向の往復運動、任意の方向の揺動運動、その他の運動が挙げられる。これにより、原料粉末は、可動容器の内部空間において一定の部位に留まらず、任意に揺れ動くので、原料粉末の凝集が抑制され、還元ガスとの接触機会が増加して、還元反応が促進される。
【0018】
好適には、原料粉末が収容される可動容器は、中心軸周りに回動可能な筒状体とすることができる。このとき、還元焼成工程において、可動容器の回動に伴い原料粉末が揺動すると共に、可動容器の軸方向の一端側から導入される還元ガスが、他端側へ向けて移動する間に、原料粉末と接触する。ここで、可動容器は、周方向に変位する「回動」可能に構成されていればよく、例えば、一定方向の回転運動又は所定の角度範囲での往復運動を含む。可動容器を回動させると、内部に投入される原料粉末が、底部側の一定の部位に滞留せず、任意の方向に揺動可能となる。
【0019】
このように、原料粉末を揺動させながら、還元焼成することにより、原料粉末の粒子同士の接触が抑制され、各粒子の周囲に還元ガスが供給されやすくなる。これにより、還元ガスとの接触機会が増加して、二酸化チタンの水素還元による五酸化三チタンの生成反応が促進される。また、原料粉末粒子の凝集が抑制されて、各粒子が均一に加熱されることにより、λ相の生成に十分な熱エネルギを与えることが可能となり、β型の部分的な出現が抑制されて、λ相の五酸化三チタンが生成する割合が増加する。
【0020】
その後、(3)冷却工程において、(2)還元焼成工程により生成する蓄放熱酸化チタンの粒子を取り出し、放冷する。蓄放熱酸化チタンは、λ相の生成後に温度が低下しても、λ相から結晶構造が変化することがなく、λ相の割合(以下、適宜、λ相比率と称する)が高い状態を維持することができる。このようにして製造されるλ相比率の高い蓄放熱酸化チタンの粒子は、例えば、蓄放熱体の構成材料として有用である。蓄放熱体は、構成材料である蓄放熱酸化チタンの結晶構造に応じた蓄放熱特性及び電気的特性を示し、λ相比率が高いほど、潜在的な蓄熱量が増加する。
【0021】
なお、五酸化三チタンの結晶構造は、β相、λ相及びα相等を含む多形を有し、460K(すなわち、約187℃)以下の温度領域において、常磁性金属の状態を保つ単斜晶系の結晶相(すなわち、λ相)となり、外部刺激を受けない限り、その状態を維持することができる。λ相である五酸化三チタンに、圧力等の外部刺激を与えると、潜在的に蓄えていた熱を放出し、非磁性半導体の特性を有する単斜晶系の結晶相(すなわち、β相)へ相転移する。五酸化三チタンは、β相にあるときに温度を上げていくと、460Kを超える温度領域で、常磁性金属の状態を保つ斜方晶系の結晶相(すなわち、α相)へ相転移し、その後に460Kを下回ると、α相からλ相へ相転移する。
【0022】
λ相の五酸化三チタンは、結合エネルギとしてエネルギを保存し、外部刺激によりTi-O結合の切断と再結合によりβ相への相転移が発生する際に、熱エネルギとして放出することができる。また、β相にあるときに外部エネルギを与えると、λ相へ直接相転移し、又は、α相を経由してλ相へ相転移する。λ相、α相は金属特性を有し、半導体特性を有するβ相よりも低い電気抵抗率を示す。この特性を利用して、電気抵抗率から、蓄放熱体のλ相比率を知ることができる。外部エネルギは、例えば、電気エネルギ、熱エネルギ及び光エネルギのうちの少なくとも1つであり、外部刺激は、圧力、光及び電流のうちの少なくとも1つである。
【0023】
このようにしてλ相比率を高めた蓄放熱酸化チタンは、システム排熱等の熱エネルギを吸収して保存し、所望のタイミングで放熱する蓄放熱体として利用されて、効率よい熱交換を行うことができる。また、蓄放熱酸化チタンは、固体間の相転移を利用することから、蓄放熱体の取り扱いが容易で、蓄放熱時の制御性も良好であり、低温・長期保存が可能で、安価な原料から製造可能である、といった利点を有する。
【0024】
次に、図2図3を参照しながら、本形態の蓄放熱酸化チタンの製造装置1と、この製造装置1を用いた製造工程の一例について、詳述する。図3に示すように、蓄放熱酸化チタンの製造装置1は、筒状体からなる可動容器としての筒状炉2と、筒状炉2を加熱するヒータ部3と、筒状炉2及びヒータ部3の作動を制御する制御部4と、筒状炉2を支持する台座5と、冷却部6とを備える。筒状炉2は、細長い円筒形状を有し概略一定径の耐熱管からなり、内部空間20に投入される原料粉末10を、揺動させながら還元焼成可能に構成されている。
【0025】
筒状炉2は、一端側(すなわち、図3の左端側)に、水素を含む還元ガスの導入口21が設けられると共に、他端側(すなわち、図3の右端側)に、還元ガスの導出口22が設けられている。これにより、筒状炉2の内部空間20に導入される還元ガスが、図3中に矢印で示すように、一端側から他端側へ向けて、一定方向に流通する。
【0026】
好適には、筒状炉2の軸方向Xが、水平方向に対して傾斜するように配置される。このとき、鉛直方向において、還元ガスの導入口21は、傾斜する筒状炉2の下端側(すなわち、図3の左端側)となり、導出口22は、筒状炉2の上端側(すなわち、図3の右端側)となるように設けられる。また、還元ガスの導出口22の近傍に、原料粉末10の供給口11が設けられ、還元ガスの導入口21の近傍に、還元焼成によって生成する蓄放熱酸化チタンの粒子10Aの取出口12が設けられる。供給口11は、筒状炉2の上端に接続し、上方へ向けて開口している。
【0027】
このとき、比重の小さい水素を含む還元ガスは、筒状炉2の下端側に位置する導入口21から所定の還元ガス流量で供給され、上端側に位置する導出口22へ向けて、内部空間20内を容易に移動可能となる。また、筒状炉2の上端側に配置される供給口11から、原料粉末10が投入され、図示しないスクリューにて押し出されて、内部空間20内へ導入されると共に、下端側に配置される取出口12へ向けて、内部空間20内を自重で移動可能となる。このように、還元ガスの流通方向と原料粉末10の流通方向とが、逆方向になることにより、原料粉末10と還元ガスに含まれる水素とがより接触しやすくなる。
【0028】
筒状炉2の傾斜角度は、特に制限されず、例えば、所望の焼成温度に調整された内部空間20における原料粉末10の滞留時間が、焼成温度における所望の保持時間と対応するように、筒状炉2の長さ等に応じて、適宜設定することができる。通常は、傾斜角度が小さいほど、保持時間が長くなり、傾斜角度が大きいほど、保持時間が短くなる。また、原料粉末10の滞留時間には、供給口11の下方に位置するスクリューの回転速度や筒状炉2の回転速度も影響するので、これらを適度に調整して、所望の保持時間となるようにすることが望ましい。
【0029】
筒状炉2は、耐熱性の筐体50に収容された状態で、台座5上に設けられた一対の支持部51、52によって、所定の傾斜角度を保って支持される。一対の支持部51、52は、例えば、少なくとも一方が昇降可能に設けられることによって、筐体50の左端部を支持する支持部51の高さに対して、右端部を支持する支持部52の高さを調整して、傾斜角度を調整することができる。筒状炉2の両端部は、筐体50の外方に突出し、筐体50の外壁部に設けられる軸受部53、54によって、中心軸周りに回転可能に支持される。
【0030】
筒状炉2の右端部には、還元ガスの導出口22の外側に、原料粉末10の供給口11が配置され、左端部には、還元ガスの導入口21の外側に、生成する蓄放熱酸化チタンの粒子10Aの取出口12が配置される。取出口12は、冷却部6に接続される。冷却部6の構成は、特に制限されず、例えば、鉛直方向に配置される管状体にて構成することにより、蓄放熱酸化チタンの粒子10Aが自重で下方へ移動する間に放冷可能となる。
【0031】
また、筒状炉2は、例えば、筐体50の外壁部に設けられるモータ等の回転駆動部55によって、制御部4からの指令により、所定の回転速度で回転駆動される回転炉として構成される。筐体50の内部において、筒状炉2の両端側を除く本体部23の周囲には、ヒータ部3が設置されており、制御部4からの指令により、本体部23の全体を所定の焼成温度に制御可能となっている。ヒータ部3は、例えば、断熱性の筐体内壁部に、通電によって発熱する発熱体が配置されると共に、筐体内部の温度を検出する温度検出部を備える構成とすることができ、制御部4は、温度検出部にて検出される温度に応じて、発熱体への通電を制御することができる。
【0032】
図2に示すように、このような構成の製造装置1を用いて、蓄放熱酸化チタンを製造する工程は、詳細には、(1)原料準備工程後に、(2)還元焼成工程として、筒状炉2への(21)ガス供給工程と、(22)昇温工程と、(23)回転工程と、(24)原料投入工程と、(25)温度保持工程とを含む。その後の(3)冷却工程は、(31)粒子取出工程と、(32)放冷工程と、を含む。
【0033】
(1)原料準備工程では、上述したように、二酸化チタンを含む原料粉末を準備する。一般に、二酸化チタンは、ルチル型、アナターゼ型等の結晶構造を有することが知られており、原料となる二酸化チタン粉末は、これらのいずれであってもよいが、好ましくは、ルチル型の結晶構造を有する二酸化チタン粉末が用いられる。蓄放熱酸化チタンが、置換型の五酸化三チタンを含む場合には、置換元素を含む材料を添加した原料粉末を用いることができる。
【0034】
原料粉末の粒径は、必ずしも制限されないが、好適には、累積粒度分布における、体積基準の50%粒径(D50)を示す平均粒径D1が、0.5μm以上であることが好ましい。その場合には、原料コストを抑制しながら、原料となる二酸化チタンの還元反応を促進可能となる。好適には、平均粒径D1は、1.0μm以上であることが、より好ましい。また、原料粉末の全体で均一に二酸化チタンの還元反応を進める等の観点から、平均粒径D1は、5μm以下であることが好ましい。好適には、平均粒径D1は、4μm以下であることが、より好ましい。
【0035】
(2)還元焼成工程では、まず、(21)ガス供給工程において、筒状炉2へ水素を含む還元ガスを供給する。還元ガスは、水素ガス、又は、水素ガスに窒素ガス等の不活性ガスを混合した混合ガスを用いることができる。還元ガス中の水素濃度は、好適には、75体積%以上100体積%以下の範囲で適宜選択することができ、原料粉末10に対して。水素による還元反応を好適に進行させることができる。
【0036】
還元ガスの供給は、筒状炉2の内部空間20における還元ガス流量が、通常は、1L/min以上となるように調整されることが望ましい。これにより、原料粉末10の周囲に、還元反応の進行に必要な水素の供給が可能であり、好適には、ガス流量が、2L/min以上であると、十分な水素を供給するという観点から、より好ましい。また、過剰な水素の供給を抑制するという観点から、内部空間20内におけるガス流量は、4L/min以下であることが望ましい。
【0037】
このとき、常温で、還元ガスの導入を開始してもよいし、まず、不活性ガスのみを導入し、次工程で昇温を開始してから、還元ガスを導入してもよい。その場合には、(22)昇温工程が開始されたタイミングで、あるいは、昇温工程の途中のタイミングで、所望の水素濃度の還元ガスに切り替えることができる。
【0038】
(22)昇温工程では、制御部4からヒータ部3へ通電して、筒状炉2の加熱を開始する。制御部4は、筒状炉2の本体部23が所定の焼成温度となるように、ヒータ部3への通電を制御する。焼成温度は、好適には、焼成温度が1250℃以上であると、原料粉末10の水素還元反応を良好に進行させるために、望ましい。より好適には、焼成温度が1300℃以上であると、生成するλ相比率をより高めるという観点から好ましい。また、製造装置1の耐熱性等の観点から、焼成温度は、1600℃以下、好適には、1400℃以下の範囲であることが望ましい。
【0039】
(23)回転工程では、制御部4から回転駆動部55へ通電して、筒状炉2の回転駆動を開始する。筒状炉2の回転速度は、原料粉末10が適度に揺動可能となるように、通常は、5rpm以上30rpm以下の範囲で選択されることが望ましい。回転速度が5rpm未満であると、原料粉末10が十分に揺動せず、凝集しやすくなるおそれがある。また、回転速度が30rpmを超えると、原料粉末10と水素との接触が不安定になり、生成するλ相の比率が低下するおそれがある。
【0040】
(24)原料投入工程では、筒状炉2の上端側に位置する供給口11から、(1)原料準備工程にて準備した原料粉末10の投入を開始する。原料粉末10は、供給口11の下方にて所定速度で回転するスクリューによって押し出され、所定の回転速度で回転する筒状炉2に投入されて、その内部空間20を揺動しながら下端側へ移動し、所定の焼成温度に制御された本体部23へ導入される。一方、内部空間20には、下端側から上端側へ向けて、還元ガスが流通しており、高温の本体部23において、導入される原料粉末10と接触することにより、二酸化チタンの水素還元反応が進行する。
【0041】
(25)温度保持工程では、筒状炉2の本体部23内において、原料粉末10が所定の焼成温度に保持される。焼成温度における保持時間は、例えば、2時間以上10時間以下の範囲で、所望のλ相比率の蓄放熱酸化チタンが得られるように、適宜選択することができる。保持時間が2時間に満たないと、還元不足となるおそれがあり、また、10時間を超えると、過剰還元となるおそれがあり、いずれも所望の蓄放熱酸化チタンが得られないおそれがある。具体的には、焼成温度が低いほど、保持時間が長くなるように調整され、また、焼成温度が高いほど、保持時間が短くなるように調整されることが望ましい。好適には、2時間以上5時間以下の範囲で、焼成温度に応じて、適宜選択されることが、より好ましい。
【0042】
筒状炉2は、適度な傾斜角度と回転速度に調整されているので、投入される原料粉末10は、傾斜方向(すなわち、軸方向X)又は回転方向の力を受けて、適度に揺り動かされながら徐々に移動することにより、粒子同士の凝集が抑制される。また、還元ガスは、原料粉末10の供給方向と逆方向に、適度な流入量で流通するように調整されるので、原料粉末10の各粒子の周囲に十分な量の還元ガスが安定して供給されて、二酸化チタンと水素の接触機会が増加する。
【0043】
これにより、原料粉末10が、本体部23を揺動しながら通過する間に、高温状態で還元ガスと十分に接触して、よりエネルギ状態の高いλ相の五酸化三チタンの生成が促進される。その際に粒子の凝集が抑制されるので、部分的なβ相の生成が抑制され、また、β相が生成してもλ相へ容易に相転移することができる。そのために、λ相比率が高くなると共に、粒成長が進み、比較的粒径の大きい蓄放熱酸化チタンの粒子10Aが得られる。
【0044】
このようにして得られる蓄放熱酸化チタンは、体積基準の累積50%粒径(D50)を示す平均粒径D2と、原料粉末10の平均粒径D1とが、D2/D1≦10の関係にあることが望ましい。D2/D1は、原料粉末10の平均粒径D1に対する平均粒径D2の拡大比率を表し(以下、適宜、粒径拡大率と称する)、粒径拡大率D2/D1が10以下に抑制されることで、λ化が促進され、80%を超える高いλ相比率が得られる。粒径拡大率D2/D1が10を超えると、二次粒子の凝集によりλ化が抑制されるおそれがある。好適には、D2/D1≦10の範囲において、所望のλ相比率となるように、製造条件等が適宜設定されることが望ましい。
【0045】
(3)冷却工程は、(31)粒子取出工程において、筒状炉2の下端部に達した蓄放熱酸化チタンの粒子10Aが、取出口12から冷却部6へ排出され、(32)放冷工程において、冷却部6を通過する間に、空冷又は自然放冷される。なお、筒状炉2から冷却部6への取り出しや冷却部6における冷却のための構成は、特に制限されるものではなく、適宜変更することができる。
【0046】
本形態において、(2)還元焼成工程は、原料粉末10を筒状炉2の供給口11へ連続投入し、筒状炉2を通過させて取出口12から連続的に取り出す連続式としてもよいし、所定量の原料粉末10を投入し、所定の保持時間の経過後に、筒状炉2から取り出すバッチ式としてもよい。いずれの場合も、所定の焼成温度にて揺動させながら原料粉末10を還元焼成することにより、所望のλ相比率の蓄放熱酸化チタンを得ることができる。
【実施例0047】
(実施例1)
上述した図2の製造工程に基づいて、以下の方法で、蓄放熱酸化チタンを製造した。
原料粉末10として二酸化チタン粉末を準備し(原料準備工程)、図3の製造装置1を用いて、水素ガスによる還元焼成を行い、蓄放熱酸化チタンの粒子10Aとなる五酸化三チタンの結晶粒子を得た(還元焼成工程、冷却工程)。原料となる二酸化チタン粉末は、体積基準の累積50%粒径(D50)である平均粒径D1が、2.5μmであるものを用い、還元ガスは、水素ガス(すなわち、水素濃度100体積%)とした。
【0048】
製造装置1は、予め、傾斜配置された筒状炉2の下端側となる導入口21から、水素ガスを、2L/分の還元ガス流量にて導入して、内部空間20を水素ガス雰囲気に置換した(ガス供給工程)、また、制御部4により、ヒータ部3に通電して筒状炉2を外側から加熱して、内部空間20内の雰囲気温度を上昇させた(昇温工程)。次いで、制御部4により、回転駆動部55に通電し、筒状炉2を回転速度5rpmで回転駆動させた(回転駆動工程)。この状態で、筒状炉2の上端側に位置する供給口11から、原料粉末10を投入し(原料投入工程)、原料粉末10の移動方向に対して、水素ガスの供給方向が逆方向となるようにして、原料粉末10を揺動させながら、水素ガスと接触させた。このとき、筒状炉2は、原料粉末10が本体部23において所定の時間滞留するように調整されており、焼成温度1300℃、保持時間3時間となるようにして(温度保持工程)、還元焼成を行った。
【0049】
その後、筒状炉2の下端側となる取出口12から、冷却部6を経て排出される蓄放熱酸化チタンの粒子10Aを取り出した(粒子取出工程、放冷工程)。得られた蓄放熱酸化チタンの粒子10Aについて、レーザー回折・散乱法を用いて平均粒径D2を測定し、原料粉末の平均粒径D1に対する粒径拡大率D2/D1を算出した。平均粒径D2の測定には、マイクロトラック・ベル株式会社製の粒度分布測定装置(装置名:MT3000)を用い、得られた体積基準の粒度分布に基づく累積50%粒径(D50)を、平均粒径D2とした。
【0050】
また、蓄放熱酸化チタンの粒子10Aについて、X線回折法(すなわち、X-ray Diffraction;以下、適宜、XRDと称する)による結晶相の同定を行って、λ相比率を算出した。λ相比率の算出には、株式会社リガク製の粉末X線回折装置を用い、例えば、特開2020-15657号公報に記載される方法に基づいて、得られたXRDパターンから、λ相のピーク(すなわち、2θ=32.17°)における強度と、β相のピーク(すなわち、2θ=28.35°)における強度を測定し、下記式1に基づいて算出した。
式1:λ相比率={(λ相のピーク強度)×28.2)/[(λ相のピーク強度)×28.2)+(β相のピーク強度)×31.0)]}×100
【0051】
このようにして算出した粒径拡大率D2/D1及びλ相比率を、試験条件と共に、表1に併記した。
【0052】
【表1】
【0053】
(実施例2)
実施例1と同様の製造装置1を用い、筒状炉2における保持時間を2時間とした以外は、同様の工程に基づいて、蓄放熱酸化チタンの粒子10Aを製造した。得られた蓄放熱酸化チタンの粒子10Aについて、同様の方法で、粒径拡大率D2/D1と、λ相比率を算出した結果を、試験条件と共に、表1に併記した。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同様の製造装置1を用い、筒状炉2を傾斜配置せず、回転駆動しない状態で、内部空間20へ還元ガスを導入し、本体部23における原料粉末10の焼成温度を1400℃、保持時間を5時間とした以外は、同様の工程に基づいて、蓄放熱酸化チタンの粒子10Aを製造した。このとき、本体部23において、原料粉末10は所定位置に滞留し、揺動は付与されない。このようにして、得られた蓄放熱酸化チタンの粒子10Aについて、同様の方法で、粒径拡大率D2/D1と、λ相比率を算出した結果を、試験条件と共に、表1に併記した。
【0055】
表1の結果から、実施例1、2と比較例1にて得られた蓄放熱酸化チタンのλ相比率を、図4に比較して示す。図4に示されるように、実施例1、2では、λ相比率が、それぞれ95%、82%となっており、いずれも80%を超えている。これに対して、比較例1では、λ相比率が65%であり、80%を大きく下回っている。また、表1に示されるように、比較例1では、粒径拡大率D2/D1が10を超えているのに対し、実施例1、2において、粒径拡大率D2/D1は、それぞれ7、5と10以下となっており、原料粉末10を揺動させながら還元焼成することにより、得られる蓄放熱酸化チタンの凝集が抑制されると共に、λ相比率がより高くなったものと推測される。
【0056】
(比較例2)
実施例1と同様の製造装置1を用い、筒状炉2を、本体部23における保持時間が0.5時間となるように調整した以外は、同様の工程に基づいて、原料粉末10の還元焼成を行った。得られた粒子について、同様の方法で評価したところ、還元反応が進んでおらず、蓄放熱酸化チタンの粒子10Aが得られていなかった。このとき、筒状炉2は、回転駆動されるものの、回転方向に対して傾斜方向の移動が大きくなって、筒状炉2内に十分な時間滞留せず、還元ガスとの接触が不十分となったものと推測される。
【0057】
(実施例3、4)
実施例1と同様の製造装置1を用い、筒状炉2の回転速度を30rpmとした以外は、同様の工程に基づいて、蓄放熱酸化チタンの粒子10Aを製造した(実施例3)。また、還元ガス流量を4L/minとした以外は、同様の工程に基づいて、蓄放熱酸化チタンの粒子10Aを製造した(実施例4)。実施例3、4にて得られた蓄放熱酸化チタンの粒子10Aについて、同様の方法で、粒径拡大率D2/D1と、λ相比率を算出した結果を、試験条件と共に、表1に併記した。
【0058】
表1に示されるように、実施例3、4において、得られた蓄放熱酸化チタンの粒子10Aの粒径拡大率D2/D1は、いずれも10以下であり、また、λ相比率は、いずれも80%を超えている。
【0059】
(比較例3~6)
比較例1と同様にして、製造装置1において、筒状炉2が傾斜配置されず回転駆動しない状態で、内部空間20へ還元ガスを導入し、揺動されていない原料粉末10と接触させた。図5中に示されるように、還元ガス流量を0.1L/min~0.2L/minの範囲とし、本体部23における原料粉末10の焼成温度を1250℃~1400℃、保持時間を0.5時間~2時間の範囲で変更した以外は、同様の工程に基づいて、蓄放熱酸化チタンの粒子10Aを製造した。同様の方法で、λ相比率を算出した結果を、試験条件と共に、図5中に併記した。
【0060】
図5の結果に示されるように、原料粉末10が揺動しない状態では、いずれもλ相比率は70%を下回り、還元ガス流量や焼成温度を変更してもλ相比率は大きく変わらなかった。
【0061】
以上の結果から、原料粉末10を、揺動させながら加熱すると共に、水素を含む還元ガスと十分に接触させて、所定の焼成温度にて所定時間保持し、還元反応を進行させることにより、生成する五酸化三チタン系材料において結晶相のλ化が進むものと推測される。このような製造方法は、製造装置1を用いて実施することができ、還元焼成条件を調整することにより、所望の高いλ相比率を有する蓄放熱酸化チタンの粒子10Aが得られる。
【0062】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。また、製造された蓄放熱酸化チタンは、蓄放熱体の材料として各種システムの熱交換部に適用される例を示したが、特に制限されるものではなく、任意の用途に利用することができる。
【0063】
また、蓄放熱酸化チタンの製造装置1は、筒状炉2が収容される筐体50を支持部51、52によって傾斜可能に支持し、筐体50に取り付けられた軸受部53、54によって、筒状炉2が回転可能に支持される構成としたが、筒状炉2の傾斜又は回転のための支持構造は、適宜変更することができる。また、筒状炉2は、本体部23において原料粉末10が揺動しながら還元ガスと接触するように構成されていればよく、必ずしも回転炉でなくてもよい。また、筒状炉2を加熱するためのヒータ部3の配置その他の構成も、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 製造装置
10 原料粉末
11 供給口
12 取出口
2 筒状炉
21 導入口
22 導出口
23 本体部
3 ヒータ部
4 制御部
図1
図2
図3
図4
図5