(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023180
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/56 20060101AFI20220131BHJP
C21D 11/00 20060101ALI20220131BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220131BHJP
C22C 38/04 20060101ALN20220131BHJP
C22C 38/38 20060101ALN20220131BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C21D9/56 101C
C21D11/00 104
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C22C38/04
C22C38/38
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176173
(22)【出願日】2021-10-28
(62)【分割の表示】P 2019554050の分割
【原出願日】2017-12-20
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/001790
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック・ボネ
【テーマコード(参考)】
4K037
4K038
4K043
【Fターム(参考)】
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
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4K043HA03
4K043HA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整方法を提供する。
【解決手段】A.少なくとも1つのセンサが熱処理中に生じる何らかのずれを検出する制御ステップ、B.ある一つのずれが熱処理中に検出されたとき実施される計算ステップ、1)TP
xの最後に得られる1つのミクロ組織m
xに対応するTP
xである少なくとも2個の熱経路が、TT及びm
targetに達するための前記鋼板のミクロ組織m
iに基づいて計算される、計算サブステップ、2)m
targetに達するための1個の新しい熱経路TP
targetが選択され、TP
targetが、前記TP
xから選択され、及びm
xがm
targetに最も近いように選択される、選択サブステップを含む、計算ステップ、C.TP
targetが、前記鋼板に対してオンラインで実施される、新しい熱処理ステップを含む、動的調整の方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理ライン内で、事前に定められた熱処理TTが鋼板に対して実施される、化学的鋼組成並びにフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイト及びオーステナイトの中から選択される0~100%の少なくとも1つの相を含むミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法であって、
A.少なくとも1つのセンサが、前記熱処理中に生じる何らかのずれを検出する、制御ステップ、
B.ある一つのずれが前記熱処理中に検出されたとき実施される計算ステップであって、mtargetに達するために前記ずれを考慮して新しいある一つの熱経路TPtargetが決定されるようにするものであり、
1)TPxの最後に得られる1つのミクロ組織mxに対応するTPxである少なくとも2個の熱経路が、TT及びmtargetに達するための前記鋼板のミクロ組織miに基づいて計算される、計算サブステップ、
2)mtargetに達するための1個の新しい熱経路TPtargetが選択され、TPtargetが、前記TPXから選択され、及びmXがmtargetに最も近いように選択される、選択サブステップ
を含む、計算ステップ、
C.TPtargetが、前記鋼板に対してオンラインで実施される、新しい熱処理ステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ステップA)において、前記ずれが、炉温度、鋼板温度、ガスの量、ガス組成、ガス温度、ライン速度、熱処理ライン内の故障、溶融浴の変化、鋼板放射率及び鋼厚さの変化の中から選択される1つの工程パラメータの変化に起因する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相が、サイズ、形状及び化学組成から選択される少なくとも1つの要素により規定される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ミクロ組織mtargetには、
- 100%のオーステナイト、
- 5~95%のマルテンサイト、4~65%のベイナイト、残部はフェライト、
- 8~30%の残留オーステナイト、固溶体中の0.6~1.5%の炭素、残部はフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト及び/又はセメンタイト、
- 1%~30%のフェライト及び1%~30%のベイナイト、5~25%のオーステナイト、残部はマルテンサイト、
- 5~20%の残留オーステナイト、残部はマルテンサイト、
- フェライト及び残留オーステナイト、
- 残留オーステナイト及び金属間相、
- 80~100%のマルテンサイト及び0~20%の残留オーステナイト
- 100%のマルテンサイト、
- 5~100%のパーライト及び0~95%のフェライト並びに
- 少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイト
が含まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼板が、二相、変態誘起塑性、焼入れ及び分配された鋼、双晶誘起塑性、炭化物を含まないベイナイト、プレスハードニング鋼、TRIPLEX、DUPLEX及び高延性二相であり得る、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
mtarget及びmX中に存在する相の相割合の間の差が±3%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップB.1)において、m
i及びm
targetの間の放出又は消費される熱エンタルピーHが、
【数1】
(Xは相分率である。)
のように計算される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップB.1)において、すべての熱サイクルTP
xが、
【数2】
(式中、Cpe:相の比熱(J・kg
-1・K
-1)、ρ:鋼の密度(g.m
-3)、Ep:前記鋼の厚さ(m)、φ:熱流束(対流+放射、W)、H
x(J.kg
-1)、T:温度(℃)及びt:時間(s)。)
のように計算される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップB.1)において、中間熱経路TPxintに対応する少なくとも1つの中間鋼ミクロ組織mxint及び熱エンタルピーHxintが計算される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
ステップB.1)において、TPxが、すべてのTPxintの合計であり、及びHxが、すべてのHxintの合計である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップB.1)の前に、降伏応力YS、最大引張強さUTS、伸び、穴拡げ性、成形性の中から選択される少なくとも1つの目標機械的性質Ptargetが選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
mtargetが、Ptargetに基づいて計算される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップB.1)において、前記熱処理ラインに入る前に前記鋼板が経る工程パラメータが、TPxを計算するために考慮される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記工程パラメータが、冷間圧延圧下率、巻取温度、ランアウトテーブル冷却経路、冷却温度及びコイル冷却率の中から選択される少なくとも1つの要素を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップB.1)において、前記熱処理ライン内で前記鋼板が経る前記熱処理ラインの工程パラメータ(複数)が、TPxを計算するために考慮される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記工程パラメータが、達すべき特定の熱鋼板温度、ライン速度、冷却部の冷却能、加熱部の加熱能、過時効温度、冷却温度、加熱温度及び均熱温度の中から選択される少なくとも1つ個の要素を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記熱経路、TPx、TPxint、TT又はTPtargetが、加熱処理、等温処理又は冷却処理から選択される少なくとも1つの処理を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
新しい鋼板が前記熱処理ラインに入るたびに、新しい計算ステップB.1)が自動的に実施される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記鋼板が前記熱処理ラインに入るとき、前記熱経路の適合が、前記鋼板の最初の複数メートルに対して実施される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
何らかのずれが現れたか確認するために、自動計算が熱処理中に実施される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法から得ることができるDP、TRIP、Q&P、TWIP、CFB、PHS、TRIPLEX、DUPLEX及びDP HDを含む事前に定められた製品タイプを含む鋼板でできたコイルであって、前記コイルに沿った任意の2点間で25MPa以下の機械的性質の標準偏差を有する、コイル。
【請求項22】
前記コイルに沿った任意の2点間で15MPa以下の標準偏差を有する、請求項21に記載のコイル。
【請求項23】
前記コイルに沿った任意の2点間で9MPa以下の標準偏差を有する、請求項22に記載のコイル。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の方法の実施のための熱的処理ライン。
【請求項25】
TPtargetを決定するために互いに協働する、少なくとも冶金学的モジュール、最適化モジュール及び熱的モジュールを含むコンピュータプログラム製品であって、コンピュータにより実施されたとき請求項1~20に記載の方法を実施するソフトウェア命令をそのようなモジュールが含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理ライン内で、化学的鋼組成並びにフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイト及びオーステナイトの中から選択される0~100%の少なくとも1つの相を含むミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆鋼板又は未被覆鋼板を自動車車両の製造のために使用することが既知である。多数の鋼グレードが、乗り物を製造するために使用される。鋼グレードの選択は、鋼部品の最終用途に依存する。例えば、IF(極低炭素)鋼は、露出部品のために生産され得、TRIP(変態誘起塑性)鋼は、シート及びフロアクロスメンバ又はAピラーのために生産され得、DP(二相)鋼は、リアレール又はルーフクロスメンバのために生産され得る。
【0003】
これらの鋼の生産中、1つの特定の用途向けに期待される機械的性質を有する所望の部品を得るために、極めて重要な処理が鋼に対して実施される。そのような処理は、例えば、金属被覆を付着させる前の連続焼鈍又は焼入れ及び分配処理であり得る。これらの処理は、適合された炉ライン内で実施される。
【0004】
これらの処理中、何らかの予定外のずれがオンラインで現れることがある。例えば、炉内の温度、鋼板の厚さ、ライン速度が変化し得る。
【0005】
特許出願US4440583は、帯鋼が進む方向に配置された、高温の走行する帯鋼に対して冷却剤を噴霧する複数のノズル、及び冷却剤をノズルに供給するパイプに取り付けられた流量制御弁を含む冷却装置を使用することにより実施される、鋼帯のための制御された冷却の方法に関する。帯鋼の厚さ、冷却開始温度及び冷却終了温度並びに所望の冷却率を含む式を使用することにより、所望の冷却率を得るのに必要な熱伝達率が計算され、得られた熱伝達率は、冷却剤噴霧ゾーンの前後のアイドルパスゾーン内の自然冷却効果に従って補正される。次いで、冷却剤の流量と熱伝達率とのあらかじめ確立された関係から冷却剤の流量が導かれ、設定される。帯鋼の進行経路に沿った冷却剤噴霧ゾーンの長さは、帯鋼の走行速度、冷却開始温度及び冷却終了温度並びに所望の冷却率を使用して計算される。計算値に対応するような数のノズルのみから冷却剤が噴霧されるように、ノズルはオンオフが設定される。制御された冷却が行われている間に帯鋼の厚さが変化すると、それに応じて冷却剤の流量を補正するように、上述の設定に基づいて熱伝達率が再計算される。帯鋼の速度が変化すると、ノズルのオンオフパターンを補正するように、冷却剤噴霧領域の長さが再計算される。
【0006】
この方法では、ずれが現れると、ずれを補正するように、熱伝達率又は冷却剤噴霧領域の長さが再計算される。この方法は、化学組成、ミクロ組織、性質、表面性状などを含む鋼板特性を考慮していない。したがって、各鋼板がそれ自体の特性を有する場合でも、同じ補正が任意の種類の鋼板に適用されるというリスクがある。この方法は、多数の鋼グレードの個別化されていない冷却処理を可能にする。
【0007】
その結果、補正は、1つの特定の鋼に適合されておらず、したがって、処理の最後に所望の特性が得られない。さらに、処理後、鋼は、機械的性質のばらつきが大きくなり得る。最後に、広範囲の鋼グレードを製造できる場合でも、処理された鋼の品質は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、熱処理ライン内で、特定の化学的鋼組成及び達すべき特定のミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法を提供することにより、上述の欠点を解決することである。別の目的は、各鋼板に適合させた処理を提供することにより、熱経路をオンラインで調整することであり、そのような処理は、可能な限り最短計算時間で非常に正確に計算される。別の目的は、期待される性質を有する、つまり、可能な限り最小限のばらつきを有するような鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1に記載の方法を提供することにより達成される。本方法はまた、請求項2~20に記載のいずれかの特性を含むことができる。
【0011】
別の目的は、請求項21に記載のコイルを提供することにより達成される。コイルはまた、請求項22又は23に記載の特性を含むことができる。
【0012】
別の目的は、請求項24に記載の熱的処理ラインを提供することにより達成される。
【0013】
最後に、この目的は、請求項25に記載のコンピュータプログラム製品を提供することにより達成される。
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の発明を実施するための形態から明らかになるであろう。
【0015】
本発明を例示するために、特に以下の図を参照して、非限定的な例の様々な実施形態及び試行を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】加熱ステップ、均熱ステップ、冷却ステップ及び過時効ステップを含む鋼板の連続焼鈍を示す図である。
【
図3】本発明による好ましい実施形態を示す図である。
【
図4】溶融により被覆を付着させる前に連続焼鈍が鋼板に対して実施される本発明による一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の用語が定義される:
- CC:重量パーセント単位の百分率での化学組成、
- mtarget:ミクロ組織の目標値、
- mstandard:選択された製品のミクロ組織、
- Ptarget:機械的性質の目標値、
- mi:鋼板の初期ミクロ組織、
- X:重量パーセント単位の相分率、
- T:セルシウス温度(℃)単位の温度、
- t:時間(s)、
- s:秒、
- UTS:最大引張強さ(MPa)、
- YS:降伏応力(MPa)、
- 亜鉛に基づく金属被覆は、50%超の亜鉛を含む金属被覆を意味し、
- アルミニウムに基づく金属被覆は、50%超のアルミニウムを含む金属被覆を意味し、及び
- TT:熱処理及び
- 熱経路、TT、TPtarget、TPx及びTPxintは、時間、熱処理の温度、及び冷却率、等温率又は加熱率から選択される少なくとも1つの率を含む。等温率は、一定の温度を有する率を意味し、及び
- ナノ流体:ナノ粒子を含む流体。
【0018】
「鋼」又は「鋼板」という名称は、部品が、最大2500MPa、より好ましくは最大2000MPaの引張強さを実現するのを可能にする組成を有する鋼板、コイル、プレートを意味する。例えば、引張強さは、500MPa以上、好ましくは1000MPa以上、有利には1500MPa以上である。本発明による方法は任意の種類の鋼に適用できるため、広範囲の化学組成が含まれる。
【0019】
本発明は、熱処理ライン内で、事前に定められた熱処理TTが鋼板に対して実施される、化学的鋼組成並びにフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、セメンタイト及びオーステナイトの中から選択される0~100%の少なくとも1つの相を含むミクロ組織mtargetを有する熱的に処理された鋼板を製造するための動的調整の方法であって、
A.少なくとも1つのセンサが、熱処理TT中に生じる何らかのずれを検出する、制御ステップ、
B.ある一つのずれが前記熱処理中に検出されたとき実施される計算ステップであって
、mtargetに達するためにずれを考慮して新しいある一つの熱経路TPtargetが決定されるようにするものであり、
1)TPxの最後における1つのミクロ組織mxに対応するTPxである少なくとも2つの熱経路が、TT及びmtargetに達するための鋼板のミクロ組織miに基づいて計算される、計算サブステップ、
2)mtargetに達するための1個の新しい熱経路TPtargetが選択され、TPtargetは、TPXから選択され、及びmXがmtargetに最も近いように選択される、選択サブステップ
を含む、計算ステップ、
C.TPtargetが、鋼板に対してオンラインで実施される、新しい熱処理ステップ
を含む、方法に関する。
【0020】
いかなる理論によっても制限されることは望まないが、本発明による方法が適用されるとき、各鋼板に応じて個別化された熱処理を提供することにより、熱処理中に生じる何らかのずれを補正することが可能であるようである。そうするために、正確な特定の新しい熱経路TPtargetが、mtarget、特に処理に沿ったすべての相の割合、mi(鋼板に沿ったミクロ組織のばらつきを含む。)及びずれを考慮して、短い計算時間で計算される。実際、本発明による方法は、計算のために、熱力学的安定相、すなわち、フェライト、オーステナイト、セメンタイト及びパーライト、並びに熱力学的準安定相、すなわち、ベイナイト及びマルテンサイトを考慮している。したがって、可能な限り最小限のばらつきを有する、期待される性質を有する鋼板が得られる。
【0021】
好ましくは、ミクロ組織mx相、mtarget相及びmi相は、サイズ、形状及び化学組成から選択された少なくとも1つの要素により規定される。
【0022】
好ましくは、達すべきミクロ組織mtargetは、
- 100%のオーステナイト、
- 5~95%のマルテンサイト、4~65%のベイナイト、残部はフェライト、
- 8~30%の残留オーステナイト、固溶体中の0.6~1.5%の炭素、残部はフェライト、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト及び/又はセメンタイト、
- 1%~30%のフェライト及び1%~30%のベイナイト、5~25%のオーステナイト、残部はマルテンサイト、
- 5~20%の残留オーステナイト、残部はマルテンサイト、
- フェライト及び残留オーステナイト、
- 残留オーステナイト及び金属間相、
- 80~100%のマルテンサイト及び0~20%の残留オーステナイト
- 100%のマルテンサイト、
- 5~100%のパーライト及び0~95%のフェライト並びに
- 少なくとも75%の等軸フェライト、5~20%のマルテンサイト及び10%以下の量のベイナイト
を含む。
【0023】
有利には、鋼板は、二相DP、変態誘起塑性(TRIP)、焼入れ及び分配された鋼(Q&P)、双晶誘起塑性(TWIP)、炭化物を含まないベイナイト(CFB)、プレスハードニング鋼(PHS)、TRIPLEX、DUPLEX及び高延性二相(DP HD)を含む任意の種類の鋼グレードであり得る。
【0024】
化学組成は各鋼板に依存する。例えば、DP鋼の化学組成は以下を含み得る:
0.05<C<0.3%、
0.5≦Mn<3.0%、
S≦0.008%、
P≦0.080%、
N≦0.1%、
Si≦1.0%、
鉄及び成長の結果生じる不可避不純物で構成される組成物の残部。
【0025】
図1は、TTが熱処理ライン内で鋼板に対して実施される本発明による一例を示し、そのような鋼板は、化学組成CC及び達すべきm
targetを有する。
【0026】
本発明によれば、ステップA)において、熱処理中に生じる何らかのずれが検出される。好ましくは、ずれは、炉温度、鋼板温度、ガスの量、ガス組成、ガス温度、ライン速度、熱処理ライン内の故障、溶融浴の変化、鋼板放射率及び鋼厚さの変化の中から選択される工程パラメータの変化に起因する。
【0027】
炉温度は、特に連続焼鈍における、加熱温度、均熱温度、冷却温度、過時効温度であり得る。
【0028】
鋼板温度は、熱処理の任意の時点に、熱処理ラインの様々な位置、例えば、
- 好ましくは直火炉(DFF)、ラジアントチューブ炉(RTF)、電気抵抗炉又は誘導炉である加熱部内、
- 冷却部内、特に、冷却ジェット内、焼入れシステム内又はスナウト内及び
- 好ましくは電気抵抗炉である等温部内
で測定することができる。
【0029】
温度の変化を検出するために、センサは、高温計又はスキャナであり得る。
【0030】
通常、熱処理は、酸化性雰囲気中、すなわち、例えば、O2、CH4、CO2又はCOである酸化性ガスを含む雰囲気中で実施することができる。熱処理はまた、中性雰囲気中、すなわち、例えば、N2、Ar又はHeである中性ガスを含む雰囲気中で実施することができる。最後に、熱処理はまた、還元性雰囲気中、すなわち、例えば、H2又はHNxである還元性ガスを含む雰囲気中で実施することができる。
【0031】
ガス量の変化は、気圧計により検出することができる。
【0032】
ライン速度は、レーザセンサにより検出することができる。
【0033】
例えば、熱処理ライン内の故障は以下があり得る:
- 直火炉内:もはや動作しないバーナー、
- ラジアントチューブ炉内:もはや動作しないラジアントチューブ、
- 電気炉内:もはや動作しない抵抗又は
- 冷却部内:もはや動作しない1個又はいくつかの冷却ジェット。
【0034】
そのような場合、センサは、高温計、気圧計、電気消費量又はカメラであり得る。
【0035】
鋼厚さの変化は、レーザセンサ又は超音波センサにより検出することができる。
【0036】
ずれが検出されたとき、mxに対応する少なくとも2つの熱経路TPxが、TT及びmtargetに達するためのmiに基づいて計算され、そのようなTPxは、ずれを考慮している。TPxの計算は、熱的挙動が考慮されるだけの従来の方法と比較して、鋼板の熱的挙動及び冶金学的挙動に基づいている。
【0037】
図2は、加熱ステップ、均熱ステップ、冷却ステップ及び過時効ステップを含む鋼板の連続焼鈍を示す。T
soakingの変化に起因するずれDが検出される。したがって、
図2に第1の冷却ステップについてのみ示すように、m
targetに達するために多数のTP
xが計算される。この例において、計算されたTP
xは、第2の冷却ステップ及び過時効ステップも含む(図示せず)。
【0038】
好ましくは、少なくとも10個のTPxが計算され、より好ましくは少なくとも50個、有利には少なくとも100個、より好ましくは少なくとも1000個のTPxが計算される。例えば、計算されたTPxの数は、2~10000個の間、好ましくは100~10000個の間、好ましくは1000~10000個の間である。
【0039】
ステップB.2)において、m
targetに達するための1個の新しい熱経路TP
targetが選択される。TP
targetは、TP
xから選択され、及びm
xがm
targetに最も近いように選択される。したがって、
図1において、TP
targetは、多数のTP
xから選択される。好ましくは、m
target及びm
x中に存在する各相の相割合の間の差は±3%である。
【0040】
有利には、ステップB.1)において、mi及びmtargetの間の放出又は消費される熱エンタルピーHが、
【0041】
【数1】
(Xは相分率である。)
のように計算される。
【0042】
いかなる理論によっても制限されることは望まないが、Hは、相変態が実施されるときにすべての熱経路に沿って放出又は消費されるエネルギーを表す。いくつかの相変態は発熱性であり、いくつかの相変態は吸熱性であると考えられる。例えば、加熱経路中のフェライトからオーステナイトへの変態は吸熱性である一方、冷却経路中のオーステナイトからパーライトへの変態は発熱性である。好ましくは、Hxは、TPxの計算において考慮される。
【0043】
好ましい実施形態において、ステップB.1)において、すべての熱サイクルTPxが、
【0044】
【数2】
(式中、Cpe:相の比熱(J・kg
-1・K
-1)、ρ:鋼の密度(g.m
-3)、Ep:鋼の厚さ(m)、φ:熱流束(対流及び放射、W)、H
x(J.kg
-1)、T:温度(℃)及びt:時間(s)。)
のように計算される。
【0045】
好ましくは、ステップB.1)において、中間熱経路TPxintに対応する少なくとも1つの中間鋼ミクロ組織mxint及び熱エンタルピーHxintが計算される。この場合、TPxの計算は、多数のTPxintの計算によって得られる。したがって、好ましくは、TPxは、すべてのTPxintの合計であり、Hxは、すべてのHxintの合計である。この好ましい実施形態において、TPxintは、定期的に計算される。例えば、CPxintは、0.5秒毎、好ましくは0.1秒以下毎に計算される。
【0046】
図3は、ステップB.1)において、TP
xint1及びTP
xint2にそれぞれ対応するm
int1及びm
int2並びにH
xint1及びH
xint2が計算される好ましい実施形態を示す。すべての熱経路中のH
xが、TP
xを計算するために決定される。本発明によれば、多数の、すなわち、2個を超えるTP
xint、m
xint及びH
xintが、TP
xを得るために計算される(図示せず)。
【0047】
好ましい実施形態において、ステップB.2)の前に、降伏応力YS、最大引張強さUTS、伸び、穴拡げ性、成形性の中から選択される少なくとも1つの目標機械的性質Ptargetが選択される。本実施形態において、好ましくは、mtargetは、Ptargetに基づいて計算される。
【0048】
いかなる理論によっても制限されることは望まないが、鋼板の特性は、鋼生産中に適用される工程パラメータにより規定されると考えられる。したがって、有利には、ステップB.1)において、熱処理ラインに入る前に鋼板が経る工程パラメータが、TPxを計算するために考慮される。例えば、工程パラメータは、冷間圧延圧下率、巻取温度、ランアウトテーブル冷却経路、冷却温度及びコイル冷却率の中から選択される少なくとも1つの要素を含む。
【0049】
別の実施形態において、熱処理ライン内で鋼板が経る処理ラインの工程パラメータが、TPxを計算するために考慮される。例えば、工程パラメータは、達すべき特定の熱鋼板温度、ライン速度、冷却部の冷却能、加熱部の加熱能、過時効温度、冷却温度、加熱温度及び均熱温度の中から選択される少なくとも1つの要素を含む。
【0050】
好ましくは、熱経路、TPx、TPxint、TT又はTPtargetは、加熱処理、等温処理又は冷却処理から選択される少なくとも1つの処理を含む。例えば、熱経路は、再結晶焼鈍、プレスハードニング経路、回復経路、二相域焼鈍又は完全オーステナイト系焼鈍、焼戻し経路、分配経路、等温経路又は焼入れ経路であり得る。
【0051】
好ましくは、再結晶焼鈍が実施される。再結晶焼鈍は、任意選択的に予熱ステップ、加熱ステップ、均熱ステップ、冷却ステップ及び任意選択的に均等化ステップを含む。この場合、再結晶焼鈍は、任意選択的に予熱部、加熱部、均熱部、冷却部及び任意選択的に均等化部を含む連続焼鈍炉内で実施される。いかなる理論によっても制限されることは望まないが、再結晶焼鈍は、取扱いがより困難な熱経路であると考えられ、その理由は、冷却ステップ及び加熱ステップを含め、考慮すべき多くのステップを含むからである。
【0052】
有利には、新しい鋼板が熱処理ラインに入るたびに、新しい計算ステップB.1)が自動的に実施される。実際、各鋼の実際の特性はしばしば異なるため、本発明による方法は、同じ鋼グレードが熱処理ラインに入る場合でも、熱経路TPtargetを各鋼板に適合させる。新しい鋼板を検出することができて、鋼板の新しい特性が測定され、事前に予備選択される。例えば、センサは、2つのコイル間の溶接を検出する。
【0053】
好ましくは、工程での大きな変化を防ぐために、鋼板が熱処理ラインに入るとき、鋼板の最初の複数メートルに対して熱経路の適合が実施される。
【0054】
好ましくは、何らかのずれが現れたかを確認するために、自動計算が熱処理中に実施される。本実施形態において、定期的に、わずかなずれが発生したかを確認するために計算が実現される。実際、センサの検出閾値が高すぎることがあり、これは、わずかなずれが必ずしも検出されるとは限らないことを意味する。例えば、数秒毎に実施される自動計算は、検出閾値に基づいていない。したがって、計算が同じ熱処理を導く場合、すなわち、熱処理がオンラインで実施される場合、TTは変化しない。計算が、わずかなずれのために異なる処理を導く場合、処理は変化する。
【0055】
図4は、溶融により被覆を付着させる前に連続焼鈍が鋼板に対して実施される本発明による一例を示す。本発明による方法により、ずれDが現れると、TP
xが、m
i、選択された製品、TT及びm
targetに基づいて計算される。この例において、中間熱経路TP
xint1~TP
xint4、それぞれ対応するm
xint1~m
xint4及びH
xint1~H
xint4が計算される。TP
xを得るためにH
xが決定される。この図において、示したTP
targetはTP
xから選択された。
【0056】
本発明による方法により、ずれが現れると、mtargetに達するために、TPtargetを含む新しい熱処理ステップが鋼板に対して実施される。
【0057】
したがって、DP、TRIP、Q&P、TWIP、CFB、PHS、TRIPLEX、DUPLEX、DP HDを含む前記事前に定められた製品タイプを含む鋼板でできたコイルが得られ、そのようなコイルは、コイルに沿った任意の2点間で25MPa以下、好ましくは15MPa以下、より好ましくは9MPa以下の機械的性質の標準偏差を有する。実際、いかなる理論によっても制限されることは望まないが、計算ステップB.1)を含む方法は、コイルに沿った鋼板のミクロ組織のばらつきを考慮していると考えられる。したがって、鋼板に対して適用されるTPtargetは、ミクロ組織並びに機械的性質の均質化を可能にする。
【0058】
標準偏差の値の低さは、TPtargetの精度に起因する。好ましくは、機械的性質は、YS、UTS又は伸びから選択される。
【0059】
好ましくは、コイルは、亜鉛に基づく、又はアルミニウムに基づく金属被覆によって覆われている。
【0060】
好ましくは、工業的生産において、同じラインで生産されたDP、TRIP、Q&P、TWIP、CFB、PHS、TRIPLEX、DUPLEX、DP HDを含む前記事前に定められた製品タイプを含む鋼板でできた2つのコイル間の連続的に測定された機械的性質の標準偏差は、25MPa以下、好ましくは15MPa以下、より好ましくは9MPa以下である。
【0061】
本発明による方法の実施のための熱的処理ラインが、TPtargetを実施するために使用される。例えば、熱的処理ラインは、連続焼鈍炉、プレスハードニング炉、バッチ焼鈍又は焼入れラインである。
【0062】
最後に、本発明は、TPtargetを決定するために互いに協働する少なくとも冶金学的モジュール、熱的モジュール及び最適化モジュールを含むコンピュータプログラム製品であって、コンピュータにより実施されたとき本発明による方法を実施するソフトウェア命令をそのようなモジュールが含む、コンピュータプログラム製品に関する。
【0063】
冶金学的モジュールは、ミクロ組織(準安定相:ベイナイト及びマルテンサイト並びに安定相:フェライト、オーステナイト、セメンタイト及びパーライトを含むmx、mtarget)、より正確には全処理にわたる相の割合を予測し、相変態の速度を予測する。
【0064】
熱的モジュールは、熱処理に使用される設備、例えば、連続焼鈍炉である設備、バンドの幾何学的特性、冷却能、加熱能又は等温能を含む工程パラメータ、相変態が実施されるときにすべての熱経路に沿って放出又は消費される動的熱エンタルピーHに応じて鋼板温度を予測する。
【0065】
最適化モジュールは、冶金学的モジュール及び熱的モジュールを使用する本発明による方法に従って、mtargetに達するための最良の熱経路、すなわちTPtargetを決定する。
【実施例0066】
以下の実施例では、以下の化学組成を有するDP780GIを選択した:
【0067】
【0068】
1.2mmの厚さを得るために、冷間圧延の圧下率は55%とした。
【0069】
達すべきmtargetは、以下のPtarget:460MPaのYS及び790MPaのUTSに対応する12%のマルテンサイト、58%のフェライト及び30%のベイナイトを含んでいた。亜鉛浴による溶融めっきを実施するために、460℃の冷却温度Tcoolingにも達しなければならない。Zn浴内の良好な被覆性を保証するために、この温度に+/-2℃の精度で達しなければならない。
【0070】
鋼板に対して実施する熱処理TTは以下の通り:
- 鋼板が、周囲温度から680℃まで37.5秒間加熱される、予熱ステップ、
- 鋼板が、680℃から780℃まで40秒間加熱される、加熱ステップ、
- 鋼板が、780℃の均熱温度Tsoakingで24.4秒間加熱される、均熱ステップ、
- 鋼板が、以下の通りHNxを噴霧する11個の冷却ジェットで冷却される、冷却ステップ:
【0071】
【表2】
- 460℃の亜鉛浴内での溶融めっき、
- 300℃で27.8s間のトップロールまでの鋼板の冷却及び
- 周囲温度での鋼板の冷却。
【0072】
[実施例1]
<Tsoakingのずれ>
均熱温度Tsoakingが780℃から765℃まで低下したとき、mtargetに達するためにずれを考慮して新しい熱経路TPtarget1が決定される。この目的のために、多数の熱経路TPxを、TT、mtargetに達するためのDP780GIのmi及びずれに基づいて計算した。
【0073】
TPxの計算後、mtargetに達するための1個の新しい熱経路TPtarget1を選択し、TPtarget1を、TPxから選び、及びmXがmtargetに最も近いように選択した。TPtarget1は以下の通りである:
- 熱処理ラインの均熱部内で、ずれのために、鋼板が、765℃の均熱温度Tsoakingで24.4秒間加熱される、均熱ステップ、
- 鋼板が、以下の通りHNxを噴霧する11個の冷却ジェットで冷却される、冷却ステップ:
【0074】
【表3】
- 460℃の亜鉛浴内での溶融めっき、
- 300℃で27.8s間のトップロールまでの鋼板の冷却及び
- 周囲温度での鋼板の冷却。
【0075】
[実施例2]
<異なる組成を有する鋼板>
新しい鋼板DP780GIが熱処理ラインに入り、したがって、計算ステップが、以下の新しいCCに基づいて自動的に実施された:
【0076】
【0077】
mtargetに達するために新しいCCを考慮して新しい熱経路TPtarget2を決定した。TPtarget2は以下の通りである:
- 鋼板が、周囲温度から680℃まで37.5秒間加熱される、予熱ステップ、
- 鋼板が、680℃から780℃まで40秒間加熱される、加熱ステップ、
- 鋼板が、780℃の均熱温度Tsoakingで24.4秒間加熱される、均熱ステップ、
- 鋼板が、HNxを噴霧する11個の冷却ジェットで冷却される、冷却ステップ
【0078】
【表5】
- 460℃の亜鉛浴内での溶融めっき、
- 300℃で26.8s間のトップロールまでの鋼板の冷却及び
- 周囲温度での鋼板の冷却。
【0079】
表1は、TT、TPtarget1及びTPtarget2により得られた鋼の性質を示す:
【0080】
【0081】
本発明による方法により、ずれが現れるとき、又は異なるCCを有する新しい鋼板が熱処理ラインに入るとき、熱的TTを調整することが可能である。新しい熱経路TPtarget1及びTPtarget2を適用することにより、所望の期待される性質を有する鋼板を得ることが可能であり、各TPtargetは、各ずれに正確に適合されている。
前記鋼板が、二相、変態誘起塑性、焼入れ及び分配された鋼、双晶誘起塑性、炭化物を含まないベイナイト、プレスハードニング鋼、TRIPLEX、DUPLEX及び高延性二相であり得る、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
前記工程パラメータが、達すべき特定の熱鋼板温度、ライン速度、冷却部の冷却能、加熱部の加熱能、過時効温度、冷却温度、加熱温度及び均熱温度の中から選択される少なくとも1つ個の要素を含む、請求項6に記載の方法。