(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187923
(43)【公開日】2022-12-20
(54)【発明の名称】工具システム、判定システム、判定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20221213BHJP
B25B 21/02 20060101ALI20221213BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20221213BHJP
【FI】
B25B23/14 620G
B25B21/02 G
B25B23/14 620C
B25B23/14 620A
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096179
(22)【出願日】2021-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦
(72)【発明者】
【氏名】澤田 憲生
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩一
【テーマコード(参考)】
3C038
3C100
【Fターム(参考)】
3C038BC04
3C038CA05
3C038CA10
3C038CB06
3C100AA27
3C100AA29
3C100AA57
3C100AA59
3C100BB19
3C100BB33
3C100CC02
3C100CC14
(57)【要約】
【課題】締結部品の締付状態に関する判定の判定精度向上を図る。
【解決手段】工具システム1は、締付部24と、センサ部27と、記憶部35と、判定部34と、を備えている。締付部24は、先端工具を回転駆動させて締結部品を締め付ける。センサ部27は、締付部24による締付動作時における物理量を検知する。記憶部35は、基準情報を記憶する。基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって締結部品の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。判定部34は、基準情報と、実測相関関係と、に基づいて、締結部品の締付状態に関する判定を行う。実測相関関係は、複数の基準特徴量のそれぞれの種別に応じた複数の特徴量であってセンサ部27によって検知される物理量に基づく複数の実測特徴量の相関関係である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータからの動力により先端工具を回転駆動させて締結部品を締め付ける締付部と、
前記締付部による前記締結部品の締付動作時における物理量を検知するセンサ部と、
種別が互いに異なる複数の特徴量であって前記締結部品の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている基準情報を、記憶する記憶部と、
前記基準情報と、前記複数の基準特徴量のそれぞれの前記種別に応じた複数の特徴量であって前記センサ部によって検知される前記物理量に基づく複数の実測特徴量の実測相関関係と、に基づいて、前記締結部品の締付状態に関する判定を行う判定部と、
を備える、
工具システム。
【請求項2】
前記締付部は、手持ちで使用される工具に設けられている、
請求項1に記載の工具システム。
【請求項3】
前記判定部は、前記締付部が設けられている工具とは別の装置に設けられている、
請求項1又は2に記載の工具システム。
【請求項4】
前記締付部が前記締結部品を正常に締め付けた前記締付動作時に前記センサ部によって検知された前記物理量から、前記基準相関関係を抽出し、抽出した前記基準相関関係に基づいて、前記基準情報を設定し、前記記憶部に前記基準情報を記憶させる設定部を更に備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の工具システム。
【請求項5】
前記設定部は、前記締付部が複数の前記締結部品を正常に締め付けた複数の前記締付動作時に前記センサ部によって検知される複数の前記物理量から、複数の前記基準相関関係を抽出し、抽出した前記複数の基準相関関係に基づいて、前記基準情報を設定する、
請求項4に記載の工具システム。
【請求項6】
前記締付部を複数備え、
前記複数の締付部のそれぞれと一対一に対応する前記センサ部を複数備え、
前記設定部は、前記複数の締付部が複数の前記締結部品を正常に締め付けた複数の前記締付動作時に前記複数のセンサ部によってそれぞれ検知される複数の前記物理量から前記複数の基準相関関係を抽出し、抽出した前記複数の基準相関関係に基づいて、前記基準情報を設定する、
請求項4又は5に記載の工具システム。
【請求項7】
前記基準情報には、前記複数の基準相関関係に基づく判定範囲が設定されており、
前記判定部は、前記実測相関関係が前記判定範囲に含まれるか否かに基づいて前記判定を行う、
請求項5又は6に記載の工具システム。
【請求項8】
前記締付部は、前記モータからの動力によって駆動され、前記先端工具にインパクトを与えるように構成されたインパクト機構を有し、
前記複数の基準特徴量、及び前記複数の実測特徴量は、少なくとも前記モータに印加される電圧及びインパクト周期を含む、
請求項1から7のいずれか1項に記載の工具システム。
【請求項9】
前記物理量は、前記モータの電流波形及び電圧波形の少なくとも一方を含む、
請求項1から8のいずれか1項に記載の工具システム。
【請求項10】
モータからの動力により先端工具を回転駆動させて締結部品を締め付ける工具による、前記締結部品の締付動作時における物理量を取得する取得部と、
種別が互いに異なる複数の特徴量であって前記締結部品の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている基準情報を、記憶する記憶部と、
前記基準情報と、前記複数の基準特徴量のそれぞれの前記種別に応じた複数の特徴量であって前記取得部によって取得される前記物理量に基づく複数の実測特徴量の実測相関関係と、に基づいて、前記締結部品の締付状態に関する判定を行う判定部と、
を備える、
判定システム。
【請求項11】
モータからの動力により先端工具を回転駆動させて締結部品を締め付ける工具に関する判定方法であって、
前記工具による締付動作時における物理量を取得する取得ステップと、
種別が互いに異なる複数の特徴量であって前記締結部品の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている基準情報と、前記複数の基準特徴量のそれぞれの前記種別に応じた複数の特徴量であって前記取得ステップにて取得される前記物理量に基づく複数の実測特徴量の実測相関関係と、に基づいて、前記締結部品の締付状態に関する判定を行う判定ステップと、
を有する、
判定方法。
【請求項12】
請求項11に記載の判定方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に工具システム、判定システム、判定方法及びプログラムに関し、より詳細には、本開示は、締結部品の締め付けに関する工具システム、判定システム、判定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の制御装置は、工具により締結部品に与えられる締付トルクと、撮像装置により撮像された撮像画像とに基づいて、締結部品が正しく締め付けられているか否かを判定する処理部と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の工具システムは、締付トルクを設定トルクと比較し、撮像画像を基準画像と比較することで、締付状態に関する良否判定を行っているが、締結部品にいわゆる「かじり」が発生した場合等には良否判定の精度が低下する可能性があった。
【0005】
本開示は、上記事由に鑑みてなされており、締結部品の締付状態に関する判定の判定精度の向上を図ることができる工具システム、判定システム、判定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る工具システムは、締付部と、センサ部と、記憶部と、判定部と、を備えている。前記締付部は、モータからの動力により先端工具を回転駆動させて締結部品を締め付ける。前記センサ部は、前記締付部による前記締結部品の締付動作時における物理量を検知する。前記記憶部は、基準情報を記憶する。前記基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって前記締結部品の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。前記判定部は、前記基準情報と、実測相関関係と、に基づいて、前記締結部品の締付状態に関する判定を行う。前記実測相関関係は、前記複数の基準特徴量のそれぞれの前記種別に応じた複数の特徴量であって前記センサ部によって検知される前記物理量に基づく複数の実測特徴量の相関関係である。
【0007】
本開示の一態様に係る判定システムは、取得部と、記憶部と、判定部と、を備えている。前記取得部は、モータからの動力により先端工具を回転駆動させて締結部品を締め付ける工具による、前記締結部品の締付動作時における物理量を取得する。前記記憶部は、基準情報を記憶している。前記基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって前記締結部品の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。前記判定部は、前記基準情報と、実測相関関係と、に基づいて、前記締結部品の締付状態に関する判定を行う。前記実測相関関係は、前記複数の基準特徴量のそれぞれの前記種別に応じた複数の特徴量であって前記取得部によって取得される前記物理量に基づく複数の実測特徴量の相関関係である。
【0008】
本開示の一態様に係る判定方法は、モータからの動力により先端工具を回転駆動させて締結部品を締め付ける工具に関する判定方法である。前記判定方法は、取得ステップと、判定ステップと、を有している。前記取得ステップでは、前記工具による前記締結部品の締付動作時における物理量を取得する。前記判定ステップでは、基準情報と、実測相関関係とに基づいて、前記締結部品の締付状態に関する判定を行う。前記基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって前記締結部品の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。前記実測相関関係は、前記複数の基準特徴量のそれぞれの前記種別に応じた複数の特徴量であって前記取得ステップにて取得される前記物理量に基づく複数の実測特徴量の相関関係である。
【0009】
本開示の一態様に係るプログラムは、上記の判定方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の上記態様に係る工具システム、判定システム、判定方法及びプログラムによれば、締結部品の締付状態に関する判定の判定精度の向上を図ることができる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る工具システムの概略ブロック構成図である。
【
図2】
図2Aは、同上の工具システムにおける工具を正面側からみた外観斜視図である。
図2Bは、同上の工具を背面側からみた外観斜視図である。
【
図3】
図3は、同上の工具システムが取得する物理量を示す概略図である。
【
図4】
図4Aは、同上の工具システムにおける判定範囲の概念を二次元で示す概略図である。
図4Bは、同上の工具システムにおける判定範囲の概念を
図4Aとは異なる二次元で示す概略図である。
【
図5】
図5は、同上の工具システムの動作を示すシーケンス図である。
【
図6】
図6は、同上の工具の動作を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、同上の工具システムにおける判定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、変形例に係る工具の概略ブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に関する好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態において互いに共通する要素には同一符号を付しており、共通する要素についての重複する説明は省略する場合がある。以下の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。本開示において説明する各図は、模式的な図であり、各図中の各構成要素の大きさ及び厚さのそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0013】
(1)概要
まず、本実施形態に係る工具システム1の概要について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る工具システム1は、締付部24と、センサ部27と、記憶部35と、判定部34と、を備えている。
【0015】
締付部24は、モータ243からの動力により先端工具(例えばソケット242)を回転駆動させて締結部品X1を締め付ける。締付部24は、一例として、可搬型の工具2(手持ちで使用される工具)に設けられていることを想定する。締付部24は、例えば、モータ243等を含む。締付部24は、例えば、電池パック201から供給される電力によって動作する。工具2は、例えばインパクトレンチであり、締付部24はソケット242(
図2参照)等の先端工具にインパクトを与えるインパクト動作を行うインパクト機構244を有している。工具2を利用する者(以下、「ユーザ」と呼ぶことがある)は、工具2を用いることで、例えば、作業対象となるワーク(例えば、ねじ孔を有した金属材等の対象物)に対して、締結部品X1(例えば、ボルト又はナット等)を取り付けることができる。工具システム1は、締付部24を有する可搬型の工具2を備えることに限定されず、締付部24を有する非可搬型の設備機器(例えば、ねじ締めロボット)を備えてよい。
【0016】
センサ部27は、締付部24による締結部品X1の締付動作時における物理量を検知する。センサ部27は、一例として、締付部24と同様に、可搬型の工具2に設けられていることを想定する。本開示でいう「締付動作」とは、締付部24が1つの締結部品X1を締め付けだしてから締め付けが終了するまでの動作のことをいう。すなわち、締付部24が複数の締結部品X1を順番に締め付けたときは、締付部24は複数の締付動作を順番に行ったことになる。
【0017】
記憶部35は、基準情報を記憶する。基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって締結部品X1の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。記憶部35は、一例として、工具2とは別の装置である判定装置3に設けられている。本実施形態では、判定装置3は、例えば、1又は複数の工具2を利用する作業現場(例えば建設現場)、又は施設(例えば工場)内に設置され得る通信機器であることを想定する。
【0018】
判定部34は、基準情報と、実測相関関係と、に基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行う。実測相関関係は、複数の基準特徴量のそれぞれの種別に応じた複数の特徴量であってセンサ部27によって検知される物理量に基づく複数の実測特徴量の相関関係である。判定部34は、一例として、記憶部35と同様に、工具2とは別の装置である判定装置3に設けられている。
【0019】
本実施形態では一例として、判定装置3は、工具2と通信を行うことで、工具2の締付部24による締結部品X1の締付時の物理量を取得する。そして、判定装置3は、取得した物理量から、種別が互いに異なる複数の実測特徴量を抽出する。複数の実測特徴量は、例えば、締付動作時の電池電圧の平均値(第1特徴量)、及びインパクト動作時のインパクト回転数(第2特徴量)等を含み得る。判定装置3が複数の実測特徴量を抽出することで、複数の実測特徴量の相関関係である実測相関関係が得られる。
【0020】
判定装置3は、抽出した複数の実測特徴量(実測相関関係)と、記憶部35に記憶されている基準情報と、に基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行う。言い換えると、本実施形態の判定装置3は、複数の基準特徴量の基準相関関係と、複数の実測特徴量の実測相関関係と、に基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行う。
【0021】
本実施形態の工具システム1は、種別が互いに異なる複数の特徴量の相関関係に基づいて締結部品X1の締付状態に関する判定を行うため、1つの種別の特徴量に基づいて判定を行う場合と比べて判定精度を向上させることができる。
【0022】
また、本実施形態に係る判定システム100は、取得部32と、上述した記憶部35と、上述した判定部34と、を備える。取得部32は、モータ243からの動力により先端工具(ソケット242)を回転駆動させて締結部品X1を締め付ける工具2による、締結部品X1の締付動作時における物理量を取得する。本実施形態では一例として、判定システム100の機能が全て、上述した判定装置3に設けられていることを想定する。ただし、判定システム100の機能の少なくとも一部が、上述した判定装置3(通信機器)とは別の装置に設けられてもよい。例えば、判定システム100の複数の機能が、複数の装置に分散的に設けられてもよく、その複数の装置は、作業現場又は工場の外部に設置され得る外部サーバを含んでもよい。「外部サーバ」は、1又は複数のサーバ装置を含み、複数のサーバ装置は、クラウド(クラウドコンピューティング)を構築してもよい。
【0023】
また、本実施形態に係る判定方法は、モータ243からの動力により先端工具(ソケット242)を回転駆動させて締結部品X1を締め付ける工具2に関する判定方法である。判定方法は、取得ステップと、判定ステップと、を有している。取得ステップでは、工具2による締結部品X1の締付動作時における物理量を取得する。判定ステップでは、基準情報と、実測相関関係とに基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行う。基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって締結部品X1の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。実測相関関係は、複数の基準特徴量のそれぞれの種別に応じた複数の特徴量であって取得ステップにて取得される物理量に基づく複数の実測特徴量の相関関係である。
【0024】
この判定方法は、コンピュータシステム(判定システム100)上で用いられる。つまり、この判定方法は、プログラムでも具現化可能である。一態様に係るプログラムは、上記の判定方法を1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。プログラムは、コンピュータで読み取り可能な非一時的記録媒体に記録されていてもよい。
【0025】
(2)詳細な構成
以下、本実施形態に係る工具システム1の詳細な構成について、
図1~
図4Bを参照して説明する。
【0026】
(2.1)工具システムの構成
図1に示すように、本実施形態に係る工具システム1は、1又は複数の工具2(ここでは説明の便宜上、2つの工具2a,2bに着目して説明する)と、判定装置3と、を備えている。2つの工具2a,2bのそれぞれの構成は互いに共通である。以下の説明において、2つの工具2a,2bのそれぞれを区別しないときは、2つの工具2a,2bのそれぞれのことを工具2という場合がある。
【0027】
本実施形態に係る工具システム1は、例えば、複数のユーザが複数のワークの組立作業を行う組立ラインに用いられる。特に、本実施形態では一例として、工具2aは第1ユーザに使用され、工具2bは第1ユーザとは別の第2ユーザに使用されるケースを想定する。第1ユーザ及び第2ユーザのそれぞれは、互いに別のワークの組立作業を行う。ここで、第1ユーザ及び第2ユーザのそれぞれが組立作業を行うワークは、同じ種別のワークであり、締結部品X1の締付箇所が同一のワークである。第1ユーザ及び第2ユーザが工具2を用いて締め付ける全ての締結部品X1は、種別、サイズ、材質、及び規定トルクが同一であるケースを想定する。ただし、一人のユーザが、複数の工具2(工具2a、工具2b)を利用してもよい。
【0028】
本実施形態の判定装置3は、2つの工具2a,2bと通信可能に構成された通信機器であり、各工具2から(後述する)種々の情報を受信して、これらの工具2を管理する。
【0029】
(2.2)工具の構成
まず、各工具2の構成について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1に示すように、工具2aは、締付部24と、通信部25と、制御部26と、センサ部27と、バッテリ(電池パック201)と、表示部211と、操作部231と、を備えている。
図1では、工具2bの構成については図示を省略しているが、工具2bも、工具2aと同様に、締付部24と、通信部25と、制御部26と、センサ部27と、バッテリ(電池パック201)と、表示部211と、操作部231と、を備えている。すなわち、本実施形態の工具システム1は、複数の締付部24と、複数の締付部24のそれぞれと一対一に対応する複数のセンサ部27と、を備えている。なお、本実施形態では、電池パック201は工具2の構成要素に含まれることとするが、電池パック201が工具2の構成要素に含まれることは必須ではなく、工具2の構成要素に電池パック201が含まれていなくてもよい。例えば、電池パック201は、工具2(工具本体)とは別体であり、工具2(工具本体)に着脱可能に構成され得る。
【0030】
また、
図2A及び
図2Bに示すように、各工具2は、ボディ20を更に備えている。工具2のボディ20は、胴体部21と、グリップ部22と、装着部23とを有している。
【0031】
胴体部21は、筒状(ここでは円筒状)に形成されている。グリップ部22は、胴体部21の周面の一部から、一方向(
図2Aでは下方)に沿って突出する。装着部23は、電池パック201が取り外し可能に装着されるように設けられている。言い換えれば、胴体部21と装着部23とが、グリップ部22にて連結されている。
【0032】
胴体部21には、締付部24(
図1参照)の少なくとも一部が収容されている。胴体部21の軸方向における一端面からは、締付部24の(後述する)出力軸241が突出している。
【0033】
グリップ部22は、ユーザが作業を行う際に握る部分である。グリップ部22には、トリガスイッチ221が設けられている。トリガスイッチ221は、締付部24の動作のオン/オフを制御するためのスイッチである。トリガスイッチ221には、初期位置とオン位置とがあり、ユーザによってトリガスイッチ221がオン位置まで押される又は引かれることで締付部24が動作する。また、トリガスイッチ221は、引込量(操作量)に応じて締付部24の回転数の調整が可能である。
【0034】
装着部23は、扁平な直方体状に形成されている。装着部23におけるグリップ部22とは反対側の一面には、電池パック201が取り外し可能に装着される。
【0035】
電池パック201は、例えば、リチウムイオン電池等で構成されている。電池パック201は、締付部24、通信部25、及び制御部26等に電力を供給する。
【0036】
また、装着部23には、操作部231が設けられている。操作部231では、工具2に関する種々の設定及び状況確認等を行うことができる。すなわち、ユーザは、例えば、操作部231を操作することにより、工具2の動作モードの変更、及び電池パック201の残容量の確認等を行うことができる。
【0037】
表示部211は、例えば、LED(Light Emitting Diode)で構成されている。表示部211は、ユーザが作業中に表示部211を目視しやすいように、ボディ20の胴体部21における出力軸241とは反対側の端部(つまり、後端部)に設けられている(
図2B参照)。
【0038】
また、本実施形態に係る工具2は、動作モードとして、少なくとも締付モードと学習モードとを有している。締付モードは、ユーザが工具2を用いて締結部品X1の締付作業を行う際の動作モードである。締付モードは、いわば通常作業時のモードである。学習モードは、基準情報を設定する際の動作モードであり、通常作業の前に行われることが好ましいモードである。動作モードの切り替えは、例えば操作部231に対するユーザからの操作入力に基づいて行われてもよいし、操作部231とは別の、例えばトリガスイッチ221やディップスイッチ等に対する操作入力に基づいて行われてもよい。
【0039】
本実施形態の締付部24(
図1参照)は、出力軸241、減速機構、駆動軸、インパクト機構244、ソケット242、及びモータ243(
図1参照)等を有している。締付部24は、電池パック201からモータに供給される電力で動作するように構成されている。締付部24は、モータ243からの動力により先端工具(ソケット242)を回転駆動させて締結部品X1を締め付ける。
【0040】
減速機構は、モータ243の回転軸の回転力を駆動軸に伝達する。減速機構は、例えば遊星歯車機構であり、モータ243の回転軸の回転速度とトルクとをねじ回し動作に必要な回転速度とトルクとに変換する。出力軸241は、駆動軸の回転が出力されて、ソケット242に伝達する。出力軸241は、その突出方向に沿った回転軸Ax1を中心に回転する。つまり、締付部24は、出力軸241を駆動して回転軸Ax1周りで出力軸241を回転させる。言い換えれば、締付部24が動作することによって、出力軸241にトルクが作用して出力軸241が回転する。
【0041】
出力軸241には、締結部品X1(例えば、ボルト又はナット等)を回転させるための円筒状のソケット242が、取り外し可能に取り付けられる。ソケット242は、出力軸241と共に出力軸241周りで回転する。出力軸241に取り付けられるソケット242のサイズは、ユーザによって締結部品X1のサイズに合わせて適宜選択される。このような構成により、締付部24が動作すると、出力軸241が回転してソケット242が出力軸241と共に回転する。このとき、ソケット242が締結部品X1に嵌め合わされていれば、ソケット242と共に締結部品X1が回転し、締結部品X1を締め付ける作業が実現される。したがって、工具2は、締付部24の動作により、締結部品X1を締め付ける作業を実現できる。
【0042】
また、出力軸241には、ソケット242の代わりにソケットアンビルが取り付け可能である。ソケットアンビルについても、出力軸241に対して取り外し可能に取り付けられる。この場合、ソケットアンビルを介してビット(例えば、ドライバビット又はドリルビット等)の装着が可能となる。
【0043】
インパクト機構244は、モータ243の動力によって駆動される。インパクト機構244は、例えば、駆動軸により回転可能に支持されたハンマと、出力軸241の後端部に設けられたアンビル(打撃部)等を含む。ハンマは、アンビルを駆動軸の回転に応じて打撃する。
【0044】
インパクト機構244は、締付トルク(作業値)が所定レベルを超えると、出力軸241に対して回転方向にインパクトを与える。これにより、工具2は、締結部品X1に対して、より大きな締付トルクを与えることが可能となる。なお、本実施形態では、ソケット242及びインパクト機構244は、締付部24の構成要素に含まれることは必須ではなく、締付部24の構成要素にソケット242及びインパクト機構244が含まれていなくてもよい。
【0045】
通信部25は、判定装置3の後述する通信部31と通信可能に構成されている通信インタフェースである。本実施形態の通信部25は、例えば、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)又は免許を必要としない小電力無線(特定小電力無線)等の規格に準拠した無線通信方式にて、判定装置3の通信部31と通信する。ただし、通信部25は、有線で判定装置3の通信部31と通信可能に構成されてもよい。
【0046】
センサ部27は、締付部24による締結部品X1の締付動作時における物理量を検知する。本実施形態のセンサ部27は、例えば、電圧検出部、電流検出部、ショックセンサ、及びホールセンサを含む。電圧検出部、電流検出部、ショックセンサ、及びホールセンサは、電流検出抵抗電圧の電圧波形、電池端子間電圧の電圧波形、ショックセンサ電圧の電圧波形、及びホールセンサ電圧の電圧波形を物理量としてそれぞれ検知する(
図3参照)。以下、電池端子間電圧を、単に「電池電圧」と呼ぶこともある。
【0047】
電流検出抵抗電圧は、モータ243のコイルに流れる電流(モータ電流)を検知するために設けられている検出抵抗(電流検出部)に印可される電圧である。電流検出抵抗電圧の値と、上記検出抵抗の既知の抵抗値と、に基づいてモータ電流の値が求まる。すなわち、電流検出抵抗電圧の電圧波形からモータ電流の波形を得ることが可能である。
【0048】
電池端子間電圧は、電池パック201の出力端子間の電圧であり、電圧検出部にて検出される。電池端子間電圧は、モータ243に印可される電圧(モータ電圧)とみなせるため、電池端子間電圧の波形を、モータ電圧波形として扱ってもよい。
【0049】
ショックセンサ電圧は、加速度(インパクト又は振動等)を検知し、検知した加速度に応じた電圧信号を出力するショックセンサが出力する電圧である。
【0050】
ホールセンサ電圧は、モータ243の回転子(ロータ)の回転位置に応じた電圧信号を出力するホールセンサが出力する電圧である。
【0051】
制御部26は、例えば、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを主構成として備えている。マイクロコントローラは、1以上のメモリに記録されているプログラムを1以上のプロセッサで実行することにより、制御部26としての機能を実現する。プログラムは、予めメモリに記録されていてもよいし、メモリカードのような非一時的記録媒体に記録されて提供されたり、電気通信回線を通して提供されたりしてもよい。言い換えれば、上記プログラムは、1以上のプロセッサを、制御部26として機能させるためのプログラムである。
【0052】
制御部26は、締付制御、通信制御、及び通知制御等の機能を有している。制御部26は、締付部24を制御する。具体的には、制御部26は、トリガスイッチ221(
図2参照)の引込量に基づいた回転速度で出力軸241(
図2参照)を回転させるよう締付部24のモータ243を制御する。
【0053】
また、制御部26は、締付トルクがトルク設定値となるように締付部24のモータ243を制御する。ここで、制御部26は、締付トルクの大きさを推定するトルク推定機能を有している。本実施形態では一例として、制御部26は、締付トルクの推定値が着座判定レベルに達するまでは、インパクト機構244によるインパクト周期等に基づいて締付トルクの大きさを推定する。制御部26は、締付トルクの推定値が着座判定レベルに達すると、インパクト機構244のインパクト数に基づいて締付トルクの大きさを推定する。制御部26は、インパクト機構244のインパクト数が、トルク設定値に基づいた閾値回数に達すると、締付トルクがトルク設定値に達したと判断して締付部24(モータ243)を停止させる。これにより、着座していないにも関わらず締付トルクが着座判定レベルに達する等の不具合が起こっていない場合、締付部24は、トルク設定値通りの締め付けトルクで、締結部品X1を締め付けることができる。なお、着座していないにも関わらず締付トルクが着座判定レベルに達する不具合は、締結部品X1が締め付けにくい状態となるいわゆる「かじり」の発生等で引き起こされる。なお、本開示でいう「かじり」とは、締結部品X1のねじ山の溶融(溶着)、締結部品X1のねじ山の変形・欠損、又は、締結部品X1のねじ山のさびつき等を含み得る。
【0054】
また、制御部26は、締付部24による締結部品X1の締付動作時にセンサ部27が検知した物理量の情報を取得する。制御部26は、センサ部27が検知した物理量の情報を取得した後、工具2の動作モードに応じて異なる動作をする。
【0055】
制御部26は、工具2の動作モードが締付モードである場合は、物理量が締付モードで得られたことが分かるように対応付けして、通信部25を介して判定装置3に、物理量の情報を送信する。なお、以下の説明において、締付モードで得られた物理量のことを、「判定用物理量」ということがある。
【0056】
工具2の動作モードが学習モードである場合、本実施形態の制御部26は、締結部品X1が正常に締め付けられたか否かの入力をユーザに行わせる。すなわち、工具2の動作モードが学習モードである場合に、工具2を使用して締結部品X1を締め付けたユーザは、締結部品X1が正常に締め付けられているか否かを判断する。例えば、ユーザは、締結部品X1にかじりが発生しているか否か等を目視で確認し、かじりが発生している場合には締結部品X1の締付状態が異常であると判断し、かじりが発生していない場合には締結部品X1の締付状態が正常であると判断する。そして、ユーザは、例えば操作部231を操作することで、締結部品X1が正常に締め付けられたか否かの入力を行う。そして、制御部26は、締付状態が正常であると判断された場合に、物理量が学習モードで得られたこと、また「正常」であることが分かるように対応付けして、通信部25を介して判定装置3に物理量の情報を送信する。一方で、ここでは一例として、締付状態が異常であると判断された場合には、制御部26は、物理量の情報を判定装置3に送信しないものとする。ただし、締付状態が異常であると判断された場合にも、学習モードで得られたこと、また「異常」であることが分かるように対応付けして、物理量の情報が、判定装置3に送信されてもよい。なお、以下の説明において、学習モードで得られた物理量のことを、「学習用物理量」ということがある。
【0057】
学習モードにおける締付状態の目視確認及び操作部231への操作は、通常作業時のモードである締付モードと違って、ある程度熟練者によって行われることが好ましく、作業者に通常作業を行わせる前に、予め複数回行われることが好ましい。
【0058】
また、工具2a、工具2bを含む複数の工具2のそれぞれは、自機の識別情報を制御部26のメモリ等に有しており、制御部26は、自機の識別情報を物理量の情報に対応付けて、判定装置3に送信する。その結果、判定装置3は、どの工具2から物理量の情報を受信したのかを、識別情報により特定可能である。
【0059】
また、制御部26は、表示部211を制御する。上述のように、工具2の動作モードが締付モードである場合に締付部24が締付動作を行うと、制御部26は、通信部25を介して判定装置3に判定用物理量を送信する。判定用物理量を受信した判定装置3は、上述のように、締結部品X1の締付状態に関する判定を自動的に行う。そして、制御部26は、判定装置3による判定の判定結果に応じて、表示部211を異なる態様で点灯させる。例えば、制御部26は、判定結果が締結部品X1の締付状態が異常であることを示す結果である場合、表示部211を赤色で点灯させる。一方で、制御部26は、判定結果が締結部品X1の締付状態が正常であることを示す結果である場合、表示部211を緑色で点灯させる。これにより、ユーザは、表示部211の点灯状態を目視することによって、締結部品X1の締付状態が正常であるか否かを確認することができる。
【0060】
(2.3)判定装置の構成
次に、判定装置3の構成について、
図1~
図4Bを参照して説明する。判定装置3は、各工具2と通信する通信機器であり、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等の情報端末である。
図1に示すように、判定装置3は、制御部30と、通信部31と、記憶部35と、を備えている。
【0061】
通信部31は、工具2の通信部25と通信可能に構成されている通信インタフェースである。本実施形態の通信部31は、例えば、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)又は免許を必要としない小電力無線(特定小電力無線)等の規格に準拠した無線通信方式にて、工具2の通信部25と通信する。ただし、通信部31は、有線で工具2の通信部25と通信可能に構成されてもよい。
【0062】
制御部30は、例えば、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを主構成として備えている。マイクロコントローラは、1以上のメモリに記録されているプログラムを1以上のプロセッサで実行することにより、制御部30としての機能を実現する。プログラムは、予めメモリに記録されていてもよいし、メモリカードのような非一時的記録媒体に記録されて提供されたり、電気通信回線を通して提供されたりしてもよい。言い換えれば、上記プログラムは、1以上のプロセッサを、制御部30として機能させるためのプログラムである。なお、本実施形態の制御部30は、工具2の制御部26と比べて処理能力が高い。
【0063】
制御部30は、
図1Aに示すように、取得部32と、設定部33と、判定部34と、を有している。つまり、制御部30は、取得部32としての機能、設定部33としての機能、判定部34としての機能を有している。
【0064】
取得部32は、通信部31を介して、締結部品X1の締付動作時における物理量を工具2から取得する。取得部32が取得する物理量は、学習用物理量又は判定用物理量である。本実施形態の取得部32は、電流検出抵抗電圧の電圧波形と、電池端子間電圧の電圧波形と、ショックセンサ電圧の電圧波形と、ホールセンサ電圧の電圧波形と、を物理量として取得する。取得部32は、取得した学習用物理量を設定部33に出力し、取得した判定用物理量を判定部34に出力する。
【0065】
設定部33は、工具2の締付部24が締結部品X1を正常に締め付けた締付動作時に工具2のセンサ部27によって検知された物理量(学習用物理量)から基準相関関係を抽出する。そして、設定部33は、抽出した基準相関関係に基づいて、基準情報を設定し、記憶部35に基準情報を記憶させる。言い換えると、設定部33は、学習用物理量に基づいて、基準情報を設定する。
【0066】
具体的には、設定部33は、取得部32から学習用物理量が入力されると、学習用物理量から、種別が互いに異なる複数の特徴量であって締結部品X1の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係を抽出(取得)する。ここで、本開示でいう「種別が互いに異なる複数の特徴量」には、第1特徴量と、第2特徴量と、第3特徴量と、第4特徴量と、第5特徴量と、第6特徴量と、が含まれる。複数の基準特徴量は、学習用物理量から抽出される第1特徴量から第6特徴量を含む。つまり、本実施形態では一例として、複数の特徴量の種別の数(種類数)は、6種類である。ただし、複数の特徴量の種類は、2種類以上であればよく、6種類に限定されない。
【0067】
本実施形態における第1特徴量は、インパクト機構244によるインパクト動作時の電池電圧の平均値である。
図3の例では、インパクト機構244によるインパクト動作は、タイミングt2からタイミングt5まで行われている。すなわち、
図3の例では、第1特徴量は、タイミングt2からタイミングt5までの期間における電池電圧の平均値である。ここで、タイミングt2は、締付トルク(作業値)が所定レベルを超え、インパクト機構244によるインパクト動作が開始されるタイミングである。タイミングt5は、締付トルクがトルク設定値に達したと制御部26に判断されモータ243が停止するタイミングである。
【0068】
本実施形態における第2特徴量は、インパクト周期の逆数であるインパクト回転数である。
図4A、
図4Bでは、「インパクト回転数」を便宜上「回転数」と表記している。インパクト機構244によってインパクト動作が行われているタイミングt2からタイミングt5までの期間において、ショックセンサは、インパクト動作に応じて、所定の電圧値より大きい複数のスパイク状の電圧を出力する。
図3の例では、ショックセンサは、タイミングt3やタイミングt4等にスパイク状の電圧を出力している。複数のスパイク状の電圧の間隔(周期)は、インパクト動作の間隔(周期)であり、複数のスパイク状の電圧の周期からインパクト回転数が得られる。
【0069】
本実施形態における第3特徴量は、インパクト機構244によるインパクト動作時のモータ電流の平均値である。
図3の例では、第3特徴量は、タイミングt2からタイミングt5までの期間における電流検出抵抗電圧から算出される電流の平均値に基づいて抽出される。
【0070】
本実施形態における第4特徴量は、モータ243が停止中における電池電圧の平均値である。例えば
図3の例では、第4特徴量は、タイミングt1以前における電池電圧の平均値である。タイミングt1は、ユーザによってトリガスイッチ221がオン操作されることにより締付部24による締付動作が開始されるタイミング(モータ243の回転が開始されるタイミング)である。
【0071】
本実施形態における第5特徴量は、締付部24による締付動作時においてモータ243の回転が始まったタイミングからインパクト機構244によってインパクト動作が開始されるまでの時間である。
図3の例では、第5特徴量は、タイミングt1からタイミングt2までの時間である。なお、かじりが発生している場合には、かじりが発生していない場合と比べて、タイミングt1からタイミングt2までの期間が短くなる傾向がある。
【0072】
本実施形態における第6特徴量は、インパクト機構244がインパクト動作を行っている時間である。
図3の例では、第6特徴量は、タイミングt2からタイミングt5までの時間である。
【0073】
設定部33は、学習用物理量から、例えば下の表1に示すような第1~第6特徴量(複数の基準特徴量)を抽出する。
【0074】
【0075】
本実施形態では、第1締付動作時の複数の基準特徴量(基準相関関係)から第n締付動作時の複数の基準特徴量(基準相関関係)が、各締付動作の単位で紐付けされて記憶部35に格納(記憶)される。基準相関関係は、例えば表1に示すようなデータテーブルの形式で記憶部35に格納されてもよい。なお、第1締付動作~第n締付動作のそれぞれの締付動作は、工具2a及び工具2bのいずれによって行われていてもよい。例えば、学習モードに設定された工具2aにて2回締付動作が行われたに行われた後に、学習モードに設定された工具2bで1回締付動作が行われた場合、工具2aで2回行われた締付動作を順番に第1締付動作、第2締付動作とし、工具2bで行われた締付動作を第3締付動作とする。さらに、基準相関関係は、各締付動作を行った工具2の識別情報と対応付けられて記憶されていてもよい。なお、表1の例では、設定部33は、第1締付動作時の物理量から、第1特徴量A1のときに第2特徴量B1であり、第1特徴量A1のときに第3特徴量C1であるという基準相関関係を抽出している。
【0076】
表1の例では、n組の複数の基準特徴量(基準相関関係)を含む複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)が、記憶部35に格納されている。なお、nは1以上の自然数であり、記憶部35には1組以上の複数の基準特徴量(基準相関関係)を含む複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)が格納されている。
【0077】
本実施形態の設定部33は、抽出した複数の基準特徴量(基準相関関係)を記憶部35に格納した後、分散共分散行列を計算する。本実施形態の分散共分散行列は、記憶部35に格納されている複数の基準特徴量群における第1特徴量~第6特徴量(複数の特徴量)のそれぞれに関連付けられた分散と共分散を含む正方行列の一例である。下の表2は、設定部33によって計算された分散共分散行列の一例である。
【0078】
【0079】
表2に示すように、分散共分散行列では、n行n列の要素が第n特徴量の分散値となり、n行m列の要素とm行n列の要素とが第n特徴量及び第m特徴量の共分散値となる。なお、nとmとは1以上6以下の数であり、互いに異なる数である。例えば、表2における1行6列の要素と6行1列の要素とは同じ値となる。
【0080】
そして、設定部33は、計算した分散共分散行列の逆行列を計算し、式(1)のdで表されるマハラノビス距離が閾値以下となる判定範囲R1(
図4A又は
図4B参照)を設定する。ここで、閾値は、例えばユーザによって予め設定された値である。ユーザは、例えば、操作部231に対して操作を行うことで、閾値の設定登録又は変更を行うことが可能である。なお、閾値は記憶部35に格納されている複数の基準相関関係の全てが判定範囲R1に含まれる範囲で設定されることが好ましい。言い換えると、閾値は、記憶部35に格納されている複数の基準相関関係における複数のマハラノビス距離のうち、最大値となるマハラノビス距離以上であることが好ましい。
【0081】
【0082】
ここで、式(1)中のxは判定したいデータ、つまり判定用物理量から抽出される複数の実測特徴量(実測相関関係)である。式(1)中のΣ-1は、分散共分散行列の逆行列である。また、式(1)中のμは、記憶部35に格納されている複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)の平均値である。すなわち、設定部33は、記憶部35に格納されている複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)の平均値と、ユーザによって予め設定される閾値と、分散共分散行列の逆行列と、に基づいて、判定範囲R1を設定する。
【0083】
そして、設定部33は、学習用物理量を取得する毎に、基準情報を設定又は更新して、設定又は更新した基準情報を記憶部35に記憶させる。基準情報には、複数の基準相関関係に基づく判定範囲R1が設定されている。本実施形態では一例として、基準情報には、設定部33によって抽出された複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)の情報、設定部33によって計算された分散共分散行列の逆行列の情報、及び、判定範囲R1の情報が含まれている。
【0084】
記憶部35は、例えばEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等である。記憶部35は、制御部30のメモリでもよい。本実施形態の記憶部35は、上述の基準情報を記憶している。基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって締結部品X1の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。
【0085】
判定部34は、記憶部35に記憶されている基準情報と、判定用物理量から抽出される複数の実測特徴量の実測相関関係と、に基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行う。判定部34は、取得部32から判定用物理量が入力されると、判定用物理量から、種別が互いに異なる複数の特徴量であって締結部品X1の締付状態の判定の対象となる複数の実測特徴量を抽出(取得)する。複数の実測特徴量の種別は複数の基準特徴量の種別と対応しており、複数の実測特徴量は、判定用物理量から抽出される第1特徴量から第6特徴量を含む。
【0086】
判定部34は、判定用物理量から実測相関関係を抽出すると、基準情報を参照し、式(1)を用いてマハラノビス距離を計算する。そして、判定部34は、マハラノビス距離が閾値以下であるか否か、すなわち実測相関関係が判定範囲R1内にあるか否かを判定する。
【0087】
図4A及び
図4Bは、判定範囲R1の概念をX軸(横軸)とY軸(縦軸)の二次元で示す概略図である。より具体的には、
図4Aは、判定範囲R1の概念を第1特徴量(横軸)及び第2特徴量(縦軸)の二次元で示す概略図である。また、
図4Bは、判定範囲R1の概念を第3特徴量(横軸)及び第2特徴量(縦軸)の二次元で示す概略図である。なお、本実施形態の判定範囲R1は、実際には第1特徴量~第6特徴量の六次元で設定され得るが、説明の便宜上、理解し易いように第1特徴量~第6特徴量のうち、ある2つの特徴量だけに着目して判定範囲R1を
図4A及び4Bで図示している。
【0088】
図4A及び
図4Bにおける複数の丸形の点P1(プロット)のそれぞれは、複数の基準特徴量の基準相関関係を示す点である。複数の点P1のそれぞれは、互いに別の締付動作時に検知された学習用物理量から抽出されている。すなわち、複数の点P1は、複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)を示す点である。複数の三角形の点P2(プロット)のそれぞれは、例えば締結部品X1にかじりが発生して締付状態が異常である場合の実測相関関係を示す点である。複数の点P2のそれぞれは、互いに別の締付動作時に検知された判定用物理量から抽出されている。判定範囲R1は、マハラノビス距離が閾値以下である範囲である。判定部34は、点P2のように実測相関関係が判定範囲R1外にあるとき、すなわち、実測相関関係のマハラノビス距離が閾値より大きいとき、締付状態が異常であると判定する。一方で、判定部34は、実測相関関係が判定範囲R1内にあるとき、すなわち、実測相関関係のマハラノビス距離が閾値以下のとき、締付状態が正常であると判定する。
【0089】
図4Aの複数の点P1が示すように、締結部品X1の締付状態が正常である場合、電池電圧の平均値(第1特徴量)と、インパクト回転数(第2特徴量)とは正の相関関係にある。これは、電池電圧の平均値(モータ電圧の平均値)が大きいほど、モータ243の回転数が大きくなるためである。また、例えば締結部品X1にかじりが発生して締付状態が異常である場合、
図4Aの複数の点P2が示すように、締付状態が正常であるときと比べてインパクト回転数が小さい傾向がある。
【0090】
ところで、複数の点P2の1つである点P21は、電池電圧の平均値v1でインパクト回転数r1であり、判定範囲R1外にあるため、締付状態が異常である。仮に判定部34が1つの種別の特徴量(インパクト回転数)のみで締結部品X1の締付状態を判定する場合、実際には締付状態が異常と判定されるべき点P21の締付状態が、誤って正常と判定される可能性がある。しかし、本実施形態の判定部34は、種別が互いに異なる複数の特徴量(
図4Aでは一例として第1特徴量及び第2特徴量)の相関関係に基づいて締結部品X1の締付状態を判定するため、例えば点P21の締付状態を異常であると判定することができる。言い換えると、本実施形態の判定部34は、第1特徴量及び第2特徴量の相関関係に基づいて締結部品X1の締付状態を判定することで、「かじり」が発生している場合の締結部品X1の締付状態を、異常であると判定することができる。すなわち、判定部34が複数の種別の特徴量に基づいて締結部品X1の締付状態に関する判定を行うことで、1つの種別の特徴量のみで判定する場合と比べて判定精度が向上する。
【0091】
図4Bの複数の点P1が示すように、締結部品X1の締付状態が正常である場合、モータ電流の平均値(第3特徴量)と、インパクト回転数(第2特徴量)とは負の相関関係にある。また、例えば締結部品X1にかじりが発生して締付状態が異常である場合、
図4Bの複数の点P2が示すように、締付状態が正常であるときと比べてインパクト回転数が小さい傾向がある。
【0092】
ここで、複数の点P2の1つである点P22は、モータ電流I1でインパクト回転数r2であり、判定範囲R1外にあるため、締付状態が異常である。仮に判定部34が1つの種別の特徴量(インパクト回転数)のみで締結部品X1の締付状態を判定する場合、実際には締付状態が異常と判定されるべき点P22の締付状態が、誤って正常と判定される可能性がある。しかし、本実施形態の判定部34は、種別が互いに異なる複数の特徴量(
図4Bでは一例として第3特徴量及び第2特徴量)の相関関係に基づいて締結部品X1の締付状態を判定するため、例えば点P22の締付状態を異常であると判定することができる。言い換えると、本実施形態の判定部34は、第3特徴量及び第2特徴量の相関関係に基づいて締結部品X1の締付状態を判定することで、「かじり」が発生している場合の締結部品X1の締付状態を、異常であると判定することができる。すなわち、判定部34が複数の種別の特徴量に基づいて締結部品X1の締付状態に関する判定を行うことで、1つの種別の特徴量のみで判定する場合と比べて判定精度が向上する。
【0093】
判定部34は、締結部品X1の締付状態に関する判定を行った後、物理量の情報に対応付けられている識別情報に基づいて、識別情報に対応する工具2に判定結果を送信する。
【0094】
(3)動作
以下、本実施形態に係る工具システム1の動作について、
図5~
図7を参照して説明する。
【0095】
図5は、基準情報が未設定の状態における、工具システム1の動作の一例を示すシーケンス図である。また、
図5の例では、第1ユーザは工具2aを学習モードで使用し、第2ユーザが工具2bを学習モード及び締付モードで使用する場合を想定している。
【0096】
基準情報が未設定の状態であるため、まず第1ユーザ又は第2ユーザが工具2を学習モードで使用することで基準情報が設定された状態にする必要がある。
図5の例では、第1ユーザが工具2aの操作部231に対して所定の操作を行うことで、工具2aの動作モードが学習モードに設定される(S1)。そして、第1ユーザが締結部品X1に工具2aのソケット242をセットし、例えばトリガスイッチ221をオン操作することで、締付部24が締結部品X1を締め付ける締付動作(表1中の第1締付動作)が行われる(S2)。なお、ステップS2の第1締付動作は、締結部品X1の締付状態が正常であるとユーザに判別された締付動作であるとする。次に、工具2aは、動作モードが学習モードであるため、判定装置3に学習用物理量の情報を送信する(S3)。なお、工具2aが判定装置3に送信する学習用物理量の情報には、工具2aの識別情報が対応付けられている。
【0097】
判定装置3は、学習用物理量の情報を受信すると、学習処理を行う(S4)。判定装置3は、学習処理を行うことで、学習用物理量から複数の基準特徴量の基準相関関係を抽出し、基準情報を初期設定(又は更新)して記憶部35に記憶させる。
【0098】
また、工具2aの動作モードを学習モードに設定したまま第1ユーザが別の締結部品X1に工具2aのソケット242をセットしトリガスイッチ221をオン操作することで、締付部24による締結部品X1の締付動作(表1中の第2締付動作)が行われる(S5)。なお、ステップS5の第2締付動作は、締結部品X1の締付状態が正常であるとユーザに判別された締付動作であるとする。次に、工具2aは、学習用物理量の情報を判定装置3に送信する(S6)。判定装置3は、学習用物理量の情報を受信すると、学習処理を行う(S7)。
【0099】
ここまでの処理により、判定装置3は、工具2aが順番に複数の締結部品X1を正常に締め付けた複数の締付動作時の複数の物理量から、複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)を抽出し、複数の基準相関関係に基づく基準情報を設定している。言い換えると、判定装置3の設定部33は、工具2aの締付部24が順番に複数の締結部品X1を正常に締め付けた複数の締付動作時に工具2aのセンサ部27によって検知される複数の物理量から、複数の基準相関関係を抽出する。設定部33は、抽出した複数の基準相関関係に基づいて、基準情報を設定する。
【0100】
次に、第2ユーザが工具2bの操作部231に対して所定の操作を行うことで、工具2bの動作モードが学習モードに設定される(S8)。工具2bの動作モードを学習モードに設定したまま、第2ユーザが別の締結部品X1に工具2bのソケット242をセットしトリガスイッチ221をオン操作することで、締付部24による締結部品X1の締付動作(表1中の第3締付動作)が行われる(S9)。なお、ステップS9の第3締付動作は、締結部品X1の締付状態が正常であるとユーザに判別された締付動作であるとする。次に、工具2bは、学習用物理量の情報を判定装置3に送信する(S10)。なお、工具2bが判定装置3に送信する学習用物理量の情報には、工具2bの識別情報が対応付けられている。判定装置3は、学習用物理量の情報を受信すると、学習処理を行う(S11)。
【0101】
ここまでの処理により、判定装置3は、複数の工具2の複数の締付部24が順番に複数の締結部品X1を正常に締め付けた複数の締付動作時の複数の物理量から、複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)を抽出する。そして、判定装置3は、複数の基準相関関係に基づく基準情報を設定している。言い換えると、判定装置3の設定部33は、複数の工具2a,2bの複数の締付部24が順番に複数の締結部品X1を正常に締め付けた複数の締付動作時に複数の工具2a,2bの複数のセンサ部27によってそれぞれ検知される複数の物理量から、複数の基準相関関係を抽出し、抽出した複数の基準相関関係に基づいて、基準情報を設定している。
【0102】
次に、第2ユーザが工具2bの操作部231に対して所定の操作を行うことで、工具2bの動作モードが締付モードに設定される(S12)。第2ユーザが別の締結部品X1に工具2bのソケット242をセットしトリガスイッチ221をオン操作することで、締付部24が締結部品X1を締め付ける締付動作が行われる(S13)。そして、工具2bは、動作モードが締付モードであるため、判定装置3に判定用物理量の情報を送信する(S14)。なお、工具2bが判定装置3に送信する判定用物理量の情報には、工具2bの識別情報が対応付けられている。
【0103】
判定装置3は、判定用物理量の情報を受信すると、判定用物理量から複数の実測特徴量の実測相関関係を抽出し、抽出した実測相関関係と基準情報とに基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行う(S15)。そして、判定装置3は、判定用物理量の情報に対応づけられている識別情報に基づいて、判定結果を工具2bに送信する(S16)。工具2bは、判定結果を受信すると、判定結果に応じた通知を行う(S17)。
【0104】
なお、
図5に示すシーケンス図は、一例に過ぎず、処理の順番が適宜変更されてもよいし、処理が適宜追加又は削除されてもよい。例えば、判定装置3に対する基準情報の設定が一度でも行われていれば、第2ユーザは工具2bの動作モードを学習モードにすることなく締付モードにして、締結部品X1の締付作業を開始させてもよい。
【0105】
基準情報は、工具2又は判定装置3の製造出荷の段階で予め初期設定されていてもよい。つまり、工具2を利用するユーザに、実際に作業現場等で、工具2を通じて基準情報の設定を行わせることは必須ではない。ただし、ユーザ側で工具2を通じて基準情報の初期設定や更新(再学習)を行う方が、より使用環境に適した基準情報となり得る。
【0106】
次に、本実施形態の工具2の動作について
図6を参照して説明する。工具2は、動作モードが締付モード及び学習モードのいずれのモードに設定されているのかを確認する(S21)。
【0107】
工具2の動作モードが締付モードのとき(S21:締付モード)について説明する。締付部24は、締結部品X1を締め付ける締付動作を行う(S22)。次に、工具2の制御部26は、締付部24による締付動作時にセンサ部27によって検知された物理量を取得する(S23)。制御部26は、通信部25を介して判定装置3に判定用物理量の情報を送信する(S24)。そして、通信部25が判定装置3から判定結果を受信すると(S25)、制御部26は、判定結果が正常を示す判定結果であるか否かを確認する(S26)。制御部26は、判定結果が正常を示す判定結果である場合(S26:Yes)、表示部211を緑色で点灯させて締結部品X1の締付状態が正常であることを通知し(S27)、処理を終了する。一方で、制御部26は、判定結果が異常を示す判定結果である場合(S26:No)、表示部211を赤色で点灯させて締結部品X1の締付状態が異常であることを通知し(S28)、処理を終了する。
【0108】
次に、工具2の動作モードが学習モードのとき(S21:学習モード)について説明する。締付部24は、締結部品X1を締め付ける締付動作を行う(S29)。この締付動作は、締結部品X1の締付状態が正常であるとユーザによって判断された締付動作であるとする。次に、工具2の制御部26は、締付部24による締付動作時にセンサ部27によって検知された物理量を取得する(S30)。制御部26は、通信部25を介して判定装置3に学習用物理量の情報を送信する(S31)。そして、工具2は処理を終了する。
【0109】
なお、
図6に示すフローチャートは、一例に過ぎず、処理の順番が適宜変更されてもよいし、処理が適宜追加又は削除されてもよい。例えば、ステップS21の工具2の動作モードを確認する処理は、締付部24による締付動作(S22;S29)の後や、制御部26による物理量取得(S23;S30)の後に行われてもよい。
【0110】
次に、本実施形態の判定装置3の動作について
図7を参照して説明する。判定装置3は、取得部32が通信部31を介して工具2から物理量を取得したか否かを確認する(S41)。言い換えると、判定装置3は取得ステップを行う(S41)。取得部32が物理量を取得していない場合(S41:No)、判定装置3は、取得部32が物理量を取得するまでステップS41の処理を繰り返す。取得部32は、物理量を取得した場合(S41:Yes)、その物理量に対応付けされているモードが学習モードか締付モードかを判定(確認)する(S42)。
【0111】
モードの判定結果が学習モードである場合(S42:学習モード)、取得部32は設定部33に学習用物理量を出力し、設定部33は学習用物理量から複数の基準特徴量の基準相関関係を抽出する(S43)。そして、設定部33は、複数の基準特徴量を、例えばデータテーブルの形式で、基準情報として記憶部35に格納する(S44)。次に、設定部33は、記憶部35にある複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)の分散共分散行列を計算し(S45)、さらに分散共分散行列の逆行列を計算する(S46)。そして、設定部33は、記憶部35に格納されている複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)の平均値と、ユーザによって予め設定される閾値と、分散共分散行列の逆行列と、に基づいて、判定範囲R1を設定する(S47)。設定部33は、判定範囲R1を設定すると、基準情報を設定(更新)して(S48)、処理を終了する。なお、ステップS43~ステップS48までの処理が、
図5に示す学習処理(S4;S7;S11)の一例である。
【0112】
一方で、ステップS42の処理において、モードの判定結果が締付モードである場合(S42:締付モード)、取得部32は判定部34に判定用物理量を出力し、判定部34は判定用物理量から複数の実測特徴量の実測相関関係を抽出する(S49)。そして、判定部34は、基準情報を参照して、記憶部35に格納されている複数の基準特徴量群(複数の基準相関関係)の平均値と、分散共分散行列の逆行列と、複数の実測特徴量と、を用いてマハラノビス距離を計算する(S50)。そして、判定部34は、計算したマハラノビス距離が閾値以下であるか否か、すなわち、複数の実測特徴量の実測相関関係が判定範囲R1内か否かを確認する(S51)。実測相関関係が判定範囲R1内である場合(S51:Yes)、判定部34は、締結部品X1の締付状態が正常であると判定し(S52)、締付状態が正常であることを示す判定結果を送信し(S53)、処理を終了する。一方で、実測相関関係が判定範囲R1内でない場合(S51:No)、判定部34は、締結部品X1の締付状態が異常であると判定し(S54)、締付状態が異常であることを示す判定結果を送信し(S53)、処理を終了する。なお、ステップS49~ステップS54までの処理が、
図5に示す判定処理(S16)の一例である。また、ステップS49~ステップS52、ステップS53の処理は、判定装置3(判定部34)による判定ステップの一例である。
【0113】
なお、
図7に示すフローチャートは、一例に過ぎず、処理の順番が適宜変更されてもよいし、処理が適宜追加又は削除されてもよい。例えば、学習モードのステップS45~ステップS48は、締付モードのステップS49の後に行われてもよい。
【0114】
(4)作用効果
上述のように、本実施形態の工具システム1では、判定部34が、種別が互いに異なる複数の特徴量の相関関係に基づいて締結部品X1の締付状態に関する判定を行う。そのため、一の種別の特徴量に基づいて判定を行う場合と比べて判定精度を向上させることができる。
【0115】
また、上述のように、判定装置3は、取得部32を備えている。取得部32は、締付部24による締結部品X1の締付動作における物理量を取得する取得部32を備えている。これにより判定装置3の判定部34は、工具2のセンサ部27で検知される物理量を取得することができる。
【0116】
また、上述のように本実施形態の工具2は可搬型であり、手持ちで使用されるインパクトレンチである。判定部34は、種別が互いに異なる複数の特徴量の相関関係に基づいて締結部品X1の締付状態に関する判定を行うことで、様々な作業者が使用する可搬型の工具2に設けられている締付部24によって締結部品X1が締め付けられた場合の判定精度が向上させることができる。
【0117】
また、上述のように、本実施形態の判定部34は、締付部24が設けられている工具2とは別の装置である判定装置3(判定システム100)に設けられている。例えば、基準情報の情報量が大きい場合であっても、工具2と比べて処理能力の高い判定装置3にて判定処理を行うことで、工具2で判定処理を行うより短い時間で判定を行うことができる。また、工具システム1に新たに工具2を追加して使用することが可能であり、判定部34は、新たに基準情報を設定することなく、新たに追加した工具2により締め付けられた締結部品X1の締付状態に関する判定を行うことができる。
【0118】
また、上述のように、判定装置3は、設定部33を備えている。設定部33は、締付部24が締結部品X1を正常に締め付けた締付動作時にセンサ部27によって検知された物理量から、基準相関関係を抽出する。設定部33は、抽出した基準相関関係に基づいて、基準情報を設定し、記憶部35に基準情報を記憶させる。鉄やアルミ等の様々な材料で形成された締結部品X1を締め付ける工具システム1において、締付部24が締結部品X1を正常に締め付けた締付動作時における実測の物理量に基づいて基準情報を設定することで、基準情報の正確性を向上させることができる。
【0119】
また、上述のように、設定部33は、締付部24が複数の締結部品X1を正常に締め付けた複数の締付動作時(例えば第1締付動作及び第2締付動作)にセンサ部27によって検知される複数の物理量から、複数の基準相関関係(複数の基準相関関係)を抽出する。また、設定部33は、複数の工具2(2a,2b)の複数の締付部24が複数の締結部品X1を正常に締め付けた複数の締付動作時(例えば第1締付動作及び第3締付動作)にセンサ部27によって検知される複数の物理量から、複数の基準相関関係を抽出する。そして、設定部33は、抽出した複数の基準相関関係に基づいて、基準情報を設定する。設定部33が、複数の基準相関関係に基づいて基準情報を設定することで、基準情報の正確性をより向上させることができる。
【0120】
また、上述のように、設定部33が複数の基準相関関係に基づいて判定範囲R1を設定することで、基準情報には複数の基準相関関係(複数の基準相関関係)に基づく判定範囲R1が設定されている。そして、判定部34は、判定用物理量から抽出される実測相関関係が判定範囲R1に含まれるか否かに基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行う。判定部34は、実測相関関係が判定範囲R1に含まれるか否かに基づいて判定を行うため、簡単な方法で判定を行うことができる。
【0121】
また、上述のように、締付部24はインパクト機構244を有している。インパクト機構244は、モータ243からの動力によって駆動し、ソケット242(先端工具)にインパクトを与えるように構成されている。そして、複数の基準特徴量及び複数の実測特徴量は、少なくともモータ243に印加される電圧(モータ電圧)及びインパクト周期(インパクト回転数)を含んでいる。判定部34は、モータ電圧(電池端子間電圧)及びインパクト周期(インパクト回転数)の相関関係に基づいて締結部品X1の締付状態を判定することで、「かじり」が発生している場合の締結部品X1の締付状態を、異常であると判定することができる。
【0122】
また、上述のように、センサ部27が検知する物理量は、モータ243の電流波形(電流検出抵抗電圧の波形)及びモータ243の電圧波形(電池端子間電圧の波形)を含んでいる。締付部24による締結部品X1の締付動作時におけるモータ243の電流波形及び電圧波形のような、比較的取得しやすい物理量に基づく複数の特徴量を、判定に用いることができるため、判定を行いやすくすることができる。
【0123】
(5)変形例
上記実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。本開示において説明する各図は、模式的な図であり、各図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0124】
また、上記実施形態に係る工具システム1と同等の機能は、判定方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。
【0125】
以下、上記実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0126】
本開示における判定システム100は、制御部30にコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における判定システム100としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1又は複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なる。IC又はLSI等の集積回路は、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスも、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。ここでいうコンピュータシステムは、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを含む。したがって、マイクロコントローラについても、半導体集積回路又は大規模集積回路を含む1又は複数の電子回路で構成される。
【0127】
また、判定システム100は、少なくとも、取得部32と、判定部34と、記憶部35とを備えていればよい。判定システム100の少なくとも一部の機能が、1つの筐体(判定装置3)内に集約されていることは判定システム100に必須の構成ではなく、判定システム100の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。
【0128】
工具2は、少なくとも締付部24と、センサ部27とを備えていればよい。工具2の少なくとも一部の機能が、1つの筐体内に集約されていることは工具2に必須の構成ではなく、工具2の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。
【0129】
例えば、制御部30の一部の機能(例えば判定部34)や記憶部35が、判定装置3とは別の筐体(例えば工具2)に設けられていてもよい。また、制御部30の少なくとも一部の機能(例えば判定部34)や記憶部35は、例えば、サーバ又はクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0130】
工具システム1の使用用途は、工場におけるワークの組立作業を行う組立ラインに限らず、他の使用用途であってもよい。
【0131】
また、上記実施形態では、工具2がインパクトレンチである場合を説明したが、工具2は、インパクトレンチに限らず、例えば、ねじ(締結部品X1)の締付作業に用いられるドライバ(インパクトドライバを含む)であってもよい。この場合、ソケット242の代わりに、ビット(例えばドライバビット等)が工具2に取り付けられる。さらに、工具2は、電池パック201を動力源とする構成に限らず、交流電源(商用電源)を動力源とする構成であってもよい。
【0132】
また、表示部211は、LED等の発光部に限らず、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置により実現されてもよい。さらに、工具2(工具システム1)は、判定結果を通知する通知部として、表示部211の代わりに又は加えて、音出力部を備えていてもよい。つまり、通知部は、表示以外の手段で通知(提示)を行ってもよく、例えば、音を出力するスピーカ又はブザー等の音出力部で構成されていてもよい。出力される「音」は、例えば、「ピーピー」といった電子音でもよいし、「正常です」といった合成音声でもよい。この場合、制御部26は、締結部品X1の締付状態に関する判定の判定結果が正常である場合と、締結部品X1の締付状態に関する判定の判定結果が異常である場合とで、通知部から異なる音を発生させることが好ましい。また、通知部は、振動を発生するバイブレータ、又は工具2の外部端末(携帯端末等)に通知信号を送信する送信機等で実現されてもよい。さらには、通知部は、表示、音、振動又は通信等の機能のうちの2つ以上の機能を併せ持っていてもよい。
【0133】
また、工具2のセンサ部27は、締付トルクを測定するトルクセンサを備えていてもよい。この場合、制御部26は、トルクセンサが測定した締付トルクがトルク設定値となるように、締付部24を制御する。
【0134】
センサ部27によって検知される物理量は、電流検出抵抗電圧の電圧波形(モータ243の電流波形)、及び、電池端子間電圧の電圧波形(モータ243の電圧波形)の少なくとも一方を含んでいることが好ましい。また、センサ部27は、電池端子間電圧の電圧波形を検知する代わりに、モータ243に印加される電圧を検知してもよい。
【0135】
複数の基準特徴量及び複数の実測特徴量が、第1特徴量~第6特徴量の全てを含んでいることは必須ではなく、複数の基準特徴量及び複数の実測特徴量は、第1特徴量~第6特徴量のうちの2種別以上の特徴量を含んでいればよい。例えば、複数の基準特徴量及び複数の実測特徴量は、少なくとも第1特徴量(モータ電圧の平均値)及び第2特徴量(インパクト周期又はインパクト回転数)を含むことが好ましい。
【0136】
また、第1特徴量~第6特徴量は、上記実施形態の例に限定されない。例えば第2特徴量は、インパクト時における締結部品X1の進み角であってもよい。インパクト時の進み角は、インパクト回転数と、ホールセンサ電圧の電圧波形から抽出されるモータ回転数と、減速機構のギア比と、から求まる。
【0137】
また、工具システム1は、第1特徴量~第6特徴量に加えて別の特徴量(例えば第7特徴量)を用いて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行ってもよい。例えば、ホールセンサ電圧の電圧波形から抽出されるモータ回転数を、第7特徴量として用いてもよい。第7特徴量がモータ回転数である場合、例えば、工具システム1は、第2特徴量(インパクト回転数)と第7特徴量(モータ回転数)との相関関係に基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行ってもよい。なお、かじりが発生している場合は、かじりが発生していない場合と比べて、モータ回転数に対するインパクト回転数が小さい傾向がある。
【0138】
判定範囲R1を設定する際の閾値は、ユーザによって設定されず、設定部33が設定してもよい。例えば、設定部33は、記憶部35に格納されている複数の基準相関関係における複数のマハラノビス距離のうち、最大値となるマハラノビス距離を閾値として判定範囲R1を設定してもよい。設定部33は、上記の最大値となるマハラノビス距離を基準として判定範囲R1を設定してもよい。例えば、判定範囲R1を設定する際の閾値は、上記の最大値となるマハラノビス距離に所定の係数を掛けたものであってもよい。
【0139】
また、設定部33は、判定範囲R1の設定に、機械学習を利用してもよい。すなわち、設定部33は、人工知能(AI:Artificial Intelligence)による機械学習アルゴリズムによって生成される学習済モデルを用いて、判定範囲R1を設定する。ここでいう学習済モデルは、コンピュータシステムが、学習用データ(学習用物理量)から学習用プログラムに基づいて生成するモデルである。
【0140】
上記の実施形態では、クラスター分析の手法として、すなわち正常なデータ群からの「距離」として「マハラノビス距離」を用いる場合について説明した。しかし、判定部34は、「マハラノビス距離」を用いずに、種別が互いに異なる複数の特徴量のうちの2以上の特徴量を相関関係に基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行ってもよい。
【0141】
また、
図8に示すように、工具2(2c)が、判定システム100の機能の少なくとも一部を備えていてもよい。
図8の例では、工具2cの制御部26aは、取得部32aと、設定部33aと、判定部34aと、を有している。
【0142】
取得部32aは、締付部24による締結部品X1の締付動作時にセンサ部27が検知した物理量を取得する。取得部32aは、センサ部27が検知した物理量を取得した後、工具2cの動作モードに応じて異なる動作をする。工具2cの動作モードが締付モードである場合、取得部32aは、取得した物理量を判定部34aに出力する。一方で工具2cの動作モードが学習モードである場合、取得部32aは、締結部品X1が正常に締め付けられたか否かの入力をユーザに行わせる。締付状態が正常であると判断された場合に、取得部32aは取得した物理量を設定部33aに出力する。
【0143】
設定部33aは、取得部32aから入力される物理量から抽出される複数の基準特徴量に基づいて、基準情報を設定する。設定部33aの動作は上記実施形態の設定部33と概ね同じである。
【0144】
判定部34aは、記憶部35に記憶されている基準情報と、取得部32aから入力される物理量から抽出される複数の実測特徴量と、に基づいて、締結部品X1の締付状態に関する判定を行う。判定部34aの動作は上記実施形態の判定部34と概ね同じである。
【0145】
制御部26aは、判定部34aによる締結部品X1の締付状態に関する判定の結果に応じて、表示部211を点灯させる。
【0146】
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係る工具システム(1)は、締付部(24)と、センサ部(27)と、記憶部(35)と、判定部(34;34a)と、を備えている。締付部(24)は、モータ(243)からの動力により先端工具(ソケット242)を回転駆動させて締結部品(X1)を締め付ける。センサ部(27)は、締付部(24)による締結部品(X1)の締付動作時における物理量を検知する。記憶部(35)は、基準情報を記憶する。基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって締結部品(X1)の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。判定部(34;34a)は、基準情報と、実測相関関係と、に基づいて、締結部品(X1)の締付状態に関する判定を行う。実測相関関係は、複数の基準特徴量のそれぞれの種別に応じた複数の特徴量であってセンサ部(27)によって検知される物理量に基づく複数の実測特徴量の相関関係である。
【0147】
この態様によれば、種別が互いに異なる複数の特徴量の相関関係に基づいて締結部品(X1)の締付状態に関する判定を行うため、一の種別の特徴量に基づいて判定を行う場合と比べて判定精度を向上させることができる。
【0148】
第2の態様に係る工具システム(1)では、第1の態様において、締付部(24)は、手持ちで使用される工具(2)に設けられている。
【0149】
この態様によれば、様々な作業者が使用する手持ち工具(2)に設けられている締付部(24)によって締結部品(X1)が締め付けられた場合の判定精度が向上する。
【0150】
第3の態様に係る工具システム(1)では、第1又は第2の態様において、判定部(34)は、締付部(24)が設けられている工具(2)とは別の装置(判定装置3)に設けられている。
【0151】
この態様によれば、基準情報の情報量が大きい場合であっても、例えば比較的処理能力が高い外部装置(判定装置3)にて処理することで、短い時間で判定を行うことができる。また、工具システム(1)に新たに工具(2)を追加しても、新たに物理量を取得することなく判定を行うことができる。
【0152】
第4の態様に係る工具システム(1)は、第1から第3のいずれかの態様において、設定部(33;33a)を更に備えている。設定部(33;33a)は、締付部(24)が締結部品(X1)を正常に締め付けた締付動作時にセンサ部(27)によって検知された物理量から、基準相関関係を抽出する。設定部(33;33a)は、抽出した基準相関関係に基づいて、基準情報を設定し、記憶部(35)に基準情報を記憶させる。
【0153】
この態様によれば、鉄やアルミ等の様々な材料で形成された締結部品(X1)を締め付ける工具システム(1)において、締付部(24)が締結部品(X1)を正常に締め付けた締付動作時における物理量に基づいて基準情報を設定することで、基準情報の正確性を向上させることができる。
【0154】
第5の態様に係る工具システム(1)では、第4の態様において、設定部(33;33a)は、締付部(24)が複数の締結部品(X1)を正常に締め付けた複数の締付動作時にセンサ部(27)によって検知される複数の物理量から、複数の基準相関関係を抽出し、抽出した複数の基準相関関係に基づいて、基準情報を設定する。
【0155】
この態様によれば、複数の基準相関関係に基づいて基準情報を設定することで、基準情報の正確性をより向上させることができる。
【0156】
第6の態様に係る工具システム(1)は、第4又は第5の態様において、締付部(24)を複数備えている。工具システム(1)は、複数の締付部(24)のそれぞれと一対一に対応するセンサ部(27)を複数備えている。設定部(33;33a)は、複数の締付部(24)が複数の締結部品(X1)を正常に締め付けた複数の締付動作時に複数のセンサ部(27)によってそれぞれ検知される複数の物理量から複数の基準相関関係を抽出し、抽出した複数の基準相関関係に基づいて、基準情報を設定する。
【0157】
この態様によれば、複数の締付部(24)による複数の締付動作時における複数の物理量に基づいて基準情報を設定できるため、基準情報の正確性をより向上させることができる。
【0158】
第7の態様に係る工具システム(1)では、第5又は第6の態様において、基準情報には、複数の基準相関関係に基づく判定範囲(R1)が設定されている。判定部(34;34a)は、実測相関関係が判定範囲(R1)に含まれるか否かに基づいて判定を行う。
【0159】
この態様によれば、判定部(34;34a)は、実測相関関係が判定範囲(R1)に含まれるか否かに基づいて判定を行うため、簡単な方法で判定を行うことができる。
【0160】
第8の態様に係る工具システム(1)では、第1から第7のいずれかの態様において、締付部(24)はインパクト機構(244)を有している。インパクト機構(244)は、モータ(243)からの動力によって駆動され、先端工具(ソケット242)にインパクトを与えるように構成されている。複数の基準特徴量、及び複数の実測特徴量は、少なくともモータ(243)に印加される電圧及びインパクト周期を含んでいる。
【0161】
この態様によれば、モータ(243)に印加される電圧及びインパクト周期を特徴量として用いることで、締結部品(X1)が締め付けにくいいわゆる「かじり」を原因とする誤判定を少なくすることができ、判定精度を向上させることができる。
【0162】
第9の態様に係る工具システム(1)では、第1から第8のいずれかの態様において、物理量は、モータ(243)の電流波形及び電圧波形の少なくとも一方を含んでいる。
【0163】
この態様によれば、締付部(24)による締結部品(X1)の締付動作時におけるモータ(243)の電流波形及び電圧波形のような、比較的取得しやすい物理量に基づく複数の特徴量を、判定に用いることができるため、判定を行いやすくすることができる。
【0164】
第1の態様以外の構成については、工具システム(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【0165】
第10の態様に係る判定システム(100)は、取得部(32;32a)と、記憶部(35)と、判定部(34;34a)と、を備えている。取得部(32;32a)は、モータ(243)からの動力により先端工具(ソケット242)を回転駆動させて締結部品(X1)を締め付ける工具(2)による、締結部品(X1)の締付動作時における物理量を取得する。記憶部(35)は、基準情報を記憶している。基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって締結部品(X1)の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。判定部(34;34a)は、基準情報と、実測相関関係と、に基づいて、締結部品(X1)の締付状態に関する判定を行う。実測相関関係は、複数の基準特徴量のそれぞれの種別に応じた複数の特徴量であって取得部(32;32a)によって取得される物理量に基づく複数の実測特徴量の相関関係である。
【0166】
この態様によれば、判定システム(100)において、種別が互いに異なる複数の特徴量の相関関係に基づいて締結部品(X1)の締付状態に関する判定を行うため、一の種別の特徴量に基づいて判定を行う場合と比べて判定精度を向上させることができる。
【0167】
第11の態様に係る判定方法は、モータ(243)からの動力により先端工具(ソケット242)を回転駆動させて締結部品(X1)を締め付ける工具(2)に関する判定方法である。判定方法は、取得ステップと、判定ステップと、を有している。取得ステップでは、工具(2)による締結部品(X1)の締付動作時における物理量を取得する。判定ステップでは、基準情報と、実測相関関係とに基づいて、締結部品(X1)の締付状態に関する判定を行う。基準情報は、種別が互いに異なる複数の特徴量であって締結部品(X1)の締付状態の判定の基準となる複数の基準特徴量の基準相関関係に基づいて設定されている。実測相関関係は、複数の基準特徴量のそれぞれの種別に応じた複数の特徴量であって取得ステップにて取得される物理量に基づく複数の実測特徴量の相関関係である。
【0168】
この態様によれば、種別が互いに異なる複数の特徴量の相関関係に基づいて締結部品(X1)の締付状態に関する判定を行うため、一の種別の特徴量に基づいて判定を行う場合と比べて判定精度を向上させることができる。
【0169】
第12の態様に係るプログラムは、第11の態様に係る判定方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0170】
この態様によれば、種別が互いに異なる複数の特徴量の相関関係に基づいて締結部品(X1)の締付状態に関する判定を行うため、一の種別の特徴量に基づいて判定を行う場合と比べて判定精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0171】
1 工具システム
2 工具
24 締付部
243 モータ
244 インパクト機構
27 センサ部
3 判定装置(別の装置)
32,32a 取得部
33,33a 設定部
34,34a 判定部
35 記憶部
100 判定システム
R1 判定範囲
X1 締結部品