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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022175401
(43)【公開日】2022-11-25
(54)【発明の名称】ボーリング工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/03 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
B23B29/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021081760
(22)【出願日】2021-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000237499
【氏名又は名称】富士精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】上久保 俊孝
(72)【発明者】
【氏名】都築 駿一
(72)【発明者】
【氏名】市川 雅久
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046KK02
(57)【要約】
【課題】複数の切削刃の位置を高精度で調整する手間を抑制する。
【解決手段】ボーリング工具100は、工具本体50、第1切削刃10、及び第2切削刃20を備えている。第1切削刃10は、工具本体50に連結している。第2切削刃20は、工具本体50に連結している。工具本体50の中心軸線Zに直交する直線を直交直線とする。また、中心軸線Zに沿う2つの方向のうちの一方を正方向ZAとする。第1切削刃10の第1刃先11は、第2切削刃20の第2刃先21から視て正方向ZA側に位置している。第2切削刃20は、中心軸線Zから第2刃先21までの直交直線に沿う第2距離R2が、中心軸線Zから第1刃先11までの直交直線に沿う第1距離R1よりも大きくなるように、工具本体50に対して位置変更可能である。そして、ボーリング工具100は、第1切削刃10を複数備え、第2切削刃20を1つ備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線を有する柱状の工具本体と、
前記工具本体に連結している第1切削刃と、
前記工具本体に連結している第2切削刃と、
前記工具本体に連結している第3切削刃と、
を備えるボーリング工具であって、
前記中心軸線に直交する直線を直交直線とし、
前記中心軸線に沿う2つの方向のうちの一方を正方向とし、
前記第1切削刃のうち前記中心軸線から前記直交直線に沿う距離が最も大きい箇所を第1刃先とし、
前記第2切削刃のうち前記中心軸線から前記直交直線に沿う距離が最も大きい箇所を第2刃先としたとき、
前記第1刃先は、前記第2刃先から視て前記正方向側に位置しており、
前記第2切削刃は、前記中心軸線から前記第2刃先までの前記直交直線に沿う距離が前記中心軸線から前記第1刃先までの前記直交直線に沿う距離よりも大きくなるように、前記工具本体に対して位置変更可能であり、
前記第1切削刃の前記正方向の縁を第1切れ刃とし、前記第3切削刃の前記正方向の縁を第3切れ刃としたとき、
前記第1切れ刃は、前記直交直線に沿って前記中心軸線から離れるほど前記正方向に位置しており、
前記第3切れ刃は、前記直交直線と平行に延びており、
前記第1切れ刃における前記正方向の端を第1端、前記第1切れ刃における前記第1端とは反対側の端を第2端としたとき、
前記第3切削刃は、前記第1端から視て前記正方向とは反対方向側、且つ前記第2端から視て前記正方向側に前記第3切れ刃が位置するように、前記工具本体に対して位置変更可能であり、
前記第1切削刃を複数備え、
前記第2切削刃を1つ備えている
ボーリング工具。
【請求項2】
前記第3切削刃を1つ備えている
請求項1に記載のボーリング工具。
【請求項3】
前記中心軸線を中心とする周方向のうちの一方を第1方向としたとき、
前記第1方向において、前記第1切削刃、前記第2切削刃、前記第1切削刃、及び前記第3切削刃の順に並んだ箇所を有する
請求項2に記載のボーリング工具。
【請求項4】
前記工具本体を、任意の前記直交直線を境にした一方の領域である第1領域と、他方の領域である第2領域とに二分したとき、
どのような前記直交直線を引いた場合でも、複数の前記第1切削刃のうち1つ以上は、前記第1領域に位置しており、複数の前記第1切削刃のうち1つ以上は、前記第2領域に位置している
請求項1~請求項3の何れか一項に記載のボーリング工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリング工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のボーリング工具は、工具本体と、3つの切削刃と、を備えている。工具本体の形状は、略円柱形状である。各切削刃は、工具本体に連結している。ここで、工具本体の中心軸線に直交する直線を直交直線とする。また、切削刃のうち、工具本体の中心軸線から直交直線に沿う距離が最も大きい箇所を刃先とする。切削刃は、工具本体に対して位置変更可能になっている。具体的には、工具本体の中心軸線から刃先までの直交直線に沿う距離が可変になっている。
【0003】
特許文献1のボーリング工具を用いたボーリング加工にあたって、先ず、作業者は、工具本体に対する各切削刃の位置を調整する。これにより、工具本体の中心軸線から各切削刃の刃先までの距離が、所望の距離になる。また、下穴を有する被削材を用意する。そして、被削材に対してボーリング工具が相対回転した状態で、ボーリング工具を被削材における下穴に差し入れる。その結果、被削材における下穴の内周部分がボーリング工具により切削される。こうして被削材には、半径が上記所望の距離の穴が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-176826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のボーリング工具では、3つの切削刃の一部について、中心軸線から切削刃の刃先までの距離が他の切削刃の距離に対してずれていると、被削材に形成される穴の寸法に狂いが生じるおそれがある。したがって、特許文献1のボーリング工具では、3つの切削刃の距離を高い精度で揃える必要がある。しかしながら、3つ全ての切削刃の距離を高い精度で調整するのは手間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのボーリング工具は、中心軸線を有する柱状の工具本体と、前記工具本体に連結している第1切削刃と、前記工具本体に連結している第2切削刃と、前記工具本体に連結している第3切削刃と、を備えるボーリング工具であって、前記中心軸線に直交する直線を直交直線とし、前記中心軸線に沿う2つの方向のうちの一方を正方向とし、前記第1切削刃のうち前記中心軸線から前記直交直線に沿う距離が最も大きい箇所を第1刃先とし、前記第2切削刃のうち前記中心軸線から前記直交直線に沿う距離が最も大きい箇所を第2刃先としたとき、前記第1刃先は、前記第2刃先から視て前記正方向側に位置しており、前記第2切削刃は、前記中心軸線から前記第2刃先までの前記直交直線に沿う距離が前記中心軸線から前記第1刃先までの前記直交直線に沿う距離よりも大きくなるように、前記工具本体に対して位置変更可能であり、前記第1切削刃の前記正方向の縁を第1切れ刃とし、前記第3切削刃の前記正方向の縁を第3切れ刃としたとき、前記第1切れ刃は、前記直交直線に沿って前記中心軸線から離れるほど前記正方向に位置しており、前記第3切れ刃は、前記直交直線と平行に延びており、前記第1切れ刃における前記正方向の端を第1端、前記第1切れ刃における前記第1端とは反対側の端を第2端としたとき、前記第3切削刃は、前記第1端から視て前記正方向とは反対方向側、且つ前記第2端から視て前記正方向側に前記第3切れ刃が位置するように、前記工具本体に対して位置変更可能であり、前記第1切削刃を複数備え、前記第2切削刃を1つ備えている。
【0007】
上記構成によれば、被削材における下穴にボーリング工具を正方向に差し入れる際、複数の第1切削刃で切削した後に、第2切削刃で切削する。すなわち、複数の第1切削刃は内径の荒削り用の刃として機能し、第2切削刃は内径の仕上げ用の刃として機能する。したがって、第2切削刃を正確に位置決めできれば、正確な内径で穴を形成できる。そして、上記構成によれば、第2切削刃は1つのみである。つまり、正確な位置調整を求められる切削刃は1つのみである。そのため、複数の切削刃の位置を高精度で調整しなければならないといった手間は要しない。
【0008】
なお、上記構成では、複数の第1切削刃で切削した後に、第3切削刃で穴の底を切削する。すなわち、複数の第1切削刃は底面の荒削り用の刃として機能し、第3切削刃は底面の仕上げ用の刃として機能する。したがって、第3切削刃を正確に位置決めできれば、正確に穴の底面を切削できる。
【0009】
上記構成において、前記第3切削刃を1つ備えていてもよい。
上記構成によれば、底面の仕上げ用の刃として機能する第3切削刃が1つのみであるため、底面の切削にあたって正確な位置調整を求められる切削刃は1つのみである。そのため、複数の切削刃の位置を高精度で調整しなければならないといった手間は要しない。
【0010】
上記構成において、前記中心軸線を中心とする周方向のうちの一方を第1方向としたとき、前記第1方向において、前記第1切削刃、前記第2切削刃、前記第1切削刃、及び前記第3切削刃の順に並んだ箇所を有していてもよい。
【0011】
上記構成によれば、切削抵抗の大きい第1切削刃が、第1方向に連続して並ぶ範囲が少ない。したがって、ボーリング工具における周方向の特定の領域で切削抵抗が局所的に大きくなることを抑制できる。
【0012】
上記構成において、前記工具本体を、任意の前記直交直線を境にした一方の領域である第1領域と、他方の領域である第2領域とに二分したとき、どのような前記直交直線を引いた場合でも、複数の前記第1切削刃のうち1つ以上は、前記第1領域に位置しており、複数の前記第1切削刃のうち1つ以上は、前記第2領域に位置していてもよい。
【0013】
上記構成によれば、切削抵抗の大きい第1切削刃が、ボーリング工具の両側に位置しており、片側のみに偏って位置していない。したがって、周方向において、ボーリング工具の切削抵抗を均一化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ボーリング工具の正面図。
図2】ボーリング工具の底面図。
図3】第1切削刃の周辺構成を示す断面図。
図4】第3切削刃の周辺構成を示す断面図。
図5】第2切削刃の周辺構成を示す断面図。
図6】加工前の被削材の状態を示す説明図。
図7】加工後の被削材の状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ボーリング工具の構成>
以下、ボーリング工具の一実施形態を図1図7にしたがって説明する。先ず、ボーリング工具100の概略構成について説明する。
【0016】
図1に示すように、ボーリング工具100は、工具本体50を備えている。工具本体50の形状は、概ね円柱形状である。したがって、工具本体50は、当該工具本体50の重心を通る中心軸線Zを有する。以下では、工具本体50の中心軸線Zに沿う2つの方向のうちの一方を正方向ZAとし、正方向ZAとは反対方向を負方向ZBとする。なお、正方向ZAは、図1における下方であり、負方向ZBは、図1における上方である。また、図2に示すように、中心軸線Zに直交する直線を直交直線Xとする。
【0017】
図1に示すように、工具本体50は、円柱部60、フランジ70、シャンク80、及び保持ボルト90を備えている。円柱部60の形状は、略円柱形状である。円柱部60の中心軸線は、中心軸線Zと一致している。
【0018】
フランジ70は、円柱部60の外周面から突出している。フランジ70は、中心軸線Zを中心とする周方向の全周に亘って延びている。したがって、フランジ70の形状は、略円環形状である。フランジ70は、円柱部60における負方向ZBの端に位置している。
【0019】
シャンク80は、円柱部60における負方向ZBの端面から延びている。シャンク80の形状は、負方向ZBに向かうほど外径が小さくなるテーパ形状である。シャンク80の中心軸線は、中心軸線Zと一致している。なお、本実施形態において、円柱部60、フランジ70、及びシャンク80は、一体成形物である。
【0020】
保持ボルト90は、シャンク80における負方向ZBの端面から突出している。保持ボルト90は、図示しない雄ねじ部分を備えている。保持ボルト90の雄ねじ部分がシャンク80に挿入されることにより、保持ボルト90は、シャンク80に対して固定されている。なお、シャンク80、及び保持ボルト90は、ボーリング工具100を工作機械に取り付ける際に、工作機械に保持される部分である。工作機械の一例は、マシニングセンタである。
【0021】
図2に示すように、ボーリング工具100は、複数の第1切削刃10、第2切削刃20、及び第3切削刃30を備えている。なお、図1では、第1切削刃10、第2切削刃20、及び第3切削刃30のうち、1つの第1切削刃10のみを図示している。
【0022】
図2に示すように、第1切削刃10は、工具本体50の円柱部60に連結している。すなわち、工具本体50の円柱部60は、第1切削刃10を支持している。なお、図示は省略するが、円柱部60は、第1切削刃10を保持するためのカートリッジを備えている。第1切削刃10は、このカートリッジにより円柱部60に対して位置変更可能である。第1切削刃10は、円柱部60における正方向ZAの端に位置している。第1切削刃10の一部は、円柱部60における正方向ZA側の端面に対して正方向ZA側に飛び出ている。第1切削刃10は、円柱部60における外周部分に位置している。第1切削刃10の一部は、円柱部60の外周面に対して外側に飛び出ている。なお、上記のカートリッジは、特開2013-176826号公報、特開平10-000504号公報等に記載されるように周知のものである。
【0023】
第1切削刃10は、中心軸線Zを中心とする周方向において、概ね120度毎に位置している。したがって、ボーリング工具100は、合計3つの第1切削刃10を備えている。なお、第1切削刃10の材質の一例は、ダイヤモンド焼結体、いわゆるPCDである。
【0024】
ここで、図2に示すように、任意の直交直線Xを引いたとする。そして、任意の直交直線Xを境にした一方の領域を第1領域XAとし、任意の直交直線Xを境にした他方の領域を第2領域XBとする。上述したように、第1切削刃10は、中心軸線Zを中心とする周方向において、概ね120度毎に位置している。したがって、本実施形態では、どのような直交直線Xを引いた場合でも、複数の第1切削刃10のうちの1つ以上は、第1領域XAに位置している。また、複数の第1切削刃10のうちの1つ以上は、第2領域XBに位置している。
【0025】
図3に示すように、第1切削刃10は、板状である。第1切削刃10の主面に直交する方向から視たときに、第1切削刃10の形状は、略菱形である。なお、第1切削刃10の主面とは、第1切削刃10の表面のうち最も大きな平面部分である。第1切削刃10における4つの角のうち互いに対角な2つの角は、鋭角である。そして、残りの2つは、鈍角である。また、第1切削刃10の鋭角の1つは、第1切削刃10のうち、中心軸線Zから最も離れた箇所に位置している。したがって、上記の第1切削刃10の鋭角部分の先端は、第1切削刃10のうち中心軸線Zから直交直線Xに沿う距離が最も大きい箇所に位置する第1刃先11である。なお、以下では、中心軸線Zから第1刃先11までの直交直線Xに沿う距離を、第1距離R1とする。第1距離R1は、例えば、数十mm~数百mm程度である。
【0026】
ここで、第1切削刃10の正方向ZAの縁を第1切れ刃12とする。第1切れ刃12の大半は、円柱部60の正方向ZA側の端面から視て、正方向ZA側に位置している。第1切れ刃12は、直交直線Xに沿って中心軸線Zから離れるほど、正方向ZAに位置している。また、以下では、第1切れ刃12のうち正方向ZAの端を第1端12Aとし、第1切れ刃12のうち負方向ZBの端を第2端12Bとする。なお、本実施形態において、第1端12Aは、第1刃先11と同じ箇所である。
【0027】
図2に示すように、第2切削刃20は、工具本体50の円柱部60に連結している。すなわち、工具本体50の円柱部60は、第2切削刃20を支持している。なお、図示は省略するが、円柱部60は、第2切削刃20を保持するためのカートリッジを備えている。第2切削刃20は、このカートリッジにより円柱部60に対して位置変更可能である。なお、位置変更に関する構成は後述する。第2切削刃20は、円柱部60における正方向ZAの端に位置している。第2切削刃20の一部は、円柱部60における正方向ZA側の端面に対して正方向ZA側に飛び出ている。第2切削刃20は、円柱部60における外周部分に位置している。第2切削刃20の一部は、円柱部60の外周面に対して外側に飛び出ている。
【0028】
第2切削刃20は、中心軸線Zを中心とする周方向において、2つの第1切削刃10の間に位置している。具体的には、第2切削刃20は、2つの第1切削刃10の中央、すなわち第1切削刃10に対して概ね60度だけ離れた箇所に位置している。なお、第2切削刃20の材質の一例は、ダイヤモンド焼結体、いわゆるPCDである。
【0029】
図5に示すように、第2切削刃20の形状は、第1切削刃10の形状と略同じである。すなわち、第2切削刃20は、板状である。第2切削刃20の主面に直交する方向から視たときに、第2切削刃20の形状は、略菱形である。なお、第2切削刃20の主面とは、第2切削刃20の表面のうち最も大きな平面部分である。第2切削刃20における4つの角のうち互いに対角な2つの角は、鋭角である。そして、残りの2つは、鈍角である。また、第2切削刃20の鋭角の1つは、第2切削刃20のうち、中心軸線Zから最も離れた箇所に位置している。したがって、上記の第2切削刃20の鋭角部分の先端は、第2切削刃20のうち中心軸線Zから直交直線Xに沿う距離が最も大きい箇所に位置する第2刃先21である。なお、以下では、中心軸線Zから第2刃先21までの直交直線Xに沿う距離を、第2距離R2とする。第2距離R2は、例えば、数十mm~数百mm程度である。また、第2刃先21は、第1刃先11から視て負方向ZB側に位置している。すなわち、第1刃先11は、第2刃先21から視て正方向ZAに位置している。
【0030】
上述したように、第2切削刃20は、工具本体50の円柱部60に対して位置変更可能である。具体的には、円柱部60は、第2距離R2を調整するための図示しない調整ねじを備えている。そして、上記の調整ねじを作業者が操作することにより、第2切削刃20を保持するカートリッジが直交直線Xに沿う方向に移動する。その結果、第2距離R2が変更される。さらに、第2距離R2の変更可能な範囲は、第1距離R1よりも大きい領域を含む。したがって、第2切削刃20は、第2距離R2が第1距離R1よりも大きくなるように、工具本体50に対して位置変更可能である。なお、ボーリング工具100を用いて加工する際には、第2距離R2が第1距離R1よりも大きい状態で、加工を行う。このとき、第2距離R2と第1距離R1との差の一例は、0.1mm程度である。なお、図5等では、第2距離R2と第1距離R1との差を誇張して図示している。
【0031】
図2に示すように、第3切削刃30は、工具本体50の円柱部60に連結している。すなわち、工具本体50の円柱部60は、第3切削刃30を支持している。なお、図示は省略するが、円柱部60は、第3切削刃30を保持するためのカートリッジを備えている。第3切削刃30は、このカートリッジにより円柱部60に対して位置変更可能である。なお、位置変更に関する構成は後述する。第3切削刃30は、円柱部60における正方向ZAの端に位置している。第3切削刃30の一部は、円柱部60における正方向ZA側の端面に対して正方向ZA側に飛び出ている。第3切削刃30は、円柱部60における外周部分に位置している。第3切削刃30の一部は、円柱部60の外周面に対して外側に飛び出ている。
【0032】
第3切削刃30は、中心軸線Zを中心とする周方向において、2つの第1切削刃10の間に位置している。具体的には、第1切削刃10が3つ設けられていることにより、中心軸線Zを中心とする周方向において、第1切削刃10の間に該当する箇所が3つ存在する。そして、第3切削刃30は、上記の第1切削刃10の間に該当する箇所のうち、第2切削刃20が位置していない箇所に位置している。本実施形態において、図2に示すように、負方向ZBでボーリング工具100を視たときに、第3切削刃30は、第2切削刃20に対して時計回り方向に概ね120度だけ離れた箇所に位置している。したがって、ボーリング工具100は、中心軸線Zを中心とする時計回り方向において、第1切削刃10、第2切削刃20、第1切削刃10、第3切削刃30の順に並んだ箇所を有している。本実施形態において、上記の時計回り方向は、中心軸線Zを中心とする周方向のうちの一方である第1方向に相当する。なお、第3切削刃30の材質の一例は、ダイヤモンド焼結体、いわゆるPCDである。
【0033】
図4に示すように、第3切削刃30は、板状である。第3切削刃30の主面に直交する方向から視たときに、第3切削刃30の形状は、略正三角形である。なお、第3切削刃30の主面とは、第3切削刃30の表面のうち最も大きい平面部分である。第3切削刃30の角の1つは、第3切削刃30のうち、中心軸線Zから最も離れた箇所に位置している。したがって、上記の第3切削刃30の1つの角部分の先端は、当該第3切削刃30のうち中心軸線Zから直交直線Xに沿う距離が最も大きい箇所に位置する第3刃先31である。なお、以下では、中心軸線Zから第3刃先31までの直交直線Xに沿う距離を、第3距離R3とする。本実施形態において、第3距離R3は、第1距離R1と同じである。また、第3刃先31は、第1刃先11から視て、負方向ZB側に位置している。さらに、第3切削刃30の正方向ZAの縁を第3切れ刃32とする。第3切れ刃32は、直交直線Xと平行に延びている。
【0034】
上述したように、第3切削刃30は、工具本体50の円柱部60に対して位置変更可能である。具体的には、円柱部60は、中心軸線Zに沿う方向において第3切れ刃32の位置を調整するための図示しない調整ねじを備えている。そして、上記の調整ねじを作業者が操作することにより、第3切削刃30を保持するカートリッジが中心軸線Zに沿う方向に移動する。その結果、中心軸線Zに沿う方向において第3切れ刃32の位置が変更される。さらに、第3切れ刃32の位置を変更可能な範囲は、第1切れ刃12の第1端12Aから視て負方向ZB側、且つ、第1切れ刃12の第2端12Bから視て正方向ZA側の領域を含む。したがって、第3切削刃30は、上記領域内に第3切れ刃32が位置するように、工具本体50に対して位置変更可能である。なお、ボーリング工具100を用いて加工する際には、第3切れ刃32が、第1切れ刃12の第1端12Aから視て負方向ZB側、且つ、第1切れ刃12の第2端12Bから視て正方向ZA側に位置している状態で、加工を行う。
【0035】
<加工方法>
次に、ボーリング工具100を用いた加工方法について説明する。なお、以下では、工作機械としてマシニングセンタを用いる場合を例として説明する。
【0036】
このボーリング工具100を用いたボーリング加工にあたって、作業者は、第1切削刃10、第2切削刃20、及び第3切削刃30の位置関係を予め調整しておく。具体的には、作業者は、ボーリング工具100を用いて加工する際には、第2距離R2が第1距離R1よりも大きい状態にしておく。また、作業者は、ボーリング工具100を用いて加工する際には、第3切れ刃32が、第1切れ刃12の第1端12Aから視て負方向ZB側、且つ、第1切れ刃12の第2端12Bから視て正方向ZA側に位置している状態にしておく。
【0037】
図6に示すように、作業者は、被削材200を用意する。本実施形態において、被削材200の形状は、概ね四角柱形状である。被削材200は、下穴210を備えている。下穴210は、被削材200の一面201から窪んでいる。下穴210は、略円柱形状の空間である。ここで、下穴210の中心軸線210Zから下穴210を区画する側壁面までの半径を、下穴半径R0とする。下穴半径R0は、例えば、数十mm~数百mm程度である。また、下穴半径R0は、第1距離R1よりも小さい。なお、下穴半径R0と第1距離R1との差、すなわち第1切削刃10の削り代は、例えば、数mm程度である。さらに、被削材200の一面201から下穴210を区画する底壁面までの深さを、下穴深さH0とする。下穴深さH0は、例えば、数十mm~数百mm程度である。なお、被削材200の材質の一例は、アルミニウム合金である。本実施形態において、被削材200は、例えば、鋳造により成形されている。
【0038】
次に、作業者は、ボーリング工具100を、マシニングセンタにおける主軸に取り付ける。また、作業者は、被削材200を、マシニングセンタにおけるテーブルに取り付ける。このとき、被削材200の下穴210の開口が負方向ZBを向くようにする。そして、作業者は、ボーリング工具100の中心軸線Zと、被削材200における下穴210の中心軸線210Zとを一致させた状態で、ボーリング工具100よりも正方向ZAに被削材200を位置させる。さらに、作業者は、マシニングセンタにおける主軸を回転させることにより、被削材200に対してボーリング工具100を相対回転させる。そして、作業者は、被削材200における下穴210にボーリング工具100を正方向ZAに差し入れる。その結果、被削材200における下穴210の内周部分がボーリング工具100により切削される。
【0039】
<本実施形態の作用>
以下では、ボーリング工具100による下穴210の内周部分の切削についての作用を具体的に記載する。
【0040】
上述したように、ボーリング工具100を用いて加工する際には、第1刃先11は、第2刃先21及び第3刃先31から視て正方向ZA側に位置している。したがって、図3に示すように、先ず、第1切削刃10により、被削材200における下穴210の内周部分が切削される。その結果、被削材200のうち、第1切削刃10により切削された部分には、半径が第1距離R1の穴が形成される。
【0041】
また、上述したように、ボーリング工具100を用いて加工する際には、第3切れ刃32が、第1切れ刃12の第1端12Aから視て負方向ZB側、且つ、第1切れ刃12の第2端12Bから視て正方向ZA側に位置している。したがって、図4に示すように、第3切削刃30により、被削材200における下穴210の内周部分のうち、第3切れ刃32が第1切れ刃12よりも正方向ZAに位置する部分が切削される。換言すると、被削材200における下穴210の内周部分のうち、中心軸線Zに近い領域が切削される。その結果、被削材200のうち、第3切削刃30により切削された部分の底面は、直交直線Xと平行な面になる。なお、中心軸線Zに沿う方向から視たときに、第3切削刃30により切削された部分の底面の形状は、略円環形状である。ここで、図7に示すように、被削材200の一面201から、第3切削刃30により切削された部分の底面までの深さを、底面深さH3とする。底面深さH3は、下穴深さH0よりも小さい。底面深さH3は、例えば、数十mm~数百mm程度である。なお、底面深さH3は、被削材200における下穴210にボーリング工具100を正方向ZAの最も奥まで差し入れたときの、被削材200の一面201から第3切れ刃32までの深さと同じである。
【0042】
さらに、上述したように、ボーリング工具100を用いて加工する際には、第2距離R2が第1距離R1よりも大きくなっている。したがって、図5に示すように、第2切削刃20により、被削材200における下穴210の内周部分のうち、第1距離R1よりも大きい部分が切削される。換言すると、被削材200における下穴210の内周部分のうち、中心軸線Zから遠い領域が切削される。その結果、図7に示すように、被削材200のうち、第2切削刃20により切削された部分には、半径が第2距離R2の穴が形成される。なお、本実施形態において、被削材200に切削された穴は、例えばベアリングを挿入する穴として利用される。
【0043】
<本実施形態の効果>
(1)上述したように、本実施形態では、被削材200における下穴210にボーリング工具100を正方向ZAに差し入れる際、複数の第1切削刃10で切削した後に、第2切削刃20で切削する。すなわち、複数の第1切削刃10は内径の荒削り用の刃として機能し、第2切削刃20は内径の仕上げ用の刃として機能する。したがって、第2切削刃20を正確に位置決めできれば、正確な内径で穴を形成できる。そして、第2切削刃20は、1つのみである。すなわち、半径が第2距離R2の穴を形成するにあたって、正確な位置調整を求められる第2切削刃20は、1つのみである。そのため、例えば複数の第2切削刃20の位置を高精度で調整しなければならないといった手間は要しない。
【0044】
(2)上述したように、本実施形態では、複数の第1切削刃10で切削した後に、第3切削刃30で穴の底を切削する。すなわち、複数の第1切削刃10は底面の荒削り用の刃として機能し、第3切削刃30は底面の仕上げ用の刃として機能する。したがって、第3切削刃30を正確に位置決めできれば、正確に穴の底面を切削できる。
【0045】
(3)本実施形態では、底面の仕上げ用の刃として機能する第3切削刃30が1つのみである。そのため、底面深さH3の穴を形成するにあたって、正確な位置調整を求められる第3切削刃30は1つのみである。これにより、例えば複数の第3切削刃30の位置を高精度で調整しなければならないといった手間は要しない。
【0046】
(4)第1切削刃10は、第2切削刃20及び第3切削刃30に比べて被削材200を切削する際の削り代が大きい。そのため、第1切削刃10は、第2切削刃20及び第3切削刃30に比べて切削抵抗が大きい傾向がある。これにより、仮に、中心軸線Zを中心とした周方向の一部分に複数の第1切削刃10が偏って位置していると、ボーリング工具100の周方向の特定の領域で切削抵抗が局所的に大きくなることがある。
【0047】
この点、図2に示すように、ボーリング工具100は、中心軸線Zを中心とする時計回り方向において、第1切削刃10、第2切削刃20、第1切削刃10、第3切削刃30の順に並んだ箇所を有している。これにより、切削抵抗が大きい第1切削刃10が、時計回り方向において連続して並ぶ範囲が少ない。したがって、ボーリング工具100における周方向の特定の領域で切削抵抗が局所的に大きくなることを抑制できる。
【0048】
(5)図2に示すように、どのような直交直線Xを引いた場合でも、複数の第1切削刃10のうちの1つ以上は、第1領域XAに位置している。また、複数の第1切削刃10のうちの1つ以上は、第2領域XBに位置している。すなわち、切削抵抗が大きい第1切削刃10は、ボーリング工具100のうち、直交直線Xを挟んだ両側に位置しており、片側のみに偏って位置していない。したがって、周方向において、ボーリング工具100の切削抵抗を均一化できる。
【0049】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0050】
・上記実施形態において、第3切削刃30の位置は変更してもよい。例えば、直交直線Xに沿う方向において、第3刃先31は、第1刃先11と同じ箇所に位置していなくてもよい。すなわち、第3距離R3は、第1距離R1よりも小さくなっていたり、第1距離R1よりも大きくなっていたりしてもよい。なお、第3距離R3が第1距離R1よりも大きくなっている場合であっても、第3距離R3が第2距離R2よりも小さくなっていれば、第2切削刃20により、被削材200における下穴210の内周部分の内径の仕上げ加工をできる。
【0051】
・上記実施形態において、第3切削刃30は、工具本体50の円柱部60に対して位置変更可能になっていなくてもよい。この場合にも、第2切削刃20が工具本体50の円柱部60に対して位置変更可能であれば、ボーリング工具100を用いて加工する際には、第2距離R2が第1距離R1よりも大きい状態で被削材200の加工をできる。なお、例えば、被削材200の下穴210が貫通孔であったり、加工する穴の底面深さH3に精度が求められないであったりする場合には、第3切削刃30が工具本体50の円柱部60に対して位置変更可能になっていなくても差し支えない。
【0052】
・上記実施形態において、第3切削刃30の数は変更してもよい。例えば、ボーリング工具100は、2つ以上の第3切削刃30を備えていてもよい。
・上記実施形態において、第1切削刃10の数は、複数であれば変更してもよい。例えば、ボーリング工具100は、2つの第1切削刃10を備えていたり、4つ以上の第1切削刃10を備えていたりしてもよい。
【0053】
・上記実施形態において、第1切削刃10の形状は変更してもよい。例えば、第1切削刃10の形状は、第3切削刃30の形状と同じ、すなわち、主面に直交する方向から視たときに略正三角形あってもよい。なお、この場合にも、第1切削刃10の第1切れ刃12は、直交直線Xに沿って中心軸線Zから離れるほど、正方向ZAに位置していればよい。
【0054】
・上記実施形態において、第2切削刃20の形状は変更してもよい。例えば、第2切削刃20の形状は、第3切削刃30の形状と同じ、すなわち、主面に直交する方向から視たときに略正三角形あってもよい。
【0055】
・上記実施形態において、第1切削刃10、第2切削刃20、及び第3切削刃30の材質は変更してもよい。なお、第1切削刃10、第2切削刃20、及び第3切削刃30の材質は、被削材200の材質に合わせて適宜変更すればよい。
【0056】
・上記実施形態において、被削材200の材質は変更してもよい。例えば、被削材200の材質としては、炭素鋼、鋳鉄等を採用してもよい。
・上記実施形態において、中心軸線Zを中心とする周方向において、第1切削刃10、第2切削刃20、及び第3切削刃30の位置は変更してもよい。例えば、中心軸線Zを中心とする周方向において、第1切削刃10は概ね120度毎に位置していなくてもよく、第1切削刃10の位置関係は変更してもよい。さらに、任意の直交直線Xを引いた場合に、第1切削刃10は、第1領域XA及び第2領域XBの一方のみに位置していてもよい。
【0057】
・また、例えば、負方向ZBでボーリング工具100を視たときに、中心軸線Zを中心とする反時計回り方向において、ボーリング工具100は、第1切削刃10、第2切削刃20、第1切削刃10、第3切削刃30の順に並んだ箇所を有していてもよい。すなわち、中心軸線Zを中心とする周方向のうちの一方である第1方向は、時計回り方向であっても、反時計回り方向であってもよい。
【0058】
・例えば、第3切削刃30は、中心軸線Zを中心とする周方向において2つの第1切削刃10の間に該当する箇所のうち、第2切削刃20と同じ箇所に位置していてもよい。
【符号の説明】
【0059】
R1…第1距離
R2…第2距離
R3…第3距離
X…直交直線
XA…第1領域
XB…第2領域
Z…中心軸線
ZA…正方向
ZB…負方向
10…第1切削刃
11…第1刃先
12…第1切れ刃
12A…第1端
12B…第2端
20…第2切削刃
21…第2刃先
30…第3切削刃
31…第3刃先
32…第3切れ刃
50…工具本体
60…円柱部
70…フランジ
80…シャンク
90…保持ボルト
100…ボーリング工具
200…被削材
210…下穴
210Z…中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7