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特開2022-191057記録装置、記録装置の制御方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191057
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】記録装置、記録装置の制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20221220BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B41J2/165 301
B41J2/01 101
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099679
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋本 晴馬
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056EB58
2C056EC23
2C056FA13
2C056HA37
2C056JB03
2C056JB08
2C056JB15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ワイピングによる部品の消耗の増加や、クリーニングに用いる洗浄液の無駄な消費を抑制することができる記録装置、記録装置の制御方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】吐出面に設けられた複数の吐出口から液体を吐出する複数の記録手段と、前記記録手段の長手方向に相対移動することで、前記複数の記録手段の吐出状態をそれぞれ回復させることが可能な複数の払拭部を有する回復手段と、を備えた記録装置であって、前記複数の記録手段のうちの第1記録手段の前記吐出面を分割したエリアごとにおいて、回復が必要な第1所定領域に、前記回復手段の第1払拭部を当接させ、前記複数の記録手段のうちの第2記録手段の前記吐出面を分割したエリアごとにおいて、回復が必要な第2所定領域に、前記回復手段の第2払拭部を当接させる制御を行う制御手段を備えていることを特徴とする。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出面に設けられた複数の吐出口から液体を吐出する複数の記録手段と、
前記記録手段の長手方向に相対移動することで、前記複数の記録手段の吐出状態をそれぞれ回復させることが可能な複数の払拭部を有する回復手段と、を備えた記録装置であって、
前記複数の記録手段のうちの第1記録手段の前記吐出面を分割したエリアごとにおいて、回復が必要な第1所定領域に、前記回復手段の第1払拭部を当接させ、
前記複数の記録手段のうちの第2記録手段の前記吐出面を分割したエリアごとにおいて、回復が必要な第2所定領域に、前記回復手段の第2払拭部を当接させる制御を行う制御手段を備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1記録手段における前記第1所定領域以外の領域には、前記第1払拭部を当接させず、
前記制御手段は、前記第2記録手段における前記第2所定領域以外の領域には、前記第2払拭部を当接させない制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
複数の前記記録手段はキャリッジに搭載され、
前記キャリッジが移動することで、前記回復手段と前記記録手段とが相対移動することを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1所定領域と前記第2所定領域とが設定されたテーブルに基づいて、前記第1払拭部および前記第2払拭部を前記吐出面に当接させることを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記第1払拭部と前記第2払拭部とは、回転可能なローラーであることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記回復手段は、複数の昇降ユニットを備え、前記ローラーは、前記昇降ユニットに設けられ、
前記制御手段は、前記キャリッジの移動に伴って前記昇降ユニットを回動させることで、前記ローラーを前記吐出面に当接させることを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記ローラーには、クリーニング液が塗布されていることを特徴とする請求項5または6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記ローラーを前記吐出面に複数回当接可能であることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記テーブルは、前記ローラーを前記吐出面に当接させる回数と対応した数設けられていることを特徴とする請求項5ないし8のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記キャリッジは、第1位置と第2位置とに移動可能であり、
前記ローラーの前記吐出面への複数回の当接は、前記キャリッジを前記第1位置から前記第2位置に移動させる動作を複数回行うことで実現されることを特徴とする請求項5ないし9のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項11】
前記第1所定領域は、前記第1記録手段がインクを吐出した回数に基づいて決められ、前記第2所定領域は、前記第2記録手段がインクを吐出した回数に基づいて決められることを特徴とする請求項5ないし10のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
インクを吐出した回数が多い前記吐出口が設けられた領域ほど、回数が多く、前記ローラーが当接することを特徴とする請求項11に記載の記録装置。
【請求項13】
複数の記録手段の吐出面に設けられた複数の吐出口から液体を吐出する記録工程と、
前記記録手段の長手方向に、複数の払拭部を有する回復手段を相対移動することで、前記複数の記録手段の吐出状態をそれぞれ回復させることが可能な回復工程と、
を備えた記録装置の制御方法であって、
前記複数の記録手段のうちの第1記録手段の前記吐出面を分割したエリアごとにおいて、回復が必要な第1所定領域に、前記回復手段の第1払拭部を当接させ、
前記複数の記録手段のうちの第2記録手段の前記吐出面を分割したエリアごとにおいて、回復が必要な第2所定領域に、前記回復手段の第2払拭部を当接させる制御を行う制御工程を備えていることを特徴とする記録装置の制御方法。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか1項に記載の記録装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出して記録を行う記録装置とその制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ラインヘッドの吐出口における吐出頻度の分布に応じて、ワイピング部の移動範囲及び速度を調整することで、インクの消費を低減し、メンテナンスに要する時間を短縮する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-158845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法は、複数のラインヘッドに対して一律に、ワイピングにおける移動範囲及び速度を調整する手法となっており、ワイピングが不要な部分に対してもワイピングを行っている。それにより、ワイピングによる部品の消耗の増加や、クリーニングに用いる洗浄液の無駄な消費が発生するという課題があった。
【0005】
よって本発明は、ワイピングによる部品の消耗を抑制することができる記録装置、記録装置の制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため本発明の記録装置は、吐出面に設けられた複数の吐出口から液体を吐出する複数の記録手段と、前記記録手段の長手方向に相対移動することで、前記複数の記録手段の吐出状態をそれぞれ回復させることが可能な複数の払拭部を有する回復手段と、を備えた記録装置であって、前記複数の記録手段のうちの第1記録手段の前記吐出面を分割したエリアごとにおいて、回復が必要な第1所定領域に、前記回復手段の第1払拭部を当接させ、前記複数の記録手段のうちの第2記録手段の前記吐出面を分割したエリアごとにおいて、回復が必要な第2所定領域に、前記回復手段の第2払拭部を当接させる制御を行う制御手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ワイピングによる部品の消耗を抑制することができる記録装置、記録装置の制御方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】記録装置を示した概略図である。
図2】記録ユニットを示した斜視図である。
図3】記録ユニットの変位態様を示した図である。
図4】記録装置の制御ユニットを示したブロック図である。
図5】記録装置の制御ユニットを示したブロック図である。
図6】記録ユニットとワイピングユニットとを示した図である。
図7】昇降ユニットを備えたワイピングユニットを示した斜面図である。
図8】昇降ユニットを示した斜視図である。
図9】ワイピングローラの下降時と上昇時とを示した斜視図である。
図10】昇降ユニットが個別に記録ヘッドのクリーニングをしている図である。
図11】記録ヘッドに対するワイピングエリアの例を示した図である。
図12】ワイピングテーブルを示した図である。
図13】ワイピングテーブルの作成処理を示したフローチャートである。
図14】ワイピング処理を示したフローチャートである。
図15】記録ユニットにおける記録動作の例を模式的に示した図である。
図16】各記録ヘッドのメンテナンス動作の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態における記録装置1を示した概略図である。記録装置1は、液体を吐出して転写体2を介して記録媒体Pに画像を記録する。記録装置1は、記録部1Aと搬送部1Bとを備えている。
【0011】
記録部1Aは、記録ユニット3、転写ユニット4および周辺ユニット5A~5D、および供給ユニット6を備えている。記録ユニット3は、複数の記録ヘッド30と、キャリッジ31とを備えている。記録装置1では、キャリッジ31に9個の記録ヘッド30が搭載されており、キャリッジ31は、矢印Y方向に移動可能に設けられている。
【0012】
搬送部1Bは、複数の搬送胴8を備えており、複数の搬送胴8を回転させることで、記録媒体Pを転写ユニット4へ給送し、インク像が転写された記録物P’を転写ユニット4から排出する。
【0013】
図2は、記録ユニット3を示した斜視図である。記録ヘッド30は、転写体2に液体インクを吐出し、転写体2上に記録画像のインク像を形成する。記録ヘッド30は、矢印Y方向に延設されたフルラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの記録媒体Pの画像記録領域の幅をカバーする範囲に複数のノズルが配列されている。記録ヘッド30は、複数のノズルが開口した面であるインク吐出面を有しており、インク吐出面は、微小隙間(例えば数mm)を介して転写体2の表面と対向している。本実施形態の場合、転写体2は円軌道上を循環的に移動する構成であるため、複数の記録ヘッド30は、転写体2の円軌道に沿って放射状に配置されている。
【0014】
記録ヘッド30の各ノズルには吐出素子が設けられている。吐出素子は、例えばノズル内に圧力を発生させてノズル内のインクを吐出させる素子であり、公知のインクジェットプリンタのインクジェットヘッドの技術が適用可能である。吐出素子としては、例えば電気-熱変換体によりインクに膜沸騰を生じさせ気泡を形成することでインクを吐出する素子、電気-機械変換体によってインクを吐出する素子、静電気を利用してインクを吐出する素子等が挙げられる。高速で高密度の記録を行う観点からは、電気-熱変換体を利用した吐出素子を用いることが好ましい。
【0015】
各記録ヘッド30は、互いに異なる種類のインクを吐出する。異なる種類のインクとは、例えば色材が異なるインクであり、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインク等のインクである。1つの記録ヘッド30は1種類のインクを吐出するが、1つの記録ヘッド30が複数種類のインクを吐出する構成であってもよい。このように複数の記録ヘッド30を設けた場合、そのうちの一部が色材を含まないインク(例えばクリアインク)を吐出してもよい。
【0016】
キャリッジ31は、複数(本実施形では9個)の記録ヘッド30を支持する。各記録ヘッド30は、インク吐出面側の端部がキャリッジ31に固定されている。これにより、インク吐出面と転写体2との表面の隙間をより精密に維持することができる。キャリッジ31は、案内部材RLの案内によって、記録ヘッド30を搭載しつつ変位可能に構成されている。案内部材RLは、矢印Y方向に延設されたレール部材であり、一対の案内部材RLが、矢印X方向に離間して設けられている。キャリッジ31の矢印X方向の各側部には、スライド部32が設けられている。スライド部32は、案内部材RLと係合し、案内部材RLに沿って矢印Y方向にスライドする。
【0017】
図3は、記録ユニット3の変位態様を示した図であり、記録装置1の右側面を模式的に示した図である。記録ユニット3と対向可能な位置には、回復ユニット12が設けられている。回復ユニット12は、記録ヘッド30の吐出性能を回復する機構を有する。記録ヘッド30の吐出性能を回復する機構としては、例えば記録ヘッド30のインク吐出面をキャッピングするキャップ機構、インク吐出面を払拭(ワイピング)するワイパ機構、インク吐出面から記録ヘッド30内のインクを吸引する吸引機構等が挙げられ。
【0018】
案内部材RLは、転写体2の側方から回復ユニット12に亘って延設されている。記録ユニット3は、案内部材RLの案内により、実線で記録ユニット3を示した吐出位置POS1と、破線で記録ユニット3を示した回復位置POS3との間で変位可能であり、不図示の駆動機構により移動される。
【0019】
吐出位置POS1は、記録ユニット3が転写体2にインクを吐出する位置であり、記録ヘッド30のインク吐出面が転写体2の表面に対向する位置である。回復位置POS3は、吐出位置POS1から記録ユニット3が退避した位置であり、記録ユニット3が回復ユニット12上に位置する位置である。回復ユニット12は、記録ユニット3が回復位置POS3に位置した場合に、記録ヘッド30に対する回復処理を実行可能である。本実施形態の場合、記録ユニット3が回復位置POS3に到達する前の移動途中においても回復処理を実行可能である。
【0020】
吐出位置POS1と回復位置POS3の間には予備回復位置POS2が設けられている。回復ユニット12は、記録ヘッド30が吐出位置POS1から回復位置POS3へ移動している間に、予備回復位置POS2で、記録ヘッド30に対する予備的な回復処理であるワイピングを実行可能である。ワイピングは、クリーニング液を含んだスポンジ状のローラーが、記録ヘッド30のインク吐出面に対して当接面が摩擦を起こさないような速度で回転しながら記録ヘッド30のインク吐出面に当接するワイピング方法である。ワイピング方法の詳細は後述する。
【0021】
転写ユニット4は、転写胴41と圧胴42(図1参照)とを含む。転写胴41と圧胴42とは、矢印Y方向の回転軸周りに回転する回転体であり、円筒形状の外周面を有している。図1において、転写胴41および圧胴42内に示した矢印は、これらの回転方向を示しており、転写胴41は時計回りに、圧胴42は反時計回りに回転する。
【0022】
転写胴41は、その外周面に転写体2を支持する支持体である。転写体2は、転写胴41の外周面上に、周方向に連続的にあるいは間欠的に設けられる。連続的に設けられる場合、転写体2は無端の帯状に形成される。間欠的に設けられる場合、転写体2は、有端の帯状に複数のセグメントに分けて形成され、各セグメントは転写胴41の外周面に等ピッチで円弧状に配置することができる。
【0023】
転写胴41の回転により、転写体2は円軌道上を循環的に移動する。転写胴41の回転位相により、転写体2の位置は、吐出前処理領域R1、吐出領域R2、吐出後処理領域R3およびR4、転写領域R5、転写後処理領域R6に区別することができる。転写体2は転写胴41の回転に伴ってこれら各領域を循環的に通過する。
【0024】
吐出前処理領域R1は、記録ユニット3によるインクの吐出前に、転写体2に対する前処理を行う領域であり、周辺ユニット5Aによる処理が行われる領域である。本実施形態の場合、転写体2に対する前処理として反応液が付与される。吐出領域R2は、記録ユニット3が転写体2にインクを吐出してインク像を形成する形成領域である。吐出後処理領域R3およびR4はインクの吐出後にインク像に対する処理を行う処理領域であり、吐出後処理領域R3は周辺ユニット5Bによる処理が行われる領域であり、吐出後処理領域R4は周辺ユニット5Cによる処理が行われる領域である。転写領域R5は転写ユニット4により転写体2上のインク像が記録媒体Pに転写される領域である。転写後処理領域R6は、転写後に転写体2に対する後処理を行う領域であり、周辺ユニット5Dによる処理が行われる領域である。
【0025】
吐出領域R2は、一定の区間を有する領域である。吐出領域R2の区間は、他の領域R1、R3~R6の区間よりも広い領域となっている。各領域を時計の文字盤に喩えると、吐出前処理領域R1は概ね10時の位置であり、吐出領域R2は概ね11時から1時の範囲であり、吐出後処理領域R3は概ね2時の位置であり、吐出後処理領域R4は概ね4時の位置である。転写領域R5は概ね6時の位置であり、転写後処理領域R6は概ね8時の位置である。
【0026】
転写体2は、単層から構成してもよいが、複数層の積層体としてもよい。複数層で構成する場合、例えば表面層、弾性層、圧縮層の三層を含んでもよい。表面層はインク像が形成される画像形成面を有する最外層である。圧縮層を設けることで、圧縮層が変形を吸収し、局所的な圧力変動に対してその変動を分散し、高速記録時においても転写性を維持することができる。弾性層は表面層と圧縮層との間の層である。
【0027】
表面層の材料としては、樹脂、セラミック等各種材料を適宜用いることができるが、耐久性等の点で圧縮弾性率の高い材料を用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素含有樹脂、加水分解性有機ケイ素化合物を縮合して得られる縮合物等が挙げられる。表面層には、反応液の濡れ性、画像の転写性等を向上させるために、表面処理を施して用いてもよい。表面処理としては、フレーム処理、コロナ処理、プラズマ処理、研磨処理、粗化処理、活性エネルギー線照射処理、オゾン処理、界面活性剤処理、シランカップリング処理などが挙げられる。これらを複数組み合わせてもよい。また、表面層に任意の表面形状を設けることもできる。
【0028】
圧縮層の材料としては、例えばアクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。このようなゴム材料の成形時には、所定量の加硫剤、加硫促進剤等を配合し、さらに発泡剤、中空微粒子或いは食塩等の充填剤を必要に応じて配合し、多孔質のゴム材料としてもよい。これにより、様々な圧力変動に対して気泡部分が体積変化を伴って圧縮されるため、圧縮方向以外への変形が小さく、より安定した転写性、耐久性を得ることができる。多孔質のゴム材料としては、各気孔が互いに連続した連続気孔構造のものと、各気孔がそれぞれ独立した独立気孔構造のものがあるが、いずれの構造であってもよく、これらの構造を併用してもよい。
【0029】
弾性層の部材としては、樹脂、セラミック等、各種材料を適宜用いることができる。加工特性等の点で、各種エラストマー材料、ゴム材料を用いることができる。具体的には、例えばフルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。また、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、スチレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン/プロピレン/ブタジエンのコポリマー、ニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。特に、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴムは、圧縮永久ひずみが小さいため、寸法安定性、耐久性の面で有利である。また、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴムは、温度による弾性率の変化が小さく、転写性の点でも有利である。
【0030】
表面層と弾性層の間、弾性層と圧縮層の間には、これらを固定するために各種接着剤や両面テープを用いることもできる。また、転写体2は、転写胴41に装着する際の横伸びの抑制や、コシを保つために圧縮弾性率が高い補強層を含んでもよい。また、織布を補強層としてもよい。転写体2は、前述の材質による各層を任意に組み合わせて作製することができる。
【0031】
圧胴42は、外周面が転写胴41に支持された転写体2に圧接される。圧胴42の外周面には、記録媒体Pの先端部を保持するグリップ機構が少なくとも一つ設けられている。グリップ機構は、圧胴42の周方向に離間して複数設けてもよい。記録媒体Pは、圧胴42の外周面に密接して搬送されつつ、圧胴42と転写体2とのニップ部を通過するときに、転写体2上のインク像が転写される。転写ドラム41と圧胴42とを共通で駆動するモータ等の駆動源は、歯車機構等の伝達機構により駆動力を分配する。
【0032】
周辺ユニット5は、転写胴41の周囲に配置されている。本実施形態の場合、周辺ユニット5は、付与ユニット5A、吸収ユニット5B、加熱ユニット5C、清掃ユニット5Dを備えている。
【0033】
付与ユニット5Aは、記録ユニット3によるインクの吐出前に、転写体2上に反応液を付与する機構である。反応液は、インクを高粘度化する成分を含有する液体である。ここでインクの高粘度化とは、インクを構成している色材や樹脂等がインクを高粘度化する成分と接触することによって化学的に反応し、あるいは物理的に吸着し、これによってインクの粘度が上昇することである。インクの高粘度化には、インク全体の粘度上昇が認められる場合のみならず、色材や樹脂等のインクを構成する成分の一部が凝集することにより局所的に粘度の上昇が生じる場合も含まれる。
【0034】
インクを高粘度化する成分は、金属イオン、高分子凝集剤など、特に制限はないが、インクのpH変化を引き起こして、インク中の色材を凝集させる物質を用いることができ、有機酸を用いることができる。反応液の付与機構としては、例えば、ローラー、記録ヘッド、ダイコーティング装置(ダイコータ)、ブレードコーティング装置(ブレードコータ)などが挙げられる。転写体2に対するインクの吐出前に、反応液を転写体2に付与しておくと、転写体2に達したインクを直ちに定着させることができる。これにより、隣接するインク同士が混ざり合うブリーディングを抑制することができる。
【0035】
吸収ユニット5Bは、転写前に、転写体2上のインク像から液体成分を吸収する機構である。インク像の液体成分を減少させることで、記録媒体Pに記録される画像のにじみ等を抑制することができる。液体成分の減少を異なる視点で説明すれば、転写体2上のインク像を構成するインクを濃縮すると表現することもできる。インクを濃縮するとは、インクに含まれる液体成分が減少することによって、インクに含まれる色材や樹脂といった固形分の液体成分に対する含有割合が増加することを意味する。
【0036】
吸収ユニット5Bは、例えば、インク像に接触してインク像の液体成分の量を減少させる液吸収部材を含む。液吸収部材はローラーの外周面に形成されてもよいし、液吸収部材が無端のシート状に形成され、循環的に走行されるものでもよい。インク像の保護の点から、液吸収部材の移動速度を転写体2の周速度と同じにして液吸収部材を転写体2と同期して移動させてもよい。
【0037】
液吸収部材は、インク像に接触する多孔質体を含んでもよい。液吸収部材へのインク固形分付着を抑制するため、インク像に接触する面の多孔質体の孔径は、10μm以下であってもよい。ここで、孔径とは平均直径のことを示し、公知の手段、例えば水銀圧入法や、窒素吸着法、SEM画像観察等で測定可能である。なお、液体成分は、一定の形を有さず、流動性があり、ほぼ一定の体積を有するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、インクや反応液に含まれる水や有機溶媒等が液体成分として挙げられる。
【0038】
加熱ユニット5Cは、転写前に、転写体2上のインク像を加熱する機構である。インク像を加熱することで、インク像中の樹脂が溶融し、記録媒体Pへの転写性が向上する。加熱温度は、樹脂の最低造膜温度(MFT)以上とすることができる。MFTは一般的に知られている手法、例えばJIS K 6828-2:2003や、ISO2115:1996に準拠した各装置で測定することが可能である。転写性及び画像の堅牢性の観点から、MFTよりも10℃以上高い温度で加熱してもよく、更にMFTよりも20℃以上高い温度で加熱してもよい。加熱ユニット5Cは、例えば赤外線等の各種ランプ、温風ファン等、公知の加熱デバイスを用いることができる。加熱効率の点で、赤外線ヒータを用いることができる。
【0039】
清掃ユニット5Dは、転写後に転写体2上を清掃する機構である。清掃ユニット5Dは、転写体2上に残留したインクや、転写体2上のごみ等を除去する。清掃ユニット5Dは、例えば多孔質部材を転写体2に接触させる方式、ブラシで転写体2の表面を擦る方式、ブレードで転写体2の表面をかきとる方式等の公知の方式を適宜用いることができる。また、清掃に用いる清掃部材は、ローラー形状、ウェブ形状等、公知の形状を用いることができる。
【0040】
本実施形態では周辺ユニット5は、付与ユニット5A、吸収ユニット5B、加熱ユニット5C、清掃ユニット5Dを備えるが、これらの一部のユニットに転写体2の冷却機能を付与するか、あるいは冷却ユニットを追加してもよい。本実施形態では、加熱ユニット5Cの熱により転写体2の温度が上昇する場合がある。記録ユニット3により転写体2にインクを吐出した後、インク像がインクの主溶剤である水の沸点を超えると、吸収ユニット5Bによる液体成分の吸収性能が低下する場合がある。吐出されたインクが水の沸点未満に維持されるように転写体2を冷却することで、液体成分の吸収性能を維持することができる。
【0041】
冷却ユニットは、転写体2に送風する送風機構や、転写体2に部材(例えばローラ)を接触させ、空冷または水冷で冷却する機構であってもよい。また、清掃ユニット5Dの清掃部材を冷却する機構であってもよい。冷却のタイミングは、転写後、反応液の付与前までのいずれかのタイミングであってもよい。
【0042】
供給ユニット6(図1参照)は、記録ユニット3の各記録ヘッド30にインクを供給する機構である。供給ユニット6は、矢印X方向において記録ユニット3に対して後部側に設けられていてもよい。供給ユニット6は、インクの種類毎に、インクを貯留する貯留部TKを備える。貯留部TKは、メインタンクとサブタンクとによって構成されてもよい。各貯留部TKと各記録ヘッド30とは流路6aで連通し、貯留部TKから記録ヘッド30へインクが供給される。流路6aは、貯留部TKと記録ヘッド30との間でインクを循環させる流路であってもよく、供給ユニット6はインクを循環させるポンプ等を備えてもよい。流路6aの途中または貯留部TKには、インク中の気泡を脱気する脱気機構を設けてもよい。流路6aの途中または貯留部TKには、インクの液圧と大気圧との調整を行うバルブを設けてもよい。貯留部TK内のインク液面が、記録ヘッド30のインク吐出面よりも低い位置となるように、貯留部TKと記録ヘッド30の矢印Z方向の高さが設計されてもよい。
【0043】
搬送装置1B(図1参照)は、給送ユニット7、複数の搬送胴8、8a、二つのスプロケット8b、チェーン8cおよび回収ユニット8dを含む。図1において搬送装置1Bの各構成の内側の矢印は、その構成の回転方向を示し、外側の矢印は記録媒体Pまたは記録物P’の搬送経路を示している。記録媒体Pは、給送ユニット7から転写ユニット4へ搬送され、記録物P’は転写ユニット4から回収ユニット8dへ搬送される。給送ユニット7側を搬送方向における上流側と呼び、回収ユニット8d側を下流側と呼ぶ場合がある。
【0044】
給送ユニット7は、複数の記録媒体Pが積載される積載部を含むと共に、積載部から一枚ずつ記録媒体Pを、最上流の搬送胴8に給送する給送機構を含む。各搬送胴8、8aは矢印Y方向の回転軸周りに回転する回転体であり、円筒形状の外周面を有している。各搬送胴8、8aの外周面には、記録媒体P(または記録物P’)の先端部を保持するグリップ機構が少なくとも一つ設けられている。各グリップ機構は、隣接する搬送胴間で記録媒体Pを受け渡されるように、その把持動作および解除動作が制御される。
【0045】
二つの搬送胴8aは、記録媒体Pを反転させるための搬送胴である。記録媒体Pを両面記録する場合、表面への転写後に、圧胴42から下流側に隣接する搬送胴8へ記録媒体Pを渡さずに、搬送胴8aに渡す。記録媒体Pは、二つの搬送胴8aを経由して表裏が反転され、圧胴42の上流側の搬送胴8を経由して再び圧胴42へ渡される。これにより、記録媒体Pの裏面が転写胴41に面することになり、裏面にインク像が転写される。
【0046】
チェーン8cは、二つのスプロケット8b間に巻き回されている。二つのスプロケット8bの一方は、駆動スプロケットであり他方は従動スプロケットである。駆動スプロケットの回転によりチェーン8cが循環的に走行する。チェーン8cには、その長手方向に離間して複数のグリップ機構が設けられている。グリップ機構は、記録物P’の端部を把持する。下流端に位置する搬送胴8からチェーン8cのグリップ機構に記録物P’が渡され、グリップ機構に把持された記録物P’は、チェーン8cの走行により回収ユニット8dへ搬送され把持が解除される。これにより記録物P’が回収ユニット8d内に積載される。
【0047】
搬送装置1Bには、後処理ユニット10A、10B(図1参照)が設けられている。後処理ユニット10A、10Bは、転写ユニット4よりも下流側に配置され、記録物P’に対して後処理を行う機構である。後処理ユニット10Aは、記録物P’の表面に対する処理を行い、後処理ユニット10Bは、記録物P’の裏面に対する処理を行う。処理の内容としては、例えば、記録物P’の画像記録面に、画像の保護や艶出し等を目的としたコーティングを挙げることができる。コーティングの内容としては、例えば、液体の塗布、シートの溶着、ラミネート等を挙げることができる。
【0048】
搬送装置1Bには、検査ユニット9A、9B(図1参照)が設けられている。検査ユニット9A、9Bは転写ユニット4よりも下流側に配置され、記録物P’の検査を行う機構である。検査ユニット9Aは、記録物P’に記録された画像を撮影する撮影装置であり、例えば、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を含む。検査ユニット9Aは、連続的に行われる記録動作中に、記録画像を撮影する。検査ユニット9Aが撮影した画像に基づいて、記録画像の色味などの経時変化を確認し、画像データあるいは記録データの補正の可否を判断することができる。本実施形態の場合、検査ユニット9Aは、圧胴42の外周面に撮像範囲が設定されており、転写直後の記録画像を部分的に撮影可能に配置されている。検査ユニット9Aにより全ての記録画像の検査を行ってもよいし、所定数毎に検査を行ってもよい。
【0049】
検査ユニット9Bは、記録物P’に記録された画像を撮影する撮影装置であり、例えば、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を含む。検査ユニット9Bは、テスト記録動作において記録画像を撮影する。検査ユニット9Bは、記録画像の全体を撮影し、検査ユニット9Bが撮影した画像に基づいて、記録データに関する各種の補正の基本設定を行うことができる。本実施形態の場合、チェーン8cで搬送される記録物P’を撮影する位置に配置されている。検査ユニット9Bにより記録画像を撮影する場合、チェーン8cの走行を一時的に停止して、記録画像の全体を撮影する。検査ユニット9Bは、記録物P’上を走査するスキャナであってもよい。
【0050】
図4および図5は、記録装置1の制御ユニット13を示したブロック図である。以下、記録装置1の制御ユニットについて説明する。制御ユニット13は、上位装置(DFE)HC2に通信可能に接続され、また、上位装置HC2はホスト装置HC1に通信可能に接続される。
【0051】
ホスト装置HC1では、記録画像の元になる原稿データが生成、あるいは保存される。ここでの原稿データは、例えば文書ファイルや画像ファイル等の電子ファイルの形式で生成される。この原稿データは、上位装置HC2へ送信され、上位装置HC2では、受信した原稿データを制御ユニット13で利用可能なデータ形式(例えばRGBで画像を表現するRGBデータ)に変換する。変換後のデータは、画像データとして上位装置HC2から制御ユニット13へ送信され、制御ユニット13は、受信した画像データに基づき、記録動作を開始する。
【0052】
本実施形態の場合、制御ユニット13は、メインコントローラ13Aと、エンジンコントローラ13Bとを備えている。メインコントローラ13Aは、処理部131、記憶部132、操作部133、画像処理部134、通信I/F(インタフェース)135、バッファ136および通信I/F137を含む。処理部131は、CPU等のプロセッサであり、記憶部132に記憶されたプログラムを実行し、メインコントローラ13A全体の制御を行う。記憶部132は、RAM、ROM、ハードディスク、SSD等の記憶デバイスであり、処理部131が実行するプログラムや、データを格納し、また処理部131にワークエリアを提供する。操作部133は、例えばタッチパネル、キーボード、マウス等の入力デバイスであり、ユーザからの指示を受け付ける。
【0053】
画像処理部134は、例えば画像処理プロセッサを有する電子回路である。バッファ136は、例えば、RAM、ハードディスクやSSDである。通信I/F135は上位装置HC2との通信を行い、通信I/F137はエンジンコントローラ13Bとの通信を行う。図4において破線矢印は、画像データの処理の流れを例示している。上位装置HC2から通信IF135を介して受信された画像データは、バッファ136に蓄積される。画像処理部134はバッファ136から画像データを読み出し、読み出した画像データに所定の画像処理を施して、再びバッファ136に格納する。バッファ136に格納された画像処理後の画像データは、プリントエンジンが用いる記録データとして、通信I/F137からエンジンコントローラ13Bへ送信される。
【0054】
図5に示すように、エンジンコントローラ13Bは、制御部14、15A~15Eを含み、記録装置1が備えるセンサ群およびアクチュエータ群16の検知結果の取得および駆動制御を行う。これらの各制御部は、CPU等のプロセッサ、RAMやROM等の記憶デバイス、外部デバイスとのインタフェースを含む。なお、制御部の区分けは一例であり、一部の制御を更に細分化した複数の制御部で実行してもよいし、逆に複数の制御部を統合して、それらの制御内容を一つの制御部で行う構成でもよい。
【0055】
エンジン制御部14は、エンジンコントローラ13Bの全体の制御を行う。記録制御部15Aは、メインコントローラ13Aから受信した記録データをラスタデータ等、記録ヘッド30の駆動に適したデータ形式に変換する。記録制御部15Aは、各記録ヘッド30の吐出制御を行う。転写制御部15Bは、付与ユニット5Aの制御、吸収ユニット5Bの制御、加熱ユニット5Cの制御、および清掃ユニット5Dの制御を行う。信頼性制御部15Cは、供給ユニット6の制御、回復ユニット12の制御、および記録ユニット3を吐出位置POS1と回復位置POS3との間で移動させる駆動機構の制御を行う。
【0056】
搬送制御部15Dは、転写ユニット4の駆動制御や、搬送装置1Bの制御を行う。検査制御部15Eは、検査ユニット9Bの制御、および検査ユニット9Aの制御を行う。センサ群およびアクチュエータ群16のうち、センサ群には、可動部の位置や速度を検知するセンサ、温度を検知するセンサ、撮像素子等が含まれる。アクチュエータ群にはモータ、電磁ソレノイド、電磁バルブ等が含まれる。
【0057】
記録装置1では、記録ユニット3が吐出位置POS1から回復位置POS3へ移動する際に、回復ユニット12が備えるワイピングユニット12Aによりワイピングを行う。一般的な記録装置におけるワイピングでは、複数の記録ヘッドに対して一律にワイピングを実施している。複数の記録ヘッドでは、記録における使用頻度がそれぞれ異なるのが一般的である。そのような記録ヘッドに対して、一律にワイピングを行うと、ワイピングが不要な部分に対してもワイピングが行われ、ワイピングによる部品の消耗の増加や、クリーニングに用いる洗浄液の無駄な消費が発生するという課題があった。
【0058】
そこで本実施形態の記録装置1におけるワイピングユニット12Aは、複数の記録ヘッド30のそれぞれに対応して昇降する昇降機構を備え、記録ヘッド毎に個別に所望の領域をワイピングすることができる。以下、ワイピングユニット12Aの構成について説明する。
【0059】
図6(a)は、記録ユニット3とワイピングユニット12Aとを示した図であり、図6(b)は、図6(a)の一部を拡大して示した部分拡大図である。記録ユニット3が吐出位置POS1から回復位置POS3へ移動する際に、記録ユニット3とワイピングユニット12Aとが相対移動しつつ、ワイピングユニット12Aによりワイピングが行われる。ワイピングは、記録ヘッド30のインク吐出面の汚れの程度によって、2回以上のワイピングが必要となる。その際は、1回目のワイピングが終わった後に、記録ユニット3を再び吐出位置POS1の位置に戻し、吐出位置POS1から回復位置POS3への移動と2回目のワイピングを行う。
【0060】
ワイピングユニット12Aは、複数の記録ヘッド30のそれぞれに対応して昇降する複数の昇降ユニット12A-1を備えており、図6(b)では、全ての記録ヘッド30と昇降ユニット12A-1とが離間した状態である。
【0061】
図7は、昇降ユニット12A-1を備えたワイピングユニット12Aを示した斜面図である。ワイピングユニット12Aでは、扇型の台座に昇降ユニット12A-1が扇形に設置されている。各昇降ユニット12A-1は、ワイピングローラ(払拭部)12A-11を備えている。記録ヘッド30と昇降ユニット12A-1とが対向した際に昇降ユニット12A-1が上昇することで、ワイピングローラ12A-11によって、記録ヘッド30のインク吐出面をワイピング可能な状態となる。本実施形態では、記録ヘッド30とワイピングユニット12Aとを相対移動させながら、インク吐出面にワイピングローラ12A-11を当接させ、ワイピングローラ12A-11を回転させながらインク吐出面のワイピングが行われる。
【0062】
図8は、昇降ユニット12A-1を示した斜視図である。昇降ユニット12A-1は、上部に設けられた回転可能なワイピングローラ12A-11と、昇降機構12A-12と、クリーニング液塗布ユニット12A-13とを備えている。ワイピングローラ12A-11は、ワイピング時のインク吐出面へのダメージを抑えるため、インク吐出面とワイピングローラ面との摩擦が0になるように回転しながらワイピングを行う。ワイピングローラ12A-11は、記録ヘッド30の移動と同じ方向に回転しながら記録ヘッド30のインク吐出面に当接しワイピングを行う。
【0063】
ワイピング時には、インク吐出面のインクを効率的に清掃するため、クリーニング液塗布ユニット12A-13によりワイピングローラ12A-11にクリーニング液が塗布される。本実施形態では、クリーニング液塗布ユニット12A-13と回転するワイピングローラ12A-11とが当接することで、ワイピングローラ12A-11にクリーニング液が塗布される。ワイピングローラ12A-11に塗布されたクリーニング液は、一度記録ヘッド30のクリーニングに使われると、絞り機構によってワイピングローラ12A-11から取り除かれる。本実施形態では、ワイピングローラ12A-11から取り除かれたクリーニング液は希釈され循環して再度使用する機構を用いるが、一度使用したクリーニング液を廃棄する構成でもよい。
【0064】
図9は、ワイピングローラ12A-11の下降時と上昇時とを示した斜視図である。図9(a)が下降時のワイピングローラ12A-11を示した図であり、図9(b)が上昇時のワイピングローラ12A-11を示した図である。昇降ユニット12A-1は、端部(図面上右側端部)を回動自在に支持されており、支持部を中心に回動することで、ワイピングローラ12A-11の上昇と下降とが行われる。ワイピングローラ12A-11の上昇時には、昇降機構12A-12が伸長し、ワイピングローラ12A-11が記録ヘッド30のインク吐出面に当接する位置まで上昇する。昇降ユニット12A-1は、記録ヘッド30のインク吐出面と当接する前に、インク吐出面とワイピングローラ12A-11の面との摩擦をなくすため、相対速度が0になる速度で回転を始める。ワイピングローラ12A-11の回転中は、クリーニング液塗布ユニット12A-13はクリーニング液を継続的にワイピングローラ12A-11に塗布する。
【0065】
図10は、9個の昇降ユニット12A-1a~iが個別に記録ヘッドのクリーニングをON/OFFしている状態を示した図である。昇降ユニット12A-1a~d、昇降ユニット12A-1hは、ON状態であり、ワイピングローラ12A-11が記録ヘッド30のインク吐出面と当接している。昇降ユニット12A-1e~g、昇降ユニット12A-1iは、OFF状態であり、ワイピングローラ12A-11と記録ヘッド30のインク吐出面とは離間している。昇降ユニット12A-1a~iは適宜昇降可能であり、ワイピングローラ12A-11と記録ヘッド30のインク吐出面とが当接した状態で記録ユニット3が移動することでインク吐出面に対するワイピングが行われる。記録ユニット3が移動することにより、インク吐出面においてワイピングローラ12A-11と対向する位置にワイピングが必要な領域が到達すると、対応する昇降ユニットがON状態となり、ワイピングローラ12A-11によるワイピングが行われる。
【0066】
図11は、記録ヘッド30に対するワイピングエリアの例を示した図である。ここでは説明を分かり易くするため、記録ヘッド30a~dの4個の記録ヘッド30に対するワイピングエリアの例を示しているが、実際には9個の記録ヘッド30に対して個別にワイピングエリアが設けられている。1個の記録ヘッド30のインク吐出面は、記録ヘッド30の長手方向にWA1からWA8の8個のワイピングエリア(所定領域)に分けられている。なお、ワイピングエリアの分割数は8個に限定するものでなく適宜分割数を設定してよい。
【0067】
本実施形態では、ワイピングを複数回行うことが可能であり、各ワイピングエリアに対してワイピングが2回必要なエリアW2と、ワイピングが1回必要なエリアW1と、ワイピングが0回のエリアW0とを設定している。なお、ワイピングの回数の設定はこれに限定するものではなく、インク吐出面にワイピングローラ12A-11が複数回当接可能であり、複数種類のワイピングの回数が設定されていればよい。本実施形態では、ワイピングが必要なワイピングエリア以外(所定領域以外)ではワイピングが行われない。
【0068】
ワイピングの回数は、記録ヘッド30がインクを吐出した回数(以下、ドットカウントともいう)によって設定する。ドットカウントが多いほどワイピングの回数が多くなるように設定されている。なお、ドットカウントとワイピングの必要回数については装置毎に適宜設定することが好ましい。前述した通り、2回のワイピングが必要な場合は、1回目のワイピングが終わった後に、記録ユニット3を再び吐出位置POS1の位置に戻し、吐出位置POS1から回復位置POS3への移動と2回目のワイピングを行う。昇降ユニット12A-1a~iは、記録ユニット3の移動距離からワイピングエリアを認識し、昇降を行うことで、インク吐出面のワイピングエリアに対するワイピングを行う。
【0069】
記録ヘッド30aでは、ワイピングエリアWA4~6で1回のワイピングが必要であり、ワイピングエリアWA4~6で昇降ユニット12A-1aが上昇してワイピングが行われる。記録ヘッド30bでは、ワイピングエリアWA2~5で2回のワイピングが必要であり、ワイピングエリアWA6~7で1回のワイピングが必要となっている。先ず、ワイピングエリアWA2~7で昇降ユニット12A-1bが上昇して1回目のワイピングが行われ、その後、ワイピングエリアWA2~5で昇降ユニット12A-1bが上昇して2回目のワイピングを行う。
【0070】
図12は、1回目と2回目のワイピングにおけるワイピングテーブルを示した図である。本実施形態では、ワイピング毎のワイピングテーブルを作成し、作成したワイピングテーブルに基づいてワイピングを行う。具体的には、1回目に記録ユニット3が吐出位置POS1から回復位置POS3へ移動する際に、Table[1]に基づいて各昇降ユニット12A-1のON/OFFを行う。その後、2回目に記録ユニット3が吐出位置POS1から回復位置POS3へ移動する際に、Table[2]に基づいて各昇降ユニット12A-1のON/OFFを行う。このように、複数のワイピングテーブルを組み合わせてワイピングを実施することで、図11に示したような、各記録ヘッドのワイピングエリア毎に個別のワイピングを行うことができる。なお、ワイピングテーブルを増やすことで、更に回数を増やした複雑なワイピングも容易に行うことができる。
【0071】
図13は、本実施形態におけるワイピングテーブルの作成処理を示したフローチャートである。図13で示される一連の処理は、記録装置1の処理部131のCPUが、記憶部132に記憶されたプログラムコードをデータメモリに展開し実行することにより行われる。あるいはまた、図13におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電子回路等のハードウェアで実現してもよい。なお、各処理の説明における記号「S」は、当該フローチャートにおけるステップであることを意味する。以下、図13のフローチャートを用いて本実施形態のワイピングテーブルの作成処理を説明する。
【0072】
ワイピングテーブルの作成処理が開始されると、CPUはS1301で、各記録ヘッド30のワイピングエリア毎のドットカウントを取得する。その後CPUはS1302で、最もカウントの多いワイピングエリアに対して、必要な回数分のワイピングテーブルを用意する(本実施形態では最大2回)。その後CPUはS1303で、1回以上のワイピングが必要なドットカウントのエリアを抽出する。そして、CPUはS1304で、2回のワイピングが必要なドットカウントのエリアを抽出する。最大ワイピング回数が2回より多い場合には、ここで、各回数のワイピングが必要なドットカウントのエリアを抽出する。その後、CPUはS1305で、S1303で抽出したエリアからTable[1]を作成し、S1304で抽出したエリアからTable[2]を作成して処理を終了する。
【0073】
図14は、本実施形態におけるワイピング処理を示したフローチャートである。図14で示される一連の処理は、記録装置1の処理部131のCPUが、記憶部132に記憶されたプログラムコードをデータメモリに展開し実行することにより行われる。あるいはまた、図14におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電子回路等のハードウェアで実現してもよい。なお、各処理の説明における記号「S」は、当該フローチャートにおけるステップであることを意味する。以下、図14のフローチャートを用いて本実施形態のワイピング処理を説明する。
【0074】
ワイピング処理が開始されると、CPUはS1401で、図13で説明したワイピングテーブルの作成処理を行う。その後、CPUはS1402で、はじめのテーブルとしてTable[i]にi=1をセットする。そしてCPUはS1403で、キャリッジ31の移動を開始する。ここでは、吐出位置POS1から回復位置POS3までキャリッジ31を移動する移動動作を開始する。その後の処理では、全ての記録ヘッドで並列に同様の処理が行われる。以下では記録ヘッド30aにおける処理を例として説明する。
【0075】
CPUはS1404-1で、テーブルに基づいてワイピングが必要なワイピングエリアでワイピング動作をONにする。その後、CPUはS1405-1で、ワイピングローラ12A-11によるワイピングを開始する。そして、CPUはS1406-1で、テーブルに基づいてワイピングが不要なワイピングエリアでワイピングをOFFにする。その後、CPUはS1407で、キャリッジ31の移動が終了したか否かを判定する。終了していなければ(No)、S1404-1に戻り、S1404-1からS1406-1までの処理を繰り返す。キャリッジ31の移動が終了していれば(Yes)、S1408に移行する。
【0076】
CPUはS1408で、次のテーブルがあるか否かを判定する。次のテーブルが有れば(Yes)S1409に移行して、次のテーブルが無ければ(No)ワイピング処理を終了する。S1409に移行した場合、CPUは、キャリッジ31の移動を開始する。ここでは、回復位置POS3から吐出位置POS1までキャリッジ31を移動する移動動作を開始する。その後、CPUはS1410で、iの値をインクリメントして、S1403まで戻り、S1403からS1410までをS1408で次のテーブルが無くなるまで繰り返す。S1408で次のテーブルが無くなってワイピング処理が終了する。
【0077】
図15は、記録ユニット3における記録動作の例を模式的に示した図である。記録装置1における記録動作では、転写胴41および圧胴42が回転されつつ、以下の状態ST1から状態ST6までの各工程が循環的に行われる。
【0078】
状態ST1では、転写体2上に付与ユニット5Aから反応液Lが付与される。転写体2上の反応液Lが付与された部位は転写胴41の回転に伴って移動する。反応液Lが付与された部位が記録ヘッド30の下に到達すると、状態ST2において、記録ヘッド30から転写体2にインクが吐出される。これによりインク像IMが形成される。その際、吐出されるインクが転写体2上の反応液Lと混ざり合うことで色材の凝集が促進される。吐出されるインクは、供給ユニット6の貯留部TKから記録ヘッド30に供給される。転写体2上のインク像IMは、転写体2の回転に伴って移動する。
【0079】
インク像IMが吸収ユニット5Bに到達すると状態ST3において、吸収ユニット5Bによりインク像IMから液体成分が吸収される。そして、インク像IMが加熱ユニット5Cに到達すると状態ST4において、加熱ユニット5Cによりインク像IMが加熱され、インク像IM中の樹脂が溶融し、インク像IMが造膜される。このようなインク像IMの形成に同期して、搬送装置1Bにより記録媒体Pが搬送される。
【0080】
その後、状態ST5において、インク像IMと記録媒体Pとが転写体2と圧胴42とのニップ部に到達し、記録媒体Pにインク像IMが転写され、記録物P’が製造される。ニップ部を通過すると、記録物P’に記録された画像が検査ユニット9Aにより撮影され、記録画像が検査される。記録物P’は、搬送装置1Bにより回収ユニット8dへ搬送される。
【0081】
転写体2上のインク像IMが形成されていた部分が清掃ユニット5Dに到達すると、状態ST6において、清掃ユニット5Dにより清掃が行われる。清掃後、転写体2は一回転したことになり、同様の手順で記録媒体Pへのインク像の転写が繰り返し行われる。
【0082】
なお、上記の説明では理解を容易にするために、転写体2の一回転で一枚の記録媒体Pへのインク像IMの転写が一回行われるように説明したが、転写体2の一回転で複数枚の記録媒体Pへのインク像IMの転写が連続的に行うことができる。
【0083】
図16は、各記録ヘッド30のメンテナンス動作の例を示した図である。記録動作を継続すると、吐出口周囲へのゴミやインクの付着等により、吐出状態が悪くなることがある。そこで、記録ヘッドの吐出状態を回復すべく、各記録ヘッド30に対するメンテナンス動作が、以下の状態ST11から状態ST13までの工程によって行われる。
【0084】
状態ST11は、吐出位置POS1に記録ユニット3が位置している状態を示している。状態ST12は、記録ユニット3が予備回復位置POS2を通過している状態を示し、通過中に回復ユニット12により記録ユニット3の各記録ヘッド30の吐出性能を回復する処理が実行される。ここでの回復処理は、例えば、記録に寄与しないインクを吐出する予備吐出等の回復処理である。その後、状態ST13において、記録ユニット3が回復位置POS3に位置した状態で、回復ユニット12により各記録ヘッド30の吐出性能を回復する処理が実行される。ここでの回復処理は、例えば、インク吐出面をキャップで覆い吸引する吸引回復等の処理である。
【0085】
なお、状態ST12、状態ST13で説明した回復ユニット12による回復処理は、前述したワイピング処理とは別の動作として行ってもよいし、一連の回復処理として順次行ってもよい。また、状態ST12、状態ST13で説明した回復ユニット12による回復処理およびワイピング処理は、その順序、組み合わせにかかわらず必要に応じて適宜行ってよい。
【0086】
このように、記録ヘッドの吐出面におけるワイピングが必要な領域で、昇降ユニットを上昇させてワイピングを行う。これによって、ワイピングによる部品の消耗の増加や、クリーニングに用いる洗浄液の無駄な消費を抑制することができる記録装置、記録装置の制御方法およびプログラムを提供することができる。
【0087】
(他の実施形態)
上記実施形態では、記録ヘッド30がフルライン方式の記録ヘッドを例に説明したが、記録ヘッド30はフルラインヘッドでなくてもよい。記録ヘッド30を着脱自在に搭載するキャリッジ31を矢印Y方向(図1参照)に移動させながら記録ヘッド30からインクを吐出してインク像を形成するシリアル方式であってもよい。
【0088】
また、記録媒体Pの搬送機構は、ローラー対によって記録媒体Pを挟持して搬送する方式等やその他の方式であってもよい。ローラー対によって記録媒体Pを搬送する方式等においては、記録媒体Pとしてロールシートを用いてもよく、転写後にロールシートをカットして記録物P’を製造してもよい。
【0089】
上記実施形態では、転写体2を転写胴41の外周面に設けたが、転写体2を無端の帯状に形成し、循環的に走行させる方式等、他の方式であってもよい。
【0090】
また、本発明は上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 記録装置
2 転写体
3 記録ユニット
4 転写ユニット
6 供給ユニット
12 回復ユニット
12A-11 ワイピングローラ
30 記録ヘッド
31 キャリッジ
132 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16