(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187796
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】高圧タンク、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
F17C 1/06 20060101AFI20221213BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021095977
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】石川 勇介
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BC01
3E172BC04
3E172BC05
3E172CA12
3E172DA36
3E172DA90
3J046AA14
3J046BA02
3J046BD09
3J046CA01
3J046CA03
3J046DA05
3J046EA01
(57)【要約】
【課題】製造時における排出孔への母材樹脂の流入を確実に防止することができる高圧タンク、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】高圧タンクは、樹脂製のライナ10と、口金12と、繊維強化樹脂製の補強層13と、を備える。ライナ10は中空状の流体充填部を構成する。口金12はライナ10の内部空間と連通する給排口11と、給排口11の周域から径方向外側に張り出しライナ10に突き合わせられるフランジ部12bを有する。補強層13は、ライナ10とフランジ部12bの外周面に跨って被着される。口金12には、フランジ部12bとライナ10の突合せ面12bs,14sの間と、給排口11の内部とを連通する排出孔17が設けられている。フランジ部12bの側の突合せ面12bsとライナ10の側の突合せ面14sの少なくともいずれか一方には、排出孔17の周域を取り囲む捕捉溝19が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状の流体充填部を構成する樹脂製のライナと、
前記ライナの内部空間と連通する給排口、及び、前記給排口の周域から径方向外側に張り出し前記ライナに突き合わせられるフランジ部を有する口金と、
前記ライナと前記フランジ部の外周面に跨って被着される繊維強化樹脂製の補強層と、を備え、
前記口金には、前記フランジ部と前記ライナの突合せ面の間と、前記給排口の内部とを連通し、前記ライナと前記補強層の間に滞留した流体を前記給排口に排出する排出孔が設けられ、
前記フランジ部の側の前記突合せ面と前記ライナの側の前記突合せ面の少なくともいずれか一方には、前記排出孔の周域を取り囲む捕捉溝が設けられていることを特徴とする高圧タンク。
【請求項2】
前記フランジ部と前記ライナの前記突合せ面のうちのいずれか一方には、前記捕捉溝よりも内側で前記排出孔の周域を取り囲み、かつ、いずれか他方の前記突合せ面に押し付けられる突部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
前記口金には、前記捕捉溝と前記口金の外部を連通する連通孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項4】
中空状の流体充填部を構成する樹脂製のライナと、
前記ライナの内部空間と連通する給排口、及び、前記給排口の周域から径方向外側に張り出し前記ライナに突き合わせられるフランジ部を有する口金と、
前記ライナと前記フランジ部の外周面に跨って被着される繊維強化樹脂製の補強層と、を備えた高圧タンクの製造方法であって、
前記フランジ部の前記ライナとの突合せ面と前記給排口の内部とを連通する排出孔を前記口金に形成する工程と、
前記フランジ部の側の前記突合せ面と前記ライナの側の前記突合せ面の少なくともいずれか一方に、前記排出孔の周域を取り囲む捕捉溝を形成する工程と、
前記ライナに前記口金を組み付ける工程と、
前記ライナと前記口金の前記フランジ部の外周面に、母材樹脂が含浸した強化繊維を被着する工程と、
前記母材樹脂を硬化させて前記補強層を得る工程と、
を有することを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項5】
前記ライナに前記口金を組み付ける前に、前記捕捉溝と前記口金の外部を連通する連通孔を前記口金に形成する工程と、
前記連通孔を通して前記捕捉溝に充填剤を充填する工程と、
をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の高圧タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧の流体が充填される高圧タンク、及び、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体や液体等の高圧の流体を充填する高圧タンクとして、主要部が樹脂材料によって形成されたものがある。
この種の高圧タンクの多くは、中空状の流体充填部を構成する樹脂製のライナと、ライナに取り付けられる口金と、ライナの外周面と口金の一部に跨って被着される繊維強化樹脂製の補強層と、を備えている。口金は、ライナの内部空間と連通する給排口と、給排口の周域から径方向外側に張り出すフランジ部と、を有している。口金は、フランジ部がライナの口金側の端面に突き合わせられ、その状態で給排口がライナの開口部に接続されている。補強層は、母材樹脂を含浸させた強化繊維がライナとフランジ部の外周面とに跨って被着され、その後に母材樹脂が加熱等によって硬化処理されている。
【0003】
ところで、高圧タンクに充填する流体が気体である場合、樹脂製のライナは、アルミニウム合金等から成る金属ライナに比較して気体が透過し易い傾向にある。このため、気体を高圧に充填すると、その気体がライナを透過し、ライナの外面と補強層との間に滞留することが想定される。この状態でライナの内部から気体を排出すると、ライナの内圧がライナの外面と補強層の間の隙間の圧力よりも低圧になることが考えられる。この場合、ライナと補強層の間の隙間が広がったり、ライナの周壁の一部が内部に向かって膨出する、所謂バックリングを生じる可能性がある。
【0004】
この対策として、フランジ部とライナの突合せ面(微小な突合せ隙間)と給排口の内部を連通させる排出孔を口金に設け、ライナと補強層の間に滞留した流体(気体)を、排出孔を通して給排口に排出させるようにしたものがある。
【0005】
この対策の場合、口金の排出孔がフランジ部とライナの突合せ面(微小な突合せ隙間)に連通しているが、フランジ部とライナの突合せ面の外周側には、ライナとフランジ部の外周面に跨るように繊維強化樹脂製の補強層が被着されている。このため、高圧タンクの製造時に母材樹脂を含浸させた強化繊維がライナとフランジ部の外周面に被着されると、硬化前の液状の母材樹脂がフランジ部とライナの突合せ隙間に入り込み、その母材樹脂が排出孔内に流入することが懸念される。そして、母材樹脂が排出孔内で硬化すると、排出孔が機能不良になり、ライナと補強層の間に流入した流体(気体)を円滑に外部に排出できなくなる。
【0006】
このため、製造時に、母材樹脂がフランジ部とライナの突合せ隙間に入り込まないようにした高圧タンクが案出されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1に記載の高圧タンクは、フランジ部とライナの突合せ部に液状の母材樹脂を弾くコーティング層を設け、製造時に、液状の母材樹脂が排出孔に流入するの阻止できる構造としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の高圧タンクは、フランジ部とライナの突合せ部に設けらたコーティング層によって液状の母材樹脂を弾くものであるため、フランジ部とライナの間の隙間が充分に小さくない場合には、排出孔への母材樹脂の流入を確実に抑制することが難しい。このため、フランジ部とライナの間の隙間を充分に小さくする必要があるが、口金やライナを高精度で製造しようとすると、製品コストが高騰してしまう。このため、製造時における排出孔への母材樹脂の流入を確実に防止できる簡易な構造の案出が望まれている。
【0010】
そこで本発明は、製造時における排出孔への母材樹脂の流入を確実に防止できる高圧タンク、及び、その製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る高圧タンクは、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
即ち、本発明に係る高圧タンクは、中空状の流体充填部を構成する樹脂製のライナ(例えば、実施形態のライナ10)と、前記ライナの内部空間と連通する給排口(例えば、実施形態の給排口11)、及び、前記給排口の周域から径方向外側に張り出し前記ライナに突き合わせられるフランジ部(例えば、実施形態のフランジ部12b)を有する口金(例えば、実施形態の口金12)と、前記ライナと前記フランジ部の外周面に跨って被着される繊維強化樹脂製の補強層(例えば、実施形態の補強層13)と、を備え、前記口金には、前記フランジ部と前記ライナの突合せ面(例えば、実施形態の突合せ面12bs,14s)の間と、前記給排口の内部とを連通し、前記ライナと前記補強層の間に滞留した流体を前記給排口に排出する排出孔(例えば、実施形態の排出孔17)が設けられ、前記フランジ部の側の前記突合せ面と前記ライナの側の前記突合せ面の少なくともいずれか一方には、前記排出孔の周域を取り囲む捕捉溝(例えば、実施形態の捕捉溝19)が設けられていることを特徴とする。
【0012】
上記の構成により、高圧タンクの使用時に、ライナの流体充填部に充填された流体がライナを透過してライナと補強層の間に流入すると、その流体は、口金のフランジ部とライナの突合せ部を通って排出孔から口金の給排口に戻される。
また、高圧タンクの製造時には、ライナに口金を組み付け、ライナと口金のフランジ部の外周面に、母材樹脂が含浸した強化繊維を被着する。この後、強化繊維に含浸した母材樹脂が硬化すると、ライナとフランジ部の外周面が補強層によって覆われる。ここで、ライナと口金のフランジ部の外周面に強化繊維を被着する際や母材樹脂が完全に硬化する前の段階では、液状の母材樹脂が、フランジ部とライナの突合せ面の間に流入することがある。このとき、流入した母材樹脂は捕捉溝によって捕捉され、排出孔に流れ込むのを阻止される。
【0013】
前記フランジ部と前記ライナの前記突合せ面のうちのいずれか一方には、前記捕捉溝よりも内側で前記排出孔の周域を取り囲み、かつ、いずれか他方の前記突合せ面に押し付けられる突部(例えば、実施形態の突部20)が形成されるようにしても良い。
【0014】
この場合、高圧タンクの製造時に、補強層の液状の母材樹脂がフランジ部とライナの突合せ面の間に流入したときに、捕捉溝によって捕捉されなかった樹脂が排出孔側に流れ込むのを突部によって阻止することが可能になる。したがって、排出孔への母材樹脂の流れ込みを捕捉溝と突部によって二重に阻止することができる。
【0015】
前記口金には、前記捕捉溝と前記口金の外部を連通する連通孔(例えば、実施形態の連通孔21)が形成されるようにしても良い。
【0016】
この場合、高圧タンクの製造時に、捕捉溝が連通孔を通して大気に開放されることになるため、補強層の液状の母材樹脂がフランジ部とライナの突合せ面の間に流入すると、その母材樹脂は捕捉溝内にスムーズに流入する。したがって、本構成を採用した場合には、排出孔への母材樹脂の流入をより確実に阻止することができる。
また、高圧タンクの製造時には、捕捉溝内に母材樹脂が完全に充填されない空間部が残ることがある。この場合、口金の外部から連通孔を通して捕捉溝内の空間部に充填剤を充填することができる。こうして捕捉溝の空間部に充填剤が充填されると、高圧タンクの使用時に、ライナが内部の流体の高い圧力を受けて、捕捉溝の空間部内に入り込むように変形するのを未然に防止することが可能になる。したがって、本構成を採用した場合には、ライナの劣化を防止し、高圧タンクの耐久性を高めることができる。
【0017】
本発明に係る高圧タンクの製造方法は、中空状の流体充填部を構成する樹脂製のライナと、前記ライナの内部空間と連通する給排口、及び、前記給排口の周域から径方向外側に張り出し前記ライナに突き合わせられるフランジ部を有する口金と、前記ライナと前記フランジ部の外周面に跨って被着される繊維強化樹脂製の補強層と、を備えた高圧タンクの製造方法であって、前記フランジ部の前記ライナとの突合せ面と前記給排口の内部とを連通する排出孔を前記口金に形成する工程と、前記フランジ部の側の前記突合せ面と前記ライナの側の前記突合せ面の少なくともいずれか一方に、前記排出孔の周域を取り囲む捕捉溝を形成する工程と、前記ライナに前記口金を組み付ける工程と、前記ライナと前記口金の前記フランジ部の外周面に、母材樹脂が含浸した強化繊維を被着する工程と、前記母材樹脂を硬化させて前記補強層を得る工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、この高圧タンクの製造方法は、前記ライナに前記口金を組み付ける前に、前記捕捉溝と前記口金の外部を連通する連通孔を前記口金に形成する工程と、前記捕捉溝に充填剤を充填する工程と、をさらに有するものであっても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る高圧タンクは、口金のフランジ部の側の突合せ面とライナの側の突合せ面の少なくともいずれか一方に、排出孔の周域を取り囲む捕捉溝が設けられているため、製造時には、液状の母材樹脂を捕捉溝によって捕捉し、排出孔への母材樹脂の流入を確実に防止することができる。
また、本発明に係る高圧タンクの製造方法を採用した場合には、本発明に係る高圧タンクを容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態の高圧タンクの軸線方向に沿った断面図。
【
図3】
図1のII部に対応する口金の部分断面斜視図。
【
図4】製造時の母材樹脂と充填剤の流れ込み状態を示す
図2と同様の断面図。
【
図5】製造時の母材樹脂と充填剤の流れ込み状態を示す
図3と同様の部分断面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態では、共通部分に同一符号を付し、重複する説明を一部省略するものとする。
【0022】
図1は、本実施形態の高圧タンク1の軸線o1方向に沿った断面図である。
図2は、高圧タンク1の
図1のII部の拡大断面図であり、
図3は、口金12の
図1のII部に対応する部分の部分断面斜視図である。
高圧タンク1は、中空状の流体充填部を構成する樹脂製のライナ10と、ライナ10の内部空間と連通する給排口11を有する口金12と、ライナ10の外面と口金12の一部に跨って被着される繊維強化樹脂製の補強層13と、を備えている。ライナ10は、タンク本体の内層を構成し、補強層13は、タンク本体の外層を構成している。
【0023】
ライナ10は、縦断面が略楕円状の樹脂製の中空体によって構成されている。ライナ10は、軸線o1を回転中心とする回転体によって構成されている。ライナ10の内部には、例えば、水素ガス等の各種の流体が高圧状態で充填される。以下では、ライナ10の内部には、気体が高圧状態で充填されるものとして説明する。
【0024】
ライナ10の軸線o1方向の一端側には、中空体の内側方向に窪む窪み部14が設けられ、その窪み部14の中央部に円筒状の連結筒部15が一体に形成されている。連結筒部15は、軸線o1に沿って中空体の外側方向に突出している。連結筒部15には、ライナ10の中空部内を外部に連通させるための開口15aが形成されている。また、連結筒部15の外周面には、雄ねじ部15bが形成されている。
以下では、説明の便宜上、ライナ10の軸線o1の延びる方向を「軸方向」と称し、軸線o1の直交する方向を「径方向」と称する。
【0025】
口金12は、円筒状の口金本体部12aと、口金本体部12aのライナ10側の端部から径方向外側に張り出すフランジ部12bと、を有する。給排口11は、口金本体部12aとフランジ部12bを軸方向に貫通するように形成されている。給排口11のライナ10寄りの内周縁部には、雌ねじ11aが切りられている。口金12の給排口11には、ライナ10の連結筒部15が嵌入されている。口金12は、給排口11内の雌ねじ11aにライナ10側の連結筒部15の雄ねじ部15bが締め込まれることにより、ライナ10に対して接続されている。
図2,
図3に示すように、連結筒部15と給排口11の間には、環状のシール部材16が介装されている。連結筒部15と給排口11の間は、シール部材16によって気密に密閉されている。高圧タンク1では、ライナ10内への気体の充填と、ライナ10内からの気体の排出(外部への気体の供給)が口金12を通して行われる。
なお、本明細書では、フランジ部12bは、口金12のうちの、ライナ10側の端部において給排口11の周域から径方向外側に張り出す領域を意味する。
【0026】
口金12のフランジ部12bは、ライナ10の窪み部14の外面側に突き合わせられる。フランジ部12bのうちの、ライナ10の窪み部14の外側面に突き合わされる面(以下、「突合せ面12bs」と称する。)は、窪み部14の外側面と合致する曲面形状とされている。ライナ10のうちの、フランジ部12bの突合せ面12bsが突き合わされる面(窪み部14の外側面)については、以下、「突合せ面14s」と称する。
【0027】
また、口金12には、フランジ部12bとライナ10の突合せ面12bs,14sの間(突合せ隙間)と、給排口11の内部(連結筒部15との接続部よりも外側領域)とを連通する排出孔17が形成されている。排出孔17の突合せ面12bs側の端部は、フランジ部12bのうちの、給排口11寄りの領域(ほぼ口金本体部12aの軸方向の延長領域)に配置されている。排出孔17は、ライナ10と補強層13の間に滞留した気体(ライナ10の内部からライナ10の壁を透過した気体)を口金12の給排口11内に排出する。排出孔17の突合せ面12bs側の端部には、複数の微細な連通孔18aを有する金属製の柱状のプラグ18が取り付けられている。ライナ10と補強層13の間に滞留した気体は、フランジ部12bとライナ10の突合せ面12bs,14sの隙間とプラグ18の連通孔18aを通って排出孔17に流出する。
【0028】
フランジ部12bの突合せ面12bsには、排出孔17の端部の周域を取り囲む環状の捕捉溝19が形成されている。本実施形態の場合、捕捉溝19は、断面が略矩形状に形成され、その矩形状の断面が、軸線o1を中心とした円形形状を描くように、フランジ部12bの突合せ面12bsに形成されている。排出孔17の突合せ面12bs側の端部は、捕捉溝19の断面の描く円形形状の内側に位置されている。
なお、本実施形態では、捕捉溝19がフランジ部12bの突合せ面12bsに形成されているが、捕捉溝19は、ライナ10側の突合せ面14sに形成するようにしても良い。また、捕捉溝19は、フランジ部12b側の突合せ面12bsとライナ10側の突合せ面14sの両方に形成するようにしても良い。
【0029】
また、フランジ部12bの突合せ面12bsのうちの、捕捉溝19の径方向内側の縁部には、排出孔17の端部の周域を取り囲むように半円状の突部20が形成されている。突部20は、捕捉溝19と同様に、軸線o1を中心とした円形形状を描くように、フランジ部12bの突合せ面12bsに形成されている。突部20は、口金12がライナ10に取り付けられて、フランジ部12b側の突合せ面12bsがライナ10側の突合せ面14sに突き合わされたときに、ライナ10側の突合せ面14sに押し付けられるようになっている。口金12が金属製であるのに対し、ライナ10は樹脂製であるため、突部20がライナ10側の突合せ面14sに押し付けられると、ライナ10側の突合せ面14sが突部20の形状に沿うように変形し、それによって突部20と突合せ面14sの間が密閉される。
ただし、ライナ10と補強層13の間に滞留した気体の圧力がライナ10内の圧力よりも設定圧以上高いときには、ライナ10が変形することよって突部20と突合せ面14sの間に気体の流通が可能な隙間ができる。なお、突部20は、フランジ部12b側の突合せ面12bsに形成するようにしても良い。
【0030】
口金12には、捕捉溝19の底部19bと、口金本体部12aの軸方向外側の端面12eとを連通する連通孔21が形成されている。このため、高圧タンク1の製造時には、捕捉溝19の底部19bは連通孔21を通して大気と連通する。また、連通孔21は、高圧タンク1の製造の最終段階で、捕捉溝19内に充填剤f(
図4,
図5参照)を充填するための注入孔としても機能する。
【0031】
また、補強層13は、口金12をライナ10に組付けた後に、母材樹脂r(
図4,
図5参照)を含浸させた強化繊維を、ライナ10と口金12のフランジ部12bの外面とに跨るように被着し、その後に加熱処理等によって母材樹脂rを硬化させることによって得られる。母材樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂等を用いることができる。また、強化繊維としては、例えば、炭素繊維等を用いることができる。
【0032】
[高圧タンク1の製造方法]
高圧タンク1の製造は、大きく分けて以下の三工程に分けることができる。
(1)ライナ10と口金12の造形・加工工程
(2)ライナ10と口金12の組付け工程
(3)補強層13の形成工程
【0033】
上記の(1)の工程では、ライナ10を樹脂材料によって所定形状に造形し、口金12に排出孔17、捕捉溝19、突部20、連通孔21等を形成する。また、口金12の排出孔17の端部にはプラグ18が取り付けられる。
なお、捕捉溝19と突部20がライナ10側に配置される場合には、捕捉溝19と突部20はライナ10に一体に造形される。
【0034】
上記の(2)の工程では、ライナ10の突合せ面14sに口金12のフランジ部12bを載せ置き、ライナ10の連結筒部15を口金12の給排口11にねじ込みによって接続する。これにより、口金12のフランジ部12bの突合せ面12bsがライナ10の突合せ面14sに突き合わせられる。
【0035】
図4は、高圧タンク1の製造時における母材樹脂rと充填剤fの流れ込み状態を示す
図2と同様の断面図である。また、
図5は、高圧タンク1の製造時における母材樹脂rと充填剤fの流れ込み状態を示す
図3と同様の部分断面斜視図である。
上記の(3)の工程では、組付けられたライナ10と口金12とに、母材樹脂rを含浸させた強化繊維を被着する。なお、母材樹脂rは、強化繊維をライナ10と口金12に巻き付けた後に強化繊維に含浸させるようにしても良い。このとき、強化繊維はライナ10と口金12のフランジ部12bの外周面に跨って被着されるため、液状の母材樹脂rは、
図4に示すように、口金12側の突合せ面12bsとライナ10側の突合せ面14sの隙間に流入することがある。
【0036】
こうして、突合せ面12bs,14sの隙間に径方向外側から母材樹脂rが流れ込むと、その母材樹脂rは環状の捕捉溝19によって捕捉される。このとき、母材樹脂rが捕捉溝19を超えて突合せ面12bs,14sの隙間を径方向内側に進もうとすると、その進行は環状の突部20によって阻止される。この結果、突合せ面12bs,14sの隙間に流れ込んだ液状の母材樹脂rは、捕捉溝19内に滞留する。この後、母材樹脂rの流れが安定したところで、連通孔21を通して、口金12の外部から捕捉溝19内の空間部(母材樹脂rで完全に満たされていない部分)に充填剤fが充填される。このとき、充填剤fは、連通孔21にも充填される。
【0037】
この後、母材樹脂rに加熱処理を施すことにより、母材樹脂rが硬化する。この結果、ライナ10と口金12の外側に補強層13が形成される。また、捕捉溝19と連通孔21に充填された充填剤は、硬化することによって捕捉溝19と連通孔21を閉塞する。
【0038】
以上のようにして製造された高圧タンク1は、ライナ10の外周面と補強層13の間の隙間が、ライナ10と口金12の突合せ部間の隙間と排出孔17を通して、口金12の給排口11内と連通可能となる。このため、ライナ10の内部の気体がライナ10の周壁を透過してライナ10の外周面と補強層13の間の隙間に滞留し、その滞留した気体の圧力が設定圧以上に高まると、気体が上記の経路を通って口金12の給排口11内に戻される。
【0039】
[実施形態の効果]
本実施形態の高圧タンク1は、口金12のフランジ部12bの側の突合せ面12bsとライナ10の側の突合せ面14sの少なくともいずれか一方に、排出孔17の周域を取り囲む捕捉溝19が設けられている。このため、高圧タンク1の製造時には、硬化前の液状の母材樹脂rを捕捉溝19によって捕捉することができる。したがって、本実施形態の高圧タンク1を採用した場合には、製造の容易な簡単な構造でありながら、製造時における排出孔17への母材樹脂rの流入を確実に防止することができる。
【0040】
また、本実施形態の高圧タンク1は、口金12側とライナ10側の突合せ面12bs、14sのうちのいずれか一方に、捕捉溝19よりも内側で排出孔17の周域を取り囲み、かつ、いずれか他方の突合せ面に押し付けられる環状の突部20が形成されている。このため、高圧タンク1の製造時に、液状の母材樹脂rが突合せ面12bs、14sの間に流入したときに、捕捉溝19によって捕捉されなかった樹脂が排出孔17側に流れ込むのを突部20によって阻止することができる。したがって、本構成を採用した場合には、排出孔17への母材樹脂rの流れ込みを捕捉溝19と突部20によって二重に阻止することができる。
【0041】
さらに、本実施形態の高圧タンク1では、捕捉溝19と口金12の外部を連通する連通孔21が口金12に形成されている。このため、高圧タンク1の製造時には、捕捉溝19が連通孔21を通して大気に開放され、捕捉溝19への母材樹脂rの流入がスムーズになる。したがって、本構成を採用した場合には、液状の母材樹脂rが捕捉溝19に滞留されずに排出孔17側に流れ込むのを抑制することができる。
【0042】
また、本構成の場合、高圧タンク1の製造時に、連通孔21を通して口金12の外部から捕捉溝19内に充填剤fを充填することができる。このため、高圧タンク1の使用時に、樹脂製のライナ10が内部の気体の高い圧力を受けた場合に、ライナ10が捕捉溝19の空間部内に入り込むように変形するのを未然に防止することができる。したがって、本構成を採用した場合には、ライナ10の劣化を防止し、高圧タンク1の耐久性を高めることができる。
【0043】
[他の実施形態1]
図6は、他の実施形態1の高圧タンク101の口金112部分の部分断面斜視図である。
本実施形態の高圧タンク101は、口金112の構造の一部が上記の実施形態と若干異なっている。
本実施形態の口金112は、基本構成は上記の実施形態とほぼ同様であるが、捕捉溝19を口金112の外部に連通させる連通孔21の形成位置が上記の実施形態ものと異なっている。具体的には、連通孔21は、口金112の周方向において、一端側が排出孔17と離間した位置で捕捉溝19の底部19bに連通している。また、連通孔21の他端側は、口金112の軸方向の端面ではなく給排口11の内面に連通している。
【0044】
本実施形態の高圧タンク101の場合、製造時に、捕捉溝19内に充填剤fを充填するときには、例えば、充填器具40の先端部を斜めにして連通孔21に挿入し、その状態で連通孔21と捕捉溝19とに充填剤fを充填する。これにより、連通孔21と捕捉溝19は充填剤fによって塞がれ、上記の実施形態と同様の効果を得ることが可能になる。
ただし、本実施形態の場合、連通孔21の端部が給排口11の内面に連通しているため、連通孔21と充填剤fの充填部分が外部から目立たなくなり、商品性が高まる、というさらなる効果を得ることができる。
【0045】
[他の実施形態2]
図7は、他の実施形態2の高圧タンク201の口金212の一部を下面側(フランジ部12bの突合せ面12bs側)から見た図である。
上記の実施形態では、捕捉溝と突部がライナの軸心を中心とした円形形状を描くようにフランジ部に形成されていたが、本実施形態では、捕捉溝219と突部220は、排出孔17の端部の中心を中心とした円形形状を描くように、フランジ部12bの突合せ面12bsに形成されている。
【0046】
本実施形態の場合も、高圧タンク201の製造時に、ライナと口金212の突合せ面12bsの隙間に流れ込んだ母材樹脂が排出孔17方向に流入するのを、捕捉溝219と突部220によって阻止することができる。
ただし、本実施形態の場合、排出孔17の周域を取り囲む捕捉溝219と突部220の径を小さくすることができるため、口金212に施す加工が容易になる。このため、本構成を採用した場合には、口金212の生産効率をより高めることができる。
本実施形態の場合も、捕捉溝219と突部220はライナ側に設けることも可能である。この場合、ライナ側の成形が容易になる。
【0047】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1,101,201…高圧タンク
10…ライナ
11…給排口
12,112,212…口金
12b…フランジ部
12bs…突合せ面
13…補強層
14s…突合せ面
17…排出孔
19,219…捕捉溝
20,220…突部
21…連通孔