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特開2022-21838シックナーのフィードウェル、及び、シックナーの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021838
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】シックナーのフィードウェル、及び、シックナーの運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/24 20060101AFI20220127BHJP
   B01F 23/50 20220101ALI20220127BHJP
   B01F 25/10 20220101ALI20220127BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
B01D21/24 D
B01F3/12
B01F5/00 G
C22B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125680
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山下 秀幸
【テーマコード(参考)】
4G035
4K001
【Fターム(参考)】
4G035AB44
4G035AC44
4G035AE13
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA02
4K001DB03
(57)【要約】
【課題】動力が供給されて作動する混合装置に頼ることなく、スラリーと添加剤との混合を安定的に十分に促進することができるシックナーのフィードウェルを提供すること。
【解決手段】円周状の側壁内周面110からフィードウェル1の中心方向に向けて所定幅で突出する態様で、側壁内周面110に連続して設置されている円環状の棚板12と、棚板12よりも上方に配置され、スラリーが棚板12の上面120を流れていく旋回流となる方向にスラリー供給口130が向けられた、スラリー供給管13と、スラリー供給口130の近傍におけるスラリー流体の垂直断面領域SDの部分領域であって、側壁内周面110寄りの側端の最下域に近接する領域である第1の合流領域D1において、添加剤をスラリーの流れに合流させることができる位置に添加剤供給口140が配置されている添加剤供給管14と、を備える、フィードウェル1とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シックナーのフィードウェルであって、
円周状の側壁内周面から前記フィードウェルの中心方向に向けて所定幅で突出する態様で、前記側壁内周面に連続して設置されている円環状の棚板と、
前記棚板よりも上方に配置され、スラリーが前記棚板の上面を流れていく旋回流となる方向にスラリー供給口が向けられた、スラリー供給管と、
前記スラリー供給口の近傍におけるスラリー流体の垂直断面領域の部分領域であって、前記側壁内周面寄りの側端の最下域に近接する領域である第1の合流領域において、添加剤を前記スラリーの流れに合流させることができる位置に添加剤供給口が配置されている添加剤供給管と、
を備える、フィードウェル。
【請求項2】
シックナーのフィードウェルであって、
円周状の側壁内周面から前記フィードウェルの中心方向に向けて所定幅で突出する態様で、前記側壁内周面に連続して設置されている円環状の棚板と、
前記棚板よりも上方に配置され、スラリーが前記棚板の上面を流れていく旋回流となる方向にスラリー供給口が向けられた、スラリー供給管と、
前記スラリー供給口の近傍におけるスラリー流体の垂直断面領域の部分領域であって、前記側壁内周面寄りの側端の最下域に近接する領域である第1の合流領域において、添加剤を前記スラリーの流れに合流させることができる位置に、第1の添加剤供給口が配置されていて、
前記スラリー流体の垂直断面領域の他の部分領域であって、前記中心方向寄りの側端の最上域に近接する領域である第2の合流領域において、前記添加剤を前記スラリーの流れに合流させることができる位置に、第2の添加剤供給口が配置されている、添加剤供給管と、
を備える、フィードウェル。
【請求項3】
請求項2に記載のフィードウェルを備えるシックナーの運転方法であって、
前記フィードウェルに投入される前記添加剤のうちの80質量%以上の添加剤を、前記第1の合流領域において、前記スラリーの流れに合流させる、
シックナーの運転方法。
【請求項4】
請求項2に記載のフィードウェルを備えるシックナーの運転方法であって、
前記第1の合流領域において、前記スラリーの流れに合流させる添加剤の密度が、前記スラリーの密度よりも小さいとき、
前記第1の合流領域においてスラリーの流れと合流させる添加剤と、前記第2の合流領域においてスラリーの流れと合流させる添加剤との投入量の質量比を、前記添加剤と前記スラリーの密度比以上とする、
シックナーの運転方法。
【請求項5】
請求項4に記載のシックナーの運転方法であって、
前記添加剤のスラリーに対する密度比が、1/4未満であるとき、
前記投入量の質量比を1/4以上とする、
シックナーの運転方法。
【請求項6】
前記スラリーは、非鉄金属を含有する鉱石を含有するスラリーであって、
請求項1又は2に記載のフィードウェルを備えるシックナーを用いた固液分離処理が行われる、
非鉄金属の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーを沈降濃縮するシックナーのフィードウェル、及び、フィードウェルを備えるシックナーの運転方法に関する。更に詳しくは、本発明は、供給されるスラリーと凝集剤等の各種添加剤との混合を促進するためにシックナーの上部に設けられている円筒形状のフィードウェルであって、凝集剤よりもスラリーの密度が相対的に大きい場合においても、スラリーと凝集剤とが十分に混合されるフィードウェル、及び、このフィードウェルを備えるシックナーの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属を含有する鉱石等から形成されるスラリーを沈降濃縮して回収する手段として、シックナーと称される装置が広く用いられている。このシックナーは、通常、スラリーが供給される円筒形状のフィードウェルと、その後にスラリーを沈降濃縮させる沈降濃縮槽によって構成されている。
【0003】
ここで、上記のフィードウェルには、スラリーと併せて、例えば、スラリーの沈降性を向上させるための凝集剤等、各種の添加剤が添加される。そして、スラリーとそれらの添加剤との混合は、主にフィードウェル内で進行する。一例として、ニッケル酸化鉱石から、ニッケルコバルト混合硫化物を得るための高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬法において、鉱石スラリーがシックナーに投入される際には、鉱石スラリーと、凝集剤及び希釈水等とが、先ず、シックナー内の上部に設けられたフィードウェルに供給され、当該フィードウェル内において、上記の鉱石スラリーと凝集剤等が十分に混合される。
【0004】
しかしながら、フィードウェル内で、スラリーと凝集剤との混合が不十分である場合には、沈降濃縮槽内での沈降濃縮が十分に進行しなくなる。この場合、例えば、上記のニッケルの湿式製錬法においては、更に下流側の工程における処理結果にばらつきが生じ、最終製品の生産量や品質が不安定となる。このような事態を回避するためには、シックナーのフィードウェル内における、スラリーと添加剤との混合を常に十分に進行させる必要がある。このことは、ニッケル精錬工場を初め、多くの工業設備において極めて重要な要請となっている。
【0005】
フィードウェル内での添加剤とスラリーとの混合を促進させるために、例えば、排出口からの水流が攪拌筒に沿って略円を画くように、何れも排出口を同一方向に向けたパイプミキサーを複数個備え、パイプミキサー内で懸濁物質等を攪拌し、且つ、混合凝集も行うシックナーが存在する(特許文献1参照)。しかしながら、このようなシックナーには、パイプミキサーがフィードウェルと比較して内部での詰まりが発生しやすいことに起因して、時間当たりの処理量を減らさざるを得ないという問題があった。
【0006】
又、目的を同じくする物として、スラリーがフィードウェルの内壁に沿った旋回流になるように、スラリー供給管の出口の直下部に棚板状に整流板を設けたフィードウェルも開発されている(特許文献2参照)。このようなフィードウェルを備えるシックナーによれば、フィードウェル内にスラリーが滞留する時間が増加してスラリーと凝集剤等の添加剤との混合が進みやすくなる。しかしながら、特許文献1のシックナーとは異なり、動力が供給されて作動する混合装置を備えないタイプのシックナーにおいては、スラリーと添加剤との混合が依然として不充分となる場合が多くあり、更なる改善策が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭51-51571号公報
【特許文献2】特開2010-201324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記状況に鑑み、本発明は、例えば、特許文献1のシックナーのように、ミキサー等の動力が供給されて作動する混合装置に頼ることなく、スラリーと添加剤との混合を安定的に十分に促進することができるシックナーのフィードウェルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、フィードウェルに添加剤を供給する添加剤供給口の位置を、スラリー流体の垂直断面領域に対する独自の相対的位置に特定することによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) シックナーのフィードウェルであって、円周状の側壁内周面から前記フィードウェルの中心方向に向けて所定幅で突出する態様で、前記側壁内周面に連続して設置されている円環状の棚板と、前記棚板よりも上方に配置され、スラリーが前記棚板の上面を流れていく旋回流となる方向にスラリー供給口が向けられた、スラリー供給管と、前記スラリー供給口の近傍におけるスラリー流体の垂直断面領域の部分領域であって、前記側壁内周面寄りの側端の最下域に近接する領域である第1の合流領域において、添加剤を前記スラリーの流れに合流させることができる位置に添加剤供給口が配置されている添加剤供給管と、を備える、フィードウェル。
【0011】
(1)のフィードウェルを、シックナーの沈降濃縮槽の上方に設置することによって、ミキサー等の動力が供給されて作動する混合装置によらずに、シックナーに供給されるスラリーと添加剤との混合を安定的に十分に促進することができる。
【0012】
(2) シックナーのフィードウェルであって、円周状の側壁内周面から前記フィードウェルの中心方向に向けて所定幅で突出する態様で、前記側壁内周面に連続して設置されている円環状の棚板と、前記棚板よりも上方に配置され、スラリーが前記棚板の上面を流れていく旋回流となる方向にスラリー供給口が向けられた、スラリー供給管と、前記スラリー供給口の近傍におけるスラリー流体の垂直断面領域の部分領域であって、前記側壁内周面寄りの側端の最下域に近接する領域である第1の合流領域において、添加剤を前記スラリーの流れに合流させることができる位置に、第1の添加剤供給口が配置されていて、前記スラリー流体の垂直断面領域の他の部分領域であって、前記中心方向寄りの側端の最上域に近接する領域である第2の合流領域において、前記添加剤を前記スラリーの流れに合流させることができる位置に、第2の添加剤供給口が配置されている、添加剤供給管を備える、フィードウェル。
【0013】
(2)のフィードウェルを、シックナーの沈降濃縮槽の上方に設置することによって、ミキサー等の動力が供給されて作動する混合装置によらずに、シックナーに供給されるスラリーと添加剤との混合を安定的に十分に促進することができる。又、例えば、フィードウェルの内壁に水平方向での攪拌を促進するための突起構造があって、これにより水平方向における攪拌が不足する場合においても、上記のスラリーと添加剤との混合を十分に促進することができる。
【0014】
(3) (2)に記載のフィードウェルを備えるシックナーの運転方法であって、前記フィードウェルに投入される前記添加剤のうちの80質量%以上の添加剤を、前記第1の合流領域において、前記スラリーの流れに合流させる、シックナーの運転方法。
【0015】
(3)のシックナーの運転方法によれば、(2)のフィードウェルの奏する上記効果を更に良好な態様で発現させて、シックナーに供給されるスラリーと添加剤との混合をより安定的に促進することができる。
【0016】
(4) (2)に記載のフィードウェルを備えるシックナーの運転方法であって、
前記第1の合流領域において、前記スラリーの流れに合流させる添加剤の密度が、前記スラリーの密度よりも小さいとき、前記第1の合流領域においてスラリーの流れと合流させる添加剤と、前記第2の合流領域においてスラリーの流れと合流させる添加剤との投入量の質量比を、前記添加剤と前記スラリーの密度比以上とする、シックナーの運転方法。
【0017】
(4)のシックナーの運転方法によれば、シックナーに供給されるスラリーと添加剤との密度差がある場合であっても、(2)のフィードウェルの奏する上記効果を十分に発現させて、シックナーに供給されるスラリーと添加剤との混合を安定的に十分に促進することができる。
【0018】
(5) (4)に記載のシックナーの運転方法であって、前記添加剤のスラリーに対する密度比が、1/4未満であるとき、前記投入量の質量比を1/4以上とする、シックナーの運転方法。
【0019】
(5)のシックナーの運転方法によれば、シックナーに供給されるスラリーと添加剤との密度差が大きく、特に混合が困難となる場合であっても、(2)のフィードウェルの奏する上記効果を十分に発現させて、シックナーに供給されるスラリーと添加剤との混合を安定的に十分に促進することができる。
【0020】
(6) 前記スラリーは、非鉄金属を含有する鉱石を含有するスラリーであって、(1)又は(2)に記載のフィードウェルを備えるシックナーを用いた固液分離処理が行われる、非鉄金属の湿式製錬方法。
【0021】
(6)の非鉄金属の湿式製錬方法によれば、シックナーで固液分離処理を行う際の沈降分離度の安定性を高めて、当該非鉄金属製錬における最終製品の生産量や品質の安定性を、より向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、動力が供給されて作動する混合装置に頼ることなく、スラリーと添加剤との混合を安定的に十分に促進することができるシックナーのフィードウェルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のフィードウェルを備えるシックナーの構造を模式的に示す垂直断面図である。
図2】本発明のフィードウェルの構造を模式的示す垂直断面図である。
図3図2のフィードウェルの構造を模式的に示す平面図である。
図4】本発明のシックナーの運転方法における、スラリー流体の垂直断面領域と、スラリーと添加剤との合流領域の位置関係の説明に供する図である。
図5】本発明のシックナーを用いて実施することができる非鉄金属の湿式製錬方法の一例であるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の流れを示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0025】
<シックナー>
図1は、本発明に係るシックナーの一例を示す。このシックナー10には、所望の濃度のスラリーを排出するスラリー取出し口21、沈降濃縮槽2でのスラリーの沈降濃縮を促進し一様な堆積状態を確保するためのレーキ22とその駆動のためのレーキ回転軸23、とが備えられている。そして、本発明の実施形態の一例であるフィードウェル1は、このシックナー10において、図1に示す通り、沈降濃縮槽2内の上澄み液部分の上部であって、レーキ回転軸23と同心円上となる位置に、垂直に設置されている。
【0026】
<フィードウェル>
フィードウェル1の外形は略円筒形状であって、シックナー10に投入されるスラリーとその他の添加剤とが沈降濃縮槽2に投入される前に、両者を十分に混合することを主たる目的として設置される装置である。
【0027】
フィードウェル1は、棚板12、棚板12の上面(本明細書において「棚板上面120」とも称する)120にスラリーを吐出して投入するスラリー供給管13、及び、主には凝集剤等の各種の添加剤を投入する添加剤供給管14を備える。又、これらの他に、必要に応じて、更に、希釈水供給管15を備える。
【0028】
又、フィードウェル1の下部位置には、軸側が高く円周部側が低いコーンのような形状からなり、フィードウェル1からスラリーを排出するための分散コーン16が備えられていることが好ましい。尚、シックナー10への流出口の形状や数は特に限定されないが、上記円周部の最下部に均等に設置され、且つ、それらの流出口が円周方向に占める角度が相対的に大きいことが好ましい。流出口でない部分が円周方向に占める角度は構造的にデッドスペースとなるからである。
【0029】
(棚板)
図2、3に示す通り、略円筒形状のフィードウェル1の円周状の側壁11の内面である側壁内周面110には、棚板12が設けられている。棚板12は、側壁内周面110から円筒形状のフィードウェルの中心方向に向けて所定幅で突出する態様で、側壁内周面110に連続的に設置されている。棚板12は、スラリー供給管13から投入されたスラリーが、側壁内周面110に沿って、その上面(棚板上面120)を旋回することとなるように、円環状のスラリーの流路として形成されている。棚板上面120は水平面であってもよいが、円周方向、即ち、スラリーの流れ方向に沿って、-10°以下程度の下り傾斜とすることが好ましい。尚、この下り傾斜は、棚板12の全周ではなく、その一部のみに形成されていることが好ましい。これにより、棚板12が円環状である場合に、下り傾斜の終端で段差が生じて流向(流れ)が制御できなくなることを回避しやすいからである。
【0030】
棚板12の平面視における形状は、上述した通り、略円環形状であるが、その幅、即ち、側壁内周面110からの突出幅は、通常、図3に示すようにスラリー供給口130の近傍において最も幅広とされていて、スラリーの流れ方向に沿って、その幅が漸減していく形状とされている。棚板12の所定の突出幅、即ち、棚板上面120の幅は、特定の大きさに限定はされない。一例としては、内径が8mのフィードウェルであれば、通常、棚板上面120の幅は、最大幅となる部分で800mm~1400mm程度である。そして、この棚板上面120の幅は、スラリー供給口130直下の最大幅部分を0°の位置(起点)とした場合において、スラリーの流れ方向において円周上を90°進行した位置に至るまでの間に、最大幅の1/2程度の幅にまで徐々に縮小し、それ以降は一定の幅とされていることが一般的である。従って、漸次縮小する棚板上面120から外れて旋回の早期に落下するスラリーの流れを極力減らすように、スラリー供給口130の位置や形状を調整することが重要である。
【0031】
又、棚板上面120は、図2、4においては、模式的に水平に図示されているが、実際には、沈殿物を除去するために、棚板上面120の内縁が外縁よりも低くなるように、半径方向においても傾斜が設けられていることが好ましい。棚板上面120のフィードウェル1の中心部に向けた傾斜角度は、-15°以下であればよく、好ましくは-10°程度である。これにより、スラリー流れが失速すると、遠心力が低下して十分な混合が進む前に、スラリーの一部が、傾斜した棚板12の内側端から下部の沈降部へ流出してしまう。従って、フィードウェル1に供給されたスラリーと凝集剤等の添加剤とが十分に混合されるためには、この棚板上面120上でのスラリー流れの乱れや失速を極力回避しながら、棚板上面120上での両者の混合を促進させることが重要である。
【0032】
又、フィードウェル1における、スラリー供給口130のスラリー流れに対する後方近傍には、棚板上面120上を周回してきたスラリー流れが吐出されるスラリーへ再流入することを防止する態様で柵板(図示省略)が立設されている。棚板上面120上を旋回して流れるスラリーは、棚板上面120幅の縮小と、この柵板によって、フィードウェル1の下部に流出する。
【0033】
(スラリー供給管)
スラリー供給管13は、スラリーを、棚板上面120上に向けて吐出できるように棚板12よりも上方に配置される。そして、スラリー供給管13の先端部のスラリー供給口130は、吐出されるスラリーの流れが、側壁内周面110に沿って棚板上面120を流れていく旋回流となる方向に向けられている。スラリーの吐出方向を、側壁内周面110の円周の接線方向に近しい方向、好ましくは接線方向とすることによって、吐出されるスラリーの流れをそのような旋回流とすることができる。
【0034】
ここで、図4は、フィードウェル1において、スラリー供給口130から吐出されるスラリー流体の垂直断面領域SDを、スラリーの流れ方向に対して後方側から視た状態を模式的に示す図である。スラリー供給口130から吐出されたスラリーは、吐出直後においては、棚板上面120上で側壁内周面110に接した状態で、スラリー流体の垂直断面領域SDの範囲にまで広がり、この状態で、棚板上面120上を、側壁内周面110に沿って旋回する態様で流れ始める。
【0035】
スラリー供給管13の形状等は、スラリーを搬送して上記態様で吐出することが可能な中空の管状部材であればよく、特定の形状等に限定されない。但し、その内径は、フィードウェルの内径の1/10以上1/5以下程度であることが好ましい。
【0036】
(添加剤供給管)
添加剤供給管14は、添加剤供給口140の位置が、図4に示すスラリー供給口の近傍におけるスラリー流体の垂直断面領域SDに対する特定の相対的位置となるように配置される。
【0037】
具体的に、フィードウェル1においては、添加剤供給管14は、その先端部の添加剤供給口140(第1の添加剤供給口141)の位置が、スラリー供給口の近傍におけるスラリー流体の垂直断面領域SDのうちの部分領域である第1の合流領域D1において、凝集剤等の各種の添加剤をスラリーの流れに合流させることができる位置となるように配置される。本明細書における第1の合流領域D1とは、図4に示す通り、スラリー供給口130の近傍におけるスラリー流体の垂直断面領域SDの部分領域であって、側壁内周面110寄りの側端の最下域に近接する領域のことである。又、本明細書における「スラリー流体の垂直断面領域SD」とは、同図に示す通り、フィードウェル1を備えるシックナー10の運転中のスラリーの流れによって形成されるスラリー流体の全体形状(3次元の略円環形状)を想定した場合における、その流れ方向に対する垂直断面によって形成される平面領域のことを意味する。
【0038】
又、添加剤供給管14は、第1の添加剤供給口141に加えて、更に、図3に示すような第2の添加剤供給口142を有することが好ましい。第2の添加剤供給口142は、スラリー流体の垂直断面領域SDのうちの第1の合流領域とは離間した対角の位置にある第2の合流領域D2において、添加剤を前記スラリーの流れに合流させることができる位置に配置される。本明細書における第2の合流領域D2とは、図4に示す通り、フィードウェル1の中心方向寄りの側端の最上域に近接する部分領域のことである。
【0039】
上記の各添加剤供給口のうち、第1の添加剤供給口141については、添加剤供給口140の一部を、スラリー流体の垂直断面領域SDの上方から棚板上面120上の第1の合流領域D1近傍にまで伸びる管として延伸形成することによって、その先端部分を第1の添加剤供給口141とすることができる。或いは、第1の添加剤供給口141は、棚板上面120に、下方或いは側方から第1の合流領域D1に向けて添加剤を投入できるような位置に設けられる供給口として形成することもできる。第1の添加剤供給口141を上記のように形成することにより、添加剤供給によるスラリー流れの乱れを小さくすることができる。
【0040】
又、例えば、スラリー供給口130の近傍にフィードウェル1の側壁内周面110に沿って棚板12高さ近傍に至る垂直な管を延設して第1の添加剤供給口141を配置する場合には、この管によってスラリーの流れが乱れたり、失速したりすることが無いように、スラリーの流れに接する側を平滑な板で覆う等の処理を行うことがより好ましい。更に、管出口から下方に吐出された添加剤が大きな横方向(棚板上面120の内径方向)の運動量を持つことがないように、棚板上面120からある程度の高さに設置することが好ましい。例えば、棚板上面120と上記態様の添加剤供給口141との間隔は約0.6m以上1m以下程度とすることが好ましい。
【0041】
又、上記の各添加剤供給口のうち、第2の添加剤供給口142については、例えば、スラリー供給管13の端部近傍の上部内側に添加剤供給管14を直結させるか、或いは、スラリー供給口130近傍においてホース等を用いてスラリー流体の垂直断面領域SDの上方から上述の第2の合流領域D2近傍に向けて添加剤を投入できる構成とすることができる。第2の添加剤供給口142をこのように形成することにより、添加剤供給によるスラリー流れの乱れを小さくすることができる。尚、以上説明した各々の添加剤供給口の位置について、「スラリー供給口の近傍」と言える範囲は、取り扱うスラリーの性状や投入速度、棚板の幅、フィードウェルの半径によっても変動し、それらの諸条件に応じて適宜調整すればよく、特定範囲に限定されるものではない。但し、一般的な目安としては、平面視におけるスラリー供給口からの水平距離を概ね4000mm以内とすることが好ましい。尚、スラリーの流れを不要に乱すことがない配置態様であれば、上述した添加剤供給口の位置は、スラリー供給口からスラリー流体の流れ方向と逆向きの方向に概ね4000m以内の範囲で離間した位置であってもよい。
【0042】
(希釈水供給管)
図1に示すフィードウェルには1本の希釈水供給管15が、吐出される希釈水がフィードウェル1の側壁内周面110の接線方向に向けて供給されるように設置されている。このように希釈水供給管15を設置することにより、供給される希釈水を、棚板上面120上を流れるスラリーに対して流れ方向に作用させてスラリーの流れの失速を防ぎ、棚板上面120上にスラリーの流れを維持するように働かせることができる。このような希釈水供給管15は必要に応じて複数設置することもできる。又、上述の添加剤供給管14についても、希釈水供給管15同様に、吐出される添加剤(及び添加剤を必要に応じて希釈する希釈水)を、フィードウェル1の側壁内周面110の接線方向に向けて供給されるようにすることで、上記同様、スラリーの流れを棚板上面120上に維持するように働かせることができる。
【0043】
又、フィードウェル1には、その底部に更に、別途の希釈水供給管を設けることもできる。フィードウェル1の底部の中心軸の近傍に希釈水供給管を設けた場合には、当該部分から流入させた希釈水が、沈降濃縮槽2内に付着する沈殿物を除去する効果がある。しかし、この希釈水の流れが棚板12近傍を通過する場合にはスラリー流れを巻き込んでしまうため、それを避けるために、この希釈水の流れが棚板12に近接しないよう流量を調整する必要がある。
【0044】
<シックナーの運転方法>
上記においてその詳細を説明したフィードウェル1を備えるシックナー10の好ましい運転方法である本発明のシックナーの運転方法について説明する。シックナー10における、スラリーと凝集剤等の添加剤との混合は主に、フィードウェル1の棚板上面120上でなされる。スラリー供給口130から吐出されたスラリーは、棚板上面120上を旋回するように流れ、この流れの中で、フィードウェル1に供給されたスラリーと凝集剤等の添加剤との混合が進行する。
【0045】
本発明のシックナーの運転方法においては、フィードウェル1におけるスラリー流体の垂直断面領域SDの部分領域である第1の合流領域D1を含む領域、即ち、側壁内周面110寄りの側端の最下域(図4参照)を含む領域において、添加剤をスラリーの流れに合流させることが好ましい。添加剤供給口140(或いは、複数の添加剤供給口の一つである第1の添加剤供給口141)が、例えば上述した何れかの態様でスラリー供給口130の近傍に配置されているフィードウェル1を用いることにより、添加剤を、第1の合流領域D1においてスラリーの流れに合流させることができる。尚、本発明のシックナーの運転方法においては、添加剤を、第1の合流領域D1又は第2の合流領域を含んでスラリーの流れ方向に広がる近傍領域において、スラリーに合流させることができればよく、それにより、本発明の効果を十分に享受できることは言うまでもない。
【0046】
ここで、一般に、フィードウェルの側壁内周面には、棚板上面上でのスラリーと添加剤との混合を促進することを企図した突起物が形成される場合がある。しかしながら、特にそのような突起物が存在しない場合、棚板上面上のスラリーの流れには、側壁内周面や棚板上面との間の剪断力以外には特に有効な混合力が存在しない。従って、特に、このような場合には、添加剤を第1の合流領域D1においてスラリーの流れに合流させることが、とりわけ好ましい。
【0047】
本発明のシックナーの運転方法は、他の実施態様として、スラリー流体の垂直断面領域SDの部分領域である第1の合流領域D1、即ち、側壁内周面110寄りの側端の最下域(図4参照)に近接する領域、及び、第2の合流領域、即ち、フィードウェル1の中心方向寄りの側端の最上域に近接する領域の、複数箇所において、添加剤を、スラリーの流れに合流させる方法とすることもできる。第1の添加剤供給口141及び第2の添加剤供給口142が、例えば上述した何れかの態様でスラリー供給口130の近傍に配置されているフィードウェル1を用いることにより、添加剤を、第1の合流領域D1及び第2の合流領域D2においてスラリーの流れに合流させることができる。
【0048】
ここで、上述したように、フィードウェルの側壁内周面に棚板上面上でのスラリーと添加剤との混合を促進することを企図した突起物(図示せず)が形成されている場合には、スラリーの流れは、当該突起物の設置位置でフィードウェル側壁内周面から剥離し、フィードウェルの中心方向寄りにシフトする。又、このような突起物と棚板上面120との間には隙間が設けられる場合が多く、この場合、第1に、突起物の近傍でスラリーの流れが水平方向に広がる傾向が強くなり、水平方向での混合性は向上するが、鉛直方向での混合性が低下する。又、第2にスラリーの水平方向への過剰な広がりにより、棚板上面120の内側側端から早期に落下してしまうスラリーが増えてしまう。添加剤を、第1の合流領域D1のみならず、第2の合流領域D2においても、スラリーの流れに合流させることにより、これらの2つの問題の発生を有効に抑制することができる。
【0049】
上述のように、フィードウェルの側壁内周面に突起等が設置されている場合でも、突起物の下部を流れる側壁内周面近傍におけるスラリーと添加剤との混合力は小さいので、第1の合流領域D1において、添加剤を、スラリーの流れに合流させることは依然として重要である。しかしながら、鉛直方向での混合性は低いので、添加剤の全量を第1の合流領域D1においてスラリーの流れと合流させるようにすると、棚板上面120の内側側端から早期に落下してしまうスラリーが未混合のままフィードウェル1から下部の沈降濃縮槽2に流出してしまう場合がある。これに対して、添加剤の一部を第2の合流領域D2においてスラリーの流れと合流させるようにすることで、早期に棚板上面から脱落してしまう一部のスラリーにも十分に添加剤を混合させることができる。
【0050】
上記のように、フィードウェル1を備えるシックナー10の運転方法において、フィードウェル1に投入される添加剤の一部を第2の合流領域D2においてスラリーの流れと合流させるようにする場合、具体的には、上記添加剤のうちの80質量%以上の添加剤は、第1の合流領域D1において、スラリーの流れに合流させることが好ましい。
【0051】
ここで、スラリーと併せてシックナー10に投入される凝集剤等の添加剤の密度は、多くの場合、水程度である。しかし、供給されるスラリー内に重金属等が含まれる場合には、スラリー全体の密度は水の数倍となることもあり、この場合、スラリーと添加剤との密度差が大きくなる。一般に、密度差が大きいと、混合に必要とされる運動量は大きくなる。特に、フィードウェル1にミキサー等、動力が供給されて作動する混合装置が設置されていない場合には、フィードウェル1内で密度の大きいスラリーと添加剤との混合を十分に進行させることが困難であった。
【0052】
そこで、本発明のシックナーの運転方法においては、第1の合流領域D1において、スラリーの流れに合流させる添加剤の密度が、スラリーの密度よりも小さいときには、第1の合流領域D1においてスラリーの流れと合流させる添加剤(凝集剤)と、第2の合流領域D2においてスラリーの流れと合流させる添加剤(凝集剤)との投入量比(質量比)を、添加剤とスラリーの密度比以上とすることで、密度の大きいスラリーと添加剤との混合を十分に進行させることができる。
【0053】
例えば、下記の実施例において、第1の合流領域D1においてスラリーの流れと合流させる添加剤(凝集剤)の密度とスラリーの密度について、前者が990kg/m、後者が4700kg/mと、密度比が、ほぼ1/4程度のとき、フィードウェルから排出されるスラリーと凝集剤(添加剤)の混合状態について良好な結果が得られている。これに対して、添加剤(凝集剤)の密度とスラリーの密度との比が上記よりも小さい場合には、即ち、上記密度比が1/4未満である場合には、第1の合流領域D1においてスラリーの流れと合流させる添加剤(凝集剤)と、第2の合流領域D2においてスラリーの流れと合流させる添加剤(凝集剤)との投入量比(質量比)を、1/4以上とすることによって、混合状態を改善することができる。
【0054】
<非鉄金属の湿式製錬方法>
図5は、本発明のシックナーを用いて実施することができる非鉄金属の湿式製錬方法の一例であるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の流れを示す工程図である。同図に示すように、この湿式製錬方法は、原料のニッケル酸化鉱石のスラリーに対して高温高圧下で硫酸を添加して浸出処理を施す浸出工程S1、浸出処理により得られた浸出液に対して中和処理を施す中和工程S2、及び、得られた中和後液に硫化剤を添加して硫化処理を施し、ニッケル及びコバルトの混合硫化物を得る硫化工程S3と、を含んでなる全体プロセスである。本発明のシックナー及びその運転方法は、図5に示す全体プロセスを構成する浸出工程S1において、スラリー中に含まれる沈殿物等の固形分を分離して上澄みを構成する溶液を得るための固液分離処理を行う手段として好ましく用いることができる。
【実施例0055】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
<混合状態の評価試験に用いたフィードウェル>
各実施例及び各比較例において用いるシックナーに設置するフィードウェルとして、図2、3で示すフィードウェル1に近似する構成のフィードウェルを用いた。棚板、スラリー供給口、第1の添加剤供給口及び第2の添加剤供給口は、図2及び図3に示す通りの配置とした。
【0057】
希釈水供給管については、図3に図示されている希釈水供給管15の他に、スラリー供給口直下の最大幅部分を0°の位置(起点)とした場合において、0°の位置の近傍と、スラリーの流れ方向において円周上を65°進行した位置に供給口が配置されるようにして、更に、151°進行した位置にもう1本、そこから更に、135°進行した位置にも更にもう1本の希釈水供給管を設置した。又、フィードウェルの底部には分散コーンが設けられていて、フィードウェル下部には流出口が均等に14カ所設けられている。開口部はそれぞれ1.4×0.33mである。
【0058】
[棚板]
棚板は、スラリー供給管の直下においては、幅1.4m、スラリー供給口直下の最大幅部分を0°の位置(起点)とした場合において、スラリーの流れ方向において円周上を65°進行した位置における幅が0.8mにまで縮められていて、同位置から起点から270°までは等しい幅で連続し、図1に示す通り、起点から270°の位置から360°迄の間に、幅は、更にほぼ半分に縮められている。又、棚板は、棚板上面がフィードウェルの中心部に向けて、-10°程度の下り傾斜となるように設置されている。
【0059】
[スラリー供給管]
スラリー供給管のスラリー供給口の開口部のサイズは0.54m×0.48mとした。このスラリー供給口から、密度4700kg/mの金属を含有する粉体を、密度1050kg/mの液と1:4の質量比で混合しスラリーとしたものを800kg/sの速度で投入した。
【0060】
[添加剤供給管]
添加剤供給管は、スラリー供給口の近傍におけるスラリー流体の垂直断面領域の部分領域であって、フィードウェルの側壁内周面寄りの側端の最下域に近接する領域(第1の合流領域D1)に、スラリー流体の垂直断面領域SDの下方から添加剤(凝集剤)を投入できる位置に内径0.1mの「第1の添加剤供給口」が配置されるように形成し、上記垂直断面領域の部分領域であって、フィードウェルの中心方向寄りの側端の最上域に近接する領域(第2の合流領域D2)にスラリー流体の垂直断面領域SDの上方から添加剤(凝集剤)を投入できる位置に内径0.1mの「第2の添加剤供給口」が配置されるように形成した。
【0061】
上記の各添加剤供給口(第1の添加剤供給口、第2の添加剤供給口)から、密度990kg/mの凝集剤を、何れの場合にも各供給口から合計4kg/sの速度で投入した。
【0062】
[希釈水供給管]
希釈水供給管の開口部からは、シックナーから密度1050kg/m程度の上澄み液が自然流入するようにした。各開口部の形状及び平均流入速度について、0°の位置の盤面近傍の開口部からスラリーの流れ方向に沿って順に、1番目の開口部は、0.63m×0.5mで1.8m/s、以下順に、0.63m×0.5mで0.35m/s、0.33m×0.5mで0.5m/sである。
【0063】
<混合状態の評価試験>
上述のフィードウェルを備えるシックナーを用いて、以下の方法で、混合状態の評価試験を行った。全ての各実施例及び比較例1においては、上記の凝集剤を各添加剤供給口からの投入量について、表1に記す通り、各例毎に、各供給口毎の投入量比率(質量比(%))を変更しながらシックナーを運転した。表1中の「添加剤投入量比」とは、例えば、実施例2の場合には、フィードウェルに投入する凝集剤全量のうちの82.5%の凝集剤を「第1の添加剤供給口」から、残りの17.5%の凝集剤を「第2の添加剤供給口」からフィードウェルに投入したことを意味している。但し、比較例2については、添加剤供給口を使用せず、スラリー供給口直下の最大幅部分を0°の位置(起点)とした場合において0°の位置の近傍に設置した1番目の希釈水供給管から、希釈水に混合して凝集剤の全量を投入した。
【0064】
混合状態の評価は、以下の通り行った。先ず、フィードウェル下部の14か所の各流出口開口部の中央に流速計を設置し、その値をその開口部の代表速度とし、各流出口開口部の中央付近の流出物を5L採取し、その中に含有する金属を含有する粉体の質量Cと、凝集剤の質量Fを測定した。次に、14カ所の流出開口部の凝集剤質量/粉体質量(=F/C)のそれぞれの値から、その値の14カ所の平均値(F/C)を差し引いた値(F/C-(F/C))=Aを算出した。
【0065】
更に、上記のAにCを乗じた値ACをもって、凝集剤と粉体とが均一に混合された場合に、対象とする流出口から流出する凝集剤の質量と実際に流出した凝集剤とのずれ量を表す。この値は、その流出口からの流出物の凝集剤質量/粉体質量の値が乖離しているほど、流出している粉体質量が大きいほどその絶対値が大きくなる。そして、各実施例・比較例毎に、上記の値ACの分散値を算出して表1にその値を記した。この分散値は0に近いほど、計14箇所の流出口において混合性に差がないことを表しているため、この分散値が0に近いほど、「スラリーと添加剤との混合を安定的に十分に促進しうる」ものとして各実施例・比較例における混合状態を評価した。試験結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
従来のシックナーにおいては、凝集剤等の添加剤は、例えば、比較例2のように、スラリー流れに対する添加剤の合流位置が特に規定されることなく添加されていた。これに対して、表1に示される試験結果より、添加剤とスラリーとの合流態様を独自態様に特定することができる本発明のシックナーのフィードウェルを用いることにより、動力が供給されて作動する混合装置に頼ることなく、スラリーと添加剤との混合を安定的に十分に促進することができることが分かる。
【符号の説明】
【0068】
1 フィードウェル
11 側壁
110 側壁内周面
12 棚板
120 棚板上面
13 スラリー供給管
130 スラリー供給口
14 添加剤供給管
140 添加剤供給口
141 第1の添加剤供給口
142 第2の添加剤供給口
15 希釈水供給管
16 分散コーン
2 沈降濃縮槽
21 スラリー取出し口
22 レーキ
23 レーキ回転軸
10 シックナー
SD スラリー流体の垂直断面領域
D 合流領域D
D1 第1の合流領域
D2 第2の合流領域
S1 浸出工程
S2 中和工程
S3 硫化工程
図1
図2
図3
図4
図5