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特開2022-180809サージ抑制装置およびシールドシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180809
(43)【公開日】2022-12-07
(54)【発明の名称】サージ抑制装置およびシールドシステム
(51)【国際特許分類】
   H02H 9/04 20060101AFI20221130BHJP
   H02H 7/00 20060101ALI20221130BHJP
   H02M 1/12 20060101ALN20221130BHJP
【FI】
H02H9/04 A
H02H7/00 C
H02M1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087507
(22)【出願日】2021-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 慶多
(72)【発明者】
【氏名】窪田 正博
(72)【発明者】
【氏名】金本 貴志
【テーマコード(参考)】
5G013
5G053
5H740
【Fターム(参考)】
5G013AA01
5G013AA04
5G013BA02
5G013DA03
5G013DA10
5G053AA10
5G053BA01
5G053BA04
5G053BA08
5G053CA05
5G053EC05
5H740AA01
5H740NN02
(57)【要約】
【課題】HEMPの第1パルスと第2パルスの両方とも防護可能なサージ抑制装置を提供する。
【解決手段】サージ抑制装置101は、防護対象装置5に接続される入力配線10と、各々が、入力配線10に印加された高強度パルスを入力配線10の途中においてバイパスする第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2とを備える。ここで、第1サージ抑制素子1の動作電圧は第2サージ抑制素子2の動作電圧よりも高く、第1サージ抑制素子1の配線長は第2サージ抑制素子2の配線長よりも短く、第2サージ抑制素子2の耐電流は第1サージ抑制素子1の耐電流よりも大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護対象装置に接続される第1入力配線と、
各々が、前記第1入力配線に印加されたパルスを前記第1入力配線の途中においてバイパスする第1サージ抑制素子および第2サージ抑制素子とを備え、
前記第1サージ抑制素子の動作電圧は前記第2サージ抑制素子の動作電圧よりも高く、前記第1サージ抑制素子の配線長は前記第2サージ抑制素子の配線長よりも短く、前記第2サージ抑制素子の耐電流は前記第1サージ抑制素子の耐電流よりも大きい、サージ抑制装置。
【請求項2】
前記防護対象装置に接続される第2入力配線をさらに備え、
前記第1サージ抑制素子および前記第2サージ抑制素子の各々は、前記第1入力配線と前記第2入力配線との間に接続される、請求項1に記載のサージ抑制装置。
【請求項3】
接地電極をさらに備え、
前記第1サージ抑制素子および前記第2サージ抑制素子の各々は、前記第1入力配線と前記接地電極との間に接続される、請求項1に記載のサージ抑制装置。
【請求項4】
前記接地電極としての筐体をさらに備える、請求項3に記載のサージ抑制装置。
【請求項5】
前記第2サージ抑制素子に直列に接続されたヒューズをさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項6】
前記第1サージ抑制素子に直列に接続されたヒューズをさらに備える、請求項1~5のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項7】
前記第1入力配線の途中に接続された追加インダクタをさらに備え、
前記追加インダクタは、前記第1入力配線と前記第1サージ抑制素子との接続点と、前記防護対象装置との間に接続される、請求項1~6のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項8】
前記第2サージ抑制素子の動作電圧を測定するための前記第2サージ抑制素子用の動作電圧測定装置をさらに備える、請求項1~7のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項9】
前記第2サージ抑制素子用の前記動作電圧測定装置の駆動電圧は、前記第1入力配線から分岐接続された配線を介して供給される、請求項8に記載のサージ抑制装置。
【請求項10】
前記第2サージ抑制素子と前記第1入力配線との間を電気的に開閉するスイッチと、
前記スイッチの開閉を制御するスイッチ制御部とをさらに備える、請求項8または9に記載のサージ抑制装置。
【請求項11】
前記第1サージ抑制素子の動作電圧を測定するための前記第1サージ抑制素子用の動作電圧測定装置をさらに備える、請求項1~10のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項12】
前記第1サージ抑制素子用の前記動作電圧測定装置の駆動電圧は、前記第1入力配線から分岐接続された配線を介して供給される、請求項11に記載のサージ抑制装置。
【請求項13】
前記第1サージ抑制素子と前記第1入力配線との間を電気的に開閉するスイッチと、
前記スイッチの開閉を制御するスイッチ制御部とをさらに備える、請求項11または12に記載のサージ抑制装置。
【請求項14】
前記第1サージ抑制素子は、互いに直列接続された第1素子および第2素子を含み、
前記第1素子は、短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子であり、前記第2素子は短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子である、請求項1~13のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項15】
前記第1素子の耐電流よりも前記第2素子の耐電流の方が高い、請求項14に記載のサージ抑制装置。
【請求項16】
前記第2サージ抑制素子は、互いに直列接続された第3素子および第4素子を含み、
前記第3素子は、短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子であり、前記第4素子は、短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子である、請求項1~15のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項17】
前記第3素子の耐電流よりも前記第4素子の耐電流の方が高い、請求項16に記載のサージ抑制装置。
【請求項18】
前記第2サージ抑制素子を流れる電流を測定するための電流測定装置をさらに備える、請求項1~17のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項19】
前記第1サージ抑制素子を流れる電流を測定するための電流測定装置をさらに備える、請求項1~18のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項20】
前記第2サージ抑制素子に直列に接続されたインダクタをさらに備える、請求項1~19のいずれか1項に記載のサージ抑制装置。
【請求項21】
電磁シールド室の周囲を囲む導電性の壁と、
前記導電性の壁に電気的に接続された請求項1~20のいずれか1項に記載のサージ抑制装置とを備える、シールドシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サージ抑制装置およびシールドシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流電源側から被保護機器へ侵入する誘導雷サージを保護するためのサージ抑制装置が知られている。誘導雷サージ試験に関してIEC61000―4―5規格が定められている。この規格による高強度パルスの諸元は、電流の立ち上がり時間が8μs(マイクロ秒)であり、パルス幅が20μsである。
【0003】
電源線路または信号線路に印加され得る高強度パルスは誘導雷のみではなく、HEMP(High-altitude Electro-magnetic Pulse:高高度核爆発電磁パルス)に対する対策も重要である。HEMPによる高強度パルスの諸元は、MIL規格のMIL-STD-188-125-1、MIL-STD-188-125-2において定められている。HEMPでは、第1パルスおよび第2パルスの両方のパルスへの防護性能が必要となる。
【0004】
具体的に、第1パルスは、立上り時間が20ns以下、幅が500ns~550ns、ピーク電流が5000Aと規定されている。一方、第2パルスは、立上り時間は1.5μs、幅が3ms~5ms、ピーク電流が250Aと規定されている。
【0005】
特許文献1(特開2020-127252号公報)は、高強度パルスの侵入を防止するために、貫通型のサージ抑制素子(具体的にはバリスタ)を入力端に配置した構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-127252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
HEMPによる高強度パルスの侵入を防止するためには、第1パルスおよび第2パルスの両方に対する対策を講じなければならない。特許文献1に開示された貫通型のサージ抑制素子の場合には、配線長を短くすることができるので、立ち上がり時間の短い第1パルスへの防御に適している。しかしながら、第2パルスがさらに印加されたときにサージ抑制素子が破壊されないようにするには耐電流を高める必要があり、結果としてサージ抑制素子が大型化してしまう。サージ抑制素子が大型化すると配線イダンダクタンスが増加するので、立ち上がり時間の短い第1パルスへの防護性能が低下してしまうという問題が生じる。
【0008】
本開示は、上記の問題点を考慮してなされたものであり、その目的は、HEMPの第1パルスおよび第2パルスの両方とも防護可能なサージ抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のサージ抑制装置は、防護対象装置に接続される第1入力配線と、各々が、第1入力配線に印加されたパルスを第1入力配線の途中においてバイパスする第1サージ抑制素子および第2サージ抑制素子とを備える。ここで、第1サージ抑制素子の動作電圧は第2サージ抑制素子の動作電圧よりも高く、第1サージ抑制素子の配線長は第2サージ抑制素子の配線長よりも短く、第2サージ抑制素子の耐電流は第1サージ抑制素子の耐電流よりも大きい。
【発明の効果】
【0010】
本開示のサージ抑制装置によれば、入力パルスをバイパスするために上記の第1サージ抑制素子および第2サージ抑制素子を設けることによって、HEMPの第1パルスと第2パルスの両方とも防護できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1のサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図2図1の防護対象装置5の一例としてフィルタ装置の構成例を示す回路図である。
図3図1のサージ抑制装置の第1の変形例を示す回路図である。
図4図1のサージ抑制装置の第2の変形例を示す回路図である。
図5図1のサージ抑制装置の第3の変形例を示す回路図である。
図6】コンデンサにHEMP第1パルスを印加したときのコンデンサ電圧波形を示す図である。
図7】コンデンサにHEMP第1パルスを印加したときのコンデンサ電圧最大値と第1サージ抑制素子の配線インダクタンスとの関係を示す図である。
図8】コンデンサにHEMP第2パルスを印加したときのコンデンサ電圧波形を示す図である。
図9】コンデンサにHEMP第2パルスを印加したときのコンデンサ電圧最大値と第2サージ抑制素子の配線インダクタンスとの関係を示す図である。
図10】実施の形態2に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図11】実施の形態2の変形例に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図12】実施の形態3に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図13】実施の形態4に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図14】実施の形態5に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図15】実施の形態5の変形例に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図16】実施の形態6に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図17】実施の形態6の変形例に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図18】実施の形態7に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図19】実施の形態8に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
図20】実施の形態8の変形例に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0013】
実施の形態1.
以下、図1図9を参照して、実施の形態1に係るサージ抑制装置の構成および動作について説明する。
【0014】
[サージ抑制装置の構成および動作]
図1は、実施の形態1のサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図1に示すように、サージ抑制装置101は、防護対象装置5の入力配線10と、第1サージ抑制素子1と、第2サージ抑制素子2と、これらを内蔵する筐体4とを備える。入力配線10は、筐体4の開口から筐体4の内部に延在し、防護対象装置5の入力端子に接続される。入力配線10は、電源電圧または信号電圧を防護対象装置5に伝送するために用いられる。
【0015】
第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2の各々は、入力配線10の始点に印加されたパルスを、入力配線10の途中においてサージ抑制装置101の筐体4にバイパスする。図1の場合、第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2は、入力配線10の途中と筐体4との間に互いに並列に接続される。ここで、サージ抑制素子とは、ある動作電圧以下ではインピーダンスが高く、その動作電圧以上ではインピーダンスが低くなる非線形特性を有する素子である。
【0016】
図1では、第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2として、金属酸化物バリスタ(MOV:Metal Oxide Varistor)1A,2Aが用いられている。第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2のその他の構成例については、図3図5を参照して後述する。
【0017】
ここで、第1サージ抑制素子1の特性と第2サージ抑制素子2の特性とは以下の点で異なる。第1に、第1サージ抑制素子1の動作電圧は、第2サージ抑制素子2の動作電圧よりも高い。第2に、第1サージ抑制素子1の配線長は、第2サージ抑制素子2の配線長よりも短い。具体的に、図1の回路図では、第2サージ抑制素子2の配線インダクタンス3が図示されている。第1サージ抑制素子1の配線インダクタンスは、第2サージ抑制素子2の配線インダクタンス3に比べて小さいので図では省略している。第3に、第2サージ抑制素子2の耐電流は、第1サージ抑制素子1の耐電流よりも大きい。
【0018】
上記のサージ抑制装置101の構成によれば、HEMPの第1パルスおよび第2パルスの両方とも防護できる。以下、その理由を説明する。前述のように、HEMPの第1パルスは、立上り時間が20ns以下、幅が500ns~550nsであり、誘導雷パルスより幅が短い。したがって、HEMPの第1パルスのエネルギーは小さいものの立上り時間が非常に早いため、サージ抑制素子の配線長が長い場合は配線のインダクタンスと電流の立上り速度の積に起因して生じる過電圧を無視できない。このため、サージ抑制素子の配線長を可能な限り短くする必要がある。一方、HEMPの第2パルスの立上り時間は1.5μsと第1パルスよりも低速なため、サージ抑制素子の配線長を必ずしも短くする必要はない。また、第1パルスのピーク電流は5000Aであるのに対し第2パルスのピーク電流は250Aである。しかしながら、HEMP第2パルスは幅が3ms~5msと、第1パルスの幅の10000倍程度幅が長く、第2パルスのエネルギーは第1パルスのエネルギーよりも10倍以上高くなり得るため、サージ抑制素子は第2パルスが印加されても破壊しないようにする必要がある。
【0019】
そこで、上述のように第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2に特性の違いを設けることによって、図1のサージ抑制装置101の構成によれば、高速かつ低エネルギーのHEMP第1パルスは、配線インダクタンスの小さい第1サージ抑制素子1を主として流れる。したがって、配線インダクタンスと電流立上り速度の積で生じる過電圧による防護対象装置5の破壊を防ぐことができる。また、低速かつ高エネルギーなHEMP第2パルスは、動作電圧の小さい第2サージ抑制素子2を主として流れる。このため、第1サージ抑制素子1の耐電流はHEMP第2パルスに耐えるほど大きくする必要が無くなり、第1サージ抑制素子1を小型化することができる。これにより第1サージ抑制素子1の配線インダクタンスを小さくすることができ、HEMP第1パルスの防護性能を向上できる。これらの理由から、実施の形態1のサージ抑制装置101の構成によれば、HEMP第1パルスおよび第2パルスの両方とも防護できる。
【0020】
通常時に入力配線10を伝送する電源電圧または信号電圧は、第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2の各々の動作電圧よりも小さい。したがって、誘導雷パルスまたはHEMPなどが印加されていない通常時において、サージ抑制装置101は、電源電圧および信号電圧の値に影響を及ぼさない。サージ抑制素子1,2の動作電圧を上回るパルスが印加されると、サージ抑制素子のインピーダンスが小さくなることによりパルス電流がサージ抑制素子にバイパスされる。この結果、防護対象装置5の入力端子に生じる過電圧を防止できる。
【0021】
一局面において、第2サージ抑制素子2に直列に磁性体コアやコイルなどのインダクタが設けられる。第2サージ抑制素子2に直列にインダクタが無い場合、HEMP第1パルス印加時に第1サージ抑制素子1に生じる残留電圧が、第2サージ抑制素子2の配線インダクタンス3にも生じる。この場合に、第2サージ抑制素子2の配線と筐体4との間で絶縁破壊が起きる可能性がある。第2サージ抑制素子2に直列にインダクタを接続することにより、第1サージ抑制素子1に生じる残留電圧は第2サージ抑制素子2に直列接続したインダクタに主として生じるようになる。この結果、配線インダクタンス3に生じる電圧が低減するので、配線と筐体の間での絶縁破壊を防ぐことができ、サージ抑制装置101の信頼性が向上する。
【0022】
防護対象装置5の入力端子が複数の場合には、入力端子に対応してサージ抑制装置101の入力配線10が複数設けられる。この場合、複数の入力配線10の各々に対して、第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2が設けられる。
【0023】
サージ抑制装置101の筐体4を設けた方が接地電極のインダクタンスを低減できる。しかし、筐体4を用いずに、接地電位が与えられる接地電極GNDにサージ抑制素子1,2を直接接続してもよい。HEMP第1パルス防護性能の観点から、第1サージ抑制素子1のインダクタンスを小さくするために、接地電極幅を可能な限り広く、接地電極長を短くすることが望ましい。第1サージ抑制素子1の接地電極と第2サージ抑制素子2の接地電極とは同一でもよいし、分離されていてもよい。サージ抑制装置101の筐体4を用いる場合であっても、筐体4の接地経路の幅を可能な限り広く、接地経路長を短くすることが望ましい。
【0024】
サージ抑制装置の筐体4と防護対象装置5の筐体20とは一体であってもよいし、別体であってもよい。また、第1サージ抑制素子1と第2サージ抑制素子2とは必ずしも同じ筐体4に入っている必要はなく、別々の筐体に入っていてもよい。もしくは、第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2のいずれか一方が筐体を用いずに接地電極に直接接続されていてもよい。防護対象装置5が電磁シールドシステムであるか、または電磁シールドシステムに搭載されたフィルタ装置である場合には、サージ抑制装置101の筐体4は、電磁シールド室の周囲を囲む導電性の壁面のいずれかに接続されていることが望ましい。
【0025】
[防護対象装置の一例]
図2は、図1の防護対象装置5の一例としてフィルタ装置の構成例を示す回路図である。
【0026】
フィルタ装置5Aは、電源線路または信号線路(図1の入力配線10に対応する)に挿入された状態で設けられる。フィルタ装置5Aは、電源線路上もしくは信号線路上に発生する高周波のノイズ成分などを除去する。このようなフィルタ回路として、インダクタとコンデンサとを組み合わせることで構成されたLCフィルタがしばしば用いられる。
【0027】
LCフィルタ回路に誘導雷パルスまたはHEMPなどの高強度のパルス90が印加されると、LCフィルタの端子に過電圧が生じるため、コンデンサ部品が劣化したり、絶縁破壊したりといった問題が生じる可能性がある。そこで、フィルタ装置5Aの入力端子の過電圧を防止するサージ抑制装置101が設けられる。
【0028】
図2に示すように、フィルタ装置5Aは、π型フィルタとして構成され、筐体20と、インダクタ41と、入力側貫通型コンデンサ21と、入力側リード線付コンデンサ31と、出力側貫通型コンデンサ22と、出力側リード線付コンデンサ32とを含む。
【0029】
インダクタ41は、入力端子25と出力端子26との間を接続する線路27に直列に接続される。貫通型コンデンサ21は、入力端子25とインダクタ41の入力側の端子41Aとの間の線路27に直列に接続される。貫通型コンデンサ21の外周は筐体20に直結される。同様に、貫通型コンデンサ22は、出力端子26とインダクタ41の出力側の端子41Bとの間の線路27に直列に接続される。貫通型コンデンサ22の外周は筐体20に直結される。リード線付コンデンサ31は、入力端子25とインダクタ41の端子41Aとの間の線路27と筐体20との間に接続される。同様に、リード線付コンデンサ32は、出力端子26とインダクタ41の端子41Bとの間の線路27と筐体20との間に接続される。インダクタ41およびリード線付コンデンサ31,32は、筐体20に内蔵される。筐体20は、グランドGNDに接続される。
【0030】
図2では単一線路のフィルタ装置を示しているが、線路は複数であってもよい。この場合、線路27ごとに、貫通型コンデンサ21,22、リード線付コンデンサ31,32、およびインダクタ41が設けられる。さらに、異なる線路間にコンデンサを接続してもよい。
【0031】
線路27は、バスバー、銅ケーブル、プリント基板のパターンなどのいずれであってもよい。プリント基板のパターンで接続される場合は、リード線付コンデンサ31,32はリード線の無い面実装部品であってもよい。
【0032】
インダクタ41は、必ずしも巻線を施したコイルでなくてもよく、環状の磁性体コアの中空部に線路27を貫通させたものでもよい。磁性体コアを用いずに線路27のインダクタンスを利用してもよい。
【0033】
コンデンサをC、インダクタをLで表現すると、π型フィルタはC-L-Cフィルタとも表現できる。フィルタ装置5Aは、必ずしもこのようなC-L-Cフィルタでなくてもよい。たとえば、入力側のコンデンサが無いL-Cフィルタでもよく、出力側のコンデンサが無いC-Lフィルタでもよく、フィルタを多段接続したC-L-C-L-Cフィルタであってもよく、その他の多様な構成をとってもよい。
【0034】
貫通型コンデンサ21、22はリード線付コンデンサ31、32よりも線路長が短いことから、高周波のノイズ低減に有効であるが、高周波のノイズ低減が必須でない場合には貫通型コンデンサ21、22は無くてもよい。また、貫通型コンデンサ21、22で十分な静電容量が得られる場合にはリード線付コンデンサ31、32は無くてもよい。
【0035】
サージ抑制装置101が無い場合には、フィルタ装置5Aの入力端子25に高強度のパルスが印加される。このため、特に入力側貫通型コンデンサ21および入力側リード線付コンデンサ31に過電圧が生じるため、これらの入力側コンデンサ21,31に劣化または絶縁破壊が生じる可能性がある。入力側コンデンサ21,31が無い場合であっても、インダクタ41がコイルの場合はインダクタ41の巻線同士の間に過電圧が生じることで絶縁破壊が起こる可能性がある。さらに、インダクタ41がコイルの場合でなくとも線路27と筐体20の間で絶縁破壊が起こる可能性がある。
【0036】
防護対象装置5はこのようなフィルタ装置のみであるとは限らず、フィルタ装置を1要素として内蔵した装置であってもよい。この場合、フィルタ装置の筐体20は防護対象装置5の筐体を兼ねていてもよい。防護対象装置5が電磁シールド室である場合には、フィルタ装置の筐体20は、電磁シールド室を構成する床面および天井面を含む導電性の壁面のいずれかに接続される。
【0037】
図1のサージ抑制装置の変形例]
以下、図3図5を参照して、図1のサージ抑制装置101の構成の変形例について説明する。
【0038】
図3は、図1のサージ抑制装置の第1の変形例を示す回路図である。図3のサージ抑制装置101Aは、第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2の各々が、MOV1A,2Aに代えてガス放電管(GDT:Gas Discharge Tube)1B,2Bで構成されている点で図1のサージ抑制装置101と異なる。図3のその他の点については、図1の場合と同様であるので同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0039】
第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2の各々は、ある動作電圧以下でインピーダンスが高く、その動作電圧以上ではインピーダンスが低くなる非線形特性を有する素子であればよく、その種類は問わない。たとえば、第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2の各々は、ツェナーダイオードであってもよい。また、第1サージ抑制素子1と第2サージ抑制素子2とで、異なる種類とのサージ抑制素子を用いてもよい。
【0040】
なお、GDTの動作電圧は放電管内部の放電が開始する電圧で定義されるが、GDT内部における放電現象発生の遅延に起因して、直流の動作電圧よりもパルス印加時の動作電圧の方が高くなりやすい傾向がある。このため、第1サージ抑制素子の動作電圧と第2サージ抑制素子の動作電圧の大小関係を考える際には、GDT等の放電現象を利用したサージ抑制素子については、直流の動作電圧ではなく、HEMP第2パルスもしくは雷パルスを印加したときの動作電圧を用いる必要がある。
【0041】
一方、MOVおよびツェナーダイオードの動作電圧は多くの場合1mAの電流が流れるときの電圧で定義される。サージ抑制素子の耐電流はパルスの幅によって異なるため、同じパルス諸元で比較する必要がある。サージ抑制素子の耐電流はIEC-61000-4-5規格で定義される立上り時間8μs、幅20μsのパルス電流に基づき定義されることが多い。
【0042】
図4は、図1のサージ抑制装置の第2の変形例を示す回路図である。図4のサージ抑制装置101Bは、第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2の各々が、MOV(1A,2A)とGDT(1B,2B)とのように異なる種類のサージ抑制素子を直列接続したものである点で、図1のサージ抑制装置101と異なる。ここで、第1サージ抑制素子1に用いる個々のサージ抑制素子の動作電圧の合計は、第2サージ抑制素子2に用いる個々のサージ抑制素子の動作電圧の合計よりも高くする必要がある。図4のその他の点は、図1の場合と同様であるので同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0043】
MOVおよびツェナーダイオードは故障時に短絡する可能性が高いが、GDTは故障時に短絡する可能性が低い。一方で、GDT単体で使用する場合はパルス印加が終わった後も短絡状態が持続する続流現象が生じてしまう可能性がある。そのため、MOVまたはツェナーダイオードとGDTとを直列接続することにより、続流現象を防ぎつつ、短絡状態の継続により生じる入力配線10の電圧変動、および過電流によるサージ抑制素子の過剰な発熱を防ぐことができる。
【0044】
図5は、図1のサージ抑制装置の第3の変形例を示す回路図である。図5のサージ抑制装置101Cは、第1サージ抑制素子1が、単体のサージ抑制素子を複数個並列に接続したものである点で、図1のサージ抑制装置101と異なる。図5の構成のサージ抑制装置101Cによれば、第1サージ抑制素子1のインダクタンスを低減させることにより、HEMP第1パルスに対する防護性能を向上できる。
【0045】
また、図5には示していないが、第2サージ抑制素子2についても、単体のサージ抑制素子を複数個並列に接続してもよい。この構成により、第2サージ抑制素子2の耐電流を向上できる。
【0046】
図5のその他の点は、図1の場合と同様であるので同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0047】
[シミュレーション結果]
以下、図6および図7を参照して、図1の第1サージ抑制素子1をコンデンサにバイパス接続した状態で、HEMP第1パルスをコンデンサに印加した場合の第1のシミュレーションの結果について説明する。さらに、図8および図9を参照して、図1の第2サージ抑制素子2をコンデンサにバイパス接続した状態で、HEMP第2パルスをコンデンサに印加した場合の第2のシミュレーション結果について説明する。
【0048】
具体的に、第1のシミュレーションでは、図1の第1サージ抑制素子1のみがコンデンサに並列接続される。コンデンサ容量を50nFとし、第1サージ抑制素子1とコンデンサとの間の配線のインダクタンスを50nHと仮定した。第1サージ抑制素子1の配線のインダクタンスを20nHから120nHまで変化させてシミュレーションを行った。ただし、本シミュレーションで用いる数値は、あくまでも一例であり、実施の形態1の効果を得るために、コンデンサ容量および配線インダクタンスの値が制約されることを意味するものではない。
【0049】
図6は、コンデンサにHEMP第1パルスを印加したときのコンデンサ電圧波形を示す図である。図6では、第1サージ抑制素子1の配線のインダクタンスを120nHと40nHとの2通りで比較した場合のコンデンサ電圧波形が示されている。図6に示すように、第1サージ抑制素子1の配線インダクタンスが小さい方が、コンデンサ電圧の最大値が小さくなることがわかる。
【0050】
図7は、コンデンサにHEMP第1パルスを印加したときのコンデンサ電圧最大値と第1サージ抑制素子の配線インダクタンスとの関係を示す図である。図7では、第1サージ抑制素子1の配線インダクタンスを20nHから120nHまでの間で変化させた場合において、コンデンサ電圧の最大値と第1サージ抑制素子1の配線インダクタンスとの関係がプロットされている。
【0051】
図7に示すように、第1サージ抑制素子1の配線インダクタンスが大きくなるほどコンデンサの最大電圧が大きくなり、結果としてコンデンサの絶縁破壊リスクが大きくなるといえる。したがって、第1サージ抑制素子1の配線インダクタンスが大きくなると、HEMP第1パルスからコンデンサを防護できない可能性が高くなる。
【0052】
次に、第2のシミュレーションでは、図1の第2サージ抑制素子2のみがコンデンサに並列接続される。コンデンサ容量を50nFとし、第2サージ抑制素子2とコンデンサとの間の配線のインダクタンスを50nHと仮定した。第2サージ抑制素子2の動作電圧は、図6および図7で示した第1サージ抑制素子1の動作電圧の半分の値に設定した。第2サージ抑制素子2の配線のインダクタンスを20nHから120nHまで変化させてシミュレーションを行った。ただし、本シミュレーションで用いる数値は、あくまでも一例であり、実施の形態1の効果を得るために、コンデンサ容量および配線インダクタンスの値が制約されることを意味するものではない。また、第2サージ抑制素子2の動作電圧が第1サージ抑制素子1の動作電圧の半分であることに限定されるものではない。
【0053】
図8は、コンデンサにHEMP第2パルスを印加したときのコンデンサ電圧波形を示す図である。図8では、第2サージ抑制素子2の配線のインダクタンスを120nHと40nHとの2通りで比較した場合のコンデンサ電圧波形が示されている。図8に示すように、第2サージ抑制素子2の配線インダクタンスの違いによって、コンデンサ電圧に大きな違いがないことがわかる。
【0054】
図9は、コンデンサにHEMP第2パルスを印加したときのコンデンサ電圧最大値と第2サージ抑制素子の配線インダクタンスとの関係を示す図である。図9では、第2サージ抑制素子2の配線インダクタンスを20nHから120nHまでの間で変化させた場合において、コンデンサ電圧の最大値と第2サージ抑制素子2の配線インダクタンスとの関係がプロットされている。
【0055】
図9に示すように、HEMP第2パルス印加時のコンデンサ最大電圧は、第2サージ抑制素子2の配線インダクタンスに大きく依存しないことがわかる。したがって、第2サージ抑制素子2をある程度大型化することにより配線インダクタンスがより大きくなったとしても、HEMP第2パルスに対する防護性能を保持することができる。
【0056】
ただし、配線インダクタンスが大きい第2サージ抑制素子2は、HEMP第1パルスに対する防護性能が得られないことに注意する必要がある。このため、本実施形態のサージ抑制装置101では、配線インダクタンスの小さい第1サージ抑制素子1が追加で設けられる。第1サージ抑制素子1は、第2サージ抑制素子2よりも耐電流を小さくする必要があるので、HEMP第2パルスによる第1サージ抑制素子1の劣化を防ぐため、HEMP第2パルスの電流の大半は、第1サージ抑制素子1に流れないようする必要がある。図8に示すように、本シミュレーションの条件下では、第2サージ抑制素子2の機能により、HEMP第2パルスが立ち上がる瞬間を除き、コンデンサ電圧が0.8kV未満にクランプされている。したがって、HEMP第1パルスの防護用に動作電圧がおよそ0.8kV以上のサージ抑制素子1を追加で設けることにより、HEMP第2パルスの電流の大半を第2サージ抑制素子2に流し、第1サージ抑制素子1に流さないようにできる。これにより、HEMP第1パルスと第2パルスとの両方の防護を両立できる。なお、図8ではHEMP第2パルスが立ち上がる瞬間に0.8kVを超過している時間帯があり、この時間帯にHEMP第1パルス防護用のサージ抑制素子1に電流が流れる可能性があるが、HEMP第2パルスの全幅に比べて非常に短い期間であるので問題にならない。
【0057】
[実施の形態1の効果]
上記のとおり、実施の形態1のサージ抑制装置101は、防護対象装置5に接続される入力配線10と、各々が、入力配線10に印加された高強度パルスを入力配線10の途中においてバイパスする第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2とを備える。ここで、第1サージ抑制素子1の動作電圧は第2サージ抑制素子2の動作電圧よりも高く、第1サージ抑制素子1の配線長は第2サージ抑制素子2の配線長よりも短く、第2サージ抑制素子2の耐電流は第1サージ抑制素子1の耐電流よりも大きい。
【0058】
上記のサージ抑制装置101の構成によれば、高速かつ低エネルギーなHEMP第1パルスは、配線インダクタンスの小さい第1サージ抑制素子1を主として流れる。このため、配線インダクタンスと電流変化速度の積で生じる過電圧による防護対象装置5の破壊を防ぐことができる。さらに、低速かつ高エネルギーなHEMP第2パルスは、動作電圧の小さい第2サージ抑制素子2を主として流れる。このため、第1サージ抑制素子1の耐電流はHEMP第2パルスに耐えるほど大きくする必要が無くなり、第1サージ抑制素子1を小型化することができる。これにより第1サージ抑制素子1の配線インダクタンスを小さくすることができ、HEMP第1パルスの防護性能を向上できる。
【0059】
実施の形態2.
図10は、実施の形態2に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。実施の形態2に係るサージ抑制装置102は、第1入力配線11および第2入力配線12を有する防護対象装置5を防護する。
【0060】
図10に示すように、サージ抑制装置102は、第1入力配線11と第2入力配線12との間に互いに並列に接続された第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2を備える。したがって、図10のサージ抑制装置102の基本的構成要素は、図1のサージ抑制装置101と同じであるが、その接続が図1のサージ抑制装置101の場合と異なる。
【0061】
本実施形態のサージ抑制装置102の構成によれば、第1入力配線11と第2入力配線12との間に差動でパルスが印加される際の防護性能を向上できる。実施の形態1の構成を複数線路に適用した場合でも差動でパルスが印加される際の防護は可能であるが、サージ抑制装置の筐体4を経由してパルスが線路間を伝搬する。本実施形態の構成の場合には、第1サージ抑制素子1がサージ抑制装置の筐体4を経由せずに直接線路間に接続される。したがって、第1サージ抑制素子を通って線路間を接続する経路のインダクタンスを小さくすることができ、入力配線11,12間に差動で高強度パルスが印加される場合の防護性能を向上できる。
【0062】
ただし、本実施の形態の構成だけでは入力配線11,12に同相でパルスが印加される場合、および入力配線11,12の一方との間に高強度パルスが印加される場合に、防護対象装置5の防護ができない。したがって、これらの場合も防護できるようにするために、実施の形態2の構成に実施の形態1の構成を組み合わせるのが好ましい。
【0063】
図11は、実施の形態2の変形例に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図11のサージ抑制装置102Aは、第1サージ抑制素子1および第2サージ抑制素子2の構成が図10の場合と異なる。
【0064】
具体的に、図11の第1サージ抑制素子1は、第1入力配線11と第2入力配線12との間に直列接続されたサージ抑制素子1A1,1A2と、サージ抑制素子1A1,1A2の中点と筐体4との間に接続されたサージ抑制素子1Bとを備える。同様に、図11の第2サージ抑制素子2は、第1入力配線11と第2入力配線12との間に直列接続されたサージ抑制素子2A1,2A2と、サージ抑制素子2A1,2A2の中点と筐体4との間に接続されたサージ抑制素子2Bとを備える。
【0065】
上記の構成によれば、差動および同相のいずれの高強度パルスに対しても防護が可能となる。なお、図10および図11の場合には、サージ抑制素子1A1,1A2,1B1,1B2としてMOVを用い、サージ抑制素子1B,2BとしてGDTを用いているが、これに限定されない。組み合わせるサージ抑制素子は異なる種類であってもよいし、同じ種類であってもよい。
【0066】
図10および図11のその他の点は図1の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。なお、図10および図11では、2つの線路11,12を有するサージ抑制装置102,102Aを示しているが、線路の数は3つ以上であっても同様である。
【0067】
実施の形態3.
図12は、実施の形態3に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図12のサージ抑制装置103は、第2サージ抑制素子2と直列にヒューズ51をさらに備える点で図1のサージ抑制装置101と異なる。図12のその他の点は図1の場合と同様であるので、同一または相当する部分には、同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0068】
本実施形態の構成により、第2サージ抑制素子2が短絡破壊した場合に、短絡状態が継続することで生じる入力配線10の電圧変動および過電流による第2サージ抑制素子2の過剰な発熱を防止できる。
【0069】
なお、第1サージ抑制素子1に直列にヒューズを接続していてもよい。この場合、第1サージ抑制素子が短絡破壊した場合に、短絡状態が継続することで生じる入力配線10の電圧変動および過電流による第1サージ抑制素子1の過剰な発熱を防止できる。
【0070】
実施の形態4.
図13は、実施の形態4に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図13のサージ抑制装置104は、入力配線10の途中に入力配線10と直列に追加インダクタ61をさらに備える点で図1のサージ抑制装置101と異なる。追加インダクタ61は、入力配線10と第1サージ抑制素子1との接続点10Aと、防護対象装置5との間に設けられる。追加インダクタ61は、必ずしも巻線を施したコイルでなくてもよい。たとえば、追加インダクタ61は、環状の磁性体コアの中空部に配線10を貫通させたものでもよいし、磁性体コアを用いずに配線10のインダクタンスを利用してもよい。
【0071】
本実施形態のサージ抑制装置104の構成によれば、HEMP第1パルスが印加されたときに第1サージ抑制素子1に生じる残留電圧を、追加インダクタ61よりも第2サージ抑制素子2に近い側において減衰させる効果が得られる。したがって、HEMP第1パルスに対する防護性能を向上できる。
【0072】
なお、追加インダクタ61よりも第1サージ抑制素子1に近い側に第2サージ抑制素子2を接続するよりも、図13に示すように、追加インダクタ61よりも防護対象装置5に近い側に第2サージ抑制素子2を接続するほうが望ましい。これにより、HEMP第1パルスが印加されたときに第2サージ抑制素子2の配線と筐体4との間に生じる電圧を低減できるので、配線の絶縁破壊を防止できる。
【0073】
図13のその他の点は図1の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0074】
実施の形態5.
図14は、実施の形態5に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図14のサージ抑制装置105は、スイッチ71、スイッチ制御部72、および動作電圧測定装置82をさらに備える点で図1のサージ抑制装置101と異なる。
【0075】
スイッチ71は、第2サージ抑制素子2と入力配線10との間に接続され、第2サージ抑制素子2と入力配線10との間を電気的に開閉できる。スイッチ71は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)またはバイポーラトランジスタなどの半導体スイッチであってもよいし、機械的スイッチであってもよい。
【0076】
スイッチ制御部72は、スイッチ71の開閉を制御する。スイッチ制御部72は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリを含むマイクロコンピュータによって構成されてもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)によって構成されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用の回路によって構成されてもよい。
【0077】
動作電圧測定装置82は、第2サージ抑制素子2の動作電圧を測定する。動作電圧測定装置82は、たとえば、可変の電圧源と電流計とを有する。具体的に動作電圧測定装置82は、第2サージ抑制素子2に印加する電圧を変化させながら、第2サージ抑制素子2に閾値電流が流れたときの電圧を動作電圧として検知する。第2サージ抑制素子2に印加する電圧は、直流、交流、直流に交流成分が重畳されたもののいずれであってもよい。閾値電流は、必要とする劣化検出の感度に応じて任意に選択することができ、たとえば、1mAでもよいし、0.1mAでもよいし、10mAでもよい。
【0078】
本実施形態のサージ抑制装置105によれば、サージ抑制装置105の製品出荷直後からの動作電圧の変化を測定することにより、第2サージ抑制素子2が破壊する前に劣化の兆候を検知できる。サージ抑制素子は印加されたパルスのエネルギーの総量が閾値を上回ると破壊するが、破壊の前段階である劣化状態では、動作電圧が変化することが知られている。
【0079】
また、スイッチ71によって第2サージ抑制素子2と入力配線10とを切り離すことによって、入力配線10に印加される電圧を遮断せずに高頻度での第2サージ抑制素子2の動作電圧の測定が可能となる。これにより、サージ抑制装置105の信頼性が向上する。入力配線10に印加される電圧の遮断を許容できる場合には、スイッチ71およびスイッチ制御部72は無くてもよい。
【0080】
図14には図示されていないが、第1サージ抑制素子1の動作電圧の変化量も測定できるようにするために、第1サージ抑制素子1の動作電圧を測定可能な動作電圧測定装置をさらに備えていてもよい。この場合、第1サージ抑制素子1と入力配線10との間を電気的に開閉可能なスイッチをさらに備えていてもよい。スイッチによって第1サージ抑制素子1と入力配線10とを切り離すことにより、入力配線10に印加される電圧を遮断せずに高頻度での第1サージ抑制素子1の動作電圧の検査が可能となるので、サージ抑制装置105の信頼性が向上する。
【0081】
図14のその他の点は図1の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0082】
図15は、実施の形態5の変形例に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図15のサージ抑制装置105Aは、動作電圧測定装置82の駆動電圧が入力配線10から分岐された配線を介して供給される点で図14のサージ抑制装置105と異なる。図15のその他の点は図14の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0083】
図15のサージ抑制装置105Aの構成によれば、動作電圧測定装置82を駆動するための電源を別途設けなくてもよい。これにより、動作電圧測定装置82をサージ抑制装置105Aの筐体4内に内蔵することができ、サージ抑制装置105Aを小型化できる。同様に、第1サージ抑制素子1の動作電圧を測定するための動作電圧測定回路が設けられている場合には、この動作電圧測定回路の駆動電圧を、入力配線10から分岐された配線を介して供給してもよい。
【0084】
実施の形態6.
図16は、実施の形態6に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図16のサージ抑制装置106は、第1サージ抑制素子1が短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aと短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子1Bとを直列接続した素子である点で、図14のサージ抑制装置105と異なる。短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aとは、たとえば、MOVまたはツェナーダイオードであり、短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子1Bとは、たとえば、GDTである。短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子1Bは故障しても基本的に開放状態になる。本開示において、短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aを第1素子とも称し、短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子1Bを第2素子とも称する。
【0085】
上記の構成によれば、第1サージ抑制素子1が破壊した場合には、基本的に開放状態になるので、短絡状態が継続することにより生じる入力配線10の電圧変動および過電流による第1サージ抑制素子1の過剰な発熱を防止できる。
【0086】
図16のその他の点は図14の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0087】
図17は、実施の形態6の変形例に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図17のサージ抑制装置106Aは、第1サージ抑制素子1を構成する個々のサージ抑制素子1A,1Bのうち短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aの動作電圧を測定する動作電圧測定装置81をさらに備える点で、図16のサージ抑制装置106と異なる。
【0088】
図14を参照して説明した動作電圧測定装置82の場合と同様に、動作電圧測定装置81は、たとえば、可変の電圧源と電流計とを有する。動作電圧測定装置81は、サージ抑制素子1Aに印加する電圧を変化させながら、サージ抑制素子1Aに閾値電流が流れたときの電圧を動作電圧として検出する。サージ抑制素子1Aに印加する電圧は、直流、交流、直流に交流成分が重畳されたもののいずれであってもよい。閾値電流は、必要とする劣化検出の感度に応じて任意に選択することができ、たとえば、1mAでもよいし、0.1mAでもよいし、10mAでもよい。図17のその他の点は図16の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0089】
本変形例のサージ抑制装置106Aの構成により、第1サージ抑制素子1を構成する個々のサージ抑制素子1A,1Bのうち、短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aが破壊する前に、その劣化の兆候を検知できる。また、通常時はGDTなどの短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子1Bが入力配線10との接続を遮断するため、スイッチを用いることなくかつ入力配線10に印加される電圧を遮断せずに、短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aの劣化検査が可能になる。この結果、サージ抑制装置106Aの信頼性が向上する。
【0090】
ここで、短絡故障の可能性が相対的に高いMOVなどのサージ抑制素子1Aの耐電流よりも、短絡故障の可能性が相対的に低いGDTなどのサージ抑制素子1Bの耐電流の方を高くしておくのが望ましい。これにより、短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aが先に劣化するため、短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子1Bの劣化検査は不要になる。
【0091】
なお、第2サージ抑制素子2についても、上記の第1サージ抑制素子1の場合と同様に、短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子(第3素子)と短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子(第4素子)とを直列接続した構成としてもよい。これにより、スイッチ71が不要になる。さらに、この場合において、第3素子の耐電流よりも第4素子の耐電流を高くするのが望ましい。
【0092】
実施の形態7.
図18は、実施の形態7に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図18のサージ抑制装置107は、入力配線10の途中に入力配線10と直列に追加インダクタ61をさらに備える点で、図16のサージ抑制装置106と異なる。図13のサージ抑制装置104の場合と同様に、追加インダクタ61は、入力配線10と第1サージ抑制素子1との接続点10Aと、防護対象装置5との間に設けられる。図18のその他の点は図16の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0093】
本実施形態のサージ抑制装置107によれば、HEMP第1パルスが印加されたときに第1サージ抑制素子1に生じる残留電圧を、追加インダクタ61よりも第2サージ抑制素子2に近い側において減衰させる効果が得られる。したがって、動作電圧測定装置82が接続される第2サージ抑制素子2の端子の電圧上昇を抑制できるので、当該端子の劣化を防止できる。この結果、サージ抑制装置107の信頼性が向上する。
【0094】
実施の形態8.
図19は、実施の形態8に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図19のサージ抑制装置108は、第2サージ抑制素子2に流れる電流を測定可能な電流測定装置83をさらに備える点で、図1のサージ抑制装置101と異なる。図19のその他の点は図1の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0095】
第2サージ抑制素子2の劣化が進んで動作電圧が低下した場合には、入力配線10に印加される電源電圧または信号電圧が第2サージ抑制素子2の規定の動作電圧以下であっても、第2サージ抑制素子2を流れる電流が変化する場合がある。本実施形態のサージ抑制装置107によれば、スイッチによって第2サージ抑制素子2と入力配線10とを切り離すことなく、かつ入力配線10に印加される電圧を遮断することなく、高頻度で第2サージ抑制素子2の劣化検査が可能になる。したがって、サージ抑制装置108の信頼性が向上する。
【0096】
なお、第1サージ抑制素子1の劣化検査も可能にするために第1サージ抑制素子1に流れる電流を測定可能な電流測定装置をさらに設けていてもよい。この構成によれば、スイッチによって第1サージ抑制素子1と入力配線10を切り離すことなく、かつ入力配線10に印加される電圧を遮断することなく、高頻度で第1サージ抑制素子1の劣化検査が可能になる。したがって、サージ抑制装置108の信頼性が向上する。
【0097】
図20は、実施の形態8の変形例に係るサージ抑制装置の構成を示す回路図である。図20のサージ抑制装置108Aは、第1サージ抑制素子1が短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aと短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子1Bとを直列接続した素子である点で、図19のサージ抑制装置108と異なる。短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aとは、たとえば、MOVまたはツェナーダイオードであり、短絡故障の可能性が相対的に低いサージ抑制素子1Bとは、たとえば、GDTである。
【0098】
図20のサージ抑制装置108Aは、さらに、第1サージ抑制素子1を構成する個々のサージ抑制素子1A,1Bのうち、短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aの動作電圧を測定する動作電圧測定装置81をさらに備える点で、図19のサージ抑制装置108と異なる。図20のその他の点は図19の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0099】
本変形例のサージ抑制装置108Aによれば、第2サージ抑制素子2の劣化の兆候だけでなく、図17を参照して説明したように、第1サージ抑制素子1のうち短絡故障の可能性が相対的に高いサージ抑制素子1Aの劣化の兆候も検知可能になる。
【0100】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この出願の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0101】
1 第1サージ抑制素子、1A1,1A2,1A,1B,1B1,1B2,2A1,2A2,2B サージ抑制素子、2 第2サージ抑制素子、3 配線インダクタンス、4,20 筐体、5 防護対象装置、5A フィルタ装置、10,11,12 入力配線、10A 接続点、21 入力側貫通型コンデンサ、22 出力側貫通型コンデンサ、25 入力端子、26 出力端子、31 入力側リード線付コンデンサ、32 出力側リード線付コンデンサ、41 インダクタ、51 ヒューズ、61 追加インダクタ、71 スイッチ、72 スイッチ制御部、81,82 動作電圧測定装置、83 電流測定装置、101~108 サージ抑制装置、GND 接地電極。
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