(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024701
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】チップ抵抗器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 17/00 20060101AFI20220202BHJP
H01C 17/065 20060101ALI20220202BHJP
H01C 17/22 20060101ALI20220202BHJP
H01C 7/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
H01C17/00 100
H01C17/065 310
H01C17/22
H01C7/00 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020127436
(22)【出願日】2020-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】川久保 勝弘
【テーマコード(参考)】
5E032
5E033
【Fターム(参考)】
5E032BA04
5E032BB01
5E032CA02
5E032CC03
5E032DA01
5E033AA02
5E033AA27
5E033BB02
5E033BC01
5E033BE02
5E033BH02
(57)【要約】
【課題】 耐サージ特性等の電気特性を特に損なうことなく小型のチップ抵抗器を製造する方法を提供する。
【解決手段】 絶縁基板10の表面側に1対の表面電極2を形成する表面電極形成工程と、1対の表面電極2に架け渡す抵抗体4を形成する抵抗体形成工程と、抵抗体4を被覆する第1コート層5を形成する第1コート層形成工程と、抵抗体4に対して第1コート層5の上からレーザートリミングを行う抵抗値調整工程とを有するチップ抵抗器の製造方法であって、該表面電極形成工程において、抵抗体4の抵抗値測定用のプローブを接触させる1対のプローブ接触部3を1対の表面電極2の互いに対向する側とは反対側にそれぞれ接続するように形成し、1対のプローブ接触部3は該抵抗値調整工程の後に切除する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の表面側に1対の表面電極を形成する表面電極形成工程と、前記1対の表面電極に架け渡す抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、前記抵抗体を被覆する第1コート層を形成する第1コート層形成工程と、前記抵抗体に対して前記第1コート層の上からレーザートリミングを行う抵抗値調整工程とを有するチップ抵抗器の製造方法であって、前記表面電極形成工程において、前記抵抗体の抵抗値測定用のプローブを接触させる1対のプローブ接触部を前記1対の表面電極の互いに対向する側とは反対側にそれぞれ接続するように形成し、該1対のプローブ接触部は前記抵抗値調整工程の後に切除することを特徴とするチップ抵抗器の製造方法。
【請求項2】
前記プローブ接触部の切除前の工程として、前記レーザートリミングが行われた前記第1コート層及び前記抵抗体を被覆する第2コート層を形成する第2コート層形成工程を更に有することを特徴とする、請求項1に記載のチップ抵抗器の製造方法。
【請求項3】
前記表面電極形成工程の前工程若しくは後工程又は前記表面電極形成工程と同時に、前記絶縁基板の裏面側において前記1対の表面電極に対応する位置に1対の裏面電極を形成する裏面電極形成工程を有し、前記1対の表面電極と前記1対の裏面電極とをそれぞれ電気的に接続する1対の端面電極を形成する端面電極形成工程を前記プローブ接触部の切除後に有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のチップ抵抗器の製造方法。
【請求項4】
前記抵抗体がスクリーン印刷により形成される厚膜抵抗体であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のチップ抵抗器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ抵抗器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面実装型の固定抵抗器として様々な電子機器に広く用いられているチップ抵抗器は、一般的に、平面視矩形の絶縁基板と、該絶縁基板の表面側の両端部に互いに離間するように設けられた1対の表面電極と、これら表面電極に架け渡すように設けられた抵抗体と、該抵抗体を被覆するコート層とから主に構成されており、該抵抗体には抵抗値調整用のトリミング溝が形成されている。上記構造のチップ抵抗器は、スパッタリング等の薄膜形成法で形成される厚み0.001~1μm程度の抵抗体を有する薄膜抵抗器と、印刷法により形成される厚み1~20μm程度の抵抗体を有する厚膜抵抗器とに大別することができる。
【0003】
いずれの方法で抵抗体を形成する場合であっても、生産性を高めるため、1枚の大判(大型)の絶縁基板から複数個の抵抗器を同時に製造する方法が一般的に採用されている。例えば特許文献1には、複数の厚膜抵抗器を一括して製造する方法が開示されている。具体的には、予め縦横に延在する分割用スリット(分割溝)が形成されたセラミックス基板の表裏面に複数対の表面電極及び複数対の裏面電極を電極ペーストの印刷、乾燥、焼成によりそれぞれ形成した後、対となる表面電極に架け渡す(跨ぐ)ように抵抗体ペーストを印刷、乾燥、焼成することで厚膜抵抗体群を形成し、得られた厚膜抵抗体群の各々の表面にガラスペーストを印刷、乾燥、焼成することでアンダーコート層群を形成している。上記にて形成した厚膜抵抗体群の各々に対してアンダーコート層の上からレーザービームを照射してトリミング溝を形成した後、樹脂ペーストを印刷、加熱硬化することでオーバーコート層群を形成している。その後、上記分割用スリットに沿って個々のチップに分割し、表面電極と裏面電極を接続する端面電極及びこれら電極を覆うめっき層を形成することで、複数の角形チップ抵抗器を一括して製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子機器は近年ますます小型軽量化しており、これに搭載される主要電子部品の一つであるチップ抵抗器にも小型化がより一層求められている。しかしながら、チップ抵抗器の耐サージ特性や耐電圧特性は、チップ抵抗体の両端部に接続されている1対の表面電極の電極同士の離間距離が大きい方が一般的に有利である。そのため、チップ抵抗器の小型化は、これら耐電圧特性や耐サージ特性に対して不利に働くことになる。また、抵抗器を小型化すると、電極を構成する金属が抵抗体を構成する絶縁物内を移動して短絡する現象であるマイグレーションが生じやすくなる。
【0006】
したがって、耐サージ特性、耐電圧特性、及び耐マイグレーションと、チップ抵抗器の小型化とを両立するには、予めチップ抵抗器のサイズが定められている場合は、1対の表面電極の電極同士の離間距離をできるだけ大きくすることが有利になる。そこで、1対の表面電極の電極同士の離間距離を大きくするため、絶縁基板の表面に占める1対の表面電極の面積を小さくすることが考えられる。
【0007】
しかしながら、チップ抵抗器の製造方法には、1対の表面電極にプローブを当接させて抵抗体の抵抗値を測定しながら該抵抗体にレーザービームで溝を入れるトリミング工程が含まれるため、1対の表面電極の面積を小さくするとプローブを当接させる面積も小さくなり、上記抵抗値の測定が困難になることがあった。本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、耐サージ特性等の電気特性を特に損なうことなく小型のチップ抵抗器を製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るチップ抵抗器の製造方法は、絶縁基板の表面側に1対の表面電極を形成する表面電極形成工程と、前記1対の表面電極に架け渡す抵抗体を形成する抵抗体形成工程と、前記抵抗体を被覆する第1コート層を形成する第1コート層形成工程と、前記抵抗体に対して前記第1コート層の上からレーザートリミングを行う抵抗値調整工程とを有するチップ抵抗器の製造方法であって、前記表面電極形成工程において、前記抵抗体の抵抗値測定用のプローブを接触させる1対のプローブ接触部を前記1対の表面電極の互いに対向する側とは反対側にそれぞれ接続するように形成し、該1対のプローブ接触部は前記抵抗値調整工程の後に切除することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐サージ特性等の電気特性を特に損なうことなく小型のチップ抵抗器を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のチップ抵抗器の製造方法で製造されるチップ抵抗器の一具体例の模式的な縦断面図である。
【
図2】本発明のチップ抵抗器の製造方法に好適に使用される大判の絶縁基板の正面図である。
【
図3】
図2の大判の絶縁基板のIII-III線断面図である。
【
図4】本発明のチップ抵抗器の製造方法の実施形態を工程順に示す縦断面図である。
【
図5】
図4の(b)において大判の絶縁基板の表面側に形成した複数対の表面電極パターンを示す平面図である。
【
図6】
図5の複数対の表面電極のパターンの代替例を示す平面図である。
【
図7】従来の製造方法におけるプローブの接触位置(a)と、
図4の(e)におけるプローブの接触位置(b)とを比べた縦断面図である。
【
図8】従来の製造方法で製造したチップ抵抗器(a)と本発明の実施形態の製造方法で製造したチップ抵抗器(b)とを比べた縦断面図である。
【
図9】
図4の(f)において大判の絶縁基板の表面側に形成した第2コート層パターンを複数対の表面電極パターンと共に示す平面図である。
【
図10】
図9の大判の絶縁基板を縦スリットに沿って帯状に分割したときの縦方向に1列に接続されたチップ抵抗器群の平面図である。
【
図11】
図4の(h)において個々に分割したチップ抵抗器の片側の端面に厚膜電極ペーストを塗布したときの縦断面図である。
【
図12】比較例の製造方法において大判の絶縁基板の表面側に形成した複数対の表面電極パターンを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のチップ抵抗器の製造方法の実施形態について、チップ抵抗器が角形の抵抗器である場合を例に挙げて説明する。先ず、本発明のチップ抵抗器の製造方法の実施形態で製造されるチップ抵抗器について、
図1の断面図を参照しながら説明する。この
図1に示すチップ抵抗器は、セラミック等の絶縁材からなる平面視矩形の絶縁基板1と、該絶縁基板1の表面側において電圧印加方向(電流が流れる方向)の両端部に形成された1対の表面電極2と、該1対の表面電極に架け渡すように形成された抵抗体4と、該抵抗体4の表面を被覆する電気絶縁性の第1コート層5と、該第1コート層5を全面的に覆う第2コート層6とを備えている。これら抵抗体4及び第1コート層5には、該抵抗体4の抵抗値の調整(トリミング)のため、レーザービームで形成された例えば平面視略L字状のトリミング溝Gが設けられている。該絶縁基板1の裏面側には、上記1対の表面電極2に対応する両端部に1対の裏面電極7が設けられており、更に、これら1対の表面電極と1対の裏面電極とをそれぞれ電気的に接続する1対の端面電極8が設けられており、該絶縁基板1の各端部の表面電極2、裏面電極7、及び端面電極8を覆うようにニッケルめっき等からなる1対のめっき層9が設けられている。
【0012】
かかる構造を有するチップ抵抗器においては、下記に説明する本発明の一具体例のチップ抵抗器の製造方法で製造することによって、従来のチップ抵抗器の製造方法と比べて、上記絶縁基板1の表面に占める上記1対の表面電極2の面積を小さくできるので、耐電圧特性、耐サージ特性、及び表面電極間の耐マイグレーション性を損なうことなく小型化することが可能になる。例えば、0402サイズ(電圧印加方向の長さ0.4mm、幅0.2mm)や0603サイズ(電圧印加方向の長さ0.6mm、幅0.3mm)のチップ抵抗器の製造に際して、従来のものに比べてチップ抵抗体の大きさをそのまま変えることなく抵抗体の大きさをより大きくできるので、耐サージ特性、耐電圧特性、及び耐マイグレーションを高めることができる。
【0013】
次に、本発明のチップ抵抗器の製造方法の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係るチップ抵抗器の製造方法は、大判の絶縁基板の準備工程、該大判の絶縁基板の裏面側に裏面電極を複数対形成する裏面電極形成工程、該大判の絶縁基板の表面側にプローブ接触部と一体化した表面電極を複数対形成する表面電極形成工程、該複数対の表面電極の各電極対に架け渡すように抵抗体を形成する抵抗体形成工程、各抵抗体を覆う第1コート層を形成する第1コート層形成工程、該抵抗体の抵抗値の調整のためレーザートリミングを行う抵抗体調整工程、該抵抗体と共にトリミングされた第1コート層を覆う第2コート層を形成する第2コート層形成工程、該プローブ接触部を表面電極から切除するプローブ接触部切除工程、該プローブ接触部を切除することで露出した絶縁基板の両端面に1対の端面電極を形成する端面電極形成工程、及び該1対の端面電極の上に1対のめっき層を形成するめっき工程から構成される。
【0014】
本発明の実施形態に係るチップ抵抗器の製造方法は、上記のように抵抗体のトリミング時にプローブを当接させるプローブ接触部を表面電極と一体化した形態で形成し、該トリミング後は、このプローブ接触部はそれが形成されている絶縁基板と共に上記の1対の端面電極の形成前に切り離される。これにより、1対の表面電極の電極同士の離間距離を従来よりも大きくすることが可能になり、チップ抵抗器の耐電圧特性や耐サージ特性を向上させることが可能となる。
【0015】
なお、本発明のチップ抵抗器の製造方法は、導電粒子を含有したペーストをスクリーン印刷及び焼成することによって電極や抵抗体を形成する厚膜チップ抵抗器に限定されるものではなく、スパッタリングによって電極や抵抗体を形成する薄膜チップ抵抗器にも適用することができる。以下、本発明のチップ抵抗器の製造方法の実施形態について、工程ごとに具体的に説明する。
【0016】
本発明の実施形態に係るチップ抵抗器の製造方法では、後述するように縦横の分割用スリットが設けられたアルミナなどのセラミックからなる1枚の大判の絶縁基板に複数の抵抗体等を一括して形成した後、該分割用スリットに沿って絶縁基板を分割し、該分割により露出する絶縁基板の電圧印加方向の両端面に端面電極及びめっき層を形成する。そのため、先ず準備工程として、個々の絶縁基板に分割しやすいように、
図2に示すように、紙面縦方向に延在する断面V字状の複数条の縦スリット(分割溝)10aと、これらと直交する紙面横方向に延在する断面V字状の複数条の横スリット(分割溝)10bとが、
図2のIII-III線の断面図である
図3に示すように、表裏面に対称に形成されている大判の絶縁基板10を用意する。
【0017】
次に裏面電極形成工程として、この大判の絶縁基板10の裏面側に、
図4(a)に示すように、図示しない配線基板にチップ抵抗器を実装したときに該配線基板の配線に電気的に接続する役割を担う裏面電極7の対を、前述した
図2に示す縦スリット10a群及び横スリット10b群で画定されるマトリックス状の複数の領域のうち、紙面横方向の両端部を除く1列おきに並ぶ列Aの各領域に形成する。この裏面電極7の対は、厚膜チップ抵抗器ではAg、Cuやこれらの合金からなるペーストを印刷し、820~880℃程度の焼成温度で焼成することによって形成でき、薄膜チップ抵抗器ではCuなどを用いたターゲットをスパッタリングすることで形成できる。
【0018】
次に、表面電極形成工程として、
図4(b)に示すように、前述した
図2に示す大判の絶縁基板10の表面側における縦スリット10a群及び横スリット10b群で画定されるマトリックス状の複数の領域のうち、裏面側に前述した裏面電極7の対が形成されている列Aの領域(すなわち、後工程の抵抗体形成工程において抵抗体が形成される領域)及びその縦スリット10aを挟んだ両側に隣接する2つの領域(すなわち、抵抗体が形成されない領域)の合計3つの領域ごとに、表面電極2及びプローブ接触部3からなる抵抗体接続部の対を形成する。この抵抗体接続部の対は、上記裏面電極7の対と同様に、厚膜チップ抵抗器ではAg、Cuやこれらの合金からなるペーストを印刷し、820~880℃程度の焼成温度で焼成することによって形成でき、薄膜チップ抵抗器ではCuなどを用いたターゲットをスパッタリングすることで形成できる。
【0019】
上記のように、表面電極形成工程において表面電極2と一体化して形成されるプローブ接触部3は、後工程の抵抗値調整工程において抵抗体の抵抗値を測定する際にプローブが接触される。そのため、大判の絶縁基板10を表面側から見た
図5に示すように、各対の抵抗体接続部のうち1対の表面電極2は、後工程の抵抗体形成工程で抵抗体が形成される列Aの各領域内に形成されており、1対のプローブ接触部3は、該抵抗体が形成される列Aの領域の紙面横方向の両側に隣接する該抵抗体が形成されない2つの領域にそれぞれ形成される。
【0020】
このように、本発明の実施形態に係るチップ抵抗器の製造方法では、抵抗体のトリミング時にプローブを当接させるプローブ接触部3を、
図2に示す大判の絶縁基板10の表面側における縦横のスリット10a、10bで区画されるマトリックス状の領域のうち、チップ抵抗器を形成しない領域に設けるので、1対の表面電極の上に抵抗体やコート層を重ねて成膜する際に、1対の端面電極との接続部分だけを非成膜領域として露出させておけばよく、該非成膜領域にはプローブを当接させることを考慮する必要がない。よって、その分だけ1対の表面電極の面積を小さくできるので、結果的に該1対の表面電極の電極同士の離間距離を大きくとることができる。
【0021】
なお、抵抗体が形成される列Aの領域の電圧印加方向に隣接するもの同士においては、それらの抵抗体接続部の互いに対向するプローブ接触部同士は、
図5に示すプローブ接触部3のようにチップ抵抗器を形成しない領域内で互いに離間していてもよいし、
図6に示すプローブ接触部13ように連続していてもよい。いずれの場合であっても、表面電極及びプローブ接触部は、縦スリット10aを境にして互いに電気的に接続している。
【0022】
上記の
図5又は
図6に示すパターンの複数対の抵抗体接続部は、電極ペーストの焼成により厚膜形成する場合は、該
図5又は
図6に示す複数対の抵抗体接続部に対応する開口パターンを有するスクリーンマスクの該開口部分にペーストが充填されるようにスクリーン印刷すればよい。Cuなどのスパッタリングにより薄膜形成する場合は、同様に該
図5又は
図6に示す複数対の抵抗体接続部に対応する開口パターンを有するマスクを介してスパッタリングすればよい。
【0023】
なお、
図5又は
図6から分かるように、上記抵抗器の電圧印加方向に対して垂直な方向(紙面縦方向)に隣接する抵抗体接続部同士は、電気的に接続していない。その理由は、上記抵抗器の電圧印加方向に対して垂直な方向に隣接する抵抗体接続部同士が電気的に接続していると、並列に接続された抵抗器になるので、後工程の抵抗値調整工程において抵抗体の抵抗値を個別に測定することができなくなり、抵抗値の調整ができなくなるからである。
【0024】
再度
図4に戻ると、次に抵抗体形成工程として、
図4(c)に示すように、1対の表面電極の電極同士に架け渡すように抵抗体4を形成する。この抵抗体4は、厚膜チップ抵抗器ではルテニウム酸化物、Ag、Pd、Cu等の導電物、及びガラスを主成分とする抵抗ペーストを印刷し、820~880℃程度の焼成温度で焼成することによって形成でき、薄膜チップ抵抗器ではCu-Ni合金、Ni-Cr合金、Cu-Mn合金などを用いたターゲットをスパッタリングすることで形成できる。
【0025】
次に第1コート層形成工程として、
図4(d)に示すように、上記の抵抗体形成工程で形成した抵抗体4を覆うように第1コート層5を形成する。この第1コート層5は、厚膜チップ抵抗器ではガラス粒子を主成分とするガラスペーストを印刷し、580~620℃程度の焼成温度で焼成することによって形成でき、薄膜チップ抵抗器では酸化ケイ素やアルミナなどの絶縁材料をスパッタリングすることで成膜できる。上記のスパッタリングによる成膜では、酸化ケイ素やアルミナなどのスパッタリングターゲットに代えてケイ素やアルミニウムなどのスパッタリングターゲットを用い、スパッタリング雰囲気に酸素を導入して酸化物膜として成膜してもよい。
【0026】
次に抵抗値調整工程として、
図4(e)に示すように、上記抵抗体形成工程で形成した抵抗体4に対して、その抵抗値を調整するためにレーザートリミングを行う。レーザートリミングは、調整対象となる抵抗体4の抵抗値を測定しながら該抵抗体4に対して第1コート層5を介してレーザー光を照射することによって、該抵抗体4及び第1コート層5に例えば平面視略L字状の溝を入れることで部分的に除去する方法である。
【0027】
図7に示す(a)従来のチップ抵抗器の製造方法における第1コート層形成工程と、(b)上記の本発明の実施形態に係るチップ抵抗器の製造方法における第1コート層形成工程とを比べて分かるように、従来は大判の絶縁基板10上に縦横スリットで区画されるマトリックス状の領域の全てに基本的にチップ抵抗器を形成するので、
図7の(a)に示すように、縦スリットを挟んで互いに隣接する両領域では、これら2対の表面電極の互いに隣接する片方の電極同士を一体化させて形成する。そして、抵抗値調整工程においては、この縦スリット10aを跨いで形成された、片方同士一体化した表面電極22のうち、調整対象の抵抗体24が位置する領域内に太矢印で示すようにプローブを当接させ、該調整対象の抵抗体24の抵抗値を測定しながら白矢印で示すレーザー光でトリミングが行われる。
【0028】
これに対して、本発明のチップ抵抗器の製造方法の実施形態では、
図7の(b)に示すように、大判の絶縁基板10上に縦横スリットで区画されるマトリックス状の領域のうち、チップ抵抗器を形成しない部分に形成されるプローブ接触部3に太矢印で示すプローブを当接させて抵抗体4の抵抗値を測定しながら白矢印で示すレーザー光を照射することでトリミングを行う。
【0029】
その結果、
図8(a)、(b)に示す後工程のめっき工程により得られるチップ抵抗器の形状を比較することで分かるように、(a)従来のチップ抵抗器の製造方法で製造したチップ抵抗器よりも、(b)本発明のチップ抵抗器の製造方法で製造したチップ抵抗器の方が1対の表面電極の電極同士が互いに離間する間隔を広くとれるので、耐サージ特性、耐電圧特性、及び耐マイグレーションを損なうことなく抵抗器を小型化することが可能になる。
【0030】
再度
図4に戻ると、次に第2コート層形成工程として、
図4(f)に示すように、上記抵抗値調整工程でのトリミングによりトリミング溝Gが形成された抵抗体4及び第1コート層5を覆うように第2コート層6を形成する。この第2コート層6は主として抵抗体4を保護する役割を担っており、熱硬化樹脂ペーストを印刷し、150~200℃程度の熱処理温度で熱硬化することで形成できる。
【0031】
上記の第2コート層形成工程で得られる
図9に示すような第2コート層6のパターンが形成された大判の絶縁基板10に対して、次にプローブ接触部切除工程として、縦スリット10aに沿って帯状に分割する。これにより、
図4(g)に示すように、抵抗体4で架け渡された1対の表面電極2を備えた列Aの領域の絶縁基板から、プローブ接触部3がチップ抵抗器の形成されない列A以外の領域の絶縁基板と共に切除されるので、
図10に示すように、端面電極及びめっき層が形成される前の複数のチップ抵抗器が紙面縦方向に接続した棒状の抵抗器群が得られる。この棒状の抵抗器群を、更に横スリット10bに沿って分割することで、個々のチップ抵抗器が得られる。
【0032】
次に端面電極形成工程として、
図4(h)に示すように、1対の表面電極2及び1対の裏面電極7を、それらの絶縁基板1における電圧印加方向の端部同士接続するように、該絶縁基板1の両端面1aに1対の端面電極8を形成する。この1対の端面電極8は、例えば電解めっき法によりNiめっき層の形態で形成するのが好ましい。この場合、絶縁基板1の両端面1aに、上記Niめっき層が付着しやすくなるように、予めNi-Cr等の被膜をスパッタリングによって形成しておくことが望ましい。
【0033】
上記1対の端面電極8の他の形成方法として、上記のプローブ接触部切除工程でプローブ接触部をチップ抵抗器が形成されない絶縁基板と共に切除すべく、大判の絶縁基板10を縦スリット10aに沿って分割することで得られる上記した帯状の抵抗器群に対して、
図11に示すように、1対の表面電極2及び1対の裏面電極7を、絶縁基板1の電圧印加方向の端部同士電気的に接続するように、該絶縁基板1の両端面1aにAg粉末などを含む厚膜電極ペースト18を塗布し、焼成することで1対の端面電極8を形成した後、横スリット10bに沿って分割することで個々のチップ抵抗器を作製してもよい。
【0034】
最後にめっき工程として、
図4(h)に示すように、上記1対の端面電極8の上に1対のめっき層9を例えば電解めっき法によりSnめっき層の形態で成膜する。これにより、チップ抵抗体を製造することができる。以上、説明したように、本発明の実施形態に係るチップ抵抗体の製造方法では、1対の表面電極を形成する際に、抵抗体のトリミング時に接触させる1対のプローブ接触部を該1対の表面電極とそれぞれ一体化させた形態で形成し、該1対のプローブ接触部はトリミング後は1対の端面電極を形成する前に切り離す。これにより、従来のチップ抵抗器の製造方法で製造されるチップ抵抗器に比べて、該1対の表面電極の互いに離間する距離を大きく確保することができる。
【0035】
すなわち、従来の製造方法は、抵抗体の抵抗値を測定する際に、該抵抗体が形成されている縦横スリット群で画定される領域内において、該抵抗体に接続する1対の表面電極に対してプローブを接触させるので、該1対の表面電極上にプローブを確実に当接させるために十分な面積を確保する必要がある。そのため、結果的に1対の表面電極の電極同士の離間距離を、チップ抵抗器の電圧印加方向の長さよりも大幅に短くする必要がある。
【0036】
これに対して、本発明の実施形態のチップ抵抗器の製造方法では、1対の表面電極自体には抵抗体のトリミング時にプローブを接触させないので、そのための十分な面積を確保する必要がないので、前述したように1対の表面電極の電極同士の離間距離を従来よりも長くすることができる。その結果、チップ抵抗器の電圧印加方向の長さを最大限活用できるので、抵抗体の有効長が大きい方が有利な、抵抗器の耐サージ特性、耐電圧特性、及び耐マイグレーションを従来よりも向上させることができる。
【実施例0037】
[実施例]
縦横に延在する分割用スリットによりマトリックス状の複数の領域に区分されている大判の絶縁基板の表面側の各々の領域に、下記に示すように、「(1)表面電極の形成」、「(2)厚膜抵抗体の形成」、及び「(3)第1コート層の形成」をこの記載順に行って、評価用の厚膜抵抗器を作製し、それらの特性を「(4)抵抗器の評価」に従って面積抵抗値及びサージ特性の観点から評価した。
【0038】
(1)表面電極の形成
1005サイズのチップ抵抗器(電流が流れる方向の長さ1.0mm、幅0.5mm)用として
図2に示すような縦横に延在する分割用スリット10a、10bが表裏面に形成されているアルミナ製の大判の絶縁基板10を用意した。この大判の絶縁基板10の表面側に、表面電極用のAg-PdペーストであるC-4605(住友金属鉱山株式会社製)を
図5のパターンとなるようにスクリーン印刷し、温度120℃の大気雰囲気で10分間保持する乾燥処理を行うことで、Ag-Pdペーストに含まれる溶剤を除去した後、ピーク温度850℃の大気雰囲気で9分間保持する焼成処理を行った。これにより、表面電極2及びプローブ接触部3が一体化した抵抗体接続部を複数対形成した。
【0039】
この
図5のパターンは、上記マトリックス状の複数の領域のうち、紙面横方向の端部に縦に並ぶ領域群に隣接する領域群から始めて該横方向に1つおきの列Aの領域群に厚膜抵抗体を形成するパターンであり、この1つおきの列Aの領域群を構成する各領域において、その両端の縦スリット10aからそれぞれ内側に0.2mmまでの範囲に幅0.4mmの1対の表面電極2を形成し、この1対の表面電極2にそれぞれ接続する1対のプローブ接触部3は、当該1対の表面電極2が形成される領域に縦スリット10aを挟んで隣接する両領域にそれぞれ電圧印加方向の長さ0.5mm、これに直交する方向の幅0.4mmで形成した。これにより、各対の表面電極の電極同士が互いに離間する距離(すなわち抵抗体の電圧印加方向の電極間距離)は0.6mmになった。
【0040】
(2)抵抗体の形成
上記の1つおきの列Aの領域群を構成する各領域に形成する厚膜抵抗体用の抵抗体ペーストとして、公称面積抵抗値1000Ωの抵抗体ペーストであるR-13U(住友金属鉱山株式会社製)と、公称面積抵抗値10000Ωの抵抗体ペーストであるR-14U(住友金属鉱山株式会社製)とを面積抵抗値が約3300Ωとなるように配合して混合抵抗体ペーストXを調製した。
【0041】
このように混合する理由は、上記の電極間距離0.6mmの1対の表面電極2に後述するように幅0.3mmの厚膜抵抗体を架け渡すようにして形成したとき、その抵抗値を約6700Ωにするためである。なお、これらR-13U、R-14U、及び混合抵抗体ペーストXは、いずれも大気雰囲気下においてピーク温度850℃の焼成温度で9分間かけて行う焼成処理に適した抵抗ペーストである。
【0042】
上記の混合抵抗体ペーストXを各対の表面電極2を架け渡すように長さ0.8mm、幅0.3mmの長方形パターンで且つ焼成後の抵抗体の厚みが7μmとなる膜厚でスクリーン印刷し、温度120℃の大気雰囲気で約10分間保持する乾燥処理を行うことで該混合抵抗体ペーストX に含まれる溶剤を除去した後、ピーク温度850℃の大気雰囲気で9分間保持する焼成処理を行うことで96個の厚膜抵抗体を形成した。
【0043】
得られた厚膜抵抗体4は、電圧印加方向の両端部において1対の表面電極2とそれぞれ0.1mmずつ重なっているため、抵抗体として実質的に機能する部分の電圧印加方向の長さ(有効長)が0.6mm、幅が0.3mmとなる。このようにして形成した厚膜抵抗体4のうち、任意に選んだ5個に対して触針の厚さ粗さ計(株式会社東京精密製、型番:サーフコム480B)により膜厚を測定し、得られた測定値を相加平均することで膜厚を求めた。
【0044】
(3)第1コート層の形成
上記にて形成した厚膜抵抗体4の表面を全面に亘って被覆する第1コート層用のガラスペーストには、大気雰囲気下において焼成温度600℃で5分間かけて行う焼成処理に適したガラスペーストである住友金属鉱山株式会社製のI-9760を用いた。このガラスペーストの焼成後に得られる第1コート層の厚みが5μmとなる膜厚で各厚膜抵抗体4を覆うように印刷し、温度120℃の大気雰囲気で10分間保持する乾燥処理を行うことで、ガラスペーストに含まれる溶剤を除去した後、ピーク温度600℃の大気雰囲気で5分間保持する焼成処理を行うことで第1コート層5を形成した。
【0045】
(4)抵抗器の評価
上記にて作製した96個の厚膜抵抗器のうち、任意に選択した25個に対してデジタルマルチメーター(KEITHLEY社製、2001番)で抵抗値を測定し、得られた測定値を相加平均することで面積抵抗値を求めた。この抵抗値の測定後、抵抗値を10000Ωに調整するため、波長1.06μmのYAGレーザーを照射してレーザートリミングを行うことで厚膜抵抗体4に第1コート層5と共に平面視略L字状の溝からなるトリミング溝Gを形成した。上記の抵抗器の測定及びレーザートリミングの際は、上記1対のプローブ接触部3にプローブを接触させて上記厚膜抵抗体4の抵抗値を測定した。そして、レーザートリミング後は、大判の絶縁基板をその縦横スリット10a、10bに沿って分割することで、各対の表面電極2からプローブ接触部3を除去した。
【0046】
上記のプローブ接触部3の除去後、サージ特性を評価した。サージ特性は、ESD(静電気放電)で評価した。具体的には、上記のレーザートリミング後に分割した25個の厚膜抵抗器のうち、任意に選んだ10個に対して、200pFのコンデンサに2KVの電圧で充電した静電気を5回放電し、その前後における抵抗値の変化率を求め、それらを相加平均して得た平均値で評価した。
【0047】
[比較例]
実施例と同様に縦横のスリットが形成されたアルミナ製の大判の絶縁基板10の表面側に、各対の表面電極が電極同士が互いに0.3mm離間する
図12のパターンとなるように、実施例と同様のAg-Pdペーストを用いてスクリーン印刷した後、実施例と同様の乾燥処理及び焼成処理を行って上記縦横のスリットで画定されるマトリックス状に並んだ領域群の各々に1対の表面電極を形成した。各領域内の1対の表面電極は、それぞれ両側の縦スリットから0.35mm内側に至る範囲に幅0.4mmで形成した。
【0048】
次に面積抵抗値が約6600Ωとなるように上記のR-13U及びR-14Uを配合することで調製した混合抵抗体ペーストYを用意し、これを上記の各対の表面電極の互いに対向する側の端部に0.1mmずつ重ねることで各対の表面電極に架け渡すため、電流方向の長さ0.5mm、幅0.3mmの長方形パターンで且つ焼成後の膜厚が約7μmとなるようにスクリーン印刷した。その後、実施例と同様の条件で乾燥処理及び焼成処理を行って厚膜抵抗体を形成した。
【0049】
上記にて形成した厚膜抵抗体に対して実施例と同様に第1コート層用のガラスペーストをスクリーン印刷し、上記実施例と同様の条件で乾燥処理及び焼成処理を行った。このようにして比較例の厚膜抵抗器を208個作製した。このように、比較例の厚膜抵抗器では、1対の表面電極における電圧印加方向の両端部に抵抗体の抵抗値の測定の際にプローブを当接させるため、電圧印加方向に長さ0.25mmの露出部をそれぞれ確保する必要があった。そのため、該1対の表面電極は、電極同士の離間距離を上記のように0.3mmにする必要が生じ、その結果該抵抗体の有効長は0.3mmになった。
【0050】
以降は実施例と同様に、上記にて作製した208個の厚膜抵抗器のうち、任意に選んだ25個に対して抵抗値の測定及びレーザートリミングを行った後、縦横スリットに沿って個々の厚膜抵抗器に分割し、これら25個の厚膜抵抗器から更に任意に選んだ10個に対して、ESDによりサージ特性を評価した。その評価結果を実施例の評価結果と合わせて下記表1に示す。
【0051】
【0052】
上記表1から分かるように、実施例及び比較例は第1コート層の形成後の平均抵抗値はほぼ同じ値であったが、レーザートリミング後のEDSの評価結果では、実施例は比較例に比べて変化率が顕著に小さくなっており、このことから本発明の要件を満たす製造方法で厚膜抵抗器を製造することで、1対の表面電極は電極同士の離間距離を従来の製造方法で製造した場合に比べてより長くできるので、電気特性に優れたチップ抵抗器を製造できることが分かる。