(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021466
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】モノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体、繊維系断熱材、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20220127BHJP
C08J 9/06 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/06 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125039
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(74)【代理人】
【識別番号】100097205
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 正樹
(72)【発明者】
【氏名】石黒 良知
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀哉
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA64
4F074AA76
4F074AC34
4F074AE04
4F074BA03
4F074BA04
4F074BA08
4F074BA13
4F074BA14
4F074BA16
4F074BA18
4F074BB08
4F074CB37
4F074CB43
4F074CC04Y
4F074CC06Y
4F074CC10X
4F074CC27Y
4F074CC29Y
4F074CD20
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA07
(57)【要約】
【課題】高い空隙率と低密度を実現して断熱材として有効に利用することができるモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体、繊維系断熱材、及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体は、連続した網目状骨格を有して該網目状骨格により空隙が形成されているエポキシ系樹脂を有し、前記エポキシ系樹脂は、水銀圧入法による測定での平均空隙率が80%以上及び平均空隙径が0.01μm以上10μm以下であり、寸法法による測定での密度が200kg/m
3以下であり、ヒートフローメーター法による測定での熱伝導率が0.035W/mKであり、エポキシモノリスの重合反応の際に添加させる添加剤としてホウ酸が適している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した網目状骨格を有して該網目状骨格により空隙が形成されているエポキシ系樹脂を有し、
前記エポキシ系樹脂は、水銀圧入法による測定での平均空隙率が80%以上及び平均空隙径が0.01μm以上10μm以下であり、寸法法による測定での密度が200kg/m3以下であり、ヒートフローメーター法による測定での熱伝導率が0.035W/mKであることを特徴とするモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体。
【請求項2】
前記エポキシ系樹脂中に炭酸ナトリウム又はポリジチオフェニルエーテル又はポリチオフェニルベンゼンスルホニルエーテル又はテトラメチルコハク酸ニトリル又はヘキサメチレンテトラミン又はビウレア又はシアヌール酸又はウラゾール又は酸化ホウ素が分散されていることを特徴とする請求項1に記載のモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体。
【請求項3】
前記エポキシ系樹脂は、
【化1】
又は
【化2】
、及び
【化3】
又は
【化4】
の構造式からなる官能基を有することを特徴とする請求項2に記載のモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体。
【請求項4】
前記エポキシ系樹脂中に輻射熱伝導抑制剤が分散されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体と、グラスウールとが混合していることを特徴とする繊維系断熱材。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体の製造方法であって、
空孔形成剤溶液にエポキシモノマー、添加剤、及びアミン硬化剤を溶解させて重合反応液を形成する溶解工程と、
前記重合反応液を加熱し重合反応を促進させて重合物を形成する重合工程と、
前記重合物を有機溶媒に浸漬して前記空孔形成剤を除去する除去工程と、
該除去工程の後、前記重合物を乾燥させる乾燥工程とを備え、
前記添加剤は、炭酸水素ナトリウム又は4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)又は炭酸アンモニウム又はアゾビスイソブチロニトリル又はジニトロソペンタメチレンテトラミン又はアゾジカルボンアミド又はホウ酸であることを特徴とするモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体の製造方法。
【請求項7】
前記溶解工程の後であって前記重合工程の前に、前記重合反応液にグラスウールを浸漬する浸漬工程をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載のモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体の製造方法。
【請求項8】
前記溶解工程の後であって前記重合工程の前に、グラスウールに対して前記重合反応液を噴霧する噴霧工程をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載のモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性の特に優れたモノリス(網目状の骨格がつながった)構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体、繊維系断熱材、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内部に小さな空隙を有する多孔質材料(例えば多孔質セラミックやシリカエアロゲル等)は断熱材として広く応用されている。この多孔質材料が断熱材として応用されているのは、内部の小さな空隙によってガス熱伝導率を可能な限り抑えることに加え、低密度に仕上げることによって固体熱伝導率も抑えていることによる。一般的には、これらの熱伝導率の抑制により、多孔質材料は断熱材として用いることができると知られている。しかしこれらの多孔質材料は、一般的な住宅用断熱材(グラスウールやウレタン等の発泡材料)と比較すると非常に高価であり、安易に使用できるものではない。一方で、多孔質体として、モノリス構造のエポキシ系樹脂(エポキシモノリス)が知られている(例えば特許文献1参照)。このエポキシモノリスはエポキシモノマーをベースとした多孔質体であり、内部に小さな空隙を多数有するとともに、比較的安価に入手できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エポキシモノリスは以下の理由で、断熱材として利用されていない。まずは空隙率が80%以上のものを安定して形成することが困難であることに加え、密度が断熱材としてはかなり高いことが理由である。空隙率については空孔形成剤を添加して向上させてガス熱伝導率を低減させることができるが、やはり密度が高いため固体熱伝導率の観点から断熱材として応用するまでには至っていない。すなわち、エポキシモノリスはもともと密度が高く、空隙率を向上させたとしても残っている格子の密度が高いため、やはり固体熱伝導により熱が伝わりやすい。仮に、低密度に仕上げたとしても、連続した骨格(ポリマー)を形成しているためフォノン伝導(固体の結晶格子の振動によって発生する伝熱)による熱伝導率が大きくなり、やはり十分な断熱性能を得ることはできない。このフォノン伝導も固体の熱伝導としてはかなり大きな問題となっている。
【0005】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、高い空隙率と低密度を実現して断熱材として有効に利用することができるモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体、繊維系断熱材、及びこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明では、連続した網目状骨格を有して該網目状骨格により空隙が形成されているエポキシ系樹脂を有し、前記エポキシ系樹脂は、水銀圧入法による測定での平均空隙率が80%以上及び平均空隙径が0.01μm以上10μm以下であり、寸法法による測定での密度が200kg/m3以下であり、ヒートフローメーター法による測定での熱伝導率が0.035W/mKであることを特徴とするモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体を提供する。
【0007】
好ましくは、前記エポキシ系樹脂中に炭酸ナトリウム又はポリジチオフェニルエーテル又はポリチオフェニルベンゼンスルホニルエーテル又はテトラメチルコハク酸ニトリル又はヘキサメチレンテトラミン又はビウレア又はシアヌール酸又はウラゾール又は酸化ホウ素が分散されている。
【0008】
好ましくは、前記エポキシ系樹脂は、所定の構造式からなる官能基を有する。
【0009】
好ましくは、前記エポキシ系樹脂中に輻射熱伝導抑制剤が分散されている。
【0010】
また、本発明では、モノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体と、グラスウールとが混合していることを特徴とする繊維系断熱材を提供する。
【0011】
さらに、本発明では、モノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体の製造方法であって、空孔形成剤溶液にエポキシモノマー、添加剤、及びアミン硬化剤を溶解させて重合反応液を形成する溶解工程と、前記重合反応液を加熱し重合反応を促進させて重合物を形成する重合工程と、前記重合物を有機溶媒に浸漬して前記空孔形成剤を除去する除去工程と、該除去工程の後、前記重合物を乾燥させる乾燥工程とを備え、前記添加剤は、炭酸水素ナトリウム又は4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)又は炭酸アンモニウム又はアゾビスイソブチロニトリル又はジニトロソペンタメチレンテトラミン又はアゾジカルボンアミド又はホウ酸であることを特徴とするモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体の製造方法を提供する。
【0012】
好ましくは、前記溶解工程の後であって前記重合工程の前に、前記重合反応液にグラスウールを浸漬する浸漬工程をさらに備えている。
【0013】
好ましくは、前記溶解工程の後であって前記重合工程の前に、グラスウールに対して前記重合反応液を噴霧する噴霧工程をさらに備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エポキシ系樹脂が網目状骨格で形成されているので、内部に空隙が形成されている。そしてこの空隙の水銀圧入法による測定での平均空隙率が80%以上であり、平均空隙径が0.01μm以上10μm以下であるため、十分にガス熱伝導率を低減することができる。さらに、このエポキシ系樹脂は寸法法による測定での密度が200kg/m3以下であるため、固体熱伝導率も十分に低減できている。このため、ヒートフローメーター法による測定での熱伝導率が0.035W/mKとなり、安価に入手できるモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体として、十分に断熱材として利用できる特性を備えている。
【0015】
また、エポキシ系樹脂(モノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体)中にポリジチオフェニルエーテル又はポリチオフェニルベンゼンスルホニルエーテル又はテトラメチルコハク酸ニトリル又はヘキサメチレンテトラミン又はビウレア又はシアヌール酸又はウラゾール又は酸化ホウ素が分散していて、これらは重合反応における添加剤の残渣物であるため、これらがあることで所望の低熱伝導率を得ることができる。すなわち、添加剤が重合の際に脱水縮合を起こすので、水分が揮発する際に発泡しながらエポキシモノマーとアミン硬化剤の重合が進行されることで、発泡による体積増加が促進されて低密度化を実現できる。
【0016】
また、エポキシ系樹脂に特定の官能基があることで、これらは重合反応における添加剤にホウ酸が含まれていることが示される。このホウ酸との反応によって特定の官能基が形成されることで、エポキシ系樹脂のポリマー架橋が広がりにくくなる。このため、結合を伝って伝達されるフォノン伝導による熱伝導も遮断することが実現される。
【0017】
また、エポキシ系樹脂中に輻射熱伝導抑制剤が分散していることで、輻射伝熱も抑えることができ、さらにモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体全体としての熱伝導率の低減を図ることができる。
【0018】
また本発明では、モノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体とグラスウールとを混合させることで、エポキシモノリスを主成分とすれば、グラスウールによる強度向上を図ることができる。グラスウールを主成分とすれば、断熱性能の向上を図ることができる。
【0019】
さらに本発明では、エポキシモノリスの製造方法として、所定の添加剤を重合反応液形成の際に添加する。これにより、この添加剤は重合工程にて発泡するので、エポキシモノリスの体積を増加させて密度を低減させることができる。これにより、固体熱伝導率を低減させることができる。
【0020】
また、浸漬工程を設けることで、エポキシモノリスを主成分とした繊維系断熱材を得ることができる。
【0021】
また、噴霧工程を設けることで、グラスウールを主成分とした繊維系断熱材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係るモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体の概略写真である。
【
図2】本発明に係るモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体及び繊維系断熱材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】実施例1~8、及び比較例の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示すように、本発明に係るモノリス構造のエポキシ系樹脂(エポキシモノリス)からなる多孔質体は、連続した網目状骨格を有している。この網目状骨格により空隙が形成されていて、多孔質体となっている。すなわち、多孔質体は柱状の三次元分岐構造を有しているともいえる。この多孔質体は、粒子により形成されているのではなく、連続した骨格により形成されている。換言すれば、非粒子凝集型の多孔質体ともいえる。なお、エポキシモノリスは多孔質体(多孔体)を含む概念であるため、エポキシモノリスと多孔質体を同義で取り扱ってもよい。連続した網目状骨格を有して該網目状骨格により空隙が形成されているエポキシ系樹脂をエポキシモノリス又は多孔質体と称してもよい。
【0024】
この多孔質体は、
図2に示すように、以下のようにして製造される。まずは溶解工程を行う(ステップS1)。この溶解工程は、常温にて空孔形成剤溶液にエポキシモノマー、添加剤、及びアミン硬化剤を溶解させて重合反応液を形成する工程である。具体的には、空孔形成剤溶液にエポキシモノマー、添加剤を溶解させて、その後にアミン硬化剤を溶解させる。空孔形成剤溶液は例えばポリエチレングリコール(分子量200g/mol相当)である。
【化5】
【0025】
エポキシモノマーは例えば2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパンである。
【化6】
【0026】
アミン硬化剤は例えば4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)である。
【化7】
【0027】
通常、エポキシモノリスを生成する際は、これらエポキシモノマー、アミン硬化剤、空孔形成剤の3成分のみで重合反応を行うが、本発明ではここに添加剤が加わる。添加剤は、例えば炭酸水素ナトリウム又は4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)又は炭酸アンモニウム又はアゾビスイソブチロニトリル又はジニトロソペンタメチレンテトラミン又はアゾジカルボンアミド又はホウ酸である。
【0028】
次に、重合工程を行う(ステップS2)。この重合工程は、溶解工程にて形成された重合反応液を例えばステンレス製の容器に流し込み、加熱(130℃~140℃、約15分)し重合反応を促進させて重合物を形成する工程である。重合物は室温にて取り出す。このとき、添加剤は原則として重合反応に寄与せず(添加剤がホウ酸の場合を除く)、添加剤は脱水縮合を起こし、水分が揮発する際に発泡する。この発泡と同時にエポキシモノマーとアミン硬化剤の重合が進行(エポキシモノマーのグリシジル基とアミン硬化剤のアミノ基とが反応して連続した構造(架橋構造)が形成される)されることで、発泡による体積増加が促進されて低密度化を実現できるようになる。換言すれば、エポキシモノリスの体積を増加させて密度を低減させることができる。これにより、固体熱伝導率を低減させることができる。なお、脱水縮合された添加剤は残渣物として、重合体中に分散して存在する。詳述すると、添加剤が炭酸水素ナトリウムの場合は残渣物は炭酸ナトリウムであり、添加剤が4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)の場合は残渣物はポリジチオフェニルエーテル又はポリチオフェニルベンゼンスルホニルエーテルであり、添加剤がアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の場合は残渣物はテトラメチルコハク酸ニトリルであり、添加剤がジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)の場合は残渣物はヘキサメチレンテトラミンであり、添加剤がアゾジカルボンアミド(ADCA)の場合は残渣物はビウレア又はシアヌール酸又はウラゾールであり、添加剤がホウ酸の場合は残渣物は酸化ホウ素である。なお、添加剤が炭酸アンモニウムの場合は全てアンモニア、水、二酸化炭素として揮発するため、残渣物は存在しない。
【0029】
添加剤がホウ酸の場合は、上述した発泡も起こるが、それ以外にエポキシモノマーの官能基やアミノ基とも反応する。ホウ酸(B(OH
3))は、酸化される過程でメタホウ酸(HBO
2)になり、さらに酸化ホウ素(B
2O
3)となる。
【化8】
【0030】
【0031】
重合工程中、この反応に寄与するのはホウ酸及びメタホウ酸である。ホウ酸とエポキシモノマーのグリシジル基とが反応すると以下のようになる。
【化10】
【0032】
メタホウ酸とエポキシモノマーのグリシジル基とが反応すると以下のようになる
【化11】
【0033】
ホウ酸とアミン硬化剤のアミノ基とが反応すると以下のようになる。
【化12】
【0034】
メタホウ酸とアミン硬化剤のアミノ基とが反応すると以下のようになる。
【化13】
【0035】
これらの反応により、上記4つの官能基がエポキシモノリスには存在することになる。このような構造式からなる官能基をモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体が有することで、エポキシ系樹脂のポリマー架橋が広がりにくくなる。つまりポリマー鎖がこれらの官能基で遮断される。このため、結合を伝って伝達されるフォノン伝導による熱伝導も遮断することが実現される。
【0036】
次に、除去工程を行う(ステップS3)。この除去工程は、重合物を有機溶媒に浸漬して空孔形成剤を除去する工程である。上述した空孔形成剤は、重合反応には関与しない。空孔形成剤そのものとして重合物内に取り込まれている。この状態の重合物を有機溶剤(テトラヒドロフラン(THF)やアセトン等)に12時間程度浸す(撹拌してもよい)と、空孔形成剤が溶解される。この溶解して空孔形成剤が除去された部分が重合物の空隙、すなわち
図1に示すような多孔質体の三次元の網目状構造を形成するための空隙となる。そして、乾燥工程を行う(ステップS4)。この乾燥工程は、重合物を乾燥させる工程である。乾燥は約50℃で約二時間行われ、ここで除去工程での有機溶媒が除去され、これによりエポキシモノリスが製造される。
【0037】
このようにして製造されたモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体について、添加剤毎に平均空隙径、空隙率、密度(かさ密度)、熱伝導率を測定した。なお、平均空隙径と空隙率は水銀圧入法にて、密度は寸法法にて、熱伝導率はヒートフローメーター法にて測定した。
図3に示すように、実施例を1~8まで製造した。実施例1~8の共通事項として、エポキシモノマーは2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパンを80g、アミン硬化剤は4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)を25g、空孔形成剤はポリエチレングリコール200を265gとした。実施例1~3は添加剤がホウ酸であり、ホウ酸の添加量をそれぞれ変更させた(実施例1は10g、実施例2は20g、実施例3は30g)。実施例4の添加剤は炭酸水素ナトリウムとし、実施例5の添加剤は4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)とし、実施例6の添加剤はアゾビスイソブチロニトリルとした。また、実施例7の添加剤はジニトロソペンタメチレンテトラミンとし、実施例8の添加剤はアゾジカルボンアミドとした。実施例4~8の添加量は全て30gとした。また、比較例として、添加剤がないものを用いた。
【0038】
その結果は
図4に示すとおりである。まず、添加剤が存在しない比較例よりも、添加剤が存在する実施例1~8の方が、明らかに平均空隙径、空隙率は向上している。そして、かさ密度も低減していることから、ガス熱伝導率や固体熱伝導率が低減することがこの数値を見れば明らかとなった。その証拠に、熱伝導率の値も実施例1~8は比較例に比べて格段に低減されている。つまり、ある程度条件を変更する等して、本発明に係るモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体において、この多孔質体を形成するエポキシ系樹脂は、水銀圧入法による測定での平均空隙率が80%以上及び平均空隙径が0.01μm以上10μm以下であり、寸法法による測定での密度が200kg/m
3以下であり、ヒートフローメーター法による測定での熱伝導率が0.035W/mKであるといえる。これにより、固体熱伝導率も十分に低減できている。このため、安価に入手できるモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体として、十分に断熱材として利用できる特性を備えている。これは、エポキシ系樹脂(多孔質体)中に添加剤の残渣物としての炭酸ナトリウム又はポリジチオフェニルエーテル又はポリチオフェニルベンゼンスルホニルエーテル又はテトラメチルコハク酸ニトリル又はヘキサメチレンテトラミン又はビウレア又はシアヌール酸又はウラゾール又は酸化ホウ素が分散されていればこのような特性を得ているということになる。
【0039】
ここで、添加剤をホウ酸とした場合の実施例1~3は、その他の添加剤の実施例4~8よりも空隙率が低かったり、かさ密度が高かったりする場合があっても、熱伝導率としては他の実施例よりも良好な結果となっている。これは、上述したホウ酸による重合反応でのエポキシモノマー及びアミン硬化剤との反応によるフォノン伝導による熱伝導も低減できているからである。このように、多孔質体の固体としての密度を低減してガス熱伝導率や固体熱伝導率を低減させる作用の他に、フォノン伝導による熱伝導率も低減させることが添加剤をホウ酸にすれば実現できる。これは、非常に低コストで大きな結果を得ることにつながっている。
【0040】
ここで、エポキシ系樹脂(多孔質体)中に輻射熱伝導抑制剤を分散させてもよい。エポキシ系樹脂中に輻射熱伝導抑制剤が分散していることで、輻射伝熱も抑えることができ、さらにモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体全体としての熱伝導率の低減を図ることができる。輻射熱伝導抑制剤としては、例えば金属粒子(アルミニウム粒子、銀粒子、金粒子等)、無機粒子(グラファイト、カーボンブラック、炭化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ、チタン酸カリウム等)を利用できる。この輻射熱伝導抑制剤により、外光を反射(散乱)するか、又は赤外光を一旦吸収してその吸収による温度上昇分を再放射する際に等方的に放射して赤外光の芳香性を乱すことで、輻射伝熱を抑えることができる。
【0041】
また、本発明に係るモノリス構造のエポキシ系樹脂からなる多孔質体はグラスウールと混合させて繊維系断熱材としてもよい。このとき、エポキシモノリスを主成分とすれば、グラスウールによる強度向上を図ることができて取り扱い性が向上し、グラスウールを主成分とすれば、断熱性能の向上を図ることができる。この繊維系断熱材の製造方法としては、
図2に示すように、溶解工程(ステップS1)の後であって重合工程(ステップS2)の前に、重合反応液にグラスウールを浸漬する浸漬工程(ステップS5)をさらに備えればよい。この浸漬工程では、エポキシモノリス自体にグラスウールが取り込まれたり、空隙部分にグラスウールが入ったりして部分的にグラスウールとエポキシモノリスとが接触したような構造を得ることができる。浸漬工程を経たものはエポキシモノリスが主成分となる。
【0042】
一方で、浸漬工程の代わりに、溶解工程(ステップS1)の後であって重合工程(ステップS2)の前に、グラスウールに対して重合反応液を噴霧する噴霧工程を行ってもよい。この噴霧工程では、従来のグラスウールに用いていた熱硬化性樹脂の代わりにエポキシモノリスが付くことになるので、グラスウールとした考えたときに、熱伝導率の低減を図ることができる。