(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179923
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 9/04 20060101AFI20221129BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H02P9/04 L
H02P27/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086735
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 友洋
(72)【発明者】
【氏名】久野 雄也
【テーマコード(参考)】
5H505
5H590
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB02
5H505CC04
5H505DD06
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE48
5H505GG04
5H505GG07
5H505HA06
5H505HB01
5H505JJ23
5H505JJ26
5H505JJ28
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL58
5H590AA02
5H590CA07
5H590CC01
5H590CC02
5H590CD03
5H590CE05
5H590EB13
5H590EB21
5H590FA08
5H590FB07
5H590GA04
5H590GB05
5H590HA04
5H590HA27
5H590HB11
(57)【要約】
【課題】運転状態によらず、直流電流が最大となる制御が可能となる電力変換装置を得る。
【解決手段】回転電機が接続される交流側の交流電力と、直流電源が接続される直流側の直流電力とを変換するインバータと、インバータの動作を制御する制御器とを備えた電力変換装置であって、制御器は、インバータに接続される回転電機が回転電機からインバータを介して直流電源に電力を供給する発電機として動作するときに、インバータに接続される回転電機のトルクの増加に従って、インバータに接続される直流電源に流れる直流電流が減少する動作領域を避けて制御するようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機が接続される交流側の交流電力と、直流電源が接続される直流側の直流電力とを変換するインバータと、前記インバータの動作を制御する制御器とを備えた電力変換装置であって、
前記制御器は、前記インバータに接続される前記回転電機が前記回転電機から前記インバータを介して前記直流電源に電力を供給する発電機として動作するときに、前記インバータに接続される前記回転電機のトルクの増加に従って、前記インバータに接続される前記直流電源に流れる直流電流が減少する動作領域を避けて制御する電力変換装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記直流電流が、前記トルクが最大となる直流電流よりも小さい動作領域のみで制御する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記交流電力と、前記直流電力とを変換する動作を制御するための複数のパラメータの間の関係を記憶したマップを参照して制御するよう構成されており、前記マップは、前記トルクの増加に従って前記直流電流が減少する動作領域以外の動作領域のみにおける、前記複数のパラメータの間の関係を記憶している請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記交流電力と、前記直流電力とを変換する動作を制御するための複数のパラメータの間の関係をリアルタイム計算により演算して制御するよう構成されており、前記演算は演算結果が、前記トルクの増加に従って前記直流電流が減少する動作領域以外の動作領域となる演算である請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記トルクの増加に従って前記直流電流が減少する動作領域を検知した場合、前記直流電流を一定値に保持するよう制御する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
回転電機が接続される交流側の交流電力と、直流電源が接続される直流側の直流電力とを変換するインバータと、前記インバータの動作を制御する制御器とを備えた電力変換装置であって、
前記制御器は、前記インバータに接続される前記回転電機が前記回転電機から前記インバータを介して前記直流電源に電力を供給する発電機として動作するときに、前記インバータに接続される前記回転電機のトルクの増加に従って前記インバータに接続される前記直流電源に流れる直流電流が減少する動作領域を避けて制御する第一制御器と、前記トルクの増加に従って前記直流電流が減少する動作領域と、前記トルクの増加に従って前記直流電流が減少する動作領域以外の動作領域を含んで制御する第二制御器とを備え、前記第一制御器による制御と前記第二制御器による制御を切り替えて制御する電力変換装置。
【請求項7】
前記インバータに接続される前記回転電機は、動力伝達機構を介して内燃機関と接続されており、前記インバータに接続される前記直流電源は直流電源である請求項1から6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記インバータに接続される前記回転電機は、回転子に界磁巻線を有する回転電機である請求項1から7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費規制が進んでおり、自動車機能の一部または全部を電動化した電動化車両が増加している。このような電動化車両においては、電動機に電力を供給するためのバッテリを備えており、直流電圧/電流が電動機のインバータに供給されることが多い。そのため、バッテリの直流電圧あるいは車両状態の変化に対して発電機/電動機が安定してトルク及び直流電流を入出力するための技術が、特許文献1および特許文献2などに記載されている。
【0003】
特許文献1では、一つの車輪を駆動する内燃機関により駆動される発電機が出力する直流電力をインバータにより交流電力に変換して別の車輪を駆動する交流モータを駆動するシステムにおいて、発電機の動作が不安定になる領域を回避して動作させる技術が開示されている。また、特許文献2では、バッテリから電力を供給される電動機を動作させるシステムにおいて、バッテリ電圧に応じて最適な弱め界磁制御を行うことで、安定的にトルクを出力する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007‐237782号公報
【特許文献2】特開2000‐228892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発電電動機の特性と運転状態によってはトルクと電流の関係が単調増加・単調減少とならない領域が存在するため、発電トルクを大きくしても発電電流が低下し、効率が低下する場合がある。
【0006】
特許文献1に開示される技術は、界磁電流のみを制御するオルタネータ発電の制御方式であり、ステータ電流を制御するインバータ発電時にはそのまま適用できない。また、特許文献2に開示される技術では、発電トルクを大きくしても発電電流が低下する発電量特性逆転時の動作がカバーできない。
【0007】
本願は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、運転状態によらず、直流電流が最大となる制御が可能となる電力変換装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示される電力変換装置は、回転電機が接続される交流側の交流電力と、直流電源が接続される直流側の直流電力とを変換するインバータと、前記インバータの動作を制御する制御器とを備えた電力変換装置であって、前記制御器は、前記インバータに接続される前記回転電機のトルクの増加に従って、前記インバータに接続される前記直流電源に流れる直流電流が減少する動作領域を避けて制御するものである。
【発明の効果】
【0009】
本願に開示される電力変換装置によれば、発電トルクを増加させても発電電流が減少するような運転状態を回避することが可能となるため、運転状態によらず直流電流が最大となる制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1による電力変換装置を車両に搭載した場合の全体システム構成図である。
【
図2】実施の形態1による電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態1による電力変換装置のマップの一例を示す模式図である。
【
図4】実施の形態1による電力変換装置の電圧指令生成部の構成を示すブロック図である。
【
図5】発電トルクと発電電流が単調増加の関係にある場合のトルク-電流特性を示す線図である。
【
図6】発電トルクの増加に対して発電電流の特性が逆転する領域を含むトルク-電流特性を示す線図である。
【
図7】実施の形態2による電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】実施の形態3による電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】実施の形態4による電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】実施の形態4による電力変換装置の電流指令生成部の構成を示すブロック図である。
【
図11】実施の形態5による電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は実施の形態1による電力変換装置を車両に搭載した場合の全体システム構成図である。
図1において、回転電機201は、シャフトあるいはプーリおよびベルトを介した動力伝達部104によって車両用の内燃機関101にトルクを授受可能な状態で結合されている。交流と直流とを電力変換する電力変換装置204は、直流側がバッテリあるいはキャパシタなどの蓄電機能を備えた直流電源103に接続されており、交流側が回転電機201に接続されている。回転電機201は、車両用の内燃機関101を始動および補助する電動機、および直流電源103を充電する発電機として機能する。なお、直流電源103は、他の車両負荷と共用するものであっても、回転電機201専用であってもよい。
【0012】
図2は実施の形態1による電力変換装置204の回転電機201を含む構成を示すブロック図である。回転電機201は、電機子巻線202、および回転子203を備え、回転子内には永久磁石を有している。電動機および発電機としての機能は、制御器200によってインバータ205の制御が行われ、各電機子巻線への通電が行われることで実現される。電力変換装置204は、エンコーダあるいはレゾルバといった回転位置検出手段208を内蔵する。
【0013】
電力変換装置204は、回転電機201が接続される交流側の交流電力と、直流電源103が接続される直流側の直流電力とを変換するインバータ205と、このインバータ205の動作を制御する制御器200とを備えている。制御器200として電流指令生成部206および電圧指令生成部207を有し、電流指令生成部206は、外部から入力されるトルク指令Tref、インバータの直流側の端子電圧VB、および回転速度ωを入力として、各電機子巻線に通電する電流指令を生成する。電圧指令生成部207は、電機子巻線202に通電する電流指令をもとに、インバータ205へ入力する電圧指令を生成する。また、電力変換装置204は、回転位置検出手段208から得た回転子の位置情報をもとに回転速度を算出する回転速度検出部209を有する。
【0014】
実施の形態1による電流指令生成部206は、トルク指令Trefに追従するよう、電機子巻線202に通電する電流指令を、マップ参照によって決定する機能を有する。マップ参照はトルク指令Tref、端子電圧値VB、回転速度ωを入力とし、各入力に応じた適切なd軸およびq軸の電機子電流指令Idref、Iqrefを出力する。
【0015】
図3に電流指令生成部206が有するマップを示す。マップとは、インバータ205を制御するための複数のパラメータの間の関係を記憶したテーブルである。すなわち、マップは、入力された指令値、観測された状態量に対する適切な制御量あるいは出力をあらかじめ計算して記憶しているテーブルであり、マップ参照とは、入力値に応じた出力値をこのテーブルから選択することを示す。
【0016】
d、qは回転子の磁束方向に同期して回転する回転座標系を指し、d軸は回転子の磁束方向、q軸はそれに直交する軸として設定される。本実施の形態ではd-q座標上での制御を例として説明するが、d-q座標と異なる回転座標系あるいは静止座標系上での制御を行ってもよい。
【0017】
図4に電圧指令生成部207の構成を示す。電圧指令生成部207では、まず、電流検出手段210によって検出された電機子巻線202の電機子電流検出値であるI
u、I
v、I
wを、回転位置検出手段208が検出した回転位置δに基づいて、三相二相変換して電機子巻線のd軸およびq軸の通電量I
d、I
qを算出する。d軸、q軸電圧指令生成部270では、I
d、I
qの、電流指令生成部206において生成されたI
dref、I
qrefとの偏差からd-q軸電流を指令に追従させるためのd軸およびq軸の電機子電圧指令V
dref、V
qrefを算出する。このV
dref、V
qrefを回転位置δに基づいて二相三相変換して、三相の電圧指令V
uref、V
vref、V
wrefを算出する。
【0018】
以上のように構成される電力変換装置204は、回転電機201が所望のトルク・電流を出力するよう制御を行うが、回転電機201の磁気特性・電気特性と運転状態によっては、発電トルクが増加するにもかかわらず、発電電流(直流電流)は減少するような領域が存在する。
【0019】
図5に、発電トルクと発電電流が単調増加の関係にある場合のトルク-電流特性を、
図6に発電トルクの増加に対して発電電流の特性が逆転する領域が存在する場合のトルク-電流特性を示す。ここでは、発電電動機として使用されることの多い永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)について考える。PMSMの定常状態におけるd-q座標上での電圧V
dおよびV
qの電圧方程式は以下のように示される。
【0020】
Vd=RaId-ωLqIq ・・・式(1)
Vq=RaIq+ω(LdId+ψ) ・・・式(2)
ここで、Raは電機子抵抗、ωは電気角速度、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、ψは永久磁石磁束である。
【0021】
また、定常状態におけるトルク式と電流式は以下のように示される。
Trq=ψ・Iq+(Ld-Lq)・Id・Iq ・・・式(3)
Idc=(Vd・Id+Vq・Iq)/(Vdc・η) ・・・式(4)
Ia=√(Id
2+Iq
2)・・・式(5)
Id=-Ia・sinθ ・・・式(6)
Iq= Ia・cosθ ・・・式(7)
ここでTrqは出力トルク、Idcはインバータの直流側の電流(直流電流)、Vdcはインバータの直流側の電圧(直流電圧)、Iaは電機子電流、ηは効率、θはd-q座標上におけるIaのq軸からの位相、である。
【0022】
式(4)と式(1)(2)からIdcを変換すると、
Idc=[(RaId―ωLqIq)Id+{RaIq+ω(LdId+ψ)}Iq]/(Vdc・η)
=(RaId
2-ωLqIdIq+RaIq
2+ωLdIdIq +ωψIq)/(Vdc・η)
Idc={Ra・(Id
2+Iq
2)+ω・Trq}/(Vdc・η) ・・・式(8)
【0023】
さらに式(3)、(8)を電機子電流Iaで表すと、
Trq=ψIa・cosθ+{(Lq-Ld)・Ia
2・sin2θ}/2
・・・式(9)
Idc=[RaIa
2+ω{ψIa・cosθ+(Lq-Ld)・Ia
2・sin2θ}/2}]/(Vdc・η) ・・・式(10)
となる。
【0024】
これらの式から、トルク及び直流電流と電機子電流との依存関係を示すため、さらに電機子電流Iaでそれぞれを微分すると、
dTrq/dIa=ψ・cosθ+(Lq-Ld)・Ia・sin2θ
・・・式(11)
dIdc/dIa=2Ra・Ia+ω{ψcosθ+(Lq-Ld)・Ia・sin2θ)
=2Ra・Ia+ω(dTrq/dIa) ・・・式(12)
【0025】
式(11)、(12)において2Ra・Ia≧0であるため、dTrq/dIa<0のときdIdc/dIa≧0となる点は存在しうる。例えば発電電動機を発電機として使用する場合を考えると、電機子電流の増加によって発電トルクが増加する一方、銅損が増えることで発電電流である直流電流は減少するような状態が該当する。
【0026】
次に、dTrq/dIa<0のとき、式(11)より
ψcosθ+(Lq-Ld)・Ia・sin2θ<0 ・・・式(13)
が成り立つ。cosθ=0の時、式(13)は成立しないので、cosθ≠0と言える。
【0027】
発電動作時について考えると、cosθ<0であるため、式(13)の両辺を負値cosθで除して、
ψ+2(Lq-Ld)・Ia・sinθ>0 ・・・式(14)
を得る。以降、(Lq-Ld)・sinθの符号によって条件が分岐するが、ここでは、(Lq-Ld)・sinθ<0の場合について考える。
【0028】
ここで、PMSMの中でもIPMSM(Internal Permanent Magnet Synchronous Motor:埋込磁石同期モータ)は一般的に、マグネットトルクに加えてリラクタンストルクを利用する目的からLq>Ldの逆突極性を持つような磁石配置となっている。そのため、Ld-Lq<0が成り立っている。
【0029】
よって、IPMSMにおいて発電動作時にdTrq/dIa<0となるのは、Ld<Lqかつsinθ>0、cosθ<0となるとき、すなわち
Ld<Lqかつ180°<θ<270°(逆突極性かつ強め磁束発電領域)の時である。
【0030】
このとき、dIdc/dIa≧0となる条件を考える。式(12)から、
Ia・{2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θ}+ωψcosθ≧0
・・・式(15)
が成り立つ。前提条件から2Ra≧0、Lq-Ld>0、sin2θ>0となり、2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θは正値となるため、式(15)を正値2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θで除すると、
Ia≧-ωψcosθ/{2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θ} ・・・式(16)
となる。一方で、トルクの条件から、Ia<-ψ/{2(Lq-Ld)sinθ}となる。
【0031】
よって、Ld<Lqかつ180°<θ<270°(逆突極性かつ強め磁束発電領域)かつ
-ωψcosθ/{2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θ}≦Ia<-ψ/{2(Lq-Ld)sinθ} ・・・条件(1)
の時、dTrq/dIa<0かつdIdc/dIa≧0となる。
【0032】
以上より、IPMSMの最大発電制御を実施する場合には、条件(1)を満たす運転状態とならないように電流指令を制限する必要がある。実施の形態1による電流指令生成部206が持つ指令値マップは、予め制御対象である発電電動機の特性から条件(1)を満たす領域を使用しないようなIdref、Iqrefを生成するように作成される。すなわち、マップには、回転電機のトルクの増加に従って直流電流が減少する動作領域を含まない動作領域のみにおける複数のパラメータの間の関係が記憶される。
【0033】
以上のように、実施の形態1にかかる電力変換装置によれば、発電トルクが増加するにもかかわらず発電電流が低下するような運転状態を回避することが出来るため、常に直流電流が最大となるような制御が可能となる。
【0034】
本実施の形態1では回転電機201の電機子巻線202を3相Y結線としているが、相数および結線方式はこれに限定されるものではない。本実施の形態1では電流検出手段210を持ち電圧指令生成時には電流フィードバックを行う構成としているが、電圧指令の生成方法はこれに限定されるものではなく、例えば、電流指令からフィードフォワードでマップあるいは数式に基づいて電圧指令を生成しても構わない。また本実施の形態1では回転位置検出手段を有し、検出した回転位置を制御に利用するとしているが、回転位置を参照せず、電圧あるいは電流の情報から位相を内部で算出して制御を実施する方式であってもよい。
【0035】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2による電力変換装置204の回転電機201を含む構成を示すブロック図である。本実施の形態2による電力変換装置の制御器200は、第一制御器220と第二制御器230を備えている。第一制御器220と第二制御器230の電圧指令生成部207は共通であり、第一制御器220の電流指令生成部は、第一電流指令生成部602であり、第二制御器230の電流指令生成部は、第二電流指令生成部603である。この第一電流指令生成部602と第二電流指令生成部603を切替スイッチ601で切り替えるよう構成されている。第一電流指令生成部602は、実施の形態1における電流指令生成部206と同様の構成、すなわち、回転電機201のトルクの増加に従って直流電流が減少する動作領域を避けて制御するよう、電流指令I
dref1、I
qref1を生成する。一方、第二電流指令生成部603は、トルク指令T
refに常に追従するような電流指令I
dref2、I
qref2を生成する。
図6では、第一制御器220と第二制御器230で一つの電圧指令生成部207を用いるようにしたが、第一制御器220と第二制御器230それぞれに電圧指令生成部を有するようにしても良く、第一制御器220と第二制御器230の制御を切り替える構成であればよい。
【0036】
実施の形態2による電力変換装置によれば、最大トルクを目指す制御と最大直流電流を目指す制御を運転状態に応じて切り替えることで、発電トルクが必要な際には最大トルクを発生させ、そうでない場合のみ直流電流を最大とするような制御が可能となる。
【0037】
実施の形態3.
図8は、実施の形態3による電力変換装置204の回転電機201を含む構成を示すブロック図である。実施の形態1では、あらかじめ特性が逆転しないような指令を記憶した指令値マップを備える場合について説明したが、本実施の形態3では特性が逆転しないようにリアルタイムで計算を実施する場合について説明する。
【0038】
図8の全体の構成は
図2とほぼ同一であるため、以下では異なる部分について記述する。本実施の形態3における電流指令生成部206はさらに電機子電流検出値I
u,I
v,I
wと回転位置検出値δを入力に持ち、電圧指令生成部207と同様に電機子巻線の通電量I
d、I
qを算出し、式(12)を満たす領域とならないよう、電流指令I
dref、I
qrefをリアルタイムで変化させる。すなわち、電流指令生成部206において、演算の演算結果が、回転電機のトルクの増加に従って直流電流が減少する動作領域以外の動作領域となる演算を行うよう構成する。
【0039】
以上のような構成の電力変換装置によれば、実施の形態1と同様に発電トルクが増加するにもかかわらず発電電流が低下するような運転状態を回避することが出来るため、常に直流電流が最大となるような制御が可能となる。または、最大トルクを目指す制御と最大直流電流を目指す制御を運転状態に応じて切り替えることで、発電トルクが必要な際には最大トルクを発生させ、そうでない場合のみDC電流を最大とするような制御が可能となる。
【0040】
実施の形態4.
図9は、実施の形態4による電力変換装置204の回転電機201を含む構成を示すブロック図である。実施の形態4では、特性の逆転を検知してそれ以降の指令値が一定になるよう、または制限することで特性が逆転する領域での運転が継続しないような制御を実施する。本実施の形態4における電力変換装置は、
図9に示すように、直流電流推定部801を有する。直流電流推定部801は、電機子電流検出値I
u、I
v、I
wを三相二相変換したI
d、I
q、d軸、q軸電圧指令生成部270で算出したV
dref、V
qref、および端子電圧VBを入力として、式(17)によって直流電流推定値I
dcestを算出する。
I
dcest=(V
dref・I
d+V
qref・I
q)/VB ・・・式(17)
【0041】
図10に、本実施の形態4における電流指令生成部260の構成を示す。電流指令候補発生部261の動作は、実施の形態2、すなわち
図7で示す第二電流指令生成部603と同様の動作により電流指令候補I
dref2、I
qref2を生成する。逆転領域検知部262は、入力されるトルク指令T
refと直流電流推定値I
dcestそれぞれの時間変化du/dtにより、それぞれの変化方向を検知し、トルク指令T
refの変化方向と直流電流推定値I
dcestの変化方向が逆となった場合、指令値制限部263に信号を送る。指令値制限部263は、逆転領域検知部262から信号を受け取った場合、出力する電流指令I
dref、I
qrefを一定の値に固定する。指令値制限部263は、逆転領域検知部262から信号を受け取るまでは、電流指令候補I
dref2、I
qref2を電流指令I
dref、I
qrefとして出力する。電流指令値を制限することで、電機子電流が一定の値に保たれ、それ以上発電トルクおよび発電電流が変化しなくなるので、発電トルクが増加するにもかかわらず発電電流が低下するような運転状態を回避することが出来る。
【0042】
実施の形態5.
図11は実施の形態5による電力変換装置504の回転電機501を含む構成を示すブロック図である。実施の形態1では、回転電機としてPMSMを用いる場合について説明したが、本実施の形態5においては、巻線界磁型の同期電動機を用いる場合について説明する。
【0043】
回転電機501は、電機子巻線202、および回転子203を備え、回転子内には界磁巻線510を有している。ここで、回転子203はその内部に永久磁石を有し、界磁巻線510への通電によって発生する磁束を補助するような構造となっていても構わない。電動機および発電機としての機能は、制御器200によってインバータ205の制御が行われ、各電機子巻線への通電が行われることで実現される。電力変換装置204は、エンコーダあるいはレゾルバといった回転位置検出手段208を内蔵する。また、界磁巻線510の電流は、電力指令生成部207からの電圧指令Vfrefに基づいて界磁回路511により制御される。
【0044】
巻線界磁型同期電動機の定常状態におけるd-q座標上での電圧Vd、VqおよびVfの電圧方程式は以下のように示される。
【0045】
Vd=RaId-ωLqIq ・・・式(1)
Vq=RaIq+ω(LdId+ψf) ・・・式(2a)
Vf=RfIf・・・式(18)
ここで、ψfは界磁磁束、Rfは界磁抵抗、Ifは界磁電流である。
【0046】
また、定常状態におけるトルク式と電流式は以下のように示される。
Trq=ψf・Iq+(Ld-Lq)・Id・Iq ・・・式(3a)
Idc=(Vd・Id+Vq・Iq+Vf・If)/(Vdc・η)
・・・式(4a)
Ia=√(Id
2+Iq
2) ・・・式(5)
【0047】
式(4a)と式(1)(2a)からIdcを変換すると、
Idc=[(RaId―ωLqIq)Id+{RaIq+ω(LdId+ψ)}Iq+RfIf
2]/(Vdc・η)
Idc={Ra・(Id
2+Iq
2)+ω・Trq+RfIf
2}/(Vdc・η)
・・・式(8a)
【0048】
さらに式(3a)、(8a)を電機子電流Iaで表すと、
Trq=ψfIa・cosθ+{(Ld-Lq)・Ia
2・sin2θ}/2
・・・式(9a)
Idc=[RaIa
2+ω{ψfIa・cosθ+(Ld-Lq)・Ia
2・sin2θ/2}+RfIf
2]/(Vdc・η) ・・・式(10a)
となる。
【0049】
これらの式から、トルク及び直流電流と電機子電流との依存関係を示すため、さらに電機子電流Iaでそれぞれを微分すると、
dTrq/dIa=ψf・cosθ+(Lq-Ld)・Ia・sin2θ
・・・式(11a)
dIdc/dIa=2Ra・Ia+ω{ψfcosθ+(Lq-Ld)・Ia・sin2θ)
=2Ra・Ia+ω(dTrq/dIa) ・・・式(12a)
式(11a)、(12a)において2Ra・Ia≧0であるため、実施の形態1と同様に、dTrq/dIa<0のときdIdc/dIa≧0となる点は存在しうる。
【0050】
次に、dTrq/dIa<0のとき、式(11a)より
ψfcosθ+(Lq-Ld)・Ia・sin2θ<0 ・・・式(13a)
が成り立つ。cosθ=0の時、式(13a)は成立しないので、cosθ≠0と言える。
【0051】
発電動作時について考えると、cosθ<0であるため、式(13a)の両辺を負値cosθで除して、
ψf+2(Lq-Ld)・Ia・sinθ>0 ・・・式(14a)
を得る。
【0052】
ここで、一般的に巻線界磁型の同期電動機は、Ld>Lqの突極性を持っている。そのため、Ld-Lq>0が成り立っている。よって、巻線界磁型の同期電動機において発電動作時にdTrq/dIa<0となるのは、Ld>Lqかつsinθ>0、cosθ<0となるとき、すなわちLd>Lqかつ90°<θ<180°(突極性かつ弱め磁束発電領域)の時である。
【0053】
このとき、dIdc/dIa≧0となる条件を考える。式(12a)から、
Ia・{2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θ}+ωψfcosθ≧0
・・・式(15a)
が成り立つ。前提条件から2Ra≧0、Lq-Ld<0、sin2θ<0となり、2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θは正値となる。式(15´)を正値2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θで除すると、
Ia≧-ωψfcosθ/{2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θ}
・・・式(16)
となる。一方で、トルクの条件から、Ia<-ψ/{2(Lq-Ld)sinθ}となる。
【0054】
よって、Ld>Lqかつ90°<θ<180°(突極性かつ弱め磁束発電領域)かつ
-ωψcosθ/{2Ra+ω(Lq-Ld)・sin2θ}≦Ia<-ψ/{2(Lq-Ld)sinθ} ・・・条件(2)
の時、dTrq/dIa<0かつdIdc/dIa≧0となる。
【0055】
以上より、巻線界磁型の同期電動機において最大発電制御を実施する場合には、条件(2)を満たす運転状態とならないように電流指令を制限する必要がある。実施の形態5による電流指令生成部206が持つ指令値マップは、予め制御対象である発電電動機の特性から条件(2)を満たす領域を使用しないようなIdref、Iqrefを生成するように作成される。すなわち、マップには、回転電機のトルクの増加に従って直流電流が減少する動作領域を含まない動作領域のみにおける複数のパラメータの間の関係が記憶される。
【0056】
以上のように、実施の形態5にかかる電力変換装置によれば、発電トルクが増加するにもかかわらず発電電流が低下するような運転状態を回避することが出来るため、常に直流電流が最大となるような制御が可能となる。
【0057】
ここまで示した実施の形態において、回転電機は永久磁石を有するPMSMまたは巻線界磁方式の同期電動機として説明を行ったが、リラクタンスモータにおいても、発電トルクが大きくなるにもかかわらず発電電流が低下するような運転状態は生じうる。本願で開示する技術はそれらの発電電動機にも適用可能である。
【0058】
本願には、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0059】
101 内燃機関、103 直流電源、200 制御器、201、501 回転電機、202 電機子巻線、203 回転子、205 インバータ、220 第一制御器、230 第二制御器、510 界磁巻線
【手続補正書】
【提出日】2022-08-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機が接続される交流側の交流電力と、直流電源が接続される直流側の直流電力とを変換するインバータと、前記インバータの動作を制御する制御器とを備えた電力変換装置であって、
前記制御器は、前記インバータに接続される前記回転電機が前記回転電機から前記インバータを介して前記直流電源に電力を供給する発電機として動作するときに、前記インバータに接続される前記回転電機のトルクと前記インバータに接続される前記直流電源に流れる直流電流との関係における動作として、前記回転電機のトルクの増加に従って、前記直流電流が減少する動作領域が存在する場合において、前記動作領域を避けて制御する電力変換装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記直流電流が、前記トルクが最大となる直流電流よりも小さい動作領域のみで制御する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記交流電力と、前記直流電力とを変換する動作を制御するための複数のパラメータの間の関係を記憶したマップを参照して制御するよう構成されており、前記マップは、前記トルクの増加に従って前記直流電流が減少する動作領域以外の動作領域のみにおける、前記複数のパラメータの間の関係を記憶している請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記交流電力と、前記直流電力とを変換する動作を制御するための複数のパラメータの間の関係をリアルタイム計算により演算して制御するよう構成されており、前記演算は演算結果が、前記トルクの増加に従って前記直流電流が減少する動作領域以外の動作領域となる演算である請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
回転電機が接続される交流側の交流電力と、直流電源が接続される直流側の直流電力とを変換するインバータと、前記インバータの動作を制御する制御器とを備えた電力変換装置であって、
前記制御器は、前記インバータに接続される前記回転電機が前記回転電機から前記インバータを介して前記直流電源に電力を供給する発電機として動作するときに、前記インバータに接続される前記回転電機のトルクの増加に従って、前記インバータに接続される前記直流電源に流れる直流電流が減少する動作領域を検知した場合、前記直流電流を一定値に保持するよう制御する電力変換装置。
【請求項6】
回転電機が接続される交流側の交流電力と、直流電源が接続される直流側の直流電力とを変換するインバータと、前記インバータの動作を制御する制御器とを備えた電力変換装置であって、
前記制御器は、前記インバータに接続される前記回転電機が前記回転電機から前記インバータを介して前記直流電源に電力を供給する発電機として動作するときに、前記インバータに接続される前記回転電機のトルクの増加に従って前記インバータに接続される前記直流電源に流れる直流電流が減少する動作領域を避けて制御する第一制御器と、前記トルクの増加に従って前記直流電流が減少する動作領域と、前記トルクの増加に従って前記直流電流が減少する動作領域以外の動作領域を含んで制御する第二制御器とを備え、前記第一制御器による制御と前記第二制御器による制御を切り替えて制御する電力変換装置。
【請求項7】
前記インバータに接続される前記回転電機は、動力伝達機構を介して内燃機関と接続されており、前記インバータに接続される前記直流電源は直流電源である請求項1から6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記インバータに接続される前記回転電機は、回転子に界磁巻線を有する回転電機である請求項1から7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本願に開示される電力変換装置は、回転電機が接続される交流側の交流電力と、直流電源が接続される直流側の直流電力とを変換するインバータと、前記インバータの動作を制御する制御器とを備えた電力変換装置であって、前記制御器は、前記インバータに接続される前記回転電機が前記回転電機から前記インバータを介して前記直流電源に電力を供給する発電機として動作するときに、前記インバータに接続される前記回転電機のトルクと前記インバータに接続される前記直流電源に流れる直流電流との関係における動作として、前記回転電機のトルクの増加に従って、前記直流電流が減少する動作領域が存在する場合において、前記動作領域を避けて制御するものである。