(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029448
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】非水系電解液及び該非水系電解液を備える非水系電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20220209BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220209BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128252
(22)【出願日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2020132536
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野澤 遼
(72)【発明者】
【氏名】山口 亮
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温保存試験後の電池容量を改善し得る非水系電解液を提供する。
【解決手段】式(I)又は式(II)で表される化合物(A)、並びにP-F結合を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩(B)を1種以上含有することを特徴とする非水系電解液。
(式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基であり、R
1とR
2は互いに結合し環状構造を形成していてもよく;nは0~4の整数であり;M
1は1価のカチオンである。式(II)中、R
4は水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基であり;nは0~4の整数であり;M
2は1価のカチオンである。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)又は式(II)で表される化合物(A)、並びにP-F結合を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩(B)を1種以上含有することを特徴とする非水系電解液。
【化1】
(式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基であり、R
1とR
2は互いに結合し環状構造を形成していてもよく;nは0~4の整数であり;M
1は1価のカチオンである。
式(II)中、R
4は水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基であり;nは0~4の整数であり;M
2は1価のカチオンである。)
【請求項2】
前記式(I)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~18のアラルキル基である、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記式(II)中、R4が、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~18のアラルキル基である、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記式(I)又は式(II)で表される化合物(A)を0.01質量%以上10質量%以下含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記P-F結合を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩(B)を、0.01質量%以上10質量%以下含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極と、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系電解液と、を備える非水系電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及び該非水系電解液を備える非水系電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
含リチウム遷移金属酸化物を正極に用い、非水溶媒を電解液に用いるリチウム非水系電解液二次電池は、高いエネルギー密度を実現できることから、携帯電話、ラップトップコンピュータ等の小型電源から、自動車や鉄道、ロードレベリング用の大型電源まで広範な用途に適用されている。しかしながら、近年の非水系電解液二次電池に対する高性能化の要求はますます高まっており、各種特性の改善が強く要求されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定の負極活物質を含有する負極、炭素-炭素二重結合を有する有機スルホン酸リチウム塩を含有する非水系電解液及び特定のセパレータを有することを特徴とする電気化学素子が開示され、過充電時における安全性に優れること、高温貯蔵性に優れること、すなわち電池の膨れを抑制できること、および低温での充電特性に優れることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、スルホン酸イオン基を持つモノマーを含有する電解液が開示され、当該電解液を用いた二次電池は充放電サイクル時の放電容量維持率が改善することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、特定の正極活物質を含む正極合材層を有する正極、及び炭素―炭素二重結合を有する有機スルホン酸リチウム塩を含有する非水電解質を備えた非水二次電池が開示され、放電容量、充放電サイクル特性、安全性が改善することが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-277723号公報
【特許文献2】特開2007-42387号公報
【特許文献3】特開2009-110943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の非水系電解液二次電池は、特に電池搭載自動車が求める要求特性がますます高くなり、高温保存後の電池容量の改善が高いレベルで求められている。特に、リン酸塩又はスルホン酸塩を添加することにより、容量維持率等の電池性能を向上できる点から、例えば、ジフルオロリン酸リチウムなどが非水系電解液二次電池において添加剤として利用される。
しかしながら、特許文献1に記載の非水系電解液二次電池では、特定のセパレータと炭素-炭素不飽和結合を有する有機スルホン酸リチウム塩含有する非水電解液を組み合わせることにより電池の膨れを抑制できることが記載されているが、高温保存後の電池容量に関しては検討もされておらず記載もない。また、特許文献2に記載の非水系電解液では、サイクル試験時の放電容量維持率が改善できることが記載されているが、高温保存後の電池容量に関しては検討もされておらず記載もない。さらに、特許文献3に記載の非水二次電池では、特定の正極合剤層と炭素―炭素二重結合を有する電解液を組み合わせることによりサイクル特性が改善できることが記載されているが、リン酸塩又はスルホン酸塩を共添加した時の電池特性評価については記載されていない。
【0008】
本発明では、非水系電解液二次電池において上記問題点を解決できる、高温保存後の電池容量を改善し得る非水系電解液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の炭素-炭素不飽和結合を有するスルホン酸塩及び特定のリン酸塩又はスルホン酸塩を非水系電解液に含有することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下に存する。
[1]式(I)又は式(II)で表される化合物(A)、並びにP-F結合を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩(B)を1種以上含有することを特徴とする非水系電解液。
【化1】
(式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基であり、R
1とR
2は互いに結合し環状構造を形成していてもよく;nは0~4の整数であり;M
1は1価のカチオンである。
式(II)中、R
4は水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基であり;nは0~4の整数であり;M
2は1価のカチオンである。)
[2]前記式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~18のアラルキル基である、[1]に記載の非水系電解液。
[3]前記式(II)中、R
4が、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~18のアラルキル基である、請求項[1]又は[2]に記載の非水系電解液。
[4]前記式(I)又は式(II)で表される化合物(A)を0.01質量%以上10質量%以下含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の非水系電解液。
[5]前記P-F結合を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩(B)を、0.01質量%以上10質量%以下含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の非水系電解液。
[6]金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極と、[1]~[5]のいずれかに記載の非水系電解液と、を備える非水系電解液二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温保存後の電池容量を改善し得る非水系電解液を提供できる。また、当該非水系電解液を備えた非水系電解液二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、以下に記載する説明
は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は請求項に記載の要旨を超えない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0013】
[1.非水系電解液]
本発明の実施形態に係る非水系電解液二次電池に用いる非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様に、電解質及びこれを溶解する非水溶媒を含有し、式(I)又は式(II)で表される化合物(A)(以下、炭素-炭素不飽和結合を有するスルホン酸塩と記す場合がある)、並びにP=O結合及びP-F結合を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩(B)((以下、「フッ素原子を有するリン酸塩又はスルホン酸塩」と記す場合がある))を1種以上含有する非水系電解液である。
【化2】
(式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基であり、R
1、R
2は互いに結合し環状構造を形成していてもよく;nは0~4の整数であり;M
1は1価のカチオンである。
式(II)中、R
4は水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基であり;nは0~4の整数であり;M
2は1価のカチオンである。)
本発明に係る非水系電解液は、高温保存後の電池容量を改善し得る点で好ましい。このような優れた効果を奏する理由について、本発明者は以下のように推測する。
二次電池の充放電に伴い、式(I)又は式(II)で表される化合物(A)の炭素-炭素不飽和結合が電極上で多量化し、さらにP-F結合を有するリン酸塩又はS-F結合を有するスルホン酸塩(B)と反応し、電極上で難溶解性かつ強固な共被膜を形成することで、電極活物質と溶媒等との副反応を抑制するものと考える。
すなわち、本発明は、非水系電解液中に、炭素-炭素不飽和結合を有するスルホン酸塩と特定のリン酸塩又は特定のスルホン酸塩とを含有させることで、従来より高いレベルまで、高温保存後の電池容量を効率的に改善できると考える。
以下、各構成について説明する。
【0014】
[1-1.式(I)又は式(II)中で表される化合物(A)(炭素-炭素不飽和結合を有するスルホン酸塩)]
[1-1-1.式(I)中で表される化合物]
【化3】
式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基である。なかでも、水素原子又は炭化水素基が好ましい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が挙げられる。なかでも、フッ素原子が、電解液への安定性の点で好ましい。
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はアラルキル基が挙げられる。なかでも、アルキル基、アルケニル基、アリール基、及びアラルキル基が特に好ましい。なお、炭化水素基はフッ素原子等の置換基を有していてもよい。また、アリール基は、任意の環原子がヘテロ原子で置換されているヘテロアリール基も含むものとする。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、及びデシル基等が挙げられる。なかでも、炭素数が1~6のアルキル基が、電解液への溶解性の点で好ましい。
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、メタリル基、2-ブテニル基、3-メチル2-ブテニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基、6-ヘプテニル基、及び7-オクテニル基等が挙げられる。なかでも、炭素数が2~6のアルケニル基が電解液への溶解性の点で好ましい。
アルキニル基としては、エチニル基、2-プロピニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、4-ペンチニル基、5-ヘキシニル基、6-ヘプチニル基、及び7-オクチニル基等が挙げられる。なかでも、炭素数が2~6のアルキニル基が電解液への溶解性の点で好ましい。
アリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-チエニル基、3-チエニル基、2-フリル基、3-フリル基、2-ピロリル基、3-ピロリル基、及びベンジル基等が挙げられる。なかでも、炭素原子数が6~12のアリール基が好ましく、フェニル基、1-ナフチル基、及び2-ナフチル基が電解液への溶解性の点で特に好ましい。
アラルキル基としては、フェニルメチル基(ベンジル基)、フェニルエチル基(フェネチル基)、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、及びフェニルイソプロピル基等が挙げられる。なかでも、ベンジル基及びフェネチル基が好ましく、ベンジル基が電解液への安定性の点で特に好ましい。
式(I)中のR
1とR
2は互いに結合し環状構造を形成していてもよい。環状構造としては、シクロヘキセン環、シクロペンテン環、ベンゼン環、ナフタレン環、ピロール環、チオフェン環、フラン環、イミダゾール環、チアゾール環、カルバゾール環、及びピリジン環等が挙げられる。なかでも、シクロヘキセン環、ベンゼン環、ナフタレン環、ピロール環、チオフェン環、及びフラン環が、電解液への安定性の点で好ましく、より好ましくは、シクロヘキセン環、ベンゼン環、及びナフタレン環である。また、環状構造を形成する原子にフッ素原子等の置換基を有していてもよい。
式(I)中のM
1は1価のカチオンであり、好ましくは、リチウムイオン、ナトリウム
イオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンである。なかでも、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンが電解液への溶解性の点で好ましく、リチウムイオン、又はナトリウムイオンがより好ましい。
nは0~4の整数であり、電解液への溶解性の点で好ましくは、0~2の整数であり、0又は1がより好ましい。
【0015】
式(I)で表される化合物としては、具体的には以下の化合物が挙げられる。
【化4】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
より好ましくは、以下の化合物が挙げられる。
【化10】
【0022】
【0023】
さらに好ましくは、以下の化合物が挙げられる。
【化12】
【0024】
【0025】
特に好ましくは、以下の化合物が挙げられる。
【化14】
【0026】
式(I)中で表される化合物の含有量は、特段の制限はないが、非水系電解液中が、前記式(I)で表される化合物を好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上含有し、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましく6質量%以下、特に好ましくは4質量%以下で含有する。式(I)で表される化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
式(I)で表される化合物と後述する式(II)で表される化合物を併用する場合には、式(I)で表される化合物及び式(II)で表される化合物の合計量、すなわち、炭素-炭素不飽和結合を有するスルホン酸塩(A)の総量が、上記範囲内となるようにすればよいが、式(I)で表される化合物のみを用いるのが好ましい。
炭素-炭素不飽和結合を有するスルホン酸塩の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0027】
[1-1-2.式(II)で表される化合物]
【化15】
【0028】
式(II)中のR4は、水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基である。ここで、R4に係るハロゲン原子又は炭化水素基は、R1~R3で例示したものが挙げられ、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数7~18のアラルキル基であり、より好ましくは、水素原子又はフェニル基であり、さらに好ましくは、水素原子である。
式(II)中のM2は1価のカチオンであり、具体的には、M1で例示したものが挙げられ、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンが電解液への溶解性の点で好ましい。
nは0~4の整数であり、電解液への溶解性の点で好ましくは、0~2の整数であり、0又は1がより好ましい。
【0029】
式(II)で表される化合物としては、具体的には以下の化合物が挙げられる。
【化16】
【0030】
【0031】
【0032】
より好ましくは、以下の化合物が挙げられる。
【化19】
【0033】
さらに好ましくは、以下の化合物が挙げられる。
【化20】
【0034】
特に好ましくは、以下の化合物が挙げられる。
【化21】
【0035】
非水系電解液中、式(II)で表される化合物の含有量は、特段の制限はないが、非水系電解液中が、前記式(I)で表される化合物を好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上含有し、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましく6質量%以下、特に好ましくは4質量%以下で含有する。式(II)で表される化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上述した通り、式(I)で表される化合物と式(II)で表される化合物を併用する場合には、式(I)で表される化合物及び式(II)で表される化合物の合計量、すなわち、炭素-炭素不飽和結合を有するスルホン酸塩(A)の総量が、上記範囲内となるようにすればよい。
【0036】
[1-2.フッ素原子を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩]
[1-2-1.P-F結合を有するリン酸塩(フッ素原子を有するリン酸塩)]
本発明に係るP-F結合を有するリン酸塩としては、具体的にはモノフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、モノフルオロリン酸ルビジウム、モノフルオロリン酸セシウム、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウム、ジフルオロリン酸ルビジウム、ジフルオロリン酸セシウム、モノフルオロモノメチルリン酸リチウム、モノフルオロモノメチルリン酸ナトリウム、モノフルオロモノメチルリン酸カリウム、モノフルオロモノメチルリン酸ルビジウム、モノフルオロモノメチルリン酸セシウムが挙げられる。なかでも、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムが電解液安定性の点で特に好ましい。
非水系電解液中、びP-F結合を有するリン酸塩の含有量は、特段の制限はないが、非水系電解液中がP-F結合を有するリン酸塩を、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上含有し、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下で含有する。P-F結合を有するリン酸塩の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0037】
[1-2-2.S-F結合を有するスルホン酸塩(フッ素原子を有するスルホン酸塩)]
本発明のS-F結合を有するスルホン酸塩としては、具体的にはフルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸ナトリウム、フルオロスルホン酸カリウム、フルオロスルホン酸ルビジウム、フルオロスルホン酸セシウム、ビスフルオロスルホニルイミドリチウムが挙げられる。なかでも、フルオロスルホン酸リチウム、ビスフルオロスルホニルイミドリチウムが、電解液安定性の点で特に好ましい。
非水系電解液中、S-F結合を有するスルホン酸塩の含有量は、特段の制限はないが、非水系電解液中がS-F結合を有するスルホン酸塩を好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上含有し、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下で含有する。
【0038】
すなわち、非水系電解液中、フッ素原子を有するリン酸塩又はスルホン酸塩(B)の含有量は、非水系電解液が好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上含有し、好ましくは10質量以下、より好ましくは、8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下で含有する。P-F結合を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩を2種以上含む場合には、P-F結合を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩の合計量、すなわち塩(B)の総量が上述の範囲となるようにすればよい。
【0039】
[1-2.電解質]
<リチウム塩>
非水系電解液における電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0040】
例えば、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、タングステン酸リチウム塩類、カルボン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムメチド塩類、リチウムオキサラート塩類、及び含フッ素有機リチウム塩類等が挙げられる。
【0041】
中でも、フルオロホウ酸リチウム塩類としてLiBF4;フルオロリン酸リチウム塩類としてLiPF6;スルホン酸リチウム塩類として、CH3SO3Li;リチウムイミド塩類としてLiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド;リチウムメチド塩類として、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3;リチウムオキサラート塩類として、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、リチウムトリス(オキサラト)フォスフェート;等が、低温出力特性やハイレート充放電特性、インピーダンス特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点からより好ましい。さらに好ましくは、LiPF6及びリチウムビス(オキサラト)ボレートであり、特に好ましくはLiPF6である。また、上記電解質は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ただし、「1-1.式(I)又は式(II)中で表される化合物(A)(炭素-炭素不飽和結合を有するスルホン酸塩)」又は「1-2.フッ素原子を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩」に該当するリチウム塩が非水系電解液に含まれる場合、「1-1.式(I)又は式(II)中で表される化合物(A)(炭素-炭素不飽和結合を有するスルホン酸塩)」又は「1-2.フッ素原子を有するリン酸塩及びS-F結合を有するスルホン酸塩」に該当するリチウム塩以外の電解質を必ず含有する。
2種類以上の電解質の組み合わせとして、特段の制限はないが、LiPF6及びLiBF4の組み合わせ並びにLiPF6及びLiN(CF3SO2)2の組み合わせが挙げられる。なかでも、LiPF6及びLiBF4の組み合わせが好ましい。
【0042】
非水系電解液中の電解質の総濃度は、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。電解質の総濃度が上記範囲内であると、電気伝導率が電池動作に適正となるため、十分な出力特性が得られる傾向にある。
【0043】
[1-3.非水系溶媒]
非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質を溶解する非水系溶媒を含有する。用いられる非水系溶媒は上述した電解質を溶解すれば特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
2種以上の有機溶媒の組み合わせとして、特段の制限はないが、飽和環状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル及び鎖状カーボネート、並びに飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。なかでも、飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネート、並びに飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルが好ましい。
【0044】
[1-3-1.飽和環状カーボネート]
飽和環状カーボネートとしては、例えば、炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から炭素数2~3の飽和環状カーボネートが好ましく用いられる。
【0045】
飽和環状カーボネートとしては、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートが好ましく、酸化・還元されにくいエチレンカーボネートがより好ましい。飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0046】
飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上であり、一方、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなり、非水系電解液の酸化・還元耐性が向上し、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態における体積%とは25℃、1気圧における体積を意味する。
【0047】
[1-3-2.鎖状カーボネート]
鎖状カーボネートとしては、通常炭素数3~7のものが用いられ、電解液の粘度を適切な範囲に調整するために、炭素数3~5の鎖状カーボネートが好ましく用いられる。
【0048】
具体的には、鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが挙げられる。特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート又はエチルメチルカーボネートである。
【0049】
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、当該複数のフッ素原子は互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。
フッ素化鎖状カーボネートとしては、フルオロメチルメチルカーボネート等のフッ素化ジメチルカーボネート誘導体;2-フルオロエチルメチルカーボネート等のフッ素化エチルメチルカーボネート誘導体;エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート等のフッ素化ジエチルカーボネート誘導体;等が挙げられる。
【0050】
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0051】
鎖状カーボネートの含有量は特に限定されないが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上であり、また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
【0052】
さらに、特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の含有量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。
【0053】
例えば、特定の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、ジメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
【0054】
[1-3-3.鎖状カルボン酸エステル]
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、及びピバル酸メチルが挙げられる。なかでも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、又は酢酸ブチルが電池特性
向上の点から好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素原子で置換した鎖状カルボン酸エステル(例えば、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル等)も好適に使える。
鎖状カルボン酸エステルの配合量は、非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、鎖状カルボン酸エステルの配合量は、通常70体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0055】
[1-3-4.環状カルボン酸エステル]
環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンが挙げられる。これらの中でも、γ-ブチロラクトンがより好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した環状カルボン酸エステルも好適に使える。
環状カルボン酸エステルの配合量は、非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、環状カルボン酸エステルの配合量は、非水系溶媒全量に対して、通常70体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0056】
[1-3-5.エーテル系化合物]
エーテル系化合物としては、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数3~10の鎖状エーテル、及びテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等炭素数3~6の環状エーテルが好ましい。なお、上述のエーテル系化合物の一部の水素がフッ素にて置換されていてもよい。
なかでも、炭素数3~10の鎖状エーテルとして、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させ、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、又はエトキシメトキシメタンが好ましく、炭素数3~6の環状エーテルとして、高いイオン電導度を与えることから、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、又は1,4-ジオキサン等が好ましい。
【0057】
エーテル系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系溶媒全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。エーテル系化合物の含有量が前記好ましい範囲内であれば、エーテルのリチウムイオン解離度の向上と粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすい。また、負極活物質が炭素系材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入される現象を抑制できることから、入出力特性や充放電レート特性を適正な範囲とすることができる。
【0058】
[1-3-6.スルホン系化合物]
スルホン系化合物としては、特に制限されず、環状スルホンであってもよく、鎖状スルホンであってもよい。環状スルホンの場合、炭素数が通常3~6、好ましくは3~5であ
り、鎖状スルホンの場合、炭素数が通常2~6、好ましくは2~5である。また、スルホン系化合物1分子中のスルホニル基の数は、特に制限されないが、通常1又は2である。
【0059】
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類等;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、又はヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0060】
スルホラン類としては、スルホラン及びスルホラン誘導体が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基で置換されたものが好ましい。
【0061】
中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン、3-トリフルオロメチルスルホラン等が、イオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
【0062】
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン等が挙げられる。なかでも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホンが電解液の高温保存安定性が向上する点で好ましい。
【0063】
スルホン系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の溶媒全量に対して、通常0.3体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常40体積%以下、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。スルホン系化合物の含有量が前記範囲内であれば、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0064】
[1-4.助剤]
本発明の非水系電解液には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各種の助剤を含有していてもよい。助剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。なお、助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0065】
非水系電解液に含有していてもよい助剤としては、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素含有環状カーボネート、イソシアネート基を有する化合物、イソシアヌル酸骨格を有する化合物、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、フッ素非含有カルボン酸エステル、エーテル結合を有する環状化合物、カルボン酸無水物、ホウ酸塩、シュウ酸塩等が例示できる。例えば、国際公開公報第2015/111676号に記載の化合物等が挙げられる。
助剤の含有量は特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは1質量%未満である。
エーテル結合を有する環状化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、1-3.で示したとおり非水系溶媒としても用いることができるものも含まれる。エーテル結合を有する環状化合物を助剤として用いる場合は、4質量%未満の量で用いる。ホウ酸塩、及びシュウ酸塩は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、1-2.で示したとおり電解質として用いることができるものも含まれる。これら化合物を助剤として用いる場合は、3質量%未満で用いる。
【0066】
[2.非水系電解液二次電池]
本発明の一実施態様である非水系電解液二次電池は、金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、非水系電解液を含む。
【0067】
[2-1.非水系電解液]
非水系電解液としては、上述の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において上述の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を混合して用いることも可能である。
【0068】
[2-2.負極]
負極は、負極活物質及び結着剤を含む負極活物質層並びに集電体からなる。
[2-2-1.負極活物質]
負極に使用される負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素系材料、Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料、リチウム含有金属複合酸化物材料、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でもサイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素系材料を使用するのが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0069】
[2-2-1-1.炭素系材料]
炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛及び樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。なかでも、天然黒鉛が好ましい。炭素系材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び/又はこれらの黒鉛に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性又は充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛粒子が特に好ましい。
黒鉛粒子の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上、100μm以下である。
【0070】
[2-2-1-2.炭素系材料の物性]
負極活物質としての炭素系材料は、以下の(1)~(4)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1つを満たしていることが好ましく、複数を同時に満たすことが特に好ましい。
(1)X線回折パラメータ
炭素系材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.335nm以上0.360nm以下である。また、学振法によるX線回折で求めた炭素系材料の結晶子サイズ(Lc)は、通常1.0nm以上である。
(2)体積基準平均粒径
炭素系材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上、100μm以下である。
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素系材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定
した値であり、通常0.01以上、1.5以下である。
また、炭素系材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上、100cm-1以下である。
(4)BET比表面積
炭素系材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m2・g-1以上100m2・g-1以下である。
負極活物質中に性質の異なる炭素系材料が2種以上含有していてもよい。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、体積基準平均粒径、ラマンR値、ラマン半値幅及びBET比表面積を意味する。
好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素系材料を2種以上含有すること、及びX線パラメータが異なる炭素系材料を2種以上含有すること等が挙げられる。
【0071】
[2-2-1-3.Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料]
Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料は、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、容量とサイクル寿命の点から、例えば、Sb、Si、Sn、Al、As、及びZnからなる群より選ばれる金属及び/若しくは半金属元素の単体又はその化合物であることが好ましい。また、Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料が2種類以上の元素を含有する場合、当該材料は、これらの金属の合金からなる合金材料であってもよい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素の材料としては、酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。これらは、Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を2種以上含有していてもよい。なかでも、金属Si(以下、Siと記載する場合がある)又はSi含有無機化合物が高容量化の点で、好ましい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素の材料は、後述する負極の製造時で既にLiと合金化されていてもよい。
【0072】
本明細書では、Si又はSi含有無機化合物を総称してSi化合物と呼ぶ。Si化合物としては、具体的には、SiOx(0≦x≦2)等が挙げられる。Liと合金化された金属化合物としては、具体的には、LiySi(0<y≦4.4)、Li2SiO2+z(0<z≦2)等が挙げられる。Si化合物としてSi酸化物(SiOx1、0<x1≦2)が、黒鉛と比較して理論容量が大きい点で好ましく、又は非晶質SiもしくはナノサイズのSi結晶が、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能である点で好ましい。
Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料が粒子である場合、その平均粒子径(d50)は、サイクル寿命の観点から、通常0.01μm以上、10μm以下である。
【0073】
[2-2-1-4.Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料と炭素系材料との混合物]
負極活物質として用いられるLiと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料と炭素系材料との混合物は、前述のLiと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料と前述の炭素系材料が互いに独立した材料の状態で混合されている混合体でもよいし、Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料が炭素系材料の表面又は内部に存在している複合体でもよい。
Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料と炭素系材料の合計に対するLiと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を含有する材料の含有割合は、通常1質量%以上、99質量%以下である。
【0074】
[2-2-1-5.リチウム含有金属複合酸化物材料]
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタンを含むリチウム含有金属複合酸化物材料が好ましく、リチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)がより好ましく、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が出力抵抗を大きく低減するので特に好ましい。
【0075】
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウム及び/又はチタンが、他の金属元素、例えば、Al、Ga、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよい。
リチウムチタン複合酸化物として、Li4/3Ti5/3O4、Li1Ti2O4及びLi4/5Ti11/5O4が好ましい。また、リチウム及び/又はチタンの一部が他の元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物として、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましい。
【0076】
[2-2-1-6.表面被覆]
負極活物質は、その表面に、負極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて前記負極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により、負極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して、好ましくは1μmol/g以上であり、また、10μmol/g以上が好ましく、通常1mmol/g以下で用いられる。
本明細書においては、負極活物質の表面に、前記表面付着物質が付着したものも「負極活物質」という。
【0077】
[2-2-2.負極の構成と製造方法]
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、負極活物質に、結着剤、水系溶媒又は有機系溶媒等の溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスして負極活物質層を形成することによって作製することができる。この際、負極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
【0078】
[2-2-2-1.活物質含有量]
負極活物質の、負極活物質層中の含有量は、通常80質量%以上、99.5質量%以下である。
【0079】
[2-2-2-2.増粘剤]
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上、5質量%以下である。
【0080】
[2-2-2-3.結着剤]
負極活物質を結着する結着剤としては、非水系電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素系高分子等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
負極活物質に対する結着剤の割合は、通常0.1質量%以上20質量%以下である。
特に、結着剤がSBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対する結着剤の割合は、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。また、結着剤がポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する結着剤の割合は、好ましくは1質量%以上、15質量%以下である。
【0081】
[2-2-2-4.溶媒]
スラリーを形成するための溶媒としては、負極活物質、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤、導電材、充填剤等を溶解または分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0082】
[2-2-2-5.集電体]
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属箔及び金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
負極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0083】
[2-2-2-6.負極活物質層の厚さ及び密度]
負極活物質層の厚さとは、負極全体の厚さから集電体の厚さを差し引いた厚さであり、、特に制限されないが、高容量かつ高出力の観点から、通常15μm以上、300μm以下である。また、負極活物質層の密度は、通常0.8g・cm-3以上、1.7g・cm-3以下である。
負極活物質層の密度の測定は、負極活物質層の厚さ及び重量を測定することにより行う。
【0084】
[2-2-2-7.負極板の表面被覆]
また、上記負極板は、その表面に、負極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0085】
[2-3.正極]
正極は、正極活物質及び結着剤を含む正極活物質層並びに集電体からなる。
[2-3-1.正極活物質]
正極に使用される正極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、リチウム遷移金属系化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0086】
[2-3-1-1.リチウム遷移金属系化合物]
リチウム遷移金属系化合物とは、硫化物やリン酸塩化合物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合
物、リチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。なかでも、リン酸塩化合物、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、リチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的に下記組成式(1)で表され、
Lix’M’2O4・・・(1)
(式(1)中、x’は1≦x’≦1.5であり、M’は少なくとも1種の遷移金属元素を表す。)
具体的にはLiMn2O4、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoVO4などが挙げられる。
層状構造を有するものは、一般的に下記組成式(2)で表される。
Li1+xMO2・・・(2)
(式(2)中、xは-0.1≦x≦0.5であり、Mは少なくとも1種の遷移金属元素を表す。)
具体的にはLiCoO2、LiNiO2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2などが挙げられる。
【0087】
なかでも、電池容量を向上させる観点から、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、下記組成式(3)で示される遷移金属複合酸化物であることがより好ましい。
Lia1Nib1Mc1O2・・・(3)
(式(3)中、a1、b1、及びc1はそれぞれ、0.90≦a1≦1.10、0.30≦b1≦0.98、0.01≦c1≦0.5を満たす数値を示し、0.50≦b1+c1かつb1+c1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(3)中、0.01≦d1≦0.50の数値を示すことが好ましい。
【0088】
特に、リチウム遷移金属複合酸化物の構造安定性の観点から、下記組成式(4)で示される遷移金属酸化物であることが好ましい。
Lia2Nib2Coc2Md2O2・・・(4)
(式(4)中、a2、b2、及びc2はそれぞれ、0.90≦a2≦1.10、0.50≦b2≦0.98、0.01≦c2<0.50を満たす数値を示し、b2+c2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(4)で表されるリチウム遷移金属酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.50Co0.20Mn0.30O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等が挙げられる。
各組成式中、MはMn又はAlを含むことが好ましく、Mnを含むことがより好ましく、Mn又はAlであることがさらに好ましい。リチウム遷移金属酸化物の構造安定性が高まり、繰り返し充放電した際の構造劣化が抑制されるためである。
【0089】
[2-3-1-2.異元素導入]
また、リチウム遷移金属複合酸化物は、上述の組成式に含まれる元素以外の元素(異元素)が導入されてもよい。
【0090】
[2-3-1-3.表面被覆]
正極活物質は、その表面に、正極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて前記正極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により、正極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して、好ましくは1μmol/g以上であり、また、10μmol/g以上が好ましく、通常1mmol/g以下で用いられる。
本明細書においては、正極活物質の表面に、前記表面付着物質が付着したものも「正極活物質」という。
[2-3-1-4.ブレンド]
なお、これらの正極活物質は一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0091】
[2-3-2.正極の構成と製造方法]
以下に、正極の構成と製造方法について述べる。本実施形態において、正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を、水系溶媒又は有機系溶媒等の溶媒に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成する塗布法により正極を得ることができる。また、例えば、上述の正極活物質をロール成形してシート電極としてもよいし、圧縮成形によりペレット電極としてもよい。この際、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
以下、正極集電体に順次スラリーの塗布及び乾燥する場合について説明する。
【0092】
[2-3-2-1.活物質含有量]
正極活物質層中、正極活物質の含有量は、通常80質量%以上、99.5質量%以下である。
【0093】
[2-3-2-2.導電材]
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素系材料;等が挙げられる。導電材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上50質量%以下含有するように用いられる。
【0094】
[2-3-2-3.結着剤]
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、例えば、塗布法により正極活物質層を形成する場合は、スラリー用の溶媒に対して溶解又は分散される材料であれば、その種類は特に制限されないが、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等からポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマーなどが好ましい。
また、上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。なお、結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、結着剤として樹脂を用いる場合、その樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1万以上300万以下である。分子量がこの範
囲であると電極の強度が向上し、電極の形成を好適に行うことができる。
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上80質量%以下である。
【0095】
[2-3-2-4.溶媒]
スラリーを形成するための溶媒としては、正極活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0096】
[2-3-2-5.集電体]
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料が挙げられる。中でもアルミニウムが好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属箔及び金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
正極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0097】
[2-3-2-6.正極活物質層の厚さ及び密度]
正極活物質層の厚さとは、正極全体の厚さから集電体の厚さを差し引いた厚さであり、特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、集電体の片面に対して通常10μm以上、500μm以下である。また、正極活物質層の密度は、通常1.5g・cm-3以上、4.5g・cm-3以下である。
正極活物質層の密度の測定は、正極活物質層の厚さ及び重量を測定することにより行う。
【0098】
[2-3-2-7.正極板の表面被覆]
また、上記正極板は、その表面に、正極板とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよく、当該物質としては、正極活物質の表面に付着していてもよい表面付着物質と同じ物質が用いられる。
【0099】
[2-4.セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0100】
[2-4-1.材料]
セパレータの材料としては非水系電解液に対し安定な材料であれば特に制限されないが、好ましくは、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物類、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩類、ガラス繊維からなるガラスフィルター等の無機物;ポリオレフィン等の樹脂が挙げられ、より好ましくはポリオレフィンであり、特に好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また上記材料を積層させて用いてもよい。
【0101】
[2-4-2.形態]
形態としては特に制限されないが、好ましくは、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが1~50μmのものが好適に用いられる。独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着材を用いて無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いてもよい。セパレータは、好ましくは、保液性に優れるため、微多孔性フィルム及び不織布である。
【0102】
[2-4-3.空孔率]
セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上90%以下である。
【0103】
[2-4-4.透気度]
セパレータの非水系電解液二次電池における透気度は、ガーレ値で把握することができる。ガーレ値とは、フィルム厚さ方向の空気の通り抜け難さを示し、100mLの空気が該フィルムを通過するのに必要な秒数で表される。セパレータのガーレ値は、任意ではあるが、通常10~1000秒/100mLである。
【0104】
[2-5.電池設計]
[2-5-1.電極群]
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上90%以下である。
【0105】
[2-5-2.集電構造]
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減する構造も好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0106】
[2-5-3.保護素子]
保護素子として、過大電流等による発熱とともに抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)素子、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0107】
[2-5-4.外装体]
非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではないが、軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0108】
[2-5-5.形状]
また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例0109】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に
よって限定されるものではない。
本実施例及び比較例に使用した化合物を以下に示す。
【0110】
【0111】
[実施例1-1~1-2、2-1~2-2、比較例1-1~1-6、2-1~2-6]
[非水系電解液二次電池の作製]
<非水系電解液の調製>
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートの混合物(体積比3:4:3)に、十分に乾燥させたLiPF6を1.0mol/L(12.3質量%、非水系電解液中の濃度として)溶解させた非水系電解液を基準電解液として、表1、表2に記載の通り、添加剤1、2を溶解させて実施例1-1~1-2、2-1~2-2、比較例1-2~1-6、2-2~2-6の非水系電解液を調製した。比較例1-1、2-1の非水系電解液は、基準電解液を用いた。
【0112】
<正極の作製>
正極活物質としてLi1.05Ni0.34Mn0.33Co0.33O2を85質量部、導電材としてのアセチレンブラックを10質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5質量部と、N-メチル-2-ピロリドン中で混合してスラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔に均一に塗布、乾燥した後、ロールプレスを行い、正極とした。なお、正極の極板密度は2.6g/cm3であった。
【0113】
<負極の作製>
グラファイト粉末49質量部に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)50質量部と、結着剤としてスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度49質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に均一に塗布して乾燥し、ロールプレスして負極とした。
【0114】
<非水系電解液二次電池の製造>
上記の正極、負極、及びポリオレフィン製セパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層した。こうして得られた電池要素をアルミニウムラミネートフィルムで包み込み、前述の非水系電解液を注入した後で真空封止し、シート状の非水系電解液二次電池を作製した。
得られた非水系電解液二次電池において、残存容量及び回復容量の評価を前述の通りに行った。表1、表2に結果を示す。
【0115】
[非水系電解液二次電池の評価]
実施例で作製した非水系電解液二次電池は以下のとおり評価した。
・保存後残存容量と回復容量の評価
25℃の恒温槽中、シート状の非水系電解液二次電池を0.025C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする。以下同様。)で3.6Vまで定電流充電し、次いで0.167Cで4.2Vの電圧まで定電流-定電圧充電し、その後0.167Cで2.5Vまでの定電流放電を行った。
さらに、4.1Vまで0.167Cで定電流-定電圧充電した後に、60℃で12時間保管することで非水系電解液二次電池を安定させた。その後、25℃にて2.5Vまで定電流放電し、次いで4.2Vの電圧まで0.167Cで定電流-定電圧充電を実施した。その後、0.167Cで2.5Vまでの定電流放電を行った。次に、4.2Vの電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施し、初期充放電を完了した。上記初期充放電後の非水系電解液二次電池を、60℃、14日間静置した。14日間の静置後、25℃にて2.5Vまで定電流放電し、この時の放電容量を残存容量とした。次いで4.2Vの電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施した。その後、0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行い、この時の放電容量を回復容量とした。結果を表1、表2に示す。表1、表2の残存容量、回復容量はそれぞれ比較例1-1と比較例2-1を100と規格化した値である。なお、残存容量、回復容量は大きいほど好ましいといえる。
【0116】
【0117】
表1より、実施例1-1及び実施例1-2と、比較例1-1~1-3及び比較例1-6とを比較すると、不飽和結合を有するスルホン酸塩とP-F結合を有するリン酸塩を非水
系電解液に共添加することにより、非水系電解液二次電池の残存容量と回復容量がさらに向上することが分かる。また、比較例1-4と比較例1-1との比較から、不飽和結合を有しないスルホン酸塩である化合物2を含有する非水系電解液を用いても、非水系二次電池の残存容量及び回復容量のいずれもほとんど変わらないことがわかる。さらに、比較例1-3~1-5からは、不飽和結合を有しないスルホン酸塩とP-F結合を有するリン酸塩を含有する非水系電解液を用いた場合は、P-F結合を有するリン酸塩のみを含む非水系電界液を用いた場合よりも、非水系二次電池の残存容量も回復容量も、低下したことがわかる。したがって、本願発明の非水系電解液は、不飽和結合を有するスルホン酸塩とP-F結合を有するリン酸塩を共添加することにより特異的に電池性能を向上できることが分かる。
【0118】
【0119】
表2より、実施例2-1及び実施例2-2と、比較例2-1~2-3及び比較例2-6とを比較すると、不飽和結合を有するスルホン酸塩とS-F結合を有するスルホン酸塩を非水系電解液に共添加することにより、非水系電解液二次電池の残存容量と回復容量がさらに向上することが分かる。
また、比較例2-4と比較例2-1との比較から、不飽和結合を有しないスルホン酸塩を用いても残存容量及び回復容量のいずれもほとんど変わらないことがわかる。一方、比較例2-3~2-5から、不飽和結合を有しないスルホン酸塩とS-F結合を有するスルホン酸塩である化合物2を含有する非水系電解液を用いても、S-F結合を有するスルホン酸塩の添加効果しか発現していないことがわかる。また、不飽和結合を有しないスルホン酸塩とS-F結合を有するスルホン酸塩を含有する非水系電解液を用いた場合は、S-F結合を有するスルホン酸塩のみを含む非水系電界液を用いた場合よりも、非水系電解液二次電池の残存容量はむしろ低下したことがわかる。
これらの結果から、本願発明の非水系電解液は、不飽和結合を有するスルホン酸塩とS-F結合を有するスルホン酸塩を共添加することにより特異的に電池性能を向上できることが分かる。