(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031042
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】摩擦クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 28/00 20060101AFI20220210BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
F16D28/00 Z
F16D13/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020143021
(22)【出願日】2020-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】597021598
【氏名又は名称】株式会社イケヤフォ-ミュラ
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 正夫
(72)【発明者】
【氏名】池谷 信二
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056AA62
3J056BA04
3J056BA06
3J056CC37
3J056DA04
(57)【要約】
【課題】高精度のトルク制御ができ、制御エネルギー消費の少ない摩擦クラッチを提供する。
【解決手段】フランジの軸と反対面に第一摩擦部材の外周部を回転方向に係合する第一摩擦部材係合手段を有する第一トルク伝達部材と、摩擦部材で発生するトルクを伝達する前記軸と、第二摩擦部材の内径部を回転方向に係合する第二摩擦部材係合手段を有する第二トルク伝達部材と、摩擦部材を押圧する軸力を調整し、内径部に軸力伝達部材の貫通する押圧力調整部材と、押圧力調整部材に押圧力を与える前記弾性体と、弾性体の発する軸力を受圧する反力受圧部材と、第一摩擦部材と、第二摩擦部材と、ベアリングと、転動体と、第二歯車の位置する反対端にベアリングを係合する締結部材を固定する手段を有する軸力伝達部材と、ベアリングを軸力伝達部材に係合する締結部材と、歯車の軸がケースにベアリングで回転自在に支持され、アクチェーターの駆動を受動する手段を有するピニオンからなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースにベアリングで回転自在に支持され、摩擦部材で発生したトルクを伝達する軸と、該軸端部にフランジを有し、該フランジの前記軸と反対面に第一摩擦部材の外周部を回転方向に係合する前記第一摩擦部材係合手段を有する第一トルク伝達部材と、
ケースに等にベアリングで回転自在に支持され、前記摩擦部材で発生するトルクを伝達する前記軸と、該軸に一体または、スプライン等で結合され、前記第一トルク伝達部材の前記第一摩擦部材係合手段の内径部であって、一部または全部が軸方向に重複する位置にあり、第二摩擦部材の内径部を回転方向に係合する前記第二摩擦部材係合手段を有する第二トルク伝達部材と、
前記第一または前記第二摩擦部材と接し、該摩擦部材と接する面の反対面が弾性体と接し、前記摩擦部材を押圧する軸力を調整し、内径部に軸力伝達部材の貫通する押圧力調整部材と、
前記押圧力調整部材の前記摩擦部材と接する面の反対面に接し、前記押圧力調整部材に押圧力を与える前記弾性体と、
前記第一トルク伝達部材の前記摩擦部材係合手段に一体的に形成された、または締結部材で締結され、内径部に前記軸力伝達部材が貫通し、前記弾性体の前記押圧力調整部材と接する面の反対面に接し前記弾性体の発する軸力を受圧する反力受圧部材と、
前記押圧力調整部材と前記第一トルク伝達部材の前記フランジ壁面間に配置され、外周部に前記第一トルク伝達部材の前記第一摩擦部材係合手段に回転方向に係合する手段を有し、内周に前記第二トルク伝達部材のハブが貫通する穴を有する前記第一摩擦部材と、
前記第一摩擦部材と両面または片面が接し前記押圧力調整部材と前記第一トルク伝達部材の前記フランジ壁面間であって、前記第一摩擦部材係合手段の内径部に位置し、前記内径部に前記第二トルク伝達部材の前記第二摩擦部材係合手段に回転方向に係合する手段を有する前記第二摩擦部材と、
前記反力受圧部材の前記弾性体と接する面の反対面に接するベアリングと、
該ベアリングに接し、前記第二トルク伝達部材と同心に配置される第一歯車と軸方向に対向する第二歯車であって、二つの歯車の対向面に転動体を係合する回転方向に深さの傾斜した複数の溝からなるトルクカムを有し、互いに歯数が同一または一枚から数枚異なる一対の差動歯車と、
前記トルクカムに係合する複数の前記転動体と、
内径部が前記第二トルク伝達部材の軸部に摺動自在に緩合し、前記押圧力調整部材、前記弾性体、前記反力受圧部材、および一方または両方の前記差動歯車の内径を貫通し、前記差動歯車の前記第二歯車と一体的に成形され、または別体に作られ、別体で作られたものにおいては、前記第二歯車の内径部を貫通し、その端部に前記第二歯車の前記第一歯車との離反する方向の軸推力を受け止める手段を有し、一体、別体にかかわらず、前記第二歯車の位置する反対端にベアリングを係合する締結部材を固定する手段を有する前記軸力伝達部材と、
ベアリングを前記軸力伝達部材に係合する締結部材と、
前記軸力伝達部材の軸力を、前記押圧力調整部材に伝達するベアリングと、
前記差動歯車と噛合する1または歯数が異なる回転方向に結合された2つの歯車を有し、該歯車の軸が前記ケースにベアリングで回転自在に支持され、アクチェーターの駆動を受動する手段を有するピニオンからなる
摩擦クラッチ。
【請求項2】
ケース等にベアリングで回転自在に支持される軸と該軸端に一体的、または、締結手段で軸に固定され、外径部に第一摩擦部材を回転方向に係合する手段と、該係合手段の端部に第一、第二摩擦部材が押圧部材から受ける軸力を受圧する手段を有するハブを有する第一トルク伝達部材と、
前記第一トルク伝達部材と同心位置に配置され、ケースに回転自在にベアリング等で支持され、軸端に該軸と一体に作られ、またはスプライン等の結合手段で軸と結合された前記第二摩擦部材の外周を回転方向に係合する手段を有し、該手段が前記第一トルク伝達部材の前記ハブの外周であって軸方向位置が一部または全部が該ハブに重複する部位に設けられた、第二トルク伝達部材と、
前記第一または第二摩擦部材に接し、内径部に前記第一トルク伝達部材の軸に摺動可能に支持された押圧部材と、
該押圧部材の摩擦部材の接する面の反対面に接するベアリングと、
前記第一トルク伝達部材の軸に同心状に摺動可能に支持され、互いに歯数が同一または1枚または複数枚異なる一対の第一歯車と第二歯車からなる差動歯車であって、歯車の互いの対向面に回転方向に深さが変化し、転動体の係合する複数の溝からなるトルクカムを有し、前記第一歯車のトルクカムの反対面が、押圧部材と接する前記ベアリングに接し、前記第二歯車の前記トルクカムと反対面が、前記差動歯車の互いに離反する方向の軸力を受圧するベアリングに接する一対の差動歯車と、
前記差動歯車の離反軸力を、受圧する前記ベアリングと、
該ベアリングを前記第一トルク伝達部材の軸に軸方に向固定する締結部材と、
前記押圧部材と前記第一トルク伝達部材のハブ外周であって、該ハブに設けられた前記第一、第二摩擦部材の軸方向の動きを規制する手段との間に位置し、内周部に前記ハブと回転方向に係合する手段を有する前記第一摩擦部材と、
前記第一摩擦部材に片面または両面が接し、外周部に前記第二トルク伝達部材の前記第二摩擦部材係合手段に回転方向に係合する手段を有する前記第二摩擦部材と、
前記ケース等に回転自在に支持され、アクチェーター等で駆動される係合手段を有し、前記一対の差動歯車と噛合する一つの歯車または、2つの歯数の異なる回転方向に結合された歯車からなるピニオンからなる
摩擦クラッチ。
【請求項3】
請求項1、の発明の第一トルク伝達部材の軸がエンジンのクランクシャフトでフランジがフライホイールで、第二トルク伝達部材がトランスミッションの入力軸であることを特徴とする
摩擦クラッチ。
【請求項4】
請求項2、の発明の第二トルク伝達部材が、車両用デファレンシャルのドライブピニオンまたは、4WDギヤボックスの出力軸であることを特徴とする摩擦クラッチ。
【請求項5】
請求項2、の発明の第二トルク伝達部材の軸が、車両用デファレンシャルの片側サイドギヤー出力軸であり、第一トルク伝達部材が、ホイールにトルクを伝達するドライブシャフトを駆動する部材であることを特徴とする摩擦クラッチ。
【請求項6】
請求項2、3の発明の第一トルク伝達部材が車両用デファレンシャルの片側サイドギヤー出力軸であって、第二トルク伝達部材がデファレンシャルケースに締結手段で締結された部材であることを特徴とする摩擦クラッチ。
【請求項7】
請求項1~6の発明の差動歯車がアクチェーターから駆動されないとき、回転しない手段を有する摩擦クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動装置に属するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の車両用動力伝達クラッチの一例を示す。該クラッチは電磁クラッチの発生したトルクをトルクカムからなる機械的増幅機構を有するものである。該クラッチは電磁力そのものが有するヒステリシスが多く、また機械的増幅機構が回転方向にV字型の溝と、該溝み出す機構を構成している。このためトルク伝達方向がプラスからマイナスに変化するとき、ボールが一方のV字溝斜面を離れ反対方向の斜面に移動する必要がある。このため一旦加圧力がゼロとなりトルク伝達ができない領域がある。これ等の原因で精密な伝達トルク制御には不向きであった。また非特許文献1のクラッチは、油圧制御により油圧シリンダーに軸推力を発生させ、該推力で摩擦クラッチを押圧し、伝達トルクを制御するものである。該クラッチは制御性に優れるが、油圧発生装置や油圧制御バルブ、油圧シリンダー等が必要で、また油圧発生のための大きな消費エネルギーを要するものである。
本発明は上記課題を解決し、精密な伝達トルク制御が可能なうえ、制御のための消費エネルギーが少ない制御型摩擦クラッチを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Motor Fan illustrated Volume163 株式会社三栄 2020年5月29日出版 P37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、高精度のトルク制御ができない、制御エネルギー消費が大きい点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ケース等に軸受けで回転自在に支持された二つのトルク伝達部材間に配置された摩擦部材の摩擦伝達トルクを制御するための押圧力を発生する手段として、一方のトルク伝達部材の同軸外周部に配置した、互いに歯数が同一または一枚または複数枚違う一対の歯車を同軸上に対向させ(以下差動歯車と称する)その対抗する両面間に円周状に複数の転動体を配列し、該転動体の転動する軌道面である円周方向に深さ方向に傾斜した溝を対向する両面に設け、該溝で転動体を挟み込むことで(以下トルクカムと称する)、それぞれの差動歯車に噛合し差動歯車を駆動する同一歯数または一枚から複数枚異なるピニオンからの駆動により惹起される差動歯車の差動回転トルクをトルクカムの作用で軸推力に変換、該軸推力を二つの摩擦部材押圧力調整に用いる基本構造を有する。
【0007】
二つの摩擦部材間で生じる摩擦トルクは、摩擦部材の形状、摩擦面数、摩擦係数が決まれば、前記ピニオンの所定位置からの回転数、回転トルクによって、一義的に決定されるので、必要伝達トルクに応じ、アクチェーターを制御することにより必要な摩擦トルクを得ることが出来る。制御された摩擦トルクは、それぞれのトルク伝達部材に伝わり所定のユニットに伝達される。
【0008】
トルクカムにより発生する軸推力の一方はベアリングや摩擦部材を経て、一のトルク伝達部材に伝達され、トルクカム推力の反力はベアリングを経て、同一の上記トルク伝達部材に伝達される。したがって、トルクカムで発生する大きな推力は、トルク伝達部材の内力となり、トルク伝達部材をケース等に支持するベアリング等には伝達されない構造を有する。
【0009】
本発明は、トルクカムの軸力で摩擦部材を押圧する構造と、摩擦部材の押圧を弾性体で行い、トルクカムの軸力で、弾性体の摩擦部材への押圧力を阻害する構造の2つの基本構造を有する。
【発明の効果】
【0010】
トルクカムは公知の技術であるが、差動歯車にトルクカムを設けたものは、トルクカムの一方を非回転部材に締結する等の必要がなく、組み込みが容易である。その上1段で高減速差動が可能であり、更にトルクカムの溝の勾配で、差動歯車の軸方向の離反距離を調整可能なため、非常に緻密な軸方向の位置制御が可能となる。
【0011】
一方、摩擦部材の受ける押圧力Fは、トルクカムによる被押圧部材の剛性Kと差動歯車軸方向変位Xの積で決定される。前記のように差動歯車の軸方向変位は精密な制御が可能なため、前記剛性Kを大きくし変位Xを小さくしても、精密な押圧力制御を妨げない。
摩擦部材押圧に要するエネルギーEは、変位Xと押圧力Fの積に比例しE=1/2F・Xであらわせる。したがって、本発明によれば、制御精度を確保しながら摩擦部材押圧に必要なエネルギーEを小さく抑えることが可能である。
【0012】
更に該差動歯車の逆効率、つまり差動歯車の差回転によりピニオンを駆動させる方向の効率は、各歯車の噛み合い効率が98パーセントの時、減速比が約15以上で、理論上0となる。
本発明に使用する差動歯車の減速比を15以上にすれば逆効率は0となり、基本的にアクチェーターへの制御エネルギー供給を止めても差動歯車の差動トルクによるピニオンの回転は生ぜず、摩擦部材への押圧力は変化しない。
このため、クラッチ摩擦トルクの時間に対する変化率(dT/dt)が0の時は、アクチェーターへの制御エネルギー供給が不要のため、前記した事項と合わせ、電磁クラッチ方式や油圧方式のクラッチに比べ、制御エネルギーを大幅に削減可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】トルク伝達部材の摩擦部材との係合部を示す。
【
図6】実施例3を示す、車両の発進クラッチに使用した図面である。
【
図7】実施例4を示す、4WDのデファレンシャル駆動に使用した図面である。
【
図8】実施例5を示す、デファレンシャルの片側出力軸に使用した図面である。
【
図9】実施例6を示す、LSDに使用した図面である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0014】
図1は本実施例の主要断面を示す。
図2はクラッチハウジング105とボルト109、摩擦部材(第一摩擦部材121、第二摩擦部材117)、第二トルク伝達部材111のハブ113の係合状態を示す。
図3はトルクカム135、137の断面形状と転動体133を示す。
ケース165にベアリング107、108で回転自在に支持され、先端にコンパニオンフランジ169がナット167で締結され、他軸端にフランジ103を有する第一トルク伝達部材101は、該フランジに複数のねじ穴104が設けられ、フランジ103のベアリング108と接する面の反対面にはクラッチハウジング105と反力受圧部材156がボルト109で締結されている。クラッチハウジング105の内径はボルト109の取り付けピッチ円径にほぼ等しく設定されている。このためボルト109の軸の径の半分の半円がクラッチハウジング内径に飛び出している。該半円に
図2に示すように第一摩擦部材121の外周の半円状の凹み123が軸方向に摺動自在に係合し第一トルク伝達部材101のトルクを第一摩擦部材121に伝達する。
【0015】
ケース163にベアリング115と第一トルク伝達部材101に設けられたセンター穴106にベアリング110で回転自在に支持された第二トルク伝達部材111はハブ113を有し、ハブ113に設けられた
図2に示すスリッド114に第二摩擦部材117の内径突起118が軸方向に摺動自在に係合し、第二トルク伝達部材111にトルクを伝達する。
【0016】
第一摩擦部材121、第二摩擦部材117は、クラッチハウジング105の内径部であって、第一トルク伝達部材のフランジ103と押圧力調整部材143の間に位置し、第一摩擦部材121と第二摩擦部材117が軸方向に交互に積層されている。
押圧力調整部材143は本実施例の場合、外径部に半円状の複数の凹みを有し、ボルト109の軸の半円状の凸部に軸方向摺動自在に係合している。押圧力調整部材143の摩擦部材と接する面の反対面には弾性体155が接し、摩擦部材を押圧する力を与えている。弾性体155の押圧力調整部材143の反対側には、反力受圧部材156がクラッチハウジング105に、ボルト109で締結されている。
【0017】
図3は互いに歯数が1枚または複数枚異なる一対の差動歯車(第一歯車127と第二歯車125)の対向面に設けられたトルクカム135、137の断面と、転動体133を示す。第一歯車127と第二歯車125が互いに所定の方向に相対回転すると、転動体133はトルクカム135,137の浅い部位に移動し、差動歯車には互いに離反する軸力が発生する。なお、差動歯車それぞれに噛合するピニオンの歯数が異なっていれば、第一歯車127と第二歯車125の歯数は同一でもよい。
【0018】
反力受圧部材156の弾性体155と接する面の反対面と第一歯車127の間にはベアリング131が設けられ、第一歯車127と、第二歯車125の間には、
図3に示す複数のトルクカム135と137が円周上に配置され該トルクカムの溝には、複数の転動体133が挟みこまれている。
第二歯車125の内周穴のトルクカム137と反対の縁には締結部材126が接し、軸力伝達部材129にトルクカム135、137で発生する軸推力を伝達する。締結部材126は第二歯車125の軸力を軸力伝達部材129に伝達する機能を有するものであり、軸力伝達部材129と一体的に成形されたものでもよい。
【0019】
軸力伝達部材129は第一歯車127、第二歯車125、反力受圧部材156、弾性体155、押圧力調整部材143の内径部を貫通し第二トルク伝達部材111の軸にベアリング128で摺動自在に支持されている。軸力伝達部材129にはベアリング151、149が締結部材147で締結されている。ベアリング149は、押圧力調整部材143と接し、前記トルクカムで発生した軸推力を押圧力調整部材143に伝達する。
尚、第二トルク伝達部材111と軸力伝達部材129はベアリング128を介さず、直接摺動する物でもよい。また第二歯車125と軸力伝達部材129は一体に作られたものでもよい。
【0020】
転動体133がトルクカム135、137の溝の深い位置に位置するときは、第一歯車127と第二歯車125の間隔は小さく弾性体155の発生する押圧力は、全て、摩擦部材に伝達され、該摩擦部材は最大の摩擦トルクを生み出す。一方、アクチェーター153によりピニオン139が所定の方向に回転すると、差動歯車は自転しながら、互いに相対回転し転動体133はトルクカム溝の浅い位置に移動する。この時、第一歯車127と第二歯車125は互いに離反する方向の軸推力が生じる。しかし第一歯車127はベアリング131と反力受圧部材156が該軸推力を受け第一歯車127の軸方向の位置は変化しない。このため第二歯車125は軸方向に移動し、締結部材126を介し軸力伝達部材129を第二歯車125の動きと同一方向である
図1の右方向に負勢する。
【0021】
その結果、軸力伝達部材129は、ベアリング149を介し、押圧力調整部材143を押圧し、該押圧力調整部材は弾性体155の第一摩擦部材121、第二摩擦部材117への押圧力を減ずる。該押圧力を減ずる量は、ピニオン139が所定位置からの回転量により一義的に決定する。
【0022】
一対の差動歯車を駆動するピニオン139はそれぞれの差動歯車に噛合う一個の歯車が、ケースに勘合されたアダプター159にベアリング141で回転自在に支持され、端部の穴に、アクチェーター軸157が勘合し締結部材145により、アクチェーター軸157と結合されている。このためコントローラーからの指令でアクチェーター153の回転を制御することにより、最大トルクから0までの間でクラッチトルクを制御することが可能となる。ピニオン139はそれぞれの差動歯車に噛み合う歯数の異なる回転方向に固定された2つの歯車で構成されるものでもよい。
【0023】
図4はピニオン139の逆転防止機構の一例を示す。ケース163に係合されたシリンダー312の中にスプリング315が組みこまれ、該スプリングがピニオン139の谷に係合するピストン311をピニオン139の歯の谷に押圧する。
前述したように、差動歯車の逆効率は減速比が15を超えると0となり、ピニオン139にトルクカムの反力トルクによる差動回転によりピニオン139が逆駆動されることはない。互いの差動歯車がピニオン139を駆動するトルクは正負の逆方向だからである。しかしベアリング131等の発生する引きずり抵抗トルクにより、両方の差動歯車が同一方向に回転しようとすると、ピニオン139は小さいトルクで容易に回転し、その結果、差動歯車に相対回転が惹起され、摩擦部材への押圧力が変化する。該引きずりトルクは比較的小さいため、アクチェーター153での逆転防止は可能である。
【0024】
しかし、前記逆転をアクチェーター153のトルクで防止するには、アクチェーター153を一体の位置で停止させるための制御と、相応のエネルギー供給が必要である。
そこで、ピニオン139の谷にピストン311を押し付け、逆回転を防止するトルクを発生させる。アクチェーター153でピニオン139を回転させると、歯車の圧力角により、ピストン311はスプリング315を押し縮め、歯先は該ピストンを乗り越える。ピストン311とスプリング315による回転防止トルクはベアリングの引きずりトルクに対向できれば良いため、小さくても十分効果を発揮する。このため通常の制御時のピニオン139の回転には悪影響を及ぼさない。
逆転防止機構を付加することにより、摩擦クラッチが一定トルクを発生するときは、アクチェーター153への供給エネルギーを0とすることが可能で、エネルギー消費の減少に貢献できる。
尚、逆転防止機構は、ピニオン139、または第一歯車127、第二歯車125のいずれかの回転を阻止すればよく、ピストン311とスプリング315に代わり、ソレノイド軸先端を、ピニオン139谷に挿入し、アクチェーター153への電流印加と共に、ソレノイドへも電流を印加し、軸先端をピニオン139谷から離脱させる等方法でもよい。
第二トルク伝達部材2111はケース265にベアリング2108、2112で回転自在に支持され、先端は、第一トルク伝達部材2101の中心穴2110に挿入されたベアリング2106で第一トルク伝達部材2101を径方向に支持している。第二トルク伝達部材2111には第一トルク伝達部材2101のハブ177の外周であって軸方向に重複する部位に位置し、内周に第一摩擦部材121の外周を回転方向に係合するピン2019が勘合する半円形の溝を有するクラッチハウジング189がスプライン等で締結されている。クラッチハウジング189の軸方向の位置はベアリング2108と締結部材196にて第二トルク伝達部材2111に支持されている。
なお、クラッチハウジング189は、第二トルク伝達部材2111の軸と一体的に加工されたものでもよく、第一摩擦部材121の係合手段は、ピン2019を用いず、クラッチハウジング189に直接加工された溝等でもよい。
第一トルク伝達部材2101の外周には、第二摩擦部材117または第一摩擦部材121と接する、押圧部材207が緩合し、該押圧部材の、摩擦部材と接する反対面にはベアリング203が接し、該ベアリングの押圧部材207と接する反対側面は、一対の差動歯車の第一歯車2127が接している。
第一歯車のベアリング203と接する側の反対面にはトルクカム135が加工され、その対向面にはトルクカム137を有し第一歯車2127と歯数が一枚から複数異なる第二歯車2125が、転動体133を挟み位置している。
本実施例の場合、第二歯車2125は内径部にスリーブ2128を有し、該スリーブは第一歯車2127の内径部を貫通し、第一トルク伝達部材2101の軸にベアリング209で摺動自在に支持されている。なおスリーブ2128を有さず、第一歯車2127と、第二歯車2125が直接、ベアリング209で支持され、または直接、第一トルク伝達部材2101の軸に摺動自在に締結されるものでもよい。
実施例1で述べたように、一対の差動歯車に噛合し駆動するピニオン2139は一個の歯車から構成され、軸部がアダプター159にベアリング141で回転自在に支持され、軸端部に実施例1と同様のアクチェーター2153で駆動される手段を有する。尚、各々の差動歯車に噛合する歯車は、回転方向に固定された2つの歯数の異なる歯車でもよい。またピニオン2139が歯数の異なる2つの歯車から構成される場合、第一歯車2127と第二歯車2125の歯数は同一でもよい。
第二歯車2125のトルクカム137に対して反対側の端部はベアリング201と接し、該ベアリングは第一トルク伝達部材2101に締結部材205により締結され、トルクカムの発生する軸力を、第一トルク伝達部材2101に伝達する。
第一摩擦部材121と、第二摩擦部材117は、交互に層状にクラッチハウジング189の内径部であって、ハブ177の外周部に押圧部材207と反力部材183の間に組み込まれている。
第一摩擦部材121の外周凹み123はクラッチハウジング189に係合するピン2019に係合し、第二摩擦部材117の内周突起118はハブ177の溝181に係合している。このため、第一トルク伝達部材2101と、第二トルク伝達部材2111は前記摩擦部材の発生する摩擦トルクで、結合される。該結合トルクの大きさは、トルクカムの133、137の発生する軸力で決定づけられ、該軸力は、第一歯車2127と第二歯車2125の相対回転角度により、一義的に決定され、更に該相対回転角は、アクチェーター2153により駆動されるピニオン2139の所定位置からの回転量で決定する。
したがって、アクチェーター2153を駆動するコントローラーにより、ピニオン2139の回転を制御することにより、第一トルク伝達部材2101と第二トルク伝達部材2111間の伝達トルクの大きさを制御可能となる。
トルクカムで発生する軸力の一方は第一摩擦部材121、第二摩擦部材117を経て、反力部材183、ストッパー179から第一トルク伝達部材2101に伝達され、トルクカムの軸推力反力はベアリング201、締結部材205を経て、同じく第一トルク伝達部材2101に伝達される。したがって、実施例1と同様にトルクカムの発生する大きな軸推力は、第一トルク伝達部材2101の内力で吸収され、クラッチハウジング189や、外部ベアリング等には伝達されず、回転抵抗の低減や、軸受け等の耐久性向上に貢献する。また、一定の摩擦トルク発生時には、実施例1と同様に、アクチェーター2153へのエネルギー供給は不要である。
クラッチハウジング189と第一摩擦部材121の係合にピン193を使用する場合、クラッチハウジング189は、アルミ合金等の比較的硬度は低いが軽量で加工性の優れる素材の使用が可能となる。また、第一摩擦部材121とクラッチハウジング189の係合は、ピン2019を用いず、クラッチハウジング189に加工した溝等に第一摩擦部材121の外周部に設けた凸部等を係合させるものでもよい。これは実施例1においても、同様である。またピニオン2139の支持、アクチェーター2153との結合手段、ピニオン2139の逆転防止機構は、実施例1と同様でよい。